...

熱電効果の数値計算

by user

on
Category: Documents
18

views

Report

Comments

Transcript

熱電効果の数値計算
熱電効果の数値計算
松阪大学 奥村晴彦
[email protected]
2000 年 8 月 19 日
1 現象論的な方程式
ここでは Landau and Lifshits の『電磁気学』[8]の式 (27.5),(27.6) の書き方にほぼ従う。なお,プラズ
マについてこれらに対応する式は『物理的運動学』[9]の式 (58.13),(58.14) である。
まず,キャリアの化学ポテンシャル ζ をキャリアの電荷で割ったものを電位に加えたもの(電気化学ポテン
シャル,electrochemical potential)φ + ζ/e を新たに φ と定義すれば,その勾配は次のように表すことがで
きる。
−∇φ = ρJ + α∇T + RB × J + N B × ∇T
(1)
これは Ohm(オーム)の法則 −∇φ = ρJ の右辺に次の効果が加わったものである。
• α∇T : Seebeck(ゼーベック)効果
• RB × J : Hall(ホール)効果
• N B × ∇T : Nernst(ネルンスト)効果
ここで J は電流密度,T は温度,B は磁束密度,ρ は電気抵抗率,α は Seebeck 係数(熱電能,thermoelectric
power),R は Hall 係数,N は Nernst 係数である。
また,エネルギー流束密度 q は次のように表される。
q = φJ − κ∇T + αT J + N T B × J + κM B × ∇T
(2)
この右辺は次の各効果を加えたものである。
• φJ : 電荷の移動
• −κ∇T : 熱伝導
• αT J : Peltier(ペルティエ)効果
• N T B × J : Ettingshausen(エッティングスハウゼン)効果
• κM B × ∇T : Righi-Leduc(リーギ・ルデュック)効果
ここで κ は熱伝導率,M は Righi-Leduc 係数である。αT を Peltier 係数ともいう。
このメモの最新版と関連するソースコードは http://www.matsusaka-u.ac.jp/~okumura/nernst/ から入手できるはずであ
る。
1
なお,Landau and Lifshits[8]の Leduc-Righi 係数 L はここでの κM に相当する。本稿の Righi-Leduc
係数 M は Harman and Honig[2,3]の M に相当する。こうすれば M B が無次元になるので便利である。
インジウムアンチモン(アンチモン化インジウム,indium antimonide,InSb)は室温(T ∼ 300 K)付近
でおおよそ次の物性値を持つ(以下では SI 単位を使い,随時単位を省略する)
。ここで T は磁束密度 B の単
位テスラ(Tesla)である。
ρ ∼ 5 × 10−5
R ∼ −3 × 10−4
α ∼ −3 × 10−4
N ∼ −7 × 10−5
κ ∼ 15
M ∼ 0.05
Ωm
Ω m T−1
V K−1
V K−1 T−1
W K−1 m−1
T−1
dρ/dT
dR/dT
dα/dT
dN/dT
dκ/dT
dM/dT
∼ −10−6
∼ 10−5
∼ 10−6
∼ 5 × 10−7
∼ 0.05
∼?
(at 4 T)
(3)
(at 0.077 T)
単位については,Maxwell の方程式 ∇ × E = −∂B/∂t により V m−2 = T s−1 の関係があるので,Hall 係数
R の単位は m3 A−1 s−1 ,Nernst 係数 N の単位は m2 K−1 s−1 ,Righi-Leduc 係数 M の単位は m2 V−1 s−1
とも書ける。
2 温度の Poisson 方程式の導出
以下では,すべての量は z 座標に依存しないと仮定する。また,以下のベクトル解析の公式を随時利用する。
∇ · (φa) = (∇φ) · a + φ(∇ · a)
(4)
∇ × (φa) = (∇φ) × a + φ(∇ × a)
(5)
∇ · (a × b) = b · (∇ × a) − a · (∇ × b)
(6)
∇ × (a × b) = (b · ∇)a − (a · ∇)b − b(∇ · a) + a(∇ · b)
(7)
a · (a × b) = 0
(8)
∇ × (∇φ) = 0
(9)
a · (b × c) = b · (c × a) = c · (a × b)
(10)
定常状態ではエネルギー流の保存 ∇ · q = 0 が成り立つので,式 (2) から
∇ · (κ∇T ) = ∇ · (φJ ) + ∇ · (αT J ) + ∇ · (N T B × J ) + ∇ · (κM B × ∇T )
(11)
を得る。この右辺を変形しよう。
まず電流保存の式 ∇ · J = 0 を使えば右辺第 1 項は
∇ · (φJ ) = (∇φ) · J + φ(∇ · J ) = (∇φ) · J
(12)
となる。同様に,第 2 項は,α が温度 T だけの関数とすれば,
¶
µ
dα
+ α (∇T ) · J
∇ · (αT J ) = T (∇α) · J + α(∇T ) · J = T
dT
(13)
第 3 項は,Maxwell の方程式 ∇ × B = µJ + ²µ∂E/∂t と,定常状態なので ∂E/∂t = 0 を使い,N が T だ
けの関数とすれば,
∇ · (N T B × J ) = (∇(N T )) · (B × J ) + N T ∇ · (B × J )
= N (∇T ) · (B × J ) + T (∇N ) · (B × J ) + N T J · (∇ × B) − N T B · (∇ × J )
¶
µ
dN
(∇T ) · (B × J ) + µN T J 2 − N T B · (∇ × J )
= N +T
dT
2
(14)
(15)
(16)
最後に第 4 項も,κM が T だけの関数とすれば,
∇ · (κM B × ∇T ) = (∇κM ) · (B × ∇T ) + κM ∇T · (∇ × B) − κM B · (∇ × ∇T )
= µκM ∇T · J
(17)
(18)
これらをまとめれば,
µ
¶
dα
∇ · (κ∇T ) = (∇φ) · J + T
