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抄録集 - 名古屋大学 総合保健体育科学センター
教育研究改革・改善プロジェクト(総長裁量経費) 「動植物細胞における炭酸ガス/重炭酸イオンの輸送系」研究会 プロジェクト代表 近藤孝晴(総合保健体育科学センター) 名古屋大学東山キャンパス内 野依記念学術交流館 2005 年 9 月 24 日(土曜日) 9:00∼16:00 連絡先: 〒464-8601 名古屋市千種区不老町 名古屋大学総合保健体育科学センター (医学系研究科健康栄養医学) 石黒 洋 TEL: 052-789-3962、FAX:052-789-3957 E-mail: [email protected] プログラム 9:00∼9:10 開会の挨拶 近藤 孝晴 名古屋大学総合保健体育科学センター (大学院医学系研究科健康栄養医学) セッション 1 座長 廣野 力 (広島大学) 9:10∼9:40 「膵導管細胞からの重炭酸イオン輸送―特にSLC26 Cl-/HCO3- 交換輸 送体との機能連関」 洪 繁 9:40∼10:10 名古屋大学大学院医学系研究科病態修復内科学 「CFTR 陰イオンチャネル-重炭酸イオン輸送経路としての生理学的重 要性とその分子生理学」 相馬 義郎 大阪医科大学生理学 Dalton Cardiovascular Research Center, University of Missouri-Columbia, Columbia 10:10∼10:40 「膵導管細胞におけるHCO3-分泌とcarbonic anhydrase」 石黒 洋 名古屋大学総合保健体育科学センター (大学院医学系研究科健康栄養医学) 10:40∼11:00 休憩 セッション 2 座長 11:00∼11:30 「植物アクアポリンと水/重炭酸イオン/炭酸ガス輸送」 洪 繁 (名古屋大学) 前島 正義 名古屋大学大学院生命農学研究科 細胞ダイナミクス研究分野 11:30∼12:00 「オオムギアクアポリン HvPIP2;1 を過剰発現させた形質転換イネ葉での 二酸化炭素拡散と光合成速度の上昇」 半場 祐子 京都工芸繊維大学 生物資源フィールド科学教育研究センター 12:00∼13:00 昼食、休憩 セッション 3 座長 伊藤 康 (名古屋大学) 13:00∼13:30 「CO2が海産生物に及ぼす影響:大気中からの拡散による長期影響と海 洋隔離による短期影響」 石松 惇 13:30∼14:00 「腎近位尿細管細胞におけるHCO3-輸送について」 窪田 隆裕 14:00∼14:30 長崎大学環東シナ海海洋環境資源研究センター 大阪医科大学生理学 「ラット耳下腺導管の重炭酸イオン輸送駆動機構」 廣野 力 広島大学大学院医歯薬学総合研究科口腔生理学 14:30∼14:50 休憩 セッション 4 座長 14:50∼15:20 「Duodenal CO2/H+ cycle, HCO3- secretion, and CO2/H+ absorption」 相馬 義郎 (大阪医科大学) 秋葉 保忠 West LA VA Medical Center, CURE/UCLA & Brentwood Biomedical Research Institute, Los Angeles 慶応大学医学部消化器内科 15:20∼15:50 「ヒト気道分泌腺細胞におけるヌクレオチド誘導性HCO3-輸送の Ca2+-activated K+ channelによる調節」 伊藤 康 15:50 閉会 名古屋大学大学院医学系研究科機能調節内科学 膵導管細胞からの重炭酸イオン輸送―特にSLC26 Cl-/HCO3- 交換輸送体との機能連関 1)名古屋大学大学院病態修復内科学、2)UT Southwestern Medical Center at Dallas 洪 繁1、Shmuel Muallem2、後藤秀実1、成瀬 達2 ヒトの膵導管細胞は全身の上皮膜のうち唯一 140mMもの高濃度のHCO3- を分泌する。嚢胞 線維症Cystic Fibrosis (CF) や慢性膵炎患者では膵液のアルカリ化(つまり膵導管細胞からの HCO3- 輸送)に障害を認めることが知られており、正常のヒト膵導管細胞から分泌される 140mMのHCO3-分泌メカニズムを解明することが、嚢胞線維症や慢性膵炎の病態の詳細を明 らかにするのみならず、その根本的な治療法の開発に重要と考えられる。 これまでの生理学的な知見では、膵導管細胞からのHCO3-分泌メカニズムとして主に管腔膜 のCl-/HCO3-交換輸送体を介した機序が考えられている。