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「免疫寛容導入療法の進歩状況について」
「免疫寛容導入療法の進歩状況について」 奈良県立医科大学 小児科教授 吉岡 章 紹介いただきました奈良医大の吉岡でございます。伴野先生どうも身にあまる紹介いただきましてありがとうご ざいます。今日は北海道ということで恐らく雪ではないかと少し温かい装束でまいりました。しかしホテルの中は 暖かいので、 「やー北海道は暖かいな」というふうに思っております。足元の悪い中、たくさんお集まりいただきまし てありがとうございます。 血友病の患者さんがインヒビターを持った場合にどのようにして治療をしていくのかと考えますと、2 つの命題 があります。1つは目の前の関節出血とか、頭蓋内出血といった重篤な出血をどのようにして止血管理するのかと いう大事な命題であります。もう1 つは、1度出来たインヒビターを何とかそれを消去させるとか抑制して押さえつ けてしまおうという命題であります。後者が免疫寛容療法といわれるもので、今日のテーマは前者ではなくて後者 の方、すなわち止血管理ではなくて発生したインヒビターをどのように扱っていこうか、出来ることならそれを消 してしまおうという治療について、わが国および世界レベルでの免疫寛容療法の現況をお伝えできればと思ってお ります。 4つのパートからなっております。本日は医師や看護師さんをはじめ、患者さんやそのご家族の方もいらっしゃ いますので、あらかじめ、血友病のインヒビターというものはどういうものかが、第1編であります。第 2 編は本日 紹介します国際的免疫寛容導入療法 (ITI) が、どのようなプロトコール( 約束事 )で立ち上がったのかということです。 そして第 3 編は、国際的なこのITI 研究が現時点でどのレベルまで進行しているのかという進捗状況です。最後の 第 4 編がその国際ルールで実施しておりますわが国のITI 療法がどのような進捗状況にあるのか、ということをお話 できればと考えております。 それではスライドを使いながら、話して参りますのでよろしくお願いいたします。 ここに書いてありますように 9 月から伴野先生とご 一緒いたしまして、福岡から日本列島を北上いたしまし て、ようやく今日、北海道に辿りついたところでござい ます(表1)。 まず、そのインヒビターのことです (表2)。よくご存 知の方にとっては釈迦に説法なのですが、もう一度纏め ておきます。血友病患者さんはそれがAであろうとBあ ろうと、第Ⅷ(IX)因子を原則的には、血中にほとんど持 っていないか、あるいは持っていても非常に微量であ るとか、あるいはその第Ⅷ(IX)因子の機能が非常に弱い (表1) かのいずれかなのです。 そういう方に、健康な血液から濃縮した第Ⅷ(IX)因子 を、あるいは遺伝子工学的につくった第Ⅷ(IX)因子を出 血時あるいは予防的に投与いたしますと、患者さんの 何人かに1人は、入ってきた第Ⅷ(IX)因子を自分のもので はない異物だと、感じる場合があります。これが抗体の 産生になるわけです。抗体というのは、たとえば、イン フルエンザあるいは麻疹などウイルス感染でできる抗 体は、そのウイルスを排除するために効果的でありま (表2) 68 すが、血友病患者さんで第Ⅷ(IX)因子に対する抗体 ( これがインヒビター ) ができるというのは、これは非常に都合 が悪いのです。その後は投与した第Ⅷ(IX)因子の止血効果がなくなるのです。したがって、その後の血友病患者さん の治療はさらに困難な状況になるのです。 これについてまとめてみますと、まず今言いましたように、第Ⅷ(IX)因子インヒビターというのは、第Ⅷ(IX)因子に 対する抗体であるということです。一部スライドには自己抗体と書いてありますけれども、これは今日のテーマで はありません。これは血友病以外の方、たとえば妊婦さんとか産褥婦であるとか、あるいはご高齢な方が、突然第Ⅷ (IX)因子に対する自己抗体というものをつくりますと、大変な出血が出現します。いかにも血友病と同じだという 例があるのです。実は最近そういう患者さんが全国的にどんどん出てきていますけれども、本日はちょっとこれを 横に置きます。 血友病患者さんにおいては同種抗体であるインヒビターが問題であります。その抗体はガンマ・グロブリン (IgG) の分画で、さらにそのサブクラスは主にIgG4であります。このものは中和抗体といわれる抗体でありまして、 一度産生されますと第Ⅷ因子を進行的に壊してしまうのです。だから投与した第Ⅷ因子が効かなくなる、という特 徴があります。その抗体は大きく分けて2つのタイプに分かれます。1つは非常に力価が高いインヒビター。もう 1つは、抗体の力価が低いタイプであります。たとえば、ベセスダ単位で10または5単位というところで高いものと 低いものを分けます。最近、国際的には 5 単位で分けるのが意味があるのではないかと考えられております。 そして最後に、ここで問題になりますことは、Anamnestic responseといいまして、人間の体は一度その抗体をつく るという記憶ができあがりますと、日時がたってもその記憶は残る点であります。どういうことかと言いますと、 血友病患者さんにインヒビターができて、第Ⅷ因子が効かなくなりますと、出血をした場合、もう第Ⅷ因子が効か ないのですから、たとえば、ファイバとかノボセブンという特殊なバイパス止血製剤を使うことになります。