+ α (∇T ) · J
dT
µ
¶
dN
+ N +T
∇T · (B × J ) − N T B · (∇ × J )
dT
+ µN T J 2 + µκM ∇T · J
(19)
これに式 (1) を代入すれば,
µ
¶
dα
∇ · (κ∇T ) = −(ρJ + α∇T + RB × J + N B × ∇T ) · J + T
+ α (∇T ) · J
dT
µ
¶
dN
+ N +T
∇T · (B × J ) − N T B · (∇ × J )
dT
+ µN T J 2 + µκM ∇T · J
µ
¶
dα
2
= (−ρ + µN T )J + T
+ µκM (∇T ) · J
dT
¶
µ
dN
(∇T ) · (B × J ) − N T B · (∇ × J )
+ 2N + T
dT
となる。なお,最後の 2N + T dN
dT は
1 d
T dT
(20)
(21)
N T 2 とも書ける。
ここで式 (3) の物性値を用い,µ ≈ µ0 = 4π × 10−7 ∼ 1 × 10−6 とすれば,J 2 の係数では,µN T ∼ 2 × 10−8
dα
は ρ ∼ 5 × 10−5 に比べ無視できる。また,(∇T ) · J の係数も,T dT
(Thomson(トムソン)係数)は 3 × 10−4
程度であり,µκM は無視できる。したがって,以下では資料中の電流による外場 B への影響 ∇ × B ,さら
に一般に B の位置依存は無視することにする。つまり,磁束密度 B は与えられたものとして扱い,その大き
さは位置によらず,z 方向を向いている。
最後の ∇ × J を求めるため,式 (1) の rotation を計算すると,
0 = ∇ × (ρJ ) + ∇ × (α∇T ) + ∇ × (RB × J ) + ∇ × (N B × ∇T )
この右辺第 1 項は
∇ × (ρJ ) = (∇ρ) × J + ρ∇ × J =
dρ
(∇T ) × J + ρ∇ × J
dT
右辺第 2 項は
∇ × (α∇T ) = (∇α) × (∇T ) + α∇ × ∇T =
dα
∇T × ∇T = 0
dT
(22)
(23)
(24)
右辺第 3 項は
∇ × (RB × J ) = (J · ∇)(RB) − (RB · ∇)J − J (∇ · RB) + RB(∇ · J )
= (J · ∇R)B + R(J · ∇)B − J (∇R · B) − RJ (∇ · B)
=
dR
(J · ∇T )B
dT
(25)
(26)
(27)
3
右辺第 4 項は
∇ × (N B × ∇T ) = (∇T · ∇)N B − (N B · ∇)∇T − ∇T (∇ · N B) + N B(∇ · ∇T )
(28)
= (∇T · ∇N )B + N (∇T · ∇)B
µ
=
まとめると
したがって
− ∇T (∇N · B) − N ∇T (∇ · B) + N B∇2 T
¶
dN
(∇T )2 + N ∇2 T B
dT
dρ
(∇T ) × J + ρ∇ × J +
dT
1
∇×J =−
ρ
µ
µ
dN
dR
J · ∇T +
(∇T )2 + N ∇2 T
dT
dT
dρ
∇T × J +
dT
µ
(29)
(30)
¶
B=0
dN
dR
J · ∇T +
(∇T )2 + N ∇2 T
dT
dT
¶
(31)
¶
B
(32)
これを式 (21) に代入すると,µ の項を無視して
µ
¶
dα
N T B 2 dR
∇ · (κ∇T ) = −ρJ + T
+
(∇T ) · J
dT
ρ dT
µ
¶
dN
N T dρ
+ 2N + T
−
(∇T ) · (B × J )
dT
ρ dT
µ
¶
N T B 2 dN
2
2
+
(∇T ) + N ∇ T
ρ
dT
2
さらに,
∇ · (κ∇T ) =
dκ
(∇T )2 + κ∇2 T
dT
(33)
(34)
を使えば,∇2 T についての式は最終的に次のようになる。
µ
¶
µ
¶
N 2T B2
dα
N T B 2 dR
κ−
∇2 T = −ρJ 2 + T
+
(∇T ) · J
ρ
dT
ρ dT
µ
¶
dN
N T dρ
+ 2N + T
−
(∇T ) · (B × J )
dT
ρ dT
µ
¶
N T B 2 dN
dκ
+
−
(∇T )2
ρ
dT
dT
(35)
この左辺では,κ ∼ 15 程度と比べ,N 2 T B 2 /ρ ∼ 3 × 10−2 B 2 程度であり,B . 10 T 程度の磁場なら,十
分小さいといえる。しかし,磁場がより強くなると,実効的な κ が負になり,熱力学の法則が破れてしまう。
そもそも式 (1),(2) そのものが磁場の 1 次の項しか考慮に入れていない。Landau and Lifshits[8]は磁場の
2 次の項をすべて無視している。2 次の項を無視すれば,上式は次のように書ける。
∇ · (κ∇T ) = −ρJ 2
Joule 熱
dα
+T
(∇T ) · J
dT µ
¶
NT2
ρ d
(∇T ) · (B × J )
+
T dT
ρ
Thomson 効果
磁場による効果
(36)
このような ∇2 T (x, y) = F (x, y) の形の式を Poisson(ポアソン)方程式と呼ぶ。もっとも,この場合は右
辺 F も T に依存するので,厳密な意味での Poisson 方程式ではない。
4
3 磁場のない場合
磁場のない場合は,現象論的な式は
−∇φ = ρJ + α∇T
(37)
q = φJ − κ∇T + αT J
(38)
となる。この第 2 式で φJ は φ も J も連続なので見えず,αT J は α が不連続なので Peltier 効果として現
れる。温度の Laplace 方程式は
∇ · (κ∇T ) = −ρJ 2 + T
dα
(∇T ) · J
dT
(39)
となり,Joule 熱と Thomson 効果だけになる。素子が直方体で両端を電極が覆うような場合は 1 次元に帰着
する。
とりあえず 1 次元で,κ,ρ,α が温度に依存しない(したがって Thomson 効果がない)場合を考えよう。
この場合は
d2 T
= −ρJ 2
(40)
dx2
となり,T (x) = ax2 + bx + c と置いて長さ l の素子 −l/2 ≤ x ≤ l/2 について解くと,x = −l/2 での値を添
κ
