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比例計数管と放射線測定 - 東北大・原子核物理グループ
物理学基礎研究 (2005 年度 学部3年後期) 比例計数 管と放 射線測 定 (MultiWire Proportional Chamber/Drift Chamber 入門) 円筒型比例計数管 整形増幅回路 理学研究科 物理学専攻 原子核物理 小林俊雄(総合棟 612 号室 内線 6448) Teaching Assistant 若松正樹(総合棟 606 号室 内線 7744) 目次 1. 序 (1) ガスを用いたワイヤー検出器 (2) 目的 (3) 予定 (4) 注意事項 (5) 参考文献 2. 実験手順 (1) 比例計数管本体の製作 ① 概略 ② 製作手順 ③ 高電圧 ④ PreAmp 信号の観測 (2) 増幅・整形回路の製作 ① 概略 ② 実際の回路 ③ 回路製作と試験 (3) 放射線の観測 ① X 線の観測 ② β線の観測 (4) レポート課題 3. Appendix (1) 単位と相対論的運動学 (2) 荷電粒子と物質の相互作用 (3) ガンマ線と物質の相互作用 (4) 原子核の崩壊と放射線源 (5) 比例計数管 (6) 電子回路 (7) オシロスコープ (8) MCA(MultiChannel Analyzer) (9) 信号観測の例 2 「1」序 「1.1」 ガスを 用いたワイヤー 検出器 MWPC/DC (MultiWire Proportional Chamber / Drift Chamber)は、現在 殆ど全ての素粒子・原子核実験に用いられている。 これは、多数の細いアノードワイヤ ーを張った検出器中に気体を充填し、荷電粒子やγ線による電離により発生した1次電離 電子を電子雪崩過程によりガス増幅し、粒子の通過位置を0.1-1 mm程度の精度で測定す る検出器である。 多くの場合、磁場中の荷電粒子の曲率半径を数面の位置検出器を用い て測定し、粒子の運動量を求める目的で用いられる。 低エネルギー粒子は、粒子を物質 中に止めて全エネルギーを測定する事が可能であるが、高エネルギー粒子は止まるまでの レンジが長く膨大な物質量が必要になる上、強い相互作用をする粒子の場合は止まる前に 反応で消滅してしまう。 その為、高エネルギー粒子の運動量測定には多くの場合磁場と 位置検出器の組合せが用いられる。 要求されるのは、粒子の通過位置を広い面積にわた り高い位置精度で測定できる検出器である。 さらに、粒子の方向を決めるには少なくと も空間の2点での測定が必要な為、測定により粒子の方向を変えない低物質量の検出器が 必要となる。 又、実験によっては非常に頻度の高い(高計数率)粒子を測定できる能力 も必要とされる。 ガスを用いたワイヤー検出器はこれらの要求をほぼ満たす検出器であ り、現在の素粒子・原子核実験に必要不可欠な度道具となっている。 その重要性は、MWPC の開発による功績を評価され、G. Charpakが1992年にノーベル物理学賞を受賞した事か らも伺い知る事ができる。 「1.2」 目的 この実験では、 1. MWPC/DCの基本である円筒型比例計数管本体と、検出器からの微弱な電気信号を増 幅/整形する電子回路を製作する。 2. 自作した検出器を用いて、ガス中での光電効果を用いてX線を観測し、光と物質の 相互作用と、ガス検出器の動作を学ぶ。 3. ガス中での電離過程を用いてβ線を観測し、荷電粒子と物質の相互作用と、ガス 検出器の動作を学ぶ 等の作業を行う。 これまで殆ど経験が無いと思われる検出器や電子回路の製作を通して、 実際の実験研究で必要な技術や知識の一部に触れ、同時に放射線計測の理解に必要な物理 知識を確認する。 この実験は、一般物理学実験(2年後期、3年前期)での γ線測定の基礎と応用 電磁波の伝播特性 実験用計算機システムの使い方 と密接な関係があり、これらの内容や、オシロスコープの使用方法は、既知として話を進 める。 この3つのテーマを全ての人が履修しているわけでは無いが、お互いに補いあい ながら実験を進めて欲しい。 又、物理実験学2で学びつつある放射線計測学の知識がある と助けになる。 3 「1.3」 予定 大体の実験予定は以下の通り。 第1回: 振り分けと全体説明 第2回: 比例計数管の製作(1) 第3回: 比例計数管の製作(2)、増幅/整形回路の製作(1) 第4回: 増幅/整形回路の製作(2) 第5回: 増幅/整形回路の製作(3)、X線の観測(1) 第6回: X線の観測(2) 第7回: X線、β線の観測(3) 第8回: 予備日 最終回: レポート提出と発表 「1.4」 注意事 項 1. 2回目から9回目の実験は、総合棟235号室(RI室)で行う。 放射線管理区 域である為、入退出には放射線バッジと放射線モニターが必要である。 1)毎回、実験開始時に、総合棟635号室扉の裏にある放射線バッジと235号 室入り口付近にある放射線モニターをとり、235号室前の記録簿に必要事項を記 入する。 2)放射線バッジにより入退出が可能である。 3)毎回、実験終了後、記録簿に必要事項を記入し、放射線モニターを235号室 入口前に、放射線バッジを635号室の所定の場所に返却する。 4)管理区域内では、飲食と喫煙は禁止。 2. 検出器には、PRガスと呼ばれる90%Ar+10%CH4混合ガスを用いる。 法律上可燃 性ガスの扱いは受けないが、メタンが含まれている為、ガス漏れには注意を払う。 3. 作業中、細いアノードワイヤー、抵抗やコンデンサーのリード線、配線用電線な どの切り屑が出る。 これらが放置されて電子回路や計算機の中に入るとショート を起こすので、放置せずに、必ずゴミ箱のビニール袋に入れて飛び散らないように する。 余りひどい状態で製作している場合は作業をやめてもらう事もありうる。 4. ハンダごてを使用するので火災を起こさないように注意。 毎回、実験終了時に 電気を切ったことを確認する。 5. 第9回目の発表は総合棟622号室で行う。 発表の前にレポートを提出する。 発表は、2—3人でグループを作り、分担して発表する。 発表は一人当り約20 —30分程度。 紙に大きめの字で内容をまとめ、その紙をプロジェクターに映写 するビジュアライザーを使って発表を行う。 6. 老婆心ながら、測定中にデータを整理し、図やグラフを書きながら実験を進める 事をすすめる。 4 「1.4」 参考文献 *加藤貞幸: 新物理学シリーズ26 放射線計測 (培風館) *クラインクネヒト: 粒子線検出器—放射線計測の基礎と応用 (培風館) *福井崇時: 粒子物理計測学入門 (共立出版) *G.F. Knoll: 放射線計測ハンドブック (日刊工業新聞社) *八木浩輔: 基礎物理学シリーズ 原子核 (朝倉書店) *早野龍五、高橋忠幸: 計算物理 (共立出版) *一般物理学実験 (東北大学理学部物理学科編) 実験用計算機システムの使い方 γ線測定の基礎と応用 電磁波の伝播特性 *岡村柚夫: オペアンプ回路の設計 (CQ出版社) もし素粒子/原子核実験に興味がある人は、最低限このうち1冊を読み通す事を勧める。 5 「2」実験 手順 レポートの課題については「2.4」を参照のこと。 「2.1」 比例計 数管本体 の製作 製作を始める前に、Appendix [3-5]を読んで動作原理を理解する。 2.1.1 概略 今回製作する円筒形比例計数管は、陰極 (カソード)は内径23mm(外径25mm、厚さ 1mm)のアルミ製パイプ、陽極 (アノード)は外径20ミクロンの金メッキタングステン線 (タングステンWとレニウムReの合金)を用い、有効長は約150mmである。 アノード はデルリン(白い樹脂)製フィードスルーでアルミ製エンドキャップに固定する。 検 出器中には、ほぼ大気圧のPR(P10)ガス(90%Ar+10%CH4)を充填し、約10cc/minの 流量で用いる。 カソードにはエックス線入射用に直径6mmの穴を開け、入射窓として 16μm厚のAl foil (クッキングフォイル)とマイラーテープを用いる。 図2.1に比例計 数管本体の構造を示す。 図2.1: 円筒形比例計数管 2.1.2 製作手順 1. ガス検出器に、ほこりや油は大敵である。キムワイプとアルコールを用いて、部 品をよくふく。 特にガスに触れる内側をきれいにしておく。 2. 部品が混ざらないように、部品や未完成品はポリ箱に入れて各自管理する。又、 カソードパイプには氏名を書いたラベルをはる。 3. 注意: 約3年間この実験に関して色々な作業を見てきたが、(物理が得意とい うのであればそれでも許すが)非常に不器用な人が多いというのが率直な感想であ る。実際部品の接着もまともにできない人が多く、ガス漏れによる爆発の可能性も かなりあった。 それで今年度は、接着が関係する作業4から5をとばし、接着済 みのアルミ部品から出発する。 なお、腕に自信がありバラバラの部品から組み立 てたいという人は申し出て欲しい。 4. エポキシ系接着剤である速乾性アラルダイトを用いて、ガス導入パイプをエンド 6 キャップに接着する。 接着剤は内側表面にはみ出ないように注意。 速乾性であ るが、接着後少なくとも1時間放置する。 5. エンドキャップ2個を速乾性アラルダイトを用いて、カソードパイプに接着する。 この場合も、接着剤が内側のガスに触れる部分にはみ出ないように注意する。 は み出した接着剤は拭き取ること。 6. 検出器中にアノード線を通す。 ① 錘を用いて、細い黒糸をエンドキャップの穴に通す。 全体を垂直に固定する と、糸をエンドキャップの2つの穴に比較的簡単に通すことができる:例えば2個 の鉛ブロックを使用する。 !"# !") 56789 $% :;8< $% '( :;8< =>#?@ABC & !"D !"! EF>GHIJKL !"* +,- +,!"M ./01 ./01 2)34 図2.2A:組立方法の概略 ②アノードはボビン(全体をスプールと呼ぶことにする)に巻いてあり、最後は セロテープでとまっている。 机の上にコピー用紙を敷いて、左端にスプールを 置く。 少し引き出したアノードと黒糸をセロハンテープで接続し、検出器中に アノード線を通し、検出器の両側に約20cm程度アノード線が出るようにする。ア ノド線の最後にセロテープをはり、中央で切断し、スプール側の最後のセロテー プの部分をボビンの外側にセロテープで止めておく。 セロテープを貼らないと 7 線が見えにくい上、アノードの切れ端などが電子回路に入って故障を起こすので しっかり処理する。 全体を紙に包んでからゴミ箱に捨てる。 全ての作業を通して、スプールを絡ませないように注意する:絡ませると数百 メートルのアノードが巻いてあるスプール全体が使用不可能になってしまう。 