...

秋田県大潟村移住者の言語変容

by user

on
Category: Documents
20

views

Report

Comments

Transcript

秋田県大潟村移住者の言語変容
Akita University
秋 田大学教育文化学部研究紀要
人文科学 ・社会科学部門
5
4 pp.
9
-1
7
.1
9
9
9
秋 田県大潟村移住者 の言語変容
- 本格 的調査 に向けての準備調査報告 佐 藤
稔 ・ 日 高 水 穂
Apr
e
l
i
mi
na
r
yr
e
po
r
to
nt
hel
a
ng
ua
gec
ha
ngea
mo
ngpe
o
pl
e
f
.
i
nOga
t
avi
l
l
a
ge
,Aki
t
apr
e
Mi
no
m SATO & Mi
z
uho
HⅡ)
AXA
Abstract
Thsi
sapre
l
i
ina
m
r
yr
e
po
r
toft
hel
ng
a
ua
gec
ha
ngea
mo
ngt
hepe
o
pl
em Og
a
t
avi
l
l
a
g
ei
n Ak
i
t
ap
r
e
f
e
c
t
we
・
Oga
t
av
i
l
l
a
gewa
sc
r
e
a
t
e
dbyl
a
ndr
e
c
l
a
ma
t
i
o
ni
n1
9
66a
sana
t
i
o
na
lp
r
o
j
e
c
t
,a
ndi
t
sr
e
s
i
d
e
nt
swe
r
ef
r
o
ma
llove
r
J
a
p
a
n(
Aboutha
l
fa
r
ef
r
o
m Aki
t
apr
e
f
e
c
t
l
汀e
,a
ndt
heot
he
rha
l
far
ef
r
o
mo
he
t
ra
r
e
a
sofJ
a
pa
n )Si
nc
et
he
hec
o
mmur
ut
Vhasd
e
ve
l
o
ed
p
pe
o
pl
eoft
hes
e
c
o
ndge
ne
r
a
t
l
O
na
r
eno
wl
nt
hel
e
a
dmgr
o
l
e
soft
hec
o
l
nmu
nl
t
y, t
,wepr
e
s
e
nta
no
u
t
ineoft
l
hec
o
m u
n1
ya
t
ndr
e
po
r
tt
her
e
s
ul
t
s
t
he
l
rO
n V
w
a
ne
t
yOfJ
a
pa
ne
s
eI
nt
hi
ss
ho
r
ta
r
t
i
ce
l
oft
he p
r
e
l
l
ml
na
r
yS
ur
ve
y・
1 地域 の概要
施 策 に よ り入植 を一時 中断 す る こ と とな ったが 、1
9
7
4(
昭
2
0 名 が入植 、 これ で国営事
和 49)年 に第 5次入植 者 1
北緯 4
0度 と東 経 1
40度 との交会点 とい うきわ めてわ
9
78 (
昭和 5
3)年 に
業 での入植 を終 了 した。 そ の 後 、1
か りや す いポイ ン トを含 むお よそ 1万 7
000h
a の 面積 を
玉川 ダム水没農 家 9戸 を県単事業 と して受 け入れ た。 こ
占めてい る干拓 地 の村 が 「
大潟 村 」 で ある。 干拓 され た
8都 道 県 か ら計 5
89戸 の入植 を見 た こ と
れ に よ り全 国 3
2km、南 北 27
n 、周 囲 8
k
2k
m
八郎潟 は、 かつ て は東西 1
にな る。
の総 面積 2万 20
2
4ha に及 ぶ琵 琶 湖 に次 ぐ 日本 第 2の湖
入植 者 の年 次別 の 内訳 を見 る と次 の通 りで あ る。 (
以
1
)(
表2
) は と もに 、 単位 が
で あ った。 こ こに 、20 年 に及 ぶ歳 月 と総 事 業費 約 8
5
2
下、 (
表
億 円 を費や して、湖底 を大地 に変 え る未曾有 の大事業 が
い るが、 これ は世 帯主の人数 であ り、家族 を伴 った 「
戸
9
77 (
昭和 5
2)年 3月で あ る
営 まれ た。 事業 の完成 は 1
数 (
世 帯数 )」 と置 き換 えて考 え る こ とが で き る。 1世
9
6
4(
昭和 39
)年 1
0月 、秋 田県 で
が、それ に先 だ って 1
帯 あた りの平均 人 口は 4名 強Q)
「
人 」 とな って
9番 目の 自治体 と して 6世 帯 、1
4人 で村 と してのス
第6
ター トを切 った。 新 しい食糧 基 地 と しての期待 を担 い、
(表 1)年次 別入 植者 敢
全 国各地か ら公募 で集 ま った入植 者 た ちに よって、 日本
入植 年次
農業 のモデ ル とな る よ うな生 産性 お よび所 得 水 準 の高 い
入 植 者 数
農業経 営 を確 立 し、豊 か で住 み 良い近 代的 な農村 をつ く
:
応募者 数
る とい う理想 を実現 す るため の画期 的 な試 み が始 ま った
入
植
単位 :人
1次 2次 3次 4次 5次 県単
56
86 1
75 1
43 1
2
0
計
9
61
5 281 309 389 87
0 -
58
9
2,
46
4
年 S.
42S.
43S.
44S.
45S.
49S.
