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ハイスクールD×D 和平ってなんですか? ID:87596

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ハイスクールD×D 和平ってなんですか? ID:87596
ハイスクールD×D 和平ってなんですか?
SINSOU
︻注意事項︼
このPDFファイルは﹁ハーメルン﹂で掲載中の作品を自動的にP
DF化したものです。
小説の作者、
﹁ハーメルン﹂の運営者に無断でPDFファイル及び作
品を引用の範囲を超える形で転載・改変・再配布・販売することを禁
じます。
︻あらすじ︼
悪魔を許さないシスターが、尋ね人を探して駒王町を目指していま
す。
憐れなはぐれ悪魔 │││││││││││││││││││
目 次 迷えるシスター ││││││││││││││││││││
1
本編
忘れん坊の聖女様 │││││││││││││││││││
4
崩壊 │││││││││││││││││││││││││
対談・決意・そして・・・ │││││││││││││││
最後の晩餐 │││││││││││││││││││││
時間制限の問題 ││││││││││││││││││││
綻び │││││││││││││││││││││││││
好奇心は猫を殺す │││││││││││││││││││
おでかけ2 │││││││││││││││││││││
管理者として、家族として │││││││││││││││
他者から見た彼女と自分 ││││││││││││││││
歪んだ〇〇 │││││││││││││││││││││
お出かけ1 │││││││││││││││││││││
回想3 ││││││││││││││││││││││││
回想2 ││││││││││││││││││││││││
回想1 ││││││││││││││││││││││││
H ERO │││││││││││││││││││││
会談 │││││││││││││││││││││││││
正常 │││││││││││││││││││││││││
赤髪の情愛者 │││││││││││││││││││││
再会 │││││││││││││││││││││││││
芯が折れた剣 │││││││││││││││││││││
8
13
18
23
27
31
37
43
47
51
58
64
72
77
81
90
120 116 110 105 97
亀裂 │││││││││││││││││││││││││
開幕 │││││││││││││││││││││││││
修羅 │││││││││││││││││││││││││
本音 │││││││││││││││││││││││││
御都合の理不尽 ││││││││││││││││││││
虚飾 │││││││││││││││││││││││││
一歩 │││││││││││││││││││││││││
狂人 │││││││││││││││││││││││││
砂上の楼閣 │││││││││││││││││││││
諫言 │││││││││││││││││││││││││
悪魔 │││││││││││││││││││││││││
抱擁 │││││││││││││││││││││││││
旅立ち ││││││││││││││││││││││││
番外編︵ネタ︶
黒猫︵没案1︶ ││││││││││││││││││││
もしもこんなんだったら1 │││││││││││││││
もしもこんなんだったら2 │││││││││││││││
もしもこんなんだったら3 │││││││││││││││
もしもこんなんだったら4 │││││││││││││││
214 208 201 194 188 182 175 167 156 146 139 132 126
241 235 230 226 219
本編
憐れなはぐれ悪魔
私の目に映ったのは、燃え盛る炎に包まれた家々と、多くの屍が散
乱した道だった。
道は赤い液体に満たされ、歩く度に液体が足に絡みつき、不快感を
感じた。
ところどころで聞こえてくる、うめき声と断末魔。
どうしてこうなったんだろう。昨日まではこんな風景じゃなかっ
たのに。
怒ると怖いけど、優しくて綺麗な、私の大好きなママがいて、
少しうっかりだけど、大きな体で私を包んでくれた、私の大好きな
パパがいて、
悪戯好きだけど、太陽のような笑顔が素敵な、私の大好きな妹がい
た。
お隣のおじいさんは、頑固で意地っ張りだけど、私の話をよく聴い
てくれた。
おじいさんの奥さんは、家に行くとお手製のスコーンを焼いてくれ
た。
女友達のミーシャは、生まれた時から幼馴染で、花畑でかんむりを
つくった。
男友達のクランは、学校帰りに、家までかけっこをした。
みんな、昨日まで一緒にいた。みんな、昨日まで笑っていた。
どうしてこうなっちゃったのかな
呆然と歩いていると、私の前に何かが降りてきた。
それは人の形をしているけれど、人ではなかった。
真っ黒な服を着て、真っ黒な髪をして、真っ黒なコウモリの翼をし
ていた。
﹁おや、こんなところに美味しそうな子供ですね。
まったく、太陽のように輝く人間を攫うためとはいえ、
1
主様から﹃村の人間どもを殺せ﹄との退屈な命令でしたが・・・こ
れはいい。
私にも役得というものです。では死んでください、お嬢さん﹂
真っ黒な存在が大きくなり、私を食べようとその口を大きく開い
た。
そうか、こいつが悪いんだ
こいつがいるからみんないないんだ
コ イ ツ ラ ガ イ ル カ ラ そして私は死んだ
夜空に満点の星々が輝き、大きな満月が地を照らす中、
はぐれ悪魔レイスは息も絶え絶えに逃げ回っていた。
彼は悪魔の力に憧れ、悪魔の力に溺れ、悪魔の力に支配され、
主を傷つけて冥界から逃げだしたのだ。
レイスは、自身の力を欲望の為に使うつもりであった。
悪魔の力さえあれば、ただの下等な人間どもに負けるはずもなく、
人間を喰い散らかし、好き勝手に生きるつもりだった。
人間界に逃げたレイスは空腹であった。
当たり前だ。彼は追手を退け、決して安息を得ることなく逃げ隠れ
していたからだ。
空腹のレイスは、飢えを満たすための食べ物を探した。食べ物とは
もちろん人間だ。
悪魔にとって人間は、ただ摂取されるだけの餌でしかない。
しばらくすると、レイスは餌をを見つけた。餌は女だった。
レイスは歓喜した。
女を喰うのは久方ぶりであり、どう喰ってやろうとかと顔を歪め
た。
恐怖に歪む女の顔を見ながら喰うか、または弄びながら悦楽の内に
食い殺すか。
2
どちらも想像しただけで、レイスの口からよだれと下品な笑い声が
漏れた。
女の姿は修道女であった。女は身に余るカバンを手に下げ、よたよ
たと歩いていた。
女が修道女であったことにレイスは顔を顰めた。
なぜなら修道女は、悪魔にとって天敵である天使の使徒だからだ。
悪魔にとって聖なる力は猛毒だ。
教会に入ることはもちろんのこと、銀細工や十字架なんてもっての
外。
ましてや聖水など浴びようものなら、一瞬のうちに死んでしまう。
冷静な悪魔ならば、間違っても教会の信者に手を出すことはない。
だが飢餓のレイスは欲望を抑えられなかった。それに、女からは何
も感じなったからだ。
レイスは己が欲に駆られ襲いかかった。
女の顔はヴェールで隠れており、レイスは自分に恐怖する女の顔を
想像した。
そしてレイスは女の顔を見た。
修道女の顔は、まるで獲物を見つけたレイスのように、歓喜に歪ん
でいた。
3
迷えるシスター
ある時間、そしてある空港に、一人の女が日本に降り立った。
女は、出入り口のゲートをおっかなびっくり通り過ぎ、
自身の荷物である大きなカバンを四苦八苦に持ち上げ、
荷物に振り回されるように、よたよたと空港を後にした。
その間、彼女の不審者のような、おびえる小動物のような姿は、
空港内の客や清掃員、店員など、多くの人々の目に留まった。
だが、それよりも多くの人々の目を捉えたのは、彼女の服装である。
彼女は修道服を纏っていたのだ。
この日本において、修道服というのは目立ってしょうがない。
八百万の神を謳い、多神教である日本においても、
そうした服装を日常で見ることが珍しいのだ。違う場所なら見そ
うではあるが。
ましてや、その顔はヴェールで覆われているので、さらに異端的な
雰囲気を醸しだしている。
女の顔は黒のヴェールで覆われており、
顔は見えないものの、その間から灰色の髪がのぞいていた。
時折、修道女は荷物を降ろし、
カバンから取り出した地図を見ながら、自身の目的地を確認し、
地図をカバンにしまった後、またよたよたと歩く。
これを数回ほど繰り返すので、誰も彼もが彼女を嫌でも見てしま
う。
そうした、何とも言えない雰囲気を作り上げた彼女は、
別段気にすることない様子で、去っていったのである。
そしてここは空港から離れた山奥
修道女は地図を何度も確認し、何度も道行く親切な人に目的地の行
き方を尋ね、
何度も電車を乗り継いだ結果、こんなところに来てしまったのであ
る。
そう、彼女は方向音痴なのだ。
4
月光に照らされて暗くはなくも、周囲は夜を迎えて黒く染まり、不
気味な烏の鳴き声が響く。
そうした状況の中、修道女、アーリィは自身の欠点を嘆いていた。
ああ、なんということでしょう。
道に迷ってしまいました。
遠路はるばるこの日本という地に、離ればなれになった人を探しに
きたのですが、
どうも私には大変です。
何度も確認をしたというのに、一体ココはどこなのでしょう
地図を見ると、目的地にこれほどの森は無いのですが・・・。
アーリィは持ってきた地図に目を落とすと、
確かに山や森が描かれているものの、近くには駅や学校もあり、
こんな魔境のような印象はない。
である。
がんばれ、私
それにしても、先ほどから妙な視線を浴びますね。
やはり、この服装は目立つのでしょうか・・・。
道行く人に尋ねる時も、一瞬驚いた顔をされましたから。
でも、この服装ではないと、あの子も気付いてくれなさそうですし、
気にするのは止めにしましょう
それにしても困りました。
ていた光が遮られた。
そうしたことを悶々と考えていたアーリィだが、突如彼女を照らし
ね。
野宿は別にいいのですが、せめて雨風凌げる場所を見つけたいです
!
5
?
つまり、彼女は自分が迷ってしまったと嫌でも気付かされたのだ。
めげてはいけませんよ、私
!
その現実に彼女は消沈で蹲るも、すぐに意識を変えた。
駄目です
この方向音痴の私を導いてください
!
!
私はあの子を迎えに行くと約束したのですから
ああ、主よ
!
真っ暗な夜の小道で月に祈る修道女、職質されそうなほどに不審者
!
!
やはり主は私を導いてくだ
彼女が上を見ると、大きな翼を生やした人が、彼女に向かって来た
のだ。
ちょうどいいところに人が来ました
さるのですね
あの人に道を尋ねましょう
!
お願いです、道に迷っているのです
!
ああ、どうもすみません。
?
ああ、そうですか・・・。
こんなところに悪魔が出るなんて
!
あ、知りませんか。
ああ、そんな・・・。
せめて、せめてあの子に会えるまで待って
ひぇぇぇ
そんなぁ
え、悪魔ですか
私を食べる
空腹だから喰われろ
貰えませんか
あ、駄目
!
ところで、﹃駒王町﹄という場所を知りませんか
?
!
!?
ところで、変わった格好をなさっていますね、蝙蝠の翼なんて。
え、服を見ればわかる
私、尋ね人を探しに教会から来ました、アーリィとお申します。
戒しないでください。
そんなに離れていてはお互いに声が届きません。ああ、そんなに警
それにしても、どうして空に浮かんでいるのですか
せんか
どうか私の話を聞いてくれま
その綺麗な顔をにっこりと笑顔に歪ませた。
アーリィは、相手を怖がられないように、安心させるように、
!
!
!? ?
ね。
あ、どうして逃げるんですか
逃げれると思っているんですか
駄目ですねー、来世からやり
?
?
悪魔を前に教会の使徒が許すとでも
?
ならあなたに用はありませんので、ちゃっちゃと死んでください
?
?
6
?
!
直してくださいよー。
とりあえず、その翼が邪魔なので引っこ抜きますね。
片翼ではかわいそうなので、もう一方も引っこ抜きます。
ああ、これで私と同じ場所に立てましたね。
でも動かれると面倒なので、身体に︵銀製の︶針をぶっ射します。
あらあら、まるで昆虫標本のよう。可哀想に、誰がこんなことを
か
銀十字を付け込んだ、おいしいおいしい﹃聖水﹄です。
満足されました
お腹がいっぱいになるまで流し込みますね。そぉれ、イッキ
キ
あら、どうしました
寝ちゃったんですかー
イッ
あ、そうでした。お腹が減っていたようなので、お水はいかがです
!
い悪魔に、
アーリィは自身の善行を嬉しく思った。
さて、だいぶ時間を過ごしてしまいました。
しかし、一体﹃駒王町﹄はどこなのでしょう
大丈夫、主が私を導いてくれますから
待っててくださいね、﹃アーシア﹄ちゃん
た。
﹃アーシア﹄が目撃されたという駒王町に向けて、山奥へと進んで行っ
修道女アーリィは、自身の方向音痴を呪いながら、
!
取りあえず、このまままっすぐ進んで行きましょう。
?
どうやらお腹いっぱいになったので、ぐっすりと寝てしまったらし
あれ・・・うごかない。もしもーし
?
!
7
?
?
!
?
?
!
忘れん坊の聖女様
輝かしいステンドグラスから差し込む光。
大聖堂の十字架の前で、一人の少女が祈りを捧げていた。
少女は、煌びやかな金色の髪を光に反射させ、清廉たる純白の修道
服を纏っていた。
その祈りを見れば、誰もが聖母の姿をうつし、自然と跪くだろう。
それほどの魅力を彼女は持っていたのだ。
大聖堂の厳かな空気は、
﹂
大聖堂に入ってきたもう一人の修道女によって変わった。
﹁聖女アーシア、またお祈りを捧げていたのですか
流していた。
﹁アーリィ姉さま
す・・・﹂
恥ずかしいで
!
当初は他者に心を開かず、その目は傷を負った獣であった。
悪魔によって滅ぼされた村の唯一の生き残りであったアーリィは、
アーリィがアーシアと出会ったのは教会であった。
撫でた。
子供らしく甘える笑顔のアーシアに、アーリィはそっと彼女の頭を
考え込んでいるアーリィに、アーシアは抱きついた。
アーシアは聖女たる力を持っているが、彼女はまだ子供なのだ。
故に、アーリィはそれを歯がゆくも感じていた。
ない。
教義や仕来りを重んじる教会において、それを軽視することは出来
アーシアが聖女と呼ばれるのを嫌がっていると理解しているが、
う。
少し頬を膨れさせたアーシアに対し、アーリィは堪えるように笑
﹁ふふ、ごめんなさいね、アーシア﹂
二人っきりの時は止めてください
入ってきた修道女は、顔に黒いヴェールを纏い、灰色の髪を肩まで
?
食事は部屋で一人で食べ、寝るのは常に部屋の隅。
まるで、全てが敵と見えていたかのように。
8
!
しかし、それから数年後、アーリィに転機が訪れる。
教会に赤ん坊が置かれていたのだ。
金色の髪を流し、赤ん坊さながら輝く笑顔をしていた。それがアー
シアである。
その姿に、アーリィは亡き妹の面影を感じ、その子の姉になろうと
誓ったのだ。
それからは、アーリィはアーシアと一緒だった。
アーシアも、アーリィを姉と慕い、後ろについて回った。
嘗ての獣のような仕草はなりを潜め、アーリィは敬虔たる修道女と
なった。
そんな彼女を見て育ったアーシアも、同じ道を歩むのは至極当然
だった。
だが、そんな関係も終わることになる。アーシアに神器が宿ってい
たのだ。
他者を癒す﹃聖母の微笑み﹄という神器により、彼女たちの関係は
引き裂かれた。
教会がアーシアを聖女様と祀り上げたのだ。彼女の意思に関係な
く。
聖女様となったアーシアは、周りから信奉されるものの、決して安
らぎはなかった。
当たり前だ、まだ年端もいかない子供なのだから。
もちろん、アーシアに自由などなく、どこへ行くにも常に誰かがい
た。
その上、姉と慕っていたアーリィにまで聖女と呼ばれるのだ。
彼女の心は次第に沈んでいく・・・はずだった。
アーシアの心を理解していたアーリィが、アーシアのお世話係に
なったのだ。
敬虔たる修道女だったアーリィの申し出に、教会はそれを認めた。
そうして、二人っきりになれば、彼女たちは普通の姉妹に戻れた。
アーリィは、ただ妹たるアーシアの支えになりたかったのだ。
他愛の無い会話こそ、アーシアの癒しだった。
9
そしてアーリィは、アーシアの力と彼女の純粋さに不安を感じてい
た。
アーシアは優しすぎるのだ。
まるで外の世界を知らぬ籠の鳥のように、純粋培養の花のように。
その優しさがアーシアの美徳であり、いつか彼女の破滅の引き金に
なるかもしれない。
故にアーリィは、アーシアによく諭した。
﹁アーシア、私はあなたの優しさが大好きですよ。
ですが、その優しさがあなたに不幸を招くかもしれない。
﹂
でも大丈夫、主が守ってくださるわ。それに、私がいるんですもの﹂
﹁アーリィ姉さま、私、姉さまが大好きです
甘える妹と頭をなでる姉、それこそが、彼女たちの幸せだった。
だが、アーリィの懸念は最悪の結果を招いて的中した。
アーシアが、傷ついた悪魔を癒してしまったのだ。
アーシアにとって、傷ついた人を助けるのは至極真っ当なことで
あった。
それが彼女の優しさであり美徳だからだ。
だが教会はそうは思わない。
聖女が穢れた悪魔を癒した。
それは、自身を聖なるものと謳う教会にとって大きな傷であり、
決して許してはならない穢れでもある。
結果、聖女と謳われたアーシアは、一転して魔女という存在に堕ち
た。
今まで慕っていた人々は、こぞって彼女を罵倒した。
ただ一人を除いては。
どうか、慈悲
なぜそれが罪になるの
﹁なぜです、なぜアーシアを魔女としたのですか
彼女はただ傷ついた者を癒しただけです
!
10
!
!
お願いです
!
ですか
﹂
彼女の優しさを否定しないでください
を
!
!
アーリィはアーシアを守ろうとした。
!
御世話役の私に罪があると、アーシアは悪くないと。
だがアーリィの願いもむなしく、むしろ彼女自身の擁護によって、
アーリィも魔女︵アーシア︶の使い魔として断罪されることになっ
た。
﹂
﹂
あなたを魔女なんかにし
結果、絆を結んだ姉妹は、それぞれ追放の形として再び引き裂かれ
必ずあなたを迎えに行きます
たのである。
﹁アーシア
ない
﹂
お姉さまが迎えに来るまで、私はずっと待ってますか
!
悪魔に転生したアーシアは、自分を救ってくれた悪魔﹃兵藤一誠﹄に
アーシアは悪魔として転生し、新たな生を得ることとなった。
よって、
その主であり、駒王町の管理者である悪魔﹃リアス・グレモリー﹄に
しかし、偶然出会い、友達になった転生悪魔﹃兵藤一誠﹄と、
ことになる。
彼女の神器﹃聖母の微笑み﹄を奪い取ろうとした堕天使に殺される
その後、アーシアは追放という形で駒王町に送られ、
ならば私は、お姉さまを信じて待とう、と。
だったら私は耐えることが出来る。主が私を守ってくださる。
お姉さまは約束を守ってくれる。
アーシアは誓った。きっとアーリィ姉さまが来てくれると。
ら
﹁待ってます
それが彼女との約束であり、彼女の姉としての想いであった。
!
!
必ず迎えに行きますから
アーリィ姉さまぁぁぁぁ
だから待っていてください
﹁姉さま
!
!
アーリィは誓った。必ずアーシアを迎えに行くと。
!
!
!
恋をし、
11
!
﹃本当の家族﹄として受け入れてくれた、
﹃本当のお姉さま﹄である﹃リアス・グレモリー﹄と﹃その眷属﹄に出
会えたことを、
主の導きとして、頭痛を抑えて感謝した。
アーシアはもはや、かつて誰かとした約束を忘れてしまっていた。
12
芯が折れた剣
ゼノヴィア・クァルタは、
自身を人間を悪魔たちから守るための、一振りの剣と考えていた。
彼女は幼少時から、教会にそうあれと育てられたことも関係するだ
ろう。
教会の使徒として、戦士として、エクソシストとして、
彼女は悪魔・吸血鬼・魔物を容赦なく殺してきた。
それが、人の、教会の、そして神のためと思っていたからだ。
魔を容赦なく殺すその姿を、教会の人間でさえ﹁斬り姫﹂として畏
怖することになるのだが。
敬虔たるゼノヴィアにしてみれば、それは神に善行をなしている証
明でもあるため、
本人は別に気にすることではなかった。
彼女には教会・神が全てであり、他の事に興味もなかったのだ。
彼女の仕事は、神の使徒として地上に巣食う魔を殺すこと。
そのため、彼女の歩んだ道は魔物の死体に塗れていると言ってもい
い。
彼女の同僚であるエクソシストたちの死も、彼女の道を赤く染め
た。
ゼノヴィアは、そうした死の渦中にその身を預け、
ただ名誉ある使命を果たすだけだった。
そうした鉄のようなゼノヴィアではあったが、彼女に変化をもたら
す出会いがあった。
一人目は、紫藤イリナであった。
彼女は両親ともに敬虔な教会の信徒であり、父親が同じ戦士であっ
た故に、
ゼノヴィアはイリナと出会うことになったのだ。
彼女の美徳である敬愛精神と天真爛漫な姿は、
人付き合いの悪かったゼノヴィアとすぐに打ち解け、
ゼノヴィアに人らしい、女の子の感情を蘇らせた功績である。
13
そしてもう一人は・・・
教会に設けられている訓練場で、ゼノヴィアは頻りに剣を振ってい
た。
前の戦いで、彼女は悪魔を殲滅したものの、仲間に被害が出てし
まったのだ。
ゼノヴィアは自身の弱さを嘆いた。
いくら自分に力があったとしても、守れなければ意味がない。
その思いで、彼女はこうした無茶な訓練を続けていたのだ。
だが、それにも限界はある。
ゼノヴィアは、ふと身体から力が抜ける感覚に陥り、
気付いた時には、倒れゆく自分を認識した。
だが、地面と接触する間際に彼女の体は止まった。
﹁無茶はいけませんよ、ゼノヴィアさん﹂
目を動かすと、修道女が彼女を支えていたのだ。
修道女の顔は、黒いヴェールに覆われていた。
ゼノヴィアとアーリィと名乗った修道女の出会いは、戦場であっ
た。
悪魔を殲滅する任務のため、仲間のエクソシストと共に、
悪魔の巣窟に踏み込もうとする際、救護班としてアーリィが送られ
たのだ。
当初、彼女の出で立ちに、ゼノヴィアは困惑した。
なにせ、どうみても戦力になりそうもなく、自分の身すら守れなさ
そうな体格であり、
顔を覆っている黒のヴェールが明らかに怪しかったのだ。
そして、ゼノヴィアは彼女がなにか焦っている様子を感じたのだ。
まるで、何かを為さねばならないと憑りつかれた様に。
故にゼノヴィアは興味を持ったのだ、怪しい修道女に。
14
﹁私が焦っている、ですか
た。
﹂
﹁それにしても、どうしてエクソシストを
そうだな、しいて言うなら、それが教会の、神のため・・・だか
?
する使命がある﹂
!
アは気付かない。
﹁で、あなたはどうなんだ、シスター・アーリィ
﹂
ゼノヴィアの言葉に、アーリィは少し言い澱んだものの、ゼノヴィ
﹁そうなのですか、それは・・・素晴らしいですね
﹂
私には教会に育てられた恩と、神への忠誠を果たす為、悪魔を浄化
らかな。
﹁ん
﹂
こうした些細な会話が会話を繋ぎ、いつしか二人は語り合ってい
私も、待っている友のために、早く任務を終わらせたいものだ﹂
﹁そうか、待っている人がいるというのは、羨ましい限りだ。
あの子、寂しがり屋ですから。一人でいるのが心配なんです﹂
﹁私、大切な人と約束をしたんですよ、必ず迎えにいきます、と。
いったい何を焦っているのか。
始 め は 単 純 な 興 味 だ っ た。こ の 怪 し い、死 に た が り の 修 道 女 が、
﹁あはは、すみません・・・﹂
あなたのせいで皆が死ぬのは困るのでね﹂
﹁ああ、そうだ。焦りはミスを生み、多くの被害を招く。
?
こうして二人は、ひと時の親睦を深めた。
では明日の作戦、頑張りましょう﹂
﹁お気にならないでください。あー、そうですね。
よう﹂
えっと、これ以上は明日の作戦に支障をきたしそうだから、もう寝
﹁すまない、酷いことを思い出させてしまったようだ。
その言葉に、ゼノヴィアは彼女が悪魔の犠牲者と思い至った。
それに、私みたいな子を、もう見たくありませんから﹂
約束があります。
﹁そうですね、私は先ほども言いましたが、待っている子を迎えにいく
?
15
?
﹁私の夢・・・か
﹂
﹂
?
た。
﹂
女の幸せは子をなすことだ
﹁こども・・・﹂
﹁
﹁そうだ
﹂
それは素晴らしいことだ。
どうだ、素晴ら
だが、自身を組み伏せられるほどの男と子をなしたい
きっと素晴らしい子が生まれますよ﹂
うん、そうに違いない﹂
!
今度は君の夢を聴かせてほしい﹂
しよう。
なんでも緊急の用事らしい。だから名残惜しいが、今日はお開きに
﹁っと、そうだアーリィ。実は教会から新たな指令が来てな。
内心では頭を抱えた。
豊満な胸をはって、嬉しそうにうなずくゼノヴィアを、アーリィは
﹁そうだろう
﹁それは・・・素晴らしい夢です
もしも教会の広間であったなら・・・アーリィは考えるのを止めた。
一応、ここはゼノヴィアの部屋で、今は二人っきりなのだが、
ゼノヴィアは・・・あっち方面の人だったのだろうか
子供をなす
一体彼女は何を言ったのだろう、と。
アーリィはゼノヴィアの言葉に絶句した。
﹁﹂
しいだろう
私は、私を組み伏せる程に強い男と子をなしたい
!
そうした悶々と考え込んでいると、ゼノヴィアに天啓が降りてき
その私が夢を考えるとは思っていなかったのだ。
たのだ。
いかんせん、自分は戦士であり、そうした生き方しかしてこなかっ
ゼノヴィアはアーリィの質問に悩んだ。
るんじゃないですか
﹁そうです。ゼノヴィアさんも女の子ですから、何かしたいことはあ
?
?
?
16
!
?
?
!
!
?
﹁ええ、もちろんですよ。私の夢はまた今度ということで﹂
そうして部屋から出て行こうとしたアーリィは、ふと扉の前で止ま
り、
くるりとゼノヴィアに向き直った。
﹁ゼノヴィア・クァルタ、貴女は強い人です。ですが、弱い人でもあり
ます。
もし道に迷ったなら、どうか自身の想いに従ってください。
﹂
か弱き人を魔のモノから護るあなたを、私は信じています﹂
﹁いったい何を言っているんだ、アーリィ
﹁きっと帰って、私の夢を聴いてくださいね﹂
そういって立ち去ったアーリィを、ゼノヴィアは呆然と見つめてい
た。
その後、ゼノヴィア・クァルタは、友である紫藤イリナと共に、
堕天使コカビエルが盗み出した、聖剣エクスカリバーを奪還するた
め、
イリナの故郷である、悪魔の支配する﹃駒王町﹄へと渡った。
そして、そこで悪魔になった﹃アーシア・アルジェント﹂と出会い、
﹃兵藤一誠﹄と教会の犠牲者﹃木場裕斗﹄と諍いを起こすことになる。
その後、コカビエルによって神の不在を知ったゼノヴィアは、
教会への帰還後、異端として排斥され、
信じる物に裏切られた彼女は、
﹃アーシア﹄と同じく悪魔に転生した
のだった。
誰かの言葉、誰かとの約束、ゼノヴィアがそれを果たすことはな
かった。
17
?
再会
少女にとって、それは初めてのお出かけだった。
忙しかった両親が、自分の誕生日のために休みを取ってくれた。
楽しみにしていた遊園地にも一緒に行って、家族仲良く美味しいご
はんを食べた。
両親が、自分に内緒で買ってくれた、大好きなお人形さんをプレゼ
ントしてくれた。
少女にとって、それは忘れられない一日だった。
でも、それはただの理不尽であっけなく終わる。
今の少女に写る光景は、
血を流して倒れている両親と、自分を食べようとする怪物だった。
それは突然起こった。
家に帰る途中、気が付けば廃墟にいたのだ。
決して横道にそれたわけでもなく、まっすぐ家に帰っていたのに。
﹁あら、人間が網にかかるなんて、今日はラッキーね﹂
人気のない廃墟なのに、ねっとりとした女の声が響く。
廃墟の隅、薄暗くて見えない場所に、きらりと2つの光が見えた。
ズルリ、ズルリと、何かが這う音も聞こえる。
そして、ゆっくりと天井の隙間から光がこぼれ、大きな怪物が姿を
現した。
それは、女性の上半身に、蛇の下半身をくっ付けた化け物だった。
その後は、少女の父親が勇敢にも怪物の気を逸らして少女と母親を
助けようとするも、
怪物の尾に弾かれ、壁に叩きつけられて動かなくなった。
母親が少女の手を引いて必死に外に出ようとするも、
怪物に爪に背中を裂かれ、血を流して動かなくなった。
少女は、今の光景に呆然とするだけの、ただのか弱い存在に堕ちた。
怪物は子供が大好きだった。もちろん、喰べるという意味でだ。
自分は住処の廃墟に身を隠し、そこらの道に転移用の魔法陣を置い
ておく。
18
あとは、獲物が廃墟に転移されるのを待つだけで、
後は勝手に餌がやってくるだけの簡単な仕掛けだ。
怪物、悪魔であるラライは、これで既に多くの獲物を喰ってきたの
だ。
大抵は野良犬といった拙いもので、時には大人がかかることもあっ
た。
一番のごちそうは子供で、柔らかく骨ばった感じもなく、素晴らし
かった。
あの味は忘れられそうもない。
ラライは、少女にゆっくりと近づき、逃げられないように囲み、
大きな口を開けて少女を呑みこもうとした。
﹂
突如、横から何かが迫り、ラライの顔を思いっきり殴りつけた。
﹁ギィエアァァァァァァ
醜く汚らわしい叫び声をあげ、ラライは壁にぶち当たった。
ラライはすぐさま体制を立て直し、お楽しみの邪魔をした侵入者を
睨みつけた。
私の愉しみの邪魔をしやがって
侵入者は修道女だった。何故か顔をヴェールで覆っていた。
﹁きさまぁ
!
わじわと殺す
すぐに死ねると思うなよこのメスがぁ
かった。
﹂
﹂
修道女は、少女を抱えて走り、間一髪のところを避ける。
﹁逃がすかぁ
尾を斬られた痛みに、ラライは声を上げて全身を震わせた。
﹁アガガガガガガガ﹂
それはラライの尾だった。
ブチリ、と何かが裂ける音が聞こえ、何かが地面に落ちた。
だが、それが当たることはなかった。
ラライは自分の尾を振るい、少女もろとも叩き潰そうとする。
!
19
!?
そう言うやいなや、ラライは体を縮こませ、一気に修道女に飛びか
!
!
その身体を、万力のように締め上げて砕いた後、少しずつ齧ってじ
!
その間に、修道女は少女の父親と母親も抱え、一か所に纏める。
すぐさま父親と母親の傷を見て、一安心する。
大した傷ではなく、二人とも気を失っているだけだ。
修道女、アーリィは二人の傷口に手をかざし、治癒の魔法を使う。
呆然とする少女を抱きしめ、呟く。
﹁ごめんね・・・﹂
アーリィは少女に催眠の魔法をかけて横にした後、3人を守護魔方
陣で覆う。
魔方陣で覆った後、アーリィは尾を斬られ激昂しているラライに向
き直す。
﹂
ラライはもはや正気ではなかった。
﹁グギィアレェェエァァァァ
アーリィは、突進してきたラライを3人から引き離そうと走る。
もはやアーリィしか見えていないラライは、それを追いかける。
苦しんで死ねぇ
﹂
部屋の隅に追い込まれたアーリィを、ラライは歪んだ顔で笑った。
﹁もう逃げられないぞ、このメスがぁ
そう言い、先ほどと同じように飛びかかったラライ。
!
!
だが、アーリィにたどり着く前に、その身体は地面に墜ちた。
﹂
それに、下半身の感覚が無いのだ。
﹁あ
があった。
ということは、今の自分は・・・。
あああ
ああああああ
下半身
!?
私の身体
!
いや、いやぁぁぁ
その考えを肯定するように、身体に走った痛みにラライは叫んだ。
﹁あ
﹂
?
!?
杭を突き刺す。
女性悪魔の磔︵地面︶の一丁上がりだ。
アーリィは、もう一本の白木の杭を取り出し、ラライの胸に添える。
ラライは、自らの死をどうにか回避しようと考える。
20
!
ふとラライが後ろを見ると、そこには血を迸らせている蛇の下半身
?
?
アーリィは、叫び声を上げるラライに駈け寄り、その両手に白木の
!
待ってよ
あなた知らないの
和平よ、和平
すると先日、魔王様からの言葉を思い出した。
﹁待って
﹂
何をしているんだ、早く杭を外せ
とりあえず第六感を信じて歩いてみれば、
い、
山道を歩いて人里に出たは良いものの、相も変わらず迷ってしま
アーリィは、目の前のゴミを見下し、ほっと溜息をつく。
杭が振り下ろされた。
﹁隣人を食べる隣人なんて、こっちから願い下げですよ﹂
杭が上がりきる
﹁でも、正直に言うとですね﹂
少しずつ上がる
す﹂
﹁和平だ、友達だ、隣人だって。そんな嘘をついて逃げようとするんで
杭が上がる
﹁私が出会った皆さん、誰もがそんなことを言うんですよ﹂
!
アーリィの言葉に、ラライは面食らった。
﹁
﹁不思議なんですよね﹂
ラライは、アーリィが自分を逃がすのを内心ほくそ笑んだ。
今この場から逃げ出せれば、今度はもう少し慎重になればいい。
故に、敬虔な信徒であるならば、天使の言うことを聞くしかない。
人間というのは上からの命令を遵守する愚かな生き物だ。
ラライはなりふり構わす叫んだ。だが冷静な思考も働かせた。
ね、だから友達を助けると思って
﹂
私たちは仲間、友達、天使の言う愛する隣人なの
争っちゃだめなの
! !?
もう私はこんなことしないから、ね
解るでしょ
悪魔と天使と堕天使が和平を結んだの
ね
だから、ほら
!?
あたしたちお友達
?
!
まさに少女が食べられかけた光景に出くわしたというわけだ。
21
!!
!
?
!
!
!
!
!
?
﹁さてさて、とりあえずこの場を浄化した後、民間人を病院に運ばなく
てはいけませんね
記憶の改修は・・・気が引けますけどしないとダメですよね﹂
アーリィは、人の記憶を弄るのが好きではないものの、
こうしなければ民間人を巻き込んでしまうというわけだ。
﹂
悶々と考えて、内心が少し暗くなりかけた時、地面に突如魔法陣が
描かれる。
大公の命によりあなたを処罰します
咄嗟に魔法陣から退避すると、多くの人影が現れた。
﹁はぐれ悪魔ラライ
!
﹂
﹂
でもって・・・ぐへ
!
わ、私が
今日も部長にいいとこ見せてやるぜ
色んなところが大きな、赤い髪をした女性が現れるなり叫んだ。
﹁よっしゃ
へへへ﹂
﹁変態﹂
﹁あははははは・・・﹂
ならば私も混ぜろ
!
﹁あらあら﹂
﹁さぁ
観念しなさ・・・って、あら
﹂
?
目の前にいるのは、杭が突き刺さった怪物と、血まみれの修道女で
ある。
﹂
意気揚々と声を上げた赤髪さんは、目の前の光景に面食らう。
﹁はぐれ悪魔が死んでる・・・って、貴女は誰
﹂﹂
﹁あ、どうもすみません。私、尋ね人を探してい﹁﹁アーリィ︵姉さま︶
!?
そこには白い修道服を着た金色の髪の女の子、
手に大きな剣を携えた青い髪の女の子がいたのだった。
22
!
﹁イ、イッセーさんが良いというのでしたら
﹁なんだ子作りか
!?
茶髪の男の子が何やら邪なオーラを発し、周りの男女が苦笑する。
!
!
!
どうやら先ほどのゴミを討伐するために現れたらしいのだが、
!
アーリィは、自分の名前を呼ばれて声の方を向くと、
!?
赤髪の情愛者
﹁悪魔が殺されている
﹂
机の上に置かれた数々の書類に目を通しながら、リアス・グレモ
リーは尋ねた。
﹁その通りです、リアス。
ここ最近における悪魔の死亡数が、異常なほどに増えているので
す﹂
その問いに答えたのは、眼鏡を掛け、整然とした雰囲気を纏い、
色んな意味でリアスとは正反対である、駒王学園生徒会長、ソーナ・
シトリーである。
二人は、リアスが本拠としているオカルト研究部、通称オカ研にて
会談していた。
内容は、ここ最近で頻発している悪魔の大量死である。
日本各地にて、数多くの悪魔が死んでいるのだ。
それも、はぐれ悪魔や転生悪魔、有象無象の区別なく、である。
悪魔は人間と違い、寿命においては最低でも1000年は軽く生き
られる。
故に、寿命による自然死とは考えられない。
また身体的にも、悪魔は大抵のことで死ぬことはないのだ。
腕を捥がれようが、身体に穴が開こうが、その生命力は他の生物と
比べてもしぶといのである。
だが、そうした長寿や頑強な身体のせいなのか、悪魔の出産率は極
めて低いと言える。
結婚したは良いものの、子供に恵まれないことが多々あるのだ
話を戻そう。
そうした、生物的に優秀過ぎることもあり、また力が優秀過ぎたが
故に、
多くの悪魔がその力に溺れ、仕えるべき主に牙を剥くこともある。
それをはぐれ悪魔と呼ぶのだが、基本的にはぐれ悪魔は、
見つけ次第処罰する方針なので、死んだとしてもいささか問題では
23
?
ないのだ。
問題は、もう一方が死んでいることである。
﹁転生悪魔まで死んでいるとなると、
これは何者かが悪魔を殺していると考えるべきじゃないかしら﹂
﹁ええ、私も同意見です﹂
リアスの考えに、ソーナは肯定するようにうなずく。
先日、悪魔・天使・堕天使で和平
しかし、それによって新たな疑問が生まれることになる。
﹁でも、いったい誰がこんなことを
会談をしたじゃない。
今更、天使や堕天使が悪魔を殺す理由なんてないわ。
それに教会にしても、天使長ミカエルによって話がついているはず
よ﹂
リアスの頭に思い浮かんだのは、
先日行われた悪魔・天使・堕天使の長によって行われた和平会談だ。
現魔王であるサーゼクス・ルシファー、天使長ミカエル、堕天使総
督アザゼルによって、
長年続く戦争の爪痕を憂い、また各々の種族の存続のため、
過去から続いた戦争を終結し、1つの連合として三大勢力がつくら
れたのだ。
そして、3勢力のトップによって、和平が締結されたのである。
その締結の際、人間代表として呼ばれた現赤龍帝である兵藤一誠の
主として、
共にいたリアスもそれに出席していたのだ。
故に、2つの陣営が締結破りをするはずがないのだ。
﹂
という顔をする。
﹁ならば、可能性は1つしかないではありませんか
悩むリアスに、ソーナは何を悩んでいるのか
?
無限の龍オーフィスを頭とし、現魔王の統治を不服とする、旧魔王
禍の団
﹁禍の団ね﹂
るではないですか﹂
﹁その和平会談を不服とし、私たちを亡き者にしようとした存在がい
?
24
?
の勢力。
会談の際、自身を真のレヴィアタンと称し、襲ってきたカテレア・
レヴィアタン。
また、彼女が引き連れてきた、現魔王に反旗を振るがす悪魔勢力。
当のカテレアはアザゼルによって倒され、
また、サーゼクスやミカエル、そして自分たちの活躍により、禍の
団の思惑は防げたのだ。
だが、問題はカテレアでなく、その際に相手側に寝返った存在であ
る。
﹁白龍皇・・・ヴァーリ・・・﹂
自分の眷属で下僕である、兵藤一誠に宿る赤龍帝と対になる存在。
かつての三大勢力の戦争を、一時休戦せざるを得なかった化け物の
片割れ。
相手の力を半減し、その力を自身の糧とする戦闘狂。
その化け物が禍の団に寝返ったことこそ、三大勢力において最も大
きな懸念なのだ。
幸いにも、ヴァーリは一誠によって傷を負い、彼を助けに来た仲間
によって、
三大勢力に大きな被害はなかったのである。
しかし、だからと言って油断はできない。禍の団は、常にこちらを
狙っているのだから。
﹁とりあえず、我々は皆に警戒を怠らないよう注意するしかありませ
ん。
それに、いくら禍の団とは言え、今はこうした事しか出来ないとい
うことでしょう﹂
﹁そうね、私も愛しい下僕たちが傷ついて欲しくないわ﹂
話が終わり、生徒会室のに戻ろうとしたソーナだが、
ふと何かを思い出してリアスに振り向く。
﹁おっと、忘れてしまうところでした。
悪魔の大量死もそうなのですが、全世界における人間の被害も、見
逃せない状況みたいです﹂
25
和 平 会 談 で、三 大 勢 力 に よ る 人 間 管 理 の 話 も
ソーナの言葉にリアスは首を捻る。
﹁な ぜ 人 間 の 被 害 が
あったはずよ。
﹂
私たち悪魔は、しっかりと義務を果たしているわ。
なら他の勢力が義務を怠っているんじゃないの
まったく、どうして私の所に来るのよ。面倒じゃない﹂
﹁別に気にしないで、ソーナ。お互い管理者として辛いわね。
ておきます﹂
それと、大公からのはぐれ悪魔討伐が来ていますから、資料を渡し
りです。
私は生徒会の仕事が残っていますから、まだ学園に残っているつも
﹁ごめんなさいね、リアス。些細なことで引き留めてしまって。
ソーナの言葉に、リアスもついつい愚痴をこぼしてしまう。
から﹂
﹁ほんと困るわね。彼らの怠慢が、私たち悪魔にまで害がおよぶのだ
まったく、天使や堕天使は何をしているのか・・・﹂
人間の被害も最小限に留めているというのに。
います。
﹁そうですね。私たち悪魔は、しっかりと自身の管理地区を統治して
そのための人間の管理についても話し合ったのだ。
勢力存続のために人間に頼らざるを得ない三大勢力は、
和平会談において、戦争の終結、和平の締結のほかに、
る。
和平締結をその場で聞いていたリアスは、その内容を思い浮かべ
?
互いに労う言葉をかけ、町の管理者と学園の管理者は、互いの仕事
を全うするのであった。
黒い修道女が到着する、少し前のことである
26
?
正常
ソーナとの会談を終えたリアスは、
自身の眷属である一誠等に、先ほどの内容を伝えた。
悪魔が禍の団に襲われている、この言葉は、一誠等を驚かせるのに
十分だった。
リアスからの内容に、一誠と同じように驚くもの、目を潤ませて怯
えるもの、
不快と感じ眉を上げるものなど、様々な表情である。
﹁というわけで、あなた達も警戒を怠らないよう、気を引き締めるよう
に。
﹂﹂﹂﹂﹂
禍の団は、いつ襲ってくるか分からないからね﹂
﹁﹁﹁﹁﹁﹁はい
無関係な悪魔を殺すな
眷属たちは、主の言葉に一層気を引き締めた。
﹂
﹁それにしても、禍の団の奴等はゆるせねぇ
んて
﹁どうしたの、アーシア
﹂
﹂
声の方を振り向くと、顔を哀しげに曇らせたアーシアがいた。
そうした会話を聞いていると、ふと、か細い声が聞こえた。
﹁あの・・・﹂
に、自然と笑みをこぼす。
そうした眷属同士の会話を聞き、リアスは自身の下僕らを頼もしさ
﹁ギャーくん、うるさい﹂
﹁あ、朱乃さんの目がおかしいですぅぅぅぅ
まあ、私は別段虐めるのは誰でもいいんですけど﹂
﹁その通りですわ。弱者を痛めつけるなんて愉しくもありません
﹁そうだね、弱いものを狙って襲うなんて許せるはずがないよ﹂
!
!?
﹁リアスお姉さま、人間の方たちの被害はどうなっているのでしょう
のかと思った。
リアスは、アーシアが不安で心細くなり、自分に元気づけてほしい
?
27
!
一誠の怒りに、他の皆も頷く。
!
か
リ ア ス お 姉 さ ま の 話 で す と、大 変 な こ と に な っ て い る よ う で す
し・・・﹂
﹁ああ、そのことね﹂
リアスは、悪魔だけでなく、人間の方も心配するアーシアの優しさ
を嬉しく感じた。
アーシアのそうした優しさが、リアスのとって誇らしい下僕の要因
なのだ。
ソーナから渡された資料に目を通し、アーシアを安心させようと諭
す。
﹁安心しなさい。人間たちの被害はそれほどでもないわ。
もちろん、被害にあった方たちには三大勢力で対応してるし、
アーシアが心配するほどのことでもないのよ﹂
﹁ああ、良かったです・・・﹂
リアスの言葉に、アーシアの曇った顔が少し晴れた。
アーシアが喜ぶ姿に、自然とリアスも笑顔になる。
﹁それにしても、どうして禍の団は悪魔たちを襲いだしたんだ
それでは自分たちの首も絞めることになるじゃないか﹂
ゼノヴィアの言葉に、リアスはソーナとの推論を示した。
﹁現魔王、お兄様の統治を許せない旧魔王としては、
それに従う悪魔たちは排除すべき裏切り者だと思うの。
絞めてしまう。
もちろん、そんなことをすれば悪魔の数が減って、自分たちの首を
?
﹂
でも、もしもそうした現状が続いたとしたら、いったいどうなると
思うかしら
るってことですか
一誠の回答に、リアスは満足げに頷く。
悪魔たちも旧魔王派に従わざるをえないって・・・﹂
自分たちに従わないなら殺すってことをすれば、
?
﹁もしかして、旧魔王たちは悪魔たちに恐怖を植え付けようとしてい
リアスの問いに、少し時間が流れたが、一誠が手を挙げた。
?
28
?
