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小千谷織物同業協同組合(新潟原小千谷市) 縮を用いた洋装品: 紳士服

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小千谷織物同業協同組合(新潟原小千谷市) 縮を用いた洋装品: 紳士服
小千谷織物同業協同組合(新潟原小千谷市)
縮を用いた洋装品: 紳士服ブランド Free From
○ 昭和 50 年半ば以降、毎年、伝統の和装縮の販売額が低下する状況の中、組合の
青年部が中心となり、デサインを活用して新たな洋装のブランドの立ち上げに成
功した事例。平成 7 年のブランド設立以降、毎年順調に売上高を伸ばしており、
現在は組合全体の販売額の一割を占めている(約 72 百万円)。
○ また、近年は同ブランドの知名度の上昇の影響もあり、平成 13 年度以降、伝統
の和装の販売額も徐々に上昇に転じている。
キーワード
デザイナーのトータル・コーディネート、補助金を活用した長期的な戦略、生活に密着した新商
品開発、洋装から和装への転換、ブランド戦略の拡大
1.デザイン開発の背景
<産地を取り巻く危機的な状況>
○ 昭和 51 年をピークに、組合全体の売上高(絹織物・麻織物)は毎年減少を続け、平成に至
る頃にはピーク時の約 1/4 の水準にまで落ち込んでいた。それに比例して、組合員の数も大
幅に減少を続ける等、産地全体が今後生き残れるか否かが問われる危機的な状況に陥ってい
た。
図表 小千谷織物の年度別出荷統計
(単位:千円)
6,000,000
5,742,394
5,000,000
4,000,000
3,000,000
1,552,166
2,000,000
1,000,000
0
S51 S52 S53 S54 S55 S56 S57 S58 S59 S60 S61 S62 S63
(資料)小千谷織物同業協同組合資料より UFJ 総合研究所作成
図表 小千谷織物同業協同組合の会員員数の推移
80
70
75
60
50
50
40
30
20
10
0
S51
S52
S53
S54
S55
S56
S57
S58
S59
S60
S61
S62
S63
(資料)小千谷織物同業協同組合資料より UFJ 総合研究所作成
○ 上記のように売上高が急速に落ち込んだ背景には、次のような状況の変化があった。
・ライフスタイルの変化: 日本人のライフスタイルの変化により、生活の中で着物を着る習慣
が少なくなる等、伝統的な和装に対するニーズが減った。
・産地内での競合関係: (上記ニーズの低下に伴い)産地の主力である「小千谷縮」と「小千
谷紬」が、産地の中で互いに競合する関係に置かれる等、結果として
共倒れになることが少なくなかった。
・伝統産業であることの甘え: 通商産業大臣指定伝統的工芸品(小千谷縮)や重要無形文化財
(小千谷縮の製作技術)の指定よる優遇措置を受けていたこと
で、最終的には保護されるとの甘えがあり、そのことが売上高
回復のための新たな取り組みへの対応を遅らせた。
<組合として認識していた課題>
○ 上記のように売上高が急速に落ち込んでいる状況の中、組合においてもその対応についての
検討が重ねられた。
○ 特に、若手後継者を中心とする青年部が中心となり現在、そして将来の小千谷織物の産地全
体の在り方についての検討を重ね、その結果を最終的に「意見書」の形に集約した。以下は
そこで指摘された主要な論点である。
・ 和装以外の柱の確立: 「小千谷縮」と「小千谷紬」以外の商品の柱を確立すること、
特に近年のライフスタイルの変化に応じた(日常生活で使え
る)新たな商品開発が必要である。
・ ブランド力の強化:
問屋を通じてのみの流通・販売体制を見直し、自ら企画・製作し
た商品を直接に販売する体制を確立することによって、小千谷織物
のブランド力を保護・強化する取り組みが必要である。
・ 組合員の意識改革: 時代の変化に素早く対応するためには、組合員一致の横並びで物
事を決定する体質を見直すことが必要である。併せて、一部の組合
員が新たな取り組みに挑戦する際には、組合として後押しする一方
で、挑戦する組合員自らも資金を必ず拠出する等の自己責任の意識
を徹底する仕組みを導入する必要がある。
(補助金依存の甘い体質か
らの脱却)
<課題を解決するための組合の取り組み>
○ 産地全体の危機の状況、そして青年部を中心とする議論を踏まえた結果、組合全体として「小
千谷の産業=着物」と狭く捉えるのではなく、
「小千谷の産業=布」と捉えて、より広く生活
者に使ってもらうよう、改めて織物の原点を追求する方針を明確にした。
○ 平成元年、この方針を具現化する(布としての縮織物の可能性を探る)企画として、世界の
麻展「麻−過去・現在、そして未来」を開催した。この展示会には延べで 1 万人を越す人が
参加する等の成功を収めた。中でも、現代の生活シーンにおける縮の活用方法を提案すると