膵導管細胞管腔膜にはCFの原因遺伝 子であるCystic Fibrosis Transmembrane conductance Regulator (CFTR)クロライドチャネルが存 在し、細胞内のCl-を管腔内へ分泌する。分泌されたCl- は、同じく管腔膜に存在するCl-/HCO3交換輸送体により細胞内に再吸収され、Cl- と交換にHCO3- が管腔内に分泌される。我々が本 研究を開始する以前、膵導管細胞に発現するCl-/HCO3- 交換輸送体分子は明らかではなかった が、2001 年にSoleimaniらにより膵臓に発現するCl-/HCO3- 交換輸送体として、SLC26A3 と SLC26A6 が同定された。我々はこれらのSLC26 交換輸送体分子を用いてCFTRとの機能連関 について検討したところ、古典的なCl-/HCO3- 交換輸送体であるAE family分子ではなく、 SLC26 交換輸送体分子のうちSLC26A3、A4、A6 による陰イオン交換輸送活性はCFTRの活性 化により著明に活性化されることを発見した。さらにこれらのSLC26A輸送体ファミリーは CFTRによって活性化されるのみならず、SLC26 分子自身がCFTRのクロライドチャネル活性 を逆に活性化することを見出した。SLC26 ファミリーの分子に共通する細胞内ドメインであ るSTAS (Sulfate Transporter Anti-Sigma Factor Antagonis)ドメイン単独でもCFTRクロライドチ ャネル活性を調節する働きがあり、CFTRとSLC26 exchangerは機能的な連関のみならず細胞内 で相互に密接に関わっていることが推察された。 今後、SLC26 交換輸送体および CFTR の機能解析がさらに進めば、嚢胞線維症のみならず 種々の CFTR 関連疾患の病態の更なる解明、治療法の開発などが期待される。 参考文献 1. Ko SB et al.,.EMBO J. 2002, 21:5662-72. 2. Ko SB et al., Nat Cell Biol. 2004, 6:343-50. CFTR 陰イオンチャネル -重炭酸イオン輸送経路としての生理学的重要性とその分子生理学大阪医科大学・生理 相馬義郎 Cystic Fibrosis Transmembrane conductance Regulator (CFTR) は,呼吸上皮、膵導管上皮お よび精巣体・輸精管などに発現して、陰イオンチャネルとしての機能および他のイオンチャネル やトランスポータのコントロールを行っている多機能膜蛋白である。この CFTR は、これらの輸 送上皮の管腔側膜に発現して、塩素および重炭酸などの陰イオンの管腔内への主要輸送路を形成 するとともに、管腔内イオン環境の主要調節点になっている。 CFTR 機能不全では上記の輸送上皮の分泌機能が障害され、慢性気管支炎、消化不全および 男性不妊を引き起こし、特に CFTR チャネルの管腔側膜における発現自体が阻害される∆F508 変 異の患者の大部分は 20 代後半までに呼吸不全で死亡する(嚢胞繊維症 Cystic Fibrosis; CF)。CF を引き起こす CFTR 変異については数多くのタイプが報告されているが、イオン透過機能を障害 するタイプの CF 臨床症状の重症度が、塩素イオン透過性ではなく、重炭酸イオン透過性の障害 程度と相関すること、また近年、CFTR のイオン選択性が動的に変化しうるという報告があった ことから、CFTR の重炭酸イオンチャネルとしての機能の生理学的重要性がクローズアップされ てきている。 CFTR は分子全体の高解像度での結晶構造がいまだ得られておらず、イオン選択透過のメカ ニズムはおろか、原子レベルでのポア構造の詳細すら不明である。そこで我々は、点変異導入さ れた CFTR のチャネル電流のポアブロッカーによるブロッキングキネティクスやシステインスク リーニングを用いて、CFTR チャネルポアの機能的構造の研究が行なっている。その結果、CFTR チャネルポアは疎水性の大きな空洞を持ち、しかも非常に柔軟性に富み、その構造を大きく変化 させうることが示唆された。これらは、同じ 12 回膜貫通型蛋白分子である p-glycoprotein との 期待される共通な性質であると同時に、CFTR チャネルポアが異なったイオン選択透過モードを 持っている可能性をうらづけている。 また、異なった方向からのアプローチとして、代表的な重炭酸分泌上皮である膵菅上皮での 重炭酸分泌システムにおける CFTR コンダクタンスの役割についてコンピュータシミュレーショ ンを用いて検討した。