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第14 15回 T細胞を介する免疫系
第14 15回 T細胞を介する免疫系 本日の学習のポイント • ナイーブT細胞が樹状細胞(抗原提示細胞)に出会う過程での接着 因子とケモカインの役割 • ナイーブT細胞の抗原認識における補助刺激分子B7とCD28の役割 • 感染に対するエフェクターT細胞(キラーT細胞,Th1細胞,Th2細胞) の役割 • Th1・Th2バランスの偏りとハンセン病の病態の変化 • Th1細胞/Th2細胞上のCD40リガンド(CD40L)と、マクロファージ/B 細胞上のCD40との結合の意義 • 莢膜保有菌ワクチンでの莢膜抗原へのキャリアタンパク付加の意義 自然免疫の特徴 • 微生物に特有の分子・構造を認識する(パターン認識)。 • 自然免疫が感知した病原体の情報を、獲得免疫に伝える。 自然免疫 獲得免疫 ナイーブ T細胞 補体 MBL 樹状細胞 好中球マクロファージ CD8 CD4 ナイーブ T細胞 ヘルパーT細胞 キラー T細胞 樹状細胞は末梢組織で抗原を補足し、 二次リンパ組織で外来抗原をナイーブT細胞へ提示する 図8.1 組織における 樹状細胞の形態変化 赤:リソソームタンパク質 緑:MHC クラス II 分子 図8.2 MHC分子へのペプチド抗原の結合過程 MHC クラスⅡ分子 細菌・真菌 タンパク質など MHC クラスⅠ分子 図5.20 ウイルスなど 樹状細胞による抗原の処理と提示様式 図8.3 樹状細胞によって提示される抗原は、二次リンパ組織で ナイーブT細胞によって認識される 図8.4 図8.5 ナイーブT細胞は接着因子を介して高内皮小静脈に 結合し、樹状細胞から放出されたケモカインの濃度勾配 に従って二次リンパ組織へと移動する 図8.6 L-セレクチン:CD62L 図8.7 CCR7(ケモカイン受容体) CCL21, CCL19(樹状細胞から) ナイーブT細胞と樹状細胞は、接着因子を介し て強固に結合し、 T細胞受容体と「抗原-MHC複合体」との結合を 誘導する 図8.8 図8.9 樹状細胞やマクロファージがナイーブT細胞に抗原認識させて増殖と 分化を誘導するためには、B7とCD28を介する刺激も必要である 図8.10 CD3 補助刺激分子(B7)とCD28との結合を介さないナイーブT細胞の抗原認識は、 T細胞の不応答(anergy)をもたらす 図8.18 B7 B7 CD28 CD28 CD28 T細胞の抗原認識と活性化には、T細胞受容体とMHC classII分子との結合による 第1シグナル(①)に加え、抗原提示細胞上のB7(CD80/CD86)とT細胞上のCD28との 結合による第2シグナル②が必要である。 末梢性免疫寛容 第2シグナルがなければ、T細胞はアナジーとなる(末梢での自己免疫の回避に重要)。 アナジー(anergy)=免疫不応答ともいう。 単に活性化されないのみならず、再び同じ抗 原に出会ったときにも反応できない状態をいう。 微生物由来抗原(LPSなど)は、それを感 知するToll様受容体などを介して、抗原提 示細胞上に補助刺激分子を発現させる。 図8.13 図2.22 マクロファージ 樹状細胞 NK細胞などに発現 ヒトToll様レセプター(TLR)による微生物成分の認識 リポテイコ酸 細菌性(CpG)-DNA ペプチドグリカン dsRNA LPS 細菌性 ssRNA リポ蛋白 フラジェリン LBP! TLR4 TLR1/2/6! TLR5 TLR3 TLR7/9 CD14! MyD88! JNK/p38! IRAK! TRAF! NFκB! TNF-α + 補助刺激 分子の発現 ヒトToll様レセプター(TLR)による微生物成分の認識 リポテイコ酸 細菌性(CpG)-DNA ペプチドグリカン dsRNA LPS 細菌性 ssRNA リポ蛋白 フラジェリン LBP! TLR4 TLR1/2/6! TLR5 TLR3 TLR7/9 CD14! 微生物の構成成分はTLRを介して適応免疫を増強する アジュバントとして作用する。 タンパク質だけで免疫しても免疫応答はほとんど起こらない 生ワクチンと不活化ワクチンとの比較 標準微生物学 免 疫 応 答 強 不活化ワクチンでは、主に抗体による体液性免疫(中和抗体)のみが誘導される。 