Comments
Description
Transcript
一 、 本稿は、 唐代詩人の中にあっ て、 とりわけ数多く の女性詩を残した
李白女性詩訳注稿 寺 尾 岡 り ﹃文苑英華﹄、﹃唐宋詩醇﹄、﹃全唐詩﹄等を参照した。 一45一 一、今人の手になる李白の全集には、久保天随﹃李太 太白詩歌全解﹄︵早稲田大学出版部、一九八〇年︶、嬰蜆 例︺ 一、本稿は、唐代詩人の中にあって、とりわけ数多く 園・朱金城﹃李白集校注﹄︵上海古籍出版社、一九八〇年︶、 ︹凡 の女性詩を残した盛唐の大詩人・李白の、女性を題材・ があるが、これらも適宜参照した︵﹁テキスト﹂の項には、 安旗主編﹃李白全集編年注釈﹄︵巴蜀書社、一九九〇年︶ 白詩集﹄︵続国訳漢文大成、一九二八年︶、大野実之助﹃李 施し、唐代女性詩の実態を明らかにする一助とならんこ 一、﹁韻字﹂については平水韻に準拠した。 これらの頁数を明示した︶。 一、底本としては、現在最も普及している清の王埼注 入れたが\その際、可能なかぎり原典調査を行い、調査 一、﹁語釈﹂については、主として、王埼の注を取り 北朝詩﹄︵略称﹃先秦漢魏﹄︶、文については厳可均編﹃全 できなかったものについては、その旨明示した。原則と して、唐以前の詩歌については速欽立編﹃先秦漢魏晋南 による﹃李太白全集﹄︵中華書局版、略称﹃王埼本﹄︶を 本﹄︶、﹃李詩通﹄、﹃彷宋成淳李翰林集﹄︵略称﹃威淳本﹄︶、 ﹃分類補注李太白詩﹄︵﹁許本﹂を参照、略称﹃分類補注 主として﹃静嘉堂蔵宋本李太白文集﹄︵略称、﹃宋本三、 用いることにする。文字の異同︵﹁校語﹂︶に関しては、 とを願って編集した。 素材にした詩篇を細大漏らさず取り上げ、校語・訳注を 1 上古三代秦漢三国六朝文﹄︵略称﹃全上古﹄︶を参照し、 ﹃文選﹄に収められている作品については、特に﹃文選﹄ に準拠することにした。 一、解説中の人名については、すべて敬称を省略した。 一、今回は﹃李太白全集﹄巻二十五の﹁閨情﹂の部分 から、﹁寄遠十二首﹂に校語・訳注を施した。﹃李白歌詩 泉を同じくせば山豆に波を殊にせん いつみ おな あ なみ こと ッ泉・・豆殊波 秦心と楚恨と 較較たり 誰れか多きと為さんかは けうけう いつ わほ な しんしん そニん `心與楚恨 較爲誰多 ︻テキスト︼︹十二首全体について︺﹃李太白全集﹄二五、 ﹃静嘉堂蔵宋本李太白文集﹄二四、﹃分類補注李太白詩﹄ 目に収める。これは唐人選唐詩集である﹃又玄集﹄に﹁長 ﹁其十一﹂は巻四﹁楽府詩﹂の﹁長相思三首﹂の第三首 索引﹄の作品番号で言えば、936番から947番まで 二五、﹃李詩通﹄十三︵五言詩九首︶・二〇︵長短句二首、 相思﹂とあるのに基づく︶、﹃彷宋威淳李翰林集﹄二〇、 に該当する。 業で行なった研究成果に依るところが大きい。労苦を厭わ ※本稿は愛知淑徳大学国文科中国文学演習1︵三年次︶の授 ﹃唐宋詩醇﹄巻八︵但し﹁其六﹂﹁其九﹂﹁其十﹂のみを 収める︶、﹃全唐詩﹄一八四︵但し﹁其十こは巻一六五 の﹁長相思﹂の第二首目に収める︶、久保天随﹃李太白 さんてう わうぽ わか 三鳥 王母に別れ 遠きに寄す十二首 しよ ふく き よ 腸の断つこと絃を勇るが若し はらわた た げん き ごと 書を街んで 来たりて過ぎらる そ しうし いかん はる し ぎよくさう うち 其れ愁思を如何せん 曲を奏して 深意有り 繊手 雲和を弄するを 2見 ﹃全唐詩﹄はコ作相﹄﹂と注する。とすれば、﹁相﹂ 0寄遠十二首 ﹃全唐詩﹄は﹁寄遠十一首﹂に作る。 ︻校 語︼ ﹁開元十九年、李白三十一歳﹂の項︶。 踊∼P剛︶、安旗主編﹃李白全集編年注釈﹄︵P獅∼P斑︶ 青松 女羅を交ふ は﹁すき﹂﹁ふご﹂の意で、文意が通じない。﹃成淳 みつ そそ さんせい うち せいしよう ごよら まじ きよく そう しんい あ 水を写ぐ 山井の中 せんしゆ うんわ ろう 遥かに知る 玉窓の裏 ︵P㎜∼P㎜、P㈱︶、聖一蜆園・朱金城﹃李白集校注﹄︵P 詩集﹄下巻︵p脇∼脇︶、大野実之助﹃李太白詩歌全解﹄ とほ よ じふにしゆ ず丹念に資料調査を行なった学生諸君に謝意を表したい。 0 寄 遠 十 二 首 1三 鳥 別 王 母 2街 書 來 見 過 3腸 断 若 勇 絃 4其 如 愁 思 何 5遙 知 玉 窃 裏 6繊 手 弄 雲 和 7奏 曲 有 深 意 8青 松 交 女 羅 9篤 水 山 井 中 一46一 12 11 10 9山 ﹃宋本﹄﹃成淳本﹄﹃李詩通﹄は﹁落﹂に作る。﹃王 は﹁臆﹂に作る。 5宙 ﹃宋本﹄は﹁屹﹂に作り、﹃分類補注本﹄﹃李詩通﹄ 注する。 4思何 ﹃成淳本﹄はこの句の下に﹁一本無此二句﹂と 3絃 ﹃全唐詩﹄は﹁弦﹂に作る。 本﹄は﹁相﹂に作り、﹁一作﹃見﹄﹂と注する。 域のいわゆる﹁楚地﹂︵現在の湖北・湖南・四川東 時に成ったものではないと考えられるが、長江中流 たものである。李白のこの十二首は、おそらくは一 の作品を挙げている。やはり遠くにいる女性を歌っ は、﹁寄遠曲﹂と題して、中唐の王建・張籍の二人 に、宋の郭茂情﹃楽府詩集﹄巻九四﹁新楽府辞五﹂ 李白のこの作品が濫膓と言わざるをえない。ちなみ 孫女と結婚していた。﹁寄遠﹂諸作に登場する女性が、 時代︵二十代後半から三十代︶の作品を集めたもの ぎよ と推定される。当時、彼は初唐期の宰相・許園師の 南部︶の地名が頻出するので、彼の安陸︵現湖北省︶ ︵歌韻︶ 碕本﹄は﹁﹃ 本﹄作﹃落﹄﹂と注する。 ︻詩型・韻字︼ 五言古詩。過・何・和・羅・波・多 概ね高貴な婦女を連想させるのも、そのためであろ ︻語 釈︼ とある。三羽の青い鳥。﹃山海経﹄の﹁西山経﹂﹁大 1三鳥 ﹃王埼本﹄に﹁三鳥ハ、三青鳥。西王母ノ使也。﹂ 荒西経﹂等に見える。唐詩にしばしば用いられ、主 うと考えられる。 る。﹁寄遠﹂というタイトルは、李白以降、許渾・ 0寄遠十二首遠くにいる妻に寄せた詩を十二首を集め 白居易・買島・李商隠・杜牧・陸亀蒙といった、著 に喩えられる。﹁青鳥﹂とも。 に①仙界からの使者、②手紙を運ぶ使者︵飛脚︶等 王母 西王母のこと。昆嵜山に棲む仙女。ここでは妻 くにいる妻︵あるいは女性であるところの恋人︶に 寄せたものである。唐以前には、管見のかぎり、こ 名な唐詩人たちの作品の中にも見え、ほとんどが遠 のタイトルは検出できないが、艶冶な宮体詩・閨情 高貴な女性に設定している。 に喩える。この詩において、李白は妻を神秘的かつ 2見 尊敬を表す。 詩が流行していた六朝時代に、この種のタイトルの 作品が存在していた可能性はある。ただ現段階では、 一47一 の﹁傷逝賦﹂︵四部叢刊本﹃飽氏集﹄巻二︶に﹁蓋クルコト 3前絃 ︵弦楽器の︶弦が切れること。南朝・宋の飽照 る波を立てるはずはない、という方向で解釈してい れば、清らかさも同じであるから、井戸の中で異な むとき、その水が同じ泉から湧き出しているのであ ヘ ヘ ヘ ヘ シ 若コ窮煙づ、離ルルコト若⇒勇絃↓﹂とある︵但し﹃全 いない。おそらくこの部分、南朝・宋の謝恵連の﹁代 古﹂︵﹃先秦漢魏﹄宋詩巻四、﹃玉台新詠﹄巻三等︶ る。ただ、両者とも、その根拠なり出典を明示して 5遙知 以下四句は、妻の心情を想像する。 に見える﹁潟畔酒ヲ置コバ井中≡、誰ヵ能ク辮コン斗升↓。 わか しじよう 合スルコト如コンパ杯中ノ水↓誰ヵ能ク判コン溜滝↓。