Comments
Description
Transcript
九州工業大学学術機関リポジトリ"Kyutacar"
九州工業大学学術機関リポジトリ Title Author(s) Issue Date URL Rights 流速変化が5尾で遊泳するアユの挙動に及ぼす影響 鬼束, 幸樹; 秋山, 壽一郎; 三原, 和也; 白岡, 敏 2012-11-28 http://hdl.handle.net/10228/5479 公益社団法人 土木学会 Kyushu Institute of Technology Academic Repository 土木学会論文集G(環境),Vol.68,No.7,III_239-III_244,2012. 流速変化が5尾で遊泳するアユの挙動に及ぼす 影響 鬼束 幸樹1*・秋山 壽一郎2・三原 1 九州工業大学大学院准教授 2 九州工業大学大学院教授 3 和也3*・白岡 敏3 工学研究院建設社会工学研究系(〒804-8550北九州市戸畑区仙水町1-1) 工学研究院建設社会工学研究系(〒804-8550北九州市戸畑区仙水町1-1) 九州工業大学大学院 工学府建設社会専攻(〒804-8550北九州市戸畑区仙水町1-1) * E-mail:[email protected] Partridgeはコイ科魚類の一種が2尾で遊泳する場合は特定の1尾が主としてリーダーとなって遊泳する のに対し,3尾以上ではリーダーが存在しなくなることを発見した.そのため,「各個体が遊泳特性を群れ の他の個体全てと一致させようと絶えず調整している3尾以上のグループ」が魚群であり,2尾以下は魚群 ではないという定義が定着している.鬼束らは流水中において,1尾,2尾および3尾で遊泳するアユの遊泳 軌跡を直線と屈折でモデル化し,遊泳特性を定量的に評価した.しかし,尾数の変化による3尾以上の魚群 の挙動を定量的に評価した実験はほとんど行われておらず,魚群内の尾数変化に伴う魚群行動に及ぼす影 響を評価した実験はほとんど行われていない.本研究は流速を系統的に変化させて,5尾で遊泳するアユの 挙動を解析したものである.その結果,流速の増加に伴う遊泳挙動の定性的傾向は,3尾の挙動と一致し, 5尾は3尾に比べ流速の増加に伴う個体間距離の変化が小さいことから魚群特性が強く働くことが判明した. Key Words : a quintet of ayu, node, branch, swimming speed, angle, running water している3尾以上のグループ」が魚群であり,2尾以下は 魚群ではないという定義が定着している2-4). 鬼束ら5,6,7)は1尾,2尾および3尾のアユを開水路流に放 流し,体長倍流速を0∼10倍の範囲で変化させて遊泳挙 平成18年には河川の局所的な事業であった「多自然型 動を観察した.その結果,アユの挙動が直線と屈折で表 川づくり」から,河川全体の生息環境を考慮した「多自 現できること,流速の増加に伴い上流方向の対地距離が 然川づくり」に展開され,川づくりに「どのような移動 増加すると共に屈折角度が減少することを解明した.ま をする魚類が生息するのか」を事前に把握することが必 た,3尾のアユでは1尾,2尾に比べ,最寄りのアユとの 要であり,魚類が生活史を全うするためには,種々の生 態に応じてどのような場が必要なのかを知る必要がある. 個体間距離を保とうとする特性が強いことが確認された. そのため,魚類の挙動を解明することが求められている. 以上のように魚類の挙動が解明されつつあるが,魚群 の挙動に関する研究では3尾以上のある固定された尾数 魚類は主として単独で行動する種と,主として魚群で行 で実験されていることがほとんどで,魚群内の尾数変化 動する種に分類される.まず,魚群の定義について研究 に伴う魚群行動に及ぼす影響を評価した実験はほとんど が行われた. 1) 行われていない. 兼廣ら はタイリクバラタナゴの尾数を1,2,3,5と 本研究は,流速を系統的に変化させて,5尾で遊泳す 変化させて静止流体中の遊泳挙動を観察した結果,1尾 るアユの挙動を解明し,さらに1尾,2尾および3尾で遊 および2尾の場合は各個体の遊泳軌跡および個体間距離 泳するアユの挙動と比較したものである. が不規則に変化するのに対し,3尾および5尾ではそれら 2) が安定することを示した.Partridge はコイ科魚類の一種 が2尾で遊泳する場合は特定の1尾が主としてリーダーと 2. 