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雨水調整池における市街地面源負荷 削減効果向上策の
水工学論文集,第55巻,2011年2月 水工学論文集,第 55 巻,2011 年 2 月 雨水調整池における市街地面源負荷 削減効果向上策の提案 IMPROVEMENT OF STORM-WATER RESERVOIRS FOR REDUCTION OF NON-POINT POLLUTION FROM URBAN AREA 佐藤和博1・二瓶泰雄2・坂井純3・重松真奈美4・大野二三男5 湯浅岳史6・上原浩6・東海林太郎7・小倉久子8 Kazuhiro SATO, Yasuo NIHEI, Jun SAKAI, Manami SHIGEMATSU, Fumio Ono, Takashi YUASA, Hiroshi UEHARA, Tarou SYOUJI and Hisako OGURA 1 学生員 学(工) 東京理科大学大学院 理工学研究科土木工学専攻修士課程 (〒278-8510 千葉県野田市山崎2641) 2 正会員 博(工) 東京理科大学准教授 理工学部土木工学科(同上) 3 非会員 学(工) 千葉県県土整備部(元東京理科大学学部生) 4 非会員 東京理科大学学部生 理工学部土木工学科 5 非会員 学(工) 千葉県県土整備部河川環境課(〒260-8667 千葉市中央区市場町1-1) 6 正会員 修(工) パシフィックコンサルタンツ㈱(〒163-6018 東京都新宿区西新宿6-8-1) 7 非会員 学(工) パシフィックコンサルタンツ㈱(同上) 8 正会員 修(理) 千葉県環境研究センター(〒261-0005 千葉市美浜区稲毛海岸3-5-1) As a new measure for reduction of non-point pollution, we apply storm-water reservoirs in which basket mats are wholly and partially installed to improve flow patterns and increase residence time of particulate matter of non-point sources. To clarify the reduction effect of non-point sources using the improved storm-water reservoirs, we conducted field measurements on the bottom sediments in reservoirs located within the watershed of Lake Inba-numa. The measured results reveal that the improvement of the storm-water reservoirs may increase appreciably the trap effect of non-point pollution especially in the basket mats located near the inlet. These facts indicate that the partial improvements neat the inlets may be effective for the reduction of non-point sources in the whole watershed of Lake Inba-numa. Key Words :non-point source, storm-water reservoir, urban area, Lake Inba-numa, nutrient 1.はじめに 大都市域に隣接する内湾や湖沼では,富栄養化問題が 未だ顕在化しており,流域全体の総合的水質改善対策が 必須となっている 1).