﹂ 上古﹄は﹁勇絃﹂を﹁箭弦﹂に作り、﹃初学記﹄巻 玉窃 玉で飾ったような美しい窓。梁の簡文帝﹁傷美 人、又三駒﹂に﹁何レノ時ヵ玉窟ノ裏、夜夜更二 わかろうそ、二つ合せて杯の中の水のようにしたら、 ︵﹁酒を井へそそぎこんだらだれが水と酒の分量が 十四は﹁勇﹂を﹁断﹂に作る︶。 縫いン衣ヲ﹂とある。 たりの仲はその井の水、その杯の水の様なものだ。﹂ だれがそれが潜水の水か滝水の水かわかろうそ、ふ 一48一 6繊手 細く美しい女性の手。李白の好んだ表現。 雲和 小型の琴の一種。﹃旧唐書﹄﹁音楽志﹂に﹁如け ∼鈴木虎雄訳解﹃玉台新詠集﹄上︹岩波文庫、一九 やや 箏ノ梢小ナルヲ日∋雲和↓。﹂とある。なお﹃王埼本﹄ は﹃文献通考﹄﹁楽考﹂の﹁雲和琵琶﹂の説明を引 五三年︺による︶に着想を得たものと思われる︵ち 問答を踏まえる︶。﹁通釈﹂では﹁山井﹂中の水と﹁泉﹂ なみにこの詩句も﹃列子﹄﹁説符﹂の白公と孔子の を同義のものとして、先行の二翻訳とは、若干異なっ 8青松交女蔑 ﹁女羅﹂は地衣類の一種。﹃詩経﹄にも見 える。ヒカゲノカヅラ、サルオカゼ。松などにぶら 用する。 さがって、寄り添うように生えるため、しばしば男 `心與楚恨 ﹁秦﹂は現在の陳西省、特に長安︵西安︶ た解釈をすることにした。 一帯を指す。﹁楚﹂は現在の湖北省・湖南省一帯を にも﹁女羅附コ青松=、貴砂欲コルヲ相依リ投イント﹂ にたよろうとする女心に喩える。李白の﹁去婦詞﹂ といった類似表現がある。 もに、秦人と楚人の人情は異なっていて相容れない 指す。以下二句について、久保天随・大野実之助と ヘ ヘ ヘ ヘ ヘ ヘ ヘ ヘ へ 9爲水 ﹁写﹂は﹁潟﹂に同じ。この二句は、久保天随・ ヘ ヘ ヘ ヘ ヘ へ 大野実之助ともに、山の井戸に二種類の水を注ぎ込 10 そこまで屈折して解釈する必要はなく、そのまま、 た方向で解釈している。しかし、﹁秦心﹂﹁楚恨﹂は、 が、我々二人の気持ちは相通じ合っている、といっ 彼女の奏でる曲の中には、深い思いが籠められている。 添い、細い手で雲和の琴を奏でていることであろう。 遥かに思い遣れば、おそらく妻は、美しい窓辺に寄り し難い。 弦が裁ち切れるがごとく切なく、この愁いは、如何とも それは、青い松に女羅がまといつくように、私のことを ﹁秦﹂﹁楚﹂にお互い離れ離れになってはいるが、﹁秦 るいは私︶の恨み﹂には、いずれも強いものがある、 水を山の井戸のなかに注げば、その湧き出でる泉の水 慕っている、というもの。 にいる私︵あるいは君︶の心﹂と﹁楚にいる君︵あ といった方向で解釈するのが穏当であろう。ちなみ はもとは違っていても、いまや、一心同体。 と一体となって、同じ波を立てる。そのように、君と私 に、この詩が李白の最初の妻・許氏のことを歌って いるとすれば、彼女は安陸にいたので、﹁楚恨﹂は どちらがその思いが多いか、その答えは明白だ。一心同 秦の地にいる私の心と、楚に留まっている君の恨みと、 妻の方を指している可能性が強い。安旗主編﹃李白 全集編年注釈﹄は、﹁白時二在コ長安く、許氏ハ在コ 体である我々にとって、同じであるに決まっている。 安陸く、故二云フ。二句謂コ爾地相思フコト正二同づト﹂ と注する。 11校校 はっきりとしている様、明白な様。 野実之助ともに﹁為﹂を﹁タメニ﹂と訓じ、﹁誰が 爲誰多 どちらが多いとみなされるか。久保天随・大 ー青棲何所在 0其ニ 恨望すれば 金屏 空し 新牧 落日に坐し 青棲 何れの所にか在る 其の二 これ おも たんしよ おく ちやうばう きんぺい むな しんさう らくじつ ざ 宝鏡 秋水を桂けるがごとく ら い しゆんぷう かろ 羅衣 春風に軽し はうきゃう しうすゐ か 乃ち在り 碧雲の中 すなは あ へきうん うち せいろう いつ ところ あ ために多き﹂とするが、今は取らない。 2乃在碧雲中 3實鏡桂秋水 4羅衣輕春風 5新肢坐落日 此を念って 短書を送らんとす そ に 三青鳥にも比すべき使者は、西王母のごとき我が妻の 7念此逸.短書 6恨望金屏空 ヘ ヘ ヘ シ へ 元を去り、手紙を持って、我が旅先に立ち寄ってくださった。 ︻通 釈︼ その手紙を見れば、我が断腸の思いは、あたかも琴の 一49一 ねが さうひニう よ 1青棲 ﹁青楼﹂には、基本的に①高貴な女性の棲む楼 8願 因 讐 飛 鴻 ︻校 語︼ 閣︵青漆の彩画が施されているのでこう言う︶、② ている情景を描いている。 性に求婚したいと願って、ラブレターを出そうとし 3水 ﹃王埼本﹄﹃宋本﹄﹃分類補注本﹄﹃李詩通﹄﹃全唐詩﹄ 妓楼、の二つの意味があるが、ここでは①がふさわ 願はくは双飛鴻に因らん 5散 ﹃宋本﹄は﹁粧﹂に作り、﹃分類補注本﹄は﹁粧﹂ は﹁一作﹃月﹄﹂と注する。 6金 ﹃王埼本﹄﹃宋本﹄﹃分類補注本﹄﹃全唐詩﹄はコ 安旗主編﹃李白全集編年注釈﹄は﹁許氏ハ爲コ相 青棲臨二大路=、高門結コ重關↓。﹂を意識している。 女篇﹂の﹁借問ス女ハ安クニ居ルト、乃チ在コ城ノ南端.=。 しい。この冒頭の二句は、明らかに、魏の曹植﹁美 作﹃錦﹄﹂と注する。 2碧雲 青空の中にある雲。 卜 門ノ女一故二云フ。﹂と注する。 に作る。 7念此 ﹃王埼本﹄﹃宋本﹄﹃分類補注本﹄﹃全唐詩﹄は= 3桂秋水 ここでは、壁に掛かっている鏡を秋の澄んだ コ 作﹃勇綜ヒと注する。 8因﹃王埼本﹄﹃宋本﹄は﹁一作﹃同﹄﹂と注する。 4羅衣 うすぎぬの衣。 水に喩えている。 詩三十首、李都尉陵﹂に﹁袖中二有コ短書一願バクハ 7短書 短い手紙。﹃六臣注文選﹄巻三一の江滝﹁雑体 空 人気ない。 6金屏 金のように美しい屏風︵ついたて︶。 5新肢化粧したばかりの状態を言う。 一首﹂と注する。 ︵東韻︶ 飛鴻 ﹃成淳本﹄はこの下に﹁一本﹃青棲何所在﹄作 ︻詩型・韻字︼ 五言古詩。中・風・空・鴻 ︻語 釈︼ 0其二 この詩は、虚構性のかなり強い作品で、必ずし 小書↓也﹂とある。李白のこの詩の末尾二句は、こ 寄コン隻飛燕ごとあり、李周翰の注に﹁短書ハ謂⊃ の江滝の詩を踏まえるが、﹁燕﹂ではなく﹁鴻﹂︵大 も李白と妻との実体験に基づくものと考える必要は ないであろう。設定としては、ある男が、高貴な女 雁︶としているのは、韻字の関係もあるが、中国古 典詩の伝統として、﹁雁﹂﹁鴻﹂が手紙を運ぶ鳥とし て知られていたためであろう。﹁短書﹂とは縁語的 な繋がりを持つことになる。 ︻通 釈︼ 青楼はいずこにあるかと言えば、それは、高く葺えて 青空の雲の中。 室内には、澄んだ秋の水のような宝鏡が掛かり、その 人のうすぎぬの衣は、軽く春風に舞い上がる。 6爲報青棲人 7朱顔凋落蓋 8白髪一何新 9自知未雁還 ため せいろう ひと はう しゆがん てうらく つく 為に青棲の人に報ぜよ はくはつ いつ なん あら 朱顔 凋落し尽し 自ら知る未だ応に還るべからざる みつか し いま まさ かへ 白髪 一に何ぞ新たなる りきよ さんしゆん へ を たうり いま いかん 離居 三春を経たり まど あた くわうさい はつ 桃李 今 若為 窓に当って 光彩を発せん かうふう ひるがへ なか 香風をして瓢らしむ莫れ こうはうりうよま 紅芳を留与して待て ︻校 語︼ 」居経三春 漉寫。若爲 c窟登光彩 恷g香風瓢 ッ與紅芳待 哀しげに人影のない金のついたてを眺めていることであ 彼女は、化粧をし直したばかり、夕日の中に座って、 0其三 ﹃成淳本﹄は第四首目に配する。 