字 0,x = l/2 での値を添字 1 で表せば,∆T = T1 − T0 と置いて
T =−
ρJ 2 2 ∆T
x +
x + T (0)
2κ
l
が解である。エネルギー流
q = φJ − κ
dT
+ αT J
dx
(41)
(42)
を両端で評価すれば,
ρJ 2
∆T
l−κ
+ αT0 J
2
l
ρJ 2
∆T
q1 = φ1 J +
l−κ
+ αT1 J
2
l
q0 = φ0 J −
(43)
(44)
となるが,エネルギー流保存によりこれらは等しいので,
(φ1 − φ0 )J = −ρJ 2 l − αJ∆T
(45)
となる。この左辺は素子の断面積あたりの発電電力に相当する。これを最大にする J は
Jopt = −
α∆T
2ρl
であり,そのときの電力は
Wopt = (φ1 − φ0 )Jopt =
(46)
(α∆T )2
4ρl
(47)
そのときの電圧 φ1 − φ0 は Vopt = −α∆T /2 で,Seebeck 電圧 −α∆T の半分である。Wopt は power factor
と呼ばれる因子 α2 /ρ に比例する。
たとえば α = −300 µV/K,∆T = 100 K,l = 1 cm とすれば,−α∆T = 30 mV,Jopt = 30 kA/m2 ,
Wopt = 450 W/m2 となる。このとき素子内で発生する Joule 熱は ρJ 2 l = 450 W/m2 で,出力電力と一致す
5
る。熱電効果による発電量 αJ∆T = 900 W/m2 の半分が出力として取り出され,半分が素子内で熱として消
費されることになる。なお,κ = 15 W/Km とすれば,発電に関与せず単に高温側から低温側に流れる熱は
κ∆T /l = 150 kW/m2 で,発電効率がいいとはいえない。
電気化学ポテンシャル φ を基準として高温側から出ていく熱は
q1 − φ 1 J =
であるので,発電効率は
η=
ρJ 2
∆T
l−κ
+ αT1 J
2
l
Wopt
∆T
=
·
|q1 − φ1 J|
T1
(48)
1
4
∆T
2+
−
ZT1
2T1
(49)
である。ここで ∆T /T1 は Carnot(カルノー)効率であり,
Z=
α2
κρ
(50)
は性能指数∗1 (figure-of-merit)と呼ばれる量である。この式からわかるように,効率を高くするためには高
温側での ZT を大きくすればよい。ZT は無次元の量で,式 (3) の値では T = 300 K で ZT = 0.036 に過ぎ
ない。
なお,ここで改めて温度の Laplace 方程式
κ∇2 T +
dκ
dα
(∇T )2 = −ρJ 2 + T
(∇T ) · J
dT
dT
(51)
を見てみると,さきほどの数値と式 (3) の値を使えば
ρJ 2 = 45 kW/m3 ,
T
dα
(∇T ) · J = 90 kW/m3 ,
dT
dκ
(∇T )2 = 5 MW/m3
dT
(52)
となり,κ や α を定数として扱うことは必ずしも正当化されない。
4 Hall 効果だけの場合
Hall 効果だけの場合は Wick[20]が初めて解析的に解いた(誤植については Wakabayashi[18]参照)。本
節の内容はより簡単な Rendell and Girvin[15]による。さらに単純化したものもあるらしい[11]。
まず準備。z = x + iy から w = u + iv への関数 w = f (z) が Cauchy-Riemann の関係式
∂u
∂v
=
,
∂x
∂y
∂u
∂v
=−
∂y
∂x
(53)
を満たせば,関数 w = f (z) は正則である(あるいは解析関数である)という。解析関数 w = f (z) は角度を
保つので,等角写像(conformal mapping)とも呼ばれる。
さて,Hall 効果だけの場合は次のように書くことができる。
−∇φ = ρJ + RB × J
(54)
ここで B が z 軸に平行,J が z 軸に垂直とすれば,
µ
∇x φ
−
∇y φ
∗1
¶
µ
=
ρ
RBz
−RBz
ρ
¶µ
Jx
Jy
¶
岩波『理化学辞典』第 5 版では「性能示数」と表記されている。
6
µ
1
=ρ
tan δ
− tan δ
1
¶µ
Jx
Jy
¶
(55)
と書ける。ここで δ = tan−1 (RBz /ρ) は Hall 角である。
電流の保存 ∇ · J = 0 を使えば Laplace 方程式 ∇2 φ = 0 を得る。電場 E = −∇φ を考えれば,∇ · E = 0
であるので,ベクトルポテンシャル A を導入して,E = ∇ × A と表すことができる。ここで A = (0, 0, Az )
なるゲージ条件を設ければ,
Ex = −
∂φ
∂Az
=
,
∂x
∂y
Ey = −
∂φ
∂Az
=−
∂y
∂x
(56)
これは Cauchy-Riemann の関係式と同じ形であるので,w = φ − iAz (または w = Az + iφ)が z = x + iy
の解析関数であることを表す[8,pp. 11–12]
。以下では w = Az + iφ とする。解析関数の導関数は向きによ
らないので,
dw
∂w
∂Az
∂φ
=
=
+i
= −Ey − iEx
dz
∂x
∂x
∂x
(57)
となる。したがって,λ を実数として w = λz ならば電場 E は y 軸方向で,w = λeiδ z であればそれに対し
て角度 δ だけ傾く。そこで,
dw
= ef (z)
dz
(58)
と置けば,電場は y 軸に対して δ = =f (z) だけ傾く。具体的に,幅 2S ,長さ T の長方形のサンプル
−S ≤ x ≤ S ,0 ≤ y ≤ T を考え,その側面 x = ±S で =f (z) = δ ,両端 y = 0, T で =f (z) = 0 になるよう
な f (z) を選べばよい。そのような f (z) は
X 4δ sinh(nπz/T )
nπ cosh(nπS/T )
f (z) =
(59)
n odd
で与えられる。
特に y 軸上 z = iy では,sinh iλ = i sin λ を用いて,
f (iy) = i
X 4δ sin(nπy/T )
nπ cosh(nπS/T )
(60)
n odd
と書ける。ところが Ey = −<dw/dz = −<ef (z) であるので,
Ã
Ey = − cos
X 4δ sin(nπy/T )
nπ cosh(nπS/T )
!