これまでに,下水道整備や工場排 水規制等が実施され生活系・産業系負荷等の点源負荷は 着実に削減されつつある.しかしながら,内湾や湖沼の 水質環境は必ずしも改善されておらず,さらなる汚濁負 荷削減のために点源負荷の余集合である「面源負荷」の 対策を推進して行くことが強く求められている 2)~4). 面源負荷は,市街地や農地等の地表面に広く薄く堆積 しているため,点源負荷と異なり効率的に収集するシス テムは無く,面源負荷削減のための方法論が十分に確立 されていない.これに加えて,都市開発の進展により, 都市・市街地起源の面源負荷が顕在化しつつある 3).例 えば富栄養化湖沼として名高い印旛沼では,市街地起源 の面源負荷は増加しており,全負荷に占める割合は COD で 50.4%,T-Nで 24.1%,T-P で 23.2%と非常に大きい 5). 市街地起源の面源負荷対策として,本来治水目的で作 られる雨水調整池の利活用が挙げられる. 雨水調整池は, 市街地から流出する雨水と共に汚濁物質を貯留・沈降さ せて面源負荷を削減することが可能であり,その一定の 効果は検証されている 6),7).しかしながら,雨水調整池 は汚濁負荷対策を意図して設計されていないため,調整 池内の流入口と流出口の配置が一直線上になるなど負荷 対策面から望ましくないものもある.このような場合に は, 滞留時間を増加させる簡易な工夫を施すことにより, 雨水調整池の負荷削減効果のさらなる向上が期待される. 本研究では,護岸工事に用いられるかごマット等を利 用して調整池内に流路を設け懸濁物質の滞留時間を長く する,という簡易な改良を施して,市街地起源の面源負 荷削減効果向上の程度に関する現地実証実験を行う.こ こでは,調整池全体にわたり流路を設ける案(以下,全 体改良と呼ぶ)に加えて,コストと負荷削減効率を考慮 S_1291 流出 表-1 調査対象の雨水調整池の概要 かごマット 遮水シート有 遮水シート無 調整池名 5m 加賀清水 調整池 次郎丸第 1調整池 次郎丸第 2調整池 流入 (a) 加賀清水調整池(全体改良) 供用開 貯留量 底面積 始 [m3] [m2] 2000年 4894 1851 9月 1996年 506 176 7月 1996年 196 76 7月 集水面積 改良期 改良 間 案 [km2] 2008年 全体 0.0294 5月 改良 0.0125 0.0125 2009年 10月 2009年 10月 部分 改良 部分 改良 流出 流入 袋状マット (遮水シート有) 袋状マット 遮水シート有 遮水シート無 袋状マット (遮水シート無) 2m 流入 流出 (b) 次郎丸第 1 調整池(部分改良) 流入 図-2 次郎丸第 1 調整池における改良後の様子 1m 流出 (c) 次郎丸第 2 調整池(部分改良) 図-1 雨水調整池における改良案(矢印の点線と実線は改 良前と後において想定される流況パターンを示す) して流入口付近にのみマットを設置する案(以下,部分 改良と呼ぶ),という 2 つの改良案を提示する.これら の改良効果を検証するために,市街地起源の面源負荷が 顕著な印旛沼流域内の雨水調整池を観測対象サイトとし, 全体改良を 1 箇所,部分改良を 2 箇所にて実施した.そ れらの調整池において,改良前後の堆砂量調査 6)や流入・ 流出口における SS負荷量を計測し,改良前後における土 砂・栄養塩(窒素 N,リン P)の負荷削減効果を比較し, 改良による面源負荷削減効果がどの程度向上したかを検 討する.さらに,これらの改良を印旛沼流域全体の雨水 調整池に展開した場合における面源負荷の削減量を試算 する.なお,本研究は,印旛沼・流域再生のために千葉 県が取り組む「印旛沼水循環健全化計画」の「みためし 行動」5)の一部として実施された. 2.雨水調整池の改良案 (1) 全体改良について 雨水調整池の改良を効果的に行うために,事前に印旛 沼流域の雨水調整池(合計 328 箇所)の特徴を整理した. その結果,雨水調整池の底面積は 100m2~100000m2と幅広 く変化していること,流入口と流出口の配置が「一直線 上」や「対角線上」にある場合が多いこと,常時水面を 有する所があることなどが分かっている.