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発表要旨 - 熊本大学 工学部 技術部 HOME

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発表要旨 - 熊本大学 工学部 技術部 HOME
平成 25 年度
熊本大学総合技術研究会
発表要旨
平成 25 年 9 月 20 日(金)開催
於
熊本大学工学部 2 号館 212 教室
平成25年度熊本大学総合技術研究会発表要旨一覧
(課題名をクリックすると当該要旨が表示されます。
)
課
題
名
発 表 者(所属)
NMR に関する業務、解析ソフトの導入と講習会の開催について∼新人研修についての報告∼
大石 智博(工学部)
未利用の骨材を用いたポーラスコンクリートの調合設計手法
池崎 智美,武田 浩二,村上 聖,山口 信(工学部,大学院自然科学研究科)
平成 24 年度短期集中技術研修報告 大型放射光施設 SPring-8 での粉末 X 線回折実験
佐藤 徹哉(工学部)
全盲児の点字学習を支援する学生協働型社会貢献プロジェクトの実践
−音声式点字タイプ教具の導入による点字授業での改善成果報告−
須惠 耕二,大嶋 康敬,松田 樹也,寺村 浩徳(工学部)
日本の繊維染色技術から学ぶ 高分子特性と高分子加工技術
鬼束 優香,吉村 眞紀子,西 麻耶子(工学部)
早期体験型実験・演習科目開発プロジェクト「ものづくり挑戦と工学基礎技術の獲得」
自転車を徹底的に分解!そして,人力型水陸両用車「Autocanoe」へ大変身させよう!!
吉永 徹,今村 康博,有吉 剛治,田中 茂,坂本 武司,稲尾 大介(工学部)
プロジェクト実習第一の課題「スターリングエンジン模型」の取り組み
倉田 大,中村 秀二,白川 武敏,清水 久雄,平田 正昭,廣田 将輝,稲尾 大介
(工学部)
プリント基板エディタ「PCBE」によるプリントパターン設計ならびにプリント基板製作
松田 樹也(工学部)
大口径化に対応した SiC 基板の紫外光支援研磨に関する研究
坂本 武司,稲木 匠,小田 和明,峠 睦(工学部,大学院自然科学研究科)
八代海「野坂の浦」におけるアマモ生育環境に関する現地観測
矢北 孝一,森本 剣太郎,御園生 敏治,増田 龍哉,滝川 清
(工学部,沿岸域環境科学教育研究センター,大学院先導機構)
セラミックス繊維を用いた超小型・高感度酸素センサーの試作
志田 賢二(工学部)
熊本マウスクリニック(KMC)における in vivo リアルタイムイメージングシステムを用い
た分子イメージング技術支援
白石 善興,嶋本 雅子,後藤 久美子,島崎 達也,岡田 誠治,古嶋 昭博
(生命資源研究・支援センター,大学院医学教育部,エイズ学研究センター)
Observation of internal model ground around the spiral pile on vertical loading condition
using X-ray CT scanner
佐藤 宇紘,林 悟史,大谷 順(工学部,大学院自然科学研究科)
熊本マウスクリニック(KMC)における小動物用SPECT/CTを用いた分子イメージン
グ技術支援
後藤 久美子,嶋本 雅子,白石 善興,島崎 達也,岡田 誠治,古嶋 昭博
(生命資源研究・支援センター,大学院医学教育部,エイズ学研究センター)
腫瘍関連マクロファージの免疫組織化学的解析における抗原賦活化至適条件の検討
頁
1
5
9
10
12
14
18
20
23
25
30
33
34
38
40
中川 雄伸,林田 唯,菰原 義弘,大西 紘二,清田 恵美,竹屋 元裕(大学院生命科学研究部)
平成 24 年度技術部短期集中技術研修−質量分析装置の測定技術の習得―
44
西 麻耶子(工学部)
キャリア教育を目指した離島小学校へのものづくり教育支援事業
西本 彰文,井上 健次郎,清水 康孝,引地 力男(教育学部)
46
放射線取扱者個人管理システムの現状と課題
51
泉水 仁,川原 修,上村 実也,井上 保典,青木 隆昌,児島 香代子,後藤 久美子,高椋 光
博,白石 善興,古嶋 昭博
(生命資源研究・支援センター,工学部,発生医学研究所,研究推進ユニット)
早期体験型実験・演習科目開発プロジェクト−初心者のためのCAD製図−
53
倉田 大,中村 秀二,白川 武敏,清水 久雄,平田 正昭,廣田 将輝(工学部)
コンクリートの非破壊検査―鉄筋上の自然電位評価のための PiBEM 法の開発―
55
友田 祐一,戸田 善統,外村 隆臣,大津 政康(工学部,大学院自然科学研究科)
コンクリートの非破壊検査―超音波 SIBIE 法の鉄筋コンクリート表面ひび割れへの適用―
57
友田 祐一,戸田 善統,池崎 智美,大津 政康(工学部,大学院自然科学研究科)
コンクリートの非破壊検査―コンクリート乾燥収縮特性と AE 発生挙動―
59
友田 祐一,外村 隆臣,池崎 智美,大津 政康(工学部,大学院自然科学研究科)
オルガノポリシロキサンの分析 —ポリマーの分析手法について—
61
鬼束 優香,吉村 眞紀子,西 麻耶子,大石 智博,泉水 仁(工学部,生命資源研究・支援セン
ター)
社会環境工学演習(有限要素法による構造力学問題)
65
松本 英敏(工学部)
69
簡易環境計測装置の開発
仲間 祐貴,大嶋 康敬(工学部)
Web データベースによるデジタル写真共有システムの構築
71
山口 倫(工学部)
LEGO マインドストーム NXT による「ものづくり入門実習」(第 2 報)
73
山口 倫,久我 守弘(工学部,大学院自然科学研究科)
WEB 申込みシステムの開発−中学生を対象とした夏休みの自由研究に関する技術相談会
78
2013−
山口 倫,仲間 祐貴(工学部)
「 初心者を対象とした iOS アプリ開発体験セミナー」の実施報告
80
稲尾 大介,山口 倫,仲間 祐貴(工学部)
本学における教育研究促進のための工学部技術部の活動
上村 実也,松本 英敏(工学部)
82
NMR に関する業務、解析ソフトの導入と講習会の開催について
~新人研修についての報告~
大石智博
工学部
技術部
応用分析技術系(機器分析・化学 WG)
はじめに
1
平成 24 年 12 月の入職以来、機器分析・化学 WG に所属し、主に学生実験の指導や NMR
(Nuclear Magnetic
Resonance、核磁気共鳴)装置の保守管理、研究室支援等の業務を行っている。NMR に関しては保守管理
業務の他に、希望者への操作講習、測定マニュアル改訂作業、DEPT や二次元 NMR といった特殊測定へ
の立ち会い・指導、他学科からの依頼分析、オープンキャンパスでの NMR の装置や原理等の説明を行っ
ている。かねてより、NMR のデータ解析が制御 PC でしか行えずに不都合が生じていたこと、利用者から
NMR 解析ソフトの新規導入等に関する質問が受けていた事などから、新たに NMR データ解析ソフトを導
入したので、今回は NMR 装置に関する業務及び新たに導入した NMR データ解析ソフトについて報告す
る。
NMR とは
2
2-1
1
NMR の原理
H や 13C のように、中性子と陽子の数の少なくともどちらか一方が奇数の原子核は核磁気を持っていて、
小さな棒磁石に例えることできる(図 1(a))。これらの小さな磁石は磁場の中で棒磁石のように振る舞う。
または磁場の中でコンパスの針のように磁場と同じ向きに配向するといってもよい。だが、普通の棒磁石
や磁針は外部の磁場と平行な方向に配列してしまうだけだが、1H や 13C 等の原子核の場合には磁場と平行
な向きと逆平行な向きの 2 種類の向きをとり得る(図 1(b))。この 2 種類の配向状態をとった原子核間に
はエネルギー差が生まれ、磁場と平行な向きの方がエネルギーが低く、逆平行の方が高くなる(図 1(c))。
NMR ではこのエネルギー差(⊿E)を検出することで構造解析を行う。
(a)
(c)
(b)
磁場の中
へ移すと
=
⊿E
磁場の向き
エネルギー
図 1 核の磁石としての挙動
(a)核の磁石(核磁気)を矢印で表す
2-2
(b)磁場の有無と核磁気の向き
(c)核磁気の向きとエネルギー
NMR でわかること
NMR 測定では分子内の 1H や 13C を測定する 1H-NMR や 13C-NMR 測定が最も一般的である。1H-NMR
ではシグナルの現われる位置(化学シフト)や積分比、形から、それぞれ水素核の化学的な環境や個数、
隣り合う水素核同士の情報が得られる。13C-NMR では化学シフトから炭素核の化学的な環境がわかるため
分子構造の解析にあたってとても有用な測定方法である。
1
上記の他、特殊な測定であるが、分子内に存在する炭素の級数を判定できる DEPT や、二次元 NMR 測
定法として、分子内に結合する水素同士の相関関係がわかる COSY、直接結合している水素核と炭素核を
検出する HMQC、2 または 3 結合離れた水素核と炭素核を検出する HMBC、結合に関係なく空間的に近い
水素核どうしの関係がわかる NOESY などが挙げられる。これらの測定法により得られたデータを組み合
わせて用いることで、化学構造に関するより確実な情報を得ることができる。
また、通常の測定で試料を重水素溶媒に溶かした試料溶液(1H-NMR:数 mg~数十 mg/mL、13C-NMR:
20~30 mg/mL)を約 1 mL 要するが、試料量が少ない場合等には約 40μL の試料溶液が調製できればナノ
プローブ測定を行うことも可能である。さらに近年、固体試料のための機器や測定法の進歩により、固体
のまま NMR の測定が可能となっており、NMR 測定の幅がますます広がり、構造解析に、より欠かせない
存在となっている。
NMR に関する業務
3
3-1
NMR 装置の紹介と利用状況
工学部技術部では、物質生命化学科が所有する JEOL 製(図 2 左)及び Varian(現 Agilent)製(図 2 右)
の NMR を管理している。
1 台は物質生命化学科棟に、もう 1 台はベンチャービジネスラボラトリー(以下、
VBL-NMR)に設置している。
物質生命化学科 NMR ではルーチンワーク測定一次元 NMR(1H, 13C)を、
VBL-NMR では一次元 NMR(1H, 13C)測定及び二次元 NMR・ナノプローブ測定・固体 NMR 測定といった特
殊な測定を行っている。
物質生命化学科 NMR における測定は、PC(OS:Windows XP)上で制御用ソフトを起動し、溶媒・測
定法・測定回数の選択、測定開始という簡易な操作で、試料の測定装置への導入・各種測定条件の調整か
ら測定までオートで実行されるため、測定自体は難しくない。測定終了後は、データ解析をそのまま制御
PC 上で行う。そのため管理者による操作講習を行った後は学生自身が機器の利用・測定を行う。一方、
VBL-NMR に関しては、装置制御用の端末にワークステーション(Solaris)用いており、物質生命化学科 NMR
での測定ではオートで行われていた各種測定条件の調整を自らコマンドを打ち込みながら行なわなけれ
ばならない。また、特殊な測定を行う頻度は 1H-NMR・13C-NMR と比べて低く、ナノプローブ測定・固体
NMR 測定では測定毎に各測定用のプローブへ交換を行わなければならない。頻度も少なく操作も難しい
特殊測定は、操作講習を行うよりも随時立ち会っての指導の方が適当であるとの判断から、管理者の立ち
会いのもと測定を行っている。
図 2 NMR 外観(左:物生棟 NMR 装置、右:VBL-NMR 装置)
2
3-2
NMR データ解析ソフト導入の背景
現在、物質生命化学科 NMR では、機器制御用の PC に導入されている一つのソフトで機器の制御及び
測定データの解析を行っている。そのため測定者の多い時期は、測定を終えた者が解析のためにそのまま
PC を使用し続け、次の測定希望者が測定できない状況がみられた。そこで今回、NMR のデータ解析ソフ
トの導入を検討することとした。
3-3
NMR データ解析ソフトの検討
今回候補として、現在物質生命化学科で使用している NMR 装置のメーカーである日本電子株式会社が
提供するソフト『Delta NMR Software』を検討した。このソフトはライセンス(無料)を取得することで
NMR データの処理・解析ができるソフトを無料で入手できる。このソフトウェアは Windows OS、Mac OS
いずれにも対応しているので、学生が各自の PC に解析ソフトを導入できるようになる。これにより測定
希望者と解析希望者のバッティングの回避や、解析のみを行うために測定室に足を運ばなくて済むように
なるなど上記の問題の解決が期待できる。また、ソフト上での解析結果をカットアンドペーストの操作で
PowerPoint などのプレゼンテーションソフトに容易に転載できることから、ゼミでの発表の際の資料作製
の負担を軽減すること等により研究活動の促進にも効果が期待できる。また、物質生命化学科棟 NMR の
他、VBL-NMR で測定されたデータに関しても大部分解析が可能であった。そこで JEOL RESONANCE 社
の講師を招き NMR データ解析ソフトに関する講習会を開催することにした。
3-4
Delta NMR Software について
『Delta NMR Software』は、現行の全ての日本電子製 NMR 装置で標準に使用されている、NMR 測定/
データ処理の統合ソフトである。NMR 装置購入時の付属ソフトと同一のデータ処理機能・処理関数・多
次元処理・各種解析ツール搭載、マルチプラットホーム対応(Windows, Mac OS)、各種データフォーマ
ット対応、多言語インターフェイス(日本語・英語・他)、WEB サポート(FAQ・日本語対応掲示板)
といった特徴を持つ。導入には購入と無料試用の 2 形態があり、無料試用版は展示会や学会等で配布され
る CD-ROM を用いるか、JEOL NMR サポートサイトからソフトウェアをダウンロードして利用すること
ができる。インストール直後は、起動するごとに 15 分間の利用時間制限が設けられているが、ユーザー
登録とライセンス発行(ともに無料)を行い、ライセンスキーを取得するとこの制限を解除することがで
きる。無料試用版では分光計制御はできないが、データ処理に関する簡易電子マニュアルが付属し、デー
タ処理に関するソフトウェアの内容は販売版と全く同じものである。
図 3 Delta NMR Software による 1H-NMR の解析画面
3
3-5
講習会の開催
講師:株式会社
JEOL RESONANCE
副主幹研究員
受講者:工学部 47 名、理学部 13 名、職員 2 名、合計 62 名
全学に向けて講習会の開催を周知したところ、事前申し込み・当日参加を合わせて工学部・理学部等か
ら 60 名以上の参加があった。当日参加者が予想以上に多く、講習会に参加できなかった人が多数いた。
講習会の内容は、ソフトのダウンロード・ユーザ登録のためのインターネットサイトの紹介、インストー
ル・使用制限解除の手順、一次元 NMR 測定データの基本的な解析法が主だった。
講習会に参加できなかった人も多数おり、講習会内容も簡単な解析方法の紹介であったため、講習会の
後、測定者から解析を行う段階での操作法等についての問い合わせを度々受けた。そのため、希望者に操
作講習等を随時行っている。
3-6
NMR に関するその他習得技術
2013 年 3 月に長崎大学で開催された第7回長崎大学大学院工学研究科教育研究支援部技術報告会に参
加した際、長崎大学の NMR 装置管理者から測定技術についてお話を伺うことができた。
NMR 測定は通常、試料を重溶媒に溶解させないといけないが、発表されたものは測定サンプルが重溶
媒と反応するため、溶解できないというケースであった。この方は、サンプル管への加工により測定を可
能にしていた。この手法は本学所有の NMR 装置での測定にも使用できるため、同様なケースに遭遇した
際にはこれらの手法を検討する。
4
まとめ
入職以来、NMR の保守・管理中心に業務を行っており、学生への指導や依頼サンプルの測定等のため、
基本的・特殊な測定法や、今回報告した解析ソフトの習得を行い、依頼測定もスムーズに行えるようにな
った。日々の業務で改善の余地を感じた点についても対応を随時おこなっている。また、保守・管理業務
の他、研修・研究支援の一環として、ある研究室から NMR に関する研究テーマをいただいて研究を行い、
さらなる知識習得・技術向上を図っている。
また、物質生命化学科・マテリアル工学科の学生実験指導や、宮崎大学で開催された平成 25 年度九州
地区国立大学法人等技術職員スキルアップ研修などで化学・化学以外の技術職員と交流をはかり、情報交
換を行ってきた。
今後はより発展的な知識・技術を身につけ、それらを活かせる場面に積極的に参加していきたい。
4
未利用の骨材を用いたポーラスコンクリートの調合設計手法
○池崎智美 A)
武田浩二 B)
村上 聖 B) 山口 信 B)
A)工学部 B)自然科学研究科
1. はじめに
表 1 使用材料
本研究で使用する骨材は、パルプスラッジ焼却灰造粒
セメント
物(以降、PS 灰造粒物)とフライアッシュ造粒物(以降、
高炉セメント B 種
密度 3.03g/cm3
FA 造粒物)の 2 種の廃材である。(写真 1)ここで、PS 灰
骨材
造粒物とは、製紙工場で排出されるパルプスラッジをセ
PS 灰造粒物
粒径
メント系固化剤で固化したものである。また、FA 造粒物
は火力発電所等で排出されるフライアッシュを PS 灰造
粒物と同様の方法で固化したものである。これらを利用
し、ポーラスコンクリートの作製を行う。その際に、通
M (5~15mm)
L(15~20mm)
3
1.72 g/cm3
表乾密度
1.73 g/cm
吸水率
49.8 %
49.4 %
実積率
63.1 %
62.6 %
FA 造粒物
常使用される砕石とは性質が異なるような、特殊な骨材
粒径
を使用する練り混ぜにおいて、良好な練り上がり状態と
M(5~13mm)
L(13~20mm)
1.76 g/cm3
1.76 g/cm3
吸水率
32.4 %
30.3 %
実積率
61.2 %
60.3 %
表乾密度
なる調合設計手法の確立を目指す。
2. 使用材料
使用する材料を表 1 に示す。骨材の特徴として、PS 灰
造粒物は吸水率が約 50%であり、吸水性・保水性が高い
混和剤
高性能 AE 減水剤
粒径 M
(5~15mm)
粒径 L
(15~20mm)
ことがわかる。また、密度も小さく、軽量な骨材である
ことが言える。FA 造粒物も、PS 灰造粒物と比較すると
粒径 M
(5~13mm)
粒径 L
(13~20mm)
やや吸水率は低いが、通常の砕石と比べ吸水率は高く、
軽量な骨材と言える。これらの性質により、特殊な骨材
を用いたポーラスコンクリートと通常の砕石ポーラスコ
ンクリートとの練り上がり状態の差が生じる。
PS 灰造粒物
また、フライアッシュは通常コンクリート混和材とし
FA 造粒物
写真 1 使用骨材
て使用されるが、本研究で使用する FA 造粒物のフライア
表 2 設定フロー値
ッシュは未燃カーボンを含む低品質のものである。
設定フロー値
3. ポーラスコンクリートの試し練り試験
3.1 実験概要
本研究では、特殊な骨材における練り混ぜ方法を以下
175±15
水セメント比
高性能 AE 減水剤使用量
(%)
(対セメント比)(%)
22
0.65
25
0.35
の手順で提案する。この方法を取ることにより特殊な骨
28
0.20
材を用いた場合でも、良好な練り上がり状態となる調合
22
0.75
215±15
を効率的に定めることが可能である。
1. フロー値を設定する
2. 試し練りを繰り返し、練り上がり状態が良好となる
255±15
目標空隙率を選定する
25
0.50
28
0.30
22
0.85
25
0.60
28
0.40
3. 同一フロー値で水セメント比、混和剤添加率を変化
The Method of Mix Design of Porous Concrete Using a Peculiar Aggregate
IKEZAKI Tomomi, TAKEDA Koji, MURAKAMI Kiyoshi and YAMAGUCHI Makoto
5
目標空隙率の選定を行う。手順 2 で定めた目標空隙率を
させ、練り混ぜを行う
用い、手順 1 による同一フロー値で W/C、Sp/C を変化さ
3.2 実験方法
手順 1.フロー値の設定は、既往の研究
1)
せ、良好な練り上がり状態となるか目視により確認を行
より定める。
本報で使用するフロー値は表 2 に示す 175±15、
215±15、
う。なお、本研究における良好な練り上がり状態とは、
255±15 の 3 水準とする。この 3 水準のフロー値で各々
写真 2 のように底面に垂れが出ず、セメントペーストに
W/C=25%の場合で、手順 2.練り上がり状態が良好となる
よる空隙の閉塞が起こらない、またセメントペースト不
表 3 供試体条件
試験
供試体寸法
空隙率測定試験
圧縮強度試験
サンプル
個数
φ100×200 円柱供試体
各1体
φ100×200 円柱供試体(両端面セメントペーストキャッピング)
各1体
半透明プラスチック製容器
各1体
表 4 W/C=25%において良好となる目標空隙率
良好
接着力不足
垂れ有り
粒径
フロー値
PS 灰造粒物
目標空隙率(%)
FA 造粒物
目標空隙率(%)
M
175±15
215±15
255±15
20
25
25
20
30
30
L
175±15
215±15
255±15
25
30
30
25
30
30
写真 2 良好となる練り上がり状態
表 5 練り上がり状態が良好となる調合
FA 造粒物 粒径 M
PS 灰造粒物 粒径 M
フロー値
175±15
215±15
255±15
目標
空隙率
(%)
20
20
20
25
25
25
25
25
25
単位量(kg/m3)
W/C, Sp/C
(%)
C
W
G
Sp
22
25
28
22
25
28
22
25
28
330
313
298
239
227
216
239
227
216
73
78
83
53
57
60
53
57
60
1072
1072
1072
1072
1072
1072
1072
1072
1072
2.1
1.1
0.6
1.8
1.1
0.6
2.0
1.4
0.9
0.65
0.35
0.20
0.75
0.50
0.30
0.85
0.60
0.40
フロー値
175±15
215±15
255±15
PS 灰造粒物 粒径 L
フロー値
175±15
215±15
255±15
目標
空隙率
(%)
25
25
25
30
30
30
30
30
30
目標
空隙率
(%)
20
20
20
30
30
30
30
30
30
単位量(kg/m3)
W/C, Sp/C
(%)
C
22
25
28
22
25
28
22
25
28
364 80 1056
345 86 1056
328 92 1056
182 40 1056
173 43 1056
164 46 1056
182 40 1056
173 43 1056
164 46 1056
0.65
0.35
0.20
0.75
0.50
0.30
0.85
0.60
0.40
W
G
Sp
2.4
1.2
0.7
1.4
0.9
0.5
1.5
1.0
0.7
FA 造粒物 粒径 L
3
単位量(kg/m )
W/C, Sp/C
(%)
C
W
G
Sp
22
25
28
22
25
28
22
25
28
249
236
224
158
150
142
158
150
142
55
59
63
35
37
40
35
37
40
1053
1053
1053
1053
1053
1053
1053
1053
1053
1.6
0.8
0.4
1.2
0.7
0.4
1.3
0.9
0.6
0.65
0.35
0.20
0.75
0.50
0.30
0.85
0.60
0.40
フロー値
175±15
215±15
255±15
6
目標
空隙率
(%)
25
25
25
30
30
30
30
30
30
単位量(kg/m3)
W/C, Sp/C
(%)
C
W
G
Sp
22
25
28
22
25
28
22
25
28
289
274
261
198
188
179
198
188
179
64
69
73
44
47
50
44
47
50
1040
1040
1040
1040
1040
1040
1040
1040
1040
1.9
1.0
0.5
1.5
0.9
0.5
1.7
1.1
0.7
0.65
0.35
0.20
0.75
0.50
0.30
0.85
0.60
0.40
圧縮強度(N/mm2)
W/C(%) 22 25 28 22 25 28 22 25 28
175
215
255
PS 灰造粒物 粒径 M
目標空隙率(%)
4
20
2
60
10
60
50
40
30
20
10
0
W/C(%) 22 25 28 22 25 28 22 25 28
フロー値
40
6
0
0
22 25 28 22 25 28 22 25 28 W/C(%) 22 25 28 22 25 28 22 25 28 22 25 28 22 25 28 22 25 28
175
215
255
175
215
175
215
255
255
フロー値
PS 灰造粒物 粒径 L
PS 灰造粒物 粒径 M
PS 灰造粒物 粒径 L
圧縮強度(N/mm2)
空隙率(%)
フロー値
60
8
175
215
FA 造粒物 粒径 M
全空隙率(%)
255
8
40
6
4
20
2
0
0
22 25 28 22 25 28 22 25 28 W/C(%) 22 25 28 22 25 28 22 25 28 22 25 28 22 25 28 22 25 28
215
255
175
215
255
フロー値 175
175
215
255
FA 造粒物 粒径 L
連続空隙率(%)
目標空隙率(%)
FA 造粒物 粒径 M
圧縮強度(N/mm2)
目標空隙率(%)
空隙率(%)
10
60
50
40
30
20
10
0
FA 造粒物 粒径 L
目標空隙率(%)
図 2 練り上がり状態が良好となる調合の圧縮強度
図 1 練り上がり状態が良好となる調合の空隙率
表 6 空隙率・圧縮強度試験結果
骨材
粒径
足による接着力の低下が見られないものとする。
これらの手順を経て作製したポーラスコンクリートの
フロ
ー値
175
±15
空隙率測定試験及び圧縮強度試験を行い、特殊な骨材を
用いた際のポーラスコンクリートの特性を見る。また、
PS
垂れ具合等の練り上がり状態を観察するためにサンプル
M
を作製する。なお、試験に使用する供試体寸法・個数を
215
±15
255
±15
表 3 に示す。圧縮強度試験の供試体には、両端面にセメ
175
±15
ントペーストキャッピングを行う。
3.3 実験結果及び考察
PS
手順 2 による練り上がり状態が良好となった調合の目
L
標空隙率を表 4 に示す。また、この結果を用い、手順 3
215
±15
255
±15
を行った調合を表 5、結果を表 6 に示す。手順 2 で良好
となった目標空隙率を使用した手順 3 では、全ての調合
175
±15
において練り上がり状態が良好となった。これらの良好
となる調合で作製したポーラスコンクリートの空隙率、
FA
圧縮強度を図 1、図 2 に示す。
M
表 4 の目標空隙率では、フロー値が低い、つまり流動
215
±15
255
±15
性が低いものにおいて目標空隙率が下がる傾向が見られ
る。これは、流動性が低い為に底面に垂れが出にくい、
175
±15
骨材にセメントペーストが付着しやすいことが起因して
FA
いると考えられる。また、空隙率では両骨材とも目標空
L
隙率より実際の全空隙率および連続空隙率が大きくなっ
215
±15
255
±15
た。これについては、次章にて考察を行う。圧縮強度に
おいては、FA 造粒物で図 2 のように W/C=25%が大きく
T.V.
(%)
20
20
20
25
25
25
25
25
25
25
25
25
30
30
30
30
30
30
20
20
20
30
30
30
30
30
30
25
25
25
30
30
30
30
30
30
W/C Sp/C
(%)
22 0.65
25 0.35
28 0.20
22 0.75
25 0.50
28 0.30
22 0.85
25 0.60
28 0.40
22 0.65
25 0.35
28 0.20
22 0.75
25 0.50
28 0.30
22 0.85
25 0.60
28 0.40
22 0.65
25 0.35
28 0.20
22 0.75
25 0.50
28 0.30
22 0.85
25 0.60
28 0.40
22 0.65
25 0.35
28 0.20
22 0.75
25 0.50
28 0.30
22 0.85
25 0.60
28 0.40
At
(%)
37.0
31.7
42.9
47.0
38.9
44.3
40.6
33.3
38.5
45.5
48.2
52.4
54.9
56.3
51.9
57.7
50.2
51.9
43.8
36.2
41.5
48.9
45.7
48.1
48.5
44.5
46.0
40.2
38.9
46.7
52.8
44.3
53.3
54.2
50.7
46.2
Ac
(%)
29.6
25.0
29.7
35.2
31.5
32.0
31.5
28.3
30.1
36.4
34.6
38.7
43.5
45.3
41.9
43.9
41.4
41.4
32.7
31.2
32.2
38.7
37.2
37.0
37.4
36.3
36.0
33.0
33.9
36.8
41.5
39.0
45.3
43.1
39.6
34.8
Fc
(N/mm²)
2.88
3.02
3.12
2.12
1.91
1.99
2.48
2.28
2.56
1.85
1.84
1.78
0.88
1.19
0.72
1.27
1.11
1.08
3.96
9.14
3.71
1.97
2.69
2.01
2.07
2.59
2.29
3.36
5.94
2.01
0.76
2.54
1.53
2.15
2.08
1.75
T.V. :目標空隙率 At :全空隙率 Ac :連続空隙率 Fc :圧縮強度
7
30
60
25