実験装置および実験条件 なって遊泳するのに対し,3尾以上では互いの距離を保 つことで群れが自然に形成され,リーダーが存在しない ことを発見した.そのため,「各個体が遊泳速度と遊泳 図-1に示す長さ4.0m,幅(Basic width) B =0.8m,高さ 方向を群れの他の個体全てと一致させようと絶えず調整 0.2mの水路を実験に用いた.流下方向に x 軸, x 軸に直 1. はじめに III_239 表-1 実験条件 case name C0 C1 C3 BL (mm) 70 h (m) 0.04 U m (m/s) 0 0.07 0.21 0.35 0.70 0 1 3 5 10 x 0m<z<0.07m top-view wall area measurements section universal area 0.25m 0.40m flow initial position of fish Rx ≡ ∑ {x − G x )} 2 fi wall area y 1.45m 0.73m<z<0.80m flow side-view 0.04m x 2.40m 図-1 実験水路の模式図 2 5 Plecoglossus altivelis altivelis BL = 0.07 m Rx Rz 1.5 Rx BL Rx BL 3 Rz BL Rx Rz N (1.a) 0 1 3 図-2 流速の変化に伴う魚群半径の変化 1 Plecoglossus altivelis altivelis n 0.8 N total BL = 0.07 m U m B L = 0(1 s ) 0.6 N ∑ {z − Gz } 2 fi N (1.b) i =1 1 10 Um BL 5 i =1 Rz ≡ 0.80m z 0.5 (1) 流速変化に伴う魚群形状の変化 石川8)の定義した魚群半径を2次元に拡張すると次式と なる. N C10 U m / BL (1/s) Rz BL 3. 実験結果および考察 C5 0.20m 角上向きに y 軸,横断方向に z 軸をとる.平均体長 BL =70mmの養殖アユ(Plecoglossus altivelis altivelis)を実 験に用いた.表-1に示すように,水深 h を0.04mに固定 した.また,魚の行動には数秒しか維持できない突進速 度と長時間遊泳可能な巡航速度があり,突進速度を上回 る流速では遡上することができないため体長倍流速を0 ∼10の範囲で静止流体(C0),巡航速度より遅い流速(C1), 巡航速度(C3),巡航速度より速い流速(C5),突進速度 (C10)の5段階に設定した.水路始端から3m下流の水路中 央( z / B =0.5)に直径0.25mの円形金網を設置し,5尾のア ユを挿入する.アユを馴致させた後に金網を取り上げ, 水路上部に設置した画素数1440×1080,撮影速度30fps のビデオカメラで撮影を開始する.撮影終了はアユが5 尾とも水路始端に到達あるいは水路終端から流出した時 とした.上記の実験を300匹のアユを使用し,室温と水 温を19℃に保ち,6月から約1ヶ月の期間内において正午 から午後5時にかけて各ケースで50回,合計250回行い, 撮影した動画を0.01秒,0.2秒で画像に分割した.0.01秒 で分割した画像では魚が屈折した座標と時間を用いて対 地速度,対地距離,遊泳速度,遊泳距離,屈折角度の解 析を行い,0.2秒で分割した画像では各魚をプロットし た座標を用いて魚群半径,個体間距離の解析を行った. U m B L = 1(1 s ) U m B L = 3(1 s ) 0.4 U m B L = 5(1 s ) ここに, Rx , G x , x fi はそれぞれ x 方向の魚群半径, 魚群重心の x 座標,任意 i の魚類の x 座標であり, z に ついても同様な定義である.今回の実験では水深を 0.04mに固定しており,アユも他の個体の上部と下部を 遊泳することがなかったため R y の変化はみられなかっ た.