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PC筐体の金属質感を実現する製造技術及び加飾技術

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PC筐体の金属質感を実現する製造技術及び加飾技術
一 般 論 文
FEATURE ARTICLES
PC 筐体の金属質感を実現する製造技術及び加飾技術
Manufacturing and Decorating Technologies for Cases of Notebook PCs with Metallic Texture
金城 和之
村山 友巳
高橋 功
■ KINJO Kazuyuki
■ MURAYAMA Tomomi
■ TAKAHASHI Ko
これまで東芝は,スリムコンパクトノートPC(パソコン)dynabookTM R732やUltrabookTM(注1)PC dynabook R632
の筐体(きょうたい)材料にマグネシウム合金を用いることで,軽量化を実現してきた。近年,軽さに加えて,金属調の質感を求
めるユーザーニーズが増加しており,これらを両立できる技術が求められてきた。
今回,マグネシウム合金製板材のプレス加工による筐体製造技術と,金属調塗装による加飾技術を開発し,2013 年春に
商品化したUltrabookTM PC の dynabook KIRA V632/V832の天板に採用することで,軽量化と金属調のプレミアムな
質感を実現した。また,従来は,金属質感の評価は官能による定性的なものが主体であったが,陰影差と明るさのパラメータを
用いて定量的に評価することも試みた。
Toshiba has realized thin and light notebook PCs, including the dynabookTM R732/R632 compact notebook and UltrabookTM PCs, by using magnesium (Mg)
alloys as the case material. In recent years, demand has been increasing among users for improvement of the texture of PCs, such as a more metallic
feeling, in addition to thinness and light weight.
We have developed an AZ91 Mg alloy pressing technology and a high-brightness painting technology, and have also introduced a quantitative method
for the evaluation of metallic texture using parameters such as variations in light, shade, and brightness as an alternative to the sensory evaluation
method. We have now released the dynabook KIRA V632/V832 compact notebook and UltrabookTM PC models applying these technologies.
1 まえがき
東 芝は,薄くて軽いスリムコンパクトノートPC dynabook
R732 やUltrabookTM PC dynabook R632 の開発にあたって,
これらの特長である軽量化を実現するため,筐体の材料には,
最軽量の実用金属であるマグネシウムにアルミニウム9 %と亜
鉛1 %を添加した,ASTM(American Society for Testing
and Materials)規格のマグネシウム合金 AZ91(以下,AZ91
合金と呼ぶ)の鋳造品を採用してきた。
トップケース
天板
近年,軽さに加えて金属調の質感を求めるユーザーニーズが
増加してきた。そこで当社は,筐体の強度と金属質感を両立
させるために,AZ91合金製板材のプレス加工技術と金属調
塗装技術を開発し,2013 年春に商品化したUltrabookTM PC
のdynabook KIRA V632/V832 の天板に採用して,金属調の
ボトムケース
図1.dynabook KIRA V632/V832 の筐体 ̶ AZ91合金のプレス
加工品と金属調塗装を新たに採用し,強度と金属質感を両立させた。
Cases of dynabook KIRA V632/V832
。
プレミアムな質感を実現した(図1)
ここでは,筐体の材料,製造技術,及び加飾技術と金属質
感の定量評価につき,概要と特長を述べる。
1,440ドット)の高精細液晶,タッチパネル,及び ha rman /
kardon®(注 2)のステレオスピーカなどを搭載し,高性能と高品
2 dynabook KIRA V632/V832の概要
dynabook KIRA V632/V832は,13.3 型で WQHD(2,560×
(注1)
,
(注 4) Ultrabook,Intel,Intel Core は,米国及びその他の国に
おける Intel Corporation の商標。
48
質を兼ね備えたUltrabookTM PCを目指して開発した,一般消
費者向けの製品である。主な仕様を表1に示す。
一般消費者向けの製品であるため,従来から取り組んでき
(注 2) harman/kardon は,Harman International 社の商標。
東芝レビュー Vol.68 No.6(2013)
表1.dynabook KIRA V632/V832 の主な仕様
表 3.筐体材料の機械的特性の比較