全空隙率(%)
50
40
PS
30
FA
20
がいし
10
0
0
10
20
30
40
50
60
目標空隙率と全空隙率の差(%)
70
70
PSM
20
FAM
15
がいしM
10
PSL
5
FAL
0
-5
0
20
40
60
がいしL
-10
骨材の吸水率(%)
目標空隙率(%)
図 4 目標空隙率と全空隙率の差と骨材の吸水率の関係
図 3 目標空隙率と全空隙率の関係
出る傾向にあるが、これは試験日が W/C=25%のみ異なり、
スコンクリートの練り上がり状態と関係がある可能性が
打設時の環境条件の違いからによるものと考えられる。
ある。
これらの結果より、同一フロー値であれば、空隙率も圧
5. まとめ
縮強度も同等の性質であることが伺える。
本研究では、特殊な骨材を使用するポーラスコンクリ
4. 骨材による比較
ートの調合設計手法について検討を行った。練り混ぜに
既報 1)で使用したがいし破砕骨材、及び本報で使用した
おいて、この方法が有用であることが確認された。この
PS 灰造粒物、FA 造粒物の比較を行う。なお、がいしは、
手法を用いることによって、効率的に、また求める性質
電気絶縁体として使用されているセラミックス材料であ
に近いポーラスコンクリートを作製できると言える。
り、硬度・耐久性・寸法安定性に優れているという特性
今後の展望として、本報における試験では、供試体数
を持つ材料である。これら骨材の相違点として挙げられ
を各 1 体としており、今後も多くのデータ収集をしてい
る点は吸水率である。がいしは吸水率が 0%であり、本報
く必要がある。また、調合設計の際に全空隙率及び連続
の骨材とは正反対と言える。この影響が図 3 に示すよう
空隙率が設計通りになる手法の検討も行う予定である。
目標空隙率と全空隙率の差にみられる。吸水率が低いが
また、骨材が異なることにより関係がある点は、吸水率、
いしは骨材内に空隙がなく、目標空隙率と全空隙率の差
骨材の表面形状等が挙げられる。練り上がり状態とこれ
が小さい。反対に、PS 灰造粒物においては、骨材内部の
らの関係性を明らかにしていくことにより、より効率的
空隙も空隙率に含まれると推察される。また、練り混ぜ
な調合設計が可能になると言える。
の際に、全ての骨材は表乾状態で使用するが、通常使用
【謝辞】
する砕石より吸水率が高く、骨材内部に保水された水が
本研究を行うにあたり、
(有)福岡建設合材より PS 灰造粒物
放出され、実際の W/C より高くなり、強度が低下してい
及び FA 造粒物を提供いただきました。ここに記して謝意を
ると推察される。ただし、骨材自体の強度や練り混ぜ時
表します。
の環境条件も異なるため、相関関係は明確ではない。ま
【参考文献】
た、目標空隙率と全空隙率の差と骨材の吸水率の関係を
1)
池崎智美ほか:がいしポーラスコンクリートの調合に関
図 4 に示した。これより骨材の吸水率が高いほど全空隙
する実験的研究, 日本建築学会九州支部研究報告,第 51
率との差が開くことがわかる。
号・1, pp.97-100, 2012 .3
また、骨材表面の質感もがいしと PS 灰造粒物及び FA
2013 年 9 月 2013 年度日本建築学会大会(北海道)発表
造粒物では異なり、がいしはツルツルとした滑らかな表
面で、PS 灰造粒物、FA 造粒物はざらざらとした細かい
凹凸がある表面になっている。この表面形状の違いがセ
メントペーストの付着しやすさや摩擦等によってポーラ
8
平成 24 年度短期集中技術研修報告
大型放射光施設 SPring-8 での粉末 X 線回折実験
佐藤
熊本大学
1
徹哉
工学部技術部
はじめに
近年の研究進展や教育の高度化に伴い、汎用の分析装置では得ることができない高輝度・高分解能な放射
光を用いた各種分析も頻繁に行われるようになってきた。現在の本学における放射光利用の登録者数は、自
然科学系教員および学生数は 62 名、全学では 162 名である。今後、新規ユーザーならびに現ユーザーに対す
る助言や測定支援の業務が必要となることが予想される。そこで、放射光を用いた最先端の測定技術および
解析手法を体得し、試料作製から構造解析作業まで幅広い研究支援業務を遂行できる能力を身につける必要
がある。今回、大型放射光施設 SPring-8 を頻繁に使用している(独)産業技術総合研究所の研究チームの測
定に同行する機会を得た。そこで、本研修制度を利用して大型放射光施設 SPring-8 での放射光粉末 X 線回折
分析の研修に参加したので、その内容について報告する。
2
研修の概要
研修期間:平成 24 年 10 月 29 日(月)から 11 月 1 日(木)
受入機関名:
① 独立行政法人 産業技術総合研究所 関西センター(大阪府池田市緑丘 1-8-31)
② 大型放射光施設 SPring-8 (兵庫県佐用郡佐用町光都 1 丁目 1-1)
日程および研修内容
日程
平成 24 年 10 月 29 日(月)
平成 24 年 10 月 30 日(火)
~
平成 24 年 10 月 31 日(水)
平成 24 年 11 月 1 日(木)
3
研修内容
(独)産業技術総合研究所 関西センターにおいて測定用試料の調製
を行った。
大型放射光施設 SPring-8 において、
(独)産業技術総合研究所職員に
同行し、現場で分析操作に携わり測定技術を習得した。BL19B2 ビーム
ラインで放射光粉末 X 線回折測定を実施した。
(独)産業技術総合研究所 関西センターにおいて、得られたデータ
でリートベルト解析を行った。
研修の効果と今後について
今回の研修を通じて、放射光施設への立入準備からはじまり、試料調製、測定・解析までの一連の流れを
経験することができた。特に、実際に施設内部に入り、測定を行えたことは貴重な経験になった。今後、学
内からの放射光測定に関する助言や測定支援などの業務に活かす予定である。また、放射光および X 線回折
によるリートベルト解析技術を向上させて、結晶構造解析の研究支援に役立てたいと考えている。
9
全盲児の点字学習を支援する学生協働型
社会貢献プロジェクトの実践
-音声式点字タイプ教具の導入による点字授業での改善成果報告-
The Practice of the Social Contribution Project in Collaboration with Students for Totally-Blind
Children's Braille Learning:
A Report of Improvements in Their Braille Lessons after Introducing
the Voice-Producing Braille Typewriter.
○須惠 耕二※1
Koji SUE
大嶋 康敬※1
Yasutaka OHSHIMA
松田 樹也※1
Mikiya MATSUDA
寺村 浩徳※1
Hironori TERAMURA
キーワード:工学,点字,社会貢献
Keywords: Engineering, Braille, Social Contribution
1. はじめに
全盲児の点字学習用にと開発した「音声式点字タイ
プ教具」(図 1)は,点字入力の即時音声読上げによ
り正誤がすぐに分かるので,点字導入期の児童が直面
する様々な問題克服に役立っている.昨年度は,製作
した教具の贈呈に感動した学生たちも自ら製作寄贈プ
ロジェクトを立ち上げた.教具は平成 24 年度末で全国
30 以上の視覚障碍教育機関(盲学校等)に導入され,
今年も寄贈活動でさらに増える見込みである.大学の
授業では得難い「学んだ技術で直接人の役に立てる喜
び」を感じた学生と職員が協働で進めている点字学習
支援の取組みと成果,今後の予定について報告する.
図 2 熊本県立盲学校での教具の寄贈 (H24.11.2)
2.2 学生プロジェクトによる寄贈活動の展開
盲学校での寄贈に感動した学生が有志チームを結成,
平成 24 年度熊本大学「きらめきユースプロジェクト」
で教具寄贈プロジェクトを企画・申請して採択された.
製作が初めての学生は前項 2.1 のセミナーに参加し
て製作技術を学び,夏休み明けからは放課後を使って
製作に取り組み 12 台を完成させた.熊本県立盲学校長
から推薦を受け,平成 24 年 11 月に「全九州盲学校長
会」で贈呈式が行われ(図 3),全九州・沖縄の各校へ
1台ずつ寄贈できた.その様子を今年 1 月に地元新聞
が報じ(図 4),本取組みの社会的意義が広く認識され
るようになると,各地からの問い合わせが相次いだ.
残る 2 台も他県からの要望を受けて郵送で寄贈した.
2.3 全国の盲学校教員との連携体制づくり
教具は,視覚障碍専門の教員が複雑な全盲児の状態
に合わせて活用する時にもっとも学習支援効果が高い.
そこで,視覚障碍教育の教員等が全国から集う「視
覚障害教育実践研究会」
(奈良市)で 2 年続けて教具と
取組みの紹介を行った.昨年度は,筆者が日本学術振
図 1 音声式点字タイプ教具
2. 教具による社会貢献への取組み
2.1 早期ものづくり体験型セミナーの実施
「革新ものづくり展開力の協働教育事業」の一環で平
成23年度より学部生対象に「教具開発・製作セミナー」
を実施している[1].このセミナーで製作した教具は,
開発協力校の熊本県立盲学校に計4台(及び他県に1台)
が贈られ(図2),授業導入を通して高い評価を受けた.
これが,現在の全国的な展開の起点となった.
※1
熊本大学工学部技術部
10
興会科学研究費補助金の助成(奨励研究:課題番号
24911024)を受けて製作した教具 20 台を,教具導入
を急ぐと回答した機関に1台ずつ貸与した.教具の評
価と点字学習上の諸問題の改善効果についてフィード
バックが得られる連携体制が構築出来つつある.
図 3 全九州盲学校長会での贈呈式 (H24.11.22)
図 4 寄贈の取組みを伝える新聞記事
(引用元:熊本日日新聞 H25.1.5 朝刊 29 面)
3. 点字学習における改善効果
教具導入は,小学生低学年期の点字学習において
様々な改善効果を生んでいる.全盲のみの障碍児(単
一障碍)は,教具利用を短期間で終えて従来の点字タ
イプライターへと移行する.一方,知的障碍を併有す
る重複障碍児の場合,教具導入が従来の点字指導上の
困難克服に大きく貢献しているとの報告がされている.
全国から寄せられた事例の主たるものを紹介する.
・児童 A(軽度の知的障碍): 点字タイプのキーと点字
音声の組み合わせに気がついた.名前や「お母さん」
などに含まれる文字を1字ずつ覚えて褒められる事
で点字が楽しくなり,学習が進むようになった.
・児童 B: 感情を言葉に出せないでいる児童が,教具
の録音再生機能を用いて自分の思いを表現し始めた.
・児童 C(単一障碍): 点字の習得が早いため,教具の
録音機能で他者とのクイズ遊び等の交流を楽しみ,
すぐに点字タイプライターの授業へと移行できた.
・児童 D: 点字学習に自発性が芽生えた.拗音等の点
字入力規則に興味を示さず清音習得中心だったが,
11
好きな文章を入力するために他の入力規則の必要性
を認識,自らその習得に取り組むようになった.
・児童 E:指を別々に使う事(指の分化)が困難だっ
たが,教具を用いた個人指導で徐々に指の分化が進
む等,自立活動面での改善が見られた.
・児童 F: 身体障碍から指の押下力が弱く,機械式の
点字タイプライターの打鍵が出来なかったが,教具
の軽いキータッチで点字入力の学習が始められた.
・児童 E(ADHD 児):点字打鍵のリズムが速すぎる中に
清音以外の入力規則を飛ばす癖があったが,音声応
答を待つリズムが生まれて正しい入力規則の習得に
成功し,誤入力の出現率が大きく減少した.
共通するのは音声式によって「点字が楽しい」と児童
が喜んでいる事であり,それが点字学習に相当な改善
効果につながっている事が調査で明らかとなった.
4. 今後の取組み
今年度も幾つかのプロジェクトが進み始めている.
(1)平成 25 年度日本学術振興会「ひらめき☆ときめ
きサイエンス」事業の実施
事業採択(整理番号 HT25228)を受け,8/7~8/9 に
県内高校生向けの教具製作セミナーを実施し,教具 20
台を全国各機関へと寄贈する.ここで学生は,高校生
に教具製作のノウハウを教える TA を務める.大学を開
いての新たな地域貢献事業としても展開しつつある.
(2)大学での学生プロジェクト継続と新規申請
「きらめきユースプロジェクト」では,昨年に続く
教具製作・寄贈と共に,盲学校等から要望がある新教
具の試作にも着手する.また上記 2.1 の製作セミナー
は同事業の別枠「学生プロジェクト」として申請し,
学生主体の「ものづくり学習兼社会貢献活動」へと移
行を図る.この 2 つの学生プロジェクトを 2 チーム体
制で同時に行うため新たな学生の募集活動を展開する.
5. 終わりに
全国 71 校の盲学校等に対して現在の教具普及は半
数にも満たない.授業への導入には 1 校で複数台必要
であり,就学前の自立活動クラスや中途失明の高齢者
福祉施設など,学校以外の機関での使用希望も数多い.
「日本中の目が見えない子供たちへ!」を合言葉に,
技術者としての「動機」と社会貢献の「喜び」を学生
も共有できる協働型の製作・寄贈活動の継続により,
今後も全盲教育現場の一助となれるよう尽力したい.
注および参考文献
1)「音声式点字タイプ教具の製作実習について」
平成 24 年度工学教育研究講演会講演論文集 p35
大嶋康敬・須惠耕二・松田樹也・寺村浩徳 2012 年 8 月
-----------------------------------------------平成 25 年度 日本工学教育協会工学教育研究講演会
講演論文集 P130 2013 年 8 月 29 日発表(新潟大学)
日本の繊維染色技術から学ぶ 高分子特性と高分子加工技術
鬼束 優香、吉村 眞紀子、西 麻耶子
工学部 技術部 機器分析・化学 WG
1.はじめに
私たちの生活にはすべてにおいて化学が潜んでおり、
私たちは日々その恩恵をうけている。しかし、化学を
専門で学んでいる学生も気づかないことが多く、講義
等で学ぶ化学(座学)と実生活で利用されている化学技
術(実学)が結びついていない現状がある。座学が実学
に通じていることに気づくと座学も楽しくなり、より
学ぶ意識が向上するのではないかと考えられる。そこ
で平成 24 年度革新ものづくり展開力の協働教育事業
「ものづくりと工学基礎技術の獲得」において、座学・
実学それぞれに興味を啓発することを目的とし、目に
している化学技術の一つである「染色」を題材に、私
たちの生活必需品である高分子の特性(座学)とその特
性をどのように利用しているか(実学)を理解する染色
体験プログラムを考案し、実行することとした。
4.作成資料について
今回用いた題材である「染色」は、衣類をはじめと
して様々な生活用品に利用され
ている技術であり、高分子の特
性や水中における粒子の吸着・
脱着、繊維と染料の化学反応と
いった化学・物理現象の上に成
り立っている。日本国内の染色
に係る技術は世界でもトップク
ラスである。今回は「染色」
「繊
維」
「染料」
「加工薬剤」
「実際の
染色工程」
「人工皮革」に関して 図 2 配布資料一例
資料を作成し説明を行った。
5.使用素材及び染色環境について
前述の通り、今回の染色体験プログラムでは、実際
に利用されている化学技術を体験することが重要と考
えて、
現在染色工場等で用いられている素材を入手し、
できる限り染色方法をラボスケールで再現するように
心がけた。また、世界でトップレベルである日本の繊
維材料「人工皮革」も教材に取り入れた。以下に詳細
を述べる。
2.企業からの素材提供
今回のプログラムでは、使用する材料についてでき
るだけ実際に使われているものにこだわった。国内の
企業から実際の現場で使用されている薬剤、繊維類を
ご厚意で入手できた。各詳細については後述する。
日本化薬株式会社様 : 各繊維用染料
日華化学株式会社様 : 各繊維用染色助剤
東レ株式会社様
: 人工皮革エクセーヌ
旭化成株式会社様
: 人工皮革ラムース
5−1 人工皮革
人工皮革は特殊不織布にウレタンを含浸させ、その
まま又は銀面加工したものを指す。天然皮革に近い構
造と風合いを持っており、衣類、家具、車、PC など
多岐にわたって用いられている。今回は、人工皮革と
して世界ではじめて実用化された東レのエクセーヌ、
世界ではじめて人工皮革に水系ポリウレタンを用いて
実用化された旭化成のラムースをそれぞれメーカーよ
り入手し、教材とした。
3.募集及び講師・受講者
工学部学生及び関連大学院生
に対し、メール配信、及びポス
ターによる募集を行ったところ、
合計 15 名の応募があった。学
生の専門と予定を考慮し 3 グル
ープに分けた。各グループに今
回の実習プログラムを提示して
グループ毎に実習日程を決め
図 1 募集ポスター
12 月〜3 月にそれぞれ 2〜3 日間の日程で行った。
講師:鬼束 技術職員
協力:吉村 技術専門職員、西 技術職員
参加者:学部生 9 名 大学院生 6 名
5−2 染色材料
染色は精練→染色→後処理が必要である。精練とは
布を予め洗浄する工程のことである。布は製造時に糊
や油剤等が用いられており、糊抜きや精練といった布
の洗浄を経て、はじめて染色ができる状態となる。今
回はあらかじめ精練加工が行われている綿、
ナイロン、
ポリエステル布を入手して染色に用いた。
12
SEM を使用したことがなかったため、積極的に取り
組んだ学生が多かった。綿特有の中空(ルーメン)や織
り方、表面、不織布と内部ウレタンの状態など確認す
ることができた。
後処理とは、繊維上に残った染料を落とす工程(ソー
ピング)や帯電防止や柔軟化といった機能の付与を示
す。今回はソーピングを行うこととした。
染色には、染料、染色助剤が必要であり、繊維の化
学組成によって必要な薬剤が決まる。染料は日本化薬
(株)より綿染色用の反応染料、ナイロン染色用の酸性
染料、ポリエステル染色用の分散染料を入手した。染
色助剤は日華化学(株)よりそれぞれの繊維用染色助剤
及びソーピング剤を入手した。なお、今回の染色条件・
レシピは、日華化学(株)の研究開発員の協力のもと予
備実験を行い、決定した。
図 5 人工皮革断面図 東レ エクセーヌ(左)と
旭化成 ラムース(右)
6−2 染色
参加者の提案により、綿は絞り染めを行うこととし
た。染色の難易度から 1)ナイロン染色、2)ポリエステ
ル染色、3)綿染色(絞り染め)の順に染色を行った。ナ
イロン、綿については染色の経時変化を確認した。ポ
リエステル染色については常圧下(100℃)と加圧下
(120℃)の染まり方の違いを確認した。
染色の経時変化や染色温度の違いによる染まり方の
変化を実際に目に見える形にできた。絞り染めは、た
こ糸、輪ゴム、洗濯ばさみをこちらで準備したが、参
加者が小石を集めてきたり、小銭を準備するなど、参
加者の自由な発想のもと、布を絞り、染色することが
できた。
図 3 日本化薬 染料(左)と
日華化学 助剤(右)の一部
5−3 染色環境
繊維と染料の相互作用から昇温速度が決まり、繊維
と染料の化学構造から最適な染色温度が決まる。昇温
速度の遅速は染めムラや色の再現性を左右する。これ
らの条件を再現するため、通常ラボスケールの染色実
験にはミニカラー染色機といった耐圧性ステンレスポ
ットを油浴中で加熱回転させる試験器を用いるが、利
用できる範囲には試験機がないこと、今回の染色体験
では厳密な再現性を問わなくてもよいことから、市販
の鍋とコンロで行うこととした。なお、綿の染色温度
は反応染料との反応温度である 60℃で染色を行った。
化学繊維の染色は繊維の非晶部分に染料を取り込ませ
て染色するため、繊維が軟化するガラス転移点以上、
ゴム状態で染色を行う必要がある。ナイロンは 100℃
で染色が行えるが、ポリエステルは 120~130℃の染色
温度が必要となる。容易に入手可能な圧力鍋は理論上
内部温度が 120℃程度まで上昇するため、適切な薬剤
を用いれば染色が可能である。そこで圧力鍋を用いて
高温高圧下の染色を再現することとした。
染色したものは
すべて参加者に
プレゼントしま
した。
図 6 染色の様子
7.アンケート結果及びまとめ
染色体験終了後に行ったアンケートでは、電子顕微
鏡による観察体験も良かった、大変勉強になった、と
ても有意義だった等の意見をいただいたが、染色後の
用途が広がるよう自分の好きな布や大きな布を染めら
れれば良かった、や、時期が遅く、寒かった。もっと
早い時期が良い、といった意見もいただいた。機会が
あれば、被染色物のバリエーションを考えたい。
6.実施内容
6−1 走査型電子顕微鏡(SEM)による素材観察
布の構造と人工皮革の構造を実際に目で見てもらう
ため、電子顕微鏡観察のサンプルづくりから観察まで
おこなった。綿、ナイロン、ポリエステルは、化学組
成、繊維の構成や特徴、紡糸方法の説明を行い、人工
皮革は、人工皮革の製造方法や各社の特徴、染色方法
などの説明を合わせて行い、各社の構造の違いと風合
いを確認した上で観察をした。今回の参加者は全員
8.謝辞
今回の染色体験プログラムを行うにあたって、内容
に賛同いただき、各種素材をお送り下さった、日本化
薬(株)様、日華化学(株)様、東レ(株)様、旭化成(株)様
に感謝申し上げます。
13
早期体験型実験・演習科目開発プロジェクト
「ものづくり挑戦と工学基礎技術の獲得」
-自転車を徹底的に分解!そして,
人力型水陸両用車「Autocanoe」へ大変身させよう!!-
吉永 徹,今村 康博,有吉 剛治,田中 茂,坂本 武司,稲尾 大介
装置開発 WG
1
はじめに
昨年度,同プロジェクトにおいて 16~17 世紀頃の木工旋盤を文献の挿絵等を参考にしながら再現したが,
毎回行われた製作に関するミーティングでは,学生のものに対する関心度や遊びの一環で行ってきた工作や
.....
ものいじりの経験が想像を具体的に形にしていくアイデアや提案に大きく関係することが改めてわかった.
そこで,平成 24 年度は我々の生活の中で身近な道具の一つである自転車を題材にして‘もの’を知ること,
‘ものづくり’を考えること,そして‘ものづくり’を通して様々な素材,使用する道具や工作機械に出会
うことを目的に,自転車を徹底的に分解し再度組み立て,さらに自転車を応用したユニークな乗り物である
「Autocanoe TM」を製作した.
2
製作者
本テーマは学科問わず工学部 1・2 年生を対象に広く募集したが,自転車を題材にしたためか,または我々
.....
のグループ名が影響したのか,メカいじりが好きと思われる機械システム工学科の学生に偏ってしまった.
参加者数も含め,次の機会では募集方法を工夫したい.
【製作者】
3
機械システム工学科 2 年
機械システム工学科 1 年
田尻 鴻平
佐竹 晃輔
高木 航
小寺 啓太
本田 拓朗
渡邊 直人
「Autocanoe TM」について
「Autocanoe TM」は,前方二輪,後方一輪の三輪リカンベント自転車の運転(駆動)方式をカヌーに組み込
み,前輪のスポークに水かき用の羽,後輪には舵の機能をもたせるためのホイールカバーを配した水陸両用
の非常にユニークな乗り物である.本テーマの計画段階で自転車の分解,組立以外に自転車をもとにしたも
のづくりを体験できる題材を探していたところ,陸上で八の字走行やスピンターンを優雅に決め,そのまま
スロープから水上へ入りスワンボートのような足漕式によって推進するカヌーが Youtube に公開されており,
製作欲を掻き立てる発想の面白さに加え,ホームページから設計図が入手可能なことから自転車の応用材料
として採用した.
興味ある方は,Autocanoe ホームページ(http://www.autocanoe.com/)を御覧ください.
14
本テーマの内容
4
4.1
自転車の分解,組立
自転車の分解では,ロードバイク,マウテンバイク,子供用自転
車を分解した.特にパーツ数の多いロードバイクについてはフレー
ムに取り付けてあるものは全て取り外し,各パーツについても可能
な限り全て分解した.これによってハンドル(ステム)の固定方法,
ブレーキレバー,シフトレバーの仕組み,ブレーキの構造,ペダル
の軸であるボトムブラケットの存在と機能,ボスフリーの分解では
リアスプロケット固定法やラチェット機能によってペダルからの
力を走行方向のみ後輪のハブに伝達できるようになっていること
を理解してもらった.その他,ディレイラの仕組み,ハブの仕組み,
スポークニップルの存在,クイックリリースの仕組み,チェーンの
図 1.自転車分解の様子
仕組みと切り方,チューブバルブの方式とそれぞれの仕組み等,全
てのパーツや分解するための専用工具には,様々な知恵が形となっ
て存在し,乗り物として成立していることを理解してもらった.
組立は,分解したもの全てについて再度組立ててもらい,摺動部
へのグリースの塗布,ディレイラ等調整の必要なものについてはそ
れぞれの調整法を指導した.また,スポークの張り方ではダイヤル
ゲージを用いてリムのたわみを確認しながら均等にテンションを
かける非常に根気のいる作業にも挑戦してもらった(図 1,2).
4.2
図 2.スポーク組みの様子
Autocanoe 製作
4.2.1 模型製作
カヌーを製作する前に,全体の製作工程をイメージしてもらうた
めに 1/10 スケールモデルを実際の図面をもとに製作した.カヌーを
形作る躯体には,ステム,ガンネル,キール,リブ,ハル,ヨーク
がある.それぞれのパーツを模型用の木角材やアクリル板,バルサ
材を用いレーザー加工機等で切断後,躯体の組立工程に従い組み上
げた.次に,薄いバルサ板材を躯体の形状に沿わせカヌーのボディ
であるハルを製作するが,この工程で裁断した板材の形状や板を躯
体にあてがう順序は,実際のハル製作にフィードバックすることで
き非常に有効な事前情報となった.完成した模型は常にカヌー製作
図 3.模型躯体にハル材をあてがう.
カヌー製作で最も難儀な工程
の傍らに置かれ,作業工程の確認時には良い指標となっていた(図 3).
4.2.2 駆動部について
図 4 に Autocanoe の駆動部を示す.カヌーの進行方向に対し自転車の前後と上下を逆さにして船体に固定
してある.自転車の変速ギアは前後ともそのまま利用できるようになっており,リカンベント車の要領でペ
ダリングする.ペダルからの力はボスフリーの対面側に取り付けたスプロケットから Autocanoe 前輪軸の中
央に配置したディファレンシャルギアをチェーンにより伝達し前輪を駆動する仕組みになっている. 前輪の
15
スポークには水かき用の羽を取り付けることで水上での推進を可能にしている.
水上での舵や陸上でのハンドリングを可能にする後輪は,子供用自転車のサドルより前方部分を利用し
Autocanoe の船尾に取り付けている.ステムに取り付けたプーリーは,後輪を左右に動かすためのロープを掛
けるためのものである.駆動部の製作では,電動サンダーや丸鋸によるフレーム切断および研磨作業,固定
用アングルやフレーム補強用の斜材取り付けには溶接を行うなど,作業時に閃光や音,振動など感覚的に怖
さを覚える作業であるため勇気を振り絞り作業にチャレンジしていた.
図 4.Autocanoe 駆動部と溶接の様子
4.2.3 カヌー船体製作から完成まで
カヌー船体の製作は,躯体パーツの部材切出し,躯体組み,バ
ウ材貼付け,船体表面への FRP 処理,塗装という流れになるが,
事前の模型製作によって製作工程がイメージできていたためか作
業内容について説明の必要はなく,切り出す部材がどの部分に使
用するのか概ね理解できていたため使用する工具類の使い方や加
工の指導に時間を割くことができた.これによって船体の形がで
きる行程まではスムーズに作業が進行した(図 5).
バウ材貼り付け,船体表面への FRP 処理,塗装の工程では使用
図 5.躯体製作
するエポキシ樹脂やウレタン塗料などの硬化時間,乾燥時間が必
要になる.また,最終的な表面形状や塗装面の良し悪しは,それ
ぞれの工程の間で行う形状補修,研磨作業(下地処理)の丁寧さ
に関わってくるため非常に時間のかかる工程になった.FRP 処理
後から最終塗装,最終研磨まで行った下地処理を以下に記す.
・サンディングシーラー3 回
・白色塗装 2 回
・サーフェイサー1 回
図 6.FRP 処理
・赤色塗装 2 回
気持ちが切れずによく最後まで作業を行なってくれた.丁寧な作業の結果,最終研磨後の水洗いを終え出て
きた綺麗な塗装面に学生も満面の笑みを見せていた.ものづくりの醍醐味の一つを経験したと思う.
塗装が終了した船体に駆動部を組み込み,ブレーキおよびギアのワイヤ,ハンドル,水かき用の羽等,
必要なパーツ類を全て組み込み 8 ヶ月間に渡る Autocanoe 製作が終了した.完成までの写真を図 7 に示す.
16
a) とにかく研磨は大変だ
放心状態の学生
b) サンディングシーラー
面が徐々に出来上がる
d) 面が仕上がったので本塗装へ
スプレーガンも様になっている
e) 研磨! 研磨! 研磨!
f) コンパウンド,水研ぎで塗装完了!
h) フェンダーの取り付け
i) Autocanoe ついに完成!
g) 駆動部,ハンドル,ブレーキ組み込み
c) サーフェイサー
面仕上げの最終チェック
図 7.塗装から完成まで
5
おわりに
自転車の分解に始まり自転車を応用した乗りもの製作まで,
‘もの’とじっくり向き合った 10 ヶ月間であ
った.気持ちを切らずに限られた時間を繋いで最後まで頑張ってくれた学生諸氏に感謝したい.参加してく
れた学生にどれだけの‘もの’を紹介できたかわからないが,この一連の取り組みが今後ものづくりを行う
際の発想や行動に活かしてくれることを期待したい.
17
プロジェクト実習第一の課題「スターリングエンジン模型」の取り組み
○倉田
大,中村秀二,白川武敏,清水久雄,平田正昭,廣田将輝,稲尾大介
熊本大学工学部
技術部
キーワード:スターリングエンジン,熱機関,3D-CAD
1. はじめに
する事ができる熱機関で、温度の異なる 2 つの熱源の間で
熊本大学工学部の機械システム工学科では、2 年次前期
動作する可逆熱サイクルである理論上のカルノーサイク
に「プロジェクト実習第一(担当教員:峠
睦教授、久保
ルに最も近いとされる。現在では潜水艦の動力や小型発電
田章亀准教授)
」の必修科目の授業を実施している。この
機の利用などの開発が行われている。
授業では、既に受講した 1 年次後期の「機器製作実習」を踏
4. 課題作品「スターリングエンジン模型」について