53\
ので あ る
。
入植 は 1
9
6
6(
昭和 41
)年 に第 1次 の入植 者 を選抜 し、
1年 間の訓練 の後 、家族 とともに入植 、1
9
68 (
昭和 43
)
(
大潟村農 業要 具会監修 ・大潟村農 業総合指導 セ ンター
発 行 『ルー ラル大 潟村 農 業 の紹 介 』 よ り)
牢か ら営農 を開始 してい る。以後 、順 に第 2次 か ら 1
9
70
(
昭和 45
)年 の第 4次 まで 460戸 が入植 した ところで、
同年 か ら始 まった米生産調整 の一環 で ある新 規 開 田抑 制
次 に第 5次 まで の入植 者 の 出身 地 を都道 県別 に一 覧す
ると (
表
2
) の よ うにな る。
Akita University
く
表 2) 年次別 .出身地月l
J
入植者敢
都道府県 1次
2次
3次
4次
北海道
4
12
31
26
青森県
1
2
7
4
岩手県
3
2
4
4
宮城 県
1
0
2
3
秋 田県
28
44
91
73
山形県
1
3
4
3
福 島県
1
1
1
0
茨城 県
0
3
1
0
栃木県
0
4
0
0
群 馬県
0
0
1
2
埼 玉県
0
0
0
0
千葉 県
1
0
0
0
東京都
0
0
1
1
神奈川県
0
0
0
0
新潟県
2
4
7
8
富 山県
0
0
2
1
石川県
0
1
1
0
福井県
1
0
1
0
山梨県
0
0
0
0
長野 県
0
0
1
1
岐阜 県
0
1
0
0
静 岡県
0
0
0
1
愛知 県
1
1
1
1
三重県
4
1
2
0
滋賀県
0
0
1
1
京都府
0
0
0
0
大阪府
0
0
0
0
兵庫 県
1
1
1
0
奈 良県
1
0
0
0
和歌 山県
0
0
0
0
鳥取県
0
1
3
0
島根 県
0
0
1
0
岡山県
1
2
3
4
広 島県
0
0
0
0
山 口県
0
0
0
0
徳 島県
0
1
2
0
香川県
0
0
0
1
愛媛 県
1
0
0
1
高知 県
1
0
1
1
福 岡県
1
0
0
0
佐賀県
0
1
4
5
長崎 県
0
0
0
0
熊本 県
0
1
1
1
大分 県
0
0
0
0
宮崎 県
0
0
0
0
鹿児島県
2
0
0
1
沖縄県
0
0
0
0
よって構成 され てい る (
平成 7年度 国勢調 査 に よる)。
単位 :人
5次
計
8
3
4
3
74
1
0
0
3
0
0
0
1
もともと無人 の ところ-移 住 して新 しい共 同体 を作 った
81
17
17
9
310
12
3
4
7
3
0
2
2
1
1
0
1
1
1
1
1
1
0
0
1
0
0
0
0
3
0
0
0
0
1
1
1
2
1
0
0
特異 な村 で あるが、農業従事者 以外 には、県職員や各種
商店 を営む人員 が加 わ り、また 「
大潟村 文化人招蒋制度」
に よって定住す るにいた った若干名 をも数 えることがで
きる。
大潟村 の人 口構 成 の特色 を簡潔 にい うと次 の 5点 に集
約 できる。 すなわ ち、
(
1
)秋 田県 の人 口が減 少 して い る中で、微 増 とはい え増
加傾 向にあること。
0
1
(
2)い わ ゆる 「
少子化 」 と 「
高齢化 」 とが進行 してい る
3
こ と。
0
(
3)45 歳 か ら 69 歳 までの 目立 った集合 が認 め られ るこ
23
5
3
3
と。
(
4)1
5歳か ら 20歳 までの集 団が大 きい こと。
(
5
)0歳 か ら4歳 までの層 が増加傾 向にある こと。
0
3
2
2
5
8
3
さらに農 業従事者 につ いて概観すれ ば、入植者 1世の
時代 か ら徐 々に世代交代が進行 してお り、 2世 3世 に代
替 わ りしつつ ある といえ る。入植 開始 か ら約 30 年 を経
過 した現在 、入植 後 に生育 した世代 が村 の 中堅的世代 と
な る時期 を迎 えたのである。 この時期 において、新 生 の
0
0
土地に全国各地か ら入植 ・移住 した人 々が新 しい共 同体
4
1
0
また、言語共 同体形成 の過 程 において移住者 それぞれ の
言語 に生 じた変容 を、社会 と個人 の両面 にわたって解 明
0
0
す ることも、同時 に要請 され る重要 な課題 で あるといえ
3
1
3
4
2
12
1
3
0
0
1
3
1
れ ば、言語 共 同体 の形成 の経緯 とそ の要 因につ いて、子
細 に追求す ることは、時宜 を得 た試み とい えるで あろ う。
4
1
13
0
0
を形成 し意 思の疎通 を どの よ うにはか ったのか、換言す
よ う。
2 調査の概要
こ うした観 点か ら、今後 、大潟村 にお いて移住者 の言
語 変容 に関す る実態調査 を実施す る際の方 向づ けを得 る
た めに、まず、ケー ススタデ ィ として、予備 的な調 査 を
行 った。 以下にそ の概要 を記す。
(
大潟村新村建設協議会発行 『コ ミュニテ ィ ・アルバム
おおがた』 よ り)
【
調査 日時 】 1998年 11月 15 日
【
調 査 者 】佐藤稔 ・日高水穂 ・孫
萱 ・高橋真 弓
【
調査対象者 】
入植者 の 出身地で もっ とも大 きな割合 を占めるのは、
く話者記号〉〈
性別 〉〈
年齢 〉
く出身地〉
秋 田県で、全体の 55% に もなる。次 いで北海道 の 1
4%、
秋M :
男
54
秋 田県南秋 田郡 八郎潟町
秋 田県以外 の東北地方か ら 9% 、新潟 をは じめ とす る中
秋F :
女
54
秋 田県河辺郡雄和町
部地方か ら 8% 、九州 か ら 4% 、関東 、近畿、 中国地方
鹿M
:
男
61
鹿児 島県鹿屋 市
がそれぞれ 3% 、 四国か ら 1% の順 となっている。
鹿F :
女
58
鹿児 島県鹿屋 市
昭和 50
入植完成 当時の村 の人 口は 3273人 で あった (
年度 国勢調 査 に よる)が、現在 は 3,
311人 、762 世 帯 に
-1
0
鹿 M IF〉さんはそれぞれ ご夫婦D
※〈
秋 M ・F〉さん、〈
【
調査場所 】く
秋 M ・F〉夫妻 宅
Akita University
【
調 査項 目】
時期 に よ り居住 地 区が決 ま って い るた め、〈鹿 M ・F〉の
(1)言語 生活調査
居住地区には、他 に鹿児 島県出身者 はいない。〈鹿 M 〉、
① 経歴
〈鹿 F〉ともに、 日常的 に鹿 児島方言 を使 うこ とは、 ほ と
②家族構 成
ん どない と答 えている。
以下では、今 回の調査対象者 の 「
地域-の感情 」お よ
③ 生活圏 (
