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リスペクトプロジェクト 〜サッカー、スポーツを文化に

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リスペクトプロジェクト 〜サッカー、スポーツを文化に
Technical
news
Vol.33
特集①
国内大会テクニカルスタディ
特集②
リスペクトプロジェクト
〜サッカー、スポーツを文化に〜
女子の各年代 選抜・代表チームが躍進!
2009 ナショナルトレーニングキャンプ U -16
財団法人 日本サッカー協会
国内大会テクニカルスタディ
2
特集②
リスペクトプロジェクト
〜サッカー、スポーツを文化に〜
女子の各年代 選抜・代表チームが躍進!
2009 ナショナルトレーニングキャンプ U-16
51
47
56
連載 キッズドリル・第 28 回
16
連載 一語一会
17
活動報告 目指せ世界のトップ 10
18
GK プロジェクト活動報告
24
JFA アカデミー活動報告
28
連載 My Favorite Training
31
トレーニングの発展
32
JFA エリートプログラム U -13 活動報告
34
各地のユース育成の取り組み
36
公認 A 級コーチ U -12 養成講習会報告
38
マンチェスター・ユナイテッド プレミアカップ 2009 ワールドファイナル 報告
40
連載 育成の現場をたずねて…
41
連載 審判員と指導者、ともに手を取り合って…
42
女子 国内大会視察報告
44
技術委員会刊行物・販売案内
60
A MEETING PLACE FOR READERS AND JFA
63
vol.33
1 3
2 4
Technical news
特集①
①第 33回全日本少年サッカー大会・開会式
② adidas CUP 2009 第 24 回日本クラブユースサッカー選手権(U-15)大会
( 決勝戦 ヴィッセル神戸ジュニアユース vs 京都サンガ F.C. U-15 ) ⓒ J リーグフォト(株)
③ AFC U-19 女子選手権 中国 2009(決勝戦 U-19 日本女子代表 vs U-19 韓国女子代表 )
ⓒ J リーグフォト(株)
④ 2009 ナショナルトレーニングキャンプ U-16(前期 )
ⓒ AGC/JFAnews
○ 制作協力:エルグランツ ㈱
○ 印刷:製本:サンメッセ ㈱
※本誌掲載の記事・図版・写真の無断転用を禁止します。
本誌は JFA 指導者登録制度において、所定の手続きを行った JFA 公認指導者の方に無償で配布されています。
1
特集①
Technical study
Technical study
adidas CUP 2009 第 33 回日本クラブユースサッカー選手権(U -18)大会
期間 2009 年 7月 25日〜 8 月 2 日
優 勝 セレッソ大阪 U-18
場所 J ヴィレッジ(福島県)、ニッパツ三ツ沢球技場(神奈川県) 出場チーム数 24
準優 勝 FC 東京 U-18
第 3 位 京都サンガ F.C. U-18、アルビレックス新潟ユース
フェアプレー賞 該当なし
【報告者】西村昭宏(JFA 技術委員 )
1. 大会概要
参加 24チームが 4 チーム× 6 グループ
に分かれて 1 次ラウンド 3 試合を戦い、グ
ループ 1 位とグループ 2 位のうち上位 2
チームの計 8 チームによる決勝トーナメン
トで頂点が争われた。
※グループリーグがトーナメントに近い重
みがあり、戦い方が「自分たちのスタイル
を貫く」
「リスクを最小限に」
、一戦一戦多様
化し、選手にゲームを読む能力が必要とさ
れた。特にグループリーグ最終戦で、決勝
トーナメント進出が決定する激戦であった。
2. サッカーの4つの 局面から
(1)攻 撃から守備
ボールを失った瞬間から守備への切り替
えが最も重要とされる現代のサッカー。失っ
たボールへプレッシャーをかけられるかが
相手にファストブレイクをさせないポイン
トとなる。ロングボール主体で攻撃を構築
するチームはボールを失った瞬間プレスが
効かず、一度戻って守備ブロックを形成す
るチームが多かった。相手陣内までビルド
アップにこだわるチームは、ボールを失っ
ても、その場からプレッシャーに行ける場
面を意図的につくり出すチームもあった。
(2)守備から攻撃
ボールを意図的に奪った瞬間には、
プレー
ヤーがチャンスと感じてファストブレイク
を試みる動きがあり、得点の可能性が感じ
られたが、奪った瞬間にボールをキープす
るだけであれば、相手に帰陣の時間を与え
るだけであり、ファストブレイクのチャン
スを見逃すシーンも多く見られた。
(3)攻 撃
ゴールを意識したボール保持者と他のプ
レーヤーが関わって得点の可能性を増やせ
ているかが大切である。もちろん少数で少
ないパスで得点を狙うことも重要で、獲得
しなければいけないが、相手の守備が強固
であればいかにして崩すことにチャレンジ
(リスクも伴う)するかが必要である。
2
速攻と遅攻、両方に攻撃の重要性があり、
個の能力が必要である。
(4)守備
自チームのスタイルからいかにしてゴー
ルを守り、ボールを奪うことができるか。
前線から積極的にプレスをかけるチーム、
まず守備のブロックをつくってからボール
を奪いに行くチーム、それぞれチームが選
択するものであるが守備のベースの 1 つで
ある。ファーストDFと他の10人の選手の
守備意識とポジショニングが明確に理解・
実践されているチームが少なかった。そし
てペナルティーボックスでの厳しい守備が
できず(シュートブロック、マーキング)失
点がイージーなものが多かった。
上位に進出したチームには、自分たちの
スタイルを持ちながら、ピッチのどこで何
が起こっているかを判断しながらサッカー
の重要な局面の中で個と組織を表現してい
る様子がうかがえた。
3. 審判と技術の協調
大会中、審判の方々の研修の場にナショ
ナルトレセンコーチが同席し、ディスカッ
ションした。特に技術の立場からの要求や
審判の方からテクニカルに対しての質問な
ど、それぞれの意見を交換できる有意義な
時間であった。
(例)
・ GK の一発退場( PK)の場面での GKの
セービング、FW の 倒れ方、心理状況
・世界基準(海外遠征)との比較(クイック
リスタートの確保、スローインの厳しさ、
手の使い方 )
4. J FA から
大会開幕前日、代表者会議で時間をいた
だき、J FA より「リーグ戦文化について」
「FIFA コンフェデレーションズカップ TSG 」
の報告をさせていただいた。全国のトップ
クラブの監督、責任者と交流できることは
大切で重要であり、今後もJFA の提供でき
ることを模索しながら、この大会をサポー
トしていくことが望ましい。
5. アルビレックス新潟、
コンサドーレ札幌
積雪地方でトレーニングに影響があると
思われたが、質の高いプレーレベルで地域
差を感じさせなかったことに触れなくては
いけない。リスクを冒してもしっかりとビ
ルドアップを意識したプレースタイルに選
手の伸びしろを感じた。
6. チーム・個
筆者は昨年も本大会 TSG の担当であっ
た。単純に比較はできないが、選手の個の
レベルに昨年以上のクオリティーを感じな
かった。なぜかを分析し、JFA として指導
者講習会やトレセン活動などにフィード
バックする必要を痛感した。
7. まとめ
全国大会であり、優勝を目指すのは当然
のことである。その中でいかにして選手自
身がたくましく成長できるかに指導者はト
ライし、大会関係者はサポートしてくれて
いる。
クラブユース大会のクオリティーを上げ
る努力をかかわる全員が共有し、チャレン
ジをし続けることが日本の育成年代に新し
い可能性を発見させると考える。そのよう
な大会に成長していきたいものである。
最後に大会関係者、福島県
( Jヴィレッジ)
にこの場を借りて心から感謝申し上げます。
ゴールキーパー報告
【報告者】慶越 雄二(ナショナルトレセンコーチ)
大会を通じてアグレッシブなプレーが多
く、ゴールを守るだけのGKではなく、GK
から攻撃をしかける意図のあるシーンが見
られた。そんな中でサッカー選手の部分と
特集① Technical
テ
ク
ニ
カ
ル
study
ス
タ
デ
ィ
GKの部分、両方を兼ね備えたGKでなくて
なかった。判断を誤って相手を引っかけて
中でも素早く動き出した所に質の高いパス
はならないことを感じさせられた。各状況
しまい退場となる試合が予選の中で 3 試合
をして全体が同じ絵で攻撃をしかけ、チャ
下において以下のようなプレーが見られた。
あり、ゲーム運びと勝敗に大きな影響を与
ンスを生み出すシーンが見られた。チーム
(1)シュートストップ
えてしまったのは残念な結果であった。
の意図した狙いで周りの選手が選択肢を増
単純なミスでの失点、またはボールの変 (4)パス&サポート
やす動きを繰り返し行うことで、自分たち
化に伴う技術的な部分での失点はほとんど
11人目のフィールドプレーヤーとして、 のボールで主導権を持って攻撃をしかけら
見られなかった。シュートに対してすばら
攻撃に関わる部分は多く見られたが、ゴー
れるのではなかろうか。
しい対応が多く、
「つかむのか・弾くかの判
ル前でプレーをしていることを忘れてし (6)セットプレー
断」と、それに伴う技術の発揮もしっかり
まっているシーンが目に付いた。安易に足
特にCKの場面で相手攻撃選手がボール
なされていた。若干、構えやポジショニン
の裏でコントロールし、相手にプレッシャー
を蹴る前に明らかにGKへコンタクトして
グの準備が遅いシーンが見られたが、攻撃
をかけられるシーンや足元にコントロールし
きてプレーをさせないように GKのプレー
者がシュートチャンスを逃していたため失
てしまうためにスムーズに展開できず、攻
を妨害するシーンや、逆にそれをGKが手
点に至らない状況であった。特にミドル
撃するチャンスを逃してしまう等、技術が
で押し返すシーンが何度か目に付いた。
シュートが少なかった点はGKとしては守り
状況に応じて発揮できていない選手が多
やすかったのではなかろうか。GKのファイ
かった。またパスして突っ立っている選手
コーチング
ンセーブで切り抜けていたが、DFと連携し
が多く、詰まったときや何かが起こったと
単純に声は出ているが戦術を踏まえた上
て守り簡単にシュートをうたせないように
きのためのサポートのポジションをまめに
でしっかり伝えられているGKは少なかっ
する、もしくは角度のない方向に追い込み
変えるまでには至っていなかった。GKを使っ
た。良い意味で声を張り上げてチーム全体
守れれば組織的に強固な守備につながって
て展開するシーンで、GK自身がパスを相手
を鼓舞するシーンが出てきてほしい。
いくのではなかろうか。
に渡してしまい失点につながるシーンや、
(2)クロス
味方が不用意に浮かしてパスするシーンや、
最後 に
単純に上がってくるボールに対してや、
GKへのパスが弱く相手に詰められ、ギリギ
全体的に各状況下でアグレッシブなプ
相手攻撃者が 1人だけの状況のときは非常
リの選択を余儀なくされるシーン、GKが
レーで良いシーンが多く見られたが、現代
にアグレッシブで広い範囲を守れていたが、 ボールの処理に時間がかかり相手に詰めら
サッカーの中ではGKに求められることが
滞空時間のあるボールに対して落下地点に
れタッチラインに逃れざるを得ないシーン
多種多様になってきているためにさまざま
早く入ってしまい、タイミング良くパワー
と、自分たちでピンチを招きゲームの流れ
な状況でいろいろなことができなくてはい
を持ってアプローチできなかったり、攻撃
を悪くするシーンが多々見受けられた。
けない。 GK自身「 堅実なゴールキーピン
者が 1人の状況のときに、一番危ないポジ
(5)ディストリビューション
グ」は忘れてはいけないことである。その
ションを空けすぎていて、そこへ早いボー
予選の最初の方では攻撃するまでに時間
ためにも一つ一つのプレーの質を上げてい
ルやキッカーの意図しない方向にボールが
がかかりすぎてしまい、意図が感じられない
かなくてはならない。どの局面においても
飛んでしまったときに慌てて対応するシー
時間の使い方をしてボレー、ハーフボレー
ちょっとした予測や準備を早めることで解
ンが見られた。またアグレッシブに狙って
キックや、地面に落として転がしてからロ
決でき、質が上がっていく。さらにGKの
プレーするあまり、蹴られたと同時に見切
ングパスすることが多く、味方につながら
みならずフィールドプレーヤー( FP)
も含め
り発車して落下地点に良い判断でアプロー
ずにボールを失っている場面が多く見受け
た守備から見てみると、ゲームの本質の部
チできず慌てるシーンもまだ目に付いた。
られた。また急いで攻撃をしかけようとし
分である「ゴールを守る」ため、
「チームが
(3)ブレイクアウェイ
て状況の良くない所にキックしてしまった
勝つ 」ためにゲームの中で何をしなくては
自分とボールとの関係で単純にGK方向
り、スローでパスした方が効果的に攻撃を
ならないのかをGK、FPの双方向で、もっ
に有利なボールに関しては、判断良く飛び
しかけられるのにキックでパスして失った
と追求しなくてはならないのではなかろう
出して処理し、ピンチを防ぎ非常にアグレッ
り、味方がコントロールしづらいパスで処
か。GKの活躍で勝利を収めることはすば
シブである半面、GKとDF、攻撃者の中間
理できずに相手に奪われたりと、状況に合
らしいことであるが、ゲームの勝敗がGK
に出たボールや、DFまたは相手攻撃者側
わせてキックとスローの使い分けができて
のプレーの良しあしにかかっているような
に優位なボールが出たときの判断があいま
いないシーンが多く見られた。そういった
印象があった。
いで、一瞬 DFと見合ったり交錯しそうに
なるシーンが多かった。また GK自身が視
野(常に視界にある)の狭い中での状況把握
になっており、逆サイドから斜めに入ってく
る場合や、中盤から飛び出してくる選手に
対しての把握がされていない状況で、慌て
て飛び出したり、遅れて飛び出して相手攻
撃者を引っかけてファウルを犯してしまった
シーンが見られた。またブレイクアウェイの
状況下に至るまでに視野に入っている相手
攻撃者とDFは観ているが的確な指示を出
してDFに警戒心を強めさせ、組織的に守
るまでには至っていない。同様に逆サイド
や中盤から飛び出してくる攻撃者に対して
©Jリーグフォト㈱
は全くDFと連携して守れている状況では
3
平成 21年度全国高等学校総合体育大会 サッカー競技大会
期間 2009 年 8 月 2 日〜 8 日
優 勝 前橋育英高校
場所 奈良県立橿原公苑陸上競技場ほか(奈良県)
準優 勝 米子北高校
出場チーム数 55
第 3 位 大津高校、佐賀東高校
【報告者】山崎茂 雄(ナショナルトレセンコーチ)
1. はじめに
に寄せてはいるが相手の前で止まり、奪え
るチャンスを逸してしまうプレーが惜しま
れる。ボールに対してアクションを起こし
た後、コントロールされた状況を観て、さ
らに奪いに行ってほしかった。そしてセカ
ンド DF のコーチングなどの関わりによっ
て主導権を握った守備をもっと増やすこと
ができると感じた。
日常のトレーニングの中で、選手自身が
状況を観て判断し、チャレンジ&カバーを
繰り返し実践していくことで質を向上させ
ていってもらいたい。
決勝に駒を進めた米子北は、自陣深くで
はあるがコンパクトな守備組織を構築し、
早いプレスから数的優位な状況でボールを
奪っていた。全員がボール中心の守備をす
る意図が感じられたチームであった。
2. 成果
攻撃面では、大会全般を通じてゴールを
また今大会では、FWと競り合いながら
目指す姿勢が随所にあった。シンプルな動
のヘディングに課題が見られた。相手と競
き出しから、守備組織が整う前に時間をか
り合う中でしっかりとボールを跳ね返す力、
けずに突破する狙いがあり、多くのチーム
状況を観てパスにできる技術を身につけた
が切り替えを速くして攻撃していた。
い。ロングボールに対しての MF の関わり
ペナルティーエリア付近の守備では、
ボー
や DF 同士のカバーリングなど、周囲の選
ル保持者に粘り強く対応し、GKと協同し
手のセカンドボール獲得への準備を早くす
て守るプレーが目立った。不利な状況下に
ることも必要である。
あっても、決してあきらめることなく体を (2)切り替え
張ったプレーは見応えがあった。
多くのチームが守備からの切り替えを速
また、連戦の中でも、積極的なプレーが
くし、攻撃をしかける狙いがあった。しか
数多く見られた。特に準々決勝までは、開
しながら、ボールに関わる人数が少なく単
始時間が 10 : 00、12 : 00、14: 00 の試合と
発に終わり、結果的にボールを失ってしま
なったが、それぞれのチームがウォーミング
うケースが多くなってしまった。ゲームの
アップから士気を高め、ゲームに臨んでいた。 状況により、常に多くの人数をかけるのは
難しいことではあるが、ここぞというとき
3. 課題と展望
のチャンスを感じる力を磨き、より多くの
(1)意図をもって奪いに行く・奪う
選手が強いアクションを起こしてゴールを
守備では、多くのチームがファーストDF
目指してほしい。
のアプローチが甘く、両サイドに起点をつ
一方で、攻撃から守備への切り替えが遅
くられ、中盤で相手を振り向かせてしまっ
いために速攻を許すシーンが多く見受けら
た。これは、攻撃の分業化により厚みが保
れた。ボールの失い方や攻撃時のバランス
てず、
大きなスペースを相手に与えてしまっ
など原因はいくつかあるが、個として奪わ
たためと考えられる。また、3 ラインが間
れたら奪い返す、足を止めずに戻り、組織
延びし、寄せが甘くなり適正なカバーリン
をつくる等、連続したプレーが自立期のこ
グポジションがとれなかったことも原因と
の年代では当たり前のこととして要求され
して挙げられる。
る。ゲームの流れの中で状況を見極め、十
最終DFが、相手の 2 列目からの飛び出
分な質と運動量を発揮できる選手になって
しに対応できずに崩されてしまう場面も見
ほしい。
られた。ボールの移動中に全員が正しいポ (3)攻撃・組み立て
ジションをとり、視野を広げて予測するこ
( 組織的にゴールを目指す)
とができれば、狙いを持った守備となるで
以下は、準々決勝以降のポゼッション
あろう。
(FIFA 規定:4 本以上のパス成功でポゼッ
1 対 1や 2 対 2 の局面を見ると、ボール
ションが成立)のデータである。
平成 21年度全国高等学校総合体育大会
( 2009 近畿まほろば総体)は、8 月 2 日よ
り 8日まで奈良県橿原市を中心に 8 会場で
行われた。大会は前橋育英高校が初優勝、
米子北高校の準優勝という結果で幕を閉じ
た。前橋育英はボールを保持し、攻守にわ
たって全員が関わるサッカーを展開し、米
子北はボールを中心とした堅守から切り替
えの速い攻撃が特徴のチームであった。
奈良特有の30度を超す気温と高い湿度の
中で、選手たちは力を出し切って勝利に向
かってプレーした。ピッチの内外を問わず、
元気ですがすがしい彼らの戦いぶりを振り
返ってみる。
4
準々決勝におけるポゼッション(左が勝利チーム)
35分×2
A( 2 ) 2 - 0 B( 5 )
C( 5 ) 3 - 2 D(27)
E( 8 ) 2 - 0 F(7)
G(16) 2 - 1
H(14)
準決勝におけるポゼッション(左が勝利チーム) 35分×2
A(26) 1- 0
C( 1 ) 2 -1
B( 8 )
D(15)
決勝におけるポゼッション(左が勝利チーム)
35分×2
A(44) 2- 0
B( 4 )
1 回戦からのゲームでは、数的優位をつ
くり出せず、相手の寄せが早くなった時点
でボールを失うことが多かった。
まずはゴー
ルに向かってプレーすること、そしてボー
ルの移動中に観るものを増やし、相手の
ギャップをとる的確なポジショニングや、
ボールを保持したときの判断の質を上げる
ことを日常から意識して取り組んでほしい。
また FKでは、大会全般を通じてクイッ
クリスタートを用いるチームは少なく、多
くが時間をかけてボールをセットし開始し
ていた。
今大会では、前橋育英、佐賀東、一条、
久御山の各チームは、攻撃の厚みをつくり、
相手陣内でボールを支配し、駆け引きをし
ながらゴールを目指す意図が見られた。ま
たこれらのチームは、GKが関わる組み立
ての機会が多かったことも特徴として挙げ
られる。GKを起点として数的優位をつく
り出し、主導権を握ってゴールを目指す攻
撃の姿勢は、今後すべてのチームに追求し
ていってもらいたい。
(4)崩しとフィニッシュ
上記のデータを見ても、現状ではボール
支配率の高さが直接勝利に結びつくとは言
い難い。30度を超える暑熱環境下であるこ
とや連戦を考えたときに、守備から攻撃の
切り替えを速くして相手の守備が整わない
うちに得点を挙げるといった試合運びが合
理的であることは否定できない。
©Jリーグフォト㈱
特集① Technical
テ
ク
ニ
カ
ル
study
ス
タ
デ
ィ
しかしながら、今大会での「相手にわた
試合中にうまく給水できることも選手に
はなく、技術の高さがうかがえた。攻撃者
る最後のパスの軌跡の始点と終点(シュー
とって必要な技術である。また、給水タイ
がシュートチャンスを逃していたため失点
ト・ドリブルも含む)
」のデータを見ると、
ムをとった直後にゲームの流れが一変して
に至らなかったが、構えやポジショニング
優勝した前橋育英をはじめポゼッションの
高いチームは、始点の多くが相手陣内にあ
るのが分かる。今後は、ペナルティーエリ
ア付近の守備組織を崩すために、
個のシュー
ト、ラストパス、オフでの関わりなどの質
をさらに高めて、得点に結びつけていくこ
とが課題であろう。
速攻と組み立ての両方を使い分けられる
チーム・個がより多く出てくることを心か
ら期待したい。
(5)GKの関わり
GKがボールを保持したときに全員が
ハーフライン付近に集結し、パントキック
を行っている場面が多く見られた。フィー
ルドプレーヤーは、ボールを引き出す準備
をもっと早くしてほしい。サポートの整っ
た状況下で、ゴールを目指す選択をしてい
く機会を増やすことも、育成という観点か
らも重要なのではないだろうか。
味方 DFの背後のスペースマーキングに
ついては意識が高く、ブレイクアウェイの
質も上がってきていると感じた。GKには、
今後さらにボール保持者の状況を的確に判
断し、ポジショニングする能力が望まれる。
4. 審判と技術の協調
大会 3日目に審判役員とナショナルトレ
センコーチでのディスカッションの場を設
定した。
「自立したたくましい選手の育成を
目指して」をテーマに約 1 時間にわたって
行われた。
技術からは、
手の不正使用や空中でのボー
ルに対して体を当てて妨害するプレーにつ
いて、そしてゲームの流れを読んで選手に
プレーの機会を確保すること等の要望が出
された。激しくも正当なプレー、小さくて
もファウルをより正確に見てほしい等も挙
げられた。さらに、選手は笛が鳴るまでプ
レーを続けることや、オーバーコーチング
を慎むなど、ベンチワークについての確認
がなされた。
5. 指導者講習会
大会 3日目に、技術委員と奈良県サッカー
協会の方々を対象に指導者講習会を実施し
た。西村昭宏ナショナルトレセンコーチか
ら FIFA コンフェデレーションズカップの
報告があり、山崎茂雄ナショナルトレセン
コーチからは大会 3日目までの振り返りを
含めたレクチャーが行われた。
また、給水タイムのあり方について、
U-18 の試合で給水の機会の確保が、自立
したたくましい選手の育成にプラスになっ
ている仕組みなのか等の意見が出された。
の準備が遅いシーンが見られた。その中で、
ドリブルで持ち込まれるときにボールにつ
られる傾向があり、逆サイドが空いたり、
シュートの角度がない方向に持ち込まれた
6. まとめ
真夏の暑熱環境下の連戦で勝ち進む方法
ときに不用意に前にポジションをとりすぎ
を、それぞれのチームが導き出して戦って
て、切り返しをされたときにポジション修
いた。理想と現実の狭間で悩んだ指導者の
正ができず、カーブで頭越しを狙われ対応
方々は多くいたことと思うし、選手たちに
できずに失点してしまうシーンが多々見ら
も「おつかれさま」と労いの言葉をかけて
れ、ポジショニングに問題を抱えるシーン
あげたい。
が多かった。
選手たちには、
攻守にわたって意図を持っ (2)クロス
たプレーを増やしてほしい。例えば攻撃で
滞空時間の長いボールや単純に上がって
は、常に前を向いて駆け引きをしながらプ
くるボールに対しては非常にアグレッシブ
レーすることや、相手のウイークポイント
であった。その中でも、相手攻撃者が 1 人
はどこなのか、いつ、どこへどのように動
だけの状況のときは非常にアグレッシブで
き出したら良いのかなど、観るべきものを
広い範囲を守れていたが、あまりにも同サ
観て判断する習慣を身につけることである。
イドにポジションをとりすぎて後方に上
言い換えれば、基本(テクニック、判断、
がったボールに対してチャレンジするもギ
関わり、フィットネス )の質を上げることに
リギリで届かないシーンが目に付いた。ま
つながる。また、
攻守が切り替わった場面で、 た、観て伝えることができていないために
前方の選手を追い越し飛び出す判断力と運
相手選手がフリーになっていたり、DFがあ
動量などは、国際試合で通用する選手を考
いまいなマークをとっていたりと連携面に
えたときに必要不可欠な能力であると思う。
課題が残った。コンタクトプレーを余儀な
潜在能力が高く可能性を感じる選手も多
くされたときの技術の発揮に課題が残った。
いので、今後この自立期に積極的に取り組
正確な技術が発揮されないがためにピンチ
んでたくましい選手に育っていってもらい
が続き失点につながるシーンがあった。
たい。
(3)ブレイクアウェイ
「勝つことと育てることは矛盾すると同
ブレイクアウェイの状況下に至るまでの
時に矛盾しない。この矛盾の間でコーチは
自身の準備に関しては良く、高いポジショ
生活している」
(イビチャ・オシム)
。この
ンで背後を狙っていたが、高いポジショニ
言葉の意味をかみしめてわれわれ指導者は
ングをとりすぎて頭越しを狙われてしまい
選手とともに成長していきたいものである。
失点するシーンがあり、ボール保持者の状
最後に全国高体連技術委員の方々、奈良
況による予測ができていない選手が見受け
県サッカー協会技術委員の方々には、運営
られた。自分とボールとの関係で単純に
面や JFA の活動に積極的にかかわっていた
GK方向に有利なボールに関しては、判断
だきましたことをこの場を借りて心からお
良く飛び出して処理し、ピンチを防ぎ非常
礼申し上げます。
にアグレッシブであったが、自分が処理す
る「キーパー」の声がなかったり、タイミン
グ良く出せていない場面が多かった。また
フィールドプレーヤーが「 キーパー」と発
ゴールキーパー報告
するために DFと GKが一瞬見合いになり、
【報告者】慶越 雄二(ナショナルトレセンコーチ)
誰が処理するのかあいまいになってピンチ
平成 21年度全国高等学校総合体育大会
を招く場面が見られた。
(2009近畿まほろば総体)
・サッカー競技は、 (4)パス&サポート
8月1日に奈良県社会福祉総合センターで
サッカー選手としての技術的な面でのミ
開会式が行われ、翌 2日からトーナメント方
スで失点してしまうようなことはなかった
式で熱戦の火ぶたが切られた。炎天下の中
が、準備不足で GKを使って展開するまで
であったが大会を通じて積極的でアグレッ
には至っておらず、GKへパスしても前線
シブなプレーが多く、ゲームの勝敗に大き
へのロングパスでボールを失うシーンが多
な影響を与える良いプレーが目に付いた。
かった。中には良い準備からボールを引き
(1)シュートストップ
出す選手も見られたが、GKを経由してス
技術的な面では安定した力を発揮する
ムーズな攻撃参加に至っていなかった。GK
シーンが多く、
「つかむのか、弾くのか」と
だけではなく周りの選手の関わりも不足し
いった技術、判断面で単純なミスでの失点
ていた。
しまうのもサッカーの競技性から見ると不
自然に映ってしまった。