まえて、創造的な機器製作の技術・能力を習得することを
今回の課題であるスターリングエンジンについて図書、
目標としている。本稿では平成 25 年度に実施した新たな
課題作品「スターリングエンジン模型」の取り組みについ
Web サイトを使って資料を集め、準備段階として試作品を
て報告する。
作ることにした。いろいろな種類がある中、その中でも一
番理想的な2ピストン型に決めた。参考図書から 3D-CAD
2. 授業日程について
(Solid Works)により部品作成から組立、図面化を行った。
プロジェクト実習第一の授業数は、全 15 週で実習場所
エンジン主要部のピストンとシリンダが注射器の部分を
は革新ものづくり教育センターのものクリ工房(実習スペ
使うものが多かったが、この部分は気密性を保ち、精度が
ース)および中央工場 B 棟である。始めに実習ガイダン
維持できる材料の鋳鉄製に変更した。以下に 3D-CAD の
スを行い、ものづくり実習、そして企画・設計・製作を行
モデリング【図 1】を示す。
う。最後の総まとめとして班毎に課題作品のプレゼンテー
ションを実施する。受講者の約 100 名を火曜班と金曜班の
約 50 名に分け、班人数を 6,7 名とした 8 班編成の 2 組に
分けて実施する。以下にスケジュール【表 1】を示す。
表 1 日程表「プロジェクト実習第一」
実習内容
実習ガイダンス
回
担当者
ものづくり実習
1
担当教員、倉田 大、廣田将輝、TA
旋盤加工
1
清水久雄、平田正昭
材料取り、ボール盤
1
白川武敏、稲尾大介、TA
機械要素、NC 機器
1
中村秀二、倉田 大
計測
1
担当教員
図 1 3D-CADのモデリング
5. 部品加工と本体組立について
中村秀二、倉田 大、白川武敏、
企画・設計・製作
9
スターリングエンジンの基本型の仕様は、幅 100mm,
清水久雄、平田正昭、廣田将輝
奥行 70mm,高さ 171mm とした。加工部品数は 18 点であ
稲尾大介
プレゼンテーション
1
った。これにボールベアリング(6 個)、キャップスクリ
担当教員、TA、担当職員
ュー(17 本)、セットスクリュー(4 個)ワッシャー(4
3. スターリングエンジンとは
枚)の市販部品を加えた合計 49 点【図 2】の部品数とな
スターリングエンジンは、スコットランドのロバート・
った。加工部品の材料は、アルミ合金(板材)、真鍮棒(黄
スターリングが発明(1816 年)したとされている。
銅)、連鋳棒(鋳鉄)を使ってコンタマシン(帯鋸盤)を
熱エネルギーを運動エネルギーに最も高い効率で変換
使って材料取りから行った。
18
6. 今後の課題
次に過熱部、シリンダ、ピストン、フライホイール、バ
ランスホイール、回転軸、ピストンエンドは主に旋盤を使
ものづくり教育として多くの大学がスターリングエン
って加工し、ベース、フレーム、連結板、クランク板につ
ジン模型を製作する内容の実習テーマが導入されている。
いてはNCフライス盤、マシニングセンタ,ボール盤など
これはスターリングエンジンが実習教育のテーマとして
を使って加工した、銅シールについては専用工具のポンチ
最適な課題であることを意味している。今回、初めての課
で抜いた。
題の取り組みであったが、準備期間が少なく、試作品を作
るのがやっとであった。そのため参考資料による幾つかの
モデルから2ピストン型を基本の課題作品とした。このほ
かにスターリングエンジン模型にはいろいろな種類や形
式があること、設計上においては、圧力容積の計算、気密
性の確保、機械的ロスの減少させる、ピストンストローク
の距離と位置の関係、位相角度など奥深い内容であること
がわかった。今後はプロジェクト実習第一の目的でもある
創造性あるものづくりをさせることで自ら企画・立案した
作品の製作を行うことや機器使用状況を把握し、作業の効
図 2 基本型スターリングエンジンの部品
率化を図ることなどを改善して行きたい。
すべての部品加工が完了したら,市販部品と共に組立を
行う。ここでは図面通りに部品が加工できているかどうか
7. おわりに
確認しておく必要がある。また組立の際に再加工や微調整
プロジェクト実習第一では、ものづくりの一連の過程を
が必要となる。以下に組立が完了したスターリングエンジ
習得する体験型実習である。特に設計段階では立案が進ま
ン模型【図 3】を示す。
ず試行錯誤し、時間を費やしてしまう班が多く見られた。
加工部品の形状や機器の使用状況により、日程調整が合わ
ないなどの意見も出されたが、16 班のすべての班が課題
作品を作り上げることができた。肝心となる動作もすべて
動くことを確認したが、発表用資料作成のため,再組立を
行った班についてはプレゼンテーション当日には動かな
い不具合もあった。しかし,苦心して出来上がった作品の
動いた瞬間の嬉しさを感じてくれたことは私たち技術職
員も感慨深いものがあった。今後も引き続きプロジェクト
実習第一の教育支援に担当教員と連携して、尽力して行き
たい。
謝
辞
図 3 基本型スターリングエンジン模型
本授業の実施にあたり,革新ものづくり教育センター長
組立完了後に動作確認を行う際にはフライホイールと
の位寄教授、機械システム工学科の峠教授、久保田准教授、
バランスホイールの位相角が必要で標準では 90~120°
関係各位に感謝申し上げます。
が必要となるが、今回は 100°にして微調整した。また回
参考文献
転方向は一定で過熱側のピストンから冷却側ピストンの
1) 模型づくりで学ぶスターリングエンジン
膨張した空気の流れによって方向が決まる。組立時のピス
オーム出版
トンの動きや構造上の機械的ロスに敏感なため、組立には
2) オンライン百科事典ウィキペディア日本語版
細心の注意が必要となる。また過熱部分をバーナーで加熱
ウィキメディア財団
するため、やけどしないように十分に注意する。
19
プリント基板エディタ「PCBE」によるプリントパターン
設計ならびにプリント基板製作
松田 樹也
熊本大学工学部技術部電気情報技術系
電子回路製作において回路の実装には大きな手間と
負担がかかる。回路をユニバーサル基板上に手配線で
構築するには、回路図を見ながら、はんだ付けにて配
線を行う。その際、配線作業を行う前に実態配線図を
プリント基板用 CAD にて設計後 CAD 図を見ながら製
作する手順を踏むことにより、作業効率の向上ならび
に欠陥の減少が可能となった。本稿では、プリント基
板用 CAD の「PCBE」[1]を使用した技術支援について
紹介する。
るため、回路の確認が容易
② 接続不良や配線ミスの減少による信頼性の向上
③ 同じ基板の複製が容易
④ 空中配線(ジャンパ線)を最小限に設計
⑤ 手配線での作業よりも容易に製作可能
⑥ 電子回路について詳細な知識がなくても製作可能
以上のようにプリント基板を使用した電子回路の製作
は有効である[3]。
さらにプリント基板エディタを使用し実態配線図を
作成し、手配線にて回路を作製するのにも有益であり、
プリントパターン作成以外においても利用している。
2 プリント基板エディタ
3 プリント基板ができるまで
本稿にて使用している「PCBE」は、高戸谷隆氏が制
作したフリーウェアのプリント基板エディタ(CAD)
である(図 1)[2]。フリーウェアで提供されているが、
機能は充実しており、版下印刷だけでなく、プリント
基板メーカに製作依頼するために必要なガーバーファ
イルやホールファイルを出力できる。
自作のプリント基板を作製するには、まず初めに回
路図 CAD などを使用して回路を設計する。設計した回
路をプリント基板エディタで基板の配線などを作図し
て、プリント基板を製造するためのデータを生成し、
製造メーカに依頼する。本稿では、基板製造メーカ「P
板.com」[4]に依頼して製作にあたった。製作の流れを
図 2 に示す。
1 はじめに
回路図エディタ
基板エディタ
1.回路設計
6.ケースの選定ならびに
設計仕様構築
2.回路図記号(ライブラリ)確認
7.基板外形の決定
3.回路図描画
8.部品の配置検討
4.電気的エラーのチェック
9.配線作業
5.部品の選定
10.デザイン・ルールのチェック
11.発注データの生成
12.基板製造メーカに発注
図 1.プリント基板エディタ(PCBE)
13.プリント基板到着
図 2.プリント基板製作の流れ
プリント基板での電子回路製作では次のような利点
があげられる。
① 手配線よりもきれいな電子回路基板の作製ができ
20
増加が必要となっている。また、高電圧の実験による
本装置の故障やシステムの不具合改善の早急な対応手
段などにより、複数台の予備を必要としている。それ
により、多量の生産と製作の簡略化を目的にプリント
基板を製作することにより対応の改善を目指した。設
計したプリント基板の PCBE の画面を図 5 に、製作し
たプリント基板を図 6 に示す。
4 プリントパターンの製作
i. 音声点字教具
音声点字教具では、はんだ付けの知識や経験のない
方でも製作できることが必要であるため、プリント基
板を作製した。設計した PCBE 画面を図 3 に、製作し
たプリント基板を図 4 に示す。
図 3.音声点字教具のプリント基板 PCBE 画面
図 5.高電圧電源コントローラとサイラトロンドライバのプ
リント基板 PCBE 画面
図 4.音声点字教具のプリント基板
製作した基板は、音声合成モジュールを使用した装
置と音声合成 IC を使用した装置の両方で作製できる
ようにプリント基板を設計している。また、制御マイ
コンの使用していないピンを使用して、さらなる応用
が可能となるように、接続コネクタから外部へ接続を
可能とする配線を施した。
図 6.高電圧電源コントローラとサイラトロンドライバのプ
リント基板
ii.
高電圧電源リモートコントローラとサイラト
ロンドライバ
高電圧電源リモートコントローラならびにサイラト
ロンドライバは、高電圧パルスパワーの研究遂行には
欠かせない装置であり、研究の促進化に伴い、装置の
製作したプリント基板は高電圧電源コントローラと
サイラトロンドライバを 1 枚の基板で製作することに
より、各々で発注する場合と比較して、価格を低下さ
せることができた。また、高電圧電源コントローラに
21
は、他の電源にも使用可能化ならびに別システムでの
利用できるように設計している。
5 謝辞
本大学の浪平隆男准教授には、高電圧電源リモート
コントローラとサイラトロンドライバのプリント基板
の製作にあたりご支援いただきまして、心より感謝申
し上げます。
参考文献
[1] T.TAKATOYA, “PCBE” Version 0.58.2 Copyright
(c), 1996-2013
[2]能登 尚彦,
「プリント・パターン作成ツール PCBE
―電子回路を基板化しよう」,CQ 出版,2007 年,63p
[3]トランジスタ技術 2013 年 5 月号,CQ 出版社
[4]「P 板.com」,http://www.p-ban.com/(参照
2013.09.13)
22
大口径化に対応した SiC 基板の紫外光支援研磨に関する研究
坂本武司*,稲木匠*,小田和明*,峠
睦*
Study on ultraviolet-ray assisted polishing of SiC substrate corresponding to large-diameter
Takeshi SAKAMOTO, Takumi INAKI, Kazuaki ODA, Mutsumi TOUGE
Key words : SiC, ultraprecission machining, ultraviolet-ray irradiation, XPS
1.緒 言
3.紫外光照射による酸化膜生成の確認
シリコンカーバイド(SiC)基板はその優れた特性から次世
紫外光を照射することによって SiC 基板 Si 面および C 面に
代パワーデバイス半導体への応用が期待されている.しかし,
酸化膜(SiO2)が生成されることを確認するため,SiC 基板に
SiC は,ダイヤモンド,cBN に次ぐ硬度を有し,熱的,化学的
対する紫外光の照射実験および XPS による計測を行った.
にも安定であるため,加工がきわめて困難な材料である.SiC
SiC 基板にダイヤモンドラッピングを施し薬液洗浄を行った後,
パワーデバイスを普及させるためには,大口径 SiC 基板に対
表 1 に示した条件で紫外光を照射した.SiC 基板表面の酸化
する高効率で超高精度な新しい加工プロセスが求められてい
膜の有無は XPS 計測により確認した.酸化膜の存在を確認し
る.このような中,われわれは単結晶 SiC 基板や単結晶ダイヤ
た後,イオンエッチングを行いながら深さ方法に XPS 計測を
モンド基板などの高硬度材料に対する鏡面加工技術として紫
行い,酸化膜が確認されなくなるまでの深さを求めた.
外光を援用した超精密研磨技術(以下,UV アシスト研磨)を
図 2 に紫外光の照射時間と SiC 基板表面に生成した酸化
開発し,2 インチサイズの SiC ウェハの表面をサブナノメート
膜の厚さの関係を示す.生成された酸化膜の厚さは紫外光
ル・オーダに研磨することに成功している
1)-3)
.本報告では,
の照射時間の増加と共に増加するが,増加の割合は緩やか
UV アシスト研磨のメカニズムを裏付けるために行った XPS に
になり,30min 照射しても数 nm 程度の厚みであった.また,
よる生成酸化膜の計測と,大口径基板に対応するために開
一般に活性が強いと言われている C 面は Si 面に比べて同じ
発した石英管工具を用いた UV アシスト研磨とその研磨特性
照射条件において酸化膜が厚いことが確認できた.酸化膜の
について報告する.
生成レートは UV アシスト研磨の研磨レートと比較すると非常
に小さい.実際の UV アシスト研磨においては,研磨領域に
紫外光が照射されることで,光化学反応と機械的除去作用が
2.UV アシスト研磨のメカニズム
同時に起こっていると考えられる.
SiC 基板表面にダメージを与えることなく,原子レベルで平
滑な表面を高効率に得るためには,機械的除去作用のみに
よる加工では不可能であり,何らかの化学的作用を効果的に
表 1 UV 照射条件
適用する必要がある.われわれが開発した UV アシスト研磨
基板
は,被加工物表面上に紫外光を照射することで被加工物表
UV 光源
Deep UV ランプ
面を酸化させ,その酸化された領域を石英工具と CeO2砥粒
UV 波長
200-400 nm
で効率的に除去することにより研磨が進行すると考えられる.
UV 照度(実測値)
8500 mW/cm2 (波長 365nm)
雰囲気
大気
集光レンズからの照射距離
10 mm
照射時間
0 min, 5min, 10min, 30 min
図 1 に UV アシスト研磨のメカニズムを示す.
4H-SiC 4°off (Si 面,C 面)
酸化膜の厚さ nm
6
図 1 UV アシスト研磨のメカニズム
5
C面
Si面
4
3
2
1
0
10
20
30
UV 照射時間 min
40
図 2 UV 照射により SiC 基板表面に生成した酸化膜の厚さ
* 熊本大学:〒860-8555 熊本県熊本市中央区黒髪2-39-1
Kumamoto University
23
4.石英管を工具とした UV アシスト研磨
UVアシスト研磨を大口径基板にも対応した技術とするため,
石英管工具を用いた研磨方法を開発した.本プロセスの模式
図を図3に示す.工具を石英管としたことにより,研磨を行う
SiC基板の面積に対して工具と接触する面積を小さくすること
が可能で,単位面積当たりの研磨抵抗が大きくなっても基板
と工具に負荷をかけることなく安定した研磨をすることができ
る.また,石英管の全周囲から紫外光を研磨面に照射するこ
とができる.石英工具ホルダの中心部は空洞になっており,
様々なガスを石英管の内側に一定圧力で封入し加工部の雰
囲気を供給することが可能である.
研磨実験の画像を図4に示す.工作物であるSiC基板は,
予めダイヤモンドラッピングを施した後,基板ホルダに固定し
図 3 石英管を工具とした UV アシスト研磨の模式図
た.石英管工具の下端面には酸化膜の除去効率を向上させ
るためCeO2粒子を塗布した.外径φ25mm,肉厚2.5mmの石
英管をOリングの付いた石英工具ホルダに取り付け,一定の
荷重でSiC基板に押し付けた.SiC基板と石英管を任意の回
転数で回転させることにより研磨を行った.石英管の側面から
SiC基板の加工面に向けて紫外光を照射した.石英管の内側
にはO2 ガスを封入し,研磨領域をO2-rich状態にした.表2に
UVアシスト研磨の実験条件を示す.研磨実験前後のSiC基
板表面の面粗さをZygoにより計測した.
図 5 に UV アシスト研磨実験前後の SiC 基板表面の Zygo
像を示す.前加工後の基板表面は,ダイヤモンド砥粒による
スクラッチが確認できるのに対して,UV アシスト研磨後の基
板表面は薄い文目状の研磨痕は確認できるが,スクラッチは
図 4 UV アシスト研磨実験の画像
見られない.表面粗さも Ra: 0.40nm から Ra: 0.17nm に改善さ
れており,非常に平滑な研磨面にすることができた.良好な
表 2 UV アシスト研磨実験条件
研磨面を得るまでに 8hr の研磨時間を要したが,研磨条件の
改善により短縮することは可能であると考えている.
基板
4H-SiC 4°off (0001)2inch wafer
研磨圧力
100 kPa
5.結 言
回転数
SiC 基板に紫外光を照射することにより酸化膜が生成され
SiC 基板
60 rpm
石英管
1000 rpm
ることが XPS 計測により確認された.工具に石英管を用いた
UV 光源
Deep UV ランプ
UV アシスト研磨は,雰囲気制御も含めた良好な研磨条件を
UV 波長
200-400 nm
作ることが可能であり,今後予想される大口径基板の研磨に
UV 照度(測定値)
8500 mW/cm2 (波長 365nm)
研磨時間
8 hr
対しても有効であることがわかった.今後,4 インチサイズの
SiC 基板に対しても研磨を行う予定である.
謝 辞
本研究の XPS を用いた計測は,鹿児島大学 機器分析施
設 久保臣悟氏にご協力をいただいた.ここに記して感謝申
し上げます.
6.参考文献
1) 坂本他,紫外光支援加工による 2 インチ単結晶 SiC ウェハの研磨特性,
精密工学会春季大会学術講演会講演論文集,(2012)CD-ROM,
p.1167-1168.
2) T. Sakamoto, M Touge, A Kubota, Polishing characteristics of 4H-SiC
wafer in ultraviolet-ray irradiation assisted polishing, Proceedings of the
Tenth International Conference on Progress of Machining Technology,
(2012) p.85-88.
3) 坂本他,2 インチ SiC 基板の紫外光支援研磨に関する研究,砥粒加工学
会誌,57(2013).
(a)前加工後
(b)UV アシスト研磨後
図 5 UV アシスト研磨前後の SiC 基板表面の Zygo 像
24
八代海「野坂の浦」におけるアマモ生育環境に
関する現地観測
○矢北
孝一1,森本剣太郎2,御園生敏治3,増田
龍哉3,滝川 清2
熊本大学 工学部技術部,2熊本大学 沿岸域環境科学教育研究センター,3熊本大学 大学院先導機構
1
1. はじめに
八代海は,九州西部に位置し九州と天草諸島に囲まれ
た海域面積約1,200 km2 を有する内湾であり,閉鎖性が強
く河川の影響を受けやすい特性がある.また大潮時の潮
位差が約4mと大きく,干潟面積約41km2 を有している.
八
代
海
八代海の湾奥から東岸域は,かってアマモ等の藻場が広
範囲に生息し,豊かな海域環境を形成していた.しかし
A
佐敷川
B
佐敷港
C
高度成長期以降,海域の浄化機能を担うと考られる干
潟・藻場が減少している.近年八代海を含めた内湾域で
湯
浦
川
野坂の浦
は赤潮の頻発・長期化,水産資源の減少,水質・底質の
F
悪化等が顕在化し,環境悪化の要因の一つとしてアマモ
D
E
場の減少が指摘されている1),2).そのため,各機関・大
学等において,各地のアマモ場の生育環境に関する調
査・研究が実施され,機能・生育条件・アマモ場造成手
0
500m
図-1 野坂の浦とアマモ生育域
法等が報告されている3),4).この中でアマモ場造成につ
表-1 株密度・採泥と連続観測
いては,環境要因の緩和・改善策が示され,種子の回
収・移植方法についても研究が進められている5).八代
海においてもアマモ保護活動が実施され,芦北町地先で
は2003年からアマモ造成が試みられている6).しかし,
全国でアマモ場造成によって安定したアマモ場が維持さ
れている事例が少ないのが現状である7).このことは,
アマモの生育環境要因が複雑で,要因間の相互作用に一
因があると考えられ造成海域での最適な手法を検討する
表-2 連続観測項目と地点名
必要性が示唆される.
観測項目
流向・流速・水温
照度
水温・塩分
水深・水温
潮位
本研究では,アマモ場造成の最適手法の検討を最終目
的とし,その第一段階として八代海に面する芦北町地先
の野坂の浦での現地観測を通してアマモの生育環境を検
討した.
地点名
st2,st7
st1,st2,st3,st4,st5,st6
st3,st10
st8
st9
2. 観測結果と考察
(1) 対象域と観測項目
佐敷港
野坂の浦は,図-1に示す東西・南北方向約1.5kmの内
湾であり,佐敷港と野坂の浦間に東西に約850mの防波
堤が設置されている.アマモ生育域は,図に示すA~F
図-2 観測機器の位置
1
25
域であり,1970年代までは, B,C~E域間に帯状のアマ
モ場が形成されていた.現在は,B,F,D,E域で天然
アマモ場がパッチ状に形成されている.なお,A,C域
は,地元ボランティアによって移植された領域であり,
特にC域は,現在より東側約200mに移植されていた.
地形調査,採泥,株密度及び連続観測の時期は,表-1に
示すように,アマモのライフサイクルを考慮し2012年8
月~2013年8月にかけて大潮期に実施した.また表-2,
図-3 田浦港と佐敷港の潮位比較
図-2に示す観測項目,地点において流況・照度・水温等
の連続観測をB・C域で実施した.なお,株密度の測定
は0.25m2のコロラードを用い,目視によって株数をカウ
ントし,アマモ域の境界を含めた位置情報は,携帯GPS
(GARMIN製GPSMAP-60CSx:±2.0m)で記録した.底
泥の粒度分析は,レーザー粒度分析器(HORIBA製LA950)を使用し,含泥率は,粒径63μm以下のシルト・
粘土分の合計とした.
図-4 田浦潮位の実測値と推算値
(2) 対象域の地形
アマモ場における水深,地盤高,海底勾配等がアマモ
生育に与える影響が指摘されており8),広域的な地形観
測が必要と考えられる.しかし,アマモ場の地形観測を
実施する場合,時間・経済的な制約を受け局所的な観測
が中心となっている.そこで,アマモ場地形を広域的に
把握するため簡易的にGPS魚群探知機(以下,魚探とい
う)LOWRANCE社製HDS-7をゴムボートに艤装し,約
1.0m/sの航行速度で水深を測定した.魚探から得られる
水深は,発信周波数200kHz,発信間隔0.2秒の反射強度
から変換され,位置情報は,搭載されたGPSの緯度経度
を平面直角座標UTM(Universal Transverse Mercator)52系
に変換した.水深から標高T.P.への換算は,佐敷港に験
潮所が設置されておらず,北方約7kmに位置する田浦港
の潮位(http://www. bou sai.pref.kumamoto.jp/)を基準とした.
図-3に,単位時間10分の6月23日12:00~25日12:00にかけ
図-5 水深測定の航跡
て佐敷港に設置した水位計から算出した潮位と田浦港の
潮位変化を示す.図より,佐敷港の潮位に10分の遅れと
満潮時に最大0.2mの相違が認められ,潮位推算の補正量
とした.また田浦潮位は10分毎間隔で記録されており,
魚探による観測時刻の潮位を推算する必要がある.そこ
で,田浦潮位の主要4分調(周期12.0hr,12.42hr,23.93hr,
25.82hr)を最小二乗法より求めた一例を図-4に示した.
図より,実測値と推算値は,干潮時に若干の相違がある
が観測時刻が満潮前後に実施したことを考慮し推算値に
影響が無いと判断した.測線は,図-5に示すように,ア
マモ域・佐敷港内では,約40m以下の間隔とし観測は
5/15に実施した.また野坂の浦では東西・南北方向約
200m間隔とし,この観測日は,南北方向が6/24,東西方
向は8/23である.なお,各観測日での波高は小さく,観
測期間での洪水等のイベントも観測されず3ヶ月間の地
図-6 対象領域の標高
26
形変化量は少ないと考えられる.
図-6に野坂の浦の標高T.P.を示す.全域において観測
期間が3カ月に渡っていることを考慮しても地形の整合
性が確認できる.しかし,アマモ域C近傍で,若干の相
違が確認できる.これは,このC域が湾口付近にあるこ
とから潮流等の影響を受け,局所的に地形変化が引き起
こされた可能性があり,アマモ移植域Cの領域面積の狭
さとの関係性が示唆される.図より各アマモ域は,T.P.
‐2.0~‐3.0m間に生育していることが分かり,T.P.約‐
2.0m以上が大潮の干潮時に干出することを確認している.
また河川の澪筋が湾央付近から南下し,アマモ域E,D,
Fへ向かっている.そのため河川水の影響を受け塩分濃
度が他のアマモ域より低いことが考えられる.アマモ域
の東西方向の勾配は,1/100以下となっているが,その
西側にT.P.‐5.0mの海底が存在し,勾配1/25の急勾配とな
図-7 中央粒径の空間分布
りアマモは生育していない.一方,佐敷港内は,中央部
に航路が存在し,その南北にアマモA,B域があり,そ
の標高も上記と同じ傾向を示す.
以上のように,佐敷港及び野坂の浦の地形観測結果よ
りアマモ生育域の標高,勾配等は概略理解できた.次節
では,標高と底質の中央粒径,含泥率の分布特性との関
連性を検討する.
(3)
中央粒径・含泥率の空間分布
これまでの研究成果により,アマモ生育条件の項目
中で,底質の中央粒径が0.14~0.39mm,シルト分が
30%以下の好適条件が示されている9),10),11).そこで図
-7,8に示すように,280地点の採泥位置の粒度分布から
中央粒径d50と含泥率の空間分布を求めた.干出域では,
表面5cmまでを採取し,それ以外では,グラブ式採泥器
図-8 含泥率の空間分布
を使用した.図-7より,中央粒径の分布は,図-6に示
した標高に沿った分布を示し,河川澪筋に注目すると粒
(a)中央粒径
径が0.25~0.05mmへ徐々に小さくなることが分かる.全
域の特徴として,標高が高いヶ所では,粒径が大きく,
標高が低くなるに従って,小さくなる傾向を示している.
これは,図-8に示した含泥率の分布の特徴と,ほぼ一
致している.以上より,アマモ域での中央粒径は0.15~
0.25mmであり,含泥率は10~30%の範囲であることが分
かる.しかし,上記の条件を満たす海域であってもアマ
モ域が形成されておらず,他の環境要因が影響している
(b)含泥率
ことが示唆される.
(4) 株密度と中央粒径・含泥率
アマモ生息評価項目の一つである株密度と中央粒径・
含泥率との関係を詳細に検討した.アマモは,地下茎で
増殖し固体選別が困難であるため,株密度の測定は,先
に示したコロラードを使用し,干潮時に160地点で目視
図-9 全域の株密度と中央粒径,含泥率
27
での株数をカウントした.図-9(a),(b)に野坂の浦全
域での株密度と中央粒径・含泥率との関係を示す.
図より株数が5/0.25m2以上に注目すると,中央粒径で
は,0.1~0.25mm,含泥率は,5~30%の範囲であるこ
とが分かる.また図-10に示したように,アマモ生育
条件を検討するため,自然生育域のE,D,F域と移植域
のC域での株数が最大値を示す値を比較した.図より,
E,D,F域の株数最大値での中央粒径は0.15mm,0.2mm,
含泥率は10%,23%となり,先に示した好適条件内と
なっている.一方,移植されたC域での株数最大値は
中央粒径0.2mm,含泥率30%となり,こちらも生育条
件を満たしている.ただし,この範囲にありながら
株数が0となる地点も存在していることが分かる.こ
れより外力等の影響を検討する必要性を示している.
(a) 中央粒径と株密度の関係
(5) 底面流速とシールズ数
アマモのライスサイクルより,種子が定着し発芽する
時期は,10~2月であることが知られている.この時期
に波浪等の影響を受け,土砂・種子の移動が必要以上に
生じた場合,アマモは定着・発芽できず安定したアマモ
場が維持できない要因の一つと考えられる.そこで,図
-2に示したアマモB域のst2,C域のst7に流速計(アレッ
ク電子製Compact-EM)を海底より20cmに設置し約20日
間のデータを統計処理した.
(b) 含泥率と株密度の関係
図-11に,2012年11/20~12/10間における底面付近の流
図-10 アマモ生育の有無による比較
速の経時変化を示す.図より両アマモ場における流速変
Velocity(cm/sec)
化をst2,st7を代表点として検討すると,対象領域での
流速は南北方向が卓越することが分かる.特にst7の
11/26,12月上旬での流速の影響を評価する必要がある.
そこで,式(1)に示す海底面上で物質が流速に抵抗する
比を示すシールズ数を求めた 12).シールズ数を求める場
合,底面の摩擦速度の評価が必要となる.しかし,鉛直
13)
に示す対数摩擦法則 より評価した.合わせて,表-3に
12)
も用いた.
・・・(2)
N-S
0
-10
12/10
day
12/10
(b) st7
図-11 アマモ生育域の底面流速の経時変化
day
(a) st2
12/1
20
st7
10
0
-10
12/1
表-3 岩垣の実験式による摩擦速度 u*2
0.303 cm
ここで,
u*:摩擦速度(cm/s)
s:土粒子水中密度, g:重力加速度(cm/s2)
d50:中央粒径(cm),
E-W
11/20
・・・(1)
U0
 u d 
 2.5n( * 50 )
u*