このアノード線はスェーデンのルマ社製の物で、このような表面状態の良い金メ ッキタングステン線を作れる会社は日本には無いのが残念である。 アノード線に関しての注意は、(1)スプールのアノードを絡ませない、 (2) アノードに折れ曲がり(キンク)を作らない、 (3)アノードにゴミや油をつけな い。 ③アノードを、ピンセットを用いてフィードスルーに通し、フィードスルーの先 をエンドキャップの穴に半分程度差し込む。 反対側も同様の作業を行う。 ④フィードスルーの段差の部分にRTVをつけ、フィードスルーをエンドキャップの 穴に押し込む。このRTVはガス漏れ防止を兼ねる。 反対側も同様に固定する。 ⑤片側のフィードスルーのブラスピンにアノード線を銀入ハンダでハンダ付けす る。 ハンダはブラスとアノード表面の金メッキにつくだけなので、金メッキを とばさないように手早くハンダ付けする。 ただし、ブラスピンの穴は全てハン ダで塞がないと、ガス漏れの原因になる。 ⑥全体を垂直な状態にして、反対側のアノードに約20gの錘をつけて張力をかけ た状態でハンダ付をする。 アノードに無理な力をかけると切れてしまうので注 意。 7. X線入射窓にマイラーテープ/セロテー プを貼る。なお、孔が開いた部分による電 場の歪みを防ぎ、又テープの粘着剤が検出 器ガスに触れるのを防ぐ為、孔の部分にア ルミフォイルを被せてからテープを貼る。 ガス漏れが無いように工夫。 図 2.2B:本体側のガス接続 8. ガス導入パイプに外径6mmのシンフレッ クスチューブをはめ込み、次にその外径6mmのシンフレックスチューブの内側に外 径4mmのシンフレックスチューブ 234 (:;< 7$89 (片側約25cm)を差し込む。 ガ ス漏れ防止の為、重なる長さは約 5mm以上にする。 なお、近くに !" !" 鋭い金属であるフィードスルーの #$%& '()*$ +,-./ 56 ブラスピンがあるので、怪我しな 01 '()*$ いように注意。 図 2.2D:信号線の引き出し 9. 片側のフィードスルーのブラス ピンとカソードから信号線を出す。 図2.2D のように、信号線は片側のレモ型コネ クターがついたレモ型同軸ケーブルを用いる。芯線側には三角型のブラス製コネク ター、アース側には被覆リード線を経由してラグ板をハンダ付する。 3角型ブ 8 ラスコネクターはフィードスルーのブラスピンへ差し込み、ラグ板はカソードのタ ップにネジで固定する。 三角コネクタは少しきついので、先をドライバーなどで 少し広げてから差し込む方が安全である。 なお、三角コネクターをブラスピンに 差し込む際に、抜く必要がある時はデルリンピンごと引き抜いてしまわないように、 デルリンピンを押さえて引き抜く事。そうでないと、アノード線ごとデルリンピン が抜けてきて、アノード張りからやり直しになる。 この同軸ケーブルは、PreAmpへの信号と、アノードへの高電圧を伝える2つ の役割を持つ。 芯線とアースには約1.5kVの高電圧がかかるので、周囲に絶縁用 の透明熱収縮チューブをかぶせる。 10. RTVが乾いたら(フィードスルーを接着後、約1日待つ)、ガス処理系に接続 して約10cc/min程度のガ スを流し、バブラーにリタ ーンがある事を確認する。 ガ ス系 の 概 略を 図 2.2C に 示す。 この試験は1台ず つ行う。 もしバブラーに リターンが無い場合はどこ かでガスが漏れている 図 2.2C: ガス処理系の概要 のでガス漏れを直す。 全員のガス漏れ試験が完了した後は、2−3台を直列に接続して以後の測定を行うが、 直列に接続して20-30cc/minを流してリターンが無い場合は1個ずつの試験に戻る。 ガスはPRガスを用い、2次圧力は約1.2気圧(大気圧+0.2気圧)に保つ。 一応 どの程度の時間ガスを流したら検出器内部の空気が99.99%置換されるか考えてか らやる事を勧める。 11. 同軸線のレモコネクターをPreAmpに接続し、高電圧をかけない状態でオシロ スコープ(入力1Mohm)を用いてPreAmp出力を観測する。 シールドが無い状態 では大きなノイズが観測されると思う。 出力のノイズが数mV以下になるまで、フ ィードスルー付近のノイズシールドをアルミフォイルを用いて行う。 ただし、測 定時にはフィードスルーのピンには1.5kV程度の高電圧がかかる事を忘れないよう に。 2.1.3 高電圧 高電圧は、図2.4の様にPreAmp側から供給する。 実際には、1台のPreAmp箱の中 には独立なPreAmp回路が8CH入っていて、高電圧は8CHに共通である。 2-3人で1台の PreAmp箱を使用する。 次の試験はPreAmpに1台ずつ検出器を接続して行う。 検出器中のガスが十分に置換されたら、高電圧を少しずつかける。 注意事項としては、 (1)高圧電源をオンにする前に調整用ポテンショメータが最低値になっている事を確認。 (2)PreAmpと検出器のケーブルを繋ぐ/はずす時は必ず高電圧がOFFの状態で行う。さも ないと電圧の急激な変化により生じる電流によりPreAmp初段のFETが壊れる。 (3)使用 9 中は必ずオートトリップをオン側にする。 (4)電圧を上げる時は電流レンジを1μA に設定する。 電圧を数百ボルト上げるごとに、検出器に流れる電流が100nA以下である 事を確認する。その後、又電圧を上げる。 (5)電流(リーク電流と呼ぶ)が100nA以上 と大きい時は、信号取り出し部分を確認する。 (6)検出器には1.5kV以上高電圧をか けない。 2.1.4 PreAmp信号 の観測 55 Fe線源からの6keV-X線を用い、高電圧を1.4-1.5kVかけた状態で、PreAmp出力信号 を直接オシロの1MΩ入力で観測し記録する。 次にCR微分回路をPreAmp出力の後に入れ、微分後の信号をオシロの1MΩ入力で観測し 記録する: 特に信号の立ち上がり部分、ピーク値、立ち下がり部分を観測し、スケッチ する。 微分の時定数は、1μsecから50μsecまで何種類かあるので、少なくとも2種類 は試す。 10 「2.2」 増幅/ 整形回路の製作 2.2.1 概略 比例計数管からは、放射線の通過後の短時間に電流(電荷)信号が発生する。約1keV のエネルギー損失がある時、約104倍のガス増幅後には約5x10-14Cの電荷が信号として発生 するが、まだ信号としては小さく、増幅しないと観測は難しい。 通常、数段の増幅整形 回路を用いて信号を観測できるようにする。 今回用いる回路の概略を図2.3に示す。 今年度はDisrciminatorの部分は省略する。 図2. 3: 回路の概略 ①前置増幅器(PreAmp, PreAmplifier) 検出器からの電荷Qは、放射線の検出器中でのエネルギー損失(energy deposit)に 比例する。 PreAmpの形式には電圧有感型と電荷有感型の2種類がある。 前者の場合は、 電荷Qが検出器の容量Cにより生じる電圧信号をそのまま増幅する。 後者の場合は、検出 器からの電流を積分し、高さV0が最初の電荷Qに比例する電圧信号に変換する。 ガス検 出器の場合はどちらの方法を使ってもいいが、信号処理の速度やノイズの観点から今回は 後者の方式を用いる。 この方式では、PreAmpの出力信号の立上り部分の時定数は、検 出器中での電荷収集時間に依存する。 信号は電荷積分が終わった後一定の値を保持させ てもよいが、後段の回路のダイナミックレンジを小さくする為に立下り部分を数十μsec から数msec程度の緩やかな時定数で減衰させることが多い。 最近は、リセット型と呼ば れる減衰無しの回路もよく使われる。 ②整形増幅器(Shaping Amplifier) PreAmpからの速い立ち上がりと遅い立ち下がりを持つ信号を、増幅回路、微分回路、 積分回路の組み合わせを用いて、信号の最大値V1がV0に比例し、かつ信号の幅が数μsec から数十μsecの短い幅の信号に変換する。 実際には、PreAmpの長いテール部分を微分 回路で取り除き、増幅後に積分回路を通してピーク部分をなだらかにすると同時にノイズ を減少させる。 このような回路は全体としてフィルター回路として働き、ノイズに強く 安定に動作する信号処理系には欠かせない方式である。 この実験では、標準的なオペア 11 ンプを2個用いて、最も簡単なCR-RC型の微分/積分型増幅整形回路を自作する。 ③ADC(Analog to Digital Converter) 放射線の検出器中でのエネルギー損失を測定するパルス波高分析器としてADCを使用 する。 ADCは、整形された信号の最大値を保持してその値をデジタル変換し計算機に転 送する。 使用するADCは、0Vから10Vのアナログ信号を0-1024CHの数に変換する。 ④Discriminator(波高 弁別回 路): 今年度は省略。 ADCは便利な回路であるが、数本の比例計数管を並べて宇宙線の通過を観測するよう な場合には、粒子通過のタイミングで出力される論理パルスがあると便利である。 ここ で は 、 標 準 的 な コ ン パ レ ー タ を 用 い て discriminator を 製 作 し 、 あ る 値 ( こ れ を threshold、敷居値と呼ぶ)以上のエネルギー損失があった場合にTTLレベルの論理信号 を出力する回路を作る。 この信号を変換してNIM回路でANDの論理演算を作り同時計測 を行ってもいいし、LEDを直接光らせ粒子の通過を肉眼で観察してもいい。 2.2.2 実際の回 路 回路の全体図を図2.4 に示す。今年度はDiscriminatorの部分は省略する。 !"#$% 12345 KL345 ,-./0 P-QR5 S:TUVWTXTYZ[\W] MN345 ON345 69 &'() 67 89 79>@>H<I= 8: *+() 88 C88 B:8 6: G 6< 79>@>H<I= 6; F 8; F G 6= 6> 6? 7J><< 8@ F G 6@ C88 6D 図2.4: 6A 6E 回路図 ① 前置増幅器(PreAmp、 PreAmplifier) 検出器とPreAmpの間にはアノードにかけた高電圧をPreAmp側に伝えないように、 decoupling capacitor Cc が入っている。 検出器で発生した全電荷がPreAmpに流れ 込むように、capacitorは大きな容量のものを使う必要があると同時に高い耐圧が必要と なる。 今回はCf= 1000 pF、耐圧 6 kVのセラミックコンデンサーを用いた。 PreAmpには低雑音の増幅回路が必要な為、今回は半導体検出器用に開発されたモノ リ シ ッ ク 素 子 を 使 い 、 増 幅 度 と 減 衰 時 定 数 を 決 め る Feedback Capacitor Cf と Feedback Resistor Rf を外付けで用いる。 