その結果、従来報告されてきた CFTR チャネルの重炭酸イオン透過能では、 150 mM にも達する高濃度の重炭酸イオンを含んだ膵液の分泌現象を説明することが難しいこと が明らかになった。 CFTR チャネルは、ATP の結合・加水分解・解離というサイクルにしたがってチャネルの開 閉を行うという輸送性 ATPase に似た、大変めずらしいゲート開閉機構を持つ陰イオンチャネル でもある。本研究会では、CFTR 分子の持つユニークな機能構造とその重炭酸イオン輸送経路に おける役割の可能性について述べてみたい。 膵導管細胞におけるHCO3-分泌とcarbonic anhydrase 名古屋大学大学院医学系研究科 健康栄養医学、病態修復内科学 国民健康保険 坂下病院 石黒 洋、濱田広幸、山本明子、後藤秀実、成瀬 達、近藤孝晴 【目的】膵導管細胞は高濃度のHCO3-を分泌するため、細胞内のH+の分布に差が生じる可 能性がある。carbonic anhydraseは、膵臓では導管系に豊富に存在し、HCO3-分泌への関与 が推定されている。今回は、膵導管細胞内のpH勾配、水とHCO3-分泌に対するcarbonic anhydrase阻害剤の効果を検討した。 【方法】ハートレイ系雌性モルモットから膵を摘出、コラゲナーゼ処理し、実体顕微鏡下で径 100∼150 µmの小葉間膵管を単離した。(1)SNARF-1 を負荷し、表層をHCO3--CO2緩衝液 で、管腔をHepes緩衝液で灌流し、共焦点レーザー顕微鏡を用いて細胞内pH(pHi)を測定 した。(2)一晩培養して両端が閉じた膵管の管腔を二重管マイクロピペットで穿刺した。管腔 内の分泌液を、pH感受性色素BCECF-dextranを含むHEPES緩衝液に置き換えた。管腔内 pHを測定するとともに、蛍光画像を 2 値化して管腔容積を算出し溶液分泌速度を求めた。 carbonic anhydrase阻害剤として、細胞膜透過性のあるethoxzolamideおよび非透過性の F3500(Florida大学Maren教授より)を用いた。 【結果】(1)dibutyryl cyclic AMPによりHCO3-分泌を刺激し、同時に、表層灌流液中の[Na+] を除くことにより細胞内へのHCO3-の取り込みを止めた。導管細胞のpHiは基底側、管腔側と も同程度に(約 0.3 pH unit)低下した。carbonic anhydraseの阻害剤であるethoxzolamide(0.1 mM)の存在下に同様の実験を行うと、基底側のpHiの低下(15 分間で 0.43 ± 0.07 unit、 mean ± SE、n = 4)に比べて、管腔側のpHiの低下はわずか(0.11 ± 0.05 unit、p < 0.01)であ った。(2)表層灌流液にethoxzolamideを加えると、HCO3-依存性の基礎分泌(1.50 ± 0.15 nl min-1 mm-2、n = 4)は 84%(p < 0.05)抑制され、forskolin(adenylate cyclaseの刺激物質、1 µM)刺激による溶液分泌(2.75 ± 0.18、n = 4)は 40%(p < 0.05)抑制された。管腔内に F3500(1 mM)を注入すると、表層灌流液にHCO3--CO2を加えた時の管腔内pHの低下は抑 制されたが、forskolin刺激による溶液分泌は抑制されなかった。 【結論】膵導管細胞において、carbonic anhydraseは、HCO3-輸送時に出現するpHi勾配を緩 衝していると考えられる。膵導管細胞内のcarbonic anhydraseは水・HCO3-分泌に重要な役 割を果たしているが、管腔内のcarbonic anhydraseは水・HCO3-分泌には関与していない。 植物アクアポリンと水/重炭酸イオン/炭酸ガス輸送 前島正義(名古屋大学生命農学研究科) 光合成は植物を特徴づけるもっとも重要な機能であり、二酸化炭素はその出発物質で ある。葉の気孔から入ったCO2の多くは、carbonic anhydraseの働きによりHCO3-のイオ ンとなる。下図のように、葉緑体内ではCO2に再変換され、カルビンサイクルのribulose bisphosphate carboxylase(Rubisco)の基質として利用され光合成経路に入る。溶解度 の低いCO2は単純拡散で膜を通過すると考えられていたが、細胞膜局在型アクアポリン (PIP)がCO2輸送機能をもつことが発表(Uehlein et al. 2003, Hanba et al. 2004) されてから大きな関心を集めている。