φ:シールズ数,
Velocity(cm/sec)
の東西・南北方向の合成流速値を代表流速とし,式(2)
u*2

s  g  d 50
st2
10
11/20
方向のプロファイルを取得しておらず,底面より20cm
示す中央粒径から摩擦速度を算出可能な岩垣の実験式
20
< d50
→ 80.9 d50
0.118 < d50 < 0.303
→ 134.6d5031/22
0.0565 < d50 < 0.118
→ 55.0 d50
0.0065 < d50 < 0.0565 → 8.41 d5011/32
U0:代表流速(cm/s)
d50 < 0.0065cm
ν:水の動粘性係数(cm2/s)
28
→ 226 d50
水深は最大4.5mである.生息範囲は,底質の中央粒
径d50で,0.15~0.25mm,含泥率は10~30%であり,
既往の研究成果に近い値となった.
(2)株密度と中央粒径・含泥率の関係より,株密度が
最大となるのはd50=0.2mmで,含泥率は,約20%であ
(a) st2
る.含泥率が40%以上でアマモが生育出来ないこと
が分かった.
(3)岩垣の実験式によるシールズ数と株密度の関係よ
り,既往の報告にある0.08~0.2近傍の0.06~0.15が生
育条件となった.
(4)アマモ域B,Cにおける底面流速変化をst2,st7を代
(b) st7
図-12 Shields 数の経時変化の一例
表点として検討した結果,流速の影響によりアマ
モ域面積に影響を与えることが分かった.
15
株密度(1/0.25m2)
Iwagaki method
参考文献
B域
1)
10
C域
2)
3)
5
4)
0
0
0.1
Shields number
0.2
5)
図-13 岩垣の実験式による Shields 数と株密度
6)
図-12に,算出したシールズ数の経時変化を示す.既往
の報告では,シールズ数0.08~0.2が好適条件として示さ
7)
れている14).この期間の自然生育域Bのst2におけるシー
ルズ数の平均値は0.11であり,最大値は1.5の値を示す.
一方,アマモ移植域Cのst7のシールズ数平均値は0.343で
8)
あり最大値は2.0以上である.これより,アマモ移植域C
では,底面流速の影響を受け砂泥・種子の移動量が大き
くアマモ生育面積が狭い原因の一つと考えられる.図-
9)
13に,岩垣の実験式から求めた摩擦速度より算出したシ
ールズ数と株密度との関係を示す.なお,株数は,この
10)
時期に行った測定結果を示した.図より,0.06~0.15と
の範囲が生育条件となり,先に示したシールズ数の好適
条件とほぼ同じ結果となった.また,アマモB域のシー
11)
ルズ数の範囲は0.09で株数最大値を示し,C域と比較し,
0.1以下に集中する傾向が分かる.
12)
3. おわりに
13)
八代海野坂の浦を対象にアマモ生息環境の検討を行った. 14)
下記に得られた成果を示す.
(1)アマモ生育域の標高はT.P.‐2.0~‐3.0mで満潮時の
29
環境省: 有明海・八代海総合調査評価委員会 報告書,
藻場・干潟等,pp31-32,2006
熊本県:有明海・八代海干潟等沿岸海域再生検討委
員会報告書,pp324-333,2006
丸山康樹,五十嵐由雄,石川雄介:アマモ場適地選
定手法‐岸側の砂移動限界‐,第 34 回海岸工学論文
集,pp.227-231,1987
島谷学,中瀬浩太,岸本裕之,中山哲巌他:輿津海
岸におけるアマモ分布条件について,海岸工学論文
集第 49 巻,pp.1161-1165,2002
島谷学,中瀬浩太,熊谷隆宏,月舘真理雄:アマモ
種子の埋没機構に関する研究,海岸工学論文集,第
47 巻,pp.1171-1175,2000
大和田紘一,生地暢,森下惟一:環境保全としての
海藻類の養殖,アマモ場の造成,月刊海洋,428 号,
pp148-154,2006
寺脇利信,島谷学,森口朗彦:瀬戸内海におけるア
マ モ 造 成 の 実 践 例 , 水 産 工 学 , Vol42,N02,pp.151157,2005
藤原宗弘,末永慶寛,井面仁志,松島学,白木渡:
半閉鎖性海域におけるアマモ生育環境の評価に関す
る 研 究 , 土 木 学 会 論 文 集 B2 ( 海 岸 工 学 )
Vol.67,No2,I_946-I_950, 2011.
川崎保夫,石川雄介,丸山康樹:アマモ場造成の適
地選定法,沿岸海洋研究ノート,第 27 巻,第 2 号,
pp136-145,(1990
京都府海洋センター:藻場の回復,造成に向けて 3.
アマモの増殖,京都府立海洋センター季報,Vol.72,
p13,(2001
川崎保夫,飯塚貞二,後藤弘,寺脇利信,渡辺康憲,
菊池弘太郎:アマモ場造成法に関する研究 報告書,
電力中央研究所,1988
椿東一郎:水理学Ⅱ(第 14 章),基礎土木工学全書 7,
森北出版,1974
H.Tennekes,J.L.Lumley:,藤原仁志,荒川忠一訳:乱流
入門 A First Course in Turbulence,東海大学出版会,
pp.184-187,1998
中瀬浩太,桧山博昭,田中裕一:アマモ場造成工法
の開発(その 1),五洋建設技術研究所年報,Vol.20,
1991.
セラミックス繊維を用いた超小型・高感度酸素センサーの試作
志田賢二
熊本大学工学部 技術部 応用分析技術系(機器分析・化学 WG.)
1. 緒言
平成24年度科学研究費補助金(奨励研究:24921008)の採択を受け平成 24 年 5 月~平成 25 年
3 月までのおよそ1年間、上記のテーマの研究に取組んだ。本研究では代表的なセラミックス材料の一
つであるイットリア安定化ジルコニア(Y2O3 stabilized ZrO2 : YSZ)繊維の作製し、その小型・高感度
酸素センサーへの実用化へ向けた電気的特性の評価を行ったものである。ジルコニアセラミックスは高
硬度、高靭性、酸素イオン伝導性など機械的特性、電気的特性の両方に優れる稀な材料であり、各種切
削工具、酸素センサー、固体燃料電池(SOFC)など幅広く実用化されている材料である。
筆者らはこれまでにジルコニウムアルコキシドの加水分解反応により合成したジルコニアナノ粒子
(平均粒径:116 nm)のエタノール分散体を 100℃以下の温和な状況下での固化プロセスにより数十~
数百μm の繊維幅を持つジルコニア繊維、イットリア安定化ジルコニア繊維の作製について報告してい
る[1]。本プロセスによるジルコニア繊維はナノサイズ粒子が緻密に充填した特異な微細構造を有する。
しかしながら、分散性の高いジルコニア粒子の合成には複雑な方法を要することから、大量生産には
向いていない。そこで本研究では工業化を視野に置き、市販のイットリア安定化ジルコニアゾル
(ZRYS4TM 、NYACOL Inc.USA)を用い YSZ 繊維の作製を試み、その微細構造と電気的特性につい
て調べた。
2. 実験方法
2.1
YSZ 繊維の作製と評価
YSZ 繊維は ZRYS ゾルを蒸留水で粒子濃度が 4~10
mass%となるように希釈し、超音波分散の後に
ガラス製容器もしくはポリプロピレン製容器に入れ、温度 90℃の恒温乾燥器中で乾燥させることによ
り作製した。
表1
ZRYS4TM
ゾルの特性
図1
30
ZRYS4TM ゾルの粒度分布
実験で使用した ZEYS4TM ゾルの特性を表1に、粒度分布測定の結果を図1に示す。
作製した YSZ 繊維は空気中 300~1200℃で 1 時間の熱処理を行い、その微細構造は実体顕微鏡、走査
型電子顕微鏡(JSM7600,JEOL)により観察した。繊維の密度は水を媒体としたアルキメデス法により測定
した。また、熱処理による結晶型の変化は粉末 X 線回折(Ultima IV, RIGAKU)、放射光 X 線回折(Spring-8
BL19B2)、TG-DTA(TG-DTA 2000SA,BRUKER)により調べた。繊維の酸素イオン伝導率は交流インピーダン
ス法により測定した。
3. 結果と考察
図 2 に ZRYS4TM ゾルを 90℃で乾燥させ生成した YSZ 繊維を示す。繊維はゾルの乾燥による溶媒の
蒸発に伴って容器の壁面に生成した。図 3 は繊維の実体顕微鏡写真を示す。繊維は白色で透光性を
有している。繊維の長さは 5~10mm であった。
図2
ZRYS4TM ゾルと生成した繊維
図 3 繊維の実体顕微鏡写真
ゾル濃度が繊維幅に及ぼす影響について調べたところ、ゾル濃度が 4, 6, 10 mass%の時、平均繊維幅
はそれぞれ 36、46、66μm であり、ゾル濃度の増加とともに大きくなった。ゾル濃度と平均繊維幅は直
線関係を示すことから、ゾル濃度によって繊維幅の制御が可能であると考えられる。
図 4 に 1200℃、1時間熱処理した繊維の SEM 写真を示す。繊維は 126nm の微細な粒子からなり、緻密
に焼結している。繊維の密度は熱処理温度の上昇とともに増大し、1473K、1 時間の熱処理で相対密度は
97%に達した。これは原料ゾルの粒径が小さく、粒子が緻密に充填した微細構造をもっているため焼結
と緻密化が促進されたためであると考えられる。
図 3 熱処理後の繊維の微細構造
図4
熱処理条件:1200℃、1時間
31
YSZ 繊維の酸素イオン電導度率
図4に 1000℃で1時間熱処理をした YSZ 繊維の酸素イオン伝導度のアレニウスプロットを示す。試料
と電極線の剥離はみられず、YSZ 繊維の酸素イオン伝導性を測定する事ができた。YSZ 繊維の酸素イオ
ン伝導性はバルク体や薄膜と同様に測定温度に依存することが分かった。測定は試料の形状やサイズに
依存しないことから、バルク体の物性と比較を行なうことができる。本 YSZ 繊維においても同一組成の
バルク体とは異なる物性を示すことが明らかとなった。4 mol%イットリア安定化ジルコニア繊維にお
いては 1200℃の熱処理繊維において 1.8×10-1 S/cm の高い酸素イオン伝導率を持ち、イットリア添加
量が少ないにも関わらず、最も酸素イオン伝導率が高いとされる 8mol%イットリア安定化ジルコニアバ
ルク焼結体の 1.8 ×10-1
S/cm と同等の酸素イオン伝導率を持つ[2]。
4. まとめ
市販のジルコニアゾル(ZRYS4TM)を用いてナノサイズ粒子からなる緻密な微細構造を有する YSZ 繊
維を作製することができた。1200℃、1時間という低温短時間で相対密度 97%と緻密に焼結することが
明らかとなった。この繊維の 1000℃における酸素イオン伝導率は 1.8×10-1
S/cm の高い酸素イオン伝
導率を持ち、イットリア添加量が少ないにも関わらず、最も酸素イオン伝導率が高いとされる 8mol%イ
ットリア安定化ジルコニアバルク焼結体の 1.8 ×10-1 S/cm と同等の酸素イオン伝導率を持つ事を明ら
かとした。当年度ではセンサーデバイスの試作まで到達できなかったが、このような電気的特性を持つ
YSZ 繊維は酸素センサーの小型・高感度化や固体電解質燃料電池の電解質、電極材料の高性能化が示唆
された。
5.
謝辞
研究の遂行にあたり、有益なご助言、材料等の提供を賜りました島根大学大学院総合理工学研究科
陶山容子教授、熊本大学大学院自然科学研究科
松田元秀教授に深く感謝いたします。
6.参考文献
[1]K.Shida and Y.Suyama, J. Ceram. Soc. Japan, 114, 590­593(2006).
[2]K.Shida, Y.Ohara, M.Matsuda and Y.Suyama, J.Ceram.Soc.Japan, 120, 478-482(2012).
32
熊本マウスクリニック(KMC)における in vivo リアルタイムイメージングシステムを
用いた分子イメージング技術支援
白石善興 1),嶋本雅子 2),後藤久美子 1,2) ,島崎達也 3) ,岡田誠治 2),古嶋昭博 3)
熊本大学 生命資源研究・支援センター1),熊本大学大学院 医学教育部 2),熊本大学 エイズ学研究センター3)
【目的】
を支援するために設置された。そのための多岐に
わたる機器の内、小動物用 SPECT/CT と IVIS が
生体情報を生きたまま分子・細胞レベルで画像
化することは、疾患メカニズムや病態の解明、又
アイソトープ総合施設内に設置された。
は創薬の研究開発を行うのに非常に役立つツー
【IVIS(In Vivo Imaging System)】
ルである。このような生体情報の画像化を行う技
術を分子イメージングと呼び、生命科学分野にお
IVIS は光(蛍光と発光)を用いて、生体内(in
ける基礎研究や臨床研究分野で大きく注目され
vivo)の遺伝子発現やタンパク質の挙動を生きた
ている。このため、大学等の研究機関に分子イメ
ままの状態で体外から経時観察することができ
ージング関連の装置が続々と導入されている。熊
るイメージングシステムである。蛍光にはGFP
本大学でもヒト遺伝子発現マウスに対して分子
(蛍光タンパク質)や蛍光プローブを標識する方法
イメージングによる表現型解析を行うため、表現
により、目的のタンパク質や薬剤の体内動態を検
型解析分野(熊本マウスクリニック:KMC)が
出することができる。発光も同様にルシフェラー
開設され、この事業の一環として IVIS Spectrum
ゼのような発光物質を標識することで検出でき
(図1)
(以下、IVIS と呼ぶ。)が整備された。こ
る。また、発光は組織透過性が高いため、高感度
こでは IVIS の機能と特徴について説明する。
で定量性に優れている。さらに、RIから放出さ
れる荷電粒子のチェレンコフ光の検出も可能で
ある。こうして得られたターゲティング情報を実
写画像に重ね合わせることで2Dや3D画像を
ソフト上で作り出すことも可能である。また、他
のX線 CT 装置で撮像されたイメージと重ね合わ
せることもできる。
【今後の支援活動】
マウスの体内において蛍光や発光物質の光の
強度がどのように変化するのかなど、ファントム
図1.蛍光発光イメージングの原理と IVIS Spectrum System
を作成し、精度管理を行い、実験者が安定的に使
【熊本マウスクリニック(KMC)】
用できる実験環境を整備していきたい。また、チ
生命資源研究・支援センター
ェレンコフも検出できるため、今後放射線管理に
表現型解析分野
(熊本マウスクリニック:KMC)は、学内外の
も応用できないかどうか検討していきたい。
研究者に対して遺伝子改変マウスの系統的・専門
的表現型解析を行うために必要な設備・装置を提
供し、それらの使用方法の技術指導やデータ解析
33
Observation of internal model ground around the spiral pile on vertical
loading condition using X-ray CT scanner
Takahiro Sato1, Satoshi Hayashi2 and Jun Otani2
1
X-Earth Center, Faculty of Engineering, Kumamoto University
2-39-1 Kurokami Chuo-ku, Kumamoto, Japan [email: [email protected]]
2
X-Earth Center, Graduate School of Science and Technology, Kumamoto University
2-39-1 Kurokami Chuo-ku, Kumamoto, Japan [email: [email protected]]
Keywords: disturbed aria, model test, spiral pile, vertical bearing capacity
ABSTRACT
The objective of this research is to elucidate the characteristics about the vertical bearing capacity
of a spiral pile. In this study, the static penetration model tests were conducted on special boundary
condition at the spiral pile head. It is the shaft rotate condition. It was confirmed that the shaft rotate
condition have a significant impact for the penetration resistance and vertical bearing capacity of
spiral pile. As other approach of grasp the mechanism of the bearing capacity of the pile, the
internal alteration of model ground was observed using the X-ray CT scanner. A disturbed area of
the model ground around the spiral pile was observed in visualized CT images.
1.
INTRODUCTION
In recent years, a new shape steel bar was expected to use as a structural material in the field of
rock and agricultural civil engineering. It is the spiral bar. The spiral bars are produced by twisting a
flat steel bar. The shape of this structural material seems to have a high potential of reinforcement
for the object if it was engaged well with them. In the field of geotechnical engineering, it has begun
examining of the applicability of spiral bar as a structural material for the soil ground. There are
some researches to use the spiral bar for soft ground and slope as a reinforce material and
foundations (Hirata 2003). Spiral bar has experimentally been using as pile foundations called
“spiral pile” on in-site. The spiral pile is displacement-pile, so that the installation of this pile is done
under the condition of without digging the hole. So, the displacement due to installation work can be
decreased because the quantity of removal soil is little. The advantage on vertical bearing capacity
of spiral pile has been shown steadily on in-site loading test. However, the mechanism of bearing
capacity of spiral pile on vertical load has not clarified yet. To spread this structural material for pile
foundation in the future, it is necessary to prove pile’s superiority on bearing capacity. In this paper,
to demonstrate the basic potential of bearing capacity of spiral pile, model test conducted on static
penetration test. Three types of model piles, a plate pile, a tube pile and a spiral pile are used in this
study to compare the bearing capacity. As other approach of grasp the mechanism of the bearing
capacity of pile foundation, the internal alteration of model ground was observed using an industrial
X-ray CT scanner. Because the shape of spiral pile is not axial symmetry, it is difficult to conduct the
model test on 2-Dimensional condition. The X-ray CT scanner is a suitable apparatus to observe
the alteration of internal ground on 3-Dimensional condition. There are many researches using
X-ray CT scanner on observation of surrounding ground by different shape piles ( column, cone,
tube, plate pile, etc.) on static penetration test (Otani 2004), (Taenaka 2007), (Kikuchi 2008). In this
paper, the industrial X-ray CT scanner used to compare the soil density variation surrounded by the
spiral pile with current study to grasp the qualitative character.
34
2. EXPERIMENTAL OUTLINE
Figure 1 shows model piles and details of spiral pile. Size of the aluminium plate pile is 20 mm width
and 3 mm thickness. The spiral pile was made from plate bar. The plate bar was twisted in which 1
pitch is 65 mm and the twisted part is 140 mm. Size of the tube bar is 20 mm outer diameter and 1
2
mm thickness. The bottom area of all model pile is same (60 mm ). The aluminium cylindrical soil
box was used which has the following dimensions: 140 mm internal diameter and 430 mm height.
Dry Toyoura sand (D50=0.175 mm) was used for the model ground. Dry sand was packed in soil
box by raining method as 80% relative density. The experiments were conducted on two phases of
static penetration. The first phase as the pile foundation was installed into the ground. The second
phase simulated that a force exerted on pile head as loading weight. The load and penetration
depth were measured at the pile head. The velocity of penetration is 20 mm/min on installation
phase and 3.6 mm/min on loading phase. Figure 2 shows summary of the test procedure. In this
study, the static penetration tests were compared with the different shaft rotate condition at the pile
head. The shaft rotate condition is below. 1) Locked rotate condition: The pile was fixed with shaft
holder. 2) Free rotate condition: The spiral pile can rotate smoothly without shaft holder friction. 3)
Forced rotate condition: The spiral pile was given the rotation by hand on some “rotate ratio”. The
“100%-rotate ratio” means that during the installation every section of the spiral pile would go
through the ground at the exact same position. Thus, the pile would turn one time (360°) during
one-pitch installation. The test conditions on installation and loading phase will abbreviated like
“Free-Free”. That means free rotate installation and free rotate loading condition. Figure 3 shows
state of X-ray CT scanning of model ground. At first, CT scanning of model ground was done for
check the initial condition. Then, spiral pile was installed in which the total depth of 140 mm. And
then, scan it again for check the alteration of model ground after pile installation. The configuration
Soil box
Width 20 mm
1 pitch (360°)
65 mm
Twisted part
140 mm
Thickness
3 mm
Plate pile
Tube pile
X-ray source
Spiral pile
Figure 1: Model piles and details of spiral pile
Detector
Figure 3: State of X-ray CT scanning
Figure 2: Summary of the test procedure
35
of X-ray CT scanning was 200 kV of voltage, 3 mA of current, 2 mm thickness of X-ray beam and a
resolution of 2048 ×2048 voxels in each slice image.
3. RESULTS AND DISCUSSION
3.1.
Loading test results
The relationship between pile head load and penetration depth is shown in Figure 4. At the phase of
installation of model pile, plate pile generated smallest penetration resistance. Tube pile and spiral
pile on locked-rotate condition generated largest resistance. The spiral pile on free-rotate condition
and 100%-rotate ratio condition generated small resistance compare with tube pile. Especially,
100%-Rot condition generated resistance lower than half of tube pile at the 140 mm depth. On the
other hand, at the loading phase, the increasing rate of head load becomes larger and larger in
order of rotate condition of spiral pile, Locked-Locked, Free-Locked, 100%-Rot-Locked. It has been
surprisingly found that 100%-Rot-Locked spiral pile generated resistance larger than tube pile at the
3 mm settlement on loading phase. The 100%-Rot condition was inhibited penetration resistance
and generated large bearing capacity more than historical increasing rate of penetration resistance.
There is a good chance of the spiral pile will be an “Easy installation and have large bearing
capacity” foundation, if the shaft has been given the optimal rotate on installation of pile and the
shaft rotation has been locked on loading phase.
3.2.
X-ray CT images
As mentioned previously, CT image is constructed by a large amount spatial distribution of the CT
values. Figure 5 shows vertical cross sectional CT image around the spiral pile that was penetrated
on free-rotate condition. From this image, a low density area exists around the piles, and it is
confirmed that the size of low density area is not equal along the pile longitudinal direction. Although
free-rotate condition on install phase,it was not occurred enough rotation such as 100%-rotation in
this case. It is reasonable to think that the disturbed area were arose surrounding pile because of
the relative displacement of the pile between soil. Figure 6 shows comparison of disturbed area
around the pile on different rotate condition. Very low density area is continuously existed as column
shape around the spiral pile on 50%-Rot and 200%-Rot condition. In contrast, there is a little low
density (disturbed) area along the pile surface on the 100%-Rot condition. It seems that these low
density area strongly associate with the vertical bearing capacity as the pile foundation.
Figure 5: Vertical cross-sectional CT
image (free rotate penetration)
Figure 4: Relationship between pile head
load and penetration depth
36
Figure 6: Comparison of disturbed aria around the pile on
different rotate condition
4. CONCLUSIONS
These results obtained in this paper are summarized as
follows: 1) Shaft rotate condition has a significant impact for
the penetration resistance and vertical bearing capacity of
spiral pile. The condition of optimal rotate inhibit penetration
resistance and generate large bearing capacity more than
historical penetration resistance with a few settlement on
load. 2) The X-ray CT scanner is a powerful and effective
apparatus as observation the internal ground alteration on
penetration test of peculiarity shape pile such as spiral pile.
The disturbance area of the surrounding ground at the model
Figure 7: Observation of particle
pile could be observed on CT images.
displacement on stepwise pile
Future research, relationship between bearing capacity and
penetration test using Micro-focus
rotation ratio will be particularly examined on controlled (the
X-ray CT image
pile intrusion and rotation rate) model test. For investigate
the mechanisms of the bearing capacity of the spiral pile, we will use the high-resolution
Micro-focus X-ray CT Scanner in these experiments. It makes possible to distinct the individual
sand particles in the model ground. Figure 7 shows the preparative experimental CT images on
stepwise pile penetration test. The model ground deformation will be analysed from these images.
5. REFERENCES
Hirata, A., Kokaji, S., Fujita, M., Akamine, A., Fujita, M., Goto, T. (2003). Dilation stress in borehole
induced by a spiral anchor, Prceedings of the 3rd International Symposium on Rock Stress,
Balkema, Rotterdam, 499-505.
Kikuchi, Y., Morikawa, Y., Sato, T. (2008). Plugging Mechanism in a Vertically Loaded Open-Ended
Pile, Proceedings of the Second BGA International Conference on Foundations, ICOF2008. UK,
June 2008. Vol.1, 169-180.
Otani, J. (2004). State of the art report on geotechnical X-ray CT research at Kumamoto University,
X-ray CT for Geomaterials; Soils, Concrete, Rocks, 43-76.
Taenaka, S., Otani, J., Sato, T. (2007): Characterization of vertical bearing capacity of sheet-piles,
Journal of JSCE, Division C, Vol. 63, No.1, 285-298 (in Japanese).
37
熊本マウスクリニック(KMC)における小動物用 SPECT/CT を用いた
分子イメージング技術支援
後藤久美子 1,2、嶋本雅子 2、白石善興 1、島崎達也 1、岡田誠治 3、古嶋昭博 1
熊本大学生命資源研究支援センター1 、熊本大学大学院医学教育部2 、熊本大学エイズ学研究センター3
薬物の開発として、腫瘍マウス(肺小細胞癌)
【目的】
人や動物の生体情報を生きたまま分子・細胞レ
へ Ga-67 標識ペプチド化合物の投与後の SPECT
ベルで画像化できれば、疾患のメカニズムや病態
および X 線 CT 撮像後のフュージョン解析をおこ
の解明あるいは創薬の研究開発などに非常に役