素子の入力インピーダンスが高い為、検 12 出器から流れ込んだ電流は全てCf を通して流れる: つまり電流を積分する事で出力電圧 が生じる。Vout = A・Vin、Q= Cf (Vout - Vin)の関係から、オープンループゲインA が 十分大きい場合、Vout ≒ Q / Cfとなる。 つまりPreAmpの出力電圧は、検出器からの電 荷に比例し、Feedback Capacitor Cfに逆比例する: 電荷から電圧へ変換するゲイン は、Cf が小さい程大きい。 今回はCf = 1 pFを用いた。 余裕がある場合には、PreAmp 内のfeedback capacitorを変えて効果を確認してもよい。 実際の回路や配線の浮遊 容量に知識のある人には、この値がどういう意味を持つか想像できるだろう。 今、検出器中に6 keVのenergy depositがあったとする。 検出器のガスゲインを M = 104、feedback capacitor Cf = 1 pFとした場合、一つの電子/イオン対を作るの に約26eV必要な事から、PreAmp出力電圧は、 6000[eV ] 1 Vout = "1.6 # 10 $19[C]"104 = 370mV 26[eV ] 1# 10 $12[F ] となる。 この電圧は信号の立ち上がり時間より十分長い時定数で微分した場合の値であ り、実際にはこの値よりも小さくなる。 PreAmpの出力電圧 Vout は検出器からの電流を積分して生成される為、出力信号の立ち 上 が り は 主 に 電 荷 の 収 集 時 間 で 決 ま る : 信 号 の 立 上 り に つ い て は 3-5-3 を 参 照 。 Feedback Resistor Rf が無い場合は、積分が終わり最大電圧に達した後はその出力電 圧が保持される。 実際には後ろの回路のダイナミックレンジを減らす為に、有限のRfを 入れてτ= Cf・Rfの時定数で信号の立下り部分を減衰させることが多い。 しかし、検出 器からの電荷を出力電圧に有効に変換するには、減衰の時定数は電荷発生の時定数より十 分長く設定する必要がある。 この回路ではCf= 1 pF、Rf= 200 MΩを用いた為、信号は非 常に長い。 この為、信号が減衰しきらない内に次の信号が重なってしまうことが起こる: これをパイルアップと呼ぶ。 実際にオシロスコープでこの状況が観測できる。 一個一個の信号はパイルアップの為観測しづらいので、簡単なCR微分回路を製作して 観測すると立上り部分や振幅を観測しやすくなる:微分回路については3-6-2を参照 ② 整形増 幅回路 (Shaping Amplifier) PreAmpからの信号は、立ち上がり時間が比較的速く、信号の最大値が極めて短い時 間しか保持されないので、後段のADC入力には向かない。 又、減衰時間が長い為、パイ ルアップが起こる場合が多い。 多くの場合、増幅回路、微分回路、積分回路の組み合わ せを用いて、信号の最大値V1がV0に比例し、かつ信号の幅が数μsecから数十μsecの比較 的短い信号に変換する。 信号整形の方法は、同じ時定数を持つ微分回路1段、積分回路n段を組み合わせた CR " (RC) n 整形が一般的である。 今回は簡単の為、CR-RC型の1段微分、1段積分回路 を採用する:詳細は3-6-2を参照。増幅素子としては、約150円と比較的低価格であるが、 帯域幅4MHz、スルーレート13V/μsec程度の値を持ち、8ピンのパッケージに2CH入っ ているLF353 (National Semiconductor社製)という汎用オペアンプを用いる。 図 2.5にピン配置を示す。 電源としてはNIM回路の標準であるV+=+12VとV-=-12Vを用いる。 微分/積分/増幅度の定数は自分で決めて構わないが、次に1例を示す: 微分回路: Cd = 1000pF, Rd = 1k", R1 = 1k", R2 = 10k" 13 積分回路: Ci = 1000pF, Ri = 1k", R3 = 1k", R4 = 5k" 出力段: C5 = 0.1µF, R5 = 10k", R6 = 1k" (R5は省略) 敷居値: R7 = 50k", R8 = 1k" (省略) この設定は、微分/積分の時定数が約1μsec、増幅度が約50、敷居値が約0.24Vの場合 に対応する(整形増幅回路の出力は、6 keVのX線に対して約4Vになるはず)。 (ただし、 コンパレータの敷居値を+12Vから抵抗分割で作る場合は、ベースライン付近のノイズの幅 をオシロで観測してから決める事に注意。さもないと発振する可能性がある。 ) 図2.5: LF353 (Wideband Dual JFET Input Operational Amplifier)と、 (LM311 (Voltage Comparator) )のピン配置 回路製作に当たっての注意: (1)ソケットを用い、製作とチェックが終わってか らオペアンプを差し込む。 (2)部品や配線の配置を考えてから製作する。 (3)パ スコンはオペアンプのすぐ近くにとりつける。(4)ショートにはくれぐれも注意。(5) オペアンプの電源ラインには0.01-0.1μF程度のパスコン(バイパスコンデンサー)をつ ける。 (6)電源は基板のコネクターからとるので基板上の電源ラインの位置に注意。 (7)基板の端子部分にはハンダをはみ出さないようにする。 回路製作にあたっては、必要に応じて一般物理学実験テキストの 電磁波の伝播特性 の回路製作の部分などを参照のこと。 ③ 波形弁 別回路(Discriminator) (省略) #! Discriminatorとして、汎用コンパレ ータでかつ出力がオープンコレクタのLM311 (Voltage Comparator)を用いる。 図2. 6 $%&'' に回路の模式図を示す。 コンパレータはVp #! が Vn より高い場合に出力レベルがhighにな ./0) () ! る。 電源電圧としては色々な組み合わせが " 可能であるが、整形増幅回路からの信号が正 *+,#" なので、主に電源の種類を増やさない理由か ら、 V+=+12V、 V-=0Vで用いる。 Balance とBalance/Strobeは接続しない。 増幅回 図 2.6: LM311 の該略図 路からの入力レベルがゼロでない場合に備え、 14 DCレベルを切るコンデンサーを入れる方が安全である。 このICは出力がオープンコレ クタなので、図2. 6のように外付けのプルアップ抵抗を付けないと出力が出ない。 電源 の為、出力はTTLレベルより高いことに注意。 LEDを光らせるには論理信号をone shot vibrator等で幅を長くする事が一般的には必要であるが、このままでもLEDがかすかに 光る。 基準電圧(敷居値、Threshold)Vnは整形増幅器出力のノイズとレベルを見て、 V+から抵抗分割で作る。 実際の回路では、コンパレータを増幅回路用オペアンプからグランド帯などで離すこ とや、コンパレータの入力と出力の配線を遠ざけること、などの注意が必要である。 回路製作 と試験 一人1枚ずつ基板(41mm x 70mm)を用いて回路を製作する。まず方眼紙に実体配 線図を書き、電源ラインも含めた配置等を考えてから製作に入る。 電源の 12V、PreAmpからの入力信号、ADCへの出力信号、論理出力信号は、基板端 子(1番から10番)から供給する。 約束として、 電源: +12V(端子6)、-12V(端子3) 、グランド(端子9) PreAmpからの入力信号: 信号(端子7)、信号グランド(端子8) ADCへの出力信号: 信号(端子1)、信号グランド(端子2) 論理出力信号(省略): 信号(端子4)、信号グランド(端子5) としよう。 製作終了後、オペアンプを差し込まない状態で、基板上での電源電圧を確認する。 正 常なら、電源を切った状態でオペアンプを差し込み、PreAmp出力と同じような波形を持 つパルサーからの信号を入力し、観測する。 試験の段階では、回路の途中の波形をプローブを用いて観測すると、回路の各段階の 波形が独立に観測でき、デバッグに便利である。 プローブの入力インピーダンスは10 Mohmであり、回路の信号を妨げないで信号波形を観測できる。 一回で回路が動作する場合は(過去の例を見ると)非常に稀である。 その場合、回路 の各段階での信号を観測し、どこが間違っているかを見つける必要がある。 見るべき位 置としては、 (1)微分回路入力、 (2)微分回路出力、 (3)増幅後、 (4)積分回路出力、 (5)増幅後、を順次プローブで確認すれば良い。 全てが動作したら、上の5点での波形を観測し、記録する。 2.2.3 15 「2.3」 放射 線の観 測 2.3.1 X線の観測 1. 55Feからの5.9keV-X線を用い、高電圧1.5KVをかけた状態で、Shaping Amp出力をオ シロで観測する。 信号の形を観測する時は、立上り、立下り、振幅に注意してスケ ッチする。 なお、55Feの崩壊過程でなぜX線が放出されるか理解しておくこと。 2. 出力信号の大きさの高電圧依存性をオシロで観測する。 高電圧は、1.5KVから50V 又は100Vずつ下げる。 3. 整形増幅回路の出力をADCに入れ、波高分布のデータを何点かの高電圧で測定する。 正しい状態では、2本のピークが見えるはずである。 その理由を考える。 測定中 には必ず主ピークの値、副ピークの値、そのFWHMをマーカーで読み取り、測定後デー タをヒストグラムに保存する。保存したデータはGnuplotなどで表示する事ができる。 4. データ(高電圧、ピーク値、分解能)を片対数グラフに表示する。 2.3.2 β線の観 測 1. 90Sr/90Yからのβ線を用いて検出器の応答を観測する。 測定前に、β線のガス中(長 さ23mm)でのエネルギー損失を最少電離の場合に概算する。 β線を一様に当てると、その経路の長さは0から23mmまで分布する。 その為、アル ミ製コリメータ(厚さ12mm、孔の直径3mm)を用いて、X線入射窓から検出器の直径 方向に入射するようにセットする。 2. 色々なbackgroundがあるので、ソース有とソース無の場合を同じ時間測定し、比較 してみる。低いエネルギー領域では差が出ているはずである。 3. X線とβ線のデータを比較する。 ピーク値は予想と一致するだろうか(説明はかなり 難しい。ヒントはAppendix参照)? 幅はどうだろうか(もっと難しい)? 同じ高 電圧で比較することに注意。 16 「2.4」 レポー ト課題 レポートには、少なくとも以下の課題1から課題4を含むようにまとめること。 課題1: 実 験の解釈に必 要な物 理量 A. 比例計数管の静電容量を概算せよ。 端の効果は無視して良い。 B. 検出器に10cc/minのガスを流した場合、中身のガスが99.99%置換されるのに必要な 時間を概算せよ。