5
(5)ディストリビューション
(6)セットプレー
が見られ、GKの活躍で勝利するチームも
GKから味方にスローやキックでのパスで
① FK
多かった。現代サッカーの中では GKに求
つなぎ攻撃をしかけていたが、全体的には
F K の場面でラインコントロールができ
められることが多種多様になっている。局
GKがキャッチしてから、またはゴールキック、
FKといった場面でいたずらに時間を使い、
ロングキックする場面が多かった。周りの選
手が 素早くポジションをとって数的優位で
自分たちで組み立てて主導権を持っての攻
撃や、相手の隙を突いての攻撃には至って
いなかった。またキックでのパスに意図を
感じられない場面が多く、味方 F W と相手
DFとの関係で相手 DFは背が高くヘディン
グが強い選手に対して、味方 F W は背が低
いといった所に、時間をかけて滞空時間の
長いパスを選択したり、数的に相手 DFが
有利な状況でもDF 背後にロングパスを選択
してボールを失っている場面が多かった。
ずGKが処理しづらい状況をつくってしまっ
たり、スペースマークに誰も置かず走り込
まれて失点してしまったりと、オーガナイ
ズに問題を抱えている場面や、DF に的確
な指示が出せていないためマークが甘くフ
リーでシュートされていた。
② PK
トーナメント方式のため延長戦は決勝戦
のみで、後は即 PK方式で勝ち上がりを決
めていた。PK方式で GKが先に動きすぎて
逆を取られたり、PKを阻止しても先にゴー
ルラインを越えてしまったためにやり直し
となって決められたりと、ルール理解の甘
さや、先に動く習慣になっているGKが見
受けられた。
面では良いプレーでピンチを防いでいても、
ピンチに至った原因は何なのかをもっと考
えなければならない。チーム全体として守
備をどのようにしていくのか。その中で
GKにはどのようなことを求めていくのか。
例えば、攻撃から守備になったときに、簡
単にDF 背後にパスを通され GKと 1 対 1
になって失点をしてしまう。また単純なロ
ングボール 1 本でピンチになる等。
攻撃面でも GKからどのように攻撃を組
み立ててしかけていくのか。バックパスが
GKへ入ったときにどうするのか、GKが
キャッチした瞬間にどうするのか等、GKを
使って具体的にどのように攻撃していくの
かが必要になってくる。
「堅実なゴールキー
ピング 」を行うためにも一つ一つのプレー
の質を上げていかなくてはならない。どの
局面にも見られるがちょっとした予測や準
備を早めに行い、DFと連携して守ることで
解決でき、質が上がっていくのではなかろ
うか。また、本質の部分である「ゴールを
奪う」
「ゴールを守る」
「チームが勝つ」た
めにゲームの中で原理原則をしっかり押さ
えた上で、チームとして何をしなくてはな
らないのかをもっと追求しなくてはならな
い。
コーチング
単純に指示の声は出せているが戦術を踏
まえた上で具体的な指示を出している GK
は少なかった。中には事細かに指示する
GKも見られ組織的に守備を形成していた
が、自身の準備ができておらずロングボー
ル 1 本でピンチを招いてしまっていた。
最後 に
©Jリーグフォト㈱
全体的に局面ではアグレッシブなプレー
adidas CUP 2009 第 24 回 日本クラブユースサッカー選手権(U -15)大会
期間 2009 年 8 月15 日〜 23 日
優 勝 ヴィッセル神戸ジュニアユース
場所 J ヴィレッジ(福島県)
準優 勝 京都サンガ F.C. U-15
出場チーム数 32
第 3 位 名古屋グランパス U15、ACN ジュビロ沼津
フェアプレー賞 ヴィッセル神戸ジュニアユース
【報告者】菊原志 郎(U-15 日本代表コーチ)
1. 大会概要
中学生年代のクラブチーム日本一を競い
合う全国大会。全国 9 地域の代表 32チー
ムを4 チーム×8グループに分けて 1次ラウ
ンドを行い、各グループ上位 2 チームによ
る決勝トーナメントを行った。試合時間は
1次ラウンド 70 分、決勝戦は80分( 引き分
けの場合は 20分の延長戦を行い、その後
PK 方式により勝敗を決める)
。休息日を予
選終了後と準決勝の前日に取り入れている。
2. 大会の様子
年々全体のレベルが上がり、
拮抗したゲー
ムが多くなっている。 特にミドルクラブ(街
クラブ )
が善戦し、決勝トーナメントに岩田
FC(大阪)
、富山北 FC
(富山)
、前橋 FC(群
馬)の 3 チームが進出した。
ベスト 4 には、名古屋グランパス U15、
ヴィッセル神戸ジュニアユース、京都サンガ
6
F.C. U-15、ACN ジュビロ沼津といった守
備意識の高いチームが残り、攻守のバラン
スが良かったヴィッセル神戸が優勝した。
しかし全体のレベルが上がった半面、タ
レントの減少と攻撃力の低下(質と集中力)
は大きな問題である。基本技術と個性
(一芸)
の重要性を指導者も選手も理解し、基本技
術と突出した個性を併せ持った選手が増え
てくる環境を考えていかなくてはならない。
3. 大会分析
〜課題と今後の発展〜
観察力(状況把握)
指導者養成でも観ることの重要性と習慣
化を発信していることもあって、以前より
もオフの準備で観ることを意識している選
手は増えてきている。それによりワンタッ
チプレーやファーストタッチでの変化がう
まく使えるようになってきている。守備で
も予測の早い選手が増えてきている。
観る部分では、味方を観る割合が高く、
相手やスペースをもっと観る必要がある。
そうしないと相手との駆け引きができず、
相手の嫌なところも理解できない。常に周
りを観ることを習慣化する。もっと広く観
られるように、そしてもっとぎりぎりまで
観られるようになってほしい。そしてそれ
を厳しい局面でもできるような選手にして
いかなければならない。
判断
ボールを受ける前にどの程度周りが観え
ているかということでは、余裕があるとき
には観えているが、プレッシャーの厳しい
中ではボールしか観えていないことが多い。
ボールを持ってからの視野も狭く、判断力
を上げるにはもっと視野を広げる必要があ
る。そのためには背筋をすっと伸ばし目線
を上げる姿勢や、常に周りを観る習慣が備
特集① Technical
テ
ク
ニ
カ
ル
study
ス
タ
デ
ィ
わっていないといけない。
で、アプローチの質をもっと追求していき
残念だった。また、決勝トーナメントに入っ
また、選択肢も 1 つしかないため、その
たい。まだボール保持者の 1〜 2 m 手前で
てからは疲労とリスク管理のためか全体的
プレーができないときに次のプレーに移る
止まり、そこから間合いを詰められない選
手が多い。隙があればボールを奪え(足を
出す or 体を入れるなど)
、それがだめでも、
セカンド DFがインターセプトを狙いやすい
距離まで寄せることができるようにしてい
きたい。そのためには相手の動きに合わせ
た細かいステップワーク(フットワーク)を
身につける必要がある。
●セカンド DF
良いポジションから良い判断で対応する
選手も増えているし、インターセプトも増
えている。マークの原則やチャレンジの優
先順位など個人戦術がしっかりできている
選手とそうでない選手の差が大きい。また
ボールへのプレッシャーのかかり具合に
よって、ポジショニングと狙いが変化する
ことを理解してプレーさせたい。裏にボー
ルが出せるのにインターセプトを狙って裏
を取られるという場面が多かった。
まだまだファーストDF のプレッシャーは
甘いが、インターセプトの意識も高まり、
インターセプトでボールを奪う回数も増え
てきている。特にファーストDFがプレッ
シャーをしっかりかけてパスコースを限定
できたときには、高い確率でボールが奪え
ていた。
また 1 対 1 でも、常に受け身ではなく隙
があれば足を出したり、体を入れたりして
ボールを奪えるようにしたい。そのために
はバランスを崩さずに間合いを詰めていく
ステップワークや、バランスを崩したり抜
かれたときのリカバリーの早さも身につけ
たい。
運動量
暑い中、深い芝生、連戦といった厳しい
ゲーム環境であったが、選手は攻守の切り
替えを速くして積極的にプレーしていた(特
に攻撃から守備への切り替えはどのチーム
も速くなっている)
。ボールに関わる人数も
以前より増えている。ただボールから遠い
選手が少し休んでいる場面が多かったのは
に運動量は減ってしまった(攻撃の積極性
のが遅いということが多い。最低でも 2 つ
以上の選択肢を持ち、良い判断で選択でき
るようにしたい。例えば、ドリブル or ワン
ツー、スルーパス
(裏)or くさびのパスなど、
相手 DFが対応に困るような複数の選択肢
が持てると、相手の狙いの逆を取れば優位
にプレーできる。パスの受け手も裏
(スペー
ス)or 足元どちらでもボールが受けられる
準備を常にできるようにしたい。
技術(パス&コントロール)
パス&コントロールのトレーニングが日
常的に行われているためか、余裕のある中
での技術は向上している。特にインサイド
キック、インフロントキックやインサイドで
のコントロールはある程度うまくなってき
ている。
だが、実践的な技術( 動きながら、また
は相手がいる中でのコントロールやキック)
は、まだまだ精度が低く、キックの種類も
少ない。プレッシャーが少しでもかかると
ミスが多発してしまうゲームもあった。状
況に応じての確率の高いキックを使い分け、
正確にプレーできるようにしたい。また、
ヘディングや浮き球、苦手な足の技術もこ
の年代までにはもっと高めておく必要があ
る。
突破の技術
ポゼッションはしているが、DFを崩すま
では至っていないというのが現状である。
アタッキングサードで相手 DFを突破する技
術では、ドリブルや(アバウトな)裏へのパ
スが多く、守備の甘さでシュートチャンス
ができている場面が多かった。
崩しの技術としては、①ワンツー、② DF
の対応できないスルーパス、③シュートフェ
イント、④ 3人目の動き等が今大会では少
なかった。
現代サッカーでは、守備はますますコン
パクトになり、DFを崩すことが難しくなる
ので、突破のバリエーションを増やすこと
や、プレーの質を上げること、そして緩急
をうまく使うことが必要になってくるだろ
う。各チームにスモールサイドゲームを日
常的に行っているか聞いてみたが、行って
いないチームが割合として多かった。もっ
とスモールサイドゲームを取り入れたら、
攻撃面では工夫や質、駆け引きが求められ、
向上するのではないかと思う。チームでは、
敗れはしたがコンサドーレ札幌ユース U-15
が準々決勝の ACNジュビロ沼津戦でバリ
エーション豊かなすばらしい崩しを見せた。
ボールを奪う技術
●ファーストDF
アプローチの意識は高まってきているの
と流動性は減少)
。選手の能力を向上させ
るためにも、勝負が懸かった中で攻守に積
極的なゲームを望みたい。チーム別では、
ヴィッセル神戸、コンサドーレ札幌、アビス
パ福岡 U-15の運動量が多かった。
コミュニケーション
集団スポーツであるサッカーでは、グルー
プとしてうまくプレーするためにコミュニ
ケーションは不可欠なはずであるが、うま
くコミュニケーションがとれないままゲー
ムをしている選手が多かった。
パスを受ける選手がどこでボールを受け
たいのか分からないとか、ファーストDF
にプレッシャーをかけてほしいのか、遅ら
せてほしいのか分からないなど、意志の疎
通がとれずに困っているが改善できない、
そんな残念なシーンが数多く見られた。
コミュニケーションをとることで、常に
仲間との意思を理解しながら(イメージの
共有)プレーできるようにし、ピッチでの
問題を選手たちで解決できるようになって
ほしい。
ベンチワーク
「行くな!」
「 裏に蹴れ!」といった選手の
判断を奪ってしまうサイドコーチングがま
だあり、選手が自分で考えてプレーする機
会を奪ってしまっている。ゲームに勝つた
めに指導者がリスクを排除し、選手を動か
すのは簡単だが、選手には選手の将来を考
えたコーチングが必要であり、選手が成長
すればクラブが 潤うというように考えたい。
指導者の「結果を出さなくてはいけない」
というプレッシャーが、選手が伸び伸びプ
レーできない原因の一つになってはいない
だろうか。
4. 審判と技術の協調
大会 2日目の夜に、レフェリーミーティン
グに参加させていただき、意見を交換した。
担当審判からの報告とレフェリーインスト
©Jリーグフォト㈱
7
ラクターを交えた、非常に活発で細部にわ
ても前向きに考えてくれ、3日目以降のレ
たる確認や共有を図るミーティングで、頭
フェリングはプレー時間が増え、タフなプ
の下がる思いで参加させていただいた。
レーを促し、教育的に選手と積極的にコミュ
われわれ技術サイドからの希望としては、
選手が世界基準でプレーできるようになる
ために、以下の 5 点の取り組みに理解をお
願いした。
① プレー時間の確保(できるだけ流れを止
めない)
② 競り合いですぐに笛を吹かない(タフに
なるために)
③クイックリスタートの保証( プレー時間
を長くするために)
④教育的な配慮( 選手との積極的なコミュ
ニケーション)
⑤慎重な判定(危険か?退場か?シミュレー
ションか?)
レフェリーの方たちは、技術の意向をと
ニケーションをとりながら、笛の数もカー
ドの数も減り、良い方向に変化した。この
ようにプレーが途切れないため、選手はプ
レーに集中でき、緊張感のある試合になっ
ていった。今後も審判と技術がお互いに意
見を交換し、選手の成長を第一に考えて、
互いにレベルアップしていければよいので
はないか。
ただ残念なのは、レフェリーが前向きに
努力しているにもかかわらず、いくつかの
チームベンチからレフェリーに対して必要
以上の文句や試合後の抗議がいくつかあっ
たこと。この部分に対しては、クラブ連盟
から決勝トーナメント前に各チームに通達
してもらわねばならなかった。
準決勝
A 0-2 B
パス&サポート
フィールドプレー
サイドボレー
(ハーフボレー)
転がしてキック
スローイング
ゴールキック
フリーキック
長い
短い
長い
短い
オーバー
アンダー
長い
短い
長い
短い
トータル
(プレー成功数&率)
準決勝
C 0-5 D
パス&サポート
フィールドプレー
サイドボレー
(ハーフボレー)
転がしてキック
スローイング
ゴールキック
フリーキック
長い
短い
オーバー
アンダー
長い
短い
長い
短い
決勝
A 3 -1 B
サイドボレー
(ハーフボレー)
転がしてキック
スローイング
ゴールキック
フリーキック
トータル
(プレー成功数&率)
8
1
2
長い
短い
オーバー
アンダー
長い
短い
長い
短い
成功率(%)
87.5
0
100
0
0
100
75
44
62
成功
1
2
1
5
3
1
25
16
100
60
成功
C
失敗
成功率(%)
1
2
4
0
33
0
1
5
6
100
100
0
40
1
3
18
100
40
1
1
9
A
失敗
1
成功率(%)
0
成功
1
2
100
0
1
1
2
4
4
1
12
1
1
5
1
8
B
失敗
1
成功率(%)
0
6
1
100
0
0
3
100
40
2
100
0
13
27
1
4
3
4
5
成功
長い
短い
A
失敗
1
1
3
長い
短い
トータル
(プレー成功数&率)
パス&サポート
フィールドプレー
成功
7
1
5
成功
2
5
1
1
100
100
16
0
0
2
10
44
4
D
失敗
1
成功率(%)
100
0
4
20
9
1
1
16
B
失敗
100
25
0
50
100
36
2
成功率(%)
100
0
4
100
0
1
0
17
2
5
1
32
10
0
0
0
11
ゴールキーパー報告
【報告者】大橋昭好(U-15日本代表 GKコーチ)
、
望月数馬(ナショナルトレセンコーチ)
1. 今大会に参加した GK
170cm以下 171cm∼175cm 176cm∼180cm 181cm以上
32 人
27人
19人
9人
体の大きな選手も、ステップワークなど動きは悪くない。
2. GK のプレー
■シュートストップ
ペナルティーエリア外からのシュートに
対しては、シュートストップに必要な戦術、
技術は高く、そこからの失点はほとんど見
られなかった。どのチームの GKも日ごろ
からトレーニングされている。キャッチン
グの技術が向上し、1 回でつかむことがで
きるGKが増えている。至近距離のシュート
に対しても低く構え、ボールに対して素早
い反応でシュートをストップする場面も多く
見られた。
■ ブレイクアウェイ
DF 背後へのパス、ファーストタッチの瞬
間にフロントダイビングでボールを奪う場
面や、1 対 1 の状況下でも低く構え、簡単
に倒れることなく対応している場面も多く
見られた。
ゲームの中では状況に応じたスタート
ポジションをとることができていた。こ
れは、日ごろからディフェンスラインのコ
ントロールと、それに対するGKへの指導
がされているということではないだろう
か。
■クロス
ボールウォッチャーになり、守備のオー
ガナイズができていない。いつ、どこを、
どのタイミングで観るのか、いつ、誰に、
何を伝えるのかができていない。当然 GK
としての予測もなく、守備範囲が狭い。ク
ロスボールをキャッチング、パンチングす
る場面があまり見られない(パンチングが
飛ばない)
。
■攻撃への参加
① パス&サポート
GK を含めてビルドアップするチームが増
え、パス&サポートに関わっている。足元
のスキルがあるGKが増えている。
② ディストリビューション
GKのスローイングから攻撃が始まること
が多くなっているが、守備から攻撃への切
り替えが遅く、前線に蹴るしかない状況が
まだまだ多い。ゴールキック、FKの状況で
も味方の準備が遅く、同様に蹴るしかない
状況が多い。
3. 攻撃参加のデータ
(準決勝、決勝)
※左表参照
特集① Technical
テ
4. 失点
5. まとめ
ク
ニ
カ
ル
study
ス
タ
デ
ィ
DF のマーキング、GKとDF の連携の部分
失点の多くは、下図で示した通り、ペナ
シュートの対応ではキャッチング、ダイビ
に課題を感じた。
ルティーエリア内からのシュートによるも
ングなど、基本的な技術は高くなっている
攻撃への関わりでは、GK のスローイン
のである。
が、味方への指示の声が出せず、攻撃側に
簡単にシュートされる場面が見られた。
ディフェンスライン背後のスペースに出さ
れるボールに対して狙う意識はあり、高い
スタートポジションをとりながらプレーし
ていた。ブレイクアウェイの状況下での守
備範囲が広がっている。出る・出ない、の
判断の中で状況に応じた対応ができるGK
が増えている。
クロスの状況下では、ボールウォッチャー
になり、いつ、どこを、どのタイミングで
観るのか、いつ、誰に、何を伝えるのかが
できていない。当然 GKとしての予測もな
く、守備範囲が狭い。GKとしての対応と
グと足元の技術は向上しているが、チーム
でどのように指導がされているかによって
(フィールドプレーヤーのボールを受ける準
備のある、ない)
、味方にボールをつなぐ意
識の高い GKと、そうでない GK に分かれ
ていた。プレスキックの飛ばない選手が多
く、ゴールキックがハーフラインを超えな
い(キャッチングの後、転がして蹴るGKが
ほとんどいない)
。
攻撃時のリスクマネジメントに対する指
示の声を出すGKが少ない。本来、ゲーム
ではGK やセンター DFが声を出さなけれ
ばならないのだが、それをベンチにいる監
督、コーチが出していることが多い。
両サイドクロスからによるものと、ドリ
ブルで抜け出しGKと1 対 1の状況からの
シュートによるものが多い。
(PK、CK、FK
を含む )守備側のマーキングや 1 対 1の対
応があまく、攻撃者がフリーでのシュート
が多い。
第 40 回 全国中学校サッカー大会
期間 2009 年 8 月 20 日〜 24 日
優 勝 静岡学園中学校
場所 島原市営陸上競技場ほか(長崎県)
準優 勝 島原市立第一中学校
出場チーム数 32
第 3 位 鹿児島育英館中学校、浜松開誠館中学校
【報告者】木村康彦(ナショナルトレセンコーチ)
1. 大会概要
全国 9 地域の代表 32 校が 5日間のトーナ
メントを戦う全国中学校体育大会である。
競技方法はノックアウト方式で、試合時間
は60分(30分ハーフ)
とし、勝敗が決しな
いときは10分間の延長戦を行い、なお決し
ないときは PK方式により次回戦進出チー
ムを決定する。交代に関しては最大 7 名の
交代要員の中から7 名までの交代が認めら
れ、一度退いた選手も再び出場できる。
2. 大会の様子
長崎県島原市、雲仙市で行われたサッカー
競技は、きめ細かな準備・運営と天候に恵
まれたこともあり、すばらしい大会であっ
た。また、地元の島原市立第一中学校が決
勝戦に進出したことで、大会は大いに盛り
上がった。選手たちは真夏の太陽の下、本
当に全力を出し切ってプレーしていた。ま
た、中学校の大会らしく女子選手が一緒に
活躍している姿もあった。
決勝戦に進んだ静岡学園中学校と島原第
一中学校は、5日間で 5 試合という非常に
厳しい戦いであった。連戦となる大会形式
や試合の流れを変えてしまうこともある飲
水タイムのローカルルールについては一考
の余地がある。
今大会のベスト 8 の内訳を地域別に見る
と、関東、東海、九州の 3 地域から各 2 チー
ム、北信越と中国地域がそれぞれ 1 チーム
であった。地域のレベルは拮抗してきてい
フの選手の準備と立ち位置の悪さ、また観
ることができないために選択肢を使えない
といったことが原因で、なかなかアタッキ
ングサードまでボールを運べない。
最後のグループは、自陣からビルドアッ
3. 大会分析
(1)攻撃
プして攻撃ができるチームである。選手一
攻撃に関しては参加チームを大きく3 つ
人一人が早く良い準備をして選択肢をつく
のグループに分けることができる。
り、中盤を組み立てることができる。星稜
1つ目は攻撃の意図が感じられないチー
中学校( 北信越 )や浜松開誠館中学、静岡
ム。急いで前線にロングフィードして、FW
学園中学(ともに東海)
などは、その中でも
にボールが転がればチャンスが生まれる、 意図的で魅力のあるサッカーをしていた。
または、セカンドボールの奪い合いにかけ
特に星稜中学のミスパスの軌跡はほとんど
る、といったプレーが中心である。これら
が相手陣内であり、確実に相手陣までボー
のチームの共通点は攻守がポジションによ
ルを運んでいることが分かる。GKからの
り分業されていて、関わる選手が少ないた
ディストリビューションでも確実に味方の攻
めパスの選択肢が乏しく、簡単にボールを
撃につなげており、成功率が100%の試合
失ってしまう。数試合でパスの軌跡データ
もあった。また、選択肢も多く、FKもクイッ
を収集してみたが、自陣から前線へのロン
クリスタートを多用してすぐにプレーを再
グフィードでボールを失っていることはや
開していた。
はり明らかだった。顕著なのはGKがボー
(2)守備
ルを保持したとき(ゴールキックや自陣か
守備に関しては、積極的にボールを奪い
らの FKでも)に、DFや中盤の選手がボー
に行くチームが少なかった。原因としては、
ルを受ける準備を全くしないで、決め事の
攻撃側が簡単なスキルや判断ミス、前方へ
ように数的不利な前線の FW にボールを
のロングフィードでボールを失ってしまうた
蹴っていたことだ。残念ながらこのグルー
め奪いに行く必要がないことがある。また、
プに入るチームが最も多かったようである。
攻守が分業制になっているため、攻撃の人
2つ目のグループは、ボールを大切にし
数が少なく、ディフェンスラインの押し上
ようという攻撃の意図が感じられるチーム
げもないために、失ってからすぐに前線で
である。全体的な傾向としては、このよう
奪いに行けないということもある。ここで
なチームが年々増えてきている。しかし、 も攻撃に関わるに人数が多く、厚みがある
パス&コントロールのスキルのミスや、オ
攻撃をしていた星稜中学や浜松開誠館中学
るといえる。また、
私学と公立との視点では、
ベスト8 の学校は公立の 3 校に対して私学
が 5 校であった。
9
は、前線から連動して積極的にボールを奪
調べたが、平均で 47%であった。つまりス
チームが多かったが、いくつかのチームで
いに行っていた。
ローイングの半分以上は相手チームのボー
はアドバイスではなく、指示を出して選手
多くのチームが守備のために後方に人数
ルになっているということになる。
の判断を奪っている指導者も見受けられた。
をかけているため、中盤には大きなスペー
スが開いている間延びした状況になり、
ボー
ルへのプレッシャーが甘くなっていた。そ
の結果、逆に決定的なパスや、シュートをう
たれている状況が多々あった。また、最終
ラインは相手をマンマークする選手と、ス
イーパーとしてマークする相手を持たずに
カバーだけを専門に行う選手にシステムに
よって役割を分けているチームも見られた。
また、リスクを恐れて DFの選手がワン
タッチで前方へ跳ね返すことで失っている
場面も多い。ワンタッチのパスというより
はコントロールのミスを恐れて前へとのこ
とからと思われる。ボールを大切にするた
めに、オフの選手の良い準備と幅や厚みを
もったポジショニングで選択肢を増やすこ
とも課題である。
ボールを奪いに行く
守備においては、後ろに人数をかけるだ
けではなく、もっと積極的にボールへのプ
レッシャーをかける、奪いに行くことが望
まれる。1 対 1の対応、アプローチの速さ、
相手との距離や構えなどは改善すべき点が
多い。また、攻撃の後に切り替えを速くし
てアタッキングサードでボールを奪い返す
といった回数は、本当に少なかった。
サッカー理解
4. 課題
攻守に関わる
U-15 という育成の年代であり、彼らが
次の年代でもサッカーを続けていくことを
考えると選手一人一人がサッカーをしてい
るかが大きなポイントである。サッカーを
するとは簡単に言えば選手全員が攻守に関
わることである。ボールを持ったらゴール
を目指す、できるだけボールを失わないで
ボールを運ぶ、奪われたらボールを奪い返
しに行くといったことを状況判断しながら
意図を持ってプレーすることだ。攻守に全
員が関わっている、あるいは関わろうとし
ている躍動感のあるサッカーを求めていく
ことが必要に感じられる。
しかし、攻守の役割が分業されているた
めに、最終ラインからトップまでが間延び
していて、攻守に関わる時間が少ない選手
が多い気がした。
その結果、攻撃面では選択肢が少なく、
一人で打開しようとする、守備においては
連動して奪いに行っていない、カバーして
いないといった状況が多く見られた。
ボールを簡単に失わない
相手にボールを奪われるというよりは、
自ら簡単にボールを失っている場面が多々
ある。GK からのディストリビューションで
もボールを受けるための準備をすることな
く、まるで決め事のように前方にボレーキッ
ク、ゴールキックすることで多くを失って
いる。また、スローイングからも簡単に失っ
ている。18 試合でスローイングの成功率を
© Jリーグフォト㈱
個人戦術においては、選択肢のないとこ
ろに蹴る、もしくは数的不利な状況にいる
選手にパスをする、あるいは不利な状況で
あるのにドリブル突破を図ったりするよう
な判断のミスが目立った。2 対 1 をつくる、
スペースをつくる・使うといった感覚を持
ち、相手と駆け引きをしてほしい。
技術面の課題
● ヘディング
競り合いのヘディングでは、しっかり落
下点に入れないために競り合いにならない
場面が多く見られた。また、競り合う際に
相手を押しのけるために「手」を使ってし
まうプレーが多く見られ、正当に競り合え
ない選手が多かった。競り合いのヘディン
グの後、ボールを失っていることが多いた
めに、逆に言えばアバウトなロングボール
をきっかけに攻撃を考えてしまうチーム(指
導者)
が横行することにもつながってしまっ
ている。競り合いの中でも、しっかり味方
にパスするようなヘディングの技術を身に
つけることにより、アバウトなロングボー
ルからの攻撃も見直すきっかけにしていき
たい。
●ドリブル
ドリブルでは、ヘッドダウンして選択肢
を持てない選手がいる。ドリブルするとす