なった。
に立つ。このような画像化は、最近、分子イメー
ジングとして生命科学分野における基礎研究や
臨床研究領域で大きく注目されている。熊本大学
生命資源研究・支援センターは、遺伝子改変マウ
スの開発、保存、供給において国内外で多大な実
績をあげている。さらにヒト遺伝子発現マウスに
対して分子イメージングによる表現型解析を行
図1.FX3300 プレ・クリニカル・イメージングシステム
うために表現型解析分野(熊本マウスクリニッ
ク:KMC)が開設され、平成 23 年9月に小動物用
【結果】
SPECT/CT システム(FX3300、米国 GM-I 社製)が
<SPECT 性能評価>(図2)
空間分解能評価用ファントムを用いたイメー
アイソトープ総合施設へ新規に導入された。本発
ジでは、空間分解能は 0.6 mm 程度であった。
表では、導入よりこれまでに行った SPECT 性能評
Tc-99m によるコールドロッドファントムの
価結果と疾患マウスのイメージング支援の一部
について紹介する。
SPECT イメージより、シングルピンホールでは
【実験方法】
1.2mm 欠損が識別可能であった。放射能濃度直線
図1に FX3300 プレ・クリニカル・イメージン
性評価ファントムより、Tc-99m と Ga-67 ともに
グシステムの外観と SPECT およびX線 CT の装置
SPECT 値と放射能濃度の関係には高い直線相関
概要を示す。SPECT 性能評価のために、以下の 3
が認められた。Tc-99m を用いた均一性ファント
種類のファントムを新たに自作した:(1)コー
ムより、散乱および減弱補正無しにもかかわらず、
ルドロットファントム(直径 0.5 ㎜から 2 ㎜まで
視覚的およびカウントプロファイルカーブから
の 6 種類)
、
(2)放射能濃度直線性評価パイファ
ほぼ均一であると判定できた。
ントム(6 区画)、(3)均一性ファントム。
<X 線 CT イメージング>(図3)
筋ジストロフィマウスでは、CT 値の減少により
X線 CT イメージングでは、
(1)筋ジストロフ
ィマウスについては、骨格の CT 値評価、
(2)代
骨の密度低下が確認された。代謝異常マウスでは、
謝異常マウスについては、内蔵と皮下脂肪の分離
イメージ解析ソフトを使った CT 値閾値処理によ
およびそれぞれの脂肪量測定を行った。
り内臓脂肪・皮下脂肪の分離ができ、脂肪量体積
38
の測定が簡単に行えた。
<SPECT/CT イメージング>(図3)
肺小細胞癌を担持したマウスの SPECT 画像では、
腎以外には、腫瘍に特異的に集まっている様子が
分かり、さらに X 線 CT との融合により解剖学的
情報も付加され、集積状況の判断が容易に行えた。
また腫瘍組織を固定・包埋後、薄切切片を作成し、
免疫染色を行った。画像で得られた情報と同じよ
うに、腫瘍組織の深部では壊死が起こっているこ
とが確認できた。
図3.SPECT/CT イメージ
【考察】
左上:骨密度測定 CT イメージ、右:SPECT/CT イメージ
放射線を用いた分子イメージングは、何匹もの実
験動物を殺すことなく、非侵襲的にかつ経時的に
生きたままの一個体の生体情報を画像として観
察することができる。また、SPECT イメージが、
高精細 X 線 CT による解剖学的情報と融合される
ことで、より機能的・形態的な解析の強力な実験
ツールとなる。
今後、SPECT 再構成時の OSEM の最適パラメータ
や散乱補正ならびに CT の解析方法についても検
討し、熊本大学における分子イメージングの技術
サポート体制の確立に貢献していきたいと考え
ている。
図2.SPECT 性能評価イメージ
左上:空間分解能、右上:濃度直線性
左下:欠損描出能、右下:均一性
39
腫瘍関連マクロファージの免疫組織化学的解析における抗原賦活化至適条件の検討
中川 雄伸、林田 唯、菰原 義弘、大西 紘二、清田 恵美、竹屋 元裕.
熊本大学大学院生命科学研究部・細胞病理学分野
1. 背景と目的
免疫担当細胞の一種であるマクロファージ(Mφ)は、異物や病原菌を貪食して処理するだけでなく、多数
の生理活性物質を産生し、種々の疾患に関与することが知られている。近年、腫瘍組織に存在する腫瘍関連
Mφ(TAM: Tumor- Associated Macrophage)が腫瘍細胞の増殖、血管新生など腫瘍の進展を促進する働きを持
つことが明らかにされた。免疫染色における抗原賦活化法の技術的進歩により、多種の抗 Mφ 抗体がホルマ
リン固定パラフィン包埋(FFPE : Formalin Fixed Paraffin Embedded)標本に利用可能となり、免疫組織化学的
側面からの TAM の解析も頻繁に行われるようになってきた。
今回、
当研究室で行っている FFPE 切片を用いた Mφ の免疫染色の抗原賦活化至適条件を紹介することで、
TAM を主体とした Mφ の研究における免疫組織化学技術の精度向上に貢献できると考えられる。
2. 材料と方法
1) 検体
研究での使用についてご遺族の同意が得られた剖検例の脾臓および腫瘍組織の FFPE 切片を用いた。
2) 抗原賦活化処理
10 枚の FFPE 切片を準備し、以下に示す処理を行った。
a) 無処理…抗原賦活化なし、1 枚。
b) 酵素処理…Proteinase K(PK)(Dako, S3020)を室温 5 分間、1 枚。
c) 熱処理…家庭用電子レンジの沸騰下で 700W、5 分間、マイクロウェーブ(MW)1 回照射。
10mM クエン酸緩衝液(CB), pH6(三菱化学メディエンス, RM102-C)、1 枚。
Target Retrieval Solution(TRS)(Dako, S1699)、1 枚。
1mM Ethylenediaminetetraacetic acid(EDTA), pH8(自家製)、1 枚。
抗原賦活化液 pH9(ニチレイバイオサイエンス, 415211)、1 枚。
d) 加圧熱処理…抗原賦活処理用プレッシャーチャンバーPascal(PCP)(Dako, S2800)にて 125℃、
30 秒間。緩衝液は上記と同じ 4 種類、4 枚。
c) d) の熱処理後は、室温にもどるまで冷却した。
3) 免疫染色
1次抗体には、汎 Mφ マーカーである CD68(Clone: PG-M1)、ヘモグロビンスカベンジャー受容体である
CD163(Clone: AM-3K および Clone: 10D6)、クラス A-スカベンジャー受容体である CD204(Clone: SRA-E5)、
マンノース受容体である CD206(Clone: 5C11)、抗ミクログリアマーカーである Iba1 を使用した。2次抗体
には、ヒストファイン シンプルステイン MAX-PO(ニチレイバイオサイエンス)を使用し、DAB 基質キッ
ト(ニチレイバイオサイエンス)で発色した。その後、マイヤーのヘマトキシリン液で核染色を行った。
3. 結果
脾臓の FFPE 切片に対して、前述の1次抗体を用いた免疫染色を行った(写真 1)。CD68 は PK での酵素処
理または緩衝液として EDTA, pH8 を用いた PCP による加圧熱処理が抗原賦活化法として適していた。CD163
(AM-3K)は緩衝液に TRS を使用し、MW または PCP での熱処理が良好な染色性を示した。CD163(10D6)
と CD204 は EDTA, pH8 または抗原賦活化液 pH9 を緩衝液に使用した PCP での熱処理が良好な染色性を示し
た。CD206 と Iba1 に関しては MW または PCP での熱処理で良好な染色性を示し、緩衝液の種類の違いでは
ほとんど差がみられなかったが、EDTA, pH8 または抗原賦活化液 pH9 を緩衝液とした PCP 熱処理での抗原賦
活化により、若干染色性が改善する印象であった。
40
写真 1
抗原賦活化至適条件検定(脾)
PK: Proteinase K(室温 5min)
、MW: マイクロウェーブ(沸騰 5min)、PCP: Pascal(125℃ 30sec)
、CB: クエン酸緩衝液, pH6、
TRS: Target retrieval solution、EDTA: Ethylenediaminetetraacetic acid, pH8、pH9: 抗原賦活化液 pH9
次に TAM を対象とした各抗体の詳細な抗原賦活化の条件を検定するために悪性腫瘍組織の FFPE 切片を用
いて免疫染色を行った(写真 2)
。CD68 は PK 酵素処理よりも EDTA, pH8 を緩衝液に用いた PCP による熱処
理 、CD163(AM-3K)は MW よりも TRS を緩衝液に用いた PCP による抗原賦活化法により安定した染色性
が得られた。CD163(10D6)、CD204、CD206、Iba1 は症例間での多少の差はみられたものの、EDTA, pH8、
あるいは抗原賦活化液 pH9 を緩衝液に用いた PCP による熱処理により最も安定した染色性が得られた。
写真 2
抗原賦活化至適条件検定(悪性腫瘍)
41
今回の抗原賦活化の至適条件検定で得られた最良の条件は表 1 および写真 3 のとおりである。
抗体名
Clone
免疫動物
メーカー
抗 原 賦 活 化
CD68
PG-M1
Mouse
DAKO
PCP, EDTA, pH8
CD163
AM-3K
Mouse
Trans Genic
PCP, TRS
CD163
10D6
Mouse
Leica Biosystems
PCP, EDTA, pH8 または抗原賦活化液 pH9
CD204
SRA-E5
Mouse
Trans Genic
PCP, EDTA, pH8 または抗原賦活化液 pH9
CD206
5C11
Mouse
Acris
Iba1
-
Rabbit
Wako
表1
写真 3
PCP, EDTA, pH8 または抗原賦活化液 pH9
(MW と PCP の差、緩衝液の差はほとんどない)
PCP, EDTA, pH8 または抗原賦活化液 pH9
(MW と PCP の差、緩衝液の差はほとんどない)
抗原賦活化至適条件
抗原賦活化至適条件での染色
4. 考察
Mφ の活性化経路には古典的活性化(M1)とオルタナティブ活性
化(M2)があり、それぞれ相反する機能を有する(図 1)。様々な
腫瘍組織において、ほとんどの TAM は抗炎症作用を有する M2Mφ
であることが知られており、膠芽腫、卵巣癌、肝内胆管癌、腎細胞
癌、一部の悪性リンパ腫などでは、腫瘍組織内の M2Mφ の数が多
いほど腫瘍の進行が早く、悪性度が高いことが明らかにされた。
TAM の解析には、CD68 や M2Mφ マーカーである CD163、CD204、
CD206 が頻繁に用いられる。抗 CD68 抗体には Clone: PG-M1 と
Clone: KP-1 が知られているが、より特異性の高い PG-M1 が用いら
れることが多い。CD163 の Clone: AM-3K は凍結切片の染色でしばしば用いられるが、FFPE 切片では Clone:
42
10D6 と同等の染色性を示す検体や陽性数が 10D6 の半数以下の場合など
症例により染色性にばらつきがみられ、固定条件の影響を受けやすい可
能性がある(写真 3)。したがって、FFPE 切片では AM-3K よりも染色性
が安定している 10D6 が適していると考えられる。CD206 は CD163(10D6)
や CD204 と比較すると Mφ の陽性数が少なく(写真 3)、M2 Mφ の特殊
な亜型を認識している可能性が考えられる。さらに CD206 は血管内皮細
胞でも陽性となることがあるため(写真 2)、FFPE 切片での M2Mφ の解
析には CD163(10D6)と CD204 が適していると考えられる。Iba1 はヒ
ト以外にも、マウス、ラットの Mφ/ミクログリアに特異的に反応する
写真 4
Iba1 と CD163 の多重染色
Iba1: DAB (茶)、CD163: HistoGreen (緑)
ため、実験動物の汎 Mφ マーカーとしても有用である。また、免疫動物
が rabbit であるため、免疫動物が mouse である他の抗体との多重免疫染色が行いやすい利点がある(写真 4)
。
抗原賦活化の至適条件検定の方法は各研究室により様々と推測されるが、高価な試薬を複数用いるためラ
ンニングコストがかかる。当研究室ではコスト削減のために抗原賦活化の熱処理に用いる高価な緩衝液は、
メーカー推奨濃度を蒸留水にて 10 倍程度希釈しても染色性に問題がないことを確認して使用しているもの
もある。2次抗体に関しても滅菌した 0.05M トリス緩衝生理食塩水, pH7.6 にて 2〜3 倍希釈して使用するな
どの工夫を行っている。
5. 結語
当研究室での CD68、CD163、CD204、CD206、Iba1 の免疫染色における抗原賦活化至適条件ついて紹介し
た。TAM の解析には特異性が高く FFPE 切片で染色性が安定している CD68(PG-M1)、CD163(10D6)、CD204
(SRA-E5)、Iba1 が有用と考えられた。FFPE 切片を用いた Mφ の免疫組織化学的解析を行う際のご参考にな
れば幸甚である。
6. 参考資料
1) 菰原義弘、竹屋元裕. がんとマクロファージ:TAM について. 細胞工学 31: 1242-1247, 2012.
2) 元島崇信、菰原義弘、西東洋一、大西紘二、竹屋元裕. 腎細胞癌の腫瘍随伴マクロファージにおける CD206 発現の
意義. 日本病理学会会誌 102 巻 第 1 号: pp438, 2013.
3) 中川雄伸、林田唯、清田恵美. 当研究室での免疫染色抗原賦活化における至適条件検定法. 熊本大学総合技術研究会,
2011. 熊本大学学術リポジトリ http://hdl.handle.net/2298/23753
43
平成 24 年度 技術部短期集中技術研修
-質量分析装置の測定技術の習得-
西
麻耶子
工学部 技術部 応用分析技術系(機器分析・化学 WG)
1. はじめに
試料の質量を正確に測定できる質量分析装置は、材料・化学・生物学など分子を扱う全ての研究分野
において不純物等未知物質の同定やタンパクの分析などに威力を発揮し、いまや必須の分析手段となっ
ている。この装置は高感度・高精度分析が可能であるため、測定機器の普及に伴い、その重要性・汎用
性は益々高まって行くものと考えられる。
質量分析装置は試料の種類や目的によって使い分ける必要があるため、多様に開発されており、本学
には、エレクトロスプレー質量分析装置(ESI-MS) とこれに接続して混合物を分離できる液体クロマト
グラフィー(LC)が導入されている。今回の研修では、LC や ESI-MS を用いた構造異性体の同定や定量分
析が可能な質量分析装置の分析技術、試料調製技術を習得することを目的として研修を行った。本研修
は沖縄高等専門学校(沖縄高専) 副技術部長
藏屋英介様に平成 25 年 2 月 18 日(月)~平成 25 年 2 月
21 日(木)の期間でご指導いただいた。沖縄高専では、LC/ESI-MS を用いた研究成果を多く報告しており、
実際の分析技術、及び、最近脚光を浴びている質量分析装置の測定技術について学ぶことによって、メ
ーカー研修では習得できない生きた技術を習得することができた。
2. LC/ESI-MS
LC/ESI-MS は溶媒中に溶解している試料の質量を測定することができる。まず、LC によりカラムと
試料溶液に含まれるいくつかの物質との親和性の差により、試料を分離する。続いて、エレクトロスプ
レーイオン化(ESI)法を用いて試料溶液に高電圧をかけ、正イオンと負イオンに分ける。これを質量分離
部で質量に応じて分離し、検出器で検出することにより、イオンの質量を知ることができる。
上述の通り、ESI-MS は LC と接続することで構造異性体の同定が可能である。しかし、様々な研究室
が多様なサンプルを持ち込み、多くの研究室が LC を所有しているため、現在私の管理する ESI-MS と
LC は接続していない。各研究室の LC で分離した試料を受け取り、依頼測定として測定している。しか
し、LC と ESI-MS を接続すれば、LC を持たない研究室に対しても研究支援を行うことができる。また、
LC の測定技術を身につけることで依頼測定試料への理解が深まり、より精密な測定が可能になる。
また、本学に導入されている LC/ESI-MS の質量分離部は飛行時間
(TOF) 型であり、イオン源で一定の加速電圧で加速されたイオンが検
出器に到達するまでの時間を測定することで、イオンの質量を知るこ
とができるが、この検出器では定量分析を行うことができず、四重極
(Q) 型を用いなければならない。しかし、定量分析を希望する声もし
ばしば聞かれ、現在、導入申請を行っている。沖縄高専は Q 型質量分
析装置(LC/ESI-Q-MS)を導入しており、熊本大学にも導入された際に
迅速に測定に対応できるよう、定量分析の研修も行った。
図 1:沖縄高等専門学校の LC/ESI-Q-MS
MS は Waters 社製 Quatro micro
LC は Waters 社製 AcQuity
3. 研修内容
試料は緑茶、紅茶、烏龍茶、韃靼そば茶、嬉野紅茶中のカテキン類 8 種、カフェインとした。8 種の
44
カテキン類のうち、[カテキン・エピカテキン]、[ガロカテキン・エピガロカテキン]、[カテキンガレー
ト・エピカテキンガレート]、[ガロカテキンガレート・エピガロカテキンガレート]は、それぞれ組成式
が同じ、つまり質量も同じで構造が違う構造異性体である。
カテキン類とカフェインを 100℃または 70℃
で茶中から抽出し、含まれる成分量の違いを測定した。
1日目:LC/ESI-Q-MS で効率的にイオン化するための試料調製
それぞれの茶を 2g ずつ分取した。100℃又は 70℃の湯、
メタノールで抽出し、ろ過した。(※嬉野紅茶のみ、70℃
未抽出)
2日目:LC/ESI-Q-MS で効率的にイオン化するための試料調製
図 2:茶抽出液
サンプルの定量分析-条件検討;イオン化の可否
それぞれの茶抽出液を適当に希釈し、フィルターろ過を行った。純粋なカテキン類 8 種とカ
フェインに対して溶媒、電圧、その他の測定条件を決定するための測定を行った。
3日目: 構造異性体の同定-構造異性体分離条件の検討
サンプルの定量分析-検量線の作成、サンプル測定
カテキン類 8 種のうち、構造異性体同士が分離するようなリテンションタイムを検討した。
また、定量分析を行うため、検量線が必要となる。純粋なカテキン類 8 種とカフェイン(そ
れぞれ 6 段階の濃度のものを用意)を 2、
3 日目に決定した条件で測定し、検量
線を作成した。さらに、それぞれの茶
の抽出液を、2、3 日目に決定した条件
で測定した。
4日目: 構造異性体の同定-構造異性体分離
サンプルの定量分析-測定、解析
前日の結果が検量線から外れていたた
図 3:緑茶中に含まれるカテキン類、カフェインの量
他の茶についても同じようにグラフを作成ししている
め、再測定した。結果を解析し、それ
ぞれの茶抽出液に含まれるカテキン類、カフェインの量を算出した。
4. 成果と今後の展望
内容の濃度が濃いわりには研修期間が短かったため、研修先の技術職員の経験に依るところもあり、
今後、可能な部分は学内での訓練が必要となる。メーカー研修では習得できないような、熟練した技術
職員の技術を教授いただいたため、現在、関連研究室にて継続して技術習得に努めているところである。
また、定量分析の研修を行ったことにより、今後導入される可能性の高い定量分析のできる四重極 (Q)
型の装置を扱う際の技術的側面への貢献ができることは間違いない。
本研修の結果に関しては、本学で中学生の夏休み期間に実施している夏休みの自由研究相談会のテー
マの一つである「お茶を科学する」で使用させていただいた。私の知りうる限りで、茶中のカテキン、
カフェインの量を茶の種類や抽出温度によって定量している資料はなかったため、今回の結果を資料に
含めることによって、より中学生に『科学らしさ』を伝えることができたように思う。
5. 謝辞
藏屋英介様をはじめ、沖縄高専の皆様に深謝いたします。また、熊本大学 工学部 前技術部長
里中
忍教授、前副技術部長 神澤龍市様には大変なお力添えをいただきました。心よりお礼申し上げます。
その他にも、多くの皆様にご協力いただきました。ありがとうございました。
45
キャリア教育を目指した離島小学校へのものづくり教育支援事業
教育学部 西本 彰文,井上健次郎,清水康孝,准教授 引地力男
1.はじめに
本活動は,教育学部技術科教員1名,教育学部技術
鹿児島県には,離島が多く,ものづくりの機会が少な
職員3名により実施した。授業の流れを表2に示す。
い状況がある。引地は,離島の小中学校を対象とした
出前授業を実施し,成果を上げている
1),3)
。この流れを
表1
実施概要
引き継ぎ,熊本大学教育学部では,(独)科学技術振興
実施校
参加児童数
機構による,サイエンス・パートナーシップ・プログラム
大和小学校
39 名
(以降,SPP)支援のもと,離島の小学校を対象とした「手
大和小学校湯
作りロボット講座」を実施した。本報では,本活動の概要
名音小学校
教材を図1に示す。本教材は児童が理解しやすいよう
考
教員5名
2名
釜湾分校
及びその効果について考察を行う。本活動で製作した
備
教員5名
6名
中学生 3 名
に簡単なリンク機構を用いた玩具に近いもので,半日程
今里小学校
度で実施できる題材である。
3名
保護者 3 名
小学校におけるキャリア教育の目標は,1)自己及び
教員 2 名
他者への積極的関心の形成・発展,2)身のまわりの仕
教員 4 名
大棚小学校
事や環境への関心・意欲の向上,3)夢や希望,憧れる
40 名
一部,2回目の
参加
自己イメージの獲得,4)勤労を重んじ目標に向かって
努力する態度の形成の4つが挙げられている 2)。本活動
表2
は,この4つの観点を包含した形でデザインされており,
講座の流れ
講座概要・注意事項について
キャリア教育に資する取り組みであると考えられる。
教員からのロボットについての講義(図2)
ロボットの製作(協働活動)
競技大会・個別の発表(時間に応じて)
本取り組みと,引地らの取り組み 3)の違いは,低学年・
中学年・高学年ごとの製作題材を分けず同じ製作題材
としたこと,高学年と低学年といった形で異年齢のペア
による活動を行った点の2つが挙げられる。また,一方
で,①資料は配布せず,児童にメモをとらせる,②工具
は2名一組として協力して作業する場とする,③各製作
図1 製作した「歩く自動車」
段階で全員がそろうまで先に進まない等は,踏襲した。
本活動では,まず,PPT を用いた一斉授業形式にて
2.出前授業概要
児童生徒に安全面を徹底させるとともに,ロボットの必
平成 24 年 11 月 1 日から 5 日まで鹿児島県大島郡大
要性,メカニズムについて1時間程度説明を行った。こ
和村内全ての小学校(大和小学校,大和小学校湯釜
の講義は,ロボットのイメージの変容を意図したもので,
湾分校,名音小学校,今里小学校,大棚小学校)にお
「面白いもの,便利なもの」といったイメージから「人がで
いて,キャリア教育の一環としてのものづくり教育「手作
きない事を人に代わって実行してくれるもの,人間社会
りロボット講座」を実施した。今里小学校では,児童・教
を幸せにしてくれるもの」といったように,人間とロボットと
員だけでなく保護者および,大和中学校の生徒の参加
の係わりについて理解させた(図2)。
があった。実施概要を表1に示す。
46
3.調査方法および考察
本活動では,SPP 標準の事後アンケートによる調
査(N=91)および,3〜4ヶ月後に,教師を対象とし
たフォローアップアンケート(N=4)による調査を実
施した。フォローアップアンケートの項目は,文部
科学省がキャリア発達にかかわる能力・態度として
示す 5)ものとし,各項目を受講前の値を「5」とした
10 段階により評価した(受講前より少し良くなった
ら「6」等と例示)
。また,その他自由記述欄を設け
図2
ノートにメモをする児童(講義時)
た。なお,出前授業複数回実施した対象校が1校で
あった為,複数回実施の項目は割愛した。
次にロボットの製作を行った。教材は,事前にパッケ
次に,児童のアンケートから考察を行う。SPP 標
ージ化したものを配布した(図3)。製作は,ペアによる
準アンケートは,
「そう思う:1」から「そう思わな
活動(出来れば異年齢)により進めた。これは,協調的
い:4」の4段階のリッカート尺度によるものであ
な活動が自然に行えるように意図したもので,例えば
る。表3にアンケートの設問とその回答,および,
「ダブルナットを締めると」いった助け合いが必要な場面
(下段)をそれぞれ示す。
平成 23 年度 SPP 事業結果 4)
が設定してあり,児童は,ドライバーやスパナ,本体の
平成 24 年度の SPP 事業結果が公表(平成 25 年8月
固定を異年齢ペアで協同しながら製作活動を行ってい
9現在)されていない為,平成 23 年度のアンケート
る様子がうかがえた。また,工具は,ペアで 1 セットという
と比較を行ったが,設問項目に相違が見られるため
形で,自然にコミュニケーション(例えば,工具の貸し借
一部項目は,空欄とした。
り等)が図れるように意図的に数量を調整した(図4)。
最後に,競技会や,児童による感想の発表を残りの
表3 アンケート設問およびその回答率(%)
時間に応じて実施した。
どちらかと
設
問
思う
いえば
思う
図3
事前準備した教材セット(1人分)
思わ
思わ
ない
ない
Q1:理科に興味をもつよ
74.7
22.0
3.3
0.0
うになったか
43.0
39.1
13.5
4.4
Q2:授業内容は面白かっ
88.9
11.1
0.0
0.0
たか
65.1
27.5
5.2
2.1
Q3:授業内容は理解でき
45.1
35.2
15.4
4.4
たか
40.2
45.8
11.4
2.6
Q4:分からないことを調
31.9
42.9
16.5
8.8
べようと思ったか
27.5
46.3
20.2
6.0
Q5:理科の勉強が普段の
51.7
42.9
5.5
0.0
生活に役立つと感じたか
-
-
-
-
Q6:将来,理科と関連のあ
27.5
31.9
20.9
19.8
-
-
-
-
93.4
5.5
1.1
0.0
49.7
33.2
11.9
5.2
る仕事につきたいと感じ
たか
Q7:また参加したいか
図4
配布した工具・教材の様子
47
表3より,本活動は高い評価を得られたと言えよ
い値(6.6.7)を示しており,本活動の意図する「異年
う。特に,Q7 の問いでは,「また参加したい」と回
齢による協力活動」との関連が強く感じられる。
以上の結果より,本活動が,キャリア教育の推
答した児童が9割を超えた。また,図5に示すよう
進に貢献できたことが確認できた。
に Q6 にのみ,男女に有意な差があった(p<0.05)。事
前調査を行っていないため,そもそも事前から低か
4.おわりに
ったのか,出前授業の結果なのか分からないが,こ
れは,一般的な傾向ではないかと考える。また,男
本報では,離島の小学校を対象とした「ロボットものづ
女ともに総じて値が低いが,これは,小学校低学年
くり教室」についての活動およびその効果について検討
においては,仕事のイメージができにくいこと,教
を行った。
その結果,本活動が,ロボット製作活動を通して,児
材がロボットを主体としており,理科教科との関連
童の関心意欲を高めたこと,キャリア教育の能力・態度
が薄いことなどが考えられる。
について一定の効果が認められることを確認できた。
一般に僻地や離島では,ダイバーシティに制限があ
100%
ると考えられる。故に,出前授業等により,ものづくりなど
80%
幅広い学習機会を提供し,補完する事が必要である。
今年度も熊本県内のへき地小学校を対象とした活
60%
女
40%
動を展開する予定である。
男
20%
参考文献など
0%
そう思う
図5
1) 引地力男(2009)
:
「出前授業を利用した離島中
どちらかといえ どちらかといえ そう思わない
ば思う
ばそう思わない
学校へのものづくり教育支援の検討」,工学教
将来理科関連の仕事に就きたいかの男女比
育,57(1),93-98
2) 国立教育政策研究所「自分に気付き,未来を築く
キャリア教育」−小学校におけるキャリア教育の推
最後に,フォローアップ調査の結果について考察
を行う(表4)。低学年では,情報活用能力,将来設
進のために−,
計能力領域の項目すべてで,6.00 以上の値が得られ
http://www.nier.go.jp/shido/centerhp/syoukyari/
た。また,他の領域の項目においても,
「自分の好き
shougakkou_panfu.htm(参照日 2013/8/8)
なことや嫌いなことをはっきり言える」の項目を除
3) 引地力男ほか(2012)
:
「キャリア教育を目指し
いた項目において,伸びが見られた。
た離島小学校へのものづくり教育支援」
,工学
中学年では,値の低い項目も見られるが,すべて
教育,60(6),150-155
の項目で,5.50 以上の値が得られた。特に,人間関
4) 科学技術振興機構理数学術センター:「サイエ
係形成能力の項目「友達と協力して,学習や活動に
ンス・パートナーシップ・プロジェクト(SPP)
取り組む」は,6.75 と高い値を示した。これは,本
児童・生徒へのアンケート結果(平成 23 年度)
」
,
活動が意図している異年齢による協力活動による成
http://spp.jst.go.jp/enquete/H23SPP_enq_stu.pdf
果だと考えられる。関連して,
「自分の仕事に対して
(参照日 2013/8/9)
責任を感じ,最後までやり通そうとする(6.50)」につ
5) 文部科学省:
「小学校キャリア教育の手引き(改
いても,協同による活動を通した活動が影響してい
訂版)
」,
ると考えられる。
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/career/1293
高学年でも,値の低い項目があるが,これは,発
933.htm(参照日 2013/8/9)
達段階に応じて調査項目の記述がより具体的なもの
6) 南海日日新聞:「ロボット組み立てに挑戦
となっており,本活動との直接的なつながりが,薄
大が5小学校で講座」2012 年 11 月 8 日
かったと考えられる。他方で,
「異年齢集団の活動に
進んで参加し,役割と責任を果たそうとする」は高
48
熊
表4 フォローアップ調査結果(平均) N=4
学
領
初
能
年
低
力
・
態
域
(平均)
自分の好きなことや嫌いなことをはっきり言える
5.00
人間
友達と仲良く遊び助け合う
5.67
関係
お世話になった人等に感謝し,親切にする
5.67
形成
あいさつや返事をする
6.00
能力
ありがとうやごめんなさいが言える
5.33
自分の考えをみんなの前で話す
6.00
情報活
身近で働く人の様子がわかり興味・関心を持つ
6.00
用能力
係や当番の活動に取り組み,それらの大切さが分かる
6.33
家の手伝いや割り当てられた仕事・役割の必要性が分かる
6.00
作業の準備や後片付けをする
6.67
決められた時間やきまりを守ろうとする
6.33
自分の好きなもの,大切なものを持つ
5.67
学校でしてよいことと悪いことがあることをわかる
6.00
自分のことは自分でしようとする
5.67
自分の良いところを見つける
6.00
人間
友達の良いところを認め,励ましあう
6.25
関係
自分の生活を支えている人に感謝する
6.00
形成
自分の意見や気持ちを分かりやすく表現する
5.75
能力
友達の気持ちや考えを理解しようとする
5.75
友達と協力して,学習や活動に取り組む
6.75
いろいろな職業や生き方があることがわかる
5.50
情報活
わからないことを図鑑などで調べたり質問したりする
6.00
用能力
係や当番活動に積極的にかかわる
6.50
働くことの楽しさがわかる
6.25
互いの役割や役割分担の必要性が分かる
6.00
日常の生活や学習と将来の生き方との関係に気付く
5.50
将来の夢や希望を持つ
5.50
計画通りの必要性に気付き,作業の手順がわかる
5.50
学習等の計画を立てる
5.75
自分のやりたいこと,よいと思うことなどを考え,進んで取り組む
6.00
してはいけないことがわかり,自制する
5.75
自分の仕事に対して責任を感じ,最後までやり通そうとする
6.50
自分の力で課題を解決しようとする
6.00
学
将来設
年
計能力
意思決
定能力
中
回
度
学
年
将来設
計能力
意思
決定
能力
49
高
人間
自分の欠点や長所に気づき,自分らしさを発揮する
6.00
関係
話し合いなどに積極的に参加し,自分と異なる意見も理解しようとする
5.67
形成
思いやりの気持ちを持ち,相手の立場に立って考え行動しようとする
6.00
能力
異年齢集団の活動に進んで参加し,役割と責任を果たそうとする
6.67
身近な産業・職業の様子やその変化がわかる
5.33
情報
自分に必要な情報を探す
5.33
活用
気づいたこと,分かったことや個人・グループでまとめたことを発表する
6.33
能力
施設・職場見学を通し,働くことの大切さや苦労がわかる
5.00
学んだり体験したりしたことと,生活や職業との関連を考える
5.33
社会生活にはいろいろな役割があることやその大切さがわかる
5.33
仕事における役割の関連性や変化に気付く
5.00
将来のことを考える大切さがわかる
5.33
憧れとする職業を持ち,今,しなければならないことを考える
5.33
係活動などで自分のやりたい係,やれそうな係を選ぶ
6.00
教師や保護者に自分の悩みや葛藤を話す
5.67
生活や学習上の課題を見つけ,自分の力で解決しようとする
5.67
将来の夢や希望を持ち,実現を目指して努力しようとする
5.67
学
将来
設計
能力
年
意思
決定
能力
50
放射線取扱者個人管理システムの現状と課題
○ 泉 水 仁 *1 , 川 原 修 *1 , 上 村 実 也 *2 , 井 上 保 典 *3 , 青 木 隆 昌 *4 ,
児 島 香 代 子 *4 , 後 藤 久 美 子 *1 , 高 椋 光 博 *5 , 白 石 善 興 *5 , 古 嶋 昭 博 *1
*1 熊 本 大 学 生 命 資 源 研 究 ・ 支 援 セ ン タ ー , *2 熊 本 大 学 工 学 部 ,
*3 熊 本 大 学 教 育 研 究 推 進 部 , *4 熊 本 大 学 運 営 基 盤 管 理 部 ,
*5 熊 本 大 学 発 生 医 学 研 究 所
1. 概 要
放 射 線 取 扱 者 個 人 管 理 シ ス テ ム (Personal Management System for Radiation
handler, 以 下 「 PMSR」 )の 本 格 運 用 か ら 2 年 余 り が 経 過 し た 。 旧 シ ス テ ム に お
け る 問 題 点 は 概 ね 解 消 さ れ 、現 在 は 運 用 面 で 大 き く 改 善 す る こ と が 出 来 て い る が 、
課題も多く残っている。
今 回 は 、PMSR の 本 格 運 用 か ら 現 在 に 至 る 問 題 点 と そ れ に 対 し て 実 施 し た 対 策 、
及び今後の課題について、以下に報告する。
2. 問 題 点 及 び そ の 対 策
(1) セ キ ュ リ テ ィ ー 対 策 ( 図 1)
2001 年 度 に 導 入 さ れ た 旧 シ ス テ ム で は 、イ ン タ ー ネ ッ ト を 介 し た 操 作 が 主 で あ
る た め グ ロ ー バ ル IP を 設 定 せ ざ る を 得 ず 、ま た シ ス テ ム の OS が 古 く 、メ ー カ ー
のサポート期間から大幅に過ぎてしまい、個人情報漏えいの可能性などセキュリ
ティーにおいて重大な問題を抱えていた。
PMSR で は 、人 事・学 籍 情 報 等 の 重 要 な 個 人 情 報 等 を 統 合 的 に 管 理 す る 熊 本 大
学 統 合 認 証 シ ス テ ム (以 下 「 統 合 認 証 シ ス テ ム 」 )に 組 み 込 む こ と に よ り 、 高 い セ
キュリティーを享受し、放射線取扱者における個人情報漏えい防止を実現した。
(2) ペ ー パ ー レ ス 化 ( 図 1)
旧システムでは放射線取扱者が窓口担当へ登録申請書を提出し、システム管理
者へ送付して登録申請及び登録を行っていたが、周知不足による登録申請書の未
提出あるいは不備による登録遅延が非常に多かった。また、担当部局の負担増や
手入力によるデータの誤りが多く、混乱を招く原因となっていた。
PMSR で は 統 合 認 証 シ ス テ ム へ 組 み 込 む こ と に よ っ て 、登 録 申 請 書 の 電 子 化 に
よりシステム管理者への送付は不要となり、窓口担当による登録作業の正確かつ
迅速な処理を実現できた。加えて、放射線取扱者自身が登録・教育訓練・健康診
断 ・ 被 ば く 線 量 の 状 況 を 、 Web で 確 認 出 来 る よ う に な っ た 。
51
統合認証システム
旧システム
人事・学籍情報
システム管理者
部局担当事務
健康管理部局
システム管理者
RI 施 設 等
PMSR
部局担当事務
健康管理部局
RI 施 設 等
放射線取扱者
(学 生 ・ 教 職 員 )
放射線取扱者
(学 生 ・ 教 職 員 )
Web に よ る ア ク セ ス ・ 管 理
紙媒体による登録申請書の送付
図 1 . 旧 シ ス テ ム ( 左 ) 及 び PMSR( 右 ) に お け る 登 録 管 理 の 流 れ
(3) デ ー タ ベ ー ス 健 全 化
旧システムでは、主に手入力が原因でデータの誤りや多重登録が多数発生して
おり、データの信頼性を損ね、混乱の原因となっていた。
PMSR へ 移 行 す る 際 に デ ー タ ベ ー ス の 健 全 化 を 図 り 、且 つ 統 合 認 証 シ ス テ ム へ
組み込むことによって、データの誤りや多重登録を解消できた。
(4) 帳 票 作 成 機 能
旧 シ ス テ ム で も 帳 票 作 成 機 能 を 備 え て い た が 、予 算 の 問 題 で PMSR 導 入 時 点 で
は 盛 込 め な か っ た 。 代 替 措 置 と し て 、 出 力 項 目 を 指 定 し て CSV フ ァ イ ル を 出 力
し、差込印刷による帳票作成にて対応していたが、作業に大幅な時間がかかって
いた。
予算確保を行い、様式の見直しを含めた帳票作成機能を追加し、作業の大幅な
省力化を実現できた。
3. 今 後 の 課 題
(1) シ ス テ ム 管 理 者 の 負 担 軽 減
旧システムでは、コンピュータに精通していないスタッフがシステム管理者と
して、手入力でデータベース編集を行っていたため、データの誤りが多数発生し
た 。PMSR へ の 移 行 に 伴 い デ ー タ ベ ー ス の 健 全 化 は 概 ね 完 了 し た が 、手 入 力 に 依
る部分が残っているため、データの誤りが再発する危険性が高い。そのため、コ
ンピュータに精通していないスタッフによる運用を前提にした管理体制を構築す
る必要がある。
(2) 学 内 e ラ ー ニ ン グ シ ス テ ム と の 統 合
本学では、更新者用教育訓練及び問診をeラーニングシステムにて実施してい
る が 、PMSR と の 連 携 が 出 来 て い な い 。PMSR と の 連 携 を 取 る こ と に よ っ て デ ー
タの共有が図れ、より正確かつ迅速な処理が可能となる。
52
早期体験型実験・演習科目開発プロジェクト
-初心者のためのCAD製図-
○倉田 大,中村秀二,白川武敏,清水久雄,平田正昭,廣田将輝
熊本大学工学部
技術部
キーワード:ものづくり,機械製図,2D-CAD
1.はじめに
熊本大学工学部では,革新ものづくり展開力の協働
教育事業として創造力やものづくりの感性豊かな科学
技術者やデザイナーの育成を目標に,先進的な工学教
育モデルを開発し実践する事業「早期体験型実験・演
習科目開発プロジェクト」を実施している.本プロジ
ェクトは,
技術職員が日頃から培った技術を融合させ,
6テーマについて,ものづくりにおける体験型実験・