置換する体積として、検出器のみを考えよう。 C. 55Feからの5.9 keVのX線(55Mnの特性X線)が色々な物質に入射した場合について: (1) カソードである1mm厚アルミニウム中での減衰を概算せよ。 (2) 入射窓である20μm厚マイラー(化学式C5H4O2、密度 1.4 g/cm2)中での減衰を 概算せよ。物質は炭素として計算しても構わない。又、16μm厚アルミフォイル の効果はどうだろうか? (3) アルゴン中で強度が1/eに減衰する距離を概算せよ。 (4) アルゴン25mm中での減衰を概算せよ。 この距離は検出器中でに最大厚さに対応 する。 又、この検出器で得られるX線の検出効率はどの程度か? (5) 40ArのK-X線(約3keV)がアルゴンに入射した場合、強度が1/eになる距離を概 算せよ。 D. エネルギー損失について: (1) β線の運動エネルギーが0.5, 1.0, 1.5, 2.0 MeVの場合について、速度β (v/c)を計算せよ。 又、最小電離の条件を満たす運動エネルギーは? (2) β線が23mm厚のアルゴンを通過した場合、最小電離として平均エネルギー損失を 概算せよ。 課題2: 製作回 路 A. R,C等の値を含む回路図を描け。このテキストの図に含まれない、電源やパスコンなど も含めること。 B. 部品と配線を含む回路配置図を描け。どちら側から見た図か明示する。 C. パルサーからの信号を回路に入力し、回路の途中の波形を観測し図示する。 オシロ をデジタルカメラで撮影しても良い。 観測場所は、CR微分回路後、第1段増幅後、 RC積分回路後、第2段増幅後。 記録する場合は、信号の立上り時間(ピークまでの 時間間隔)、立下り時間(ピークから約1/3になるのにかかる時間間隔)、振幅(ピーク での電圧)に注意して記入する。 課題3: X線の 観測 55 Feからの5.9 keVのX線を用い、検出器にHV=+1.5kVをかける(設定電圧は一点で 良く、他の電圧を選んでも構わない) 。 1. PreAmp出力を微分回路に通した後、オシロの1MΩ入力で観測し、波形をスケッチせ よ。 微分回路に用いたC,Rの値を明記する。 又、オシロの1MΩ入力で観測する方 が良いのはなぜか? 微分回路は1μsecから50μsecまで用意されている:全部をや 17 る必要は無いが、2個程度は試して欲しい。 2. Shaping Amp出力をADCで測定し、波高分布を図示せよ。 主ピークの値が5.9 keV とした場合に、副ピークの中心値と幅、主ピークの幅をkeV単位で求めよ。 幅に関 しては、FWHMかrmsかを明記する。 3. 主ピークと副ピークのエネルギー分解能(rms)について、電離電子数の分散から考え てみる。 実際には、ファノ因子、ガス増幅率のばらつき、回路雑音などを考慮する 必要があるが、これらは無視して考える。 4. HVを0.05から0.1 KVステップで少なくとも4点選び、Shaping Amp出力の振幅を オシロ叉はADCで観測する。データを表と片対数の図にまとめ、出力のHV依存性、つま りガス増幅率について簡潔にまとめる。 出力(ガス増幅率)が2倍になるのに必要 な電圧は? 課題4: β線の 観測 90 Srからのβ線をコリメートして直径6mmの穴から入射させ、検出器の直径方向を通 過するように設定する。 課題2と同じHVをかけて、ガス増幅度をそろえた状態で測定す る。 1. Shaping Amp出力をADCで測定し、波高分布を図示する。 2. 課題3前半のデータを用いてエネルギースケールを決めた場合、分布のピーク値と幅 の値は? 又、課題1の予想と一致するだろうか? 18 「3」APPENDIX この章では実験に必要な内容を簡単にまとめる。 必要に応じて読み、不足する部分 は参考文献などで補っておくこと。 「3.1」 相対論 的運動 学 3.1.1 単位系 原子核・素粒子物理学では MKSA (SI)単位を直接用いることは少ない。 又、光速度 c 及び Planck 定数(を 2πで割った) h を 1 とする自然単位系もよく使われる。 エネルギー・運動量・質量 電気素量 e の電荷を持った粒子が 1 Volt の電位差で加速されて得るエネルギーを 1 eV(electron volt)とし、その 103, 106, 109 倍を keV, MeV, GeV という。 pc, mc2 はエネルギーの次元を持つため,運動量と質量の単位として MeV/c, MeV/c2 と表す。 質量: MeV の単位で表すと粒子の質量は次のようになる。 電子: me c 2 = 0.5110 MeV 、陽 2 2 子: mp c = 938.3 MeV 、ミューオン: mµ c = 105.7 MeV 長さ: 長さの単位としては、fm(フェムトメーター)が使われる。1 fm = 10-15 m である。 単位変換: エネル ギー と長 さ を関 係 付け る量 と して hc = 197.3 " 200 MeVfm や 微細 構 造定数 1 e2 1 1 "= = % があり、色々な物理量の計算に有用である。 4#$ 0 hc 137.0 137 3.1.2 運動エネル ギーな どの 関係式 素粒子・原子核反応で作られた粒子のほとんどは,光速度の数%から数十%の速度を 持つ。 光速度の数%の粒子では非相対論的に扱っても大きな誤差はないが,数十%の粒子 では相対論的効果を考慮する必要がある。 静止質量 m を持つ粒子の全エネルギー E 、運動エネルギー T 、運動量 p 、光速度で規 格化した速度 " # v c 、Lorentz 因子 " # 1 1$ % 2 の間の関係式は、 E= 2 ( pc )2 + (mc 2 ) = "mc 2 # T + mc 2 pc = "#mc 2 = T (T + 2mc 2 ) ! 19 pc E で与えられる。 これらの式は、" << 1, (# -1) <<1 の極限では、非相対論で扱った場合と一 "= 致する。 r 2 % r 2 r2 # r 2 # pc % p 2 2 2 1 # pc % T = (mc ) + ( pc) " mc = mc ' 1+ "1( ) mc = 2 2 $ mc & 2 $ mc & 2m $ & r mc 2 + 2 %( mv 2 2 2# 2 ' E = *mc = ) mc 1+ = mc + $ 2& 2 1" + 2 2 2 20 ! 「3.2」 荷電粒 子と物 質の 相互作用 3. 2. 1 エネルギー損 失 (Energy Loss) 荷電粒子(質量 M 、電荷 z 、速度 " )が物質中を通過すると、粒子の電荷と物質内電 子とのクーロン相互作用によって電子にエネルギーを与え、自分自身はエネルギーを失い 減 速 さ れ る 。 電 子 が 受 け 取 っ た エ ネ ルギ ー の 大 小 に よ り 、 原 子 / 分 子 は 、 励 起 (excitation)、叉は電離(イオン化、Ionization)される。 一回の衝突で電子に移行可能な最大エネルギーは、Tmax = 2 2 2me c 2 " 2# 2 2 であり、 1+ 2#m e M + ( me M ) 2 2"m e M << 1の場合には Tmax " 2mec # $ と近似できる。 この値は高エネルギー粒子の持つ 運動エネルギーと比較するとはるかに小さく、荷電粒子がエネルギーを全て失う為には多 数回の衝突を必要とする。 物質(原子番号 Z 、原子量 A 、密度 " )中での荷電粒子のエネルギー損失 dE /dx は、 Bethe-Bloch の式として知られ、 2 dE Z & z ) . 1 &( 2mec 2+ 2% 2 Tmax ), -1 " = 4$ N A re2 me c 2 ( ln "%2 " 2 d#x A ' % * 0/ 2 ' I * 2 32 で与えられる。ここで、N A , re は、各々アボガドロ数と電子古典半径 r0 = e2 1 であり、 4 "# 0 mec 2 最初の係数は 4"N A re2 me c 2 = 0.307 [MeV/g/cm2 ] である。 通常 dE /dx には、単位面積当りの 物質量 "x [g/cm2 ] が使われる: dE /dx の物質依存性は Z A で、ほぼ物質によらず 0.5 程度の 値を持つ為である。 入射粒子が重い場合には Tmax の近似式を用いて、 2 dE Z & z ) . &( 2mec 2+ 2% 2 ), -1 " = 4$ N A re2 me c 2 ( ln " %2 " d#x A ' % * 0/ ' I * 2 32 の形もよく用いられる。 電子のエネルギー損失は、最大移行エネルギーの形の差や同種粒子の効果を考慮する 必要がる。しかし、式の形は異なるが Bethe-Bloch の式を用いても値に大きな差は無い。 対数項の中に含まれる I は標的物質の平均励起およびイオン化ポテンシャルを示し、 0. 9 それぞれの物質について個別に与えられる量であるが、近似的には I " 16Z で与えられる。 今回検出器に用いるガスに関しては、I(Ar)= 285 eV、I(CH4)= 131 eV である。 物質 密度 2 [g/cm! ] I [eV] C 2 Cu 8.92 Al 2.70 Fe 7.86 Pb 11.34 Si 2.33 NaI 3.67 H2O 1 78 322 166 286 823 173 452 75 Lucite Plastic 1.18 1.03 表:平均イオン化ポテンシャル。 図 3.1 は dE /dx を、入射粒子の運動量と速度の関数で示したものである。 ! 21 74 64.7 図 3.1:エネルギー損失の速度と運動量依存性 エネルギー損失 dE /dx の特徴としては、 (1) "# < 1 の領域では、 dE dx " z 2 # 2 と近似できる。 (2) "# $ 3.4 付近でエネルギー損失の最小値をとる。このエネルギー損失が最少になる 領域での値を最少電離(Minimum Ionization)と呼び、水素分子以外の物質について は 1 g/cm2 あたり 1.8 MeV(炭素) 、1.5 MeV(鉄)、1.1 MeV(鉛)という値をとる。 (3) " > 3 の領域では非常に緩やかに増加する。 次の表に色々な物質の定数をまとめる。 22 表:物質定数 3.2.2 Energy Straggling エネルギー損失は物質中の電子との多数回の散乱によってひき起こされる。 したが って、エネルギー損失は平均値のまわりに有限な幅をもった分布をする。 電子との衝突 回数 " の目安は、(エネルギー損失の平均値)/(一回の衝突で失う最大エネルギー Tmax ) で与えられ、" > 1の場合は対称なガウス分布、" < 1の場合には大きなエネルギー損失側に 尾を引く非対称な分布をする。 