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工学院大学 機械創造工学科 武沢 英樹 永久磁石の熱エネルギ加工に
永久磁石の熱エネルギ加工に に関する研究 工学院大学 機械創造工学科 武沢 英樹 財団法人JKA平成25年度 外部磁場制御を付与し た熱エネルギ加工による永久磁石の着磁パターニング 補助事業 報告書 目次 第 1章 緒 論 ......................................................................................... 1 1.1 研 究 背 景 ..................................................................................... 1 1.2 関 連 す る 研 究 ............................................................................... 1 1.3 高 エ ネ ル ギ 密 度 ビ ー ム 加 工 ........................................................... 2 1.3.1 放 電 加 工 の 概 要 ............................................................... 3 1.3.2 レ ー ザ 加 工 の 概 要 ............................................................ 7 1.4 本 研 究 の 目 的 ............................................................................... 8 第 2章 磁 性 体 ...................................................................................... 9 2.1 緒 言 ............................................................................................ 9 2.1.1 ネ オ ジ ム 磁 石 の 特 徴 ........................................................ 9 2.2 第 2 章 の ま と め ......................................................................... 10 第 3章 永 久 磁 石 に 対 す る 放 電 加 工 ...................................................... 11 3.1 緒 言 .......................................................................................... 11 3.2 放 電 加 工 条 件 の 違 い に よ る 磁 束 密 度 変 化 ..................................... 12 3.2.1 実 験 に 用 い た 放 電 加 工 装 置 ............................................. 12 3.2.2 加 工 後 の 磁 束 密 度 計 測 ................................................... 13 3.2.3 加 工 中 の 磁 石 内 部 温 度 ................................................... 15 3.2.4 入 熱 方 法 の 違 い に よ る 磁 束 密 度 変 化 ............................... 17 3.2.5 放 電 加 工 面 よ り 内 部 の 磁 束 密 度 変 化 ............................... 23 3.2.6 加 工 面 よ り 内 部 の 磁 束 密 度 低 減 層 ................................... 26 3.3 D.F.の 違 い に よ る 磁 石 内 部 温 度 と 磁 束 密 度 変 化 ........................... 30 3.4 磁 場 解 析 に よ る 磁 束 密 度 低 減 領 域 の 一 考 察 ................................. 34 3.5 外 部 磁 場 付 与 加 工 ...................................................................... 38 3.6 第 3 章 の ま と め ......................................................................... 46 -i- 第 4章 穴 加 工 に よ る 磁 気 パ タ ー ニ ン グ ............................................... 47 4.1 緒 言 .......................................................................................... 47 4.2 放 電 加 工 を 用 い た 磁 気 パ タ ー ニ ン グ ........................................... 47 4.3 磁 場 解 析 に よ る 形 状 加 工 に よ る 磁 束 密 度 変 化 の 考 察 .................... 51 4.4 底 付 穴 加 工 に お け る 比 透 磁 率 の 異 な る 板 材 で の 挟 み 込 み .............. 53 4.5 第 4 章 の ま と め ......................................................................... 56 第 5章 結 論 ....................................................................................... 57 5.1 本 研 究 で 得 ら れ た 成 果 ............................................................... 57 5.2 本 研 究 の 今 後 の 課 題 ................................................................... 58 参 考 文 献 ............................................................................................. 59 - ii - 第1章 緒論 1.1 研究背景 希土類磁石であるネオジム磁石は高機能性材料として様々な工業製品に利用され ており,精密機械や電子機器などには欠かせない存在となっている.使用領域は,ハ ードディスクや携帯電話などの小型製品から,自動車など多岐にわたる.近年,機器 の小型・軽量化に伴い複雑な形状や多彩な磁極特性を持つ永久磁石が求められてきた. しかし,粉末冶金法によって粉末材料を金型成形し,その後に焼結プレスを経て製 造された永久磁石は高硬度かつ高脆性に加え,着磁を行うと強い磁力をもつことから 一般的な切削加工や研削加工での加工は困難であることが知られている.それは,切 削・研削工具の大半は強磁性体で作られているためである.通常は,着磁段階の前に 研削などで形状加工を行いその後着磁を行う.着磁には専用の着磁コイルや着磁ヨー クが必要であり,複雑な着磁パターンや複雑な形状の磁石の製造は困難という問題も ある.着磁後の磁石に対して形状加工が可能であれば,市販の磁石を追加工できるな ど応用範囲はさらに広がる事が考えられる. 1.2 関連する研究 これまで,絶縁性セラミックスを例にするような通常の機械加工が困難な機能性材 料の加工に関する様々な研究がなされてきた.磁性材料の 1 つである希土類磁石の加 工に関する研究の経緯について述べる. ネオジム磁石に対して非接触熱エネルギ加工を用いた形状加工と磁力変化につい て研究がなされてきた.まず,放電加工における永久磁石の加工特性と磁束密度変化 についての調査がなされている [1] [2] [3] [4] [5] [6].これらの研究によって,ネオジ ム磁石の放電加工では,放電時間と放電休止時間の比(Duty Factor D.F.)を小さく して加工速度を小さくすることで磁束密度を低下させることなく加工が可能である -1- こと,D.F.を大きくすると磁束密度が低下をし,これは材料内部の温度上昇が影響し ていると考えられている.また,穴加工において,加工深さが深くなると加工部分と 反対の面の表面磁束密度が 0 または転極することが発見されている. 他にも,ネオジム磁石へのレーザ加工による磁力変化に関する研究もなされてきた [7] [8] [9].これらの研究では,レーザの連続出力モードで照射した場合,ほとんど加 工されないが熱入力によって磁束密度が減尐することが報告されている.さらに,磁 石に対して順方向の外部磁場を付与すると磁束密度の減尐が小さくなることが報告 されている. 近年では,放電加工やレーザ照射といった局所パルス加熱によるパターニングなど についても研究が進められてきている [10].放電加工において穴加工を行うと,加工 面の反対面が転極する原理を利用して複数穴による磁気パターニングが可能である と報告されている.また,レーザ加工においてもレーザのスポットを絞り照射するこ とで形状を変化させることなく転極を発生させることが可能であることを確認して いる.両加工において加工磁石に反発する方向の外部磁場を付与させることで転極の 強度を強くさせることが可能であるという報告もなされてきた. このように,永久磁石に対して非接触熱エネルギ加工を適用することは研究として 行われているものの,実用化に対する定量的な加工現象の解明や条件の決定などはさ らなる解明が必要であるのが現状である. 1.3 高エネルギ密度ビーム加工 工業製品などの加工法には,様々な種類の加工法がある.加工具を使用した機械加 工や,電気エネルギ,光エネルギ,化学エネルギといった各種エネルギ加工を利用し た加工法,さらにそれらを複合した加工法に大別することができる.高エネルギ密度 ビーム加工には放電加工,レーザ加工,イオンビーム,電子ビームなどがあり,精密 ・複雑形状の加工や付加加工が可能となってきている.