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気違い病院

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気違い病院
る職業としての知の状況についで西部さ
の就職、さらに大きくは現代日本におけ
インタビューでは、学者の職場、大学へ
える発想に立っているわけですが、この
え、学者になることを大学への就職と考
浅羽●本書の企画は、大学を経営体と捉
ものですね。
一・五日ないし二・五日の拘束、そんな
ますと、最低の人は平均でいうと週に
ミを入れて三こまになるのかな。そうし
みたいなものがあるから授業は講義とゼ
会議でとられる。そのほかにゼミナール
どい生活をしている人もいるんだけれど
は超えますね。全員じゃない。相当しん
らしきものを持っている人がやはり半数
りする人が結構多いんで、まあまあ書斎
かとい・㌢と金持ちのお嬢さんと結婚した
になっていく傾向はありますが、どちら
学科l=ついていえば、大学の中でもとぴ
けれども、僕がいた東大教養学部社会科
西部●それは大学によってさまざまです
ですか∼
主にどういう仕事を毎日なさっているの
ですが、そもそも大学の先生というのは、
八年間、大学の先生をやってらしたわけ
なるまで、横浜国大での三年を入れて十
ないで家にいる人が多いですけど、それ
て読むとかに使っている。研究室には来
書人なら三時間で読める本を一週間かけ
験なんかに研究室を使ってますけれども、
に来るという人は、自然科学系は結構実
究室に来る。そうでなくて、研究のため
は、外部との連絡・折衝に使うために研
る人がいます。世間的に活躍している人
人によってはそれ以外にも研究室へ来
浅羽●で、そんな実質週休五日半の労働
一生春物を書かない人もいるしわ。
に一ないし二冊書く、そんな程度です。
すごく無駄なこと − たとえば普通の読 科 書 ま が い の 本 も ふ く め て 平 均 し て 生 涯
文科系はだいたい昼寝tているか、もの
で、サラリーは平均どのくらいなのです
執筆するといっても、ほとんどの人が教
奥さんの手前もあるしわ。書斎で著書を
かっこうがつかないでしょう。やっぱり
いのよ。そうでもしないと、家庭の中で
これは冗談や暗喩で言っているんじゃな
ぷんその人たちは寝ていると思います。
も。書斎で何をしているかというと、た
んにお聞きしたいと思います。
きり仕事が楽なところだったと思うんで
l︰は自宅研修という制度があってね、一
授業は最低過ここま。それから合議が
ルをでたらめでも出しておけば、家で研
応、文部省に自宅研修というスケジュー
西部●僕の月給は、去年、四十八歳のと
髄 西部さんは昨年・自ら東大をお辞めに
す。
二週間に一日かな。教授会もあタますが、
きで年収の総トータルが税込みで八百二
十万から三十万円だったのかな。その程
究していると認められるんです。
おおよその学者連中は、だんだん貧乏
だいたい過一日ですね。科の合議とか全
体会韻とかで、二週間に一度、よる一日
251
度です。
浅羽●なんともうらやましいというか、
気楽な稼業といいますか︵笑︶。
僕自身は大学芙学院で
浅羽●肇としての人間的交流ですね。
西部●そう。僕自身は高校以来、ほとん
ど授業というものを聴いたことがない。
大学や大学院では出たこともない。僕は
それで何の不便も感じなかったし、勉強
浅羽●西部さんは寝てはいらっしゃらな
世の中の役にも立たないし、自分にも役
会論みたいにもつたいつけて言おうとい
ね。これは決してイリイチの脱学校化社
て い く わ け で し ょ う 。 そ れ に 、 も と も と すから。そういう習慣と覚悟さえあれば
なんてやる気があればできるはすなんで
かったでしょうが、そうしたお仕事を二
に立たないことが多いんですよね。
授業というもりに出方ことがないんてす
十年近くやってこられて、やりがいがあ
とは体育は別にして、あと残りの知育と
ことがない。はかでも書いたけど、教育
西部●僕はいわゆる警というのはした
