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アルミニウム合金ダイカストの疲労強度に対する 鋳巣の定量的 - J

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アルミニウム合金ダイカストの疲労強度に対する 鋳巣の定量的 - J
39
日本機械学会論文集(A 編)
77 巻 773 号(2011-1)
論文 No.10-0644
アルミニウム合金ダイカストの疲労強度に対する
鋳巣の定量的影響評価*
(第 1 報,鋳巣と鋳肌の影響に関する実験的検証)
桑水流 理*1,村田 陽三*2,宇都宮 登雄*3,
半谷 禎彦*4,矢野 貴之*5,ビダハル スジット*6,
椎原 良典*7,北原 総一郎*8,吉川 暢宏*7
Quantitative Evaluation of Porosity Effect on Fatigue Strength
of High Pressure Die Cast Aluminum Alloy
(Part 1, Experimental Investigation for Effect of Porosity and Casting Surface)
Osamu KUWAZURU*1, Yozo MURATA, Takao UTSUNOMIYA,
Yoshihiko HANGAI, Takayuki YANO, Sujit BIDHAR,
Yoshinori SHIIHARA, Soichiro KITAHARA and Nobuhiro YOSHIKAWA
*1
Dept. of Nuclear Power & Energy Safety Engineering, University of Fukui
Bunkyo 3-9-1, Fukui, 910-8507 Japan
Effect of casting defects on the fatigue strength of die cast aluminum alloy was addressed through the
tension-compression fatigue test and the X-ray CT inspection, which revealed the amount of porosity included in the
specimen. Six types of casting condition were employed to examine the effect of different porosity. Most of fatigue
crack sources were the pores. The porosity volume fraction was calculated for all specimens from the three-dimensional
X-ray CT images. The fatigue limit of each specimen type was estimated from the fatigue test results. The correlations
among fatigue limit, porosity volume fraction, Vickers hardness, and dendrite arm spacing were evaluated, and the
result showed that the porosity volume fraction most dominantly affected the fatigue limit in the averaged sense.
Key Words : Aluminum Alloy, Hardness, Fatigue, Fractography, Die Cast, Casting Defect, Porosity, Casting Surface
1. 緒
言
設計時において,材料欠陥による疲労強度低下の定量的評価は容易ではない.理論的には,最大欠陥から疲労
き裂が発生すると仮定し,疲労き裂進展の評価を行えば,疲労寿命の予測が可能である(1).しかし,き裂発生寿
命の不確定性やき裂進展評価の煩雑さから,実用的とは言い難い.本研究では,実用的な疲労設計手法の開発を
目指し,アルミニウム合金ダイカストの疲労強度に対する鋳造欠陥の影響を定量的に考察する.
アルミニウム合金ダイカストは,形状精度や生産効率の高さから,自動車部品等に多く用いられている.しか
し,高圧鋳造時に溶湯に混入するガスにより,鋳巣(空洞欠陥)の発生が避けられない上に,発生する鋳巣量は
確率的に大きくばらつく.更に,鋳造欠陥のばらつきにより,疲労強度も大きくばらつく結果となる.よって,
*
原稿受付 2010 年 8 月 16 日
正員,福井大学大学院 工学研究科(〒910-8507 福井県福井市文京 3-9-1)
*2
群馬大学大学院 工学研究科(現住友軽金属工業(株)
)
*3
正員,芝浦工業大学 先端工学研究機構
*4
正員,群馬大学大学院 工学研究科
*5
群馬大学大学院 工学研究科
*6
東京大学大学院 工学系研究科
*7
正員,東京大学生産技術研究所
*8
グンダイ
(株)
E-mail: [email protected]
*1
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© 2011 The Japan Society of Mechanical Engineers
40
アルミニウム合金ダイカストの疲労強度に対する鋳巣の定量的影響評価(第1報)
製品ごとの鋳巣のばらつきを考慮した疲労設計法が望まれる.
アルミニウム鋳造合金の疲労強度特性(2)は古くから研究されており,アルミニウム合金ダイカストに多く含ま
れる鋳巣の影響(3)~(11)に関しても,多くの研究がなされてきた.しかし,ほとんどが微小な鋳巣を対象としており,
実際のダイカスト製品に含まれる,巨視的な鋳巣までを対象とした,汎用的な鋳巣の影響評価にまでは至ってい
ない.