ぐにスピードアップしてしまい突破だけに
なってしまっている。ドリブルも突破だけ
ではなく、間をつくったり、タイミングを
計ったり、相手を引きつけたり、キープし
たりといった判断の伴ったドリブルを使う
選手がたくさん増えると良い。
ベンチワーク
チームと審判との協調は概ね良好であっ
た。ベンチと選手も良い関係が築けている
10
5. まとめ
全体的に中学校サッカーのレベルが年々
向上していると感じる。
これは指導者の方々
の努力の成果である。どの選手にも大きな
可能性があり、彼らの可能性を最大限に引
き上げていくことが育成年代に携わる指導
者の役目である。プレーしている選手を見
ていると、本大会のようなカップ戦が持つ
楽しみや良さが感じられ、この大会がます
ます発展することを願っている。
一方で、個の育成を考えた場合には、リ
スクにチャレンジしながら選手個々の可能
性にアプローチをしていけるような日常の
ゲーム環境の整備も重要である。各県・地
域で取り組まれている U-15 リーグが定着
し、選手が育つ場としてより質の高いもの
になっていくことを期待したい。また、今
大会に登録されていた 1年生選手は 7人で
全体の 1%であった。このことからも U-15
年代のリーグだけでなく、U-13 年代の選手
がプレーする県・地区リーグなどの公式戦
の確保も大きな課題である。
「 正しいプロセスを踏んで結果を求める」
この “正しいプロセス” がくせ者である。大
会である以上「結果」は一番の目標である。
しかし、育成段階の選手と向き合っている
指導者は、
「質と結果」のジレンマを消化し
ながら取り組まなければならない。この答
えは、種別を超えた、地域での一貫指導で
しか超えることができないであろう。確か
に一中学だけでは解決できない問題でもあ
る。だからといって、プロセスを飛ばして
結果を求めることが正しいことか…。先に
述べたリーグ文化の醸成と同時に、このプ
ロセスを踏みながら好成績を残し始めてい
る「指導者」が増え始めている感触を持っ
た今大会であった。
最後に、本大会 TSGは、長崎県サッカー
協会技術委員の方々が中心となり、ほぼ全
試合から貴重な分析のデータを集めた。GK
の配球、ミスパスの軌跡、4 本以上のパス
成功回数、スローイングの成功率、リスター
トプレー、実際のプレー時間などである。
これらのデータをあらためて数値で見るこ
とで、ゲーム分析の裏づけにもなった。こ
の場を借りてあらためて感謝申し上げます。
ゴールキーパー報告
【報告者】岩永健(ナショナルトレセンコーチ)
1. 大会の傾向
ノックアウト方式の大会でさまざまなスタ
特集① Technical
テ
イルのサッカーが展開された。上位進出し
できている GKはあまり多くなかった。相
たチームのGKは、ゲームに関わりポジショ
手の状況やディフェンスラインにあわせて細
ン修正を行うため、決定的なピンチを防ぐ
かいポジション修正ができていないために、
など引き締まったゲーム展開となった。ま
た、GKとフィールドプレーヤー(FP)の連
携がトレーニングされており、セカンドボー
ルに対するアプローチが速く、カバーリン
グやプロテクションをしっかり行っていた。
攻撃参加の面でもGKとFPの攻守の切り替
えが速く、選択肢のある中でスピーディー
なディストリビューションから主導権を握り
ながら攻撃を組み立てていた。しかし、多
くの GKはゲームへの関わりが少なく、味
方攻撃時のリスクマネジメントやポジショ
ン修正ができておらず、消極的なプレーや
判断に躊躇(ちゅうちょ)しピンチを招いて
失点する場面が見られた。
また、大会のルールで自由な交代が認め
られているため、得点差がつくと GKが交
代したりPK 要員として交代する選手も見
られた。
自分がプレーするのか味方がプレーするの
か判断に迷う場面が見られた。また、GK
がゴールを空けた際のDFのカバーがなく、
クリアも中途半端で相手に奪われて失点す
る場面が見られた。
(3)クロス
オフの準備段階でポジション修正を行っ
ていないためにすべてが後手に回っている
印象を受けた。ボールウォッチャーになり
ゴール前の状況を観ることができないため
に、積極的にクロスにチャレンジする選手
が非常に少なかった。積極的にチャレンジ
するが安定したキャッチングができるGKが
少なかった。また、ディフェンスラインが下
がりすぎるあまり、GKのプレーエリアが確
保できていない。ゴール前でGKがイニシ
アチブをとっているチームはごくわずかで
あった。
(4)パス&サポート
ポゼッションしながらゲームを進める
チームはGKも常にゲームに関わり、リズ
ムを崩すことなくフィードしていた。チー
ムがリスクを負わない戦いをするところは
GK へのパスはほとんどない。GKへパスが
きても観ておくことができずに判断が遅く
なり、
結局ロングボールを蹴ってしまいボー
ルを失ってしまう。フィールドプレーヤー
(FP)のボールを受ける準備がないために
蹴らざるを得ない場面も多く見受けられた。
(5)攻撃参加
優勝した静岡学園中学、浜松開誠館中
学、星稜中学は攻守の切り替えが速く、攻
撃の優先順位を考え、前線で良い準備をし
ている選手がいればサイドボレーキックや
スローイングで正確にフィードする場面が
見られた。これらのチームの GK に共通し
ているのはスローイングの数が他の参加
チームと比較して多いということである。
2. 状況別プレー分析
(1)シュートストップ
ゲームに関わりポジションを細かく修正
している GKは鋭い反応でシュートをセーブ
する場面が見られた。その半面、移動を伴
う場面になると簡単なボールでも足を運ん
で正面に入らずにすぐに倒れ込む場面が多
く見られた。また、手だけでキャッチング
に行くあまりファンブルして失点すること
もあり、ハンドリングやステップワークは
課題である。チームとしてしっかりトレー
ニングされているところは、GK のファン
ブルに対して DFが素早くカバーすること
ができていた。
(2)ブレイクアウェイ
上位進出しているチームの GK について
はDFと連携して積極的にプレーし、奪っ
た後の切り替えも素早く行っていた。しか
し、ペナルティーエリアの外まで広くカバー
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© J リーグフォト ㈱
またゴールキックの場面でもFPの準備が
早く、素早くフィードできていた。しかし、
多くのチームでは GK がボールを保持する
と、いったんプレーが止まり、決め事のよ
うにラインを押し上げロングボールを蹴り
込むチームが多くあった。
結果的にそのボー
ルは相手にわたっており、再び攻撃される
という展開が続いた。GKだけの問題では
なく、パスを受けるFPへの働きかけも必
要であるように感じた。
3. まとめ
この年代では基本技術の徹底と常にゲー
ムに関わりながら「状況把握(観る)
」
「準
備(予測、ポジショニング)
」
「守備の組織
化(コーチング)
」
「決断・プレー」という
ことを習慣化することが大切であるととも
に、主導権を握りながらゲームを進める現
代サッカーにおいて、より一層 1 人のフッ
トボーラーとしての技術習得、戦術理解が
重要になってくる。また、大会を通して自
信を深めていく選手の様子を見ることがで
き、やはり真剣勝負のゲーム環境が多く存
在することが選手の成長には必要であるこ
とを強く感じた。
最後に大会運営に携わっていただいた多
くの運営スタッフ・審判の方々、今大会
GK の攻撃参加に関するデータを集めてい
ただいた長崎県サッカー協会技術委員の
方々にあらためて感謝申し上げます。
第 33 回 全日本少年サッカー大会
期間 2009 年 8 月1 日〜 8 日
優 勝 名古屋グランパス U12
場所 Jヴィレッジ(福島県)、国立スポーツ科学センター西が丘サッカー場(東京都)
準優 勝 新座片山 FC 少年団
出場チーム数 48
第 3 位 川崎フロンターレ U-12、横河武蔵野 FCジュニア
フェアプレー賞 名古屋グランパス U12
【報告者】星原隆昭(ナショナルトレセンコーチ)
第33回全日本少年サッカー大会が 8月 1
日から8日まで開催された。8月 1日の開
会式から 4 日の 1 次ラウンド
(グループリー
グ)
、5日の決勝トーナメント 1 回戦、準々
決勝までが J ヴィレッジ(福島)で、7日の準
決勝と 8 日の決勝戦は国立スポーツ科学セ
ンター西が丘サッカー場(東京)
で行われた。
7,749チームが参加した 47都道府県の
予選を勝ち抜いた 48チーム( 昨年優勝の
埼玉県は 2チーム)が 8グループに分かれ
て 1 次ラウンドを実施し、各グループの 2
位までが決勝トーナメントに進出、優勝を
目指して熱戦が繰り広げられた。大会は、
名古屋グランパス U12( 愛知 )が優勝し、
新座片山 FC 少年団(埼玉)が準優勝、3 位
は川崎フロンターレ U-12(神奈川)と横河
武蔵野 FCジュニア(東京)だった。
また、大会期間中は試合だけでなく、選
手対象のサッカークリニックや指導者対象
の講習会、保護者対象の栄養学セミナーな
ども行われた。
11
テクニカルスタディグループの
組織とデータ
今大会でも、昨年に引き続きテクニカル
チームの 3分の 1 以上に当たる18チームが
フェアプレーコンテストに関してはレフェ
登録全選手を試合に出場させていた。さら
リーアセッサーと協力し、全試合で実施し
にその中の 8 チーム(全体の16.7%)が全
た。レフェリングに関してもお互い意見交
スタディグループ( 以下、TSG )を組織し、 員 10分以上出場させていた。逆に、出場
全試合でゲーム分析・フェアプレーコンテ
選手が 13名以下のチームは 8 チーム(全
ストのほか、下記のデータを収集した。
体の16.7% )だった。この数字で十分かど
(1)選手のポジション(全試合)
うかは引き続き考えていかなくてはならな
多くのチームが選手にさまざまなポジ
いが、昨年と比べても多くの選手をプレー
ションを経験させることにチャレンジして
させることは増加傾向にある。
いた。これは、Jクラブ等選手層の厚いチー (3)ゴールキーパーを絡めた配球の成功率
ムに限ったことではなく、いわゆる街クラ
※後述
ブのチームも同様であった。また、昨年と
(4)インプレータイム
比べても、全く違うポジション(同サイド
データを取った試合は大体が 70%前後、
内や攻撃内・守備内での移動ではなく)
での、 多いゲームでは 77.8%という数字が出た。
選手起用も見られ、攻守分業ではなく、さ
大人のゲームで大体 50%程度、スペイン代
まざまなポジションを経験させ、サッカー
表のゲームでは約 60%くらいだと考えると
理解を深めさせようとする各チーム指導者
非常にインプレーの時間が長い。これは、
の育成に対する意識を感じることができた。
選手が意図を持ってプレーし、
むやみにボー
GKと FPの両方を経験させているチームも
ルを出さない、プレーに集中し、すぐに次
あった。
のプレーに移る、審判もファウルを探すの
※下図参照
(2)選手の出場時間(全試合)
登録選手は 1チーム 18 名である。出場
ではなく、選手のプレーしようとする姿勢・
意図を尊重する・運営面の努力等によるも
のと思われる。
換を行い、レベルアップを図った。TSGを
組織する中で、今回新たな試みとして、地
元福島県 FA4 種技術委員会にもご協力願
い、活動した。今後もこの試みを広げてい
きたい(詳細は後述 )
。
選手の現状評価と課題
〜よりテクニカルにスピディー
に全員で!〜
世界大会を分析し、日本の課題を抽出し、
「Japan's Way」を追求しようとする中で、
U-12という育成年代において「よりテクニ
カルにスピーディーに全員で!」といった
ことに着目して分析した。その中で、しっ
かり組み立て、意図を持ってゴールへ向か
おうとするチームが多く見られた。縦へボー
ルを蹴り込んで相手との競り合いの中で
ボールを拾い、攻めていくといった戦略を
志向していては勝てなくなってきており、
実際にボールをしっかりとつなぎ、意図的
に相手を崩そうとする攻撃・積極的にボー
ルを奪いに行く守備を擁するチームが勝ち
上がってきた。
つなごうとトライする中ではミスが起き
ることもあるが、意図を持ってプレーする
中からこそ、課題(積み上げていきたいもの)
も見えてくる。
(1)ペナルティーボックス付近での突破、
選択肢のある個の突破
ボックス付近は、よりスペース・時間のな
い・ハイプレッシャーの状況であり、数
cm、何分の 1 秒のタイミングが勝敗を左
右する。プレッシャー下での動きながらの
技術、技術に裏打ちされたアイデアのある
プレーを追求したい。
©Jリーグフォト㈱
J クラブ
12
街クラブ
(2)ゴールへ向かうプレー、組み立てか
ら突 破チャンスに多くが 関わる
ボックス付近での突破の前段階、ボール
を失わず意図的にボールをつなぎ、多くの
プレーヤーが関わり選択肢を増やし、その
後どこでスピードアップするか。そういっ
た場面でもう一度後ろに戻してしまいクロ
スを入れる場面も見られた。
(3)シュート 〜キックの精度〜
GK・相手DFとの駆け引き、プレッシャー
の中で確実に決めたいところ、まさに勝負
を決定づけるところで確実に決める技術を
追求したい。テクニックの向上はこの年代
の主要な課題であると同時に、実践で多く
の経験を重ねていくことが重要である。
(4)GKを含めたビルドアップ
GKを含めたビルドアップに関しては、
ボールを大切にするトライをしているチー
ムとそういう意識のあまり高くないチーム
特集① Technical
テ
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ィ
とに分かれた。データを取った試合の平均
と思われる。大会を通して多くの選手にプ
へつなぐことを目的とせず優先順位を意識
では GK のボールが味方にわたる成功率が
レー時間を与え、さまざまなポジションで
し、有効な攻撃になっていくように判断を
約 20%という値であった。もちろんGK だ
試合を経験・チャレンジさせるといった傾
促した良い働きかけもあった。
けの問題ではなく、F Pの関わりも大切に
なる。
チーム全体としてトライしているチー
ムでは味方にわたる成功率は高く、チーム
として取り組む意識を持つことによって変
わっていく部分である。この年代から積極
的にトライしていってほしい。
この概念を重視して大会に臨んだサガン
鳥栖、名古屋グランパス、スマイスセレソン、
福田SSS、カワハラFC等のチームがあった。
大会期間中、この課題に関してある参加チー
ムの指導者と話をしたところ、次のゲーム
でチャレンジする姿が見られた。
(5)ボールを奪う力 ⇒ 奪って攻撃まで
近年の傾向として、ボールを中心に守備
をし、ボールに対するプレッシャーはどの
チームも厳しくなってきている。ボールを
奪われたらすぐに奪い返しに行くチームが
多く見られた。子どもはボールに多く触り
たがり、奪われたら奪い返しに行こうとす
る。そういった子どもの本能、素の部分は
大事にしていきたい。積極的にボールを奪
いに行くことはこの年代では習慣化される
べきプレーである。その中でボールを奪う
技術を高め、奪ったあと素早く攻撃まで行
きたい。
全員攻撃、全員守備で、攻守にわたって
アグレッシブにハードワークする…。そこ
には技術の追求は不可欠である。基本の追
求に妥協はない。
「Japan's Way 」を追求
していく上で、U-12年代からの積み上げが
非常に重要である。
向にあり、すばらしいことであると考える。
雨模様の日もあったが、非常にしのぎや
すい中での福島県ラウンド、快晴(猛暑)の
中での準決勝・決勝であった。優勝した名
古屋グランパスは、個人個人が非常にテク
ニカルでスピーディーであった。また準優
勝の新座片山も最後まで全員で走りきる全
力を出し切るチームだった。
指導者・審判・運営関係者・保護者といっ
た大人たちが選手という子どもたちを育て
ていくために力を注いだ大会だったと強く
感じた。
技術面では、GKからのスローイングと
味方選手からのバックパスを受けるプレー
が少なかった。これらの技術が向上するこ
とで、ボールを大事に、意図する攻撃は増
えると考える。ただ、キックが悪いわけで
はない。正確なロングキックによって、より
チャンスをつくり出すことも大切な技術で
ある。だから、攻撃時にGKがどのように
味方へチャンスになるボールを配球する
か、観て判断してプレーしているかが大切
なのである。
GKからの攻撃が意図的に行われること
で、① GKのスキルが上がる。サッカー選
手としての要素が向上する。②味方選手の
スキルが上がる( ボールに触る回数が増え
る、適切なポジションの理解、攻守の切り
替え、ディフェンスラインからの組み立て
能力)
。③相手選手のスキルが上がる。守
備の意識と予測能力 ⇒ 意図のある守備。
常に成功ばかりではなく、失敗により失
点する可能性もあるが、トライ&エラーの
繰り返しの中で、選手とフットボールの向上
につながっていく。育成年代のコーチが忍
耐強く指導していくことが大切なのではな
いだろうか。11人全員がフットボーラーと
いう考えで、意図のあるプレーでボールを
前に進めていくチームが増えていくことは、
フットボーラーとしての資質を持った選手
が増えることにつながる。フットボーラー
であることをベースにゴールを守る技術を
獲得していくことで、将来的には良い GK
としての資質を持った選手も増える。GK
からの攻撃参加を向上させることは、良い
GKの育成と今後の日本のフットボールを向
上させる要素の一つではないかと思う。
まとめ
〜育てながら勝つことを目指す
( 個の育成 )
勝つことを目指すのは当然である。また、
勝つことにより多くの試合ができ、より多
くのさまざまな経験をすることができる大
会形式になっていることは事実である。こ
の大会に出場する選手たちは「うまくなり
たい」
「良いサッカーをしたい」という気持
ちと同時に「 勝ちたい 」といった気持ちを
強く持っている。その気持ちに何とか応え
たいと、指導者をはじめ保護者の方々も一
所懸命に選手たちに接している。これはと
てもすばらしいことである。しかし、その
中でわれわれ指導者は、この年代の子ども
たちを育てるといった大きな責務を持って
いることを忘れてはいけないし、子どもは
決して勝つことによってのみ育つのではな
いこともこの大会の勝つ・負ける、泣き・
笑いの中で垣間見られた。
育てながら勝つことを目指すことは育成
年代における指導者・大人の重要な役割だ
ゴールキーパー報告
【報告者】須永 純(ナショナルトレセンコーチ)
本大会に出場したチームは、全国 7,749
チームの中から各都道府県の予選を勝ち抜
いたチームということもあり、全体的な印
象では良くトレーニングされていた。
GKからの攻撃参加の部分ではまだ課題
が残るが、GKからの攻撃参加を大切にし
ているチームは増えてきた。特に優勝した
名古屋グランパスのGKからの攻撃成功率
は、準決勝で 56.3%、決勝戦では76.9%
とすばらしかった。他チームでも予選リー
グでサガン鳥栖が 56.3%と高い数値を残
し、有効な攻撃をしていくためにつないで
攻めようとする意図がうかがえた。これら
のチームに共通しているのは、選手が観て
判断してプレーし、ボールを受ける選手が
パスコースをつくっていたことである。全
員が予測をし、関わり続けることを意識し
ていた。そして、コーチからは、ただ近く
©Jリーグフォト㈱
13
もたちです。会場でこの看板を見かけたら、大人
フェアプレーは、従来のネガティブなポイント
の方たちはぜひ周りから見守ってください。自立
の減点法ではなく、ポジティブプレーを評価して
を応援してください。子どもたちは日々成長して
決めるものです。ですから、ポジティブプレーに
います』という考えから、こどもエリアを設置し
対するグリーンカードは、フェアプレーに深くか
ています。この趣旨に賛同される方に、こどもエ
かわりがあるのです。フェアプレーの基準は、
「本
第33 回全日本少年サッカー大会で、子どもた
リアバッジをつけていただきました。ポスターも
大会で上位進出を果たし、チームとしての力量も
ちの無限の可能性や大きなエネルギーを肌で感
2 種類掲示して、理解を深めました。
あり、試合中のプレーのフェアな感じが自然に出
子どもたちのサッカー環境を
より良くするために
【 報告者】眞 藤 邦彦(JFA インストラクター)
じ、夢と感動を覚えたのは、大会に関係する多く
の大人たちではなかったでしょうか。子どもたち
を応援する保護者、指導者、大会をサポートする
2. 全AD カードへのスマイル
サッカー表示について
ており、かつ実際に反則数が少なく、他の模範と
なるチームとする」とあります。 この考え方は、
既に国際サッカー連盟
( FIFA)やヨーロッパサッ
役員、審判や技術の方々が大会終了時、この大会、
『真剣なまなざし、懸命なプレー。そしてここ
カー連盟( UEFA)
、アジアサッカー連盟
(AFC)
そして子どもたちに大きな拍手を送っていまし
ろはいつもスマイル。トライする選手、見守る大
でも実施されています。日本では全日本少年サッ
た。それは、子どもたちがポジティブにプレーに
人。相手チームや審判にも敬意。選手もコーチも
カー大会で大きく発信していますが、U-18プリ
集中し、最後まで全力を尽くし、意志を持ってゴー
応援も、みんなで子どものサッカーをすばらしい
ンスリーグやキリンカップでも実施しています。
ルを目指し、ボールを奪うという、スピーディー
ものにしていきます。全日本少年サッカー大会で
この取り組みも地域に根ざしていくように願って
で、観ていて気持ちの良いゲームを展開したから
は、全ての ADカードにこのロゴを掲載していま
います。
に他なりません。
す』。これが、スマイルサッカーの理念です。
今、日本中でリーグ文化についての取り組みが
子どもたちにとってサッカーで一番楽しいの
大会運営にかかわるすべての方々が、スマイル
なされています。サッカーをスポーツ文化にして
は、ゲームで最善を尽くし、勝利をつかむことで
サッカーの表示された ADカードを身につけ、理
いく取り組みとして、リーグ戦と同じようにリス
す。そのために、いろいろなことを自分で考えて、
念を忘れず活動しました。
ペクトキャンペーンやフェアプレーコンテストは重
自分で行動できるようになれば、楽しさはさらに
大きくなることでしょう。
この全日本少年サッカー大会では、われわれ大
3.「 リスペクトキャンペーン」に
ついて
要な取り組みであると考えています。
5.「 審判と技術の協調」について
人が子どもたちにとびきり楽しいゲームを用意す
リスペクトプロジェクトが作成したものです。
「スピーディーでフェアでタフな選手」を育てる
るために、大人向けの啓発キャンペーンとして、
フェアプレーの原点がリスペクト「大切に思うこ
ために、フェアプレーコンテストを実施しながら、
以下の 1〜 3 のことに、また大 会においては 4
と」に示されています。フェアプレーはただ単純
アセッサー(審判)
とナショナルトレセンコーチ
(技
〜 6 のことに取り組みました。
に「ルールを守る」ことだけではなく、ゲームを
術)でどんな会話がされたかの例を紹介します。
1. こどもエリア設 置、こどもエリアバッジ着
尊重するからこそ、勝利を目指して全力でプレー
グリーンカードの出し方のタイミングについて
用、ポスター 2 種 類掲示(①こどもたちから
するのはもちろんのこと、サッカーに関わる仲間、
は、
「もっと早いタイミングで出せば、ゲームの
の招待状 ②こどもエリアに入る前に )
相手、指導者、審判、観客、運営、ゲーム、ルー
流れが途切れず、周囲のプレーヤーにも分かりや
2. 全 ADカードへのスマイルサッカー表示
ル、施設、用具等あらゆる人やものを「大切に思
すかった 」
「 今のところで、躊躇せず出せたし、
3.リスペクト「 大切に思うこと 」キャンペーン
うこと」です。これはサッカーをより良くしてい
出す表情も良かった。出された選手も表情が明る
くためであり、今や世界基準になっている取り組
くなった」
「 このプレーもグリーンカードを出し
みなのです。
てもよかった 」等で、たくましいプレーに関して
今大会ではリーフレットを配布し、リスペクト
も「プレーの意図が読めて、いいタイミングの笛
5. 審判と技術の協調
の考えを広げました。また、選手宣誓においても
だった 」
「プレーを続けようとするところでアド
6. 指 導者研修会 2 回( チーム 関係者用、一 般
選手代表がリスペクト宣言を行いました。こうし
バンテージの採用は良かったし、次の良いプレー
た考えや取り組みが地域にも広がっていけば、子
につながった」
「今のところは激しいプレーだが、
どもたちを取り巻くゲーム環境は、ますます良く
お互いが頑張っているところで影響の度合いを
なっていくことでしょう。
しっかり観てプレーを続けさせる判断をしてい
の展 開
4. フェアプレーコンテストやグリーンカードの
活用
リフレッシュ用)実施
それぞれの趣旨については、次の通りです。
1. こどもエリア、こどもエリアバッ
ジ、ポスターについて
『サッカーは、ピッチに出たら自分自身で考え
4.「 フェアプレーコンテスト」
について
た」等、さまざまな審判としての考え方や技術的
な事柄が話し合われました。
子どもたちは、ゲームを通してうまくなってい
て行動しなければならないスポーツです。私たち
フェアプレーコンテストでの審判と技術の役割
きます。その可能性を大きく持っています。われ
は自立した選手の育成を目指しています。指導者
は、本部席でゲームを観戦しながら、この年代の
われ技術も審
も審判も、子どもたち一人一人がサッカーを楽し
子どもたちのプレーをどのように伸ばし、将来に
しているところへ支える気持ちで取り組んでいく
むことができるようにサポートします。飲み物や
つなげていくかを話し合い、一緒に考えていくこ
ことを確認しながら実施しました。
着替え、用具の準備は子どもたちに任せます。保
とです。その役割と合わせて、フェアプレーコン
審判として64名がこの大会に参加しましたが、
護者の方々は応援に専念してください。本大会で
テストの採点も行いました。それほど手間のかか
技術との話し合いや審判研修を重ねる中、チーム
は「こどもエリア」を設置しています。その中で
ることではないので、地域で方法を工夫し、フェ
として個人として何をしようとしているかを感
はできるだけ子どもたちの判断に任せ、子どもた
アプレーコンテストの意義を広げてほしいと思い
じ、観察しながら、しかも競技規則の精神を伝え
ちの自立を促したいと思っています。主役は子ど
ます。
ようと一生懸命努力していたことは大変うれしく
U-12年代でのゲームでは、イエロー、レッド、
思いました。子どもたちのプレーを支える気持ち
グリーンカードの 3 枚が審判の必需品として定着
は、技術も審判も、そして指導者も同じです。 審
してきました。活用方法の研修を重ねた結果、良
判団のリーダーであるアセッサーの布瀬直次さん
い行いや「これはいいな」と感じたときには、躊
は、
「 選手と審判団が敵ではなく、また指導者と
躇(ちゅうちょ)せずグリーンカードが提示される
も相反するものではなく、皆がお互いにつながっ
ようになりました。子どもたちの表情がパッと明
ていることをうれしく思う」と、楽しそうに今大
るくなり、プレーのパフォーマンスのさらなる向上
会の取り組みを振り返っていました。
につながっていると思います。グリーンカードの
活用により、良いことは良いとして本人や周囲に
© Jリーグフォト(株)
14
判も、選手がゲームをつくろうと
6. 指導者研修会について
示し、理解を広げていくことにより、サッカーが
チーム関係者に対する研修会と、準決勝で西が
文化になっていく取り組みになると考えています。
丘サッカー場に隣接している国立スポーツ科学セ
特集① Technical
テ
ンターにおいてリフレッシュ研修会と、2 回の研
修会を実施しました。U-12年代の取り組むべき
課題と、全日本少年サッカー大会で見られた傾向
まとめ
「みんなつながっている」
〜 We are all integrated !