本研究では,機械加工による 加工が困難である永久磁石に対し,非接触熱エネルギ加工である放電加工とレーザ加 工を行ったため,その二種の加工法についての概要を記述する.この二種の加工法は パルス状の熱エネルギを利用するという点で共通している. -2- 1.3.1 放電加工の概要 放電加工(Electrical Discharge Machining)とは,電極と被加工物とを灯油や水 といった絶縁加工液中を介して,数~数十ミクロンといった極間で繰り返されるパル ス状電流によって生じる溶融,飛散により被加工物を除去する加工法である.このパ ルス状電流の電流値とパルス幅によって放電によって生じる放電痕の大きさは決ま り,その累積によって加工の速度や精度が決まってくる.また,導電性材料であれば 機械的強度に関係なく加工が可能であることから鋳造やプレス成型用の金型を製作 するために多く用いられている.放電加工は形彫放電加工とワイヤ放電加工の大別さ れる.それぞれの概略図を図 1.1 と図 1.2 に示す. 形彫放電加工では,切削などで成形した銅またはグラファイト電極を工具として用 いて加工を行う.工具電極の形状をそのまま反転転写することが可能である.非接触 加工であることから,加工反力が小さく深穴加工のような高アスペクト比加工が高精 度に可能である.しかし,加工速度が遅いことや,必要形状の電極が必要であるため, 加工に要する時間がかかることが短所として挙げられる.また,加工が進行するにつ れて工具電極も消耗してしまうため,電極消耗を考慮する必要がある. 加工には灯 油系の加工油を使用することから無人運転はできない. ワイヤ放電加工機は,金属(タングステンや真鍮)の細いワイヤ(通常 0.05~0.25mm)に電圧を印可し電極と被加工物の間に生じる放電によって加工を進め る加工法である.通常加工はイオン交換水中で行われるため無人運転も可能である. ワイヤは供給リールから一定速度で供給され,上下のワイヤガイドによって保持され ている.このガイドがサーボ送り機構によって XY 軸を移動することによって加工が 行われる.上下のガイドが相対的に移動することによってテーパ加工や上下任意形状 の加工が可能である.ワイヤは一定速度で供給されることから一定の精度が確保でき るほか,形彫放電加工のような電極消耗を無視することが可能である. -3- モータ 制御 Z軸 油 放電 回路 電極 被加工物 図 1.1 放電加工概略 ブレーキ 供給リール ワイヤ ワイヤガイド NC 制御装置 加工電源 工作物 ワイヤガイド サーボ送り機構 巻取りリール 巻取りローラ 図 1.2 ワイヤ放電加工概略 -4- 放電加工の加工特性を決めるのは,放電電流(Ip)・パルス幅(τp)・であり, 加工の能率を決めるのが休止時間(τr)である.これらの要因を決定付けるものが 電気回路である.ここでは一般的な放電回路であるコンデンサ放電回路とトランジス タ放電回路について述べる.コンデンサ放電加工における放電回路の回路図および極 間電圧波形および極間電流波形を図 1.3 に,トランジスタ放電回路における放電回 路の回路図および極間電圧波形および極間電流波形を図 1.4 に示す. コンデンサ放電回路は,コンデンサに充電抵抗を通して充電した電荷を放電する方 式である.この方式を用いると,放電電流 Ip が高く,パルス幅τp の短い放電電流 が得られやすく,仕上げ加工や微細加工などによく用いられている.コンデンサ放電 回路におけるパルス幅と放電電流は,回路中のコンデンサ容量 C と抵抗 R およびリ ード線などがもつわずかなインダクタンス L によって決定される.しかし,この回路 では放電電流とパルス幅の独立の制御が困難である.その問題を解決した回路がトラ ンジスタ放電回路であり,現在の形彫放電加工機などはトランジスタ電源方式が主流 となっている. トランジスタ放電回路では,トランジスタをスイッチングに用いてトランジスタが ON・OFF を繰り返すことで矩形波電圧が極間に加えられ,放電の発生により矩形波 電流が流れる.加工機では,極間電圧波形においてあるしきい値を決め,そのしきい 値により放電を検知し設定したパルス幅が経過した時点でトランジスタを OFF にす る制御を行っている.このように放電のパルス制御が容易になったことで面粗さや加 工速度を自由に設定することが可能となり,粗加工から仕上げ加工まで汎用的に用い られるようになった. -5- V R 0 t 工具電極 C 工作物 充電回路 I 放電回路 0 t 図 1.3 コンデンサ放電回路 V パルス制御回路 E0 0 R 工具電極 t I 直流電源V 工作物 0 図 1.4 トランジスタ放電回路 -6- t 1.3.2 レーザ加工の概要 レーザ加工とは単一波長の強い光を被加工物に微小面積に集光させることで加熱 ・溶融・蒸発作用を起こす加工法である.レーザを英語で表記すると「LASER」と なるが,これは(Light Amplification by Stimulated Emission of Radiation)の頭 文字をとったものであり,誘導放射による光増幅つまり,光を増幅して強くするとい う意味をもつ. レーザ媒質に媒体励起源から発せられた光などによってエネルギを与えるとレー ザ媒質の原子や分子が高エネルギ状態に励起される.この原子や分子の励起を繰り返 し,その光を対抗した鏡の間で繰り返し反射させることで特定の波長の光が増幅され, 単一波長の強力な光となる.これがレーザ光である.具体的には,図 1.5 に示すよ うにレーザは媒体励起源であるキセノンランプにより励起され,レーザ媒質である YAG ロッドの原子が光を放出する.その光を 2 枚の完全反射鏡と部分透過鏡によっ て反射と往復を繰り返すことで光が増幅されレーザ光として得られる. レーザの大きな特徴として,単色性,コヒーレンス(可干渉性),高指向性が挙げら れる.通常の光とは異なり,レーザの光の波長や周波数が等しくなっている.また, 光の位相がそろっているため,出力の大きい波を得ることができる.また,光の進行 方向がそろっている. レーザの媒質には固体・液体・ガス(気体)・半導体など様々な種類ものが存在す るが本研究では,固体レーザである YAG レーザを用いた.YAG レーザとは,イット リウム・アルミニウム・ガーネットを媒体に用いた固体レーザの事である.本研究で はテクノコート製 Nd:YAG レーザを用いている.YAG レーザの周波数はλ=1064nm である.このレーザはイットリウム・アルミニウム・複合酸化物からなるガーネット 構造の結晶にネオジウムをドーピングさせたものである.高いピークが得られ,ロン グパルスが可能という特徴をもち,工業,研究,医療など様々な所で使用されている. レーザは断続的にレーザを出すパルスレーザと連続的にレーザを出す CW レーザに 区別することができる。また,パルス発振が可能であり,ナノ~フェムト秒といった 極短パルスの光も得ることが可能である. -7- 光共振器 レーザ レーザ媒質 完全反射鏡 部分透過鏡 媒体励起源 図 1.5 レーザ装置の基本構成 1.4 本研究の目的 1.1 研究背景で述べたように,永久磁石の中で最も強い磁力を持ち機能性材料とし て様々な機器に使用されている希土類永久磁石は,着磁を行った後の機械加工は一般 的に行われていない.しかし,形状加工をすることができれば製品の幅は大幅に広が る事が考えられる.着磁に要する着磁コイルや着磁ヨークに制限があることから,多 品種尐数生産への対応が困難とされてきたが,着磁後の磁石の追加工が可能になれば 製造の幅を大きく広げることが可能である. 本研究においては,着磁後の永久磁石を加工し,加工後の磁石の形状および表面磁 束密度分布を同時にまたは個別に制御する事を目的としている.具体的には永久磁石 に対する放電加工やレーザ照射による磁気特性の変化と加工中の内部温度に着目し, 両者の関係性についての検討を行った.さらに,数種の放電加工条件により加工を行 い,加工後の磁束密度と加工中の内部温度の比較を行った.電磁場解析や伝熱解析を 行い,実測値だけでは評価が難しい磁石内部の磁力変化や内部温度の分布について考 察を行った.最終的には,磁気の制御への第一段階として加工する磁石に対して外部 から様々な磁場を付与した際の影響についても検討した.その他にも放電穴加工を用 いた着磁パターンの生成に関する調査も行う.放電底付穴加工によって生じる磁束密 度低下や転極現象に対して評価・考察を行った. -8- 第2章 磁性体 2.1 緒言 本章では,本研究の加工対象である磁性体について,原理,種類,特徴などを磁気 学の理論の観点から述べる.また,本研究で使用した永久磁石のネオジム磁石につい て材料特性や磁気特性について示した. 2.1.1 ネオジム磁石の特徴 ネオジム磁石は住友特殊金属(現:日立金属)の佐川眞人らによって発明された. 主相は である.この磁石の特徴として挙げられるのは以下の通りである. ・磁束密度が高く,非常に強い磁力を有する.現在存在する磁石で最も強力. ・市場での流通量が多く安価である. ・脆性材料であり,磁力の温度変化が大きい. ・キュリー温度が約 310℃程である. ・錆に弱い.その為,ニッケルでめっきされることが多い. 図 2.1 に本研究で使用したネオジム磁石の外観図を,表 2.1 にネオジム磁石の磁気 特性を示す. 図 2.1 ネオジム磁石(N-42) -9- 表 2.1 ネオジム磁石の磁気特性 Nd2Fe14B 組成 1.30~1.33 T 13.0~13.3 kGs 876~926 kA/m 11~11.6 kOe ≧955 kA/m ≧12 kOe 318~334 kJ/m3 40~42 kGOe 使用温度 ≦80 ℃ キュリー温度 300~330 ℃ 温度係数(Br) -0.12 %/℃ 温度係数(Hcj) -0.55 %/℃ リコイル比透磁率 1.05 μrec 密度 7.3~7.5 g/cm ビッカース硬度 500~600 Hv 比熱 410 J/kg・K 熱伝導率 8.95 W/m・K 残留磁束密度 保持力 Br bHc iHc 最大エネルギー積 (BH)max 3 2.2 第 2 章のまとめ 本章では,加工対象とした磁性体特にネオジム磁石の特徴について示した. - 10 - 第3章 永久磁石に対する放電加工 3.1 緒言 図 3.1 は,着磁後の永久磁石をドリル加工した図である.磁石自体が硬脆性材料 であることから一般的な機械加工では加工が困難であることが知られている.磁力に よって工具が磁石に引き付けられバリやカケが発生することで図のように精度が悪 くなってしまう. 図 3.1 ドリル加工後のネオジム磁石 図 3.2 は,放電加工により加工を行った磁石である.放電加工では銅やグラファ イトといった非磁性体を電極とする事ができ,また磁石に触れることなく加工ができ るため磁性体の高精度な加工が可能である. 図 3.2 放電加工後のネオジム磁石 - 11 - 3.2 放電加工条件の違いによる磁束密度変化 これまでの研究において,ネオジム磁石に対する放電加工で,放電条件を変化させ ると加工後の表面磁束密度の変化が異なることが明らかとなっている[1] [2] [3].本節 では,数種類の放電加工条件使用し,実際に加工を行った際の磁束密度変化について 調べた.