り教育ですか∼
教育なんかじゃなくさりげなく伝える。
すが、生き方1というのか − を道徳
う一つは僕はそれを徳育と呼びたいんで
枠として。これはたしかに重要です。も
させること。内容ではなく形ですね。外
いんですよ。一つは、考える習慣をつけ
ですか∼
れは具体的現場としてはゼ、、、ナールなど
交流を持つことだと言われましたが、そ
る習慣をつけることと、何らかの人間的
浅羽●さきほど知育で可能なのは、考え
としでは何も学べない。そんな感じだな。
して、学校の教育それ自体からは、内容
うのではなくで、ごくごく素朴な経験と
讐でしょう。知育については義務です
それにはプラスとマイナスとがあって、
だから知育の役割は二つくらいしかな
から僕も救えましたけど、立派な大層な
?たと思える仕事はありますか∼ やは
ことを教えたという気はないし、教わっ
う。何だかんだいいますと、結局は実質
西部●いや、ゼミナールもだめね。学校
な、ということも含めで、間接的な、人
一時間lこなるんですよね。遅刻や雑談で。
反面教師的に、ろくでもない先生が多い
格的接触を通じて、生き方を、いろいろ
一時間で交流も何もないですよ。本当の
たほうもそんな気はないと思う。実際、
んですよね。特に社会科学なんか、たと
な意味で学ぶルートにはなるんです。
ので、いかにして教えられるものなので
のシステムは一こま一時間三十分でしょ
えば十年間正しいと患われていた理論が、
でやって、その後、酒場に入って、深夜
しょ,つ。
知育というのはどらノしょうもないものなけれどもああこんな生き方はしたくない
おかしいんじゃないのと簡単に捨てられ
までずっとやってましたけど。大学のシ
西部●それも学校の一時間ちょっとの授
そういうところでないとだめですね。僕
ステムの中の紋切型のゼミではね、ゼロ
業では無理ですね。でも酒場まで来ると
交流というのは、飲み屋とか喫茶店とか
はゼミナールも結構長時間やっでいたん
ではないけど無理ですよ。
僕はかなり議論をやったんです。テーマ
ですけどね。そのかわり毎週はやらなか
った。何題かにいっぺん、畳から夕方ま
は学閥ではなくでたとえば女の問題でも
何でもいいんです。新開報道でもね。さ
りげない議論の中で、ある問題をどう議
人は何年かに一人いるぐらいでしょう。
きればいいけど、本当に面白いなと思う
カッションのルールとかマナーとか覚悟
好きじやなかっ■たんですけども、ディス
り綿密にやったんですね。あまり争論は
論すべきかということについては、かな
浅羽●やはり習慣とか生き方というもの
ちょっと教師のほうも疲れますよね。
ーもともと大学に残る入り
平均値というのは、世問が怖い人たきね
は、時間をかけた接触によってはじめて
西部●僕は東大生しか知らな十けど、も
意級的に求めていた∼
自身がやはりそうした梼極的交流の場を
集めていらしたわけですが、西部さんご
深夜まで飲むスタイルで、学生の人気を
い。そのなかで西部さんのゼミは酒場で
いから。
持ちは強くありますね。こっちも学びた
から何年かに一人でも接触交流したい気
んじゃないかということなんだけど。だ
自分が筆の上というか仕事の上で間違う
ちの気分や生態をわかっておかないと、
いう素直な気持ちがあってね。若い人た
うような人たちに対しては、僕はそうい
というか将来、学者で食べていこうと思
西部●じっは自己宣伝すると、大学院生
はいかがでしたか∼
浅羽●そうした西部さんの知育の手応え
分で書けばいいんですよね。
ていれば、あとは各自が書物を読んで自
会科学方面はそういうルールが身につい
れが知のフォームですね。逆に言うと社
とかについてはずいぶんやりました。そ
のすごく割が悪いですよ。面白い学生は
浅羽●なるほど。それと考える習慣とい
でも基本的には僕は後生おそるべしと
十人に一人もいない感じでしょう。せめ
うのは、もっと具体的に言うとどんなも
ものがそうした等に本質的になじまな
伝わるものなんですね。時間別制度その
て何人かそういう学生がいてわいわいで
252
258
う教育について自信があったんです。と