演習を行っている.本稿では,平成 24 年度に実施し
たテーマ「初心者のためのCAD製図」について報告
する.
2.目的
工学系技術者の育成において,CAD製図の技術習
得は不可欠であり,重要な課題と言える.そこで,機
械製図の基本的な概要説明と2次元CAD演習により,
初心者でも解りやすい内容でものづくりのために必要
な知識と方法を提供し,本学の教育研究の進展に貢献
することを目的とする.
図 1 機械製図の講義風景
3.実施内容
3.1 開催日時と場所
平成 24 年 9 月 27 日(木)10:00~15:00
熊本県熊本市中央区黒髪 2 丁目 39-1
熊本大学工学部 革新ものづくり教育センター
「ものクリ工房」実習スペース
3.2 受講者
機械システム工学科 B4(1 名)
情報電気電子工学科 B4(4 名)D1(2 名)
社会環境工学科 M1(1 名)
教員(2 名)
合計 10 名
3.3 講師
倉田 大技術専門職員,中村 秀二技術専門職員
3.4 講習内容
1. 機械製図について【図 1】
基礎製図,寸法表記,投影法,JIS 製図など
2. 2D-CAD について【図 2】
,
【図 3】
2D-CAD「Root Pro CAD Free」の概要
演習課題による操作法,および 3D-CAD の紹介
図 2 2D-CAD ソフト「Root Pro CAD」
図 3 2D-CAD の演習風景
53
Q7.今後同様の講習会を受けたいですか?
4.結果
今回実施した「初心者のためのCAD製図」講習に
おいて,アンケート集計を行った.アンケートの結果
から開催時期の要望や2D-CADの使用法について
一部解らないなどの少数意見が見られたが,総合的に
良い評価をいただいた.以下に設問内容(選択式)と
いくつかの回答結果を示す.
あまり受けたく
ない
受けなくてよい
どちらでもよい
0%
0%
10%
Q1.あなたの所属について教えてください。
Q2.開催時期はいかがでしたか?
是非受けたい
40%
やや受けたい
50%
Q7 の回答結果
後期(前半)に
してほしい
0%
後期(後半)に
してほしい
0%
Q8.ここは改善した方が良いと感じる点やご感想や
ご要望などをお書きください。
A1:3D-CAD の講習会も是非実施して頂きたい.
A2:夏季休暇中に実施した方が良いと思う.
ちょうどいい時
期でした
30%
前期(後半)に
してほしい
10%
5.おわりに
本プロジェクトの実施経緯は,学部の専門科目授業
においては3D-CADが使用されているが,他学科
における部品加工や機器製作の図面作成においてはC
ADソフトや機械製図に関する教育は十分であるとは
言えない.このような現状を改善するため,本講習会
では,初心者でも解るように機械製図の基礎から作図
や寸法表記,投影法の説明を行った.また,2D-C
AD演習では受講者と同時進行でCADソフトの操作
法について関係職員で対応した.アンケート集計結果
から全般的に良かったという評価をいただいたが,1
年~3年次の学部生の参加が少ないなどの募集方法の
問題も残った.今後はこのような点を改善し,本学の
ものづくりにおける教育研究に更に貢献して行きたい.
前期(前半)に
してほしい
60%
Q2 の回答結果
Q3.講習時間はどうでしたか?
やや短い
20%
短すぎる
0%
長すぎる
0%
ちょうどよかっ
た
30%
やや長い
50%
謝 辞
本プロジェクト実施にあたり,お世話になりました
里中工学部長,ものづくり創造融合工学教育センター
長の村山教授,ご協力いただいた関係各位に感謝申し
上げます.
Q3 の回答結果
Q4.テキストの内容はいかがでしたか?
あまり解らな ふつう
まったく解らな
かった
0%
かった
0%
0%
解りやすかっ
た
33%
Q4 の回答結果
参考文献
[1] 初心者のための機械製図【第 2 版】
森北出版 2009.2.20
[2] 2 次元汎用 CAD ソフト「Root Pro CAD」
株式会社ルートプロ
とても解りやす
かった
67%
Q5.
「機械製図について」の説明はいかがでしたか?
Q6.
「2D-CAD について」の説明はいかがでしたか?
※本稿は,平成 25 年度日本工学教育協会第 61 回年次大会
(新潟大学)においてポスター発表したことをここに報告する.
54
コンクリートの非破壊検査
―鉄筋上の自然電位評価のための PiBEM 法の開発―
友田祐一 1,戸田善統 1,外村隆臣 1,大津政康 2
1 熊本大学工学部技術部,2 熊本大学大学院自然科学研究科
1.はじめに
近年、多くの鉄筋コンクリート構造物から鉄筋腐食
による早期劣化が報告されている。その一つに塩害が
挙げられ、既存の構造物や新たに建設される構造物に
おいても塩害による鉄筋腐食の発生時期を早期に評価
することが不可欠である。本研究では、コンクリート
構造物の塩害における環境条件を考慮した浸漬乾燥繰
返し実験を行った。電気化学的手法による計測結果を
用いて PiBEM 解析を開発することで、コンクリート
表面の自然電位値を内部自然電位値への換算を試みた。
の関係が成立する。
さらに、コンクリートの物性により、コンクリート表
面の電位には、式(1)の均質体の支配方程式以外の影響
を考慮する必要がある。そこで、式(4)の電位項および
電流項にそれぞれ係数 C1 および C2 を代入すれば、
と置くことができる。
⎛ 1
⎞
⎛ 1 ∂ G ij
⎞
1
u i = C 1 ⎜⎜ ∑ j =1
u j S j ⎟⎟ + C 2 ⎜ ∑ j =1 G ij
Sj⎟
⎜
⎟
∂n
Ij
⎝
⎠
⎝
⎠
本実験では、鉄筋上の 2 箇所 x1、x2 で内部電位計測
を行っている。したがって、式(6)は、
という連立方程式となり、C1、C2 は決定可能となる。
その後、式(6)に C1、C2 を代入すれば、鉄筋上の全て
の点で、
表面上の自然電位と自然電位 ui が決定できる。
2.PiBEM(Potential inversion by BEM)解析
電位を u(x)とすれば、
(1)
2
∇u
=0
と示されるポテンシャル場を満足する。式(1)の解は,
境界要素法(BEM)の基礎式において、
∂u
∂G
⎧
(2)
(x, y ) ⋅ u( y)⎫⎬dS
u( x) = ∫ ⎨G( x, y ) ( y ) −
S
∂n
∂n
⎭
⎩
と表示される。G(x,y)は基本解である。
コンクリート表面では、自然電位はポテンシャル問
題であり、BEM 法では式(3)のように定式化される。
u(x) = ∑j=1G(x, yj )
N
∂u
(yj )Sj −∑1j=1 ∂G (x, yj )u( j)Si
∂n
∂n
⎛ N
⎛ N ∂G(x1, y j )
⎞
1 ⎞
u1 = C1⎜⎜ ∑ j =1
u j S j ⎟⎟ + C2 ⎜ ∑ j =1 G(x1, y j ) S j ⎟
⎜
⎟
∂
n
I
⎝
⎠
j
⎝
⎠
⎛ N
⎛ N ∂G(x2 , y j )
⎞
1 ⎞
u2 = C1⎜⎜ ∑ j =1
u j S j ⎟⎟ + C2 ⎜ ∑ j =1 G(x2 , y j ) S j ⎟
⎜
∂n
I j ⎟⎠
⎝
⎠
⎝
(3)
∑
N
j =1
G ij
∂ G ij
∂u
1
S j − ∑ j =1
u jS j
∂n j
∂n
(4)
ここで、ui と Sj はそれぞれコンクリート表面での自然
電位と計測電極部の面積(既知)である。また、∂u/∂xj
は電流、分極抵抗 Ij の間には、
∂u
B
∝
(5)
∂n j
Ij
表-1 コンクリート示方配合
Gmax
(mm)
Sl
(cm)
W/C
(%)
Air
(%)
s/a
(%)
10
8
55
7
45
(7)
3.実験概要
実験供試体は、図-1 に示す床板を模擬した
1000×570×75mm の鉄筋コンクリート供試体である。供
試体には、図-1 に示す 3 本の鉄筋上にそれぞれ 2 箇
所に埋め込み式内部センサを設置した。参照電極は銀
-塩化銀電極を使用し、計測後に飽和銅-硫酸銅電極
(CSE)の値に換算した。
自然電位と分極抵抗の計測は鉄
筋 1 本につきコンクリート表面より 9 箇所、コンクリ
ート内部から 2 箇所の計測を行った。コンクリートの
示方配合は表-1 に示すように練り混ぜ水に NaCl 水
溶液を使用した。
コンクリート表面 Sh を面積要素 Sj に分割し、自然電位
計測を行う。Sh 以外の面では電流の流入出は 0 である
と仮定して、
内部点(鉄筋上の点)xi の電極を ui とすれば、
式(3)は次のように離散化する。
ui =
(6)
単位水量(kg/m3)
W
C
S
G
NaCl
174
317
757
1084
0.704
55
AE 減水剤
(g/m3)
AE 助剤
(g/m3)
317
634
4. 試験結果
4.1 自然電位計測値
計測点 1、3 の自然電位計測結果を図-2 に示す。な
お、28 日養生後を 0 日目として実験を開始した。計測
点 1 と 3 の表面における自然電位値は 49 日目に鉄筋腐
食評価基準である-350mV の値を下回った。これは、
90%以上の確率で腐食ありと評価される 1)。
4.2 PiBEM 解析
800mm の鉄筋上に内部点を 10mm 毎に 81 点設け、
PiBEM 解析により、全内部点における鉄筋上での自然
電位値を求めた。鉄筋 1 における 63 日目、91 日目お
よび 105 日目の解析結果を図-3 に示す。解析には浸
漬直後の計測値を使用した。この結果より、計測点 4
から 9 の 6 点は、105 日目の値が最も低く、日数経過
に伴い腐食が進行したことが確認された。また、63 日
目と 91 日目の解析結果は右下がりになっており、
実験
中期に計測点 1 の位置で腐食が活発であったことが推
測される。
4.3 鉄筋はつり出しによる目視観察
112 日目に実験を終了し、鉄筋を供試体からはつり
出し、目視により観察した。図-4 に鉄筋 1 の観察結
果を示す。赤い丸で示す計測点 1 で激しい腐食を確認
することができた。これは、自然電位での 49 日目で
の低下および PiBEM 解析結果での 91 日目での分布
とよく一致している。これにより、PiBEM 解析の鉄
筋腐食評価における有効性が明らかとなった。
1000
800
100
50
1
2
3
4
5
100
6
7
8
9
100
100
鉄筋1
ch3
ch2
ch1
85
10
11
12
13
14
15
16
17
185
18
100
570
鉄筋2
ch4
85
19
20
21
22
23
24
25
26
185
27
100
鉄筋3
ch5
50
100
ch6
(a)断面図
表面
20 75
(b)平面図
底面
[mm]
:コンクリート表面の自然電位・分極抵抗計測点
:鉄筋付近の自然電位・分極抵抗計測点
:AE センサ設置位置
図-1 コンクリート供試体
自然電位・分極抵抗および AE 計測位置
自然電位解析値(mV
CSE)
自然電位計測値(mV vs
vs CSE)
-600
5. まとめ
本研究では、実構造物を模擬したスラブ供試体を対
象に PiBEM 解析を用いて鉄筋上の自然電位評価を行
うことに試みた。その結果、自然電位計測値、PiBEM
解析値による腐食診断結果と実際の腐食状態の一致が
確認され、これにより、PiBEM 解析による鉄筋腐食評
価の有効性が認められた。
-500
-400
-350mV
-300
表面(計測点 1)
表面(計測点 3)
内部(計測点 3)
-200
-100
0
0
14
4249 56 70
時間(day)
28
84
98
112
計測点 1・計測点 3
-700
-500
自然電位解析値(mV)
自然電位解析値(mv)
-600
参考文献
(1) ASTM C876-91: Standard Test Method for Half-Cell
Potentials of United Reinforcing Steel in Concrete, 1991
-400
-300
63日目
-200
91日目
105日目
-100
-350mV
0
200
300
計測点1
2
400
3
500
4
5
600
6
700
7
800
8
9
内部点のx軸方向距離(mm)
内部点の x 軸方向距離
図-2 鉄筋 1 の自然電位計測値
4
6
8
2
図-3 鉄筋 1 の PiBEM 解析結果
計測点1
3
5
7
図-4 鉄筋 1 の目視による観察結果
56
9
コンクリートの非破壊検査
―超音波 SIBIE 法の鉄筋コンクリート表面ひび割れへの適用―
友田祐一 1,戸田善統 1,池崎智美 1,大津政康 2
1 熊本大学工学部技術部,2 熊本大学大学院自然科学研究科
相対振幅
1.はじめに
INPUT
コンクリート構造物は、メンテナンスフリーである
OUTPUT
小
大
と考えられていたが、現在、供用期間中に様々な劣化
現象により、社会的に大きな問題となっている。
その問題の一つとして、ひび割れによるコンクリー
トの劣化が挙げられる。特にひび割れが鉄筋にまで達
すると鉄筋腐食による劣化を引き起こす。
これまでの研究では、無筋のコンクリートに対して
超音波 SIBIE 法 1)を適用した結果、ひび割れの深さを評
図‐1 弾性波伝播経路
価できることが明らかとなっている。
評価する。 また画像化したものを例として図-2 に示
そこで本研究では、ひび割れ深さの異なる鉄筋コン
すように、相対振幅値を 5 段階に色分けしている。
クリート(RC)供試体において Stack Imaging of spectral
amplitudes Based on Impact Echo(SIBIE 法)を適用し、
3.実験概要
RC 供試体におけるコンクリート表面からのひび割れ
実験に用いたRC供試体を図‐3に示す。鉄筋は異形棒
深さの定量的な評価を行なった。
鋼D13SD295を使用し、かぶりは50㎜とした。ひび割れ
のないRC供試体を1本、表面ひび割れ深さが鉄筋のかぶ
2.SIBIE 法の原理
りより浅いRC供試体(表面ひび割れ深さ30㎜)を1本、表
SIBIE2) 法は、供試体断面での弾性波の反射位置を画
面ひび割れ深さが鉄筋のかぶりより深いRC供試体 (表
像化する画像処理法である。
面ひび割れ深さ122㎜、56㎜)を2本の計4本のRC供試体
これは、周波数スペクトルのピーク周波数は、理論
を用いて実験を行った。
的には入力された弾性波が不連続面での回折・反射に
RC供試体のひび割れは、三点載荷により生じさせて
より生じる。まず、図-1に示すように解析対象の断面
おり、構造物に影響を与えると考えられるひび割れ幅
を正方形要素に分割しモデル化する。次に、分割され
をクラックゲージにて測定し、0.1㎜となる位置をひび
た各要素の中心からの弾性波の回折・反射による共振
割れ深さとした。
周波数を求める。弾性波は入力点から要素中心を通過
実験では、ひび割れ深さ検出のための入出力装置と
し、出力点への伝播経路を通る。その最短伝播経路をR
して、高周波数帯域まで検出可能なAEセンサ(150kHz
とすれば、式(1)のように表される。
R  r1  r2
図‐2 SIBIE 図例
共振型)を使用しており、計測間隔を100㎜とした、ホル
(1)
ダーを使用して実験を行った。
解析の対象物を伝わる弾性波の波速をCPとすると、
分割された要素の中心で回折・反射することにより生
じる共振周波数は、式(2)のようになる。
fR  Cp / R
150 ㎜
100 ㎜
INPUT
(2)
OUTPUT
50 ㎜
実測した周波数スペクトルにおいて、式(2) から求めら
150 ㎜
れる理論的な回折・反射による共振周波数の相対振幅
を要素値とし、各要素からの回折・反射の強さとする。
D13SD295
550 ㎜
これをコンター図として 2 次元画像化し、内部欠陥を
図‐3 供試体モデル図
57
4.結果及び考察
実験により得られた周波数スペクトルから SIBIE 解
0
析を行った結果を図‐4~図‐7 に示す。
75
実際に欠陥なしの RC 供試体である図‐4 は底面での
み強い振幅が確認された。ただし、ひび割れ深さ 30 ㎜
150
(㎜)
の場合には、今回の超音波装置の 30 ㎜付近にひび割れ
図‐4 ひび割れなし供試体による SIBIE 図
深さを示す強い相対振幅が確認できなかったため、
SIBIE 解析で 30 ㎜より浅いひび割れ検出は難しいこと
が確認できた。
図‐5 では、RC 供試体の目視により確認した 122 ㎜
のひび割れ深さ付近に強い振幅が確認された。
0
同じように図‐6 では相対的に強くはないものの、RC
供試体の目視により確認した 54 ㎜のひび割れ深さ付近
75
での振幅が確認された。これは、相対的に強くない原
因として、ひび割れ深さでの弾性波の回折による振幅
150
(㎜)
値に比べ、底面での反射による振幅値が強いことが考
図‐5 ひび割れ幅 1.6 ㎜、深さ 122 ㎜供試体による
えられる。そこで、底面での共振周波数より高い共振
SIBIE 図
周波数領域内の SIBIE 解析を行った。その結果、図‐7
では底面での共振周波数である 13kHz 以下を除くこと
により、ひび割れ深さ付近に強い相対振幅が確認でき
0
た。
75
5.結論
150
(㎜)
今回の実験の結論として、現状での超音波 SIBIE 法
における鉄筋かぶりより浅いひび割れ深さの検出は困
図‐6 ひび割れ幅 0.15 ㎜、深さ 54 ㎜供試体による
難であることが確認できた。
SIBIE 図
しかし、実際の RC 構造物に重大な影響を及ぼす可能
性のある、鉄筋かぶりより深いひび割れ深さでは、検
出できることが明らかとなったため、鉄筋コンクリー
0
トの表面ひび割れに対する超音波 SIBIE 法の有効性が
確認できた。
75
参考文献
150
(㎜)
1)
M. Ohtsu, ”On-Site SIBIE Measurement of Surface
図‐7 図‐6 の 0~13kHz の共振周波数を除去した
Cracks and Defects in Concrete Structure of Highway,” Proc.
SIBIE 図
of SMT2010, New York, 2010.
2) 渡海雅信、小坂浩二、大津政康:SIBIE を用いたコ
ンクリート中の欠陥検査法に関する考察、コンクリー
ト工学年次論文集、vol.23、No.1、pp.499-504、2001.
58
コンクリートの非破壊検査
―コンクリート乾燥収縮特性と AE 発生挙動―
友田祐一 1,外村隆臣 1,池崎智美 1,大津政康 2
1 熊本大学工学部技術部,2 熊本大学大学院自然科学研究科
計測を行った。
1. はじめに
近年、コンクリート構造物の乾燥収縮によるひび割
7 日間の湿布養生後、図-1 に示されるように AE セン
れが問題視されてきた 1)。このコンクリートの乾燥収縮
サを 6 個設置し、恒温室内(20℃、60%)で材齢 7 日目
ひずみは、使用材料や配合によって変動することが明
から材齢 28 日目まで連続的に AE モニタリングと、材
らかになっている
2)。混和材料であるフライアッシュ
齢 90 日目まで長さ変化および重量変化試験を行った。
(FA)を混和したコンクリートは、乾燥収縮率を低減さ
y
せる効果がある。
アングル型ノッチ
AEセンサ
そこで本研究では、普通とフライアッシュ混入の 2
種類のコンクリート供試体を用意し、ノッチ部を設け
て、拘束を与えたコンクリートの乾燥収縮特性の解明
x
を試みた。実験では、長さ変化および重量変化試験と
100
400
アコースティック・エミッション(AE)法を適用した。
(mm)
100
また、収縮率の予測を行うために、長さ変化試験で得
z
られた結果に対して対数近似式を適用した。
図-1 供試体寸法およびセンサ配置
表-1 各供試体の示方配合
2.AE 法
最大寸法 水セメント比 細骨材比 空気量 スランプ値
(mm) W/C (%) s/a (%) (%)
(cm)
供試体A 20
55
44
6
8
FA供試体 20
55
44
2
10
AE 法は、微細レベルでの破壊現象に対して高い検出
能力を発揮し、直接確認することが困難なコンクリー
3
単位量 (kg/m )
C
FA
S
309
765
253
63
755
W
170
174
G
1152
1141
AE減水剤 AE助剤
(g)
(g)
1.2
0.8
1.3
0.6
ト内部の破壊進行状況が把握可能である。AE 計測装置
は、AE Win SAMOS(周波数帯域 1~300kHz)、AE セ
4.実験結果と評価
ンサに R15I-AST(共振周波数 150kHz)を使用し、しき
4.1
長さ変化および重量変化結果
各供試体の長さ変化率および質量変化率の平均値を
い値を 40dB とした。
それぞれ図-2 および図-3 に示す。なお、FA 供試体は
計測中の 41 日目までの結果を示している。
3.実験概要
コンクリート供試体は、表乾密度 2.98g/cm3、吸水率
図-2 より、供試体 A は FA 供試体に比べ収縮が大き
0.85%の斑レイ岩 (骨材 A)を使用した供試体 A と、骨材
いことが確認できた。これより、フライアッシュが乾
A を使用し、フライアッシュを混入させた FA 供試体の
燥収縮を抑制することが確認できる。
360
2 種類の供試体を作製した。その配合を表-1 に示す。
320
なお、フライアッシュの混合率はセメント比の 20%と
280
長さ変化率(μ)
した。また、使用材料の影響を確認するため、水結合
材比および細骨材比は一定とした。
実験供試体は、図-1 に示すように 100×100×400mm の
角柱供試体とし、拘束を与えるために打設時にアング
240
200
160
120
FA供試体
80
供試体A
40
ル型のノッチを埋設した。
0
7
実験では、各供試体を AE 計測用に 1 本、長さ変化お
14
21
28
35
42
49
56
63
70
材齢(日)
図-2 各供試体の長さ変化率
よび質量変化試験用に 3 本作製し、7 日間の湿布養生後
59
77
84
91
一方で、図-3 より、FA 供試体は供試体 A に比べ重量
各供試体の長さ変化率と対数近似による予測の関係
変化率が非常に大きいことが確認できた。これは、フ
を図-5 に示す。 供試体 A 、FA 供試体どちらも材齢 41
ライアッシュの粒子はセメントに比べ非常に細かいた
日目付近までは対数近似曲線に沿って値が推移してい
め、セメント粒子の穴にフライアッシュ粒子が入り込
ることが確認できた。41 日目以降に関しては、供試体
み、水和反応に必要ない余分な水が存在したため、大
A は差が大きいが、ある程度は近似曲線に沿うように
きな減少に繋がったと推測した。
推移た。これらの結果より、対数近似による乾燥収縮
の評価は実用的な可能性があることが示された。その
0.00
ため、今後も試験を継続し、有用性を確認していく必
FA供試体
-0.50
要がある。
重量変化率(%)
供試体A
-1.00
360
320
-1.50
280
長さ変化率(μ)
-2.00
-2.50
7
14
21
28
35
42 49 56
材齢(日)
63
70
77
84
91
240
200
160
FA供試体
120
供試体A
80
図-3 各供試体の重量変化率
対数 (FA供試体)
40
対数 (供試体A)
0
7
4.2
14
21
28
35
AE 発生挙動と評価
42
49
56
63
70
77
84
91
材齢(日)
図-5 各供試体の長さ変化率と対数近似による予測
図-4 に AE 発生挙動を示す。材齢初期に供試体 A で
は多くの AE ヒットを検出した。FA 供試体は一定の量
で AE ヒット検出していることが確認できた。これより、
5. 結論
図-2 で示したように、フライアッシュは収縮を抑制す
本研究では、フライアッシュの有無によるコンクリ
るだけでなく、材齢初期の AE ヒットを抑制する働きが
ート乾燥収縮の特性評価を行うために、長さ変化およ
あると推測される。
び重量変化の計測、 それに加え、AE 計測を行った。
その結果、以下のようなことが明らかになった。
累積AEヒット数
10000
9000
(1)長さ変化率および重量変化率より、FA 供試体は供
8000
試体 A より長さ変化率は小さいが、重量変化率が大
7000
きくなることが確認できた。
6000
5000
(2)AE 発生挙動より、フライアッシュは材齢初期の AE
4000
ヒットを抑制する可能性があると推測できた。
3000
FA供試体
供試体A
2000
(3)28 日目までの長さ変化率に対して対数近似による
1000
評価を行うことにより、長さ変化率の予測ができる
0
7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28
材齢(日)
可能性が示された。
図-4 各供試体の累積 AE ヒット数
参考文献
4.3
長さ変化の対数近似による評価
1) 土木学会コンクリート委員会:垂井高架橋の損傷に
今回長さ変化試験に対し、材齢 28 日目までのデータ
関する調査特別委員会最終報告書、土木学会、
で最適対数近似を適用し、近似式(1)により、乾燥収縮
2008.3
の評価および予測を行った。
y = a・ln (x)+b
2) 日本建築学会:鉄筋コンクリート造建築物の収縮ひ
び割れ制御設計・施工指針(案)
・同解説、2006.2
(1)
ここで、a、b は定数である。
60
オルガノポリシロキサンの分析 —ポリマーの分析手法について—
鬼束 優香 1)、吉村 眞紀子 1)、西 麻耶子 1)、大石 智博 1)、泉水 仁 2)
1)工学部 技術部 機器分析・化学 WG、 2)生命資源研究・支援センター
1.はじめに
高分子(ポリマー:Polymer)は我々の生活のあらゆる
場面で用いられている材料である。材料開発分野にお
いてもポリマーを用いた研究は盛んであり、ポリマー
の分析は、研究を進めるにあたって重要な役割を担っ
ている。今回、未知のシランカップリング剤及びオル
ガノポリシロキサンを分析する機会を得た。これらの
分析手法と分析結果について報告する。
最も代表的なオルガノポリシロキサンは図 3 のジメ
チルシリコン(ジメチコン)であり、ヘアケア製品や化
粧品、医薬品など幅広く用いられているが、このジメ
チルシリコンの末端や側鎖に有機基や反応性基を持た
せた変性シリコンオイルが各メーカーで多数製造され、
様々な分野に用いられている。使用する際には、皮膜
強度の向上や皮膜生成時間の短縮などを目的として、
触媒や耐光向上剤などの様々な添加剤が併用される。
今回の分析サンプルは 5 種(D、E、F、G、H)あり、
液状のポリシロキサンの組成及び構造、分子量、添加
剤の有無の分析を依頼されたので、pH、IR スペクト
ル測定、NMR (1H、13C、DEPT)スペクトル測定、元
素分析(C,H,N)、質量分析を行った。
2.分析対象物質について
2−1 シランカップリング剤
シランカップリング剤は、一般的に図 1 のような化
学構造で表される。
Y:アルキル鎖又は官能基を持つア
OR1
Y
ルキル鎖 (アミノ基,エポキシ基,ビ
OR2
Si
3.分析手法及び分析結果
3−1 シランカップリング剤
3−1−1 IR スペクトル測定
赤外吸収分光測定(infrared spectroscopy : IR)は分
子に赤外線を当て、透過または吸収した光を測定する
非破壊の測定方法である。吸収する光の波長は化学構
造によって異なるため、化学構造や状態に関して情報
を得ることができる。サンプル形状によって測定方法
が異なっており、代表的な測定方法として、以下のよ
うなものがある。
液膜法:KBr プレートに液状試料を挟み、光を透過
させて測定する。ただし、水溶液はプレー
トが溶解するため測定できない。
KBr 法:KBr 粉末に粉体試料を混合した後、プレス
して薄膜を作成し、
光を透過させ測定する。
ATR 法:プリズムと試料を密着させ、その界面にプ
リズム側から光を当てて測定する。液体、
固体、水溶液でも測定可能であり、前処理
も必要ないことから、主流の測定方法であ
るが、揮発性が高いもの、機器本体(ステン
レス)を腐食するものは測定できない。
今回のサンプルは、シランカップリング剤であるこ
とから、腐食の恐れがあるため ATR による測定は避
けた。また粘性がなく、揮発性が非常に高いため通常
の液膜法ができず、測定が困難であった。そこで今回
は IR カードと専用カバー(共に KBr)を用いてサンプ
ニル基など)
R1,R2,R3:メチル基やエチル基など
OR3
図 1 シランカップリング剤
シランカップリング剤は、非常に反応性の高い物質
である。まず加水分解反応を起こし、その後縮合反応
を起こす一連の反応により、目的物表面と共有結合を
作り表面を修飾する。シランカップリング剤は、無機
物表面の改質に用いられる。例えば無機物表面にシラ
ンカップリング剤を反応させると、表面が有機質に覆
われるため有機物との相溶性が向上するので、これら
の性質を利用して様々な用途に用いられている化合物
である。今回は 3 種のシランカップリング剤(サンプル
A、B、C)と予想されるサンプルであったので、赤外
吸収分光測定(IR)、核磁気共鳴(NMR)(1H、13C)を測定
し、構造を確認した。
2−2 オルガノポリシロキサン
オルガノポリシロキサンは主鎖に-Si-O-の繰り返
し単位をを持ち、
側鎖に有機基を持つポリマーである。
シリコン樹脂またはシリコーンとも呼ばれ、オイル状
のものはシリコンオイルと呼ばれている。
R4
*
R4,R5:メチル基や
*
Si O
R5
エチル基などの
有機基
n
図 2 ポリシロキサン骨格
61
ルの IR スペクトルを測定した。各サンプルにおいて
2800-2900cm-1、1400cm-1 付近に-CH2-、-CH3 による
吸収、1100cm-1、800cm-1 付近に Si-O による吸収、サ
ンプル B には 1390cm-1、957cm-1 に Si-O-CH2CH3 に
由来する吸収ピークが見られた。有機化合物のスペク
トルデータベース(SDBS)に公開されているスペクト
ルとの照合を行ったところ、アルキルトリメトキシシ
ラン及びアルキルトリエトキシシランと同様または類
似のスペクトルであった。
a
d
c
b
H3C C6H12
b
H2 OCH2CH3
C Si OCH2CH3
OCH2CH3
b
a
c
d
図 4 サンプル B の 1H-NMR スペクトル
A
B
C
Si
O CH2
H2
C
Si
図3 未知シランカップリング剤のIR スペクトル
3−1−2 NMR スペクトル測定
NMR(nuclear magnetic resonance)スペクトルは、
原子に磁場をかけると見られる核スピンの共鳴の周波
数を測定するもので、分子内の原子の結合の様子を知
ることができる。NMR スペクトル測定では、分子内
の炭素(C)と水素(H)の状態をはかることが多い。分子
内の C(13C)の状態を測定する NMR スペクトルは、ど
のような環境に炭素が存在するのか、といった定性的
なことがわかる。分子内の 1H を測定する NMR スペ
クトルは定量性があり、どのような環境にどのくらい
の数の水素があるのか、ということがわかる。いずれ
も化学構造を決定する上で重要な情報である。なお、
1H が測定時に検出されるため、
サンプルは水素が重水
素に置換されている重溶媒に溶解させて測定する必要
がある。今回は各サンプルを重クロロホルムに溶解し
1H-NMR 及び 13C-NMR スペクトルを測定した。
1H の
数を示す積分比から各構造を確認したが、アルキル鎖
が長くなるにつれて、メトキシ基またはエトキシ基に
対するアルキル鎖長の誤差が大きくなったため、積算
回数を多くした。をサンプル A では Si に結合するメ
チル基、及び Si に結合するメトキシ基を示すピーク、
サンプル B では Si に結合するオクチル基、Si に結合
するエトキシ基のピーク、サンプル C では Si に結合
するヘキサデシル基と Si に結合するメトキシ基のピ
ークが確認できた。
図 5 サンプル B の 13C-NMR スペクトル
3−1−3 測定結果まとめ
IR スペクトル及び NMR スペクトルからサンプル A、
B、C は以下の物質であることがわかった。
A:メチルトリメトキシシラン
B:オクチルトリエトキシシラン
C:ヘキサデシルトリメトキシシラン
3−2 ポリシロキサン
今回の未知なポリシロキサンのサンプルは以下の
ような事前情報があった。
D:ポリシロキサン
E:D+何か添加剤を含有している可能性
F:D+何か添加剤を含有している可能性
G:分子量が D よりも高いポリシロキサン
H:分子量が D よりも高いポリシロキサン
これらの情報を元に分析を進めた。
3−2−1 pH のチェック
ポリシロキサンの pH を pH 試験紙によりチェック
したところ、サンプル D、G、H は pH7 程度、サンプ
ル E は pH3-4、F は pH3 程度であった。
3−2−2 IR スペクトル測定
ポリシロキサンサンプルは ATR 法により測定を行
った。各サンプルにおいて 2800-2900cm-1、1400cm-1
付近に-CH2-、-CH3 による吸収、1100cm-1、800cm-1
62
付近に Si-O による吸収がみられた。サンプル D、E、
F は同じスペクトルが得られた。またいずれのサンプ
ルにおいて明確な差が見られず、各サンプルがポリシ
ロキサンであることを確認したが構造や添加剤の特定
には至らなかった。
CH3 carbons
CH2 carbons
CH carbons
D
All protonated
G
carbons
H
図 9 サンプル D の DEPT スペクトル
3−2−4 元素分析
元素分析とは分子を構成する元素を定性または定量
する方法である。
今回は約 2mg のサンプルを燃焼し、
気化させて発生したガスを定量することで有機物の炭
素、水素、窒素を定量する燃焼法で測定を行った。な
お、今回使用した装置では、その他の元素は測定する
ことはできないが有機化合物の構造特定に重要な情報
となる。各サンプルの元素分析結果を表1に示す。
主成分が同じであるサンプル D、E、F はほぼ同じ
元素分析結果であったが、サンプル F のみに窒素が検
出された。
この窒素は添加剤由来のものと考えられる。
サンプル D に比べてサンプル G、H は、炭素、水素の
含有量が減少している。これはポリシロキサンの分子
量が増えるにつれて、ポリシロキサンの主鎖である
-Si-O-の数が増加するため、相対的に炭素含有量が減
少したものと考えられる。
図 6 未知ポリシロキサン(D、G、H)の IR スペクトル
3−2−3 NMR スペクトル測定
ポリシロキサンサンプルに対して 1H-NMR 及び
13C-NMR スペクトルに加え DEPT 測定を行った。
DEPT(distortionless enhancement by polarisation
transfer) 測定は、炭素シグナルの種類を決定でき、
炭素の種類が CH3、CH2、CH のいずれであるかがわ
かる。サンプル D、E、F、G、H いずれも Si-CH3、
Si-O-R(R:アルキル基)と考えられる化学シフトが見ら
れたが、構造の特定には至らなかった。
表 1 ポリシロキサンの元素分析結果
D
E
F
G
H
C(%)
H(%)
N(%)
50.68
50.56
50.80
39.28
43.82
9.62
9.62
9.66
8.56
8.93
0.00
0.00
0.06
0.00
0.00
3−2−5 質量分析
質量分析(mass spectrometry : MS)とは、分子をイ
オン化してイオンの荷電あたりの質量数の大きさに区
別したマススペクトルを測定する分析である。数 pg
ほどの量でスペクトルが得られる。試料のもつ質量や
部分構造などに関する情報が得られる。今回は試料の
気化とイオン化を同時に起こさせる手法(matrix
assisted laser desorption ionization : MALDI)とイオ
ンを飛行させて飛行時間の差からイオンの質量を算出
する飛行時間型(time of flight : TOF)を組み合わせた
MALDI-TOF MS を用いて測定を行った。通常
MADLI-TOF-MS ではサンプルにイオン化剤(マトリ
図 7 未知ポリシロキサン D の
1
H-NMR スペクトル
図 8 未知ポリシロキサン D の
13
C-NMR スペクトル
63
H:分子量範囲 1000-2000 程度のポリエーテルなどに
よる変性ポリシロキサン
ックス)を混合してプレートにのせ、そこにレーザーを
照射してサンプルのイオン化を行う。マトリックスを
使用するため測定の際はマトリックスも一緒に検出さ
れる。したがってマトリックスの分子量以下(およそ
500 以下)の情報が得られにくい。今回はサンプルの分
子量が不明であり、マトリックスと同程度の分子量で
ある可能性があるので、測定プレートにマトリックス
を使わずにイオン化を促すことができる NALDI プレ
ートを用いて測定した。
サンプル D、E、F のイオンピークはほぼ同じであ
った。
分子量範囲200-700 程度と分子量範囲400—1400
程度の 2 つの分子量分布があるポリシロキサンである
ことがわかった。
サンプル G は、イオンピークがほとんど検出されず
分子量の特定ができなかった。
サンプル H は分子量範囲 1000-2000 程度のポリシ
ロキサンであることがわかった。
4.まとめ
未知のシランカップリング剤は IR 及び NMR によ
り構造の確認が行うことができた。未知のポリマーに
ついては詳細な構造の確認ができなかったものの、ポ
リマーの持つ分子量範囲や特徴について分析すること
ができた。今後、より精度高く分析できるよう分析手
法の探索などを行う。
5.参考文献
1) 堀口博 (1977)『赤外吸収図説総覧』,三共出版
2) M. Hesse, B. Zeeh, H. Meier (2010)『有機化学のた
めのスペクトル解析法 – UV、IR、NMR、MS の解説
と演習』
3) 西岡勝利, 寶﨑達也(2011)『プラスチック分析入
門』,丸善出版
4) 泉美治,小川雅彌,加藤俊二,塩川二朗,芝哲夫
(1996)『機器分析のてびき』,化学同人
5) SDBSWeb:http://sdbs.riodb.aist.go.jp (National
Institute of Advanced Industrial Science and
Technology, 2013.7)
6) 志田保夫, 黒野定, 高橋利枝, 笠間健嗣, 高山光男
(2001)『これならわかるマススペクトロメトリー』, 化
学同人
図 10 未知ポリシロキサン D の質量分析
3−2−5 測定結果まとめ
分析を行った結果、構造の確定はできなかったが、
得られた分析結果、シリコンオイルの一般的使用条件
から各サンプルの構造は以下のように考えられる。
D:分子量範囲 200-700 程度及び分子量範囲 400-1400
程度を持つ、ポリエーテルなどによる変性ポリシロキ
サン
E:分子量範囲 200-700 程度及び分子量範囲 400-1400
程度を持つ、酸性物質を含んだポリエーテルなどによ
る変性ポリシロキサン
F:分子量範囲 200-700 程度及び分子量範囲 400-1400
程度を持ち、酸性物質または触媒(アミン系、有機金属
錯体系など)または光安定剤等を含んだポリエーテル
などによる変性ポリシロキサン
G:分子量範囲不明、ポリエーテルなどによる変性ポ
リシロキサン
64
社会環境工学演習(有限要素法による構造力学問題)
松本英敏
環境建設技術系
はじめに
1
社会環境工学演習で大課題が3題出されたが,その一つとして
有限要素法による構造力学の演習(4年次)があったのでトライ
した。皆さんの技術研究の参考になれば幸いである。
弾性体解析の仮定
2
・物体は均質,等方な連続体である。
・物体はフックの法則に従う弾性体である。
図1
・変位は微小であり,2次以上の微小項は無視する。
円孔平板概略図
・変形は微小であるので,応力のつり合いは変形前の形状についてのみ考える。
以上の仮定のもとに支配方程式を考える。
2.1
2.2
ひずみ-変位式
x 
u
x
 xy 
v u