また,加工中の内部温度について調べ,加工後の磁束密度変化への影響につ いて考察を行った. 3.2.1 実験に用いた放電加工装置 図 3.3 に,本研究で用いた Sodic 製形彫放電加工機(AM3L)の外観写真を示す. 第 3 章の放電加工および第 4 章の磁石の除去加工にはこの加工機を使用して実験を行 った.使用した形彫放電加工機の仕様を表 3.1 に示す. 図 3.3 形彫放電加工機(Sodic AM3L)外観 - 12 - 表 3.1 形彫放電加工機 AM3L の仕様 メーカ Sodick 型式 AM3L テーブル寸法(幅×奥行) 600×400 mm (セラミック) 加工タンク内形寸法(幅×奥行×高さ) 944×555×300 mm 加工タンク最大容量 145 L 左右移動距離(X軸) 300 mm 前後移動距離(Y軸) 200 mm 上下移動距離(Z軸) 250 mm 最大加工物質量 550 kg 機械本体寸法(幅×奥行×高さ) 1260×1250×2315 mm 機械本体重量 2000 kg 3.2.2 加工後の磁束密度計測 加工後の磁束密度計測にはカネテック製テスラメータ(TM-601)を用いた.テス ラメータの外観図を図 3.4 に,テスラメータの仕様を表 3.2 に示す.加工が終了し た後,放電加工機上で表面磁束密度の計測を行った. 図 3.4 テスラメータの外観 - 13 - 表 3.2 テスラメータの仕様 メーカ カネテック 型式 TM-601 プローブタイプ トラバース型(TM-601PRB) 通信方法 RS-232C 検出対象 直流磁束密度 指示範囲 0~1500mT 測定モード DC×1 測定レンジ 0~200.0 mT 200.1~1500.0 mT 分解能 0.1 mT 1 mT 指示精度 ±(5%of rdg.+3digit) ±(5%of rdg.+10digit) 0~+40℃ 使用温度範囲 図 3.5 に表面磁束密度計測時の放電加工機上でのセットアップの様子を示す.テ スラメータのプローブを XYZ ステージに固定し,加工後の磁石表面中央一断面を 0.5mm 毎に手動で計測を行った. テスラメータプローブ 銅電極 ネオジム磁石 XYZ ステージ 図 3.5 機上計測セットアップ - 14 - 3.2.3 加工中の磁石内部温度 加工中の内部温度の計測には K 熱電対を使用した.ASTEC 製高速細穴放電加工機 (A22M/P2)を用いて磁石側面から直径 1mm の細穴を磁石中央(深さ 5mm)まで 加工した. 細穴加工時には,電極からの噴流強度を強くすることで加工粉の排出が 良好になる傾向が見られた.内部温度の計測には,自作の先端径約 0.5mm の K 型熱 電対(図 3.6 )を,底面の温度の計測には平面計測用の K 型熱電対(図 3.7 )を用 いた. 先端径約 0.5mm 図 3.6 内部温度計測用 K 熱電対 図 3.7 平面温度計測用 K 熱電対 - 15 - 放電加工は熱エネルギ加工であり,条件によって加工の速度や精度を制御できる. そのため,条件を変化させることで熱的影響にも変化が生じるのではないかと考えた. そこで,異なる放電加工条件を用いて突き当て加工を行った.実験に使用した条件を 表 3.3 に示す. 以上の条件を用いて指定深さ 1mm の除去加工を行った.図 3.8 に,実験概要を示 す.表 3.3 の No.1~No.3 の条件を用いて図中 A のように 1mm の加工を行った.被 加工物には直径 10mm 高さ 10mm(N-42:メーカ提示 530mT)のネオジム磁石を用 いた.磁石 N 極面から加工を行い,加工後にはカネテック製テスラメータ(TM-601) を用いて放電加工機上で表面磁束密度の計測を行った.加工は加工油中で行い,電極 はφ11mm の銅電極を電極極性+とした.1 秒間に2回のジャンプ UP 動作を付与し, 加工側面から 0.12MPa の噴流を与えた. 表 3.3 放電加工条件 放電電流 パルス幅 パルス休止時間 (A) (μs) (μs) D.F.(%) 入力エネルギ (W) No.1 5 32 32 50 50 No.2 10 64 64 50 100 No.3 20 128 128 50 200 いずれもφ10mmの円筒形状 N S 高さ10mm 加工前磁石 A N N S S 1mm E.D.M No.1~No.3 高さ9mm 高さ9mm 放電加工磁石 未加工磁石 図 3.8 実験概要図 - 16 - まず,表 3.3 中の No.1~No.3 の各条件において 1mm 放電加工後の磁石中央部の 磁束密度の変化を図 3.9 に示す. 高さ 10mm の磁石を 1mm 加工するため,加工後 の磁石高さは 9mm となる.そのため,図中には比較用として加工後の磁石と同様の 高さである未加工磁石の表面磁束密度も示した.No.1 の 5A 低速加工条件で加工する と 480mT 程度に低下する.この値は,9mm 高さの未加工品と比べほぼ同程度の値 を示した.一方,10A の条件で加工をすると,先ほどの値よりも若干低下し,400mT 程度の値を示した.そして,20A の高速加工条件にて加工を行うと,280mT 程度ま で低下した.この値は未加工品の値に比較して,約 40%の低下である.この結果から, 放電加工条件を変化させたことの影響で磁束密度が変化することが明らかとなった. 表面磁束密度 mT 500 400 300 200 100 0 未加工:9mm 5A:32μ s 10A:64μ s 20A:128μ s 図 3.9 各放電条件で加工後の磁石中央部の表面磁束密度 3.2.4 入熱方法の違いによる磁束密度変化 これまで,放電条件を変化させると加工後の磁束密度が変化した.放電加工で加工 すると必ず形状変化が伴う.本研究の先には,永久磁石の形状変化と磁気特性を同時 にあるいは個別に制御することを考えているため形状変化が生じないレーザ照射,ホ ットプレートによる表面加熱での熱入力における磁束密度変化を調べた.そして,各 種熱加工における深さ方向の磁束密度変化への影響を調べた. - 17 - ネオジウム磁石に対する入熱方法の違い,および深さ方向の磁束密度測定のための 除去加工の概略を図 3.10 に示す.3種類の入熱において,放電加工は液中加工であ り,また形状変化を伴う.それに対してレーザ照射およびホットプレート加熱では形 状変化が生じない.また放電加工は局所的な,レーザ照射では表面全体へのパルス的 な熱入力の繰り返しであるが,ホットプレート加熱は連続的な熱量の流入である点が 異なっている.実験に用いたネオジウム磁石(N42,推奨使用温度 80℃以下)は,直 径 10mm の円筒形であり,高さは 10mm(メーカ提示:530mT)と 9mm(メーカ 提示:520mT)の2種類である.放電加工による入熱(入熱①)は,形彫放電加工機 (ソディック製 AM3L)を用いて,銅電極極性(+),20A,128µs,D.F. 50%の条 件で,高さ 10mm の磁石の N 極側を 1mm 除去加工した.これより加工後の磁石高 さは 9mm となる.一方,レーザ照射による入熱(入熱②)は,パルス YAG レーザ 装置(テクノコート製 TL-150S)を用いて,9mm 高さの磁石の N 極側に対して,ス ポット径 11.5mm,繰り返し周波数 15Hz,2.2 J/Pulse の条件で 500Pulse(33.3 秒) の連続照射を行った.また,ホットプレート(アズワン製 CHP-250D)による入熱 (入熱③)は,ホットプレート表面を 400℃に設定して,9mm 高さの磁石の N 極側 を 15 秒押し付けた後,木製の断熱板の上で常温まで冷却した.レーザ照射条件およ びホットプレートによる加熱条件は,予備実験を繰り返し,放電加工後の表面磁束密 度とほぼ同等の値を示す条件を選定した.上記3種類の入熱条件で処理した磁石の, 深さ方向の磁束密度の変化を測定するために,入力エネルギの小さな放電加工条件で 1mm ずつ除去加工を繰り返し,その都度,放電加工機上で磁石の中央一断面の表面 磁束密度をテスラメータ(カネテック製 TM-601)にて 0.5mm 毎に計測した.除去 加工に用いた放電条件は,銅電極極性(+),5A,32µs,D.F. 50%の条件であり, この条件では,放電の熱入力による深さ方向の磁束密度低下はほとんど発生せずに, 磁石高さが減尐した影響で表面磁束密度が変化することが分かっている2).なお, レーザ照射およびホットプレートによる加熱においては,照射面背面および加熱面背 面の S 極側に K 熱電対を貼り付け,データロガー(キーエンス製 NR-1000)を用い て入熱開始から 0.5 秒毎に温度履歴を取得した.その結果,処理面裏面の温度は,レ ーザ照射で 100℃弱,ホットプレート加熱では 120℃程度の最高温度を示した.両者 とも,ほぼ入熱を終えた時点で最高温度を示した. - 18 - EDM: 20A 1mm φ10mm 熱入力① 10mm φ10mm 熱入力② 9mm 熱入力③ φ10mm 8mm φ10mm レーザ照射 9mm 9mm φ10mm EDM: 5A 1mm φ10mm ホットプレート加熱 φ10mm 9mm φ10mm 9mm 5mm 図 3.10 磁石への熱入力方法の概要図 3種類の入熱条件の違いにおける,深さ方向の磁束密度変化を図 3.11 ~ 図 3.13 にそれぞれ示す.図 3.11 は放電加工,図 3.12 はレーザ照射,図 3.13 はホットプ レート加熱である. 図 3.11 の放電加工・入熱①による 1mm 除去加工後(磁石高さ 9mm)の表面磁束 密度は,中央部が 300mT 以下にまで 200mT 程度減尐している.その後,入力エネ ルギの小さな放電条件で 1mm 加工(磁石高さ 8mm)すると,表面磁束密度は全体 にわたり 40mT 程度上昇した.この際,テスラメータのプローブは加工した磁石の最 表面を移動させて計測している.さらに,1mm の除去加工を繰り返すと,合計 3mm 除去(磁石高さ 6mm)するまで,磁束密度が上昇し続けた.その際の表面磁束密度 は中央部で 400mT 程度の値を示した.この後,1mm 除去(磁石高さ 5mm)を進め ると,表面磁束密度は低下し始めた. 一方,図 3.12 のレーザ照射・入熱②における深さ方向の磁束密度変化は,入力エ ネルギの小さな放電条件で 1mm 除去(磁石高さ 8mm)した後の表面磁束密度にお いて,若干の上昇もしくはほぼ同等の値を示すが,それ以後は 1mm の除去加工を繰 り返すと表面磁束密度も低下した. 最後に図 3.13 のホットプレート加熱・入熱③における深さ方向の磁束密度変化は, 入力エネルギの小さな放電条件で 1mm 除去加工を繰り返すと,それに伴い順次表面 磁束密度も低下した. - 19 - 以上の結果から,放電加工による入熱①の場合,除去加工に伴い表面磁束密度の値が 上昇する理由について次のように考察した.当初の放電加工により,深さ方向には放 電加工の入熱作用により温度上昇が発生する.そのため,温度上昇に伴う磁束密度低 下が発生し,その範囲では飽和磁化の値が減尐していることが想像される.このよう に仮定すると,当初の 9mm 高さにおける磁束密度の計測では,厚さ 3mm 程度磁力 が減尐している領域を介して計測しているため,見かけ上計測プローブを磁石表面か ら離して計測している状態と想定される.