ころが僕が東大に来て救え始めト∵−二
年で、みんな僕の周りに集まってきちや
った。すると就職問題が起こる。懐は学
界と綾がないどころかけんか売ってる。
学者はだいたい、学界の人脈で職が決ま
?てゆくわけでしょう。だから彼らは職
がなくなる。だから僕は参っちやって、
よほどの場合でなければ遠慮することに
したんです。下手すればその人の人生が
だめになるわけですから、とても侯には
責任が持てない。
ただ幸いにも、最初に僕が担当した人
たちは、いわゆる二渉二流大学ですが、
四苦八苦して就職して、学者として立派
な仕事をやっていますね。
浅羽●そうしますと、普通の学部学生以
外に、学者を育てて就職を世話すること
も大学の先生の仕事のひとつであるわけ
ですね。
西龍●東大の先生に特に顕著なことかも
しれないですけどね。やっぱり大学院の
クラスを持ってるでしょう。ただ、気持
彼らはいったいなぜそうなるんでしょ
んですか∼
がいますね。それから、まっとう候補と
いと片手落ちで、一割はまっとうな先生
西部●それはいるんです。それを言わな
西部●それにはいろんな理由があるけれ
ちのうえでは、そちらの方が仕事として
ども、簡単にいえばもともと大学に残る
浅羽●そのまっとうな人たちがその他大
ウエイトが重いですよ。学部の大教室の
毒症的、そういう気質の人が多いわけ
勢と違ってまっとうでいられたのは、ど
いうのかまあまあいいやというのが二割
びその周辺で生きようとしている青年た
ですよね。分野にもよりますけども、二
こが分岐点になったのでしょうか? 西
授業なんて本当に教育マシーンですから、
ちとのつき合いの方が、負担感としても、
十代から三十代の半ばぐらいまでは、そ
かな。それも含めて三割ぐらいは、世間
意気込みとしてもずっと強いものがあり
う し た ち ょ っ と 歪 ん だ 気 質 を う ま く 利 用 部さんのように、学生運動に関わって普
人の平均値というのは、世間が怖い人た
ますね。
の場を持てたとかですか。それとも生ま
り の ア ウ ト プ ッ ト を 出 す と い う こ と も 可 を送ったとか、ジャーナリズムでも活躍
して、細かな勉強にこ梢を出して、それな
れつきの資質とか。
ちですよね。具体的にいうと、人とあい
浅羽●今、大学院教育というか学者を育
能なんです。でもそれが可能なの旦二十
西部●よくわからないし、人それぞれだ
どんなに芸を凝らしても、たかが知れて
てる教育というお話が出ましたが、大学
半ばまでですね、平均値で言うと。それ
にも通用したり、あるいは世間を超えた
院を出て学者へと育ってゆく人たちとい
を過ぎるともう何も出てこない。やっぱ
と思うけど、僕自身は生まれつきおかし
さつするのが怖いというか、対人恐怖症
うのは、西部さんがよく引かれるヴァー
り歪みは歪みにすぎない。そして、いっ
な少年だ?たし常私人ではなかった。生
ますし。それに比べれば学者を目指す1
ジニア・ウルフの言葉で﹁大学というと
ぱしの地位が身につくころには、内容的
まれつきの問題にはしたくないんだけど、
りという人がいるんです。
ころはストランド通り︵ロンドン繁華街︶
には本当にダメな、どうしようもない代
というか、要するに自閉症的、分裂症的、
に出て生存競争にさらされたとしたら直
ならばやはり世間を知らないということ
流れていく場合も含めて、何か学問およ
ちに退化してしまうような珍種の生き物
物ができあがる。おそるべきことです。
じゃないかな。
・−途中ではずれてどこか民間の研究所に
を保存している聖域である﹂と風刺され
浅羽●おそろしいですね。例外はいない
通の学者志望の秀才とは異質の学生時代
ている﹁珍種﹂にあたるわけですけど、
255
西部氏(左)と浅羽氏
学者が貿管を
ぬるま湯的な麻薬のように何かを麻輝さ
せちゃうのかなと思う。
浅羽●彼らはいわば東大教授という看板
何もせずにいられるのは、要するに自分
っせと書いたり、退屈な講義をするはか
平均値で一・五人しか読まない論文をせ
大学院生なんかを横目で見てて思うのは、