﹁流石一誠ね。そう、誰だって殺されたくはないわ。
だから、いつ殺されるか解らないという恐怖を植え付けることで、
現魔王の勢力を削ごうとしているんじゃないか、と思っているの。
または、保身による裏切りを行わせ、混乱を招くつもりかしら。﹂
リアスの考えに、一誠は怒りの声を上げた。
旧魔王だかなんだか知らねぇが、
その顔は、勝手に殺される悪魔たちを思う、純粋な怒りに染まって
いた。
﹁ふざけんじゃねぇ
﹂
自分たちに従わないから殺すなんて、自分勝手じゃないか
それで殺される悪魔がいるなんて、絶対に間違ってる
﹁ええ、だからこそ私たちは禍の団を倒さなきゃいけないの。
これ以上、悪魔が殺されるなんて許せないわ﹂
﹂
リアスの言葉に、眷属たちは禍の団打倒を硬く誓ったのであった。
﹁ところでリアス、他にも何かあるのではなくて
﹁﹁﹁﹁﹁はい
﹂﹂﹂﹂﹂
みんな、行くわよ
﹂
私の町の人間に手を出すことを、死を持って償わせなきゃね。
もっとも、私の管理する場所に来たのが運のつきね。
逃がすなんて。
全く、前の町の管理者は何をしていたのかしら。こんな危険なのを
この町に来る前に、既に何人もの人間が襲われているわ。
力に溺れ、主に叛逆した典型的なはぐれ悪魔ね。
はぐれ悪魔の討伐依頼が入ったわ。名前はラライ。
だけどね。
﹁ええ、和平会談などで大変だったから、ゆっくり落ち着きたいところ
とを思い出した。
朱乃の言葉に、リアスはソーナから渡された、はぐれ悪魔討伐のこ
?
移魔方陣を起動した。
転移先は、自分の民に手を出した愚かなはぐれ悪魔。
29
!
!
!
!
自分の言葉に、一斉に力強く頷く眷属を頼もしく感じ、リアスは転
!
さてどう料理してあげようか、と心に思うリアスであった。
30
会談
リアス・グレモリーは、状況が理解できず混乱していた。
なにせ、駒王町の管理者として、自治区を守るためにはぐれ悪魔を
討伐しに来たら、
そこでには杭留められて絶命した討伐対象と、血まみれの修道女が
いたのだから。
その上、可愛い可愛い下僕で眷属であるアーシアとゼノヴィアが、
その血まみれ修道女と知り合いと言うではないか。
目の前では、しきりに二人の両手を握って、上下にブンブンと動か
す修道女がいる。
やっと会えることが出来ました
あまりに激しく動かすせいか、アーシアはガックンガックンと振り
やっと
ああ、そういえば髪が少し伸びま
!
回されている。
﹁ああ、アーシア
お姉ちゃん心配だったんですよ
したね。
ですか
アしないといけませんね。
﹂
ああ、なんて素敵な日なんでしょう
んて
身体はしっかり動かしてます
ようやくアーシアに会えるな
﹂
あなたも日本に来ていたのですね
!
私、心配で心配で、毎晩貴女の無事を主に祈っていたんですから
緊急の指令と言って別れた後、何も連絡がありませんでしたから
任務の途中ですか
あ、もしかしてまだ
!
!?
ですが、私から見ると無事なようで安心です
!
ああ、私、心配していたのですよ
﹁そしてゼノヴィアさん
﹁あ、アーリィお姉さま、す、少し落ち着いてください
!
!
!
!
!
!
31
!
背の方も以前よりも少し高くなった気がします。好き嫌いはどう
!?
!
嫌いなものは少しは減らせました
か
?
?
年頃の女の子は色々と大変ですからね。お肌の方もしっかりとケ
?
良ければ私もお手伝いさせてもよろしいですか
﹂
私はあな
こうして私の大切な人に、一
﹁あははは、アーリィ、君は少し落ち着いてくれ﹂
﹁お二人とも何を言っているんですか
!?
ああ、主よ
!
緒に巡りあえたんです。
﹂
これを落ち着けるわけないじゃないですか
たに感謝します
﹂
﹁﹁﹁﹁﹁っ﹂﹂﹂﹂﹂
﹁
!
!
に不調をきたすものなのだ。
﹁えっと、アーリィ・・・さん
せんか
?
部下です。
私ったら感動のあまり舞い上がってしまいまして﹂
アーリィさん・・・で良いですよね
て・・・﹂
﹁い え、私 が も う 少 し 早 け れ ば、あ の 子 の 両 親 が 傷 を 負 う こ と な ん
貴女のおかげで、死傷者が出なかったのですから﹂
はぐれ悪魔を退治し、民間人を救ってくれたことに感謝します。
?
﹁私はこの駒王町の管理者であるリアスで、この子たちは私の優秀な
一誠たちは、リアスのソファの方に立った。
修道女をソファに座るよう促し、改めて礼を言う。
究部に移動した。
他の眷属とおかしな修道女を、転移魔方陣で拠点であるオカルト研
リアスは、朱乃に事後処理の方を任せ、
﹁解りましたわ、リアス﹂
﹁いえ、お気になさらないでください。朱乃、後を任せるわ﹂
﹁あ、すみません
ここで騒いでしまうと、人が来そうですので﹂
?
嬉しいのは解りますが、場所を変えま
悪魔であるリアスたちにとっては、聖歌や祈り、聖書でさえ、身体
だが、アーリィはそれに首を傾げるも、別段気にした様子はない。
全員に頭痛が走る。
あまりの喜びに、修道女が祈りを捧げたことで、リアスを含む眷属
!
!
32
?
﹁お気持ちは解ります。私たちが遅かったばかりに・・・。
ですが、貴女が退治してくれたおかげで、あの人たちは助かったん
です。
それに、彼らは今日のことを覚えてはいません。すべてが夢だっ
た、ということです﹂
﹁そう・・・ですね﹂
リアスの言葉に、アーリィは顔を曇らせる。
﹁ところでアーリィさん。貴女とアーシア、ゼノヴィアとの御関係は
﹂
リアスは場の空気を変えるため、自身が知りたかった話題を切り出
す。
私とアーシアは姉妹のような関係で、ゼノヴィアさんとは戦
事と次第によっては、目の前の彼女への対応も変わるからだ。
﹁はい
友です。
アーシアが赤ちゃんだった頃から、ずっと一緒だったんですよ
われまして﹂
アーリィ姉さま
!
それは昔の話じゃないか
﹂
!
﹁も、もう
﹁あ、アーリィ
皆さんの前で恥ずかしいです・・・﹂
ゼノヴィアさんは、いつも怪我ばかりして、同僚からお守なんて言
?
!
ちょっと・・・
﹂
?
彼女の顔はヴェールでよく解らないものの、真剣な雰囲気を醸しだ
すると、今度はアーリィから会話を切りだしてきた。
﹁ところで﹂
た。
だったら二人の主として、リアスは彼女を少し信用しようと思っ
思えた。
そしてこの女性は、アーシアとゼノヴィアにとって大切な人だとも
このアーリィという修道女は、本当に不思議な人と感じる。
ると、
目の前の修道女に良いようにされてる、アーシアとゼノヴィアを見
﹁あ、あの
﹁あらあら、やっぱり二人とも変わってないわね。私は嬉しいですよ﹂
!
!
?
33
?
している。
﹁貴女たちはどういった方々ですか
たが。
﹂
先ほど、管理者と仰っていまし
それに、なぜアーシアとゼノヴィアさんがここに
﹁私たちはこの駒王町を、はぐれ悪魔や危険な存在から護るため、
人知れず活動をしている、いわば自警団です。
私も含めて学生ばかりですけど、みんな強いんですよ
みんな、彼女に自己紹介を﹂
を終えた。
それに赤龍帝ですか
自己紹介が終わると、アーリィは目を丸くして驚いた。
﹁まぁ、みなさん随分と強そうな力ですね
!?
ちょうどその時、事後処理を終わらせた朱乃も帰還し、全員の紹介
リアスがそういうと、一誠たちはアーリィに自己紹介をした。
?
ます
﹂
﹁いやーそれほどでもないですよ
ですから﹂
俺なんて、皆からしたらまだまだ
話には聞きましたが、なにか・・・こう・・・底知れない力を感じ
!
下しないの﹂
﹁ぶ、部長がそう言うんなら・・・あはははははは
﹁一誠先輩、顔がにやけてます﹂
﹁一誠君らしいね﹂
﹁あらあら﹂
﹁アーシアは、この駒王町に派遣されてきたわ。
﹂
そしてリアスは、アーシアとゼノヴィアの事情を話した。
一誠によって、場の雰囲気は一気に明るい流れになる。
﹁イ、イッセー先輩、顔が酷いことになってますぅぅ﹂
!
そして、アーシアの力を狙った堕天使たちから、私たちが保護した
の。
一誠のおかげでね﹂
﹁それは本当にありがとうございます
!
34
?
?
﹁でも一誠のおかげで、私もみんなも助かっているんだから、自分を卑
!
!
一誠さん、アーシアを守っていただき、本当に感謝しますわ﹂
アーリィの言葉に、一誠は頬をかきつつ少し口ごもる。
一誠さんのおかげで、私は今ここにいます
﹁あの時は、アーシアを助けようと必死だったんで。でも、結局はアー
シアを・・・﹂
﹁そんなことはないです
から﹂
アーシアが一誠を励ます姿に、アーリィは、寂しげながら微笑んだ。
﹁ゼノヴィアは、任務が終わった後、彼女から私たちに協力したいと申
し出てね。
今は立派な私たちの一員です﹂
﹁そう言われると、照れるな・・・﹂
リアスの言葉に、ゼノヴィアは顔を赤らめながらそっぽを向く。
そうした和やかな雰囲気の中、リアスはアーリィに尋ねた。
﹁それで、どうしてアーリィさんはアーシアを探しに来たのですか
どうやら、なにか事情があるようですが﹂
リアスの眉が少し上がる。
﹁迎えにきた・・・ですって
﹂
当のアーシアは顔を曇らせ、ゼノヴィアは首を傾げた。
ギャスパーは、その雰囲気に若干涙目になる。
小猫はいつでも彼女に飛びかかれる位置に移動する。
木場はいつでも剣を抜けるように右手をそっと移動させ、
朱乃はニコニコしつつもその目は笑っておらず、
リィに警戒心を抱く。
先ほどまでの和やかさが一瞬で霧散し、眷属に緊張が走り、アー
その瞬間、部屋の空気が凍った。
んです﹂
﹁そうですね。昔、アーシアと約束をしまして、アーシアを迎えに来た
?
守るために、
私はアーシアにかけられた汚名を払拭するため、そしてアーシアを
おそらく、あなた方はアーシアの事情を知っているでしょう。
﹁はい、私はアーシアと約束したんです。
?
35
!
私はずっと彼女を探していました﹂
﹁アーリィ姉さま・・・﹂
アーリィのヴェール越しから伝わる真剣な眼差しに、
リアスは少したじろぎ、アーシアは一瞬目を伏せる。
﹂
だが、それに異議を唱える存在がいた。
﹁ふざけるな
兵藤一誠は、アーリィの自分勝手な発言に許せるはずもなく、大声
で叫んだ。
その目は、アーリィを不倶戴天の敵の如く、射殺すほどの力がこ
もっていた。
36
!
H ERO
兵藤一誠は激怒していた。当たり前である。
姉だか何だか知らないが、目の前の修道女は、アーシアを今まで放
置していたというのに、
今更になって迎えに来たというのだ。
一誠は知っている。
教会が、アーシアを望んでもいない聖女として祭り上げ、
ただ悪魔を癒したというだけで、彼女の優しさを否定した挙句、
散々聖女と崇めていたというのに、魔女と貶めて追放したことを。
一誠は知っている。
信じるものに裏切られても、決して誰も恨まず、ただ信仰が足りな
かったと自分を責め、
神の試練だと話す、優しく、哀しいアーシアの顔を。
﹂
!
37
一誠は知っている。
ハンバーガーに驚き、見るもの触れるもの全てに感謝していた、
聖女ではない、ただの少女として生きていたアーシアという少女の
姿を。
一誠は知っている。
助けることが出来ず、ただ死んでほしくなかった故に、
勝手に悪魔に転生させたというのに、それでも笑ってくれたアーシ
アの顔を。
だから一誠は決めたのだ。
アーシアを、いや俺の家族を傷つける奴は、誰であろうと許さない。
今度こそアーシアを守ってみせる、と。
故に、一誠はアーリィを睨みつける。
その目は、アーリィを射殺すほどの力がこもっていた。
﹁アーシアの姉だか知らないけど、アーシアを迎えに来たってどうい
うことだよ。
ふざけるな
勝手にアーシアを魔女として追放しておいて、今更アーシアを迎え
に来た
?
﹁い、イッセーさん
﹂
一誠の豹変に、アーシアは困惑し、
リアスは止めようとするアーシアを手で制し、眷属たちは事を見守
るままだ。
ただ、ギャスパーは完全にダンボールに籠ってガタガタ震えてい
る。
一誠に睨まれたアーリィは、何も語らず黙ったままである。
﹁アーシアは泣いていたんだ
それでもがんばろうと必死だった。
そんなアーシアが泣いていたんだぞ
アーシアを助けなかったくせに
悲しんでいたんだぞ
一人で泣いていたアーシアの傍にいなかったのに、何が姉だよ
!
!!
て、
﹂
教会の命令だったら、平気な顔でアーシアの前に立てるのかよ
﹁イッセーさん
﹂
それともアンタは、教会の命令だったら簡単にアーシアを見捨て
!
!
!
信じる教会に裏切られて、魔女と罵られて、一人でこの町に来て、
!
﹁もう・・・止めて・・・止めてください・・・﹂
一誠は、今にも泣きそうなアーシアの顔を見て、冷水を浴びたよう
に頭が冷えた。
﹁ええ、その通りです﹂
今まで黙っていたアーリィの声に、一誠もアーシアも顔を向けた。
彼女の顔は黒のヴェールで覆われており、表情は読めない。
﹁私はアーシアを守れなかった。まったくその通りです。
あなたの言う通り、私にはアーシアの姉である資格はないでしょ
う。
アーシアが泣いていると解っていて、私は傍にいてあげられなかっ
たのですから。
だからこそ、せめてアーシアの言われ無き魔女という名前だけで
38
!?
とどまらない一誠の言葉は、悲痛なアーシアの叫びで中断された。
!!
も、
消し去ってあげたいのです。
もう誰からも指を指されないように、悪評に苦しまないように。
そして私は、姉としてアーシアを助けたいと思っています。﹂
﹁アーリィ姉さま・・・﹂
﹁アーリィ・・・﹂
﹂
アーリィの言葉に、アーシアは目を伏せ、ゼノヴィアは顔を曇らせ
る。
一誠は、アーリィの言葉に顔を逸らした。
﹁でしたら、アーシアに決めてもらうのはどうでしょうか
事の成り行きを見つめていたリアスが声を上げた。
﹁は、はい﹂
﹁アーシア﹂
﹂
その途中で、彼女はアーシアの傍で立ち止まる。
そういうと、アーリィは出口へと足を運ぶ。
もしアーシアが断るのなら、私は素直に帰ります﹂
シアの本心を聞きます。
﹁私は、近くのホテルに数日間滞在する予定です。その後、改めてアー
きな鞄を手に取った。
そういうと、アーリィはソファから腰を上げ、自身の荷物である大
ね﹂
これはアーシアが決める事であって、私が言うことではありません
﹁そうですね、少しことを急ぎすぎました。
ずく。
リアスの言葉にアーシアは驚くも、アーリィは納得したようにうな
﹁わ、私がですか・・・
ですから、アーシアの意見を尊重するべきですわ﹂
す。
﹁アーシアも急な話で混乱してると思いますし、彼女の考えもありま
?
﹁貴女が自分で決めなさい。私は、貴女の気持ちが知りたいのです﹂
39
!?
﹁わ、私は・・・﹂
﹂
黙り込むアーシアを優しげに見つめた後、アーリィは出口へと向か
う。
﹁そういえば皆さん、少し聞いても良いですか
?
﹂
だが、ふとアーリィが扉の前で足を止め、くるりと向き直った。
﹁人に平気で刃を向けることは出来ますか
﹂
﹄
﹁命令ならば、何でも出来ますか
﹃自分を殺すことが出来ますか
﹂﹂﹂﹂﹂
?
?
たわ﹂
﹁それにしても一誠
俺、あの人の言葉に我慢できなくて・・・﹂
さっきのは言い過ぎよ。私、見ていられなかっ
リアスの問いに朱乃は訳が解らないことを答えた。
﹁わ、わかりませんわ。なにか、変なことを言っていましたが﹂
﹁一体、今のは何だったのかしら
﹂
出口の扉が閉まる音が聞こえ、リアス他、全てが息を吐いた。
そういうと、アーリィはオカ研から出て行った。
﹁では、ごきげんよう﹂
彼女の言葉に他の全てが驚いた。彼女は何をいっているのか、と。
﹁﹁﹁﹁﹁
?
?
﹁え、えっと私は、その・・・﹂
﹁それで、アーシアはどっちを選ぶつもりなんだ
﹂
問題は、アーシアがどちらを選ぶか、という話だ。
だが、考えたところで結論が出ることはなった。
アーリィの意図が掴めず、混乱する一誠と考え込む木場。
﹁そうだね、彼女、アーシアさんの悪評を払拭する、って言ってたけど﹂
今更アーシアを迎えに来たって言ってさ﹂
﹁しかし、いったいなんだったんだ、あのアーリィって人は。
怒るリアスに謝る一誠、そしてご満悦な朱乃である。
わね﹂
﹁終わってしまったことは仕方ありませんわ。でも、少し爽快でした
﹁す、すみません部長
!
!
?
40
!?
話を振られたアーシアは、まだ混乱の渦中でしどろもどろになる。
﹂
﹁君のお姉さんだか知らないけど、アーシアを追放した教会に戻るこ
とはないんだ。
だろ、みんな
俺はアーシアが悲しむことはないと思ってる。
それに、俺たちは家族じゃないか
一誠の言葉に皆うなづく
たが、
アーシアは、ゼノヴィアが唇をギュッと結んでいることに気が付い
ら・・・﹂
﹁なに、少し見ていられなくてね。それに、ここにいたくはなかったか
﹁あ、はい。ありがとうございます、ゼノヴィアさん﹂
少しアーシアに休息を取らせてほしい。さ、いくぞアーシア﹂
る。
﹁部長、一誠、アーシアはまだ状況が掴めていない上に混乱もしてい
すると、先ほどから黙っていたゼノヴィアが口を挿んだ。
一誠とリアスの言葉に、アーシアは顔を曇らせる。
いるわ﹂
それに、今更迎えに来たあっちの方が悪いもの。だから私は信じて
私の愛する妹が、苦しむ姿なんて見たくないわ。
貴女は私の眷属であり、可愛い下僕であり、そして大切な家族なの。
﹁そうよ、アーシアがわざわざ貴女が犠牲になることはないの。
!
それじゃあ部長、お仕事
何も言わずにゼノヴィアと共に部屋へと戻っていった。
﹁いけね。俺、仕事が入っていたんだっけ
行ってきます
!
アーシアとゼノヴィアが部屋に戻ったのを皮切りに、
一誠等も自身の契約のお仕事の為、オカ研を飛び出して行った。
そして、部屋に残ったのはリアスと朱乃だけだ。
41
!
﹁ぼ、僕もお仕事で部屋に戻りますぅぅぅぅぅぅぅ﹂︵ダンボール︶
﹁イッセー先輩、待ってください﹂
﹁僕も行ってきますね﹂
!
﹁朱乃、彼女に監視はつけてる
﹁ええ、もちろん﹂
﹂
リアスの言葉に、朱乃は然もありなんと答え、その有能さにリアス
は笑みをこぼす。
リアスは、机に置かれたコップのお茶を一口飲むと、ニコリと口を
歪める。
﹁私の下僕を横取りしようなんて、気に入らないわね。
﹂
まぁ、アーシアが私を選んでくれることは解っているから、勝負に
もならないけど﹂
﹁あらあら、リアス。慢心はいけませんわ。
事がどう転ぶかなんて、誰にもわからないのよ
そうして一人になったオカ研で、リアスは一人嗤う。
﹁解りましたわ﹂
﹁それもそうね。でも安心のために監視を続けてちょうだい﹂
でいる。
リアスの言葉に、朱乃は小言を言うも、その目は結果の悦びに歪ん
?
﹁悪魔に転生したアーシアが、教会に戻れるはずがないんですもの﹂
42
?
回想1
リアスとの話し合いを終えたアーリィは、そのままホテルへと足を
運び、部屋に入った。
どうしましょう
どうしてこうなったのでしょう
手荷物を床に下し、一息つくと頭を抱えた。
﹂
﹁どうしましょう
か
!
からの提案に、自分はまんまと乗せられてしまったの
?
という少年に向ける、アーシアの熱い視線
?
さんの物言いからして、
堅物のように見えて、ゼノヴィアさんは面倒見がいいですし。
他の人たちもアーシアを可愛がってくれているのでしょう。
それに、リアス
妹の恋を応援するのもお姉ちゃんの仕事ですから。
お、お姉ちゃんは許さない・・・こともないんですよね、正直。
その間に、純粋なアーシアは彼に惚れてしまったのでしょうね。
確か、家族と言ってましたし、一緒に暮らしているかもしれません。
う。
おそらく彼は、私と別れた後のアーシアを助けてくれたのでしょ
あれは完全に一目ぼれをしている。
を。
私に対して怒った一誠
だが、先ほどの話し合いで自分は気付いてしまった。
だが、結局は決めるのはアーシアであるので、絶対はないのだ。
私としては、アーシアを思う気持ちは誰にも負けるつもりはない。
そして逃げられないという状況に陥れた上で。
用い、
いかんせん、アーシアに決めさせるという、自分が断れない手段を
だ。
リアスさん
売り言葉に買い言葉というべきか、
はっきり言って不審者である。
回る。
アーリィは﹁どうしましょう﹂と言いながら部屋をぐるぐると歩き
!
?
43
!?
アーシアにとっては、彼女たちと一緒にいる方が幸せに見えてしま
う。
それ故にアーシアはあちら選ぶ可能性が大きいでしょうね。
まぁ、こちらを選んでくれる可能性はゼロではないのですから
そう気持ちを前向きに切り替えたアーリィだが、
妹的存在が、自分の手を離れていくことにショックを受けてはいる
ようで、
しばらくは床に手をついて蹲っていた。
﹁さて、今日は色々ありましたし、アーシアやゼノヴィアさんに会うこ
とが出来ました。
今日はゆっくりと寝ることが出来ますね﹂
そういうとアーリィは疲れを癒すため、ホテルのシャワーを浴びよ
うとする。
シャワー室で服を脱ぎ、顔を覆っていたヴェールも取る。
鏡には、首からぶら下がる十字架と自分の姿が映し出される。
アーリィは、銀十字架のネックレスを握りしめ、顔や体に走る傷痕
を撫でた。
まだ傷痕が癒えることはない。
シャワーを浴びてスッキリしたアーリィは、鞄に収まっている寝間
着に着替え、
ホテルのふかふかのベッドに飛び込んだ。
疲れが一気に襲ったのか、アーリィはそのまま深い眠りに落ちて
いった・・・。
カタカタとなる音を聞き、アーリィは﹁またか﹂という表情で目を
開けた。
目を開ければ、そこは古びた映画館の一室であり、
彼女はいつもの修道服を纏い、椅子に腰かけている。
44
!
隣には映写機が動いており、眼前にはスクリーンがかけられてる。
周りは誰もおらず、彼女しかいない上映会。いつもの光景だった。
これは夢である。それも、必ず終わりが決まっている夢だ。
パパ
ただいま
﹂
アーリィは気にすることもなく、スクリーンに映った光景を眺めて
いた。
﹁ママ
﹁ただいま﹂
!
﹁おかえり、リーシャ。学校はどうだったかい
﹂
!
?
アーリィと呼ばれた少女は、つっけんどんに答えた。
﹁アーリィ、そんな顔をしないの。可愛い笑顔が台無しよ
﹁別に私は可愛くないよ。可愛いいのはリーシャだし﹂
﹂
﹁おねえちゃん、拗ねない拗ねない﹂
﹁拗ねてません
﹂
リーシャと呼ばれた少女は、輝かんばかりの笑顔で答え、
﹁別に何ともなかったよ﹂
﹁今日も楽しかったよ
アーリィもそんなところにいないで、こっちに来なさい﹂
?
男女は、飛びついた女の子を受け止め、その頭を撫でた。
彼女の髪も、同じように肩までかかる茶色だった。
もう一人の女の子は、それを羨ましそうに見ていた。
あろう男性に飛びついた。
肩まで長い茶色の髪をした女の子が、母親であろう女性と、父親で
!
料理は焼きたてのパンに、サラダ、牛乳にベーコンエッグなど、い
今度は食卓であり、女の子達と両親が一緒にご飯を食べている。
すると、また画面が変わる。
そんな風景だった。
私が拗ね、リーシャがからかい、パパとママを含めてみんなで笑う、
帰ってきては毎回起こるいつもの会話、家族団欒の風景。
!
45
!
つもの朝食。
いつも通りに、家族で笑って朝食を食べ、私とリーシャが学校へ行
く。
だが、この時は違っていた。リーシャに恋人が出来たのだ。
それを知った時、ママは笑顔になり、パパは牛乳を吹いたっけか。
とニタニタ顔で聞いてきか
恋人の名は確か、クリスだった気がする。
リーシャは私に、恋人を作らないの
ら、私は怒ったかな。
ああ、楽しかった思い出。
そして、燃え散った過去の話。
そして映し出された光景は、
火に包まれた家、半壊した家屋、逃げ惑う人々と、それを追いかけ
るを黒い翼を生やした人たち。
赤い色に染まった道で、一人佇む私だった。
46
?
回想2
私の目に映ったのは、燃え盛る炎に包まれた家々と、多くの屍が散
乱した道だった。
道は赤い液体に満たされ、歩く度に液体が足に絡みつき不快感を感
じた。
ところどころで聞こえてくる、うめき声と断末魔。
どうしてこうなったんだろう。昨日まではこんな風景じゃなかっ
たのに。
怒ると怖いけど、優しくて綺麗な、私の大好きなママがいて、
少しうっかりだけど、大きな体で私を包んでくれた、私の大好きな
パパがいて、
悪戯好きだけど、太陽のような笑顔が素敵な、私の大好きな妹がい
た。
お隣のおじいさんは、頑固で意地っ張りだけど、私の話をよく聴い
てくれた。
おじいさんの奥さんは、家に行くとお手製のスコーンを焼いてくれ
た。
女友達のミーシャは、生まれた時から幼馴染で、花畑でかんむりを
つくった。
男友達のクランは、学校帰りに、家までかけっこをした。
みんな、昨日まで一緒にいた。みんな、昨日まで笑っていた。
どうしてこうなっちゃったのかな
呆然と歩いていると、私の前に何かが降りてきた。
それは人の形をしているけれど、人ではなかった。
真っ黒な服を着て、真っ黒な髪をして、真っ黒なコウモリの翼をし
ていた。
﹁おや、こんなところに美味しそうな子供ですね。
まったく、太陽のように輝かしい人間を攫うためとはいえ、
主様から﹃村の人間どもを殺せ﹄との退屈な命令でしたが・・・こ
れはいい。
47
私にも役得というものです。では死んでください、お嬢さん﹂
真っ黒な存在が大きくなり、私を食べようとその口を大きく開い
た。
﹂
ああ、私はここで死ぬんだ。訳の解らない状況で、訳の解らない存
在に食われて死ぬんだ。
俺の娘に何してやがる
そう思って、私は目を閉じた。
﹁悪魔め
パパの声が聞こえた気がした。
パがいた。
﹁アーリィ、大丈夫
怪我をしてない
﹂
﹁パパ、ママ、いったい何が起きてるの
リーシャはどこ
﹂
目を開けると、農具を両手に持ち、黒い存在に立ち向かっているパ
!
!?
ママが私にかけより、怪我がないか確認する。
!?
げましょう﹂
!
﹁でも
﹂
﹁パパのことは気にせずに行きなさい
早く
﹂
パパは、必死に農具を振り回しつつ、私の方を見て笑った。
どう見てもパパが危険だ。
必死に抵抗するパパと、ウザったそうな顔をしている黒い存在。
黒い存在に向かって農具を振り回すパパを見る。
﹁でもパパが
﹂
﹁リーシャはクリスと一緒にいるから大丈夫よ。さ、ママと一緒に逃
!?
!?
!
!
﹁愛しているわ、パパ﹂
﹁俺もだよ、ママ﹂
そうしてママは私を連れて走り出した。パパを置いて。
﹁はぁ、つまらない茶番劇はお終いですか
まぁ、あなたをサクッと殺した後、追いかけるとしますか﹂
か。
まったく、あなたのせいで娘さんを食べられなかったじゃないです
?
48
!
パパを見捨てていけない私に、ママが手を引く。
!
﹁させると思うか、悪魔め﹂
農具を携えた男に、オルスクートは辟易した。
自分のような素晴らしい存在に、下等な人間が勝てると思っている
のが、
あまりにもくだらなすぎるからだ。
目の前の男を殺した後、娘と女を食べるとしよう。
オルスクートは手から魔力弾を放ち、男を消滅させた。
いらない時間を取らせてくれた、オルスクートにとって、ただそれ
だけのことだった。
ママに手を引かれて私は走る。
目に飛び込む光景は、未だ変わらず、耳に入る声に耳を塞ぎたくな
るも、
片手では両耳を塞ぐことは出来ない。
﹁さて、では諦めて食べられてください。まずはそちらの娘さんから﹂
﹂
悪魔が私の方を見てニンマリと顔を歪めた。気持ち悪い。
﹁させないわ
!
49
そうして走っていると、大きな広場に出た。
周りの家々は破壊され、広場の噴水は瓦礫と化し、噴水に置かれた
石像は、
上半身が砕け、剣を持った手だけが落ちていた。
ママは、広場で立ち止まり、
首にかけていたお守りの銀十字のネックレスを私にかけた。
﹂
お二方﹂
﹁主よ、どうかこの子を守ってください﹂
﹁ママ
ママは私に微笑んだ。
﹁追いかけっこは終わりですか
﹂
?
ママに言葉に悪魔が言う。それはどういうことなのかな。
﹁消しましたが、何か
﹁あの人はどうしたの﹂
悪魔が私とママの前に現れた。パパはどうしたんだろうか。
?
?
﹂
いいから
﹂
ママが、悪魔に向かって走って行った。どう見ても無謀でしかな
い。
﹁ママ
﹁早く逃げなさい
!
﹁それはどうかしらね﹂
あなたの娘は私に食べられる﹂
ふと後ろを見ると、剣を持った石像の手があった。
嘲笑の悪魔に、ママはしたり顔で笑った。
?
﹂
嫌よママ
私を一人にしないで
お願い、言うこと聞くから
剣は、天を目指すように伸びている。まさか・・・
﹁いや
止めてよ
!
!
﹁愛しているわ、アーリィ﹂
﹁止めて、マ﹂
ママが悪魔を抑えながら倒れ込む。
頼むわよ﹂
﹁アーリィなら大丈夫よ。だってお姉ちゃんだもの。リーシャのこと
笑うだけだ。
何をやるのか私は気が付いた。だから必死に叫んだ。でもママは
!
!?
ですが、結局は無駄ですよ
娘を助けに母が犠牲になる。感動ですね。
﹁いやいや、美しい親子愛ですね。母娘を助けに父親が犠牲になり、
にした顔でママを見た。
ママは悪魔に抱きつき、必死に抑え込もうとするも、悪魔は小ばか
!
!
!
そして私の目の前で、ママと悪魔は死んだ。
50
!
回想3
目の前でママは死んだ。パパは悪魔によって殺された。
なんでパパはいないの
私は、目の前で起きたことが理解できなかった。
なんでママが死んでるの
ここは地獄だ。どうしてこうなったの
魔。
周りは炎によって赤く染まり、聞こえてくるのは人々の嘆きと断末
?
そうだ、見つけたら一緒に逃げよう。
私には、ただそれだけしかなかった。
二人は教会の方へ走って行った。なら私は追いかけるしかない。
だった。
悪魔の服装は、この町には場違いなほど、豪華で煌びやかなドレス
後を見ると、紫色の髪をした悪魔が、ゆっくりと二人を追っていた。
よかった無事みたいだ。でも、二人は必死に走っている。
そう思い、私は二人を探す。ふと、遠くの方で二人を見つけた。
もうこんなところにはいたくない。
確かクリスと一緒だっけ
そうだ、リーシャを探さなきゃ。私の大切な妹。
私の心は壊れかけるも、ママの言葉を思い出す。
ああ、死んでるんだ。私は現実に戻された。
に。
私は目の前の光景をもう一度見る。ママが死んでいる。悪魔と共
そうだ、これは夢だ。ほっぺたを抓る。痛い。あ、夢じゃないんだ。
?
動いてよ私の足
﹁彼女を離せ、悪魔め
﹂
もう嫌なの
もう・・・。
!
でも、彼の剣の腕はどうみても素人であり、その上恐怖に支配され
クリスが、剣を両手に持って悪魔に向かっていた。
!
51
?
?
道に広がる崩れた瓦礫と赤い液体に足を取られながら、私は教会に
速く
!
向かう。
速く
!
教会にたどり着いた時、声が聞こえた。
!
ているのが解る。
それを知っているのか、目の前の悪魔は面白そうに嗤い、
片手を振るって彼を吹き飛ばす。傷つきながらクリスは立ち上が
り、また吹き飛ばされる。
それを何度も繰り返していた。
まるで、捕まえたネズミを弄ぶ猫のように。
悪魔の片手はリーシャの腰にまわり、
クリス
﹂
リーシャが必死に足掻くも、決してその腕が緩むことはない。
﹁リーシャ
私は叫んだ。
﹂
捉えた悪魔が私を見る。
﹁おねえちゃん
来ちゃだめだ
!
!
﹁あら
どうやらこの子のお姉さんの登場かしら。うん、結構かわい
二人は叫ぶも、私はクリスに駆け寄り、彼の身体を支える。
﹁アーリィ
﹂
傷だらけのクリスと、悪魔に捕まったリーシャ、そしてリーシャを
!
姉妹揃って、私好みね﹂
目の前の悪魔が舌なめずりをする。さっきの悪魔と同じように気
持ち悪い。
﹂
折角の御顔が台無しですわ。そうね、自己紹介
この状況は何なのよ
私はクリスを支えつつも、悪魔を睨みつける。
﹁あなた一体何なのよ
﹁顔が怖いですわよ
!
﹁この子、リーシャですか
この子の笑顔が太陽のようにかわいいと
ローゼリアと名乗った悪魔は、リーシャの顔に舌をはわせた。
趣味は美しいものを奪うこと。美の蒐集家ですの。そして、﹂
シャックスですわ。
﹁私 は 純 血 の 悪 魔 の 一 人 に し て シ ャ ッ ク ス 家 の 次 女、ロ ー ゼ リ ア・
優雅に見えるも、滲み出る黒さに顔を背けた。見ていたくない。
そういうと、悪魔は仰々しく片手を広げ、お辞儀をした。
をしましょうか﹂
!
?
?
52
!
!
いじゃない。
?
聞きまして。
﹂
でしたら、この私のものにしなきゃいけないと思い、こうして足を
運びました。
ほら、私は美の蒐集家ですから﹂
﹁じゃあ、なんで町をめちゃめちゃにしたのよ
﹁ああ、だってこの子が私と行きたくないと言いましてね
フザケルナ
﹁ふざけないで
ですか
﹂
﹁何を言っていますの
﹂
私たち悪魔に奉仕するのが、人間ではないの
そんな勝手な話で、私たちの町を壊したというの
勝手に欲しいと現れて、言うことを聞かないから滅茶苦茶にした
に死んだの
目の前の存在が何を言っているのか解らない。そんなことのため
そういうと、ローゼリアはさも当然のように言った。
ですから、彼女の憂いを断って差し上げようと思いまして﹂
?
!
﹁解りました
ります
解りましたから
﹂
!
﹂
あなたに着いて行きます。眷属にな
!
ですから、お姉ちゃんとクリスを見逃してください
何を言っているんだ
﹁リーシャ
﹂
!?
﹁ようやく素直になったわね。では契約成立ですわ﹂
﹁お願いです、どうか二人を見逃してください・・・﹂
私と傷だらけのクリスが叫ぶも、リーシャは泣きながら言う。
何を言ってるの
﹁リーシャ
!
!
!
彼女の手のひらに黒い球体が浮かぶ。
ローゼリアは退屈そうに言うと、自身の右手を私たちに向けた。
しょう﹂
﹁まったく、人間との会話は疲れますわ。面倒ですので、もう殺しま
を向けた。
私の質問をうっとうしく思ったのか、ローゼリアは顔を顰めて、手
いと。
彼女の言葉に、私は理解した。ああ、彼女を理解することは出来な
?
!
?
!?
?
!
53
?
!
そう言うと、ローゼリアは胸から何かを取り出し、リーシャに埋め
込んだ。
その瞬間、リーシャの体が震え、彼女の絶叫が響く。
﹂
﹂
﹁ああああああああああああああああああああああああああああああ
あああ
﹁リーシャに何をしたんだ
リーシャの異変にクリスは叫び、ローゼリアは笑顔で答えた。
﹁彼女を私と同じ悪魔にしますの。私の大事な大事な眷属ちゃんに。
悪魔の駒と言いましてね、契約した相手を悪魔に転生しますの﹂
彼女が話し終えると、リーシャの震えと叫びが止まった。
そして、リーシャの背中からコウモリの翼が生えた。
﹁ご機嫌麗しゅうございます、ローゼリア様。貴女の愛しき下僕、リー
シャです﹂
﹁あらあら、嬉しい言葉ですわ﹂
先ほどまで逃げようとしていたリーシャが、目の前の悪魔にお辞儀
をした。
輝かしいまでに美しかった笑顔は、退廃と色欲に歪んで見えた。
私の中で何かが壊れた。
クリスも、リーシャを見て呆然としていた。
私たちの方へ顔を向け、ローゼリアは考え込む。
﹁では、人間だった彼女との約束で、私は見逃して差し上げますわ。
私、約束には律儀ですの。ですから、﹂
ローゼリアの顔が歪む。
﹂
﹁リーシャ、この二人を殺しなさい。出来たら、あとで可愛がってあげ
喜んで
ますわ﹂
﹁はい
と手が刺さっていた。
恋人のクリスだよ
?
その手はリーシャだった。
何してるの・・・ クリスだよ
?
そして、支えていたクリスが倒れた。目を向けると、彼の胸に深々
!
?
54
!
!!
!
﹁リーシャ・・・
﹂
?
﹁こ の 人 間 が 恋 人
が、私の恋人
ふ ざ け な い で く だ さ い。こ ん な 汚 ら わ し い 人 間
﹂
?
て歩いてくる。
どうしてこうなったのかな
ねえ、誰が悪いのよ。
どうしてこうなっちゃうのかな
?
私たちの幸せを返してよ。誰が悪いの
?
そしてクリスを殺した真っ赤な手を見せながら、今度は私に向かっ
そして大好きなリーシャは、悪魔になって恋人のクリスを殺した。
ママも死んだ、パパも死んだ、
もう何が何だか解らない。
その子はただの人間ですから、一気に悪魔になったんですのね﹂
す。
たとえ心が変わらなくても、徐々に悪魔にしてくれる優れもので
﹁悪魔に転生した存在は、身も心も悪魔に変わりますの。
頭が真っ白になった私に、ローゼリアは嗤う。
﹁何を・・・言ってるの・・・
さて、あなたもローゼリア様のために死んでください﹂
私はローゼリア様の寵愛を受ける眷属の一人。
?
﹁ありがとう・・・おねえちゃん・・・﹂
私は、もたれかかってきた妹の身体を抱きしめた。
意味する。
銀は悪魔にとって猛毒であり、心臓に刺されたのなら、それは死を
た。
顔に痛みが走るが、私は手にした銀十字を、悪魔の胸元に突き刺し
咄嗟の行動に、一瞬悪魔はたじろぐもすぐに爪を私に向けた。
妹だった悪魔に向かって駆け出した。
私は、ママから貰ったネックレスの銀十字を引き千切り、
じゃぁ、殺さなきゃ。
こいつらがいるから、みんなおかしくなったんだ。
そうか、こいつらが悪いんだ。
えた。
ふと、私を見て嗤っている悪魔が見えた。私を殺しにくる悪魔が見
?
55
?
そんな声が聞こえた気がした。
﹁お帰りなさい、リーシャ﹂
目の前に写るのは、悪魔だった妹、私の大好きな妹。
太陽のように輝かしい笑顔の妹。でも、それを見ることはもう出来
ない。
私が殺したからだ。もう見ることはない。
すると、なにやらやかましい声が聞こえた。
目を向けると、煌びやかなドレスを纏った、紫髪の悪魔がなにか
よくも私の大事なコレクションを
言っている。
﹁よくも
ですから・・・死になさい
﹂
でも、壊してくれたお礼はきっちりしませんと。
いいですわ、もう壊れたモノには興味はありませんし。
!
私は落ちていた剣を拾いつつ、やかましい悪魔に目を向ける。
だから傷がつけれたのか。
どうやら、剣も十字架と同じように銀製の様だ。
向かって走る。
私は飛んでくるそれに、周りの物を投げつけつつ、飛ばされた剣に
それに触れたものは、一瞬で爆ぜた。ああ、そういうことか。
スピーカーは、喚きながら手から黒い物体を放つ。
私は散乱していた椅子を手に取り、それを投げつけて走り出す。
なら潰さないと。
すると、スピーカーは怒りで顔をトマトのように赤く染めた。
スピーカーは、難なく剣を手で払うも、その手に傷が付く。
剣を投げた。
そして私は、やかましいスピーカーに向けて、クリスの持っていた
お休み、リーシャ。
私は妹を横に寝かせ、彼女の手を組ませた。
ただうるさい。妹が寝られないじゃないか。
なにかガミガミ言っているが、聞き取れない。
!
一瞬、ローゼリアの顔に恐怖が走る。
56
!
その一瞬を見逃さず、私は彼女に向かって走る。
恐怖に駆られたローゼリアは、頻りに弾を放つも、私にあたること
はない。
だが、彼女の弾によって飛んできた破片が身体に突き刺さる。
ああ、痛い。でも気にしない。
﹂
そして私は、私に向けた彼女の手を、肘から切り落とした。
﹁あああああああああああああああああ
痛みに叫ぶローゼリアを尻目に、
私は次に彼女の右足を落とし、足を払って彼女を転ばす。
次はもう一本の手を落とし、最後に左足を切る。
どうかしら、私の護衛になりませんこと
これで、ローゼリアに出来ることは喋ることだけだ。
﹁まって、待ちなさい
私を殺したら悪魔が黙っ
だったら、私を助けてくれませ
そうよ、私は純血悪魔よ
こんなに強いんですもの、私の眷属にして差し上げますわ。
ああ、止めて
ていなくてよ
一生、貴女は平穏に生きられない
ん
!
私が見逃してあげると言っているのよ
﹂
ああ、うるさい。先ほどから何か喚いてる。
でも、もうどうでもいいかしら。
頭がくらくらするもの。眠たいのよ。
さっきから鳴り響くこのスピーカーがうるさくて寝られないわ。
じゃあ、スピーカーのスイッチをきらなきゃね。
﹁お休みなさい﹂
私は剣を突きたて、そのまま深い眠りについた。
57
!
そうしたら、このことは秘密にして差し上げますわ
!
!
!
!?
!?
!?
!
?
お出かけ1
窓から差し込む光と、聞こえてくる鳥たちの声を耳にし、私は目を
覚ました。
目を覚ませば、見えるのはホテルの天井であり、
身体を起こせば、ホテルの一室であることを教えてくれる。
ああ、懐かしい夢だ
あの頃の私は何も知らなった。
世界は変わらず穏やかに流れ、何もかもが平穏に過ぎていくと思っ
ていた。
妹のリーシャが恋人のクリスと結婚し、私は両親とその晴れ姿を見
守る。
その後に、私も愛する人を見つけて結婚し、大好きな伴侶と子をな
し、
かった。
58
パパとママに自分の幸せを分け合う。
そんな幸せを夢見ていた。
でもそれは嘘だった。世界は容赦なく牙を剥き、私の平穏を壊し
た。
パパとママは死んだ。妹のリーシャは私が殺した。
町の皆はみんな死んだ。
そして今の私は・・・考えるのは止めにしましょう。
私は頭を振ってスッキリさせる。
さて、今日は初めて来た町ですし、お出かけでもしましょう
思い立ったが吉日と言いますし、準備をしませんと。
私はさっさと着替え、
ああ、ホテルってドキドキします。
確か、朝食は用意されているんでしたっけ
う。
いつも通りに修道服に着替え、いつものように顔をヴェールで覆
!
私ははやる気持ちを抑え、スキップしながら下のレストランに向
?
いやはや、まさかホテルで迷子になるとは思いもよりませんでし
た。
親切なボーイさんに出会わなかったら、今頃どうなっていたでしょ
無事ブレックファストをいただきました。
うか・・・。
ですが
まぁ、今までの習慣からか、決まったものを食べましたけど。
い や は や、日 本 の 料 理 っ て 美 味 し い ん で す ね ー。あ あ、太 り そ
う・・・。
さて、おいしい朝ごはんもいただいたことですし、とりあえず今は
町の探索ですよー
それでは、町の探索に出発ですよー
本人は、見た目とは裏腹に、人と話をすることが好きであり、人の
たのだが。
彼女は乙女の尊厳とお財布に悩み出したのも秘密だ。美味しかっ
お店前のコロッケやクレープを買う羽目になり、
若干泣きかけていたのは秘密である。
が、時折ズイズイくるおばちゃんやお店の人たちの押しに、
そうした町の人の姿に、アーリィは微笑むを浮かべていた。
になってくれた。
アーリィのぎこちないあたふたする姿に毒気を抜かれ、彼女に親身
商店街の人たちは、彼女特有の姿に、物珍しさな視線を向けるも、
た。
ですが、彼女特有の前向き精神で悩みを払拭し、商店街を歩き出し
た。
その時アーリィは、ヴェール下の顔を恥ずかしさで真っ赤にしてい
巡回中の警官に保護され、無事商店街に案内された。
途中、道に迷い、あたふたと不審者の如く動いていたせいか、
アーリィは、商店街に向けて足を運んだ。
!
ええ、新しい町を歩くことって私、わくわくするんですよね。
!
営みを見るのが好きだ。
59
!