(61)
n odd
RT
と書くことができる。これを Vlong =
0
Ey dy のように積分して電極間の電位差を得る。
Hall 電圧や全電流を求めるには,サンプル領域を 0 ≤ x ≤ 2S ,−T /2 ≤ y ≤ T /2 として,
f (z) = iδ −
X 4δ sinh(nπiz/2S)
nπ cosh(nπT /4S)
(62)
n odd
とする方が計算が楽である。二つの電極の中央 y = 0 では
Ey (x) = − cos ξ(x), Ex (x) = − sin ξ(x),
X 4δ sin(nπx/2S)
ξ(x) = δ −
nπ cosh(nπT /4S)
(63)
(64)
n odd
とすればよい。全電流は
Z
I=
Z
2S
2S
dx Jy (x) =
0
0
7
dx Ey + Ex tan δ
ρ 1 + tan2 δ
(65)
6
10 mm
¾
-
17 mm
?
図 1: 差分法の離散化の例。これは Ikeda たち[5,6]の “bridge” 型サンプルを離散化したものである。
Hall 電圧は
Z
2S
Vtr = −
dx Ex (x)
(66)
0
となる。
これらの級数の総和を求め,数値積分してみよう。抵抗率 ρ = 5×10−5 Ω m,Hall 係数 R = −3×10−4 Ω m T−1
とすると,Hall 角は tan |δ| = 6B/T で求められる。磁場 B/T = 1, 2, 3, 4 の場合に,正方形 2S = T のサン
プルで数値計算した結果を次に示す。
tan δ
0
6
12
18
24
Vlong /I
1
6.08276
12.0416
18.0278
24.0208
40 × 40
1
6.06162
11.9224
17.4443
22.1583
160 × 160
1
6.08145
12.0359
18.0147
23.9971
上の表の第 3∼4 列は,後で述べる方法による 2 次元シミュレーションで 40 × 40 および 160 × 160 のメッ
シュで計算した結果である。
5 差分法による温度の Poisson 方程式の解法
一般に偏微分方程式の数値解法としては差分法や有限要素法などがあるが,ここでは最も簡単な正方形グ
リッドの差分法を使うことにする。これは,考えている物体を図 1 のように碁盤の目のように区切り,導関数
を隣接格子点の差分で近似する方法である。
差分法では,導関数は次のような差分で代用する。
T (x + h) − T (x − h)
dT
=
dx
2h ¶
µ
d2 T
1 T (x + h) − T (x) T (x) − T (x − h)
T (x + h) − 2T (x) + T (x − h)
=
−
=
dx2
h
h
h
h2
(67)
(68)
2 次元の Laplace 演算子も次のように差分で表せる。
∂2T
∂2T
+
2
∂x
∂y 2
T (x + h, y) − 2T (x, y) + T (x − h, y) T (x, y + h) − 2T (x, y) + T (x, y − h)
+
=
h2
h2
1
= 2 (T (x + h, y) + T (x − h, y) + T (x, y + h) + T (x, y − h) − 4T (x, y))
h
∇2 T (x, y) =
8
(69)
(70)
(71)
ここで i,j を整数として T (x, y) = T (ih, jh) = Tij と書くことにすれば,上式は
1
(Ti−1,j + Ti+1,j + Ti,j−1 + Ti,j+1 − 4Tij )
h2
∇2 T =
(72)
となる。
このようにすべてを差分で置き換えれば,式 (35) は巨大な行列方程式になる。疎な行列であるから,解く
のはそんなにたいへんではない。
しかし,ここではさらに簡単でメモリの少ないパソコンでも実行できる反復法を使うことにする。具体的に
は,式 (72) を Tij について解いて
h2
Ti−1,j + Ti+1,j + Ti,j−1 + Ti,j+1
− ∇2 T
4
4
Tij =
(73)
とする。解きたい Poisson 方程式が ∇2 T (x, y) = F (x, y) であるならば,上式は
Tij =
Ti−1,j + Ti+1,j + Ti,j−1 + Ti,j+1
h2
− Fij
4
4
(74)
と書ける。この式の右辺を既知と考えて計算し,左辺の量を更新することを繰り返すのが,この場合の反復法
の考え方である。
さらに具体的には,反復を始める前に,まず最初に各 Tij を何らかのもっともらしい値で初期化しておく。
次に,対象となる物体の内点(境界上でない点)(i, j) のおのおのについて,次の式
Tijnew =
Ti−1,j + Ti+1,j + Ti,j−1 + Ti,j+1
h2
− Fij
4
4
(75)
new
で計算される新しい Tij
の値で古い Tij を置き換える。このような置き換えをすべての点について何度も行
えば,次第に各 Tij は Poisson 方程式を満たすようになっていく。
値を置き換えるタイミングについては二通り考えられる。元々の反復法では,すべての (i, j) のペアについ
new
て Tij
の値を求めてから,まとめて Tij を置き換える。しかし,収束を速くするために,Gauss-Seidel(ガ
new
ウス・ザイデル)型の反復法では,各 Tij をすぐに Tij
で上書きしてしまう。
さらに収束を加速するために,SOR(successive over-relaxation)という方法がよく用いられる。これは,
new
new
で置き換えるのではなく,適当な補外値で置き
上の式で Tij