そのため磁束密度の値は小さく計測される. その後,1mm ずつ除去加工を繰り返すと,見かけ上プローブが離れていた距離が短 くなり,磁束密度の値は上昇する.それに対して,レーザ照射やホットプレート加熱 では,9mm 高さ時点での表面磁束密度の値は入熱①の放電加工とほぼ同じであるが, 両者とも入熱面背面の温度が 100℃程度以上に上昇していることから,磁石全体が推 奨使用温度である 80℃を超えてしまい,磁石全体的にわたり磁束密度の低下が生じ ていると考えられる.そのため,入力エネルギの小さな放電条件で 1mm 除去加工を 繰り返すにしたがい,順次磁束密度が低下したものと考えられる.これより永久磁石 への熱加工においては,レーザ照射,ホットプレート加熱では磁石全体が温度上昇し てしまい,全体的に磁束密度の低下が発生する.一方,液中放電加工では加工面近傍 の温度上昇のみに制限することができ,その深さ方向の影響度合いも放電条件により 制御可能であろうと考えられる. - 20 - EDM:5A, 1mm EDM:20A, 1mm EDM:5A, 2mm EDM:5A, 3mm EDM:5A, 4mm 加工前 500 磁束密度 mT 450 400 350 300 250 200 150 -5 -4 -3 -2 -1 0 1 2 3 4 5 計測位置 mm 図 3.11 放電加工による磁束密度変化 加工前 EDM:5A, 1mm EDM:5A, 3mm 500 レーザ照射 EDM:5A, 2mm EDM:5A, 4mm 磁束密度 mT 450 400 350 300 250 200 150 -5 -4 -3 -2 -1 0 1 計測位置 mm 2 3 図 3.12 レーザ照射入熱による磁束密度変化 - 21 - 4 5 500 加工前 ホットプレート入熱 EDM:5A, 1mm EDM:5A, 3mm EDM:5A, 2mm EDM:5A, 4mm 磁束密度 mT 450 400 350 300 250 200 150 -5 -4 -3 -2 -1 0 計測位置 1 mm 2 3 4 5 図 3.13 ホットプレート入熱による磁束密度変化 図 3.14 に各種熱入力の深さ方向への磁束密度変化を調べた後の残り高さ 5mm の 磁石加工面を示す.全ての条件において No.1 の条件を用いて加工を行ったため,加 工面はほぼ同様になると考えられる.しかし,レーザ照射とホットプレート加熱のよ うな磁石全体の温度が上昇した際には加工面が粗くなる傾向が見られた. 20A放電加工 レーザ照射 ホットプレート加熱 図 3.14 除去加工後(5mm)の N 極側表面 - 22 - 3.2.5 放電加工面より内部の磁束密度変化 前節より,放電加工条件の違いにより磁束密度が変化することがわかった.また, 20A の高速加工条件では加工後の磁束密度の低下が大きい.この磁束密度低下が磁石 全体に及んでいるのか,あるいは加工面より内部でその状態が変化しているのかを実 験的に調べた.放電条件に起因して磁束密度が変化していることから,放電加工によ る熱的影作用が影響していると推察される.本節では,加工後の磁束密度低下の小さ かった低速加工条件である No.1 の電流値 5A,パルス幅 32μs,D.F.50%と,磁束密 度低下の大きかった放電加工の高速加工条件である No.2 の電流値 20A,パルス幅 128 μs,D.F.50%の2条件における影響領域を調べた. N A N B S 1mm N いずれもφ10mmの円筒形状 3mm E.D.M N S S S 高さ10mm 加工前磁石 E.D.M 高さ9mm 放電加工磁石 高さ3mm 影響層 高さ9mm 未加工磁石 図 3.15 放電加工前後における磁石形状の変化 加工は前節と同様に,図 3.15 中矢印 A のように磁石高さを 1mm 除去した.初期 の 1mm をそれぞれの条件で加工後,磁石を取り外すことなく,機上にて磁石中央の 表面磁束密度をテスラメータにより計測した.電極と工作物の位置関係は保たれたま まであるため,その後,熱的な影響がほとんど無い電流値 5A,パルス幅 32µs の条件 No.1 で高さ 1mm ずつ除去加工を行い,その都度,磁束密度の計測を繰り返した. 図 3.16 に磁石中央部の磁束密度の値を,磁石高さが低くなる向きに加工プロセス の順にまとめた.図には,各高さの未加工品磁石の実測値をあわせて示している(○ 印).ただし,未加工品磁石の実測値は±20mT 程度のばらつきがある. - 23 - 選定した電流値 5A の条件で放電加工を行えば,同じ高さの未加工品と同じ磁束密 度を得る.すなわち,この条件では,磁石形状で決まる磁束密度のまま形状加工でき ることを示している.一方,加工の初期 1mm を電流値 20A の高速加工の条件で加工 した場合,高さ 9mm で 280mT 程度にまで減尐するが(図 3.16 中 D 点),その後 電流値 5A の条件で除去加工を続けると,高さ 6mm まで磁束密度の値は上昇し続け た.これより,磁石高さ 9mm から 6mm におよぶ加工面より内部 3mm の層には, 高速放電加工の条件に起因する影響層が形成されていると推察される. 初期1mm : 5A 未加工磁石 初期1mm : 20A B 500 A C 400 20A 磁束密度 mT 5A 5A D 300 N 200 N N N N S S S S 9 8 7 6 N S 10 磁石高さ mm 図 3.16 磁石高さの違いによる磁束密度変化 - 24 - N S 5 以下に,No.1 で加工した後に深さ方向の影響を見たものの磁石断面の磁束密度変 化を示す.図 3.17 より,No.1 の条件で加工を行うと磁束密度は高さに応じた磁束 密度変化をする.一方,図 3.18 を見ると,初期 1mm 加工によって磁束密度は大き く低下する.特に磁石中央部の磁束密度低下が大きい.その後除去を進めていくと, 徐々に磁束密度は上昇していき,最終的には 6mm 高さの磁石と同様の磁束密度の値 を示した. 加工前 No.1- 5A / 2mm No.1- 5A / 4mm No.1- 5A / 1mm No.1- 5A / 3mm 500 450 磁束密度 mT 400 350 300 250 200 150 -5 -4 -3 -2 -1 0 1 2 3 4 5 測定位置 mm 図 3.17 No.1 の加工による深さ方向の磁束密度変化 加工前 No.1- 5A / 1mm No.1- 5A / 3mm No.2- 20A / 1mm No.1- 5A / 2mm 500 450 磁束密度 mT 400 350 300 250 200 150 -5 -4 -3 -2 -1 0 1 2 3 4 5 測定位置 mm 図 3.18 No.2 の加工による深さ方向の磁束密度変化 - 25 - 3.2.6 加工面より内部の磁束密度低減層 上記の,加工面より内部 3mm の影響層について考察するために,この影響層のみ を取り出した.初期 1mm の除去加工を電流値 20A の条件で加工した後(図 3.15 中 矢印 A),磁石裏側(S 極)から電流値 5A の条件で高さ 6mm の加工を行った(図 3.15 中矢印 B).取り出した 3mm 厚さの磁石中央一断面の磁束密度を図 3.19 に示す. 図中には,N 極側(+)と S 極側(-)の両面の値を,厚さ 3mm の未加工品磁石の 実測値とともに示している.図中斜線部より,取り出した厚さ 3mm の部位は,磁束 密度の低下が生じており,特に中央部の磁束密度低下が大きい事がわかる.別途,取 り出した厚さ 3mm の層の下部に,高さ 6mm の未加工品磁石を組合せ高さ 9mm と し,磁束密度の計測を行った.その結果,今回の電流値 20A の条件で高さ 10mm か ら 9mm まで 1mm 加工した後に計測した磁束密度(図 3.20 中左)と組合せた磁石 の磁束密度(図 3.20 中右)はほぼ一致した.これより,今回設定した電流値 20A の条件でネオジム磁石を放電加工すると,放電加工に起因する磁束密度低下の層は約 3mm であり,それより下層では磁束密度は低下していないと考えられる. 影響層 3mm:N極 3mm 未加工:N極 N極 影響層 3mm:S極 3mm 未加工:S極 300 表面磁束密度 mT 200 磁束密度低下 100 0 -100 -200 磁束密度低下 -300 S極 -5 -4 -3 -2 -1 0 1 2 3 測定位置 図 3.19 厚さ 3mm の放電加工影響層の磁束密度 - 26 - 4 5 20A初期1mm後:N極 20A初期1mm後:S極 影響層3mm+未加工磁石 6mm:N極 影響層3mm+未加工磁石 6mm:S極 500 500 N極 400 300 200 200 100 0 -100 100 0 -100 -200 -200 -300 -300 -400 S極 400 300 磁束密度 mT 磁束密度 mT N極 -400 S極 -500 -5 -4 -3 -2 -1 0 1 2 3 4 -500 5 測定位置 mm -5 -4 -3 -2 -1 0 1 2 3 4 5 測定位置 mm 図 3.20 高さ 9mm の磁石の磁束密度 そこで,初期 1mm の除去加工中の磁石内部温度を測定して比較した.温度測定に は,先端径約 0.5mm の K 熱電対を用いた.図 3.21 に計測位置の概略を示す.No.1 の条件では,磁石の上端から 2mm 下の側面に直径 1mm,深さ 5mm の穴を細穴放電 加工機で加工し,熱電対を埋め込んだ.穴内部を放熱用シリコーン(熱伝導率 0.84W/(m・K))で充填して熱電対の先端が穴の先端に配置されるように押し込んだ. No.2 の条件では,深さ方向の温度変化を調べるために磁石上端から 2,3,4,5mm の各位置で測定した.ただし,横穴加工を多数施した磁石では熱の伝導性に影響が生 じることを懸念して,磁石1個に対し各高さ1個の横穴を空け,4回の実験に分けて 深さ方向の温度変化を取得した.ここで,磁石は 1mm の除去加工が行われるため, 加工終了直前では,加工面から設置した熱電対までの距離はそれぞれ 1mm 接近して いる.熱電対からの出力はデータロガー(キーエンス製 NR-1000)を用いてサンプ リング間隔 0.1s にて加工終了まで取得した. 図 3.22 と図 3.23 に各実験における加工開始から終了までの,磁石内部温度の履 歴を示す.加工時間は,No.1 で約 50 分(図 3.22 (a)~(d)),No.2 で約 5 分(図 3.23 (a)~(d))であった.図 3.22 (a)に示すように,No.1 の条件では上端より 2mm の位 置(加工終了直前 1mm)における磁石内部温度は 80℃程度を示していた.一方,同 - 27 - 一測定部位で放電条件を No.2 とすると,図 3.23 (a)に示すように加工初期の 130℃ 程度から加工終了直前では 180℃程度まで上昇した. このように温度上昇する理由の1つは,加工面と熱電対の距離が 2mm から 1mm へ と縮まるためである.