雨水調整池で は,底面積が大きいほど面源負荷削減量が大きくなるた め 6),大規模調整池(底面積 10000m2以上)よりも,小規 模調整池(同 100m2オーダー)や中規模調整池(同 1000m2 オーダー)の方が改良効果は得られやすい. そこで改良対象とする雨水調整池として,まず千葉県 佐倉市・加賀清水調整池を選定した.加賀清水調整池は 底面積 1851m2の中規模サイズに相当し(表-1),流入口 の正面に流出口が存在する「一直線上」の流入・流出口 の配置になっている(図-1(a)).そのため,流入し た汚濁物質はそのまま流出口に到達する恐れがあり,汚 濁物質の滞留時間の面から望ましい流入・流出口の配置 とは言えない.そこで加賀清水調整池に全体改良を施す ために,同図に示すように,中央部に遮水シートで囲ま れたかごマットを設置し,流入口付近では遮水シート無 しのかごマットをコの字状に,その他の場所では流路が 蛇行するようにかごマット(遮水シート無し)を配置し た.工事期間は 2008年 4 月 21 日~5 月 20 日である.この かごマットの幅は 1mであり,高さは調整池の死水容量に 相当する 0.30mである.遮水シートが無い場合,かごマッ ト内の詰石の隙間を水は移動し得るが,かごマットの流 体抵抗が大きいため,流入口付近では水が十分長く滞留 することが期待できる.また,水位がかごマット高さを 越える場合は,かごマットの配置が調整池内の流況に与 S_1292 える影響は小さい.しかしながら,市街地面源負荷にお いて卓越する降雨初期のファーストフラッシュ現象 8)を 想定すると,降雨初期には調整池内水位が低く,かごマ ットの影響を受けて滞留時間がより長くなるため,大き な負荷削減効果が期待できる. 3.現地調査方法 雨水調整池の負荷削減効果を把握するために,調整池 全体の堆砂量調査を行った.ここでは,調整池底面に長 方形の木枠(38cm×30cm)を置き,木枠内に堆積している 土砂を採取する.採取した土砂を乾燥させて質量を計測 し,それを木枠の面積で除し単位面積当たりの乾燥質量 を求め,調整池内に堆積している堆砂量分布や堆砂速度 (=堆砂量/供用年数)を算出する.また,採取した土 砂の粒径分布や窒素 N,リン P 含有量も計測し,それに 堆砂速度を掛けて粒径別堆砂速度や窒素・リン堆積速度 も算定する.全調整池にて改良前に 1 回,改良後に 2 回 の調査を行った.調査日と地点数としては,加賀清水調 整池では改良前(2006 年 12月 14 日)は 100地点,改良後 (2008 年 12 月 12 日と 2009 年 11 月 9 日)は 80 地点,次郎 丸第 1・第 2 調整池では改良前(2009 年 8月 14 日)は 49 地点,改良後 1 回目(2010 年 1 月 19 日)は 25地点,2回 目(2010 年 7 月 22 日)は 30地点である.分析方法として は,粒径にはレーザー回折式粒度分析測定装置 (SALD-3100,㈱島津製作所製),N や P にはオートアナ ライザー(swAAt,ビーエルテック(株)製)を用いた. これに加え,自記式測器による流入・流出口の SS負荷調 査を加賀清水調整池にて行った.流入口には流量計(断 総流出SSフラックス[t] (2) 部分改良について 後述する改良後における加賀清水調整池の堆砂状況よ り,流入口付近において汚濁物質トラップ効果が高いこ とが判明している.また,この改良を印旛沼流域全体の 調整池に展開することを考慮すると,改良コストを減ら し,設置作業も容易であることが望ましい.そこで,流 入口のみを囲うように根固め工等に用いられる袋状マッ ト(フィルターユニット)を配置することにより,汚濁 物質の沈降促進とコスト面,設置作業面に配慮した部分 改良を実施する.対象サイトは,図-1(b),(c)に示 すように,千葉県佐倉市の次郎丸第 1 調整池と次郎丸第 2 調整池である.