を求めるところまでは同じだが,Tij を Tij
換えるものである。具体的には,適当な k の値(0 < k < 1)をあらかじめ定めておいて,
TijSOR = Tijnew + k(Tijnew − Tij )
(76)
SOR
で定められる Tij
で古い Tij を置き換える。およその k の値を選ぶ目安として,
k=
4
q
¡
¢2 − 1
2 + 4 − cos(π/Nx ) + cos(π/Ny )
(77)
という式がよく使われるが,単に k ≈ 1.55 などと置くことも多い。ここで Nx ,Ny はそれぞれ i,j の範囲,
言い換えれば物体の x,y 方向の大きさをステップサイズ h で割った値である。この式で求めた k が最適で
ある保証はない。いろいろ試して収束が速くなりそうな k を選ぶ方が確実かもしれない。
式 (75) は境界上の点では使えない。一般に境界上の点では境界条件が定まっているはずであるが,境界条
件には次の二通りのものがある。まず Dirichlet(ディリクレ)の境界条件では,T の値そのものが与えられ
9
る∗2 。たとえば熱源に接した点がこれにあたる。このような点では Tij にはその与えられた値を代入してお
くだけでよい。更新をする必要はない。もう一つの Neumann(ノイマン)の境界条件では,境界面の法線方
向の T の導関数 ∇n T (x, y) が与えられる∗3 。たとえば境界面が y 軸に垂直なら,導関数 ∇y T = ∂T /∂y が
与えられることになる。この場合,たとえば Tij が境界上にあり,Ti,j−1 が境界からはみ出した点にあるな
ら,∇y T = (Ti,j+1 − Ti,j−1 )/(2h) を使って Ti,j−1 = Ti,j+1 − 2h∇y T のようにして(実際には存在しない)
Ti,j−1 の値を定めることができる。この値を式 (75) に代入すれば,
Tijnew =
Ti−1,j + Ti+1,j + 2Ti,j+1 − 2h∇y T
h2
− Fij
4
4
(78)
を得る。同様に,たとえば Ti−1,j と Ti,j−1 が境界面の外側にあるなら,
Tijnew =
h2
2Ti+1,j + 2Ti,j+1 − 2h∇x T − 2h∇y T
− F
4
4
(79)
となる。
このような Neumann 境界条件が生じる具体例を考えておこう。まず,境界面が y 軸に垂直で,y 方向にエ
ネルギーも電流も流れない(qy = Jy = 0)ならば,式 (2) から
κ∇y T = N T Bz Jx + κM Bz ∇x T
(80)
となるが,これは ∇x T をとりあえず与えられたものと考えれば Neumann 型の境界条件になる。同様に,x
方向にエネルギーも電流も流れない(qx = Jx = 0)ならば
κ∇x T = −N T Bz Jy − κM Bz ∇y T
(81)
となる。x,y 両方向に熱も電流も流れない(qx = Jx = qy = Jy = 0)なら ∇x T = ∇y T = 0 とすればよい。
また,y 方向に熱が流れない(エネルギーは電流だけによって運ばれるので qy − φJy = 0)ならば,
κ∇y T = αT Jy + N T Bz Jx + κM Bz ∇x T
(82)
となるであろうが,電極があれば熱も流れるので,このような場合は想定しにくい。
6 反復法の疑似コード
解きたい Poisson 方程式が ∇2 T (x, y) = F (x, y) で,領域が i = 0, . . . , imax ,j = 0, . . . , jmax で表される
長方形領域であり,境界条件が
i=0
で T =A
i = imax で T = B
j=0
で ∂T /∂y = C
j = jmax で ∂T /∂y = D
のように与えられているとすると,プログラムはおおよそ次のようになる。まず初期化の部分が
∗2
∗3
Dirichlet → Direct(直接)と連想して覚える。
Neumann → Normal(法線)と連想して覚える。
10
for (i = 0; i <= imax; i++) {
for (j = 0; j <= jmax; j++)
T[i][j] = A + (B - A) * i / imax;
}
のようになり,続いて更新の繰返し部分が
for (iter = 1; iter <= MAXITER; iter++) {
emax = 0;
for (i = 1; i < imax; i++) {
for (j = 0; j <= jmax; j++) {
if (j == 0)
t = (T[i-1][j] + T[i+1][j] + 2 * T[i][j+1] - 2 * h * C) / 4;
else if (j < jmax)
t = (T[i-1][j] + T[i+1][j] + T[i][j-1] + T[i][j+1] - h * h * F) / 4;
else
t = (T[i-1][j] + T[i+1][j] + 2 * T[i][j-1] + 2 * h * D) / 4;
e = fabs(t - T[i][j]);
if (e > emax) emax = e;
T[i][j] = T[i][j] + k * (t - T[i][j]);
}
}
if (emax < EPS) break;
}
new
のようになる。ここで k は SOR 加速のための定数である。上のプログラムは,もし max |Tij
− Tij | < EPS
となるか,あるいは MAXITER 回反復しても収束しなければ,終了する。
実際には上の A,B ,C ,F は他の量にも依存するので,もっと複雑である。
7 電位と電流の計算――方法 1