ガウス分布の場合には Bohr によって 23 1 1# $ 2 2 " 2 , " 2 = 0.157 Z %x[MeV 2 ] "2 = 0 1# $ 2 0 A と計算された。 " < 0.01の場合は、Landau により計算され、 2 2 Z z Z z "'# 2$re2 N A me c 2 m 2 &x = 0.15[MeV/g/cm2 ] m 2 &x [g/cm2 ] Am % Am % "# ( 2me c 2 & 2' 2 $' +1 1. $E % $' % & 2 + 0.42- 3 0 * ln 2 $' / I ) ,2 と置くと、エネルギー損失 "E の分布は、 1 ' f ("E ) = # ($ ) = (0 exp (&u ln u & u$ )sin%udu % と表される。 なお" は、Bethe-Bloch で計算される値でなく、" = #' Tmax を用いる事が 多い。 この分布は、図 3.1A に示すように、大きなエネルギー損失側に尾を引く非対称 な分布をし、Landau 分布と呼ばれる。 この分布のピークに対応するエネルギー損失は、 most probable energy loss と呼ばれ、その値は Bethe-Bloch の式で計算される mean energy loss よりは小さい事に注意する必要がある。 -4 ! 0 ! 5 10 15 図 3.1A: Landau 分布 この分布の計算は面倒なので、近似の精度は悪い(ピーク位置、高エネルギー側の尾の形 % # + e $# ( が合わない)が、 "(# ) = exp' $ * の形もよく使われる。 2 ) & 比例計数管の中での最少電離損失は、約 2.4 keV/cm 程度と小さく、又 Tmax と比較し ても非常に小さく" # 0 であり Landau 分布になる領域である。 しかし、エネルギー損失 "' は平均電離エネルギー I と同程度であり、分布の形を合わせる為には原子の構造を Landau による計算よりも正しく扱う必要がある。 まあ、要するに、結構難しい。 24 3.2.3 飛程 (Range) エネルギーが低い荷電粒子や,物質が厚い場合の物質中のエネルギー損失を議論する時 には、飛程の概念を導入すると便利である.飛程 R はエネルギー E の粒子が物質中で電磁 相互作用によってエネルギーを失って静止するまでの平均距離で、 次のように定義される. '1 " dE $ R(E) = & 0 dx # dx % E 図 3 .2 に鉛中の荷電粒子のエネルギー損失と飛程を示す.他の物質に関しては,図 右下の補正分だけずらして値を読む必要がある. ! 図 3.2: 鉛中での荷電粒子のエネルギー損失と飛程 25 「3.3」 γ線 と物質 の相互 作用 X 線やγ線は電荷を持たないため,クーロン相互作用で原子を電離する能力は無い。 γ線は,電磁相互作用(光電効果,コンプトン散乱,電子対生成)により、1 つの電子また は電子陽電子対にエネルギーを与え,この電子がさらに物質中の原子を電離する. 図 3.3:ガンマ線と物質の相互作用 3.3.1 光電 効果 (Photoelectric Effect) γ線が、全エネルギーを軌道(束縛)電子に与え、光電子を放出する。 光電子の運動 エネルギー Te は、I を電子の束縛エネルギーとして Te = E " # I となる. 低エネルギー領域での K 軌道電子による反応断面積は,W. Heitler らにより計算され た。 32 2#Z 5 r02$ 4 &( me c 2 ) + "K = 3 ' E% * 72 = 1.02 ,10-3 3 Z5 2 7 2 [cm /atom] E% ここで r0 は電子の古典半径, " は微細構造定数, me c 2 は電子の静止質量である。 光電効 果の断面積は物質の原子番号 Z の 5 乗に比例し, E " の 3.5 乗に反比例する. 3.3.2 コンプ トン効 果 (Compton Effect) γ線が(自由)電子により弾性散乱される現象で ある。 電子の束縛エネルギーを無視すると、散乱 γ線のエネルギー E'" 及び反跳電子の運動エネルギ ー Te は、 E" 1+ (1# cos$ ) E " me c 2 E" Te = 2 1+ me c (1# cos$ ) E" E'" = と表される。ここで me c 2 は電子の質量である。電 子のエネルギーは、散乱γ線の方向によって、 26 図 3.4:コンプトン散乱の運動学 Te = 0 から最大値である Compton edge すなわち、 E" へかけて連続分布する。 従っ Temax = 1+ mec 2 2E " て、この過程によってエネルギースペクトル (図 3.5) には、0 から Compton edge にかけて連続 2 スペクトルが現れる。 E " >> mec の場合は, Temax " E # $ me c 2 2 と近似できる. コンプトン散乱微分断面積は Kleinー仁科 の式として知られているが、低エネルギー極限 2 ( E " << mec 、Thomson 散乱)では、 " comp # 8$ 2 r0 3 図 3.5:0.5, 1.0, 1.5 MeVγ 線のコンプトン散乱による反跳電 子のエネルギー分布 2 高エネルギー極限( E " >> mec )では " comp # $r02 と近似される。 mec 2 &( &( 2E % )+ 1) ln + +、 E % ' ' mec 2 * 2* 原子内の電子はそれぞれ単独にγ線と散乱を起こす.原子当たりのコン 2 プトン散乱断面積は原子番号 Z に比例する.また E " >> mec では E " に反比例して小さくな る。 3.3.3 電子対 生成 (Electron pair creation) γ線が原子核の作るクーロン場の影響を受け,電子・陽電子対に転換する現象である。 その 運動 エ ネ ル ギ ーの 和は , Te++Te-=E γ -2mc2 で あ る . 従 って γ線 の エ ネ ル ギ ー が threshold である 2me c 2 = 1.022MeV 以上の時のみこの過程が起こる。 電子対生成断面積は、threshold 以上で & 7 & 2E ) 109 ) + " pair # 4$r02 Z 2 ( ln( %2 + , ' 9 ' mec * 54 * me c 2 << E" << mec 2 Z#1 3 $ と近似される。つまり、電子対生成効果断面積は Z2 に比例し、Eγが高くなるに従い断面 積が ln(Eγ)に比例してゆっくり大きくなる。 エネルギーが十分高くなると,一定の値 &7 1 m c 2 Z#1 3 " pair # 4$r02 Z 2 ln(183Z%1 3 ) % ( E " >> e '9 54 ) $ になる。 27 3.3.4 吸収係数 γ線束が物質を通過する時,γ線は前節で説明した相互作用を起こしながら失われて いく。 I 個のγ線が厚さ dx [cm]の層を通過した時に失われる数は,I と dx に比例し, dI = "µIdx で与えられる。 従って,物質 x を通過した後の個数は,初期値を I0 とすると、 I(x) = I 0e "µx となる。ここで µ は吸収係数と呼ばれ,前節の断面積と N µ = "# A 、 " = " photo+ Z" comp + " pair A の関係にある.ここで, " は密度 [g/cm3], N A はアボガドロ数,Z, A は物質を構成す る分子の原子番号と質量数である。 吸収係数は,物質が同じでも密度が異なると変化するため不便なことがある.このため, 吸収係数を密度で割った質量吸収係数の方が良く使われる。 図 3.6 に、C、Al、Ar の 質量吸収係数を示す。 3.3.5 物質への エネルギー移行 一般に検出器では放射線のエネルギーを直接測定するのではなく、色々な相互作用を 通じて電子に移行されたエネルギーを測定している。 従って、検出器で得られたエネル ギー分布から放射線のエネルギー分布を推定するには注意が必要である。 光電効果では、光電子は大抵の場合物質中に止まり物質に全エネルギーを与える。 電 子が抜けた原子は2次 X 線または Auger 電子を発生する.この X 線や電子がさらに他の 原子を電離させるため,極めて薄い検出器を除いて最終的に検出器に与えられる全エネル ギーは Eγとなる。 検出器から2次 X 線が逃げた場合のピークをエスケープピークと呼ぶ。 Compton 効果では、多くの場合散乱光は物質から逃げるので、物質には Compton 電 子のエネルギーが与えられる。 つまり Compton 電子のエネルギー分布を測定する事に なり、Compton Edge が観測される。 もし検出器が十分大きな場合には、Compton 散 乱を何度も繰り返し全エネルギーが物質に与えられることも可能である事に注意。 電子対生成では,γ線のエネルギーから 1.022 MeV を引いたエネルギーが電子と陽 電子に与えられ,陽電子が消滅する際,511 keV の消滅γ線を 2 本放出する。 電子対生 成が検出器で起こり,消滅γ線が検出器内ですべて吸収された場合、スペクトルは Eγの線 スペクトルになる。ところが、消滅γ線のうち、1本あるいは2本が検出器の外へ逃げた 場合、消滅 Eγ-511 keV、あるいは Eγ-1022 keV にピークを作る。このピークを single escape peak、double escape peak と呼ぶ。 いずれにせよ、反応で生じる全ての粒子や光子を物質中に止めないと、ガンマ線のエ ネルギーは正しく測定できない。 28 図 3.6:物質の質量吸収係数 29 104 Al Ar µ [cm2g-1] 103 C 102 101 1 図 3.6A: 5 E! [keV] 物質の質量吸収係数(拡大図) 参考:特性 X 線のエネルギー(K 吸収端エネルギー) 55 Mn: 5.90 keV (6.53 keV) 40 Ar: 2.96 keV (3.20 keV) 30 10 「3.4」原 子核の 崩壊と 放射線 源 実験には、X 線、β線、γ線を使用する。これらの放射線は放射性原子核の崩壊に伴 って放出される。 3.4.1 原 子核の 崩壊 ①β - 崩 壊: A 崩壊様式は A Z" (Z + 1) + e # + $ e で、原子核中の中性子がβ崩壊して陽子に 変わり、β線(電子)とニュートリノが放出される。 終状態は3体の為、電子の運動エ ネルギーは 0 から最大値(Q value)の間に連続的に分布する。 