2段勤 ﹃成淳本﹄は﹁態勲﹂に作る。 ろう。 そう思えばこそ、短い手紙でも贈って差し上げたくな 道 ﹃成淳本﹄は﹁坐﹂に作り、﹁一作﹃道﹄﹂と注する。 潤@﹃王埼本﹄﹃宋本﹄﹃分類補注本﹄﹃全唐詩﹄は二 還﹃王埼本﹄﹃宋本﹄はコ作﹃老﹄﹂と注する。 9未鷹還 ﹃成淳本﹄は﹁一作﹃未因老﹄﹂と注する。 憶 ﹃宋本﹄は﹁億﹂に作る。 る。願わくば、翼を並べて飛ぶ二羽の大雁に託して。 一行 復た一行 かみ み じやうなん きは 紙に満つるも 情何ぞ極まらん えうだい くわうかくあ 瑠台 黄鶴有り いちぎやう ま いちぎやう 段勤 相憶ふを道ふ いんぎん あひカも い 本と一行の書を作り も いちぎやう しよ つく 其の三 そ さん 0 其 三 1本 作 一 行 書 2段 勤 道 相 憶 3一 行 復 一 行 4浦 紙 情 何 極 5瑳 毫 有 黄 鶴 求@﹃宋本﹄は﹁惚﹂に、﹃分類補注本﹄は﹁臆﹂に、 作﹃君﹄﹂と注する。 ﹃李詩通﹄は﹁窓﹂に作る。 一51一 14 13 12 11 10 10 12 o ﹃李詩通﹄は﹁取﹂に作る。﹃王埼本﹄﹃宋本﹄は﹁一 作﹃取﹄﹂と注する。 ︻詩型・韻字︼ ﹁願バクハ使∋ン黄鵠ヲシテ分報コ佳人ご︵﹁黄鶴﹂と﹁黄 鵠﹂はしばしば混用されるので、ここでは同一のも る︶とある。 のと考えてよい。王埼は﹁黄鶴﹂として引用してい 6爲 我がために。 ︻語 釈︼ いる。安旗主編﹃李白全集編年注釈﹄は﹁白自コ開 三春 三年。但し、大野実之助は春三カ月と解釈して ︵職韻︶人・新・春︵真韻︶彩・待 0其三 長らく旅に出ている男が、家で待つ妻に寄せる 陽.=、故二云⊇二春↓。﹂と注する。 元十八年春一赴ゴ長安︷、至ユモニ十年春≡猶ホ在コ洛 ︵賄韻︶ 五言古詩。憶・極 」居 離れて棲む︵人︶。﹃楚辞﹄﹁九歌﹂﹁大司命﹂に おく ﹁葺≡以テ遺コント分離居ごとある。 す に棲む。 &藍Z ﹁香風﹂は花の香を含んだ風。﹁瓢﹂はそれが 11若爲 ﹁如何﹂に同じ。 という設定。﹁其二﹂同様、相手の女性は﹁青楼﹂ 1本 ここでは﹁最初は⋮︵のつもりだった︶﹂の意。 吹き飛んでしまうこと。つまり、風が花の香を運び 一行書 一行ほどの短い手紙。南朝・梁の何遜の﹁從 寄吐ント一行ノ書↓、何ゾ解ヶン三秋ノ意﹂とある。 主移西州寓直斎内、森雨不晴、懐郡中遊聚﹂に﹁欲以 失われることを暗示する。 去ってしまうということで、女性の色香︵若さ︶が ッ與 留め置く。﹁与﹂は動詞の後ろに置かれる助字。 女が棲む。﹃楚辞﹄﹁離騒﹂にも見える。李白の﹁清 と同じ用法。 特に意味はない。﹁其四﹂に見える﹁聞与﹂の﹁与﹂ たまたま 會 向コッテ堵量月下≡逢ハン﹂とある。 平調詞、其一﹂にも﹁若シ非ゴンバ群玉山頭二見↓二、 黄鶴 黄色い鶴。仙人の乗りものという。手紙を運ぶ 使者としての用法では、梁の江滝の﹁去故郷賦﹂に 紅芳幾タビヵ爲けン樂シ.、ヲ﹂とある。 紅芳赤い花。ここでは、妻の若き美貌をも暗示して く や ゆ くゆ いる。梁の江滝の﹁銅爵妓﹂に﹁堵色行雁に罷ム、 ペシ 5珪台 月中にあるという玉をちりばめた台。仙人・仙 2段勤 ﹁態勲﹂に同じ。ねんごろに。 13 14 一52一 10 14 ︻通 釈︼ はじめは一行ほどの短い手紙で、ねんごろに君を思っ ていることを、したためようと思っていた。 ところが、一行、また一行と増えていき、紙いっぱい になっても、情は尽きない。 5青春已復過 6白日忽相催 7但恐荷花晩 8令人意已捲 9相思不惜夢 せいしゆん すで ま す 青春 巳に復た過ぐ はくじつ たちま あひうなが た わそ かくわ く 白日 忽ち相催す ひと いすで くだ 但だ恐る 荷花の晩るるを ゆめ をし 人をして 意已に擢けしむ さうし にらや やうだい むか 相思 夢を惜まず ︻校 語︼ 日夜 陽台に向はん 私の血色の良かった顔色もやつれ果て、白髪が新たに 0其四 ﹃成淳本﹄ では第五首目に配する。 坙骭?z塁 驚くほど増えてきた。 1春 ﹃王埼本﹄ ﹃宋本﹄は﹁一作﹃清﹄﹂と注する。 あの人に伝えてくれ。 渚台に棲むという黄鶴よ、我がために、青楼に暮らす れて、すでに三年。 私は、自分が当分帰れないことを知っている。家を離 は﹁険﹂に作る。 4姻 ﹃李詩通﹄ は﹁煙﹂に作る。 陰 ﹃李詩通﹄ 3聞 ﹃王埼本﹄ ﹃宋本﹄は=作﹃且﹄﹂と注する。 側で、輝くほどの美しさを発していることであろう。 7荷 ﹃王埼本﹄ ﹃宋本﹄﹃全唐詩﹄は=作﹃飛﹄﹂と注 我が家の桃李は、今、どうなっていることやら。窓の 春風に、その香りを吹き飛ばされないように。香り豊 ︻詩型・韻字︼ 五言古詩。水・里 ︻語 釈︼ 0其四この詩は、李白が女性になり代わって歌う。安 旗主編﹃李白全集編年注釈﹄も、﹁此ノ詩自ラ ︵紙韻︶催・提・量︵灰韻︶ する。 しい。 風畑 鄭里に接すと ふうえん りんり せつ 聞与す 陰麗華 ぷんよ いんれいくわ 坐だ愁ふ 湖陽の水 はなは うれ ニやう みつ 玉筋 春鏡に落ち ぎよくちよ しゆんきやう お そ よ ん 其の四 かな紅の花を留め置いたまま、私の帰りを待っていてほ 0 其 四 1玉 筋 落 春 鏡 2坐 愁 湖 陽 水 3聞 與 陰 麗 華 4風 姻 接 鄭 里 一53一 10 助ともに男性の一人称で翻訳しているが、﹁玉筋﹂﹁荷 代いリテ内二贈ル。﹂と評する。久保天随・大野実之 酷水がある。なお、次句にある陰麗華ゆかりの新野 西南のの湖陽鎮。その付近を流れる川としては比水、 隷コ唐州准安郡=。﹂と注する。現在の河南省唐河県 つま 花﹂をはじめとして、女性の一人称と考える方が適 3與 動詞の後ろに添える助字。﹁其三﹂の﹁語釈﹂を 参照。 は湖陽の西北約三十キロにある。 陰麗華 新野︵現在の河南省新野県︶出身の女性。後 1玉筋すなわち、玉のように美しい箸。二筋になって 流れる女性の涙を喩える。﹃白孔六帖﹄巻⊥ハ四﹁芙﹂ 切と思われる﹁詩語﹂が頻出する。 の﹁玉筋﹂の条に﹁甑后面白ク、涙隻垂、ンテ如∋玉 漢の光武帝の皇后。光武帝が新野を訪れたとき、そ しばらくして彼女を納れ、皇后とした。﹃後漢書﹄ ば、陰麗華のような女性が良い。﹂と語り、果たして、 しん おもて 憐ム隻玉筋ノ、流ルテ面二復タ流励襟二﹂とある。 筋づ。﹂とあり、また、梁の劉孝威﹁独不見﹂に﹁誰ヵ の美しさを耳にし喜び、後、歎じて﹁妻を嬰るなら う意か。ここでの﹁鏡﹂は、おそらく下句の﹁湖陽 巻十﹁皇后紀上・光烈陰皇后紀﹂に﹁光烈陰皇后 春鏡 見慣れない表現。春の水のように澄んだ鏡とい 水﹂の水面を喩える。李白は、川や湖の水面を鏡に 聞コ后ノ美↓ルヲ、心二悦げ之ヲ。後至コ長安=、見二執 謹,麗華、南陽新野ノ人。初メ、光武適ゴ新野く、 金吾ノ車騎ノ甚ダ盛↓ナルヲ、因ッテ歎wンテ日ク、﹃仕 へ ゆ 2坐愁 深く愁える。﹁坐﹂は、日本の伝統的な訓では﹁ソ 喩えるのを好んだ詩人である。 で翻訳することが多いが、ここでは﹁深く﹂﹁ことに﹂ ゾロニ﹂と読み、﹁なんとはなしに﹂といった意味 華↓。﹄更始元年六月、遂二納ユ后ヲ於宛當成里︷。 富スレパ當に作ユ執金吾↓、嬰けバ妻ヲ當に得二陰麗 ベ シ ベシト 時二年十九。﹂とある。 ﹁はなはだ﹂といった意味︵程度が甚だしいこと︶ に取りたい。