図-2に x および z 方向の平均魚群半径 R x , R z を平 均体長 B L で除した値 R x / BL , R z / BL および両者の比 R x / R z と体長倍流速U m / BL との関係をプロットと回帰 分析で得られた近似直線で示す.さらに,各ケースの標 準偏差を縦線で示した.流速の増加に伴い x 方向の魚群 半径 R x / BL は微増し, z 方向の魚群半径 R z / BL は減少 する.そのため両者の比 R x / R z が流速の増加と共に増 加する.これは,アユが最寄りの個体との距離を保とう しながら流体からの運動量を軽減させるため R x / BL は III_240 U m B L = 10 (1 s ) 0.2 0 0 5 10 15 20 DⅤ / BL f25 30 図-3 流速変化に伴う個体間距離の変化 1 Plecoglossus altivelis altivelis Mi BL = 0.07 m MⅡ / T T MⅢ / T 0.6 MⅤ / T 0.4 0.2 0 1 3 5 U m / BL 10 図-4 尾数変化におけるアユの先頭交代率 0.6 0.6 n N Plecoglossus altivelis altivelis n N total Plecoglossus altivelis altivelis total BL = 0.07 m BL = 0.07m 0.4 U m BL = 0(1 s ) 0.4 U m BL = 0(1 s ) U m BL = 1(1 s ) U m BL = 1(1 s ) U m BL = 3(1 s ) U m BL = 3(1 s ) 0.2 0.2 U m BL = 5(1 s ) U m BL = 5(1 s ) U m BL = 10(1 s ) U m BL = 10(1 s ) 0 0 5 10 15 20 0 0 LG25 / BL 30 20 L f / BL 30 10 (a) 対地距離 (b) 遊泳距離 図-5 普遍遊泳における流速変化に伴う対地距離と遊泳距離 0.5 n N 0.4 Plecoglossus altivelis altivelis 0.5 n N 0.4 total B L = 0.07 m U m BL = 0(1 s ) U m BL = 1(1 s ) 0.3 Plecoglossus altivelis altivelis U m BL = 0(1 s ) total BL = 0.07 m U m BL = 1(1 s ) U m BL = 3(1 s ) 0.3 U m BL = 3(1 s ) Plecoglossus altivelis altivelis total BL = 0.07m U m BL = 0(1 s ) 0.3 U m BL = 1(1 s ) 0.2 U m BL = 5(1 s ) U m BL = 3(1 s ) U m BL = 5(1 s ) U m BL = 5(1 s ) 0.2 0.5 n N 0.4 U m BL = 10(1 s ) 0.2 U m BL = 10(1 s ) U m BL = 10(1 s ) 0.1 0.1 0 0 10 0 0 V f / BL 30 20 0.1 20 VG / BL 10 (a) 対地速度 (b) 遊泳速度 図-6 普遍遊泳における流速変化に伴う対地速度と遊泳速度 ほとんど変化せず, R z / BL が減少したものと考えられ る.また,以上の結果から流速の増加に伴い魚群形状は 流下方向に細長くなることが判明した.これは,流体か らの運動量を減少させるためだと考えられる.また,こ うした傾向は鬼束ら7)の3尾アユと一致したが5尾アユで は魚群で行動しようとする成群力が強く働いたため3尾 アユに比べ魚群半径の変化は小さくなったと考えられる. (2) 流速変化に伴う5尾アユの個体間距離 図-3に最寄りのアユとの間の個体間距離 DⅤf を平均体 長 BL で除した値の頻度分布を流速別に示す.両分布と も低値が高頻度で高値に裾をもつ形状を示す.