こ の点は半場さんが詳述される。 植物は、乾重量 1g分の成長のために 50 (CAM植物)∼950gの水が必要である。し たがって水チャネルの機能はCO2 と水の 輸送の両面で必須と言える。この水チャ ネルの機能がpHの影響を受けることも知 られている(Tournaire-Roux et al. 2003) 。 炭酸イオンは細胞内pHにも影響を与え、 CO2や水輸送に影響する可能性もある。こ れらの知見は他研究グループによる成果 であるが、その概略を紹介したい。 我々は植物アクアポリンの構造-機能 協関を解明する中で、分子中の1アミノ酸残基の変化が水チャネル機能を大きく変える ことを見出している(下図)。これらの知見と、植物アクアポリンの分子構造、機能、 局在の多様性に関する最近の知見を紹介したい。 オオムギアクアポリン HvPIP2;1 を過剰発現させた形質転換イネ葉での二酸化炭素拡散と 光合成速度の上昇 半場祐子1、柴坂三根夫2、林泰行3、早川孝彦3、笠毛邦宏2、寺島一郎4、且原真木2 1 京都工芸繊維大学、2 岡山大学資源生物科学研究所、3 ブリヂストン研究開発本部、 4 大阪大学理学研究科 高等植物が光合成をするとき、二酸化炭素は葉の外部から葉の内部の葉緑体まで主に拡 散によって移動する。葉の内部における二酸化炭素拡散速度は内部コンダクタンスとよば れ、光合成速度を強く制限する。しかし、内部コンダクタンスを決定する因子は十分には理 解されていない。動物細胞と同様に植物でも二酸化炭素がアクアポリンを透過することが 分かっており、アクアポリンの存在は内部コンダクタンスに影響を与える可能性がある。オ オムギアクアポリン HvPIP2;1 を過剰発現させた形質転換イネを用いて、アクアポリンのレ ベル変化が内部コンダクタンスを増加させるかどうかを検証した。内部コンダクタンスの測 定は、著者らが制作した装置を用いて、光合成測定と安定同位体比測定とを組み合わせ た方法により行った。形質転換により様々なレベルのアクアポリンをもつ個体が得られた。 HvPIP2;1 が 40%増加している形質転換イネの個体では、内部コンダクタンスが 27%(図1)、 光合成速度が 14%上昇していた。一方 HvPIP2;1 が抑制されている個体では内部コンダク タンス・光合成速度ともに減少する傾向がみられた。これらの結果は、内部コンダクタンス の決定因子としてアクアポリンが重要な役割を果たしていることを示している。また HvPIP2;1 が増加している植物個体は葉の内部形態にも明らかな変化がみられ、乾性形態 となっていることが分かった(図2)。HvPIP2;1 増加が葉からの水分損失の増大をもたらし、 葉の形態変化を生じさせている可能性がある。 図2 野生型と HvPIP2;1 が増加した 個体の葉の内部形態。 図1 アクアポリン HvPIP2;1 の量と形質転換イネの内部コンダク タンスとの関係。HvPIP2;1 の量はコントロールであるチトクロム c に対する相対値で示してある。Wild-type は野生型、Tr6322 お よび Tr6360 は系統を示す。L は HvPIP2;1 の増加がみられなか った個体を、H は HvPIP2;1 が増加した個体を示す。 「CO2が海産生物に及ぼす影響: 大気中からの拡散による長期影響と海洋隔離によ る短期影響」 石松 惇・林 正裕・栗原 晴子・李 京善*・吉川貴志**・喜田 潤** 長崎大学環東シナ海海洋環境資源研究センター、*木浦海洋大学校(韓国)、**海洋生物環 境研究所 水生動物は陸上動物に比して、外部環境のCO2濃度上昇の影響を受け易い。水生動物で は体液Pco2がわずか数mmHgであり、環境水のPco2が上昇した時、環境水―体液間のPco2勾 配は容易に逆転し、環境水中からCO2が体内に拡散する。 大気中からのCO2拡散 大気中のCO2濃度は、産業革命前の 280 ppmv (parts per million by volume)から 2004 年 終わりには 378 ppmvへと上昇している(NOAA News)。化石燃料起源のCO2は海洋に吸収さ れ続けているが、温暖化が水生生物に及ぼす影響に関してはすでに様々な研究がなされて いるものの、CO2 自体の影響についてはほとんど調べられていない。われわれが最近行った 実験では 2300 年に予想される大気中CO2濃度(1900 ppmv)に曝露したイソスジエビは 15 週間 以内に 35%の個体が斃死しており(対照区 5%)、成長も有意に低下した。