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妊娠・出産時における支援(PDF形式:53KB)
第1章 少子化の状況 C H A P T E R -1 3 第 章 子どもの成長に応じた子育て支援策 第1節 妊娠・出産・乳幼児期から未就学期まで 第 3 章 1 妊娠・出産時における支援 している主な子育て支援策を解説する。新しい (年齢進行別の子育て支援策) 少子化対策の中で、子どもの年齢進行別に提示し 現在のわが国では、様々な子育て支援策が講 た施策の流れのイメージは、第1−3−2図の じられている。主な子育て支援策を子どもの年 とおりである。 齢進行別にみると、第1−3−1図のとおりと (人生・家庭にとっての喜び) なる。母子保健・学校保健、労働の場での子育 て支援、地域の子育て支援サービス、経済的支 新たな生命の誕生は、妊産婦自身はもちろん 援策等、多岐にわたる。 のこと、その配偶者である夫、夫婦の両親、き 本章では、こうした現行制度の状況と課題を ょうだい、親族、友人など、大勢の人たちにと 概括的に説明しながら、本年(2006年)6月20 って大きな喜びである。親から子へと命が引き 日に決定された「新しい少子化対策について」 継がれるという意義だけでなく、夫婦の愛情の (以下「新しい少子化対策」という。 )の中で提示 結晶、家族の幸福、未来への期待など、喜びの 第1−3−1図 子どもの年齢からみた子育て支援策 年 齢 0歳 1歳 3歳 6歳 ( 小 学 校 ) ( 9歳 12歳 青 少 15歳 年 期 18歳 ) 22歳 (分野) 働 き 方 〔一般事業主行動計画の推進〕 産前 産後 休業 休業 保 育 放課後児童 育児 休業 0歳児保育 保 育 所 ・延長保育 ・休日保育 ・病児・病後児保育 ○子育て支援の拠点整備 ・つどいの広場 ・地域子育て支援センター ○一時、特定保育 ○ファミリー・サポート・センター ○育児支援家庭訪問事業 ○発達障害者支援センター など 学校・地域 子育て支援 働 き 方 の 改 革 若者の 就労支援 育児・介護休業法に基づく 諸制度(勤務時間短縮等の措置など) 放課後 児童クラブ 認定こども園 地域子ども教室 幼 稚 園 ○児童館 ○学齢児と乳幼児の触れあい 妊娠 母子保健 学校保健 妊娠届 母子健康手帳 健診 定期健診・予防接種 (1歳半、3歳健診など) 学 校 保 健 不妊治療 経済的支援 児童手当(小学6年終了前まで) 奨学金制度 児童扶養手当 税制上の措置(扶養控除) 36 (特別扶養控除) 第1節 妊娠・出産・乳幼児期から未就学期まで 第1−3−2図 「新しい少子化対策について」における年齢進行別子育て支援策のイメージ 〔新生児・乳幼児期〕 結 婚 妊娠・出産 〔未就学期〕 在宅で子育て ★出産費用の 負担軽減 3歳未満時の85%は 在宅で子育て ★児童手当制度の 乳幼児加算 ★地域の子育て支援 拠点の拡充 〔小学生期〕 〔中学・高校・大学生期〕 幼稚園 ★就学前教育についての保 護者負担の軽減策の充実 認定こども園 小 学 校 中 学 校 高 校 ・ 大 学 第 3 章 ★全家庭訪問 ★産科・小児科 医の確保 ★育児休業等の 取得促進 保育所 保育所 0歳児、1・2歳児保育 ★放課後子ども プランの推進 ★待機児童ゼロ作戦の推進 ★病児・病後児保育、障害児保育等の拡充 ★スクールバスの 導入等登下校時 の安全対策 ★奨学金の充実 ★学生ベビーシッ ター等の推進 事業所内託児施設等 その他の保育施設 ★企業における子育て支援の取組み 注: ★印は「新しい少子化対策について」に掲げられた主な子育て支援策を示す。 内容は様々であろう。社会にとっても、将来の社会 減し、子どもの誕生の喜びを共に分かち合うこ を支える担い手の誕生であり、喜ばしいことである。 とは、社会の責任でもある。 他方、子どもの妊娠・出産は女性にとって喜 妊娠してから出産まで、夫や家族の支援・協 びであるとともに、身体的にも精神的にも人生 力が不可欠であることはいうまでもないが、母 の一大事である。