故に、彼女は多くの人が訪れる場所を好む。
そこには、人の生き生きとした姿があり、人の温かさがあり、人の
命が生きていた。
その姿を彼女は好いていた。
アーリィは、市井の人たちの姿に心を癒され、次は学び舎に向けて
足を向けた。
学び舎で知を得、健やかな身体を育み、甘酸っぱい青春に生きる学
生の姿も、
彼女にとっては心癒されるモノでもある。
本来、彼女が得たはずのモノを見るために。
アーリィは、学校に向けてルンルン気分で足を運んだ。
が、彼女は繰り返すのである。迷子という悪癖に・・・。
あれ、ここはどこでしょうか
この地図によりますと、私は今、商店街にいるはずなんですが、公
園・・・ですよね。
アーリィ本人は、親切な警官から頂いた地図を頼りに、
頭をうんうんと熱を発しながら歩いてみたのだが・・・。
なぜか、彼女が今いるところは公園であった。
普段なら、子供の活気あふれる姿が見られるのだろうが、今は誰も
いなかった。
いや、訂正しよう。いた。そこには何かいた。
それは人の形をしているが人ではなく、人の顔をしているが人ので
はない。
それには黒いコウモリの翼が生えていた。尖った牙が生やていた。
長い爪が生えていた。そして、両目が血のように真っ赤だった。
見間違えるわけはない。それは悪魔だった。
アーリィはそれに向かって走った、目の前の存在を排除するため
に。
こいつは、いてはいけない存在だ。存在してはいけない奴だ。
こいつらがいれば、先ほどの人たちが死ぬ。かつての私のように。
こいつらがいれば、この町が燃える。かつての私のように。
60
?
こいつらがいれば、私が生まれる。あの時の私のように。
だからこそアーリィは走る。その顔は怒りに歪んでいた。
アーリィは、悪魔に向けて銀の針を投擲した。
本来、アーリィはこれを牽制や、目くらまし等に用いる。
これは数少ない彼女の遠距離武装であり、数に限りがあるからだ。
だが、今のアーリィはこれを無造作に投げつける。
悪魔はこれを躱すこともなく、手で払いのける。
この対応に、アーリィも相手の対処を構築する。
ちまちました攻撃では埒が明かない。
対象の肉体に直接ダメージを与えるしかない。しかも、修復不可能
なほどの威力で。
故にアーリィは、右手に大きな剣を携える。
それは剣というよりは、鉈だ。ただし、通常の大きさよりも2倍ほ
61
どだが。
これは彼女の切り札の一つだ。
これは斬るためではなく、切断するために用いるものだ。
いかに再生力の高い悪魔といえど、これの効果は折り紙つきだ。
もっとも、その威力だけを彼女は重視していないのだが。
アーリィは方向を変え、悪魔を見据えながら回り込むよう走る。
相手の悪魔は、アーリィを見据えたまま動かない。
が、次の瞬間、悪魔が消えた。
アーリィはその一瞬に虚を突かれる。
普通の彼女ならば、そうしたことにも直ぐに対応できるが、今の彼
女は焦っていた。
﹂
その愚行が、その一瞬が、彼女の隙となった。
﹁が・・・
楽しんでいる。この悪魔は獲物をいたぶることを愉しんでいる。
右足に傷が走る。痛みにうめくも、倒れる愚行はしない。
咄嗟に右手を振るうも、手応えがない。
背中に痛みが走る。
!?
その行為に、アーリィは更に怒りを募らせる。故にアーリィは不利
になる。
冷静さを失った者ほど、死にやすいのはどこでも同じなのだ。
剣を振るうも当たらず、逆に彼女の身体に傷が走る。
彼女はそれを何回も繰り返し続けた。
徐々に身体に傷を増やすアーリィだったが、しばらくして彼女は冷
静になった。
血を流したことで頭が冷えたのかしら、なんて思えるほどに。
ふと、アーリィは周りを見渡した。そして彼女は諦めたかのように
動くのを止めた。
まるで、処刑されるのを待つ罪人のように。
悪魔はアーリィの足掻く姿を散々愉しんでいたが、急に動くのを止
めた彼女に落胆した。
もっといたぶりたかったのだが、動くのを止めた玩具に興味はな
62
い。
故に、その首を切り落とそうと、爪を振ろうとした瞬間、その腕が
飛んだ。
悪魔は咄嗟のことで理解できないが、腕を見ると、本来あるべき手
が無い。
そこからは赤黒い血が溢れているだけだ。
﹂
そして腕の痛みに悲鳴を上げた。
﹁爪、見えてますよ
先ほどまで、ただの自分にいたぶられる玩具だったのが、
悪魔は目の前の存在を見た。
﹁心配しないでください、動けば斬れますから﹂
だった。
よ く 見 る と、身 体 が な に か に 縛 ら れ て い る。そ れ は 糸 で あ り、鎖
悪魔は、すぐさま彼女から距離を取ろうとするも、身体が動かない。
まっていた。
散々彼女を切ったのだろう、その爪は、彼女の服の切れ端と血で染
その言葉に悪魔は残った方の腕を見た。
?
今自身の目の前にいるのは、自分を殺す処刑執行人に見えた。
彼女の顔を覆っていたヴェールは、所々裂かれ、彼女の目がのぞい
ていた。
その目には、一切の情が写っていなかった。
悪魔は命乞いの言葉を発しようとした。だが、その言葉が紡がれ事
はなかった。
なぜなら、その首は宙を舞っていたからだった。
﹁ ﹂
最後に発した言葉がアーリィの耳に残った。
首を失った身体は、まるで間欠泉のように血を噴き出す。
それを見ながら、アーリィは自分の行いに微笑する。
﹁ああ、私は今日も人を救えました﹂
そしてアーリィは、その場に崩れ落ちた。
63
歪んだ〇〇
﹂
﹂
だい・・・か
ああ、そうでした。私、商店街に行ったのでしたね。
﹂
!?
お・ろ
﹂
しっか・・・くだ・・
な・・ん・・・ろに・・。どう・・
アー・・お・・さま
・い
!?
全く、自分の迷子癖にも困ったものです。
て・・・。
それから学び舎に行こうと足を運んで・・・それから迷子になっ
!
﹁・・リィ
﹁いやぁ
声が聞こえる。
﹁しt・・し・
あれ、私はどうしたんでしたっけ
誰かが私を呼ぶ声が聞こえる。
!
!
﹁おね・・・・・ら・を・・てく・・・
!
それで公園に出ってしまったのでしたね。
﹂
﹂
﹂
!!
それから・・・それ・・・から・・・何かいて・・・黒・・・黒・・・
そして赤・・・
﹁きゃっ
﹁くまぁぁぁぁぁぁ
!?
にひが・・・
﹂
﹁・・・が・・・・
﹂
!
﹂
アーシアですよ﹂
?
た。
アーリィはどうしてアーシアが目の前にいるのか理解できなかっ
﹁はい
﹁アーシ・・・ア
ふとアーリィが目を動かすと、それは昨日別れたアーシアだった。
無理に動かそうとし、身体の激痛に呻くアーリィを誰かが抑えた。
傷を癒したばかりなんですから
﹁動いちゃだめです
!
アーリィは、すぐさま動こうとするが、身体に走る痛みに呻いた。
!?
ですがまだ他にもいるはずです。早く悪魔を探さなければ、民間人
そうだ、私は公園で悪魔に出会い、そして首を縊って殺した。
﹁どうした
!?
64
!
!
?
!?
!?
!?
!
!
昨日別れたアーシアがここにいるわけがなく、何より自分は公園に
いたのだ。
﹂
そんなところにアーシアが来る可能性はほとんどないと言っても
いい。
﹁どう・・・して・・・
﹁結界に何かしら反応がありまして、
それを追っていたら、傷だらけのお姉さまが倒れていて・・・。
私、お姉さまが死んでしまうんじゃないかと心配で、必死に直そう
として・・・﹂
アーシアは相当に不安だったのだろう。
﹁ありがとう、アーシア。心配かけてごめんね﹂
泣きじゃくるアーシアを、アーリィはそっと抱きしめ頭を撫でた。
﹁本当だ。私だって取り乱したんだぞ﹂
アーシアとは異なる声を聞き、
アーリィがアーシアの頭を撫でながら顔を動かすと、
そこには教会の戦友、ゼノヴィアがいた。
彼女の方も、若干涙ぐんでおり、アーシアと同じように心配してく
れたのだろう。
﹁ゼノヴィアさんもごめんなさいね。私、2人に心配させてしまいま
して﹂
﹁まったくだ、あんなものを見るのは二度と御免だ﹂
少し怒った顔のゼノヴィアに、アーリィはその優しさに顔を綻ばせ
る。
そしてアーリィは、自分が悪魔と戦っていた公園ではないことに気
付いた。
まず見えるのは天井だ。この時点で自分は屋内にいると察する。
そして次に見えるのはベッドだ。
ホテルのようにふかふかし、寝心地は良いのだろうが、
今はそんなことを気にすることではない。
そして、部屋に置かれている家具や備品といった物が目に入ってく
る。
65
?
女の子らしい可愛い備品と、質素を体現したような備品。
﹂
ある意味、対称的な様相の部屋だ。
﹁ここは一体・・・
﹁ここは私やゼノヴィアさん、他の方々がお世話になっている一誠さ
んのおうちです。
そして、今いるのが、私とゼノヴィアさんのお部屋になります
お姉さまが心配で、ここまで連れてきちゃったんですけど・・・﹂
﹁ありがとう。アーシアが気にすることではありませんよ﹂
自分の言葉に、ぱぁーっと笑顔になるアーシアに、
アーリィはアーシアにいぬ耳と尻尾が生えた幻覚を見た。
ちょっとかわいすぎです。
そんな2人の和やか空間に1人除け者状態が嫌になったのか、
ゼノヴィアが2度咳をしてから、アーリィに尋ねた。
﹁ところで、どうしてアーリィはあそこで倒れていたんだ
しかもあんな手傷を負うなんて﹂
﹁そうですね、まずはお話しませんと・・・﹂
隠さず話した。
若干、商店街の時に顔を引き攣らせていたのはなぜでしょうか
のはダメだ。
アーリィ、人を守るのは結構だが、だからといって君が無茶をする
というわけか。
﹁偶然に悪魔と接触して、民間人を守る為に討伐するも、手傷を負った
?
アーリィは2人に、商店街の散歩から、悪魔との討伐に関して包み
?
お姉さまは自分を大事にしてください
幸いにも私たちが来たから良かったものの、少しでも遅れていた
ら・・・﹂
﹁そうです
!
私、本当に反省していますから
﹂
﹁はい、解りました。解りましたからゼノヴィアさんは睨まないでく
ださい
アーシアは涙目にならないで
!
66
?
私、傷だらけのお姉さまを見て、本当に取り乱して・・・﹂
!
アーリィの反省する態度に満足したのか、2人はにっこりと笑う。
!
!
﹁しかし、いったいなぜ悪魔が侵入してきたんだ。
ここは部長の管理地区だというのに・・・。
それに、昨今における人間界での悪魔の出現率の多さといい、
どうしてこうもおかしくなってきているんだ﹂
﹁それは教会が悪魔を討伐できなくなったからですよ﹂
ゼノヴィアの呟きが耳に入り、アーリィはそれに答えた。
その言葉に2人は驚愕する。
当たり前だ、魔物を討伐する教会が、悪魔を討伐出来ないとはどう
いうことなのか。
﹁天使から司教様にお告げがあったのです。
我ら天使は、悪魔・堕天使との永きに渡る負の連鎖を断ち切る為、2
陣営と同盟を結ぶ。
今から、彼らは我らの良き隣人となった・・・と。
67
結果、今まで討伐してきた悪魔と堕天使に対し、教会は討伐するこ
とが出来なくなりました。
なにせ、天使からのお告げですから、無下になんてできませんわ
教会という抑止力が無くなったことで、 今では悪魔が大手を振って人間界に進出、人間への被害が増加に繋
がったわけです﹂
アーリィの言葉に、2人は再度驚く。
和平会談の場にいた2人を含むリアスたちは、同盟に対して素直に
喜んでいたのだ。
それがまさか、そんなことになるなんて・・・。
だがアーリィの言葉に、ゼノヴィアは違和感を抱いた。
ならなぜ、目の前のアーリィは先ほど重傷を負ったのか。
﹁いや待ってくれ。ならアーリィはどうなんだ
だ。
教会の戦士ならば、なぜアーリィはその掟に逆らっているというの
ゼノヴィアの疑問はもっともだ。
君は悪魔を討伐したんだぞ。それが本当なら、君はどうして・・・﹂
?
ゼノヴィアの問いに、アーリィはわらって答えた。
﹁掟を守っても、目の前の人を助けられないなんておかしいじゃない
ですか。
掟を守っても、人間への被害がなくなるなんてこともありません。
掟を守っても、神様が助けてくれるわけでもありませんので。
それに私、教会の戦士として悪魔を殺している訳ではありません
よ。
私の意思で、悪魔を殺しているのですから﹂
アーリィの言葉に、2人は言葉を失った。
その時のアーリィの眼は、酷く濁りきって輝やいて見えたからだ。
時を同じくして、
アーリィ達が会話をしている部屋から少し離れたリビングルーム
にて、
駒王町の管理者であるリアスと、彼女の眷属たちが集まっていた。
集まった理由としては、
数時間前にゼノヴィアにおぶされて、アーシアに支えられて運ばれ
たアーリィことである。
結界に何かしら反応があり、
偶々自由時間であったアーシアとゼノヴィアに調査を行かせたの
だ。
そして、アーリィを背負って帰ってきたというわけである。
彼女は、体中が傷だらけであり、衣服は所々裂けていた。
また、出血したのが原因か、顔色が真っ青だった。
半ばパニックを起こしている2人を宥めつつ、
アーリィをアーシア達の部屋で休ませることを提案。
家の主の息子である一誠に許可を取り、
アーシアとゼノヴィアがつきっきりで彼女の看病をするに至ると
いうわけだ。
68
リアスは、アーリィがボロボロになった理由を確認しようと、
彼女の後をつけさせた監視悪魔を呼び戻し、今日の彼女の行動を観
察。
監視悪魔に映っていた映像を見て、リアスはアーリィの危険性を知
る。
こうして、アーシアとゼノヴィアに監視役︵本人たちには言ってい
ない︶をさせ、
他の眷属メンバーでアーリィの危険性について話し合っていると
いうわけだ。
アーシアとゼノヴィアを除いた他のメンバーは、
先ほど集められた際に、監視映像を見せられていた。
﹁それで皆、さっきの映像から、彼女について思うところがあれば言っ
てほしいの﹂
ソファにもたれかけながら、リアスは自分の可愛い下僕たちの発言
を促す。
そうした中、一番手となったのは、頼れる﹃ナイト﹄木場裕斗だっ
た。
﹁僕からすると、彼女は僕と同じ、技術方面が強みに思えます。
肉体面で悪魔に劣っているようで、それを手数で補っている印象で
す。
ですが、やはり人間ですので、
僕のスピードについてこられる可能性は低いと思います。
それに、彼女の用いていた剣に関しては、確かに威力はありますが、
魔剣創造のようなものではないと思います。
それに、聖魔剣に太刀打ちできるものではなさそうです﹂
裕斗の言葉に、リアスは満足げに頷く。
アーリィは手数を用いるものの、裕斗の及ばないということだ。
次に、手を挙げたのは肉体面において最高の攻撃力と耐久力を誇る
﹃戦車﹄搭城小猫だ。
﹁裕斗先輩の言うように、アーリィさんは肉体はただの人間です。
ですので、持久戦に持ち込んでしまえば、元々の肉体の差で勝てま
69
す。
もちろん、短期戦を行うにしても、全力でねじ伏せることも可能だ
と思います﹂
つまり、肉体面に関しては小猫に劣るというわけだ。
ガタガタとダンボールから手を挙げたのはギャスパーだ。
というか、段ボールから手だけが見えるのは、いささかホラーであ
る。
﹁み、見たところ、ぼ、僕の邪眼で、と、止められると、お、思います﹂
ギャスパーの邪眼、
﹃停止世界の邪眼﹄は、文字通り対象の時間を止
めてしまうものだ。
和平会談の際に、禍の団の戦略によってギャスパーを利用され、
自分自身がその効力を味わったリアスからすれば、通じるだけでそ
の脅威は下がる。
次はリアスの友人にして、恋のライバル﹃女王﹄姫島朱乃だ。
彼女は、先ほどの映像を見た後、酷くがっかりしていたように見え
ていたが・・・。
﹁力不足も良いところですわ。
あんな悪魔に苦戦しているようですから、本人の能力も相当低いと
思います。
まぁ、あんなに傷だらけになっても、倒れることなく、
必死に足掻こうとする姿に関しては、私個人としてはとても興味を
抱きました。
酷く無様で、滑稽に見えましたし。
どうやったらあの顔を酷く歪ませられるか、楽しくなりますわね﹂
相変わらずの朱乃の言葉に、リアスは苦笑を禁じ得なかった。
他の眷属も苦笑いや、目が点になっているのだが。
そして、最後は自分の愛しい下僕にして、自分を救ってくれた大事
な人。
現代の赤龍帝にして、最高の﹃ポーン﹄兵藤一誠だ。
﹁俺は、他の皆みたいに観察できてるわけじゃないですけど、
でも、ライザーやコカビエルに勝った俺たちが、
70
悪魔を平気で殺す奴に負けるはずがないと思います
﹂
あの修道女がどれだけ強くても、俺たちみんなが力を合わせれば、
命に代えてでも
どんな奴だろうと負けるわけありません
それに、俺が皆を守ります
一誠の言葉は、他の眷属たちの心に響いた。
そう結論付けたリアスは、
いうわけだ。
つまり、彼女がなにかしても、自分たちだけで対処が可能な存在と
分たちに劣る存在である。
アーリィは、悪魔を殺す危険な思想を持っているが、実力的には自
リビングにいる眷属たちの言葉を聴き、リアスは結論付けた。
そんな一誠が、リアスたちにとっては何より大きな存在だった。
変態だけど、私たちを守ってくれる。
恐ろしい力を制御するために一緒に特訓してくれて、
汚らわしい堕天使の血を持つ私を受け入れ、
自分の復讐に親身になり、
私を救いに一人でライザーに立ち向かい、
どんなに苦しくても、一誠がいれば大丈夫と思えてくる。
ああ、やっぱり一誠は自分たちを元気づけてくれる。
!
!
他の眷属たちにもアーリィの監視と彼女が何かした際に対処につ
いて話し合い、
その場を解散した。
71
!
他者から見た彼女と自分
アーシア・アルジェントにとって、アーリィは姉である。
教会で拾われたアーシアは、実の家族というものを知らない。
アーシアにとって、教会のシスターが彼女の母親であり、
一緒に過ごした人たちが、彼女にとっての家族であった。
その中でも、自分を思ってくれていたアーリィは、
彼女にとっては血が繋がらなくても、本当の姉と慕っていた。
それ故に、今のアーリィをアーシアは見ていられなった。
教会にいた時のアーリィは、穏やかで、ぼーっとしていて、
時折うっかりをやらかし、迷子になってあたふたする、そんな姉
だった。
自分が拾われるまでは、彼女は決して心を開かなかった獣と言われ
たが、
そんなことすら思わせないような、朗らかな人だった。
だが目の前にいる彼女は、そんな記憶の彼女とかけ離れた存在だっ
た。
一見穏やかに見えるものの、目が濁って見えた。
一見笑っているように見えるも、目が笑っていなかった。
自分の意思で悪魔を殺すといった時、その目は濁りつつも輝いてい
た。
それはアーリィの本心なのだろう。
だが、アーシアは気付いていた。
その笑顔は、まるで痛みに耐えながらも、決して泣かないように、
誰にも心配かけないように、自分すら騙した、取り繕った笑顔だと。
その姿は、かつての自分と似ていた。
ゆえにアーシアは悩む。アーリィを、姉を見放してしまえば、彼女
はきっと壊れてしまう。
自分の家族が壊れていくなど、アーシアには到底看過できるもので
はなかった。
そして、アーリィから伝えられた和平による弊害が、更に彼女を悩
72
ませる。
会談による同盟で、悪魔の跋扈をゆるし、人間界に被害が及んでい
る。
普通ならば、そんなことを信じるほど。アーシアはそれほど愚かで
はない。
だが、それがアーリィから伝えられたことが、アーシアを蝕むのだ。
アーリィは、決してアーシアに嘘を吐くことはなかったからだ。
そしてアーシアも、アーリィが嘘を吐くことを好んでいないことを
知っている。
和平会談での、堕天使総督アザゼル、悪魔代表サーゼクス、そして
天使長ミカエル。
その3人が手を取り合い、和平が成立。
その場にいたアーシアは、そのことをリアスお姉さまや一誠さんと
共に喜んだのだ。
それが幻想であったとは信じたくないのだ。
そして、それが本当ならば、なぜリアスお姉さまたちは、そのこと
を言及しないのだろう。
アーシアは、リアスお姉さまや一誠さん、そしてその他の眷属たち
の優しさを知っている。
追放された自分を、死んでしまった自分を転生させてまで大事に
思ってくれた人たちを、
アーシアは疑いたくはなかった。
アーシアは、自分の優しさによって、その葛藤に苛まれることに
なった・・・。
ゼノヴィア・クァルタにとって、
アーリィは良き戦友であり、信じられる友であり、心を許せる親友
である。
ゼノヴィアの心を解したのが紫藤イリナであるならば、アーリィは
それを育んだ一因だ。
73
当初、救護班として送られてきた彼女は、まるで戦場に送られた素
人に見えた。
戦いの基本を知ってはいるも、その姿に怯えが見えていた。
だというのに、その決意は固く、生き急ぐ姿にゼノヴィアは興味を
持ったのだ。
その後は、走るゼノヴィアの後を補佐する形でアーリィが追いかけ
るようになった。
ようは、自分の尻拭い役になっていったのだ。
そして、彼女によって自分が命を繋いだことは少なくはないと思
う。
ゆえに、アーリィはゼノヴィアのお守役とまで揶揄されていたの
だ。
そのことを言われた彼女は、言葉では否定しつつも、笑顔だったと
思う。
ゼノヴィアにとって、アーリィは自分に無くてはならない存在だっ
た。
ゆえに、目の前のアーリィにゼノヴィアは恐怖した。
その目は、嘗て教会を疑うことなく悪魔を殺していた自分だった。
その顔は、斬り姫と謳われ、ただ悪魔を殺すことしか考えていない
自分だった。
そして彼女は、まるで自分を徹底的に殺し尽くした嘗ての自分だっ
た。
ゼノヴィアは恐怖した、かつての彼女を知っているが故に。
何が彼女をここまでにしたのか。
そしてゼノヴィアは気付いた。自分はアーリィのことをあまりに
知らな過ぎたことに。
自分はアーリィに頼りっぱなしだった。
だが彼女が自分を頼ったことは数少ないと言ってもいい。
そして彼女は、自分から自身の過去を語ったことはない。
悪魔による被害を受けたのは知っているが、その詳細を知らない。
ゆえにゼノヴィアは思った、彼女を知らなければならないと。
74
彼女の闇を知らなければ、本当の意味でアーリィの親友ではないの
か、と。
そうしなければ、彼女を理解することは出来ないのではないのか、
と。
そして、彼女から告げられた、同盟による教会の悪魔見逃しについ
ては、
ゼノヴィアはおのずと理解した。
言ってしまえば、悪魔の抑止力となっていた教会がなくなったこと
で、
三すくみの関係が崩れ去ったのだ。
悪魔を倒し、人間界を守護する教会が、悪魔を浄化できなくなった。
抑止力がなくなれば、あとは歪んでいくだけでしかない。
それが悪魔の人間界の進出であり、人間への被害に繋がっただけな
のだ。
75
和平会談の場にいたゼノヴィアは、確かに和平を結んだことに対し
ては肯定した。
だが、ふと思い返してみれば、そこに﹃人﹄の世界はなかった。
結局の所、和平は﹃悪魔﹄
﹃堕天使﹄
﹃天使﹄によるものでしかなかっ
たからだ。
管理をするとはいっていたが、それは﹃人﹄にとって善きことなの
か
﹃人﹄は管理されなければならない存在なのか
﹃人間﹄は、同盟に足る存在ではなかったということか
ゼノヴィアは悩む。
かつて教会の人間として悪魔を倒してきた自分は、
もちろん、アーリィが嘘を吐いていると斬り捨てればそれで終わ
その言葉に罅が入ってしまった。
だが、アーリィの言葉からもたらされた現状を知った今では、
共に人間を守ろうと言ってくれた言葉に、ゼノヴィアは救われた。
だが部長やイッセーは、そんな自分を迎えてくれた。
その教会に裏切られて自棄を起こし、滅ぼしてきた悪魔に縋った。
?
?
?
る。
しかし、彼女を知っているゼノヴィアは、その言葉を捨て去ること
が出来ない。
だが悪魔になった自分が、その悪魔すら信じられなくなれば、
と。
だが堕天使も現状を知っているはずなのに、なにもしな
自分は今度は何に縋ればいいというのだ。
堕天使か
い現実がある。
ゆえにゼノヴィアは悩む。自分は何を信じればいいのか
彼女は、自分は何をすればいいのか、自分と向き合わなければなら
なくなった。
76
?
?
管理者として、家族として
リアス・グレモリーにとって、アーリィは謎だった。
アーシアの姉であり、ゼノヴィアの戦友というアーリィは、
黒のヴェールで顔を覆った姿や、黒の修道服を着ていることから教
会のモノと理解はした。
ゆえに第一印象は、決して心を許してはならない存在だった。
そして、彼女がアーシアを迎えに来たという言葉で、その印象は決
定的なものへと変わった。
リアスにとってアーシアは、
可愛い﹃眷属﹄であり、
﹃下僕﹄であり、可愛い﹃妹﹄であり、そし
て大事な﹃僧侶﹄だ。
大事な駒を、可愛い妹を、
なぜ遠い昔の、アーシアすら忘れた約束を果たしに来た﹃人間﹄に
渡さなければならないのか。
アーシアの話を聞けば、教会はアーシアを追放したというではない
か。
そんな可哀想なアーシアに対し、リアスは彼女を守ろうと誓った。
グレモリーは、悪魔の中で眷属への情が強い悪魔である。
そのことが、より一層、リアスがアーシアを大切にしていることに
繋がっている。
だが、リアスは理解している。アーシアは決してアーリィの元へ行
くことはないと。
なぜならば、アーシアは﹃転生悪魔﹄だからだ。
それは教会にとっては致命的な悪であり、なにより、アーシア本人
に撃ちこまれた楔なのだ。
﹃転生悪魔﹄は、アーシアを決して自分から逃げさせない檻なのだ。
アーシアも、自身が﹃転生悪魔﹄であることを理解している。
そして追放された教会に対し、アーシアが良い感情を抱くことはな
いと言える。
たとえアーシア本人が気付かなくてもだ。
77
ゆえに、アーリィの願いは叶うことはないと、リアスは思っていた。
その時は、アーリィについて何も思うことはなかった。
だが、とある映像によって、その評価は変わる。
監視悪魔が映した映像、それは自分の領土で悪魔を殺したアーリィ
の姿だ。
悪魔を慈悲もなく殺した彼女に、リアスは危機感を抱いた。
下手をすると、彼女に殺された悪魔のように、その刃が自分に向け
られるのではないか
リアスは、そのことに疑念を抱かざるをえなかった。
自分はグレモリー家の次期当主であり、
駒王町の管理者であり、大切な眷属を守らねばらない主なのだ。
ならば彼女のしなければならないことは、自分たちに危害をおよぶ
存在の﹃排除﹄だ。
もしもリアスに何の縛りが無ければ、直ぐにでもアーリィを追放し
ていたかもしれない。
だが、リアスはアーリィと約束してしまった。
アーシアが、自分と彼女、どちらを選ぶかということを。
しかも自分から言いだして。
約束を反故にすることを、リアスは極力嫌っている。
悪魔である自分が、口約束とは言え、契約を破るのは自身のプライ
ドに関わるのだ。
だが、それさえ終わらせてしまえば、アーリィが帰ることは決まっ
ている。
それさえ過ぎてしまえば、また元の日常に戻るのだ。
リアスは、そのことを考え、気持ちを落ち着かせた。
だが、リアスがアーリィに思うところはそれだけではない。
彼女は、自分が治めている領土で、勝手に悪魔を殺したのだ。
リアスは、駒王町の管理者であることを自負している。
だが、そんな自分に許可も取らず、アーリィは勝手に悪魔を殺した
のだ。
それはリアスにとって、琴線に触れることだ。
78
?
管理者である自分を蔑ろにされた感覚なのだ。
怒りに身を任せそうになるが、リアスは自制する。
自分の感情を支配できなくては、可愛い眷属たちに示しがつかな
い。
己を御することが出来なければ、眷属たちを導ける、彼らに誇れる
主ではない。
リアスは自分の心を制御する。
だが映像に映るアーリィを見るその目は、朱く、毒々しげに輝いて
いた。
兵藤一誠から見たアーリィは、アーシアを見捨てた教会の一人だ。
追放され、一人ぼっちで駒王町にたどり着き、それでも教会や主を
恨まず、
79
ただ自身を責めていた泣いていたアーシアを見ていた一誠からし
てみれば、
アーリィはアーシアに過去を思い出させる元凶の一つでしかない。
一人ぼっちだったアーシアが、リアス部長や俺たちと家族になり、
ようやく落ち着いて笑うようになったというのに、
アーリィは、アーシアの辛い過去を思い出させ、居場所を奪いに来
た存在に見えた。
彼女は、アーシアとの﹃約束﹄を果たしにきたと言った。
﹄
それも、アーシアが落ち着いて、ようやく居場所が出来たというの
に。
自分勝手な言い分で、アーシアのことを考えずに。
﹃また勝手な都合でアーシアの居場所を奪いに来たのかよ
言葉に出さなかったが、一誠は心の中で激怒した。
らも怪しいものだ。
彼女はかつて、アーシアと﹃約束﹄をしたと言っていたが、それす
アーシアに止められなければ、そのまま殴っていたかもしれない。
それゆえ、アーリィに対して啖呵を切ってしまっていた。
!
それに今更になって﹃約束﹄を果たしに来たというが、
泣いているアーシアの傍にいられなかったくせに、なにが﹃約束﹄だ
泣いていたアーシアを見捨てておいて、アーシアを守れるわけがな
いと一誠は思った。
そして、リアス部長から見せられた映像で一誠は確信した。
アーリィは、部長や俺たち悪魔に、そしてアーシアにとって危険な
存在だと。
傷つきながらも、まるで憎しみの塊の如く悪魔に襲いかかった修道
女。
命乞いをしようとした悪魔を、躊躇なくその首を撥ねた狂女。
その姿はまるで、悪魔崇拝者として自分たちの契約相手を殺し、
エクスカリバーの力に溺れて無差別に神父や悪魔を殺した、あのイ
カレ神父に似ていた。
三大勢力が和平を結んだというのに、あいつや目の前に映された女
が、
自分たちの平和を脅かすということに一誠は腹が立った。
﹃なんで平和にならないんだよ
合って行こうしたのに
折角、サーゼクス様やアザゼル先生に、天使の偉い人が手を取り
!
絶対にゆるさねぇ
﹄
禍の団やお前らみたいな奴が等いるから、人間にも被害が及ぶんだ
!
一誠は自分に誓った。
ように。
あの時に助けられなかったことを悔やみ、二度とそんなことが無い
んだと。
だからこそ、一誠は決意する。今度こそみんなを、アーシアを守る
平和を願った思いを平気で踏み躙る自分勝手な存在に。
和平会談を滅茶苦茶にして、悪魔の世界を創ろうとした禍の団や、
一誠は純粋に怒った。
!
80
!
!
おでかけ2
アーシアとゼノヴィア、
そしてリアスさんたちのおかげで一命を取り留めたアーリィは、
お 世 話 に な っ た 兵 藤 さ ん の ご 両 親 に も お 礼 を 言 っ て ホ テ ル へ と
戻った。
兵藤さんのお宅を出る際に、
アーシアとゼノヴィアからお散歩の御誘いを貰ったアーリィは、
痛む身体に鞭をうってルンルンスキップで玄関を出て行った。
途中、警官に捕まったのは言うまでもない。
これは格好の出かけ日和です
その後アーリィは、明日のお出かけにワクワクしながら、ホテルの
朝です。清々しい朝です
!
ベッドで就寝した。
﹁はい
!
﹂
ああ、久々に出会えた二人とお出かけです。これはワクワクします
!
ホテルの部屋で頻りに、ぴょんぴょんしているアーリィさん。
実際にやったら、下や隣の部屋の人に迷惑ですので止めましょう。
﹁それにしてもお出かけです。どこへ行くのでしょう
商店街も活気があって良かったのですが、
あの恐ろしきオバチャンなる人々の覇気に当てられました。
というものがあるかもしれませんね
!
昨日は一人でお出かけするも、迷子になってしまいましたし。
?
出来れば学び舎に連れて行って貰いましょう
もしや、秘密のアナバ
そうだ
!
?
丈夫ですね
﹂
アーシアやゼノヴィアさんも行かれているみたいですし、きっと大
!
いたのであった。
なんでお迎えかって
彼女の特性が迷子だからです。
!
?
﹁あの、アーリィ姉さま。今日はよろしくお願いします
﹁あの、アーシア
?
﹂
アーシアらが迎えに来るまで、やたらとお出かけについて妄想して
こうしてアーリィは、
!
81
!
﹂
よろしくお願いするのは私であって、アーシアが緊張することでな
いのですよ
﹁アーリィ、アーシアについては勘弁してほしい。
ゼノヴィアさん
﹂
なにせ、アーシアは昨日からずっとこんな調子だったからな﹂
﹁も、もう
﹁あらあら﹂
案内しますね
﹁ではアーリィ姉さま
﹂
ここ駒王町について、私とゼノヴィアさんが
といいますか、アーリィにはそれしかないのです。
いつもの修道服である。
ちなみにアーシアとゼノヴィアの服装は学校の制服で、アーリィは
は綻んだ。
自分から誘っておいて、そのことに緊張するアーシアに、アーリィ
!
決して一人でどこかに行かないでください
!
だ。
ちなみに彼女らの服装は、普段の派手
な服ではなく、
彼女らはこっそりと三人の後を追いかけるために、隠れているの
そう、それはリアスと彼女の眷属一同であった。
える。
そしてそこから少し離れた電柱に、それを見届ける陰がいくつか見
まった。
こうしてアーシアとゼノヴィア、そしてアーリィのお出かけは始
﹁では、行こうか﹂
﹁はいはい、解りました。こう見えても私は約束を守る人ですから﹂
!
!
﹁み、みなさんは、アーリィ姉さまについて誤解をしてると思うんです
話はアーリィがスキップして帰った後に戻る。
どうしてリアスたちが三人の後をつけているというと、
がね。
それらと比べたら地味に留めている。でも、本人らが目立つのです
?
82
?
!
﹂
アーシアは、大接間に集まっていたリアスお姉さまや一誠さん、他
の皆さんに訴えた。
血まみれのアーリィを背負って駆け込み、彼女を治療した後、
アーシアは何となく、みんなの雰囲気が異様にピリピリしているの
を感じた。
アーシアだって馬鹿ではない。ただ純粋すぎるドジッコなのだ。
その後、リアスお姉さまからアーリィが危険な存在であることを告
げられ、
アーシアはそれについて猛反発をした。
当たり前だ、今まで疎遠であったものの、自分のために尽くしてく
れた人を、
ましてや姉代わりの人を、危険人物だと言われて納得できる人はい
ない。
もちろん、アーシアだって治療の際の会話で、アーリィの闇を垣間
見た気がした。
だが、それでも、アーシアにとってアーリィは姉なのだ。
ゆえに、アーシアは自分の姉を疑いたくないのである。
﹁約束に関しては、わ、私が忘れてしまって、みなさんに迷惑をかけて
しまいました。
﹂
でも、アーリィ姉さまは、私を迎えに来てくれる約束をしてくれた
のは本当です
それに、アーリィ姉さまは本当は優しい人なんです
決して、みなさんが思うような危険な人ではありません
﹁私もアーシアの意見と同じだ。
確かに、自分はアーリィという人物について、全く情報がない。
アーシアとゼノヴィアの言葉に、リアスは考える。
これは、教会の時に一緒にいた私の考えだ﹂
ましてや、悪魔を殺すのを愉しんでいるなんて絶対にない。
だが、それは人間を守る為であって、部長を無視した訳ではない。
確かに彼女は、部長の管理地区で勝手に悪魔を殺したのは事実だ。
!
!
!
83
!
冷静になって考えれば、彼女が悪魔を殺したのは、民間人を守る為
であって、
ただ悪魔を殺したから危険だという考えはあまりに暴論過ぎた。
それに、アーリィからしてみれば、緊急の出来事であって、
許可を貰ってからなど考えられる状況ではなかったのではないか
そうした考えが頭を過り、リアスは一度頭を冷やすことにし、
アーリィについて知ろうと考えた。
ただし、自分の考えが正しかった場合も想定してだが。
﹁じゃあアーシア、貴女は彼女が私たちに危害を加えない人だと証明
できる
けだから﹂
!?
たのも事実。
なにせ、私たちは彼女をことを知らないのは本当だもの。
﹂
それでもう一度尋ねるわ、彼女が危険じゃないと証明できる
﹁はい
?
そして、私たちだけに話してくれた悪魔への感情に関しても、
アーリィ姉さまが優しい人だと解ってくれる。
普段の彼女の姿を知ってくれたならば、リアスお姉さまや皆も、
アーシアとゼノヴィアがアーリィを散歩に誘ったのはこのためだ。
リアスの真剣な眼差しに、アーシアは頷いた。
﹂
彼女を危険人物と思ったことに関しては、私があまりにも早計だっ
ない。
でも、アーシアとゼノヴィアの言う通り、本当は優しい人かもしれ
危険なのかもしれない。
﹁一誠、確かに彼女が悪魔を殺したのは事実よ。もしかしたら本当に
彼の頭の中では、アーリィは悪い奴となっていたからだ。
リアスの言葉に、一誠は驚いた。
﹁ぶ、部長
﹂
私の勘違いでみんなに迷惑をかけ、彼女を不快にさせてしまったわ
それだったら、私も自分の考えが誤りだったと彼女に謝罪するわ。
?
!
84
?
アーリィが彼女自身のことを話してくれたなら、そのことも無事に
解決する。
アーシアとゼノヴィアはそう考えた。
2人にとってみれば、自分の親しい人が互いに睨み合って欲しくは
ないのであった。
少しでも彼女が何かしら不審な行動をしたら、直ぐに取り押
こうしてアーシアとゼノヴィアは、翌日の散歩についての案を練っ
た。
﹁いい
さえるわよ
﹂
﹂
二人のことを信じたいけれど、やっぱり不安だから﹂
﹁解りました部長
﹁イッセー先輩、声が大きいです﹂
﹁イッセー君、張り切ってますわね﹂
﹁これは、ちょっと多すぎないかな・・・
す。
﹁見てくださいアーシア
あんな恐ろしいものがこの中に・・・あ、お
ゼノヴィアさん、タコとは何ですか
あれは世に聞くスキヤキというものではないのですか
あれはタコヤキ
デ、デビルフィッシュ
いしいですね。
﹂
少し落ち着いてください。少し目立ってます・・・﹂
?
?
そしてこれは・・・ナンデスカ
﹁お姉さま
!? !?
!
ちなみに、ギャスパー君はまだお外に出るのは駄目だったようで
髪の毛だったり、おしりだったり、胸だったりと。
なにぶん数が多いので電柱から何かとはみ出ているのだ。
みんなは電柱に必死に隠れているのだが、
?
!
?
が・・・﹂
﹁い や、少 し ど こ ろ の 騒 ぎ で は な い ぞ。十 分 に 目 立 っ て い る の だ
!
85
?
想像してください。
修道服を着て、顔まで黒のヴェールを纏った人が、
金髪美少女と青髪美少女で有名なアーシアとゼノヴィアを連れて、
商店街でやたら目ったら叫んでいる光景を。
その手に、たこ焼きのパック、五平餅、みたらし団子などを持ちな
がら。
そして彼女は、先日も通っていたわけで、住民の人もその記憶に新
しいわけで。
結果、多くの視線が三人に刺さっているのである。
だが、当の元凶は知らないものに触れて、もはや周りが見えていな
い。
というか、ほぼ食べ物の方に目を向けているのは気のせいだろう
か。
アーシアとゼノヴィアが、このアーリィの姿に、二人とも溜息を吐
86
きつつも苦笑していた。
ちなみに、後方のリアスたちも、このことに目が点になっていた。
﹁な、なんなのあの人は・・・﹂
﹁えっと、なんか楽しんでますね﹂
﹁おいしそう・・・﹂
﹁あらあら﹂
﹁別の意味で変わった人・・・だね﹂
アーリィのあまりの別人っぷりに、リアスたちは肩透かしを食らっ
た感じだ。
と思えるほどだ。
まるで映像に残されていた彼女と今の彼女は、どこかで入れ替わっ
たのか
デパートで案の定アーリィが行方不明となり、
レゼントしようとしたり、
時に小物店に足を運び、アーリィが二人に十字架のネックレスをプ
アーシア、ゼノヴィア、アーリィは進んでいく。
だが︶、
そうした後方の視線に気付かず︵いや尾行だから気付かれては駄目
?
と。
慌てるアーシアをゼノヴィアと同じように、リアスたちも焦った。
もしや尾行がばれたのではないのか
そうした焦りに苛まれ後、
彼女がフードコートで長い袋を持った人にミニ懺悔室を行ってい
るのを発見し、
彼女の奇妙っぷりにリアスたちは頭を抱え始めていた。
﹁ああ、私の大切な人と一緒に過ごせるなんて、私は幸せです。
主に感謝しなければ罰が当たってしまいます﹂
﹁あ、アーリィ人前で祈るのはちょっと止めてくれないか。その・・・
視線がな﹂
祈ろうとしたアーリィをゼノヴィアは止めた。
人前で祈られても困ってしまうし、他者の祈りは彼女らにとって
は・・・。
﹁ごめんなさい、私の癖で・・・﹂
そんな悲しい顔をしない
﹁私もやってしまうので、何も言えません・・・﹂
﹁いや、別に攻めている訳ではなくてだな
でくれ﹂
トにいる。
リアスたちは、それを上の階から見下している。
﹁ところで、何処か姉さまの行きたい場所はありますか
ら
﹂
﹁学園ですか
﹂
﹁そうですね・・・私、あなた達の学び舎を見たいのですが、良いかし
昨日、行こうとして行けなかった場所があったのだ。
すぐに出た。
アーシアの言葉に、少し考え事をするアーリィであったが、答えは
折角の観光ですから、お姉さまの行きたい場所を案内したいです﹂
?
ちなみに3人は、先ほどアーリィが懺悔室をやっていたフードコー
ゼノヴィアはすっかりツッコミ役に回ってしまった。
!?
87
?
アーリィの意外な答えに二人は少し驚く。
?
?
﹁私、人の集まる場所が好きなのですよ。
それに学び舎は、私が特に好きな場所でもありますから﹂
その時のアーリィの顔は、懐かしむような、何かを堪えるような、そ
んな風に見えた。
その後、三人は駒王学園に直行。
その間にリアスがソーナに連絡し、裏では厳戒態勢が敷かれたのだ
が、
そんなことを知るわけもなく、アーリィが学び舎の見学に大暴走。
悦びのあまり讃美歌を謳いだしたり、生徒会室に迷い込んでソーナ
さんに握手を求めたりと、
彼女の保護者どころか駒王学園の人々の胃壁を削りだした。
当のアーリィは﹁ああ・・・幸せです・・・﹂と輝いていた。
テンションの高い人に振り回される人というのは、こういう感じな
のですね。
﹂
そして、そうした状態の彼女は、キラキラな状態で2人の後ろの方
の電柱を見ていた。
わずかに見える口元が、微かに歪んで見えるのは気のせいか。
﹁あ、あの人のた、体力は、どうなっているのよ・・・﹂
﹁そ、それよりも部長、なんかあの人、こっちを見てませんか・・・
﹁もしかして僕たち、始めからばれていたのかな﹂
﹁疲れました﹂
?
88
そんな出来事をたった1日で過ごしたゆえに、
アーリィを除いた方々は、疲れ果てた結果となった。
!
ああ、素晴らしいです
﹁ああ・・・今日はなんと素晴らしい一日だったのでしょう
ようやく私の善が実ったということですね
﹂
!
見るからにキラキラしている人と、疲れ果てている2人。
﹁ああ、それは、よかった・・・﹂
﹁そ、それは、う、うれしい限りです・・・﹂
!
﹁あらあらあらあら・・・﹂
後方の電柱から何かしら焦る人の気配ににっこりしつつ、
アーリィはアーシアとゼノヴィアに視線を戻した。
﹁それでアーシア、ゼノヴィアさん。私に何かあるのですか
今日のお出かけは本当に嬉しかったわ。
﹂
でも、ただ単にお出かけをしたかった訳ではないのでしょう
私に何かしてほしい事でもあるのではなくて
実はだな・・・﹂
﹁え、その・・・あの、ですね・・・﹂
﹁あ、アーリィ
?
?
い。
﹁それで、私の過去を知りたいということですが、良いのですか
﹂
私は別にかまいませんが、みなさんが楽しめる話ではないですけど
?
そのことに逆にアーシアとゼノヴィアが焦ったのは言うまでもな
二人が話し終えた後、アーリィは目に涙を溜めて謝った。
その視線に二人は屈服し、今日のお出かけについて全てを話した。
焦る二人に笑みを貼りつけた顔で見つめるアーリィ。
?
と首を傾げるアーリィに、彼女を除く全員
89
!
それでも聴くのですか
の喉が鳴った。
?
?
好奇心は猫を殺す
アーリィは、アーシアとゼノヴィアのお願いを快く引き受けた。
アーリィにとってみれば、大切な妹のアーシアと、大切な親友のゼ
ノヴィアの頼みなのだ。
彼女の快い了承に、アーシアとゼノヴィアは喜んだ。
これで、二人にとって大切な人たちが、お互いに理解しあえると
思ったからだ。
人は互いに心をさらけ出すことで理解出来る。
日本ではこれを、
﹃腹を割って話す﹄というらしいが、まさにこれが
二人の思惑だった。
一誠の家に招かれたアーリィは、
せっかく話を聞いてくれるということで、アーシア達を退屈にさせ
90
てはいけないと、
自分からお茶を入れたり、ちょっとしたお菓子などを用意した。
キッチンは一誠の両親にお願いし、快く貸していただいたことに、
何度もお礼を言った。
そして全員に紅茶と、お手製のスコーンを用意し終え、咳払いをす
る。
ちなみに、広間にいるのはリアスとその眷属だけで、
一誠の両親はリアスの暗示でベッドで寝てもらっている。
﹁さてさて。
みなさんが私の過去を聞きたいということを、アーシアとゼノヴィ
アさんに言われまして、
至って普通の話ですか
ちょっと恥ずかしいですが、みなさんにお話ししたいと思います。
といっても、大した話ではありませんよ
ら。
リアスたちは目の前に置かれている紅茶とスコーンに目を移す。
私のふるさとの味です、おいしいですよ﹂
あ、よろしければ話を聞きながら紅茶とスコーンもどうぞ。
?