ク
ニ
カ
ル
study
ス
タ
デ
ィ
人一人が同じ方向性や信念を持って取り組み、ポ
ジティブな気持ちで良いゲームをつくっていくこ
との重要性に気づいた大会でした。こうした取り
を主な内容として、上記にあるような大人向け啓
第33回全日本少年サッカー大会では、子どもた
組みは、地域でも実施し、広げていくことが大切
発キャンペーンについても、サッカーを文化にし
ちの成長を喜びに感じるコーチ、ファウルがあっ
であり、サッカーを、そしてスポーツを文化にし
ていくためには重要な事柄であることに触れまし
てもチャンスがあればプレーを続けさせる審判、
ていく大きな取り組みになっていきます。主人公
た。指導者として良いサッカーを追求していくた
良いプレーがあったら自分が応援しているチーム
である子どもたちが自分自身で判断し、解決する
めには、
「良いトレーニング、良いコーチング、
だけでなく相手チームにも拍手するサポーターの
力を身につけ、思ったことを思った通り表現でき
そして良い環境」が必要であるとの理解を深める
姿が随所に見られました。子どもたちを取り巻く
るゲーム、大会をつくり上げるために、みんなが
ことができました。
環境に、さまざまな方法や切り口で、われわれ一
つながっていることを確認できた大会でした。
国内大会 TSG 総括
JFAでは各年代のFIFAワールドカップ等、
FIFA 主催の世界大会にはテクニカルスタ
ディグループ(TSG)
を派遣し、大会の分析
を通して世界のサッカーのトレンド(傾向)
を把握するとともに日本と世界の差を確認
し、そのギャップを埋めるべく、さまざま
な施策を実施している。
世界の中での日本の実力を把握するには、
各年代の世界大会に日本が出場し、世界を
相手にどれくらいできたかを確認するだけ
ではなく、各年代の国内の大会をしっかり
分析することにより、現在の日本の実力を
しっかり把握することも大切である。
日本の日常の大会の中でどのように選手
たちがプレーしているかを知ることは、世
界大会を分析することと同じように非常に
重要なことだと考えている。特に日本の場
合、学校が長期の休みの時期にあたる7月
の後半から8月にかけて育成年代の大会が
集中する。今回各年代の夏季大会の報告を
するとともに、全体を通しての感想を述べ
ることとしたい。
1. 日本の育成年代のゲームの質
結論として日本の育成年代のゲームの質
は年々上がっている。特にパス、コントロー
ル、観る等の基本の質が上がってきたため、
以前より、意図的なプレーが増えたように
思われる。確実なビルドアップから数人の
選手がうまく絡みながらゴールを目指すプ
レーは、年代を問わず各大会のゲームの中
で数多く見受けられた。
ただし、日本が世界のトップ10を目指して
いることからすると、まだまだ課題が多い。
攻撃では動きながら観て判断することを
もっと習慣化させる必要がある。まだまだ
足元での止まったプレーで守備者につぶさ
れてしまうことやプレーの選択肢が少なく
相手に読まれてしまうことが多い(年代が
上がるとともに観るものを増やし、動きの
質、量を上げていく)
。
【 報告者】吉田靖(ナショナルトレセンコーチ)
守備ではボールを奪う意識をさらに上げ
る必要がある。各年代の指導者には、年代
によりプレーの質の違いこそあれ( 個人〜
組織)
、良いポジションをとり続けながら
アプローチスピードを上げて積極的にボー
ルを奪いに行くことを選手に要求してもら
いたい。守備の質が上がれば、当然攻撃の
質が 問われてくる(パススピード、速い判
断)はずである。
2. 各年代の大会の感想
(1)U -12
全日本少年大会のゲームの質は年々上
がってきている。以前は多くのアバウトな
プレー( 意図のない縦へのロングボール)
が見受けられたものが、その数は年々減っ
てきている。これは個々のテクニックが上
がってきたためである。ただ、まだまだ意
図のないプレーも見受けられたことは確か
である。ゲームの質を上げるにはテクニッ
クの質を上げることが大切であり、この年
代ではテクニックの質の追求が求められる。
また、大会では、予選リーグで敗退した
中でもすばらしいゲームをしたチームが何
チームかあった。カワハラフットボールク
ラブ(静岡)はショートパス主体のしっかり
した組み立てから多くの人数が攻撃に絡み、
積極的にゴールに向ってしかけていた。こ
のようなチームが増えてくれば、間違いな
く日本の未来は明るいはずである。
(2)U -15
クラブユース U-15は全体のレベルが上
がってきた感がある。それは J クラブ以外
のチームのレベルが上がってきたことによ
る。太陽 SC U-15(九州)
、前橋 FC(関東)
等の街クラブは、Jクラブのチームと対等な
ゲーム展開をしていた。また岩田 FC、千里
丘 FC(ともに関西)
、クリアージュFCジュ
ニアユース(関東)等は Jクラブを破って本
大会に出場しており、この年代の全体の底
上げがなされてきた証拠である。あとはこ
の年代でのトップの選手(例えば浦和レッズ
の原口、ガンバ大阪の宇佐美等のように)
の質を上げるとともに、才能を感じさせる
選手が多数出てくるようにしなくてはなら
ない。
全国中学校大会はクラブユースと比べる
と全体のゲームの質は高くはない。ただ、
その中でも上位に進出しなかったが、星稜
中学校のように意図的な攻撃で、多くの選
手が関わる運動量の多い、すばらしいサッ
カーをしていたチームもあり、他の中学校
の良い刺激となったのではないか。
(3)U -18
クラブユース U-18 はセレッソ大阪 U-18
が FC 東京 U-18を破って優勝した。この年
代では組織と個の融合が大切であり、組織
の中で個が輝いた(セレッソ大阪:永井、扇
原)
( FC 東京:山崎、重松、阿部、平出)
両チームが決勝戦に進出したのは妥当な結
果だろう。
もちろん以前より全体のプレーの質は上
がっているが、世界のトップ 10を目指す上
では課題も多い。攻撃ではブロックの中で
ボールを受ける技術、守備ではアプローチ
の厳しさが不足している感がある。
この年代でも勝敗はもちろんゲームの質
の追求も大切であり、よりアグレッシブで
意図的な攻防を求めたい。世界の中ではこ
の年代はもう大人の年代であり、強豪国と
比べるとまだまだボール際の戦いも甘く、
その中でのアイデアあるプレーの数が少な
い。
全国高校総体(インターハイ )は奈良の
猛暑の中で行われたため、非常にタフな戦
いを求められた。そのため全体としてゲー
ムの質はクラブユースと比べて落ちた感が
ある。ただその中でも、前橋育英高校は組
織と個がマッチした優勝するにふさわしい
チームであった。またそれ以外でも久御山
高校、一条高校等は今後の可能性を感じさ
せる戦いをしてくれた。
15
連載第28回
キッズドリル紹介
1
ピーッ!よく聞きよく見ておにごっこ
★基本型
逃げ:
おに:
4
2
1
2
6
1
15m
4
3
5
5
3
6
15m
15m
<ルール>
(1)2 人 1 組をつくり、「おに 」と「 逃げ」を決める。
(2)タッチできたら「おに 」を交代する。
(3)グリッド内に 2 人 1 組で入り( MAX.10 組 20人程度 )
、入り乱れた中で 1 対 1 のおにごっこを行う。
(4)コーチの笛で、となりのグリッドへ移動する。
<発展>
(1)一方のグリッドだけでなく、両方のグリッドを使用する。
(2)グリッドの数を増やす。※移動の方法( 左右など )を笛の数などで工夫して指定。
(3)「おに 」
「 逃げ」or「 両方」にドリブルさせる。
〔留意点 〕
・入り乱れるので、ぶつからないように、事前に注意を喚起する。
・「発展」は発達段階や選手のレベルを考慮しながら行う。
★ 3人 組
b
a
a
15m
b
c
c
15m
15m
<ルール>
(1)3人1 組で(a)は(b)を、(b)は(c)を、
(c)は(a)をつかまえる。
(2)グリッド内に 3人 1 組で複数入り、入り乱れた中でおにごっこを行う。
(3)笛でグリッドを移動する。
〔キーファクター〕
・観る ・ステップワーク ・駆け引き
( 宮城県サッカー協会 キッズエリートトレーニング 改 )
16
一語一会
選手がチャレンジするという
ことはコーチにとっても
チャレンジである。
テクニカル・ニュースvol.15 対談より
ⓒ J リーグフォト㈱
イビチャ・オシム
©Jリーグフォト㈱
イビチャ・オシム(前日本代表監督)
17
活動報告
目指せ!
世界のトップ
10
©J リーグフォト(株)
国際ユースサッカー IN 新潟・U-17 日本代表 vs U-17 メキシコ代表より
U -18 日本代表
【報告者】布啓一郎(U-18 日本代表監督)
SBS カップ 2009 国際ユースサッカー
1. 期間・場所
2009年 8月17日〜 25日/ 静岡県静岡市、藤枝市、掛川市
2. 参加チーム
U-18フランス代表、U-18メキシコ代表、静岡ユース、U-18日本代
表
3. 大会全般
今回で33 回目の開催となったSBSカップ国際ユースサッカー
は、日本国内における育成年代の国際大会として最も歴史のある大
会と言える。今年もヨーロッパからフランス、中南米からメキシコ
の強豪国の代表を招き、日本代表と静岡ユースの 4チームのリーグ
で行われた。草薙陸上競技場、藤枝総合運動公園サッカー場、エコ
パスタジアムの良いスタジアム環境と、しっかりした大会運営によ
り、選手は高いモチベーションで臨むことができた。しかし日中に
80分ゲームを4日間で3試合行う日程は、選手にとって厳しいもの
であった。特に海外チームは時差の調整も重なり、後半は運動量が
落ちるゲームが多くなるのは残念であった。ナイターでの開催がで
きればさらにゲームの質が向上すると思われた。
日本はPK方式での勝利により優勝できたことは選手に大きな自
信となった。しかし日本、メキシコ、フランスの代表同士のゲーム
はすべて引き分けであり、日本の目指すサッカーができた時間はま
だ多くないと言える。今後の課題として技術の質とコミュニケー
ションを向上させて、プレッシャーの中でもボールを失わずにゴー
ルに向かい、接戦をものにして勝点 3を奪えるチームに成長してい
くことが必要になると思われた。
3位:U-18フランス代表 4位:静岡ユース
〔 日本の試合結果〕
日本 6 - 1 静岡ユース 日本 1 - 1 PK7- 6 メキシコ
日本 1 - 1 PK 5 - 4 フランス
5. 成果と課題
キャンプを重ねてきた中でチームコンセプトを共有して、攻守の
コンビネーションを高める段階にきている。現状は流れの中ででき
ている場面と、不十分な場面の両局面が存在している。今後は自分
たちの狙いとするゲームのできる時間を増やしていくことが必要に
なり、そのための技術と動きの質や量を増やして、効率良くプレー
するためのコミュニケーションを高めて行くことが求められてくる。
(1)攻 撃(人とボールの動くサッカー)
①自陣からの組み立て
日本としては高さやパワーでの闘いにしないために、GKを含め
4. 大会結果
〔 大会順位 〕
優勝:U-18日本代表 準優勝:U-18メキシコ代表
18
© Jリーグフォト(株)
SBS カップ 2009 国際ユースサッカー・U-18 日本代表 vs U-18 フランス代表より
てボールを保持しながら崩しのパスの起点を高い位置にしていく必
要がある。今大会では、相手の前線からのプレッシャーが甘いとき
は「早くプレーする、隙を突く」狙いができるようになってきてい
る。しかし、メキシコ戦の前半は相手の前線からのプレッシャーに
対して、自陣でのボール保持が不安定になり、縦方向へのラフな
ボールで失ってしまうことが多くなっていた。引き続き切り替え時
においてGKが速く切り替えること、そしてフィールドプレーヤー
が良い準備をして、受けたボールを前に進めることを行い、自陣か
ら安定して組み立てられるようにしていきたい。
②相手陣内の崩し
日本の闘い方としては、相手ブロックの外側でボールを保持して
ラフなフィードをするのではなく、相手ブロックの内側に起点をつ
くり、厚みのあるバランスの良い攻撃を目指した。選手の共通理解
は高まってきており、ボールがシンプルに動き、オフの選手の関わ
りで攻撃の選択肢をつくれる展開も出せていた。しかし、ボール保
持者に厳しいプレッシャーをかけて来たメキシコに対しては判断の
遅さが目立ち、ボールをプレーする前に相手に囲まれる場面が多く
なった。またフランスは、ややリトリートした守備を行ってきたが、
パスが相手のセカンドラインでカットされ、ミドルサードからカウ
ンターを受ける場面が多くなってしまった。いずれも相手ブロック
の内側の厳しいエリアでボールを引き出す技術力、状況を観る力、
また動きでは連携とタイミングの精度を高めていくことが必要に
なってくる。
③ボックス付近の攻め
アタッキングサードでの強いアクションからパワーを持ってフィ
ニッシュにつなげることを目指した。全体に相手の背後への意識が
出てきているが、お互いが観ておらず連携ができていない場面はま
だある。またゴールから逆算したプレーが少なく、シュートが最初
の選択肢でないことがファーストタッチにビジョンが感じられない
場面も多かった。クロスへの入り方を含めて一層フィニッシュへの強
い意識を持ってボックス付近で先手を取れるようにしていきたい。
(2)守備(意図的にボールを奪う)
① 前線からの守備の切り替え
バランス良く攻めることでボールを失っても早く守備のブロック
をつくることを目指した。そのためにボールを失ったら近い選手が
プレッシャーをかけて相手の攻撃を遅らせ、全体が 引くのではな
く、前に出てボールを奪うことを行った。選手たちは十分理解して
前線からの守備を行っていった。すべて相手陣内でボールを奪うこ
とができるわけではないので、ブロック形成から相手に制限をかけ
て追い込んで行くことを狙っていった。ゲームを重ねるたびに守備
は良くなり、FWを含め3ラインでの守備が向上した。
© Jリーグフォト(株)
SBS カップ 2009 国際ユースサッカー・U-18 日本代表 vs U-18 フランス代表より
②自分のラインを超えたときのプレスバック
チーム全体の守備は向上していったが、相手の縦パスをけん制し
ながら出させて、前後のラインで挟み込んで奪う守備は、フラン
ス、メキシコの選手と比べると劣っていた。海外の選手は前方への
アプローチと背後のプレスバックがセットになって身体にしみ込ん
でいる。しかし日本選手は前方への寄せが甘く、自分のラインを
ボールが超えたときにプレスバックする習慣が少ない。相手を意図
的に追い込んでいくために、前方だけでなく背後も含めて個人で守
れるエリアを広くしていくことが必要だと感じられた。
③ 縦ボールに対しての対応
前方からボールにプレスをかけていくためにはディフェンスライ
ンが高くなる。しかしボールプレスが甘ければディフェンスライン
の背後を狙われる。相手がロングフィードする前は、相手F Wより
早く下がり、縦ボールに対してのチャレンジとカバーを正確に行う
ことが必要であった。メキシコ戦ではボールプレスをかけて行くと
背後の意識が薄くなり、シンプルな縦へのフィードでピンチを招く
場面が出てしまった。フランス戦ではある程度修正できたが、意図
的にボールを奪うためにボール保持者に制限をかけて相手の攻撃を
予測し、いかなる状況でもチャレンジとカバーリングを正確に行
い、隙のないチームになっていくことが必要だと思われた。
④ 個でボールを奪う力
コンタクトスキルを含めて個でボールを奪う力は課題だと言える。
相手を近くで取ることを習慣として、ボックス付近ではシュートを
19
うたせずにボールを奪うチャンスを逃さないことを行っていかなく
てはならない。1対 1の応対に関しても連続したプレーになると相手
を離して簡単に前を向かせる場面が出てきてしまう。また、くさび
のボールに対してのセンターDFのボールを奪う回数は海外チーム
との違いがあると言えた。
6. まとめ
AFC U-19 選手権 1次予選まで2カ月になり、チームとして機能
していく段階にきている。8月のSBSカップと9月の仙台カップでは
海外チームとのゲームでチームづくりを行っていきたいと考えてい
る。9月に行われる高円宮杯全日本ユース( U-18)選手権と調整し
ながら両大会を通してラージグループ全体で闘い方を共有し、狙い
とする闘いができる時間を増やしていきたい。選手のチームコンセ
プトの理解度は向上してきており、お互いのコミュニケーションは
深まってきている。目指している形は確実に出てきているので、今
大会の課題を次のキャンプで成果に変えていけるように取り組んで
いきたい。
U -17 日本代表
【報告者】池内豊(U-17 日本代表監督)
国際ユースサッカー IN 新潟/スペイン遠征
国際ユースサッカー IN 新潟
1. 期間・場所
2009年7月14日〜20日/新潟県新発田市五十公園陸上競技場、ス
ポアイランド聖籠、東北電力ビッグスワン
2. チームコンセプト
アクションサッカーの追求
「選手全員がゲームに関わり続ける」〜 全員攻撃・全員守備 〜
<切り替え >
○ボールを失ったらすぐに奪い返す
休まない・守備ラインを下げない
○ボールを奪ったら全員がアクションをすぐに起こす
キーパーキャッチも含め素早くポジションをとる、アクションを
起こす
○セットプレーを早くする、早くさせない
ゴールキック、スローイン、コーナーキック、フリーキックetc
<攻撃>
○攻撃の優先順位を共有
相手ゴールを目指す・前にボールを運ぶ・前線に起点をつくる
○リスクを冒して点を取りに行く
シュートを狙う・クロスの入り方・ペナルティーエリア内での
動き
20
○常に数的優位をつくる
守備のポジションの選手でも効果的に攻撃参加する・選択肢を増
やす
<守 備>
○ポジショニング
それぞれのポジションを早くとり、ボールを奪いに行く・チャレ
ンジ&カバー
○前線からの守備
後ろに人を余らせない・プレスバック
○コンパクト
常にボールにプレッシャーをかける
○リスク管理
相手のカウンターを受けない備え・ポジショニング
<その他>
○プレーを続ける
○自分たちで問題を解決する姿勢を持つ
3. キャンプの狙い
10月に開催されるFIFA U-17ワールドカップ ナイジェリア2009
まであと3カ月となり、8月7日に抽選会があり対戦相手も決まった
(ブラジル、メキシコ、スイス)。世界大会に向けて、新たな選手
の発掘と普段とは違うポジションへの順応を見ることを目的とし
て、この大会に参加した。
目指せ!
世界のトップ
活動報告
10
大会では、試合を通じてチームのコンセプトを理解していくこと
に重点を置いて行った。今回招集した選手は初参加の選手が5人と
その他、招集回数の少ない選手も多く参加したので、新潟選抜、ス
ロバキア代表、メキシコ代表といったそれぞれタイプの違う相手と
の対戦の中で課題と成果を、時間をかけて確認していった。また、
大会前には、U-17北信越選抜とのトレーニングマッチも行い、チー
ムコンセプトの確認を行った。特に最終戦では、世界大会に出場す
るメキシコ代表との試合を、本大会のシミュレーションとして考え
て臨んだ。
4. 成果と課題
最高順位を目指して取り組んだ大会だったが、メキシコ代表に完
敗し、目標を達成することができなかった。また、その試合から多
くの課題を確認することになってしまった。初招集の選手が多いた
め、チームコンセプトを理解し実行していくことに時間がかかった
が、試合を重ねるごとに少しずつ改善が見られるようになった。し
かし、自分たちで問題を解決する姿勢を持って試合に臨むことをス
タッフはサポートしているが、今回の大会ではリーダーシップをと
れる選手がいなく、全体的にチャレンジする姿勢もあまり感じられ
なかった。試合を通して見ていくと前半は消極的な試合運びが目立
ち、後半に改善していくパターンになっていた。
<成果>
・攻撃から守備、守備から攻撃の切り替えの速さは、トレーニング
からの意識付けなどで試合ではできていることが多かった。
・クロスに対して相手ゴール前に入り込む選手の数が多くなってき
ていた。ゴールへの意欲を感じるプレーは増えていた。
<課題>
・中盤や前線で前を向くプレーが少ないときがあり、簡単にボール
を下げてしまうプレーが目立った。
・1対1の守備での粘り強さがないことが多く、簡単に相手に突破を
許す場面が多かった。
・クロスの質や決定機に、確実に得点に結びつけるプレーの質は永
続的な課題である。
5. まとめ
選手の発掘と普段とは違うポジションへの順応を見極めることを
目的にこの大会に参加したが、タイプの違う対戦相手や暑い中での
45分ハーフの試合を3日間連続で行った中でそれを見極めることが
できた。10月の世界大会に向けては予防接種する関係や登録の関係
でこのキャンプが大切な選手発掘の場になった。チームに慣れてい
©J リーグフォト(株)
国際ユースサッカー IN 新潟・U-17 日本代表 vsU-17 メキシコ代表より
ない選手にとっても重要な実践の場であった。この年代のこの時期
には怪我によってプレーができなくなる選手も増えてくる。そのた
めにも選手層を厚くしていくことは不可欠になる。このキャンプ
は、チームの土台をつくっていく上でも重要な位置づけだった。招
集回数の少ない選手の中でもチームコンセプトを理解し、すぐに実
行に移している選手がいた。これが当たり前のようになっていくこ
とこそが日本が世界に打って出ていくための条件と考える。なぜな
らば、ここで言うチームコンセプトは、サッカーのプレーの原則の
追求であるからだ。
スペイン遠征
1. 期間
2009 年 8月5日〜18日
2. 参加大会
VILLAREAL国際ユースサッカー大会
Manel Forne Pons ユーストーナメント
3. チームコンセプト
※
「国際ユースサッカーIN新潟」の項、
「 2.チームコンセプト」と 同様
21
4. キャンプ・遠征の狙い
10月24日にナイジェリアで開幕するFIFA U-17ワールドカップ
に向けて最後の海外遠征となった。本大会 の対戦相手(ブラジ
ル、スイス、メキシコ )も決まり、それに向けてチームのコンセプ
トの徹底を、特徴のある海外のチームとの対戦で確認していっ
た。今回の遠征は 2 週間と少し長い遠征となったが、その期間に
VILLAREAL国際ユースサッカー大会とManel For ne Ponsユー
ストーナメントの 2つの国際大会に参加した。両大会の出場チーム
はいずれもU-18と日本代表より 1 つ上のカテゴリーでの参加で
あった。VILLAREALの大会では、対戦相手がACミラン、レアル・
マドリード、セルティックとそれぞれタイプの違う相手との対戦や
30分ハーフの試合の中で1点の重みを感じながらの試合を経験する
こと、ボール際での激しいプレーを体感する中で自分たちのプレー
を出し切ることを目指していった。
今回の遠征メンバーの多くは遠征前の国内の全国大会に出場して
いた( 1人は高校総体決勝戦まで試合があり、途中から遠征に合
流 )。また、Jリーグも中断時期に入ったことなど、選手全体のコ
ンディションは決して良い状態ではなかった。そのため大会を通し
ながらコンディション調整をしていくことになった。
5. 成果と課題
■ VILLAREAL 国際ユースサッカー大会
選手のコンディションを考えながら、また、選手を試しながら臨
んだ大会であったが、8チーム中7位と決して納得のいく成果では
なかった。30分ハーフの試合でスタートから力を出し切っていく
ことやセットプレーや相手のカウンターに対しての対応、相手に
しっかりと守備組織をつくられたときの崩しなど、課題が多く出
Manel Forne Pons ユーストーナメントより
22
た。GKからの攻撃はスムーズにできていた。ボール際の激しさや
レフェリングに対しては、試合を重ねながらの改善が見られてき
た。攻撃から守備の切り替えの意識は継続してよくなっていたが、
相手の速いセットプレーに対応できていない試合があった。コンパ
クトにしながら相手にプレッシャーをかけることは継続してできて
いた。
■ Manel Forne Pons ユーストーナメント
準決勝は35分ハーフ、決勝戦は45分ハーフで、人工芝での試合
だった。選手のコンディションも良くなり、最初の大会から出てき
た課題も修正できてきた。決勝戦においても90分間集中してゲー
ムができていた。決定力の課題は相変わらずであった。
■遠征を通しての成果と課題
・相手守備組織をしっかりつくられたときの突破やクロスの質・入
り方等は課題が多かった。
・決定力は上がってきているが、特定の選手によるものが多く、全
体の決定力の底上げは課題である。
・セットプレーを含むゴール前の守備に課題があった。
・GKからのビルドアップやボランチを経由しての組み立てはできて
いる試合が多かった。
・攻撃から守備の切り替えの意識や全体の守備意識は上がってきて
いる。
6. まとめ
本大会まであと2カ月に迫り、対戦相手も決まりチームの目標も
明確になってきた。その中での遠征で、はじめの大会では多くの課
題を確認することができたことは良かった。大会方式(30分ハー
フ、夜11時キックオフ )、対戦相手、レフェリ
ング(アドバンテージを大切にする)等、すべ
てがわれわれにとっては良い経験になった。選
手はしっかりとその経験をこの遠征期間中に自
分たちの力として変えてくれた。特に順位決定
戦では、消化試合にならず自分たちで問題を
解決する姿勢を持って試合に臨んでくれた。2
つ目の大会でもその姿勢を継続し、より集中し
チームコンセプトを実行に移していってくれ
た。
本大会に向けてはわずかな準備期間しかない
が、怪我などのアクシデントも出てくることが
考えられる。この大会でつかみとった自信と自
分たちで問題を解決していく姿勢を前面に出
し、本大会に臨むことが大切であろう。
目指せ!
世界のトップ
活動報告
10
U -16 日本代表
第10回豊田国際ユースサッカー大会
1. 期間・場所
2009 年 8月3日〜 9日/豊田スタジアム(愛知県)
2. チームコンセプトと狙い
「 攻守において全員が関わりゲームの主導権を握る」
<攻撃>
自陣からの組み立てを大事にしながら素早くボールを動かし、相手
の隙を突いてゴールを目指す
<守備>
常にコンパクトに保ちながら高い位置で守備をする
<狙い>
アジア、世界のサッカーを体感し、自分たちの位置を確認する
3. 成果と課題
<成果>
・ GKを含めてのビルドアップは意識して取り組め、自陣から自分
たちでボールを失わずに運ぶことを全員が共通のもとにチャレン
ジできていた。その結果、3試合を通してある程度自分たちが
ボールを支配しながらゲームを進めることができたのではないだ
ろうか。
・中盤のエリアでの素早いボールの動かしから相手の隙間を突いて
ゴールへ向かうことを意図的に表現できたシーンがあった。
・ディフェンスラインをコントロールし、コンパクトにしながら全
員が共通の意識のもと守備がチャレンジできた。奪われた瞬間か
らボールにアプローチし、下がらずに前に出て守備をすることで
より相手ゴールに近い位置でボールを奪うことができ、実際に得
点に結びつけることができた。
<課題>
・ボールを失わないことにこだわりすぎ、効果的にカウンターをし
かけることができなかった。
・ビルドアップの際に判断が遅く、相手のプレスを受けて失う場面
があった。
・ボランチの攻撃参加は意識してチャレンジできていたが、アタッキ
【報告者】大熊裕司(U-16 日本代表監督)
ングエリアに進入してか
らのプレーの質、精度が
低かった。
・ゴール前の動きの質、プ
レーの判 断、精 度が低
かった。
・グループ( 2、3人)
で攻撃
することがあまり整理され
ていなかった。
・攻守において 1 対 1 の局
面で物足りなさを感じ
た。
・切り替えがまだまだ遅い。
© Jリーグフォト(株)
第10 回豊田国際ユースサッカー大会・
U-16 日本代表 vs U-16 韓国代表より
4. まとめ
今回参加した選手の中で国際大会、もしくは海外のチームと試合
をしたことのある選手が 2、3人ほどであった。まずはこの年代で
このような国際ゲームを体感できたことが何よりの収穫であったと
思う。代表未経験の選手が大半だったので選手が硬く、自分を表現
するのに時間がかかり、最後まで力を出せないでいた選手もいた。
大会が始まるまでの時間がもう少しあるとトレーニングのことも含
めて良かったのではないかと感じた。
攻守に関わって自分たちが主導権を握ってゲームを進めることを
テーマとして取り組んだ。ある程度は表現できていたが、もっと運
動量を増やし、常に良い判断のもと高い技術を発揮できるように
なっていかなければならないと感じた。またチャンス、ピンチを感
じ取り、スピードが上がる選手がまだまだ少なかった。そういった
点ではメキシコの選手たちは見習うものがあった。
メンタリティーの強さでは、韓国、メキシコに劣っていたと思
う。もっと強い気持ちでゲームに挑めるように普段のトレーニング
から競争心を持って取り組めるようにならなくてはならない。最後
のメキシコ戦はまさにそこの差が勝敗のウエイトを担っていたよう
に思う。われわれ指導者もそのような環境づくりを大切にしなけれ
ばいけないと再認識させられた。
1週間という短期の代表活動であったが、選手が積極的に取り組
んでコンセプトを共有しながらチャレンジしてくれたことに感謝し
たい。ここでの経験を今後のナショナルトレーニングキャンプ U-16
や自チームでの活動に生かしていってもらいたい。
23
活動報告
JFA GK プロジェクト
JFA Goalkeeper Project
since 1998
© Jリーグフォト(株)U-18 日本代表、SBSカップ 2009 国際ユースサッカーより
U -20 日本代表
今号では U-20日本代表ほか各カテゴリー
日本代表チームの報告をお送りします。
韓国遠征(水原国際ユース(U-20)
フットボールトーナメント)
スペイン遠征(アルクディア国際ユーストーナメント2009)
【報告者】加藤好男(U -20 日本代表 GK コーチ/韓国遠征)
、柳楽雅幸(U -17 日本代表 GK コーチ/スペイン遠征)
韓国遠征
1. 大会概要
水原国際ユース(U - 20)
フットボールトーナメントが 8月2日〜 6
日まで、韓国・水原市で開催された。参加国は韓国をはじめ、エジ
プト、南アフリカというFIFA U - 20ワールドカップ エジプト2009
に出場するチームと日本の 4カ国であった。
同大会に向けた準備の一環で強化を目的とした他国に対して、
日ごろ高いレベルでの試合が不足している日本選手の経験、自己
啓発の場としてA代表の岡田武史監督の下、同代表と同じコンセプ
トで大会に臨んだ。
日本の選手たちは同世代の各国選手らに対して、それぞれの差
や現時点での「 何が通用して、何が通用しないか… 」といったこと
を体験することができた。
2. 試合結果
8月2日 第1戦 vs エジプト ● 0 -1 GK:増田卓也
4日 第2戦 vs 南アフリカ ○ 6-2 GK:大谷幸輝
6日 第3戦 vs 韓国 ● 1- 2 GK:増田卓也 第 3 位 1 勝 2 敗( 総得点 7、総失点5 )
カウンターへの備え
〔攻撃〕
ゴールを目指す、シュートをうつ
シンプルにボールを動かす、パススピード
パス&サポート、e t c
リスクを冒す勇気、シュート、クロス、
ゴール前の動き直し、et c
〔 攻守の切り替え〕ボールを奪われたら、奪い返す
5.GK トレーニング
●シュートストップ
アングルプレー、ミドルレンジからのシュート対応、キャッチン
グ・ディフレクティングの判断と弾くプレー
●ブレイクアウェイ
スターティングポジション、DFとの連携、1対1の対応
●クロス
出る・出ない、つかむ・弾くかの判断と弾くプレー、アーリーク
ロスへの対応、DFとの連携
●ディストリビューション
各種キック、スローインなど
●フィールドプレー
バックパスへの対応、フィールド選手との合流
3. 招集 GK
●大谷幸輝( 浦和レッズ )
1989年 4月 8日生 185 cm/80kg
●増田卓也(流通経済大学)
1989年 6月29日生 183 cm/77kg
4. チームコンセプト
全員攻撃、全員守備で、攻守にわたりアグレッシブにハードワーク
する。
得点をするためにゴールを目指し、相手ボールを奪う。
1対 1で負けない!