それ らを使っていますと、第Ⅷ因子を入れることはないわけで、半年たち1年たちますとインヒビターの力価は当然下が ってくるわけです。ほとんどもう、検査上はインヒビターがないぐらいまでに下がっている状況で、もし大出血が 起こって第Ⅷ因子を投与し、数日から1週間くらいたちますと、たちまちインヒビターが再び目を覚ましてどーんと 増えてくることがあります。ある種のブースター効果といわれるもので、これが Anamnestic responseというもので あります。 以上が血友病におけますインヒビター ( 抗体 ) の特徴 でございます。 さて、血友病の患者さんの何割程度の方でインヒビタ ーができるのかということになります (図1)。スライ ドは4 つの外国のレポートで、 発生頻度を示しています。 横軸に治療を開始してからの年数。縦軸にはインヒビ ターの発生率です。多くのインヒビターは、使用を始 めてから急に増え、1 年∼ 3 年程度で、横に平行に達し てしまいます。使い出してから最初の 1 年が圧倒的に (図1) 多くて、2 ∼ 3 年ぐらいで大体インヒビターの発生する人は、発生してしまう。そのあとはもう、あまりインヒビ ターが発生するということはないというのが欧米のデータであります。 わが国でも私どもが中心になりまして、リコネイト、コージネイトそしてクロスエイトMについて検索をいたしま した。これらの対象となった患者さんたちは以前に第Ⅷ因子製剤を使うことのなかった人たち、こういう人たちを PUPsといいますが、これら、初めて第Ⅷ因子を使う患者さんにそれぞれの製剤を投与開始しまして、そして前向 69 きに定期的 (3カ月毎 ) にインヒビターの発生をチェックしていきました。そういう前向の調査をいたしますと、い ずれの製剤もこれまでに使ったことのないPUPsで、果たして何十%の患者さんがインヒビターを産生するのかとい うことが分かるわけです。このスライドでは、およそ20∼30%だということが分かります。 われわれが日本で上記の3種類の製剤について検討しましたところ、遺伝子工学的製剤 (リコネイトとコージネイト) については、 やはり同じくらいの数字で20∼30%の発生率でありました。クロスエイトMについては、実は24例中、 1例にしか出なかったんですね。これが果たして普遍的なのかというと、実はそうではありません。クロスエイトM を使った患者さんたちにはインヒビターがほとんど出ないということではありません。当然クロスエイトMでも出 るのですが、ある限られた人数で、ある限られた期間でやりますとこういう結果になったのです。なぜクロスエイ トMでインヒビターの発生が少なかったかと言いますと、実は24名の中にやや軽症あるいは中等症という方が思っ ているよりも多かったのです。 実は今、その問題点については意見の調整中でありますが、近く論文にして皆様の真意を問いたいというふうに 考えております。少なくともクロスエイトMが遺伝子工 学的につくられた製剤に比べて、インヒビターの発生率 が高いということはないということは言えると思いま す。同じかあるいは少ないと言えると思っています。 これは私どもの奈良医大でインヒビターの免疫寛容 療法(ITI)を実施した、何例かのうちの 1 例です (図2)。 免疫寛容療法をここでまとめておきますと、ITI とは一 度発生したインヒビターを何とか消滅させたい、消滅で きなかったとしてもある程度押さえ込んでおくことを 目的に、第Ⅷ因子製剤の一定量を一定の間隔で入れ続け ることなのです。だから出血して止血を目的に入れる (図2) のではなくて、毎日あるいは週に 3 回定期的に入れ続けるのです。そうすることによって、免疫寛容といいまして、 抗体の力が弱くなることを期待する治療であります。 この症例はリコネイトというリコンビナント製剤を使って ITIを開始いたしました。赤丸が、インヒビター力価 であります。2 ∼ 3BU 単位だったインヒビター力価が ITIを開始しますと、当然、1度インヒビターが上がりました。 約30BU単位くらいまで上がりました。しかしさらにリコネイト50単位/kgを週に4回入れ続けますと1 度上がった インヒビターは徐々に徐々に下がってほとんど消えてしまうところまで持ち込むことができたのです。こうなりま すと免疫寛容が成立したことになります。その後の治療は第Ⅷ因子を週に3回、定期的に投与することで十分止血 効果があります。仮に大きな出血が起こっても、その時 点で第Ⅷ因子を普通量投与すれば、インヒビターのない 人と同じように止血効果があることになります。ここ で活躍します IgGのサブクラスを見ますと、IgG3は全く 動きません。IgG1と2についてもほとんど変動しません。 しかし主に動くのは IgG4でした。 さて、先ほど述べました免疫寛容療法 (ITI) には、大 きく分けると 3つのプロトコール(方法)があります(表 3)。まず、1つ目の方法はボンプロトコールと言いまし て、ドイツのボン大学のグループがもう今から約 30 年 70 (表3) 前から開始した非常にアグレッシブな治療方法であります。内容は、第Ⅷ因子を体重(kg)あたり100 ないし 200 単 位を1日に 2 回、これを連日投与し続けるという方法であります。