紅茶はハーブティーらしく、爽やかな香りが鼻孔を通り、
皆さんも食べたら驚
お菓子のスコーンは、シンプルながら甘い匂いがした。
﹁アーリィ姉さまのスコーンは美味しいですよ
きますよ﹂
リアスたちも食べる。
!
﹁あ、おいしい・・・﹂
﹂
﹁俺、こういった物を食ったのは初めてだけど、すっげぇうめぇ
﹁あら、本当ですわ﹂
美味しいですよ
﹁うん、これはおいしいね﹂
﹁本当です
﹂
すると、彼女は一心不乱にスコーンを食べ始め出した。その反応に
恐る恐る小猫が手を出して一口食べてみた。
﹁ああ、彼女のスコーンは上手いぞ。よくごちそうになったものだ﹂
!
ゼノヴィアも一安心。
!
私のお話でしたね。
﹁まだまだスコーンはありますからね
あ、そうでした
ぜひ食べてください。
各々の嬉しい反応に、アーリィの顔も綻ぶ。その反応にアーシアも
!
お隣には頑固者の御爺さんがいて、よく怒られましたねー。
呼ばれた、自慢の妹でした。
妹のリーシャは、私と違って笑顔が素敵な、太陽のような笑顔って
父は小麦畑を持っていたので、よくお手伝いをしてましたねー。
私は両親と妹のリーシャの4人家族で、
敵な故郷でした。
都会の生活と比べてしまうと色々と不便でしたが、私にとっては素
牧場もありましたし、小麦畑もある、静かな所だったと思います。
なところでした。
﹁私が住んでいた場所はヨーロッパのある町で、ちょっと田舎みたい
咳払いを一つした後、アーリィは懐かしむように語りはじめた。
ださい﹂
では、みなさんは食べながらで結構ですので、ゆっくりと聴いてく
!
91
!
あ、みなさんが食べてるスコーン、御爺さんの奥さんから教えて
貰ったものなのですよ
他にも、友人もいて、とても幸せでした。
あのバカッ
リーシャなんて、恋人のクリスと結婚する予定だったのですよ
もう、お姉さんである私の面目丸潰れだったんですよ
プルは
!
したと思います
﹂
もちろん、リーシャは断ったのでしょうね。それでその悪魔、何を
私の眷属になりなさいって。
リーシャを貰おうと、悪魔たちが町に来たんですよ。
﹁なんでも、リーシャの噂が悪魔の耳にも届いたようで、
いる。
アーリィの顔はヴェールで見えないが、彼女の口元は笑顔で歪んで
ですが・・・それも脆くも崩れ去ったんですよね﹂
?
?
凄かったですよ
結果、私の町は悪魔に襲われました。
悪魔からしたら、純粋な好意だったのでしょうね。
町の人間たちを皆殺しにしようとしたんですって。
てあげようと、
なんでも、リーシャが冥界に行かない、眷属にならない未練を断っ
﹁虐殺ですよ。
リアスたちはアーリィから出た﹃悪魔﹄の言葉に耳を疑ったのだ。
誰もアーリィの問いに答えられない。
?
本当に言葉には表せられない光景でした。
そして町の人たちを食い散らかす烏たち。
ちの群れ、
目に映るのは死体の山々に燃える家々、空には翼を生やした悪魔た
耳には人々の断末魔の声や悲鳴、あ、絶叫なんて聞こえましたね。
血の滑りと粘着質の感触を足に感じ、
ましたねー。
広場へと続く道は血で真っ赤に染まり、所々は死体の山が連なって
?
92
!
そんな中、私は一人彷徨っていたのです。
ですが、運悪く悪魔に見つかってしまいまして、
私とママを助けるためにパパが犠牲となり、
そして私を助けるためにママが、私の目の前で悪魔と串刺しになっ
たんです﹂
まだアーリィの顔は笑顔のままである。
﹁私、ママの最後のお願いで妹のリーシャを見つけようと思ったので
すよ。
恋人のクリスと一緒だと言われて、皆で逃げようって。
それで幸運なことに、私は二人が教会に逃げて行くのを見つけて、
後を追いました。
二人はドレスを纏った悪魔に追われていて、何とか助けようと思い
まして﹂
ここでアーリィは、少し紅茶を口に含んで喉を潤す。
クでしたー。
なんでも、転生悪魔になった存在は身も心も悪魔に染まると、
93
﹁私が駆けつけた時には、リーシャが悪魔に捕まっていて、
クリスが必死に助けようとしてました。
クリスったら、何度も吹き飛ばされても必死に立ち向かっていたん
ですよ
いたんですよ。
!
でも私たちには、ゴミみたいな目で見てましたねー。あれはショッ
そして﹃私を愛してください
﹄なんて蕩けた笑みを浮かべて。
リーシャの背から皮翼が現れて、先ほどまで嫌がっていた悪魔に跪
﹁いやー、あれは今でも記憶に残る光景でしたねー。
一瞬、リアスたち全員が反応するが、アーリィは話し続ける。
私たちの目の前で悪魔に転生したのです﹂
私たちが止めるのも効かず、リーシャは﹃悪魔の駒﹄を入れられ、
リーシャが眷属になると言って助けようとしてくれたのです。
それで、業を煮やした悪魔が、私とクリスを殺そうとしたのを、
本当に彼ったら、無茶ばっかりして。
?
悪魔がご丁寧に説明してくれたんです。
﹃悪魔の駒﹄は、ただの人間なら一瞬で悪魔に変えてくれる優れもの
だとか。
まるで自慢するかのように話してくれました﹂
リアス眷属たちが、一斉にリアスへ顔を向ける。
だがリアスは黙ったままだ。
﹁その後、私たちは悪魔になったリーシャに襲われ、クリスはリーシャ
の手で殺されました。
リーシャ、恋人のクリスをゴミなんて言ったんですよ
そしてリーシャは私を殺そうと襲いかかってきたんです。
私、もう訳が解らなくて、気が付いたら、リーシャを殺していまし
た。
彼女を抱いた感触が、今でも解るのですよね。冷たくなっていく
リーシャを。
私も彼女に顔を傷つけられまして、こうしてヴェールをかぶってい
るんですよ。
決して見せたくはないですし、見ても面白いものではありませんか
ら。
その後は、何やら喚き散らす悪魔を殺して気を失い、
私は気が付いたら教会に保護されました﹂
ちらりとアーリィはアーシアとゼノヴィアの方に目を移すが、
二人ともなぜか口を押えて震えている。
﹁あとはアーシアと一緒に教会で過ごし、彼女と一緒に私も追放され、
ゼノヴィアさんのいる前線に回されて、必死に生き足掻きました。
生きるために悪魔を殺し続けました。
その間もアーシアを捜していたのですよ
す。
口を押えて、体調でも悪く
94
?
そしてアーシアの目撃情報を得て、ここにやってきたというわけで
?
まさかアーシアと一緒に、親友のゼノヴィアさんとも再会できると
みなさん、どうしたんですか
!?
は思いませんでした。
あれ
?
なったのですか
す、すみません。私ったら、みなさんに気付かず長話をしてしまっ
たようで﹂
慌てるアーリィだが、リアスたちはそれどころではない。
アーリィの過去に吐き気を覚え、必死に胃の中の物をぶちまけない
ように堪えているのだ。
アーシアとギャスパーに関しては、もはや決壊寸前である。
人一倍食べていた小猫の顔なんて、もう真っ青を通り越している。
その後、とりあえず全員が落ち着くまで一時中断された。
﹁あ、貴女の過去については・・・よく解りました。
辛い話をさせてしまったこと、アーシアとゼノヴィアに代わって謝
罪するわ﹂
﹁いえいえ、こうして過去を振り返るというのも、なかなかな良いもの
です﹂
と。
笑顔で答えるアーリィに、リアスは寒気を感じ始めた。
目の前のこの人は、本当に人間なのだろうか
﹂
?
﹂
あ、そうですね。でしたら、私の方からも質問をしてもいいですか
﹁私に答えられるのであれば、何でもいいですよ
﹁それで申し訳ないのだけれど、私の質問に答えてくれませんか
?
?
﹂
互いに質問をするということで合意し、リアスはアーリィに問い
﹂
?
た。
﹂﹁リアス姉さま
﹁悪魔を殺すことをどう思っているのですか
﹂
﹁部長
﹁
!?
という印象だ。
?
はぐれ悪魔に関しては例外ですが、昨日、貴女は悪魔を殺していま
その際、互いに干渉はせず、むやみに対立することを禁止された。
﹁この間、悪魔・天使・堕天使による和平会談が行われました。
彼女に関しては、まるで何を言っているのこの人
リアスの問いに、一誠やアーシアは驚き、アーリィは首を捻る。
!?
95
!?
﹁ええ、もちろんですわ。貴女と同じように、答えられるなら﹂
?
?
す。
失礼を申し上げますが、貴女を監視していました。
まるで悪鬼の如く、悪魔を殺した貴女の姿を見ました。
悪魔が来ていることに関して、私たちには何も連絡が来ていませ
ん。
もしかしたら、彼ははぐれ悪魔ではないかもしれなかった。 私の管理地区で、人を守ってくださったことは感謝しています。
ですが、貴女の行いは、下手をすると無用な対立を生んでしまった
かもしれない。
和平会談の規則を守ってもらわないと、三大勢力に対して大きな迷
惑になります﹂
﹂
96
リアスの問いに、アーリィは終始無言だったが、彼女はこう言った。
﹁和平ってなんですか
?
綻び
の質問に関係するのだろうか。
という質問の意味が解らなかったからだ。
アーリィの言葉にリアスは面食らった。
和平とは何か
悪魔を殺すことをどう思うか
﹂
﹁ごめんなさい、少し意味が解らないのですが。和平とは何か、ですか
?
?
リアスの言葉に、アーリィは再度問いを投げかける。
﹁ええ、そうです。和平とは何か
ていこうとする考え、
これで良いでしょうか
﹂
互いに手を取り合って、冥界・天界・そして人間界を共に世界を守っ
﹁三大勢力、つまり悪魔・天使・堕天使が各々の過去を水に流し、
正直に三大勢力の掲げる和平の概要を説明することにした。
彼女の意図が読めないリアスだったが、
だが、彼女の口は相変わらず微笑んでいる。
ない。
謝罪するアーリィだが、その表情はヴェールによって遮られて読め
すみません、私が先に質問する形になってしまいまして﹂
す。
これに答えていただけるならば、貴女の質問に答えられると思いま
?
﹁
﹂
﹁それだけなのですか
﹂
三大勢力の掲げる定義に、一誠たちは頷く。
?
のか。
?
貴女の和平の考えとは、それだけなのです
﹁それだけ、とはどういう意味なのですか
﹁言葉通りの意味ですよ
ということですが﹂
?
彼女の意図が読めないものの、こちらの答えに何かしらの想いを感
アーリィの言葉に、リアスは少しむっとした。
か
﹂
リアスはアーリィの言葉に首を傾げた。それだけ、とはどう意味な
?
97
?
?
?
じられたのだ。
﹁そうですね、私としては、三大勢力による協力体制と世界を危機に貶
める存在に対する牽制、
そして、三大勢力による平和の実現が、和平へと繋がると思ってい
ますが﹂
﹁そうですか。ごめんなさい、こちらの質問に答えていただきありが
とうございます﹂
﹂
アーリィの言葉は丁寧なものの、何かしら引っかかる印象を感じ、
リアスは逆に質問をしてみることにした。
﹁ではお聞き返しますが、貴女の和平の考えとは
リアスの問いに、アーリィは自分の紅茶を一口飲み、変わらない笑
顔で答えた。
﹁人間が人間らしく生きられる世界・・・ですかね。
悪魔、天使、堕天使から管理されることのない、という意味を付け
足して﹂
アーリィの言葉に、リアスたちは目を見張った。
アーリィの言葉は、ようは三大勢力による和平などいらない、とい
う意味に取れるからだ。
﹂
﹁それはつまり、三大勢力の和平会談は無意味、という意味で良いので
すか
味だと思っています﹂
リアスはアーリィの言葉に、一瞬我を忘れかけた。
自分のお兄様であるサーゼクス・ルシファーの想いを、
目の前の修道女は無意味だと言ったからだ。
だが、リアスが怒る前に、その言葉に怒りの声を上げる存在がいた。
そう、自分の頼れる眷属にして当代の赤龍帝、兵藤一誠である。
﹁てめぇ、もう一回言ってみろ。
﹂
サーゼクス様やアザゼル先生、天使の偉い人が、未来を思っての決
意を無意味だって
平和を願った思いを、アンタは馬鹿にしてるのか
!
!?
98
?
﹁ああ、それで構いません。私は和平会談は無駄ではないですが、無意
?
声を荒げる一誠に対し、アーリィは別段気にも留めずに微笑んだま
まだ。
まるで、精一杯いきがる子供を優しく見守るシスターのように。
﹂
その振る舞いが、一誠を更に苛立たせた。
﹁なに笑っているんだよ
﹁あ、ごめんなさい。兵藤一誠君・・・でしたっけ
﹂
﹂と手をうっ
!
﹁一誠君の声にお応えして、私が出会ったことについてお話しますね
た。
一誠の言葉を受けたからか、アーリィは﹁そうですわ
だが、言葉の節々には彼女の感情が見えるのは気のせいだろうか。
印象を醸しだす。
一誠の怒りにさえ、アーリィは笑顔で応える姿に、ますます異質な
﹁ふざけるな
今の私にはとても眩しく見えてしまいますから﹂
お姉さん、少し羨ましく思ってしまいました。
うに純粋で、
まるで、物語が全てハッピーエンドで終わると信じている少女のよ
す。
貴方の想いがとても熱く、素晴らしいものだと思い、感心したので
?
!
か﹂
アーリィは笑顔で言葉を紡ぎ出した。
﹁そうですね、和平会談によって第三勢力は同盟を結びました。これ
は素晴らしいと思いますよ
﹂
?
ノヴィアを除いてだが。
アーリィの突然の質問に言葉を窮するリアスたち。アーシアとゼ
これがどういう意味か解りますか
ですが、同盟を結んだのはあくまで、悪魔・天使・堕天使の三勢力。
ことはありません。
互いに争っていた方々が互いに手を取り合う、こんなに素晴らしい
?
99
!
貴女方が信じている和平会談によって、どんなことになっている
!
﹁あくまで同盟を結んだのは三勢力であり、それ以外は同盟を結んで
いない、ということです。
ところで、種族の危機に瀕している悪魔が生存するために行ってい
る方法とは何か
もちろん、こ、子を成すことに励んでいると思っています。
ですが、長命種である悪魔が子を成すことは非常に難しい上に時間
もかかります。
では即急の方法として何が行われているか。
他の生物を悪魔に転生させ、種族の数を増やす。これですよね
そして、転生される数が最も多いのは何か・・・人間です﹂
アーリィの言葉に、リアスたちは黙ったままだ。
か。
﹁ありがとうございます
そうですね、三大勢力による管理でしたね。
リアスの言葉にアーリィの笑みが深くなったのは気のせいだろう
三勢力が協力して、人間たちを守ることはみんな知っているわ﹂
﹁あら、それなら人間の扱いは、三大勢力による管理のはずよ。
ごめんなさい、私、物覚えが悪くて、忘れてしまいました・・・﹂
﹁ところで、和平会談による人間の扱いとは何でしたかしら。
たいことが見えてこない。
そんなことは一誠さえも知っているからだ。だが、アーリィの言い
?
あはは
﹂
まるで家畜みたいですね
﹂
悪魔にとって人間は、自分たちが生きるために管理するモノ。
管理されるモノ。
﹁三大勢力における和平会談において、人間は同盟足る存在ではなく
目の前には笑顔の彼女がいるというのに。
寒気が走った。一瞬だが、アーリィの印象が変わった。
なのでしょうか
ところで、人間は三大勢力と同盟を結ばれず、ただ管理される立場
!
!
サーゼクス様はそんな風に思ってなんかいない
!
100
?
?
アーリィの言動が少し崩れるも、彼女の言葉に気を置き、
!
幾人かを除いてそれに気付くことはない。
﹁違う
!
悪魔と人間が共存しようと必死に考えたことだ
アーリィの言葉に反論する一誠。
﹁そうですね、私もそう思いますよ
るなんてありえないのだ。
﹂
一誠にとって、あの優しいサーゼクス様が、そんなことを考えてい
!
﹂
﹂﹂
?
段がなくなった。
?
だったら全ての悪魔は
?
ら答えた。
﹁﹃私は悪魔で貴女は教会の使徒じゃない
﹄
だから助けろって
なぁ、
同盟を破棄されたくなかったら
仲間に剣を突き付けるのか
ほら、同盟した者同士、仲良くしましょうよ
言ってんだよ
﹄
﹃おいおい、俺たちは仲間だろ
ご同輩
﹃私に何かしたら戦争になるわよ
よ
﹄
﹃私たちは愛する隣人じゃない
隣人同士、手を取り合っていきま
﹃おや、天使に尻尾を振る狗じゃないか。ほら、俺に手を出してみろ
見逃しなさい﹄
?
!
!
そんな顔をしているのが丸判りだったのか、アーリィは微笑みなが
従うはずだ。
だって魔王様︵お兄様︶の言葉は絶対だろ
アーリィの言葉に一誠は言葉を失った。それはリアスも同じだ。
ではどうなると思いますか
﹂
それが正式に管理できる立場になり、そして相手には抵抗出来る手
来なかった。
生意気にも自分たちに対抗する力をもっていたために好き勝手出
今までは下等と思っていた存在が、
﹁さて、ここで問題です
﹁﹁え
ますか
それに、和平会談の考えを全ての悪魔が﹃正しく﹄享受したと思い
ですが、管理の時点で共存ではありませんよね。
?
?
!
101
!
?
?
?
!
?
しょう
﹄
﹂
これ、いったい何の言葉だと思います
﹁まさか・・・
﹂
リアスたちは、先ほどのアーリィの言葉から察した。
﹁ええ、お察しの通り、人間たちを襲っていた悪魔を折檻した時に言わ
れた言葉です。
まったく、教会が手出しできないからと高をくくって好き勝手して
いたのに、
いざ注意されると会談の言葉を持ち出して逃げようとする。
本当に困った子たちでしたから、念入りにお仕置きしたあげました
ね﹂ ああ、なつかしいですね・・・と語るアーリィ、その姿は昔を思い
馳せていた。
彼女は、冷めきった紅茶を一口飲み、変わらぬ笑みを浮かべて言っ
た。
﹁組織において、トップが決めた決定は絶対です。
ですが、多少なりとそれに納得できないものもいるのは当たり前で
すよ。
私のような存在ですね。
そして悪魔にとって、人間は自分たちよりも下等で、脆弱で、
自分たちに奉仕するために生きていると思っているのが大半だと
思いますよ
﹂
これからは三大勢力の働きによって関係は変わっていき
決して貴女のような悲劇が起こることはありません
ます
ですが
﹁それはそうかもしれません。
私の故郷を焼き払った彼女と同じような、ね﹂
?
!
﹁そうですね。私もそれを願っています。
ですが、私にとっては不安で仕方がないのですよ。
なにせ、﹃悪魔の駒﹄というものがありますからね﹂
102
!?
?
!?
アーリィに反論するリアスに対し、アーリィの口元が歪む。
!
!
﹁悪魔の駒、ですか・・・
﹁悍ましい
﹂
﹂
ですが、それは私からしたらあまりにも悍ましいのですから﹂
ノ。
悪魔たちが眷属を、そして自分たちを生きながらえさせる為のモ
﹁そうです。生物を悪魔に転生させられる悪魔の駒。
?
﹁それは一部の悪魔であり、決して全体の悪魔では決してありません
なぜそこまで残酷な思考をするのだろうか。
目の前の人は一体どういう思考をしているのだろうか。
リアスたちは、アーリィの考えが逆に恐ろしく思えた。
だと思います﹂
そして和平による内容を踏まえれば、人間狩りが行われるのも容易
とっては。
転生させてしまえば、なにをしても構わないと思いますよ、悪魔に
それに、転生悪魔は身も心も悪魔に染まるのですから、
よね
だったら、契約したい相手を殺した後に転生させることも出来ます
あと、直ぐ死んだ存在でも転生させることが可能だとか。
私の妹のように。
﹁だって、眷属にしたい相手を脅して契約させるのも出来ますからね、
?
それに、そうした問題はこれから解決に向かって行きます
そうならないために、三勢力は調停を結んだのですから﹂
りませんから。
人と悪魔が﹃共存﹄出来るのであれば、それに越したことはないの
ですから。
ですから、現状におけるリアスさんの質問の返事としては、
ですね。
人を家畜としか見ずに襲ってくる相手を殺すのに、何故悩むのです
か
103
?
﹁そう願いたいものです。私は別に全ての悪魔を殺したいわけではあ
!
!
黙って餌にされろと仰るのならば、私は否を突き付けます﹂ ?
アーリィは話し終えるとまた紅茶を飲む。
だが、リアスたちは喉が渇くも紅茶に手を伸ばせない。
アーリィの話を嘘だと斬り捨てるのは容易い。
だが、目の前の彼女は嘘を吐くことはない、というのはアーシアの
言葉である。
ゆえに、彼女の話は真実なのかもしれない。
しかし、それでも、リアスたちは納得できないのだ。
サーゼクス︵お兄様︶たちが未来を思ってのことが、人間たちに被
害をもたらしていることが。
﹁ところで﹂
そうして悩んでいるリアスたちに、紅茶を飲み終えたアーリィが声
を上げた。
﹁先ほどが気になっていたのですが、貴女方の悪魔に対する擁護を強
く感じるんですよね。
﹂
104
まるで必死に否定しようとしているような、そんな気がするので
す。
まさか皆さん、悪魔ではありませんよね
その口元は、まるで人を刺し殺せるような尖った三日月に見えた。
アーリィの顔はヴェールで覆われて表情は読めないのに、
?
時間制限の問題
リアスたちは、表情には出さなかったものの、アーリィの言葉に内
心では焦っていた。
と言った彼女から、
アーリィの言葉を否定しようとした結果、彼女に不信を抱かせてし
まったのだ。
果てに、悪魔を殺すことを、
害獣を殺すのに迷いがあるのですか
と問われてしまったのだ。
私も、久々に会話が出来てとても楽しかったですよ。
﹁今宵は私の話を聞いていただき、ありがとうございました。
その姿に満足したのか、アーリィは、
アーリィの真剣な視線を感じ、一誠たちは頷かざるを得なかった。
と思っています﹂
こうした現実から目を逸らさず、人との共存関係を考えてほしい、
犠牲になっている。
確かに三勢力では和平が成立しました。ですが、それによって人が
決して上の言葉をただ鵜呑みにしてほしくないということです。
長い話をしてしまいましたが、私が言いたいことは、
﹁ごめんなさいね、ちょっとした悪戯ですよ。
アーリィは口元隠しながら笑っていた。
緊張を解かれ、肺にたまった空気を吐くリアスたちを見ながら、
という言葉によって解かれた。
いと思っていますから﹂
だがその緊張も、アーリィの﹁うふふ、冗談ですよ。そんなわけな
アスたちには解らなかった。
それは一瞬の沈黙だったのか、それても長い時間が過ぎたのか、リ
だが目の前の彼女の笑みが、否定しようとする意志を抉る。
としに来るだろう。
ここで正直に﹁はい﹂と答えようものなら、彼女は容赦なく首を落
貴女達は悪魔ですか
?
それに、商店街や学園と、この町を見ることも出来て嬉しいことが
105
?
いっぱいでした。
アーシア、ゼノヴィアさん、本当に感謝しています﹂
と笑顔で語る。
﹁ですが、そろそろ私の路銀が尽きてしまいそうで、急な話で申し訳な
いのですが、
﹂
﹂
明後日にはアーシアの返答を聞きたいと思うのですが、よろしいで
しょうか
﹁ええ、解りました。アーシアもそれでいいかしら
﹁はい・・・解りました﹂
アーリィの言葉に、リアスは我に返りながらも、アーシアに尋ね、
アーシアは急な話に面食らいながらも、小さく返事をして頷いた。
﹁急なお願いを聴いていただき感謝します。では、私はお暇させてい
ただきますね。
明日は、帰るのが名残惜しいので、また町を巡ろうと思っています。
明後日に、ここでアーシアの答えを聞きたいと思います。
それではリアス・グレモリーさん、そして皆さん、御機嫌よう﹂
アーシアの返答にアーリィは満足し、感謝と言葉を添えて帰って
いった。
アーリィが帰った後、リアスたちのいる部屋は重い沈黙に包まれて
いた。
誰も彼も口を開こうとしない。
それほどまでに、アーリィの言葉はリアスたちにとっては衝撃だっ
たのだ。
和平会談による人間への被害。
和平会談で平和になったと思った矢先、アーリィから告げられた言
葉が、
信じていた和平に罅を入れてしまったのだ。
﹄
?
﹃和平会談は無駄ではないですが、無意味と思っています﹄
﹄
﹃同盟を結ばれない人間は、ただ管理されるだけの存在なのですか
﹃襲ってくる悪魔を殺すのに、何を迷うというのですか
?
106
?
?
これはアーリィの言葉だ。そして、その言葉は彼女の真意なのだろ
う。
ゆえに無視が出来ない。
だが、それでも、彼女の言葉を否定する言葉を探そうとする。
重い沈黙の中、一誠が呟く。
﹁だからって、みんなの願った平和を否定しちゃ駄目だ。
憎しみに囚われちゃ駄目なんだよ﹂
一誠が呟いた言葉に、リアスたちが彼を見た。
そこには、拳を握りしめ、震えながらも、必死に前を向こうとする
一誠がいた。
﹁確かに三勢力が人間に酷いことをする事実があったとしても、
﹂
だからって、何もかも否定して、和平を否定しちゃ駄目なんだ。
例え憎しみ合っていても、最後には手を取りあえるんだ
絞り出すように出した一誠の言葉は、萎んでいたリアスたちの心に
力を与えた。
そうだ、和平を否定し、憎しみ合うだけでは何も変わらない。
それこそ、最後には誰も居なくなってしまう悲しい結末しかない。
だが、それを回避するために三大勢力は生まれたのだ。
和平の願いは憎しみという垣根を超えることが出来たのだ。
﹁そうね、一誠の言う通りだわ。
今まで憎み合っていた、私たち悪魔や天使に堕天使が、
みんなの幸せを願って手を結ぶことが出来たのですもの。
私たちみたいに、人間と本当の意味で共存できるわ﹂
一誠の言葉に元気づけられ、リアスは迷いを振り払った。
例え今は困難な道でも、例え今は理解されなくても、
人間たちと手を取り合って生きてける道はあるのだ、と。
リアスが迷いを振り切ったように、他の眷属たちも一誠の言葉に頷
く。
﹁私みたいな、堕天使と悪魔のハーフを一誠君は受け入れてくれたの
ですもの。
一誠君の言う通り、安易な憎しみに囚われてはいけませんね﹂
107
!
﹁イッセー先輩
ぼ、ボクも、お、お手伝いします
﹂
!
が降りますね﹂
!
先ほどから暗い顔をしているけど。
?
﹂
いいでしょうか・・・
﹂
私、明後日のことを考えたいので、明日は契約のお仕事を休んでも
それでですね、リアスお姉さま。
私も、そうなれると信じたいと思います。
﹁ありがとうございます、リアスお姉さま。少し・・・落ち着きました。
その姿はまるで本当の姉妹のようだ。
アに囁く。
泣きそうな幼子をあやす様に、安心させるように、リアスはアーシ
だから大丈夫よ。私の可愛いアーシア﹂
たように。
アーシアと一誠が友達になれたように、アーシアと私が姉妹になれ
私たちのようにね。
合って行けるわ。
アーリィさんの言葉が真実でも、人間も三大勢力も互いに手を取り
﹁アーシアは優しいわね。本当に私の自慢の妹よ。
め頭を撫でた。
アーシアの消え入りそうな言葉を受け、リアスはアーシアを抱きし
まって・・・﹂
﹁いえ、そうじゃないんです。ただ、アーリィ姉さまの話を考えてし
しら
アーリィさんの提案に頷いてしまったけれど、やっぱり急すぎたか
﹁大丈夫アーシア
それを気遣うゼノヴィアがいた。
ふとリアスが視線を動かすと、そこには暗い顔のアーシアと、
さっきまでの暗い雰囲気が嘘のように、客間には笑い声が満ちた。
﹁それは酷いよ小猫ちゃん
﹂
﹁変態なイッセー先輩がカッコいいことを言っています。明日は隕石
﹁一誠君が言うと、そうなるって思えてくるね﹂
!
﹁ええ、構わないわ。明後日のことは、アーシアにとって大切だもの﹂
?
108
?
アーシアの言葉にリアスは快く頷く。
そして安堵するアーシアに言葉を贈る。
﹁アーシアが悩んで決めたことなら、私は何も言わないわ。アーシア
を信じているのだからね﹂
リアスの言葉に、アーシアは笑顔になる。
すると、意外な人物が声を発した。
﹁部長、すまないが、私も明日は休ませてくれないだろうか
私も、アーリィのことで少し考えたいのだ。
我儘なことを言っているのは解るが、どうしてもお願いしたい﹂
﹁もちろん良いわ。でも、休んだ分はしっかり仕事をしてもらうから、
覚悟しておきなさい﹂
﹁ありがとうございます︵すまない︶﹂
冗談めかしに言うリアスの言葉を笑いながら、2人は部屋に戻って
いった。
﹁アーシア、大丈夫かな・・・﹂
部屋に入っていく2人を見ながら、一誠は心配する。
アーシアは誰もよりも心優しい女の子なのだ。
アーリィの話は自分たちにはあまりに衝撃的だったのだ。
ましてや、優しいアーシアならショックは大きいだろう。
心配する一誠に、リアスは言葉をかける。
﹁私たちですら未だに信じられない程だもの。
アーシアが心を痛めたのは確かね・・・。だから私たちが彼女を支
えてあげないといけない。
﹂
部長の言う通り、アーシアは俺にとっても部長にとって
だって、私たちは家族なんだから﹂
﹁ですよね
も大切な妹なんだ。
﹂
俺、アーシアの所に行ってきます
﹁あ、ちょっと一誠
に走って行った。
その後、直ぐに悲鳴が上がった。
109
?
リアスの止める言葉も聞かず、一誠はアーシアとゼノヴィアの部屋
!
!
!
最後の晩餐
アーシア・アルジェントは一人考えていた。
リアスお姉さまに無理を言ってお仕事を休ませてもらった。
理由としては、明日の決断のために考える時間が欲しかったことも
あるが、
それ以上にアーリィの過去が言葉がアーシアの心に刺さったのだ。
アーリィは言った。
彼女の町は悪魔に襲われたと。
鮮血に染まった道を歩き、死体の山と燃え盛る町を彷徨い、
目の前で母親が死に、友人が死に、妹が悪魔となって殺されそうに
なり、
その手で大切な妹を殺したと。
その過去を聞いて、アーシアはアーリィの心の内を覗いた気がし
﹄
リアスお姉さまと対談した時の言葉を思い出せば思い出すほどに、
アーシアの心は痛みを感じる。
それは紛れもないアーリィの本心。
大けがをして治療をした際にもアーリィは言った。
﹃目の前で泣いている人を守れないルールなんて、従う気はありませ
ん﹄
﹃私は、私の意志で悪魔を殺します﹄
あの時の彼女の目は、鈍感なアーシアでも解ってしまうほどに濁っ
ていた。
だが、アーシアが感じたのは、恐怖よりも悲しみだった。
教会にいた頃のアーリィは、自分に対してそのような素振りをみせ
110
た。
彼女は悪魔によって何もかもを奪われたのだ。
ならば悪魔を許せないと思うのは当然のことだと思う。
﹄
﹃同盟を結ばれない人間は、ただ管理されるだけの存在なのですか
﹃人間を管理するなんて、まるで家畜を扱うようですね
?
﹃三大勢力だけが幸せで、人間が苦しんでいる和平なんて無意味です﹄
!
たことが無かった。
常にぼーっとしていて、迷子になっている、うっかりなお姉さん
だった。
自分にとって、アーリィは大切なお姉さんだ。
たとえ血のつながりはなくとも、それはアーシアにとって確かなも
のだ。
泣いてしまう自分を抱きしめてくれて、悲しんでいる自分の傍にい
てくれて、
おっちょこちょいな自分を引っ張ってくれていた、うっかりのお姉
さん。
それがアーシアにとってのアーリィだ。
それがアーシアの中に根付いたアーリィの真実だ。
そしてアーリィの語った現状についても、アーシアは苦しむ。
和平という約束が成就されたというのに、
111
その裏で罪のない人間が襲われ、殺され、奪われ、犯され、苦しん
でいるという事実。
それは、優しいアーシアにとって知らない話だった。
優しいリアスお姉さまやイッセーさん等と学校生活を楽しんでい
る裏で、
何もかもを奪われている人間がいるという真実。
それは、優しすぎるアーシアの心を揺れ動かす話だ。
リアスお姉さまは心配ないと言った、被害は少ないと言った。
だがそれでも苦しんでいる人がいる、アーリィ姉さまと同じ目に遭
う人がいる。
リアスお姉さまを信じられない訳ではない。
ただ、疑心を持ってしまったのだ。
ということに。
自分たちだけが幸せで、周りの人が苦しみ、嘆き、悲しんでいる世
界が、
本当に正しいのか
屍の命を吸って咲いた花を、美しい、綺麗と言えるというのか
アーシアは優しい子だ。それは彼女の美徳である。
?
?
だが、優しさは時に自分自身を苦しめる猛毒となる。
それ故にアーシアは自分の優しさに苦しむ。
どっちを選んだとしても、その選択は必ずアーシアを苦しめるだろ
う。
苦痛の無い選択肢など存在せず、
﹂
生きる全ての者に与えられた権利は、選択することしかないのだか
ら。
﹁主よ、私はどうすればいいのですか・・・
もはや存在しない神にアーシアは心を吐露した。
ゼノヴィア・クァルタは考えていた。自分は一体何なのだろうか、
と。
教会の戦士として神を信仰し、奉仕し、そして神のために魔物を
屠ってきた。
それが正しいと信じていたからだ。それが神のためになると思っ
ていたからだ。
自分は人を守る盾であり、魔物を打ち倒す剣であった。
エクスカリバー奪還の命を受けた時もそうだった。
教会に保管されているエクスカリバーを奪い、世界に混乱を招く堕
天使を追ってきた。
エクスカリバーを奪還し、人に災禍をもたらす存在を切り捨てるた
めに。
その際に、部長やイッセーやアーシア、木場と一悶着あったが、
それでも最後は協力して任務をこなした。
だが、その際に神の死を知ってしまい、それによって教会から追放
された。
信仰のために、教会のために奉仕してきた自分を、教会は保身のた
めに捨てたのだ。
それは、自分にとって酷い裏切りだった。
ゆえに自棄を起こして悪魔になった。
今に思えば、酷く滑稽だと思う。味方に裏切られて敵に寝返ったの
112
?
だから。
そんな私を、アーシアは、部長は、そしてイッセーや皆は快く受け
入れてくれた。
それには感謝をしても感謝しきれない。
今を思えば、あの時の私はそれにしか縋ることしか出来なかったの
かもしれない。
なぜなら、私には何も残っていなかったらだ。私は命令されるだけ
の兵士だったからだ。
意志の無い兵士は流されるしかない。
だが、ふと思い至る。
本当に私には何も残っていなかったのか
教会を裏切られた時、私は何もかも失ったと思った。だからこそ自
分から人間を捨てたのだ。
だが、偶然にも再会したアーリィに触れて思う。
と。
戦友であるアーリィは私
私には、まだ大切なモノがあったのではないか
確かに教会には裏切られた。
だが、友であるイリナは私を裏切ったか
を見捨てたか
?
私が勝手に絶望し、勝手に捨てていったのだ。
棄てるべきではなかった大切なモノを。
﹁あははは・・・﹂
ゼノヴィアの口から、渇いた笑い声が漏れる。
勝手に絶望し、勝手に何もかもを捨てて、勝手に人を棄てた憐れな
自分。
それが自分だったのだ。
﹁私は・・・馬鹿だ・・・﹂
そう思うと、何かスッキリした気がした。
まだ自分には捨ててはいけないものがあったのだと。
ならば、もう無理かもしれないが、もう一度拾えばいいのではない
113
?
?
ゼノヴィアはそのことに気付いて身体が震えだす。
違う。私が勝手に捨てたのだ。
?
だろうか。
無理かもしれない、手遅れかもしれない、でもやるだけの価値はあ
るだろう。
﹁アーリィ・・・私は・・・﹂
ふと、アーリィの語った言葉を思い出す。
彼女は悪魔によって何もかもを失った。そして彼女は教会にすら
裏切られた。
だが、それでも彼女は自分であろうとしている。
たとえそれが三大勢力の決めたルールだとしても、
人を苦しめている悪魔を、自分の意志で殺すことを決意している。
その目は確かに濁っていた。恐ろしいと思うほどに。
ゼノヴィアは迷う。
だが、その目から一際輝く光も見えた。それが彼女の人としての強
さかもしれない。
ならば私はどうすればいい
悪魔になってしまった自分が、いまさら人のために剣をとってもい
いのだろうか
だが、アーリィの言葉を察すると、その剣先は人を斬るかもしれな
いのだ。
人を守るために悪魔を斬りすてた剣が、
﹂
悪魔を守るために人を斬る剣に変わるかもしれないのだ。
﹁私の剣は、いったい何を守るためにあるのだ
魚料理と一切れのパン、小皿にもられたいくつかの料理と柑橘系の
そして彼女のテーブルに置かれているのは、
い。
黒い修道服を纏っているが、顔には黒いヴェールは覆われていな
ホテルの一室で、修道女が祈りを捧げていた。
い。
ゼノヴィアはデュランダルに問いかけるが、デュランダルは答えな
?
114
?
部長の剣として戦う誓いをした。
ゼノヴィアは葛藤する。
?
果物、
朱い液体が注がれたワイングラスといったものだ。
彼女は、それを前に祈りを捧げていたのだ。
﹁主よ、あなたの慈悲に感謝を、
そしてアーシアとゼノヴィアに光ある道を示してあげてください﹂
そう言うと、修道女は料理を食す。まるで一口一口を噛みしめるよ
うに。
最後に、一切れのパンを口に運び、グラスの液体を飲み干す。
﹁さて、明日の準備に取り掛かりましょう﹂
食器を片づけると、彼女はテーブルに置かれた物を確認する。
バツ印の書かれた駒王町の地図、
針、釘、杭、糸、銀の輝きを放つ剣、聖書、液体の入った小瓶、十
字架などなど、
あまりにもおかしなものが置かれていた。
修道女は、それらの数を、劣化を、効力を、確認する。
﹁ああ、明日が本当に楽しみですね﹂
修道女、アーリィは明日のことを、まるで幼子のような表情で待ち
わびた。
115
対談・決意・そして・・・
駒王学園のオカルト研究部の部屋。
床に敷かれた魔方陣が描かれたカーペットに、
壁に掛けられた、色々と禍々しいオーラを纏ったオブジェクトの
数々。
2つのソファと1つのテーブルに、理事長先生が使うような大きな
机が一つ、
そしてなぜかあるシャワー設備。
オカルト研究部の部屋は、部室というにはあまりに広く、
むしろ理事長室や校長室よりも広いのではないだろうか。
そんな部屋で、テーブルを挿んでリアス・グレモリーとアーリィは
対峙していた。
リアスの方には眷属たちが並び、アーリィは扉を背にして座ってい
116
る。
リアスはいつものように駒王学園の制服を纏い、
アーリィは出会った時と同じように黒い修道服を纏い、黒いヴェー
ルで顔を覆っている。
一誠たちも駒王学園の制服を着ており、幾人かは緊張で身体が強
張っている。
両者の目の前には、紅茶の入ったティーカップが置かれるが、
アーリィは以前とは違い、決して手を付けようとはしない。
リアスもアーリィも、見た目や雰囲気は微笑ましいというのに、
一誠たちは、まるで極寒の中にいるような寒気を感じていた。
足元のダンボール箱は、
﹁ヒィィィィィィィィィィ﹂と唸り声をあげてガタガタと振動してい
る。
アーリィの愉しい昔話を聞いた日から明後日、
それともアー
という日なのだ。
つまり、今日はリアス等とアーリィにとっての運命の日となる。
そう、アーシアがどちらを選ぶのか
以 前 と 同 じ よ う に リ ア ス 等 と 仲 良 く 暮 ら す の か
?
?
リィに着いて行くのか
それが今日、決まるのだ。
アーシアはまだいない。何故かゼノヴィアもいないが。
一誠の両親等と楽しい朝食には出てきたが、まだ決心がつかないの
か、
その顔は明るくも昏く、一誠のお母様から心配されていた。
時間になっても部屋から出てこず、リアスがアーシアを心配で確認
しに行ったら、
ゼノヴィアからまだ悩んでいるので遅れる、と言われた。
直ぐに行くので、少し待っていてほしいとも。
リアスは少し首を傾げたものの、別段気にすることもなく、
﹁待っているからね﹂とだけ伝えた。
魔方陣で部室に移動した後、約束の時間よりも少し早くアーリィが
到着した。
彼女は、大きなボストンバックを2つ持って入ってきた。
どうやら、昨日はお土産用として色々と駒王町を回りながら購入し
たらしく、
持ち込んで来た鞄一つでは入りきらなくなり、泣く泣く新しいのを
買ったとか。
そんなことを笑いながら語られ、つられて笑いながら相槌をうっ
た。
約束の時間になりつつも、まだアーシアは来ない。
﹂
ただ待つだけでは時間を持て余してしまうので、リアスはアーリィ
と語らうことにした。
﹁ところでアーリィさん、この町はどうでしたか
学び舎も、若き学生たちがその身を削って命を輝かせている。
アーシアやゼノヴィアさんと買い物なんて夢みたいでした。
商店街の賑やかさは私の励みになりましたし、
誰もが今を必死に生き、そしてそのために行動する。
らしい町です。
﹁ええ、とても愉しい町ですね。多くの人々が活気に溢れ、本当に素晴
?
117
?
ええ、本当に素晴らしい町で﹃した﹄﹂
アーリィの言葉にリアスは笑みを零す。それは当然です、というド
ヤ顔をして。
﹂
﹁それでアーシアの件ですが、私たちは﹃アーシアを信じ、彼女の決め
たことに従う﹄、
それが約束でしたわね
﹁ええ、彼女の決めたことですから。私はその意見を尊重したいと思
います。
ですので、私は約束を守りますよ﹂
﹁私も同じです。可愛い妹のアーシアが決めたことですもの。
私も約束を守りますわ﹂
互いに約束を交わし、それから少しの会話を続けて場が和んだ時、
部室の扉をたたく音が聞こえた。
﹁部長、ゼノヴィアです。ようやくアーシアが決意をしたみたいで、た
だ今連れてきました﹂
﹁あら、もう少しかかると思っていたけれど。どうぞ入りなさい﹂
リアスがそう言うと、扉が開いてゼノヴィアが入ってきた。
その後ろを、白い修道服を纏ったアーシアが入る。
相当に葛藤と苦悩をしたのだろう。アーシアの顔は陰り、疲れてい
るように見えた。
す、すみません。
だが、その目は何よりも強い光を携えていた。
﹁あ、あの
い、ごめんなさい﹂
﹁気にすることはないですよ、アーシア。私が無理に言いだしたこと
ですから﹂
﹁ええ、アーシアは悪くないわ。悪いのは私たちですもの﹂
﹂
謝るアーシアを和やかに窘め、3人は互いに笑みを零す。
﹂
﹁それでアーシア、ようやく決まったのね
﹁はい
?
118
?
私、ずっと考えても決められなくて、こんなにも時間をかけてしま
!
リアスの問いにアーシアは答える。
!
それは彼女の決意の証なのか、それとも別の何かか、その声には強
い意志を感じた。
﹁アーシアが来る前に、私とアーリィさんで話をしていたのだけれど、
私も彼女も、貴女の決めたことには何も言わない。
これを互いに約束したの。
だから、私たちのことは気にせず、貴女は自分に正直になりなさい﹂
﹁アーシア、私は貴女の意志を尊重しますよ。
たとえ茨の道を歩むとしても、貴女が決めたのならば、私は何も言
いません。
私にはそれを止める権利はないのですから。
ですが、貴女と一緒に歩むことは出来ます。
だから、貴女の意志を話してください。私は貴女と共にありますか
ら﹂
﹂
119
リアスとアーリィの言葉を受け、アーシアは心を決めた。
﹁私は・・・
!
崩壊
﹁私は、アーリィ姉さまに着いて行きます﹂
その言葉が部室に響き渡るも、しばらくの間は誰も何も動かなかっ
た。
まるで世界が止まったかのように、全てが無音に包まれた。
﹂
そしてその静寂を破ったのは、大きな声だった。
﹁何言ってるんだアーシア
兵藤一誠が声を上げた。
それはまるで、予想通りの答えを期待していたのに、
﹂
まるで違う答えを言われて驚いている司会者の様だ。
﹁アーシア、理由を聴かせてもらえるかしら
だから私、そのためのお手伝いをしたいのです。
から。
だって、誰もが幸せに生きるために、手を取り合ったのだと思った
それは絶対に間違っていると思います。
る。
私たちが幸せに暮らしている一方で、人間のみなさんが苦しんでい
でも、アーリィ姉さまの話を聞いて思ったのです。
これで誰もが幸せになれると思っていました。
合って、
和平会談が決まって、悪魔も天使も堕天使も、みんなで手を取り
﹁私は、何も知りませんでした。
リアスの視線を受けるも、アーシアはその目を見据える。
驚く一誠とは対照的に、リアスは静かな声でアーシアに尋ねる。
?
﹂
たとえそれが凄く大変でも、みんなが笑って欲しいから・・・﹂
﹁そう、それが貴女の意志なのね・・・
?
﹂
アーシアの言葉を受け、リアスは目を伏せる。その姿に、兵藤一誠
何を言っているんですか
が何故か驚く。
﹁ぶ、部長
!