そこで, 次式のガンマ分布を採用し,図-3中に曲線で示した. ( ) f DⅤ f / BL = ( 1 α λ DⅤf / BL Γ(λ ) Γ(λ ) = ∫ ∞ ) e − x x λ −1dx λ −1 −αL / B L e (2) (3) 30 0 0 30 60 90 w 120 θ (deg .) 180 図-7 普遍遊泳における流速変化に 伴う屈折角度の変化 (3) 流速変化に伴う先頭交代率の変化 図-4に流速と先頭アユの平均交代回数 M Ⅴ を実験時間 T で除した値を示すと共に,前報6,7)の実験で得られた2 尾アユの先頭交代率 M Ⅱ / T と3尾の先頭交代率 M Ⅲ / T を併示し,体長倍流速U m / BL との関係をプロットと回 帰分析で得られた2次曲線で示す.さらに,各ケースの 標準偏差を縦線で示した.5尾の先頭交代率 M Ⅴ / T は 流速の増加に伴い減少する.これは,魚群である5尾に は先頭を遊泳するリーダーが存在せず,また流れに遡っ て遊泳する正の向流性をアユが有しており流速の増加に 伴いアユの遡上欲が増すためであると考えられる.また, 5尾の先頭交代率 M Ⅴ / T は3尾の先頭交代率 M Ⅲ / T よ りも高値を示した.これは,尾数の増加に伴い成群力が 強くなるため,5尾は3尾より魚群で行動する時間が増加 し,先頭交代率が増加したと考えられる. 0 係数 α , λ は最小二乗法より算出した. 最寄りのアユとの個体間距離 DⅤ f / BL の分布の形状は 全ての流速でほぼ一致している.したがって,魚群に属 するアユは最寄りの個体間距離を一定に保ち,その距離 が魚種によって一定というPartridge2,3) & Pitcher9)の指摘が 確認された.また,流速の増加に伴う最頻値の変化はみ られなかった.したがって,個体間距離が流速に依存し ないというPitcher9)の指摘が確認された. (4) アユの遊泳軌跡のモデル化 鬼束ら5,6,7)はアユが流水中を1尾,2尾および3尾で遊泳 する場合,軌跡が直線(branch)と屈折(node)で表現できる と述べた.本実験でも前報と同様の傾向が確認されたた め,全アユの遊泳軌跡における全ての屈折位置と時刻を 読み取った.屈折と屈折までの距離を対地距離 LG とし, 流速を加算することにより,遊泳距離 L f が算出される. 一方,上記の対地距離と遊泳に要した時間から,対地速 度 VG が算出され,これらの対地速度に流速を加算する ことにより遊泳速度V f が算出される. III_241 5 5 Plecoglossus altivelis altivelis D̂ BL Plecoglosss altivelis altivelis L̂iG BL i f D̂Ⅲ f / BL = 2.69 + 0.038U m BL 3 B L = 0.07 m Ⅰ G L̂ / BL L̂ⅡG / BL L̂ⅠG / BL = 1.86 + 0.015U m / BL 3 Plecoglosss altivelis altivelis B L = 0.07 m L̂Ⅰf / BL L̂Ⅱf / BL L̂ⅢG / BL L̂ⅡG / BL = 1.30 + 0.059U m / BL −17 D̂Ⅴ U m BL f / BL = 2.7 + 2.7 ×10 1 D̂Ⅱf / BL = 1.66 + 0.238U m BL 0 25 1 3 5 L̂ⅤG / BL BL = 0.07 m V̂ BL V̂GⅠ / BL L̂ / BL = 0.98 + 0.017U m / BL L̂ / BL = 0.92 + 0.021U m / BL V̂GⅢ / BL = 6.93 + 0.71U m / BL 0 1 3 5 U m / B L (1 / s ) 70 5 U m / BL (1 / s ) 10 Plecoglossus altivelis altivelis θˆⅡ = 51.3 − 2.49U m / BL θˆ Ⅴ = 47.2 − 2.52U m / BL 50 15 40 BL = 0.07m Ⅰ f V̂ / BL V̂ / BL = 5.72 + 0.22U m / BL V̂GⅡ / BL = 3.43 + 0.52U m / BL 4 6 U m / BL (d) 対地速度 (1/ s ) 10 30 V̂ Ⅱ f / BL 5 Ⅰ G 2 3 / BL θ̂ i V̂ V̂ Ⅲ / BL = 6.66 + 1.31U m / BL BL f Ⅲ 10 0 1 Plecoglosss altivelis altivelis V̂GⅤ / BL 0 0 m / BL (c) 遊泳距離 V̂ f / BL = 6.31 + 1.14U m / BL 10 5 m 0 10 i f V̂ / BL Ⅴ V̂GⅢ / BL V̂G / BL = 6.29 + 0.55U m / BL L̂Ⅲf / B L = 1 . 