買い物 ・交際な どの範 囲)
び 「ことばにつ いての意識 」 を問 う調査の結果 を報告す
④ 地域- の感情 ・ことばにつ いての意識
(2)言語 項 目調査
る。質問項 目と回答 は以下の通 りで ある。
①音韻 ・ア クセ ン ト
〔質問項 目〕
②秋 田の 「
気づ かない方言 」
③仮定表現
「
∼バ 」の適格性
(
1
)あなたは大潟村 が好 きです か。
a好 き
(
i)
受動文の動作 主 「
カ ラ」の適格性
b嫌 い
C
どち らとも言 えない
(
2)あなた は秋 田県が好 きです か。
⑤助詞 サ の用法
a好 き
⑥助動詞べ の用法
b嫌 い
C
どち らとも言 えない
(
3)あなたは秋 田弁 が好 きです か。
a好 き
調査項 目は、言語生活一般 に関す る意識 を問 うもの (
言
b嫌 い
C
どち らとも言 えない
(
4)あなた は標 準語 (
全 国共通語) が好 きです か。
語生活調査) と具体 的な言語 項 目につ いて使 用の有無 を
a好 き
問 うもの (
言語項 目調査) であ る。 言語項 目調査 では、
b嫌 い
C
どち らとも言 えない
移住前の こ とばの保 存状況 を見 る項 目として、音韻 ・ア
(
5)あな たは大潟村 の こ とばが 、 まわ りの秋 田の こ とば
クセ ン ト (
調査語 リス トの読 み上げ)の調査 を行 った。
と同 じだ と思います か。違 うと思 います か。
a同 じ
また、秋 田方言域 で、 「
標 準語使 用場 面」 に も使 用 され
b違 う
C
よくわか らない
得る 「
気づ かない方言」の使 用 の有無 を見 る項 目として、
(
6)次 の人 と話す とき、 どの よ うな こ とば を主 に使 い ま
(2)②③④ の調査 を行 った。 また、特 に県外 出身者 に
す か。「
a方言 」「
b標 準語 」「C方言 と標 準語 が混 ざった
お ける秋 田方言の受容 の程度 を見 る項 目として、東北方
もの」の うちか らあてはま るもの を選 んで くだ さい。
言の 「
指標 」 とも言 える (
ただ し東 北の 中で も地域 に よ
A
家族
って用法の異 なる場合 もあ る)助詞 「
サ」お よび助動詞
B
大潟村村 内で秋 田県 内出身者
「
べ 」の用法 につ いて、調査 した。 以下では、言語生活
C
大潟村村 内で秋 田県外 出身者
調査 か ら 「
地域- の感情 ・こ とばにつ いての意識 」、言
D
大潟村村外 で秋 田県 内出身者
語項 目調査 か ら 「
秋 田の 「
気づ かない方言 」」、 「
助詞 サ
E 東京 で東京 の人
の用法」の調査結果 を報告す る。
なお、調査票は、筆記 に よる回答 を想 定 したアンケー
(表 3)地域への感情 ・ことばにつ いての意 義
ト形式 にな ってい るが、今回 の調査 は、すべ て面接 ・聞
質問項 目
秋M
秋F
鹿M
鹿F
き取 りに よ り行 った。調査者 は、佐藤 、 日高お よび秋 田
(
1
)大潟村が好 きか
a
a
a
a
大学大学院生 の孫、高橋 の 4名 であ る。調査者 4名 がそ
(
2) 秋 田県が好 きか
a
a
C
C
れぞれ 1名 の調査対象者 に質 問 を し、回答 を得た。
(
3) 秋 田弁が好 きか
a
C
C
C
(
4) 標準 吾が好 きか
C
a
a
a
(
5) こと まの似通 い
b
b
C
b
秋
B大潟村村
田県内出身者
内で
a
b
b
b
秋
C大潟村村
田県外 出身者
内で
a
b
b
b
秋
D大潟村村外
田県内出身者
で
(
倭
読
意
請
言
用
6) A 家族
a
a
b
b
bc
b
2-l 地域-の感情 ・ことばについての意護
今 回の調 査 の調査 対象者 であ るく秋 M ・F〉さん ご夫妻 、
〈
鹿 M・F)さん ご夫妻 は、 ともに第 4次入植 時 (
昭和 45
午) の入植 者 であ る (
以 下、敬 称 を略す)。 く秋 M 〉は大
潟村 に隣接 す る八郎潟 町の出身 、〈秋 F〉は秋 田市南東 部
に位 置す る雄和町の 出身 であ る。秋 田県内の方言 を大 き
く 「
県北」「中央 」「
県南 」 と区画 した場合 、両者 とも、
大潟村周辺 地域 を含 む 「中央 」方言域 (
男鹿 市 ・南秋 田
郡 ・秋 田市 ・河辺郡) の出身者 とい うことにな る。一方
く
鹿 M 〉、く
鹿 F〉は ともに鹿 児 島県鹿屋 市の出身である。
C
C
※
鹿児 島県出身者 は入植者 全体 で 3世帯 であ り、第 4次入
植 次入植 者 はく鹿 M ・F〉のみ で あ る。 大潟村 で は、入植
←i
l
l
※ この回答 の 「
方言」 とは、「
秋 田方言」の ことで ある。
Akita University
地域-の感情 としては、 4名 とも 「
大潟村 が好き」 と
中に使用 され得 る 「
疑似標準語」 (
真 田 1996) 的な表現
秋
答 えているのに対 して、秋 田県 に対 しては、く
秋 M〉、く
であ り、大潟村 において も、秋 田県内出身者 が共同体 に
F〉は 「好 き」、く鹿 M〉、く鹿 F〉は
「どち らとも言 えない」
「
標準語」 として持 ち込む可能性 のあるものである。 こ
鹿 M〉、く
鹿
一方、ことば- の感情 としては、く
秋 F〉、く
住者共同体 の 「
標 準語」の性質 をさぐることに もつ なが
うした表現 に対す る受容の程度 を見 ることは、大潟村移
と回答 している。
F〉がいずれ も、秋 田弁 に対 して は
「どち らとも言 えな
るであろ う。
調査 した項 目は、本稿末の 「
秋 田の 「
気づかない方言 」
い」、標 準語 に対 しては 「
好 き」 と回答 してい るのに対
好 き」、標 準語 は 「どち らと
して、く
秋 M〉が秋 田弁 は 「
調査」 (
学生 ・社会人調査) と同様 の ものである。学生
も言 えない」 と回答 している点が対照的である。
l
ob)(
ll
)(1
4)
社 会人調査 で使用率の高かった項 目順 に (
周辺地域 との ことばの似通 いにつ いては、く
鹿 M〉が 「よ
(
1
0a)(
1
)(
6)(
4)(
1
2)(
2)(
1
3)(
9)までの回答お よび参考 と
4)
くわか らない」 と回答 してい る以外 は 「
違 う」 と回答 さ
して標準語 で も使用 され る (
3)に対す る回答 を (
表
れ てい る。 この場合 、 「
大潟村 では周 囲の こ とば よ りも
に示す。 ((
5)(
7)(
8)(
1
5)は学生 ・社会人調査 における使