MHC分子へのペプチド抗原の結合過程 図5.20 図8.11 プロフェッショナル抗原提示細胞によって 活性化されたナイーブT細胞はIL-2 を分泌し、 オートクリン(autocrine)作用で増殖する 図8.17 ナイーブCD4陽性T細胞は、プロフェッショナル抗原提示細胞が提供 する環境(サイトカイン環境)によってTh1細胞やTh2細胞へと分化する 図8.19 サイトカイン 転写因子 図8.20 ヘルパーT細胞の多様性 免疫での役割 IFN-γ IL-12 IFN-γ CD4 IL-4 ナイーブ T細胞 マクロファージの Th1 活性化 抑制マクロファージ(細胞性免疫) 疾患との関連 自己免疫疾患 IL-4, IL-5 B細胞の分化 (液性免疫) Th2 自己免疫疾患 アレルギー性疾患 IL-6 B細胞 TGF-β IL-17, IL-21 Th17 ? TGF-β 抗菌ペプチドの産生誘導 好中球の動員 自己免疫疾患 →真菌・細菌感染防御 TGF-β, IL-10 Treg 免疫応答の抑制 自己免疫(Treg↓で) 悪性疾患(Treg↑で) ハンセン病ではTh1細胞応答vsTh2細胞応答どちらが 優位に働くかによって異なる病像(病態)を呈する 図8.21 図8.28 CD8陽性ナイーブT細胞は3つの様式で活性化される 図8.22 APC:抗原提示細胞(antigen presenting cell) CD8陽性ナイーブT細胞が一度補助刺激分子を介してエフェクターT細 胞に分化すると、IL-2によってオートクライン的に分化増殖し、補助刺 激分子を介せずにclass I分子上で提示される抗原を認識して感染細 胞を殺傷する 図8.23 T細胞の活性化に伴い、細胞表面分子の発現は変化する 図8.24 図8.4 CD62L 図8.7 自己免疫モデルマウス(MRL/lpr マウス)について • ヒト全身性エリテマトーデス(SLE)のモデルマウス • 症状 リンパ節腫脹、耳介/皮膚の壊死, 関節炎、糸球体腎炎(ループス腎炎) (24週までに約半数が腎不全にて死亡) • 血清学的特徴 ヒトSLE同様に、dsDNAや核タンパク成分に対する抗体(自己抗体)が陽性 抗核抗体 24 weeks old! 抗dsDNA抗体 抗Sm抗体 抗RNP抗体 Molano, et al, clinical immunol, 2003 細胞表面接着因子L-セレクチン(CD62L)とCD44の発現を調べることで CD4陽性T細胞の活性化の状態を知ることが出来る 12週齢" 6週齢" 68.2%" 8.1" ナイーブ メモリー 24週齢" 61.9" 4.8" 37.7%" 7.6" 健常マウス (C57BL/6系) CD62L エフェクター 6.0" 17.7" 17.8" 15.7" 22.8" 31.9%" 32.1" 22.0" 29.1" 18.8" 1.0%" 4.7" 2.9" 43.0" 1.4" 50.7" 3.8" SLEモデルマウス (MRL/lpr系) CD44 90.5%" 3種類のエフェクターT細胞は異なるエフェクター分子を使って機能を発揮する 図8.27 キラーT細胞の細胞傷害 パーフォリン グランザイム ウイルス感染細胞 キラーT細胞の細胞傷害 アポトーシス ウイルス感染細胞 細胞傷害性T細胞が特異抗原を認識すると、サイトトキシンが直接標的細胞に向けられる 図8.27 LG: lytic granule パーフォリン グランザイム などを含む傷害顆粒 Th1細胞によるマクロファージの活性化機構 図8.34 CD40LとCD40との結合は、マクロファージをIFN-γ に対して反応性にするために重要である。 図8.36 活性化Th1細胞によるマクロファージ小胞内細菌感染への応答 図8.35 LT LT LT: リンホトキシン GM-CSF: 顆粒球-マクロファージコロニー刺激因子 CXCL2: ケモカイン Th1細胞によるマクロファージの活性化機構 図8.34 図8.36 乾酪性壊死 CD40LとCD40との結合は、マクロファージをIFN-γ に対して反応性にするために重要である。 活性化Th2細胞はナイーブB細胞を刺激して増殖・分化させる B細胞表面のCD40とTh2細胞表面のCD40Lとの結合は 体細胞高頻度変異とクラススイッチに必須であり、重要である 図8.37 CD40LまたはCD40の欠損者は高IgM症候群を呈する。 