Main specifications of dynabook KIRA V632/V832
Comparison of mechanical properties of case materials
項 目
筐体材料
密度
(g/cm3)
比強度
(MPa/(g/cm3)
)
AZ91合金の板材
(dynabook KIRA V632/V832 の天板に採用)
1.83
185
AZ91合金の鋳造品
(dynabook R732,R632 の筐体に採用)
1.83
126
A6063 の板材
(他社製ノートPC の筐体に採用)
2.69
69
仕 様
13.3 型ワイド(16:9)
HD(1,366×768ドット)
軽量・高輝度 TFT カラー LED 液晶
V632
ディスプレイ
タッチパネル付き 13.3 型ワイド(16:9)
WQHD(2,560×1,440ドット)
軽量・高輝度 TFTカラー LED 液晶
V832
Windows ®(注 3) 8,64ビット
プレインストール OS
®
Intel Core
CPU
メモリ
AZ91の特性の出典:住友電気工業「Mg 合金 AZ91とは」⑴
TM(注 4)
i5-3337U プロセッサー
8 G バイト(4 G バイト +4 G バイト)
補助記録装置
128 G バイト SSD
サウンド機能
harman/kardon® ステレオスピーカ
質量
表 4.鋳造品とプレス加工品の製造工程比較
約1.21 kg
外形寸法
約 316.0(幅)×207.0(奥行き)×7.6 ∼ 17.9(高さ)
mm
駆動時間
約13.0 時間
工程
TFT :薄膜トランジスタ
LED:発光ダイオード
OS :基本ソフトウェア
SSD:ソリッドステートドライブ
Comparison of manufacturing specifications of PC cases
dynabook KIRA
V632/V832
dynabook
R732,R632
筐体部位
材料
製造技術
加飾技術
天板
AZ91合金
プレス加工
金属調塗装
トップケース
AZ91合金
鋳造
金属調塗装
ボトムケース
AZ91合金
鋳造
金属調塗装
天板
AZ91合金
鋳造
一般塗装
トップケース
AZ91合金
鋳造
一般塗装
ボトムケース
AZ91合金
鋳造
一般塗装
鋳造品
プレス加工品
1
鋳造
ブランク抜き
2
トリミング
プレス加工
3
バリ取り(手仕上げ)
CNC 加工
4
研磨
構造物接着
5
CNC 加工
塗装
6
バリ取り(手仕上げ)
外観検査,組立て
7
研磨
出荷
8
化成処理
9
塗装
10
外観検査,組立て
11
出荷
一
般
論
文
表 2.筐体の製造仕様比較
製品名
Comparison of casting and pressing processes
CNC:マシニングセンタ
機械的特性を表3に示す。AZ91合金の密度は1.83 g/cm3 で,
A6063よりも約 32 % 軽い。また,比強度も,AZ91合金の板
材がA6063 の約 2.7倍,鋳造品が約1.8 倍あり,軽くて強いこ
た軽量化とともに金属調の質感を表現できる筐体製造技術と
とがわかる。
加飾技術が求められていた。そこで,表 2に示すように,天板
の製造には AZ91合金製板材のプレス加工と新たに開発した
金属調塗装を採用し,トップケースとボトムケースの製造には
4 筐体の製造技術
当社は,dynabook KIRA V632/V832 のケースや,dyna-
AZ91合金の鋳造と金属調塗装を採用した。
book R732及び R632 の天板とケースには,AZ91合金の鋳造
品を採用してきた。鋳造とは,インゴット(金属の大きな塊)
3 筐体の材料特性
を溶解炉内で 700 度近い高温に加熱して溶融し,鋳造機の加
dynabook KIRA V632/V832 の天板には,2009 年に国内
圧室に注ぎ,高速で高圧をかけて一気に金型に流し込む方法
素材メーカーが世界で初めて開発した AZ91合金の板材を応
である。また,dynabook KIRA V632/V832 の天板に採用し
用している。この材料は,AZ91合金を温間圧延し,緻密な微
たプレス加工とは,金属を圧延した板材を金型内にセットし,
細組織を形成することで,マグネシウムが持つ軽さに加えて,
プレスで上下から圧力を加え塑性変形させる方法である。
⑴
機械的特性や耐食性にも優れているのが特長である 。天板
鋳造品とプレス加工品の代表的な製造工程を表 4に示す。
以外のトップケースとボトムケースには,従来と同様にAZ91
鋳造は,第 1 工程の鋳造時間が 1分前後と短く,また,組立て
合金の鋳造品を採用している。
に必要なボスやリブなどの突起も一体で成形できるメリットは
AZ91合金の板材と鋳造品,及び他社のノートPC で採用され
あるが,トリミングや,バリ取り,研磨など,鋳造以降の後工程
ているJIS(日本工業規格)のアルミニウム合金 A6063につき,
が多い。一方,プレス加工は,出荷までの製造工程が短いと
(注 3) Windows は,Microsoft Corporation の米国及びその他の国に
おける商標。
PC 筐体の金属質感を実現する製造技術及び加飾技術
いうメリットはあるが,構造物の接着工程が必要である。
49
金属質感のある生地表面
湯流れ
曇った跡
図 2.AZ91合金の鋳造品の生地表面 ̶ 湯流れや曇った跡があり,金
属質感が感じられない。
Surface of cast AZ91 Mg alloy
図 4.AZ91合金製板材のプレス加工品の生地表面 ̶ 板材そのものに
光沢があり,金属調の質感がある。
Surface of pressed AZ91 Mg alloy
光輝材
下から金属質感を透過させる
上塗り塗装膜
光輝材
下塗り塗装膜(黒色)
上塗り塗装膜
化成処理膜
下塗り塗装膜(透明)
AZ91 合金の鋳造品
湯流れ