当時、私はボン大学に実際に行きまして 2 カ月近 く滞在いたしましたけれども、そこで見ました現実は、これらに加えてファイバ ( バイパス止血製剤 ) を毎日投与す るという、その当時の西ドイツのボンでないとできないという非常に高額な治療法でありました。しかし、これを やると、どんどんインヒビターが消えていくということをDr.ブラックマンあるいはエグリー教授が私に説明してく れました。実際に目の前で見せてくれたのです。確か 1979年だったと思います。私もまだインヒビターあるいは インヒビターのITIということについては十分には理解しておりませんでしたので、当初はツバを眉毛につけてお った状態でした。しかし目の前でみる患者さんは、過去に高力価のインヒビターがあったのに、現在はインヒビ ターがなくなっているのです。そんなに信用しないんだったら自分で1 度インヒビターの力価を検査してみては? と言われたぐらいで、本当に治ったといいましょうか、インヒビターが消えていったという現実をみて、これはす ごい治療だと思ったわけであります。 しかし、これはあまりにもお金がかかるということから、それに対して、かなり低用量でもこのようなITIができ ないだろうかと考えてくれたグループがありました( 表3 の 3.Low-dose)。体重あたり50ないし100単位、それを週 に 2 ∼ 3 回でどうか。これならば経済的にも負担がより少ないし、患者さんやそれを治療する家族や看護師さんや 病院も、毎日に比べれば週に2回∼3回だったらかなりやりやすい治療であったわけです。この低用量のことを考 えたのはオランダであります。オランダはご存知のようにダッチアカウント( 割り勘 )の国でありまして、なるべく 安くすませようという国民的発想から出た治療法であります。この方法でも、うまくいく患者さんは結構いるとい うことが分かりました。 表3 の中段のMalmoのプロトコールは、スウエーデンのインガ・マリー・ニルソンという女性教授が考えた方法で あります。最終的には第Ⅷ因子を投与するのでありますけれども、それに先立って、体外循環でプロテインAセファ ロースという特殊な免疫吸着体でインヒビター(IgG)を吸着して取り除きます。さらに正常のガンマ・グロブリンを 投与し、免疫抑制剤でありますシクロホスファミドを、静注・経口投与もするという、かなり大胆な免疫抑制療法 と大量の第Ⅷ因子を組み合わせて行う方法です。これを実施するとどうやらインヒビターが消える患者さんは、か なり短期間で消えるという特徴があるようであります。 このような 3 つのプロトコールがありますが、現実 にやれるのは1番目のボンかもしくは 3 番目の低用量 あろうということに帰着します。わが国では 2 番目の 方法はまず無理だろうと思います。 1997年に、国際血栓止血学会で、過去の ITIの実績の ある症例を集めまして、どのような特徴がキーポイント があるかを調査研究しました ( 表 4)。Dr.マリアーニ ( 伊 )が中心になってやりました。成功例が 114 例に対 して、失敗例が51例。2 対1ぐらいの比かなと思われま すが、残りの症例 (53例)の中でも過去の高いインヒビ (表4) ターが10ベセスダ単位 (BU)未満になったり、2BU未満に低下しているものがありますし、進行中のものも32例あり ますので、これらが 2 対1の比でうまくいくとするとトータルとしては、約 7 割はうまくいったというのが当時の データでありました。 71 しからば、どういうポイントが成功の秘訣かという ことで、成功に寄与した因子を多変量解析しました (表 5)。それによりますと、やはり第Ⅷ因子の投与量が多 い方がよく効いていると出ました。もう1つは、ITI 直前 のインヒビター力価が低い方がよく効くと判りました。 この他、統計学的には優位差は出なかったんですけれど も、やや意味があると考えられるのが 2 つありまして、 過去のインヒビターの最高力価が低い方が成功率は高 いこと。そして、ITI開始までの期間が短い方がよく効く のではないかという可能性が出て来ました。どうやら (表5) この2つは意味があるかもしれないということが分かっ たわけであります。 こういう状況の中で、2 つの前向きの研究が行われま した (表6)。1 つはわが国で行ったものです。神奈川県 立こども医療センターの長尾先生と愛知県赤十字血液 センターの神谷先生、そして私が全国の医療機関の先生 方にお願いいたしまして、全国のインヒビター患者さん を136例集計することができ、この方々を前向きに調 査しました。 このときに行った方法は、その同じ施設でインヒビタ ーを持たないほぼ同じ年齢の血友病の患者さんを 1 人 (表6) 正常コントロールとして登録していただいて、ペアで検討したのです。2 年間の追跡をしました。その結果、イン ヒビターを持つ患者さん 1 人の 1 年間の製剤の使用金額は 1,000万円を超えていました。 それに対しまして、コントロール、すなわち、インヒビターのない患者さんは 430万円かかっていました。約2.5 倍のお金がかかっていたにもかかわらず、患者さんの生活の質(QOL)はインヒビター症例の方がより不良でありま した。たとえば、入院日数も多かったし、車椅子使用日 数も多かったし、不自由な関節の数も多かったのです。 