120
!?
このままじゃ、アーシアがあっちに行っちゃうんですよ
!?
!?
私はアーリィ姉さまと一緒に行くだ
慌てる一誠に、アーシアは笑って答える。
﹁大丈夫ですよ、イッセーさん
けですから。
そんなに心配しなくても大丈夫です
それに、私に勇気をくれたのは、イッセーさんの言葉なのですから
!
私は、みんなが幸せになるためのお手伝いに行くだけで、
!
﹃たとえ互いに憎しみ合っていても、手を取りあえる日が来る﹄
だから私、苦しんでいる人と寄り添って、
﹂
人間の方々とも一緒に手を取りあえる未来のお手伝いをしたいの
です﹂
﹂
﹁だからって、アーシアが犠牲になるなんて間違ってる・・・
﹁
﹁アーシア、本当に良いのですか
アーシアの決意に、今まで黙っていた、アーリィが口を開く。
は届かなかった。
一誠の呟きは、あまりに小さすぎたのか、幸か不幸か、アーシアに
!
そう簡単にここに帰ってこれないのですよ
私の決めたことを尊重するって言いましたよね
それほどまでに大変なのです﹂
﹁ア ー リ ィ 姉 さ ま
﹂
?
迎えに来た私が言うのもおかしいですが、一度私に着いてくれば、
?
﹂
!
だが、アーシアとアーリィが互いを見つめる最中、意外な人物が声
その姿に、リアスたちは黙ったままだ。
﹁アーリィ姉さま・・・
アーシア、今度こそ大切なあなたを守らせてください﹂
アを守ることですね。
でしたら、私のやることは、アーシアの決意を尊重し、私がアーシ
ね。
﹁そう、でしたね。アーシアの決めたことに口を挟まない、約束でした
アーシアの言葉に、アーリィは少しポカンとした後、クスリと笑う。
?
121
!
?
?
を上げた。
﹂
﹁部長、私もアーシアと共にアーリィに着いて行って良いだろうか
﹁ゼノヴィア
ないでしょうか
﹂
﹁ということですので、アーリィさん、ゼノヴィアも一緒にお願いでき
向き直った。
ゼノヴィアの言葉に、リアスは頷き、そして驚いているアーリィに
﹁解りました﹂
をお願いね﹂
だからゼノヴィア、貴女にアーシアを守る命を与えます。アーシア
﹁そうね、アーシアを一人で行かせるのは私も心細いわ。
何かを思い、優しく声をゼノヴィアにかける。
頭を下げるゼノヴィアに、リアスは目を見張るも、
だから私も一緒に行かせてくれ、頼む﹂
アーシアを思う気持ちは私も同じだ。
それなりの力を持っていると自負している。
ていたんだ。
それに、追放されたとはいえ、私は教会の戦士で、斬り姫と呼ばれ
それならば、アーリィが不在でも私がアーシアを守れる。
着いて行く。
﹁アーシアを一人で行かせるのが心配ならば、悪魔殲滅者だった私が
線を向ける。
その行動に、リアスや一誠他眷属たちや、アーシアにアーリィも視
アが、リアスの前に立つ。
アーシアを案内した後、ずっと壁を背にし、沈黙していたゼノヴィ
?
んか
﹂
急な話であることは解っています。ですが、どうかお願いできませ
一緒にいたあなたなら、彼女の実力も知っているはずです。
?
そうですね、ゼノヴィアさんが来て下さるなら、私にとっては嬉し
い限りです。
122
?
﹁え、ええ、私も少し驚きましたが。
?
それに、私もゼノヴィアさんに色々とお話することもあります。
ですので、私は快くお受けしますよ。
ゼノヴィアさん、よろしくお願いしますね﹂
﹁ありがとうございます﹂
﹁ああ、こちらこそ頼む﹂
アーリィの言葉に、リアスは頭を下げる。
ゼノヴィアさん、一緒にがんばりましょう
﹂
﹁アーシア、私も一緒に着いて行くことになった。よろしく頼む﹂
﹁はい
に顔を向ける。
リアスの返答に、アーリィは笑顔を綻ばせ、アーシアとゼノヴィア
﹁そう、ならばお願いしますね﹂
そのためのことなら、私は喜んで助力します﹂
ば、また会えます。
﹁それに、二度と会えない訳ではありません。アーシアが望むのなら
アーリィの言葉に、リアスたちは黙ったままだ。
い﹂
私たちでアーシアを絶対に守ります。ですから、安心してくださ
す。
心配だと思いますが、私や一緒に来てくれるゼノヴィアさんもいま
ご迷惑だと思いますが、そこは互いに決めたことですから。
ですから、アーシアは私と共に来てもらうことになりました。
束でしたね。
これは彼女の意志であり、彼女の決めたことを尊重する、という約
﹁リアスさん、アーシアは私に着いて来ることを決めました。
そんな雰囲気の中、アーリィがリアスへと身体を向け、話す。
そしてアーシアとゼノヴィアは、互いに手を取り合って笑いあう。
!
﹁私は荷物を纏めてしまいましたが、二人は荷物の準備が必要ですよ
ね
名残惜しいので、この町をまた回ってきます﹂
﹁私も荷物の準備をしてきますね﹂
123
!
時間がかかると思いますので、少し席を外しますね。
?
﹁ふむ、必要なものは何だったろうか・・・
﹂
そう言って、アーリィはボストンバックを一つ手にして部室を出て
行き、
アーシアとゼノヴィアは魔方陣で部屋へと戻っていった。
部室に残されたのは、リアスたちだけとなった。
アーリィはその後、名残惜しそうに駒王町を回る。
お世話になった商店街では、各々のマダムにお礼を述べて、なぜか
飴をいただき、
アーシアとゼノヴィアと入った小物店では、小さなアミュレットを
購入し、
駒王学園では、校門の前で祈りを上げて、深々と礼をした。
そして最後に、もはや誰もいない荒れた教会へと足を運ぶ。
教会は人がいなかったのか、何故か荒れており、
並べてあっただろう長椅子は折れ、壊れ、散乱し、床には幾つかの
穴が見える。
ただ、教会が建てられた当初から今までの間、ずっと置かれている
十字架はそのままであり、
それがより一層神秘的に見えた。
アーリィは十字架の前へと進み、自分を導いてくださった神へと祈
りを捧げる。
﹁主よ、私の願いを聞いていただき、ありがとうございます。
私は、貴方が導いてくださったことに、ただ祈りを捧げることしか
出来ません。
願わくば、アーシアとゼノヴィアに加護をお与えください﹂
﹂
すると突然、立てつけの悪かっただろう扉が、音を立てて勢いよく
開く。
﹁あら、ごめんなさい。もう準備が出来てしまったのですか
当にごめんなさい。
﹁わざわざ私を探しに来てくれたのですね。迷惑をかけてしまい、本
に来ただろう相手を見据える。
アーリィは、口元に笑みを浮かべながら、ゆっくり振り返り、迎え
?
124
?
兵藤一誠さん﹂
125
亀裂
﹁わざわざ迎えに来てくださったのですか
本当にありがとうございます、兵藤一誠さん﹂
教会の扉の前に立っている一誠に、アーリィは感謝の言葉を述べ
た。
もう少し時間がかかると思っていたけれど、思いのほか早く終わっ
てしまったようだ。
それで、わざわざ自分を探しに来てくれたのだろう、そうアーリィ
は思った。
だが、肝心の一誠からの反応はない。
ただ、何故か自分を睨みつけている感じがする。
しかし、アーリィにはその理由が思い至らない。
自分は一応、アーシアとゼノヴィアさんの準備を待つために、外に
出かけるとは言っていた。
もしかして、行き先を言わなかったことに対して怒っているのだろ
うか。
自分が歩き回った感じでは、駒王町はそう広くはない町である。
それでも、商店街やら学校やらデパートや駅と、様々な建物が多く
みられる。
私一人を探すとすれば、いくら狭い町だからといっても、大変だっ
たに違いない。
だとしたら、それは大変な迷惑をかけてしまったのだが、
た。
もしも、探すのが大変だった
うアーリィは考えた。
なにか怒っていらっしゃるようです
と言われたら素直に謝罪しよう、そ
!
126
?
肝心の一誠が黙ったままなので、それが本当のことなのかもアー
どうしました
リィには判らない。
﹁あ、あ の ー
が・・・﹂
?
一誠の表情と雰囲気に戸惑いつつ、アーリィは恐る恐る尋ねてみ
?
﹂
だが、兵藤一誠の口から出た言葉は、アーリィの予想もしなかった
と、突然なんですか
﹂
!
ものだった。
あの、え
﹁アーシアとゼノヴィアに何しやがった
﹁え
?
当然だろう。
!
ものだ。
﹂
﹁しらばっくれんな
に仕組んだんだ
﹂
!
﹁だったら、なんで二人はお前を選んだんだ
とりあえず落ち着きましょう
ヒッヒッフー
﹂
まずは深呼吸です。ヒッヒッフー
私には何を言っているのかさっぱり解りません。
ならお前がインチキしたに決まってるんだ
そんなのおかしいだろ
そんなことをする訳がない。だって自分は・・・。
アーリィは、一誠の言葉に耳を疑った。自分が二人に何かした
それに、二人に何かしたって、別に私は何も・・・
﹁ちょ、ちょっと待ってください。い、いきなり何なのですか。
!
!
じゃないですか
あと、私は二人には何もしてません
﹂
それに、二人の決めたことを尊重するって、リアスさんと約束した
し。
アーシアもゼノヴィアさんも、そのために荷造りしてるはずです
二人が決めたことを、今更おかしいと言われても困ります。
すよ。
その、アーシアとゼノヴィアさんのことなら、二人が決めたことで
ほら、落ち着きましたでしょう
?
てめぇが二人に何かして、自分を選ばせるよう
自分でも予想しなかったことを言われてしまえば、誰だって戸惑う
ましてや、アーシアとゼノヴィアさんに何をした
と、
当たり前だ、迎えに来てくれただろう人が、いきなり怒るのだから
一誠の叫びに、アーリィは訳が解らなかった。
?
!
!
?
?
!
127
?
﹁ですから
!
!
!
!
アーリィは取りあえず、目の前の兵藤一誠を落ち着かせようとす
る。
多分、二人と離れ離れになるのが受け入れられず、文句を言いに来
たのだろう。
しかし約束は約束だ。アーシアとゼノヴィアさんが自分を選んで
くれたことは事実だ。
ならば、ここは心を鬼にして一誠さんを諭さないといけない。
それに、彼の怒りは一時的な物であり、落ち着かせて話し合えば
きっと解ってくれる。
何より、彼だってアーシア、ゼノヴィアさんを大切に思っているの
だから。
﹁一誠さん、そう思ってしまうのは仕方がないと思います。
二人を心配するあまり、感情的になってしまうのも解ります。
私を信じなくてもいいです。
﹂
それにギャスパーまで
﹂
そして、後ろからは木場、小猫ちゃん、段ボールを被ったギャスパー
小猫ちゃん
!
もやってきた。
﹁木場
!
128
ですが、アーシアとゼノヴィアさんを信じてくれませんか
そして、二人の覚悟と思いを認めてあげてください﹂
アーリィは頭を下げる。 を携え、
一方は、長く綺麗な朱い髪に豊満な胸、そして誰もが振り向く美貌
そしてその光からは二人の姿が見えた。
突然、教会内に声が響くと、一誠の目の前の床に魔方陣が現れる。
﹁悪いけど、約束は無しにしてもらうわ﹂
きっと大丈夫と思ったから。 た と え 私 に は 信 用 が 無 く て も、二 人 の こ と を 思 っ て い る な ら ば、
?
もう一人はポニーテールに、これまた豊満な胸を携え、柔和な笑み
朱乃さん
をしていた。
﹁部長
!
一誠は二人の登場に声を上げた。
!
!
﹁まったく、一誠君は一人で先に行ってしまうんだから﹂
﹂
﹁そうです。後で私に小豆羊羹を一本献上する必要があります﹂
﹁お外こわいですー
だ
﹁約束をなしにする、とはどういうことですか
﹁部長
﹂
それを止めないのは本当の家族じゃない、ってね﹂
私の、いえ、私たちの大切な家族が危険な目に合うと解って、
でもね、一誠が教えてくれたの。
たわ。
確かに、アーシアとゼノヴィアの二人の意見を尊重すると、約束し
なったの。
﹁申し訳ないけれど、貴女に二人を連れて行かせるわけにはいかなく
その問いに対し、リアスは胸を張って答える。
アーリィは首を傾げてリアスに尋ねる。
﹂
みんな、アーシアやゼノヴィアのことを大切に思ってくれていたん
胸が熱くなった。
アーシアとゼノヴィアを除いたリアスファミリーの集結に、一誠は
!
いわ﹂
﹁部長
﹂
!
すると、先ほどから黙っていたアーリィは、溜息を一つつくと、ゆっ
解決だ。
あとは、アーリィが素直に言うことを聞いてくれれば、全ては円満
の念を上げる。
リアスの態度に、一誠は好感度を急上昇させ、他の眷属たちも尊敬
俺、一生部長に着いて行きます
だから悪いけど、アーシアとゼノヴィアを行かせるわけにはいかな
﹁それに、私には大切な家族を守るという義務があるの。
そしてリアスの言葉に、アーリィは沈黙した。
﹁・・・﹂
る。
リアスは一誠に向かって片目でウィンクし、一誠の心は舞い上が
!
!
129
?
!
くりと口を開いた。
﹁やっぱり、悪い予感って当たるモノなのですねぇ﹂
アーリィの言葉にリアスたちは首を傾げる。悪い予感とはどうい
う意味なのか
﹁どうしてこうも私の予感って的中するのでしょうか、しかも悪い方
向に。
もしかしてこれも主の試練でしょうか。だとしたら、本当に殴りた
くなりますね。
﹂
あ、でも今は天使様たちが運営しているんでしたっけ
だとしたら天使様を殴るべきでしょうか
?
だって、あの子の幸せが私の望みだったのですから。
りだったんですよ。
﹁だから私、もしもアーシアが選ばなかったら、素直にここを去るつも
した。
その視線はリアスたちではなく、リアス達の心を覗いている感じが
だから二人一緒に出会えた事は、私にとって嬉しかったんです﹂
もの。
それに、別れてしまったゼノヴィアさんも、まだ彼女のままでした
た。
けれど、たとえ変わってしまっても、アーシアはまだアーシアでし
ました。
﹁ええ、それを知ってしまった時のことは、本当にどうしようかと思い
顔はヴェールで覆われているものの、まっすぐな視線を感じる。
アーリィはリアスたちを見ている。
で試したんです﹂
でも気付いてしまったら、不安がどんどん大きくなって、縋る思い
まぁ、始めはそれを気にしていませんでした。
﹁皆さんと初めて会った時、私、違和感があったのですよ。
すると、アーリィの顔がリアスたちの方に向く。
ぶつぶつと言い出すアーリィに、リアスたちは戸惑う。
?
もはや聖女ではなく、ただのアーシアとして生きていくのなら、
130
?
私は喜んで身を引こうと思いました。
けれど、彼女は私を選んでくれた、一緒に来てくれると言ってくれ
たんです。
私、嬉しかったなぁ。あの子は、あの子たちは、まだ私を信じてく
れたのですから﹂
アーリィの語尾は次第に強くなる。
﹁それに私、少なくともあなた達を信用しようと思っているのですよ
ど ん な 結 果 で あ れ、アーシアを、ゼノヴィアさんを
助けてくれたのですから。
貴女達なら信じても良かった。信じたいと思ったのです。
﹂
今はまだ無理でも、未来で、本当の意味で手を取りあえると思って
いるのです。
悪魔の皆さん
?
ねぇ
?
アーリィの口は三日月の如く歪んで見えた。
131
?
開幕
﹁いつから・・・私たちが悪魔だと気付いたの
リアスは震える声で尋ねた。
﹂
教会の関係者と知ったあと、リアスたちはなんとか誤魔化そうとし
た。
アーリィの前では悪魔として活動してはいないし、
彼女の方も、こちらに気付いていた素振りすら見せていなかった。
なのに、いったいどこでバレてしまったというのか。
﹂
リアスの問いにアーリィは然もありなん、という風に答える。
﹁出会った当初から、なんて言ったらどう思います
た際、
どうしたのでしょう
と思ったのですよ。
その場にいた全員が頭を押えたじゃないですか。
あれ
思い、
その時の私は気にすることもありませんでした﹂
アーリィは続ける。
﹁次の違和感は、アーシアとゼノヴィアさんの姿でした。
と
アーシアとゼノヴィアさんに出会った嬉しさで、私が主に感謝をし
﹁始めの違和感は、みなさんと出会った時ですね。
しかし、その言葉が本当なのかどうか、リアスたちには判らない。
だが、すぐにアーリィは﹁冗談ですよ﹂と笑う。
た。
その言葉に、リアスたちは背筋に氷を入れられたような寒気を思え
?
から。
あれ
無くしてしまったのでしょうか
と思いまして、
不思議じゃないですか。あれだけ主に対して敬虔たる二人だった
断られたのですよねぇ。
買い物に出かけた際にプレゼントしようとしたんですけど、なぜか
?
132
?
血の匂いや凄惨な死体を前に気分を悪くされたのでしょうか
?
だって二人とも、昔のように十字架を身に着けていなかったのです
?
?
?
というのに。
ま る で、 つ け ら れ な い 理 由 で も あ る か
の よ う に﹂
ねっとりと語るように彼女は続ける。
﹁そして出会った後の話し合いでもそうでしたね。
みなさん、普通に私の﹃言葉﹄を﹃理解﹄してくれたのですから。
不思議だったのですよね。
﹂
だって、日本に初めて来た私の言葉を、誰もが解ってくれなかった
私の﹃言葉﹄なのに、
あなた達は一字一句間違えずに理解してくれたのですから。
ところでみなさん、私が一体、﹃何語﹄を話していると思いますか
まるで試す様に問うアーリィだが、その口元は相変わらず笑みの形
を保っている。
リアスたちの頬に汗が伝う。
悪魔の力として、あらゆる言語が理解できるというものがある。
たとえ異なる言語だとしても、共通の言葉として理解できる、とい
うことだ。
日本人である兵藤一誠にとっては、全ての言語が日本語に聞こえ、
日本語で話していても、この能力によって自動で相手の言語に合わ
せてくれるのだ。
だが、あまりに普通に会話をしていたことで、まったく気にもして
いなかった。
ましてや、周りからどう見えていたなんて。
﹁それに兵藤一誠さんを、いえ、
﹃赤龍帝﹄を教えていただいた際に思
い出したのですよ。
今宵の﹃赤龍帝﹄が、
﹃悪魔陣営﹄にいるというミカエル様の言葉を。
その時に気付きました。ああ、みなさんは悪魔なんだぁって。
だったら、自分が感じていた違和感の理由にもなるんですよ。
まさか、アーシアとゼノヴィアさんを保護し、この町を管理してい
るのが悪魔だったなんて。
もっと言うなら、駒王学園にもいますよね、御同類の方々が﹂
133
?
﹁まさかソーナ達のことも・・・
たでしょうか
﹂
﹁昔の私でしたら、あの話し合いの場で、みなさんのそっ首を刎ねてい
だが、アーリィはそれを気にもせずに喋り続ける。
とに驚く。
リアスは、自分たちだけでなく、ソーナ達のことも知られているこ
さを知らされる。
一誠は自分の立ち場を指摘され、改めて﹃赤龍帝﹄という名の大き
!?
そしてついでに、学校の方へも襲撃していたのではないでしょうか
?
まぁ、どうなっていたのかなんて、私にも分かりませんが。
ですがあの場で無くても、お茶会の際に、ミント・ローズマリー・
タイムといった、
魔よけの薬草を食べさせることも出来たのですよね、紅茶でもス
コーンにでも混ぜて。
もしもそれを食べていたら・・・面白いことになっていたかもしれ
ませんね﹂
アーリィは普通に話しているが、リアスたちにしてみれば身が縮む
話だ。
ようは、襲う気ならばいつでも出来ていた、ということだ。
それも、まったくこちらに気付かせずに。
﹁でもアーシアを、ゼノヴィアさんを助けてくれたわけですし、
幸せそうな二人を見ていたら、その幸せを奪っていいのでしょうか
と悩みました。
だって、本当に幸せそうな顔をしてましたもの。
特に兵藤一誠さん、アーシアがあなたに向ける顔なんて、
﹂
正直、お姉ちゃんとして嫉妬を覚えるほどでした﹂
﹁えー
まさか好意を抱かれていたとは思いも寄らなかったのだ。
アーシアは自分にとっては大切な妹的、家族的な存在で、
突如告げられた言葉に一誠は驚く。
!?
134
?
?
﹁だからリアスさん、実を言いますと、貴女の提案には本当に感謝して
います。
本当にありがとうございました﹂
ぺこりと頭を下げるアーリィだが、この状況での行いは異様に見え
る。
﹁ど う い う 姿 で あ れ、
あなた方がいなかったら、私はアーシアとゼノヴィアさんに出会う
ことが出来ませんでした。
だから私、あなた達を信用しようと思ったのです﹂
顔を上げたアーリィは、まっすぐにリアスたちを見る。
﹁もしも、あなた達が今まで出会った悪魔たちと違うのであれば、
私も憎しみを棄てることが出来るのではないかって。
あの時のことを許してもいいんじゃないかって、思ったのです。
だから私は、現状における三大勢力の情勢や人間への行い、そして
135
自分の過去を話しました。
あなた方が信じている和平について考えてほしかったから。
その裏で、誰かが不幸になっている今のままではダメだって﹂
もしもアーシアとゼノヴィアがいたならば、アーリィの声に悲痛を
感じただろう。
だが、この場に二人はいない。
﹁そしてアーシアとゼノヴィアさんが、
私に着いて来てくれると言ってくれた時は、本当に嬉しかったで
す。
こんな私を信じてくれると言ってくれたのですから。
もしも選んでくれなくても、私は素直に去るつもりでしたのに﹂
アーリィは一息つき、また喋る、まるで舞台の上で謳うように。
﹁兵藤一誠君、私、貴方の言葉を信じたかった。
﹃今は憎しみ合っていても、互いに手を取りあえる未来が来る﹄でし
たっけ
たとえ理想だとしても、私はそれに助力したいと思ったのですよ
アーシアが私を選んでくれた理由でしたね。
?
﹂
﹁だったら俺たちの仲間になってくれよ
そしたらアーシアとゼノヴィアと一緒に暮らせ・・・
﹂
突然、後ろで大きな音が響き、リアスたちが振り向くと、教会の扉
が閉まっていた。
その間に、アーリィは足元に置いてあるボストンバッグに手を伸ば
す。
﹁でも・・・駄目でした。
止めないのは家族じゃないから
私が二人に何かしたから
貴女達は自ら申し出た約束を、契約を、自らの意志で破り捨てた。
それも、私が悪い
家族を守りたいから
?
?
﹃剣を取る者は、剣で滅びる﹄
﹃敵を愛し、迫害するもののために祈れ﹄
計画はゆるがない﹄
﹃あなたのしようとすることを主にゆだねよ。そうすれば、あなたの
﹃高ぶりは破滅に先立ち、心の高慢は倒れに先立つ﹄
ません﹄
﹃からだを殺しても、たましいを殺せない人たちなどを恐れてはなり
なしえましょう﹄
﹃私は、神に信頼しています。それゆえ、恐れません。人が、私に何を
﹃神はまた、人の心に永遠を与えられた﹄
よく見ると、それらには様々な言葉が記されている。
覆いだす。
何枚も、何十枚も、何百枚もの紙切れが吹き出し、教会の壁や扉を
すると、開いた口の中から、
にいれる。
ボストンバッグのチャックがゆっくりと外され、アーリィは手を中
もう結構ですから﹂
ああ、何も仰らないでください。もはやあなた達の言葉を聴くのは
笑える冗談ですね。反吐が出ます。
?
?
などなど、目に入るだけでも、滅入ってしまうほどだ。
136
!?
!
?
そして、その一枚一枚が強力な聖の力を帯びていた。
ゆえに、リアスたちは少しずつだが、身体に異常を感じ始める。
﹁やっぱりあなた達も有象無象と同じでした。
口から綺麗な言葉を吐こうとも、結局はこういうことしかしないん
ですよ。
家族を、友達を、町を全て焼き尽くし、全てを奪っていったあいつ
らと、
私の妹を奪い、妹に恋人殺しをさせ、私に妹を殺させたあいつと同
じなんですよ。
結局は約束なんて、あなた︵悪魔︶たちにとってはただの紙切れと
同じだった。
たとえ約束をしたところで、後から全てを御破算にすることしか考
えないんです。
だって、約束を遵守するはずの貴女達が、自分勝手に契約を無視す
なら、
結局はこうするつもりだったんでしょ
﹂
私の名はアーリィ・カデンツァ。ただの修道女にして、ただの悪魔
﹁仕掛けてきたのはそちらが先です。
見えた。
そして、どさりと落ちた鞄の口からは、同じく銀色の何かが大量に
剣。
ゆっくりと抜かれたのは、先日映像で見た大きな銀色の光沢を放つ
?
137
るんですから﹂
アーリィの顔は見えないというのに、彼女からは射る様な視線が感
じられる。
﹁だったら、それに対するお仕置きがあっても構いませんよね
ませんか
ならば最後は、最も原始的で、最も簡潔な方法で決めようじゃあり
せん。
話し合いの時間はとうに過ぎた。もはや言葉などに意味はありま
?
それに、私があなた達のお願いを無視して二人を連れていくという
?
殲滅者﹂
十字架の前で、リアスたちの前で、アーリィは口元は三日月の如く
﹂
138
裂けた。
﹁お仕置きの時間ですよ
?
修羅
アーリィの突然の豹変に驚く一誠たちだが、相手の敵意を肌で感じ
取りすぐさま戦闘準備を行う。
一誠は左腕に﹃赤龍帝の籠手﹄を出現させ、
木場は﹃魔剣創造﹄によって剣を構築し、小猫は己の拳を構える。
ギャスパーは震えながらダンボールを頭から外し、﹃停止世界の魔
眼﹄の準備を始める。
朱乃は嗜虐的な笑みを強め、リアスは優雅にアーリィを見据える。
﹁どうして戦わなくちゃいけないんだよ
あんたが悪魔に酷い事をされて、憎んでいるのも解る
でも俺たちと手を取り合うことも出来るはずだ
﹂
こんなことをして、アーシアとゼノヴィアを悲しませたいのかよ
!
!
!
﹁・・・﹂
一誠の必死の言葉にアーリィは喋らない。
もう一度呼びかけようとするも、それをリアスが手で制し、首を横
﹂
に振る。
﹁部長
﹂
!
そのための第一歩よ。
﹂﹂﹂﹂
大丈夫、私たちが全力でサポートするわ。良いわね
﹁﹁﹁﹁はい
!
﹁行くわよ皆
﹂
その言葉に一誠は胸を熱くし、心が熱い思いで満たされる。
リアスの言葉を受け、それぞれが笑顔で頷く。
!
﹂
一誠も言ったじゃない。話し合えば誰でも手を繋げられるって
﹁だから彼女を止めるわよ。
リアスの言葉に一誠は反論をしようとするも、言葉が出ない。
﹁そんな
だから、何を言っても聞いてくれないわ﹂
﹁無駄よ一誠。彼女は今、憎しみに囚われているの。
!?
!
139
!
主の掛け声と共に、臣下たちは動き出した。
だが聖なる結界の中にいるせいか、先ほどから身体が酷く重い。
翼を展開して上空へと上がることが出来ない。
また各臣下たちにも、多少なりと影響がみられる。
﹃騎士﹄である祐斗の持ち味は速さだが、普段よりも遅く見える。
﹃戦車﹄の小猫は耐久性と膂力がウリだが、それでもこの不調には不安
が残る。
﹃女王﹄の朱乃に関しては、上空へ移動できないせいで、固定砲台へと
役割を変える。
﹃僧侶﹄のギャスパーは、悪魔と吸血鬼のハーフ故か、自分たちよりも
顔色が悪い。
かくいうリアス自身も、この結界での長時間戦闘はきついとみてい
い。
唯一、赤龍帝の一誠は、他と比べるとその影響はないように見える。
発動。
対象はアーリィだ。
いくら悪魔殲滅者であろうと、魔眼に囚われてしまえば何も出来な
い。
140
戦闘経験が少ないものの、頼れる一誠を中心に据えて行動させるべ
きだろう。
多少なりとハンデを受けているものの、
こちらは数が圧倒的に有利であり、自分たちは難敵と戦い、そして
勝利してきた。
その事実が、リアスだけでなく一誠たちに背中を押す。
だが彼女たちは失念していた。
アーリィが、かつて﹃ゼノヴィアと共にいた彼女﹄が、一体どうい
﹂
う存在なのかということを。
﹂
﹁ギャスパー
﹁はい
!
リアスの掛け声を聞いたギャスパーは、即座に﹃停止世界の魔眼﹄を
!
だが、アーリィは咄嗟に台に置かれていた敷物を引っ張り、自身の
目の前へ投げるように広げた。
敷物は彼女の壁になるよう広がり、ギャスパーの視界に入った敷物
が空中で停止する。
結果として、アーリィを魔眼で捉えることは出来ないどころか、
﹂
敷物によって自分たちの視界を遮断されてしまった。
﹁そんな
卑怯だぞ
﹂
姿を現しやがれ
﹂
︵問題ありません︶︵無事です︶︵こちらは大丈夫です
!
気分が悪くなる。
﹁クソ
﹁大丈夫です
﹁みんな無事
叫ぶ一誠だが、何も返答はない。
!
それに、どうやらミントといった香草の匂いを感じ、息を吸う度に
噴煙によって自分たちの姿が視界から遮断される。
爆音により耳が一時麻痺し、閃光により目の前が真っ白に染まり、
突如、噴煙と爆音と閃光が教会で満たされた。
驚くリアスだが、アーリィの方から何かが転がり、
!?
﹂
この邪魔なものを払いなさい
﹂
﹂
!
﹁ギャスパー
﹂
すると、リアスの前には両目を押えているギャスパーが現れた。
吹き飛ばす。
リアスの命令を聞き、木場は風の魔剣を作りだして、一気に粉塵を
﹁解りました
﹁祐斗
だが駆け寄ろうにも、粉塵のせいでギャスパーの姿が見えない。
リアスの叫びも空しく、ギャスパーからの返答はない。
﹁ギャスパー
のは・・・
だが突然、自分の後方から叫び声が響く。確か、自分の後ろにいた
安心する。
眷属の状況を確認しようとするリアスは、聞こえてくる眷属の声に
わ︶﹂
! !?
!? !
!
!
141
!
!
リアスたちがギャスパーにかけより、
木場と子猫と一誠が前を、朱乃が後方を守るように警戒する。
ギャスパーは掠れるような声で、﹁目が痛いですぅ・・・﹂とこぼす。
その姿に、リアスはギャスパーを抱きしめた。
﹁魔眼が厄介と思いまして、真っ先に潰させてもらいました。
本来だったら抉り取るのですが、数日ほどで回復する程度にしまし
たからご安心を﹂
粉塵が晴れて、アーリィは一誠たちの目の前に現れた。
剣は左手に握られて鈍い銀色を放ち、彼女の右手には空になった小
瓶が握られている。
どうやら、それでギャスパーの目に何かしたらしい。
﹂
その言葉にリアスは怒りの感情を宿す。もちろん、一誠たちもだ。
﹂
絶対に許さない
正々堂々と勝負しやがれ
﹁よくも私の可愛いギャスパーを
﹁てめぇきたねぇぞ
!
じゃないですか
自分たちのことを棚に上げるのは良くありませんよ
う風に首を傾げる。
﹂
リアスと一誠の罵倒に、アーリィは何を言っているのですか
?
とい
?
﹁卑怯というなら、私︵人間︶を6人で襲うあなた︵悪魔︶たちも卑怯
!
!
その悪びれもしない姿に、リアスたちはもはや戸惑いを棄てた。
朱乃
﹂
!
もうアーシアの姉だの、ゼノヴィアの戦友だのどうでもいい。
小猫
﹂﹂﹂
!
と襲い掛かる。
速さと魔剣を力とした木場と、力と耐久を主とした小猫。
たとえ結界に力を抑えられようと、彼らの意志の強さを止めること
は出来ない。
また、朱乃は後に下がらせたギャスパーを守るように前に立ち、
142
!
あ、今は5人でしたか。
?
こいつは自分たちの敵だ
﹁祐斗
﹁﹁﹁了解
!
以心伝心だろうか、リアスの言葉に二人は同時に動き、アーリィへ
!
!
﹂
﹂
アーリィへ向けて雷の魔力を溜める。
﹁一誠
﹁わっかりました
一誠は﹃赤龍帝の籠手﹄を発動させる。
たとえ一誠自身の力が非力だとしても、
﹃倍加﹄によってその力は何
倍にも膨れ上がるのだ。
人間であるアーリィが、これの力をまともに受ければただでは済ま
ないだろう。
だが、一誠では﹃倍加﹄には時間がかかるのだ。
それに、この中︵結界︶では思うようにできるとは限らない。
ゆえに、裕斗と子猫、そして朱乃は時間稼ぎという役割もある。
もちろん、そのまま倒してしまっても構わない。
先に仕掛けたのは木場だった。
彼は別の魔剣を構築しアーリィに斬りかかった。だが、アーリィは
それを剣で受け止める。
その行為こそが木場の狙いだった。
﹁かかったね﹂
そう言うと、木場の持っていた剣から炎が吹き出し、一瞬にして
アーリィを包む。
これが木場の狙いだった。
直接攻撃が当たらなくとも、間接的にダメージを与えることが出来
れば、あとは種族の差だ。
人間である彼女に、炎は大きなダメージを与えられる。
だが、魔剣から放たれた炎は木場自身も焼くものだ。
木場は直ぐにアーリィから離れようとするも、なぜか足が動かな
い。
自分の足を見ると、気付かない内に自分の右脚が鎖で縛られ、彼女
の右足に繋がれている。
その上アーリィの足が、動かせないように、地面に縫い付けるよう
に、木場の足を踏んでいる。
炎に包まれながらも、アーリィは木場を逃がそうとしない。
143
!
!
﹂
その上、引き剥がそうとするも彼女との距離が近すぎるせいで、剣
が思うように振れない。
﹁一緒に、温まりましょう
ました。
﹂﹁祐斗先輩
﹂﹁祐斗
﹂
﹂﹁祐斗さん
?
た。
﹂
すると、彼女を包んでいた炎が消え、所々火傷を負った彼女が現れ
身をぶっかける。
懐から液体の入った瓶を取り出し、炎に包まれている自身にその中
まるで大したことでもないように言ってのけるアーリィは、
数週間で治る傷ですから、問題ないですよね
﹂
﹁足が速かったので両脚を、それと剣士みたいだったので両手を潰し
た。
彼の両脚には釘が何本も刺さっており、両掌にも何本か貫通してい
小猫は木場を見て言葉を失った。
﹁大丈夫ですか、祐斗先ぱ・・・
咄嗟に受け止めた小猫だが、勢いを殺せずに地面を転がった。
それは木場祐斗だった。
た。
その声が聞こえると、炎の中から何かが小猫に向かって飛んでき
﹁お返ししますね﹂
ついた。
炎に包まれた二人の姿は何やらもがき、そして時折銀色の光がチラ
づけない。
直ぐに小猫が助けようとするも、炎に包まれているせいか簡単に近
!?
は炎の塊となった。
﹁木場ぁぁぁぁぁ
!?
気付けば、自身の魔剣がこちらに向けられていた。木場とアーリィ
にただの御誘いに聞こえた。
彼女は炎に包まれているというのに、その声には焦りもなく、本当
木場は、目の前にいるアーリィからその言葉をかけられた。
?
炎に包まれる木場に一誠たちは驚愕の声を上げ、
!?
!?
144
!?
﹁焼かれた時は吃驚しましたが、痛くないんですよ。あの時と較べま
したら﹂
炎にまかれていたというのに、痛々しい火傷が見えているというの
に、
﹂
彼女はさして気にもせずに一誠たちを射抜くように見つめる。
﹁次はどなたが来ますか
アーリィの修道服は、炎によって焦げているも、彼女を守る役割を
果たしている。
だが、ヴェールは形を保っている程度に過ぎず、
焼け焦げたヴェールから覗く彼女の目が、濁った輝きを放ってい
た。
145
?
本音
﹁喰らいなさい
﹂
突如として雷がアーリィへと放たれる。
咄嗟の隙をついて、今まで溜めていた力を朱乃が放ったのだ。
その雷の一撃を、アーリィは咄嗟に後方へと下がって躱す。
彼女のいた場所は轟音と稲光を放ち、黒焦げの床が、その威力を如
実に示す。
朱乃は間髪入れずに何度もアーリィへと放つも、
それら全てを間一髪で避けられるせいで、教会の床は黒い跡がいく
つも出来る。
小猫が援護しようとするも、アーリィの避けた直後に雷が落ちるせ
いで、動こうにも動けない。
それが何回か続き、息が上がったせいで攻撃を止めた朱乃に対し、
アーリィは息を乱していない。
﹁危ないじゃないですか。当たったら死んでたかもしれませんよ﹂
﹁正直、当たって欲しかったんですけどね﹂
首を傾けて自分を見つめるアーリィに、朱乃はらしくない程に冷や
汗を掻く。
焦げたヴェールから覗く彼女の目は、まるで自分を見透かすかのよ
うに胸騒ぎがするのだ。
出来る事ならば、今の攻撃で直撃、または怪我を負わせるつもり
だった。
だが、自分の思惑を嗤うように、彼女は避けてみせた。
祐斗さんによって、彼女の身体は火傷を負っているというのに、
彼女は間一髪で避けてみせたのだ。
それも、リアスや小猫ちゃん、イッセー君にも意識を置きながら。
目の前の修道女から感じる威圧は、人ならざる者に思えてくる。
﹁そう言えば﹂
じっと自分を見つめているアーリィの口が開く。
まるで、ふと何かを思い出した、言い忘れた程度のことのように。
146
!
﹁私、経験からなのでしょうか、ちょっと勘が良いんですよね。
﹂
それにほら、ゼノヴィアさんと一緒にお仕事していたので、
なんとなく判るんですよ﹂
アーリィの口元が歪む
﹂
﹁姫島さんは、どうして雷しか使わないのですか
口角が上がる
﹁どうして悪魔の力しか使わないのですか
修道女
無機質な目が嗤う
?
そして
﹁ねぇ、堕天使さん
﹂
三日月の笑みを映す
した。
﹃堕天使﹄
その言葉は朱乃にとって最も忌み嫌う言葉だ。
たあの男と私は違う
﹂
そうじゃないと私は・・・
﹁落ち着きなさい朱乃
﹁ネズミのようにちょこまかと
いい加減に当たりなさい
﹂
夢
あの男と自分は違う。そうでなければいけない。母を見殺しにし
朱乃の頭にあの時の記憶が蘇る。忌まわしき、忘れられない思い出
悪
アーリィの言葉は、朱乃のトラウマを、彼女の地雷を、一気に刺激
﹁私をその名で呼ぶなぁぁぁぁ
﹂
﹁私からの助言ですが、自分を偽るのは感心しませんよ﹂
?
る柱を遮蔽物にし、
アーリィは、襲い掛かる攻撃を、置かれていた長椅子や教会を支え
ば当たるわけもない。
だが、冷静だからこそ当たるだろう攻撃も、冷静さを欠いてしまえ
怒り狂った朱乃は、アーリィに向けて全力で雷を連射する。
ことはない。
リアスは冷静になるように呼びかけるも、激昂した朱乃の耳に入る
!
!
!
!
147
!!
?
!
時に転がりながら、時に投擲武器を避雷針にして避ける。
ところで、照準の定まらない銃を、錯乱した兵士が、しかも味方の
陣地で撃ったらどうなるか
﹁っ
﹂
﹂
落ち着いてください、朱乃さん
﹁きゃぁぁぁぁぁ
﹁部長
﹂
怒り狂った朱乃の全力による余波が、リアスたちにも襲う。
ようは、誤射だ。
混乱した戦場における死亡理由の一つ、流れ弾が起きる。
?
を続ける。
お願いだから
﹂
!
なぜか、倍加をしている一誠には当たらない。
お願いだから落ち着きなさい
﹁朱乃
どうしてこうなっちまったんだ
﹁くそ
!
ており、
会
そして爆発による影響か、彼女の身体には小さな木の破片が刺さっ
る。
左手には、剣ではなく液体の入った瓶が4本、指の間に挟まってい
れ、
いつの間に回収したのか、彼女の右手にはボストンバッグが握ら
混乱するリアスたちの前に、アーリィが姿を現す。
﹁あらあら、凄いことになってますね﹂
もはやここは、混乱の坩堝と化した。
教
いつ朱乃の攻撃が襲うのかも判らない。
そして扉付近では、負傷した木場とギャスパーが横たわり、
している。
もはや教会の内部は見る影もなく、壊れた長椅子や燭台などが散乱
!
﹂
錯乱した朱乃はそれに気付かず、アーリィを射殺そうと頻りに攻撃
雷による爆発でリアスが床に倒れる。
小猫、リアス、一誠は、暴走する朱乃の攻撃を必死に避けるも、
!
!?
!
!
その傷からは血が滲み出ているのか、彼女の服を赤く染めている。
148
!?
!
一誠と小猫は、殴りかかろうにも倒れているリアスと朱乃による攻
撃で、その場から動けない。
﹁教会が壊れそうなので、落ち着いてもらいましょうか﹂
そう言うと、アーリィは瓶を4本とも天井に向けて投げる。
喰らいなさい
﹂
同時に、朱乃に向かって走り出した。
﹁見つけました
!
﹁
﹂
﹂
﹁そこ、当たりますよ﹂
突如アーリィがその動きを止めた。
んだ朱乃だが、
その針を避けようと、近づくアーリィと距離を離そうと後方へと飛
﹁くっ
その一方で、朱乃向けて針を投げる。
て攻撃を逸らす。
先ほどのように、アーリィは当たりそうなものだけを、針を投擲し
アーリィを目で捉えた朱乃は、彼女に向けて雷を放つも、
!
張った。
彼女の目に入ったのは、先ほどアーリィが投げた瓶が1本、朱乃に
向かって落ちてきたのだ。
雷で壊すにも、中身の液体が聖水だったならば、間違いなく自分に
かかる。
貴女にぴったりです﹂
咄嗟に受け取ろうとするも、彼女の手の届くあと少しの所で、突如
として割れた。
﹁水も滴るいい女、でしたっけ
みされる恐怖を感じた。
くるりと自分らに向き直ったアーリィに、リアスたちは心臓を鷲掴
﹁次﹂
叫ぶ朱乃にそう告げた。
投擲したナイフで瓶の中身をぶちまけたアーリィは、聖水を浴びて
?
149
!
言葉の意味が解らず、周囲を見回した朱乃は、上を向いて目を見
!?
だが、自分たちは強敵を倒してきた経験がある。
もう絶
リアスたちは、恐怖に支配されかけた心を叱咤し、近づいてくる
アーリィを見据えた。
﹁木場やギャスパーだけじゃんなく、朱乃さんまで
﹂
しかも朱乃さんの色っぽい柔肌に傷を負わせやがったな
対にゆるさねぇ
!
!
﹂
﹁小猫ちゃん
﹂
一誠は、怒りで殴りかかろうとするも、それを小猫が手で制する。
ることは出来るはずだ。
まだ最大倍加が終わってないが、これでもアーリィを再起不能にす
ですよ
﹁数か月程度の傷じゃないですか。全身の皮を剥がされるよりはまし
!
﹂
ターが生まれた。
彼女のいた場所に、地響きと土煙そして爆音が響き、大きなクレー
身体を後ろにずらして回避すると、
轟音と恐ろしいほどの風圧を纏った拳がアーリィを襲う。
た。
一誠の言葉を、力を託された小猫は、アーリィに向かって駆け出し
﹁はい﹂
てやれ
﹁俺は部長を守るから、小猫ちゃんは気にせずに、あいつをブチのめし
﹁一誠先輩・・・﹂
猫に渡したのだ。
赤龍帝の力の一つである﹃譲渡﹄だ。一誠は、今まで溜めた力を小
小猫は、自身の身体に生気が、力が満ちるのを感じた。
真剣な顔の小猫を見て、一誠は小猫の手を掴んだ。
驚く一誠だが、小猫は至極冷静に言う。
﹁一誠先輩は、部長を守ってください﹂
!?
その中心地にいるのは小猫であり、彼女の拳が地面を抉ったのだろ
う。
150
?
!
アー
リィ
当たれば、生身の人間など、一瞬で物言わぬ肉の塊に出来る程に。
﹁あらあら、小さい身体に大きな力。見た目で判断してはいけません
ね﹂
だが、それを目にしてもアーリィの態度は変わらない。
まるで、幼子のせい一杯の頑張りを優しく見守るように、彼女は笑
顔を向ける。
その目は無機質だが。
そこから先は鬼ごっこだ。
小猫
殴
ら
れ
アーリィが逃げ、小猫が追いかける。ただそれだけのことだ。
ただし、鬼に捕まれたら死ぬ、それだけの単純なルール。
アーリィは小猫と距離を取りつつ、何度か針やナイフや瓶を小猫に
向かって投げる。
大半はその拳で叩き落されるか、上体ずらしで躱されるかの二つ
で、
を飛ばす。
リアスは、それを見ながら先ほどの混乱からなんとか落ち着く。
下手に小猫を援護しようとすれば、必ずアーリィがそれを利用して
くる。
151
教会の床にはアーリィが投げた針やナイフが所々に散乱し、
彼女の持ってきた鞄の中身は尽きかけていた。
また、針程度が刺さったところで、小猫はそれを気にせずに突っ込
んでくる。
単純な腕力とその耐久力。
単純ゆえに、その牙城を崩すのは並大抵のことでは埒が明かない。
デュランダルを持つゼノヴィアさんならば、それを崩すのは容易い
だろう。
﹂
だが彼女とは違い、決定的な物がなく、手数しかないアーリィには
そのままやっちまえ
最も苦手とする存在だ。
﹁良いぞ小猫ちゃん
!
逃げ惑うアーリィとそれを追う小猫の姿を見て、一誠は小猫に激励
﹁ええ、小猫なら大丈夫よ﹂
!