標準語的な ことばが使 われている」 と意識 されている。
用回答率、標準語意識 が ともに低 いため考察の対象 とし
場面や相手に よる使用言語 の意識 としては、く
秋 M〉に
ない。また、 (16)(17)の受動文 ・テモ ラウ文の動作主力
、
は、一貫 して 「
方言」使用 の意識 が見 られ たが、く
秋 F〉
ラの使用につ いては、九州方言 も非標準語的な用法 を持
鹿 F〉には、逆に高い 「
標 準語」使用の意識 が
く
鹿 M〉、〈
つ ため考察 か らはず した。)
見 られた。 なお、〈
鹿 F〉は、大潟村村外で秋 田県内出身
く表 4) 「
気づかない方言」の使用意識
者 と交流す る場合 の具体例 として、大潟村 に近接す る五
○ :使 う
城 目町で定期的 に行 われ る朝市に出かけた場合 をあげ、
秋M
秋F
(
1
0b) 「
そうすれば」
○
○
×a)
×b)
(
ll
)「
でかす」
○
○
×C)
○
調査項 目
「
市場の人 とは秋 田方言 をま じえて会話 をす ることもあ
る」 と答 えてい る。
大潟村 では、 日常生活 に必要な ものは、ほぼ村 内でま
× :使わない
鹿M
鹿F
かな えるよ うになってお り、村外 との交流 に特に積極 的
(
1
4)「
投げる」
×
○d
)
×e)
×e)
でない場合、周囲の秋 田方言に接す る機会 は少な くなる。
(
1
0a)「
しゃべる」
○
×f
)
○
xg
)
こ うした 「
生活圏 (
交流範囲)」 と 「
地域- の感情」 「こ
(
1
)「いたか ?」
○
×h)
×
xi
)
×k
)
とば-の意識」 には密接 な関係 がある と考 え られ る。 ま
(
6)「
なにもです」
×
×」
)
た、そ うした意識 と実際に使用 され る言語 との相関につ
(
4) 「
お手伝いしますか」
×m)
○n
) ○
○
いて見てい くことも今後の課題 とな る。
(
1
2) 「
雷かれません」
×o)
×o)
×o)
○
(
2)「
おあげします」
×p)
○
×p)
○
(
1
3)「
されません」
×q)
×q)
×q)
Xq)
(
9)「
∼もの 」
×r
)
×
×S
)
×r
)
2-2 秋 田の 「
気づかない方言」
以上の意識調 査の 中で、大潟村の ことばの特徴 と して、
×l
)
「
標 準語的である」 との意識 が、今 回の調査対象者 には
見 られた。 日本 国内での移住者集 団の言語 を調査 した も
【
注】調査対象者 自身が 「
普段使用 する表現」あるいは
1
9
65)に、北海道-の移住者
の として、国立国語研究所 (
「
標準語で使用す ると思 う表現」と して回答 されたものo
につ いての調査 があるが、そ こで も 「
共 同体 の共通語 と
a)デワ/b
)ソレデ ワ ・デワ/C)ツク ッテオイテク レ ・サ
して標準語的な変種 が採用 され るよ うになる」 とい う結
クセイシテオイテク レ/d)標準語ではステテ/e)ステテ
果が報告 されている。
オ イテ/ 千)ハナ シテア ル / g)ツ タエテア リマス / h)イ
大潟村移住者 にお いて、共 同体の共通語 と して標準語
)ミエマス カ ?/ 」
)イイエ/ k)イヤイヤ/ りイエ
ル ?/ i
が採用 され るとい う現象が、意識 の上のみな らず、実態
イ工、ナニモシテマセ ンケ ド/∩)テツダウガ :普段の会
として も観察 され得 るか ど うかが、今後の調査の課題 と
話 では 「お手伝 い しますか」のような丁寧 な表現は使わ
な るのであるが、そのための基礎 的な作業 として、 「
気
ない。/ ∩)標準語 ではテツダイマシ ョー カとも言 う/o)
づかない方言」の使用の有無 につ いて調査 を した。調査
カケマセ ン/p)ヤルカラ/ q)デキマセ ン/ r)アルカラ/
項 目は、本稿末の 「
秋 田の 「
気づかない方言」調査」 を
S)ア リマス/t)ミエル :普段の会話 では 「
お見 えにな り
参照 されたい。
ます」のよ うな丁寧な表現 は使わない。
ここで対象 とす る 「
秋 田の 「
気づかない方言」」とは、
標準語使用場面において も現れ得 る 「
文体の高い」表現
【
注】に見 られ るよ うに、今回の男性調査対象者 は、
である。す なわち、地域的標 準語 としての秋 田標準語 の
調査項 目の一部 につ いて、 「この よ うな丁寧 な ことばは
1
2-
Akita University
れやすい もの と許容 されに くいもの との差がある。
使 わな い」 と回答す る場合 があ り、 「
気づ かない方言」
の使用の有無 を確認す る項 目としては、今後 、工夫の余
71
)と秋 田若
ここで、秋 田県南秋 田郡五城 目町 の話者 (
地があることがわかった。 ただ し、そ うした 「ことばづ
年層 (
秋 田大学学生 ・県内出身者 )72名 に対 して行 っ
かい」に対す る意識 も共 同体 の言語形成 に大いに関連 し
た調査の結果 を踏 まえ、助詞 「
サ」の用法 に関す る質問
て くると考 え られ るため、今後の調査に反映 させ てい く
項 目と今回の調査対象者 の回答 を示す。
ことが課題 となろ う。
サ」の使 い方につ いてお聞 き します。
〔質問項 目〕 「
では ここで、 「
気づ かない方言 」全般 につ いて、回答
の傾 向をま とめてお こ う。
(Ⅰ) 「
東の方サ行く」のような「
サ」
を、普段の会話で使いま
秋 F〉とも、県内出身者 としては、
①全般的にく
秋M〉、く
すか。-(A 使う ・ B 使わない )
秋 田の 「
気づかない方言」の許容度 が低 い。
(Ⅱ) 【(Ⅰ)
で「
使う」と回答した方】:
次の下線部分の「
サ」に
気づかない
②く
鹿 F〉は、県外出身者 としては、秋 田の 「
ついて、普段の会話で「
使 う」
ものに〇、「
使わない」
もの
方言」を受容 してい る傾 向があるO
に ×を【
・
③く鹿M〉は、秋 田の 「
気づかない方言」をあま り受容 し
】内に書いてください。
[(Ⅰ)で「
使わない」と回答した方】:
次の下線部分の
ていない。
「
サ」について、「
秋 田方言では使う」
と思うものに〇、
丁寧な ことばづかい」だ と感
① は、く
秋 M〉の場合 は 「
「
秋 田方言では使 わない」と思うものに ×を【
じられ るものを 「
不使用」 としたために生 じた結果であ
書いてください。
るが、く
秋 F〉につ いては、標 準語使用意識 の高 さによっ
(1)【
】今 日は一 目中家土 いるC
(2)【
】東 の方±行 く。
(3) 【
】東京駅±着 く。