張相﹃詩詞曲語辞匿釈﹄は﹁坐﹂の一 が連なっていると言えるほど近くにある、隣り合わ 麓タル﹂とある。 野一至ユ湖陽く、道里遠近不レ及コ百里.㌔、所謂﹃風 せのまちであるということ。﹃王埼本﹄は﹁自]新 4風姻接鄭里 新野と湖陽とは、同じ風が吹き、同じ雲 義として﹁甚辞。猶深也、殊也。﹂と解釈している。 はなま 古楽府﹁古西門行﹂に﹁何ゾ能ク坐ーダ愁フルコト佛 湖陽水 ﹃王埼本﹄は﹁湖陽縣、本ト漢ノ奮縣、唐時 一54一 姻接コル鄭里ご也。﹂と注する。 れは、湖陽の水。私の心は深く愁える。 玉の箸のような二筋の涙が、春の鏡に流れ落ちる。そ ︻通 釈︼ 聞けば、﹁妻を要らば陰麗華﹂と讃えられた陰皇后ゆ 5青春 ここでは、季節としての春と人生における青春 6白日 太陽の意であるが、日月の推移も暗示している。 どうし。 かりの新野は、ここ湖陽とは、風や雲を共にする、隣県 とを重ねている。 7荷花晩 ハスの花が衰えていく。同時に、人の老いも に﹁昔者嚢王與二宋玉一游ゴ於雲夢之墓≡、望コ高唐 あなたを思えばこそ、夢見ることを惜しみはしない。 を滅入らせてしまう。 ただ恐ろしいのは、蓮の花が衰えてゆくこと。人の心 またたく間に過ぎ去っていく。 春の季節はすでに終わり、日月は急かされるように、 暗示する。 z畳 いわゆる﹁巫山雲雨﹂の故事を踏まえる。戦国 時代、楚の宋玉の﹁高唐賦﹂︵﹃文選﹄巻一九︶の序 之観↓。其ノ上二掲−ー有コ雲氣一。⋮王問比テ玉二日ク むかし ﹃此レ何ノ氣也ト。﹄玉答ヘテ日ク﹃所謂朝雲ナル者 せめて夢の中で、楚王と巫山の女神のごとく、日夜、陽 ヘ ヘ ヘ へ 0其五 1遠憶巫山陽 2花明湶江暖 3躊躇未得往 4涙向南雲浦 5春風復無情 6吹我夢魂断 7不見眼中人 眼中の人を見ず がんちゆう ひと み 我が夢魂を吹きて断つ わ むニん ふ た 春風復た情無く しゆんぷう ま じやうな 涙は南雲に向かって満つ なみだ なんうん む み 躊躇して 未だ往くを得ず ちうちよ いま ゆ え 花明らかに 濠江暖かなり はなあき りよくかうあたた 遠く憶ふ 巫山の陽 とほ わも ふざん みなみ 其の五 そ こ 台のもとでお会いしたいものです。 也ト。﹄王日ク﹃何ヲヵ謂コト朝雲↓。﹄玉日ク﹃昔者先 王嘗テ游ゴ高唐く、怠リテ而書寝ス。夢二見ユ一婦人↓。 日ク﹁妾ハ巫山之女也。爲コ高唐之客一。聞∋君ガ 游コヲ高唐≡、願ハクハ薦コント枕席↓。﹂王因ッ.ア幸以 之ヲ。去ルニ而辞シテ日ク﹁妾ハ在コ巫山之陽、高丘之 あした 岨く。旦二爲コ朝雲叫、暮二爲ユ行雨叶、朝朝暮暮、 陽墓之下。﹂旦朝二視ルバ之ヲ、如け言ノ。故二爲二 立け廟ヲ、號シテ日コ朝雲ヰ。﹄﹂とある。つまり﹁陽台﹂ とは、生き別れとなった楚王と巫山の神女とが、唯 一出会える場所ということになる。 一55一 10 てんなが おんしんみぢか 天長くして 音信短し 2湶江 緑色で清らかに澄んだ長江。 山雲雨﹂を意識するためであろう。また、妻の居所 8天 長 音 信 短 ︻校 語︼ 機の﹁思親賦﹂に﹁指⇒南雲↓以テ寄比欽二、望一、三 が雲に隠されて見えないということも暗示する。陸 4南雲 妻の居るところを言う。﹁雲﹂と言うのは、﹁巫 2暖 ﹃分類補注本﹄﹃李詩通﹄は﹁媛﹂に作る。 蹄風↓而効の誠ヲ﹂とあり、また南朝・陳の江総の﹁於 0其五 ﹃成淳本﹄では第三首目に配する。 3躊 ﹃分類補注本﹄は﹁躊﹂に作る。 7眼中人 常に自分の意中にある、親しい人。﹃⊥ハ臣注 る。 夢の中での楚王と巫山の女神との出会いを意識す 6夢魂 夢の中にある魂。ここもやはり﹁巫山雲雨﹂の、 逐⊃テ南雲↓逝キ、形ハ随三ア北鷹.∼來ル﹂とある。 躇 ﹃分類補注本﹄は﹁眠﹂に作る。 ︵早韻︶ 長安露還揚州九月九日行薇山亭賦韻﹂に﹁心, ゆ ︻詩型・韻字︼ 五言古詩。暖・満・断・短 ︻語 釈︼ 人トハ謂コ親識↓也。﹂とある。 文選﹄巻二五所収の西晋・陸雲の﹁答張士然﹂に﹁髪 髭タリ眼中ノ人﹂とあり、注に﹁濟日ク、⋮眼中ノ 0其五 この詩は巻五所収﹁大堤曲﹂と酷似する。第一 句から第三句までが全く異なり、第六句﹁断﹂が﹁散﹂ ︻通 釈︼ に、第八句﹁短﹂が﹁断﹂になっているほかは、み な同じである。おそらくいずれかが初校で、今一つ がその改訂版なのであろう。﹃王埼本﹄は﹁此ノ詩 はじめ ぐずぐずして今だに行くことができない。そのくせ、 なり︶花は明るく、澄んだ川はさぞ暖かなことであろう。 君の居る南の雲の方を見ては涙が満ち溢れる。 はるか思い出すのは、君の居る巫山の南。︵今や春と 称で語られていると考えてよいであろう。 春の風は心なく、私をすぐに目覚めさせて、夢魂を吹 與二樂府ノ﹃大堤曲﹄一相同ン、唯ダ首ノ三句異ナル耳。 1巫山陽 ﹁巫山雲雨﹂の故事を踏まえる。﹁其四﹂の語 編者重ネテ入ル。﹂と注する。内容的には、男の一人 釈を参照。﹁陽﹂は南。女の居場所を言う。 一56一 きちぎってしまう。 に作る。 を﹃分類補注本﹄は やうだい そすゐ へだ しゆんさう くわうが しやう さうし にちや な 春草 黄河に生ず ︻詩型・韻字︼ 五言古詩。河・波 ﹁饒﹂に、’﹃全唐詩﹄は﹁逡﹂ ﹃持﹄﹂と注する。 0其六 この詩も、男の一人称で歌われている。 ︻語 釈︼ 1陽璽 ここも﹁巫山雲雨﹂の故事が踏まえられている。 ︵歌韻︶因・人︵真韻︶ 7將 ﹃成淳本﹄は=作 意中の人に会うことはできない。空は果てしなく続き、 君は遠くにいる。それなのに、音信は何と短いことか。 陽台 楚水を隔て そ ろく 0 其 六 1陽 憂 隔 楚 水 相思 日夜と無く 其の六 2春 草 生 黄 河 3相 思 無 日 夜 詳細は﹁其四﹂の語釈を参照。 かうたう りうは ごと 流波 海に向って去り 浩蕩として流波の若し 楚水 長江のこと。特に楚の地方︵湖北・湖南一帯︶ み ほつ つひ よすがな りうは うみ むか さ 見んと欲するも終に因無し とほ よ はな ごと ひと はる いつてん なみだ も 2黄河 男の住む地区を指す。女の居所のある南方の﹁楚 を流れるそれを言う。妻の居る場所。 遥かに一点の涙を将って 遠く寄せん 花の如き人 水﹂と対比させる。 4浩 蕩 若 流 波 5流 波 向 海 去 6欲 見 終 無 因 7遙將一鮎涙 8遠 寄 如 花 人 ︻校 語︼ 4浩蕩 果てしなく流れる様。 5流波前の句の末尾の二字を、次の句の冒頭で繰り返 2黄河 ﹃王埼本﹄﹃宋本﹄﹃分類補注本﹄﹃全唐詩﹄はこ 謡的な雰囲気を作り出す。 している。いわゆる﹁蝉聯体﹂と呼ばれる技法。歌 せんれん 4流﹃成淳本﹄は=作﹃深ヒと注する。 注する。 7將 ﹁以﹂に同じ。 6無因 すべがない。 の句の下にコ作﹃陰雲隔楚水、韓蓬落泪河﹄﹂と 6無因 ﹃王埼本﹄﹃宋本﹄﹃分類補注本﹄﹃全唐詩﹄はこ 一点 一粒。 5流﹃成淳本﹄はコ作﹃深﹄﹂と注する。 の句の下にコ作﹃定続珠江濱ヒと注する。但し﹁続﹂ 一57一 8如花人 愛する女性を指す。 ︻通 釈︼ 君の住む陽台のあたりは、楚を流れる長江によって隔 てられている。一方、私のいる北方の黄河のあたりは、 ようやく春草が生え始めたばかり。 日夜となく君を思う。あたかも果てしなく流れる川波 のように。 も、すべはない。 流れる川波は海に向かって去って行き、二度と見よう はるかに、一粒の涙を、花のごとく美しい君に送り届 其の七 けたい。 