温度 T と電位 φ の分布が仮に既知とすると,電流密度 J は次のようにして計算できる。
式 (1) から
ρJ + RB × J = −∇φ − α∇T − N B × ∇T
あるいは座標で書けば
µ
ρ
RBz
となる。したがって,
µ
Jx
Jy
¶
=
−RBz
ρ
1
2
ρ + R2 Bz2
¶µ
µ
Jx
Jy
¶
ρ
−RBz
(83)
µ
¶
−∇x φ − α∇x T + N Bz ∇y T
=
−∇y φ − α∇y T − N Bz ∇x T
RBz
ρ
¶µ
−∇x φ − α∇x T + N Bz ∇y T
−∇y φ − α∇y T − N Bz ∇x T
(84)
¶
(85)
つまり,Hall 効果は,電位勾配(と Seebeck,Nernst 効果)で決まる方向に対して,電流の向きを回転させる
効果を持つ。
なお,境界上などで Jy = 0 という束縛条件があるならば,
Jx = (−∇x φ − α∇x T + N Bz ∇y T )/ρ
(86)
となる。ここでさらに qy = 0 も満たされるなら,式 (2) で Jy = qy = 0 と置いた式
κ∇y T = N T Bz Jx + κM Bz ∇x T
を代入して,
µ
¶
1
N Bz
−∇x φ − α∇x T +
(N T Bz Jx + κM Bz ∇x T )
ρ
κ
µ
¶
1
N 2 Bz2 T Jx
=
−∇x φ − (α − N M Bz2 )∇x T +
ρ
κ
Jx =
11
(87)
(88)
(89)
r(i, j + 1)
y
Jij
6
x
Ji−1,j
r
(i − 1, j)
x
Jij
r
r
(i, j) (i + 1, j)
y
Ji−1,j
6
r(i, j − 1)
図 2: 電流密度を格子点の中間で定義する方法。温度 Tij と電位 φij は格子点 (i, j) で定め,x 軸に平行な
y
x
電流成分 Jij
は 2 点 (i, j),(i + 1, j) を結ぶ線分の中点,y 軸に平行な電流成分 Jij は 2 点 (i, j),(i, j + 1)
を結ぶ線分の中点で定める。
これを Jx について解くと,
¢
¡
Jx = −∇x φ − (α − N M Bz2 )∇x T
Áµ
ρ−
N 2 Bz2 T
κ
¶
(90)
となる。
差分化は,電流密度 Jij を温度 Tij や電位 φij と同様に格子点上で考える方法と,図 2 に示すように隣接格
子点を結ぶ線分の中点で考える方法とがある。後者の方法は,電流の保存則を考えるのに便利である。すなわ
ち,格子点 (i, j) での保存則は,
y
y
out
x
x
Jij
= Ji−1,j
+ Ji,j−1
− Ji,j
− Ji,j
=0
(91)
out
と書くことができる。もし仮に与えた電流密度の分布が Jij
< 0 となるようであれば φij を少し増し,
out
Jij
> 0 となるようであれば φij を少し減らして電流の流れを調整することができる。
具体的には,まず適当な T と φ の初期値から出発し,それらに基づいて J を更新する。その結果,∇ · J = 0
は一般に成り立たなくなる。そこで,∇ · J = 0 を成り立たせるように φ を更新する。そうしてから,再度 T
および J を更新し,∇ · J = 0 が成り立つように φ を更新する……ということを収束するまで延々と続ける。
x 方向の電流密度 Jx は
Jx =
ρ2
1
(−ρ∇x φ − RBz ∇y φ) + temperature terms
+ R2 B 2
(92)
x
で与えられるが,これを離散化する際に,さきほど述べたように Jij
は φij と φi+1,j の点を結ぶ線分上で考える。
この線分上での φ の導関数は,∇x φ = (φi+1,j − φij )/h,∇y φ = (φi,j+1 + φi+1,j+1 − φi,j−1 − φi+1,j−1 )/(4h)
x
で近似できるので,これらを代入すると,Jij
の式の φij 依存性は
x
Jij
=
h(ρ2
ρφij
+ ···
+ R2 B 2 )
(93)
x
のようになる。この Jij
は φij の点から右側(x の正の向き)に向かって流れ出る電流である。φij の点から
流れ出る電流は,これ以外に 4 本ある。これらを全部加えると,
out
Jij
=
4ρφij
+ ···
h(ρ2 + R2 B 2 )
12
(94)
out
out
のような形になる。そこで,もし Jij
6= 0 であれば,Jij
= 0 にするためには φ を
out
φnew
= φij − Jij
h(ρ2 + R2 B 2 )/(4ρ)
ij
(95)
のように更新すればよい。また,φij の点が境界上になるならば,その点から出ていく電流は 3 本しかないの
で,式 (86) で ∇y T を陽に評価する場合も,式 (90) で ρ À N 2 Bz2 T /κ となる場合も,
out
Jij
φij
=
h
µ
ρ
2
+
ρ ρ2 + R 2 B 2
¶
+ ···
(96)
となり,更新のための公式は
µ
φnew
ij
= φij −
out
Jij
h
2
ρ
+ 2
ρ ρ + R2 B 2
¶−1
(97)
となる。同様に,隅の点では,流れ出る電流が 2 本しかないので,
out
φnew
= φij − Jij
hρ/2
ij
(98)
となる。
このような更新をするごとに,次の式で収束の程度を確かめることにする。
Ã
max
i,j
y
y
x
x
|Ji−1,j
+ Ji,j−1
+ Ji,j
+ Ji,j
|
y
y
x
x
|Ji−1,j | + |Ji,j−1 | + |Ji,j | + |Ji,j | + 1
!