前述のように,き裂進展評価による疲労寿命予測では,最大欠陥をき裂発生源とするのが一般的であり,アル
ミニウム鋳造合金に対する適用例(5),(7)も示されている.また,村上(12)の疲労限推定法でも,最大欠陥の等価欠陥
寸法が用いられ,アルミニウム鋳造合金に対しても有効性が示されている(8)~(10).しかしながら,等価欠陥寸法の
適用限界は 1.0 mm であり,それ以上の巨視的な欠陥に対しては他の評価法が必要となる(12).特に,著者らは,
既報(13)において,アルミニウム合金ダイカストの X 線 CT 観察と疲労試験を行い,最大鋳巣が必ずしも疲労き裂
発生源とならないことを示した.そこで本研究では,数 mm に達する巨視的な鋳巣まで含め,その疲労強度への
影響を明らかにする.
一方,様々な鋳造合金を対象に,鋳巣や介在物などの影響を定量的に評価するため,有限要素解析により欠陥
まわりの応力場を調べ,疲労強度との関係を解明しようとする試みもある(14)~(18).更に,X 線 CT を用いて,より
精密な鋳巣形状の有限要素解析に基づいた疲労強度予測も試みられている(18).
本研究では,X 線 CT と有限要素解析を用いて,鋳巣の影響を定量的に考慮した,疲労強度予測法を開発する.
まず第 1 報(本報)では,X 線 CT 観察結果と破面観察結果を通じて,鋳巣量の異なる試験片の疲労試験結果に
ついて考察する.そして第 2 報(19)では,CT 画像を用いたイメージベース有限要素解析の結果に基づき,疲労強
度と鋳巣の関係を定量的に明らかにする.また,鋳肌は組織だけでなく,鋳巣量へも影響するので,本報では鋳
肌の影響も明らかにする.
2. 実験方法
2・1 試験片
使用した材料は ADC12 アルミニウム合金ダイカストで,疲労試験片から計測した化学成分を表 1 に示す.疲
労試験片を作製するため,図 1 に示す 4 本取りの金型を作製した.キャビティの中央(各試験片中央部)には,
冷却水路が設けてある.キャビティ a と b は試験部に鋳肌を残すため,キャビティ中央部の形状を疲労試験片と
同じにした.また,キャビティ c のみ,湯口厚さが 3.0 mm に厚くしてあり,湯口速度が落ちることにより,鋳巣
量を変化させた.この金型を用いて,2 種類の鋳造圧力と,冷却の有無により,鋳巣量を変化させ,表 2 に示す
タイプ A~F の 6 種類の疲労試験片を作製した.疲労試験片は全て,図 2 に示す砂時計型疲労試験片の形状に仕
上げた.疲労試験片の弾性応力集中係数は 1.04 である.
Table 1 Chemical composition of ADC12 [wt%]
Si
Cu
Fe
Mg
Zn
Mn
Ni
Sn
Al
10.8
2.02
0.70
0.20
0.71
0.19
0.08
0.02
Bal.
Table 2 Casting condition and surface finishing for each specimen type
Type
A
B
C
D
E
F
Cavity position
b
a
d
d
c
c
Casting pressure
Normal
Low
Normal
Low
Normal
Low
Gate velocity
Normal
Normal
Normal
Normal
Low
Low
Water cooling
Used
Not used
Used
Not used
Used
Not used
As-cast
As-cast
Machined
Machined
Machined
Mchined
Surface
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アルミニウム合金ダイカストの疲労強度に対する鋳巣の定量的影響評価(第1報)
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Fig. 1 Mold shape of die cast specimens
Fig. 2 Shape of fatigue specimen (Kt = 1.04)
2・2 X 線 CT 撮像
マイクロフォーカス X 線 CT(島津製作所 SMX-225CT)により,全試験片の中央部約 17 mm の区間を,コー
ンビーム CT 撮像した.撮像条件は,X 線管電圧 80 kV,X 線管電流 30 μA,画像領域直径 FOV(Field of View)
20 mm とした.このときの CT 画像の解像度は約 39 μm/pix,画像ピッチも 39 μm である.得られた三次元画像を,
画像処理ソフト(くいんと VOXELCON)により,中央値フィルタ―を掛け,ノイズを除去する.次に,画素値
のヒストグラムから極小点を閾値(13)として設定し,等値面として材料表面を抽出する.得られた表面データから,
鋳巣体積と,CT 画像中に占める材料の体積を計算し,各試験片の鋳巣体積率(空孔率)を算出した.