0其七 妾は春陵の東に在り そ しち 1妾 在 春 陵 東 2君 居 漢 江 島 百里花光を望み 君は漢江の島に居る 相思ひて 落暉に愁ふ あひわも らくき うれ 秋草秋蛾飛び しうさう しうがと 此の地 秋草を生ず ニちしうさうしやう 一たび雲雨の別れを為し ひと うんう わか な 往来白道を成す わうらい はくだう な ひやくり くわくわう のぞ きみ かんかう しま を せふ しようりよう ひがし あ 3百 里 望 花 光 4往 來 成 白 道 5一 爲 雲 雨 別 6此 地 生 秋 草 7秋 草 秋 蛾 飛 8相 思 愁 落 暉 9何由一相見 ナ燭解羅衣 なに よ ひと あひみ 燭を滅して羅衣を解かん しよく めつ ら い と 何に由りてか一たび相見 1妾 ﹃王埼本﹄はコ作﹃昔﹄﹂と注する。﹃宋本﹄は﹁昔﹂ ︻校 語︼ 春 ﹃宋本﹄﹃分類補注本﹄は﹁春﹂に作る。下句の﹁漢 に作り、コ作﹃妾﹄﹂と注する。 江﹂との対の関係で、ここでは地名が置かれるのが 自然であるが、﹁春陵﹂という地名は一般に見られ 4白道 ﹃王埼本﹄はこの句の下に﹁一作﹃日日采薩蕪、 ない。従って﹁春陵﹂がよいであろう。 上山成白道﹄。又﹃百里﹄、粛本作三日﹄﹂と注する。 薩蕪、上山成白道﹄﹂と注する。但し﹃分類補注本﹄ ﹃宋本﹄﹃分類補注本﹄﹃全唐詩﹄はコ作﹃日日採 は﹁採﹂を﹁采﹂に作り、﹁藤蕪﹂を﹁靡無﹂に作る。 また﹃全唐詩﹄は﹁採﹂を﹁采﹂に作る。﹃李詩通﹄ いる。 はこの二句を﹁日日采藤蕪、上山成白道﹂に作って 8暉 ﹃宋本﹄﹃成淳本﹄は﹁輝﹂に作る。 ?゚ ﹃王埼本﹄はこの句の下に﹁末二句=作﹃昔 9由 ﹃李詩通﹄は﹁時﹂に作る。 時携手去、今時流涙蹄。遙知不得意、玉筋黙羅衣﹄ 一58一 10 10 句の下に=本無此二句、﹃落暉﹄下有﹃昔時携手去、 鮎羅衣﹄﹂と注する。﹃李詩通﹄﹃全唐詩﹄は、この 下添﹃昔時撰手去、今時流涙蹄。遙知不得意、王筋 四句﹂と注する。﹃宋本﹄はこの句の下に﹁一本﹃輝﹄ 人ノ行跡多ヶレバ、草不レ能い生ズル、遙ヵ二望メバ白 4白道 ﹃王埼本﹄﹁洗脚亭﹂の注に﹁白道,、大路也。 では春の光景を言うか。 日二花光動キ、迎いテ風ヲ香氣來タル﹂とある。ここ 3花光 花の輝き。陳後主の﹁梅花落二首、其一﹂に﹁映じテ 参照︶。 5雲雨 ﹁巫山雲雨﹂の故事を踏まえる︵﹁其四﹂の注を 也。﹂とある。 道暁霜二迷フ﹄、章荘ノ﹃白道向励ッテ村二斜ナリ﹄、是 色ナリ。故二日コ白道叫。唐詩多ク用の之ヲ。鄭谷ノ﹃白 今日流涙蹄。遙知不得意、玉筋鮎羅衣﹄四句﹂と注 する。 ︻詩型・韻字︼ ︵皓韻︶飛・暉・衣︵微韻︶ 7秋草 前の句の句末の二字を繰り返し用いる。いわゆ る﹁蝉聯体﹂の技法。 歌十八首﹂第四首目に﹁開けバ窟ヲ秋月ノ光、滅ρテ 五首﹂︵﹃楽府詩集﹄巻四四﹁清商曲辞一﹂︶中の﹁秋 一59一 五言古詩。島・道・草 ︻語 釈︼ 0其七 この詩は、女性から男に寄せるという設定に 呉均の﹁與柳憧相贈答詩六首、其五﹂に﹁寒轟 始メテ鳴キ、秋蛾号初メテ飛ブ﹂とあり、また、梁の 隠ルテ壁二思ヒ、秋蛾続のテ燭ヲ飛ブ﹂とある。秋の寂 秋蛾 秋の蛾。梁の江滝のコ扇上繰書賦﹂に﹁促織分 1妾 女性の一人称。 しげな情景を描くときに用いる。 なっている。安旗主編﹃李白全集編年注釈﹄も﹁此ノ 春陵 ﹃通典﹄巻一七七﹁随州・果陽︵県︶﹂の条に﹁漢ノ 8落曜 夕日を言う。老いへの恐れを暗示している。 詩モ亦タ自.フ代川テ内二贈ル。﹂と注する。 春陵、故城ハ在コ今ノ縣ノ東≡。﹂とある。今の湖北 そうよう 省棄陽県。李白と妻・許氏の居所のあった安陸は、 える湖陽は、北約三〇キロに位置する。 燭ヲ解コ羅裳↓﹂とある。 ゚ うすぎぬの衣の帯を解く。﹁子夜四時歌七十 2漢江 湖北省を東南に流れ、武漢において長江に合流 その東南約一五〇キロに位置し、また﹁其四﹂に見 する大河。 10 ︻通 釈︼ 私は春陵の東に居て、あなたは漢江の島にいらっしゃ る。 春のある日、家の外を眺めてみると、輝くばかりの花々 が満ち溢れ、前の大通りは人の往来で路面も白くなって いた。 秋の草が生い茂るようになってしまった。 ひとたびあなたと雲雨の別れをしてからは、この地も 秋の草には秋の蛾が飛び交い、私はあなたを思って、 暮れ行く日の光を愁えている。 どうすれば、あなたと再び出会って、ともしびを消し、 うすぎぬの衣の帯を解くことができるのだろう。 o其八 其の八 そ はち 1憶昨東園桃李紅碧枝 ぽふ鴫ふ 薦融の棚李 矩繧 の機 4令人行嘆復坐思 3金瓶落井無消息 2與君此時初別離 坐して思ひ行きて歎じ楚越を成す 人をして行きて嘆じ復た坐して思 金瓶 井に落ちて消息無く 君と此の時初めて別離す きみ こ と き は じ べ つ り 5坐思行歎成楚越 春風 玉顔錆敏を畏る しゆんぷう ぎよくがん せうけつ おそ ざ おも ゆ たん そえつ な はしむ ひと ゆ たん ま ざ おも きんぺい ゐ お せうそくな 6春風玉顔畏錆敏 へきそう ふんぷん らくくわ くだ 碧窓 粉粉として 落花を下し せいろう せきせき めいげつむな ふた み 青楼 寂寂として 明月空し びず いま いた うれひ かん うかが しの 空しく錦字を留めて心素を表す むな きんじ とど しんそ へう た あひわも 但だ相思ふ 両つながら見ず A相思 今に至るも愁を絨して窺ふに忍 7碧窟粉粉下落花 8青棲寂寂空明月 9雨不見 留錦字表心素 轄。絨愁不忍窺 1紅 ﹃成淳本﹄は﹁花﹂に作り、﹁一作﹃紅﹄﹂と注する。 ︻校 語︼ 4嘆 ﹃宋本﹄﹃分類補注本﹄﹃成淳本﹄﹃李詩通﹄﹃全唐詩﹄ は﹁歎﹂に作る。 5坐思 ﹃成淳本﹄は=本無下﹃坐思﹄二字﹂と注する。 6錆歌 ﹃成淳本﹄はこの句の下にコ本云﹃楚越春風 7留 ﹃宋本﹄は﹁惚﹂に作り、﹃分類補注本﹄﹃李詩通﹄ 畏錆駄﹄﹂と注する。 は﹁臆﹂に作る。 11空留 ﹃成淳本﹄は二本無此二字﹂と注する。 表 ﹃分類補注本﹄は﹁素﹂に作る。 ︻詩型・韻字︼ 長短句︹雑言︺古詩。枝・離・思︵支韻︶越・駄・月 一60一 12 11 10 ︵月韻︶思・窺︵支韻︶ 4行嘆復坐思 南朝・宋の飽照﹁擬行路難、其四﹂に﹁人 生亦タ有山命、安クンゾ能ク行キテ歎ン復タ坐シテ愁ヘン﹂ いう設定になっている。安旗主編﹃李白全集編年注 成楚越 ﹁楚﹂は湖南・湖北一帯、﹁越﹂は漸江省一帯。 の技法。 5坐思行歎前の句の語を繰り返す。いわゆる﹁蝉聯体﹂ 釈﹄は﹁此ノ詩モ亦タ自.フ代いリテ内二贈ル。首ノニ ﹁成楚越﹂とは、男女二人がお互いに遠く離れてい とある。 句ハ謂和初メテ入ユ長安く之行担。﹂と注する。 言っているわけではないであ◆ろう。 ることの喩え。必ずしも、実際の両者の位置関係を 0其八 この詩も女性の一人称で、女性が男に寄せると 1東園桃李 三国魏の玩籍﹁詠懐詩、其三﹂︵﹃文選﹄巻 ︻語 釈︼ 二三︶に﹁嘉樹下成以践ヲ、東園桃ト與レ李﹂とある。 紅碧 花の赤と葉の緑を言う。 はなは まさ を言う。南朝・宋の飽照﹁行薬至城東橋﹂︵﹃文選﹄ 巻二二︶に﹁容華坐ダ消歌シ、端二爲に誰ガ苦辛ス﹂ 一61一 6鋪歌 消え失われること。ここでは美貌が衰えること ママ 南王篇﹂︵﹃楽府詩集﹄巻五四﹁舞曲歌辞三﹂︶に﹁後 7碧宙 碧紗を掛けた窓。女性の部屋を暗示する。 とある。 