〔守備〕
ボールへのプレッシャーとカバーリング
24
© Jリーグフォト(株)水原国際ユース(U-20)フットボールトーナメントより
活動
報告
●セットプレー
CK、FK対応、DFとの連携
JFA Goalkeeper Project
JFA GK プロジェクト
スペイン遠征
6. 成果
1. 招集 GK
・A 代表と同じコンセプトの下、同世代のFIFA U-20ワールドカッ
プ出場国と真剣勝負を経験できたこと。
・試合の中で選手個人が、何が通用して、何が通用しないかを経験
し、それをまた、次のトレーニング・試合に取り組み、チームの
勝利へ向けて貢献したこと。
・シュートストップ、ブレイクアウェイ、クロスなどGKトレーニン
グテーマに関して積極的に取り組み、試合で結果を出したこと。
・日ごろ90分の試合が不足している中で、この大会を通じて高いレ
ベルの中、タフな試合を経験できたこと。
●松本拓也(順天堂大学)
1989年 2月 6日生 183cm/76kg
●大畑拓也(ジュビロ磐田)
1990年 5月28日生 178cm/72kg
7. 課題
・各選手とも本人の持ち味である長所を発揮した直後に、あまりに
も軽率なミスをしてしまうこと。また、それを試合で繰り返して
しまうこと。
・試合の中で、スキルの発揮する判断や決断を躊躇してしまうこと。
・個々のスキルをレベルアップすると同時に、試合や試合形式の練
習においてDFとの連携やそれぞれのスキルの選択と判断力を共に
向上させること。
・体幹を中心とした筋力アップとGKプレーにおけるパワーアップ、
GK 姿勢の維持やプレー方向の安定など。
8. 今後の展開
次のスペイン遠征(次項参照)に向けて、韓国で経験したことを
持続、継続させなければならない。また、この世代が世界大会出場
を逃したことで2012年ロンドンオリンピック出場に向けて継続した
強化プランおよび国際経験を積み上げていくことなどが重要とな
る。スペイン遠征の後、チームならびに各選手が得た経験を分析し
て、韓国遠征と比較検証をしながら戦力評価をすること。また、J
リーグや大学などからこの世代の選手をリサーチしてラージグルー
プを作成し、コアメンバーとなるべく選手を追跡調査することなど
が挙げられる。
U-18 日本代表
2. 試合結果
〔グループリーグ〕
8月14日 vsレバンテ ○ 2-1 GK:松本拓也
16日 vsブラジリア州選抜 △ 1-1 GK:松本拓也
18日 vsビジャレアル ○ 4-1 GK:松本拓也→
56分大畑拓也
〔 準決勝〕
20日 vs バレンシア ●2-3 GK:松本拓也
〔 3位決定戦〕
21日 vsビジャレアル ○3-2 GK:大畑拓也
3. 成果と課題
日本では試合経験の少ない選手もいたが、今回ヨーロッパの強豪
と短期間ではあったものの、緊迫した試合ができたことは非常に良
かったのではないだろうか。
速い切り替えや、攻守においてハードワークは当たり前で、その
中でGKがいかに関わりを持ってプレーするのかが重要である。緊
迫した試合の中で互角に闘っていても、1つのミスが失点につな
がってしまう。GKとして、DFとの連携をさらに密にしなければな
らない。長身の相手でも、セットプレーから得点できたことは、高
い戦術理解力があったからであろう。
4.GK からの攻撃参加
●予選リーグ第3戦 日本 66% vs ビジャレアル 60%
●準決勝 日本 70% vs バレンシア 41%
● 3 位決定戦 日本 50% vs ビジャレアル 25%
SBS カップ 2009 国際ユースサッカー
【報告者】川俣則幸( U-18 日本代表 GKコーチ)
1. 期間・場所
2009年 8月17日〜 25日
静岡県静岡市、藤枝市、掛川市、Jステップ
2. 参加 GK
●荻野賢次郎(京都府立峰山高校)
1991年 9月14日生 187cm/76kg
●中村 隼(浦和レッズユース)
1991年11月18日生 183cm/77kg
3. 合宿のテーマ
合宿では、これまでのチームコンセプト:「人とボールが動くこ
と」「攻守にハードワーク」をより浸透させ、攻守にコンビネー
25
ションの向上を図り、静岡ユース、U-18メキシコ代表、U-18フラ
ンス代表を相手に、大会の真剣勝負の中でそれらを発揮できるかに
取り組んだ。
GKもゲームの中で育成年代のテーマである「良い準備 」「 積極
的かつ堅実な守備 」
「 DFとの連携 」
「効果的な攻撃参加 」に取り組
みつつ、特に「 DFとの連携 」の中でDFを指示して動かし、特に縦
へのロングパスをしっかり守ること、またDFと連携してもうたれ
てしまうシュートやクロスに対応すること、さらにセットプレーの
守備の強化とゲーム状況に応じた「効果的な攻撃参加」にトライし
た。
4. トレーニング
大会に入る前に6 回のトレーニングと静岡産業大学との練習試合
を行った。GKのトレーニングとしては、これまで取り組んできた
ポジション移動からのシュートストップと、パス&サポートの確
認、クロスの守備範囲拡大に取り組んだ。また、GKだけでなくグ
ループとして、守備ではDFのラインコントロールやボールへのプ
レスのかけ方の確認を行い、攻撃ではGKを含めたビルドアップを
行い、試合の中で攻守にわたり効果的にプレーすることに取り組ん
だ。
また、大会を前に攻守両面のセットプレーの確認を行い、基本的
なことができつつある中で、さらに質の向上に取り組んだ。
23日 vs U-18メキシコ代表 △1- 1 PK7- 6
GK:中村隼
25日 vs U-18フランス代表 △1-1 PK4-3
GK:荻野賢次郎
6. 今後に向けて
海外の同世代のチームと戦い、PK戦ではあるが勝利できたこと
は今後の自信としてほしい。しかし、試合時間の中で勝ちきれな
かったことは今後の課題である。大会中の3失点はすべて自分たち
のミスから失点していることは反省しなければならない。互いにコ
ミュニケーションをとり、しっかり連動したプレーをし続けるこ
と、その質の向上への取り組みを継続していきたい。こうした真剣
勝負の国際試合で個人の課題に取り組めたことは評価できる。この
姿勢を今後も継続してきたい。特に、GKからの攻撃参加の場面
で、縦にロングパスを蹴らなければいけない場面ではキックの精度
を求めたい。また、GKグループとして互いが競い合う環境が継続
していることは良いことである。各選手がさらに成長し、レベル
アップを図ることを期待したい。
5. 試合
〔 練習試合〕
8月19日 vs 静岡産業大学 ○ 3-2(45分×2 )
GK:中村隼、荻野賢次郎の順番でプレー
〔 SBSカップ 〕
(40分ハーフ)
8月22日 vs 静岡ユース ○ 6 -1
GK:中村隼 → 74分、荻野賢次郎
U -17 日本代表
© Jリーグフォト(株)SBS カップ 2009 国際ユースサッカーより
国際ユースサッカー IN 新潟
スペイン遠征
【報告者】柳楽雅幸(U-17 日本代表 GKコーチ)
国際ユースサッカー IN 新潟
(7月14日〜20日)
10月に開催されるFIFA U-17ワールドカップ ナイジェリア 2009
に向けて、国内で実施される最後の国際大会を新潟で行うことがで
きた。
1. 招集 GK
●松澤香輝(流通経済大学付属柏高校)
1992 年 4月 3日生 182cm/75 kg
●松原修平(コンサドーレ札幌ユースU-18)
1992年 8月11日生 183cm/84kg
26
2.GK テーマ
①積極的なゴールキーピング
②状況に合ったビルドアップとパス&サポート
③攻守においてGKが関わりを持つ
④トレーニングから本気モードで全力を尽くす
『練習は試合のように、試合は練習のように 』
3. 試合結果
〔 練習試合〕
7月16日 vs U-16北信越選抜 △3 - 3 PK 4-2
GK:松澤香輝→松原修平→松澤香輝
活動
報告
JFA Goalkeeper Project
JFA GK プロジェクト
〔 大会〕
18日 vs U-17スロバキア代表 ○ 3 - 0
GK:松澤香輝
19日 vs U-17新潟選抜 ○ 6 -1
GK:松澤香輝
20日 vs U-17メキシコ代表 ●1- 3
GK:松澤香輝
4. 成果と課題
常に本気モードでプレーすることを伝える。練習、試合において
もGKが常に関わりを持ってプレーできるようにならなければなら
ない。そのためにも、GKからのコーチングが重要になってくる
が、DFに伝え切れていないために大きなミスにつながってしまう
ケースが見られた。
シュートストップにおいては、ダイナミックなセービングで対応
できる場面も見られたが、つかむ・弾くの判断があいまいなため、
ミスを冒す場面も見られる。
クロスの処理においても、積極性が見られず、守備範囲が狭く、
また対応が遅れてしまうこともある。
パス&サポートのポジション取りができていない(意識をするこ
とにより、改善が見られる)。
ディストリビューションにおいても、いつ、どのタイミングで観
るのかができていない。また、GKからの有効的なフィードができ
ていなかった(GKミーティングでVTRなどを使い改善を図る)。一
つ一つの積み上げがいかに大切なのかが、理解できたのではないだ
ろうか。
スペイン遠征( 8 月 5日〜18日)
VILLAREAL 国際ユースサッカー大会
( 8日〜11日)
Manel Forne Pons ユーストーナメント
(15 日、16日)
10月に開催されるFIFA U-17ワールドカップ ナイジェリア 2009
に向けて、最後の海外遠征(スペイン )を行うことができた。
1. 招集 GK
●嘉味田隼(ヴィッセル神戸ユース)
1992年 1月17日生 183cm/80 kg
●渡辺泰広(アルビレックス新潟ユース)
1992年10月4日生 180 cm/70 kg
2.GK テーマ
●積極的なゴールキーピング
●攻守に関わり続ける
●DFとの連携を密にする
●本気モードで闘う
『 今まで積み上げてきたものをピッチの中で表現する 』
© Jリーグフォト(株)国際ユースサッカー IN 新潟より
3. 試合結果
VILLAREAL 国際ユースサッカー大会
8月 8日 vs ACミラン ●0-1
GK:嘉味田隼
9日 vs レアルマドリード △2- 2
GK:嘉味田隼
10日 vs セルティック ●1- 2
GK:渡辺泰広
11日 vs ビジャレアル ○5 - 0
GK:嘉味田隼
( 練習試合)
13日 vs TOLUTOS ○7-1
GK:渡辺泰広
Manel Forne Ponsユーストーナメント
8月15日 vs ラピテンカ ○4 - 0
GK:嘉味田隼
16日 vs デポルディボ・ラコルーニャ ○3-0
GK:嘉味田隼
4. 成果と 課題
ヨーロッパの一流クラブとのゲームでも、引けをとることなく
堂々と闘っていたが、勝ちに結びつける決定的な仕事を、いつ、と
こで、どのように行うことが重要なのかを学んだ大会でもあった。
事前の良い準備が重要であり
(スターティングポジション含む )
、
また、状況に応じた判断スピード、DFとの連携が重要である
(コーチ
ングも含む)。また、どのチームにも、F Kのスペシャリストがいる
ため、特にゴール前での無駄なファウルを犯さないことが大切であ
る。
ディストリビューションにおいては、高い意識を持って取り組んで
いたが、相手に早くブロックを形成されると、味方には正確につな
がるが、有効なフィードにはなっていなかった。逆にフィードミスが
失点につながる。守備においてGKを中心に我慢のディフェンスがで
きる時間帯が長くなってきた。さらに質を高めていきたい。
27
JFA
アカデミー
© AGC/JFA news
男子 【報告者】井尻明(JFA アカデミー福島男子アシスタントコーチ)
私が JFA アカデミー福島に来て 4 カ月が経過しました。去年、
公認 S 級コーチ養成講習会でアカデミーに関して学び、体感させて
もらいました。しかし、まだまだ知識が乏しく、この 4 カ月間は毎
日が講習会の続きのようです。アカデミーのフィロソフィー『常に
(どんなときでも、日本でも海外でも)ポジティブな態度で何事に
も臨み、自信に満ち溢れた立ち居振る舞いのできる人間を育成する』
のために、私自身が常に学んでいかなければならないと痛感してい
ます。
私は今、アシスタントコーチとして 4 つのカテゴリー(U-13・
U-14・U-15・U-16)を日替わり、週替わりで監督のサポートをし
ながら、選手と一緒にトレーニングに参加することもあります。そ
こで今回は、ピッチ上で私がこの 4 カ月で学び、感じたことを、サ
ポートする時間が一番多かった U-13 のカテゴリーについて書きた
いと思います。
質を高める
アカデミー入校直後の選手たちを見てみると、攻守においてアグ
レッシブなプレーが多くあり、何よりボール扱いが非常に上手だと
感じました。さすが難関を突破して、強い気持ちを持って集まった
精鋭だと感心しました。
しかし選手たちにとって初めての試練が始まります。アカデミー
のトレーニングコンセプトの核となる「動きながらプレーする」こ
とです。アカデミーでは、どのカテゴリーでも「常に動きながらプ
レーする」ことを習慣化し、その質を高めるために毎回トレーニン
グしているといっても過言ではありません。入校してきた選手たち
に、常に動きながらプレーすることを要求すると、途端にミスが目
立ち始めます。そのミスの原因としては、当然ながら止まった状態
でのプレーよりも、動きながらの方が、技術の発揮も、判断してプ
レーすることも難しいことは言うまでもありません。さらに、動き
続けることで心拍数が上昇します。心拍数が上がった状態(個人差
はあるが約 140 〜160拍/分)でのプレーは、身体を思うように動
かせなくなり、集中力が散漫になる、ということでミスが増えてし
まいます。そこでアカデミーでは、ボールに寄ってパスを受ける、
パスをしたら動く、これらをやり続ける、というトレーニングメ
ニューが必然的に多くなります。
かべ打ち
アカデミー福島での代表的なドリルトレーニングを一つ紹介しま
28
す。壁に向かってボールを蹴り、跳ね返ってきたボールをまた蹴り
返す。その繰り返しの
「かべ打ち」
です。練習場の壁にはサッカーボー
ルと同じくらいの大きさのマークがペイントされています。この
マークを狙い毎回ボールを蹴ります。壁から約 6mにラインがあり、
このライン上でボールと出合うように、常に細かいステップを踏ん
で、ボールに寄りインサイドキック、少しバックステップし、そし
てまたボールに寄ってインサイドキック、その繰り返しです(細か
いステップを踏むのは、ゲーム中と同じく動きながらのキックの反
復をするため。ボールに寄るのはインターセプトされることを防ぐ
とともに、パスを受けた後のスピードアップにつなげるため)
。こ
のエクササイズを15分から30分間休みなく続けます。
ある選手(中学 1年)のキック回数を数えてみると約 50 回/分
でした。10 分間で約 500回にもなります。心拍数は約 150 拍/分
でした。私も実際に選手と一緒にやってみましたが、
1 回 1 回のキッ
クに対して細かいステップで足を運び、正確にボールを蹴るポイン
トを微調整しながら行うことは、想像以上に負荷が掛かり、10 分
もしないうちに息が上がって大量の汗が噴き出してきました。1タッ
チオンリー、2タッチオンリー、2人組で行うなどバリエーション
はいくつもあります。
しかしコーチの要求は「質」の部分です。以前このコーナーでも
取り上げられていた「本当の反復」を続けなければ意味がありませ
ん。非常にシンプルなトレーニングですが、技術と持久力が向上す
ることは間違いないと思います。
もう一つ、
「観て判断する」こともアカデミーの重要なファクター
です。コーチが DF 役になって邪魔をしに行き、選手たちはそれを
観てボールを奪われない方向にコントロールし、またキックを続け
ます。単純なエクササイズの中にも「 判断を伴う」動作を入れるな
どの工夫をしながら行っています。
「世界基準の個の育成」のために
選手たちの成長には驚かされます。顔をゆがめながらやっていた
「かべ打ち」も 4カ月経った今では、
ミスが起きる回数もだいぶ減り、
たくましく反復できるようになってきました。しかしまだ始まった
ばかりです。これからも『世界基準の個の育成 』のために、
「常に
動きながらプレーする」ことを要求し続けます。世界に打って出る
ために、土台となる「質」を高めます。それはこの年代でしか身に
つけられないものだからです。
女子 【報告者】沖山雅彦(JFA アカデミー福島女子コーチ)
高校生(U -18)の 1学期を振り返って
JFA アカデミー福島女子が中高 6 学年そろい、2 年目の 1 学期が
終了しました。コーチ就任 2 年目になる私も、
今年度は高校生
(U-18)
のトレーニングをメインで担当しています。なでしこジャパンの一
員として世界の頂点に立てる選手、真のリーダー的存在になれる人
材を育成することを目標に、世界基準の視点に立ち、選手たちとと
もに挑戦し続ける毎日です。今回の報告では、
高校生(U-18)トレー
ニングのテクニカル面について、1 学期の取り組みを振り返ってみ
たいと思います。
基本の反復
中学生年代からアカデミーとして、日々取り組んでいるトレーニ
ングは、①動きながらのテクニック、②動きの習慣化、③状況を観
る・判断する、という基本を軸に行っています。それらを踏まえて
高校生年代では、ゲームの勝敗にこだわりながら、チームの中で個
のスキルを発揮してどう戦っていくかを学んでいきます。かといっ
て、基本のトレーニングがもう卒業というわけではありません。よ
り正確により速くプレーするために、基本の軸をぶらすことなく、
毎日継続的に取り組み続けなければなりません。高校生年代のト
レーニングでもウォーミングアップを兼ねたパス&コントロールや
ポゼッション、2 対 1 などのトレーニングを反復することにより、
基本の習慣化を目指しています。
優先順位を意識しながらの組み立て
アカデミーの試合を視察したコーチたちから「ボールをよくつな
いでいるけど怖くないね」という意見が多く聞かれます。しっかり
とボールをポゼッションしながら攻撃するということが主になって
しまい、
「点を取る」という本質がプレーアクションから消えてし
まう。プレーアクションはトップも中盤も全員がボール保持者に向
かって来るものとなり、肝心なゴールを目指すアクションが少ない
ことがよくあります。そこで、ポゼッションドリルのオーガナイズ
にゴールや突破、攻撃方向の条件を加えたトレーニングを多く行っ
ています。その中で、常に相手 DF の背後を狙う(出し手も受け手
も)
、縦パスを狙いながら出せないときに横パスをつなぐ、左右の
広がりを意識しながら相手のギャップを突いていくプレーの習得に
トライしています。当然、
パスの受け手は動きながらスペースでボー
ルと出合うことが必要となります。プレッシャーが強い男子チーム
と対戦すると、ディフェンスラインでの横パスから GK へのバック
パスが多くなり、慌ててボールを奪われて失点する場面がまだ目立
ちますが、今後もこの課題に継続的に取り組んでいきたいと思って
います。
2 対 1 の状況をつくり出して崩す
攻撃をスピードアップさせ、相手を崩しきるためには、数的優位
な状況( 2 対 1 )
をつくり出し、選択肢を多く持つことが大切です。
そのためにはボールを持っていない選手が積極的にボールを追い越
して関わる動きが不可欠で、ボール保持者はどこに向かってしかけ
ていけば 2 対 1 になるかを感じ取らなければなりません。数的優位
な状況をつくり出せれば、ボール保持者はドリブル orパスの判断が、
ボールを持っていない選手は動き出しのタイミングとコースが重要
になります。相手の逆を取るために相手の変化を見極める判断力と
実践するためのスキルを日々追求しています。また、相手 GK に対
しても「 2 対 1をつくれ 」と 強調しています。GKと 1 対 1 になる
場面でも、ボールを持っていない選手が積極的に関わることにより、
ボール保持者にシュート or パスという選択肢が生まれ、相手 GK
の判断を迷わせ、より確実に得点を奪うことができるからです。
ペナルティーボックス内攻略の工夫
「JFA 女子テクニカルレポート 2009 」で報告されているように、
Japan's Way「攻守にアクションするサッカー」を確立するために、
育成年代で取り組むべき課題の一つに「ゴール前の攻防」がありま
す。また、
得点のほとんどがペナルティーボックス(以下、
ボックス)
内からのシュートであることを考えると、攻撃においてボックス内
に進入することがいかに重要かということが分かります。しかし
ボックス付近は相手も強固な守備ブロックを形成してきますから、
簡単にはシュートをうつことはできません。また、世界を相手にし
たときゴール前に上げるだけのクロスボールは簡単に弾き返されて
しまいます。そこで、いかにボックス内でフリーでシュートをうて
る選手をつくり出せるか。中盤での組み立てと同じように、動きな
がらスペースで人とボールが出合えるような攻略方法の工夫にトラ
イしています。低くて速いクロスボールを GK の前で合わせること
はもちろん、ワンツーでの突破やドリブルで切り込みマイナスのパ
スを送る方法など、選択肢を多く持たせるようにさせています。ま
た、特に強調しているのは、決定的なチャンスをつくれそうなとき
には必ずゴール前に 3 人は入り込むということです。そのためには、
時にはリスクを冒すようなダイナミックな動きと運動量が求められ
ますが、世界基準でゴールを奪うためには必要不可欠な要素だと思
います。
マンツーマンディフェンスからの取り組み
守備としては、相手ボールになった瞬間に、相手の攻撃の選択肢
を制限し、守備ブロックを形成してゴールを守りながらボールを奪
うことを試みています。しかし守備の個人戦術が習慣化されておら
ず、組織をつくろうとしてはいるものの、肝心なゴール前でフリー
な選手をつくり出してしまったり、1 対 1 で簡単に抜かれてしまう
ことによる失点が多くありました。どんなに組織的な守備ブロック
を形成したとしても、個での守備力が弱ければ組織は簡単に崩壊し
29
てしまいます。そこで今年に入ってから、それぞれのプレーに責任
の所在を明確にしながらコーチングすることを行ってきました(詳
細は前号参照)
。その一つの方法として、ポゼッションやゲームの
中で「マンツーマンマーク」の条件で守備を行わせ、責任の所在が
明確になる中で「 正しいポジション」や「チャレンジの優先順位」
「チャレンジ&カバー」といった基本戦術を習得することに取り組
んでいます。
JFA の指導指針にもある通り、16歳年代からは前育成年代では
なく育成、つまり大人のサッカーへの入り口となります。ゲームで
の勝敗にこだわりながら、勝利するために何が必要かを認識して、
課題に取り組んでいかなければなりません。そのためには拮抗した、
あるいはチーム力が上の相手との試合経験が不可欠です。アカデ
ミー女子の高校生(U-18)では、男子高校生やなでしこリーグチー
ムとの練習試合を定期的に行うことにより試合環境をつくり出して
います。しかしこれは公式戦ではありません。勝敗により順位が変
動する公式戦。すなわち拮抗したレベルのリーグ戦環境を整備して
いくことも、これから指導者として取り組んでいかなければならな
い課題の一つだと言えます。
熊本宇城 【報告者】瀧上知巳(JFA アカデミー熊本宇城コーチ)
開校からの 4カ月を振り返って
JFA アカデミー熊本宇城が開校して 4 カ月が経過しました。週末
帰省型の新たなスタイルで、すべてが前例のない手探り状態でのス
タートでした。開校前、さまざまな不安が先行し、雑音が飛び交う
試行錯誤の日々でした。不安で消極的な考えや行動に陥りかけた私
に、元気と勇気を与えてくれたのが 13 名のアカデミー生でした。
それは前進するエネルギー源となってくれました。常にプレーヤー
ズファーストと地域貢献を念頭に置いて取り組んできました。特に
子どもたちが通う小川中学校と宇城市とは連絡を密に取り、話し合
評価は難しさがあります。試合を見る中で、フルピッチの 11 人制
は U-13 のこの年代にとっても、ピッチが広すぎてボールに触る回
数が少な過ぎ、テクニックは身につきにくいと感じています。しか
し、フィジカル面では VMA(有酸素性最大スピード)数値が選考
試験時より向上しました。
私はこれまで 16 年間、高校サッカーの指導に携わってきました。
特に九州という地域は高校サッカーの実績が高く、その分影響力も
大きいです。ジュニア、ジュニアユースのトレーニングや大会等を
いの場を設けて共に協調・協力しながら歩んできました。それから
大きな問題もなく夏休みを迎えることができました。このプロジェ
クトに関わっていただいた関係者と保護者に対して感謝の気持ちで
いっぱいです。
生徒は金曜日に帰省し、週末を所属チームで活動、日曜日に帰寮
します。われわれがホッとする瞬間です。心配された所属チームで
の人間関係等も良好で元気に活動しています。週末はわれわれス
タッフも分担して各クラブを訪問し、トレーニングまたはトレーニ
ングマッチを視察しています。国内の各クラブが抱える問題は多岐
にわたっています。トーナメント文化や部活動としての影響で、練
習量や試合数がどうしても休日(週末、連休、長期休暇)に集中し、
過多になりがちな状況があります。世界と闘うためにはリーグ文化
の定着と育成の観点から改善が急務です。現状では、一日の拘束時
間が長いために選手もコーチも疲れ果て、プレッシャーの厳しさ、
コントロールやパスの質、運動量を上げることが難しい中でゲーム
を消化し続けることになりがちです。クリエイティブな選手が育っ
ていく環境とはなりにくい現実があります。
月曜日から金曜日まで週 5 回のトレーニングであるが、月曜日は
週末の活動状況に応じて参加者と内容をコントロールしています。
13 名という少ない人数の中で、日本の課題である動きながらのテ
クニックの獲得を目指して働きかけを行っています。意識付けはで
きてきましたが、習慣化には至っていません。ゲームパフォーマン
スについては所属チームが違い、コンセプトも異なるため、現状の
視察すると、高校サッカーのミニチュア版が多く見られ、高校サッ
カーにかかわった一人として責任を感じると同時に、各年代で取り
組むべきことの違い、前育成(U-15)と育成(それ以降)の区別を
しっかりと認識し伝えていく必要性を感じています。
ジュニア年代の指導者と話をすると、クラブの経営上、どうして
も勝利至上主義になってしまいがちな現状がある事実を認めていま
す。どんなに良いサッカーをしても、負ければ評価されない現実が
そこにはあります。勝ちにこだわることは当然ですが、何を最優先
にして勝利するかが問題です。その年代に獲得させるべくテクニッ
クを忘れてはなりません。望ましい育成とサッカーをさせている
チームは勝敗に関係なく、高く評価されるべきです。熊本にはすば
らしいコンセプトで育成しているクラブがたくさんあります。試合
結果だけでなく、育成の取り組みが正しく評価されるべきであり、
メディアで取り上げられるようにするなど、工夫も必要と考えます。
アカデミー熊本宇城にはこの 4 カ月間に九州各県のトレセンチー
ムや指導者の方々が多く訪れ、練習会や講習会が行われました。ま
た、地元の小川中学校との合同練習、宇城地区トレセン、近隣の幼
稚園との交流会、公認 C 級コーチ養成講習会なども実施されました。
JFA の発信を正しく理解してもらう上で最適な環境であり、今後も
有効活用していただきたいと考えています。
最後に、小川中学校サッカー部の全国大会出場を心から祝福し、
これからも良好な関係を保ち、お互いに刺激し合いながら成長して
いきたいと思います。
30
【報告者】鎌田安久
(JFAインストラクター)
ポ ゼッション
第18回
お気に入りの理由
この「ポゼッション」のトレーニングには、日本サッカー界の長
期的課題であるサッカーの基本の要素がたくさん詰まっているから
です。すなわち動きながら、状況の変化を観て判断し連携して、正
確に技術を発揮することを連続することが必要になっています。
特に必ずパスしたら動き(パス&ムーブ)
、DF の変化や混乱を誘
発させ、その変化を周囲の味方が観て連携をとってポジションのバ
ランスをとる(スペースをつくり・使う)ことが要求されます。また、
サッカーで重要な守備から攻撃への切り替えの速さも要求されます
© Jリーグフォト㈱
し、攻撃から守備への切り替えに対する働きかけも重要となります。
前回の「ポゼッション 4 対 2 」と比較すると、6 対 3 では相手と
味方が増えることで、当然観ておくところが増え、攻守に連携をと