同様の No.2 の加工において,上面から 3mm(加工終了直前 2mm)の位置での温度は 130 ℃(図 3.23 (b)),4mm(加工終了直前 3mm)の位 置では 110℃(図 3.23 (c)),5mm(加工終了直前 4mm)の位置では 70℃(図 3.23 (d))までそれぞれ上昇していた. 図 3.24 に示したように,No.2 の条件で初期 1mm の加工を行うと 3mm 程度の磁 束密度の低下層が確認されている.その加工面より 3mm 下の位置での温度は今回の 測定より 110℃程度であることがわかり(図 3.23 (c)),磁石の推奨使用温度 80℃を 超えている.ところで,図 3.22 (a)に示したように No.1 の条件では加工面より下 1mm の部位において 80℃程度を示しており,それより上部ではさらに温度が高くなって いると推察される.それにもかかわらず,No.1 の条件ではそれぞれの高さの市販品 磁石と同等の磁束密度を示し,放電加工に起因する表面磁束密度の低下は尐ない.こ れは温度上昇による磁束密度の低下領域あるいはその低減量が小さいためではない かと考えられる. 熱電対用穴 2mm ネオジウム磁石 (a) 3mm (b) 4mm (c) 図 3.21 内部温度計測位置 - 28 - 5mm (d) 0 10 20 30 40 50 60 EDM No.1: 5A D.F. 50% 2mm(加工終了時1mm) 200 (a) 100 0 EDM No.1: 5A D.F. 50% 3mm(加工終了時2mm) 200 (b) 温度 ℃ 100 0 EDM No.1: 5A D.F. 50% 4mm(加工終了時3mm) 200 (c) 100 0 EDM No.1: 5A D.F. 50% 5mm(加工終了時3mm) 200 (d) 100 0 0 10 20 30 40 50 60 時間 min 図 3.22 低速加工条件 No.1 で加工中の内部温度 0 10 20 30 40 50 60 EDM No.2:20A D.F. 50% 2mm(加工終了時1mm) 200 (a) 100 0 EDM No.2:20A D.F. 50% 3mm(加工終了時2mm) 200 (b) 温度 ℃ 100 0 EDM No.2:20A D.F. 50% 4mm(加工終了時3mm) 200 (c) 100 0 EDM No.2:20A D.F. 50% 5mm(加工終了時4mm) 200 (d) 100 0 0 10 20 30 40 50 時間 min 図 3.23 高速加工条件 No.2 で加工中の内部温度 - 29 - 60 3.3 D.F.の違いによる磁石内部温度と磁束密度変化 これまでの実験では,放電条件の設定において D.F.を 50%と統一し,電流値を変 化させて入力エネルギの違いによる影響を検討してきた.その結果,入力エネルギを 大きくすると加工後の磁束密度の低下も増大した.一方,材料内部の平均温度は平均 入力エネルギに依存し,実測結果もその傾向を示している.これより,磁石内部温度 と磁束密度の低下は密接な関連があるといえる. 本節では上記関係の考察を深めるために,放電条件で D.F.により入力エネルギを変 化させた加工を行い,磁束密度の変化と磁石内部温度の計測を行った.用いた放電条 件は,表 3.4 中の No.3 と No.4 の条件である. 表 3.4 放電加工条件 放電電流 パルス幅 パルス休止時間 (A) (μs) (μs) D.F.(%) 入力エネルギ (W) No.1 5 32 32 50 50 No.2 20 128 128 50 200 No.3 5 32 4 90 90 No.4 20 128 1152 10 40 No.3 は電流値 5A,パルス幅 32µs と No.1 の条件と1パルス当たりの入熱量は同じで あるが,休止時間を 4µs と短くすることで D.F.を 90%と高めた(入力エネルギ 90W). No.4 の条件は,同様に1パルス当たりの入熱量を No.2 と同じとし,休止時間を 1152µs と長くすることで D.F.を 10%と低く設定した(入力エネルギ 40W).これ らの条件を使用して初期 1mm の除去加工を行い,その後磁石内部方向の磁束密度変 化を調べた.結果は図 3.24 にあわせて示している.また, No.3 と No.4 の初期 1mm 加工における磁石内部温度の計測を行った.測定位置は,図 3.21 (a)の位置であり, 測定条件は前節と同様である.図 3.25 と図 3.26 に両者の温度履歴を示す.No.3 の条件で加工を行えば(図 3.24 ③),1 パルス当たりの入熱量は No.1 と同じであ るにもかかわらず,初期 1mm の加工後には磁束密度の低下が発生した.その後,深 - 30 - さ方向に No.1 の条件で 1mm ずつの除去加工を繰り返したところ,磁束密度の低下 領域は 1mm 程度であることがわかった.また (a)より,磁石上面より 2mm(加工終 了直前 1mm)における磁石内部温度は 110℃程度を示し,No.1 の条件における同一 位置温度(図 3.22(a))と比較して 30℃程度温度が高く,温度上昇の影響で磁束密度 の低下が発生したと判断できる.また,入力エネルギが大きいと内部の平均温度が高 いことにも合致する.一方,No.4 の条件では,20A,128µs と1パルス当たりの入熱 量は No.2 と同様であるが,D.F.を小さくしたために No.2 の結果に比較して磁束密 度の低下は小さくなった(図 3.24 ④).その後,深さ方向に No.1 の条件で除去加 工を続けたところ,磁束密度の低下領域は約 1mm 程度であった.一方,図 3.26 (a) より,磁石上面より 2mm(加工終了直前 1mm)における磁石内部温度は 60℃程度 の温度を示す.図 3.25 (a)と比較して入力エネルギが小さいと内部の平均温度が低く なる傾向にあることは確かめられるが,No.1 の条件で加工した図 3.22 (a)の同一位 置温度 80℃よりも低い温度を示す.それにもかかわらず,磁束密度の低下が発生し ているのは,加工面に近い領域で,磁束密度の低下が大きい層が生成されているので はないかと推察される. No.1:5A D.F.50% No.3:5A D.F.90% No.2:20A D.F.50% No.4:20A D.F.10% 500 No.1 ① 磁束密度 mT No.1 ④ 400 ③ 300 No.1 ② 1mm 200 100 10 N N N N S S S S N S 9 8 7 6 磁石高さ mm 図 3.24 深さ方向への磁束密度変化 - 31 - N S 5 EDM No.1: 5A D.F. 50% 2mm EDM No.3: 5A D.F. 90% 2mm 200 (a) 100 0 EDM No.1: 5A D.F. 50% 3mm EDM No.3: 5A D.F. 90% 3mm 200 (b) 温度 ℃ 100 0 EDM No.1: 5A D.F. 50% 4mm EDM No.3: 5A D.F. 90% 4mm 200 (c) 100 0 EDM No.1: 5A D.F. 50% 5mm EDM No.3: 5A D.F. 90% 5mm 200 (d) 100 0 0 10 20 30 時間 min 40 50 60 図 3.25 No.1 と No.3 の初期 1mm 加工時における内部温度 EDM No.2:20A D.F. 50% 2mm EDM No.4:20A D.F. 10% 2mm 200 (a) 100 0 EDM No.2:20A D.F. 50% 3mm EDM No.4:20A D.F. 10% 3mm 200 (b) 温度 ℃ 100 0 EDM No.2:20A D.F. 50% 4mm EDM No.4:20A D.F. 10% 4mm 200 (c) 100 0 EDM No.2:20A D.F. 50% 5mm EDM No.4:20A D.F. 10% 5mm 200 (d) 100 0 0 10 20 30 時間 min 40 50 図 3.26 No.2 と No.4 の初期 1mm 加工時における内部温度 - 32 - 60 さらに実験の考察を行うため,No.2 の高速加工条件である電流値 20A,パルス幅 128μs の条件において,パルス休止時間により D.F.を変化させた実験を行った.加 工後の磁束密度変化も同様に計測した.図 3.27 には,磁束密度の変化を,図 3.28 に は,初期 1mm 加工時の 2mm(加工終了直前 1mm)位置における内部温度の履歴を 示す.この2つの結果から,D.F.を低くすると磁束密度の低下が小さくなり,それに 対して内部温度も低い値を示す.しかし,D.F.が 20%未満になると内部温度と磁束密 度変化における関係性に乱れが生じた.これは,加工される磁石の磁束密度のばらつ きや,加工面付近の温度状態のばらつきが関連していると考えられる. D.F.50% D.F.20% D.F.40% D.F.10% D.F.30% D.F.5% 550 500 磁束密度 mT 450 400 350 300 250 10 9 8 磁石高さ mm 図 3.27 D.F.の変化と磁束密度の関係性 - 33 - 7 EDM : 20A D.F. 50% 2mm 200 100 0 EDM :20A D.F. 40% 2mm 200 100 0 EDM :20A D.F. 30% 2mm 温度 ℃ 200 100 0 EDM :20A D.F. 20% 2mm 200 100 0 EDM :20A D.F. 10% 2mm 200 100 0 EDM :20A D.F. 5% 2mm 200 100 0 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 110 120 時間 min 図 3.28 D.F.と内部温度の変化 3.4 磁場解析による磁束密度低減領域の一考察 これまでの実験で,放電条件により加工後の表面磁束密度が異なることを示した. そして,高速加工条件においては,加工面から内部に磁束密度が低減している領域が 存在することを確認した.しかし,この領域の内部の磁束密度分布がどのようになっ ているのかは,本研究室の計測機器では計測することができない.そのため, COMSOL Multiphysics を用いた定常磁場解析を行い,磁束密度低減領域内にてどの ような磁束密度変化が存在しているのかを調査した.調査方法を以下に示す.まず, No.2 の高速加工条件にて加工した磁束密度とその深さ方向の磁束密度変化の実測値 が存在する.その実測値に対して領域を作成して磁束保存の条件を与えていき,実測 値に合わせるように逆シミュレーションを行った.解析に用いたモデル図を図 3.29 に示す.解析する磁石は直径 10mm,高さ 10mm の円筒形であるため,二次元軸対 象モデルをもちいて回転させる方式を用いた.そして,熱影響が確認された 3mm の 層を 12 個の領域に分割し,それぞれの領域に残留磁束密度を設定した磁石領域の外 周部は十分な大きさの空気領域を作成し,最外周部の縦一辺にゼロ磁気モーメントの 条件を設定した. - 34 - 5mm 3mm 熱影響がない層 10mm z=0 r=0 図 3.29 熱影響層を含んだ領域 実際に設定した各領域における残留磁束密度を図 3.30 に示す.