このような結果が出ましたので、やはり、インヒビタ ー患者さんをどのようにして治療するのかは、非常に 重大なテーマであり、われわれに与えられた大きな責 任であろうと考えたわけであります。 2 つ目は『Blood』という世界的な血液学のトップジャ ーナルの論文であります (表7)。このジャーナルに、免 疫寛容導入療法をやれば生涯にかかる医療費が節約で きる、という論文が出たのであります。これによります と、このモデルは年齢は 5 歳、体重は20kg、ITI 開始時の (表7) インヒビターが 25単位あったとしました。この子どもにITIを行った場合とITIを行わなかった場合、もちろん、ITI をやってもすべて成功するわけではありませんが、その辺のいろんな条件を数字にいたしまして実際にITIをやって うまくいった場合には、このITIに必要な製剤費が約 100万ドルかかる。かつ、ITIを成功し終わった後だって当然第 72 Ⅷ因子製剤による止血治療をしなければなりませんか ら、それには一生涯190万ドルかかる。合わせると 290 万ドルかかる。これは日本円に直しても大変な数であ ります。少なくとも3億円を超えるかなりの金額であり ます。 一方、もし、ITI 治療をしなければ、この患者の一生涯 にかかる製剤費は460万ドル、約5億円となります。し たがって、単に経済的な面をみただけでも、ITIをやるこ とには明らかに意味があるということを欧米でも示し てくれたわけです。 そこで、いよいよこれは何とか国際的に ITIをきちっ (表8) と実施して、高用量あるいは低用量あるいはリコンビナ ント製剤あるいは血液製剤 (この中には第Ⅷ因子だけの 製剤あるいは第Ⅷ因子と von Willebrand 因子の複合体製 剤とがある) が、果たしてどれが本当に効果的で、どれ が本当に経済的なのかということに勝負をつけようじ ゃないかという研究が計画されたわけであります(表8)。 これが国際血栓止血学会の科学的標準化委員会の中の第 Ⅷ、Ⅸ因子小委員会による ITI療法国際研究であります。 これは、免疫寛容導入療法に関する国際研究でありまし て、約5年前に計画されました。そのアウトラインをお 示しいたします。研究目的は、高用量による ITIと低用 量による ITI のどちらが、より効果的かということに勝 (表9) 負をつける研究であります(表9)。高用量は体重(kg)あた り200単位を連日投与。低用量の方は体重(kg)あたり50 単位を週3回投与というものであります。これによって 有効性、治療成功までの期間、副作用、経済性を比較検討 します。そしてあらかじめ治療成功の予測因子を検討 するというのが目的であります。 次はその研究方法であります。この方法は非盲検比 較対照試験でありまして、選択肢を2つ作りまして、低 用量と高用量とに無作為に割付けるするという方法で あります。無作為割付はマンチェスター国際研究セン ターのコンピューターですべて行います ( 表10)。各国 の各病院のデータはすべて電子カルテで送られるので、 (表10) 1度入れた数字は金輪際換えることはできないというふ うな、非常に厳格な電子カルテ方式であります。 表11はどういう患者さんがこの研究に入ることができるかであります。次の条件1から7をすべて満たすことが 73 必要であります。まず、重症であって第Ⅷ因子活性が1 %未満の患者さん。インヒビターの過去の最高値が5か ら 200BUまでの方。このように、一定の幅を持たせな いとわれわれが目的としている低用量と高用量との勝 負がつかないのではないかということから、このように 設定しました。開始時のインヒビター値が10BU未満に したことも成功の秘訣の1つだろうと考えたからです。 インヒビターの存在期間は当初のプロトコールでは 12カ月だったのですが、今年の7月から24カ月以下と (表11) 緩和しました。これはどういうことかというと、イン ヒビター発生からITI治療開始まで12カ月以内というこ とで始めておりましたが、実際にはいろいろ調査をし、 倫理委員会にかけ、その他をやっておりますと、それ に時間がかかるということで12カ月を過ぎてしまうこ とが出てまいりました。これでは患者さんの参加が難 しく、せっかく約束しかけたのにこの研究に入っていた だくわけにはいかないことが起こりましたので、24 カ 月まで幅を広げたということであります。 それから参加患者さんの年齢を一定にしたいという ことで7歳以下にいたしました。これは大きければ大き いほど体重も重いので、使用する製剤量も多く必要とい うことも1つの理由でありました。B型肝炎ワクチンの (表12) 接種済み。それから文書による同意。これが本研究へ の参加患者の統一された約束事であります。 こういう人は対象にしないという、除外基準でありま す (表12)。自然にインヒビターが消えてしまった人。 いろんな免疫抑制剤を使った人。これまでにITIを試み た人。以上の患者さんたちは入っていただくわけにはい きません。 ITI の開始までの止血管理をどうするのか (表13)。 たとえば、現在 100 単位 (BU)/mL の人は果たして12カ 月あるいはこの 24カ月以内に10BU/mL以内まで下がる かどうか。この間はどのような治療をすればいいのか。 (表13) これにはバイパス止血製剤を用います。