表-1 に示すように,これらの調整池の底 面積は 100m2程度と小規模タイプに相当し, 流入口と流出 口の配置は次郎丸第一調整池では「一直線上」,次郎丸 第二調整池では「対角線上」にある.この部分改良とし ては,流入口付近を囲うように「L 型」に袋状マットを 配置し,遮水シートの有無を組み合わせて流路を形成し ている.ここでの袋状マットの高さも,調整池の死水容 量に合わせて 30cmとしている.工事日は 2009 年 10 月 26 日~11 月 4 日であり,設置後の様子を図-2 に示す. 0.10 改良前 改良後 削減率 0% 0.08 0.06 50% 0.04 0.02 0 80% 0.02 0.04 0.06 0.08 総流入SSフラックス[t] 0.10 図-3 改良前後における各降雨イベントの総流入・流出 SS 負荷量の比較(加賀清水調整池,全体改良) 面流速流量モジュール,Teledyne ISCO 製)と光学式濁度 計(Compact-CLW,JFE アドバンテック㈱製),流出口に は光学式濁度計(設置期間:2007 年 8 月~2009 年 3 月) を各々設置した.別途観測したファーストフラッシュを 含む降雨イベント時における濁度とSSの相関関係を算出 し,降雨時の流入・流出 SS負荷量を計算し,雨水調整池 における負荷削減率等を算定する.また,全調整池内に 小型水位計を設置し調整池内の水位連続観測も行った. 4.結果と考察 (1) 流入・流出 SS 負荷量の比較 まず,全体改良を行った加賀清水調整池において実施 された流入・流出 SS負荷量調査結果に基づいて,改良前 後において,各降雨イベント時の総流入・流出 SS負荷量 の相関関係を図-3 に示す.ここで対象とする降雨イベン トは,改良前では 2007年 8 月~2008 年 4 月における 31 イ ベント,改良後では 2008 年 5月~10 月までの 22 イベント である.また,図中の削減率とは,雨水調整池に流入す る総 SS 負荷量が流出せずに調整池内に留まる割合(=1 -総流出負荷量/総流入負荷量)を示している.これよ り,改良前における削減率は大きくバラツキがあるもの のおよそ 50%前後となっており,改良をしなくても雨水 調整池の面源負荷削減機能がある程度備わっている 7). それに対して,改良後では削減率は 80~90%まで上昇し ていることかが分かる.このように,簡易流路設置とい う改良案により雨水調整池の負荷削減効果が明確に向上 していることが明らかとなった. (2) 調整池内における堆砂速度の空間分布 上記の改良により雨水調整池の面源負荷削減効果が向 上した様子を詳細に把握するために,調整池内における 単位面積当たりの堆砂速度の空間コンターを図-4に示す. ここでは,全体改良を行った加賀清水調整池について, 改良前と改良 0.6 年後(1 回目)と 1.5 年後(2 回目)の調 S_1293 単位:[kg/m2/year] 0 単位:[kg/m2/year] 100 0 100 1m 0 1m 4[kg/m2/year] 5m (a)改良前 (b)改良 0.6 年後 (c)改良 1.5 年後 図-4 全体改良前後における単位面積あたりの堆砂速度の空間分布(加賀清水調整池) 査結果を表示する.また,改良後では,流入口付近に極 めて特徴的な堆砂状況が確認されたので,流入口付近の みをクローズアップしたコンター図も図示する. これより,改良前では,流出口付近にて堆砂速度が大 きいものの,その他のエリアでは全般的に小さい.それ に対して,改良 0.6 年後においては,流入口付近の点線で 囲まれたエリアで堆砂速度が卓越しており,特にコの字 型に設置されたかごマット内側では,最大 110 kg/m2/year という突出した堆砂速度となるなど集中的に土砂が堆積 している.これは,流入口付近に設置されたコの字型か ごマットが,調整池に流入する雨水の流速を大幅に弱め つつ流入口付近に雨水を一時的に貯留させて,一種の沈 砂池の役割を果たしているためである.