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移動体通信におけるICIキャンセラを用いたOFDM受信機の性能向上
移動体通信における ICI キャンセラを用いた OFDM 受信機の性能向上 に関する関する検討 088508J 野原 健太 1 背景と目的 日本での地上波デジタル放送は 2006 年 12 月開始以来、 現在、日本のほとんどの地域で放送されている。日本地 上波ディジタル放送 (ISDB-T)[1] 規格に採用されている OFDM(OrthogonalFrequency Division Multiplexing) 変 調システムでは、移動体通信をする際に、ドップラーシフ トによって RF 周波数誤差が生じる。これによって、特定 の周波数の搬送波上のシンボルが他のシンボルへ干渉す ることが起きる。このような干渉をキャリア間干渉 (ICI : Inter Carrier Interference) と呼ぶ。本論文では、移動体通 信で発生するキャリア間干渉 (ICI) をできるだけ除去し、 OFDM 受信機の性能向上を目的とした。OFDM 受信機に、 ICI キャンセラ、及び受信信号の歪みを補正するイコライ ザを設計しその性能向上の評価を行った。 2 3.1 3.1.2 提案式イコライザ 提案式イコライザの構成を図 2 に示す。時間軸方向に補 間を行わずに周波数軸方向で補間を行う。周波数軸方向の 線形補間を 2 回行うことで、すべての信号の伝送路歪みを 補正することが可能となる。この手法は伝送路特性が時間 変動する移動通信に適している。 OFDM システム OFDM 通信システムとは、直交周波数多重分割方式と 呼ばれる無線通信システムの一つで、地上波デジタル放送 やデジタル無線通信などに使用されている。すべての送信 信号に直交性を保持させることによって、送信信号が周波 数軸上で重なっても、受信機で FFT(高速フーリエ変換) によって分離させることが可能であり、周波数領域を有効 に活用することにより、従来よりも多くの信号を同時に送 信することが可能である。 3 指導教官 和田 知久 提案手法 イコライザ(等化器) 図 2: 提案式イコライザの構成 3.2 ICI キャンセラ 本節では、本論文で提案した2種類の ICI キャンセラに ついて説明を述べる。周波数軸 ICI キャンセラは FFT の 後、時間軸 ICI キャンセラは FFT 前で処理を行う。 3.2.1 周波数軸 ICI キャンセラ ドップラーシフトが発生すると、一つのサブキャリアに 対して、近似式で図 3 のように ICI が発生する [2]。近傍 の ICI の発生を近似式で表現し、逆行列計算をすることで ICI を除去する。 送信側が電波を送信し、受信した OFDM 複素信号は、 伝送路で振幅・位相変動の影響を受けるため伝送路歪みを 含んでいる。従って、伝送路歪みを補正するには受信機側 でイコライザが必要になる。本節では従来手法と、提案手 法のイコライザについて述べる。 3.1.1 従来式イコライザ 従来式イコライザの構成を図 1 に示す。すべての信号の 伝送路歪みを推定するために、送受信側で既知の信号であ るパイロットを等間隔に配置し、各パイロット間のデータ 部分の推定を線形補間によって行う。従来手法では、時間 軸方向、周波数軸方向の順番に線形補間を行うことによっ て、すべての信号の伝送路歪みを推定し補正することが可 能となる。 図 1: 従来式イコライザの構成 図 3: ICI 発生の近似式 3.2.2 時間軸 ICI キャンセラ 時間軸 ICI キャンセラの構成を図 4 に示す。1 シンボル 内の位相回転を検知し、その逆回転を掛けることによって 時間領域で ICI を除去する。シンボル毎にそれぞれ位相逆 回転を掛け ICI を除去するため、移動体通信のような伝送 路特性が時間変動をする環境には適している。 図 4: 時間軸 ICI キャンセラの構成 表 1: シミュレーション環境 FFT size 8192 サブキャリア数 5617 サブキャリア間隔 (f0 ) 0.123us シンボル長 (Te) 1008us ガードインターバル長 (Tg) 126us 最大正規化 RF 周波数誤差 (∆f /f0 ) 0.00,0.01,...0.10 変調方式 64QAM CN 比 30, 35, 40dB 表 2: 電波到来環境 遅延時間 DU 比 第1波(直接波) 0 2 第2波(遅延波) 25us 3 第3波(遅延波) 12.5us 5 第3波(遅延波) 19us 2 到来方向 (θ) 30 120 210 330 図 6: 同方向、提案式イコライザ使用時の BER 評価 シミュレーション 4 本節では、ICI キャンセラ、イコライザの性能評価を行 う。表 1 にシミュレーション環境、表 2 に到来波環境を示 す。評価には MATLAB ソフトウェアを使用、日本式地上 波デジタル放送 ISDB-T 規格 (mode3) に準じたシミュレー ションを行った。 4.1 シミュレーションパターン 評価する OFDM 受信機のパターンは図 5 のようになる。 ICI キャンセラ(周波数軸、時間軸、なし)、イコライザ (従来手法、提案手法)の計6パターンでシミュレーショ ンを行った。シミュレーション環境は、到来波が受信機に 来る方向が、同方向、多方向の環境でシミュレーションを 行った。 同方向では、到来方向はすべて同じ方向である、多方向 は到来方向によってドップラーシフトの強度が変化する、 進行方向と同じ向きから来るときドップラーシフトが最大 になる。 図 7: 多方向、CN=40、BER 評価 4.2.2 多方向からの到来電波環境 シミュレーション結果を図 7 に示す。BER=10^-3 にお いて、時間軸 ICI キャンセラ使用時の受信性能が従来手法 と比べ約 30 %の改善が見られた。周波数軸 ICI キャンセ ラ使用時は多方向からの到来波環境になると受信機として 全く機能していない。 5 結論 本論文では、移動体通信で 2 種類の ICI キャンセラとイ コライザを提案した。シミュレーション検証では、従来手 法に比べて、提案手法の OFDM 受信機が性能が良いこと を示した。 図 5: OFDM 受信機の構成(提案手法、従来手法) 4.2 4.2.1 シミュレーション結果 同方向からの到来電波環境 シミュレーション結果を図 6 に示す。BER=10^-3 にお いて、提案式イコライザを使用した場合、周波数軸 ICI キャ ンセラ使用時の受信性能が従来手法と比べ約2倍の改善が 見られ、時間軸 ICI キャンセラ使用時の受信性能は従来手 法と比べ限りなく改善することができた。 参考文献 [1] ”Channel cording, frame structure and modulation scheme for terrestrial integrated services digital broadcasting (ISDB-T),”ITU-R WP11A, May, 1999. [2] B.S.Lee, “ Doppler effect compensation scheme based on constellation estimation for OFDM system ”, ELECTRONICS LETTERS,Vol. 44 No. 1, 3rd January 2008.