また今世紀末に予 想される濃度(560 ppmv)でも貝類・ウニ類や植物プランクトン・サンゴの成長に影響が見られ たとの報告もあり、海洋生態系全体に対する影響が、大気中CO2濃度の上昇自身によっても 将来起こるであろうことが懸念される。 CO2海洋隔離 最近、地球温暖化の防止対策の一つとして検討されているCO2の海洋隔離の生物影響評 価を目的として、この方面の研究が始まりつつある。CO2の海洋隔離方法のうち現在最も実現 可能性のある技術として検討されているのが、海洋中層、深度 1,500∼2,000mの海域に移動 する船舶から液化CO2を放出し、希釈溶解させる方法である。しかし、この対策が実施された 場合、局地的には非常に高いCO2環境が形成されることがモデル計算によって指摘されてお り、海洋生物が何らかの影響を被ることは避けられない。海洋隔離の影響研究を行う際には、 隔離が想定されている中層に生息する生物の実験材料とすることが望ましい。われわれは、 最近日本海の水深 300m以深に生息する魚類を実験に使い、この課題に取り組んでいる。日 本海では冬季、水深 300m以深に棲む深海魚が生きた状態で漁獲され、これらの魚類を(財) 海洋生物環境研究所柏崎実証試験場に輸送し、低水温下でのCO2曝露実験を行っている。 また一部は(財)地球環境産業技術研究機構に輸送し、高圧チェンバーを用いたCO2曝露実 験を試みている。 腎近位尿細管細胞におけるHCO3-輸送について 大阪医科大学 生理学ユニット 窪田 隆裕 糸球体で濾過されたHCO3-の 8-9 割は腎近位尿細管で再吸収されている。その 再吸収は、主として管腔膜のNa+/H+交換体と側基底膜のNa+-3HCO3-共輸送体の働 きにより行われていると考えられている(図参照)。 本研究では、近位尿細管細胞の管腔側のNa+/H+交換輸送とNa-3HCO3-輸送の関係 を調べるため、イオン微小電極法やアクリジンオレンジ蛍光色素法を食用蛙の 潅流腎とスライス腎に適用し、db-cAMPの作用を検討した。 1)血液側からのdb-cAMP(10-4 M)を投与は、管腔液のpHの上昇、細胞質Na+濃度 の低下、細胞質pHの上昇と同時に側基底膜を過分極させた。 2)しかし、血液側pHを 7.7 から 6.7 へ低下(HCO3-の濃度を 1/10 にする)させ る事による側基底膜の脱分極の大きさは、db-cAMP存在下で抑制されず、却って 増強された。このことは、db-cAMP投与による細胞質のアルカリ化は、Na+-HCO3-輸 送機構の抑制によるものではないと考えられた。 3)スライス腎にて、db-cAMP投与は尿細管細胞内の小器官である酸性小胞のア クリジンオレンジの蛍光を増強させた。このことは、db-cAMP投与による細胞質 pHの上昇には細胞内酸性小胞へのH+の取り込みが関与している可能性を示唆し ている。 4)以上のことから、腎近位尿細管におけるHCO3-再吸収過程には、管腔側のNa+/H+ 交換輸送と側基底膜のNa-3HCO3-輸送のみならず、細胞内酸性小胞が関与してい ると考えられる。 ラット耳下腺導管の重炭酸イオン輸送駆動機構 広島大学大学院医歯薬学総合研究科病態探究医科学講座口腔生理学研究室 広野 力 グラミシジン穿孔パッチ法を用いると従来のホールセルパッチクランプ法で は不可能であった細胞自体のイオン産生・輸送能力を反映したHCO3-分泌やCl分泌を電流として測定できる。我々はこれまでこの方法を耳下腺導管細胞に適 用し、Ca2+シグナルやcAMPシグナルで炭酸脱水酵素により細胞内で産生された HCO3-がClチャネルを介してイオン電流として分泌されることを単一細胞レベ ルで示した。ここではHCO3-分泌時の駆動力について検討した。 各イオン電流の駆動力はそれぞれのイオンの細胞内外のHCO3-, Cl-, K+濃度比 で決まる平衡電位と膜電位の差である。膜電位を−80mVに固定し、Ca2+シグナ ルとしてカルバコール(CCh)を用いるとCChの濃度依存的にチャネルコンダ クタンスは変化し、細胞の個体間の差によるコンダクタンスの違いもあるが各 イオン電流の合計である膜電流の逆転電位から推定した膜電流の駆動力は一部 の例外的な細胞を除けば数mVであった。外液のCl-の除去やチャネル阻害剤の添 加により各イオンコンダクタンスの比を推定し、細胞内のCl-やK+の濃度が一定 で平衡状態にあると仮定すると、そこからHCO3-のみの駆動力を求めることがで きる。HCO3-,とCl-のコンダクタンス比は約1:3でK+のコンダクタンスへの寄 与は無視できるほど小さく、分泌刺激時のHCO3-駆動力は 10~20 mVと推定され た。Ca2+シグナルによりこの駆動力とチャネルの開口が維持されて分泌が持続 すると推定される。 