2・3 硬さ試験と組織観察
各タイプの疲労試験片から 1 本ずつサンプルを抜き取り,試験片の中央断面に対して,マイクロビッカース硬
さ試験を行った.表面から中心に向かって,硬さの分布を調べた.ただし,試験荷重 2.94 N(300 gf),計測ピ
ッチ 0.225 mm で全体を粗く調べ,次に,試験荷重 0.245 N(25 gf),計測ピッチ 0.02 mm で表面近傍を調べた.
試験片は 1 サンプルのみであるが,3 経路を計測し,3 経路の平均値をその位置の硬さに用いた.
また,同断面を用いて,二次枝法(20)による DAS 計測を行った.ただし,凝固過程の違いを調べるため,外表
面近傍と試験片中心近傍で計測し,それぞれ 25 点計測した平均値を用いた.
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アルミニウム合金ダイカストの疲労強度に対する鋳巣の定量的影響評価(第1報)
2・4 疲労試験
電気油圧サーボ疲労試験機(MTS Model 810)を用いて,完全両振り(応力比 R = −1)の引張・圧縮疲労
試験を行った.各タイプの試験片に付き,8~12 本の疲労試験を行い,107 または 108 サイクルに達した試験
片は Run-out とした.
3. 実験結果
3・1 鋳巣体積率
全試験片の X 線 CT 画像から,画像処理により鋳巣体積率を算出し,タイプごとの平均値と標準偏差を表 3 に
示す.
タイプごとのデータが少ないことも要因であるが,
いずれも標準偏差が平均値と同程度の値となっており,
鋳巣量のばらつきが大きかった.タイプ C と D は,鋳造条件の違いにより鋳巣量が異なり,低い鋳造圧力と遅い
冷却速度では,鋳巣量が増えることが確認できる.タイプ E と F は,溶湯の乱れが小さいため,鋳巣量が比較的
少ないが,鋳造圧力の違いから,タイプ F は鋳巣量がやや多かった.
3・2 硬さと組織
ビッカース硬さ試験の結果を図 3 および 4 に示す.図 3 は表面から中心部までの硬さ分布,図 4 は表面の極近
傍における硬さ分布である.計測点の近傍に鋳巣がある場合,圧痕が大きくなり,硬さが下がる.その影響によ
り,鋳巣量の大きい試験片タイプほど,硬さのばらつきが大きかった.ただし,タイプ F は破断チルなどの欠陥
も多く含んでいるため,鋳巣量が少なめであるにも関わらず,硬さのばらつきが大きくなったものと思われる.
図 3 より,いずれの試験片も,表面から中心に向かって,やや硬さが低下した.また図 4 より,表面近傍の硬さ
は,ほぼ一様であった.図 4 の表面から 0.2 mm まで(表面)の硬さの平均値,図 3 の 3 mm まで(外側)の平均
値,および 3 mm 以上(内側)の平均値を,それぞれ表 4 に示す.外側に比べて,内側の方が,1 割ほど硬さが
低下していることがわかる.
硬さ試験と同じ断面に対し,表面近傍と中心近傍で DAS を計測した結果を表 5 に示す.また,DAS 計測に用
いた表面近傍の顕微鏡写真の例を図 5 に示す.図中,上側が試験片表面である.タイプ A と B は鋳肌を残したが,
タイプ A が微細な組織のチル層を形成したのに対し,タイプ B は冷却速度が遅いため,明確なチル層を形成して
いない.表 5 の DAS はチル層の影響を反映しており,タイプ A と B の表面の DAS は中心部の DAS の約半分で
ある.タイプ C,D,E,F では,機械加工した表面なので,内部との差は大きくなかった.更に,タイプ A のチ
ル層内に対して,同様の計測を行ったところ,DAS の平均値は 2.95 μm であった.