らなければならない味方も増え、難易度が高くなります。また、4
対 2 の攻撃でしっかりとポジショニングを押さえた上で、6 対 3 で
もやみくもに動くのではなく、まずはしっかりとポジションのバラ
ンスを理解させましょう。特に中央のポジションにピボットプレー
ヤーが入ることで厚みが増し、共有すべきギャップも増え、より実
戦における中盤でのゲーム展開に近くなります。
ポゼッション 6 対 3
〔オーガナイズ 〕
(1)大きさ 〜 20m 〜×〜 20m 〜
長方形にして幅や厚みといった方向を意識させることもできます。
(2)用具 マーカー、ボール、ビブス( 3 色× 3 枚 )
(3)方法 ① 3 色 3 人組をつくる。
②グリッド内で 2 色× 3人、計 6人でボールをポゼッションする。
1色× 3人が守備をする。
③ボールを失った(奪われた)色の 3人が守備者になる。
④パスをしたら必ずポジションを移動し、スペースを空ける。
〔オプション〕
●ピボットは入れ替わる ● 3 色× 2人組対 3(6 対 3)
●同色へのパスなし(同色同士でもワンツーパスが成立すれば OK) ●リターンパスなし
〔キーファクター〕
●観ておく ●ポジショニング ●パス&ムーブ ●ボールの移動中も観る→状況の変化を読み取る
●スペースをつくる、使う ●パスの質(方向、強さ、タイミング) ●ボールに寄る
●動きながらのコントロールの質 ●ギャップの共有 ●攻守の切り替え
<攻撃>
●動きながら、観ながら判断しプレーする(相手・味方・スペースの変化・ボール) ●パスを出したら意図的に動く
●状況の変化に味方と連携して対応する ●ギャップを常に狙っておく ●パス・コントロール・サポートの質にこだわる
<守備>
● 3人で連携して意図的に相手の選択肢を奪い、積極的にボールを奪いに行く
●ボールに近いものから奪いに行く(ファーストディフェンダーの決定)
<切り替え>
●守備から攻撃への切り替えでは、素早くポジショニングの連携を図る
●攻撃から守備への切り替えでは、素早くボールを奪い返しに行く(ファーストディフェンダーの素早い決定)
31
©AGC/JFAnews
トレーニングの発展
【報告者】 橋川和晃
(ナショナルトレセンコーチ)
ボールを保持しながらゴールへ 向かう
今夏の育成年代の大会を見て感じたことは、
「ゴールを狙えるの
に狙わない」
「前を向けるのに前を向けない」選手が多いというこ
とです。また、ロングボールで前へ急いで簡単にボールを失うシー
ンも多くありました。
今回のトレーニングの発展では、現代サッカーの方向性である
「ボールを保持しながらゴールへ向かう」ことができるようになる
ために、ベースのポゼッションのトレーニングから攻撃方向やゴー
ルなどを加えて発展させていきたいと思います。
ベースのトレーニング( 6対 3)
ベースのトレーニングは、攻撃方向のないポゼッショントレーニ
ングです。例えば、下図 1 の 6 対 3です。このトレーニングでは、
3 人の守備者に対して、6人の攻撃者がボールを失わないようにパ
スをつなぐトレーニングです。
ポジショニングや観ること、パス&コントロールの質などの個人
の基本部分を要求することでポゼッション能力が高まります。この
トレーニングだけでも、タッチ数の制限やリターンパスの禁止など
のルール設定をすることでトレーニングが発展していきます。
また、3 人の守備者を固定して始めますが、慣れてきたら 3 人 3
グループ(ビブス 3 色 )に分けて、ボールを失ったグループが守備
をするようにすれば、
攻守の切り替えも要求できるようになります。
そして、攻撃者と守備者の人数が同数の中でもポゼッションできる
ように、徐々に人数やコートの広さを調節しながらトレーニングを
難しくしていく必要があるでしょう。
トレーニングの発展 A -1(4 対 4 +2 サーバー)
トレーニングの発展 A -1では、攻撃方向をつけます。攻撃方向
をつけることで、
「ボールを保持すること」に「前に向かう」とい
う目的が加わってきます。このトレーニングでは、グリッド内の 4
人の選手がボールをつないで外のサーバーにパスをします。サー
バーにパスが通ったら逆のサーバーにパスをします。
攻撃方向が加わることで、攻撃の優先順位を意識したポジショニ
ングやパスとコントロール、ターンの技術などが要求できます。ま
た、サーバー(くさび )を狙うことによって変化する守備者の状況
を観て、判断を変えることも求められます。
図2
図1
35m
15m
15m
32
25m
トレーニングの発展 A - 2
( 4+1サーバー対 4+1サーバー)
攻撃方向が変わると守備側の切り替えが難しくなり、攻撃側が優
位になることがあります。
トレーニングの発展 A- 2では、図 2 のトレーニングをベースに、
下図 3 のようなトレーニングを作ってみました。このトレーニング
では、攻撃方向は一定です。サーバー(くさび )にパスをつなぎ、
リターンをもらってもう一度展開しながら、再びサーバー(くさび)
へのパスを目指します。イメージとしては、バイタルエリアにパス
を出し入れしながら、ゴール前を固めた相手を崩す場面です。ルー
ルでサーバーに入れたら 2 点、4人でボールを10 本通したら1 点
とすれば、守備側もくさびを守るだけでなく、ボールを奪いに行か
なければならなくなります。
図3
ドリブルで進入できれば得点とします。
イメージとしては、中盤で守備を固める相手のブロックの中を攻
略することです。ブロック内のプレッシャーの厳しい中でパスを受
けるためのタイミングやコントロールなどの質を高めたり、また、
パスの出し手は優先順位の高いグリッドを観ること、しかし状況が
悪ければボールを失わないために確実につなぐことの判断などが
要求できます。
ゲーム
このように、ボールを保持するのみのトレーニングから攻撃方向
を加えたり、ゴールを設定していくことで、
「ボールを保持しなが
らゴールへ向かう」ために必要な要素を漸進的に要求できます。そ
して、最後はゲームの中で徹底して要求していくことが重要です。
私自身、陥りやすいのですが、トレーニングに一生懸命になりすぎ
て、気がついたらゲームの時間が残っていなかったということがあ
ります。
「サッカーは、サッカーをすることで上達する」
。2 つのゴー
ルがあって、相手と味方がいるゲームの中でしっかりとコーチング
することが最も重要だと思います。
図5
35m
GK
50m
25m
トレーニングの発展 B(4+4+1フリーマン)
トレーニングの発展 Bでは、攻撃方向をつける代わりに、グリッ
ド内にゴール(目的)をつけます。このトレーニングでは、グリッ
ドの中央にゴールとなるグリッドを設けます。ボールをポゼッショ
ンしながら、中央のグリッドに受けに入った味方にパスが通るか、
図4
GK
45m
25m
25m
以上のように、ベースのトレーニングから発展してきましたが、
逆に、戻ることも必要です。今夏の大会でも、技術的に不足してい
るシーンも数多く見られました。
「プレッシャーの中でも前を向く
技術」
「ゴールを意識したファーストタッチの質」
「相手の背後を狙っ
たり、サイドを一発で変えるミドル・ロングキックの精度」などで
す。
「ボールを保持しながらゴールへ向かう」ために技術が不足し
ているのであれば、技術トレーニングを繰り返し行うことも必要に
なってきます。
今回は、
「ポゼッション」をテーマにトレーニングを発展しまし
たが、指導している選手のレベルと課題に応じて漸進的にトレーニ
ングを作っていくことは、指導者にとって非常に重要な能力の一つ
です。
33
JFA エリート
プログラム U-13
活動報告
JOC 日韓競技力向上スポーツ交流事業
(2009 年 7月 1 日〜 5日/J ヴィレッジ)
4月の AFC フェスティバル U-13( 中国・北京 )に引き続き、2
回目のキャンプを行いました。今回は U-13 韓国代表、JFA アカデ
ミー福島との試合およびトレーニングというメニューでした。
選手は 1 回目から約半数が残り、半数は新しく参加した選手でし
た。学校の試験等もありコンディションが悪い選手もいましたがす
ぐに慣れ、試合も接戦の中充実したキャンプになりました。5 日間
で 3 試合、
トレーニング 5 回
(フィジカル 1 回含む)
、
ロジカルコミュ
ニケーションスキル、ミーティングといった内容でした。
(1)JFA エリートプログラム U -13
【 コンセプト(2009 活動目標)と評価 】
個の育成〜 関わりのある中で
① Relationship … 関わる
攻守に関わる、相手・味方を意識してプレーする、動きながら
特に突破の場面でゴールに向かいながら、3 人目・スペースを意
識することを強調し、トレーニングを行いました。うまくいかない
ときはやはり「観る・観ておく・観ながら」に問題がある場合が多
いようです。
② Think… 考える 〜 判断する・・・そのために・・・
観ておく・観る・観ながら・・・感じる
③ Fair Play…フェアプレー
サッカーを学ぶ・サッカーで学ぶ
・相手をリスペクトし全力でプレーする。
・激しくプレーはするが、ファウルで阻止したりしない。
34
【報告者】星原隆昭
(JFA エリートプログラム U -13 監督、
ナショナルトレセンコーチ)
④ 感 謝の気持ち
ここまでに・そしてこれからに
・エリートプログラムは年 3 回、短期の刺激である。日常の家庭・
チーム・学校での活動が大切であり、そこにかかわりサポート
してくれる方々に感謝したい。
⑤ Enjoy Foot ball
サッカーを楽しむ・仲間をつくろう
今年度 3 回のプログラムを通じ、上記コンセプトで臨んでいます。
今回はシンプルな崩し( 2 対 1、3 対 2 など )のトレーニングの中
で「個で突破する」ことと仲間を利用する、3人目の動きを意識し
ながらプレーすることを強調しました。
ポゼッションでも「相手を引きつける」ことで受け手が楽になる
ことや選択肢を増やしながらプレーすることを強調して行い、意識
づけられたように思います。
【フィジカルテスト】
1日目に実施。スピード・持久力・パワーを測定。
【コミュニケーションスキル】
問答ゲーム他、非常に積極的に取り組んでいました。
(2)総括
4 泊 5 日のキャンプで U-13 韓国代表と 2 試合、JFA アカデミー
福島と 1 試合、トレーニングを行いました。U-13 韓国代表との
第 1 戦は開始直後、相手の前線からのプレッシャーに対して、足
元でつないでしまいリズムを崩すなど問題もありましたが、徐々
にペースを取り戻し、チャンスも多くつくり出すことができまし
た( 初めから戦えるように、また相手を観察し、裏を突けるよう
にすることは今後の課題)
。
前回の北京遠征では、4 号球、ピッチサイズも正規より小さい
サイズでしたが、今回は 5 号球、フルピッチでの試合でした。フィ
ジカル面での心配はありましたが、特に違和感はなかったように
思います。中には自チームでも A チームで活動している選手もお
り、プレッシャーに戸惑うことなくプレーしている選手もいまし
た。日ごろのチームでの活動の成果を感じました。
また、前回に引き続き GK も含めたポゼッションにチャレンジし
JFA エリート
プログラム U -13
活動報告
ました。今回もうまくいかない場面もありましたが、今後も失敗を
恐れずボールを失わずにゴールを目指すプレーにチャレンジしてほ
しいと思います。
「より多く関わる」
「意識する」中で、判断のある動きながらの基
本技術の向上といった「 Japan's Way 」を実現するための土台づ
くりをするためにも、チームの活動を中心により向上を目指してい
ただきたいと思います。また今回も 5分前集合を働きかけていたの
ですが、ほとんどが 10分前には集合し準備をしていました(日ご
ろのチームでの活動によるものだと思います)
。
最後に、快く選手を送り出していただいたチームの方々にこの場
をお借りしてお礼申し上げます。次回、JFA エリートプログラム
U-13 ジュビロカップを楽しみにしています。
ゴールキーパー報告
(1)参加選手
●林 瑞樹(ガンバ大阪ジュニアユース)
1996年 9月 4日生 168cm / 55 kg
●田口潤人(横浜 F・マリノスジュニアユース)
1996年 9月28日生 171cm / 57kg
(2)GKテーマ
●積極的なゴールキーピング
●良い準備(ポジショニング、観る、予測する、構え)
●DFとのコミュニケーション&コンビネーション
●効果的な攻撃への参加(パス&サポート、
ディストリビューション)
(3)総括
【報告者】望月数馬(ナショナルトレセンコーチ)
かがまだ明確ではなかった。また、GKとDF の間のボールやクロ
スボールにおいても、自分がプレーするのか味方にプレーさせる
のかの決断の声が欠けている場面が見られた。ポジショニングに
ついては、状況に応じた適切なポジションをとり続ける意識は高
かった。
攻撃面に関しては、パス&サポートにおいてビルドアップ に積
極的に関わり、ボールを失わずに組み立てに参加する意 識が 高
かった。しかし、パスを受けてからの選択肢が少なく、パスを受
ける前の準備がさらに必要であった。ディストリビューションに関
しては、守備から攻撃への切り替えが速くなり、攻撃の優先順位を
考えながらプレーする姿勢が見られた。しかし、味方の受ける準備
が遅いのと、キック・スローイングの質が低いことで、攻撃の起点
になれていない場面も多々あった。キック・スローイングの質の向
上を求め、観るものを増やしていく中で、効果的に攻撃へ進められ
る配球場所の選択判断を今後も求めていきたい。
GKトレーニングの内容としては、シュートストップ、ブレイク
アウェイ、
クロスを行った。シュートストップでは、
基本姿勢・キャッ
チング・ローリングダウンなどの基本技術を確認し、
アングルプレー
を中心に行った。的確なポジショニングがとれるようになってきた
が、構えるタイミングが遅れてしまう傾向があった。
ブレイクアウェイでは、
積極的にボールを奪うことができていた。
しかし、
こちらもアプローチした後の構えるタイミングが遅れたり、
先に倒れてしまうなどの課題が残った。クロスにおいては、ゴール
前の広い範囲を守ることができていた。落下地点の見極めができて
いて、ボールをとらえる位置も良かった。
試合においては、常に関わり続ける中で、良い準備の習慣化を
図った。観る意識は非常に高く、いつ・どこを・誰を観るのかは
比較的できていた。しかしその中で、いつ・何を・誰に伝えるの
35
各地のユース育成の取り組み
北信越、中国地域の
活動から
▼
▼
日本サッカーの強化・発展を目的とし、個を高
めていくことを目標とする「トレセン活動 」と
リーグの創出。
ナショナルトレセンをはじめ、全国各地でさま
ざまな形のトレセン活動やリーグ化の取り組み
が行われています。
今号では、北信越と中国地域の取り組みをご紹
介します。
北信越
北信越 U -15リーグの1年目を終えて
【報告者】西野哲之(北信越サッカー協会 3 種委員会事務局、
(社)石川県サッカー協会 3 種部会事務局、
石川県立金沢錦丘中学校 )
北信越ではJFA の方針の下、2007年に北信越地域 U-15リーグ
の準備を開始し、2008 年の 1年間は各県の 3 種委員長をはじめ関
係諸氏の協力や各県協会の指導・助言も受けながら要項作りや運営
体制作り、予算作りなどの準備を進めました。
一方、各県においては参加チームの選出を行う年として準備を行
いました。そして、今年度( 2009年 )4 月から第 1 回のリーグを
開始するに至りました。
参加は各県代表2チーム、
新潟は長岡ジュニアユースとアルビレッ
クス新潟、長野はアーザフトゥーロとセダック、富山は富山北 FC
とFCひがし、石川は星稜中学校と松任 FC、福井は丸岡 FC と敦賀
FC の計 10チームが顔をそろえました。
以下、簡単に大会方式を紹介します。
● 1 回戦総当たりの 1 チーム 9 試合。今年度は 4月〜 8月で実施。
原則、土日の連続開催で月 1 回ペース。
●毎回2 県で開催。6チームと 4 チームに分かれる。運営は原則、
当該県の参加チームが中心となる。
杯を喫し、全国大会には進めませんでしたが、今夏、北信越から各
全国大会への出場権を獲得したチームを見ると、
クラブは 3 代表(松
任 FC、富山北 FC、FC ひがし)ともリーグ参加チーム、中体連も
星稜中が圧倒的な力で北信越大会を制し、このリーグの厳しい戦い
の中で着実に力をつけ、全国大会に進んでいったことをうかがわせ
ました。
リーグ終了直前の 8 月に今年度の反省点をまず 3 種委員長レベル
で討議し、現在は各チームへの反省改善点のアンケートを配布し、
集約している段階です。運営面での反省点なども多々ありますが、
ここでは 3 種委員長レベルで討議された以下の 3 点について触れま
す。
● 80分(40分ハーフ)のゲームを土日連続で行うことの是非について
これについては 2 つの観点から意見が出されました。一つは中学
生の体力的な面からですが、これはそれほど大きな問題でもないの
ではないかという意見も多くありました。もう一つは試合が 2日間
連続することでゲーム間のトレーニングによる修正ができず、わず
か 9 試合というリーグでは連敗すれば致命的となるという点です。
これに関しては、アンケートによるチームの意見も聞いて、次年度
は 1 試合のみの週も設けるかどうか審議していますが、中学生年代
の遠征費負担を考えると、あまり実施日をバラバラに数多く取るこ
ともできず、広範囲でのリーグ戦を実施する上で一番の課題となっ
ています(ちなみに今回、最も距離の離れたチームは敦賀市と新潟
市であり、ここは高速道路を利用しても 5 時間以上かかるものと思
われます)
。
●試合時間は40分ハーフの 80分。
● 1 位〜 5 位までに高円宮杯北信越予選への出場権を与える( 県予
選を免除)
。
● 1 位〜 5 位のチームは次年度もリーグに残留。6 位〜10 位のチー
ムは県へ降格。次年度は 5 県から 1 チームずつ昇格し、いったん
降格したチームが再度、県代表の座を勝ち取って昇格してくるこ
とも妨げない。
今年度の第 1 回大会は優勝がアルビレックス、2 位はアーザフ
トゥーロとなりました。この 2 チームはクラブの北信越大会では苦
36
●グラウンド確保や運営資金の問題
今年度は北信越レベルの大会ということで全試合、天然芝ないし
は人工芝ピッチで実施することができました。しかし、本地域は気
候的な問題から春先に使用できる天然芝がほとんどなく、各種の大
会が人工芝に集中し、会場確保に非常に苦労する実情があります。
最近は良い人工芝のピッチが増えてきているとはいえ、本リーグだ
けで占有することもできず、せっかくレベルの高いゲームだけに良
い環境で試合を実施させてあげたいのですが、決して容易ではあり
ません。また、今年度は運営費節約のために 4 名の審判のうち 2 名
は帯同審判制でまかなうという方式を取りましたが、これが予想以
上に参加チームには負担となっていたようです。会場費高額化への
対応と合わせて審判費など運営にかかる資金の保証を行うことが大
きな課題の一つです。
●リーグ参加へのモチベーション
北信越は正直、サッカーの競技レベルからいうとまだまだ後進地
域と言わざるを得ません。J クラブも 5 県ありながらアルビレック
ス新潟と今年 J 2 入りしたカターレ富山のみです。必然として強化
に力を入れるチームは関西・東海・関東などへの遠征が多くなる実
態がありました。しかし、リーグ戦の広がりはこうしたチームが遠
征を行う機会(日程的な面から)を奪うことになるのではないか、
リーグの後半など順位が見えてくるとむしろ遠征に力を入れて、
リーグは手を抜くチームも出てくるのではないかということが当初
心配されました。それを防ぐために、5 位に入るかどうかで大きな
メリットを持たせたわけですが、今後長くこうしたプレミアを付け
ることができるかどうかは確かではありません。これからは全国大
会という「エサ」をぶら下げるのではなく、北信越の最強チーム同
士で戦い、そこでトップとなることの「 価値」をどう高めていくこ
とができるかが課題となってくるものと考えます。
8月の最終節、長野県千曲市サッカー場においてアルビレックス
vs 星稜中の試合が行われました。星稜中は全国中学校大会(全中)
出場を決めた直後、全中への一番の強化ゲームとしてモチベーショ
ン高く挑み、一方のアルビレックスもクラブ選手権を逃したことも
あり、このまま引き下がることはできず、北信越の雄として、また
前年度高円宮杯で準優勝したことのプライドを持ってこの最終戦に
臨んだ様子が感じられました。試合は非常に激しくかつスピー
ディーでメリハリのある好ゲームであり、蒸し暑い中でのゲームで
あったにもかかわらず最後まで活動量も豊富でした。結果は 1- 1の
引き分けに終わったものの、リーグで一番のハイレベルな内容では
なかったかと思われます。星稜中はその後、全中でもそのチーム力
の高さは非常に評価されたようであり、北信越からでも昨年のアル
ビレックスや今年の星稜中など少しずつ好チームを輩出できるよう
になりつつあることが、うれしく感じられます。今後、このリーグ
で戦うことが一つのステータスとして確立し、全国で通用するチー
ムが徐々に増えていってくれることが期待されます。
中国
第3種トレーニングセンターの取り組み
【報告者】増村泉(広島地区トレセン 3 種担当/広島市立
祇園中学校)
広島県 3 種技術委員会では、
「強い個の育成」を念頭に、平常は
5 地区に分かれてトレセン活動を行っているが、年に一度、U-13、
14、15 の学年ごとに 2 泊 3日で県トレセンを行っている。主な活
動拠点は特にないが、各カテゴリーや他競技団体等との調整により、
毎年、広島市・尾道市・三次市で開催している。
昨年度、U-13・14 のナショナルトレセンに参加する選手が広島
県から選出されないという状況だったため、昨年度までのトレーニ
ングを体験させることを中心とした形から、県トレセンの変革を行
おうとしているところである。
例えば「参加選手」
。これまでは 5 地区から均等に16 名ずつ選出
していたが、今年度は、以下の 2 点とした。① 2年生の県トレセン
に U-13・14 ナショナルトレセンに参加する選手を 1 チームとして
参加させる。② 3年生の県トレセンは来年度国体に参加する候補選
手として人数を絞り込み、トレーニングキャンプとする。
また、国体少年の部の U-16 化に伴い、2 種の指導者にもスタッ
フとして入っていただき、国体チームの強化を図ったり、毎年広島
ビッグアーチで開催されているナショナルトレセン U-12 への指導
者の参加を勧めるなど、種別を超えた関係づくりをより一層進めて
いかなければならないと感じている。
言うまでもないが、これらの活動は各地区の代表をはじめ、一人
一人の指導者の協力があってこそ成り立っている。この力がある限
り、今後も良い形で変革し続け、
「より強い個の育成」が実現でき
ると信じている。
●広島県第 3 種トレーニングセンターの実施状況
① U-13( 1年生)
・中国トレーニングセンター参加選手選考会
7月 26日(日)/みよし運動公園
・広島県トレーニングセンター
8月 10日(月)〜 12 日(水)/みよし運動公園
・中国トレーニングセンター U-14
8月 24日(月)
、25 日(火)/島根県松江市
・中国トレーニングセンター参加選手選考会
10月(未定)
・中国トレーニングセンター U-13
2010年 1 月 4 日
(月)
、5日
(火)/岡山県
② U-14(2年生)
・中国トレーニングセンター参加選手選考会
7 月 26日(日)/みよし運動公園
・広島県トレーニングセンター
8 月 8日(土)〜 10日(月)/びんご運動公園
・中国トレーニングセンター U-14
8 月 24日(月)
、25日(火)/島根県松江市
・広島・神戸・岡山定期戦 参加選手選考会
10月(未定)
・広島・神戸・岡山定期戦
11月 28日(土)
、29日(日)/岡山県
③ U-15(3 年生)
・中国トレセンリーグへの参加
・広島県トレーニングセンター
8月10日
(月)
〜12日
(水)/コカコーラウエスト・広島スタジアム
・中国トレーニングセンター参加選手選考会
10月(未定)
・徳山サッカーフェスティバル参加
11月 7日(土)
、8日(日)/山口県周南市
・中国トレーニングセンター U-15
11月 28日(土)
、29日(日)
・広島県中高合同合宿
12月 21日(火)〜 23日(水)
・国体選手最終選考会
2010 年 2 月 6 日(土)
、7日(日)/廿日市グリーンフィールド
37
公認A 級コーチU-12
養成講習会報告
2009 年度前期を終えて
【報告者】島田信幸(ナショナルトレセンコーチ、JFAアカデミー福島男子ヘッドコーチ)
世界トップ10・ワールドカップ 優勝を目指して!
「JFA 2005年宣言」の 2 つの約束、
『 2015年世界トップ10 』
『 2050
年までに FIFA ワールドカップ優勝 』のためには、いつまでも国内での
「 勝った・負けた」だけにこだわっていては目標には到達できません。サッ
カーにかかわるすべての人々が、常に世界を意識し、世界基準をスタン
前期は、このトレーニングを受講生の皆さんに体験していただくとと
もに、指導実践でより理解を深めていただけるようにしました。
体験・理解から確信へ、そして共有!
本講習会の前期では、実技・指導実践・プレゼンテーション実習・講義・
ダードにできなければなりません。
JFA アカデミー見学を行いました(前期スケジュール等参照)
。これらは
また、2015 年の目標達成だけを考えるのならターゲットとなる代表選
前述した日本の目指すべき方向性の共有に必要最低限なものと考えます。
手だけを強化することが近道かもしれません。しかし、目標には続きが
そして、すべてのセッションでインストラクターと受講生、受講生同士
あります。世界トップ 10 にコンスタントに入り続け、FIFA ワールドカッ
によるディスカッションが頻繁に行われていました。このディスカッショ
プの優勝を争える強豪国になり、
2050 年までに
「自国開催とワールドカッ
ンこそが、体験・理解から確信へ、そして、共有につながる大切なもの
プ優勝」という目標達成を考えると、
「すそ野を広げ、育成の土台を堅固
であると思います。福島コース受講生( 27名、うちS 級保持者5名)の皆
にし、総合力を高めることで頂上を高くする」という長期的視野に立った
さんは、連日のハードなスケジュールにもかかわらずお互いが納得するま
育成が必要不可欠になります。そして、
サッカーにかかわる人々が「日本 」
でディスカッションをされていたのが印象的でした。そして、この皆さんと
という一つのチームとして力を合わせ、目指すべき方向を共有したとき
共有した日本サッカーの目指すべき方向性の「幹」をいかにして広げてい
に大きな力となり、
目標をつかむことができるでしょう。さらに、
良いチー
くかも大切なことです。
ムには「個性」も必要です。しかし、それぞれの個性が違う方向を向いて
A 級 U-12 養成講習会は開設から 3 年目を迎えています。本年は、アカ
いては力が分散してしまいます。それぞれが目指すべき方向の「幹」を共
デミー 2 校目が宇城(熊本)に開校されたことから、福島と宇城の 2コー
有した上で、個性を発揮することができれば力が結集されて大きな力と
スに増設しました。そして、昨年よりA 級 U-12 取得者の中から認定し、
なり、必ずチームは目標に向かって前進していけます。この「幹」を確認
モデル地区トレセンをスタートさせました。モデル地区トレセンは、生活
することが A 級 U-12 養成講習会の一つの目的です。
圏内で日常的なトレセン活動(週 1〜 2 回)を行うものです。言い換えれ
ば、日本の目指すべき方向性の「幹」をより広く共有していくための場
求められる選手像からの逆算
所です。この共有の場を、2015 年までに150カ所にし、最終的には
日本サッカーは、三位一体+普及の強化策・プロリーグの発足・関係
300カ所にすることを目標としています。現在のモデル地区トレセン実
者の努力などにより目覚しい進歩を遂げてきたことは間違いありません。
施箇所は、21カ所(調整中4カ所含む)です。
しかし、世界のサッカーはさらに進化し、発展し続けています。1998年、
2002年ワールドカップの「カウンター勝負」から、2006年では「人も
ボールも動くサッカー」へ 。そして UEFA EURO 2008 では「ゲームは
「 JFA20 05年宣言」の実 現は、我々で!