まとめ 図8.18 B7 B7 CD28 図8.34 CD28 CD28 ①B7とCD28の結合は抗原を認識するエフェクターT細胞に分化さ せるために重要である ②CD40とCD40Lとの結合はエフェクターT細胞としての機能を発揮 させるために重要である 図8.37 高IgM症候群 Hyper-IgM Syndrome (HIGM) • B細胞のクラススイッチ(CSR)や体細胞高頻度変異(SHM)の過程 で必要な遺伝子の突然変異の結果、クラススイッチができないため に血清IgMが高値となる疾患。" • クラススイッチに関与する遺伝子は複数あり、いくつかの原因遺伝 子が報告されている(HIGM Type 1~6)。" " • クラススイッチに障害があるために中和やオプソニンに重要なIgG 、粘膜免疫に重要なIgA値が低値となり、易感染性(呼吸器感染、 膿皮症、中耳炎など)となる(主に液性免疫不全となる)。" • 生後2年以内に診断される事が多い。" • ガンマグロブリン定期補充療法(1回/3 4週)が治療の主軸。" 高IgM症候群 Hyper-IgM Syndrome (HIGM) Type" HIGM Type 1! ! ! ! HIGM Type 2! ! ! HIGM Type 3! ! ! HIGM Type 4! ! ! HIGM Type 5! ! ! HIGM Type 6! ! Mutation (genetic inheritance)" CD40-L " A co-stimulatory molecule on T cells. Altered T cell-B cell (X-linked R)" interaction. Without this co-stimulation, B cells do not receive the " needed signal to undergo SHM and CSR. " " " AID (AR)! An essential factor for SHM and CSR. Clinically similar to HIGM5." " " " A co-stimulatory molecule on B cells. Altered T cell-B cell CD40 (AR)" interaction. Similar to HIGM1 patients, HIGM3 patients fail to " undergo SHM and CSR." " " Unknown (AR?)" Intact SHM but altered CSR; It is supposed that the mutation in " HIGM4 patients occurs in a gene active downstream of AID." " " UNG (AR)" Responsible for the cleavage of cytosines that have been " deaminated by AID. Clinically similar to HIGM2." " " NEMO " Mutated NEMO is unable to phosphorylate IκB. Therefore, (X-linked R)" transcription cannot be initiated by NFκB, and SHM and CSR are (NFκB essential blocked." modulator)" 高IgM症候群の原因遺伝子" T細胞" HIGM Type 1! HIGM Type 3! HIGM Type 6! κ κ B細胞" HIGM Type 2! HIGM Type 5! HIGM Type 4! Etzioni A and Ochs HD Pediatr Res 2004" 麻疹ウイルス感染における免疫応答 抗体 感染細胞 自然免疫 ナイーブ T細胞 補体 獲得免疫 キラーT細胞 CD8 CD4 ナイーブ T細胞 殺傷 食細胞 B細胞 樹状細胞 時間 0 6 感染後の経過時間 12 8 10 日数 12 14 16 麻疹ウイルス感染における免疫応答 抗体 感染細胞 自然免疫 ナイーブ T細胞 補体 獲得免疫 キラーT細胞 CD8 CD4 ナイーブ T細胞 殺傷 食細胞 B細胞 樹状細胞 時間 0 6 感染後の経過時間 12 8 10 日数 12 14 16 麻疹ウイルス感染における免疫応答 抗体 感染細胞 自然免疫 ナイーブ T細胞 補体 獲得免疫 キラーT細胞 CD8 殺傷 食細胞 ヘルパーT細胞 時間 0 6 感染後の経過時間 12 8 10 B細胞 日数 12 14 16 麻疹ウイルス感染における免疫応答 抗体 感染細胞 自然免疫 ナイーブ T細胞 補体 獲得免疫 キラーT細胞 CD8 殺傷 食細胞 B細胞 ヘルパーT細胞 分化 体細胞高頻度変異、クラススイッチ 時間 0 6 感染後の経過時間 12 8 10 日数 12 14 16 