先ほどの朱乃を利用した混乱のせいで、助けようにも動けないの
だ。
一誠とリアスの声が、小猫の背を押したのか、
彼女の速さは更に上がり、ついにアーリィを捉えた。
﹁そこ﹂
アーリィの着地地点と小猫の拳が重なり、アーリィは直撃を避けた
ものの、
小猫の剛腕から繰り出された風圧に飛ばされ、壁に叩きつけられ
た。
一瞬、口から空気の洩れる音を聞いたが、
アーリィは顔を伏せ、壁を背にして立ったままだ。
パサリと、何かが床に落ちた。
それは彼女の顔を辛うじて覆っていた、焼け焦げたヴェールだ。
だが彼女は顔を伏せ、その長い灰色の髪が顔を覆っているせいか、
顔全体を見ることは出来ない。
﹁本当に頑丈なのですね。
私、これでも必死なのですが、ちょっと自信を無くしちゃいます﹂
疲れたような、半ばあきらめたような声が、小猫の口から出る。
﹁もう止めにしませんか。
これ以上、戦う意味はないと思います。
降参してくれたら、私は何もしません。
先輩やギャー君等を傷つけたことは許せませんが、私はあなたが憎
い訳じゃないんです﹂
小猫はアーリィにそう語る。
それは彼女の本心だ。確かに仲間を傷つけたのは許さない。
でも、憎い訳じゃない。
食べたスコーンは美味しかったし、アーシアとゼノヴィアの笑顔を
見ていたら、
決して悪い人じゃないと解るから。
﹁小猫ちゃん、でしたっけ。ありがとう、そしてごめんなさい。
私、これでもあきらめが悪いんですよ﹂
152
顔を伏せたアーリィは、小猫の言葉に感謝を、謝罪を、そして拒絶
した。
ボロボロの姿とは裏腹に、彼女の声はまだ死んでいない。
﹁残念です﹂
小猫は拳に力を溜め、振るう。狙うのは、伏せているアーリィの顔。
いくら彼女でも、気絶させれば、もう戦うことは出来ない。
そう思い、小猫は狙う。
だが、彼女の拳は当たらなかった。
﹁ごめんなさい﹂
小猫は聞いた
﹁出来れば、これを使いたくはありませんでした﹂
キィン・・・と金属がこすれたような音が聞こえた
空中に一筋、朱い線が走った
倒れる小猫を抱きかかえ、アーリィは直ぐに止血をする。
アーリィの右手からは細長い何かが伸びており、
それは光を反射して銀色に光り、その途中は朱く染まっていた。
左手の指には銀色の指輪が填められており、小猫の腹部には指輪の
後が焼き付いていた。
153
﹁頑丈なあなただからこそ、その力を利用させてもらいました﹂
何かが斬れた音がした
﹁頑丈だからこそ、使わざるを得なかった﹂
何かが千切れた音がした
﹁あの時も、あなたのような子だったら良かった﹂
お腹に強い衝撃が走り、次に鋭く熱い痛みが襲う
﹂
﹂
﹁だから、寝ていてください﹂
身体から力が抜ける
﹁小猫ちゃぁぁぁぁぁぁん
﹁いやぁあぁぁぁぁぁぁぁぁ
!!?
小猫は、腕から、身体から、血を噴き出し、そして倒れた。
!!
そして、直ぐに残りの二人へと向き直す。
二人は、今の光景に信じられないと言ったように大きく叫んでい
る。
﹁何をそんなに驚くのですか。こうならないと思っていたのですか
でしたら、それはあなた方の無知です。
?
私︵人間︶が、ただ狩られるだけの存在だと思っていたのが間違い
です。
こうなったのは全て、あなた方の責任でもありますよ﹂
﹁てめぇ、よくも小猫ちゃんまで
皆の仇をここで取るわ
﹂
絶対にここでぶっ倒す
もうてめぇを許すつもりもない
﹂
﹁行くわよイッセー
!
﹁ああ、やっぱり気になります、これ
﹂
ゆっくりと顔を上げたアーリィを見て、二人はぎょっとした。
だから、ここで止まらない、止まれない。
分にとって大切なのだ。
それでも、アーシアとゼノヴィアさんと一緒に帰ることが、今の自
ゼノヴィアさんと一緒に訓練をしないといけませんね﹂
﹁みんなと一緒に帰った後、少し休んで、
思っていたよりも酷かったようだ。
色々と無茶をしているということは自覚をしていたのだが、
それすら気づかなかったとは、自分はかなり酷いらしい。
先ほど吹っ飛ばされた際に、飛んで行ったのだろう。
どうやらヴェールがとれてしまったようだ。
ことに気付く。
ゆっくりと二人へと足を進めるが、ふと、自分の視界が綺麗である
アーリィは、二人の敵意を受けるも、そこに何も感慨もない。
!
覚悟しやがれ
!
決して消えることのない自分の罪にして、
彼女の左顔には、深い傷が刻まれていた。
アーリィは自嘲気味に語り、その傷を撫でた。
?
154
!
!
!
忌まわしき悪夢が、忘れたい過去が、決して夢でない、現実だった
ことを示す証。
だが、今はそんなことは気にしない。
後は二人を動けなくすれば、自分の夢が叶うのだ。
あの時、奪われてしまった夢が。
﹁行きます﹂
アーリィは、一誠とリアスへと駆けだした。
155
御都合の理不尽
静寂を宿し、訪れるもの全てに安らぎを与える教会は、
力によって蹂躙された、もはや神のいない凄惨な戦場と化した。
信者を、参拝者を、祈り人を迎える椅子は跡形もなく、
床は所々が窪み、抉れ、そして足の踏み場もない程に武器が散乱し
ている。
そこで行われるのはただの戦い、ただ相手を傷つけるためだけの暴
力が繰り広げられる。
金属音が響き、火花が飛び、床が爆ぜ、血が、汗が、そして意地が
叩き付けられる。
人々の心を奪うステンドグラスは、光を受け変わらない輝きを放
ち、
人々を迎える十字架はただ1つの傷もなく、その戦いを見つめてい
た。
兵藤一誠は、先ほどから目の前の修道女から繰り返される攻撃を、
必死に受け止めていた。
彼が必死に守ろうとする大切な主であり、王であるリアス・グレモ
リーは、
大切な眷属である一誠を守ろうと、必死に修道女へと攻撃を放って
いた。
だが、そんな二人の頑張りを否定するかのように、修道女は二人を
追い詰めていく。
修道女の姿は、二人からすれば満身創痍であり、
彼女の身体は所々が焼け、血が滲み、そしてボロボロだ。
だというのに、灰色の髪の修道女は、まるで気にもせずに自分たち
を追い詰める。
自分たちの頼れる仲間たちと戦い、彼らを床に沈めているというの
にだ。
その姿は、人であるはずなのに、人の形をしたなにかのように見え
始めている。
156
たとえ彼女の罠によって結界内に閉じ込められ、力を抑えられよう
とも、
彼女1人に対し、こちらは6人と数が多かったはずだ。
たとえ彼女が、嘗てゼノヴィアの背を守った悪魔殲滅者だとして
も、
自分たちもライザーやコカビエルと言った強敵を退けてきたはず
だ。
だというのに、いったいこれはどういうことなのか。
﹃停止の魔眼﹄で彼女の動きを止めるはずだった作戦も、
魔よけの香草を混ぜた粉塵や閃光弾によって、
肝心のギャスパーの目を潰され、直ぐに床へと沈められた。
その時の粉塵の影響か、まだリアスたちの視界は歪んでいる。
頼もしい﹃騎士﹄である祐斗も彼女に何かされたのか、
自身の炎に焼かれ、そして彼女によって両手と両脚を潰された。
自分を補佐する﹃女王﹄である朱乃は、
彼女の呟きに何かを感じ取り激昂、彼女自身の力を逆に利用され、
最後は聖水をその身に浴びた。
そして、一誠から倍加の力を譲渡された頼もしい仲間の1人である
﹃戦車﹄の小猫は、
その頑丈さと力で、先ほどまで修道女を追い詰めていたはずなの
に、
彼女を殴ろうとした瞬間、身体から血を噴き出して倒れた。
倒れる瞬間、小猫の片脚が無かったのは見間違いだ。
そうに違いない。
彼らは、既に教会の入り口へと運ばれ、その身を気休めとは言え休
ませている。
ただ、小猫はアーリィによって反対側の壁に寄せられているが。
そんな戦闘を行っているというのに、
目の前の修道女、人間であるはずのアーリィは、自分たちを追い詰
めている。
彼女は頻りに攻撃を繰り返しているが、その全てが一誠によって防
157
がれている。
正確には、彼の神滅具である赤龍帝の籠手が受け止めている。
あれだけの戦闘を繰り返してきたせいか、アーリィの攻撃はその鋭
さもキレもなくなっていた。
それこそ、一誠が必死に受け止められる程に。
ただ、教会という場であり、そして結界内に閉じ込められ、かつ粉
塵の影響のせいか、
自分たちも同じように、その力が弱まっているのだが。
だが、リアスが受け継いだ﹃滅びの力﹄は、当たれば全てを消し去
る一撃必殺の力。
リアスは、一誠が必死に受け止めている隙をついて攻撃を繰り返す
が、
アーリィは一誠の傍を離れず、
自分の攻撃は、朱乃の時と同じように周囲の瓦礫を投げられて相殺
私の可愛い眷属を、仲間をここまで傷付けられて、今
158
される。
それがどれだけ繰り返されただろうか、
突如アーリィが自分らと距離を取るように後方へと飛んだ。
リアスは、すかさず攻撃するも、簡単に防がれたが。
﹂
その後、沈黙がその場を支配するが、アーリィが口を開いた。
﹁もう、止めにしませんか
ですから、もう一度話し合いませんか
アーリィは、傷を負った顔に苦笑いを浮かべ、リアスたちに問う。
正直に言いますと、疲れちゃったんですよね﹂
?
ですが、これはお互いの理解不足だったと思います。
あなた方の友人を傷つけたのは、不可抗力として謝りません。
それこそがアーシアとの約束であり、私の望みです。
そして世界を見て考えてほしいだけです。
﹁私の目的は、アーシアとゼノヴィアさんと一緒に故郷に帰り、
目の前の修道女はそう言った。
?
だが、その返答は至極簡単なものだった。
﹁ふざけないで
!
更話し合い
﹂
大切な仲間を傷つけた奴の言葉なんて信用できるか
私たちを馬鹿にするのもいい加減にして
﹁そうだ
﹂
!
棒
俺とドライグの力を甘く見るんじゃねぇぞ
﹂
!
﹂
?
﹁
﹂
変わらない声で二人に問うた。
﹁籠手以外は頑丈ですか
下げた頭を上げ、アーリィは二人に満面の笑みを見せ、
﹁ところで﹂
突然の行動に、今度は一誠やリアスたちが虚を突かれる。
ごめんなさい。私、反省しないといけませんね﹂
た。
﹁そうですね。私は無意識に一誠さんやリアスさんを甘く見ていまし
スに頭を下げて謝罪する。
その姿に、アーリィは一瞬虚を突かれ呆けるも、なぜか一誠とリア
一誠はアーリィを前に啖呵を切る。
﹁当たり前だ
そういって見せた彼女の剣は、刃先が欠け、ボロボロになっている。
これの方です﹂
剣
私、さっきから壊そうと必死ですのに、壊れかけているのは私の
﹁ところで、赤龍帝の籠手というのは本当に硬いんですね。
その目は同類を見つけた様な憐れみが籠っていた。
その言葉は、全てを見通していたかのような諦めを宿し、
﹁やっぱりそうですよね﹂
た.
その笑みを、その優しい口元の角を上げ、裂けた様な笑みへと変え
その二人の姿を、返答を聞いたアーリィは、
一誠は自分の左腕にある﹃赤龍帝の籠手﹄に力を込める。
相
リアスは、怒りの感情を表すかのような禍々しいオーラを纏い、
ノヴィアを守る
俺はお前をブッ飛ばして、仲間の仇を討って、そしてアーシアとゼ
!
!
?
!
159
!
一瞬、一誠とリアスは、自分らの首が飛んだ姿を見た気がした。
!?
首だけじゃない、まるで壊れた人形のように、バラバラにされた姿
を見た気がした。
無意識に首に手を伸ばし、繋がっていることを確認する。
﹂
今のは一体なんだったのか、二人は自問するも答えは出ない。
﹁顔色がすぐれませんし、本当にもうやめにしませんか
前を向けば、満面の笑みで首を傾げる、ボロボロの修道女だけ。
アーリィの声に二人は今の映像を振り払おうと、アーリィを睨みつ
ける。
その姿に、アーリィは再度溜息を吐き、大きく息を吸い、そして
﹃驚くべき恵み﹄
歌う
﹃なんと美しい響きであろうか﹄
一誠とリアスの身体に激痛が走る。
まるで体中を火が走るような、体中を炙られるような、もはや叫び
声を上げるしかない感覚。
﹃私のような者まで救ってくださった﹄
一誠はなんとか踏みとどまるも、リアスはその痛みに何度も叫び、
倒れる。
﹃かつては迷ったが今は見つけられ﹄
一誠は、痛みにのた打ち回るリアスに目をとられ、アーリィから目
を逸らした。
﹁相手から目を逸らしてはいけませんよ﹂
振り向くと自分の目の前に、傷を負った灰色髪の女が、立っていた。
﹃かつては盲目であったが、今は見える﹄
一誠は咄嗟に籠手で殴ろうとするも、
歌の激痛で思うように動けず、アーリィにその手を掴まれる。
そして、
﹁よいしょ﹂
何かが折れた音がした。まるで枯れ枝を踏んづけたような、そんな
音だ。
突如、左腕の感覚が消えた。おかしい、さっきまであったはずなの
160
?
に。
そして襲ってくる別の痛み。
一誠は恐る恐る自分の左腕をみる。
﹂
そこには、肩から肘が別の方向へ向き、そして肘からは肩とは別の
方向へ向いている
﹁お、俺の腕がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ
﹁静かにしてください﹂
このままじゃ部長が
﹂
この杭が抜けたなら、あいつをブッ飛ばせるっていうのに
一誠は、なんとか杭を抜こうとするも、逆に痛みに呻く。
﹁くそ
リアスは、先ほどのダメージのせいか、もはやぐったりとしている。
そして、くるりとリアスの方へ体を向け、彼女の方へ歩く。
そして右手と両脚に白木の杭を打ち込み、もがく一誠を諭す。
﹁そこで待っていてくださいね﹂
右腕を捉えて倒す。
自分の腕を見て叫ぶ一誠を、アーリィは至極冷静に歩み寄り、彼の
!?
アーリィは、息も絶え絶えのリアスを見下していた。
そこには何も感慨もなく、ただ、悲しい目をしていた。
﹁リアスさん、私は貴女を信じたかった。
だってアーシアが笑っていたんですもの。
だから私も、貴女を信じて私の過去を話しました﹂
その目は揺れていた
﹁でも、こんな結果になって、本当に残念です。
私はアーシアとゼノヴィアさんを連れて、故郷に帰ります。
また1年後になりますが、その時は本当の意味で手を繋ぎたいで
す﹂
﹂
そういって、リアスの傍を横切り、アーリィは教会の出口へと向か
う。
﹁そんなことは絶対にさせねぇ
アーリィが振り返ると、杭を刺したはずの一誠が、立ち上がって自
!
161
!
悔しさと自分の無力さに涙をこぼす一誠だが、そこに影が差した。
!
!
分を睨んでいた。
それに、二段階に折ったはずの左腕も、なぜか元に戻っている。
いや、彼の左腕は人間の物ではなかった。
赤い鱗で覆われ、それはまるで・・・
﹂
﹂
あの焼き鳥と同じように、腕を捧げたんだ
﹁龍の腕・・・
﹁ああそうだ
あとはドライグの治癒力で元に戻った
左腕をアーリィに見せつける一誠。
﹁ですが、そう簡単に杭を外すことは﹂
﹁それは私がやりました﹂
いる木場祐斗を見た。
﹁これも喰らいなさい
﹂
片膝をつくアーリィは、出口の傍で、血まみれの手を自分に向けて
女の脚を貫く。
咄嗟にその場から離れたアーリィだが、突如地面から剣が現れ、彼
﹁そうはさせないよ﹂
﹁でしたら、もう一度動けなくするまでです﹂
どうやら、あの怪我で身体を引きずって一誠を助けたらしい。
杭を手にしていた。
アーリィが声の方を向くと、負傷したはずの小猫が、一誠に刺した
!
?
る。
いや、動かせないのだ。
!
てしまったようだ。
どうやら、アーシアの友人として手加減した結果、手加減をし過ぎ
目を潰したはずの少年が、片目をこちらに向けていた。
﹁ぼ、ぼくだって、ぶ、部長の眷属な、なんです
﹂
それでもなんとか動こうとするアーリィだが、急に体の動きが止ま
たのだ。
顔や腕が赤く焼け爛れた朱乃が、ボロボロの身体に鞭打って攻撃し
い。
突如アーリィに向けて雷が走り、彼女は直撃を受けるも気絶はしな
!
162
!
!
﹁どうやら手加減し過ぎちゃったみたいですね。自分も甘くなっちゃ
いました﹂
ボロボロの身体になったアーリィは、自分の甘さに溜息を吐く。
そして、目の前には拳を振り上げた一誠が、自分を殴りかかる姿が
見えた。
当然、逃げることも出来ず、アーリィは教会の壁に叩き付けられる。
俺たちがアーシアとゼノヴィアを守るんだ
口から紅い液体が零れる。どうやら臓腑に傷を負ったようだ。
﹁こ れ が 俺 た ち の 力 だ
﹂
﹂
良かった、本当に良かった・・・
﹁一誠・・・
﹁部長
﹂
すると、気を失っていたリアスが目を覚ます。
一誠は、倒れているリアスを起こし、力を譲渡する。
!
一誠の馬鹿
﹂
!
その目はまだあきらめてはいない。
リアスの言葉に対し、ボロボロのアーリィは笑顔で応える。
﹁私、諦めるのが苦手なんですよね。ですから、無理な話です﹂
﹁これで勝敗は決したはずよ、二人のことは諦めなさい﹂
そんなやり取りをした後、二人はアーリィへと顔を向ける。
ろするギャスパー。
そして苦笑する木場や朱乃に、冷たい目をする小猫、そしておろお
アス。
リアスのおっぱいににやけ顔をする一誠に、それを恥ずかしがるリ
﹁えっと、あの、その﹂
﹁こんな時まで・・・一誠先輩は不潔です﹂
﹁一誠君は相変わらずだね﹂
﹁あらあら、一誠くんったら﹂
﹁もう
﹁部長のマシュマロみたいなおっぱいが当たって、グヘヘヘヘヘ﹂
誠。
その際にリアスのおっぱいの感触で、顔がしまらなくにやける一
!
?
一誠はリアスを抱きしめる。
!
!
163
!
﹁そう、なら仕方ないわ﹂
そう言うと、リアスはアーリィに手を向ける。
﹂
すると、彼女の手からは身の毛もよだつ魔力が具現化する。
﹁部長、俺の力も使ってください
一誠がリアスの右手を上から覆うように握ると、その魔力は更に
禍々しくなる。
一誠の譲渡によって、リアスの力が増したのだ。
﹁私の可愛い眷属に言い寄るな。消し飛べ﹂
リアスは一誠と自身の全力を込めた一撃をアーリィへと放った。
それは、下級・中級どころか、上級の悪魔さえも消し飛ばせるほど
の力が宿っている。
普通ならば、その力から逃れようとするが、アーリィは予想外の行
動に出た。
迫りくる力から逃げようとせず、その場から動かないのだ。
﹁主よ、私たちを導いてください﹂
迫りくる光を前にして、アーリィは祈りを捧げ、何かを呟いた。
突如、壁を覆い、今ままでリアスたちを苦しめていた結界の要と
なった紙が剥がれ、
まるでアーリィを守るかのように彼女の前を覆いだす。
そして・・・衝突。
閃光が教会の壁を突き破り、轟音と土煙が舞、空へと向かって大き
な光の線が描かれた。
土煙や誇りが開いた穴から漏れ、辺りが見えるようになる。
一誠とリアスは、彼女のいた場所を見ると、
そこには焼け焦げた紙切れが舞い散り、彼女の後ろにあった壁に
は、
攻撃によって空いた大穴が見える。
そして、彼女のいただろう場所には、小さな十字架が落ちていた。
あれだけの威力だっただろうに、その形は一切崩れておらず、銀色
の光を映している。
どうやら彼女は、自分たちの攻撃を受け止めようとしたものの、
164
!
耐えきれずに、攻撃によってふっとばされてしまったようだ。
たとえ死んでいないにしても、これだけの攻撃を受けたのだから、
決して無事ではないだろう。
自分たちを苦しめていた結界もなくなり、
﹂
﹂
少しずつ体調を戻ってきたリアスと一誠は、安堵の溜息を吐いた。
俺たちの勝利です
﹁やったのね、一誠﹂
﹁ええ、部長
これはいったいなんですか
何が起こっているかまだわか・・・これは
﹁み、みなさん、大丈夫ですか・・・
すると、教会の扉が開き、二人の人影が入ってきた。
互いに言葉を掛けあい、自分たちの勝利を確信する。
!
は、早く治療しないと
﹂
﹂
﹁これはどういうことで・・・って皆さん怪我しているじゃないですか
そして、教会内の凄惨な状況に大きく驚いている。
して胸を上下させている。
ゼノヴィアは普通だが、アーシアは息も絶え絶えで、顔を真っ赤に
どうやら先ほどの攻撃を見て、慌てて走ってきたのだろう。
アーシアとゼノヴィアである。
﹁待つんだアーシア
!
そしてそれを手伝うゼノヴィア。
二人の姿にリアスと一誠等はお互いを見つめて苦笑しながら、二人
を手伝った。
﹁ところで、いったい何があったんだ
﹁なんで・・・アーリィ姉さまの十字架が落ちているんですか
?
振り向くと、アーシアはアーリィがいた場所の床を見ていた。
リアスが説明しようとした時、アーシアの声が響いた。
﹁そのことだけど・・・﹂
たちに問う。
治療を終えたアーシアを落ち着かせている中、ゼノヴィアはリアス
それに、微かに残るこの気配は・・・﹂
?
165
!
!?
!?
!
木場たちや小猫らの姿を見て、直ぐに治療を行うアーシア。
!
!?
これ、姉さまが大切にしてて、家族の形見だから絶対に外さないっ
て・・・﹂
どうやら落ちていた十字架を見つけたようで、アーシアの声は震え
ていた。
﹁イッセーさん、リアスお姉さま、どうしてこれが落ちているんですか
﹂
なんで姉さまの大切なものがここにあるんですか
それに姉さまは・・・どこに行ったのですか
震える声で、劇物であろう銀の十字架を手にしたアーシアの目は、
まるでこの場で起きたことを知ってしまったかのように、涙が流れ
ていた。
166
?
?
?
虚飾
﹁アーシア、それは・・・﹂
リアスは、アーシアの言葉、涙、そしてその姿に言葉を詰まらせた。
アーシアの目は、リアスをまっすぐ見るように、射抜くように彼女
たちを見つめる。
リアスは、その視線にすこし圧倒される。
可愛い妹であり眷属であり、優しいアーシアが、そんな目をすると
は思っていなかったからだ。
リアスは、アーシアの視線から目を伏せて逸らし、心苦しくも口を
開く。
﹁ごめんなさい・・・アーシア。
私たちは良かれと思ったのに、あなたを傷つける羽目になってし
﹂
まったわね・・・﹂
﹁え
突然謝るリアスに、アーシアは面食らう。
まさか、開口で謝られるとは思っていなかったのだろう。
﹁正直言うとね、私、アーシアは私たちを選んでくれると思っていた
の。
なぜ
だって私は、私たちは、アーシアのことが大切で、あなたに傷つい
て欲しくなかったから。
今にして思えば、本当に貴女を見ていなかったわ。
アーリィさんを選んだ時、信じられなかったの。どうして
って﹂
もちろん、アーリィさんに諭されたわ。約束は約束ですよ、って﹂
でも、それほどまでにアーシア、あなたのことが心配だったの。
もちろん、約束を破ったことは十分に解っているわ。 お願いだからアーシアを連れて行かないでって。
﹁だから私たち、あなた達がいない間にアーリィさんの所に行ったの。
その顔は、苦痛に耐え、無理をしているような表情をしている。
?
167
?
ぽつりぽつりと、リアスは言葉を吐く。
?
リアスは顔を手で覆い、声を荒げた。
﹁解ってた、解ってたのよ。でも私には耐えられなかった
駄
もしもこのままアーシアがいなくなったらと
大切な妹であるアーシアを、あなたを行かせることが、私には
目だったの
﹂
それでも私は・・・
思うと・・・
!
!
始める。
?
﹂
とが出来たんだから﹂
﹁え
彼女から私を守れることが出来た
リィ
どういうことですか
﹁アーシアは、あいつに騙されていたんだ
アー
驚くアーシアを余所に、一誠が言葉を続ける。
?
﹂
﹁そんな・・・
﹃お仕置き﹄とぬかして剣を向けたんだ
あいつ、嗤いながら俺たちを襲ってきたんだよ
﹂
!
!
それどころか、急に本性を現したのか、俺たちを結界に閉じ込めて、
﹁俺たちはお願いをしに来たのに、あいつは頑として聞かなかった。
傍にいたゼノヴィアは、ただ無言を貫く。
一誠の言葉に、アーシアは目を見開く。
﹁・・・﹂
﹂
あいつは俺たちの話を聞くどころか、俺たちを殺そうとしたんだよ
!
?
﹁でも、本当に良かったわ・・・。だってアーシアを彼女から守れるこ
本当に、この選択は良かったのか
と。
解っていたはずなのに、リアスの言葉にアーシアは自分の心を責め
つけることは解っていた。
もう一つの大切な家族であるリアスお姉さまやイッセーさんを傷
自分の選択が、
リアスの叫びに、アーシアは言葉を失う。
﹁リアスお姉さま・・・﹂
!
!
リアスの言葉に、アーシアは言葉を失う。
?
168
!
!?
!
﹁何を、言っているのですか
まって、
・・・﹂
仕方なかったんですよ
大切な家族を守る為に、私は彼女を・・・﹂
﹁部長は悪くないです
俺が不甲斐ないばかりに、部長やみんなを守れなくて
!
それで、ギャスパーや祐斗、朱乃に小猫が彼女に傷を負わされてし
でも、私たちが思っていた以上に、彼女の抵抗が激しくて。
もちろん、私たちは彼女を抑えようと必死だったわ。
﹁ええ、急に優しそうだった彼女が豹変して、私たちを襲ってきたの。
だが、それをリアスが許さない。
ない表情で呆然とする。
一誠の言葉にアーシアは何を言っているのか理解できない、したく
?
﹂
会
﹂
十字架を握りしめる。
﹁嘘ですよね・・・
﹂
﹁嘘だと言ってくれますよね・・・
﹂
アーシアは目を伏せ、自分を傷つけるだけというのに、アーリィの
かった。
その行為に、アーシアは否定していた現実を理解しなければならな
アーシアの言葉に、リアスは目を逸らす。
﹁アーシア・・・・ごめんなさい・・・﹂
そ、それにさっきの爆発は・・・﹂
﹁じゃあ、ここがこんなことになっているのも・・・、
教
だがそれ以上に、アーシアは二人の言葉に衝撃を受けていた。
る一誠。
自身の身体を抱きしめ、震えるリアスに、それを支え、言葉を掛け
のに・・・
もしも俺がもっと強かったら、部長も、みんなも傷つかずに済んだ
!
!
アーシア呟きにリアスが戸惑う。
﹁・・・アーシア
?
火傷どころか、手のひらから血が滲み出てくる程に痛いのに、アー
アーシアは痛いと思っていても、十字架を手を緩めない。
?
?
169
!
シアは緩めない。
﹁アーリィ姉さまはそんな人じゃありません。
確 か に、姉 さ ま は 悪 魔 を 快 く 思 っ て い な い と 思 い ま す。だ け ど、
言ってました。
人との共存を考えてほしいって。
あの人は確かにそう言いました。それって、まだ悪魔を信じてい
るってことだと思うんです。
それに、私にとってのアーリィ姉さまは、
決して自分のためだけに相手を傷つけるような人じゃありません
﹂
おっちょこちょいで、迷子で、見ていて心配になってしまいそうで、
でも私にとっては、大切な、大好きな姉さまなんです
アーシアは、目に涙を溢れさせながらも言葉を紡ぐ。
その姿は、ただ現実を否定したいだけの足掻きか、
それとも大切な人を蔑ろにされた怒りだろうか。
会
諭すために事実を突きつける。
アーシアの表情や言葉にリアスは言葉を詰まらせるも、アーシアを
ここの有様や、私たちを治療したアーシアなら解るはずよ﹂
教
女に襲われてるのよ。
﹁アーシア、彼女を否定したい気持ちは解るわ。でも、現に私たちは彼
!
そう、リアスたちは現にアーリィに襲われたのだから。
それは否定できない事実だ。
﹁それは・・・﹂
リアスの言葉にアーシアは口を噤む。
その姿にリアスや一誠等は、安心の溜息を吐く。
﹂
どうやら、アーシアも解ってくれたようだ。
﹂
﹂﹁ゼノヴィアさん
﹁部長、ひとついいかな
﹁ゼノヴィア
?
?
それにリアスやアーシアは驚く。
口を開く。
だが、アーシアと替わるように、今まで沈黙していたゼノヴィアが
?
170
!
ええ、その通りよ﹂
﹁襲ったということは、アーリィが先に動いたんだな
﹁
に出る。
﹁ゼノヴィア・・・さん
﹂
﹂
ゼノヴィアはリアスの言葉に納得したように呟くと、アーシアの前
﹁そうか﹂
の意味があるのだろうか。
リアスはゼノヴィアの問いの意味が解らなかった。その質問に何
?
奴なんだが﹂
﹁何を言っているの、ゼノヴィア
﹂
ただ、受け身と言いつつも、目的があれば全力を尽くすから、変な
﹁アーリィは基本受け身でね。率先して動く性格じゃないんだ。
ゼノヴィアは、ゆっくりとリアスたちを見据える。
いたからな﹂
普通ならば気付くことはないんだが、生憎と私は彼女に背を預けて
だが、あいつは私と違って所々で変わっていたんだ。
言ってもいい。
﹁部長、アーシアが言うように、アーリィは確かに悪魔を憎んでいると
アスたちもだが。
ゼノヴィアの行動に、アーシアは戸惑いを隠せない。もちろん、リ
?
﹂
?
ゼノヴィアの言葉に、リアスは逆に問い返す。
﹁何が言いたいのかしら、ゼノヴィア
そしてもう一つが、悪魔に襲われた時なんだ﹂
判断した時。
その1つは、悪魔が人を襲っていた時、またはその悪魔を危険だと
﹁でもそんなアーリィだが、自ら動く時があったんだ。
ゼノヴィアは戸惑う周りを気にせずに語る。
に全力を出していた﹂
なにせ、あいつの仕事は私のお守だったからね。私を支援すること
すことはしない。
﹁その性格は仕事にも表れていてね。あいつ自身は率先して悪魔を殺
?
171
?
﹂
ゼノヴィアは目を閉じ、少し間をとってから、ゆっくりとリアスを
見据えて言う。
﹁先に手を出したのは、部長たちじゃないんですか
確かに、私たちは彼女にお願いをし
それって、俺たちを殺した後に、
﹁部長の言う通り、あいつは俺たちを殺しにかかったんだ
実際、私たちは彼女に殺されそうになったのは事実よ﹂
彼女がやましいことを考えていたと考えられるわ。
それに、話し合いに来た私たちを襲う時点で、
でも、先に手を出してきたのはアーリィの方。
に行ったわ。
﹁何を言っているのゼノヴィア
だが、リアスは直ぐに顔に笑みを戻す。
アスは面食らった顔を向ける。
ゼノヴィアの言葉に、アーシアは涙で滲んだ目を彼女へと向け、リ
?
その言葉にゼノヴィアは言葉を返す。
﹁確かに、アーリィが部長たちを襲ったのは事実だ。
だが言ったように、あいつは自分から悪魔を殺すような奴じゃな
い。
今言った2つの場面を除いてな。
これについては、はっきりと信じられる。
それに、あいつは﹃お仕置き﹄と言ったらしいじゃないか。
この教会の荒れようと部長たちの怪我からして、あいつは加減して
﹂﹂
いたはずだ﹂
﹁﹁
せる。
172
!
?
何食わぬ顔でアーシアとゼノヴィアを連れていくつもりだったっ
!?
やっぱりあいつは二人を騙していたとんでもない奴じゃな
てことじゃないのか
﹂
くそ
いか
!
リアスの言葉に続くように、一誠もアーリィの行動を挙げる。
!
ゼノヴィアの言葉に、一誠やリアスどころか、他の眷属も顔を驚か
!?
あれで加減をしていた
い。
ゼノヴィアが何を言っているのか解らな
アーシア自身も、信じられないという顔をしている。
アーリィがリアスと戦ったことも信じられないのに、
そのうえ加減をしていたということ自体が想像がつかない。
﹁信じなくても結構だが、事実だ。
本気のあいつなら、わざわざ笑うどころか、無表情でことに及ぶよ﹂
少し呆れたような表情で話すゼノヴィアだが、リアスたちは気が気
ではない。
なにせ、あれで加減をしていたというのだ。
なら、彼女の本気は一体どうだったというのか・・・。
﹁さてアーシア、私たちはアーリィとの約束した通り、世界を見て回ら
なくてはな。
まずは、教会へ行かなくてはね。
もちろん、私も教会に対しては思うところはあるし、向こうもそう
だろうさ。
まぁアーリィのことだ、そこは抜かりないと信じたいけどね﹂
リアスたちが考え込む姿を一瞥すると、
﹂
﹄という不思議そう
ゼノヴィアはアーシアに声をかけ、教会の出口へと向かう。
﹁二人ともどこへ行くの
その二人を、リアスが止めた。
振り返ると、リアスがまるで﹃何をしてるの
な顔をしている。
もちろん、傍にいる一誠もだ。
﹁言ったはずですよ、部長。
?
二人が無理することはな
私たちはアーリィと約束した通り、一度世界を見に行こうと思いま
す。
私たちが知らなかったことを知る為に﹂
﹁ゼノヴィアも、アーシアも、もういいのよ
いの。﹂
リアスは二人に手を伸ばす。
?
173
?
?
﹂
﹁もういいの。二人とも私が、私たちが守るから。だから、私たちと一
緒にいましょう
リアスの言葉は、とても優しくまるで全てを包み込むような、そん
な慈愛に満ちていた。
だが、アーシアはそんなリアスの目を見つめ、こう言った。
﹁私は、アーリィ姉さまとの約束を守ります﹂
174
?
一歩
﹁何を言っているの、アーシア
も守るさ﹂
﹂
﹂
﹁だ、駄目ですよゼノヴィアさん
せん
﹂
軽々しく命を粗末にしてはいけま
私もアーシアを守ると決めたからな、アーシアは私の命を賭してで
では部長、私たちは世界を見に行ってくるよ。
﹁アーシアも行くと決めたわけだからな。
た。
アーシアの決意ある視線と言葉に、ゼノヴィアは﹁そうか﹂と頷い
た﹂
皆さんと別れるのは辛いですけれど、私は、こうしようと決めまし
います。
だから私、この気持ちと向き合うためにも、世界を見に行こうと思
私、この気持ちのまま、みなさんと一緒にいることは出来ません。
に辛いんです。
リアスお姉さまや一誠さん等が良い人だって思っているから、余計
私の、私の大切な家族を傷つけたことは、許せないんです。
﹁でも、でも
アーシアは、リアスや一誠たちへ、射抜くような視線を向ける。
リアスお姉さまや一誠さんが、私を思ってくれたのは嬉しいです﹂
世界を、私の知らない現実を知ろうって。
﹁私はアーリィ姉さまと約束しました。
不思議で仕方がない、という表情である。
うな、
その顔は、まるでそんな答えを考えてもいなかった、とでもいうよ
アーシアの言葉に、リアスは聞き返す。
?
﹁いや、これは言葉の綾であってだな・・・
!
会の出口へと向かう。
175
!
自分に対して怒るアーシアに、ゼノヴィアは苦笑しつつ、二人は教
!
!
﹁教会があなた達を快く迎えると、本当に思っているの
その二人に、リアスは言葉を放つ。
﹂
その言葉は、アーシアとゼノヴィアの足を止めるのに十分な力を
持っていた。
﹁現実を見なさい、二人とも。
﹂
アーシアは悪魔を癒した魔女として、ゼノヴィアは神の死を知った
異端として、
教会から追放されたのよ。
そんなあなた達を、追放した教会が迎えると思うのかしら
アーシアとゼノヴィアは、黙ったまま動かない。
その姿に、リアスは更に言葉を重ねる。
もしかしたら、教会へと行った途端に殺される可能性もあるのよ。
それこそ、教会からしたら忌むべき存在だわ。
﹁仮に迎えられたとしても、あなた達はもう人間じゃない。悪魔なの。
?
いくら天使長と言えど、あなた達を必ず守ってくれるという保証も
ない。
二人にとって、ここにいる方がとても安全なの。
解ってちょうだい。﹂
リアスは、諭すように二人へ言葉をかける。
心配なんだ
わざわざ二人が危険なことをする意味がないん
だからアーシア、ゼノヴィア、もういいんだよ
﹂
﹁ありがとうございます。リアスお姉さまに一誠さん﹂
背を向けたまま、アーシアは答える。
176
?
それは本当に二人を思っての言葉だ。それは本当に愛する家族を
思っての言葉だ。
﹁そうだよ二人とも
だ
!
リアスの言葉に加え、一誠が思いの丈をぶつける。
!
!
それに俺、二人が危険な目にあうかもしれないと思うと、すっげぇ
!
﹁でも、私決めたんです。
たとえ危険だと解っていても、恐いと不安でも、私はいくって決め
たんです。
私だって、本当は怖いです。恐くてたまりません。
﹂
私を魔女と言った人たちの姿を、今でも思い出して体が震えてしま
います﹂
﹁だったら
﹁でも、思い出したんです。そんな中、アーリィ姉さまだけは味方だっ
たことを。
私を守ろうと、私の前に立って、必死に声を上げていた姉さまを。
離れ離れになった時、私を必ず迎えに来ると約束してくれた姉さま
を﹂
一誠の言葉を、アーシアは遮る。
﹁そして約束通り、姉さまは私を迎えに来てくれました。
約束を忘れてしまっていた私なのに、姉さまは約束を忘れなかっ
た。
悪魔になってしまった私を、姉さまは変わらない態度で接してくれ
ました。
私は、アーリィ姉さまに沢山の感謝があるんです﹂
くるりと振り返ったアーシアを見て、一誠たちは言葉を失った。
﹁だから私、もういないアーリィ姉さまの約束だけは、絶対に守りたい
んです﹂
アーシアは泣いていた。
それは大切なモノを無くしても、それでも前へと進もうとする、決
アーリィは・・・﹂
意ある顔でもあった。
﹁いや、アーシア
その視線からは﹁あなたはどうなの
﹂という問いを含んでいた。
そしてゼノヴィアへと視線を変えた。
リアスが遮る。
アーシアの言葉にゼノヴィアが何か言おう振り向いたが、、それを
﹁そう、アーシアの決意は固いというのね﹂
?
?
177
!
﹁私は、アーシアを守ると誓ったからな。
さっきも言ったが、私だって教会に対して思うところはある。
だが、アーシアが行くと決めたなら、私も着いて行くさ。
それに私も、自分が何を守る為に剣を振るうのか、もう一度見つめ
直したいんだ。
世界を見れば、それが解るかもしれない﹂
リアスや一誠等の視線を受けゼノヴィアは笑う。
﹁あと私は、あいつの夢を聞き忘れていたからな。
イリナにも謝らないといけないしな。
そのためにも、私も行かなければならないんだ﹂
ゼノヴィアの言葉に、リアスは口元をギュッと噛む。
一誠は、二人の言葉に戸惑いつつも、言葉を出そうと考え込む。
他の皆は、ただ黙ったまま事の成り行きを見つめていた。
ギャスパーは、段ボールに籠って小刻みに震えているせいか、時折
ガタガタと音が響く。
﹁もういいかな、部長。私たちの決意は話した。
これに関しては、いくら言われても曲げるつもりはない﹂
そう語るゼノヴィアの目も、アーシアと同じように強い決意を秘め
ている。
﹁そう﹂
リアスは、二人の視線を受けて言葉を放つ。
﹁なら行きなさい。もう私は止める気はないわ。
でも、あなた達が思っているよりも、世界は優しくない。
だから、辛くなったらいつでも帰ってきなさい。
ここがあなた達の帰る場所なんだから﹂
その顔は、説得するのを諦め、苦笑いをしていた。
その言葉に、二人は一瞬呆けるも、
直ぐに﹁ありがとうございます﹂とお礼を言うと、外へと出て行こ
うとする。
他の眷属たちは、リアスの言葉に内心緊張していたが、
穏便に事が終わったということでそれぞれが安堵の表情をする。
178
﹁良いんですか部長
このままだと二人が・・・
だが、一誠はリアスの言葉に異議を唱える。
﹂
受け入れてしまえば、自分たちの行いについて責を問われるわ。
﹁さっきも言ったけど、決して教会は二人を受け入れるはずがない。
それだって到底許せることじゃない。
今まで尽くしてきた彼女を、教会は追放したのだ。
を知っただけで、
ゼノヴィアは神のために必死に頑張っていたっていうのに、神の死
ゼノヴィアにしたってそうだ。
しめる。
悲しい笑顔をみせていたアーシアの姿を思い出し、一誠は拳を握り
悪魔を癒したというだけで魔女と掌を返した教会。
祀り上げておいて、
人を癒すというだけで、アーシアの気持ちを知らずに勝手に聖女と
リアスの言葉に、一誠は教会がしてきたことを思い出す。
よ﹂
自分たちの汚点である二人をどう思うかなんて、解りきったこと
なにせ、自分たちの信仰を重視する教会だもの。
﹁さっきも言ったけど、教会が二人を迎えるとは到底思えないわ。
明する。
そんな一誠を、リアスは面白そうにクスリと笑いながら、優しく説
のだ。
リアスの言葉に、一誠は目をしばたたく。部長の話が理解できない
思ったの﹂
本当は二人とも傷ついて欲しくなかったけれど、荒療治が必要だと
﹁大丈夫よ一誠。二人は必ず帰ってくるわ。
声を荒げる一誠の口を、リアスは人差し指で塞ぐ。
当たり前だ、部長は二人のことを大切にしてると思っていたのに
!
二人には可哀想だと思うけど、現実を知れば、解ってくれると思う
の。
179
!
!?
﹂
私たちの家が、自分たちを受け入れてくれる場所なんだってね。﹂
﹁ですけど、部・・・
しているんだ。
俺はなんて無力なんだ
そんなことも解らないのか、俺は
くそ
俺は思い上がっていたんだ
ても止められないなんて
何が赤龍帝だ
!
!
大切な主の涙すら止める術も、大切な家族が傷つくことが解ってい
!
!
部長だって、二人を止められず、二人を行かせてしまうことを後悔
さを噛みしめる。
他の眷属たちも、皆、一誠やリアスと同じように、自分たちの無力
リアスの哀しそうな顔を見て、一誠は胸を痛めた。
それでも止められないなんて・・・。﹂
自分の家族が、可愛い眷属が傷つく未来を知っていて、
﹁でも私、主失格ね。
なぜなら、リアスは泣いていたからだ。
一誠は更に反論しようとするも、言葉が止まる。
!
﹂
﹁二人とも、そんなに私のことを思ってくれていたなんて・・・
お姉ちゃん、嬉しくて讃美歌を謳いたくなります
突如として、教会内に声が響く。
な溜息を吐く。
その声に、アーシアやリアスたちは驚き、ゼノヴィアは呆れたよう
!
!
一誠は、自分の無力さに爪が食い込む程に、拳を握りしめていた。
!
180
!
突然、床に散らばっていた紙きれが舞い上がり、
アーシアとゼノヴィアの前で紙束の柱になる。
紙の柱が吹き飛ぶとそこには、
灰色の髪を流し、黒い修道服を着た女性が、右手にボストンバッグ
を持って立っていた。
181
狂人
黒い修道女の登場に、教会は静まり返った。
それは、驚きによるものなのか、
それとも今までの張りつめた空気がぶち壊され、呆れているのかは
解らない。
だが、その修道女の登場は、予想されていなかったと言える。
ただ一人を除いて。
﹁あれ、皆さんどうしました
もしかして私、とんでもないことをしてしまいましたか
でしたら、心から謝ります﹂
沈黙と刺さるような視線を受け、
修道女は顔から冷や汗を流しながらぺこぺこと頭を下げる。
そんな彼女の姿に、青髪の少女は溜息を吐き、白い服の少女は目に
涙を溜め、
赤い髪の少女たちは、まるで幽霊でも見たかのように、信じられな
いという表情をしている。
﹂
そして、そんな空気を破るように、白い少女が修道女に抱きついた。
﹁あ、アーリィ姉さまぁぁぁぁぁ
﹁ゴフ﹂
本当に姉さまなのですね
!
ただ、思いっきりぶつかったため、修道女は受け止めきれずに倒れ
!
しめ、彼女の頭を撫でた。
﹁ごめんなさい、アーシア。
貴女を悲しませるつもりはなかったのですが、
ちょっとした手違いで貴女を傷つけてしまいました。
私、姉さまが死んでしまったと思って・・・
本当に、ごめんなさい﹂
﹁本当です・・・本当です
!
182
?
?
アーリィ姉さま
!
込んだ。
﹂
﹁ア ー リ ィ 姉 さ ま
私・・・私
!
泣きながらアーリィに抱きつくアーシアを、アーリィはそっと抱き
!
酷いです
姉さまは酷いです
﹂
アーリィに怒りをぶつけるアーシアだが、
その反面、彼女を抱きしめるアーシアの腕は、更に強くなる。
ところで、基本的に悪魔の身体能力は人間を越えているので、
貴女を傷つけたことは・・・謝ります。
幼いアーシアであるが、その力は見た目よりもかなり強くなってい
る訳で・・・。
﹁あの・・・アーシア
ですから・・・その・・・力を緩めてくれません・・・か
﹂
!
姉さま、その傷は・・・
るのが目に映った。
﹁
﹂
身体には幾つか治療された火傷の跡や、服の下に包帯が巻かれてい
いつも彼女が隠していた素顔と、灰色の髪が目に入り、
ふとアーリィを見ると、彼女はいつものヴェールを被っておらず、
アーリィの苦しそうな声に、直ぐに力を緩めるアーシア。
﹁あ、ご、ごめんなさい
実は・・・傷口に当たって、かなり痛いで・・・す・・・﹂
です。
あの、ゆっくりと、万力の、ように、腕が締まってきているの・・・
?