β線のエネルギー分布 2 は、許容遷移の場合には dN dE e " F (± z, E e ) pe E e (Q # E e ) で与えられる。ここで、Q は反応 の Q value、 F (± z, E e ) は Fermi 関数と呼ばれるクーロン場内の電子波動関数の歪みの補 正である。 ②β + 崩 壊 : A 崩壊様式は A Z" (Z # 1) + e + + $ e で、原子核中の陽子がβ崩壊して中性子に 変わり、β線(陽電子)とニュートリノが放出される。 終状態は3体の為、陽電子の運 動エネルギーは 0 から最大値(Q value)の間に連続的に分布する。 A ③電子捕獲: 崩壊様式は A Z + e " # ( Z " 1) + $ e で、原子核中の陽子が軌道電子を吸収して 中性子に変わりニュートリノを放出する。 崩壊後、孔の開いた K 殻へ上の電子軌道から 電子が脱励起し特性 X 線が放出される。 なお終状態が2体の為、ニュートリノの運動エ ネルギーは単色である。 ④α崩壊: 崩壊様式は A Z" A# 4 (Z # 2) + $ で、単色のα粒子が放出される。 ⑤γ崩壊: α崩壊やβ崩壊で、娘核の励起状態に崩壊する場合、ひき続いて励起状態や 基底状態へのγ崩壊が起こる。 内部転換電子(conversion electron)放出により崩 壊する場合もある。 3.4.2 放 射線源 実験には 55Fe、90Sr、60Co の放射線源を用いる。これらの線源は容器内に密封されて いる。容器が壊れない限り飛散することは無い。 万一破損してしまった場合には,線源 が拡散しないよう配慮した上で,担当教官に連絡すること。 ! 図 3.7 に崩壊様式を示す。 ① 60 Co 60 Co は、5.26 年の半減期で、60Ni の 2.5058 MeV 4+ 励起状態にβ-崩壊する。この 励起状態は直ちに、1.3325 MeV 2+ 状態、続いて 0+ 基底状態にカスケード崩壊し、1.173, 1.332 MeV の 2 本のγ線を放出する。 ② 137 Cs 137 Cs は、30.0 年の半減期でβ-崩壊し、93.5 % の分岐比で 137Ba の 0.6617 MeV 11/231 励起状態に遷移する。この準位は半減期 2.55 分で 3/2+基底状態へγ崩壊し、0.6617 MeV のγ線を放射する。このγ崩壊の競争過程として 137Ba K 殻電子の内部転換が起こり、そ れに伴い 32.2 keV の Ba KX-線が発生する。 ③ 90 Sr 90 Sr は,28.8 年の半減期で 90Y の基底状態にβ-崩壊する。 この時,最大エネルギー 546keV のβ線が放出される。90Y は 64 時間の半減期でβ-崩壊し、99.99 %の分岐比で 90 Zr の基底状態に崩壊する。この時,最大エネルギー2.28MeV のβ線が放出される。電子 のエネルギー分布は約 1MeV にピークをつ。 なお、両者は通常放射平衡になっている。 ④55 Fe 55 Fe は 2.7 年の半減期で 55Mn の基底状態へ電子捕獲反応で崩壊する。崩壊後、55Mn の K 殻に空孔があき、5.9keV の K-X 線が放出される。 図 3. 7:放射線源と崩壊様式 3.4.3 宇 宙線 32 地球外からの1次宇宙線(主に陽子)が地球大気で反応し、2次宇宙線を生成する。 2次宇宙線の主成分はミューオンであり、強度はほぼ 1-2/100cm2/sec 程度である。 海 面でのミューオンの運動量分布を図 3.8 に示す。 図 3.8: 1次宇宙線と2次宇宙線であるミューオンの運動量分布 33 「3.5」比例計数 管 3.5.1 概 略 比例計数管はガス入りの放射線検出器で、検出器中に稀ガスが詰められ、細い陽極(ア ノード)と陰極(カソード)の間に高電圧がかけられている。 放射線とガス分子との相 互作用によりガスが電離され、放射線の失ったエネルギーに比例した数の1次電子/イオ ン対が作られる。 このイオン対は電場の中を陽極/陰極へ移動する。 電子が陽極へ近 づくと、陽極付近の高い電場により加速され、電子雪崩を起こし2次イオン対を生成して 数を増やす。 検出器からの信号は高電圧の範囲によっては放射線の失ったエネルギーに 比例する。 これが比例計数管の名前の由来である。 今回製作する円筒形比例計数管は、カソードは内径23mmのアルミパイプ、アノードは 外径20ミクロンの金メッキW/Re線を用い、有効長は約150mmである。 検出器ガスとして、 アルゴン/メタンの混合ガス(90%Ar+10%CH4)であるPR(P10)ガスを用いる。 3.5.2 比 例計数 管中での 現象 比例計数管中を、荷電粒子、X線、γ線などの放射線が通過すると次の現象が起こる。 ① 放射線が検出器に入射する。 ② 放射線により主に稀ガスであるアルゴンガスが電離され、電子/陽イオン対(以下イオ ン対)が生成される。 荷電粒子の場合は粒子軌跡に沿って電離が起こる。 荷電粒子のエネルギー損失は、 粒子の速度と電荷のみの関数であり、その値はBethe-Blochの式を用いて計算できる。 X線やγ線の場合は、光電効果やコンプトン散乱により空間のほぼ1点で電離が起こる。 イオン対の数は、エネルギー損失を、イオン対を1個作るのに必要なエネルギー(W 値)で割って求められる。 Ar/CH4のW値は約26eVである。 ③ 電離電子(イオン)は電場により陽極(陰極)へ移動(drift)する。 移動速度をdrift速度と呼ぶ。 電子のdrift速度は1-10cm/μsec程度であり、 イオンのdrift速度は電子のdrift速度よりはるかに遅い。 ④ 陽極付近へドリフトした電子は、ワイヤー付近の強い電場で加速され、電子雪崩 (avalanche)により2次電子を増殖する。 平均自由行程(平均衝突距離)の間に電子が電場により得るエネルギーがイオン化 エネルギーより大きくなる場合、電子はガス分子をさらに電離可能となり、新たな2次 電子/イオン対を作る。 この現象を電子雪崩と呼ぶ。 1次電子数と2次電子数の比 をガス増幅率Mといい、Mは104-106にも及ぶ。 ⑤ 電子雪崩により陽極付近に作られた電子とイオンが電場により移動し、陽極に電荷が誘 起される。 電場により、電子は陽極へ、イオンは陰極へ動き、陽極に正電荷を誘起する。誘起 電荷の量と時間変化は、空間的に変化する電場の中を移動する電子とイオンの速度で決 まる。 電場が空間的に変化する為、平行平板型電離箱の信号の形に較べて複雑になる が計算は可能である。 ⑥ 電子雪崩により分子が励起されると紫外光が発生し新たな電子雪崩を起こす。 この現 34 象を防ぐ為に、クエンチガスと呼ばれる多原子分子を主成分の稀ガスに混ぜて用いる。 3.5.3 電 子/イ オン対生 成 電子/イオン対(pair)生成 に必要な平均エネルギーをW値と 呼び、気体に対しては種類によら ず約30eV/pairである。 これは、 明らかに電離エネルギーと異なり、 放射線のエネルギー損失が電離以 外にも励起に使われている事を示 している。 表に色々なガスの励 起と電離に関する量を示す。 表 3.10:色々なガスの励起/電離に関する性質 3.5.4 電 場中 での電 子/イ オンのドリ フ ト速度 イオンが電場中を移動するドリフト速度vは、電場Eに比例、圧力Pに反比例し、v=μ E/Pで与えられる。 係数 µ を移動度(mobility)といい、1 [cm2 " atm/(V" s)] 程度の値を とる。 1kV/cm程度の電場中ではドリフト速度は1cm/msec程度の値であり、電子のドリ フト速度に較べて非常に遅い。 電子が電場中を移動するドリフト速度も同様にE/Pに依存する。アルゴン/メタンの 混合ガスの場合を図 3.1 1に示す。 今回使用するP10の場合のドリフト速度は、E>0.15 kV/cm以上ではほぼ一定になり、約5 cm/μsecの値を持つ 図3 .11: ! アルゴン/メタン混合ガス中の電子の移動速度 3.5.5 比 例計数 管中での 信号生 成 35 +HV 円筒型比例計数管のジオメトリーを 図 3.9 に 示 す 。 アノード半径 a (0.01mm)とカソード半径 b(11.5mm) a の同軸円筒で、陰極を接地し陽極に+V0 b をかけた場合、中心からrの位置での電場 Anode E は、 Cathode V0 1 E(r) = ln(b / a) r 図 3.9: 円筒型比例計数管 で与えられる。 V = 1.5kV の場合、アノ 0 ード表面から0.01mmの位置での電場は、E=210kV/cmと非常に高い。 PRガスの平均電離エネルギーは約 26 eVであり、そのエネルギーでの電離断面積 から電子の平均自由行程 "e を計算すると約2.5μmとなる。 これから電子雪崩を起こす のに必要な電場は110 kV/cmとなり、アノード付近では十分条件が満たされている事が わかる。 電子雪崩の現象で重要な量は第一タウンゼント係数 " と呼ばれる量であり、 電子に より作られる単位長さ当たりのイオン対の数 と定義される: xでのイオン対の数を "x N(x) とすると、 dN dx = " (x)N(x) となる。 電場が一様な場合は N(x) = N 0e となり、電 子の数は距離の関数として指数関数的に増加する。 円筒電場の場合は電場が位置の関 数として与えられるので、ガス増幅率は、 $ E a "( E ) ' $ E a V0 " (E) ' $ a ' M = exp&% #r " (r)dr )( = exp& #E dE ) = exp& #E dE ) min % min dE dr ( % min lnb a E 2 ( となる。 " が電場 E に比例すると仮定した場合、つまり " = ln 2 E と置いた場合は #V Diethornの式として知られ、 * V 'ln2 $ V0 0 M = exp, # lnK )/ & ln (. + ln(b a) "V % aln (b a) ! で与えられる。 ここでΔVとKはガスに依存するパラメータで、P10の場合はΔV=24 [V]、K= 50 kV/cm/atmであることが知られている。 Kはガス増幅が始まる電場、 "V はW値という意味を持つ。 この式から、ガス増幅率Mは高電圧 V0 の関数としてほぼ指数 V 関数的 M " e 0 に増加することがわかる。 比例領域とは、ガス増幅率が1次電離電子数 に依存せず一定となる領域の事をいう。 円筒型比例計数管の出力信号について考える。 より簡単でかつ教育的な例として はガス増幅の無い平板型電離箱の出力信号の形があり、参考書などで各自調べておくこ と: 大切な部分は、気体中を電子とイオンが動く事によって電極に電荷が誘起され電 流が流れる事と、信号の大きさは移動速度と移動時間の積に比例する事である。 