その後の改良 1.5 年後では,流入口付近の点線で囲まれた範囲の堆砂速度 が卓越している,というのは改良 0.6 年後の結果と変わら ないが,その点線内では変化が見られる.すなわち,流 入口を囲むコの字型かごマット内側における堆砂速度が 減少しているが,その外側ではやや増加している.これ は,マット内側の堆積土砂が侵食されて,その外側に侵 食土砂の一部が堆積したものと考えられる.点線で囲ま れた範囲は流入口をかごマットで二重で囲んだものと見 なすことができることから,加賀清水調整池のような中 規模調整池では,流入口を囲うかごマットを一重よりも 二重にした方が面源負荷削減効果をより発揮している. 次に,部分改良を施した次郎丸第 1・第 2 調整池におけ る単位面積当たりの堆砂速度マップを図-5 に示す.ここ では,改良前と改良 0.7 年後(2 回目)の結果を表示して いる.これより,改良前においては,次郎丸第 1 調整池 における堆砂速度は全般的に小さいのに対して,次郎丸 第 2 調整池では中央部や流出口付近にて堆砂速度が相対 的に大きい.これは,流入口と流出口の配置関係が次郎 丸第 1 調整池では「一直線上」にあるため流入した懸濁 物質がそのまま流出口に到達しやすいのに対して,次郎 丸第 2 調整池では「対角線上」にあるため循環流が形成 0 改良前 4[kg/m2/year] 改良後 2m (a) 次郎丸第 1 調整池 1m (b) 次郎丸第 2 調整池 図-5 部分改良前後における単位面積あたりの堆砂速度マ ップの比較(改良後は2回目の調査結果を採用) され滞留時間が相対的に長くなるためである.それに対 して,改良 0.7 年後では,両調整池ともに,流入口付近の L 型の袋状マット内側に多量の土砂が堆積している.こ れも袋状マットにより流入雨水の滞留時間が増加したた めである.加賀清水調整池の結果と合わせて,流入口付 近の汚濁物質トラップ効果は高く,流入口付近のみの部 分改良だけでも面源負荷削減効果が促進されていること が分かる.また,袋状マットの外側の領域においても, 単位面積当たりの堆砂速度が増加している.これは,袋 状マット設置により流入雨水の流速レベルが著しく低下 するため,マット内側のみならず外側においても流況パ ターンが大きく変化するため,マット外側でも堆砂が促 進されたものと考えられる. (3) 改良前後における土砂・栄養塩削減効果の比較 S_1294 土砂堆積速度 [t/year] (a) 0.3 0.2 改良後1回目 改良前 改良後2回目 その他 流入 口② 0.1 流入 口① 窒素堆積速度 [kg/year] 0 (b) 1.2 0.8 0.4 0 (c) 0.3 リン堆積速度 [kg/year] 0.2 0.1 0 次郎丸第1 次郎丸第2 加賀清水 調整池 調整池 調整池 図-6 土砂(a)・窒素(b)・リン(c)の堆積速度に関する 改良前後の比較(加賀清水調整池の結果は 1/10 倍し て示す.改良後における流入口①はマットを一重で 囲んでいるエリア,流入口②は二重で囲んでいるエ リアから一重の部分を引いたエリアの結果である) 120 最大水位[cm] このような全体・部分改良により雨水調整池の負荷削 減効果がどの程度向上したのかを定量的に評価するため に,改良前後における調整池全体の土砂堆積速度(=総 土砂堆積量/供用年数)と窒素・リン堆積速度(=窒素・ リン総堆積量/供用年数)を図-6 に示す.改良後に関し ては,2回の調査結果を対象とし,流入口付近とその他の エリアで色分けしている.この流入口付近については, マットを一重で囲んでいるエリア(流入口①)と二重で 囲んでいるエリアから一重の部分を引いたエリア(流入 口②)に分けており,次郎丸第 1・第 2調整池では流入口 ①のみ,図-4(b)中の点線で囲われた範囲を流入口付近 とする加賀清水調整池ではコの字型マット内側を流入口 ①とその外側を流入口②としている.また,供用年数と しては,改良前では供用開始から調査日までの期間を, 改良後では改良工事から調査日までの期間をそれぞれ与 えている.