?
ただ、約束を守らない悪魔たちに襲われてしまい、
お仕置きしようとしたら、予想外なことが起きて、逆に傷を負って
しまっただけですから﹂
心配するアーシアを見つめ、アーリィは素顔で笑う。
﹁本当に大丈夫ですよ
いなくて凄く焦ったとか、
形見のロザリオが無くてパニックになったりとか、肝心の貴女達が
れていくつもりだったとか、
邪魔しに来た悪魔たちが動けない内に、アーシアとゼノヴィアを連
で治療をして持ち直し、
もう少しで本当に死にそうだったのですが、転移で逃げた後に自分
?
183
!
!
﹁何でもないですよアーシア
!
?
!?
教会の方に気配を感じて予定外のことに叫んだりとか、
もしも二人に何かしていたら、容赦なくぶっ殺してやろうと急いで
戻ってきたとか、
一切そんなことはありませんから﹂
アーシアを落ち着かせようと、アーリィは彼女の頭を撫でながら、
笑顔で語る。
だがアーリィの語る内容に、ゼノヴィアは口を引き攣らせ、
リアスたちはその内容の悍ましさに顔を青ざめる。
そんなアーリィにゼノヴィアが近づき、声をかけた。
﹁手酷くやられたな﹂
﹁そうですね、これは私の甘さが原因です。
﹂
生きているのは、主への祈りと善行の積み重ね、そして運が良かっ
ただけですよ。
正直、加減をし過ぎました・・・それにしても
アーリィは、アーシアをいったん離し、立ち上がってゼノヴィアを
睨む。
﹁酷いじゃないですか、ゼノヴィアさん。
こっそりと見てましたが、貴女、私のことを心配してなかったです
よね
﹁仲間の死を見過ぎたからな。
そういったものには慣れてしまったのだから許してくれ。
いや、心配はしていたさ。
お前の死体を見ない限り、死んではいないと思うぐらいは信用して
いたよ。
それに、お前を知っている私からしたら、ここで死ぬ方が信じられ
ない﹂
射るように睨むアーリィの視線を受けながら、ゼノヴィアは目を泳
がせながら答える。
そのゼノヴィアの言葉に、アーリィは﹁まったく・・・﹂とため息
を吐く。
184
!
私が死んだと言われた時も、顔色一つ変えませんでしたし﹂
?
﹁あの、アーリィ姉さま、これを・・・﹂
声の方へ振り向くと、アーシアがアーリィに何かを差し出してい
た。
それはアーリィにとって、母親の形見であり、妹を殺した凶器であ
り、
家族の名前が彫られた、アーリィにとって、唯一家族との繋がりを
持ったロザリオだった。
だが、今のアーシアにとってそれは猛毒であり、
触れているアーシアの手は火傷を負ったように爛れているにも拘
らず、
アーシアは笑顔で差し出している。
その姿に、アーリィは目から涙を一筋流す。
﹁ありがとう、アーシア。
私の大切な思い出を見つけてくれて。本当に・・・ありがとう・・・﹂
﹂
話をつけたとはどういうことなのか
そしていったい何をしたというのだろうか
185
アーリィはロザリオを受け取ると、自分の首にかける。
そしてアーシアの手を取り、直ぐに傷口に治癒を施す。
﹁もう大丈夫ですよ。
悪魔に十分効くかは判りませんが、直ぐに良くなるからね﹂
そう言うと、アーリィは落ち着かせるように、アーシアの頭を撫で
る。
﹁さて、二人の決意も聞けたことですし、二人とも行きましょう
﹁
大丈夫です。私がぜーんぶ、話をつけておきましたから﹂
い。
心配することはたくさんあるでしょうが、お姉ちゃんに任せなさ
?
私の話を聞いてくださり、二人を私の元に置くことを約束してくだ
﹁教会の方々も、話の解る人たちで本当に良かったです。
?
?
アーリィの言葉に、アーシアどころかその場にいた全員が驚く。
!?
さいました。
教会の人体実験等を公にして全ての信徒を疑心暗鬼にさせ、
信者の数を減らして差し上げますと説得したら、直ぐに約束してく
れたのですよ
私の信心深さと熱心な言葉に、主が働きかけてくださったのです
ね﹂
そう言うとアーリィは、
﹂
左手に鞄を、右手にアーシアとゼノヴィアの手を取り、教会の出口
へと向かう。
﹁待ちなさい
だが、それを止める者がいた。
振り向くと、腕を胸元で組み、自分たちを睨みつける悪魔たちがい
た。
その姿に、アーリィは首を傾げる。
﹁どうされましたリアスさん
?
とでも言うのですか
﹂
それとも先ほどのように、
﹃私が二人に何かして無理やり言わせた﹄
でも駄目です。先ほど二人の言葉を聴きましたよね。
もしかしてまだ何か不満でもあるのですか
?
ですか
﹂
﹃勝手﹄に﹃約束をなし﹄にしておいて、
﹃私に従え﹄と言ったこと
と、
﹃家族が危険な場所に行くのを、家族として見ていられないから﹄
﹁あれ、違いますか。ではその後で、
アーシアとゼノヴィアの動きが固まる。
その言葉に、リアスたちは不意打ちを受けたように驚き、
?
﹁ああそれとも、
﹂
186
?
!
二人がリアスたちを見る。
?
﹃悪魔に家族を滅茶苦茶にされた私﹄に﹃悪魔になれ﹄とまた言いま
す
?
アーリィの顔から笑顔が消える。
﹁そうでないとしたら、先ほどのように、言うことを聞かない私を、
﹂
﹃みなさん総出﹄で、
﹃私の可愛い眷属に言い寄るな﹄と言って﹃殺
す﹄のですか
アーシアとゼノヴィアの中で、何かが起きた。
アーリィの間を置かない言葉に、教会内は沈黙が支配された。
そしてその静寂を破ったのは、問いの言葉だった。
﹁どういうことですか、リアスお姉さま。
お姉さまは確か、アーリィ姉さまが襲ってきたと、
﹂
お話をしに行ったら、アーリィ姉さまが話を聞かないで襲ってきた
と言いましたよね
じゃあ、今、姉さまが言ったことは・・・何なのですか・・・
?
?
震えるような声を発したアーシアの顔は、リアスたちを射抜くよう
な目だった。
187
?
砂上の楼閣
﹁騙されるなアーシア
た。
一誠が叫んだのだ。
﹂
﹁イッセーさん・・・﹂
一誠の方へと向き、アーシアは呟く。
俺たちを殺そうとした奴なん
﹁アーシア、ゼノヴィア、二人ともそいつに騙されているんだ
そいつは俺たちを襲った奴なんだ
﹂
!
﹁そう言って、私に怒りましたよね、一誠さん
﹂
!
二人に、無理やり私に着いて行くようなことをしたとします。
﹁ところで一誠さん、仮に私が何かしたとします。
それを尻目に、アーリィは言葉を紡ぐ。
その言葉に、アーシアとゼノヴィアが一誠に目を向ける。
ね﹂
私がそんなことはないと言っても、耳を傾けてくれませんでした
と。
二人がお前なんかに着いて行くはずがない
?
だからこそ、脆い。
二人を思っての言葉だ。
それは一誠の心の叫びだった。
一誠の言葉が教会に響く。
そいつは、二人が思っているような奴じゃないんだよ
都合が悪くなったら、すぐに二人を見捨てるに決まってる。
だけだ。
﹁口では二人を心配しているようで、そいつは教会の命令に従ってる
それを肯定と受け取ったのか、一誠は更に捲し立てる。
一誠の言葉を、アーリィは無表情で受け止める。
だぞ
!
リアスたちを見つめるアーシアに向かって、大きな声が投げられ
!
!
188
!
私に、それをする理由があるのですか
﹁だから、それは教会の命れ・・・﹂
﹂ ﹁教会が私に命令をするとしたら、それは暗殺でしょうね。
言ってしまえば、アーシアは教会にとっての恥ですから。教会が保
護する理由が無いんですよ。
むしろ、消し去ってしまいたい存在なんです。
同じように、ゼノヴィアさんも同じことが言えます﹂
アーリィの言葉に、アーシアとゼノヴィアの二人は目を伏せる。
解ってはいた、解っていたつもりなのに、アーリィから告げられた
言葉が胸に刺さる。
﹁ですが、教会も一枚岩ではないんですよね。
まぁ、私と言う存在もいますから明白でしょうけど。
私以外にもいたんですよ、アーシアを気に留めていたお方が﹂
その言葉に、彼女以外の全員が驚く。
﹁アーシアが追放された後、私は同じように戦場へと飛ばされました。
ゼノヴィアさんと初めて出会った場所ですね。
理由は、まぁ察していますがあえて言いません。ええ、本当に死に
かけました。
その後、教会のご意向で数々の戦場へと回されましたが、
その最中で、私はある司祭枢機卿と接触することが出来たのです。
その方は、アーシアの追放に心を痛めたお方で、ずっとアーシアの
ことを気にかけていました﹂
アーリィは、アーシアの方へと向き、柔らかな顔になる。
﹁私が教会を説得した後、すぐに連絡を下さりましてね。
アーシアとゼノヴィアは自分の所で保護されるよう、取りもってく
ださったのです。
流石に、司祭枢機卿を無下にする馬鹿どもはいないでしょうから、
二人はひとまず安全だと思っています。
﹂
誰だって、病死や事故死は怖いものですから﹂
﹁あの・・・その方って・・・
189
?
﹁会えば分かりますよ。アーシアのお手紙、大切にしていらっしゃい
?
﹂
ました﹂
﹁
アーリィの言葉に、アーシアは何か思い至ったのか、その顔は驚き
で満ちていた。
﹂
﹁ならおかしいわ。なぜ教会が恥であるはずの二人を保護するの
保護の理由が無いわ
?
﹂
アーリィは、笑って言葉を吐く。
ちなみに、その後の彼女たちの消息は不明です。﹂
しかも、相手の悪魔は全て同じだったかもしれないとか。
許されずに追放。
聖女様たちが悪魔といたところを﹃偶然﹄見られ、その後は弁論も
会﹄で倒れていて、
それもアーシアと同じように、
﹃傷だらけの悪魔﹄が﹃何故﹄か﹃教
いたのです。
﹁敬虔だった聖女様やシスターが、連続して魔女になって追放されて
その言葉に、全員に動揺が走る。
﹁
てじゃないんですよ﹂
実は、悪魔と接触し魔女とされて追放されたのは、アーシアが初め
つけたんです。
すると、アーシアが追放される前のことについて、面白い事実を見
﹁私、アーシアを捜している間に、色々と調べたんです。
は話を続ける。
アーリィ以外がまるで狐につままれたような顔をする中、アーリィ
すよ﹂
いえ、単純な話です。アーシアやゼノヴィアさんの身を護るためで
﹁ああ、そうですね。私、うっかりしてました。
今度はリアスが口を挿む。確かにアーリィの言葉には説明がない。
!
﹁もしかしたら、追放された後、その悪魔に拾われているかもしれませ
んね。
190
!
!?
なにせ、追放された彼女たちには、自身を守るモノが何もないんで
すから。
今頃は、自分たちが追放された原因の悪魔と、深いお付き合いをし
ているかもしれませんね﹂
だがすぐに笑みを止め、能面な顔に戻る。
﹁ですから私、このことを教会の方にお聞きしたんです。
そしたら皆さん、とても困っておられました。
となりますし、
そうですよね、仮に私の推論が当たっていた場合、その不始末は誰
が贖うのか
外れだとしても、この可能性を考慮しなかった落ち度はあるわけで
すから。
追放と言う形で、憎き悪魔に生贄を与えていたなんて言われたら、
大変ですからね。
本当に皆さん、困っていて﹃とても面白かった﹄なぁ﹂
淡々と告げるアーリィだが、その口元は少し歪んでいた。
﹁ですから、私は言ったんです。
もしかすると、アーシアを手に入れるために、再び現れるかもしれ
ません、と。
私からしても、アーシアは先達の方と比べても遜色ない、むしろ素
晴らしい子です。
仮に犯人がいたとすれば、諦めるには惜しいはず。
と。
ですので、犯人を取り押さえたのならば、名誉挽回のチャンスでは
ないか
その後に、司教様からのご連絡です。もう、主に感謝してもしきれ
ないですよ、本当に﹂
感極まったアーリィの姿に、アーシアとゼノヴィアの二人は目を点
にしている。
ある意味、アーリィの隠れた面を見てしまった弊害なのだろうか。
﹁ですので、リアスさんや一誠さん、二人の身は一応安全と言うことで
理解してくれますか
?
191
?
そうしたら、承諾してくださいまして。
?
仮に二人に何かあった場合は、教会諸共道連れにしてやるつもりで
すから、
その時はご迷惑をかけるかもしれません﹂
ぺこりと頭を下げるアーリィを、悪魔たちは呆然としている。
﹁怪我に関しては、私は自身の身を護るために行ったのですから、お互
いさまだと思います。
ええ、恐ろしい形相で、直ぐにでも襲い掛かってきそうな﹃赤龍帝﹄
に加え、
﹃滅殺の紅髪姫﹄やその仲間たちに睨まれてしまったら、流石に身の
危険を感じましたので﹂
それが理由になるとでも思って
﹂
アーリィはその時の光景を思い出したのか、身体を抱きしめる。
﹁な、ふざけるな
﹁だってそうじゃありませんか。
しかもその赤龍帝は私を憎んでいるのが明白だった。
この時点で、身の危険を感じないとでも思ったのですか
と言ったのに、ふざけるな
と断ったのはお二
それに、最後は私を殺そうとしたじゃありませんか。
私が止めましょう
方ですよ。
?
人間の私を悪魔が6人で囲う。その中には伝説の赤龍帝がいる。
!
!
﹁さて、とりあえず言いたいことは言いましたので、何かあればお聞か
で涙を拭う。
どこから取り出したのか、アーリィは花の刺繍で飾られたハンカチ
ええ、お姉ちゃん、途中から泣きました﹂
す。
アーシアとゼノヴィアさんの言葉に感激して本当に嬉しかったで
ええ、好き勝手言ってくれまして、途中から叫びたくなりましたが、
先ほどの会話を聞かせていただきました。
﹁ところで、仮に私がリアスさんによって死んでいた場合ですが、
一誠の言葉を、アーリィは塗りつぶす。
まぁ、どんでん返しで、私が殺されかけたんですけどね﹂
?
192
!
せください﹂
涙を拭った後、アーリィは朗らかな笑顔でリアスたちに尋ねる。
笑顔だというのに、彼女の目は自分たちを見通すかのように、笑っ
ていなかった。
193
諫言
﹁それでも、俺は、俺はアーシアとゼノヴィアのことが・・・
﹂
アーリィの言葉に、拳を握りしめ、吐きだす様に一誠は呟く。
﹁それは私も同じです。
私も一誠さんと同じように、アーシアやゼノヴィアさんを大切に
思っています。
もちろん、今まで出会った人々をも守りたいとも﹂
一誠の言葉に、アーリィは同意する。
その表情は相変わらず仮面じみているが。
﹁ですから、もう一度聞いてください。
私を信用しなくても構いません。私を信じなくても結構です。
ですが、アーシアとゼノヴィアさんの意志を信じてください。
二人を、二人の想いを大切に思っているのなら。
どうか、お願いします﹂
アーリィはそう言うと、リアスや一誠たちに向かって頭を下げた。
﹂
その姿に、アーシアとゼノヴィアは﹁アーリィ︵さん︶
・・・﹂と呟
き、
対する一誠たちは何も言えずにただ黙るだけだ。
だからこそ、抉る。
﹂﹂
﹁それとも、貴女方の家族と言う絆や思いは、その程度なのですか
﹁﹁なっ
特にリアスは顕著なほどに。
と言ったのです。
﹁貴女達のアーシアやゼノヴィアへの信頼は、その程度なのですか
だが、アーリィは続ける。
だから。
当たり前だ、それはグレモリー家にとっては、家名を穢す禁句なの
?
?
194
!
頭を上げたアーリィの発した言葉に、リアスたちは動揺する。
!?
﹂
言っていい事と悪いことがあるだろうが
﹂
二人の想いを、二人の決意も、貴女方には信頼に足らない物なので
すか
﹁てめぇ
アーリィの言葉に、一誠が吼える。
家族として
﹂
それこそ、アーシアは本当の妹のように、ゼノヴィアは信頼できる
るわ。
﹁そんなことはないわ。私はアーシアとゼノヴィアを大切に思ってい
て言葉を放つ。
その姿に、リアスは背中を押されたように感じ、アーリィを見据え
リィを睨みつける。
一誠に感化されるように、朱乃や木場に小猫やギャスパーも、アー
それを黙っていられるほど、リアス眷属の絆は弱くない。
自分たちを思ってくれる部長を侮辱されたのだから、
!
危険だというのは二人とも承知のはずです。
﹁では、なぜ二人の決意を無下にしたのですか
そして笑う。
います﹂
まるで本当の家族として、仲間として本当に親身になっていると思
います。
﹁そうですよね、貴女方は本当に二人を大切にしていらっしゃると思
アーリィも、申し訳なさそうに謝罪する。
まいました﹂
﹁ごめんなさい、今のは私も言い過ぎました。私も感情的になってし
ア達も顔を赤らめる。
堂々としたリアスの言葉と姿に、一誠たちは胸が熱くなり、アーシ
!
﹁況してや、なんで私が二人に何かしたと決めつけて襲ってきたので
場が凍る。
それも、﹃二 人 に 内 緒 で﹄﹂
破ったのですか。
それでも決めたというのに、なぜあなた方は土壇場になって約束を
?
195
!
?
すか
なんですよね。
まさか、こうなるとは思っていなかったとでも言うつもりですか
﹂
!
﹄と。
?
﹂
ところで、アーシアとゼノヴィアさんの意志を蔑ろにした理由は何
何せ﹃一番信頼できる家族なのですから﹄
そして二度と、貴女方から離れることはないでしょう、
二人は貴女方に絶対の信頼を置くでしょうね。
言葉で囁けば、
そこを、私たちが貴女を守るわ、家族として大切にするわ、などの
もちろん、私は死んでいるのですから死人に口なしです。
当然二人は打ちひしがれるでしょうね。
信じていた家族が、実はとても悪い人だった。
﹁それに、私を悪者とすれば、二人は貴女方を信頼するでしょう。
を妨げる。
リアスの顔が蒼白になる。否定したいのに、アーリィの眼光がそれ
か
その時点で、
﹃私を亡き者にしよう﹄と考えていたのではありません
それでも続行したのは貴女達側です。
それに私は言いましたよ、﹃もう止めにしませんか
だったら、こんなことをしなければよかった訳ですからね。
ああ、二人のことを思ったから、なんて理由は結構です。
か
﹁ならばどうして、私を悪者にして処分したと、二人に説明したのです
否定しようとするリアスを、アーリィは目で射抜く。
﹁な、ちが・・
を悪者にして﹄﹂
だから、土壇場で約束を無しにしようとしたんじゃないですか、
﹃私
?
ですが、約束が決まった後に言いがかりをつけてきたことが不思議
それを信じられるわけではないことは理解しているつもりです。
言った通り、私は二人が断れば素直に帰ると言いました。
?
でしょうか
?
196
?
?
二人の前でお話していただけますか
でしかない。
﹂
否定しようと思えばいくらでも出来るはずだ。
リアスは、勇気を振り絞って言葉を紡ごうとする。
﹁だから私は、二人のことが心配で﹂
﹁なら﹃先に二人へ﹄説明しなければなりませんよね
﹁部長
﹂
﹁だからそれは、私たちが・・・﹂
リアスの身体は、声が震えだす。
言葉に対して、言葉で返す。
だがアーリィはそれを許さない。
なぜ当事者を蔑ろにしたのですか
﹂
﹃二人を心配してる﹄のに、﹃二人のことを思っての行動﹄なのに、
?
アーリィの口から放たれる言葉はあくまで推論であり、言いがかり
?
﹁もう・・・止めてください・・・
!!
それはアーシアの声だった。 リアスお姉さまのことが、皆さんのことが。
﹁もう・・・わかりません、わからないんです。
﹁お願いアーシア、話を聞いて・・・
﹂
﹁お願いです・・・もう・・・聞きたくありません・・・﹂
痛な声だった。
それはか細く、けれども凛とした音色で、そして絞り出すような、悲
声が響いた。
﹂
ボロボロで、まだ傷も癒えていないというのに。
目の前にいるのはただの修道女、ただの人間。
な、そんな世界に感じる。
教会の中にいるというのに、まるで極寒の外に裸で立っているよう
けれども、リアスの震えは止まらない。
リアスの震える姿に、一誠が言葉をかける。
?
!
197
!
一人ぼっちと思っていた私を、皆さんは受け入れてくれました。家
族と言ってくれました。
私、嬉しかった・・・本当に嬉しかったんです。
でも、今の皆さんに対して、私は解らなくなっちゃったんです・・・﹂
アーシアの言葉に、その場にいる全員が黙る。
﹁リアスお姉さまや一誠さんの言葉を信じたい、。
﹂
でも、アーリィ姉さまの言葉が間違っているとも思えない。
わたし、わたし・・・もう、わけが解りません・・・
﹁アーシア待ちなさい
お願いだから待って
﹂
そう呟くと、アーシアは涙を流しながら出口へ駆け出す。
!
て出て行く。
せます。
そこをどけ
﹂
怒りの表情を宿す一誠に対し、穏やかな無表情を張り付けたアー
?
ですから、ここはゼノヴィアさんに任せて、
﹂
アーシアが落ち着くまで、私とお喋りしながら待ちませんか
﹁ふざけるな
﹂
不安定の原因となっている者が追いかけたら、それこそ余計に拗ら
です。
それに、今のアーシアにとって、あなた達は非常にまずいと思うの
!
を追った。
﹁てめぇ
お前に構っている暇はないんだ
ゼノヴィアは、
﹁任せろ﹂と言うように頷くと、直ぐにアーシアの後
一誠を止めたアーリィは、すぐさまゼノヴィアに視線を送る。
﹁アーシアをお願いします﹂
他の眷属たちに対しても、彼女の視線がそれを妨げた。
を止める。
一誠は声を上げて追おうとするが、アーリィが彼の前に立ち、一誠
﹁待ってくれアーシア
﹂
リアスが声を上げて止めようとするも、アーシアはそれを振り切っ
!
焦る一誠に対し、真逆で落ち着いた雰囲気を醸すアーリィ。
!
198
!
!
!
﹁あなた達に無くても私にはあるんですよ、理由が。
!
リィの顔。
お前のせいでアーシアはぁ
﹂
その姿に、一誠は焦りと怒りが相まって、我慢の限界に達した。
﹁お前が
!
﹂
﹂
!?
そ
!
が。
﹁もう一度お聞きします。私と一緒に待ちませんか
﹂
それとも、今の行動が答えと受け取っても構いませんか
﹁受け取ったらどうだって言って・・・
﹁そうですか﹂
される。
?
そして、
﹂
﹁クリスって知ってますか
﹁一誠、逃げて
﹂
﹂
一誠はふらついたせいで力を込めることが出来ず、そのまま引き倒
すると、ふらつく一誠の左腕を誰かが掴み、引っ張られる。
!?
?
?
突き出した拳には何も感触が無く、拳が当たったわけではないのだ
戻す。
突然の衝撃に、一誠はふらつく頭を押さえながら、なんとか体勢を
﹁くそ、いったい何が起きたんだ・・・
突如、自分の額に衝撃が起き、一誠は後へとよろめく。
﹁がっ
一誠はアーリィに向かって拳を突きだした。
ういった焦りもあり、
この場でこいつを黙らせて、アーシアを追わなければいけない
対する自分たちの傷はアーシアのおかげで全快と言ってもいい。
アーリィはその見た目からしてボロボロで、
アーリィに殴りかかる。
一誠は、左腕に赤龍帝の籠手を出現させると、倍加をかけながら
!
まるで何かに抉られていくような感覚。
分に激痛が走る。
そして左腕、それも竜化している部分を外し、肩よりも胸に近い部
誰かが自分に問いかける声と、逃げるよう、叫ぶ声を聞いた。
!
199
!?
その激痛に一誠は叫んだ。
﹁それとも、フランベルクの方がご存知ですか
更に抉られる感覚。
﹂
その痛みに一誠は叫び声を上げるが、身体は押さえつけられている
のか、動けない。
﹁ああ、動かないでください。動くと余計に悪化しますよ﹂
痛みに意識を持ってかれそうな中、何とか目を開けた一誠が見たの
は、
額から血を流しながら、自分の上にいた修道女だった。
200
?
悪魔
﹂
﹁さて、静かになったところで、私からご提案があるんですが、良いで
しょうか
額から血を流しながら、足元に一誠が転がっている状態で、
アーリィはリアスたちへと顔を向けた。
額から垂れる血を拭いもせず、彼女は笑顔で問う。
だが、リアスたちからすれば、一誠のことが気になり、彼女の言葉
が耳に入らない。
﹁あ、もしかして兵藤さんを気にしているのですか
りません。
そうとし、 ﹁一誠から離れなさい
﹂
﹁分かりました。じゃあ、私は退きますね﹂
これ以上、一誠に何かしたら、私は貴女を許さないわ﹂
どういった提案なのか解らないけど、先に一誠から離れて
﹁解ったわ。
リアスの声で手を止められた。
!
突き刺した剣と一緒に。
﹂
途端、一誠の叫び声が木霊する。
﹁何をしてるの
フランベルク
﹁いえ、自分の物を回収しようとしているだけですが
駄目です。あげませんよ。 こ れ 結構、値が張るんですから。
それに、道具は大切にしないとダメと教わらなかったのですか
私の一誠を苦しめないで
?
!
そう言いながらも、アーリィは剣を抜こうとする。
その場から動かないで
!
﹂
アーリィは、ゆっくりと一誠から離れようとした・・・・・・・・
!
リアスたちの視線と表情から、アーリィは倒れている一誠に手を翳
それでも心配なら、今すぐ彼を治癒しましょうか
﹂
なら安心してください。無力化しただけですか、別に命に問題はあ
?
?
?
!?
剣の傷口からは血が迸り、一誠の悲鳴が聞こえる。
﹁分かったわ
!
201
?
お願いだから・・・
﹂
首を傾げるアーリィだが、
﹁離れろと言ったり、動くなと言ったり、一体どっちなんですか
!
だけです﹂
そんな表情をなさって。
リアスの反応に怒るアーリィ。
﹁あ、でしたらこれはどうでしょうか
﹂
教会を無理やり黙らせた彼女の行動からすれば、いま彼女が示した
リアスはアーリィの提案に困惑していた。
情報共有は、大切なことですからね﹂ すよ。
それと、私たちが知った情報をそちらにお渡しすることも約束しま
彼女たちが決めたとはいえ、無理を言ったのは私ですからね。
1年経たずともすぐに帰ります。
もしも、アーシアがあなた方の元へ帰りたいと願うのであれば、
?
酷いですね、私もそこまで押し付けがましいことはしませんよ﹂
もしかして、もっと酷いお願いをすると思っていたのですか
どうしたのですか
﹁ええ、それだけですが。
る。
リアスはアーリィの条件に、少し意味が解らないといった表情をす
﹁それだけ・・・
﹂
そしてもう1つは、
﹃1年後のアーシア達の考えを認めること﹄それ
理由は、さっき言いましたからいいですね。
するため。
これは、悪魔側から狙われているアーシアやゼノヴィアさんを保護
1つ、﹃悪魔側から二人にとって害ある行動を取らせない﹄
追加するのは、2つ。
二人に世界を見て回ってもいいという自由、これは同じです。 ですが、少し付け足しさせてくれませんか。
﹁では、私のお願いですが、内容は大体同じです。
剣から手を離し、気を取り直してリアスと向かい合って咳払い。
?
?
?
202
?
提案はあまりに優しいのだ。
そして彼女からの条件も、事と次第によっては、直ぐにでも二人が
帰ってくる可能性がある。
もしかしたら、自分の考えが及ばない裏があるのかもしれない。
リアスの頭は、簡単に条件を呑むには危険すぎる、という考えが浮
かぶ。
だが、もしも断れば、彼女はより恐ろしい要求をする可能性もある、
という考えもある。
なにせ、彼女の足元には、自分の大切な存在、一誠という人質がい
るのだから。
下手に彼女を怒らせれば、一誠に危害が及ぶ可能性がある。
彼女を取り押さえようとも、彼女が一誠を傷つける方が速い。
結局自分たちは、彼女の提案を呑むしかないのだ。
リアスは考える。
できれば、2度とこんなことが無いようにお願いしたいです。
また同じようなことが起きたら、私でも何を仕出かすか分かりませ
んから﹂
アーリィは、胸を撫で下ろした。
﹁仮に﹃また﹄私が約束を破った、なんてふざけたことを抜かしました
ら、
203
今の条件を考えると、最初に約束した内容とほとんど同じといって
もいい。
ただ2つの条件が追加されただけだ。
だったら、提案が酷くなる前に決めるべきではないか。
それに、一誠が心配で心配で仕方がない。
﹂
今も目の前で、苦痛に顔を歪めている一誠が映り、リアスは気が気
でないのだ。
もう一誠を傷つけないで
﹁・・・解ったわ。あなたの提案を呑みます。
だから早く消えて
!
心配でしたが、﹃ちゃんと﹄約束が出来て本当に良かったです。
﹁ありがとうございます。
!
こちらには﹃証拠﹄がありますから、言い訳させませんのでそのつ
もりで﹂
そう言いつつ、アーリィは剣に手を触れる。
﹁では、これを回収したらここを去りますね﹂
アーリィの手が一誠に刺さっている剣に触れると、一瞬で剣が霧散
した。
﹁私は今から二人を見つけないといけませんので、これで失礼します
ね。
﹂
では、また1年後にお会いしましょう﹂
﹁貴女は・・・人間じゃない・・・
﹁悪魔に言われるのは慣れてます﹂
アーリィは、リアスたちに頭を下げると、足元の鞄を拾い上げ、教
会の出口へと歩む。
しっかりして一誠
と叫ぶ声を聞きながら、アー
アーリィが一誠から離れると同時に、リアスたちは一誠に駆け寄っ
ていった。
うしろで、一誠
リィは歩く。
!
ている。
家族を、大切な存在が傷つけられ、奪われた者が宿す、そんな眼だ。
大切なモノを傷つける存在を許さない、そんな目だ。
リアスから感じたのは、大切な存在を守りたいと、大切にしたいと
思う姿。
他の子たちも、そうした気持ちであると解った。
それは誰もが持っているはずの感情。
こうなってしまったのは、その思いが暴走した結果なのかもしれな
い。
リアスたちがアーシアやゼノヴィアさんを思う気持ちは、本当なの
だろう。
自分も、彼女たちと同じように、二人のことを思っている。
危険を解っていて、それを無理やりにでも止めようとした彼女たち
204
!
リアスが、彼女の眷属たちが、自分を見ていた眼を、アーリィは知っ
!
と、
危険と解っていて、それを認めた自分。
どちらも、同じ人たちのことを思っての行動だ。
だが、彼女たちの行動は、鳥かごの鳥を愛でるのとどう違う。
羽ばたきたいと願った鳥を、危ないからと閉じ込めるのが正しいの
だろうか。
アーリィには、それが絶対に正しいとは思いたくない。
鳥かごの世界で安全に飼われて生きるよりも、
厳しくも世界を知りたいと願ったことを、間違いと否定をしたくは
ない。
この考えの違いは、きっと最後まで平行線なのかもしれない。
ふと、兵藤一誠の言葉を思い出した。
手を取り合える未来
おかしな話だ。
﹃今は憎しみ合っていても、互いに手を取りあえる未来が来る﹄
和平
い。
それを勝手な都合で奪うことなど、アーリィには許せるはずがな
同じなのに。
悪魔だって、人だって、お互いに大切なモノを守りたいと思うのは
と言えるのか。
その事実から目を逸らして、一体どうして、互いに手を取り合える
力なく、ただ蹂躙され、憎しみと悲しみに沈む人たち。
悪魔と、
人間を下等と見下し、気まぐれに、そして理不尽に何もかもを奪う
はないのか。
互いが互いを思ってこそ、互いを理解できてこそ、手が結べるので
るはずがない。
一方だけが搾取し、一方が搾取される、それが﹃正しい平和﹄であ
と、アーリィは思う。
そもそも、互いに手を取り合うならば、それは対等であってこそだ
?
あの時のようなことを、ただの悲劇で終わらせて良いはずがない。
205
?
絶対に出来ない。
リアスたちが、必死に兵藤一誠に声をかけるのが聞こえる。
ああ、彼女たちにとって、彼はとても大切な存在なのだろう。
大切にしたい、守りたいと思うのだろう。
アーリィは教会の扉の前で止まり、
﹁なぜあなた達は、その気持ちを他へも向けてくれないのですか﹂
そう呟いて、教会を後にした。
﹁しかし、咄嗟に頭突きをしましたが、額が切れるなんてどういう石頭
﹁こっちですか
ありがとうございます
ええ大丈夫です。ちゃんと話をつけましたから。
それで、二人とも今どこですか
?
私がそういったことが得意だって、知っているでしょうに。
?
206
をしていたんですか﹂
アーリィは、額をハンカチで拭うと、治癒術をかける。
このハンカチ、結構好きでしたのに・・・﹂
刺繍が入ったハンカチは、真っ赤に染まった。
﹁ああ
解っているでしょうに﹂
本当ですか
考え込むアーリィに、ふと声が響く。
﹁ゼノヴィアさんですか
え、アーシアを保護した
!?
それでアーシアですが・・・やはりそうですか・・・﹂
ゼノヴィアさん、お疲れさまです。
?
?
アーリィは感謝の言葉を告げ、ゼノヴィアの言葉に顔を曇らせる。
!
探そうにも、私がそういったことに長けていないのは、二人とも
﹁それにしても、二人はどこへ行ってしまったのですか。
ハンカチの惨状に、アーリィは溜息を吐く。
!?
え、お部屋ですか
ええ、大丈夫です。ちゃんと道は解りますから﹂
﹁アーシアぁぁぁぁぁぁぁ
!
アーリィは、息を整え、両脚にに力を入れ、そして、
?
お姉ちゃんが今行きますから、待っててくださいねぇぇぇぇぇぇ
﹂
走った。
207
!!
抱擁
ゼノヴィアは扉の前でウロウロしていた。
アーシアに追いつき、なんとか保護することが出来たものの、
泣いていたアーシアに対し、何を言えばいいのか分からなかった。
ゼノヴィアは割り切ることが出来るにしても、アーシアはそうでは
ないことは、
いくら鈍いゼノヴィアでも解ることだ。
取りあえず、落ち着かせるために一端家に戻るが、
アーシアの﹁一人にさせてください﹂という言葉に何も言えず、
扉を一枚挿んで、アーシアが落ち着くのを待っているのだ。
とアーリィを待ちつつ
その後アーリィに連絡したから、彼女のことだから、直ぐに来るだ
ろうと思う。
しかし、その後、どうしたらいいだろうか
も、考えていた。
﹁アーシア、別に気にすることじゃない・・・これは駄目だ。
大丈夫だよアーシア・・・一体何が大丈夫と言うんだ。
﹂
アーシア、私が守ってやるから安心しろ・・・これだとアーリィに
怒られそうだな。
くそ、私の頭ではダメなのか・・・
こういったことには疎いゼノヴィアにとっては、学園の授業よりも
困難な問題だった。
頭 を 抱 え て 少 し の 後、玄 関 の チ ャ イ ム が 鳴 っ た。ど う や ら、ア ー
リィが着いたらしい。
﹂
これで何とか出来るかもしれない、と縋る思いで玄関の戸を開ける
と、
﹁ぜ、ゼノヴィア・・・さん。あ、アーシアは、ど、どこにいますか
息もキレギレの汗だくシスターが、
獲物を狙う肉食獣のようなギラギラした目で立っており、
ゼノヴィアは無言で扉を閉めた。
?
208
?
なんとか、アーシアにかける言葉を模索しているのだが、
?
﹁酷いじゃないですかゼノヴィアさん
迷ったんですよ
!?
﹂
謝罪する。
あんな顔ってなんですか
込んだアーリィは、
と言いたげな表情をするも、言葉を飲み
息を整えて怒るアーリィに対し、ゼノヴィアは言葉を濁しながらも
﹁いや、その、悪かった。あんな顔で立っていたから、その、すまない﹂
す
それなのに、無言で扉を閉めるなんて、ゼノヴィアさんは酷すぎま
私だって必死に走ってきたんですよ
!? !
﹁ここにいるんですね
﹂
ゼノヴィアに案内されるように、彼女たちの部屋へと歩を進める。
!?
﹂
﹁な、何を言っているんだアーリィ
うか・・・
﹁ところでゼノヴィアさん、私はアーシアに、何を言えばいいのでしょ
そんな幻聴さえ聞こえてくる。
﹃この門をくぐる者は一切の希望を捨てよ﹄
圧を放っている。
聳え立つ城塞の門、またはロダンの地獄の門のように、恐ろしい威
目の前にあるのは普通の扉のはずなのに、今の二人には、
﹁そうですか・・・﹂
時折中で音がするが、入るのも戸惑ってしまっていてな・・・﹂
﹁ああ、一人になりたいと言って後はずっと籠ったままだ。
?
ぞ
﹂
と言いますか、
﹁人の懺悔を聴くのは得意ですが、ほら、アーシアですから・・・ね
家族に対しては、その、こういうのは初めて
言葉が出てこないといいますか・・・﹂
﹁﹂
ドアノブに手をかけようとして、ゼノヴィアの方へ顔を向けたアー
?
?
私はアーリィならなんとか出来ると思って、ずっと待っていたんだ
!?
?
209
!
!?
リィだが、
その顔は冷や汗を流し、半ば固まっていた。
挙句、さっきのリアスたちを翻弄した饒舌さはなりを潜め、まるで
別人のように口籠る。
﹁いえ、いざアーシアにかける言葉を考えますと。
ほら、私が巻き込んじゃいましたから、その、なんと言いますか、
とすれ
慰めるべきなのか、それとも叱咤するべきなのか、悩みまして・・・。
それにお姉ちゃんらしくすればいいのか、それともキリッ
ば良いのか・・・﹂
目を泳がせながら、言葉も泳がすアーリィ。
どうしたのですか
﹂
﹂というアーシアの声と共に。
﹁アーシア
﹁きゃっ
すると、部屋から音が聞こえた。
その姿に、自身のあてが外れ、半ば呆然となるゼノヴィア。
!
すか
﹂
﹁あ、アーリィ姉さまにゼノヴィアさん、そんなに慌ててどうしたので
とそこには・・・
扉を開けたアーリィの呟きが聞こえ、ゼノヴィアも部屋を覗きこむ
﹁あ、アーシア、一体何をしているのですか・・・﹂
るアーリィ。
その瞬間、さっきまでの態度とは別人のように、勢いよく扉を開け
!
!?
﹁ふぅ、お部屋の御片付けが終わりました﹂
その後、アーシアにつられるように、理由も解らず手伝いをする2
人。
せっせと机を拭き、ベッドのシーツを綺麗に敷き、掛布団を畳む。
アーシアの備品などを整理した後は、同じようにゼノヴィアの方も
掃除をする。
気が付けば、部屋は塵やゴミひとつない、まるで入居したばかりの
210
!?
部屋を綺麗にしていたアーシアがいた。
?
ような、
これは一体どういうことですか
そんな部屋になった。
﹁あのー、アーシア
﹁私なりの、感謝の気持ち・・・でしょうか﹂
ません。
﹂
でも、アーリィ姉さまが私に嘘を吐くことなんて、それこそありえ
これは夢だって、そんなことは嘘だって、本当は思いたいんです。
じたくありません。
﹁そんな皆が、私の大切な家族を、姉さまを傷つけたなんて、本当は信
アーシアはポツリポツリと語る。
﹁そう・・・なのでしょうね﹂
です﹂
イッセーさんも、リアスお姉さまも、みんな、みんな、いい人なん
す。
少しの間ですけど、みんなと一緒にいれて、本当に楽しかったんで
みんな、みんな大切な人なんです。
﹁私、分からなくなっちゃいました。
声をかけようとしたアーリィの言葉を、アーシアが遮った。
﹁アーシア、わた﹁私﹂
少しの間、沈黙が流れた。
アーリィの言葉に﹁そうでしたら、嬉しいです﹂と答えるアーシア。
﹁大丈夫よ、貴女の気持ちは、きっと伝わるわ﹂
少しは恩返しできるのかな、と思ったので・・・﹂
そしてこのお部屋に、感謝を込めて掃除すれば、
ごしてきたこの家に、
﹁短い間でしたけど、イッセーさんやリアスお姉さまたちと一緒に過
アーリィの問いに、顔を部屋を見たまま答えるアーシア。
?
だから、これは現実なんだって・・・本当のことだって・・・﹂
﹁アーシア・・・﹂
アーシアは語り出す。
﹁なんで、こうなっちゃったんでしょうか。
211
?
みんな、みんないい人なのに、本当にいい人たちなのに、どうして
こうなっちゃったんでしょうか。
私・・・考えても、考えても、全然答えが見つからないんです﹂
﹁・・・﹂
暫しの静寂の後、アーシアは言葉を吐く。
﹁だから私・・・考えるのを止めました。
ずっと悩んでも仕方がないって、ずっと悩んで立ち止まっても、
何も変わらないって、そう思ったんです
﹂
だったら私は、私がしたいことをやろう、私が決めたことをやろう、
そう思ったんです﹂
﹁アーシアは・・・どうしたいの
アーリィは問う。
そしてアーシアは、振り返り、笑顔で・・・
﹁私、今でもイッセーさんたちのことを信じてます。
でも、同じように姉さまも信じています。
本当はみんな、悪い人じゃない、そう思うんです。
だから私、決めました。
私は・・・イッセーさん等も姉さまも、両方を信じます。
﹂
これは私の想い、私が決めたことです﹂
﹁それが、アーシアの決めたことなのね
﹁我慢しなくていいの、アーシア。今は誰も聞いていないわ﹂
それは、暖かく、淡く、そして安心させるような、色。
た。
彼女が右手で指を鳴らすと、部屋一体が不可思議な灯りで満たされ
震えだすアーシアを、アーリィはそっと抱きしめる。
﹁アーシア﹂
だから・・・だから・・・私は・・・﹂
そんな日が来ても良いと思うんです。
一緒にご飯やお菓子を食べて、笑いあえる、家族になれる日が来る。
たいんです。
﹁はい、今は駄目でも、きっと一緒に笑いあえる日が来ると、私は信じ
?
212
?
﹁ああ、誰も聞いていないさ﹂
アーリィは、アーシアの顔をそっと左手で自分の胸元へ導き、右手
で彼女の頭に触れた。
そして、抱きしめながらアーシアの頭を撫でる。
﹁今は、良いのよ﹂
ゼノヴィアは、アーシア達に背を向ける。
胸元が濡れていくのを感じながら、アーリィはずっとアーシアを撫
で続けた。
ずっと・・・ずっと・・・撫で続けた。
213
旅立ち
﹁アーシア、ゼノヴィアさん、これは私の独り言よ。聞いちゃ駄目です
からね﹂
アーシアを撫でながら、アーリィは呟く。
﹁私ね、悪魔が嫌いなの。寧ろ憎んでると言っても良いくらい﹂
アーシアとゼノヴィアが、身体を強張らせる。
﹁私の大切なものを奪っていった悪魔を、私は許せないの。
もう昔の話なのに、今でも鮮明に焼きついちゃってるの、頭に。
だから正直に言うと、悪魔を殺したいと思っているわ。
それこそ、草の根を分けてでも﹂
二人は何も言わない。いや、言えるわけがない。
これはアーリィの独り言なのだから。
﹁私は悪魔を許さない。私は悪魔を許せない。
214
大切なモノを奪っていく悪魔を、私は絶対に認めない。
信じることも出来ない。﹂
アーリィの手が止まり、静寂が場を支配する。
まるで、アーリィの心を映したかのように、暗く冷たい空気が満ち
る。
﹁でもね﹂
アーリィはアーシアを抱きしめる。
﹁私は﹃アーシア﹄を、
﹃ゼノヴィアさん﹄を信じることは出来ると思
うの。
﹃二人﹄のことは、私がよーく知っているんですから﹂
彼女の言葉に、アーシアとゼノヴィアは反応する。
﹁私、﹃悪魔﹄は信じないけど、﹃二人﹄のことは信じられる。
違うわね・・・﹃信じる﹄
だって、私はアーシアの﹃お姉ちゃん﹄でゼノヴィアさんの﹃親友﹄
なんですから。
﹂
﹃家族﹄を信じられないなんて、そんなのダメだもの﹂
﹁アーリィ︵姉さま︶・・・
!
抱きしめられていたアーシアが顔を上げると、アーリィの顔に2筋
の水が流れている。
﹁酷いですよ二人とも、これは私の独り言なのに。これはお仕置きが
必要ですね﹂
く、苦しいんだが・・・
﹂
そういうと、アーリィはゼノヴィアを手招き、アーシアと共に抱き
しめた。
﹁あ、アーリィ
﹁さて、それでは二人とも行きましょう
だった。
二人を抱きしめるアーリィは、今は亡き主にその思いを決意したの
﹃だから主よ、今度こそ、私に家族を守らせてください﹄
ぎゅっと抱二人を抱きしめる。
それが私の﹃やりたいこと﹄なんですから﹂
嫌だって言っても着いて行きます。
何をしてでも、どんなことをしてでも守ります。
あなた達が行く道を、私はどんなことがあっても守ります。
﹁だから、私は二人を信じます。
は呟く。
アーシアとゼノヴィアの二人をまとめて抱きしめながら、アーリィ
﹁当たり前です、お仕置きなんですから﹂
﹁アーリィ姉さま、は、恥ずかしいです・・・﹂
さい﹂
﹁駄目です。これはお仕置きです。私の気が済むまで抱きしめられな
!?
決意は時間と共に薄れていきます。
何が何でも行
時は金なり、光陰矢のごとし、思い立ったが吉日・・・でしたっけ
!
さぁ行きましょう
!
215
!?
ですから、直ぐに行きましょう
!
?
