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授業試案−構成的グループエンカウンターを基底にして−

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授業試案−構成的グループエンカウンターを基底にして−
授業試案−構成的グループエンカウンターを基底にして−
高知県立高知丸の内高等学校
寺尾 隆二
1,授業観
エンカウンターとは、ホンネとホンネの交流や感情交流ができるような親密な人間関係
をいう。つまり、エンカウンターは、自己の成長を促進し、かつ人生の充実感を味わうこ
とができるものである。このようなエンカウンターを教室に持ち込み、リーダーの指示に
よって行うエクササイズ(ある一定の型のある構成されたもの)を通して、集団でエンカウ
ンターを体験することを構成的グループエンカウンターという。
日本における推進者である國分康孝氏は、高校生のエンカウンタープログラムの核にな
るものを、
「大人の仲間入りをするのに必要な、思考・感情・行動の学習」として、次のよ
うな三本柱をあげている。
①人生計画
②ソーシャルスキル
③異性関係
本学習指導案は、直接的には、③の異性関係と関連するものではあるが、ただ単に順位
づけを考えるということではなく、相手に自分の考えを知ってもらい(相手を説得する)、
かつ相手の考えを聞くという作業を取り入れることで、コミュニケーションスキルという
②のソーシャルスキルの向上が重要な核となっている。さらに、価値観の違う他者(友人)
の存在の新たな確認や、価値観による対象(物・人・事象)の評価・認識の違いを知ること
によって、このことが①の人生計画の大事な基礎を養成するものと考えられる。
このように本指導案は、その実際の展開によって幅広い学習目標に到達できるものでは
あるが、今回においては、③の異性関係についての価値観を押し付ける(注入する)のでは
なく、価値観の内容そのものについて、極端なものを除けば、価値相対主義な立場をとる
ことによって、②のソーシャルスキル、特にコミュニケーションスキルの向上に焦点をし
ぼっていきたいと考えている。その理由は、コミュニケーションスキルの重要性は言うま
でもないが、「話す」「聴く」ことによって二次的に生じる充実感・肯定感というものを生
徒たちに感じてもらいたいというねらい(目標)による。
川口(1997)は、大学生に対してグループ・ディスカッションの授業を取り入れ学生一人
ひとりが考えを持ち、他者との意見交流ができるような授業実践をしたところ、学生たち
に広がっている「自分の考えを他者に直接主張してはならない」という了解事項(共通意識)
が存在しているという報告をしている。それは、ある女学生が「私は、あなたの意見に異
論があるんだけれど、そのことについてもっと議論をしたい」と発言したところ、その場
ではなんらの反応がなかったにもかかわらず後の感想文では、多くの学生がその女学生を
「人の意見を平気で非難する怖い人だ」と書いていたという。また、杉山(1999)は、知人(理
工系の某国立大学在籍)から、授業中に私語をしているカップルに突然になぐりかかった
「少し変わっているが、おとなしく勉強熱心な」学生の行為を次のように分析している。
注意するという行為は、かなり複雑で面倒な手続きを踏むことが要求されるものであり、
多くの人は注意することをあきらめて不快さに耐えて我慢してしまう。この男子学生は、
自分の勉強を邪魔されたことではなくて、カップルの私語に対して注意できないふがいな
い自分という存在に耐え切れなくなり、
「キレ」たのであると分析している。杉山は続けて、
「規範意識が育っていないからではなくて、規範意識ゆえにムカツイタりキレたりする」
としているが、この部分の分析は到底納得できるものでなく、そもそも規範意識そのもの
の定義を確認してもらいたいのであるが、次の部分の分析は納得できるものである。
「複雑
で難解な手続きを踏まなければならない現実(カップルの私語をやめてもらう行為が要求
される世界)を単純な手続きで済む世界(自我の抑圧者であるカップルしかいない世界)へ
つくり変えたのである」
川口が提起した若者たちの「自分の考えを他者に直接主張してはならない」という意識、
そして、杉山が分析した「他者に直接注意する(主張する)という難解な手続き」を踏めな
い若者たちは、実際にますます多くなっているのではないだろうか。