23 + 0 . 13 U (b) 対地距離 25 Ⅱ G 15 L̂Ⅴf / B L = 1 . 08 + 0 . 21 U Ⅲ G Ⅴ G 0 Plecoglosss altivelis altivelis i G 2 D̂Ⅴ f / BL (a) 尾数変化に伴う個体間距離 / BL L̂Ⅱf / B L = 1 . 39 + 0 . 20 U m / B L D̂Ⅱf / BL 10 m L̂Ⅴf / BL 4 D̂Ⅲ f / BL U m / BL (1/ s ) L̂Ⅰf / B L = 1 . 57 + 0 . 29 U L̂Ⅲf / BL B L = 0.07m 2 0 8 L̂if BL 6 V̂ / BL = 5.57 + 1.03U m / BL Ⅰ f V̂ / BL = 2.81 + 1.16U m / BL Ⅱ f 0 0 1 3 5 V̂ fⅢ / BL V̂ Ⅴ f (e) 遊泳速度 図-8 尾数変化と最頻値との関係 また,アユが流水中を1尾,2尾および3尾で遊泳する 場合,遊泳開始から2branchまでは遊泳開始の履歴があ ると述べ,本研究でも同様な傾向が見られた.一方,多 くのアユは直接水路始端に到達せずに,一度側壁近傍に 接近した後に壁面に沿って遡上する.観察の結果,側壁 との距離が体長の1倍未満になると遊泳特性が変化する と判断された.そのため,アユが遊泳開始から3branch 以上かつ側壁から体長の1倍以上離れた領域を遊泳する 場合を普遍遊泳,アユが側壁から体長の1倍未満の領域 を遊泳する場合を側壁遊泳と定義し,両エリアを普遍領 域(universal area)および側壁領域(side-wall area)と呼称す る.また,以下の解析では壁面の影響の少ない普遍遊泳 のみを対象にした. (5) 普遍遊泳時の対地距離と遊泳距離 図-5(a),(b)に対地距離 LG ,遊泳距離 L f をそれぞれ 平均体長 BL で除した値の頻度分布を流速別に示す.対地 距離 LG / BL ,遊泳距離 L f / BL は,それぞれ低値が高 頻度で高値方向に裾をもつ形状を示すため,式(2),(3) のガンマ分布を採用し,図-5(a),(b)中に曲線で示した. 図-5(a)に示した対地距離 LG / BL は,流速の増加に対 してほとんど変化がない.一方,図-5(b)に示した遊泳距 離 L f / BL の最頻値は,流速の増加に伴い増加している. 従って,アユは流速が変化しても対地距離を一定に保と うとするため,流速の増加と共に遊泳距離が増加すると 判断される. (6) 普遍遊泳時の対地速度と遊泳速度 θ̂ Ⅱ 20 / BL U m / BL (1/ s ) 10 BL = 0.07 m θ̂Ⅰ 10 0 θ̂ Ⅲ θˆⅠ = 51.8 − 2.94U m / BL θˆ Ⅲ = 44.2 − 2.62U m / BL θ̂ Ⅴ 1 3 5 U m / BL (1 / s ) 10 (f) 屈折角度 図-6(a),(b)に対地速度VG ,遊泳距離V f をそれぞれ平 均体長 B L で除した値の頻度分布を流速別に示すと共に, 式(2),(3)のガンマ分布を曲線で示した.アユの対地速 度 VG / BL および遊泳速度 V f / BL は共に,流速の増加と 共に増加している.これは,流速があると流れに遡って 遊泳する正の向流性をアユが有しているために生じたと 考えられる. (7) 普遍遊泳時の屈折角度 アユの屈折角が正の場合と負の場合に生理学的および 物理的な相違はないため,屈折角の絶対値 θ w を算出し, 図-7に頻度分布を流速別に示すと共に,式(2),(3)のガン マ分布を曲線で示した.