なお,加賀清水調整池の堆積速度は他の調整 池よりも突出しているため,1/10 倍して表示している. これより,どの調整池においても改良前よりも改良後 の方が各堆積速度は増加している.具体的には,改良後 と改良前の各堆積速度の比は,全体改良を行った加賀清 水調整池では1.8倍~3.1倍, 部分改良を行った次郎丸第1, 第 2 調整池では 2.8 倍~11 倍になっており,改良による面 源負荷削減効果は大幅に増加していることが分かる.改 良後における各堆積速度の増加には,対象面積が小さい 流入口付近の寄与が大きく,流入口付近のみの堆積速度 は改良前の全体の値と比べて同程度か上回っていること が分かる.また,加賀清水調整池では,改良後の流入口 ①のみでは改良前の全体の値よりも小さいが,流入口① と②を合わせた結果は,前述したように,改良前の結果 を上回っている. 以上より,全体・部分改良により,雨水調整池が有す る面源負荷削減効果は明確に向上し,それには流入口付 近を囲うマットの配置が有効であることが示された.さ らに, 流入口付近におけるマットの配置には, 次郎丸第1, 第 2 調整池のような小規模調整池では一重の囲みで十分 であるが,加賀清水調整池のような中規模調整池では一 重よりも二重の囲みの方が有効であることが示された. これらの結果と建設コスト面を合わせて考慮すると,流 域全体の調整池に展開する際には,流入口付近のみの部 分改良が有効であり,調整池規模に合わせてマットの囲 みを一重か二重にすれば良いと考えられる.なお,改良 後の 1 回目と 2回目の結果を比べると,一部の結果では 2 回目の結果の方が 1 回目よりも小さくなるものが見られ る.これは調整池内にトラップされた懸濁態物質が降雨 イベント時に再懸濁させられたためである.今後,改良 効果を維持する上では,流入口付近における堆積土砂の 除去を定期的に行う必要があるが,その頻度や方法など の維持管理方法について今後の検討課題である. 100 80 改良前 改良後 60 40 20 0 0 50 100 150 200 総雨量[mm] 図-7 降雨イベント時における総雨量と最大水位の比較(加 賀清水調整池) 本改良が雨水調整池の治水機能に及ぼす影響を確認す るために,各降雨イベントの総雨量と調整池内の最大水 位の相関関係を改良前後で比較したものを図-7 に示す. ここでは,水位データが十分にあった加賀清水調整池を 対象とする.これより,総雨量とともに最大水位が増加 する様子は改良前後で概ね一致していることが分かる. 同様な結果は,次郎丸第 1・第 2 調整池においても確認さ れている.以上より,かごもしくは袋状マット設置を設 置しても,本論文の程度の改良で死水容量までの高さな らば,改良前の雨水調整池が有していた治水機能には影 響を与えないことが明らかとなった (5)改良案を流域展開した場合の N・P 削減量の試算 (4) 改良が調整池の治水面に及ぼす影響 S_1295 で十分であるが,加賀清水調整池のような中規模調整池 表-2 本改良案を流域展開した場合の窒素 N・リン P 削減 量(単位:[t/year]) 全調整池の 流域からの 削減量 負荷削減量A 面源負荷B A/B[%] 流域展開前 0.294 1.7 N 16.85 流域展開後 1.294 7.7 流域展開前 0.106 5.8 P 1.82 流域展開前 0.426 23.4 では一重よりも二重の囲みの方が有効である. 3)以上の結果と建設コストを考慮して,流入口付近の みの部分改良が有効であり,小規模・中規模調整池にお ける流入口のマットの囲みをそれぞれ一重, 二重とする. 4)中小規模の雨水調整池に対して上記の部分改良案を 流域展開した場合を試算した結果,窒素・リン削減量は 本論文で検討した改良案を印旛沼流域全体に展開した ときの窒素 N・リン P の削減量を試算する.改良案とし ては,前述したように,流入口付近をマットで囲う部分 改良であり,小規模調整池では一重の囲い,中規模調整 池では二重の囲いとする.