そこで、「自分の考えを他者に直接主張してもかまわない」という意識、そして、その
時には、
「難解な手続き(他者と周囲の状況把握とコミュニケーションスキル)」の必要性の
確認とスキル向上のための実際のエクササイズを提供することが目的である。
また、斎藤(2000)は、「Who am I(20 の私)」を用いた自己発見体験―自分を表現する場
の確保と多様な価値観の発見が、ストレスを低下させるという実践の報告をしている。こ
の「WAI」については、松原(1999)は、
「自己発見や他者理解の方法および人間関係発達技
法として位置付け、その学校場面で応用する具体的な手法を確立している。この対象は中
学生の母親であるが、高校生でもある調査(「第2回学習基本調査報告書高校生版」ベネッ
セ教育研究所)によると、
「自分や相手の気持ち・考えをうまく出し合えたらいいなと思う」
と回答した高校生は 80%にのぼるという。片野はこの報告を受けて、このうよな思いは、
実は人間の基本的な欲求であり、程度の差はあれ「自分を語りたい、表現したい、主張し
たい」というのは人間が人として生きていくための証であり、特に高校生という時期はこ
の欲求が強くなると述べている。
自分の価値観を確認して、新たに自己理解を深め、また、他者の価値観を知ることによ
って、他者の存在の受容と確認を通して、自己疎外・孤立感からの脱却も得られるという
可能性が、この授業にはあると考えている。
参考・引用文献
國分康孝・片野智治
1999
エンカウンターで学級が変わる
高等学校編
川口幸弘
1997
同化と脅迫観念に身を委ねる
杉山哲也
1999
子どもの自由を保障する教育―社会参加と対話のスキルを育成する
社会科の試案として―
斎藤浩一
2000
1999
生きる力としての問題解決力を育む授業
明治図書
黎明書房
「Who am I(20 の私)」を用いた自己発見体験がストレス反応の軽減
に及ぼす効果
松原達哉
生活教育
583,
図書文化
高知大学教育実践研究
自分発見の「20 の私」
14,
61-68.
東京書籍
2,授業計画
展開
1 「渚の恋の物語」の資料プリント配布
熟読してもらう
2
課題プリント配布
課題1に取り組む
率直に自分のものさしによって、決めることを、強調して作業に取り組ん
でもらう
(授業の目的が、価値づけの仕方の良い悪いの評価でないことを言う)
3
4
5
6
7
この時に、生徒に別に小さな紙を配布して許せない者を書いてもらい、そ
れを整理して、授業中に報告できるようにする。
課題2に取り組んでもらう
2人1組(人数の関係で3人でも可)になり、お互いの結果を相手に理解して
もらうように説明する。その時、まずは聴くのであるが、その後、質問す
ることは可能。
対話が終わったら、
理解・納得できたか?
どう思ったかを書いてもらう。
少しやかましくなってもいいが、真剣に取り組むようにはたらきかける
先ほど、回収した結果を板書する
本授業の目的・指導者の願いについて説明をする
課題3と4に取り組む
再び許せない者を書いてもらい、それを整理して、比較のため板書する
課題5に取り組む(時間の関係で省略もある)
YES NO を挙手で回答させ考えを聞く。
渚の愛情物語
五人が乗っていた渡し船が、突風にあって沈没してしまいました。幸いにも二隻の救
命ボートに乗りうつることができました。一隻にはメアリーという若い女性と水夫のジ
ャックとそれにおとなしい老人ロバートが乗り合わせました。もう一隻には、メアリー
のフィアンセのピーターとその親友マイケルが乗りました。嵐は激しく、波に揺られて
いる間に二隻の救命ボートはお互いを見失ってしまいました。
メアリーの乗っていたボートは、ある島にたどり着きました。フィアンセのピーター
とはなればなれになったメアリーは、ピーターが生きてくれることを願い、なんとか消
息を知りたいと、もう一隻のボートを探しましたが見当たりません。しかし、彼女はあ
きらめきれず、なお探し求めて歩きまわりましたが、何の情報も得られませんでした。
二日たって、嵐が過ぎ去り、海の視界も遠くまで見とおせるようになった朝、メアリ
ーはピーターがいるのではないかと思われる島影を発見したのです。ピーターを発見し
たい一心で、彼女はジャックに「このボートを修理して、あの見えている島へつれてい
ってくれませんか」と頼みました。がしかし、水夫のジャックは条件つきでボートを修
