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平成28年 9月 タイにおける緑茶・抹茶ブームと八女茶の輸出可能性
2016 年 9 月 29 日 タイにおける緑茶・抹茶ブームと八女茶の輸出可能性について バンコク事務所長 東 幸治 1.豊富な緑茶・抹茶製品とタイ人の嗜好 タイにおける緑茶飲料は 2001 年の台湾企業による販売が最初で、2004 年に タイ大手企業のオイシが参入したことで市場が急成長した。しかし、これらの 商品は甘い物好きのタイ人に合わせた加糖緑茶で、日本人にとってはかなり甘 い味であった。2006 年に登場したキリン「生茶」も、このようなタイ市場に合 わせて当初は無糖の販売は行わず、加糖、低糖の2種類で販売を開始した。 しかし近年、タイ人の健康志向の高まりに合わせて無糖緑茶の人気も高まっ ている。JETRO の「タイにおける食のマーケット調査」によると、無糖緑茶を 飲んだ経験があるタイ人は 45.5%を占め、そのうち 61.0%が口に合うと回答し ている。このようなタイ人の嗜好の変化を捉え、現在ではオイシ、イチタン、 (表1)タイへのお茶の輸出 フジなどのタイ企業のほか、伊藤園、ポッカな 輸出量 (kg) 輸出額 (千円) どの日系企業も無糖緑茶を販売しており、日本 2005年 19,427 49,962 からのお茶の輸出も着実に増えている(表1)。 2010年 99,501 155,450 緑茶がタイ市場に浸透するなかで、最近では 2015年 144,179 290,031 (出典)財務省貿易統計 特に抹茶がブームとなっている。スーパーやコ ンビニでは抹茶のお菓子が所狭しと並べられて おり(写真1)、街中では抹茶飲料店もよく見 かける。関係者によると、抹茶ブームが始まっ てすでに5年ほど経つそうであるが、最近では 抹茶のカレー、チキンライス、カルボナーラま で登場するなど、ブームが衰えるどころか、ま すます拡大しているように感じられる。 (写真1)コンビニの抹茶商品 2.お茶の輸入規制について タイではお茶は食品衛生の観点から「品質規格管理食品」に分類されており、 製造国の適正製造規範(GMP)証明書の提出が必要となる。HACCP 認定書、ISO 認定書のほか、日本の場合は保健所が発行する食品製造許可(営業許可)書で 代行することができる。また、お茶は国内産業保護の観点から関税割当品目1と 1 一定数量の輸入品に無税又は低税率の関税を適用し、安価な輸入品の提供を確保する一方で、それを超 える輸入に高関税を適用することで、国内生産者の保護を図るもの。 1 なっている。割当内の税率は、日タイ経済連携協定(JTEPA)適用の場合 2 は 2.73%(2017 年度から無税)、非適用の場合は 30%で、割当外の税率は 60% となっている。当地の食品輸入業者によると、日本の場合、割当数量枠の限度 まで輸入されており、新規輸入の場合は割当内での調整が必要となるそうであ る。 このように、緑茶・抹茶ブームの一方で、様々な輸入規制があるため、実際 に輸入を行う際には最新情報の入手が不可欠となる。 3.緑茶・抹茶市場を巡る様々な取組みと八女茶の輸出可能性 タイに緑茶ブームを起こしたのはオイシといわれているが、抹茶ブームを引 き起こしたのは、2007 年にタイ企業と提携してカフェ併設の日本茶ショップを 大型商業施設内にオープンした島根県の茶舗といわれている。提携先のタイ企 業によると、当時抹茶は有名ではなかったが、店頭で抹茶を立てて魅力を伝え 続けた結果、タイ王室に献上する機会に恵まれ、ブームを引き起こすきっかけ となったそうである。茶葉については、島根県の茶舗を経由して全国から仕入 れており、八女茶も一部取扱っているとのことであった。 タイ大手企業との合弁で、北部チェンライに製茶工場を設立した静岡県企業 もある。日本からの輸入品では、中国やベトナムなどの低価格の緑茶と競争で きないため、価格を下げて高品質な緑茶を提供できるよう現地生産を開始した。 まずはタイ国内で販売を拡げ、将来的には輸出も行う計画である。 本県企業でもタイで八女茶の販売に取り組んでいる企業がある。これまでも 県主催の商談会や日系百貨店での物産展に参加し、積極的に販路拡大に努めて いる。また、関税割当品目の対象外となる加工品を販売したり、暑いタイでも 飲みやすい水出しのお茶を提案するなど、様々な工夫を行っている。 今後、八女茶の販路拡大のためには、このような現地の嗜好に合わせた商品 開発のほか、日本食ブームと合わせた飲食店での PR も有効であると思われる。 しかし、まずは他の商品との差別化を図るため、いちごの「あまおう」のよう にブランドを浸透させることが先決であると思う。その際、八女茶が「伝統本 玉露」の生産量日本一を誇り、国が知的財産として保護する地理的表示保護制 度(GI)に登録されている唯一のお茶というのは大きな強みとなる。また、お 茶の入れ方体験、石臼での抹茶ひき体験など様々な八女茶体験ツアーを PR し てタイ人観光客を誘致し、八女茶ファンを増やすことも、将来的にはブランド 向上及び購買層獲得につながると思う。 タイの緑茶・抹茶市場は、様々な輸入規制があって参入が容易とはいえない が、ブームは当面続くと思われ、工夫次第で参入余地は十分あると考えられる。 2 JTEPA 税率を適用する場合は、原産地証明書の取得が必要となる。 2