比例 計数管の場合は、電子雪崩で作られた2次電子/イオン対の数は、放射線の電離により 作られた1次電子/イオン対に較べて非常に多い。 又、2次イオン対はアノード表面 付近 r = a + " で作られる。 その為、2次電子がアノード表面付近からアノード r = a ま # で移動することによって作られる信号 "V と、2次イオンがアノード表面からカソード 36 r = b ま で 移 動 す る こ と に よ っ て 作 ら れ る 信 号 "V + を 比 較 す る と 、 + # "V "V $ ln[b a] ln[(a + % ) a] であり、イオンによる信号が主である事がわかる。 イオ ンの移動速度は一般に遅いが、最初イオンは非常に大きな電場中にあり信号の早い立ち 上がりをもたらす。 しかしイオンがアノードから遠ざかるにつれて移動速度は遅くな り信号の後半は非常にゆっくりした立ち上がりとなる。 信号の立ち上がりの形を計算 12 " 2µV0 % Q 1 すると、 V(t) = ln $ 2 t + 1' となる。 ここで、C、μ、p は各々検出器 C ln(b a) # a pln(b a) & の静電容量、移動度(mobility)、圧力である。 これから、信号が最大値の50%になる 時間は t1 2 " abpln(b a) (2µV0 ) となり、数μsecである:この値はイオンの全ドリフト時間 である約1msecに較べると非常に小さい。 この信号立上り時間より短い時定数で信号を 微分した場合は、出力振幅は小さくなってしまうことに注意。 3.5.6 クエン チガ ス 電子雪崩では電子により気体分子が励起され脱励起時に紫外光が放出される。 紫 外光はガス原子や陰極から光電効果によって光電子を放出することが可能で、その電子 はアノードに移動してガス増幅をくり返す。 この効果を避ける為に、紫外光を吸収す るクエンチガスを加えて用いる事が多い。 クエンチガスとしては、メタン、エタン、 イソブタンなどの多原子分子の有機ガスが多く使われる。 ! 3.5.7 エネル ギー 分解能 エネルギー分解能を決める原因は、 (1)電離により作られたイオン対nの分散、 (2) ガス増幅率の分散、(3)回路雑音、等が考えられる。 今、(2)と(3)を無視する 事にしよう: 例えば(3)は回路に一定の信号を入れる事により測定可能である。 イ オ ン対 の 分 散 に よ る 寄 与 は 通 常 " n = n で 与 え ら れ 、 エ ネ ル ギ ー 分 解 能 は " E E = n n = 1 n となる。 しかし実際には、イオン対の分散は n より小さく、 " n = Fn となっている: Fは1より小さい数であり、Fano因子と呼ばれる。 なお、エネルギー分解能は、FWHM(Full Width at Half Maximum)で言う場合 とRMS(Root Mean Square)で言う場合があり、ガウス型の場合は " = 2.35# で与えら れる。 37 「3.6」電子回路 3.6.1 オ ペアン プ(OP Amp、Operational Amp) オペアンプは+と-の2つの差動入力と1つの出力端子を持ったリニアアンプで、直流 からかなり高い周波数帯までの増幅が可能である。 実際の回路の中身は複雑であるが、 以下のような理想的な 増幅回路 と考えてさしつかえない場合が多い。 ①. オープンループゲインG(負帰還をかけない時の電圧増幅率)が非常に大きい。 ②. +と-の入力電圧を各々Vp、Vn、出力電圧をVoとすると、Vo=G(Vp- Vn)。 ③. 入力インピーダンスが非常に高い:つまり電流は流れ込まない。 ④. 出力インピーダンスが非常に低い:つまり任意の電流を流すことができる。 ⑤. 周波数帯域幅が非常に広い。 ⑥. +端子と- 端子は常に同電位に保たれる:これを仮想接地と呼ぶ。しかし両極間 に電流は流れない。 Vn=0の時はVo =GVpとなり極性が変化しないので、+入力を非反転入力端子と呼ぶ。 一方、 Vp=0の時はVo =-G Vnとなり極性が反転するので、-入力を反転入力端子と呼ぶ。 オープンループゲインGは10万から100万と非常に大きく、このままでは回路が安定に 動作しない。 そこで実際には帰還をかけて増幅率を調整する。 帰還とは出力と入力の 一つを抵抗で接続する事と考えてよい。 増幅回路には、図3.12に示すように非反転増幅と非反転増幅の2種類がある。 条件 ①から⑤を使って入力と出力の関係を考えると、各々、 1 R2 Vout = R V , V = " Vin in out 1 R1 + R2 1 + + R1 R1 + R2 G G となり、オープンループゲインGが十分大きい、つまり G >> 1, G >> R1 + R2 の場合には、 R + R2 R Vout = 1 Vin , Vout = " 2 Vin R1 R1 となり、増幅率が抵抗の比で決まる事がわかる。 同じ結論は、仮想接地の条件⑥を使う とより簡単に求める事ができる。詳細は一般物理学実験の電磁波の伝播特性の中のオペア ンプに関する部分を参照のこと。 ,"&'( ,#- $ % !" !# &)*+ !# !" &'( % $ &)*+ 図 3.12: (1)非反転増幅回路と、(2)反転増幅回路 実際のオペアンプでは、スルーレートとオープンループゲインの周波数依存性に注意 する必要がある。 スルーレートとは、オペアンプの出力電圧が単位時間(通常1μsec)に変 化できる電圧の事で、LF353では約8V/μsecである。 オープンループゲインは低周波では 38 非常に大きいが、周波数が高くなるにつれて小さくなる:LF353では、オープンループゲ インは、1kHzで70dB(x3000)から1MHzで10dB(x3)まで下がり、もはやゲインは抵抗の比だ けでは表せない。 なお、ゲインを表すデシベルは 20 "log10 Vout Vin で定義される: 6dB=x2、 10dB=x3、20dB=x10など。 詳細についてはオペアンプ資料を参照のこと。 今回の整形増幅回路は、図2.4に示したように、CR微分回路、増幅回路1、RC積分回 路、増幅回路2の構成で用いる。 増幅回路の方式は非反転方式を用い、増幅回路はイン ピーダンス変換回路も兼ねている。 通常、NIM規格の整形増幅回路は価格が30万円程 するが、今回は機能は限定されているが殆ど同じ機能を持つ回路を500円程度で製作する。 3.6.2 フ ィルタ ー回路( 微分/ 積分回路 ) ① CR微分回路 CR微分回路を図 3.13 に示す。 入力電圧 E in と出力電圧 E out の関係 は CR = " と 置 く と 、 dE dE E out + " out = " in となり、時定 dt dt 数 " が小さい場合には出力波形は ほぼ入力波形の時間微分に比例す る。 図のようなステップ電圧入 力に対しては、出力は E out = Ee"t # 図 3.13:CR 微分回路 となり、早い立上りの階段関数が、 早い立上りを持ち、時定数 " の立下りを持つ信号に変換される。 言い換えると、信号の 早い立上り部分をそのまま残し、非常に時間変化が緩やかな部分を微分して除くフィルタ ー回路と言うことができる。 なお微分時定数 " が立上りの時定数に対して長い限り、出 力の高さEは影響を受けない。 又この場合、後段に注入される全電荷は Q = CE in となる。 この種の回路は、例えば PreAmpに決まった電荷を注入し、PreAmp自体の増幅率を求めるような場合に使用できる。 ② RC積分回路 RC積分回路を図 3.14 に示 す。 回 路 を 表 す 方 程 式は 、 dE out 1 1 + E out = E in となり、時定 dt " " 数 " が大きい場合には、出力波形 はほぼ入力波形の時間積分に比 例する。 逆に時定数 " が小さい 場合には入力波形はそのまま通 過する。 図のようなステップ 電圧 入力 に 対 し て は、 出力 は 図 3.14:RC 積分回路 39 E out = E (1" e "t # ) となり、近似的に積分の動作をする。 ③ CR-RC整 形回路 PreAmpは、早い立上がりと ゆるやかな立下がりを持つ信号 を出 力 す る 。 信 号 を 後段 の ADCで処理しやすく、信号のパ イルアップやノイズを減らす為 に、通常は微分回路、積分回路、 増幅回路を組み合わせた整形増 幅回路を用いる。 その最も簡 図 3.15:CR-RC 整形回路 単な回路は図 3.15 に示すCR-RC 整形回路である。 CR微分回路とRC積分回路を切り離す為、間に無限大の入力インピーダ ンスとゼロの出力インピーダンスを持っている理想的なオペアンプをはさんである。 E" 1 e #t " 1 # e # t " 2 ) 、 ス テップ電 圧入 力に 対し ての 出力 波形は、 "1 # " 2 の時 E out = ( "1 # " 2 t "1 = " 2 = " の時 E out = E e # t " となる。放射線計測回路では等しい微分/積分時定数を用いた " CR-RC回路がよく用いられる。 この出力波形は非対称な形をしている為、信号の長さをさらに短く対称な形にする目 的で、CR-(RC)n整形回路がよく用いられる。全ての時定数が同じ場合には、ステップ入 n 力に対する出力は E out # t & )t " = E % ( e となり、n=4程度で十分ガウス型に近い形に整形が可能 $" ' である。 3.6.3 電 荷有感 型PreAmp (Charge Sensitive Preamplifier) 放射線検出器は出力として電荷Q を出力する。 )* 検出器容量とPreAmpまでの種々の浮遊容量をCd とす ると、検出器からはQ/Cd が出力電圧となる。 検出器 +* 容量や浮遊容量が一定の場合は、PreAmpとして電圧有 " 感型を用いても電荷有感型を用いても構わない。 シ # ( ! ンチレーション検出器に用いられる光電子増倍管は両 +, 方ともほぼ一定なので、電圧有感型PreAmpが通常用い $%&' られる。 半導体検出器の場合は高電圧によって容 図 3.16:電荷有感型 PreAmp 量が変化する為、電圧有感型PreAmpではなく、電荷 有感型が用いられる。 図3 .16のような電荷有感型 PreAmp を 考 え る と 、 Cf を feedback capacitor と し て 、 出 力 電 圧 は 、 ! 40 Vout = " G >> Q Cf 1 で与えられる。 1 Cd + C f 1+ G Cf オープンループゲインGが十分大きな Cd + C f Q の場合、出力電圧は Vout = " となり検出器容量/浮遊容量に依存しなくなる。 