流速の増加に伴い屈折角の絶対 値 θ w の最頻値が減少している.これは,流速が増加す ると流体から大きな運動量を受け,上流に遊泳するには 多くの遊泳力が必要となるため,魚体の x 方向の投影面 積を小さくするために屈折角を減少させていると考えら れる. (8) 尾数変化による遊泳特性の相違 図-8(a)∼(f)に無次元個体間距離 DⅤf / BL ,対地距離 LG / BL ,遊泳距離 L f / BL ,対地速度 VG / BL ,遊泳速度 V f / BL および屈折角度の絶対値 θ w の最頻値, D̂Ⅴ f / BL , L̂G / BL , L̂ f / BL , V̂G / BL , V̂ f / BL , θ̂ w をプロットで 示すと共に,最小二乗法で求められたこれらの諸量と体 長倍流速 U m / BL との関係を線形式で示す.また,1尾, 2尾および3尾で行った実験で得られた同様な値および線 III_242 形式も併記した5,6,7).1尾および2尾,3尾は上付きの添字, IおよびⅡ,Ⅲで表している. 図-8(a)に本実験で得られた5尾の無次元個体間距離 DⅤf / BL と前報6,7) で得られた2尾の無次元個体間距離 DⅡf / BL と3尾アユの無次元個体間距離 DⅢ f / BL の最頻値 と体長倍流速 U m / BL との関係を線形式で示す.2尾の 無次元個体間距離は,流速の増加に伴い顕著に増加して いる.一方,5尾と3尾の無次元個体間距離は流速の増加 に伴い増加しているものの,増加率は2尾の値よりも顕 著に低い.これは,2尾の場合は魚群でないために個体 間誘引力が弱いが,3尾および5尾の場合では最寄りの個 体との距離を一定に保とうとする魚群特有の特性によっ て生じたものと考えられる. 図-8(b)より尾数に関わらず対地距離は流速の影響をほ とんど受けないのに対し,図-8(c)より遊泳距離は増加す ることが理解される.また,両距離とも尾数の増加に伴 い減少している.これは,尾数の増加に伴い成群力が増 すため,最寄りの他個体から離れすぎると個体間距離を 縮めようと屈折するためと考えられる.なお,5尾の対 地距離および遊泳距離は3尾の結果とほぼ同様である. 図-8(d)および図-8(e)に着目すると,アユが3尾および5 尾の場合は1尾および2尾の場合と比較して,対地速度お よび遊泳速度が増加することがわかる.これは,1尾,2 尾よりも3尾,5尾の方が成群力が働き,遊泳中に他個体 から離れた時にアユが他個体に接近しようと対地速度お よび遊泳速度を上げることが観測された.これにより対 地速度および遊泳速度を増加させたと考えられる.また, 対地距離,遊泳距離が変化しないことから他の個体との 個体間距離を意識して遊泳しているためと考えられる. 図-8(f)に着目すると,尾数に関わらず流速の増加に伴 い屈折角度が減少している.この原因は,図-7の考察で 述べた通りである.また,アユが5尾で遊泳する場合の 屈折角度が,1尾および2尾の値よりも小さい.これは, 5尾の場合,流速の増加に伴い流下方向に細長い形状と なり(図-2),この形状を保つために魚向の変化が緩慢に なったためと考えられる. 図-8(a)∼(f)より5尾の挙動は3尾と挙動と定性的に一致 した. (1) 5尾の魚群形状は,流速の増加に伴い横断方向の魚 群半径は小さくなる.これは,流体からの運動量を減少 させるためだと考えられる. (2) 5尾の個体間距離は流速の増加に伴う変化は見られ なかった.これは,魚群である3尾以上の場合は成群力 が働いたためである. (3) 5尾の先頭交代率は流速の増加に伴い減少し,3尾 の先頭交代率よりも高値を示した.これは,尾数の増加 に伴い成群力が強くなるため,5尾は3尾より魚群で行動 する時間が増加し,先頭交代率が増加したと考えられる. (4) 流速の増加に伴い対地距離,遊泳距離,対地速度, 遊泳速度が増加し,屈折角度は減少する.また,こうし た定性的傾向は,3尾の挙動と一致する. 謝辞:本研究を実施するに当たり,科学研究費補助金基 盤研究(C)23560610(代表:鬼束幸樹)の援助および臼杵幸 平,福田拓也の協力頂いた. 