は使用す る としているが、県外 出身者 である〈
鹿 M〉、く
鹿
(4) 【
】今 日は雪± なった。
F〉は使用 しない としている。 「そ うすれば」 自体は、標
(5)【
】午後か ら雨が雪± なった。
(6) 【
】午後 か ら雨が雪± 変わ った。
(7) 【
】太郎生木 をや る (
あげる)
。
吐逆 、郵便局があ ります」な ど)、県外 出身者 は、 自分
(8) 【
】生徒±本 を読 ませ る
自身の持つ 同一形式 が異なる用法で用い られ ることに違
(9) 【
】太郎土木 をも らった。
(
1
0) 【
】息子± 手伝 いに来て もらった。
て生 じた結果ではないか と思われ る。
ところで、秋 田方言域で広 く使用 されてい る接続詞 的
秋 F〉
な 「
そ うすれば」は、県内出身者 である〈
秋 M〉、く
準語 に も存在す るが、その用法は仮 定条件節 の意味を持
つ ものであ り (「この道 をま っす ぐ行 きな さい。皇 土工
和感 を感 じ、受容 には至 らない もの と考 え られ る。
。
(
l
l
)【
】大王追いかけ られ る。
は使用 しない としてい るものの、く秋 M〉、く秋 F〉、〈鹿
(
1
2)【
】娘 を嫁± や る。
F〉は使 用す る としてい る。 この
(
1
3) 【
】車がお もちゃ± 見 える。
一方、 「
完成 させ る」の意 味の 「
でかす 」は、〈
鹿 M〉
「
でかす」 も県内での
(
1
4) 【
】 この服 は私土 は合 わない。
ある。 こ うした表現 を県外 出身者 の〈
鹿 F〉が使用す る と
(
1
5) 【
】大王似 ている。
し、く
鹿 M〉が使用 しない としていることは、対照的な結
(
1
6) 【
】 このお茶 はか らだ± いい。
使用率は非常に高 く、また 日常的に多用 され る表現で も
(
1
7) 【
】お礼±お金 をもらった。
(
1
8) 【
】野球 を見皇行 く。
(
1
9) 【
】仕事±行 く。
(
20) 【
】 5時±起 きる。
(
21
)【
】 3日± 1度 は納豆 を食べ るD
(
2
2) 【
】ひた走 り± 走った。
(
23) 【
】海生 山王最適 なシーズンがきた。
相 当す る用法が基本 であ り、そ こか ら 「
に」の領域- と
(
24) 【
】あお向け±倒れ る。
用法 を広げているもの と見 られ るが、 こ うした変化 は、
(
25) 【
】新 しい家±建 ったO
若年層においていっそ う顕著である。特に、 この若年層
(
26) 【
】新 しい家丑建てた。
での変化 は、標準語 との接触 によ り 「
に」に置き換 える
(
27) 【
】高校生 卒業 してす ぐ就職 したC
形で 「
サ」の用法が広がっているもの と解釈 できるが、
(
28) 【
】落 とし穴丑掘 った。
そ うした中に も 「
に」の使用 され るすべての用法で 「
サ」
(
29) 【
】 ここ土掘 ってみ ろO
が同 じ程度 に許容 され るわ けで はな く、 「
サ」が許容 さ
(
30) 【
】鳥土追いかけた。
果であるといえる。
2-3 助詞サの用法
東北方言の 「
指標」とも言 える助詞 「
サ」については、
199
4)に もま とめ られているが、東 北各地の調査報
小林 (
告に よ り、地域 によって用法 の異な りがあることがわか
っている。標準語 と対照 させ る と、方 向を表す 「
-」 に
1
3
】内に
Akita University
役 の相 手含 む)(7)(8)〉、〈
移動 の 目的 (
名 詞接続 )(19)〉
、
(
表 5)助詞 「
サ」 の用法別許容度
く若〉:秋 田大学学 生 (県 内出身者 )72名の使用 回答 率
1
4)(
1
5)(
1
6)〉
、お よび実質 的な変化 の意味
く比較 の対象 (
く老〉:秋 田県南秋 田郡五城 目町話者 (
71
)の回答
を持つ動詞 によるく
変化 の結 果 (6)〉といった 「
移動性 」
○ :使 う (と思 う)
が強 く合意 され る用法 では 「
サ」が用い られ る。
△ :あま り使わないがおか しくはない
1
2)〉を
②伝統的秋 田方言 では、〈
存在場所 (1)〉、く役割 (
× :使わな い
表す場合 に 「
サ」 は用 いないが、現在 の若年層秋 田方言
(と思 う)
? :わか らない
では 9割程度 の非 常 に高い使用率 になってい る。
項目
く若>
く老>
秋M
秋F
鹿M
鹿F
③伝統的秋 田方言 では、〈起点的な行為の相 手 (
受身 の動
(2)
94.4
○
×
×
○
○
作 主含む)(9)(10)(
ll
)〉、〈比 愉 (13)〉お よび変化 の前後
(1)
91.7
×
○
○
○
○
が想 定 しやす い場合 の 「
な る」 に よるく変化 の結果 (5))
(
12)
91.7
×
○
○
○
○
には 「
サ」 を用 いないが、若年層秋 田方言では 5- 7割
の許容率である。
(3)
90.3
(8)
86.1
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
21
)〉
、変化 の前後 が想 定 しに くい場合 の 「
な る」
④〈
割合 (
(
16)
84.7
○
○
○
○
○
に よる〈変 化 の結 果 (4)〉、〈列 挙 (
23)〉、 く副詞 の一 部
(
19)
81.9
○
○
○
○
○
(
24)〉、 〈名 目 (1
7)〉、 く移 動 の 目的 (
動詞 連 用 形 接 続 )
(7)
79.2
○
○
○
○
○
(
1
8)〉
、く時 (
20)〉
、く強意 (
22)〉
お よび 「
が」格、 「
を」格
(
1
4)
77.8
○
○
○
○
○
で表 され る表現領域 (
25)(
26)(
27)(
28)(
30)は、伝 統的秋
(
1
5)
77.8
○
○
○
○
○
田方言では 「
サ」 を使 用せ ず、若年 層秋 田方言 にお いて
(6)
73.6
○
○
△
○
○
も許容度 が低 い。 (
なお 、 (
29) 「ここ土 振 ってみ ろ」は、
(
1
0)
70.8
×
×
○
○
○
若年層 の許 容率 も比較的高 く、老年 層話者 も 「
言 う」 と
(
13)
63,9
×
×
×
×
○
回答 してい るが、 これ は 「ここ
され得 るた めであ る。)
(
ll
)
58.3
×
×
×
○
○
(
5)
55.6
×
○
×
○
○
(9)
51.4
×
×
×
○
○
i
i(
穴 を)掘 る」 と解釈
以上の よ うな秋 田方言 の傾 向に対 して、今 回の調査対