また,熱的影響の ほとんどなかった下から 5mm の領域における残留磁束密度は 1.23T と設定した.こ の条件において解析を行った結果を図 3.31 に示す.実測値と解析の解はほぼ同様の 変化を示した.このことから,熱影響層において,加工面付近は内部温度の上昇に伴 う磁束密度低下が大きく,深さが深くなるにつれて,磁束密度の低減量が尐なくなっ ていくことが考えられる. z 0.2 0.3 0.5 0.6 0.6 0.7 1 1.1 0.7 0.8 1.1 1.23 r 図 3.30 熱影響層の分割領域毎の残留磁束密度設定値 - 35 - EDM:20A, 1mm EDM:5A, 2mm EDM:5A, 4mm 加工前 EDM:5A, 1mm EDM:5A, 3mm 500 500 450 磁束密度 mT 磁束密度 mT 450 EDM:20A, 1mm EDM:5A, 2mm EDM:5A, 4mm 加工前 EDM:5A, 1mm EDM:5A, 3mm 400 350 300 250 200 400 350 300 250 200 150 150 -5 -4 -3 -2 -1 測定位置 0 1 2 3 4 5 -5 mm -4 -3 -2 -1 測定位置 0 1 2 3 4 5 mm 図 3.31 実験の実測値(左)と解析解(右) 次に,D.F.を変化させた際の影響層についても重ねて解析した.No.3 の内部温度 は加工面から 2mm 下で約 90℃程であり,No.4 の同計測位置における温度は約 60℃ 程であった.初期 1mm 加工後には熱影響層はほぼ除去されてしまい,その後は磁石 高さに応じた変化をする.この結果から,No.3 と No.4 の条件においては 1mm 未満 の熱影響層が存在し,さらに No.4 の加工では加工面付近において磁束密度の低下が 大きい層が形成されている事が考えられる.こちらも実測値に合わせるように熱影響 層における残留磁束密度を設定した.初期 1mm 加工後の加工面下 1mm の残留磁束 密度を No.3 では 0T,No.4 では 0.5T とした. 残留磁束密度 No.3=0T No.4=0.5T 加工前10mm EDM:No.3 & No.4 1mm EDM:No.1 8mm 5mm 図 3.32 No.3 と No.4 の熱影響層解析 - 36 - その際の結果を,図 3.33 に示す.この際も影響層の減磁の傾向は一致した.しかし, No.3 と No.4 ともに,影響深さは 1mm だったものの,No.4 における加工面下 1mm の内部温度は 60℃程度と No.1 の 80℃よりも低かった.このことから予想されるこ とは,1mm の中でも加工面付近により,磁束密度の低下が大きい層が存在するので はないかという事である. 5A D.F.90% 未加工 20A D.F.10% 表面磁束密度 mT 550 500 450 400 350 300 10 9 8 7 磁石厚さ mm 6 5 図 3.33 No.3 と No,4 における実測値(左)と解析解(右) 加工面付近から 0.1mm 毎に 0T の磁束密度の層を形成していくと,磁束密度 450mT 程になるのは,影響層深さが約 0.5mm の時であった.このことから,内部温度が低 く計測されたのは,加工面から 0.5mm 程の領域において高温になっており,その下 において温度上昇が発生しにくかったのではないかと考える. 影響層厚みと磁束密度 500 熱影響のない層 残留磁束密度1.33T 表面磁束密度 mT 450 400 350 300 0.2 0.3 0.4 影響層厚さmm 0.5 図 3.34 No.4 における加工面付近の磁束密度低下層の予想 - 37 - 0.6 3.5 外部磁場付与加工 これまで,放電加工の条件の違いによる加工中の内部温度と加工後の表面磁束密度 変化について調べてきた.そして,通常磁界中の加工では,加工後の表面磁束密度は 放電条件によって決まる磁石内部温度に起因する磁束密度の低減領域とその大きさ に依存することを明らかにした.この現象は前章で記述した磁石の熱減磁による影響 であることが言える.また,永久磁石の磁気特性には温度による磁束密度変化の他に, 外部磁場の影響も大きい事が知られている.本節では,加工時に外部磁場を付与した 際の磁束密度変化について調べた.また,前回同様加工中の内部温度計測も行った. まず初めに,加工磁石下部から反発する方向の磁場(以下負の外部磁場)を付与して 加工を行った.放電条件は表 3.3 中の No.1 と No.2 であり,加工時には,図 3.35 に 示すアルミ製のジグを用いて固定した.外部磁場の付与にはネオジム磁石を組み合わ せて高さを調節したものを用いた.その磁石の表面磁束密度は 560mT 程度であった. その磁石の上に 1mm 程のプラスチック製のスペーサーを介して固定を行ったため, 加工時に実際に付与される外部磁場は 460mT 程度であった.各条件で 1mm 加工後 には外部磁場を取り除いて熱的影響の尐ない No.1 の条件を用いて深さ方向の影響も 調べた.図 3.37 に深さ方向の磁束密度変化の結果を示す.No.1 の低速加工条件に おいて外部磁場を付与しても,外部磁場無しの条件と同等の変化を示した.一方, No.2 の高速加工条件に外部磁場を付与すると,外部磁場無しの場合に比べて磁束密 度の低下が大きくなった.この際の磁石内部温度の計測を行った.内部温度の計測位 置は,加工面から 2mm,3mm,4mm 下である.No.1 の低速加工条件における内部 温度を図 3.38 に,No.2 の高速加工条件における内部温度を図 3.39 に示す.No.1 の条件では,磁束密度にほとんど変化が見られなかったように,内部温度にも大きな 差は見られなかった.一方,No.2 の加工条件では,磁束密度は大きく低下したが, その際の内部温度を見ると加工面から 2mm 下の測定位置において 200℃程度と外部 磁場の有無において大きな差は見られなかった.このことから,加工後の磁束密度低 下は内部温度が高い加工条件において生じたということが明らかとなった.そのため, 外部磁場を付与する際は内部温度のみでは決まらず,外部磁場の影響も考慮する必要 があることがわかった. - 38 - 銅電極 加工される 磁石 N S 外部磁場付与用 磁石 N S 図 3.35 外部磁場付与の概要図 銅電極 磁石 アルミ製ジグ 図 3.36 外部磁場付与加工の様子 - 39 - EDM No.1: 5A D.F. 50% 5A D.F.50% 負の外部磁場 EDM No.2:20A D.F. 50% 20A D.F.50% 負の外部磁場 500 No.1 磁束密度 mT 400 300 No.1 1mm 200 N N S 100 10 N N S S S N S 9 8 7 6 N S 5 磁石高さ mm 図 3.37 外部磁場の有無における深さ方向の磁束密度変化 5A D.F.50% 2mm 逆磁場 5A D.F.50% 2mm 200 100 温度 ℃ 0 5A D.F.50% 3mm 逆磁場 5A D.F.50% 3mm 200 100 0 5A D.F.50% 4mm 逆磁場 5A D.F.50% 4mm 200 100 0 0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 50 55 時間 min 図 3.38 外部磁場の有無における磁石内部温度(No.1) - 40 - 60 200 100 20A D.F.50% 2mm 逆磁場 20A D.F.50% 2mm 温度 ℃ 0 20A D.F.50% 3mm 逆磁場 20A D.F.50% 3mm 200 100 0 20A D.F.50% 4mm 逆磁場 20A D.F.50% 4mm 200 100 0 0 50 100 150 200 250 300 350 時間 sec 図 3.39 外部磁場の有無における磁石内部温度(No.2) BH 曲線によると,外部磁場の付与方法によって磁石の磁束密度が変化することが 考えられる.よって,通常の加工と外部磁場の雰囲気と組み合わせて計6通りの加工 条件で初期 1mm の加工を行った.加工磁石は,全ての条件において前節と同様のア ルミ製のジグを用いて固定した.加工磁石の下部から外部磁場を付与する際は,加工 用磁石の下に 1mm 程度のスペーサーを介して外部磁場付与用の磁石を固定した.外 部磁場を付与しない場合は,銅丸棒とスペーサーを用いて固定高さを同一とした.一 方,電極側から外部磁場を付与する場合は,図 3.40 に示すようなφ25mm の銅電極 の内部に磁石を設置した.加工面側は磁石対磁石の加工では電極消耗が激しくなって しまったため,厚さ 1mm の銅板を介して固定した.内蔵磁石はφ12×20mm のネオ ジム磁石(N-42,メーカ提示:580mT)を用いた.1mm の銅板を介した加工面の磁 束密度は 450mT 程度であった.加工後の表面磁束密度は,磁石を取り外すことなく 加工機上にて計測している.図 3.43 に,各条件における磁石深さ方向の磁束密度の 変化を示す.また,図 3.44 には,各条件で初期 1mm 加工した際の,磁石高さ 8mm (加工終了直前に加工面より 1mm 下)中央部の内部温度の履歴を示す.各条件の違 いは初期 1mm の加工のみであり,その後は全て外部磁場無しの No.1 の条件で 1mm ずつ加工を行っている.以下に各条件の結果を示す.まず初めに,外部磁場を付与せ - 41 - ず低速加工条件の No.1 の条件を用いて,1mm ずつ除去を続けても(図 3.43 (a) □),それぞれの磁石高さの市販品磁石と同等の値を示し,放電加工に起因する磁束 密度低下はほぼ生じない.また図 3.44 より,加工面から 1mm 下では約 80℃程度で あることがわかる.次に,高速加工条件である No.2 の条件を用いて初期 1mm の加 工を行った(図 3.43 (b)○).加工後には,200mT 以上の磁束密度の低下を示す. その後,No.1 の条件で除去を続けると磁石高さ 6mm まで磁束密度は上昇する.磁石 の内部温度は約 200℃弱程度である.加工する磁石の下部から負の外部磁場を付与し て No.2 の条件で初期 1mm の加工後を行った(図 3.43(c)△).外部磁場無しの 場合(図 3.43(b)○)に比べて磁束密度の低下が大きい.さらに,磁石深さ方向の 磁束密度の上昇も小さい.ただし,磁石内部温度は約 200℃弱程度とほぼ同じ値を示 す.次に,上記(図 3.43(c)△)の外部磁場用の磁石の向きを反対に設置して順方 向の外部磁場を付与すると(図 3.43(d)▲),初期 1mm 加工後の磁束密度の低減 は 100mT 程度であり,外部磁場無しの No.2 の条件(図 3.43(b)○)に比較して も,その低減量は半分以下である.にもかかわらず,磁石内部温度は 200℃程度であ り,(b)(c)の内部温度とほぼ同じであった.これまでの実験では,加工磁石下部 からの外部磁場の付与を行ってきた.