参考文献 1) 兼廣春之,鈴木誠,松田皎:タイリクバラタナゴの群サイズによ る行動特性,日本水産学会誌,第51巻,2号,pp.1977-1982,1985. 2) Partridge, B.L.: The structure and function of fish schools, Scientific American, Vol.246, pp.90-99, 1982. 3) Partridge, B.L. and Pitcher, T.J.: The sensory basis of fish schools, Journal of Comparative Physiology, Vol.135, pp.315-325, 1980. 4) 三宮信夫,中峯浩,田中晶子,松田皎:魚群行動の群の大きさを 推定する自己回帰モデル,システム制御情報学会論文誌,Vol.2, No.1,pp.23-31,1989. 5) 鬼束幸樹,秋山壽一郎,竹内光,小野篤志:流速変化が単独アユ の遊泳特性に及ぼす影響,水工学論文集,第54巻,pp.1309-1314, 2010. 6) 鬼束幸樹,秋山壽一郎,竹内光,大西浩史:流速変化が2尾のア ユの遊泳特性に及ぼす影響,水工学論文集,第55巻,pp.14411446,2011. 7) 鬼束幸樹,秋山壽一郎,三原和也,白岡敏:流速変化がアユ の魚群の挙動及ぼす影響,水工学論文集,第56巻,pp.655pp.660,2012. 8) 石川雅昭:ウグイの魚群行動特性に関する実験的研究,河川技術 論文集,第6巻,pp.101-106,2000. 9) Pitcher, T.J.: The three-dimensional structure of schools in the minnow, 4. おわりに Phoxinus phoxinus (L.), Anim. Behav. Anim. Behav., Vol.21, pp.673-686, 本研究は,体長倍流速を0∼10倍の範囲で変化させて 流水中を5尾の魚群で遊泳するアユの挙動を解析したも のである.得られた知見は以下の通りである. III_243 1973. (2012.5.25受付) EFFECTS OF VELOCITY ON SWIMMING BEHAVIOR OF A QUINTET OF AYU Kouki ONITSUKA1, Juichiro AKIYAMA1, Kazuya MIHARA1, Bin SHIRAOKA1 1 Civil Engineering, Kyushu Institute of Technology Swimming behavior of a school of fish in running water has not been investigated. Recently, Onitsuka et al. investigated on the swimming behavior of isolated or a couple of fish in running water. In this study, the swimming behavior of a school of ayu, consinting of 5 fishes, in running water was investigated. It was found that the streamwise length of a school increases and the spanwise length of that decreases with an increase of the flow velocity and also that the swimming speed in the streamwise direction increases with an increase of the flow velocity. The turning angle of swimming trajectory decreases with an increase of the flow velocity. The individual distance becomes larger when the velocity is increased. III_244