麻疹ウイルス感染における免疫応答 抗体 感染細胞 自然免疫 ナイーブ T細胞 補体 獲得免疫 キラーT細胞 CD8 殺傷 食細胞 ヘルパーT細胞 分化 形質細胞 時間 0 6 感染後の経過時間 12 8 10 日数 12 14 16 麻疹ウイルス感染における免疫応答 抗体 感染細胞 自然免疫 ナイーブ T細胞 補体 獲得免疫 キラーT細胞 CD8 殺傷 記憶B細胞 食細胞 ヘルパーT細胞 分化 形質細胞 時間 0 6 感染後の経過時間 12 8 10 日数 12 14 16 Th2細胞は、同一抗原を認識するB細胞のみを活性化する 図8.37 ハプテンに対する抗体を産生させる機序 図8.37 キャリアータンパク ハプテン:抗原性があるが、免疫原性がない物質(免疫応答を誘導できない物質) 一般に、多糖や脂質、核酸などの分子量数百以下の低分子 小児髄膜炎の起因菌 第一製薬「ワクチンインフォーメーション」Vol.2、No.12から引用。 Hibと肺炎球菌のワクチン抗原にはキャリアタンパクを結合させている(1) • インフルエンザ菌b型(Hib)(Haemophilus influenzae: Hi、グラム陰性桿菌) 19世紀末、欧州でインフルエンザが大流行した際、患者の喀痰から発見されたことから、 インフルエンザの原因菌と考えられていた(インフルエンザウイルスは1933年に発見された)。 Hiは多糖体(ポリサッカライド)からなる莢膜の有無によって大別されるが、莢膜を有する ものは、a~fの6つの血清型に分類され、このうちb型(Hib)は病原性が強く、肺炎や喉頭蓋炎 、中耳炎、髄膜炎をひきおこし、毎年500人以上の乳幼児がHib髄膜炎に罹患している。 • 肺炎(レンサ)球菌(Streptococcus pneumoniae: グラム陽性球菌) 莢膜を有し、肺炎の起因菌として重要であり、2才以下の乳幼児や高齢者が重篤な症状 をひきおこす。中耳炎や、髄膜炎をひきおこす起因菌としても重要であるが、特に生命予後 にかかわる髄膜炎では、インフルエンザ菌とともに2大起因菌として重要である。 肺炎球菌の莢膜 メチレンブルー染色 厚生労働省 新興・再興感染症研究事業(H22 新興 一般 013)より引用 Hibと肺炎球菌のワクチン抗原にはキャリアタンパクを結合させている(2) • Hib、肺炎球菌の両者とも莢膜を有し、親水性の付加によりマクロファージや 好中球からの捕獲から逃れ、また、補体の結合による溶菌からも回避できる。 • 両者を排除するためには、莢膜に特異的なIgG抗体を誘導し、オプソニン作用 によるマクロファージや好中球による貪食が効果的である。 溶菌される 溶菌されない オプソニン作用 莢膜非保有菌 莢膜保有菌 標準微生物学第11版より改変 抗莢膜多糖体抗体 Hibと肺炎球菌のワクチン抗原にはキャリアタンパクを結合させている(3) • 莢膜抗原は多糖体であるため、MHC class II 分子上にペプチド抗原として提示 されない。→多糖体成分のみの免疫では莢膜抗原特異的Th2細胞を誘導する ことは困難。 • その結果、B細胞のクラススイッチができないため、オプソニン抗体(IgG)産生 が誘導できない。 • Th2細胞が莢膜多糖体を抗原として認識出来るように、ペプチド抗原となるキャ リアタンパクを付加させる必要がある。 Hibと肺炎球菌のワクチン抗原にはキャリアタンパクを結合させている(4) 多糖体抗原のみでの免疫 IgM 多糖体抗原+キャリアタンパクでの免疫 IgM キャリアタンパク IgM クラススイッチを誘導 IgG MHC class II分子上に抗原 を提示できないため、Th2 細胞から刺激を受けない。 MHC class II分子上に抗原を 提示し、Th2細胞から刺激を受け てIgGにクラススイッチする。 Hibと肺炎球菌のワクチン抗原にはキャリアタンパクを結合させている(5) 多糖体抗原のみでの免疫 IgM 多糖体抗原+キャリアタンパクでの免疫 IgM キャリアタンパク IgM 肺炎球菌ワクチン:プレベナー®(キャリア:ジフテリアトキソイド) クラススイッチを誘導 Hibワクチン:アクトヒブ®(キャリアタンパク:破傷風トキソイド) IgG MHC class II分子上に抗原 を提示できないため、Th2 細胞から刺激を受けない。 MHC class II分子上に抗原を 提示し、Th2細胞から刺激を受け てIgGにクラススイッチする。 肺炎球菌のワクチン抗原 米国ではHibワクチンの導入により、 Hib全身感染症の罹患率が激減した 第一製薬「ワクチンインフォーメーション」Vol.2、No.12から引用。