Table 3 Porosity volume fraction [%]
A
B
C
D
E
F
Mean value
0.010
0.081
0.313
0.997
0.030
0.092
Standard deviation
0.014
0.060
0.267
0.790
0.031
0.115
Maximum
0.049
0.222
0.855
3.047
0.120
0.426
Minimum
0.000
0.036
0.064
0.218
0.002
0.017
Table 4 Averaged Vickers hardness
A
B
C
D
E
F
Near surface
104.5
96.7
95.7
85.2
99.0
89.5
Outer region
104.7
96.2
98.6
92.7
98.2
86.9
Inner region
92.8
87.3
87.1
81.6
85.3
70.3
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アルミニウム合金ダイカストの疲労強度に対する鋳巣の定量的影響評価(第1報)
Table 5 DAS measurement results [μm]
A
B
C
D
E
F
Near surface
5.07
7.67
10.90
12.38
12.85
14.46
Near center
10.47
13.64
12.03
14.50
13.03
16.49
Fig. 3 Distribution of Vickers hardness
Fig. 4 Near-surface distribution of Vickers hardness
Fig. 5 Micrographs of cross-section near surface
3・3 疲労試験結果
疲労試験から得られた応力振幅と破断寿命の関係を図 6 に示す.図中の S-N 曲線は,各タイプの Run-out 試験
片以外の結果を用いて定めた回帰曲線である.107 または 108 サイクルでの時間強度を,疲労限と仮定すると,そ
れぞれの疲労限は,タイプ A と B は 90 MPa,タイプ C と D は 50 MPa,タイプ E は 80 MPa,タイプ F は 70 MPa
であった.
また,破面観察から,き裂発生起点を推定したところ,明らかに表面欠陥起点であった試験片の数は,破断し
た全試験片数に対する比にして,タイプ A で 4/8,タイプ B で 0/7,タイプ C で 2/7,タイプ D で 0/7,タイプ E
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アルミニウム合金ダイカストの疲労強度に対する鋳巣の定量的影響評価(第1報)
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で 5/10,タイプ F で 4/9 であった.それ以外は,内部欠陥あるいは内部欠陥と表面欠陥の両方が起点と思われる
破面であった.
各タイプの代表的な破面写真を図 7 に示す.また,図 7 と同じ破面のき裂発生起点と思われる欠陥の SEM 写
真を図 8 に示す.タイプ A の例は,典型的な表面欠陥(表面近傍の鋳巣)からの疲労破壊破面である.タイプ B
と C の例は,内部起点の破面を示し,SEM 写真から,ガス欠陥から発達した引け巣クラスター(21),(22)が起点とな
っていることがわかる.タイプ F の例は,表面近傍の破断チル(23),(24)から疲労破壊した破面である.破断チルは,
破面から傾斜しており,その滑らかな表面からも破断チルであることが確認できる.
一方,き裂進展部の SEM 観察から,ADC12 では,ストライエーションがほとんど観察されなかった.た
だし,わずかな領域で確認できたストライエーションを図 9 に示す.試験片は図 7 および 8 に示した試験片
と同じである.ストライエーションが現れにくいことから,脆性的に疲労き裂が進展したと推察され,文献
の結果(9),(10)と整合する.
Fig. 6 Fatigue test results
Fig. 8
Fig. 7 Photograph of fracture surface
SEM images of crack initiation site
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アルミニウム合金ダイカストの疲労強度に対する鋳巣の定量的影響評価(第1報)
Fig. 9
SEM images of crack propagation site
4. 考
察
計測したパラメータ間のおおまかな因果関係を考察するため,疲労限,鋳巣体積率,ビッカース硬さ,および
DAS のそれぞれに関して計算した相関係数を表 6 に示す.硬さと DAS の相関係数が高いことから,計測結果の
妥当性がわかる.特に,中心近傍の DAS と表面以外の硬さとの相関係数が高かった.ただし,タイプ A と B に
おいて,鋳肌の影響により DAS が極端に小さくなったのに対し,表面硬さはほとんど変わらなかったため,表
面近傍の硬さと DAS の相関係数は比較的低い値となった.