UEFA テクニカルダイレクターのアンディ・ロクスブルク氏から、
「育
よりテクニカルに、
よりスピーディーでタフな闘い」へと進化しています。
成指導者は、選手の未来に触れている」という言葉をいただきました。育
この中でプレーする選手には、精度の高いテクニックと戦術、ハードワー
成指導者にとって、絶対に忘れてはならない大切な言葉ではないでしょ
クできるフィジカルを兼ね備えることが求められます。高いテクニック
うか。目先の勝利に固執するのではなく、選手たちの 5年後、10年後、
と戦術とは、ただ単にボールを止める、蹴る、運ぶだけができるのでは
30年後を見据えた指導を心がけることの大切さを示唆してくれています。
なく、スピーディーでめまぐるしく変化する状況の中で、瞬時に的確な
そして、A 級 U-12 養成講習会は、
「日本サッカーの未来に触れている」
プレーを選択し、それを動きながら、またプレッシャーを受けながらも
と言えるかもしれません。多くのサッカー仲間と「 幹」を共有し、ワール
ぶれずにプレーできることです。そして、プレーを連続させて攻守に関
ドカップを日本サッカーが手にすることを信じ、頑張りましょう。
わり続ける動きの習慣(持久力)が身についていることを求められるので
す。このテクニックと動きの習慣は、育成年代に身につけた方が効果的
スケジュール( 福島コース/前期 )
6月15日(月) 6月16日(火) 6月17日(水) 6月18日(木) 6月19日(金) 6月20日(土)
であることは言うまでもありません。本講習会の実技では、現代サッカー
で求められる選手像から逆算して考え、この年代に身につけておきたい
「サッカーの基本」要素のいくつかを組み合わせたものになっています。
トレーニングは至ってシンプルなものです。常に選手がボールを使いな
がらテクニック・判断・運動量に刺激を与えるメニューになっています(ト
レーニングメニュー参照 )
。
講義
9:00
U-12指導指針②
10:00
11:00
実技
ボールフィーリング
テクニック
実技
ゴール前の攻防
実技
実技
実技
(クロード・デュソー氏)
シュートドリル
ポゼッション
指導実践
指導実践
振り返り
振り返り
12:00
ガイダンス
課題提示
13:00
講義
14:00
15:00
16:00
17:00
ガイダンス
講義
U-12のこども像
講義
U-12指導指針①
GKトレーニング
(須永)
実技
GKトレーニング
講義
ロジカル
フィジカル講義
指導実践
コミュニケーション
スキル
実技
(須永)
(任意)
振り返り
アカデミー見学
アカデミー見学
アカデミー見学
アカデミー見学
18:00
19:00
20:00
21:00
22:00
38
実技振り返り
講義
実技振り返り
講義
育成・アカデミー
講義・ディスカッション
プレー分析 →
U12のゲーム(大会)
プランニング
環境
実技振り返り
プレゼン実習
JFAアカデミー
ゲーム見学
フィジカル実技
講義
審判と技術
プランニング
講義
2人1組
リーグ戦文化
トレーニングメニュー(抜粋)
W-up
シュートドリル
B
シュートドリル
W-up
A
①AからB へパス
②Bはコントロール
してシュート
シュートドリル
B
A
③プレー後は対面へ
移動
④シュートの後GKに
入る
デモンストレーション
の積極的活用
B
②Bへパスし、コント
ロールからシュート
③プレー後は対面へ
移動
④シュート後GKに
入る
A
①Aがドリブルして
スタート
A
B
KEY FACTOR
KEY FACTOR
シュート ・アプローチ ・立ち足の位置 ・立ち足の柔軟性
シュート ・アプローチ ・立ち足の位置 ・立ち足の柔軟性
動きの質(タイミング)
パスの質(強さ・方向・タイミング)
動きながらのコントロール
コントロールの後のプレーを速く
スムーズな身のこなし
ドリブル・立ち足の柔軟性 ・顔を上げる ・ボールの置き所の工夫
動きの質(タイミング)
パスの質(強さ・方向・タイミング)
動きながらのコントロール
コントロールの後のプレーを速く
スムーズな身のこなし
ドリブル・立ち足の柔軟性 ・顔を上げる ・ボールの置き所の工夫
Tr.1 2対1∼3 対2(+GK)
Tr.2 シュート
・当てる部位の固定 ・ボールをよく観る ・正確に狙う
・当てる部位の固定 ・ボールをよく観る ・正確に狙う
GK
GK
・シュート後、次のシュー
ターにプレッシャーを
かける。
プレッシャーに来たDF
の状 況に合わせ てシュ
ートする。
Game 5対5(4対4)
GK
GK
・ 2 対 1+ G Kでシュートをした選手は抜けて、もう1人が D F に
相手側から2人出てきて攻撃
KEY FACTOR
シュート ・アプローチ ・立ち足の位置 ・立ち足の柔軟性
・当てる部位の固定 ・ボールをよく観る ・正確に狙う
動きの質(タイミング)
パスの質(強さ・方向・タイミング)
動きながらのコントロール
コントロールの後のプレーを速く
スムーズな身のこなし
駆け引きをしながら必ずゴールまで
GK
39
MANCHESTER UNITED
マンチェスター・ユナイテッド
プレミアカップ2009
ワールドファイナル
報告
【報告者】鴨川幸司
(ガンバ 大 阪ジュニアユース 監督)
1. 大会形式
ホストチームのマンチェスター・ユナイテッド(イングランド)
を
はじめ、パリ・サンジェルマン(フランス)
、AS ローマ(イタリア)
、
ヴェルダー・ブレーメン(ドイツ)
、アトレティコ・マドリード(ス
ペイン)
、サンパウロ
(ブラジル)
、コロコロ(チリ)
、アトラス(メキ
シコ)等、世界の強豪 20チームが4グループに分かれてリーグ戦を
行い、上位 2 チームが決勝トーナメントに進出。3 位以下のチーム
は順位トーナメントを行い、決勝戦はオールドトラフォードで行わ
れました。試合は 20分ハーフで、1日 2 ゲーム行われました。
2. 感想
今回の大会は自分たち(ガンバ大阪ジュニアユース)が「世界で
どのくらいの位置にいるのか」を確認できる、大変意義のある大会
でした。その意味ではサンパウロ、パリ・サンジェルマン、マンチェ
スター・ユナイテッドと同じグループに入れたのは良いことでした。
特に、優勝したサンパウロにグループリーグで勝利するなど、圧倒
的な強さを見せたパリ・サンジェルマンは、洗練された質の高いプ
レーをしていました。惜しくも準決勝でブレーメンに PK 戦で敗れ
ましたが、大会のベストチームだったと思います。
サンパウロとパリ・サンジェルマンとの対戦ではすべての面で
サッカーの基本のレベルの違いを見せつけられました。結果だけで
なく内容的にも完敗でした。
しかし、われわれがもっと世界との差を感じたのはマンチェス
ター・ユナイテッド、Alta Loma アーセナル SC(アメリカ)
、マル
コーニスターリオンズ(オーストラリア)とのゲームでした。この
3チームは技術、戦術、体力ではそれほど高くなく、われわれもあ
る程度はできる、あるいは勝てるかもしれないと思っていました。
どのゲームも高い位置からのプレッシャーからボールを奪い、カウ
ンターから決定的なチャンスを何度かつくることはできました。し
かし肝心のシュートの場面で決めきれなく
(技術、判断、意識、意欲)
、
逆に少ないチャンスからゴールを奪われてしまう、というものでし
た。われわれのサッカーをある程度させてもらいながら、結局 1 勝
マンチェスター ・ ユナイテッド戦
40
もさせてもらえませんでした。当たり前のことですが、サッカーは
「ゴールを奪う」
「ゴールを守る」スポーツであり、
攻守において「ゴー
ル前 」のプレーが勝敗を決めることを痛感したと同時に、それが大
きな差であることを強く感じました。
3. 課題
攻撃面ではプレッシャーがある中でのファーストタッチ、シュー
トの技術、どこにコントロールするのか、あるいはワンタッチで
シュートなのかという判断、どん欲にゴールを狙う、一瞬のシュー
トチャンスを逃さない意識、セカンドボールへの反応等のゴールへ
の意欲。守備面ではゴール前で人数が足りているにもかかわらず、
相手選手をフリーにしてしまう。ボールへの寄せの甘さ、セカンド
ボールへの反応の遅さ等、
言えばきりがないほどすべての部分で「甘
さ」を感じました。もちろん良いプレーもありました。強豪相手に
5つのゴールを奪うことができました。特にサンパウロやパリ・サ
ンジェルマンを相手にしても、粘り強く連動してプレッシャーをか
けることができている時間帯は高い位置でボールを奪い、そこから
何度かチャンスをつくることができました。サンパウロ戦での 2
ゴールは完全に崩してのすばらしいゴールでした。
4. まとめ
われわれのチーム、選手たちはベストを尽くしましたが 1 勝 1分
4 敗という成績でした。しかしその中で選手たちがよりハードワー
クができるようになってきたり、ゴール前の厳しさが出てきたりと、
少しずつ成長していく姿が見えました。また、自分たちのできるこ
と、できないことがはっきりと見えたことは大きな収穫です。
この大会では非常に悔しい思いをしましたが、今後の選手たちの
取り組みに期待しています。私もこの経験を生かしてより良い指導
をしていきたいと思います。
《対戦結果》
■グループリーグ( 5位)
ガンバ大阪 1- 1(前半0 - 0)Alta Loma アーセナル SC(アメリカ)
ガンバ大阪 2- 5( 前半1- 4)サンパウロ(ブラジル)
ガンバ大阪 0 - 3( 前半0 - 1)パリ・サンジェルマン(フランス)
ガンバ大阪 0 - 2( 前半0 - 2)マンチェスター・ユナイテッド
(イングランド )
■ 順位トーナメント
ガンバ大阪 2- 2( 前半 0 - 0)PK3- 4 マルコーニ スターリオンズ
(オーストラリア)
ガンバ大阪 11- 0( 前半 2 - 0)サルガオカール SC(インド )
※大会結果:19 位
優 勝:サンパウロ(ブラジル)
準優勝:ヴェルダー・ブレーメン(ドイツ)
第3位:ライト トゥ ドリーム アカデミー(ガーナ)
今月の人
育成の現場をたずねて…
「人間としての成長がサッカーの成長にもつながる」
と平清孝氏(写真左)
このコーナーでは、小野剛技術委員長
が全国各地で育成に携わっている指導
者をたずねて、紹介していきます。
平清孝
yoshitaka taira
(東海大学付属第五高校サッカー部総監督)
福岡を訪れた。情熱あふれる九州の中でも、
す。アッという間に引き込まれてそのときから
ろいろ話をしていると、
「あなたの怒鳴り方は
またひときわ熱い人たちの集まっている所だ。
人生が変わりましたね。人一倍背が高かったの
ベンチから『自分は無能な指導者だ』と大声で
この福岡へはさまざまな形で引き寄せられるよ
で GK をやらされたのですが、毎日がサッカー
言っているようなものですよ」と言われました。
うに来させてもらっている。その中でも、全国
漬けの日々でした。ただ当時100mを11 秒 3 で
これにはハッとさせられましたね。指導者が
高校サッカー選手権 8 大会連続出場を含む 30 回
走っていたので、そのとき FW にしてくれてい
しっかりと指導できていたら選手はいいプレー
を超える全国大会への出場( 90年度ベスト4 )に
たらまた違った人生だったかも…。それを言う
をするんだと。
加え、数多くのプロ選手、そして指導者を輩出
と、今でも当時の先輩に「 FW なんてやってい
その言葉がきっかけですかね。悔しさもあっ
している一人の指導者に会いに来た。この地で
たらもっと悲惨な人生になっていたはずだ」と
て次の年には 3カ月研修に飛び出していました。
育成一筋 32 年、そして今は九州の技術委員長、
すぐに返されますが(笑)
。
午前中に大学で勉強して、昼からはヴェローナ
ユースのトレーニングに参加して、夜には大学
JFA ユース強化育成部会のメンバーとしても活
躍、九州、そして日本の育成を引っ張っている
小野:指導者を志そうと思ったきっかけは?
学長の家でひたすらサッカーのビデオを見なが
ら研修して。ライセンスもありますがそれ以上に
平清孝先生に話を聞かせてもらうためである。
平:高校の監督はサッカー専門ではなかったの
いい経験でした。その中で印象的だったのは、
小野:30 年以上にわたり育成一筋、それを駆り
ですが、すばらしく人間的に成長させてくれた
とにかく基本を大事にしていること。目新しい
立てる情熱の源は何だと思いますか?
方でした。山内先生といって、今でもよくしか
ものを探しに行っていたつもりだったのです
られるんですが、あこがれというか恐らくその
が、足元にある最も大切なものをあらためて認
平:とにかく「いい選手を育てたい」という思
先生の背中を見ていたんでしょうね。とにかく
識させられたというか。でも基本の「質」に関
い一つですかね。日本サッカーの発展段階のい
教員になりたかった。そしてサッカーの指導者
しての追求は大いに見習う点でしたね。
い時代に指導者として過ごさせてもらったとい
になりたいと強く思っていました。そして、
サッ
うことも大きかったと思っています。自分も初
カーを続けるなら関東の大学となぜか決めつけ
小野:そのような中で培われてきた育成・指導
めのころは何も分からずただ単に一所懸命やる
ていて、その時点でトップというよりは中堅に
に対する信念を聞かせてください。
しかなかったし、そのころは日本サッカーも例
いてトップを目指せそうな大学ということで日
えば韓国とやっても歯が立たないという時代
体大(日本体育大学)に進むことにしました。
劇的に発展していって、その歩みとともに自分
平:やはり、まずは人間としての成長という点
ですかね。人間性あってのプレーヤー。
「サッ
だったんですよね 。そんな中、日本サッカーも
小野:その後、指導者として歩まれるのですね。
カー選手である前に一人前の人間であれ」と。
でも結局はそれがサッカーの成長にもつながる
も指導者として成長させてもらってきたような
気がするんです。そんな時代に、諸先輩方を引
平:当時、そのままプレーを続けるというより
んですよね。教え子の中でも代表の中でしっか
き継いで日本の育成の土台づくりに携わらせて
は、地元に帰って教員をやりたいとの思いの方
りプレーできている選手は、やはり人間性にお
もらったことは幸せなことだと感じています。
が強かったですね。親父にもそう言われていま
いてもすばらしい。これは、一般社会でも同じ
サッカーがすでに発展していた国だったらここ
したし。そして当時のキックアンドラッシュば
だと思うんです。すべての面で人間性を豊かに
までの情熱が沸いたかどうかは分からないです
かりの九州のサッカーを変えていくんだ、なん
していかないといけない。だからそこは選手に
ね。
て粋がっていたように思います。
「関東かぶれ」
も厳しいかもしれません。恐らく自分が指導し
勉強すればするほど、もっと勉強しなければ
とさんざん叩かれましたが、とにかく基本的な
ているうちには気がついてくれないかもしれな
ならないという思いが沸いてきて、思い立った
練習をこなして、しっかりとつないで組み立て
い。でも 10 年後になって気がついてくれれば
ら海外に飛び出して勉強に行ったりと、発展途
ていくサッカーがしたかった。実ってくるまで
それでいいと思っています。
上だったことが自分にとっては大きかったよう
時間もかかりましたが、ちらほら勝ち出すと周
な気がします。
囲からも少し認められるようになってきたかな
城裕万( 鹿島ユースダイレクター)
、横内(サン
と思います。第五のサッカーはおもしろいぞと。
フレッチェ広島コーチ)
、岡中(大分コーチ)ら J
小野:ところで、ご自身とサッカーとの出会い
九州も新たな道を探ろうとしていた変革期だっ
クラブのコーチをはじめ、多くのプロ選手を輩
はいつのころですか?
たんですね。
出しているハジャスの花田雄二等々、教え子に
平:紆余曲折なのですが、中学 1 年のころは柔
小野:そんなころイタリアに行って来たのですね。
は指導者が非常に多いのが特徴である。おそら
く、平先生のその信念、生き様が影響を与えて
いるのであろう。平先生がかつて山内先生に影
道をやっていたんですが。でも、どこか、こう
華がなくて…。半年後には華やかにやっている
平:イタリアにチームを遠征させたときのこと
響を受けたと話していたように…。
「わざわざ
バスケットボールに移ったんです。でも家の転
ですが、ピアチェンツァとのゲームで前半は何
来てくれてありがとう」
。一見いかつい風貌の
勤で引っ越した先にはバスケ部がなくて今度は
とかしのいでいたものの、後半に相手のレギュ
平先生の瞳の奥はどこまでも優しかった。
バレーボール部に入り、当時のことですから土
ラークラスがそろって出てくるとコテンパンに
のバレーコートで毎日レシーブで転げ回って。
やられだしたんです。クロス 1 本入るとシュー
そんな中、裏の方でキャプテンを中心に楽しそ
トを決められてしまうといった具合に。こっち
うに活動しているサッカー部の練習が見えて、
も必死だったんでベンチから叫び通しで。
「何
「俺が求めていたのはこれだ」と直感したんで
やってんだ」と。試合が終わって相手監督とい
平 清孝(たいら よしたか)
1954 年 11月 10 日生まれ
東福岡高校→日本体育大学
現 在は東海大学付属第五高校サッカー部総 監督。
公認 A 級コーチ、イタリアサッカー協会 B 級。
41
JA 全農杯チビリンピック
小学生 8人制サッカー全国決勝大会 2009 より
審判員と指導者、
ともに手を取り合って・・・
C O O R D I N A T I O N
B E T W E E N
T H E
F I E L D S
O F
R E F E R E E I N G
A N D
T E C H N I C A L
「小学生年代のための8人制サッカールール」の考え方
松﨑康弘( J FA 審判委員会委員長 )
••••••••••••••••••••••••••
基本的な考え方
子どものころから数多くのサッカーの試
合を楽しめるよう、
サッカー競技規則をベー
スに小学生年代の選手のための 8 人制サッ
カーのルールを制定した。選手がたくさん
ボールに触れ、ボールを巡ってたくさんの
攻防が生まれることが目的である。
小学校の校庭でも芝生広場でも良いし、
人数も 8 人を基本とするが平等性を保てれ
ばフィールドの広さや集まった人数に合わ
せて設定するなど、本来の目的のために、
自由度を持ってプレーできるようにしてい
ただきたい。
なお、8 人制とは言えサッカーである。
このルールに規定していないことは、通常
のサッカーの競技規則に基づいて判断する。
<大きさ>
フィールドは、大人のサッカー場の半分
程度。ゴール、ペナルティーエリアなどは
少年サッカー用のサイズである。もし、少
年サッカーのゴールがなければ、選手の人
数や年齢に合わせて、
コーンを用いたりフッ
トサルのゴールを 2 つ並べたりしてセット
しても良いだろう。
<交代>
競技時間が10〜15分ハーフと短いので、
交代はフットサルで行われているような自
由な交代。マーカーコーンなどで設定され
た交代ゾーン内で、交代する選手がフィー
ルドから出た後に交代要員がフィールド内
に入ればよい。ボールがインプレー中の交
代も可能だし、交代の回数や人数には制限
がない。
補助審判員がフィールド内に 1 チームの
選手が 8 人を超えないように交代をうまく
42
リードし、この交代のやり方の裏をあざむ
いて有利に試合を進めようとする場合以外、
多少交代ゾーンを外れて出入りすることを
とがめる必要はない。
相手チームがそれまでとは異なった環境で
試合をすることを避けるため、個人罰だけ
を課すこととし、
チームは交代要員の中から、
競技者を補充することができることとする。
<ユニフォーム>
両チームが異なる色のシャツを着用する
必要があるが、そろわない場合などは、背
番号なしの練習着や異なる色のビブスを着
用してプレーすることも可能。
しかし、選手の安全を考え、すね当ての
着用は義務付ける。一方、まだコンタクト
レンズの着用ができない選手などの場合に
ついては、スポーツメガネなどで安全であ
ると判断できるものについて積極的に使用
を認める。
< PK 方式>
リーグ戦が中心になると思われるが、どう
しても勝敗を決する必要がある場合は、3分
間ずつの延長や 3人ずつキックのPK戦で勝
敗を決してもよい( 4人以降はサドンデス)
。
<キックオフ>
ハーフウェイラインからゴールまでの距
離が短いので、通常のサッカーではなかな
かお目にかからないキックオフから直接
ゴールを狙うプレーは禁止。キックオフか
ら直接相手のゴールに入った場合、相手に
ゴールキックが与えられることになる。
< 1人 審判制>
審判は、1 人審判制で行う。主審は試合
の運営を行うだけでなく、ファウル、オフ
サイド、ボールのタッチラインやゴールラ
インのイン、アウトも 1 人で判断する。
1 人審判制は、まだ日本ではなじみが薄
いし、審判の方も慣れていない。最初は、
どうしても戸惑い、多少のミスが発生する
ことになる。しかし、サッカーは本来、選
手がお互いを尊重しあって、
競技規則に従っ
てプレーをし、もし分からなかったら審判
にその判断を委ねるスポーツ。仮にミスだ
と分かっても、審判の判定を尊重すること
が大原則。
一方、審判もミスがないよう、最大限の
努力をする。選手の力を借りるだけでなく、
もし補助審判員の近くのタッチラインアウ
トやファウルなどの判断については、補助
審判員からの助言を得ても良いだろう。
<退場が出ても>
退場が命じられるような行為は、絶対に
認められるべきでない。そのような行為を
行った選手は、その試合それ以上プレーす
ることは禁じられる。
しかし、相手の選手が 1 人減ったことで、
このようなルールで 8 人制のサッカーが
円滑にプレーされ、より多くの選手、審判、
コーチ、親御さん、友達がゴールを目指し
てボールを足などで進める “サッカー” を
身近に感じ、楽しめるようになってもらえ
ればと考える。
< 3 ピリオドにした場合>
通常は前後半で試合をするが、チビリン
ピックなどの大会で 3 ピリオド制とした場
合、平等性を求め、3 ピリオド目の中間点
に両チーム攻めるエンドを替える。
8人 制サッカーのルール
ユース年代、低年齢層の競技者が多くの
試合をプレーするためにはリーグ戦が不可
欠である。リーグ戦文化の醸成は日常のサッ
カー、スポーツ文化の発展に寄与する。特
に小学生年代の競技者は、生活圏レベルで
数多くの試合を楽しむことが求められる。
2009 年 8月 (財)日本サッカー協会審判委員会
またはマーカーコーンでマークする。
ボール
少年用の 4号球を基本とする。
競技者の数
① 8 人(うち1人はゴールキーパー)
を基本
小学生年代の子どもたちが楽しみ、成長
とする。
できるサッカーやフェアプレー精神が育ま ※一方のチームが 8人に満たない場合、両
れることを念頭に、現在のサッカー競技規
チーム合意の上、極力両チーム同数とす
則をベースとして、小学生年代の選手のた
る。
めの 8 人制(少人数)サッカーのルールを ②交代要員の数は 4 人〜 6 人を基本とする
制定した。このルールに基づき、サッカー
が、当日の全選手数によって、両チーム
がこれまで以上に、日常的に楽しまれるよ
が事前に合意して、その数を決定する。
うにしていただきたい。
③交代の手続き
1)交代して退く競技者は、交代ゾーン
競技のフィールド
からフィールド外に出る。
①表面 芝、人工芝が望ましいが、土等で
2)交代要員は、交代ゾーンからフィー
も可能とする。ただし、競技者が
ルドに入り、競技者となる。
転倒等により負傷しやすい表面は、 3)交代は、ボールがインプレー中、ア
認められない。
ウトオブプレー中にかかわらず、行
②大きさ 68 m×50 m(大人のサッカー場
うことができる。
の半分:2 面のフィールドが設
4)交代について、主審、補助審判の承
置可能 )を推奨するが、使用可
認を得る必要はない。
能試合会場の大きさによって、
修正してもよい。
競技者の用具
③ペナルティーエリア等
① 両チーム、異なる色彩のジャージー
(シャ
ペナルティーエリアの縦 = 12m
ツ)を着用する。
ペナルティーマーク = 8m
※両チーム、ジャージー(シャツ)の色彩
ペナルティーアークの半径 = 7m
が同じの場合、また、同色彩のジャージー
ゴールエリアの縦 = 4m
(シャツ)がそろわない場合、ビブスを
センターサークルの半径 = 7m
着用して、対応することができる。
②ゴールキーパーのジャージー(シャツ)
5m×2.15m
色彩は、両チーム同じでも良い。
4m
1m
12m
③ジャージー(シャツ)に背番号を付ける
必要はない。
4m
8m
④競技者は靴を履く必要があるが、その種
12m
類は問わない。
7m
⑤すね当ては着用する。
⑥競技者の用具はその競技者のみならず
相手競技者にとっても安全なものでな
センターサークルの半径: 7m
ければならず、試合開始前、競技者お
よび交代要員の用具が主審または補助
④ゴール5m× 2.15m(少年サッカー用
審判によって検査される。
ゴール)を推奨する。
⑦眼鏡については、主審が安全であると
※少年サッカー用ゴールがない場合、フッ
判断したものは、着用できる。
トサルゴールを 2 つ並べて 1 つのゴー
ルとしたり、コーンによる代用をしたり 主審
することは可能とする。
① 試合は、1人の主審によって運営される。
その場合、2 つのゴールの中央のポスト ②主審は、フェアプレー精神あふれた行動
に当たった場合やコーンの上部の仮想
やリスペクトある行動をとった競技者に
クロスバー下をボールの全体が通過し
グリーンカードを示す。
た場合、主審は得点を認める。
※グリーンカードは、試合開始前から試合
※ゴールは、競技者が負傷しないよう安全
中、また試合終了後であっても、ボール
に設置しなければならない。
がインプレー中、アウトオブプレー中に
⑤交代ゾーン
かかわらず、示すことができる。
自由な交代のため、ベンチ側のタッチラ
インのハーフウェーに 6mの交代ゾーン 補助審判
を設ける(ハーフウェーラインを挟んで ①試合には、補助審判 1 名が指名される。
両側に 3m)
。交代ゾーンは、タッチラ ②補助審判の任務は、次のとおりとする。
インの外側に 30cm の長さで、ライン
1)主審によって要請された試合前、中、
後の管理上の任務を援助する。
2)ボールの交換を管理する。
3)
交代の手続きが円滑に行われるよう、
主審を援助する。
4)チーム、競技者が試合中にフェアプ
レー精神あふれる行動やリスペクト
ある行動を取っていたのを見た場合、
主審に知らせ、主審がグリーンカー
ドを示す援助をする。
5)
警告する競技者の特定を間違えて別の
競技者が警告されたときや、2 つ目の
警告が与えられたにもかかわらずその
競技者が退場させられないとき、また
主審の見ていないところで乱暴な行為
が起きたとき、主審に合図する。
試合時間
① 前、後半それぞれ10〜15分 間を原則
とする(年代によって変更できる)
。
②ハーフタイムのインターバルは、5 分間
とする。
③ 3 ピリオド制とした場合、3 ピリオド目
の中間点に、両チーム攻めるエンドを替
える。
プレーの開始および再開
キックオフから直接相手のゴールに入っ
た場合、相手にゴールキックが与えられる。
ファウルと不正行為
競技者が退場を命じられた場合、その競
技者のチームは交代要員の中から競技者を
補充することができる。
フリー キック
ボールがインプレーになるまで、相手競
技者は、7m 以上ボールから離れる。
スローイン
相手競技者は、スローインが行われる地
点から 2 m 以上ボールから離れる。
コーナーキック
ボールがインプレーになるまで相手競技
者は、7m 以上離れる。
延長戦および PK方式
(勝者を決定する必要がある場合)
① 前、後半それぞれ 3 分間ずつの延長戦
を設けることができる。
② PK 方式において、両チーム 3 人ずつ
の競技者がキックを行ったのち、両チー
ムの得点が同じ場合は、同数のキック
で一方のチームが他方より多く得点す
るまで、交互に順序を変えることなく、
キックは続けられる。
このルールに規定されていない事項につ
いては、
(財)
日本サッカー協会制定のサッ
カー競技規則を準用する。
43
©AGC/JFAnews
©AGC/JFAnews
©AGC/JFAnews
©AGC/JFAnews
女子 国内大会視察報告
【報告者】大部由美(ナショナルトレセンコーチ中国女子担当)
第18回全日本高校女子サッカー選手権大会
1. 大会概要
期間・場所:2009年 7月 26日〜 8 月 1日
/磐田スポーツ交流の里ゆめ
りあサッカーグラウンドほか
出場チーム:32 チーム
優勝:常盤木学園高校
(東北第1代表/宮城)
準優勝:神村学園高等部(九州第 1 代表/
鹿児島)
第 3 位:十文字中学高校(関東第 2 代表/
東京)
、日本航空高校(関東第 3
代表/山梨)
各地域を勝ち抜いた 32チームが高校日
本一を競う大会である。トーナメント方式
で行われ、常盤木学園と神村学園が決勝戦
に勝ち進み、常盤木学園が 2 大会連続 3 回
目の優勝を果たした。
2. 課題
① 昨年よりもスキルが向上し、パスをつ
なぐ 意識が各チームに見られた。しか
し、
「何のためのパスをつなぐのか」を
理解していない選手が多いように感じ
た。パスをつなぐ意識は悪くないが、
「ゴールを奪う」という目的を忘れない
でほしい。
②ボールを持っている選手に関わる選手が
少ない。特に逆サイドにいる選手は、ほ
とんど関わっていない。オフの選手の関
わりが重要になっている現代サッカーで
は、ボールがどこにあっても、攻守にわ
たり関わり続けられる選手の育成が大切
である。
③守備をしなくても相手のミスでボールを
奪えてしまう場面が多く、プレーの原則
の理解がないままプレーしてしまってい
る。奪える場面で奪えず、裏を取られる
場面も多々あった。守備の個人戦術、グ
ループ戦術の理解が必要である。
④攻撃から守備への切り替えが遅い。
奪われた
選手から守備をする意識を身につけたい。
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⑤日本の課題と言ってもいいフィニッシュ
の精度だが、この大会でも課題として
残った。テクニックのなさもあるが、GK
を観ないでシュートをうっている。スキ
ル獲得はもちろんだが、GKを観ること、
GKとの駆け引きをすることも身につけ
たい。
⑥年々、GKの質が上がってきていると感
じる。数年前までは何人か GKらしい選
手がいるといった感じであったが、近年
では全体的にGKらしくなってきている。
しかし、
GKらしくなってきたといっても、
現代サッカーでは攻守にわたり GK の役
割が増えてきているので、まだまだレベ
ルアップしていかなければならない。
特にディストリビューション(オープンプ
レーおよびセットプレー)において、GK
から攻撃の第一歩でボールを失うチーム
が多かった。
その要因としては、
GKがボー
ルを保持したら味方はボールを見ずに規
則的にラインを上げ、GKからのロング
ボールを待つという戦術傾向が多かった
ことも言える。ノックアウト方式という
ことでノーリスクが優先されるのは当然
であるが、GK自身が状況に応じていつ、
どこへ、どのようなボールを配球すれば
効果的な攻撃へとつながるのか(キック
or スローも含めて)を判断すると同時に、
味方の動き出しや受ける意識を高めてい
くことでチームとしてのボール保持率が
上がり、得点へ結びつける割合が増加す
るのではと考える。
また、パス&サポートにおいてもGKを
含めてビルドアップする意識を持った
チームが少なく、タッチラインへ簡単に
出してしまう傾向が多かった。
そして、効果的な攻撃を行うためのキッ
ク、スローの質には大きな課題が残った。
ボールをしっかりと蹴れる、投げること
ができる選手が少なかったので、この年
代でもっとボールを蹴り込むトレーニン
グの必要性を感じた。
U-15 年 代 で は 変 化 が 見 ら れ る 一 方、
U-18 年代ではGKからの攻撃開始に関し
て大きな変化が見られないので、今後も
この点は強く発信していく必要がある。
3. その他
今大会は、
トーナメント方式の35分ハー
フ( 70分ゲーム)
、交代選手 5 人登録 、5名
が自由交代可、給水タイムありで行われた。
女子も FIFA U-17 女子ワールドカップが
昨年からスタートし、この大会に参加する
選手の中からU-20・U-17日本女子代表が
選ばれてすぐにでも世界と戦うことを考え
ると、この年代のトップレベルの大会とし
て試合方法、環境等が適切なものであるか、
確認の意味も含めて一度検討したい。例え
ば、夏季大会で熱中症等の心配もあるが、
35分ハーフの試合時間や 2日の休息日とい
うコンディションに対する配慮がなされて
おり、給水タイムを取らなくても、選手た
ちがゲームを読み、自分で水をとるタイミ
ングを判断できてよい年代なのではないか。
また、自由な交代も選手のコンディション
に配慮したものだけでなく、戦術的に使用
されているきらいもある。
昨年、この大会がトーナメント方式に変
わり、
多くのチームが参加できるようになっ
たことは、高校チームの増加、活性化につ
ながっている。しかし、参加チームの中で
レベル差があったり、
地域の中では常勝チー
ムでも全国では1回戦で負けてしまったり
というケースもある。また、中にはチーム
の中の数人の力で勝ち進むようなチームも
ある。
この大会が年間を通じて活動するひとつ
の目標となるとともに、全体のレベルアッ
プを図り、チーム強化、選手個々の育成が
できる場として、チームのレベルに応じた
拮抗した試合が多くできる環境、リーグ戦
の環境もあわせて持つという取り組みも継
続して推進していきたい。
第14 回 全日本女子サッカーユース(U-15)サッカー選手権大会
1. 大会概要
連動してボールを保持できるようになって
多く見られた。
きた。だが、ここに判断があるとないとで
雨天での試合が多い中、スリッピーな状
期間・場所:2009年 8月6日 〜 11日
/ J ヴィレッジ(福島県)
出場チーム:16 チーム
優勝:浦和レッズジュニアユースレディース
(関東第 1 代表/埼玉)
準優勝:神村学園中等部(九州第 1 代表/
鹿児島)
第 3 位:NPO スフィーダ世田谷フットボー
ルクラブ(関東第 3 代表/東京)
、
ジェフユナイテッド市原・千葉レ
ディースU-15
( 関東第2代表/千葉)
は大きく差がある。チームとしてパターン
況でのキャッチミスやフロントダイビング
で攻撃しているところもいくつかあり、
ター
のミスで直接失点につながるシーンがいく
ンできるのにしない、相手がいるのにパス
つか見られた。このような中でも技術が発
してしまう等、
観て判断したのではなくチー
揮できるよう、基本技術および個人戦術を
ム戦術としてプレーしている場面も見られ
徹底することが重要である。
た。また、相手との関係を考えず、味方と
の関係だけでボールを受けようとしている
3. リスペクト
選手が多く、特にスペースが少ない中盤か
全国大会という大きな舞台で、緊張とプ
ら前線では、体の向きやボールを受けるタ
レッシャーの中で戦っている選手たちを応
イミング・場所が悪く、ボールを失うこと
援していた保護者のポジティブな声掛けが
が多かった。ボールを奪った瞬間に幅と厚
目立った。良かったプレーにはもちろんだ
みを持ち、相手のギャップや背後を使うこ
各地域を勝ち抜いた 16 チームが日本一
「次だぞ!」
「最
とで、ボールを保持し得点へとつながる。 が、失敗したプレーに対し、
を競う大会である。4 グループでリーグ戦
後まで頑張れ!