象者 においては、次の よ うな傾 向が見 られ た。
(
29)
37.5
×
×
×
①〈秋 M〉、〈秋 F〉は、 (
多少 の例外 は見 られ る ものの)
34.7
○
×
×
(
21
)
×
×
×
×
若年層 回答者 にお いて 7割 以上 に許 容 され ている用法 を
(4)
33.3
×
×
×
○
(
23)
27.8
〉
く
×
×
′
フ
×
○
(
24)
26.4
×
×
×
×
×
ている用法 を 「
秋 田方言 で は使用す る」 としているO
(
1
7)
19.4
×
×
×
×
○
③〈
鹿 F〉は、若年層 回答者 にお いて 5割 以上 に許容 され
(
18)
18.1
×
○
×
×
○
ている用法 を 「
秋 田方言 では使 用す る」 としているのに
(
26)
15.3
×
×
×
×
×
加 えて、許 容率の低 い ものの 中に も 「
秋 田方言 では使 用
(
20)
13.9
×
×
×
×
×
す る」 と回答 してい るものがある。
「
使用す る」 としてい る。
②〈
鹿 M〉は、若年層 回答者 にお いて 5割以上 に許容 され
(
30)
13.9
×
×
×
×
×
×
、〈
秋 F〉は、秋 田の 中年層 としては、
① に よ り、く
秋 M)
13.9
×
×
×
(
27)
○
ほぼ典型的 な 「
サ」の用法 を保持 している と考 えて よか
(
25)
13.9
×
×
×
×
×
ろ う。一方 、県外 出身者 であ り普段 「
サ」 を使用す るこ
(
28)
ll,1
×
×
×
×
×
鹿 F〉は、 「
秋 田方言 で は使 用す る」
との ない〈鹿 M〉、(
と考 える用法の範 囲が広 い。 ただ し、その範 囲は、若年
※く秋 M〉、く秋 F〉は 「
普段使 う」ものを回答 し、く鹿 M〉、く鹿
層 での使用 回答率 が比較的高い もの に広がっているので
F〉は「
秋 田方言では使うと思う」ものを回答している。
あ って、秋 田方言 の 「
サ 」の用法の受容 とい う観点か ら
は、かな り正確 な理解 がな され てい ることがわか る
。
(
表 5) は、若年層 回答者 の使 用 回答率の高い もの か
こ こで、③ につ いて考 えてみ たい。 〈
鹿 F〉は、 「こ と
ら並べ てあ る。 ここで、伝統 的秋 田方言 と現在 の若年 層
ばにつ いての意識 」の調 査 の際 に、 「
秋 田方言 を使 用す
秋 田方言の助詞 「
サ」の用法 の異 同 をま とめてお こ う。
る場合 があ る」 と回答 してお り、また、秋 田の 「
気 づか
(
以下、用法の後の数 字 は調 査 文の番号 を示す。)
な い方言」 の使用 も、 ある程度 、認 め られ た。 こ うした
①伝 統 的秋 田方言 、現在 の若年 層秋 田方言 ともに、く方
方言受容度 の高い話者 にお いて、方言形 の用法 を広 げて
向 (2)〉、く移動 の着 点 (3)〉、く着 点的 な行為 の相 手 (
使
理解す る とい うこ とが一般 的 に起 こる とす る と、それ は
1
4
Akita University
移住者共同体においては、共 同体の言語の変容 を方向づ
③村 内での会議 な どにお けるフォーマルな言葉遣い
けるものになってい く可能性 がある。共同体の共通語 と
④村外での買い物やつ きあいで用い られ ることば
して 「
標準語的変種 」が採用 され る一方で、周囲の方言
⑤村民の用 いていることば といわゆる標準語 との異 同
をいかに受容 してい くかを見てい くことが、今後の課題
⑥家庭 内の子供 たちの言葉遣い
となる。
⑦学校 での子供 たちの言葉遣い ・発音
⑧年齢層 に よることばの違 いの有無
3
⑨ 出身地の違 いに よることばの問題 の有無
おわ りに
⑯具体的な コミュニケー シ ョン疎外事例の有無
全国各地か らおのおの異な る言語 を持 ち込んで、新生
な どについて、大規模 かつ徹底的な調査が考 え られ る
。
の大地に移住 ・定着 して一つ の共 同体 を形成す るとい う
(
2)(
3)につ いて も、同様 に種々の問題 を多面的に調査考
ことは、希有の ことである。移住者集 団の言語 について
究す る必要 があることはい うまで もない。今 、それ がよ
調査 した ものには、 日本語 を対象 とした もの としては、
うや く緒 についた ところなのである。
ハ ワイ、ブラジル にお ける調査研 究が著名 である。一方、
国内における移住では、先 に も触れ たよ うに、国立国語
研究所等の北海道- の移住者 についての調査がある。
当該の大潟村 につ いてはほ とん ど調査 らしい調査がな
付記
まず 、今 回の調査 に ご協力いただいた大潟村調査
対象者 の方 々に感謝の意 を表 したい。また、「
秋 田の 「
気
いまま今 日に至 っている。先行研究のフィール ドと比べ
づ かない方言」調査」の社会人調査 では、秋 田県 自治研
ると、次の点で状況 が異なっている
修所 にご協力 をいただいたD さらに、秋 田県 自治研修所
(
a) 「
先住者」のいない、移 住者 のみか らな る共 同体 で
の高野登氏 の ご協力の もと、大潟村役場の加藤千代美氏
あることO
か ら大潟村入植者 に関す る資料の ご提供 をいただいた。
(
b)周辺地域 を秋 田方言使用地域 に囲まれ てい ること。
記 して感謝 申 し上げる。
。
(
C)移住者 の半数 が秋 田県 内 とい う限 られ た地域 の出身
【
参考文献 】
者 で 占め られていること。
こ うした状況下にあって、 どの よ うな様相 を呈す るか
岡野信子 (
1
98
4) 「
移住 の もた らす言語状況 一千葉 県君
津市の場合 -」『方言研 究年報 』27 和泉書院
は興味深 い問題 である。
さらに、 このフィール ドの良 さは、誰が どこか らいつ
小野米- (
1
9
78) 「
移住 と言語変容」『岩波講座 日本語別
巻
入植 したのか、誰が 2世または 3世であるのかがよく分
か り、その言語共同体 としての歴史 もほ どほ どに 日が浅
ll
ける社宅住民の場合 -」『国語 国文』58
い とい うことである。現時点で調査 を開始す るな らば、
次の よ うな課題 につ いて有力な手がか りを得 ることが可
黒川省三 (
1
9
76) 「
ハ ワイの 日本語」『現代方言学の課題
1 社会的研 究篇』明治書院
能である。すなわち、
(
1
)全 くの移住者 のみか らな る集 団にお ける言語共 同体
日本語研究 の周辺』岩波書店
神鳥武彦 (
1
989) 「