3金瓶落井無消息 ﹁金瓶﹂は金のつるべ。楽府の﹁准 園馨けテ井ヲ銀三ア作川抹ヲ、金瓶素綬汲ユ寒漿↓﹂と ︵字は若蘭、武功の人︶が、秦州刺史の任のため遠 留錦字表心素 北朝・前秦時代の賓稲の妻・蘇意 8青楼 ﹁其二﹂の注を参照。女性の住む建物を言う。 ある。﹁金瓶落井﹂とは、つるべを︵深い︶井戸に 落とすと、果てしなく落ちて行くということから、 え。斉の釈宝月﹁佑客楽二曲、其二﹂に﹁有ルバ信 しズしズ 勤、寄吐書ヲ、無けレパ信心二相憶フ。莫∪作ス瓶 百余字から成り、縦横、逆から読んでも文意が通じ 一度去ってしまうと行方が知れなくなるという喩 落川スヲ井二、一タピ去レバ無⊃消息一。﹂とある。なお、 ︵﹃晋書﹄巻九六﹃列女伝﹄の﹁窟稲妻蘇氏﹂、﹃文 るという詩︶を作って贈ったという故事を踏まえる 苑英華﹄巻八三四所収の則天武后﹁蘇氏織錦回文記﹂ く離れて住む夫に、五彩の48を織り、回文旋図詩︵八 後はなんの音もしなくなるように、相手からは何の 音沙汰もなくなった、という方向で解釈している。 大野実之助﹃李太白詩歌全解﹄は、つるべが落ちた 11 等を参照︶。﹁素﹂は心が純粋であるという意である てきそうだから︶。 気にはなれない︵なぜなら封じ籠めた愁いがまた溢れ出 そ く 其の九 ちゃうたん しゆんさうみどり きざはし よ じやうあ リグロと 長短 春草緑に けんし ニニろひと くる 階に縁り 情有るが如し ちうきやく し ま い 巻施 心独り苦しみ もの み せふ い し 抽却するも死して還た生く 物を観て妾が意を知れ ねが きみ ニうてい う かんじ まさ さいたつ 希はくは君 後庭に種えん これ おも あひかろ なか 閑時 当に採綴すべし ︻校 語︼ 此を念ひて相軽んずる莫れ ては思っている。 は﹁門﹂に作る。 0其九 1長短春草緑 2縁階如有情 3巻施心掲苦 4抽却死還生 5観物知妾意 6希君種後庭 7閑時當採綴 8念此莫相輕 座しては嘆き、歩いては思い、いつの間にか、二人の 距離は楚と越ほどにも離れてしまう。恐ろしいのは、春 3菟 ﹃分類補注本﹄﹃全唐詩﹄﹃唐宋詩醇﹄は ﹁施﹂に ﹃宋本﹄ と同時に、手紙の縁語としての白絹の意も暗示して いる。 O愁 ﹁絨﹂は本来、手紙を入れる箱を封じる紐のこと。 ここでは愁いを籠めた手紙に封をすることを言う。 陳の江総﹁七夕﹂に﹁横波翻ッテ潟ば涙ヲ、束素 反ッテ絨以愁ヲ﹂とある。 ︻通 釈︼ 懐えば以前、東園の、赤き花・緑の葉をつけていた桃 李の枝の下、あなたとこの時はじめてお別れした。 金のつるべが井戸に落ちれば、もはやその行方はわか 風が私の美しい顔を消し去ってしまうこと。 作る。 らない。あなたもそれと同じ。私は歩いては嘆き、座し 緑紗のかかった窓には、粉々として花が散り、青い楼 閣には、寂々として空しく明月が昇っている。 7採 ﹃李詩通﹄は﹁采﹂に作る。 4却 ﹃全唐詩﹄﹃唐宋詩醇﹄は﹁郁﹂に作る。 8閑 ﹃全唐詩﹄は﹁聞﹂に作る。 2階 ﹃王埼本﹄は﹁ 本作﹃門﹄﹂と注する。 二人は会えない、ただ慕い続けるだけ。 空しく錦の字をしたためて、一途な心を述べてみたい。 愁いを籠めて封をしたけれど、もう、どうしても見直す 一62一 12 そらく庚韻・青韻を通韻としている︺ ︻詩型・韻字︼ 5親物 ﹁観﹂は観る。 ﹁物﹂は﹁巻施﹂を指す。 4抽却 抜き取る。 ては未詳。 ︻通 釈︼ 7採綴 摘み取る。 6後庭裏庭。 五言古詩。情・生︵庚韻︶庭︵青韻︶ 輕︵庚韻︶︹お ︻語 釈︼ 主編﹃李白全集編年注釈﹄も﹁此ノ詩モ亦タ自.フ ︵あなたがいなくなってから︶長短さまざまの春草は 0其九 この作品も女性の一人称で語られている。安旗 8巻蕗心濁苦 ﹁巻施﹂は﹁巻施﹂とも書く。植物の一 代いリテ内二贈ル﹂と注する。 のように生えている。 緑に色づき、きざはしに沿って、あたかも情けがあるか と、枯れてはまた生き返る。 中でも巻施草は、独り苦しそう。芯を引き抜いてみる 種で、別名﹁宿葬﹂という。﹃芸文類聚﹄巻八一﹁薬 草、抜けモ心ヲ不レ死セ。﹄宿葬草也。﹃離騒﹄二日ク﹃多ク 香草部上﹂の﹁巻施﹂の条に﹁﹃爾雅﹄二日ク﹃巻施 どうか、裏庭にでも植えてくださいますように。 この、いじましい草を見て、私の心も察して欲しい。 と 越志﹄二日ク﹃寧郷縣ノ草多⇒巻施↓抜けモ心ヲ不レ死セ。 そして、閑な時にでも摘み取ってみて下されば、その ︵﹁楚辞﹂では﹁夕﹂に作る︶撹ユ華州之宿葬↓。﹄﹃南 江准ノ間謂コ之ヲ宿葬↓。﹄﹂とあり、﹃楚辞﹄﹁離騒﹂ おろそかになさらないでおいてください。 耐え忍ぶ強さがおわかりになるはず。この草も私と同様、 書を寄す 白鶉鵡 しよ よ はくあうむ 筆題す 月支の書 ひつだい げつし しよ 魯縞は玉霜の如し うかう ぎよくさう ひぞ と 其の十 そ じふ の王逸注に﹁草冬二生“ン不W死セ者、楚人名ヅヶテ日コ 0其十 1魯縞如玉霜 2筆題月支書 3寄書白鶉鵡 宿葬↓。﹂とある。つまり、草の芯の部分を抜き取っ ても死なないという、生命力の強い植物。ここでは、 女性の愛情・貞操の堅さを暗示している︵郁賢皓﹃李 白詩選﹄の説︶。また、﹁苦﹂とは、﹁心苦しい﹂と いう意と、﹁にがい﹂という意を掛けた表現と考え られるが、この草がにがいものであるか否かについ 一63一 4西 海 慰 離 居 5行 敷 難 不 多 6字 字 有 委 曲 7天 末 如 見 之 8開 絨 涙 相 績 9涙 蓋 恨 韓 深 逞「同此心 且v千萬里 12一書直千金 せいかい りきよ なぐさ 西海 離居を慰めん ぎやうすう おほ いへど 行数 多からずと難も じ じ いきよくあ 字字 委曲有り てんまつ も これ み かん ひら なみだあひつづ 天末 如し之を見ば 絨を開いて涙相続かん なみだつ うら うた ふか 涙尽きて恨み転た深く せんリ ニ ニニろ わな 千里 此の心と同じからん あひおも せんばんり いつしよ あたひ せんきん 相思ふこと 千万里 此心 ﹃王埼本﹄はこの句の下に﹁膠本作﹃千里若在眼、 若在眼、萬里若在心﹄﹂と注する。 萬里若在心﹄﹂と注する。﹃全唐詩﹄も﹁一作﹃千里 ︵魚韻︶曲・績︵沃韻︶深・心・金 シ ﹃全唐詩﹄は﹁値﹂に作る。 ︻詩型・韻王 ︵侵韻︶ 五言古詩。書・居 ︻語 釈︼ う設定。安旗主編﹃李白全集編年注釈﹄は﹁此ノ詩 一書 直 千金 2筆﹃王埼本﹄﹃宋本﹄﹃全唐詩﹄は﹁一作﹃勇﹄﹂と注 0其十 この詩は、妻が遠く旅先にある夫に寄せるとい する。 作る。 注本﹄﹃李詩通﹄﹃全唐詩﹄﹃唐宋詩醇﹄は﹁氏﹂に 魯郡劉長史遷弘農長史﹂にも﹁魯縞如⇒白姻↓﹂と 魯縞ハ、魯地ノ所レ作ル之縛。﹂と注する。李白の﹁送 埼本﹄は﹁顔師古﹃漢書註﹄、縞ハ、縛之精白ナル者。 ー魯縞 魯地方︵現在の山東省︶に産する白い絹。﹃王 4慰 ﹃王埼本﹄は﹁膠本作﹃畏﹄﹂と注する。﹃宋本﹄ 韓深、千里同此心﹄﹂と注する。 にこの句の後に﹁萬里若在心﹂の句がある。﹃李詩通﹄ 氏﹂の注に﹁﹃氏﹄音ハ﹃支﹄。涼・粛・瓜・沙等ハ、 唐の張守節﹃史記正義﹄巻一二三﹁大宛列伝﹂の﹁月 2月支 ﹁月氏﹂とも書く︵﹃史記﹄﹃漢書﹄︶。音は同じ。 として知られていた。 ある。古くから、純白で軽やかな肌触りの絹︵素︶ ッ此心 ﹃宋本﹄﹃李詩通﹄は﹁若在眼﹂に作り、さら は﹁畏﹂に作る。 支﹃王埼本﹄は﹁粛本作﹃氏﹄﹂と注する。