APCC、PCC( プロトロンビン複合体製剤 ) またはリコンビナントの活性型 第Ⅶ因子 ( 製剤名ノボセブン ) があります。このうちノボセブンを使ってオンデマンド、すなわち、出血をしたとき に止血剤を投与するという止血管理を行いつつ、インヒビター力価が 10BU/mL 未満になるまで待つ。その期間は 24カ月以内だというふうに決めたわけであります。 74 表14はITIに用いる製剤であります。3 種類とも可能 です。1つはモノクローナル抗体を用いて精製した血漿 由来第Ⅷ因子製剤、これがクロスエイトMであります。 von Willebrand 因子を含む血漿由来製剤、わが国ではコ ンファクトF( 化血研 ) があります。それから遺伝子組 換え型の第Ⅷ因子製剤です。これには国際的にはコー ジネイトFSとリコネイトそしてリファクトという欧米 の製剤があります。このように異なる 3 種の製剤を主 治医が選んでいいと決められています。しかしながら、 (表14) 1度研究が開始されますと、その患者さんに使う製剤は換えることができません。 さて当時、わが国で果たしてこの 3 種をそろえることが可能かどうかという、もう1つの問題がありました。今か ら約5年前からこのことを関係者とご相談をさせていただきました。当時、日赤血漿分画センターに、今日もお見え いただいています、元北大教授の松本脩三先生が所長でいらっしゃいましたのでお願いをいたしました。ご快諾を いただき、その後は松本先生を中心に相談をさせていただきました。私どもは長尾先生、神谷先生と私の3人が何 度も集まりまして、いろいろな相談をいたしました。その折、なかなか難しいけれども、日赤はこういうときにこそ 手を上げてお手伝いしたいと非常に力強いお返事をい ただき、われわれは大きな勇気を得たことを覚えており ます。松本先生その他日赤の方々のお力添えで、日本赤 十字社が血液製剤クロスエイトMを無償で提供してよい という申し出をいただきました。同時に、患者さん1人 当たりの登録料が必要です。これはコンピューターを 使いますし国際的な電子カルテでありますし、それを管 理する人件費もかかります。おおよそ60万円くらいの 参加費が必要ですが、これも日赤は負担してもよいとい う決心をいただいたわけであります。 他のメーカーはどうであったのかといいますと、残 (表15) 念ながらわが国では、 そこまで協力することはできない、 ということで見送らざるを得なかったというのが現実 でした。その当時、コージネイトがいったん製造中止に なるという非常に大変なことが起こりまして、その結 果世界中で、特にリコンビナント製剤の欠乏状態が起 こったということもございました。そういうアクシデ ントがある中で、日赤が力強くサポートしていただけた のでわれわれとしては、この国際ITI 研究に参加できた という、ありがたい状況があったわけであります。 インヒビターの測定方法については今までに述べた ようにBethesda法がありますが、もう1つNijimegen 変法 (表16) 75 がありまして、これを使ってもいいということに決め ております。しかもそれぞれが 0.6BU/mL未満あるいは 0.3BU/mL未満をインヒビター陰性と判定することに決 めました (表15)。 ITIの成功、すなわち、インヒビターの消失の定義を決 めました(表16)。インヒビターが 2 週間以内に 2 回連 続して陰性になった場合、この陰性というのは先ほど 言いました 0.6BU/mL未満です。しかも第Ⅷ因子の生体 内回収率、これは患者さんに体重(kg)あたり1単位の第 Ⅷ因子を投与しますと、血液の中では 2%まで上昇する ということが分かっています。ですから、体重 1kg あ (表17) たり1単位入れて2%上がった場合には100%の回収率 と考えますと、3 分の2以上の回収率があれば一応回収 率は正常と決めました。 それからもう1つは血中半減期、これは血液製剤が体 の中に入った場合は、一定の寿命を持っているわけで、 これを生体内半減期あるいは生物学的半減期というふ うに呼びます。第Ⅷ因子についてはどの製剤も 8 時間 から12時間という半減期を持っていますが、6 時間以 上であれば良しとしようと、定義を定めてこの条件すべ てを満たした場合には「インヒビターの消失」 というふ うに定義しました。 (表18) 研究の進め方としましては、登録は国内登録を日本血 栓止血学会( 池田康夫理事長 ) 学術標準化委員会 ( 吉岡 章委員長 ) の血友病部会 ( 嶋緑倫部会長 ) の中に ITI 小 委員会というものをつくっていただきまして、私がそ の責任者になって登録を奈良医大で受け付けることに なりました (表17)。国際的には、国際ITIの研究グルー プの本部がイギリスのマンチェスターにありまして、 そこにインターネットを使って登録をすることになり ました。 この研究体制に加えて、対象の患者さんは大半が小さ な子どもたちでありますので、日本小児血液学会の血友 病委員会 ( 吉岡 章委員長 ) がこれに協力するというこ (表19) とになりました (表18)。 以上が、ITI の国際ルールはどのようになっているかということのあらましでございました。この研究が開始され まして3年を迎えました。そこで今年の 8 月に、第 20 回国際血栓止血学会がシドニーで開かれました折に、これ までの進捗状況が Dr.C.