浅羽●さきほどからのお話を伺ったり、
大のプロフェッサーだという看板があっ
でいられるのかなと考えると、自分は東
不安がない人が多いのね。なんでそんな
人生だと不安にかられるでしょう。その
ずに死ぬのはいかにもむなしい、寂しい
じゃない。それを一・五人l︰しか知られ
いると、女の人生の破滅でしょう∼ 頭
ら、あの手の男たちと夫婦生活を送って
しても言いたくなる。まともな女でした
のは奥さん連中じゃないかと、僕はどう
西部●そうですね。そこまでくると悪い
ちなんでしょうね。
デートルのすべてがまかなえちゃう人た
だけで自分のアイデンティティとレゾン
のやること王手応えがなくても平気で生
て、東大のプロフェッサーは不滅ですと
l︰来るはすです。ところが頭に来ない女
沈黙の行が始まるんですね︿会話の種がないわけだよね
きていられる人なんですね。社仝性があ
いう虚構が結構頚にしみついてしまうお
いだから、ああいうつまらない場所に私
るというか世間にちょっとでも出たこと
さきほど言ったように、大学の先生は
を誘い出すのはよしてくれ﹂だからね。
とうまい具合に結婚することが多いんだ
時間的に自由だけど、自由で何もしない
浅羽●でも、彼らの看板である東大教授
かげなのかなと、僕が東大しか知らない
ないというか、死ぬということを考えな
というのは最大の苦痛ですからね。その
のある人間は、手応えが返ってくる喜び
いんじゃないかな。あれはやはり大学に
苦痛l︰耐えているわけでしょう、彼らは。 の 権 威 と や ら も 、 そ ろ そ ろ 揺 ら い で い る
な、統計上は。それがまた不思議でね。
支えられているからだと息うんだけれど
し か も 耐 え で い る と い う 自 覚 も あ ま り な のではないでしょうか∼
せいもあるけど思ってしまう。そうとで
もね。普通でしたら孤独でしょう∼ い
西澤●いや、もう徹底的に揺らいでいる
を知ってるんじゃないですか。
つか死ぬなと思えば、せめて自分を身の
い。だからよほど大学数投という看板が、
やない。あんな連中にルサンチマンなど
僕のかみさんなんか、東大教授のパーテ
周りの世間にわかってもらいたいと思う
く族とか呼ばれる最近の自閉症的な若者
感じようがない。つまり彼らはそれくら
も考えなけりや解釈しうらいくらい、彼
わけですよ。でも薄々は察知していても
を思わせますね。
い惨めなんだな、人間の生き方として。
西部●だから、世間を知らないという言
明確にわかっていない。それと世間にも
西部●完全にその先駆みたいなものなん
世間の人にはとても信じられない状態で
ィに連れて行ったら、何皮目かに﹁お願
馬鹿が崖冊いるから、その連中が﹁先生、
です。だからね、僕が何か批判すると、
す。
らはひどいわけですね。
先生﹂とかつぐ。権威を馬鹿にしている
僕が東大の連中にルサンチマンを持って
い方の裏には、あの人たちは人生を知ら
人は近づかない。結局、学者の周りにお
いると思う人がいるけどまったくそうじ
らまだいいわけ。それもない。要するに、
んで、おいしい肉を食ってやってるのな
は世間話をしながらおいしい葡萄酒を飲
かないで完全に居直って、しかし内縁で
らできない。だから彼らが論文なんか書
会話ね。含蓄の凌がないわけ。世間話す
の行が始まるんですね。せいぜい退屈な
人集まるでし上う。するとほとんど沈黙
言葉がないもの。たとえば学者連中が四
にひどいの。内輪でも言葉があればよし。
重なって、彼らの内心の抑圧された不安
る事件というのは、何かの巡り合わせが
上がるしっでね。去年の僕の辞任に関わ
西部がいると合議でも酒場でも場が盛り
好かれていた。また重宝がられていた。
寂しいらしくで、僕はみんなからすごく
西部●そうでもないのです。彼もはまた
ですか。排険しようとするとか。
うな学者の存在は刺激とはならないわけ
ど一割から三割はいると言われたまっと
浅羽●そういう人たちにとって、さきほ
西部●本当にそうですよ。
ている。
がわけのわからぬ喧嘩やってるのにも似
かで世間知らずの文学青年やマンガ青年
からない.閉鎖的な同人誌サークルなん