﹃分類補 當に作ユ魯地.㌔。﹂と注する。 ベシ ︻校 語︼ 12 は、この﹁若在心﹂の句の下に、﹁今本作﹃涙蓋恨 一64一 11 10 10 本ト月氏國之地。﹃漢書﹄二云フ﹃本ト居ユ敦煙・那 8絨 手紙︵あるいは手紙を入れる箱︶を綴じる紐。﹁其 シ ﹁値﹂に同じ。 八﹂の注を参照。 あった、いわゆる河西回廊一帯を言う。 連ノ間ご是也。﹂とある。ここでは、もと月氏国の とから、手紙を運ぶ使者としての着想を得たのであ 注する。おそらく鶉鵡が人の言葉を話せるというこ 寄以書ヲ、事奇ナレドモ而未げ詳けヵニセ所”本ヅク﹂と この手紙を白い鴉鵡に託して、西の海に離れて住む夫 をしたためている。 玉霜のごときこの魯のしろぎぬに、月氏の地への手紙 ︻通 釈︼ 3白鶉鵡 ﹃王埼本﹄はこの句について﹁用ユテ白鶉鵡↓ ろう。﹃初学記﹄巻三〇﹁鶉鵡﹂の条所引の﹃南方 を慰めたい。 を尽くしたつもり。 行数は決して多くない。しかし、一字一字には、委曲 大ナルコト如⇒鴎鵠↓ ︵ふくろう︶。 一種ハ五色、 開いたまま、涙がとめどなく流れることだろう。 天の果て、もしあなたがこの手紙を見たならば、封を 大ナルコト如コ烏臼↓ ︵くろもず︶。 一種ハ白、 大ゴリ於青キ者↓リ。交州・巴南蓋ク有の之。﹂という。 異物志﹄によれば﹁鶏鵡二有]三種一。青キハ、 また、南宋の萢成大﹃桂海虞衡志﹄巻六﹁志禽﹂に はず。千里の彼方に離れていても、二人の心はいつも同 じなのだから。 その涙が枯れはてても、無念の気持ちは、一層強まる 千万里も離れて、お互いに思い合っている。だからこ ﹁鶏鵡多⇒於金沙江邊∼、五色倶備ス。亦タ有]白鶉 4西海 西の果ての海。﹁東海﹂と対を成す。あるいは、 で﹁白鶉鵡﹂を登場させたのも、不思議ではない。 そ、一通の手紙も、千金に値する。 鵡一。﹂とある。李白は白色を好んだ詩人であるの ﹁海﹂は砂漠を指すこともあるので、西域の砂漠地 0其十一 美人去って後 美人在りし時 其の十一 びじんさ のち をう堂t; そ じふいち 1美人在時花浦堂 空∼花2 帯を言うか。また、漢代にあった西海城︵現青海省︶ を指している可能性もある。 2美人去後餓空林 びじんあ とき 7天末 天の果て。南朝・宋の謝荘﹁月賦﹂︵﹃文選﹄巻 は おさ =二︶に﹁氣露コ地表≡、雲敏ゴル天末≡。﹂とある。 躰も 一65一 12 3林 中 繍 被 巻 不 寝 鉢 中 の 繍 被 は 巻 い て 寝 ね ず に作り、﹁一作﹃巻不寝﹄﹂と注する。﹃又玄集﹄は﹁寛 ﹁一作﹃更不巻﹄﹂と注する。﹃李詩通﹄は﹁更不巻﹂ しやうちゆう しうひ ま い 不掩﹂に作る。 いま い た さ ん ざ い よ か う き 5香亦寛不滅 香も亦た寛に滅せず 4至今三載聞鈴香 今に至って 三載 余香を聞く かう ま つひ めつ 4聞鹸 ﹃王埼本﹄は﹁一作﹃猶聞﹄﹂と注する。 ひと ま つひ き 6人亦寛不來 人も亦た寛に来たらず と注する。﹃全唐詩﹄は﹁猶聞香﹂に作り、コ作﹃聞 飴香﹄﹂と注する。﹃又玄集﹄は﹁猶聞香﹂に作る。 聞鉾香 ﹃宋本﹄﹃分類補注本﹄は﹁一作﹃猶聞香﹄﹂ 7相思黄葉落 相思へば 黄葉落ち はくろ せいたい うるほ 8白 露 渥 青 苔 白 露 青 苔 を 湿 す 7落 ﹃王埼゜本﹄﹃李詩通﹄﹃全唐詩﹄は﹁一作﹃蓋﹄﹂と 8漏 ﹃王埼本﹄﹃宋本﹄は﹁一作﹃鮎﹄﹂と注する。﹃全 ↑ 注する。﹃威淳本﹄は﹁蓋﹂に作る。 あひわも くわうえふお 0其十一 ﹃王埼本﹄はこの下に﹁此首一作﹃贈遠﹄﹂と ︻校 語︼ 注する。﹃宋本﹄は﹁蓋﹂に作り、コ作﹃落﹄﹂と 唐詩﹄は﹁黙﹂に作り、=作﹃淫﹄﹂と注する。﹃又 弍 注する。﹃宋本﹄もこの詩の末尾に同様の注を付す。 収録し、詩の末尾に﹁此首一作﹃寄遠﹄﹂と注する。 ﹃李詩通﹄はこの詩を﹁長相思三首﹂の第三首目に 玄集﹄は﹁黙﹂に作る。 と注する。唐・土早荘編﹃又玄集﹄巻上は、この詩を 韻︶ 長短句︹雑言︺古詩。堂・林・香︵陽韻︶來・苔︵灰 ︻詩型・韻字︼ 目に収録し、﹃全唐詩﹄は末尾に﹁此篇一作﹃寄遠﹄﹂ また﹃全唐詩﹄﹃唐宋詩醇﹄は﹁長相思﹂の第二首 2鹸 ﹃全唐詩﹄は﹁空﹂に作り、﹁一作﹃花﹄﹂と注する。 ﹁長相思﹂として収めている。 3淋 ﹃又玄集﹄は﹁床﹂に作る。 淋 ﹃又玄集﹄は﹁床﹂に作る。 鹸﹂に作り、コ作﹃飴空﹄﹂と注する。 る。なにより文字の異動の多さが、この詩の流布の うで、晩唐期の詞華集﹃又玄集﹄にも収録されてい 0其十一 この詩は、つとに唐代から評判が高かったよ ︻語 釈︼ 鹸空 ﹃又玄集﹄は﹁空除﹂に作る。﹃全唐詩﹄は﹁空 巻不寝 ﹃王埼本﹄﹃宋本﹄﹃分類補注本﹄﹃全唐詩﹄は 保天随・大野実之助ともに、男の立場から歌ったも 男の一人称として解釈するほうが自然であろう。久 解釈できるが、やはり、素材の用い方から考えて、 るかによって、男の一人称、女の一人称いずれにも 香りは滅することなく、あの人がふたたび戻ってくる 名残の香りが漂っている。 ない寝台を空しく余しているばかりである。 今に至って、三年の月日がたったのに、なお部屋には のようであったのに、美人が去ってしまった後は、人気 ︻通 釈︼ 美人が居たときは、この座敷も花が満ち溢れているか 広さを物語っている。﹁美人﹂を男と取るか女と取 のとして解釈している。久保天随は、おそらく女性 o其+二 きみ其ぷの汁仁けんーよくあい 7恩情娩髪忽爲別 認情の疏瀕んご拍別れを為糺 6夜同鴛鴛之錦哀 夜には鴛鳶の錦袋を同じくす ん う ゑ ん た か な お じや んら ちま わ よる えんあう きんきん おな あした らうかん きしよく とも 4情不極分意已深 情極まらず意已に深し 5朝共狼升之綺食 朝には瑛牙の綺食を共にし じやうきは いすで ふか む 3隣君泳玉清週之明心 君が泳玉清迎の明心を憐れ よき うぎ よくせいけい めいしん あは ひ み 2若可喰号難再得 喰すべきが若く 再び得難し 1愛君芙蓉嬉娼之監色さん 君が芙溶埠娼初惜逸鮭愛す そ じふに いる。 君を思えば、黄葉は散り行き、白露は青い苔を潤して ことはない。 が死んでしまったのであろうと推測し、また大野実 之助は、李白が高貴な女性のもとへ行ったところ、 女性が不在であったので、この詩を書いたのであろ うと推理している。 1堂 奥座敷。 2淋 ベッド。寝台。 3繍被 刺繍を施した掛け布団。 巻不寝 掛け布団を畳んだまま、眠らない。 4聞香を嗅ぐ。 7黄葉 秋に黄色に染まって落ちる葉。落葉は、盛唐以 前は﹁黄葉﹂とされることが多かったが、中唐以降、 とりわけ白居易の後は﹁紅葉﹂と表現されることが 多くなった。色彩的な好みの変遷が窺える﹁詩語﹂ である。 8使人莫錯乱愁心 人をして愁心に錯乱すること莫か らしめよ 一67一 壽型・韻字︼ しうしん みだ 涕は雪の如し 愁心に乱るれば なみだ ゆき ごと カ如雪 ︵侵韻︶雪・絶︵屑韻︶ 髪・越・鞍︵月韻︶來・墓︵灰 9乱愁心 かんとう ゆめ いと こんた ほっ 寒燈 夢を厭ひて魂絶えんと欲し さ き さうし はくはつ しやう えいえい かんすゐ ニ ごと 覚め来たって相思 白髪を生ず をし なみ しの らばつ ほ 盈盈たる漢水 越ゆべきが若きも 0其十二 この詩も男から女へ寄せるという設定。但し、 ︻語 釈︼ 韻︶ 長短句︹雑言︺古詩。 