の意図で、新たに洋服や寝装品等の製作に挑戦した「小千谷縮の未来」に対して、多くの評
価と期待が寄せられた。
○ これを機会に、組合として伝統の着物以外の新たな分野(新分野)における商品の企画に着
手することを正式に決定した。この新分野における商品開発は、主として若手の後継者を中
心とする組合員によって組成された研究開発グループ、そして必要に応じて外部デザイナー
が参画する形で進められ、ビジネスとしての実績も一定程度は達成できた。
○ しかしながら、新分野の研究開発に関して、個別のレベルでの成功を収めたものの、産地の
現状を踏まえてトータルに商品をプロデュースする視点が欠如していた結果、技術、生産、
販売体制が一貫せず、ビジネスとして本格的に軌道に乗るには至らなかった。以降、組合員
(研究開発グループ)を中心に、このような状況を克服する試みが約 4∼5 年程続いたが、
明確な解決方法は見出せなかった。
○ このような状況が続く中、平成 6 年、新潟県が主催する講習会において講演したデザイナー
の考え方に組合員が共鳴して、以降はそのデザイナーに、小千谷縮の新分野のプロデュース
全般を任せることによって、このような現状を打破しようとした。
2.デザイン開発プロジェクト
<新分野の商品開発に向けた計画の策定>
○ 新たに一人のデザイナーによる、小千谷縮の新分野の商品開発のトータル・プロデュースを
組合が決定したタイミングにおいて、県の「集積活性化事業補助」の助成を受けることも決
定した。この補助金は、平成 7 年度から平成 11 年度の 5 ヵ年継続して助成を受けられるも
ので、長期的な視点に立っての計画策定が可能となった。早速、デザイナーのアドバイスを
受けて計画策定が進められた。
○ 新分野の商品開発に際して、産地全体の長所と短所の双方を深く分析することを前提に、1
年目は新商品開発のテーマを発見する調査、2 年目は選定したテーマに沿った新商品開発、
そして 3 年目に需要開拓を進めるという計画が策定された。
○ 特に、1 年目には、組合員のマーケティング力、商品企画力を養うとの意図のもと、地域が
持っている現状の資源、技術、素材、情報、人的資源の把握からスタートして、続いて、時
代、生活者、市場等の動向の調査を通じて、そこから新分野の創設(ブランド創設)の可能
性を探ることに注力が払われた。
<開発プロジェクトの進展>
○ 1 年目の調査結果を踏まえて、商品開発戦略の方向性として「生活者の視点」
「素材重視」の
方針を明確化して、その方向性の基に試作品の開発に着手した。
○ 具体的には、流行を比較的に追わず、また特に素材、デザインの面での市場が十分に成熟し
ていない紳士服の分野にターゲットを定めて、
「働く男たちのためのワークウェアー」をテー
マにした新商品の開発(シャツ、ジャケット、パンツ、ベスト等)に取組んだ。
○ プロジェクトに対して自ら負担を承諾した組合員と、デザイナーが中心となり進められた開
発プロジェクトの過程では、主に次のような課題に直面した。
・ デザイン: 洋服のデザインスケッチ、型紙の製作、基本的な縫製技術について、組
合には殆どノウハウがなかった。
・ 新素材の開発: 縦方向に織る着物と異なり、洋服は縦横方向に均一化する必要がある
ため、伝統の和装着物の縫製に用いる生地を見直して、新たに洋服用
の生地を開発する必要があった。
・ 染色、糊加工、仕上げ行程の見直し: 年に数回の着用の着物と異なり、毎日着用して
洗濯する洋服に合った染色、糊加工、仕上げの
技術を新たに習得する必要があった。
○ 上記課題をクリアするためには、組合員の技術、ノウハウでは限界があったことから、デザ
イナーの紹介で、新たに別のファッション・デザイナーや産地の技術者の協力を得ることと
した。
(ファッション・デザイナーとの契約は商品一点あたり約 15 万円で契約した。
)
○ これらの課題を解決する過程において、組合員は和装の分野の改善にも応用し得る様々な技
法を習得した。その結果として和装の技術も向上した。
<新ブランドの発表>
○ 試作品が完成した平成 8 年、新潟市内のデパートで、新ブランド「Free From(フリーフロ
ム)」の発表会を開催した。この発表会では、絹、麻、綿を素材にしたジャケット、シャツ、
パンツを中心に、約 100 点の作品が出展された。また、地元のビジネスマンをモデルに採用
する等、産地全体を巻き込むことにも配慮がなされた。
○ この試作品の発表とその後の商品の企画、生産、販売の一体化を睨み、開発グループの出資
による共同システムとして「(有)オジヤシステムテン」が設立された。以降、この組織を通
じて、新ブランド「Free From」のマネジメントが行われている。
図表 新ブランド「Free From」
(資料)小千谷織物同業協同組合資料より
<デザイナーの役割>
○ 開発プロジェクトにおいて、トータル・プロデュースの観点からデザイナーが果たした役割