一方,表 6 で重要なのは,疲労限との相関であるが,鋳巣体積率と表面近傍の硬さが比較的高い相関係数を示
した.つまり,疲労強度に影響する因子として,鋳巣体積率と表面硬さが重要と考えられる.これは従来の金属
疲労の考え方(1)と一致するが,実際には,内部起点の疲労破壊が多かったため,表面硬さが疲労強度に直接影響
したとは考えにくい.そこで,表面硬さの違いは,組織の凝固速度を反映しており,更に凝固速度の違いが内部
の鋳巣の違いにつながると考えれば,表面硬さが鋳巣の違いを反映し,疲労限との相関が現れたと考えるのが妥
当である.ただし,鋳巣体積率に関しても,計測したパラメータ中で,疲労限との相関が最も高かったが,相関
係数自体は十分高いとは言えない.鋳巣体積率は,き裂発生との力学的な因果関係も不明であるので,疲労強度
を決定する支配的な因子については,第 2 報(19)にて更に検討する.
Table 6
Fatigue limit
Correlation coefficients between material parameters
Vickers Hardness
Porosity volume
DAS
fraction
Surface
Outer
Inner
Surface
Center
1
DAS C.
-0.272
0.271
-0.811
-0.989
-0.943
0.770
DAS S.
-0.580
0.319
-0.717
-0.790
-0.826
1
1
HV I.
0.342
-0.179
0.743
0.959
HV O.
0.384
-0.320
0.851
1
HV S.
0.706
-0.766
1
P.V.F.
-0.757
1
F.L.
1
鋳肌の影響について考えると,表 2 の鋳造条件から考えると,タイプ A と C,またはタイプ B と D を比較す
るべきであるが,タイプ C と D は,鋳型の位置関係の影響で,鋳巣量が多くなってしまったため,比較ができな
い.しかしながら,図 6 より,タイプ A と E の疲労強度がほとんど同じであり,表 3~5 より,タイプ A と E の
鋳巣量,硬さおよび内部組織が,ほとんど同じであることから,結果として,鋳肌は疲労強度に影響しなかった
と考えられる.この結果は,文献の結果(3),(6)とも一致する.ただし,鋳肌があることにより,硬さはほとんど変
わらなかったが,局所的な鋳巣量は変化する.故に,鋳巣量の変化を通して,鋳肌が疲労強度に影響する可能性
はある.しかし,内部の局所的鋳巣量が多くなると,内部起点の疲労破壊を生じるため,結果として,鋳肌の影
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アルミニウム合金ダイカストの疲労強度に対する鋳巣の定量的影響評価(第1報)
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響は小さくなる.よって,鋳巣の分布を考慮し,鋳肌の有無による鋳巣密度分布の変化を明らかにした上で,表
面起点および内部起点からの疲労破壊メカニズムと鋳肌の関係を,更に検討する必要がある.
一方,き裂発生起点について考えると,ストライエーションが少なかったため,必ずしも起点を特定できなか
ったが,破断チルを除いて,ほとんどが単体または複数の鋳巣を起点としていた.鋳巣量の多いタイプ C とタイ
プ D においては,特に破面の凹凸が大きく,複数起点のき裂が合体した可能性が示唆される.また,引け巣クラ
スター(21),(22)が破面に現れた場合,疲労寿命が比較的短くなった.引け巣クラスターは,比較的大きなガス欠陥の
まわりに形成される,引け巣の集合体であり,局所的な多孔質領域を形成し,その複雑な幾何形状から,強度低
下の原因となる.しかし,本研究で用いたマイクロフォーカス X 線 CT は,その微細な鋳巣形状を解像できない
ため,上述の鋳巣体積率の計算では,引け巣クラスターが考慮されていない.ただし,ガス欠陥が多いときに,
引け巣クラスターが形成される傾向があり,引け巣クラスターの発生確率は,ガス量に大きく依存している.そ
の意味で,引け巣クラスターを考慮していなくても,鋳巣体積率は疲労強度を左右するパラメータであると考え
られる.ただし,表 3 に示した通り,鋳巣体積率はばらつきが大きいので,第 2 報(19)にて,個々の試験片におけ
る鋳巣量と疲労強度の関係について,更に検討する.
5. 結
言
鋳巣量を大きく変化させた 6 タイプの試験片を作製し,X 線 CT 観察と疲労試験を行い,鋳巣の違いによる疲
労特性の違いを計測した.また,同種の試験片に対し,別途,硬さ試験と組織観察を行い,タイプごとの材料の
違いを計測した.それらの結果から,以下の知見を得た.