させますね。誰た童任があるのか皆目わ
浅羽●なにか太平洋戦争開戦とかを連想
に起きたんだね。■
らないマス・ヒステリーが、一瞬のうち
ったい自分たちが何をしたのかよくわか
場が壊れるはずもないのに、彼ら自身い
な。中沢新二ひとり来ようが釆よいが駒
なのに、教授会自軍きると錯覚しているんだ
自治能力な衷ない蓋い育患鹿さん
べっか使いが棚をつくっててそれしか見
えない。
浅羽●だから内輪にしか通じない言葉だ
けをすっと使っていられるんですね。
﹁ないない尽くし﹂。
や苛立ちにポッと火がついちやったんだ
西部●いや、浅羽君が想像するより遥か
浅羽●なにか、カウチポテト族とかおた
256
257
は通り越して、完全に閉鎖的特殊社会と
浅羽●つぶしが利かないなんていう程度
かな。僕は別に外に介入して欲しいと吉
言って、自ら治める、そのせいじゃない
西部●学内民主主識とか救援会自治とか
でしきフ。一応、有名ブランドになって
を馳せてし辛フとねえ。やっぱりひどい
とは思うけど、早稲田や慶応みたいに名
けているなんて、普通の神経でできるこ
一・五人しか読まない論文を生産しっづ
浅羽●さきほども出iしたが、平均して
なくで、客観的に⋮⋮。
な。決して感情を込めて言ってるんじゃ
西部●僕はやっぱり気違い病院だと思う
て学生自治でしょう。学生の方がまだま
ができると錯覚している。学生も具似し
自分たちは立派な人間で自ら治めること
んかない気違いなりお馬鹿さんなのに、
つだと思うし。でも初めから自治能力な
くだらないところに介入されたらおだぶ
うんじゃないんです。文部省なんていう
する装置がありませんものね。ゆえに大
のもとでは、大学入試以外に人間を遠別
浅羽●やはり戦後民主主義の一元的社会
を待つしかない。
に自浄能力はないと思う。やっぱり黒船
がまた通用するんだから僕は日本の大学
生たちもプラントが欲しいわけで、.それ
しまえば、それでいいわけだからね。学
いうか⋮⋮。
とじゃないですよね。
れにひどいのはなぜでしょうか∼
られることですが、大学の場合、ケタ外
日本社会のそこここに多かれ少なかれ見
用制を採用している企業から官庁まで、
浅羽●まあ、それに顆したことは終身雇
るんじゃないかな。
らえる。それがやっぱり五割を超えてい
屈な授業をやってさえいれば、お金がも
書かない。三十五過ぎたら死ぬまで、退
派なはうなのよ。誰も読まない論文すら
制して、外国人がどっと日本の大学に来
外国人教師を雇わなければいけないと強
西部●私学は憧竹上の可能性はまだある
界になにか影響を与えうるでしょうか?
す。そうした変化は、閉塞した学者の世
ークに学生が減る傾向が予測されていま
出生率も減少して、平成四年あたりをピ
浅羽●現在、大学進学率が頭打ちとなり、
して成り立たなくなるから。
いかな。学生が来なくなると、経営体と
の方がまだ機構上は望みがあるんじゃな
り返しているわけですね。その点、私立
飲めるし、歌も歌える、ゴシップも言え
よ。ただ世間と触れている分だけ、酒も
からドロップアウトするような子を、救
・・−よともな子供たちでいまのシステム
もドロップアウトしてくるようになれば
んドロップアウトしてきて、俊秀なやつ
うすると、若い子たちが途中からどんど
すます偏差値教育的なものが進んで、そ
したら、人間たちを分類するために、ま
西龍●だと思う。だから、希望があると
者も相変わらずいつづける。
学生もいなくならず、お飾りとしての学
しなんだけどね。
えたり刺激を与えたりする、そういう人
る、冗談も言える。まだましですね。で
特に国立大学の場合は、単純生産を繰
西部●それね、浅羽君は実態を知らない
たちが出てくれば、可能性はあるかもし
たら、日本の学者たちの醜態は世間にも
も、少し本格的なこととなると変わらな
んだ。生産しっづけてるのはそれでも立
れない。僕もチャンスがあればやりたい
海外にも有名になる。そうすればやむを
いな。
争があって男たちは死を考えざるを得な
西部●やはり死を考えてない。曹なら戦
か。
うというとおかしいけど、彼らlこ何か数
んだ。