Cf Cf 別な見方をすると、検出器からの電荷Qは、オペアンプの入力インピーダンスが高い為オ ペアンプに流れ込まず、Feedback Capacitor Cfを通って流れ、電圧Voutを生じる。 コンデンサーだけで帰還をかけると、電荷を積分し終わった段階で出力電圧は最大に なり一定の値になる。 次の信号が来ると同じ事が繰り返され、 出力はさらに大きくなる。 これを避ける為、抵抗をcapacitorに並列につけてある減衰時間で電荷を逃がす方法が取ら れる。 実際には、τ=Cf・Rf の減衰時定数で指数関数的に減衰する。 比例計数管のPreAmpには、どちらの型を用いても良いが、今回は主にノイズ特性と周 波数特性の点から電荷有感型PreAmpを用いることにする。 3.6.4 論 理信号 の規格 論理信号は、IC(Integrated Circuit)の種類で分類すると、バイポーラー/飽和 型 の TTL(Transistor-Transistor Logic) 、 バ イ ポ ー ラ ー / 非 飽 和 型 の ECL(Emitter-Coupled Logic)、MOS 型 の CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)などがある。 TTL(CMOS)では、論理1が+5V(2.5V 以上)、論理0が 0V(0.8V 以下)、ECL では、論理1が-0.9V、論理0が-1.75V である。 民 生 用 で は な い が 、 素 粒 子 原 子 核 で は 高 速 論 理 回 路 と し て NIM 規 格 (Nuclear Modules Standard)がある。1966 年に原子力エネルギー委員会(AEC)で採用された、 信号レベル,信号線,コネクター,電源,回路を収めるケースなどについての世界標準規 格である。 NIM 規格では、同軸ケーブルの特性インピーダンスは50 Ωを使用すること になっており、論理”1” は- 0.7 V(即ち、50 Ωの負荷に14 mAの電流)、論理”0” は0 V と 定められていて、この論理レベルをNIM レベルと通称する。 また、回路は規格化された 箱の中に納められ、NIM ビンと呼ばれる電源箱に差して使用する。 ビンの電源は普通 24V, 12V, 6V を供給する。 今回、PreAmpや整形増幅回路の電源である 12Vは、NIM Binから供給される。 41 3.6.5 抵 抗とコ ンデンサ ーの値 と精度の 表示 (1)抵抗 4桁表示では有効数字2桁、乗数、許容差の4本のカラー表示が、より高精度表示用の 5桁表示では、有効数字3桁、乗数、許容さの5本のカラー表示が用いられる。 (2)コンデンサー 通常3桁(2桁の有効数字と乗数)の数字で表され、単位は pF 単位である。 例え ば、102 と書いてある物は、10x102=1000pF となる。 色 有効数字 乗数 許容値 黒 0 100 茶 1 101 1% 赤 2 102 2% 橙 3 103 黄 4 104 緑 5 105 0.5% 青 6 106 0.25% 紫 7 107 0.1% 灰 8 108 白 9 109 金 10-1 5% 銀 10-2 10% 表:抵抗のカラーコード 42 %%% 「3.7」 オシロス コープ オシロスコープは波形の観測に使われる測定器である。 信号を写し出すブラウン管 は、電子銃、水平偏向板、 垂直偏向板からなり、入 力信号に従って電子を曲 げブラウン管上に表示さ せる。 垂直偏向板には 入力信号を加え、水平偏 向板には信号の入った基 準時間からノコギリ波を 加えて信号を sweep す る。 我々が観測し 図 3.17 : オシロスコープの概略 たい波形は、放射線が 検出器を通過するような時間的にランダムに起こる現象であり、信号が入った基準時間が 重要になる。 この sweep 開始時間を決める信号をトリガーと呼ぶ。 トリガーは幾つか の入力信号の1つから作る。 トリガーができると、数個の信号を同時に観測する事がで きる。 (1)トリガーの調整/設定 トリガーを発生させる際には、以下のパラメターを調節して信号の観測を最適化する。 ① 種類: Normal、Auto 通常、Normal を用いる。 ② Source: CH1, CH2, CH3, CH4 トリガーを作る入力を選択する。 ③ Coupling: DC, AC 入力信号の結合方式で、DC/AC を選択する。AC 方式の場合には大きなコンデンサー を通して入力される。 ④ Slope: +, トリガー発生時刻が、トリガー入力信号電圧が上昇中(+)か下降中(-)かを選択。 ⑤ Level: 任意 トリガー入力信号のどの電圧値でトリガーを発生させるか調節。 Slope と Level の2つの例を図 3.18 に示す Slope: Slope: + Level: Level: 図 3.18: Slope と Trigger の例 43 (2)他の設定可能なパラメータ ① X 軸スケール: ② Y 軸スケール: ③ 入力インピーダンス: ④ Coupling: ⑤ Ground: 時間軸のスケール(sec/div)の調節 信号電圧のスケール(V/div)の調節 50Ω、1MΩ AC/DC 入力を ground に落として Y 軸の原点確認をする。 その他にも設定可能な項目が幾つかある。 オシロスコープは、検出器からなどの微 弱信号の観測上重要な測定器なので、使い方をぜひマスターして欲しい。 44 「3.8」 MCA (Multi Channel Analyzer) 整形増幅回路からの信号の高さを ADC(Analog to Digital Converter)を用いて デ ジ タ ル 量 に 変 換 し 、 波 高 分 布 を 得 る 為 の 測 定 回 路 一 式 を 、 MCA(MultiChannel Analyzer)叉は PHA(Pulse Height Analyzer)と呼ぶ。 実際には ADC、ADC と PC のインターフェース回路、PC 側のプログラムの3つの部分からできている。 ここでは、一般物理学実験のガンマ線測定と同じシステムを用いる。 以下に簡単な 使用法をまとめるが、詳細は一般物理学実験テキストの ガンマ線測定 を参照のこと。 ① 計算機へのログイン ADC とのインターフェースが接続された PC に login する。 Account は third、password は cosmic0。 適当な directory を作って作業を行う。 データファイル保存先は~/work になって いるので、各自 directory を作りリンクしておく。 >cd ~<cr> >mkdir work_***<cr> >ln –s work_*** work<cr> ② 初期化 >mca_daq<cr>で表示されるパネルの<Init>をクリックすると、パネルとコマンド一 覧が表示される。 ③ データ収集 <Start>ボタン: データ収集の開始。収集中は<Stop>と<Scale 変更>ボタンのみが 使用可能。 <Stop>ボタン: データ収集の停止。 停止中は、<Reset>、<Save>、<Print>、 <Quit>ボタンが使用可能。 ④ データ表示 *マウスをヒストグラム上へ移動すると十字カーソルが表示される。 *縦軸スケ ール: 3つの縦軸表示がトグルする。 <FIX>: リニア固定スケール表示 <AUTO>: リニア自動スケール表示 <Log>: 対数自動スケール表示 *ズーム表 示: ヒストグラムの一部分を拡大表示する場合、マウス左ボタンで拡大したい部分の対 角の2点をクリック マウスボタン右クリックで解除。 *データ表 示 希望のチャンネルの十字カーソルを移動し中ボタンをクリックすると、チャンネル とデータを表示。 *ROI(Region of Interest)表示 マウス中ボタンを押したまま移動する事により領域(ROI)を指定すると、領域に含 45 まれるデータの和を表示。 ⑤ データ保存 <Save>ボタン:データ収集停止中のみ可。 メニューにより,ファイル名、コメントを指定し、<Save>をクリック。 ファイル名デフォルトは、out.hist。 保存先は~/work なので、各自 directory からリンクする。 ファイルはアスキー形式。 Gnuplot などで表示可。 データ表示例 >gnuplot >plot “out.hist” ⑥ データ解析 測定分布の印刷、ピークの中心値、幅に関しては測定中に値を求め、データを整理し ながら実験を進めることを推奨する。 なお、保存したデータファイルを用いて分布の表示やピークフィットをすることも可 能。 詳細は一般物理学実験の 計算機システムの使い方 を参照する。 PC はデータ収集用以外に4台ほどあるので使用してよい。 アカウント/パスワード 等は同じである。 ⑦ 困った時に 何らかの原因で MCA の process が残ってしまったばあい、MCA_KILL で process を 殺すことができる。 46 「3.9」信号観測の例(参考資料) (3-9-1) Pulser による信号波形の観測例 微分: Cd = 1000pF, Rd = 1kΩ 微分後増幅: R1 = 1kΩ, R2 = 10kΩ 1μsec 1μsec 50 mV アナログ波形と論理出力: 50 mV 50 mV 1μsec 200 mV 1 V 5 V R7 = 50kΩ, R8 = 1kΩ C5 = 0.1µF, R5 = 10kΩ VCC ADC CD RD LF353x1/2 R1 LF353x1/2 RI + CI R2 R3 LM311 C5 + R4 - R5 VCC R7 積分: Ci = 1000pF, Ri = 1kΩ Pulser入力 50 mV 50 mV 50 mV R8 積分後増幅: R3 = 1kΩ, R4 = 5kΩ 1μsec 1μsec 100μsec R6 + 200 mV 47 50 mV 1 V (3-9-2) X 線による信号波形の観測例 微分後増幅: R1 = 1kΩ, R2 = 10kΩ 微分: Cd = 1000pF, Rd = 1kΩ アナログ波形と論理出力: 2μsec 1μsec 1μsec 50 mV 200 mV 2 V RF カソード RL CF アノード CC RD LF353x1/2 LF353x1/2 RI + R1 R2 R3 LM311 C5 + - CI - R5 R4 200μsec VCC 100 mV 積分: Ci = 1000pF, Ri = 1kΩ 1μsec R6 + R7 PreAmp出力 VCC ADC CD R8 積分後増幅: R3 = 1kΩ, R4 = 5kΩ 1μsec 200 mV 1 V 48 5 V R7 = 50kΩ, R8 = 1kΩ C5 = 0.1µF, R5 = 10kΩ