すると,加工中の内部温度が高温になる高速加 工条件においては外部磁場の影響が大きく表れることが明らかとなった.そこで,加 工時に高温になる加工面に対し,電極側から負の外部磁場を付与して,No.2 の条件 で初期 1mm 加工を行った(図 3.43(e)◇).すると,500mT 程あった磁束 密度 は 250mT 程度まで低減する.この値は,磁石下部から負の外部磁場を作用させた結 果(図 3.43(c)△)とほぼ同等である.この時の磁石内部温度はやはり 200℃弱程 度であった.上記とは逆向きに,電極側から順方向の外部磁場を付与した加工(図 3.43(f)◆)では,初期 1mm 加工後でも,外部磁場無しの No.1 の条件(図 3.43 (a)□)とほぼ同等であり,ほぼ磁石高さで決まる磁束密度の値を示した.しかし ながら,磁石の内部温度は外部磁場無しの No.1 の 80℃とは 異なり,一連の No.2 の条件と同様に 200℃弱程度を示した.上記の通り,各種外部磁場を付与しながら高 速放電加工の条件(No.2 条件)で加工を行うと,磁石の内部温度は 200℃程度まで 上昇するにも関わらず,磁束密度の低下がほぼ発生しない場合や,外部磁場無しの場 合よりもさらに磁束密度を低下させる場合など様々な結果を示すことがわかった. - 42 - S 外部磁場付与用 磁石 銅電極 N 加工される 磁石 N S アルミ製ジグ 図 3.40 外部磁場付与電極の概要 電極内部 電極外観 外部磁場付与用 ネオジム磁石(520mT) 図 3.41 外部磁場付与用電極の構造 外部磁場付与用電極 磁石 アルミ製ジグ 図 3.42 外部磁場付与加工時の概要 - 43 - (a) EDM No.1-5A D.F.50% (c) No.2 負の外部磁場 (e) No.2:負の外部磁場電極 (b) EDM No.2-20A D.F.50% (d) No.2 正の外部磁場 (f) No.2:正の外部磁場電極 500 磁束密度 mT 450 400 350 300 250 200 10 9 8 7 6 5 磁石高さ mm 図 3.43 深さ方向の磁束密度変化 EDM No.1:5A D.F.50% 200 (a) 100 0 EDM No.2:20A D.F.50% 200 100 (b) 0 温度 ℃ 200 No.2:負の外部磁場 (c) 100 0 No.2:正の外部磁場 200 (d) 100 0 200 No.2:負の外部磁場電極 (e) 100 0 No.2:正の外部磁場電極 200 (f) 100 0 0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 時間 min 図 3.44 加工中の磁石内部温度 - 44 - 50 55 60 図 3.45 に初期 1mm の加工後の磁束密度のみに着目する.これまでの結果から, 加工時の内部温度は放電条件によって決まることが明らかとなった.しかし,外部磁 場を付与することで,磁束密度の低減量を尐なくしたり,逆に低減量を多くしたりと, 様々な結果が得られた. 500 磁束密度 mT 400 300 200 100 0 (a) (b) (c) (d) (e) (f) 図 3.45 6 種の実験の初期 1mm 加工後の表面磁束密度 加工時の放電波形を図 3.46 に示す.放電波形を見ても外部磁場の有無による変化 は観測されなかった.このことから,磁場の付与における放電波形への影響はほとん どないということがわかった. (b)通常加工:20A 128μs D.F.50% (a)通常加工:5A 32μs D.F.50% (c)磁石下部から負 (d)磁石下部から正 (e)電極側から負 (f)電極側から正 図 3.46 通常加工と各種外部磁場付与加工における放電波形 - 45 - 3.6 第 3 章のまとめ ネオジム磁石の放電加工における表面磁束密度変化と内部温度の関係,異なる入熱 方法による磁束密度変化と深さ方向への影響,放電加工条件に起因する熱的影響層, 外部磁場付与中の突き当て加工による磁束密度への影響を調べた結果,以下の事が明 らかとなった. 1) 磁石内部の平均温度は,放電条件で決まる平均入力エネルギに依存する. 2) 放電加工後の表面磁束密度の低下は,磁石内部の温度上昇に起因する磁束密度の 低下領域および低減量の大きさの相互的影響を受ける.そのため,単純な入力エ ネルギの大小により表面磁束密度の変化が決まるわけではない. 3) 放電条件によっては,磁石形状で決まる磁束密度に影響を与えることなく,形状 加工のみを与えることが可能である. 4) 入熱後の表面磁束密度がほぼ同じであっても,入熱方法の違いにより深さ方向の 磁束密度変化は異なる. 5) 入力エネルギの大きな放電加工による入熱では,深さ方向に磁束密度が低下して いる領域が生じる.今回の直径 10mm,高さ 10mm のネオジム磁石に対して, No.2 放電条件で加工した際には約 3mm 程度であった. 6) レーザ照射,ホットプレート加熱では磁石全体が温度上昇し,全体的に磁束密度 の低下が発生していると考えられる. 7) 高速加工の放電条件では,加工面の内部に数 mm に及ぶ放電条件に起因する影響 層が形成され,その影響により磁束密度は小さく計測される. 8) 同一放電条件において内部温度が等しくても外部磁場の付与により加工後の磁束 密度は変化する.これは,内部温度と外部磁場の相互的作用によるものと考えら れる. 9) 磁石に対して順方向の磁場を付与して突き当て加工を行うと,温度上昇による磁 束密度の低下を尐なく加工が可能である.これは,磁石の動作点が関係している と考えられる. - 46 - 第4章 穴加工による磁気パターニング 4.1 緒言 前章まで,放電加工およびレーザ照射を用いた磁力変化と内部温度について調べて きた.円柱磁石に対して放電加工による突き当て加工または上面全域にレーザ照射を 行った際の磁力変化に着目してきた. 本章では,角型磁石に対して底付穴加工を施した際の磁力変化について調べた.こ れまで,放電加工による穴加工やスポットを絞ったレーザ照射を用いた磁気パターニ ングの研究がなされてきた[10].磁石は形状の変化に伴い磁力も変化するため,形状 と加工条件による磁気パターニングが可能であることが考えられてきた.また,放電 加工では形状が変化しつつ加工が進行するため,加工される磁石自体が外部に発する 磁場が加工後の磁束密度変化に影響していることが明らかとなっている.そこで,強 磁性体であるパーマロイと鋼材の板材を用いて磁石自身が外部に発する磁場を変化 させた際の磁気パターニングへの影響について検討を行った. 4.2 放電加工を用いた磁気パターニング これまで,行われてきた磁気パターニングの結果について示す.加工対象は角 10mm 高さ 5mm のネオジム磁石(初期磁束密度 380mT)である.この磁石に対し て直径 3mm の銅電極を用いて底付穴加工を行うと加工深さによって加工面対向面の 磁極が変化(転極)することがわかっている.加工時には熱的影響の尐ない放電電流 5A,パルス幅 32μs,D.F.50%の低速加工条件を使用している.加工は,磁石 N 極 面中央に加工を行い,加工後には穴対向面である S 極側の表面磁束密度の計測を行っ た.図 4.1 に,加工深さと加工後の表面磁束密度の結果を示す.未加工磁石は 380mT 程度(S 極)であるのに対し,2.5mm 穴加工を行うとその対向面は 60mT 程度まで 大きく低下する.その後,加工深さを 3.5mm まで進めると,対向面の磁極 50mT 程 度 N 極に変化する転極現象が生じた.また,加工深さを 4.5mm にすると,転極の値 - 47 - は 60mT 程度まで上昇した.これは,加工が進行するにつれて磁石厚さが薄くなった 箇所に対して磁力が突き抜けることで転極するものだと考えられる.そして,加工対 象の磁石に対して除去した体積との相互的作用による影響も関係している.この変化 が,形状が変化したことによる影響なのか,放電加工による影響であるのかを調査す るため,着磁後に放電加工で加工を行った磁石と,無磁化の磁石を放電加工で形状加 工を行った後に磁化した同形状の磁石の磁束密度の比較を行った.着磁前の磁石素材 に放電加工により同様の底付穴加工を行い,その後飽和状態まで着磁処理を行うと, 最終的な磁石形状は同じであっても,表面磁束密度の分布は異なることが考えられる. そこで,磁石メーカに最終着磁工程の前の磁化されていないネオジム磁石素材を入手 し,同様の放電条件で底付穴加工を行い,その後別途依頼した着磁メーカにおいて, 飽和状態まで着磁処理を行った.図 4.2 に,加工深さを変化させた時の,着磁後に 加工した場合と,加工した後に着磁処理を施した場合の,加工面の対向面(S 極)中 央部の磁束密度の比較を示す.前述したように,着磁磁石に直径 3mm の電極を用い て穴加工を行うと,加工穴深さ 3.5mm から加工部位の反対面は転極する.一方,着 磁前のネオジム磁石素材に同様の穴加工を行った後に着磁処理を行うと,穴部位の反 対面は転極することなく,磁束密度の低下が生じるのみとなった.これは,測定部位 の磁石厚さが薄くなるため,磁力を発生する磁石体積が減尐しているためと考えられ る.これより,着磁された磁石に対して放電加工による形状加工を行うことで従来の 着磁方法では実現できない着磁パターニングの可能性が見出だせた. - 48 - NNNNNN NN NN NN NN N極 NN NN SS NN SS S S S S S S S S S S S S S SNNS S S SNNS S 加工前 2.5mm 3.5mm 4.5mm 200 磁束密度 mT 100 0 -100 -200 -300 S極 -400 図 4.1 加工深さと加工穴対向面(S 極)の表面磁束密度 着磁後加工 N極 加工後着磁 200 NN 100 NN NN 磁束密度 mT S S S S S S 0 -100 NN -200 NN SS S SNNS S -300 -400 S極 2.5mm 3.5mm 4.5mm 図 4.2 着磁前後の形状加工による表面磁束密度の違い - 49 - 加工を行った面の対向面(S 極)の面磁束密度の計測を行った.角 10mm の磁石に 対して,図 4.3 に示すよう 12mm 角四方を 0.2mm 間隔で計測を行った. 12mm×12mm四方 測定プローブ 0.2mm 永久磁石 0.2mm S 粘着シート N 永久磁石 台座 図 4.3 加工後の S 極面磁束密度の計測 計測後の結果を図 4.4 に示す.穴の数を変化させても転極は発生した.しかし, 転極する量に差が出た.これは,加工した磁石の量と残った磁石の量の相互的影響が あると考える. • 1つ穴加工 S 最大値 61.2mT N 計測線 • 4つ穴加工 S N 最大値 19.2mT 図 4.4 穴加工における磁気パターニング - 50 - 4.3 磁場解析による形状加工による磁束密度変化の考察 底付穴加工における転極現象の解析を行った。モデルを作成し,加工面下に残る磁 石厚さを変更し,その領域において磁束密度を設定した(図 4.5 4.6). 