(99)
8 電流の計算――方法 2
電位 φ は式 (1) から導かれる Poisson の方程式
−∇2 φ = ∇ · (ρJ + α∇T + RB × J + N B × ∇T )
2
= (∇ρ) · J + (∇α) · (∇T ) + α∇ T + J · (∇R × B) − RB · (∇ × J )
dρ
dα
dR
(∇T ) · J +
(∇T )2 + α∇2 T +
J · (∇T × B)
dT
dT
µ dT
µ
¶ ¶
1
dρ
dR
dN
+ RB ·
∇T × J +
J · ∇T +
(∇T )2 + N ∇2 T B
ρ
dT
dT
dT
µ
¶
µ
¶
2
2
RN B
dα
RB dN
∇2 T +
+
(∇T )2
= α+
ρ
dT
ρ dT
µ
¶
µ
¶
dρ
RB 2 dR
dR R dρ
+
+
(J · ∇T ) +
−
(∇T · (B × J ))
dT
ρ dT
dT
ρ dT
(100)
(101)
=
(102)
(103)
を満たす。これは温度と同様に反復法で解くことができる。
諸係数が T に依存しないならば,−φ/(α + RN B 2 /ρ) は T とまったく同じ Poisson の方程式を満たす。違
いは境界条件だけである。
Dirichlet 型の境界条件が与えられていない境界上では,式 (1) から Neumann 型の境界条件を導く。たと
えば Jx = 0 の境界上では
−∇x φ = α∇x T − RBz Jy − N Bz ∇y T
(104)
−∇y φ = α∇y T + RBz Jx + N Bz ∇x T
(105)
Jy = 0 の境界上では
13
を境界条件とする。隅の点で Jx = Jy = 0 ならば
−∇x φ = α∇x T − N Bz ∇y T,
−∇y φ = α∇y T + N Bz ∇x T
(106)
となる。
このようにして φ の分布が求まれば,方法 1 と同様にして電流分布が求められる。実際にこのようにして求
めた φ の分布と,方法 1 で求めたものとは,十分な精度で一致する。収束する場合は方法 2 の方が収束が速い
が,方法 1 の方が収束するパラメータの範囲が広い。これはプログラム上の問題かもしれない(要検討)
。
電流を計算する方法としては,各領域で式 (32)
∇×J =−
1
ρ
µ
dρ
∇T × J +
dT
µ
dN
dR
J · ∇T +
(∇T )2 + N ∇2 T
dT
dT
¶
¶
B
(107)
を使って J の回転を求めることも考えられる。xy 平面上の閉じた領域について
I
ZZ
J · dr =
(∇ × J )z dx dy
(108)
が成り立つので,図 2 で点 (i, j) を左下隅とする h × h の正方形領域を考えれば,
y
y
x
x
hJij
+ hJi+1,j
− hJi,j−1
− hJij
≈ h2 (∇ × J )z
(109)
となる。右辺はこの正方形領域での平均をとる。
9 磁気抵抗の計算
Seeger の本[16]の図 4.8 にあるような磁気抵抗(magnetoresistance)の計算を行った。式 (3) の数値で
Seeger の本と同様な結果を得た。詳しくは ICT98 論文[13]を参照されたい。
10 Nernst 効果のシミュレーション
Ikeda たち[5,6]の実験では,InSb の物性値はおよそ次の式でフィットできる(これはグラフから見積もっ
たもので正式なフィットではない)。
ρ ≈ 8.0T −5.333 × 108
R ≈ (−5.6e−0.034(T −273) − 0.9) × 10−4
α ≈ (−3.2 + 0.01(T − 273)) × 10−4
N ≈ (−5.7e−(T −273)/65 − 3.2) × 10−5
N ≈ −2 × 10−5
Ωm
Ω m T−1
V K−1
V K−1 T−1
V K−1 T−1
at 0 T
at 4 T
at 0.1 T
(110)
Ikeda たち[5,6]は熱伝導 κ を測定していないが,室温で 15 W K−1 m−1 とすると,フォノンが効くなら
κ ∝ 1/T のような振舞いをするはずなので,
κ ∼ 4500T −1 W K−1 m−1
(111)
のように見積もれる。あるいは LB に載っていたグラフからざっと見積もって
κ ≈ 1.4T −1.65 × 105 W K−1 m−1
とする。
これらの値を適宜用いて計算した結果が ICT98 論文[13]である。
14
(112)
11 プログラムの仕様
プログラム nernst.cpp は C++ で書かれている。UNIX 環境あるいは Cygwin32 をインストールした
Windows 環境でコンパイルする。たとえば gcc-2.95.2 と libstdc++-2.90.8 の環境では
g++ -fhonor-std -Wall -O2 nernst.cpp -o nernst
のようにする。
こうしてできた実行ファイル nernst を走らせるにはあらかじめ例えば次のようなパラメータファイルを用
意する。
5e-5
0
-3e-4
0
15
0
-3e-4
0
-7e-5
0
0.05
0
1
0.01
0.01
0 40 273
0 40 373
0 40 0
0 40 0.015
40 0 40
←
←
←
←
←
←
←
←
←
←
←
←
←
←
ρ(0),ρ0 (0)
α(0),α0 (0)
κ(0),κ0 (0)
R(0),R0 (0)
N (0),N 0 (0)
M (0),M 0 (0)
磁場(T)
サンプルの長さ(m)
典型的な幅(m)
i = 0 側の jmin ,jmax ,温度(K)
i = imax 側の jmin ,jmax ,温度(K)
i = 0 側の jmin ,jmax ,電位(V)
i = imax 側の jmin ,jmax ,電位(V)
imax , jmin , jmax (繰り返し可)
最初の 6 行は物性値で,たとえば抵抗率なら ρ(T ) = ρ(0) + ρ0 (0)T のように 1 次近似した場合の ρ(0) と
ρ0 (0) を与える。
サンプルの長さとは,熱源(電極)間の長さ,すなわち i = 0 面から i = imax 面までの距離である。
典型的な幅とは,突起部などを除いた実質的なサンプルの幅である。
次の 4 行は両端における温度と電位の境界条件を定めるものである。たとえば上の 4 行目の「0 40 273」と
は,0 ≤ j ≤ 40 で T = 273 K に固定することを意味する。電位については,imax 側の電位を 999 とすれば,
全電流がゼロになるように自動的に電位を調節する(Seebeck 係数の計算に便利)。
このようにして記述したパラメータファイル名を file1 ,出力用のファイル名を file2 とすれば,プログラム
の起動は次のように行う。
nernst file1 file2
あるいは,出力ファイルと同じ形式(後述)で記述した初期値ファイルを file3 とすれば,
nernst file1 file2 file3
のようにする。file2 と file3 は同じものでもよい。その場合は,同じファイルをいったん読んで初期値として
使って閉じ,最後にそのファイルを上書きする。
出力ファイルは,各行に一つの格子点での値が
y
x
i j Tij φij Jij
Jij
15
の順に並んだものである。たとえば
0 0 273 0 -512.81 512.81
0 1 273 0.000404717 -28.7829 570.376
0 2 273 0.000853354 -30.3196 631.015
……(以下同様)……
y
x