得ず自然淘汰も起こるんじゃないかな。
浅羽●やはり手応えのないぬるま湯です
でもそれは散々たる可能性だから、も
黒船ですよ。これしかない。
はや政府が極力で、大学はすべて三割は
有名人て誉至養魚化盲ずに
ジャーナリズムもひどいからねえ。
西部●うーん。糸口にはなるけれども、
になるということはありませんか∼
とで、世間が見えてくるというか、健全
らジャーナリズムの仕事をしたりするこ
学人がジャーナリズムと接触したり、自
ムとジャーナリズムがありますよね。大
通考えられるものに、大きくアカデミズ
代において、知識人の労働の場として普
浅羽●ちょっと話を広げてみますと、現
ルでチャレンジしようという意気込みが
言葉や表現というものに対して編集レベ
ションを確保してゆくかはあってもね。
それでいかに社内のステータスなりポジ
いですね。適当に売れる商品をつくって、
なると、意気込みとか理想とか、もうな
なくでね。それがある程度大きな組織に
んだ。これは決してリップサービスじゃ
1cc出版局みたいな小さな会社はいい
西部●僕に言わせると同じなんだな。1
いますか∼
ジャーナリストとつきあってるほうが苦
ただ常識人は大学よりは多いかな。僕は
たことでは、ジャーナリズムも同じよ。
なければならないことが一つもなくなっ
なこと、あるいは喧嘩腰でことに関わら
いうのはメタファーとしても、何か切実
きていますからね。男たちが − 死ぬと
になると、絶対つぶれないシステムがで
ぬかわからない状態だから︵芙︶。大組織
その点、零細出版社はいいわけ。いつ死
いと思うじゃない。いまはそれがない。
になって、やっぱり足跡を残して死にた
いでしょう。そしていかに生きるか真剣
浅羽●そのジャーナリズムのひどさとい
あるのは、やはり一割。東大と同じです
崩れてしまり呆れるほど倣慢になる人が非常に多いね
うのは、大学のひどさと比較してどう違
258
259
浅羽●西部さんは﹁剥がされた仮面二卦
労しないからね。
のだけど、有名人であることを対象化で
るのよ。だから僕も有名と無線ではない
っているときに身近な誰か、かみさんな
病なり東大病なりにかかっていい気にな
さんの問題になってくるわけです。有名
りおふくろなりがクックックッと嘲笑し
きずに溺れてしまい、呆れるほど傲慢に
簑春秋︶のあとがきで、私には庶民が味方
l ︰ つ い て い て く れ る 、 と い う 発 言 を さ れ なる人が非常に多い。現代思想とかああ
てれば、目が覚めるんだけどもね。豪の
いう方面でも臥じことがありますし。
胸のなかで嘲笑してでも、知らん顔で﹁先
ていますが、おそらくアカデミズムの知
ど出ました東大教授の看板のジャーナリ
生、先生﹂でしょ。
外に出ていけば、もうビジネスだから、
どこかで水路を通じた学問やジャーナリ
ズム版ですね。それに自分の全アイデン
の 対 極 に あ る だ ろ う そ う し た 庶 民 の 知 と 、 浅羽●その有名人病というのは、さきほ
ズムというものは不可能なんでしょうか。
浅羽●そのクックックッが庶民の知、女
の論理というものなんでしょうね。
ティティとレゾンデートルを求めるとい
■ 7 0
西部●それこそ必要なんだけど、そうい
う庶民との水路を持てる場合は本当に少
西部●そうだと思う。女たち、それはお
ふくろでもいいし、妻でもいいし、娘で
西部●同じなんです。だからやっぱり奥
ない。百人、千人に一人くらいかな。参
もいいけれども、女たちというのは、か
ないですね。十人に一人なんて絶対にい
っちゃうけどね。
になってゆく。この人がと思うような人
とかなりの部分が有名人を気取ってだめ
れなりに名が出るわけですよ。そうなる
弁もたつ、勉強もしてるので、社会でそ
うなアカデミシャンは、やはり筆もたつ、
わけですね。だからだめなんだ。
男たちに対する批評精神を失っていった
を忘れて、その分だけ男の具似をして、
その女たちがだんだん男に献身すること
ごい批評楕神を持っていたわけですよね。
じて、それを担保にして、男に対してす
って男たちに徹底的lこ献身することを通