新居住地方言の受容 一東広島市にお
国立国語研究所 (
1
9
65)『共通語化 の過 程 -北海道 にお
ける親子三代の ことば-』秀英 出版
がいかに形成 されたか を、具体的に明 らかにす ること。
(
2)
移住者 (1世) の現在 の使用言語 を、彼 らの言語形
一一一一一一一 (
1
989)『方言文法全国地図』第 1集
成に関わった地域の方言 と比較す ることによ り、それぞ
小林
布 と歴史」『東 北大学文学部研究年報』4
4
れの個人の言語変容 の様相 を明 らかにす ること。
(
3)大潟村 を取 り巻 く周辺地域 (
南秋 田郡全域 ・秋 田市
隆 (
1
9
9
4) 「
東 北方言 にお ける格 助詞 「
サ」の分
真 田信治 (
1
9
96)『地域語 のダイナ ミズム』お うふ う
その他)の言語使用の実態 を調査 し、大潟村移住者- の
査か ら-』 中央公論社
影響 関係の有無 を確認す ること。
入植 開始 か ら共同体が形成 され るまでの経緯 を考察す
日高水穂 (
1
9
99) 「
秋 田方言の仮 定表現 をめ ぐって-バ ・
る上では、現段階がひ とつ の区切 り目にな ると考 え られ、
タラ・
タバ ・
タ ッキヤの意味記述 と地域的標 準語 の実態
また、 日本 国内の移住者共 同体の言語変容 を考察す る上
一」『秋 田大学教育文化学部紀要』5
4
で も、貴重 な資料が得 られ る もの と期待 され る。
本堂
)「
ブ ラジル の 日本語 -その調査 と実態
寛 (
1
9
81
の一端 -」『日本語教育』44
では、具体的には何 をどの よ うに調査す るのか とい う
ことになるが、 (
I
)につ いては、
① 日常の家族間の会話の言葉遣い
②隣人 との 日常会話 に用いることば
1
5
Akita University
秋 田の 「
気づかない方言」調査
調査時期 :1
998年 11月 ∼ 1
2月
回答者 :秋 田大学学生 (
秋 田県 内 出身者) 35名
秋 田県 自治研修 所研修 生 (
26- 34歳 ・秋 田県内 出身者) 86名
計 1
21名
※各設 問には、① (
普段 の会話 で)、② (
標 準語 で) につ い ては 、 「
a言 う」 「
b言 わない」の うちあてはまる も
の に○ をつ けて も らい、③ (
② で bの場合) では標 準語 の言い方 を記入 して も ら うよ う、回答 欄 を も うけた。
以下、調査 文 のあ とに示 した 【 】内の数字 が、①、② についての 「
a言 う」の回答 率 であ る。
なお 、項 目③で、調 査文 の意図 した 「
気 づ かない方言 」 に 「
気 づかない」 回答 が見 られ た場合 (
設問(
1
)で
4)で 「
手伝 いますか 」、設 問 (
1
0a)で 「しゃべ ってお り
「
いま したか」
、設 問 (
2)で 「
お あげいた します 」、設 問 (
ます 、設 問 (
1
6)で 「
山田課長 か らお手伝 いいただい た」 な ど)、問題 とな る表現 につ いては、標 準語 で も 「
言
J
う」 もの と考 え られ るので、集計 の際 は、そ の よ うに処理 を した。
《間》 次に あげ る表現 の下線部分 につ いて、①普段 の会話 で 「
言 う」か 「
言わない」か、②そ れは標 準語
(
全国共通語)で も 「
言 う」か 「
言 わない」か、③標 準語 では 「
言 わない」場合、標 準語 では どの よ うな
ユ生む ?」【
① 55・
4% l② 20・7% 】
(
1
)[
人 の家 に訪 ね て行 って] 「
おい 、○○ さん、土
(
2) [
店員が客 に] 「
保 証書 をお あげ します ので、保管 してお いて くだ さい O」【
①28,9%
I
②1
6.
5% 】
(
3) 「
間 もな く先生 がお 見 えにな りますO」【
① 70.
2% l② 8α2%】
(
4) [
重 そ うな荷 物 を持 った人 に声 をか けて]「
重そ うです ね。お手伝 い します か。」【
① 48.
8% l② 42.1%】
(
5) 客
「これ とこれ 、 くだ さい。」
8
0円I
.
.
、全部 で 460円三上皇 。」【
① 5.
0%
店員 「
大根 280円、チ ンゲ ンサイ 1
I
② 5.8% 】
(
6
)A 「
先 日は ど うもお世話 にな りま した。」
な
B 「 に もです。 また遊 びに来て くだ さいO」【
① 54.5% f② 5,8%】
(
7) 「
交通ル ール を覚 えてお らない と、大変 な こ とにな ります。」【
① 6.
6% l② 5.
0% 】
(
8) 「
バ ッテ リ液 が減 った ら、補 充 しな けれ ばで きませ ん。」【
① 5・
8% l② 1
・7% 】
(
9) 「
そ この角 を右 に曲が る と郵便局 が ある もの. そ こで待 っていて くだ さいO」【
① 29・8% leA・1% 】
(
1
0)A 「
来週 あた りに、お宅 にお伺い したいのですが。」
B 「ああ、そ の件 で した ら、両親 には も う(
a
)しゃべ って あ ります。 水曜 日の午後 あた りは ど うです か。」
A 「
あ りが と うござい ます。 (
b)そ うすれ ば、水曜 日の午後 1時頃、お伺 い します 。」
(
a) 【
①6
4.5%
I
② 9.1
%】
(
b) 【
① 90.1% l② 32.2% 】
I
(
参1
9.0% 】
(
1
2) 「このペ ンはイ ンクが きれ て しま って も う書 かれ ませ んO」【
①伯 ・
8% I
② 9・1% 】
(
ll
) 「この書類 を明 日まで にでか しておいて くれ。」【
① 89.
3%
(
1
3)図書館 内では飲食 は され ませ んO 喫茶室 を ご利用 くだ さい.」【
① 28.9% l② 8.3% 】
(
1
4)この ゴ ミ、そ この ゴ ミ箱 に投 げておい て。」【
① 82・6% l② 1
6,5%】
(
1
5
)A 「
昨 日、お宅 のお子 さん、誕 生 日だ ったんで しょ。」
B 「
え え、い ろい ろ迷 ったんです け ど、前 か ら読 み たが っていた本 を くれ ま したO」【
① 111
6% l② 7.
4% 】
(
1
6)A 「
山 田課長 !」
B 「なんだい ?
」
A 「
今 度 の仕 事 は、 山 田課長 か ら手伝 ってい ただいたお かげで、なん とか成果 を あげ る こ とがで きま した。
3% l② 45.5% 】
あ りが と うござい ま した。」【
① 65.