,Jij は格子点 (i, j) の位置に内挿した値である。単位はすべて SI 単位系で
という具合である。電流密度 Jij
ある。
各反復での収束の様子が画面(標準出力)に出力される。十分収束したら停止する。途中で止めたい場合は
Ctrl-C を打つと,その時点での最新の値を出力ファイルに出力してから終了する。そのファイルを初期値ファ
イルとして計算を続行できる。
さらに詳しくはプログラムソースを参照されたい。
参考文献
[1] M. E. Ertl, G. R. Pfister, and H. J. Goldsmid, “Size dependence of the magneto-Seebeck effect in
bismuth-antimony alloys,” Brit. J. Appl. Phys. 14, 161–162 (1963).
[2] T. C. Harman and J. M. Honig, “Theory of galvano-thermomagnetic energy conversion devices. I.
Generators,” Journal of Applied Physics 33 (1962), 3178–3188.
[3] T. C. Harman and J. M. Honig, Thermoelectric and Thermomagnetic Effects and Applications
(McGraw-Hill, 1967).
[4] Y. Hasegawa, H. Okumura, N. Kondo, N. Shuto, S. Yamaguchi, and N. Sato, “Shape effect of
magnetoresistance and thermoelectric power for BiSb,” ICT99, Baltimore, U.S. (1999).
[5] K. Ikeda, H. Nakamura, S. Yamaguchi, and K. Kuroda, “Measurement of transport properties of
thermoelectric materials in the magnetic field,” J. Adv. Sci., 8 (1996), 147– (in Japanese).
[6] K. Ikeda, H. Nakamura, and S. Yamaguchi, “Geometric contribution to the measurement of ther-
moelectric power and Nernst coefficient in a strong magnetic field,” ICT97, Dresden, Germany
(1997); http://xxx.lanl.gov/abs/cond-mat/9709152 (1997).
[7] A. F. Ioffe, Semiconductor Thermoelements and Thermoelectric Cooling, London: Infosearch Lim-
ited, 1957.
[8] L. D. Landau, E. M. Lifshitz and L. P. Pitaevskiı̆, Electrodynamics of Continuous Media, 2nd ed.,
Pergamon, 1984 (Reprinted by Butterworth-Heinemann).
[9] E. M. Lifshitz and L. P. Pitaevskiı̆, Physical Kinetics, Pergamon, 1981 (Reprinted by Butterworth-
Heinemann).
[10] H. C. Montgomery, “Method for measuring electrical resistivity of anisotropic materials,” J. Appl.
Phys. 42, 2971–2975 (1971).
[11] B. Neudecker and K. H. Hoffmann, Solid State Commun. 62, 135 (1987).
[12] H. Okumura and S. Yamaguchi, “One dimensional simulation for Peltier current leads,” IEEE
Transactions on Applied Superconductivity, 7 (1997), 715–718.
[13] H. Okumura, S. Yamaguchi, H. Nakamura, K. Ikeda, and K. Sawada, “Numerical computation of
thermoelectric and thermomagnetic effects,” Proceedings of ICT98: 17th International Conference
16
of Thermoelectrics, Nagoya, Japan, May 24–28, 1998 (IEEE, 1998), 89–92; http://xxx.lanl.
gov/abs/cond-mat/9806042 (1998).
[14] H. Okumura, Y. Hasegawa, H. Nakamura, and S. Yamaguchi, “A computational model of thermo-
electric and thermomagnetic semiconductors,” Proceedings of ICT99: 18th International Conference of Thermoelectrics, Baltimore, MD, August 29–September 2, 1999 (IEEE, 1999), 209–212.
[15] R. W. Rendell and S. M. Girvin, “Hall voltage dependence on inversion-layer geometry in the
quantum Hall-effect regime,” Phys. Rev. B 23, 6610–6614 (1981).
[16] K. Seeger, Semiconductor Physics: An Introduction, sixth edition (Springer, 1996).
[17] L. J. van der Pauw, “A method of measuring specific resistivity and Hall effect of discs of arbitrary
shape”, Philips Res. Repts. 13, 1–9 (1958).
[18] J. Wakabayashi and S. Kawaji, “Hall effect in silicon MOS inversion layers under strong magnetic
fields,” J. Phys. Soc. Japan 44, 1839–1849 (1978).
[19] H. Weiss and H. Welker, “Zur transversalen magnetischen Wiederstandsänderung von InSb”,
Zeitschr. für Physik 138, 322–329 (1954).
[20] R. F. Wick, J. Appl. Phys. 25, 741 (1954).
17
Fly UP