磁石モデル 磁石モデル&空気領域 測定点 12mm×12mm N極側 加工穴下の領域の残留 磁束密度を変更すること で影響を確認する メッシュ後 S極側 図 4.5 穴加工の解析における手順 図 4.6 磁石断面と加工対向面の面磁束密度分布 - 51 - 形状を変化させたことのみの影響による磁束密度変化の結果を図 4.7 に,加工面 下の領域に放電加工中の磁場の影響を考慮した結果を図 4.8 に示す.この結果から, わかることは,形状を変化させたのみの磁束密度変化と放電加工による形状加工を行 った磁束密度変化は異なり,放電加工による形状加工による通常の形状変化のみでは 作ることのできない磁気パターニングの有用性が明らかとなった. ①穴深さ2.5mm ②穴深さ3.5mm ③穴深さ4.5mm N極側 N極側 N極側 S極側 S極側 S極側 図 4.7 底付穴加工による形状変化による磁束密度変化 ①穴深さ2.5mm N極側 ②穴深さ3.5mm ③穴深さ4.5mm N極側 N極側 S極側 S極側 S極側 残留磁束密度Br=0.3 残留磁束密度Br=-0.1 残留磁束密度Br=-0.2 図 4.8 底付穴による形状変化と放電加工の影響を考慮した磁束密度変化 - 52 - 4.4 底付穴加工における比透磁率の異なる板材での挟み込み 次に,底付き穴加工における加工磁石自身の磁石外部へ作用する磁場を変化させた 加工を行った.実験は角 10mm,高さ 5mm のネオジム磁石(初期磁束密度 380mT) の N 極中央に,直径 3mm の銅電極(+極)で,第 3 章表 3.3 中 No.1 の条件により 指定深さ 3.5mm の底付き穴加工を行った.この条件で加工を行うと,放電条件によ る熱的影響がほとんどなく加工ができることがわかっている.それに対して,加工磁 石の上下を透磁率の異なる2種類の板材(SS400 比透磁率 最大 3,000,78 パーマロ イ比透磁率 最大 200,000)で挟み込み加工した結果と比較した.加工概要を図 4.9 に 示す.上下の板材は角 50mm 厚さ 2mm であり,上側の板中央には約 3.2mm の穴を あけ,その穴を電極が通り磁石を加工する.挟み込んだことによる効果を確かめるた めに,加工前に磁石を各種板材で挟み込んだ際の板材上面の面磁束密度を図 4.10 に 示すように計測を行った.その結果を図 4.11 に示す. 78パーマロイ SS400 Φ3mm銅電極 磁石 図 4.9 板材による挟み込み加工時の概要 Top 磁石 計測範囲 35×35mm Side 磁石 プローブ SS400・78パーマロイ 50×50×2mm 図 4.10 挟み込んだ際の板上面磁束密度 - 53 - 計測位置 SS400 78パーマロイ 挟み込むことで,磁束密度は変化していることが見て取れる.パーマロイで挟み込 んだものは,板上面まで磁束密度が漏れているが,SS400 鋼材によって挟み込むと, 磁束密度の漏れはなく,ほとんど遮断できている事が見て取れた. 78パーマロイ 35 130 30 0 0 15 30 10 10 50 -10 100 5 0 50 5 -50 10 15 20 25 30 110 90 70 20 50 15 30 10 10 -10 5 -30 0 0 計測位置 mm 計測位置 mm 20 130 25 90 70 150 0 30 110 25 SS400 35 150 0 35 計測位置 mm -30 -50 0 5 10 15 20 25 30 35 計測位置 mm 図 4.11 挟み込んだ後の加工前板上面磁束密度分布 加工の状態を図 4.12 に示す.穴対向面の磁束密度の変化を図 4.13 に示す.図に は参考として,無着磁の状態で穴加工を行いその後着磁した過去の結果も示す.着磁 磁石に No.1 の放電条件で通常の穴加工を行うと(図 4.13(a))加工部位の対向面 (S 極)中央部は N 極に転極する.これは前節の実験より,加工時に変化する加工磁 石自身の磁場による変化である.次に,鋼材(SS400)で磁石上下を挟み込み加工を 行うと(図 4.13(b)),対向面の磁束密度は 140mT 程度まで低下するが,転極す るには至らない. 78 パーマロイ材で挟み込み加工を行うと(図 4.13(c)),穴対 向面は N 極に転極し,その値は 130mT(N 極)程度を示す.無着磁の磁石を通常加 工により加工を行った後に着磁を行うと(図 4.13(d)),穴対向面は S 極のままで あり,その値は 270mT 程度と 100mT 程度減尐するのみであった. 上記のように,同形状の板材で挟み込んだにも関わらず対向面の磁束密度が変化す るのは,材料の持つ比透磁率の違いにより,加工磁石自身の磁石外部への磁場の状態 が変化するためと考えられる. - 54 - 銅電極 各種板材 図 4.12 各種材料による挟み込み加工概要 NNN NNN NN NN NN NN NN NN NN NN SS NN S S NN SSS SSS S S NN S S SS SS SS S S NN S S SS SS SS 加工前 No.1:5A D.F.50% SS400鋼 78パーマロイ 加工後磁化 (a) (b) (c) (d) 磁束密度 mT N極 200 0 -200 S極 -400 図 4.13 3.5mm 穴加工における磁束密度変化 - 55 - 4.5 第4章のまとめ 磁石に対して,底付穴加工を行い,磁束密度変化を調べた.そして,加工中に加工 磁石自身が外部に出す磁場を変化させた際の影響についても検討した.そして以下の 結果を得た. 1) 磁石の底付穴加工において,磁石中央部に止め穴をあけると,ある一定の深さを 超えると加工面対向面の磁極が変化する.これは,加工する磁石自身が外部に発 する磁場の影響によるものである. 2) 磁石の底付き穴加工において,磁石上下を各種材料で挟み込んで加工すると,材 料の比透磁率など磁気的特性により対向面の磁束密度の変化が大きく異なる. - 56 - 第5章 結論 5.1 本研究で得られた成果 磁性体のうち希土類磁石であるネオジム磁石は硬脆材料であり,強い磁力を持つこ とから機械加工が困難であることが知られている.それに対して,非接触熱エネルギ 加工である放電加工やレーザ照射を用いて永久磁石の形状加工また磁力を同時にあ るいは個別に制御することを目的に研究を行ってきた.永久磁石の熱エネルギ加工に よる磁力変化に関して以下に本研究において明らかとなった結論を以下に示す. 第2章の磁性体の章では,加工対象であるネオジム磁石の特徴を示した. 第3章の永久磁石への放電加工では,ネオジム磁石に対して放電加工を行うと加工 後の表面磁束密度が変化する.加工中の内部温度を計測し,磁束密度変化との比較を 行った.また,外部磁場による影響を考慮し,突き当て加工時に外部磁場を付与した 際の影響を調べた. (1). 放電条件の違いによる磁束密度変化 通常磁界中での放電加工において,放電加工後の表面磁束密度の低下は,磁石内部 の温度上昇に起因する磁束密度の低下領域および低減量の大きさの相互的影響を受 ける.そのため,単純な入力エネルギの大小により表面磁束密度の変化が決まるわけ ではない.放電条件によっては,磁石形状で決まる磁束密度に影響を与えることなく, 形状加工のみを与えることが可能である.高速加工の放電条件では,加工面の内部に 数 mm に及ぶ放電条件に起因する影響層が形成され,その影響により磁束密度は小さ く計測される. (2). 磁石内部温度 - 57 - 磁石内部の平均温度は,放電条件で決まる平均入力エネルギに依存する. (3). 外部磁場付与の影響 同一放電条件において内部温度が等しくても外部磁場の付与により加工後の磁束 密度は変化する.これは,内部温度と外部磁場の相互的作用により生じる. 磁石に対して順方向の磁場を付与すると磁束密度の低下を尐なく加工が可能である. 磁石の自己磁界を変化させることで自己磁界の影響範囲における磁束密度が変化す る.同一放電条件において内部温度が等しくても外部磁場の付与により加工後の磁束 密度は変化する.これは,内部温度と外部磁場の相互的作用によるものと考えられる. 第4章の放電加工の形状加工による磁気パターニング (1). 底付穴加工による磁気パターニング 磁石の底付穴加工において,磁石中央部に止め穴をあけると,ある一定の深さを超 えると加工面対向面の磁極が変化する.これは,加工する磁石自身が外部に発する磁 場の影響によるものである. (2). 比透磁率の異なる材料による挟み込み 磁石の底付き穴加工において,磁石上下を各種材料で挟み込んで加工すると,材料 の比透磁率など磁気的特性により対向面の磁束密度の変化が大きく異なる. 5.2 本研究の今後の課題 前節において本研究の結論を述べた.しかしながら,求める任意の形状・磁気特性 を求めるまでには至っていない.外部磁場の付与においては,本研究ではネオジム磁 石を外部磁場として用いてきたが,電磁コイルなどによって磁場の大きさを制御する ことでより効果的な外部磁場による影響を与えることができると考える.解析を用い て形状を決め,加工などのデータベースから伝熱解析を行い,熱と磁性の連成解析を 用いることで加工前に自分の求める磁石の作製が可能になると考えられる. - 58 - 参考文献 [1] 遠田圭江ほか:機能性材料の放電加工特性(第 1 報 永久磁石への試み),2004 年度精密加工学会春季大会学術講演論文集,D80,pp.393-394(2004) [2] 遠田圭江ほか:機能性材料の放電加工特性(第 2 報 磁石に対する放電加工), 2004 年度精密加工学会秋季大会学術講演論文集,G82,pp.601-602(2004) [3] 遠田圭江ほか:機能性材料の放電加工特性(第 3 報 磁石の形状加工),2005 年度精密加工学会春季大会学術講演論文集,P78,pp.1357-1358(2005) [4] 村松玉緒ほか:磁性材料に対する放電加工,日本機械学会 2009 年度年次大会講 演論文集(4),pp.295-296 [5] 武沢英樹ほか:機能性材料の放電加工における熱的影響の検討,2009 年度精密 加工学会秋季大会学術講演論文集,K13,pp.763-765(2009) [6] 村松玉緒ほか:永久磁石の放電加工における熱的影響と磁気特性の関係,日本 機械学会 2010 年度年次大会講演論文集(4),pp.209-210 [7] 斎藤陽一ほか:マイクロ伝熱による磁性体の機能制御,日本機械学会関東支部 第 12 期総会講演会講演論文集 pp.195-196(2006) [8] 斎藤陽一ほか:マイクロ伝熱による磁性体の機能制御(第 2 報),日本機械学 会第 6 回生産加工・工作機械部門講演会講演論文集 pp.207-208(2006) [9] 馬場文玄ほか:磁性材料に対するレーザ走査加工,2005 年度精密工学会春季大 会学術講演会講演論文集,G16,pp.537-538(2005) [10] 鈴木達也:局所パルス加熱による磁性材料の着磁パターニングに関する研究, 工学院大学大学院機械工学専攻 2012 年学位論文,p21-28 [11] 斎藤長男:放電加工の仕組みと 100%活用法,技術用論社,p15,p66-68 [12] 大川光吉:永久磁石磁気回路入門 マグネティックスの A・B・C と演習,総合 電子出版社,p8,p17,p44,p63-64 - 59 -