ヘイ、これがマンチェスターのボスでありますが、彼とニューヨークの Dr.D.ミケーレさん 76 という女医さんとが発表しました(表19)。私も参加い たしました。 表20は応募状況であります。全応募数が50例にな っておりました。これまでに、オーストラリア、ベル ギー、カナダ、イスラエル、イタリア、日本、オランダ、ノ ルウエー、英国、米国、スペインこれだけの国が参加い たしました。50 例がITI に入りました。が、12 例がさ まざまな理由からITIに入る前、あるいは入った後に中 止になりましたので、平成 17 年 8 月現在世界中で 38 例が、治療を開始しているという状況でありました。 (表20) 次 に 患 者 さ ん の 背 景 で あ り ま す (表21)。 年 齢 の 中間値は25カ月です。インヒビター検出時の力価は 12.8BU/mL。幅は 2.6 ∼175BU/mL。過去の最高のイン ヒビターも 5 ∼175BU/mL で、 中間値は 21BU/mL。それ からITI の開始時の力価は、これは10BU/mL未満になっ ていないといけませんが、中間値は 5BU/mL。ITI を開 始した後、インヒビターは先ほどいいました Anamnestic responseで 1 度上昇しますが、それを見ますと全然上が らなくてそのまま消えていった人と 2,000BU/mL 以上 まで上がった人がありましたが、中間値は 3.1BU/mLと 低いものでした。 (表21) ITIが何故中止になったかということは大事でありま すので、これについての解析であります (表22)。12 例のうち 6 例が ITIに入る前に中止になりました。これ は先ほど言いましたように、もたもたしているうちに、 12カ月が過ぎてしまったという方が 2 例です。これは 非常に残念でした。資金不足での中止。これも日本は 助かりましたけれども、それぞれの国で多少状況が違う わけであります。それから中心静脈カテーテルに関す る中止。これはどういうことかと言いますと、ほとん ど毎日、あるいは週に3回製剤を静注するということは それ自身大変なことであります。しかも年齢が小さな お子さんです。そこで1つの解決方法は、 大きな静脈に、 (表22) あらかじめ細い留置カテーテルを入れておくことによって毎日毎日血管を穿刺することがなく、第Ⅷ因子を静注す ることができるという方法であります。しかし、この静脈カテーテルの同意が得られなかった例も含まれています。 それから、低用量と高用量の2 つに分ける無作為化について同意が得られなかった例も含まれています。それと、 何故かプロトコールの理解が得られなかった等々、諸々の理由で 6 エピソードは門前でキャンセルされました。そ して、 ITI に入った後になりますけれども、 6 人は途中で中断いたしました。1 つはプロトコール上の不成功であります。 77 うまくいかなかった。すなわち、ITI に持ち込むことが できなかった失敗例であります。そのほかに静脈の確 保が大変での中止例。そしてプロトコール違反、すな わち約束事を守らなかった例。さらに、折角ITI に成功 したのに何故か経過フオローができなかった。こんな ばかなことは日本では考えられませんけれども、いろ んな国ではいろんなことがあるのだなと思います。こ のように計12例については何らかの理由でITIに入って いないか、入っても途中でだめになりました。 次に、ITI 中の副作用の点について報告いたします。 重篤でないけれども副作用が起こったということです (表23) (表23)。1番目、これは大半が静脈カテーテル関係で す。ポートといいまして、同じ静脈カテーテルですけれ ども、胸の皮下にポートといわれる小さな聴診器の膜 の部分のようなものを埋め込みまして、皮膚を消毒して そこから薬を入れる方法があります。このカテーテル の周辺が腫れたり、それからカテーテルに炎症を起こ したり、カテーテルが詰まったり、あるいは周囲から漏 れたり、あるいは亀裂が生じたり、痛みが走ったり、何 故か好中球が減少したという訴え等が 30 エピソードあ りました。 重篤でない副作用としての2 番目は、感染関係で 8 例 (表24) の報告がありました (表24)。扁桃炎4 例、感冒4 例、 胃腸炎2 例、原因不明の発熱2例、副鼻腔炎1例、中耳 炎 1 例の計14 エピソードです。対象が 1歳から 2∼3 歳の子どもが中心ですから、こういうことは当然起こ ります。これを副作用といっていいのかどうか問題が あるんですが、一応われわれのプロトコールではITI 中 に出た熱とか、扁桃炎、風邪、気管支炎等はすべて報告 することになっています。これらはあまり気にしてい ただかなくてもいい副作用だろうと思います。 重篤でない副作用の 3 番目ですが、出血関係で、9 例ありました (表25)。頭部の外傷18例。結構頭を打 (表25) つんですね。それから顔面と口腔内出血が 9例。手と 足の出血が3例。それから原因不明の血腫が 1 例。計 31 エピソードありました。頭を打ったというのは別にこの ITI治療をしてもしなくても起こることではないか。あるいは顔面や口の中からの出血もそうではないかという考 え方はあるんですが、われわれとしてはこういう研究をやっている限り、この研究期間中に起こった出血は全部副 作用として拾い上げようということで、あげた数字であります。