は、主として以下の点であった。デザイナーは、プロジェクト全般の方向づける役割と共に、
それを具体化するために必要となる取り組みの導入を支援する役割の双方を果たしたと言え
よう。
・ 新分野のブランド設立に向けて、一貫した方針の基にトータル・コーディネートの実践。
・ 産地の強み、弱みを分析すると共に、それを基にしたプロジェクトの方向性と戦略の明
確化。
・ 個々の新商品開発の過程において、新技術の導入・提案を支援。
○ 組合員は、デザイナーによる、トータル・コーディネートについて、次のように語っている。
・ 個別の商品開発において、外部のデザイナーが関与する場合、最終的にクライアント(組
合)の意向に沿う形に落着くことが大半であったため、これまで大きな進展は見込めな
かった。
・ 今回の取り組みにおいてデザイナーは、個別の商品開発ではなく、プロジェクトの企画
立案から実施に至るプロセス全体において方針決定に関与する等、より広範に、かつ責
任ある立場としてプロジェクトに関与した。
・ その結果、産地の現状、目指すべきもの、強み、弱み等を踏まえて、現実的かつ実践的
な提案を行うことが可能となり、そのことが最終的に新たな取り組みに対する組合員の
納得感、安心感、そして希望を生み出したと言えよう。
3.デザイン活用の成果
<売上高の回復>
○ デザインを活用した新ブランド「Free From」は、発売以降、想定した水準の販売実績を確
保している。また、生産工程の大半が手作業であるため、現在に至るまで、毎年、生産が注
文に追いつかない状況(バックオーダー)が続いている。
図表 新ブランド「Free From」の販売額の推移
(単位:千円)
年度
平成 9 年
平成 10 年
平成 11 年
平成 12 年
平成 13 年
平成 14 年
販売額
56,656
49,972
63,748
72,503
70,694
72,411
(資料)小千谷織物同業協同組合資料より UFJ 総合研究所作成
○ 新ブランド「Free From」の発売は、これまでターゲットとしていなかった顧客層、および
これまで和装の「小千谷縮」に愛着のあった顧客層の双方に大きなインパクトを与えた。そ
のため、近年では同ブランドの対する世間での認知が広まるにつれて、組合全体の販売額も
上昇傾向に転じつつある。
図表 小千谷織物の年度別出荷統計(新分野=「新ブランド」
)
1,200,000
1,000,000
800,000
新分野
伝統分野
600,000
400,000
200,000
0
H5
H6
H7
H8
H9
H10
H11
(資料)小千谷織物同業協同組合資料より UFJ 総合研究所作成
H12
H13
H14
<新たな商品の柱の確立>
○ これまで、和装の「小千谷縮」
「小千谷紬」を中心とする生産体制に加えて、新たな柱として
洋装ブランドを確立することが出来た。
○ 平成 14 年度には、新たな洋装ブランドの売上高は、組合全体の約 1 割を占める状況になっ
ている。
<問屋卸から直販への移行>
○ 新ブランド「Free From」の発売は、
(有)オジヤシステム 10 を通じての直販のみの取扱い
とした。これまでの問屋にのみ頼っていた流通・販売体制から脱却して、直販を通じて自ら
のブランドを守ることとした。
○ 現在、小千谷プラザ内の直営店に加えて、新潟、伊豆、福岡、熊本等において直販を実施し
ている。
<新ブランドの設立>
○ 男性向けブランド「Free From」の設立を通じて得たノウハウを基に、平成 11 年には、素
材、コンセプトが共通する女性向けブランド「Free From Femme(フリーフロム・ファム)」
を設立した。
○ この新ブランドでは、洋服に加えて、関連する小物関係の商品の企画・販売に新たに取り組
む等、商品開発のバリエーションを増やす方針である。
<デザイン・アワードの獲得>
○ 平成 11 年(1999 年)
、
「Free From」は、グッドデザイン賞を受賞した。また、同年、新潟
県デザイン財団 “IDS THE BEST” 賞も受賞した。
図表 新ブランド「Free From」
(資料)グッドデザイン賞 web サイトより抜粋
4.基礎データ等
有限会社オヂヤシステムテン(小千谷織物同業協同組合)
事務局: 新潟原小千谷市
創業: 平成 9 年(有限会社設立) 昭和 24 年(組合設立)
売上: 845 百万円(平成 15 年 3 月期)
組合員: 100 名/29 組合(平成 13 年 3 月)
事業内容: 小千谷縮、小千谷紬を素材とする紳士服、婦人服、小物の製造・販売
デザイナー: 新潟県 IDS 財団 総合プロデューサー
黒川玲氏
出典:(財)国際経済交流財団の平成15年度「中小企業におけるデザインの成功事例の把
握と要因分析に係る調査研究」より。
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