x y
y 
v
y
,
 yz 
,
z 
w
z
w v

y z
,
(1)
 zx 
u w

z x
フックの法則
x 

E (1   ) 

( y   z )
 x 
(1   )(1  2 ) 
1 

y 

E (1   ) 

( z   x )
 y 
(1   )(1  2 ) 
1 

z 

E (1   ) 

( x   y )
 z 
(1   )(1  2 ) 
1 

 xy  G xy
2.3
,
、
 yz  G yz
、
(2)
 zx  G zx
仮想仕事の原理(弾性体)
つり合い状態にある弾性体の各点に任意の微小な仮想変位を与えた時,この仮想変位によって,外力およ
び内力のなす仕事の和はゼロである。
{ * }T {P}  V ({ * }T { }  { * }T {F }) dV
(3)
65
有限要素法
3
偏微分方程式を解く代表的な方法として3つの解法がある。有限差分法,有限要素法,境界要素法などが
それにあたる。ここでは,解析領域を微小要素に分割し,その要素毎に未知数を含む基底関数で支配方程式
を近似し,全体領域を重ね合わせ,導かれた連立方程式を解く有限要素法を用いた。
3.1
Bマトリックス
3
形状関数 u
3
  N i ui
,v
i 1
  N i vi を用いて,式(1)に代入するとひずみ-変位式は
i 1
 N 1

  x   x
  
 y    0
 xy  
 
N
 1
 y
0
N 1
y
N 1
x
N 2
x
0
N 2
y
0
N 2
y
N 2
x
N 3
x
0
N 3
y
N 3
x
0
N 3
y
 u1 
v 
 1 
0  u 2 
 
N 4   v 2 
y  u 3 
N 4   v 
 3 
x  u 
 4
 v 4 
N 4
x
0
N 4
y
(4)
一般的には,    [B ]  として書くことができる。
3.2
Dマトリックス
式(2)のフックの法則を用いて,平面ひずみ問題として取り扱うと  z  0 となり,matrix 化すれば

 x 

1  
E
 
1 
 y   (1   )(1  2 )  
 xy 
0
 0
 

   [D]   と書き表される。
3.3

0 
0 
1  2 

2 
 x 
 
 y 
 xy 
 
(5)
剛性マトリックス
仮想仕事の原理式(3)に式(4),(5)と, [ F ]  0 として代入すると
   [ B]     
T
[ * ]T P   * 
T
   [ B]T ,    [ D]    [ D][ B ] 
 [ B]
V
T
T
[ D][ B]  dV , P  V [ B]T [ D] [ B] dV  
剛性マトリックスは P  [K ]  
の関係より
[ K ]  V [ B]T [ D] [ B] dV
と表わされ,数値積分は
dV  det | J | ddd
および
wl wm wn f ( , ,  )
v f ( ,,  )ddd  
l m n
より
[ K ]   [ B ]T [ D ][ B ]dV   [ B ]T [ D ][ B ] | J | ddd   wl wm wn [ B ]T [ D ][ B ] | J |lmn
v
v
l
m
n
ただし、 | J |lmn は jacobian の行列式, wi はアイソパラメトリック要素の重みである。
66
フローチャート
4
・ヤング率,ポアソン比,節点座標,要素の構成,境界条件,外力等のデータを入力
・B,Dマトリックスより,剛性マトリックスの計算
・境界条件を導入し,連立方程式を解く
・解析変位からひずみ,応力の算定
・解析結果の出力
解析結果
5
28 節点,36 要素について,載荷は上部 6 点(図 1 参照)
に 1kgf/mm2,境界条件は左端 x 方向 3 点,下端 y 方向 5 点
を固定とした。ヤング率,ポワソン比,厚さは 21,000kgf/mm2,
図 2 解析結果(変位量を 5000 倍に拡大)
0.3,1mm で統一した。図 2 の赤線は解析変位である。
5.1
変位解析
表 1 変位解析結果
表 1 が変位の解析結果である。座標は左下が原点であり,
節点
節点番号も左下から順次右上へと並んでいる。結果を見る
dx
dy
1
-0.295150e-03
0.000000e+00
2
-0.344713e-03
0.000000e+00
3
-0.371864e-03
0.000000e+00
4
-0.390272e-03
0.000000e+00
5
-0.418971e-03
0.000000e+00
6
-0.272644e-03
0.332410e-03
7
-0.299087e-03
0.198443e-03
8
-0.325117e-03
0.142755e-03
9
-0.346604e-03
0.107997e-03
10
-0.364895e-03
0.644924e-04
として,円孔付近では載荷の 3 倍(表 2 の 3p)の応力が
11
0.000000e+00
0.748056e-03
発生する。表 3 の解析結果より,メッシュの切り方にもよ
12
-0.119696e-03
0.618939e-03
るが,等分布荷重 1kgf/mm2 に対して要素 1 で約 3.5 倍,
13
-0.148377e-03
0.434053e-03
14
-0.209659e-03
0.301525e-03
15
-0.257182e-03
0.217553e-03
16
-0.293137e-03
0.142574e-03
17
0.000000e+00
0.781136e-03
18
-0.159543e-04
0.730941e-03
19
-0.539391e-04
0.588839e-03
20
-0.962976e-04
0.459863e-03
21
-0.134213e-03
0.356330e-03
22
-0.165421e-03
0.264131e-03
23
0.000000e+00
0.919681e-03
24
0.434019e-04
0.865707e-03
25
0.559493e-04
0.753976e-03
26
0.436559e-04
0.635599e-03
27
0.193662e-04
0.529752e-03
28
-0.912180e-05
0.435764e-03
と境界条件が満足されており,下端 y 方向は全てゼロにな
っている。同様に,x 方向の境界条件も満足していること
が判る。
5.2
応力解析
今回の課題は,図 3 に示すように応力集中問題の理論解
要素 2 で 2 倍強の結果となっている。
表 2 円孔周りの理論解
図 3 円孔回りの応力集中
67
r/a
1
2
3

3p
1.22 p
1.07 p

p
式(6)がその理論解である。今回の場合,y 方向への引張りのため表 3 ではσy に対応する。
p  a 2  p  3a 4
   1  2   1  4
2 r  2
r