あまり気にしていただかなくてもいい副作用だろ うと思います。 78 第 4 番目でありますが 7 例ありました (表26)。関 節痛、疲労感、2 ∼ 3 歳で疲労感というのはよく分か りませんが、元気がないということであります。それ から気管支喘息、中耳炎、車の事故、口内炎。これも 車の事故までも副作用とはとても思いませんし、一方 関節痛というのは実際の出血かもしれません。気管支 喘息はちょっとわれわれ小児科医にとっては気になり ます。これがもし第Ⅷ因子製剤に起因した気管支喘息 であれば私は重大な副作用だと思いますけれども、そ (表26) うではなく、もともとその子が持っていた気管支喘息 ということであります。 以上のような副作用は問題ないとは言い切れません が、大した問題ではありません。問題は重篤な副作用 です (表27)。われわれは入院エピソードは全部重篤 としました。ここがキーポイントでありまして、欧米 ではそう簡単に子どもを入院させることはないんです。 特にヘモフィリアの子ども。だから欧米のドクターは、 入院のカテゴリーに入った何らかのイベントはもうみ んな重篤と決めようとしたわけです。 この辺が、わが国の小児科医とちょっと意識が違い (表27) ます。われわれ日本の小児科の場合、入院したからすべ て重篤かというと、ちょっと違うと思います。そこでは バイアスがかかっているんです。そうすると、入院だ けで 78 イベントあったわけではありませんけれども、 結構なイベント数がありました。ただし、主要なもの は先ほど言いました静脈ラインの感染とその関連の出 血もしくは閉塞でした。したがって、大半が静脈カテ ーテルの問題であります。しかも大多数は想定された もので、かつ、その中でITIに関連したと主治医が判定 したものが 12 イベントで、ITIに関連していないものと いうふうに考えられたのが 66 イベント、それから製 (表28) 剤に関係したものが 2 イベントですから、このITIで問 題になるのは12イベントであった、というふうに考えてよいと思います。しかも、その大多数はある程度予想され たものでした。 具体的にその重大な副作用について述べます (表28)。出血エピソード、静脈ラインの感染、カテーテルの閉塞 とか亀裂が生じたといったものでした。1 例、鎖骨下静脈に血栓を起こしました。これはわれわれとしては十分注 意しなければならない重篤な副作用だと思います。カテーテルという細い管を鎖骨下静脈に入れておりますので、 79 その先に高濃度の第Ⅷ因子が何回も入ることによって、 そこで凝固が起こる。その結果、血栓が発生したとも 考えられます。それから気管支けいれん、これは先ほ ど言いました喘息ではありません。この第Ⅷ因子製剤 を投与したことによって気管支が微妙に痙攣いたしま して、息が苦しくなったという症例です。これについて は、重篤な副作用として対応を考えていく必要があり ます。 以上が国際的ルールに則った国際ITIの途中経過であり ます。50例登録されまして、その中で 38 例が現在行 われているという状況でした。 (表29) ここからはわが国でこの国際ITI研究に参加しており ます状況についての報告です。北海道は4 回のシンポ ジウムの最終回ですので張り切って10月31日のデータ を持ってまいりました(表29)。これが最新バージョン であります。お断りしておきますが、国際的にこういう 研究を開始いたしますと、その国際ルールで決められて おります一番大事なルールは、途中で玉手箱を開けて はいけないということであります。目標は150例です ので、まだ3分の1にしか達していません。これを途中 で開けてしまうと、以後大変なバイアスがかかってしま いますので、これはしないという約束です。ここに一部 (表30) の進捗状況を出すというのは実はルール違反になりか ねません。 しかし、幸か不幸かわれわれ奈良医大にはわが国の 事務局でありますので、現在の状況、すなわち、電子カ ルテに打ち込む生データが全部こっち側にありますの で、今回、先生方あるいは患者さんのご家族にご披露し て、ぜひ、ご理解を願い今後このITI 研究に協力を賜り たいと存じます。 これが日本の登録状況であります(表30)。登録は 9 月30日現在であります。1番から12 番まで登録されま して、この内の7 例。No.3、6、8、9、10、11 と 12、こ (表31) れらが国際ITIのルールにのっとって治療を開始した症 例であります。ここに国際ルールのナンバーが付いている人たちだけが対象になります。生年月日をみていただき ますと2001 年∼ 2003年というところで、年齢は 1 歳∼ 3 歳ということが分かります。もちろん、1%未満の血 友病Aであります。インヒビターの出現時のベセスダ単位や最高値や、ITIのインヒビター力価も記載されています。 これが、ITI以前に使っていた製剤名で、コンファクトF、コージネイト、クロスエイトM、リコネイト、といろいろ であります (表31)。インヒビターが発現するまでに少ない人で 6 回、6日の投与をしています。1 番多い人で約 30 回。 80 B 型肝炎ワクチンは全員終わっていますし、IRBといい まして、それぞれの病院の倫理委員会あるいは治験委員 会を通っています。