きましょう
﹂
﹁あ、アーリィ、そんな引っ張るな
﹂
藤家を後にした。
そうした和気藹々
ま、待て、服に何か引っかかった
の中、アーリィ達はお二方に深く頭を下げ、兵
なお、アーリィからすれば、冗談ではない模様。
どうやら、彼女の冗談だと思ったのだろう。
アーリィの言葉に、兵藤のご両親はクスリと笑う。
﹁アーリィさんは面白い方ですね﹂
ます﹂
アーシアに近づく存在は、たとえ蟻でさえも排除する気概で頑張り
﹁もちろんです。アーシアは私の家族でもあるのですから。
﹁アーリィさん、アーシアちゃんのこと、よろしくお願いします﹂
ここが、アーシアちゃんの帰る場所なんだから﹂
でも帰ってきなさい。
﹁しっかりね、アーシアちゃん。大変だと思うけど、辛くなったらいつ
私、お二方と一緒に過ごせて嬉しかったです﹂
少しの間でしたけど、ありがとうございました。
﹁それではお父様、お母様、1年の間ですけど、少し出かけてきます。
!
!
対するアーリィは、不思議そうに首を傾げる。
る。
すると、アーシアが何かに気付いたのか、アーリィの顔をじっと見
駒王町の駅へと三人は談笑しながら歩く。
らいだ﹂
﹁ああ、どうしてあのお二方から、イッセーが生まれたのか不思議なく
本当の娘のように可愛がってくれて・・・﹂
﹁はい、お二人とも私にとても優しくしてくれました。
アーシアやゼノヴィアさんが気を許してしまうのも頷けます﹂
﹁とても優しい人たちですね。
?
216
!
﹁そういえば﹂
いつもならヴェールで覆ってい
アーシアがアーリィを見て声を上げた。
﹂
﹁アーリィ姉さまのお顔が見えます
るはずなのに
いったいどういうことだ
﹂
それこそ、昔なんてめったに見る事が無かったのに。
直ぐにヴェールで覆っているはずだ。
いつもなら、﹃顔の傷を見せるのは嫌いなので・・・﹄なんて、
﹁そういえばそうだな。
アーシアの言葉に、ゼノヴィアも気が付く。
!
私、実は結構か弱いんですよ
自分の罪を人に見られるのが怖かったんです。
今まで私は、自分の行いと向き合うのが怖かった。
私がしてしまったことを忘れてはいけないという、業の証です。
﹁この傷は、私にとって罪の証です。
そう言って顔の傷に触れた。
﹁もう、自分を隠すのは止めにしました﹂
アーシアとゼノヴィアの言葉に、アーリィは少し何か見ながら、
?
﹁アーリィ姉さま、ご、ごめんなさ・・・﹂
﹁あ、アーリィ、まさかそんなつもりじゃ・・・
!
二人の唇から指を離し、アーリィは微笑む。
と思ったんです﹂
それでは、アーシアやゼノヴィアさんと一緒に、
﹃未来﹄を歩めない
悪魔を憎むことで、弱い自分を誤魔化し続けてしまう。
としか出来なくなる。
それだと、ずーっと私は過去に向き合えず、ずーっと悪魔を憎むこ
﹁でも、それでは駄目だって思いました。
アーシアとゼノヴィアの唇に、アーリィの人差し指が触れた。
﹂
そうすれば、自分の過去も罪も、全部覆えるんじゃないかって﹂
だから私、自分の顔をヴェールで覆いました。
?
217
!
﹁私、自分と向き合おうと思います。
自分を隠すのを止めて、目を背けるのを止めて、自分の弱さも受け
入れて、
偽りのない私で生きようと思います。
だから﹂
﹁アーシア、ゼノヴィアさん、これからよろしくお願いしますね﹂
アーリィの笑顔は、まるで日の光を浴びた向日葵のような、そんな
風に、
二人には見えた気がした。
218
番外編︵ネタ︶
黒猫︵没案1︶
むかしむかしあるところに、2匹のネコの姉妹がおりました。
姉妹には父親も母親もおらず、姉妹は助け合って生きてきました。
姉ネコは色が黒く、妹ネコは真っ白でした。
姉ネコは妹ネコが大好きで、妹ネコも姉ネコが大好きでした。
ある日、大きな翼を持ったコウモリさんが現れ、姉ネコに言いまし
た。
﹁姉ネコさん姉ネコさん、僕はあなたたちを助けたい。
僕の力になってくれたなら、あなた達を助けることができます﹂
姉ネコは答えました。
﹁私 が あ な た の 力 に な り ま す。だ か ら 妹 ネ コ も 一 緒 に 助 け て く だ さ
い﹂
219
コウモリさんの家に行けば、妹ネコに楽をさせることが出来る。
姉ネコは妹ネコのために、コウモリさんのおうちに行くことを決め
ました。
コウモリさんのおうちで暮らし始めた姉妹は、とても幸せに暮らし
ました。
しばらく暮らしていると、コウモリさんはあることに気づきまし
た。
姉ネコに、とても強い力があったのです。
姉ネコはネコショウと呼ばれる妖怪で、とても優れていました。
ネコショウの力はとても素晴らしく、コウモリさんは考えました。
イ モ ウ ト モ ツ カ エ ル ノ デ ハ ナ イ カ
?
姉ネコはコウモリさんを止めました。
妹ネコはまだ未熟であり、力を使わせれば死んでしまう。
どうか、妹ネコには手を出さないでください、と。
ですが、力に魅了されたコウモリさんは聞きません。
怒った姉ネコは、コウモリさんを殺してしました。
コウモリさんを殺したことで、他のコウモリはカンカンです。
酷いことをした姉ネコを殺してしまおう、と考えました。
姉ネコは妹ネコと逃げました。必死になって逃げました。
か弱い手足を必死に動かし、息が切れるまで走りました。
ですが、姉妹ネコはコウモリに追いつかれ、
妹ネコはコウモリに連れていかれてしましました。
妹ネコを連れていかれ、姉ネコは泣きました。大声で泣きました。
声が枯れるまで泣きました。
泣きはらした後、姉ネコは誓いました。
220
絶対に妹ネコを取り戻すと。コウモリから救ってみせると。
こうして姉ネコは、妹ネコを助ける旅が始まるのでした。
夕日が沈み、真っ暗な闇に包まれた頃、一匹の黒猫が家々の屋根を
走っていた。
その身体は傷だらけで、走る姿にも疲れが見えた。
その黒猫の後ろを、大きな翼を生やした人が追いかけている。
その顔は、獲物を追い詰めるのを楽しんでいるように、下卑た笑み
で歪んでいた。
黒猫は屋根伝いを下り、公園に入ったところで止まった。
黒猫の追跡者も止まる。
追跡者は、黒猫が諦めたと思い、と残念に思った。もっと獲物をい
たぶりたかったからだ。
すると、黒猫は追跡者の方を向き、言葉を発した。
﹁い い 加 減 し つ こ い ん だ よ に ゃ ー。悪 魔 っ て の は そ ん な に 暇 に ゃ の
﹂
?
﹁ならばさっさと殺されろ。SS級はぐれ悪魔﹃黒歌﹄
ばかにゃの
あんたが私を殺せると思ってるの
お前が死ねばこの鬼ごっこも終わる﹂
﹁はぁ∼
いわね∼﹂
俺の力を﹂
おめでた
?
﹂
?
﹁拘束魔法・・・
﹂
魔方陣からは数十もの悪魔たちが現れたのだ。
すると、公園内に赤い線が走り、巨大な魔方陣が描かれる。
身体の自由がきかない上、なぜか力も弱まっている。
黒歌は力いっぱい引き千切ろうにも、
た。
突然頭に声が響き、地面から鎖が飛び出し、黒歌の身体に絡みつい
﹁ではこんなのはどうかしら
血で真っ赤に染まった手を見ながら、黒歌は退屈そうに呟いた。
﹁弱すぎにゃ∼﹂
血と臓物をぶちまけながら死んだ。
ぐちゃり、と肉が潰れる音がし、追跡者は腹に大穴を開けられ、
その腹を思いっきり殴り飛ばした。
黒歌は、追跡者の発する弾を避けながら追跡者の前に駆け込み、
その姿こそ、黒ネコであり、ネコショウ﹃黒歌﹄の本当の姿である。
した。
走る途中、突如黒猫が煙に包まれ、煙からは着物を着た女が飛び出
黒猫はくるりと躱し、悪魔に向かって走り出す。
そういうと、追跡者は手から黒い球を出し、黒猫に向けて発射した。
﹁はいはい、お好きにどうぞ﹂
﹁試してみるか
?
流石の黒歌でも、何十にまで重ねられた拘束を解くには時間がかか
この集団のリーダーであろう女悪魔の言葉に、黒歌は歯噛みした。
数十もの悪魔による拘束でも、まだ動けそうだなんて﹂
でも、さすがはSS級ね。
特別製よ。
﹁ご名答。ついでに膂力半減に魔力半減と色んな魔法も組み合わせた
!?
221
?
?
る。
たかが数秒なのだが、その数秒が致命的なのだ。
なんとか時間を稼ごうにも、流石の悪魔たちも油断を見せない。
﹂
そうした時間が少し過ぎた後、突如間の抜けた声がした。
﹁あのーすみません。﹃駒王町﹄への行き道を知りませんか
突然現れた存在に、黒歌も悪魔も目を向けた。
?
どうやってここに入ってきた
﹂
それは修道服を着た女であり、顔が黒いヴェールに覆われていた。
﹁な、シスター
!?
結界が破壊されるなんてありえない
﹂
!
﹂
!
を・・・﹂
﹁このシスターが
急に入ってきて何言ってやがる
﹁あのー、お取込み中すみません。みなさんの中で﹃駒王町﹄の行き方
わけががないのだ。
ただのエクソシストが壊せるはずもなければ、気付かれずに出来る
るもので、
自分たちが用いた結界は、たとえ上級悪魔でも壊すのに時間をかけ
﹁馬鹿な
﹁あー、変な壁でしたら邪魔なので壊しましたよ﹂
!?
﹁﹁え
﹂﹂
その瞬間、その悪魔は頭部を破裂させて死んだ。
一人の悪魔が、訳の解らない修道女に襲いかかった。
!
﹁ダメじゃないですか。人の話は最後まで聞く、常識ですよね
やれやれ、と話す修道女の左腕は、真っ赤に染まっていた。
そしてその手には、4つの指輪が銀色に輝いていた。
﹂
悪魔にとって、銀は触れただけで火傷を起こすほどに危険物だ。
?
それでも、ただの人間が悪魔をなぐり殺すことは異常である。
﹂
﹁さてさて、話が聞けない悪い子は寝ちゃいましたし、
﹂
他に行き道を知っている人はいませんか
﹁こ、こいつを殺せ│
?
修道女の異常性か、はたまた得体の知れなさに恐怖したのか、
!!
222
!
女悪魔も、黒歌も、そしてその場にいる全ての悪魔が絶句した。
?
悪魔たちは目の前の黒歌を忘れ、修道女に襲いかかった。
﹁あらあら、こんなに悪い子がたくさん。これはちょっとお仕置きが
必要ですね﹂
﹂
黒歌は、ヴェールで覆われている女の顔が、にっこりと歪むのが見
えた気がした。
﹁まったく、ここには悪い子しかいないのですか
突如現れた修道女によって、公園は見るも無残になった。
ジャングルジムや鉄棒には、悪魔の死体が洗濯物のように掛けら
れ、
滑り台は死体で詰まり、砂場には赤い水たまりが出来ていた。
だがそれよりも、全身を真っ赤に染めた彼女こそが、
この場では一番恐ろしい存在ではないか、と黒歌は思った。
あなたも悪い子です
なにより、この目の前に広がる惨劇を彼女が起こしたということこ
そ、
一番の異常だと黒歌は思った。
﹂
﹁ところで、あなたも悪い子の匂いがしますね
か
た。
彼女による惨劇により、黒歌の拘束は解けたものの、黒歌はその場
から逃げだせなかった。
逃げたらきっと、どこまでも追いかけてくると直感したからだ。
ただの悪魔なら兎も角、目の前の修道女から逃げ切る自信がなかっ
た。
すみません
私ったら勘違いをしてしまって﹂
それほどまでに目の前の存在は異質なのだ。
﹁そうなのですか
!
しさを際立たせる。
そして先ほどまでとはうって違い、急に恥ずかしがる姿が一層おか
!?
223
!
?
全身を真っ赤に染めた修道女の問いに、黒歌は全力で首を横に振っ
?
﹁ところで、ここはどこなのでしょうか
私、道に迷って困っていたのですが、急にこちらから光が見えてま
して。
ここがどこなのか聞こうと来たのですが・・・﹂
﹁あー、そうにゃのね・・・﹂
黒歌は内心頭を抱えた。
この修道女が来たことで自分は助かったのだが、それが迷子だった
という。
﹁実は私もここは初めてにゃ。ごめんにゃ﹂
﹁いえいえ、謝らないでください。私が迷子なのがいけないのですか
ら﹂
自己嫌悪に陥った修道女を、黒歌は面倒くさい人と決めた。
﹁ところで、あなた確か、﹃駒王町﹄への行き方を聞いてたわね﹂
﹁はい、迎えに行く約束をした人がいまして﹂
その言葉に、黒歌は自身が考えた案を実行にうつすか迷った。
しかし、彼女自身の目的のためには、手段を選んではいられない。
﹂
﹂
﹁なら、私が案にゃいしてあげるわ。正確には私の友人が、にゃ﹂
﹁それは本当ですか
﹁ただし、私のお願いを聞いて欲しいのにゃ﹂
黒歌は、案内の交換条件を彼女に言った。
﹁これを約束してくれるにゃら、私も約束を守る。どうにゃ
黒歌にとって、これは分の悪いものだ。
交換条件と言いつつも、実際はお願いでしかない。
断れれたらそれで終わりなのだ。
﹁解りました。その条件を呑みましょう。
私もいつまでも迷子でいられませんから﹂
﹁そうにゃのか。ありがとうにゃ﹂
﹁ところで﹂
﹁何もかもが遅かったとしたら、どうするのですか
考えたくはなかった。
﹂
?
224
?
彼女の返事に、黒歌は一安心したが、次の言葉で言葉を失った。
?
!
そんなことなど疑ってもみなかった。
むしろ、考えることから逃げていた。
どうしてそんなことを考えなければならなかったのだ。
妹︵白音︶が私︵姉︶を拒絶するなんて。
﹂
ネエサマノ
思考する。止めろ。考える。止めて。予測する。嫌だ。
私は白音のことを
姉さまのせいで
黒歌の頭に浮かぶのは、拒絶する妹の姿。
そうじゃないの
﹁姉さまのせいで私はこうなったんだ
﹂
セイデ
違うの
﹁違う
﹂
呼ぶなぁぁぁぁぁ
!
でも
それでも
私は妹に会わなければならない。
確かに遅いかもしれない、無駄かもしれない。
黒歌は考える。彼女の言った可能性を。
﹁私は・・・﹂
ただ、確認したかったの。そうした可能性を貴女はどうするのか﹂
﹁ごめんなさい。貴女を追い詰める気はなかった。
気が付くと、黒歌は修道女に抱きしめられていた。
それによって、黒歌の思考はぴたりと止まった。
すると、黒歌は何かに抱きしめられるのを感じた。
黒歌は、黒歌自身の罪悪感に押しつぶされそうになった。
もはや思考は止まらない。
﹂
!
﹁あ、ああ、ああああああああああ
﹁私を、もうその名で呼ばないで
!
﹂
剣を突き付けていた。
後ろを見ると、眼鏡をかけ、スーツを着こなした男が、彼女の首に
ですか
﹁ところで黒歌さん、私の首に剣を突き付けている人は、貴女のお友達
その言葉に、修道女はにこりと笑ったような気がした。
黒歌は決意した。
﹁私は大丈夫にゃ。だから、お願いにゃ﹂
!
225
!
!!
!
!
!
!
!
!
?
もしもこんなんだったら1
私は、目の前の光景が理解できなかった。
﹂
良いって言いなさいよ
なにせ、目の前ではリーシャが悪魔をしばいていたからだ。
﹂
?
叶った存在ですわ。
ですから、私の寵児になりません
﹁うん﹂
って言ったんだ﹂
﹂
﹁そしたら、リーシャが怒ってさ。一昨日来なさいよ、このコロネ
て﹂
﹁うんうん﹂
﹂
﹁そしたら、彼女も怒ってどこからか鞭を出したんだよ﹂
﹁それで
﹁でね、少しお仕置きが必要ね、って鞭を振ろうとしたら、
リーシャがそれを奪って、彼女に当てたんだ﹂
﹁ほうほう﹂
クリスの説明で、私は頭を抱えた。
っ
もう一発目は、随分とアカン光景を見せられているということだ。
を食らい、
そもそも、リーシャにあんな性格があったことで、一発目のパンチ
!
?
って叫んでいたんだけど、途中からもっと
になった﹂
﹁始めは、止めなさい
もっとしてぇ
!
﹁うん、いみがわからない﹂
!
!
﹁僕もよく解らないんだけどさ、急に彼女が現れて、貴女は私の目に
﹁アレ、何
私は、呆然とするクリスへ歩いて行き、声をかけた。
対する悪魔は、もはや目を合わせるのもダメならレベルでヤバイ。
!
どこにあったか解らない鞭で。
ねぇ良いの
嬉しいですリーシャお姉さまぁ
これが良いの
嬉しいです
﹁ほらぁ
﹁はい
!?
特に妹のリーシャは、お嫁に行かせてはいけない顔であり、
!
!?
しかも、お子様には見せてはいけない方向で。
!
!
?
226
!
私も居たくないわよこんなところ︵公開処
クリスなんて、呆然として・・・、おい、どこかへ行こうとするん
じゃない。
ここにはいられない
刑︶
﹁お姉ちゃん
助けに来てくれたのね
﹂
!
﹂
!?
無事だったかい
﹂
そして、私に顔面パンチされたクリスに抱きついた。
﹁リーシャ
私、怖かった﹂
僕が弱かったばかりに、こんなことになっ
あなたも無事だったのね
﹁ああ、ごめんよリーシャ
﹁クリス
!?
﹁それにしても凄いよリーシャ
君にあんな勇気があるなんて
!
﹁そうね、家族としては︵黒歴史として︶泣きたくなるわ﹂
﹂
﹂
あなたは決して弱くないわ。あなたは私
!
﹁途中でどっか行きましたけどね、私を置いて﹂
を守ろうとしてくれたわ﹂
﹁自分を責めないでクリス
﹁そうだよ、あの凶行を止めなさいよ婚約者﹂
てしまって﹂
!
!
﹁私も無我夢中で・・・怖かったわクリス
!
!
く見えた。
私の言葉を余所に、リーシャは泣き出す。だが私にはそれが嘘くさ
﹁待ちなさい、読み方がおかしいから﹂
﹁私、下僕︵悪魔︶に襲われてて不安だったんだよ
﹁だったらさっきのこと止めなさいよ。途中で気付いてたでしょ﹂
﹁私、お姉ちゃんのことが心配で﹂
﹁そのつもりだったけど、さっきの光景で台無しだよ﹂
!
とりあえず、帰ってきたクリスを殴った。
たと思う。
多分、私の目は死んだ魚のような、人形のガラス玉の目のようだっ
けた。
しばらく私は、目の前で繰り広げられる光景を、無心のままで居続
今絶賛アカン状態の花嫁を置いてくんじゃなーい
あ、逃げやがった。まてや婚約者ぁ
?
!
!
227
!
!
!
﹁寧ろ楽しんでたでしょ。おい、目を逸らすんじゃない﹂
﹁ああ、あの鞭の痛さは癖になりましたわ・・・・︵うっとり︶﹂
﹁うん、貴女は色んな意味でダメになったよね﹂
﹁大丈夫だよリーシャ、もう僕がそんな目に合わせない。僕が守るよ﹂
﹁嬉しいわ、クリス﹂
﹂ってウットリする
私を無視するんじゃないぞ、このバカップルでも。
そしてそこの悪魔、
﹁ああ、放置されるのも素晴らしいですわ・・・
んじゃありません。
私はこの場の空気に吐き気を催し、一目散に外に出た。
そして私は、目の前の光景に膝から崩れ落ちた。
﹁俺に勝とうなんざ、一生無理だな。なにせ、俺にはママがいるからな
﹂
﹂
﹁く・・・その鍛え上げられた筋肉に、私は目を奪われてしまった
パパ素敵よー
その引き締まった体に惚れ惚れしちゃう
!
きつくママ。
うん、私がおかしいのでしょうか
というか、私以外みんなおかしいよね
そして私は、考えるのを止めた。
もういいや、頭がくらくらする。眠たいのよ。
?
うん、おかしいね。もうこの町って何なの。
隣のおじいさんに正座で説教を聞かされている悪魔を見かける。
他にも、おいしそうにスコーンを食べている女悪魔や、
現実を逃避するように外を見渡してみると、
もう、まともに家族の顔が見れません。
たよ。
もう一度、私は目の前の光景を見る。うん、家族の闇を見てしまっ
ちょっと頬をつねる。あ、痛い。夢じゃないのね。
?
228
!
この私の肉体美に勝るものが現れようとは・・・
﹁キ ャ ー
﹂
!
パパが自身の肉体美を披露し、それに悔しそうな悪魔と、パパに抱
!
!
!
!
目が覚める。いつも通りの天井に、私の部屋。
ああ、夢だったのね、夢だっということに私は安堵した。
揃いも揃って、家族の黒歴史を見せられてたまるかってんだ。
そうして私は部屋から出た。
﹁ああ、アーリィお姉さまぁ 私、この家の給仕になりました、ローゼ
リアですわ
いえ、それ以上のお力をお持ちと聞きました
むしろして
﹂
あなたはお父上よりも素晴らし美を備えているとお聞き
ですから、私を好きにしてください
﹁お師匠様
!
えてくれませんか
﹂
﹂
ク ソ パ
あなたのような美を私も得たいのです。どうか、あなたの極意を教
しました。
!
!
アーリィお姉さまも、リーシャお姉さまに負けず、
!
﹁リ ィ ィ ィ ィ ィ ィ ィ ィ シ ャ ァ ァ ァ ァ ァ ァ ァ ァ
パァァァァァァァ
!!
!?
!
私は全速力で、妹とパパをしばきに走った。
229
!
!
もしもこんなんだったら2
筋肉大好きの両親と、アレな妹とアレな恋人のバカップルに加え、
しばかれ大好きな女悪魔ローゼリアと、
筋肉バカの男悪魔オルスクートが家にいることに、
アーリィの精神は徐々にシバかれていった。
とアーリィが叫んだことは数知れ
特にローゼリアの方は、シバいてしまえばご褒美であり、無視をす
るにもご褒美になる。
もはや無敵じゃないですかー
ず。
オルスクートの方も、筋肉の秘訣を探ろうと、事あるごとに裸を見
に来ること数知れず。
彼の方は邪な感情など一切なく、ただ筋肉の秘密を知りたいだけな
のだが。
そうしたことに対する報復を、ローゼリアが物欲しそうに見ていた
のは、
もはや日課になりつつあるのである。
というより、彼女の町がもはやカオスと化していた。
隣の老夫婦に対しては、
おばあさんのスコーンを気に入った女悪魔が、老夫婦の養子になっ
たり、
友人のクランには種族違いの妹が出来た。
クランを見つめるその妹の眼が、飢えた猛禽類のように見えたのは
気のせいである。
ミーシャに関しては、翼を生やした恋人が出来たらしい。
ミーシャよ、あなたはそれでいいのですか
本当にどうしてこうなった
結果、彼女の町は、人間と悪魔が住まう町となったのだ。
?
そう、教会である。
教会は悪魔に対して、病的なまでに憎んでいる。もはや憎悪と言っ
230
!
だがしかし、悪魔という存在を許さない存在がいた。
!!
てもいい。
そうした教会にとってみれば、人間と悪魔が住まう町など、唾棄す
べきものだ。
結果、教会は悪魔諸共、その町を消し去ることを決めたのは、至極
当然である。
私の坊やが寝られないじゃない
﹂
﹂
悪魔殲滅と街の浄化を命令され、悪魔殲滅者たちは、すぐさまその
町に向かった。
先頭を率いるは、まだ幼い子供であった。
﹁スコーンを粗末にする奴は誰であろうと死ね
お兄ちゃんは渡さないんだから
﹂
﹂
! !!
﹁お兄ちゃんを奪いに来たのね
俺は君と添い遂げるぅぅぅぅぅぅぅ
﹁こんな痛みなんて、お姉さまの方がもっと痛かったですわぁ
﹁ミーシャぁぁぁぁぁぁ
!
﹂
安眠妨害はんたーい
﹁この鍛え上げられた筋肉に、そんななまくらが通じると思ったか
﹁ち ょ っ と
﹂
!
!
!
!
!
﹂
﹂
﹂
でも君を守るのは僕だよ
皆が町を守ってくれているわ
人って空を飛べるものなんだなー、と目の前の光景に私は呆けてい
た。
﹁見てクリス
﹁そうだねミーシャ
﹁ああ、やっぱり素敵よクリス
この町を悪魔を信仰する邪教の町として、浄化しに来たらしい。
どうやら彼女たちは教会から派遣された悪魔殲滅者たちであり、
そこには、青い髪の少女もいた。
た。
ことの始まりは数時間前、私の町に突如修道服を着た方々が現れ
お願いです、お姉ちゃんの胃が死にます。
た。
隣のバカップルは、目の前の状況に対して、独自の空間を作ってい
!
!
﹁おい黙れバカップル。この状況を理解しろ﹂
!
!
!
231
!
飛ぶ、なんか黒い服を着た人たちが空を飛んでいく。
!
正直、邪教なんて生易しいものじゃないと気付いてください、と
思ったのは秘密です。
まぁ話を省くが、先頭の少女が我慢の足りない子だったらしく、
目の前のを通りかかった子悪魔を斬りつけようとしたのだ。
いかんせん、偶々通りかかっていた私は、
その子を守る為に、斬りかかろうとしたその少女にミサイルキック
をかましたのだ。
さっきはよくもやってくれたな
いい加減にしてよ
結果、こんなことになったのである。
はい、私が原因なんですね
私がなにしたって﹁そこのお前
﹂
!
違うところと言えば、
正直変態じゃないですか
と思うようなピッチリスーツを纏い、
後を見ると、先ほど私がミサイルキックをかました少女だった。
私が頭を抱えていると、不意に声をかけられた。
!
!
﹁あのーなんですか
﹂
その両手には不似合いな大剣を持っていたことだ。
?
しろ﹂
﹁悪魔教祖め
先ほどは油断したが、もう不意はつかれないぞ。覚悟
やめて、私の心はガラス製です。そんな視線には耐えられません。
私の言葉に、少女の眼が更に険しくなる。
?
教祖って何ですか
おい、お前。いい加減しろよこんちく
?
破したことで、
私の精神はプッツンした。
︶、そんな危ないものを
︵ベチン
︶﹂
︶、
!
︵バチン
!
︵ペチン
︶、ありません
!
﹁子供が
!
!
︵ビチン
振り回すものじゃ
!
!
カオスにカオスを重ね、さらにストレスによるカオスの境界線を突
しょうがぁぁ
教祖
そういって彼女は、私に向かって走ってきた。
!
!
?
!
232
!
想像にお任せします。
﹁あ・・・う・・・あん・・・うん・・・く・・・﹂
私は彼女を折檻していた。やってること
教会に行きましょう
﹂
﹁さあアーリィ姉さま、こんな町にいては穢れてしまいます。一緒に
私は考えるのを止めた。
ていた。
町の広場には、黒焦げの修道服の方々が、山のように積み上げられ
気が付けば、町の混乱も終わっていた。
そうしたことを考えても、私は必死に折檻した。
し
だが私は止めない、止めさせない。だって止めたら反撃来ると思う
で。
彼女の顔がなんかヤバいことになってきた、ローゼリア的な意味
かれこれ数分か、数時間か不明だが、やっている内に、
?
﹂
痛い痛い痛い痛い痛い・・・
んわ
﹁アーリィ様は私のご主人様です。教会などに連れていかせはしませ
!
る。
ええ、なんか変なことになりましたよ
なんというか、ローゼリア2号が誕生しちゃたんだよ
ええ、止むに止まれず、ようやく折檻を止めたら、
教会に連れて行きたいと言い張る少女と、それを拒絶する悪魔。
結果、こうなりました。
その時、私は気付いた。アカンと。
それで、開口一言﹁ああ///﹂って息を吐いたんだよね。
だよね。
青髪の子、もう乙女の尊厳がズタズタになるレベルの表情だったん
!
!
一方は黒いピッチリスーツを纏い、もう一方はドレスを纏ってい
今私は、二人の少女に両手を引っ張られている。
!
!
233
!
﹂
痛いから離して
腕ヤバいから
﹂
どっちも馬鹿力なのか、私の腕が千切れそうです。
﹁痛い
﹁す、すまない
﹂
!
な顔をする。
!
ああ、この二人はもう駄目だ。私は天を仰いだ。
私がなにしたんですかー
!
そして私は、
﹁いい加減してくださいよー
﹂
私の叫びに二人とも手を離すが、なぜか二人とも何かを求めるよう
﹁ああ、申し訳ありませんわ
!
そう言ってその場から逃げだした。
234
!
!
!
もしもこんなんだったら3
レイヴェル・フェニックスにとって、
兄であるライザー・フェニックスは、様々な感情が入り混じる家族
である。
まず、女誑しだ。
彼の眷属は全て女性であり、下は見た目が幼女から、上は熟れた女
性と種類が多い。
また、子供らしい者もいれば、戦うことしか頭にない困った子もい
るし、
レイヴェル自身も舌を巻く戦術を練る者もいる。
らしい。
もちろん、転生悪魔ではあるが、元が猫娘だったりと種族も異なる。
ようは、色々多すぎなのだ。
ライザー曰く、俺のハーレムだからな
だが、妹系ハーレムとして自身を眷属にしたことに対しては、
とりあえず顔面を徹底的に殴ったことで怒りは収めた。
だが、そうしたそんな誑しの面はあれど、眷属同士の中は良好であ
り、
全てがライザーを慕っていると言ってもいい。
まぁ、全員が兄の寵愛を受けているらしく、時折砂糖菓子を溶かし
たように、
各眷属が甘ったるい雰囲気を醸しだしているのに、若干引いてしま
う。
また、兄の寝室から聞こえてくる声に、何度か文句を言ったことも
ある。
兄の女好きに関しては、頭を痛めるも、自身の眷属に対する優しさ
は、
レイヴェルも兄を評価する一点である。
次に、お調子者である。
レイヴェル自身もそうだが、フェニックスという純血悪魔の一柱に
して、
235
!
不死というフェニックス特有の力が要因であろう。
ようは、何度死んでも蘇るという、他の悪魔にはない利点をもって
いるのだ。
ただし、蘇生には精神的苦痛を伴うため、決して無制限とは言い難
い。
だが、ライザーと相対した者は、その不死身の前に、精神を折られ
てしまうのである。
何度殺しても、次の瞬間には蘇生してしまう。
これで心が折れないものはそうそういないだろうが。
結果、ライザーはレーティング・ゲームにおいて、ある種の無敗を
築いている。
それによりライザーは、
レーティング・ゲームにおいては絶対の自信を持っていると言って
もいい。
236
まぁ、無敗という称号に、調子に乗っている面もあり、
と言われれば、
レイヴェル自身は素直に賞賛できないのだが。
では、ライザーは能力頼りで勝ってきたか
故に、ライザーは一切試合に置いては手を抜くことはない。
いうだけの話だ。
そしてその兄に対等になれるのが、レーティング・ゲームだったと
ライザーはその兄になにかしら勝ちたいと必死なのだ。
自身よりも優秀であるルヴァル兄様という存在がいる故に、
る。
何より、フェニックスという家名を背負っているからこそと言え
それは無敗という称号を維持する意味でもあるだろうが、
それに対する作戦を構築するのだ。それも何度も繰り返して。
の駒を徹底的に分析し、
レーティング・ゲームの試合日が決まれば、彼は眷属を纏め、相手
並々ならぬ熱意を持って行っていることに。
彼女は知っているのだ、兄がレーティング・ゲームに対し、
レイヴェルは自信をもって﹁否﹂と答える。
?
何故なら、真剣に取り組んでいるからこそ、それを穢すことを許せ
ないからだ。
ライザーのその姿をレイヴェルだけでなく、家族は知っている。
そして最後は、レイヴェルに優しいということだ。
見た目的には人間界でいうちゃらい男と評される見た目であり、
性格的もお世辞には礼儀正しいというわけではない。
しかし、何かと自分に対しては配慮する兄を、レイヴェルは好いて
いるのだ。
だが、ハーレムにいれようとしたことは許さないらしい。
そうした、正と負の混濁した感情を持っているものの、
兄であるライザーが結婚するということに対して、レイヴェルは素
直に喜んだ。
お相手はグレモリー家の長女であるリアス・グレモリーだった。
どうやら、両家が純血悪魔を絶やさないために、縁談が持ち上がっ
237
たらしい。
兄であるライザーは、リアス・グレモリーと婚約することに乗り気
だった。
﹂とライザーに問い、彼がうなずいた瞬間に、
写真を拝見すると、レイヴェルも嫉妬するほどの胸をお持ちで、
﹁決め手は胸ですか
どういった作戦を用いるかを熱心に試行錯誤していた。
徹底分析し、
期日は10日であったが、ライザーはリアス・グレモリーの眷属を
ととなった。
魔王様の提案によりレーティング・ゲームで婚約の扱いを決めるこ
結果、両者の言い分が平行線となり、
いらしい。
どうやら、女誑しが気に入らないらしく、婚約について納得いかな
相手であるリアス・グレモリーが拒否したのだ。
しかし、こうした婚約話は、思いもよらぬ展開になった。
のは秘密だ。
自身の拳がライザーの顔にめり込んでいた不可思議現象が起きた
?
一方で、リアス・グレモリーの方は、学校を休んで山籠もりをした
という噂が聞こえた。
そうした噂を耳にし、リアス・グレモリーの心構えに対し、レイヴェ
ルは失望した。
結果としては、兄の勝ちだった。
それも、リアス・グレモリーによるサレンダー宣言によってだ。
その行為に対しても、レイヴェルは失望の念を抱いた。
リアス・グレモリーは、主の願いを叶えようとした眷属の想いを裏
切ったのだ。
それも、眷属が傷ついて欲しくないという理由で。
ならばなぜ、レーティング・ゲームを行ったというのだ。
レイヴェルは、リアス・グレモリーのゲームに対する行動に腸が煮
えくり返った。
真剣に取り組んでいた兄を、真っ向から侮辱したのだ。
到底許せるものではなかった。
だが、ここでもまた、予想もつかない展開へと物語は動いた。
結婚式当日、リアス・グレモリーの眷属である赤龍帝が式場に乗り
込んできたのだ。
そのうえ、魔王であるサーゼクス・ルシファーが、それを擁護する
形で、
ライザーと赤龍帝の戦いによる婚約解消試合が行われたのである。
結果は、聖水や十字架による致命傷と赤龍の力による攻撃によっ
て、ライザーの敗北となり、
両家の婚約は解消となったのである。
レイヴェルにとって、それは理解しがたい事だった。
魔王様の提案による試合に勝利した兄が、魔王様の提案による追加
試合によって負けたのだ。
それにより、ライザーはリアス・グレモリーに敗北し、無敗の称号
も消え去った。
また、赤龍帝による攻撃は、ライザーに大きな傷跡を残したと言え
るのだった・・・。
238
大きな廊下を、レイヴェル・フェニックスは一人歩く。
目指すは、兄、ライザーの部屋だ。
兄の寝室の向かうと、扉の前では誰かいた。彼女は兄の﹃女王﹄ユー
ベルーナだろうか。
まるで扉を守るように立っている彼女に、レイヴェルは頭を垂れ
た。
ユーベルーナも、レイヴェルに気付き、慌てて頭を垂れる。
﹂
そうした挨拶もそこそこに、レイヴェルは彼女に問う。
﹁お兄様の様子は
﹁依然・・・変わりありません・・・﹂
﹁そうですか・・・﹂
レイヴェルは、その会話からライザーの様子を察した。
赤龍帝との敗北により、ライザーの心は砕け散った。
それまで築き上げてきた誇りも、何もかもが塵になったのだ。
今まで彼を持ち上げてきた者たちは、彼の敗北により掌を返すよう
に罵倒へと変わった。
また、くだらないゴシップは彼の敗北を面白おかしく書き立てた。
逆に、リアス・グレモリーに対する評価は全て肯定的だ。
﹁赤龍帝を従える紅髪の滅殺姫﹂
﹁無敗を打ち破った新たな新人﹂等々、
彼女は一躍世間を賑わす有名人となったのでる。
その他にも、ライザーの傷跡は深かった。
赤龍帝の敗北によって、彼は龍へのトラウマが発症したのだ。
眷属の話によれば、夢にまで現れるらしく、半ば発狂に近いという。
そうした精神的な傷痕が、彼を引きこもりへと変えてしまったの
だ。
決して手放しでほめられた兄ではなかったが、
それでもレイヴェルにとっては誇らしい兄であった。
それが、今では見るも無残な姿になってしまったのである。
﹁リアス・グレモリーィィィィィ・・・﹂
故に、レイヴェルは憎む。
239
?
彼女自身、それは八つ当たりであると理解している。
だが、自分の兄をこんな姿に変えた元凶が、
世間をから認められていることに、彼女は許せないのだ。
そして、兄をこんな姿に変えた赤龍帝もまた、彼女の許せない存在
へとなった。
だが、レイヴェルは決して闇討ちをする愚行はしない。
レーティング・ゲームによる因縁は、レーティング・ゲームで晴ら
すべきなのだ。
それは兄の考えを侮辱するかもしれない。
だが、レイヴェルはそれでも、兄への屈辱を晴らさなければならな
いと考える。
﹁ユーベルーナ、兄の眷属を全て私の部屋に呼んでください﹂
ユーベルーナは、主の妹であるレイヴェルの言葉に戸惑う。
﹁私もレーティング・ゲームに参加したくなりました。
240
しかし、私は何も知らない素人。ですから、あなた達にご教授を願
いたいのです﹂
﹂
﹁し、しかしレイヴェル様。いったいなぜ急にそんな・・・﹂
﹁なぜ・・・ですか
慄させた。
レイヴェル・フェニックスの氷のような笑顔は、ユーベルーナを戦
﹁リアス・グレモリーを潰します。倒すのでなく、潰すためですわ﹂
そんな理由など、解っているではないか、と。
た。
ユーベルーナの言葉に、レイヴェルは不思議そうな顔で振り向い
?
もしもこんなんだったら4
姫島朱乃は人間と堕天使のハーフである。
彼女の母親である姫島朱璃は、神社の家系である姫島の一人であ
り、
彼女の父親であるバラキエルは、堕天使の組織︵グリゴリ︶の幹部
であった。
天使や悪魔、堕天使による戦争で傷ついたバラキエルを、
偶然にも朱璃が見つけて介抱し、そして恋仲になったのである。
その後、二人の愛の結晶であり朱乃が生まれたのだ。
だが、人間である朱璃と堕天使であるバラキエルとの結婚など、
神社の家系である当時の姫島の本家が許すはずもなく、
二人は半ば駆け落ち同然で出て行ったのだ。
三人はひっそりと、小さい家に住みながらも仲良く暮らしていた。
﹂
!!
241
だが、朱乃の幸せは長くは続かなかった。
そう、家族関係が拗れてしまったのである。
その原因というのは・・・・・・。
三人で暮らす小さな家の客間では、目には涙を溜め、顔を真っ赤に
した朱乃と、
正座してあたふたしている両親がいた。
なぜか、彼女の父親であるバラキエルはパンツだけの姿で、
父親がそのことに喜んでるなんて、私は
彼女の母親である朱璃さんは鞭を持っているのだが。
﹁母親が父親をいたぶって
耐えられません
﹂
これには深い訳が・・・﹂
アケノォォォォォ
﹂
﹁両親が変態ということに深い理由なんてあるわけないじゃない
﹁そうよ朱乃、私たちの話を聞いて・・・﹂
﹁待ちなさい朱乃
私、この家から出て行きます
そんな光景、二度と見たくもありません
!
!!
!
!
!
!
!
私・・・私・・・お母様もお父様も大嫌いよー
﹁朱乃
!?
偶然なのか、はたまた運命のいたずらか、
夜な夜な両親の行っていたSMプレイを偶々目撃し、朱乃の心は酷
く傷ついたのである。
そりゃそんな光景を見たらショックですけどね。
しかも大好きな両親だから尚更その爪痕は酷い。
あまりのショックに、朱乃ちゃんは怒りに身を任せて家出を決行し
たというわけだ。
ちなみに、朱乃にそっくりな母親である朱璃さんが、優しい顔に似
合わずSで、
仕方ないね
父親であるバラキエルさんが、厳しく渋めな顔でMである。
でも、そんなことは娘には気休めにならないからね
!
お父様の変態・・・
﹂
なにやらぶつくさと言っているが、事実だから仕方ないよね
﹁お母様の変態・・・
彼女は近くの公園でブランコに揺られていた。
はずもなく、
だが、家出を決行したものの、幼い朱乃がすぐにでも遠くに行ける
!
んでいた。
人影は各々の手に、刀、薙刀、槍などを武装していた。
彼らは、本家が送り込んだ刺客であり、堕天使に恨みを持つ者たち
である。
ようやく見つけた憎き堕天使の家族とその裏切り者を討伐しに来
たのである。
そして、偶々家出してきた朱乃を見つけ、まず先に穢れた娘を狙っ
たのである。
幼き朱乃はそんなことにも気が付くことなく、未だ両親の悪口を
言っている。
このままでは朱乃が殺されてしまうだろう。
だが刺客たちは、朱乃の隣のブランコで誰かが、
同じようにブランコを揺らしているのに気が付いたのだ。
茶色の髪を肩まで流した女だった。
242
!
そうして両親への文句を言っていると、複数の人影が公園を取り囲
!
!
なぜか目には光がなく、死んだ魚のようなだったが。
﹁遠路はるばる極東まで連れ去られてきたが、おとなしく縛られる私
ではごぜぇません。
ひとまずはここでやり過ごさなきゃ。しかし、なぜ私がこんな目
に・・・﹂
彼女もまた、朱乃と同じようにぶつぶつと何かを言っている。
死んだ目をした二人が揃ってぶつぶつ言っている光景、正直言って
恐いです。
﹂
もしかして聞こえ
そうしている内に、朱乃が彼女に気付き、なぜか話しかけたのであ
る。
﹁あのぉ・・・どうしたんですか
﹂
﹁え、あ、ごめんなさい。少しうるさかったですか
てました
﹁え、そうですか
﹂
﹁あはははは・・・。ですけど、そういうお嬢さんも同じですよ
﹂
﹁いえ、そうじゃないんですけど、あなたの眼が死んでいるので・・・﹂
?
?
?
朱乃は思った。﹃あ、私の家の方がまだ真面かもしれない﹄と。
﹁た、大変なんですね・・・﹂
と・・・﹂
も う 一 人 は あ り も し な い 私 の 肉 体 美 を 見 よ う と お 風 呂 に 来 る わ
でくるわ、
終いには何故か居ついた居候がドMで、毎回襲ってくださいと頼ん
つもアッパッパー。
﹁あー解ります。私なんか、両親が筋肉が大好きで、妹とその恋人がい
もう両親の顔がまともに見れません・・・﹂
撃してしまい、
夜な夜なお母様がお父様をいたぶって、それにお父様が喜ぶ姿を目
﹁私の両親が変態だったんです。
を打ち明けていった・・・。
そうした会話を行い、多少なりと打ち解けてきた中で、互いに悩み
?
ちなみに、周りで聞いていた術者の方たちは、あまりの境遇に泣い
243
?
ている者もいた。
﹁その上、また変態に巻き込まれまして。必死に逃げていたんですが
捕まってしまいまして。
気が付いたらここ極東にいて、縛られていた場所から逃げてきたん
ですよね。
もう、私が何をしたというんですか・・・﹂
﹁あはははははは・・・﹂
朱乃は、もう何を言っていいのか解らないので、とりあえず笑うこ
足掻きつくして私は家に帰ります。
﹂
めげてはいけないのですよ。諦めてしまったらそこで終わ
とにした。
﹁ですが
りです。
足掻いて、足掻いて
家に帰って家族を更生しなければならないのです。ですから
女性はそういって立ち上がるやいなや、朱乃の腕をとった。
﹂
﹁お嬢さんもめげないでください。たとえ両親がドのつく変態だとし
ても、
﹂
頑張ればきっとまともになってくれると思います・・・多分
﹁わ、解りました
!
﹁え
え
﹂
﹁いや、彼女は私に新たな道を示してくれた。だから私が保護する﹂
のですのよ﹂
﹁その通りですわ、お姉さま。私はお姉さまの愛の鞭で生まれ変わる
彼女の勢いに圧倒され、朱乃はただ頷くばかりである。
!
驚いた。
一人は紫のロール髪で紅いドレスを纏い、一方は青髪で修道服を着
ていた。
﹂
先ほどまで話していた女性に目を移すと、その目は絶望に色濃く染
まっていた。
﹁なぜ・・・ここが・・・わかった・・・の
﹁﹁愛です︵だ︶﹂﹂
?
244
!
!
!
?
なぜかいきなり現れた女性が二人。あまりに唐突なことに、朱乃は
?
﹁そんな欲望塗れのモノなんて捨ててしまえ﹂
彼女の呟いた言葉に、現れた二人はにこやかに答えた。
寧ろ後光が見える程に輝かしい笑顔だった。
家に帰らせ
まって、話を聞きなさ
ちょっと
二人の女性は、互いに挟み込む形で、がっしりとお姉さまと呼んだ
彼女の腕を捕まえた。
拉致だよね
﹁待って、ねぇ、どこへ連れて行こうとするの
て
というか、これは誘拐だよね
おい聞けよ
!?
﹂
!
言われた言葉を思い出す。
﹁私がお母様とお父様をまともにするの
うん、更生させるの
そうして三人が消えていった公園で、一人残された朱乃は、先ほど
お願いだから聞いてえええぇぇぇぇぇぇぇぇ・・・・・・﹂
い
?
!?
やりあい、
因みに、そのころの朱乃さんの両親は、本家の刺客たちの別働隊と
救急車を呼びました。
公園を出る途中、沢山の人が倒れていたので、優しい朱乃ちゃんは
ことを決意したのであった。
そう決意した朱乃は、現実︵両親が変態︶から逃げず、立ち向かう
!
その後は必死に朱乃を探し、帰ってきた朱乃に泣きながら抱きつい
た後、謝りました。
245
!
?
!
!
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