妊娠からくる体調や気持ちの 子保健や医療面の充実、公的医療保険での対応、 変化、自身と胎児の双方の健康の維持、安全・ 福祉サービス等、社会的に支援していくことが 安心な出産に向けての準備、仕事や家庭との両 重要である。 立、産後の育児の準備、経済的な面での対応等、 出産までにやらなければならないことがたくさ ん存在する。特に、初めての妊娠・出産の場合 には、母親である女性自身にとっても、家族に (妊娠・出産に対する支援策) 妊娠・出産に対する現行施策の支援策の概要 は、次のとおりである。 とっても初めての経験であり、慣れないこと等 まず、妊娠が判明したときには、市町村(保 から不安も多い。核家族化が進展し、地域社会 健センター等)に届出をすることにより、母子 での協力関係が薄れつつある現状では、個人的 健康手帳が交付される。母子健康手帳は、妊娠 に頼るところが少ないため、妊婦とその家族に 中の母体の経過や、出産の状態と出産後の母体 対する支援が必要である。 の経過、子どもの定期健診結果や発育状況(身 また、子どもはこれからの社会の希望であり、 長や体重)、予防接種状況等を記録できるとと 未来の日本社会をつくりあげていく力でもあ もに、妊娠から出産、育児期における各種の注 る。妊婦やその家族の不安を解消し、負担を軽 意事項等が記載されている1。母子健康手帳は、 1 地方自治体によっては、母子健康手帳だけでなく、栃木県などにみられるように父親向けに「父子手帳」を発 行しているところもある。 37 第3章 子どもの成長に応じた子育て支援策 母親と子どもの健康を守るために大変有用であ るほか、妊娠・出産・育児期の健康記録として も価値がある。 妊娠中の健康管理としては、妊娠初期から妊 娠23週までは4週に1回、妊娠24週から35週ま 第 3 章 きる4。 出産休暇中は事業主は賃金を支払う必要がな いので無給となるが、健康保険法等に基づき、 出産手当金として賃金日額(標準報酬日額)の 60%が健康保険等から支給される。 では2週に1回、妊娠36週から出産までは毎週 出産費用の支援としては、公的医療保険制度 1回、医療機関に通院して健康診査を受けるこ から出産育児一時金の給付がある。産科医院に とが推奨されている。現在、市町村では、一般 おける平均的な分娩費を考慮して、本年10月か 的に健康診査の2回分程度について助成を行っ ら、子ども1人につき従来の30万円から35万円 ている2。 に引き上げられている。給付の申請はそれぞれ 働いている女性のためには、妊娠・出産時に おいて男女雇用機会均等法に基づき母性健康管 の加入する公的医療保険の保険者に対して行 う。 理措置が定められている。まず、妊娠中の健康 診査については、上述した回数の健康診査につ (出産時の経済的負担の軽減) き、事業主に申し出ることにより、必要な時間 新しい少子化対策では、妊娠・出産時の負担 を確保することができる。また、妊産婦が医師 軽減として、以下の施策を講じることとしてい や助産師の指導を受けた場合には、その指導事 る。 項を守ることができるように、事業主は、勤務 時間の変更、勤務の軽減等、必要な措置を講じ なければならない。 第一に、出産育児一時金の支払手続きの改善 である。 出産育児一時金は、出産時に産科医院等でか また、労働基準法に基づき、産前・産後休業 かった分娩費等をいったん支払った後、被保険 として、産前6週間(多胎妊娠の場合は14週間) 者が保険者に申請して保険者から給付されると を、事業主に請求して休業することができる。 いう後払い(償還払い)であるが、新しい少子 産前休業は本人の申請によるので短くすること 化対策では、医療機関が被保険者に代わって保 もできるが、申請があった場合には事業主はこ 険者から出産育児一時金を受け取ることによ れを認めなければならない。産後8週間は、事 り、妊産婦やその家族にとって出産時点での現 業主はその者を就業させることはできないとさ 金準備の負担を軽減することとした。2006(平 れており、休業を義務付けられている3。また、 成18)年秋から、保険者の任意の取組としてこ 父親の場合には、事業主によっては就業規則等 の改善策が実施されているところである。 