(1) 試験片タイプによる硬さの違いは小さく,主に鋳造欠陥の違いが,疲労強度の違いとなって現れた.破面観
察からも,き裂発生起点のほとんどが鋳巣または破断チルなどの鋳造欠陥であった.
(2) 鋳肌はほとんど硬さに影響しなかった.ただし,鋳肌があることにより,鋳巣量が抑制され,表面近傍の局
所的な鋳巣量は低下する.それにより,表面起点の疲労き裂発生が抑制され,内部起点型の疲労破壊が多く
なった.
(3) 疲労限との相関が比較的強かったのは,鋳巣体積率と表面硬さであった.ただし,内部起点の疲労破壊が多
かったため,表面硬さの違いは,疲労限の違いの直接的要因ではない.よって,鋳巣体積率,つまり鋳巣量
が疲労強度を予測する上で,重要な因子と言える.
(4) 鋳巣体積率と疲労き裂発生との力学的因果関係が不明であるため,鋳巣体積率から直接,疲労強度を予測す
ることはできない.そこで第 2 報(19)では,有限要素解析による詳細な力学的検討を加え,疲労強度予測へと
導く.
謝
辞
本研究はスズキ財団および科研費(20710057)の助成を受けたものである.
文
献
(1)
例えば, Suresh, S., Fatigue of Materials, 2nd Edition. (1998), Cambridge University Press.
(2)
例えば, 小林俊郎, アルミニウム合金の強度, (2001), 内田老鶴圃.
(3)
猿木勝司, 堀田昇次, 小林一義, “アルミニウム合金ダイカスト鋳物の疲労強度に及ぼす平均応力の影響”, 日
本材料強度学会誌, Vol. 23, No. 3 (1988), pp. 93-104.
(4)
Sonsino, C.M. and Ziese, J., “Fatigue Strength and Applications of Cast Aluminium Alloys with Different Degrees of
Porosity”, International Journal of Fatigue, Vol. 15, No. 2 (1993), pp. 75-84.
(5)
Skallerud, B., Iveland, T., and Harkegard, G., “Fatigue Life Assessment of Aluminum Alloys with Casting Defects”,
Engineering Fracture Mechanics, Vol. 44, No. 6 (1993), pp. 857-874.
(6)
小林志好, 何雪浤, 原田昭治, 吉沢亮, “大気中および腐食環境下におけるアルミニウム合金鋳物の疲労特性に
及ぼす鋳肌面の影響, 材料, Vol. 51, No. 12 (2002), pp. 1341-1344.
― 46 ―
© 2011 The Japan Society of Mechanical Engineers
アルミニウム合金ダイカストの疲労強度に対する鋳巣の定量的影響評価(第1報)
(7)
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Caton, M.J., Jones, J.W., Mayer, H., Stanzl-Tschegg, S., and Allison, J.E., “Demonstration of an Endurance Limit in Cast
319 Aluminum”, Metallurgical and Materials Transactions, Vol. 34A (2003), pp. 33-41.
(8)
Mayer, H., Papakyriacou, M., Zettl, B., and Stanzl-Tschegg, S.E., “Influence of Porosity on the Fatigue Limit of Die
Cast Magnesium and Aluminium Alloys”, International Journal of Fatigue, Vol. 25 (2003), pp.245-256.
(9)
山田耕二, 宮川進, 吉川澄, 橋本昭男, “アルミニウム合金ダイカストの疲労強度に及ぼす鋳造欠陥の影響”, 日
本機械学会論文集 A 編, Vol. 68, No. 667 (2002), pp. 515-521.
(10) 山田耕二, 宮川進, “内部および表面の鋳造欠陥を起点とするアルミニウム合金ダイカストの超長寿命疲労特
性”, 日本機械学会論文集 A 編, Vol. 72, No. 723 (2006), pp. 1751-1758.
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Aluminium”, Fatigue & Fracture of Engineering Materials & Structures, Vol. 29 (2006), pp. 357-363.
(12) 村上敬宜, 金属疲労:微小欠陥と介在物の影響 (1993), 養賢堂.
(13) Kuwazuru, O., Murata, Y., Hangai, Y., Utsunomiya, T., Kitahara, S., and Yoshikawa, N., “X-Ray CT Inspection for
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© 2011 The Japan Society of Mechanical Engineers
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