対象となる中小規模の雨水調 整池は 328 箇所中 253 箇所存在し,改良前の調整池が有す る N・P 削減量は,底面積と N・P 堆積速度の相関式から 算出する 9).改良後に関しては,小規模調整池では次郎 丸第 1・第 2 調整池,中規模調整池では加賀清水調整池の 調査結果をそれぞれ用いて改良効果を反映させる.ここ では,流入口付近とその他のエリアにおける単位面積当 たりの N・P 堆積速度の観測結果を集水面積で除した値を 求め,それに対象とする調整池の底面積と集水面積を掛 けたものを改良後の N・P 削減量としている. このようにして試算された,本改良案の流域展開前後 における N・P 削減量を表-2 に示す.表中には,対象と する雨水調整池がカバーする流域(印旛沼流域全体の面 積の 3.8%)から印旛沼に流入する面源負荷量も合わせて 表示する.これより,改良案を流域展開しない現状の場 合では,253 の調整池で N は年間約 0.29t,リンは約 0.11t の削減量であるが,流域展開後には,Nでは 1.29t,P では 0.43tとなっている.流域展開後と前の比率は N,P それぞ れ 4.3 倍,4.0 倍となっており,大幅に面源負荷削減量が 増加していることが分かる.以上のことから,本改良案 の流域展開により市街地起源の面源負荷は十分削減し得 ることが示唆された. 年間 1.29t,0.43t となり,現状の流域展開前の約 4 倍とな った.それより,本改良案の流域展開により市街地起源 の面源負荷を削減し得る一つの有効な対策になることが 示唆された. なお,本改良案を今後流域展開する上では,改良効果 の継続年数やメンテナンスの頻度・労力が極めて重要で ある.本研究の検討範囲では,数年程度はメンテナンス しなくても負荷削減効果は維持できているが,10 年スケ ールでは不明であり, 今後継続して検討する予定である. 謝辞:本研究は,千葉県による「印旛沼流域水循環健全化 行動計画」の「みためし行動」の一つである「市街地・雨 水浸透系 WG」の一部として行われている.本 WGの座長 である増田学園常務理事・堀田和弘先生をはじめとする WG のメンバーの方々には有益なご助言を頂いた.また, 現地観測実施に際しては千葉県佐倉市に様々なご協力を頂 いた.東京理科大学理工学部土木工学科水理研究室学生諸 氏には現地観測作業に対して多大なる御助力を頂いた.本 研究の一部は,下水道振興基金研究助成金(研究代表者: 二瓶泰雄)によるものである.ここに記して深甚なる謝意 を表します. 参考文献 1) 2) 3) 5.おわりに 4) 本研究では,雨水調整池の面源負荷削減効果を向上さ せるために,かごマット等を利用して調整池内に流路を 設け懸濁物質の滞留時間を長くする,という簡易な改良 を施して,その効果に関する現地実証実験を行った.得 られた主な結論は以下の通りである. 1)調整池内の堆砂量調査や流入・流出 SS負荷量調査に 5) 6) 7) より,全体及び部分改良は雨水調整池の負荷削減効果を 明確に向上させること,それには流入口付近を囲うマッ トの配置が有効であることが示された.また,改良によ る治水面への影響はほぼないことが明らかとなった. 2)流入口付近におけるマットの配置については,次郎 8) 9) 丸第 1,第 2調整池のような小規模調整池では一重の囲み S_1296 山田淳:面源負荷-その現状と課題-,環境技術, Vol.29,No.7,pp.496-501,2000. 和田安彦:ノンポイント汚染源のモデル解析, 技報堂出版, pp.1-214,1990. 古米弘明:都市域の雨天時汚濁負荷流出解析の現状と課題, 水環境学会誌,Vol.25,No.9,pp.524-528,2002. 山田淳:ノンポイント汚染-科学から政策へ-,水環境学 会誌,Vol.29,No.11,665p.,2006. 千葉県:印旛沼流域水循環健全化計画会議 第 17回委員会 資料,2010. 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