までがね。僕も正直に言うと、少々有名
浅羽●男の方が逆に女に献身して、ちや
というのは、十人に一人はいるまつと
になればその有名を利用して食いつない
ほやする術を覚えてしまいましたよね。
理念の不在、それが学際研究の不毛を招
おける教養 − リベラル・71ツーー1の
で死んでやろう、というせこい計算はあ
自分望一日葉はすへて行動去り
いていることを批判しておられます。ま
西部●いや、あなたへのお世辞じゃない
からはもう生まれ得ないのでしょうか。
あいう知後人は現代日本の知の世界の枠
トンとか、庶民の良級につながる水路を
田国男をはじめ、福田僧存とかチェスタ
ば文体に影響を受けたと言われている柳
浅羽●西部さんの著書のなかで、たとえ
蔵だと思うんですよね。今の若い人は知
ます不思議になる。唯一の例外は宇野弘
西部●大学って何のためにあるのかます
ぅいう評価になっちゃうんですね。
浅羽●学問的菜摘という観点からでもそ
たら、みんなジャーナリストですよ。
学系の知識人を十人挙げてごらんといっ
年、記憶に残っている人文科学、社会科
ナリズムですからね。実際、戦後四十三
理論的には面白くでも全然触発されない
かリクールとか結構読んでるんですけど、
すという面がないとね。僕はガダマーと
を実践や行為の場に接触することでため
西部●それもやっぱり自分の言葉や理論
のでしょうか∼
代思想の方法は何らかの活路たりえるも
も語っておられる。こうしたいわゆる現
あるいは懐疑の方法の根源的な豊かさを
象学、言語哲学、構造主義といった認識
た同時に、今世紀に生まれた解釈学、現
けれども、これから出てくるとしたら、
らないだろうけど、マルクス経済学の。
政治的なものであることを自覚するりが知識人のはまてす
断固としてフリージャーナリスト以外に
んですよ。本当の懐疑とか解釈とかはや
ーではないけれども、たとえば加藤周一
んかジャーナリストだし、日本ではフリ
んですよね。相当な割合で。オルテガな
動をしている。戦前は逮捕されたりして
はものすごくジャーナリスティックな活
かなり長かった。でも彼だって敗戦直後
ルクス派の人びとに与えつづけた時期が
行った。あのときのヨーロッパ人にとっ
かは、一応ブラジルのインディオの村へ
のです。その点、レグィ‖ストロースなん
はり実践というか世間との接触を含むも
持った知議人が論じられてますけど、あ
は な い と 患 う 。 本 当 は こ れ ま で も そ う な 彼は一応大学人としてある種の影響をマ
も清水幾太郎も、どこぞやの先生はして
てはやっぱり実戦なんです。今の文化人
ですけどね。
できてるから何の美綺にもならないんだ
類学者のフィールドワークはシステムが
いるし、ただのアカデミシャンではない
トでしょう。丸山具男は東大法学部教授
浅羽●西部さんはあちこちで教養学部に
ただろうけど、世間的にはジャーナリス
だったけど活動の現場は徹底してジャー
260
261
だらないことでくだらない廃ぎが起こっ
一年、リクルートだとか天皇だとか、く
わけ。同じことが庶民の伝統や慣習のな
いなければ、自分自身がバーンと壊れる
てはくれない。宗教的な思いでも持って
いう場面ではどんな権威も自分を保障し
り政治的なものであることを自覚して、
それ自体一つの実戦で、そこで書くから
て、そのプロセスでいわゆるポストモダ
かにもメソッド化されていた。ポストモ
そういう政治と人生を賭けてきわどい接
ものすごく光り輝いているでしょう。さ
ン系統の人は結局化けの皮がはがれてし
ダン思想はそれに近づけたはすなのに、
デミズムと庶民知の水路は模索できない
っき僕がフリージャーナリストと言?た
まった。彼らもまたある意味でのマルク
簡単に左翼に戻っちやった。何をやって
けど。あの時代は大戦直前でしょう。非
のは、そういう意味を含めてです。
ス主義者だったというか、ホワイト新左
るのか君たち! というのが僕の気持ち
触をつづける、そういうものです。そう
浅羽●だからr悲しき熱帯﹂は小鋭l=な
翼、単なる反体制の地金が出てしまった。
なんですね。
でしょうか?