で配偶者が出産時の休暇(配偶者出産休暇)を 第二に、妊娠中の健診費用の負担軽減である。 規定しているところがあるので、それを利用で 健診費用は公的医療保険の対象外であるた 2 母子健康手帳に公費負担の回数分の妊婦健診診査受診票がついており、妊婦は市町村が委託した医療機関にお いて健康診査を受診した際、受診票を提出すれば市町村が指定した検査範囲について無料となる。 3 なお、産後6週間経過後に医師が認めた業務については、本人の請求により、就業させることができる。 4 配偶者出産休暇制度とは、労働基準法に規定する年次休暇以外の休暇制度であって、配偶者の出産の際に、病 院の入院・退院、出産等の付添等のために男性労働者に与えられる休暇をいう。3分の1の事業所で制度化され ており、配偶者の出産1回当たり1∼5日の休暇としているところが大部分である。国家公務員の場合には、妻 が入院等の日から出産後2週間までの間に、2日の範囲内で休暇をとることができる。なお、厚生労働省研究班 (主任研究者:島田三恵子大阪大学教授)の出産に関する全国調査(2005年)では、夫の2人に1人(52.6%)は 出産に立ち会っている。この割合は1999年の調査の36.9%から大幅に増加している。 38 第1節 妊娠・出産・乳幼児期から未就学期まで 第1−3−3図 安心して妊娠・出産し、働き続けることができる環境整備のための諸制度 妊 娠 中 ・母性健康管理の措置義務(通院休暇、通勤緩和など) ・妊娠・出産を理由とする解雇の禁止、不利益取扱いに対する行政指導 ・軽易業務への転換、時間外労働・深夜業の制限 出 ・産前産後休業(産前6週間・産後8週間) ・産前産後休業中の解雇禁止 産 育 休 中 ・出産育児一時金(35万円) ・出産手当金(標準報酬日額の60%)(健康保険等) 子 ・育児休業(申出により1歳(保育所に入れない場合は ・育児休業給付金 (休業開始時賃金月額の40%) (雇用保険) 1歳6か月)まで休業可能) ・育児休業を理由とした不利益取扱いの禁止 ・円滑に復帰ができるよう能力開発等の努力義務 育 小学校就学前までの ・勤務時間短縮等の措置 児 (短時間勤務、フレックスタイム制、始業・就業時間の繰 上げ・繰下げ、所定外労働の免除、託児施設の設置運営 その他便宜の供与) (3歳まで義務、 ) 3歳以降努力義務 中 復 帰 後 母 ・子の看護休暇制度(年5日) ・時間外労働、深夜業の制限 ・ファミリー・フレンドリー企業の普及促進(表彰) ・長時間労働の是正 ○待機児童ゼロ作戦 ○多様な保育サービスの充実 ・延長保育 ・休日保育 ・病児保育 など ○放課後児童クラブ ○ファミリー・サポート・ センター 児童手当 小学校6年 生までの子 1人につき 5千円(第 3子以降は 1万円) 扶養控除 子1人につ き38万円 (子が16∼ 23歳未満の 場合は63万 円)の控除 健 サ ー ビ ス め、全額自己負担となっている。上述したとお 療保険の適用外で全額自己負担である。1回当 り、現在、市町村から2回分程度の無料の措置 たりの費用も高額であり、かつ、何度も治療を が講じられているところが多いが、その余の自 繰り返すことが多い。そこで、政府は、2004 己負担として約9万円程度かかっている 。新 (平成16)年度から、不妊治療の経済的負担の しい少子化対策では、負担軽減の回数を拡大す 軽減を図るため、都道府県、指定都市及び中核 ることにより、妊婦が必ず健診をうけるように 市を実施主体として、体外受精及び顕微授精の し、母体や胎児の健康確保を図ることをねらい 治療に対して、年間10万円を限度に2年間助成 としている。 する制度(特定不妊治療費助成事業。所得制限 5 第三に、不妊治療に対する公的助成の拡大が ある。 コラム欄にあるとおり、不妊治療を受けてい 第 3 章 保 あり)を創設した。2006年度からは助成期間を 5年間に延長している。 新しい少子化対策では、さらに、この助成制 る患者数は、年間約47万人にのぼっているが、 度を拡充し、不妊治療の負担軽減を図ることと 不妊治療法の中で体外受精の場合には、公的医 している。 