図 3.トップケースとボトムケースの金属調塗装膜の断面構造 ̶ 上塗り
塗装の光輝材含有量を多めにして,金属質感を再現した。
Cross-sectional structure of high-brightness painting layer of top and bottom
case
5 筐体の加飾技術
5.1 金属調塗装の特徴
dynabook KIRA V632/V832 では,今回開発した金属調
AZ91 合金のプレス加工品
図 5.天板の金属調塗装膜の断面構造 ̶ 下塗りに透明塗料を採用し,
上塗りの光輝材含有量を少なくして,AZ91合金製板材の金属質感を再現
した。
High-brightness painting of top panel
を明るくしたことも,金属質感の実現に寄与している。
5.2 金属質感の定量評価
dynabook KIRA V632/V832 では,4 章で述べた AZ91合
金製板材のプレス加工や,5.1 節で述べた金属調塗装により金
塗装を採用して金属質感を再現している。鋳造で製造してい
属質感を再現したが,この質感は人によって捉え方が異なる。
るトップケースとボトムケースは,図 2のように,AZ91合金が
例えば,重くて触ると冷たい感じがするものを金属質感がある
溶融して流れた跡(湯流れ)や,化成処理特有の曇った跡が生
と感じたり(触感による金属質感),鈍角のものより鋭角のもの
地表面に残っている。そこで,金属質感を再現するため,下塗
に金属質感を感じたりする(形状による金属質感)。また,見
り塗装を黒色にして陰影感を強調し,上塗り塗装には,アルミ
る角度によって表面に陰影差があるものや,暗い色より明るい
ニウムフレークやパールなどの光輝材を一般塗料の 2 倍以上
色のほうに金属質感を感じる(色による金属質感)
。今回,こ
。
含有させ,輝度感を強調した(図 3)
れらのうち色による金属質感について,陰影差と明るさをパラ
一方,AZ91合金製板材のプレス加工品を採用している天板
メータとして数値化し,定量評価を試みた。
の生地表面は,図 4 のように,マグネシウムが本来持っている
陰影差は,塗装面を光沢計で測定したときの測定角度の差
金属質感がある。この質感を生かすために,下塗り塗装には
分値とし,明るさは,分光測色計で測定した値とした。そし
透明塗料を採用するとともに,上塗り塗装の光輝材含有量を
て,両者を掛け合わせた値を,金属質感を表す定量指数(以
できるだけ減らし,AZ91合金の板材が持っている金属質感を
下,KI 値と呼ぶ)と定義した。
。また,着色顔料を減らして色味
損なわないようにした(図 5)
50
dynabook KIRA V632/V832,R732,及び R632 の金属質
東芝レビュー Vol.68 No.6(2013)
6 あとがき
4,500
4,000
3,500
dynabook KIRA V632/V832 では,天板にAZ91合金製板
KI 値
3,000
2,500
材のプレス加工品を採用し,また,天板を含む筐体部品に金
2,000
属調塗装を採用することで,軽量化とともに金属調のプレミア
1,500
1,000
ムな質感を実現した。
500
0
KIRA V632/V832
KIRA V632/V832
R632
R732
天板
トップケース
ボトムケース
天板
トップケース
ボトムケース
天板
トップケース
ボトムケース
AZ91 合金の板材
AZ91 合金
AZ91 合金
AZ91 合金
プレス加工
鋳造
鋳造
鋳造
金属調塗装
金属調塗装
一般塗装
一般塗装
プレミアムシルバー
プレミアムシルバー
今後も,ユーザーニーズに応える製品と技術の開発を推進し
ていく。
文 献
⑴
住友電気工業.
“Mg 合金 AZ91とは”
.<http://www.sei.co.jp/az91/about/
index.html>,
(参照 2013-04-22)
.
アルティメットシルバー グラファイトブラック
図 6.金属質感(KI 値)の比較 ̶ プレス加工と金属調塗装が,金属質感
の実現に寄与している。
Comparison of metallic textures (KI values)
金城 和之 KINJO Kazuyuki
体製造法,塗装法,及び外観色を表しており,縦軸は KI値で,
この値が大きいほど金属質感が高いことを表している。この
結果から,dynabook KIRA V632/V832 の天板のKI値は約
3,800といちばん大きく,金属質感がもっとも高い。また,トッ
村山 友巳 MURAYAMA Tomomi
デジタルプロダクツ&サービス社 設計開発センター デジタル
プロダクツ& サービス設計第一部参事。PC の筐体設計に従事。
Design & Development Center
プケースや ボトムケースのKI値も約1,800と大きく,dynabook R632 の一般塗装より金属質感が高いことがわかる。一
方,dynabook R732 の一般塗装は KI 値が約 200と小さいが,
外観色がグラファイトブラックでもともと金属質感を意識して
いないため,当然の結果である。
PC 筐体の金属質感を実現する製造技術及び加飾技術
高橋 功 TAKAHASHI Ko
デジタルプロダクツ&サービス社 設計開発センター デジタル
プロダクツ& サービス設計第一部主務。PC の加飾技術開発
に従事。
Design & Development Center
51
一
般
論
文
感を測定した結果を図 6に示す。横軸は製品名,材料名,筐
デジタルプロダクツ&サービス社 設計開発センター デジタル
プロダクツ& サービス設計第一部主務。PC の加飾技術開発
に従事。
Design & Development Center
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