(
1
7) 「
今朝 は犬か ら追 いか け られ て、ひ どい 目に遭 い ま したO」【
① 53.7% l② 1
9.8% 】
-1
6-
Akita University
《解説》 (
I
)か ら (
1
7)の設 問の うち、標準語 で も実際 に言 うものは、 (
3)の 「
お見 えにな ります」のみである。
(
3)については、① 70.
2%、② 8
0.
2% とい う回答 率か ら、標準語形 として意識 され てい る一方、 日常的 には
相対的 に用い られ ていない ことがわか る。 いずれ に しろ、 「
気づ かない方言」 とい う観点か らは、他 の項 目と
の比較 のために設定 した項 目である。 また、設 問 (
7)の 「
覚 えてお らない と」は、存在動詞 に 「
い る」を用い
る東 日本 においては、方言 の直接 的な影響 で現れ るもの とは言 えない。標 準語 では、 (
連用 中止形 「
お り」、
「
お らず 」を除 き)常 に 「
お ります」 とい う丁寧語 を ともな う形で丁重語 として用い られ る 「
お る」を、「
い
る」に対す る 「
改 まった」言い方 と意識 して、従属節 内な ど丁寧語の介入 しない位置で用いた ものである。
この 2つの項 目を除いた残 りの項 目が、秋 田方言域 において問題 とな り得 る 「
気づかない方言」であるO
まず 、 (
1
)は、東北一帯で用い られ てい る、発話時現在 の存在 を表す 「
いた」の表現である。 5割強が普段
用い、約 2割 が標 準語 で も言 うと意識 してい る (
標準語 では 「
い るか」 とな る)
。(
5)もこ うした現在テ ンス
の表 し方 に関す る もので、標 準語 では 「
です」 となる。 この項 目は、使用 回答 も標 準語意識 も非常に低い。
(
2)は、標 準語 では、 「さしあげます」 あるいは 「
お渡 しします」 とで もい うところであ るが、 「
あげる」の
謙譲語形 として 「
お あげす る」 とい う標 準語 では用い られ ない形 を用いた ものである。
(
4)は、標 準語 でまった く用いない とは言いきれないが、標準語では、 こ うした行為提供 を表す場合 、「
∼し
ま しょ うか」 とい う意 向形 を用いた表現 が 自然であろ う。「
∼ します か」は、第一義的には 「
す るか どうか」
を問 う Yes
No疑問であ り、それ によって行為提供の意 図を示す ことは、場面や状況の支 えによって可能 にな
る場合 がある とい うもので 、「
∼ します か」 自体の機能 によるものではない (
ただ し明確 な 「
行 為提供」の意
図を表現す ることを避 けて 、「
∼ します か」 とい うよ り間接 的な表現 を選択す ることは、標 準語 において もな
いわけではない)
。 一方、伝統的な秋 田方言 には、意 向の表現 としての ウ/ヨウ形がな く、 スル形で意 向を表現
す るのが普通 である。 この文脈 で現れ る方言的な表現 は、 「
テツダウガ (
手伝 うか) ?」「
テツダ ウシカ (
手伝
います か) ?」な どである。使用 回答 と標 準語意識 が ともに高 く、両者 の差が小 さいのが特徴 である。
(
6
)は、方言で応答詞 と して用い られ る 「
ナンモ」を標 準語的 に表現 した もので、使用回答率は 5割強で高
い。 ただ し、標 準語意識 は非常 に低 く、地域的な表現 だ と認識 されてい るよ うである。標 準語 では この場合、
い え」 「どういた しま して」な どにな る ところであるが、 「
なに もです」のニュアンスに完全 に一致す る表現
は標準語 にはな く、そのた めに定着 してい る と考 え られ る。
(
8)は
「
∼ しなけれ ばな らない/い けない」 となる ところである。 (
8)の よ うな表現 を耳にす ることはある
が、2030代 による今 回の調査では、使用 回答 も標準語意識 も非常に低い。
(
9)は、若 い世代 で も多用 され てい る表現である。説 明的な文脈で用い られ る。 この場合は、 「
あるの よ、
だか ら∼ 」 といった意味合いである。標 準語意識 は高 くない よ うである。
(
l
o乱
)の 「
話す 」 こと一般 を表す 「しゃべ る」、 (
ll
)の 「
完成 させ る」の意味の 「
でかす」、 (
1
4)の 「
捨て る」
の意味の 「
投 げる」は、語嚢的な ものであるが、非常 に定着 した表現 である。いずれ も標 準語形 に同様 の形式
がある (
ただ し意味範 囲が異 なる) こともあ り、 (
ll
)(
1
4)については標 準語 だ と意識す る人 もある。 (
1
5)の
「くれ る」 も方言 の 「
ケル (
<ク レル )」 との用法 の違 いを問題 に した ものである。 ただ し、 「くれま した」の
形では、使用回答 も標 準語意識 も高 くない。
(
l
ob)の 「
そ うすれ ば」は、 「
それ では 」「
では」の意で接続詞 的に用い られ るもので、実 に 9割 の回答者 が
普段か ら使 用す る としてお り、標 準語 と意識す る人 も約 3割 い る (日高 1
999参照)
0
(
1
2)(
1
3)は、可能表現 に関す るものである。秋 田方言 では、 「
書 く」に対 して 「
書かれ る」 とい ういわゆる
可能助動詞形 が状況的な可能 を表 し、設 問の ような文脈 で用い られ る。一方、 「
書け る」 とい う可能動詞形 は
標 準語 では意味の区別 な く用い られ る一般 的な形であるが、秋 田方言 では 「この子は もう字が室廷旦 」の よ
うな能 力的な可能 を表す もの とな る。 この区別は、標 準語 では 「
できる」 とい う語嚢 的な可能形式を用い る
せ るく能力可能〉」の ように表 し分 け られ る。そ の結果 、 (
1
3)の よ う
「
す る」 において も 「され るく状況可能〉」「
に 「
で きませ ん」の意味で 「され ませ ん」が用い られ ることになるのであるQただ し、両項 目とも使用回答
率が 3、 4割程度 ある一方 で、標 準語意識 は 1割以下で低 い。
(
1
6
)(
1
7
)は、受動文やテモ ラウ文の動作主を表す 「
か ら」を問題 に している。標 準語 では、設 問にあげた よ
うな物 理的働 きかけを表す動詞 では 「
か ら」は用いず 「
に」を用い るのが普通であるが、秋 田方言では (
特に
テモラ ウ文の場合 に)カ ラを用い るのは普通 である。使用 回答 も標準語意識 もかな り高い。
ー1
7一
(日高水穂)
Fly UP