5 (財)こども未来財団「子育て家庭の経済状況に関する調査研究」 (2006年)による。 39 第3章 子どもの成長に応じた子育て支援策 コラム 最近の不妊治療について 日本産婦人科学会の定義では、 「不妊症」 とは、 「生殖年齢の男女が妊娠を希望し、ある一定期間、性 生活を送っているにもかかわらず、妊娠の成立をみない場合を不妊という。その一定期間については1年 から3年までの諸説があるが、アメリカでは1年、日本では2年というのが一般的である」 としている。 不妊治療の方法としては、①排卵時期に性行為をもってもらうタイミング法、②精液を注入器を 用いて直接子宮腔に注入し、妊娠を図る人工授精、③排卵誘発剤の使用等の薬物療法や、精管や卵 管の手術などの特殊な不妊治療、④人為的に卵巣から取り出した卵子を培養液の中で精子と受精さ 第 3 章 せ、受精後の受精胚を子宮腔や卵管に戻し、妊娠を期待する方法(体外受精・胚移植)や、体外受 精の一方法であるが、顕微鏡下で卵子内に精子を人工的に注入し、授精が完了した後、胎内に戻す 方法(顕微授精)がある。このうち、②及び④は、公的医療保険の適用外となっている。 不妊治療を受けている患者数は、全体で約47万人、そのうち一般的な不妊治療で約33万人、人 工授精で約7万人、体外受精で約7万人と推定されている6。 不妊治療にかかる治療費としては、人工授精が1回当たり約1万円、体外受精・胚移植が約30 万円、顕微授精が約40万円となっている7。 日本産科婦人科学会の調査によると、体外受精で生まれる子どもの数はここ数年急増しており、 2003(平成15)年の出生数は約1万7,400人で、全出生数の1.5%に達している。 なお、不妊治療に対する公的助成を受けるための不妊治療施設の指定は日本産科婦人科学会の会 告等に定める要件を満たしていることを条件に各都道府県が登録を行っているが(2005年におい て全国で648施設登録)、登録施設の中でも設備・実績等に差があるという報告があり、今後、不 妊治療施設の質の確保も課題となっている。 2 産科・小児科医療体制の確保 (産科医の現状) (昭和50)年と比較をすると、病院・診療所の 割合が高まり、助産所、自宅での出生数は大幅 母子保健の充実や医療体制の整備等により、 に減少している。 わが国の乳児死亡率(出生児1,000に対するゼ 一方、少子化の進行の中で、産婦人科医の数 ロ歳児死亡数の比率)は2.8(2005年)と、世 が減少傾向にある。1970(昭和45)年には医師 界で最も低い数値となっている 。また、妊産 総数が11万8,990人で、そのうち産婦人科医は 婦死亡率(出産10万対)は、昭和30(1955)年 1万3,841人であったが、2004(平成16)年には 代から大きく低下し、当時は150前後の高さで 医師総数は27万371人と1970年と比べて2倍以 あったのが、1988(昭和63)年に一桁台となり、 上に増加したものの、産婦人科医は1万163人 2005年は5.7となっている。 と減少している。最近10年間(1994年から2004 8 出生の場所をみると、全体の51.4%が病院で あり、次いで診療所(47.4%) 、助産所(1.0%) 、 自宅(0.2%)となっている(2005年)。1975 年)でみても、医師総数は約4万人増加したが、 産婦人科医は876人減少(7.9%減)している。 また、日本産科婦人科学会の調査では、産科 6 厚生労働科学特別研究「生殖補助医療技術に対する国民の意識に関する研究」 (2002年)による。 7 厚生労働科学特別研究「生殖補助医療技術に対する医師及び国民の意識に関する研究」 (1998年)による。 8 主要国の乳児死亡率は、アメリカ6.9、イギリス5.3、フランス4.4、ドイツ4.2である(いずれも2003年) 。World Population Prospects: The 2004 Revisionによれば、2000∼2005年の乳児死亡率は、世界平均で57.0、先進地域では 7.7、発展途上国では62.4と推計されている。 40