色・得︵職韻︶心・深・会・心 H寒燈厭夢魂欲絶 來相思生白髪 m盈漢水若可越 ツ惜凌波歩羅鞭 るを 安旗主編﹃李白全集編年注釈﹄は﹁此ノ詩白ノ在ユノ 惜むべし 波を凌いで羅繊に歩す びじんびじん かへ てううんぽ う な やうだい と ?l美人分蹄去來 美人美人 帰りなんいざ 盈﹄二句、﹃美人﹄二句、擬スルニ爲コ許氏之語一。﹂ 長安=時期二贈W内二之作、其ノ中﹃憐君﹄二句、﹃盈 2若 ﹃王埼本﹄は﹁瀟本作﹃色﹄﹂と注する。﹃分類補 ︻校 語︼ れる。この詩は、詩中に﹁号﹂字を多く含むことか の一人称として解釈したが、男の一人称とも考えら 称計七首、女の一人称計五首。うち﹁其四﹂は、女 恪?ゥ雲暮雨分飛陽 塁 朝雲暮雨と作って陽台に飛 な ぶこと莫からん 注本﹄﹃全唐詩﹄は﹁色﹂に作る。 る。 らもわかるように、楚辞調︵辞賦体︶で書かれてい と注する。﹁寄遠十二首﹂全体としては、男の一人 3泳 ﹃李詩通﹄は﹁氷﹂に作る。 隙﹃宋本﹄﹃奉・詩通﹄﹃全唐詩﹄は﹁餐﹂に作る。 1芙蓉 女性の顔の美しさを言う。﹃西京雑記﹄巻二に レ ﹃宋本﹄﹃成淳本﹄﹃李詩通﹄は﹁機﹂に作る。 若⇒芙蓉↓。﹂とある。 ﹁︵卓︶文君妓好、眉色如け望コガ遠山↓、瞼際常二 7椀嬰 ﹃成淳本﹄は﹁一本無此二字﹂と注する。 驩J今 ﹃王埼本﹄は﹁膠本訣﹃暮雨分﹄三字﹂と注 三字がないが、注によって補っている。 する。﹃宋本﹄はこの三字がない。﹃成淳本﹄もこの 輝媚 女性の美しさを言う畳韻の語。﹃広韻﹄﹁仙韻﹂ 2可潰 ﹁喰﹂は﹁餐﹂に同じ。食べてしまいたくなる に﹁握娼、好貌。﹂とある。 一68一 10 14 13 12 16 15 16 14 6鴛鴛之錦塞 鴛鴛の縫いとりのある錦の掛け布団。 ﹁哀﹂は夜具の意。﹃西京雑記﹄巻一に、趙飛燕の い食物。 秀色若蹄可時ガ餐ス﹂とある。 妹が趙飛燕に贈った品物として、﹁鴛鴛嬬、鴛鴛被、 出東南隅行﹂︵﹃文選﹄巻二八︶に﹁鮮膚一二何ゾ潤ナル、 3憐君 安旗主編﹃李白全集編年注釈﹄は、これ以下の 鴛鳶褥﹂等が挙げられている。また、初唐の陳子昂 ほど美しい。特に女性の肌を三ロう。西晋の陸機﹁日 二句を、許氏から李白への言葉とするが、取らない。 綺一、復タ有コ鴛鴛ノ蓑一﹂とある。 ﹁鴛鴛篇﹂︵﹃全唐詩﹄巻八三︶に﹁聞ク有ユヲ鴛喬ノ 7碗嬰 本来、女性の美しさを言う畳韻の語。﹃韻会﹄ 操の堅さと判断されるため、﹁君﹂は男性でなく、 女性を指すと考えるほうが自然であろう。 ﹁泳玉清週之明心﹂の語は、女性の愛する男への節 泳玉清迦之明心 ﹁泳玉﹂は心を喩える。氷の玉のよ のを指している。 に﹁碗饗、美好也。﹂とある。ここでは女性そのも カ如雪見慣れない表現。涙を雨に喩える表現は多い 川﹂﹁銀河﹂。この二句は牽牛・織女の七夕伝説を踏 一69一 うに澄みきった心ということで、女性の男性に対す る変わらぬ貞節の比喩として用いられる。類似表現 が、ここは韻字の関係で﹁雪﹂としたか。あるいは m盈漢水 ﹁盈盈﹂は満ち溢れる様。﹁漢水﹂は﹁天の そそ としては、南朝・宋の飽照﹁代白頭吟﹂︵﹃文選﹄巻 ﹁雪ぐ﹂の意で、動詞と解釈すべきか。待考。 さを言っている。﹁週﹂は遥かなさま。﹁清週﹂で、 九︶の﹁盈盈タリ一水ノ間、詠脈トシテ不レ得レ語ルヲ﹂ 名な﹁古詩十九首﹂の﹁逼追牽牛星﹂︵﹃文選﹄巻二 を踏まえる。なお、安旗主編﹃李白全集編年注釈﹄ まえる。表現としては、七夕を歌ったものとして著 5娘葺之綺食 ﹁狼汗﹂とは、﹃准南子﹄﹁墜形篇﹂等に どこまでも清らかなこと。飽照の﹁舞鶴賦﹂︵﹃文選﹄ 見える昆嵜山に生えるという﹁瑛汗樹﹂のこと。そ するが、取らない。 は、これ以下の四句を、許氏から李白への言葉と解 ス歩羅轄 うすぎぬの足袋で波を越えて歩いて行く。 の実は仙界の美味な果実として知られる。三国魏の タニ宿ス丹山ノ際﹂とある。﹁綺食﹂は、豪華で美し 玩籍﹁詠懐詩、其四十三﹂に﹁朝二餐ス娘汗ノ實、 巻一四︶に﹁抱コ清週之明心↓﹂とある。 玉壼ノ泳↓﹂が挙げられる。これも女性の節操の堅 二八︶にある﹁直キコト如コ朱糸ノ縄↓、清キコト如⇒ 10 13 14 三国魏の曹植﹁洛神賦﹂︵﹃文選﹄巻一九︶の﹁陵財デ 分もあるので、この解釈では釈然としない。ここは、 週之明心﹂と、妻の節操の堅さを誉め讃えている部 しの ︵五臣注は﹁凌﹂に作る︶波ヲ微歩スレバ、羅鞭生以 女性が履くものとして詩に登場する。例えば、李白 間でないもの︶と人間といった、遠い別々の世界の くるから、君が雲雨になってしまい、二人が雲雨︵人 ﹁美人︵妻を指す︶よ、私は必ず近いうちに帰って の﹁玉階怨﹂に﹁玉階生ジ白露一、夜久シゥシテ侵コ 存在となってしまうこともない。生身の人間どうし 塵ヲ﹂とあるのを踏まえる。﹁羅鞭︹機︺﹂は、普通、 羅穂場﹂とある。 最後の二句の伏線になっており、そこでは楚王と女 解釈したい。ちなみに第十一句目の﹁夢﹂も、この とを暗示している。だからこそ、末尾二句は、現実 神のように夢の中でしか愛し合うことができないこ として愛し合うことができるのだ﹂といった方向で 現を踏まえる。 ャ去來 ﹁さあ、帰ろう﹂という意。﹁去来﹂は通説で は語調を整える助字。陶淵明の﹁帰去来分辞﹂の表 ゥ雲暮雨今飛陽憂 楚王と巫山の女神の、いわゆる﹁巫 世界での生身の出会いを語っていると考えるほう が、自然の流れとは言えまいか。いずれにせよ検討 山雲雨﹂の故事を踏まえる︵﹁其四﹂の語釈を参照︶。 を要する句である。 ここでは、巫山の女神が、陽台のもとで朝には雲と た言葉を転用している。ただ、この末尾二句は難解。 なり暮れには雨となり、楚王の前に現われると語っ ︻通 釈︼ 久保天随は﹁美人、美人、いざさらば、立ち去るも 善からうが、朝雲となり、暮雨となり、かの陽台の いる。その美貌は食べてしまいたくもなり、二度と得ら 私は、君のその芙蓉のように美しい艶やかさを愛して れるものではない。 あっては成らぬ。﹂と訳し、大野実之助もほぼ同様で、 末尾を﹁みだりに愛情にうつつを抜かすようなこと いとおしく思う。極まることのない情け、深い深い思い 私はまた、君のその氷の玉のように澄んだ高潔な心を 下に飛んで、楚王と、あらぬ浮名を流す様なことが とも妻の第三者との浮気を戒めているものと解釈し を。 があってはならぬ。﹂と解釈する。要するに、両者 ている。しかし、この詩の第三句目に﹁憐君泳玉清 一70一 15 16 かつては、朝には仙界の食べ物のように美味な食事を 共にし、夜には鴛鳶の刺繍をした錦の袋を共にした。 が、私の心を愁いで掻き乱さないでおくれ。 恩情をかけた美しい君と、ある日突然別れてしまった らと流れ落ちてしまう。 私の心は、愁いで乱れると、涙が雪のように、はらは 寒々としたともしびの中、夢も見飽きて、魂は断ち切 れそうになる。目覚めれば、君を思って、髪の毛も白く なる。 満々と水をたたえる天の川も、渡ろうと思えば渡れる が、︵私の方から渡って行こう。なぜなら、︶君が波を越 えようとしたら、君のうすぎぬの足袋は濡れてしまうだ ろう︵から︶。それはあまりに惜しまれる。 美人よ、美人、君のもとへ帰って行こう。もう、夢の しか会えない、などといった楚王と巫山の女神のような 中でしか会えない、うつつには雨や雲となって陽台にで 悲劇は繰り返すまい。 一71一