らざるを得ないんですね。
左翼的言辞を吐いていれば自分の錦の御
浅羽●まあポストモダンの担い手も大学
西部●結構むつかしい問題だけど。この
現代思想というかポストモダン思想が
旗になると思っている。反体制的言辞を
ついでブラジルに行くという感じだから、
提示した近代知への疑問というものは、
免罪符にしている。それが暴露されちや
常に混乱した世界情勢のなかで、氷をか
案外、現代の庶民が消費社会の日常の中
人かジャーナリストですからね。ニェー
ャーナル﹂だったし。
アカデミズムを持ち上げたのはr朝日ジ
っ
た
。
本当は知乱入というのは政治人のはす
で感じている実感につながるようにも思
西部●構造的には本当に同じなんです。
です。イデオロギーを持つという意味じ
うんですが。
浅羽●現代思想の本、その多くは大学内
ゃなくで、自分の言葉はすべて行動であ
あ。
マでね。新宿で洒飲んでしゃべる話だな
って。考えるといちばんやっかいなテー
西部●わからないんだよね、はっきり言
択されたのは、どういう想いからでした
勉強のために大学院に入られることを選
北後という状況のなかで、近代経済学の
お書きになっているような六十年安保敗
ンチメンタル・ジャーニー﹂︵文嚢春秋︶で
からだと思います。このあたりからアカ
動 の 世 界 も 学 界 同 様 に ︰ 閉 鎖 的 で 自 分 た ち 西部●公立、私立を問わず既存の大学lニ
浅羽●私たちの世代が見聞きする学生運
すけどね。
囲って、結局大学に職を待ちやったんで
たんです。でも子供が生まれて経済的に
ていたのを断わって、大学に引導を渡し
なと思った。東北大助教授に決まりかけ
ていたら、全共闘が暴れだして、ますい
西♯●でも三年くらいサナトリウムやっ
寺か避難所、そういうものですか。
浅羽●人生のサナトリウムとか駆け込み
戻る気は毛頭ない。ただけったいな大学
になるのはもう勘弁というお気持ちです
浅羽●現在は、ご職業として大学の先生
思う。大学の実益はそれくらいだなあ。
るのを見て、親孝行できてよかったなと
ってとか、よくわからすに素朴に青んで
の次男坊の適が東大の先生になったんだ
特に教育も受けていない親たちが、自分
とあるのは、ある種の親孝行はできる。
西部●一つ。ほとんど唯一だけども歴然
浅羽●最後に西部さんご自身とアカデミ ズムについてお開きしたいのですが、rセ
親が素朴提言んでくれたことだけだね
大学の実益?題が東大完生皆つたと・
のまっとうな一割の人が書いたものです
が、これが売れてるのは、知的ファッシ
ョンとしてだけでなく、私たち学者にな
る気などまったくない者にも日常の実感
浅羽●当時、裁判に関わっていらしで処
にしか通じない言葉を使ってる世界です
とかけったいな研究所なら、半分くらい
として納得できるところがどこかにある
罰を待つのが救いだったと書かれでいる。
が、西部さんが関わられた頃は、まだ社
足をおいでもいいかなという感じはあり
・カフ・
そこには何か社会性の回復への欲求のよ
会性というか手応えがある世界でした
ったのかな。やっぱり疲れていたんだな、
西部●正直に告白すると、やはり後者だ
たい欲求ですか∼
か?・■それとも、逆に社会から隔離され
年間、大学の先生やってで社会的に非常
は引導を渡した大学に職を持たれて十八
浅羽●西部さんが生活の必要から、心で
病院だったなあ。
西部●いや、なかった。やっぱり気違い
・カっ.
もあってね。新しい状況を必要とするか
新しい地下水を吸い上げたいという計算
ズムだけでもやはり刺激がなくなるから、
ら断わりたくないし。それにジャーナリ
を本気で始めて、協力を求めてこられた
ます。僕の知っている人がそういうこと
・か︶・
ぅなものを読んでで感じたのですが、大
あの頃。楽だったことは確かなんです。
に 得 だ っ た こ と と い う か 、 メ リ ッ ト は あ もしれないですよ。
学院進学というのも同じだったんです
そうか勉強というものをしていればいい
りましたか∼
浅羽●どうもありがとうございました。
のかと。
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