 cos 2


(6)
表 3 応力,ひずみ解析結果
要素
6
σx
σy
1
0.689050e-02
0.349237e+01
-0.918733e-02
2
0.280106e+00
0.216768e+01
-0.537099e+00
3
0.269222e+00
0.216442e+01
4
0.936782e-01
0.152703e+01
5
0.210944e+00
6
0.432794e-01
7
8
9
τxy
εx
εy
γxy
-0.495629e-05
0.166205e-04
-0.113748e-06
-0.176285e-05
0.992215e-05
-0.664979e-05
0.184261e+00
-0.181002e-05
0.992215e-05
0.228133e-05
-0.111079e+00
-0.173538e-05
0.713773e-05
-0.137526e-05
0.156221e+01
0.188783e+00
-0.122723e-05
0.713773e-05
0.233731e-05
0.114695e+01
-0.108031e-01
-0.143241e-05
0.539984e-05
-0.133753e-06
0.426924e-01
0.114677e+01
0.176354e+00
-0.143495e-05
0.539984e-05
0.218343e-05
0.121856e-01
0.680826e+00
0.426924e-01
-0.914581e-06
0.322462e-05
0.528573e-06
-0.189396e+00
0.159926e+01
-0.339699e+00
-0.318655e-05
0.788611e-05
-0.420579e-05
10
0.996070e-01
0.156602e+01
-0.183915e+00
-0.176285e-05
0.731494e-05
-0.227704e-05
11
-0.120911e+00
0.174186e+01
-0.503179e-01
-0.306414e-05
0.846729e-05
-0.622983e-06
12
0.848611e-01
0.149764e+01
0.131370e+00
-0.173538e-05
0.701037e-05
0.162649e-05
13
-0.714233e-01
0.142523e+01
0.791761e-01
-0.237616e-05
0.688886e-05
0.980275e-06
14
0.486766e-01
0.116494e+01
0.173967e+00
-0.143241e-05
0.547780e-05
0.215387e-05
15
-0.356260e-01
0.113965e+01
0.583226e-01
-0.179772e-05
0.547780e-05
0.722089e-06
16
0.592239e-01
0.837620e+00
0.114102e+00
-0.914581e-06
0.390406e-05
0.141269e-05
17
-0.924839e-01
0.250122e+00
-0.202712e+00
-0.797717e-06
0.132318e-05
-0.250976e-05
18
-0.923134e+00
0.507075e+00
-0.166748e+00
-0.512027e-05
0.373340e-05
-0.206450e-05
19
-0.271970e+00
0.702424e+00
-0.542735e+00
-0.229856e-05
0.373340e-05
-0.671958e-05
20
-0.964853e-02
0.129731e+01
-0.268767e+00
-0.189924e-05
0.619143e-05
-0.332759e-05
21
-0.278471e+00
0.121666e+01
-0.230106e+00
-0.306414e-05
0.619143e-05
-0.284893e-05
22
-0.502750e-01
0.131496e+01
-0.154618e+00
-0.211792e-05
0.633354e-05
-0.191432e-05
23
-0.109869e+00
0.129708e+01
0.271287e-01
-0.237616e-05
0.633354e-05
0.335879e-06
24
-0.531866e-01
0.114977e+01
-0.208324e-01
-0.189579e-05
0.555106e-05
-0.257925e-06
25
-0.305540e-01
0.115656e+01
0.944836e-01
-0.179772e-05
0.555106e-05
0.116980e-05
26
-0.234607e-01
0.101405e+01
0.402834e-01
-0.156036e-05
0.486231e-05
0.498747e-06
27
0.899564e-01
0.858257e+00
-0.202712e+00
-0.797717e-06
0.395843e-05
-0.250976e-05
28
0.767361e+00
0.103881e+01
-0.809961e-01
0.217009e-05
0.385046e-05
-0.100281e-05
29
-0.171716e+00
0.757082e+00
-0.436896e+00
-0.189924e-05
0.385046e-05
-0.540919e-05
30
0.471423e+00
0.113225e+01
-0.197631e+00
0.627371e-06
0.471821e-05
-0.244687e-05
31
-0.162106e+00
0.942192e+00
-0.267275e+00
-0.211792e-05
0.471821e-05
-0.330912e-05
32
0.205762e+00
0.111614e+01
-0.155093e+00
-0.614668e-06
0.502101e-05
-0.192020e-05
33
-0.898825e-01
0.102745e+01
-0.951474e-01
-0.189579e-05
0.502101e-05
-0.117802e-05
34
0.627674e-01
0.105937e+01
-0.730422e-01
-0.121449e-05
0.495494e-05
-0.904331e-06
35
-0.170482e-01
0.103542e+01
-0.179240e-01
-0.156036e-05
0.495494e-05
-0.221917e-06
36
0.107867e-01
0.103303e+01
-0.188768e-01
-0.142440e-05
0.490380e-05
-0.233713e-06
おわりに
演習を振り返って,3 年生までの座学とプログラムの知識では到底できない課題と思える。たぶん大課題
を 1 題解くだけでも相当の時間と労力を要するので,3 題説明すべきか,1 題に絞って深く説明すべきかは,
今後の課題と言えよう。今回は二次元三角形要素の有限要素解析であったが,このプログラムは二次元四角
形要素や三次元立方体要素へと,今後発展していく過程にある。
【参考文献】
・戸川隼人 著:有限要素法へのガイド,サイエンス社
・三好俊郎,白鳥正樹 共著:演習有限要素法,サイエンス社
68
簡易環境計測装置の開発
仲間祐貴 A),大嶋康敬 B)
1
A)
環境建設技術系
B)
生産構造技術系
はじめに
近年、建物の維持管理において、ICT(情報通信技術)を積極的に導入することが、注目されており、日常
や非日常時までシームレスに適応可能な建築の各種情報をモニタリングできるシステムについての調査・研
究が行われている。そこで、本稿では、室内環境計測と、防犯を目的とした簡易環境計測装置を開発し、そ
のデータを Web ブラウザから閲覧できるモニタリングシステムの開発を行った。
2
Arduino を用いた簡易環境計測装置の開発
2-1 Arduino とは
Arduino(アルデュイーノ)は、一言でいうと「初心者でも簡単に扱えるマイコンボード」のこと。
正確には、AVR マイコン(ATMEL 社がリリースしているマイクロコントローラ)と I/O ポートを備えた基盤
と C 言語風の Arduino 言語による統合開発環境から構成された1つのシステムを指す(図 1)。
図1 図中左が Arduino の基盤、図中右が Arduino 言語の統合開発環境画面
2-2 温度・湿度・照度センサー
Arduino で利用されている AVR マイコンのみを利用して作
AVR マイコン
成した計測装置である。センサーとしては、温度・湿度セン
サー(SHT-11)を1つ、照度センサー(S9648-100)を1つ搭載し
ている。また、電源として単三電池3本を使用している。装
置の動作としては、1分毎の計測が行われており、計測によ
照度センサー
って得られた値は、ZigBee による通信によって送信される。
温度・湿度センサー
図2
69
温度・湿度・照度センサー
2-3 カメラセンサー
JPEG カメラ
カメラセンサーは、JPEG カメラ(SFE-SEN-11610)と人感センサー
として焦電型赤外線センサー(SE-10)を利用した計測装置である。
装置の動作としては、人感センサーに反応した時に写真を撮り、
そのデータを ZigBee による通信によって送信される仕組みとな
っている。
図3
カメラセンサー
Xbee
図3
カメラセンサー
2-4 簡易環境計測 Web システム
2-2,2-3 で述べた計測装置を利用して、装置から得られた現状の情報を Web ブラウザ上で閲覧できる
システムを開発した(図4)。
簡易環境計測 Web システム
社内ネットワーク
リアルタイムで
が属性情報更新!!
ZigBee
子機
Ethernet
インターネット
中継基地
親機
ZigBee
ZigBee
↑温度グラフ
子機
子機
イメージ図
無線のため
設置場所は
自由
↑カメラ画像
図4 簡易環境計測 Web システムの概要
簡易計測装置のデータは親機からイン
XBee
ターネットを介して、Web システムサーバ
に送信される。
Ethernet
親機は、Arduino の電源・装置制御、
Ethernet 通信、ZigBee 通信の3つの機能
Arduino
から構成されており、Arduino と Ethernet
↑赤の矢印方向から見た親機
シールド、XBee シールドの3つの基盤か
ら構成されている。
3
図5
計測データを集約し、Web システムに送信する親機
まとめ
本稿では、簡易環境計測装置と閲覧する Web システムの開発について紹介した。カメラセンサーに関して
は、写真を撮ってデータが Web サーバに送られるまでに 40 秒間かかり、その間は写真が撮れないことが課
題である。今後の展望として、カメラのデータ処理の向上と実現場での試験運用などが挙げられる。
70
Web データベースによるデジタル写真共有システムの構築
山口 倫 A)
A)
1
熊本大学工学部 技術部
背景
今日、デジタルカメラの普及により写真を電子データとして保存することが多くなってきた。本学でも行
事ごとに撮影する機会があり、数多くの写真データが存在する。だがその多くは撮影者が異なるため、各自
の PC の中で保存・管理されている。そのため、「広報用に写真を使いたいが、誰がよい写真を持っているの
かわからないので使える写真が見つからない。管理できるサービスがほしい。」というニーズがあった。
近年ではクラウドコンピューティングや SaaS(サース、Software as a Service)などのサービスにてインターネ
ット上で写真を管理する WEB サービスがありとても便利になっているが、インターネット上に学内の写真
データを置くということに抵抗がある。それは共有設定・公開範囲の設定を間違えるとデータ流出の恐れが
あり極めて危険な行為であるからだ。ただの風景写真などなら問題ないであろうが、学生の顔が写っている
場合、肖像権の問題などが関わってくるからである。また WEB サービス用のアカウントを利用者個人で登
録・管理しなければならない問題も考えられる。登録する際に個人情報を入力しなければならない場合も多
いであろう。
そこで学内で撮影された写真は学内で管理するのが適切であるという考えから、WEB データベースによる
デジタル写真共有システムを構築し、学内の LAN 内に置くことで安全性を確保し、ユーザが利用しやすい環
境を整えることを目的として、システム構築を行ったのでここで報告する。
2
システムの概要
デジタルカメラでは機種ごとに自動でファイル名がつくのでそこから撮影した内容を把握するのは困難で
ある。そこで撮影者が写真をシステムにアップロードする際、データベース上に撮影年度・日時・行事名・
撮影した部局・写真の内容(人物なのか風景なのか)などの必要な情報をタグとして登録しておく。その用
語を検索用キーワードとすることで検索の容易化を計った。
システムの主な機能として、写真をアップロード・閲覧・ダウンロード・削除できること、タグ情報の入
力・修正・削除できることが挙げられる。
3
システム環境
システム構築は WEB ベースで行い、apache、PHP を用いた。また、データベースには MySQL、統合開発
環境として NetBeans を用いた。今回のシステムは以下のような環境(バージョン)で構築した。一覧を表1に
示す。
表1:システム環境
OS
WEB
DB
IDE
Ubuntu 12.04 LTS 64bit 版
Apache 2.2.22+ PHP 5.3.10
MySQL 5.5.28
NetBeans 7.2.1
71
4
システムの流れ
写真検索の流れを例に、図 1 に示す。
利用者はまずログインをしなければシステムを利用できないため、login.php にてユーザ認証を済ませる。
次に検索ページ(search.php)の入力フォームに検索ワードを入力すると DB(photo_data テーブル)から検索に引
っかかった写真の ID の値が応答される。その ID を基に view.php が裏で動き、DB から写真をブラウザに出
力するといった流れである。
なお、今回のシステムでは写真データを DB にバイナリで登録している。DB にバイナリで登録するメリッ
トとして、ディレクトリに直接置くよりも安全性が高いことと、バックアップをする際 DB のダンプを取る
だけで済むことが挙げられる。
図1:システムの流れ
5
セキュリティについて
セキュリティ対策として、ファイアウォールで IP 制限をかけている。学内の IP からしかシステムにアク
セスできないようにしている。また、ユーザ登録している人しか登録・閲覧などできないようユーザ認証を
入れている。ウェブアプリケーション側としては、既知である SQL インジェクションなどへの対応も行い、
安全面を考慮している。
6
おわりに
PHP、MySOL を使ったシステムの構築が初めてであり、現在のシステムは簡単な機能しかなく、ユーザが
使いやすいシステムとはまだまだ言えない。さらなる機能拡張、使いやすい GUI への変更が必要である。今
後の課題として、日時を Exif データから抜出し自動で登録できる機能、複数枚同時アップロードで同じタグ
情報を登録できる機能、などの追加が挙げられる。
なお、本研究は平成 24 年度科学研究補助金(奨励研究課題番号 24919016)の助成を受け実施した。
参考資料
[1] Web アプリケーション構築入門 第2版
[2] PHP 逆引きレシピ
(平成 24 年度愛媛大学総合技術研究会発表)
72
LEGO マインドストーム NXT による「ものづくり入門実習」
(第 2 報)
山口 倫 A), 久我 守弘 B)
A)熊本大学工学部技術部
B)熊本大学工学部情報電気電子工学科
1. はじめに
情報電気電子工学科に入学した 1 年次生に対し,入学時の早い段階から「ものづくり」を通
じて,工学の楽しさを体験させるとともに学習に対する動機付けを行うことを狙い,「ものづく
り入門実習」科目の教材開発を行った.学科の学習・教育目標である情報・電気・電子工学の知
識や技術の修得および基礎的なプログラミング手法の修得の足掛かりとなる実習を実施するこ
とで,学生の学習に対する意欲向上を図る.学科の学生実験検討委員会で検討を行った結果,LEGO
マインドストーム NXT を用いたプログラム制御によるロボットの設計・製作を実習課題に採択し
た.マインドストームは教育用として開発されたプログラム制御によるロボット開発実習教材で
ある 1).マインドストームを利用した実習は初等中等教育向けのみならず高専・大学のカリキュ
ラムにおいても実施されている.また,国内外でロボットコンテスト 2)等も活発に開催されてい
る.マインドストームを用いることで,限られた時間内でもブロックの組合せにより,ロボット
を作成することが可能である.また,GUI プログラミングによりソフトウェア開発を行うことか
ら,C 言語などのプログラミング言語を知らない学生であってもロボット制御のためのプログラ
ムを開発することができる.このように,マインドストームを用いることにより,ロボット制御
実習を容易に設計することが可能である.
平成 24 年度は「ライントレースマシン」の設計・開発を課題として実習を行った.実習
の狙い通り,ものづくりの基本的な考え方と工学の楽しさを経験させることができ,学習
に対する意欲向上が見受けられた.また,開発プロセスの体験,グループワークの大切さ
など学ばせることができた.しかしながら「ライントレースマシン」はセンサのデータ処
理やマシンの構築が比較的容易な課題であるため,多少複雑なデータ処理やマシン設計を
行うことができる課題について今後準備を行うことが必要である.そこで平成 25 年度から
の実施に向けて,採用可能な新課題の検討を行った.本稿では平成 24 年度後期に行った新
課題による試行実習および試行を経て実施した平成 25 年度前期の実習について報告する.
2. 学習目標
「ものづくり入門実習」においては単に与えられた課題をこなすだけではなく,「ものづくり」
に関する以下の項目について理解を深めることを目標としている.
(ア) 企画,構想,設計,試作,評価,生産,販売の各ステップを経ることでものづくりが進む
ことを理解させる.このうち実習では,構想,設計,試作,評価のステップを体験する.
(イ) 製品の目標を必要な機能に具体化し,その機能をどのように実現するかを考える「品質機
能展開」が重要であることを理解させる.
73
(ウ) 製品をさらにより良いものとするために,PDCAサイクルの実施が重要であることを理解さ
せる.
(エ) プレゼンテーションを実施することで,その実施方法や重要性を理解させる.
(オ) 課題を達成するためにはグループワークが重要であることを理解させる.
3.実習計画
3.1 試行実習の実施
マインドストームを用いた世界的なコンテストとしてWROサッカー競技がある 2).赤外線セン
サを用いてボールの距離および向きを検出すると共に,地磁気センサを用いて方角を検出するこ
とで相手ゴールの方向を知ることができるため,サッカー競技を行うことが可能である.センサ
のデータ処理やマシンの構築に関しライントレースよりも多少複雑であると共に,サッカーの試
合で勝つという目的が明確なため,競技を楽しみながらも実習の学習目標を達成できると判断し
た.
「ものづくり入門実習」の2コマ15週に当たる半期の時間内でサッカー競技を行うことが可能か
について確認するために,平成24年度後期「情報電気電子工学実験第二」の一選択テーマとして
試行実習を行った.本試行には本学科3年生4名が取り組んだ.単に学生の立場で実習を試行する
だけでなく,実習の際に考慮すべき課題についても検討した.次節以降,試行実習の結果および
担当教員との意見交換を通して決定し実施した実習について紹介する.
3.2 実習スケジュール
1週2コマ(180分)13週で実施した実習のスケジュールを図1に示す.LEGOブロックによるマシ
ン作成およびGUIプログラミングに慣れてもらうため雛形となるマシンを組み立てる週を設けた
後,サッカーを行うために不可欠な基本機能の実現に取組む.基本機能は以下の5項目とした.
(A)→(E)になるほど難易度が高い.
(A) ボールを追いかけることができる(赤外線センサと車輪モータとの連携)
(B) ゴールの方向にマシンを向けることができる(地磁気センサと車輪モータとの連携)
(C) ボールをドリブルできる(ドリブル機構の実現)
(D) ゴールの方向に走ることが
できる(地磁気センサ,光セ
ンサと車輪モータとの連携)
(E) ボールを持ってゴールに辿
りつける((C) および (D)
との連携 )
その後,基本機能の実現状況についてプ
レゼンテーションを行う.基本機能を実
現した後に,サッカー競技に勝つことを
図1:実習スケジュール
74
目標とした「応用機能開発」を経て試合,最終プレゼンテーションに臨むスケジュールとした.
これにより,2章に掲げた学習目標が達成できるよう考慮している.
実習の際の班構成は,1班3~4名の20班(計79人)であり,各班毎週リーダと書記を決め作業日
誌および品質機能展開を提出させた.基本機能開発における課題を実現するために必要な機能を
具体的に分解しどのように実現するかを検討する手法として品質機能展開を取り入れた.図2に
実際に学生が提出した品質機能展開図を示す.
図 2:品質機能展開図
3.3 競技場および競技ルール検討
サッカーの競技場はWROサッカー競技で使用するTuzzles社製の練習用マット(サイズは122×
183cm)および,B0サイズに印刷をしたコートを使用した.図3,図4に示すようにエリアによって
白,薄緑~濃緑および黒となっており光センサにより位置の把握が可能である.ゴールは,幅45cm,
高さ15cmである.使用するボールは赤外線を発する直径7.5cmのものである.
図 3:競技場および試合の様子(試行実習)
図 4:競技場および試合の様子(H25 年前期)
競技ルールは基本的に文献3)を踏襲するが,表1に示す変更を行っている.車体の大きさに
ついては形状に自由度を持たせると共に,設計・開発を容易にするためである.また,「押され
たゴール」とはボールが車体から離れることなくゴールにボールを押込んだことを意味するが,
75
これはゴールと認めることとした.これらの変更はいずれも限られた実習期間内で車体および制
御プログラムの開発を容易に行えるようにするために,制限を緩和する方針としたためである.
表 1:競技ルールの主要変更項目
3.4 試合
2つの班によりオフェンスとディフェンスを組みとしたチームを構成し,10チームで試合を行
った.まず5チームずつでのリーグ戦(前半・後半各3分,勝ち点形式)を行い,各リーグ1位同士で
決勝戦(前半・後半各5分)を行った.試合結果を図5に示す.
図 5:試合結果
3.5 評価
評価については,サッカー試合における順位だけではなく,実習の各週において記録している
作業日誌およびプレゼンテーションのまとめ方,開発したマシンに採用した工夫点等を総合して
判断する.
4. まとめ
学生の実習状況およびアンケート結果から, 「2.実習目標」で掲げた目標および JABEE
が掲げるデザイン教育を概ね達成できた. 以下,学生の感想を原文のまま紹介する.
・ PDCA サイクルを繰り返すことが大切であると思った.
・ 品質機能展開をしっかり書いていくことにより,マシン機能の見落としを防ぐことが
できる.
76
・ 品質機能展開図を書く事によって,完成させたい機能を実現するためには,具体的に
どのような作業から着手すれば良いかが分かった.
・ 他メンバーとの認識の共有によって,自分が行き詰っていたことへ別視点の意見を得
ることができた.
・ 自分たちのサッカーマシンやほかのチームのマシンを見比べて、同じ部品、同じ時間
がかかっているのに、できあがったものが全然違うのはすごくおもしろく、新鮮な発
見だった。
以上,入学早々の 1 年生を対象とした「ものづくり入門実習」の新課題としてロボットサッカ
ーを取り上げ,その実習について報告した.なお実習の試行にあたり,果敢に挑戦してくださっ
た 4 名の本学科 3 年生ならびに実習の実施方法等について助言を頂いた本学科「ものづくり入門
実習」担当教員各位に感謝します.
参考文献
1) The LEGO Group,“レゴマインドストーム公式サイト,”
http://www.legoeducation.jp/mindstorms/.
2) WRO Japan 事務局,
“WRO2012 公式サイト,
”
http://www.wroj.org/2012/.
3) WRO Japan 事務局,
“WRO Japan 2012 サッカー競技ルール,”
http://www.wroj.org/2012/2012info/wroj/ images/doc/WROJ2012SoccerRule.pdf,
2012/07/13.
77
WEB 申込みシステムの開発
-中学生を対象とした夏休みの自由研究に関する技術相談会 2013-
山口 倫,仲間 祐貴
熊本大学工学部技術部
1
背景
工学部技術部では毎年 7 月末の日曜日に、
「中学生を対象とした夏休みの自由研究に関する技術相談会」
(以下:技術相談会)と題したイベントを開催している。このイベントはその名前の通り、中学生の夏休
みの宿題である自由研究に対して技術職員が相談に乗り実験などをサポートするというものである。
これまで技術相談会への参加申込み方法として、参加申込書を郵送・FAX で送る、または e-mail から申
込む方法があったが、WEB を使った申込みシステムは存在していなかった。そこで、今年度の技術相談会
に向けて、WEB から申込みができるシステムを提案・開発したのでここで報告する。
2
これまでの問題点
これまでにあった申込みにおける問題点がいくつかある。
・
FAX で送られたものの中には文字が薄く、字がつぶれてしまったものがあり連絡先が分からなくな
るケースがあった。
・
送られてくるデータが紙ベースのため、受付担当者が手入力による電子データ化する必要があり手
間がかかる。
・
FAX が設置されている所からしか申込みができないため、申請者の手間がかかってしまう。
そこで、WEB システム化することで受付担当者の申込内容・個人情報管理の手間が省け、また、申請者が
場所や時間に制限されず手軽に申込みでき、サービス向上が図れることから PC やモバイル端末から利用で
きる WEB 申込みシステムの開発を行った。
3
システム概要
システムには Apache + PHP を採用した。入力の流れとしてウィザード形式(必要な情報を入力し「次へ」
ボタンを押し、順次入力を進めていく対話的方式)を採用した。さらに、入力された値をチェックする機
能を入れており、入力間違いや悪意ある攻撃の対策も行っている。参加内容・個人情報を入力後、最終確
認のページを表示し間違いがなければ、送信ボタンを押してもらう。ボタンを押した際に、
1、 申込者のメールアドレスへ入力情報をメール送信(申込者の忘備録)。
2、 ワーキンググループのメンバーへ入力情報をメール送信(担当者間の情報共有)。
3、 電子データ化し、ファイルに登録(情報管理)
。
が同時に行われ、作業効率が上がるようにした。図1にシステムの流れを示す。
78
個人情報入力
参加内容入力
夏休み自由研究相談会 HP
申請者は、Web の案
内に従い、申込情
報を入力する。
申請者
申請者の名前・住所・電話
番号、E-mail アドレスな
どが入力される。これらの
情報は、招待状送付や自由
研究相談のテーマ担当者
との事前連絡に用いられ
る。
プルダウンメニューを利
用して、自由研究テーマを
簡単に選択することがで
きる。
登録完了のメールによるお知らせ
申請者へ申込受理の確認メー
ルを送信し、正しく申込が完了
したことをお知らせする。
業務を改善する2つの機能
受付内容のメールによるお知らせ
担当ワーキンググループ
受付受理の内容メールを
担当者に送信することで、
担当者間のリアルタイム
な情報共有ができる。
図1
4
帳票データの自動生成
受付内容を Excel 形式の帳
票データとして自動作成す
ることで、担当者の入力作
業軽減を実現している。
申込システムの概要図
まとめ
今回、
「中学生を対象とした夏休みの自由研究に関する技術相談会」に向け、WEB 申込みシステムの構築
を行った。本年度は1年目ということで試行として位置づけ、郵送・FAX などの手段も残しつつシステム
を稼働させた。申込み 105 名中 27 名(25.7%)の方が本 WEB システムより申込みされた。システム導入の効
果としては、FAX で把握の難しさが多々あった申請者の連絡先が正確に把握できた。また、電子データが
自動生成されたことで FAX データの入力作業量が減り、受付担当者の負担軽減が実現できた。
今後は、FAX での申込を廃止しシステムのみの申込にすることで FAX から電子データへの入力作業を無
くし担当者の負担を軽減することと、同時に、FAX 専用の申込パンフレットを廃止することで、広告印刷
にかかるコストを自由研究相談の資料作成・製作費用に回すことが可能となり、より充実した自由研究相
談コンテンツを中学生に提供することが挙げられる。
79
「 初心者を対象としたiOSアプリ開発体験セミナー」の実施報告
○稲尾 大介,山口 倫,仲間 祐貴
熊本大学工学部技術部
1.背景
熊本大学工学部では,情報システムWGで「Android アプリケーション開発・実装体験」を毎年開催して
おり,毎回一定数の参加者を獲得している.講習会終了後にはアンケートを実施しており,その中で,今後
の取り上げてほしいテーマに,[iOS向けのアプリ講習会」を実施してほしいとの要望が多数あった.そこ
で,日頃からスキルアップのためにiOSプログラミング勉強会をおこなっていたメンバーで,「初心者を対
象にしたiOSアプリ開発体験セミナー」を行う運びとなった.
2.「 初心者を対象としたiOSアプリ開発体験セミナー」
2.1 開催の目的
セミナーは,主にプログラミング初心者やアプリ開発を行ったことがない学生を対象にしており,デジタ
ルなものづくりの楽しさを知る場,アプリ開発に興味のある学生同士がつながる場を提供することを目的と
した.
2.2 講習会概要
アプリケーション開発環境にはApple社が提供しているXcode(=ソフトウェアを開発するためのアップ
ルの統合開発環境) (*図1,図2)を用いた.このソフトは無料でありエディターやコンパイラー,バージョン
管理ツールなどが含まれており,これだけでiOSアプリの画面デザイン,プログラミング,Mac上で動く
iPhone/iPadシミュレーターを使ってデバックが行うことが出来る.
講習会で行った内容は,前半にデベロッパ登録,Xcodeのダウンロードなどの開発環境の構築,iOSのプ
ログラミング言語である「Objective-C」を理解する上で欠かせないオブジェクト指向についての説明,次に
Xcodeの使い方と「HellowWorld」などの簡単なアプリ作成までおこなった.後半からは作成するアプリの
実機でのデモを行った後,ビュー,イメージ,ユーザーイベントなどを利用した本格的なアプリの開発を行
った.
図1.Xcodeの外観1
図2.Xcodeの外観2
80
2.3 講師・受講者
講 師:技術職員3名
受講者:合計10名
情報系学科所属 4名(学部)
専門域外学科所属 6名(学部)
合計 10名(学部) セミナー開催にあたって,工学部の学部生を対象に参加者を募った.先着10名での開催予定で案内から2日
で定員に達し,このセミナーに対する関心度の高さがうかがえた.
2.4 受講環境
今回のセミナーでは基本的には参加者にMacを持参してもらう形をとったが,貸し出し用としてMacを5
台準備した.MacのOSは持参用も含めMacOSX Lion以降のバージョンとした.事前の準備としてMac所持者
には最新版のXcodeのインストールを行ってもらい,セミナーで使用する素材(画像やサウンドファイル)
を共有するためにクラウド環境である「DropBox」をインストールしてもらった.
2.5 アンケート
セミナー終了後に参加者にアンケートを実施した.非常に勉強になることが多く,これからのアプリ開発
に役に立った,少人数でのセミナーだったので質問がしやすかったなどの意見を多数頂いた.また,レベル
別のソフトウェア利用セミナーなどがあるといい,複数回にわけてもっと複雑なものを作ってみたい.など
の声もあり,iOSアプリ開発に対する関心の高さを改めて実感した.
3 まとめ
今回,「 初心者を対象としたiOSアプリ開発体験セミナー」を工学部の全学科の学部生を対象に開催し
た.アプリケーション開発未経験者,プログラミング未経験者でも受講できるように,オブジェクト指向プ
ログラムについての学習から始め,Xcodeを用いたオブジェクト指向プログラミング,後半からはその発展
版として本格的なアプリケーションの作成を行った,専門外である情報系以外の学生からも多くの参加希望
があり,アプリケーション開発を楽しく体験してもらうことができたと思われる.
今後も学生たちのアプリケーション開発に対する興味・関心はますます高まってくると思われるので,ア
プリケーション開発セミナーの開催を検討していく予定である.
図3.セミナーの様子1
図4.セミナーの様子2
81
本学における教育研究促進のための工学部技術部の活動
上村 実也,松本 英敏(工学部技術部)
1
概要
本学は、平成25年度「研究大学強化促進事業」に採択された。この事業は、世界水準の優
れた研究活動を行う大学群を増強し、我が国の研究力の強化を図るため、研究マネジメント人
材群の確保や集中的な研究環境改革等の研究力強化の取組を支援するものである。技術部は今
後、この事業の趣旨に従って、本学の特徴ある先端的プロジェクトを支援し、より多くの優れ
た研究成果を世界に発信するために、専門技術の一層の強化が望まれている。
工学部技術部は、この前身である「工学部技官会」の発足時から、技術系職員の研究支援等
のあり方について鋭意検討が続けられ、国立大学法人化に合わせて第1期中期目標・計画を策
定・実行し、第2期中期目標・計画では従来にも益して工学部、大学院自然科学研究科及び諸
研究センター等における研究力強化に寄与することを目的に活動している。近年、文学部、理
学部、医学部等に所属する教員の研究に係る支援も増加傾向にある。
今回は、工学部技術部における第2期中期目標・計画の進捗状況及び技術系職員の活動状況
について報告する。
先端研究
技術部は、学部における教育
支援をはじめ、大学院の教育
研究や共同研究等のニーズ
並びに受託試験に専門技術
を発揮します。
高度な教育
1.効果的な実験・実習・演習
2.信頼性の高い分析・受託試験
3.安全で快適な教育研究環境
4.未来を創る科学の啓発
工学部技術部
目標:高度な専門技術の融合と人材育成を通して教育・研究
の発展に寄与できる技術者集団を目指す。
企画・調整室
より高度な専門技術とマネジメントによる技術の融合
専門技術室
高度な専門技術の提供
専門技術による支援
図1
2
学術支援室
学部学術支援
技術の継承
第2期中期目標・計画の全体イメージ
第2期中期目標・計画
工学部技術部は、工学部の重要な使命である各学科の学生実験・実習・演習に係る技術支援
の向上を図りながら、発展する研究の技術的支援の高度化・迅速化に対応するために、技術系
82
職員が有する専門技術を、必要とする教員に学科を問わず提供できる環境を整えるため,第2
期中期目標・計画を策定した。
第2期中期目標・計画では、
「高度な専門技術の融合と人材育成を通して教育・研究の発展に
寄与できる技術者集団を目指す。」ことを掲げ、これを実現する手段として、技術系職員を学科
対応型ではなく専門技術でグループ化した「専門技術室」を設置し、技術室内での人材育成の
強化と協働体制を構築する。さらに、教員の研究と技術系職員の専門技術をマッチングさせ、
内容によっては、技術室相互の連携を促すために「企画・調整室」を置く。
現在、この改組に向けて「室」を「WG」として試行しており、体制の課題発見に努めてい
るところである。
3
技術系職員の活動
工学部技術部は、業務に必要な国家資格や技能検定の取得者を多数有しており、学位取得者
(博士:6名、修士:5名)並びに各人の専門の知識及び技術・技能を活かして①教育・研究
支援、②安全管理、③社会貢献を業務の3本柱と位置づけて活動している。近年、学会・研究
会や学長表彰等の受賞、科学研究費補助金等の獲得など、活動の成果が徐々に現れている。
工学部技術部の主な活動状況は以下のとおりである(詳細については、工学部技術部年次報
告集 http://www.tech.eng.kumamoto-u.ac.jp/work/nenpou.htm を参照)。
(1) 教育・研究支援
① 全学関係
・震災復興支援事業
・依頼分析、機器分析に関する基礎講座及び技術講習
・パルスパワー科学研究所の研究支援
・沿岸域環境科学教育研究センターの研究支援
・先進マグネシウム国際研究センターの研究支援
・生命資源研究・支援センターの研究支援
・eラーニングシステムの保守・改良
・情報基盤センターサテライトルーム、サーバ及び端末の保守
・全学 web システムの構築・保守、改良
・基礎セミナーものづくり入門の技術支援
・全学設備検索システムの開発に係る助言
・入試における警備業務及び試験監督補助
・セミナー等開催時における工学部百周年記念館視聴覚機材の操作指導
・TOEFL-IP 試験開催時等における2号館視聴覚機材の設定・操作
・男女共同参画事業への支援
② 工学部関係
・工学部革新ものづくり教育専門委員会
・工学部教務委員会
・工学部学生支援委員会
・工学部広報委員会
・工学部情報基盤委員会
83
・工学部評価情報専門委員会
・工学部学習補助教材eラーニングシステムの開発・保守
・工学部研究資料館施設・展示物の保守・公開
・工学部附属工学研究機器センターの運営
・工学部共同利用設備の保守・依頼分析・技術指導
・工学部共同利用設備予約システムの開発・保守
・工学部機器検索システムの開発・保守
・工学部電子掲示板システムの開発・保守
・工学部教室予約システムの構築・保守
・工学部 web サーバの構築・保守
・定期試験における試験監督補助
・工学部学生保護者宛の成績表・広報誌発送支援
③ 学科・研究室関係
・学生実験・実習・演習
・学科・研究室所有設備の保守
・講義補助機器等の製作・操作
・実験機器の設計、製作、保守
・機器分析
・フィールド調査・分析
・特殊機器、クレーン運転
・ネットワーク機器の保守
・研究解析・処理プログラムの開発・保守
(2) 安全管理
① 全学関係
・黒髪事業場安全衛生委員会
・熊本大学放射線障害防止委員会
・黒髪事業場衛生管理者
・火薬類取扱保安責任者
・黒髪事業場エックス線作業主任者
・作業環境測定士
・放射線取扱主任者
・放射線取扱者教育訓練講師
④ 工学部関係
・工学部衛生管理補助者
・工学部安全環境保全委員
・工学部RI委員会
・工学部防火委員会
・工学部電気保安講習の企画・開催
・工学部居残届システムの開発・保守
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・危険物取扱者
⑤ 学科・研究室関係
・試薬、廃液管理
・試薬棚、ボンベ転倒防止等の安全対策
・排気設備の保守
・安全取扱に関する学生の指導
(3) 社会貢献
① 全学関係
・夢科学探検
・学外主催イベント開催時の工学部百周年記念館会場の設営・保安
・オープンキャンパス
・震災復興支援事業
・干潟フェスタ
・秋の夕暮れコンサート
・受託試験
② 工学部関係
・工学部研究資料館の公開
・中学生のための夏休みの自由研究相談会
・WRO 熊本大会用コースの設計、製作、会場保安
・ものクリ工房の開放、技術指導
③ 学科・研究室関係
・出前授業・実験
4
専門技術WG(中期計画での「専門技術室」)
現在、工学部技術部では試行として、環境・構造、装置開発、機器分析・化学、計測・制御、
情報システム、先端加工及び企画調整の7つのWGを置いて活動している。各WGのサポート
内容は次のとおりである。なお、これらのWGは、学科改組や研究内容、社会の変化に応じて
適宜変更する。また、学科の主要な建物毎に「技術室」を配置し、学科教員及び学生からの実
験・実習・演習や研究等に関する身近な相談の窓口としている。
WG
サポート内容
環境・構造WG
土木構造試験、フィールド調査、環境分野の技術的事項
装置開発WG
実験装置の製作並びに機械分野の技術的事項
機器分析・化学WG
機器・化学分析並びに材料、化学、生物分野の技術的事項
計測・制御WG
高圧回路、発振回路、制御回路、センサー等の設計・製作並びにデバ
イス、メカトロ分野の技術的事項
情報システムWG
情報機器、各種サーバ、アプリケーションの開発並びに情報分野の技
術的事項
先端加工WG
精密部品等の設計・製作並びに機械加工分野の技術的事項
企画調整WG
業務の広報・マネジメント、研修の企画・実施、業務管理、労務管理、
ものづくり事業、各種委員会支援
85
5
技術系職員への期待
現在の国立大学法人は、国による大学改革の方針に基づいた競争的な環境の下で、それぞれ
の大学による取組を促進させる方法によって、ある種、大学の差別化を図っている。
今後、本学が研究大学として発展するためには、国の方針を速やかに、かつ、的確に捉えて、
迅速に改革を進める必要があり、このためには、大学の構成員である教員、技術系職員及び事
務系職員が一体となってこの難局に取り組む必要がある。この状況の中、本学は、平成25年
度研究大学強化促進事業に採択された。今後は、この事業の趣旨に基づいて、本学の特徴ある
先端的プロジェクトを支援し、より多くの優れた研究成果を世界に発信する、高度な専門技術
の強化が望まれる。このように技術系職員は、これまでの業務を遂行しつつ、近未来の先端的
プロジェクトに対応できる専門技術力を常に準備しておく必要がある。その際、個々の知識・
技能の向上はもちろん、支援内容によっては速やかにチームで対応した方がより高度、かつ、
迅速なサポートが実現できる。技術系職員は状況に応じてプロジェクトを組み、他部局の技術
系職員とも柔軟に連携できるシステムの確立が早急の課題といえる。また、研究強化のために
は、技術系職員の専門技術の高度化(スペシャリスト養成)を図り、教員との連携の強化や大
学運営のためのマネジメント(プロフェッショナル養成)のための育成プログラムが必要であ
る。さらに、外国人留学生や研究者が増加する傾向にありコミュニケーション力(国際化対応)
を高めることも重要である。
全学には、技術系職員が約80名在籍しており、資格・検定等取得者延べ132名、学位取
得者21名(博士:7名、修士:14名)にも及んでいる。本学から数多く最先端の研究成果
を世界に発信して社会に貢献して行くために、スペシャリストやプロフェッショナルによる高
度な技術と専門性をフルに活用して本学の教育研究を支援する必要がある。これからの技術系
職員に求められる能力を図2に示す(「事務職員」を「技術系職員」に読み替える。)。
管理・運営能力
Ⅱ
Ⅰ
ジェネラリスト
プロフェッショナル
専門知識・能力
Ⅲ
Ⅳ
一般事務職員
図2
スペシャリスト
大学事務職員に求められる能力(出展:山本眞一 大学のマネジメント 放送大学大学院教材)
86
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