理してつれていってあげるといいました。その条件とは、メアリーと一夜をともに過ご
すことです。
メアリーはがっかりし、困りはてました。そして、ロバート老人にこのことを相談し
ました。「私は困ってしまいました。どうしたらよいのでしょうか。何かよい解決策が
ないか教えてください」といいました。そうしたらロバート老人は、「あなたにとって
何が正しいことであるか、何が間違っていることであるかを、私はいうことはできませ
ん。あなたはあなた自身の良心に聴き、それに従うことではないでしょうか」というの
みでした。そこで彼女は悩みに悩みぬいた末、結局ジャックのいうとおりにしました。
翌日、ジャックはボートを修理してメアリーを乗せ、ピーターがいるであろう島へ漕
いでいってやりました。
島に近づいてみると、ピーターは生きているではありませんか。メアリーは狂喜して、
浜辺に着くや遅しとボートから降り、ピーターの腕に抱かれました。メアリーはピータ
ーのあたたかい胸の中で、昨夜のことを話し出そうかどうか迷いました。しかし、思い
切って打ち明けることにしました。
それを聴いたピーターはたちまち怒り、いまにも狂いそうになって、「メアリーの顔
など二度と見たくない! 」と叫びながら走り去りました。メアリーは失意におちいり、
泣きながらひとり渚におりて来ました。
この光景をみていたピーターの親友マイケルは、メアリーのところへ近づき、なぐさ
めの言葉をかけてやりました。そして、マイケルはいいました。「メアリーさん、私は
ずっと前からあなた愛していました。しかし、親友ピーターにゆずったのです。いまの
二人のことを見ていました。その事情はよくわかります。私はあなたに求愛したいので
す。
」
メアリーは突然のことにとまどうばかりです。
『自尊心の発達と認知行動療法』A.W.ホープ他著
岩崎学術出版
1992 年
課題1
「渚の恋の物語」の登場人物は5人います。メアリー、ピーター、マイケル、ジャック、ロバートで
す。この5人を、
「人間として許せない(嫌いな人間)」順に、並べてください。また、どうしても人間
として許せない者とある程度許容できる者との境界も考えてみてください。
そして、どのような基準(ものさし)・理由で順位づけしたのかを簡潔に書いてください。
■人間として許せない順
(*どうしても許せない者には、番号に○印を)
第1位
2
3
4
5
基準・理由
課題2
(交代に)
各自が決めた順位づけを、他の人に、理解・納得してもらうように話してみてください。
聴く側の人は、疑問に思うところがあれば遠慮せずに質問してください。
■理解・納得できましたか?
▽相手の順位づけとその基準・理由についてどのように思いましたか?
課題3
改めて、メアリー、ピーター、マイケル、ジャック、ロバートの5人を、「人間として許せない(嫌い
な人間)」順に、並べてください。また、どうしても人間として許せない者とある程度許容できる者と
の境界も考えてみてください。
■人間として許せない順
(*どうしても許せない者には、番号に○印を)
第1位
2
3
4
5
課題4
下記の質問に答えてください。
① 他の人は、自分とは違った考え方(価値観・ものさし)を持っている、と思いましたか。
A
はい
B
いいえ
C
わからない
② 他の人が、違った考え方(価値観・ものさし)を持っていることを、当然のことだと思いますか。
A
③
はい
B
いいえ
C
わからない
いろいろな違った考え方(価値観・ものさし)を話し合って相互理解を深めることは、大切なこと
だと思いますか。
A
④
はい
B
いいえ
C
わからない
考え方(価値観・ものさし)によって、対象(物・人・事象)の評価が変わる、と思いましたか。
A
はい
B
いいえ
C
わからない
⑤ 考え方(価値観・ものさし)によって、対象(物・人・事象)の評価が変わる、ならば、絶対的な良い・
悪い(善・悪)はない、と思いますか。
A
はい
B
いいえ
C
わからない
⑥ 話し合う(自分の意見を主張したり、相手の意見を聴く)ことは、よいことだと思いましたか。
A
⑦
はい
B
いいえ
C
わからない
その他、思ったことを自由に記述してください。
課題5
もしあなたがメアリーの立場だったとしたら、マイケルのプロポーズに YESですか。それとも NO
ですか。なぜそうなのかを答えてみてください。
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