マンチェスターで無作為に振り分 けられまして、最初の例が低用量、次も低用量、次は高 用量、高用量、高用量、低用量、高用量というふうにな っています。 もう少し詳しくお話をいたします (表32)。この 7 例 についてまとめております。名古屋大学血液内科、名 古屋大学血液内科、東京医科大学臨床検査科、長野県立 こども病院、産業医科大学小児科、 名古屋大学血液内科、 群馬県立小児医療センターと7例の中で、なんと名古屋 (表32) 大学血液内科が3例と非常に力強くこのITI治療をして いてくれています。松下講師がおられて熱心にやって いただいておりますので、内科ですけれども、子ども たちも診ていただいています。東京医大臨床検査科は 主として成人を診ているところでありますけれども、小 児も診ていただいています。あと、小児医療センター、 小児科、こども病院であります。 吉岡はこれだけしゃべっているけども、お前のところ は1例もないじゃないかといわれますが、実は産業医大 の症例がもとは私ども奈良医大で出合った症例であり ます。われわれのところで話をしまして、ぜひこのITI (表33) をやろうというふうに決めていたらある日、突然お父さ んが、「実は先生、北九州へ転勤になりました。大丈夫 でしょうか」と心配されました。幸い産業医大小児科の 白幡教授をご紹介いたしまして、うまくバトンタッチが できた症例であります。奈良医大も努力をし、参加して いるということを一言申し上げておきます。 7 例のITI のうち投与期間は長い症例で 2 年経ちま した。1 番短い症例で 2 カ月であります。7 例の内の 1 例のインヒビター力価はITI 直前は 10BU/mL 未満に なっております。そして最近ゼロとインヒビターが消 えました。あとの6例の内 81BU/mLの1 例を除いては、 1.0BU/mL以下と消えるに近いところまで来ている状況 (表34) であります。 これは日本の7例の有害事象です (表33)。1例はポートの穿刺部から間違って前胸筋に針が刺さってしまったと いうエピソードがありました。外来でのファイバやノボセブンでは止血ができずに、入院してファイバを使って止 血しました。名古屋大学の症例はカテーテルに感染をしました。Acinetobactorという弱い細菌による感染例があっ たわけです。 81 これは有効性であります (表34)。これは分かりにく いので次をお願いいたします。 これがその 6 例のインヒビターの変化のまとめであ ります (図3)。横軸にITI開始後月数そして縦軸はイン ヒビター力価です。インヒビターは ITI開始時をみます と、縦軸は対数ですので 1 つの目盛りで 10 倍違うと いうことを見ていただきたいんですが、すべての症例が 10 から1BU/mLの間で ITIを開始しています。多くの症 例が1度上がります。小さく上がる症例と大きく上が る症例とがあります。しかし 1 症例を除いてすべて現 (図3) 時点ではゼロもしくは 1BU/mLであります。したがって、 7 例の内、長野県立こども病院の 1 例を除いて 6 例は 1 単位もしくは 1 単位未満になっており、かなり成功的 であります。この長野の症例のみが続行できるか否か問 題になりますが、これも最近少し下がりつつあるという 情報が入っております。 この名古屋大学第 1 内科の第 1 例目でありますが、 なかなか 70BU/mLあたりでそれ以下に低下しにくかっ たものが、ITI 継続で徐々に下がり出して、その後さらに 下がって来て、今は 1BU/mLを維持しているということ でありますので、長野県立こども病院例もさらに頑張っ (表35) てやることに意義があるなと考えているところであり ます。 最後は安全性の問題で細かいことを書いてございま す ( 表 35)。先ほど国際的にまとめましたものに全て 入っております。 これがインヒビター陰性化後の経過です (表36)。名 古屋大学の 2 症例目で、どんどんとそのインヒビター が消えてきましたので、去年の 7 月に回収率の検査を していますけれども、66%でセーフでした。もう1 度 測定していますけど、84.8%と良好でした。 (表36) 82 その後の回収率は、 85、 86、 79%と非常に良好でした (表 37)。 これがどうやらITI 成功が有望になりまして、回収率 がかなり良くなってきているというところまできてい ます(表38)。 これが最後のスライドです(表39)。7 例の投与法です。 ブロビヤックカテーテル(3例)やバードのポート (3例) となっています。ブロビヤックカテーテルは、太い静 (表37) 脈に細い管を入れて、皮膚の外に管を出しています。 ルーメンが二重になっています。それから他の3例では、 ポートといいまして、皮膚の外に管を出さないで皮膚 の下に聴診器のようなものを埋め込んでそこに薬を入 れる、そういう治療をやっています。 ちょうど予定の時間になりましたし、私は今日このよ うに国際ITI研究とわが国の研究の現況をお知らせする ことができました。これもひとえに、各病院の担当ドク ターとナース、それからご理解いただいて協力いただ いている患者さんと患者さんのご家族、そしてこの製剤 を気持ちよく提供いただき、精神的にも経済的にもご (表38) 支援をいただいている日本赤十字社、それぞれの皆様方 に心からお礼を申し上げたいと思います。 ご清聴ありがとうございました。 (表39) 83