膜電位固定下ではK+などの陽イオンが細胞からグラミシジンポアを通って電 極内に流入することによってチャネルから流出する陰イオン電流と打ち消し合 い細胞内の電気的中性が保たれる。一方、電流固定モードで細胞は分泌刺激で 脱分極し膜電位がHCO3-の平衡電位に近づくので、生体内ではK+がチャネルな どを通って流出することにより、膜電位を−側にある程度深く保つことがHCO3の駆動力を維持するのに必要であろう。しかし、耳下腺導管細胞では阻害剤の 実験からK+コンダクタンスが小さいと推定されるので、生体内で電気的中性を 保って充分な量のHCO3-を分泌するためには、従来考えられているようなHCO3と同時にK+がK+チャネルより細胞外に放出される機構によるだけではなく部分 的にはCl-がHCO3-と交換して電気的中性を保っている可能性がある。Cl-/HCO3の交換機構としてはラット耳下腺導管ではCl-/HCO3-交換体の機能は顕著では ないので、脱分極時にCl-チャネルでCl-とHCO3-の交換が起こっていると推定さ れる。 Duodenal CO2/H+ cycle, HCO3- secretion, and CO2/H+ absorption. Yasutada Akiba and Jonathan D. Kaunitz West Los Angeles VA Medical Center, CURE/UCLA, and Brentwood Biomedical Research Institute, Los Angeles, CA 90073, USA Duodenal bicarbonate secretion is the most studied and most well-accepted mucosal defense mechanism against luminal acid. Bicarbonate secretion is thought to neutralize luminal acid, preventing mucosal acid-induced injury. Despite the importance of secreted HCO3-, we have proposed that intracellular HCO3- is also an important defense mechanism, since the inhibition or dysfunction of CFTR, the main HCO3- exit pathway, increases cellular buffering power and prevents acid-induced cellular acidification and injury, eventuating in duodenal ulceration. Furthermore, luminal acid and secreted HCO3- produce an extremely high pCO2 luminal environment (> 200 Torr), which also may be injurious. Epithelial cellular acidification in response to luminal acid or CO2 triggers mucosal defense mechanisms. The duodenum is also the main locus for the absorption of gastric H+ and the CO2 generated by its titration of secreted HCO3-. The mechanism of H+ and CO2 entry into duodenal epithelial cells and transport through the mucosa is still unknown. Since cytosolic and membrane-bound carbonic anhydrase (CA) activities are abundant in the duodenal epithelium, we hypothesized that CO2 generated from luminal H+ and secreted HCO3- diffuses into epithelial cells, serving as a surrogate carrier for cellular H+ entry. In a perfused duodenal loop, CO2 loss during luminal high CO2 exposure, and H+ loss during luminal acid exposure are accompanied by epithelial intracellular acidification. This acidification is followed by portal venous acidification and pCO2 increase, and are inhibited by cytosolic and extracellular CA inhibitors. Furthermore, luminally applied 13 CO2 appears in portal venous blood by a CA dependent mechanism. All data suggest that cellular acidification occurs via CO2 diffusion rather than by H+ permeation into the cells and that cytosolic and extracellular CAs cooperatively facilitate CO2/H+ absorption from the lumen into the duodenal mucosa by local cycling of CO2/HCO3- using the Jacobs-Stewart cycle. ヒト気道分泌腺細胞におけるヌクレオチド誘導性HCO3- 輸送のCa2+-activated K+ channelによる調節 名古屋大学大学院医学系研究科機能調節内科学 伊藤 康 【目的】気道表面におけるアニオン輸送(Cl-およびHCO3-輸送)においては、主に気道 分泌腺細胞が中心的な役割を果たしている。このアニオン輸送を維持するためには、 細胞外ヌクレオチドが重要である。すなわち、気道分泌腺細胞は、細胞外ヌクレオチド 受容体への刺激を受けると、cAMPやCa2+などのsecond messangerを介した機序でア ニオン輸送を引き起こす。本研究では、ヒト気道分泌腺細胞モデルを用いて、ヌクレオ チド誘導性アニオン分泌の調節におけるCa2+-activated K+ channel (KCNN4)の役割に ついて検討した。 【方法】アニオン輸送の測定は、membrane 上に Air-interface 法で単層培養したヒト気 道分泌腺細胞(Calu-3 cells)を用い、voltage-clamp 法で測定した。 【 結 果 】 RT-PCR 法 お よ び 薬 理 学 的 手 法 に て 、 ATP 受 容 体 と し て P2Y1 が 、 ま た 、 adenosine (Ado)受容体としてA2Bが、同細胞に選択的に発現されていることを確認した。 同細胞を気腔面からATP, ADP, AMP, Adoのヌクレオチドによって刺激するときに生ず るアニオン電流は、ATP/ADP typeとAMP/Ado typeの2つに分類された。選択的P2Y1 antagonist (MRS-2179)で抑制されるATP/ADP typeの反応は、細胞外Cl-除去により、 強力に抑制された。一方、AMP/Ado typeの反応は、ATP/ADP typeの反応に比し、細 胞外HCO3-除去によってより強く抑制された。ATP/ADP typeの反応は、AMP/Ado type のものと異なり、選択的KCNN4 阻害薬charybdotoxinにより抑制された。Gsを介すると 思われるAMP/Adoの反応は、8-bromo-cAMP刺激によるものとほぼ類似したパターン を 呈 し た 。 AMP/Ado/8-bromo-cAMP に よ る HCO3- 輸 送 ( D NDS 感 受 性 電 流 ) は 、 1-EBIO (KCNN4 開口薬) 存在下では、Cl-輸送(bumetanide感受性電流)に置換され た。 【まとめ】細胞外ヌクレオチドによるアニオン輸送においては、ATP/ADP(KCNN4 依存 性ヌクレオチド)に比し、AMP/Ado(KCNN4 非依存性ヌクレオチド)がHCO3-輸送に深 く関与している。HCO3-輸送は、基底膜上のKCNN4 活性化による細胞膜過分極を伴う と、DNDS感受性Na+-2HCO3—輸送体(NBC1)の機能が抑制されることにより、減少す る可能性が考えられる。