!」といった励ましの声が多
そのためには、テクニックの向上はもちろ
を戦い、各グループ 1 位がトーナメント方
く、選手たちは励まされ、ピッチ内からも
んだが、状況を観ながら考え、動きながら
式の決勝ラウンドに進出。
互いに声を掛け合ってプレーしていたのが
プレーすることが必要である。
準決勝は 2 試合とも延長戦の末、
浦和レッ
印象的だった。またレフェリーも選手に戦
ボールの保持はセットプレーやスローイ
ズと神村学園が決勝戦に進出。決勝戦は前
わせる意識で取り組んでいたのか、
予選リー
ンも含まれる。特にスローインは、フリー
日の雨とは打って変わって気温が高い中で
グではコンタクトの際も状況を判断してホ
で手でパスを出せるので確実につなげるこ
の戦いとなり、延長戦の末、浦和レッズが
イッスルを吹いていた。しかし、決勝トー
とが当たり前となってほしいが、成功率が
2 連覇を遂げた。
ナメントに入り、
さらに拮抗した試合になっ
低く、成功したとしても、投げた選手にリ
たせいか、試合コントロールに欠けていた
ターンをして大きく前線に蹴り込むことが
試合もあった。
多く、ターンをして攻撃に転じるプレーは
2. 分析
ベンチワークに関しては、現象だけを追
ほとんど見られなかった。相手との駆け引
いかけて選手のプレーを否定することがな
(1)守備
きやアイデアで局面を打開することをこの
いわけではなかったが、前回大会に比べる
100%ボール保持しているチームはない。 年代から身につけたい。
と問題点に対してのアドバイスや選手を鼓
ボールを保持していないときは守備で、ボー
(3)フィニッシュ
舞する声が出されていた。しかし、いまだ
ルを奪わなければ攻撃できないのだが、ボー
サッカーの最終目的は「得点」だが、GK
にレフェリーの判定に対しての言動が見受
ルを奪う意識を持った選手が少ないように
との 1 対 1 の場面でシュートストップされ
けられる。
感じた。
「守備」=「ゴールを守る」
「相手の
る、あるいは外すことが多かった。その他
今一度、 この年代にかかわる皆さんが、
攻撃を跳ね返す」という意識があるようだ。
の場面でも、ただゴールに向かって蹴って
「誰が試合をするのか」を考えていただき、
この意識も必要であり、実際にスライディ
いるシュートは GK に阻まれている。GK
お互いに尊重しあって子どもたちの成長を
ングやヘディングのスキルが向上し、所々
の質が全国的に上がったこともあるが、
フィ
見守っていただきたいと思う。
で粘り強い守備が見られ、ゴール前で体を
ニッシュの精度の問題も挙げられる。
張ってゴールを死守するシーンが増えてい
ゴール前にはトップスピードで入って行
る。しかしこればかりでは失点を防げても
くことが多い。動きながらのテクニックは
4. まとめ
得点は難しい。
「守備」=「ボールを奪って
向上しているがトップスピード下でのテク
攻撃に転じる」になるよう、
守備の個人戦術・
ニックはまだまだである。相手ゴール前で
2005 年からナショナルトレセン女子
グループ戦術の理解を高めていく必要があ
スペースも時間もなく DF のプレッシャー
U-15 がスタートし、各地域や県でのトレ
る。
も厳しい中で得点するためには、相手を観
セン活動、自チームでのトレーニングの成
大会を通して、セットプレーからの失点
ながらトップスピードでのファーストタッ
果が、着実に現れていると言っていいだろ
や危ない場面が目立った。CK・FKのキッ
チやシュートの精度、GKとの駆け引きも
う。昨年 U-17、U- 20 の FIFA 女子ワール
クの質が上がり、攻撃側は得点するチャン
身につけていく必要がある。
ドカップに日本女子代表も出場した。身近
スが上がったが、守備側はピンチ(失点) (4)ゴールキーパー
なところに目標ができ、女子サッカーを取
が増えた。ゴール前でのセットプレーの守
シュートストップにおける基本技術の向
り巻く環境が良くなってきた。しかし、求
備は今後の課題である。
上が見られた。良い準備を心がけ、注意深
められることが高く、多くなってきたのも
(2)奪った後の保持 〜オフでの関わり
く 1 回でボールをつかむことや、シュート
事実だ。今までもこの年代に身につけてほ
ボールを奪った後、やみくもにクリアす
に対する良い反応で簡単にゴールさせてし
しい要素を挙げてきているが、これからは
るのではなく、ボールをつなぐ意識が高く
まうシーンが少なかった。また、試合の傾
それらをハイプレッシャーの中で判断し、
なってきた。特に、GKを含めたディフェ
向として DF 背後をシンプルに突いてくる
実行していくこと。さらに 1 試合を通して、
ンスラインからのビルドアップが増え、
チームが多かったため、ブレイクアウェイ
大会を通してハードワークしていかなけれ
シュートまで行くシーンが何度かあった。
が頻発したが、予測を持ったポジショニン
ばならない。これからも「個の育成 」を行
テクニック・周りを観る意識の向上ととも
グから積極的な飛び出しや、粘り強い 1 対
いながら、心身共にタフな選手の育成をし
に、オフの選手の関わりが増えたことで、 1 の対応で相手からボールを奪うシーンが
ていく必要がある。
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女子 の各年代
選抜・代表チームが躍進!
U-19 日本女子代表は 2 度目のアジア制覇!
FIFA U - 20 女子ワールドカップ出場を決める
U-14 日本女子選抜 AFC U-14 Girls Festival
【報告者】髙倉麻子(U-14 日本女子選抜監督)
1. 概要
日程・場所:2009年 6月23日〜 7月1日
/ベトナム・ホーチミン
参加国: 日本、韓国、オーストラリア、
中国、タイ、ベトナム、シン
ガポール、ミャンマー、グアム
大会の目的:アジアの女子サッカーのレベ
ルアップと発展のため、若い世
代の選手に国際経験を積ませ
る。大会は、競技的なもので
はなく、
あくまでもフェスティ
バルであり、順位は決めない。
また参加選手全員が、均等に
試合に出場すること、他国の
選手と交友を深めることを目
的としている。
2. 選考について
昨年開催された AFC U-13 ガールズフェ
スティバルに引き続き、今年も AFC U-14
ガールズフェスティバルが、ベトナムで開
催された。AFCは2012年の FIFA U-17 女
子ワールドカップを見据え、昨年からの継
続性を持たせるため、今大会を U-14 とし
ている。
日本は中学生年代に入った女子選手に対
する一つのアプローチとして、本年度も基
本的には U-13(中学 1 年生)をベースに選
手を選考した。また、昨年同様、全国 9 地
域からくまなく選考することによって、地
域の少女サッカーの活動を活性化させたい
という狙いも持っている。
選考は、各地域のガールズ 8 大会、都道
府県大会視察や、各地域のナショナルトレ
センU-12 に選ばれた選手を中心に行った。
3. 大会総括
昨年に引き続き、事前合宿のない、いわ
ば即席のチームでの参加になった。成田で
初の顔合わせになり、2日後には試合とい
う心身ともにハードな日程だったが、選手
たちは前向きに取り組んでくれた。試合は
すべて合わせると、チームとしては 30 分
×14 本になり、各選手は基本的にはその半
分の 7 本に出場した。ただ、病気・怪我人
等の発生があり、選手によっては、プラス
何本かの出場もあった。
試合では、サッカーの基本的な技術(ト
ラップ、キック・ドリブルなど)は、他国に
比べると器用にこなす選手が多く、また、
日本の特長でもあるパスサッカーでゴール
前までボールを運ぶことに関しても、コン
ビネーションや組み合わせのトレーニング
時間がなかったにもかかわらず、ある程度
できていた。ただし、シュートの技術はま
だまだ改善しなければならない点で、チャ
ンスをつくっても決めきれないことが多
かった。この「シュートを決めきる大切さ」
は、この世代から徹底的に意識させ、練習
する必要があると感じる。
日本の選手は器用で、人をかわす技術や
パスをつなぐ技術は高いと言われ続けてい
るが、勝負に勝つためには得点が必要だ。
今後は、全体的な技術力向上と判断力向上
を図ることはもちろんだが、さらに、一人一
人が、
「決着をつけられる選手」を目指して
サッカーに取り組んでほしい。攻撃的な選
手であれば、得点を取れる選手、決定的な
パスを出せる選
手。守備的な選
手であれば、決
定的なピンチを
防ぐことができ
る選手を目指し
てほしい。その
ためには小学生
年代から少人数
制のゲームで、
ボールを扱う機
会とゴール前の
攻防を多くして
ほしい。
また、ヘディ
ング、スローイ
ンの技術を上げていくこと、体の大きな選
手に負けない肉体的な強さ、どんな環境に
おいても戦える強いメンタリティーがこれ
からは必要になってくる。
この先世界に出ていくために、選手たち
が今回体験することができた厳しい体験、
食事の違い、芝の深さや暑さ、体の大きな
相手との戦いなどを、彼女たちのこれから
のサッカー人生に貴重な糧として役立てて
ほしい。今回の経験から、選手自身が何を
感じ、これからどうやって変わろうとし、
努力していくのか、とても楽しみにしてい
る。
今回のチームでは、オフ・ザ・ピッチでも
オン・ザ・ピッチでもリーダーが現れず、
「指
示待ち」の選手が多かった。荷物の管理、
私生活の中で忘れ物が多く見られ、どこか
他人事のような雰囲気があった。そういう
点でも、各選手に、自分自身で何かを感じ、
自分自身が行動できる選手になるよう、ま
た、チームのリーダーになれるよう促した。
最後に各チーム監督をはじめ、今回の遠
征に快く協力していただいた方々に、この
場を借りてあらためてお礼を言いたいと思
います。
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ユニバーシアード日本女子代表
第25回ユニバーシアード競技大会( 2009/セルビア)
【報告者】太田真司(ユニバーシアード日本女子代表監督)
1. 概要
期間:直前キャンプ
2009 年 6月 20日〜 24日
現地キャンプおよび本大会
2009年 6月25日〜 7月12日
2. 前回大会後の重点強化策
前回のバンコク大会では 9 位の成績で
あった。前大会の課題からチームは 2 つの
目的を持って臨んだ。メダルを獲得するこ
ととなでしこジャパンにつなげることで
あった。そのためには最低でも予選を突破
することが重要であり、予選を突破するこ
とで決勝ラウンドは世界の強豪国と対戦す
ることができた。メダルを目指して勝ち進
むことで、たくましい選手を育成し、なで
しこジャパンに入れる選手を育成すること
ができるだろう。
また、なでしこジャパンと同じコンセプ
トで強化を行った。サッカーにおいては
「攻
守においてアクションを起こすサッカー」
を目指した。特に守備において、日本の強
みである組織力を生かし、スピード、パワー
に対抗することを強化した。また、選手に
はグラウンド内外において常に「観ながら、
考え、予測し、行動を起こす」ことを意識
させた。本大会は1 位から16位まで順位決
定を行う規定であり、負けても必ず 6 試合
行われるため、どのような状況においても、
前向きな思考を持って創意工夫し、行動で
きるかが重要であることを選手・スタッフ
と共有した。
3. 選手選考の経過と大会対策
今大会の選手選考は、なでしこリーグ(日
本女子サッカーリーグ )が大会期間中で、
なでしこリーグに所属する大学生の招集が
困難であったため、学連に所属する選手を
中心に招集して強化した。
3月に行われた10 地域対抗戦では、初日
の午前に行われた指導者講習会を利用して、
各チームの指導者の方々にユニバーシアー
ドのコンセプトを伝え、実践してもらい意
見をいただいた。また10 地域から来た
200名の選手にユニバーシアードのコンセ
プトを指導、実践して、対抗戦において意
識させた。このことで多くの建設的な意見
を集めることができ、またこの地域対抗戦
をユニバーシアードの強化に充てることも
できた。その後選抜した学連所属の選手で
トレーニングキャンプを行った。
その後、5月になでしこリーグ所属の選
手と学連所属の大学生を招集して、強化と
最終選考の場とした。海外のチーム対策の
ために、男子中学生や高校生と合同練習お
よび練習試合を行った。その中で、
スピード、
パワー、リーチの長さに対して、日本の良
さをどのように出していくかを考え、強化
した。体格と性別の違う男子高校生や中学
生相手に選手たちは最後までひたむきに行
動を起こしてくれた。
また夜のミーティングにおいては、テク
ニカル映像を活用しながら理想像と現課題
を比較し、チームコンセプトの浸透を図っ
た。また現地での食事、栄養、時差対策を、
ドクターやトレーナー、コーチから講習し
た。
4. 現地でのコンディショニング
ベオグラードには試合 5日前に到着した。
現地のホテルで 1 泊し、選手村に入村した。
時差を懸念したが選手はしっかり寝ること
ができたようだった。入村後の練習で負荷
を上げたトレーニングを課したが、選手た
ちは動きに精彩を欠いた。基本的に負荷の
高い練習を課したが試合期間においては
ピーキングを考え、負荷量を調整した。
現地の食事を 3 食しっかり食べることを
意識させた。選手村到着当初は食事の種類
が少ないため、栄養バランスに偏りがあっ
たが、日がたつにつれて改善された。そん
な中でも選手たちには、しっかり食べるこ
とを課した。一日おきにある6 試合に耐え
ることと、われわれの高い目標実現のため
には食べて試合で走り続ける体力が生命線
であった。食堂が 9,000人の選手で込み合
う時間帯を予測しながらチーム全員で食事
をとることにした。
5. 総評と反省
本大会は、日本女子代表は銀メダルに終
わった。ユニバーシアード初制覇の目標を
達成することはできなかった。しかし、選
手は試合を重ねるごとにプレーの質を高め、
個人として、チームとして、またグラウン
ド内外で意識を高め、サッカーに取り組む
姿勢を見せてくれた。最後は、明るく礼儀
正しい「なでしこらしさ」を大事にして、
借りた衣類や物品を綺麗にそろえ、気持ち
良くベオグラードを後にした。
今後は、世界基準をベースにした個々の
レベルを上げることが最重要課題である。
また、大学における強化の場を企画し、各
所属の指導者と課題を共有し、強化してい
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Japan Women's Football
なでしこジャパン(日本女子代表 ) 国内キャンプ・欧州遠征(ドイツ/フランス)
【報告者】望月聡(なでしこジャパンコーチ)
1. 概要
(1)日時・場所
2009 年 7月 22日〜 8月 4 日/国内キャン
プ(藤枝)
、ドイツ親善試合(マンハイム)
、
フランス親善試合(クレールフォンテーヌ)
(2)試合結果
2 勝 1分け
vs ドイツ女子代表( 0-0 引き分け)
vs フランス女子代表(4- 0、5 -1 2 勝)
2. チームコンセプト
・攻守にわたりアクションをする
(情報を収集し、能動的にプレーする)
・3ラインをコンパクトに保つ
(積極的な前線からのアプローチで、意図
的にボールを奪い、効果的な攻撃につな
げること)
3. 遠征の狙い
・個々の能力向上(ベースアップ )と、新し
い選手も含めて、なでしこジャパンの戦
術理解を深める。
・強豪チームに対して、何が通用して、何
が足りないのか、チーム・個人として確
認し、感じ取る。
4. 成果と課題
(1)成果
・意図 的なボール奪 取からフィニッシュ、
そしてゴールと多くの場面を創出するこ
とができた。
・ボールポゼッションにおいても支配率、
正確性は上 回ることができた。
(2)課題
・身体能力の高い選手への対応能力がまだ
まだ十分とはいえない。
・パススピード、パスの飛距離が低いため、
効果的なダイレクトプレー、ファストブレ
イクが少ない。
5. まとめ
© Jリーグフォト(株)
なでしこジャパンにとっては、すばらし
© Jリーグフォト(株)
い欧州遠征であった。
①新しいメンバーも含めて戦術理解・確認
ができたこと。
②欧州のサッカー環境に触れることにより、
各選手に新しいサッカー観が加わったこ
と。
③欧州チームに対して 2 勝 1 分けと勝ち越
したことで自信となったこと。
④各選手が、何が通用し、通用しないのか
を感じられたこと。
この経験をいかに今後につなげるかとい
うことと、継続することが重要である。
U -19 日本女子代表 AFC U -19 女子選手権 中国 2009
【報告者】佐々木則夫( U-19 日本女子代表監督 )
、 堀野博幸( U-19 日本女子代表コーチ)
1. 日時・場所
事前キャンプ:2009年 7月 20日〜 26日
/藤枝総合運動公園
直前キャンプ:2009 年 7月 27日〜 31日
/武漢スポーツセンター
AFC U-19 女子選手権 中国 2009:
2009年 8月1日〜13日/ Hankou Sports
Culture stadium(武漢)
2. 目的
①なでしこジャパンにつなげる選手の育成
② FIFA U-20女子ワールドカップ出場権獲
得とチームの強化
3. 滞在先
滞在先は、女子代表関連で初めてキャン
プを行う「藤枝エミナース」であった。宿泊
施設とグラウンドはバス移動であるが、移
動時間は 5分程度と問題は感じられなかっ
た。宿泊施設、藤枝市の協力体制もすばら
しく、キャンプに適した環境であった。今
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Japan Women's Football
© Jリーグフォト(株)
キャンプでは、AFC U-19 女子選手権に向
けたチームづくりと選手強化にあたり、一
部日程で、なでしこジャパン
(日本女子代表)
とのトレーニングマッチなど効果的なトレー
ニングが行えた。
4. 宿泊・食事等
日本での部屋は 3人または 4人部屋とし、
別にメディカルルーム、キットルームを用意
した。食事は3 食ともビュッフェスタイル。
食事内容は和食洋食ともに用意されていて、
味付けも量も満足できるものであった。サ
ラダや温野菜などバランスのとれた食事で
あった。
武漢では、全チームが同じ宿泊施設に滞
在した。食事は中国料理が大半であり、当
初は選手たちの食事摂取量が不安視された。
しかし、
慣れるにしたがい、
摂取量は増大し、
特に問題にはならなかった。部屋は 2 人部
屋であり、別にメディカルルーム、キット
ルームを用意した。
とオフ)
・個で闘うことのできる能力、スキルの向
上(攻撃と守備 )
6. 総評
日本の最大のポイントは、良くも悪くも、
技術・判断・チームワークであることを強
く感じさせられた大会であった。
個人戦術では、
「観て判断する」中で判
断するプライオリティーの質と実践するプ
レーの修正が重要である。守備の原則が身
についていないためピンチをつくる場面が
あったり、相手ボールを奪ってからの攻撃
の優先順位が身についていない等の課題が
あった。
「観て判断する」質へのアプロー
チはこの育成年代に行い、さらに相手との
駆け引き、個人のイマジネーションプレー
等に結びつけていくことが重要と感じた。
また技術面では、動きながらの質は顕著
にブレが多く、
今後さらにさまざまなプレッ
シャーがかかる中での技術をイメージしつ
つ、基本技術の質の向上に取り組んでいか
なくてはならない。
若い選手たちは自分たちで目標に掲げた
アジア制覇に向け、日に日にチームの結束
力を高め、1 戦 1 戦相手チームのタイプと
ゲーム状況の変化に対応していた。準決勝
の朝鮮民主主義人民共和国戦では日本の男
子高校 3 年生をイメージする相手のパワー
を消して戦う対応力の勝利だった。決勝は
これまでの攻守にアクションするサッカー
の、現段階の最高のパフォーマンスとチー
ムワークとともに目標のアジア制覇を成し
遂げた。若いこの世代では、短期間でも大
会を通じて個の成長とチームの躍進が見ら
れた。アジア制覇をチームワークとともに
勝ち取った。
●●●
試合結果 ● ● ●
〔グル ープリーグ 〕
日本 1 - 1 オーストラリア
日本 5 - 0 チャイニーズ・タイペイ
日本 1- 1 中国
〔 決勝トーナメント〕
準決勝
日本 1- 0 朝鮮民主主義人民共和国
決勝
日本 2- 1 韓国
5. 成果と課題
(1)成果
・個およびグループでの守備能力の向上
・ハードワークできるメンタリティーの獲得
・グループ戦術、チーム戦術の遂行能力の
向上
・チームワーク
(2)課題
・基本技術の質の向上( 攻撃と守備、オン
50
© Jリーグフォト(株)
対談
特集②
リスペクトプロジェクト
~サッカー、スポーツを文化に~
田嶋幸三 JFA 専務理事×小野剛 JFA 技術委員長(育成担当)× 松﨑康弘 JFA 審判委員長
相手の気持ちになって考えること
小野剛(以下、小野)
日本サッカー協会
(JFA)と J リーグで展開しているリスペク
トプロジェクトに関して、どういった狙い
で始めたのか、今後どういう形で展開して
いきたいか、といった話をしていきたいと
思います。
このリスペクトプロジェクトは JFA 全
体、J リーグ、日本サッカー界全体で取り
組もうということで始めました。7 月には
記者発表も行い、ホームページ(HP)も開
設して、積極的に広めようとしています。
まずこのプロジェクトの立ち上げのいきさ
つからお聞かせください。
松﨑康弘(以下、松﨑)
JFA、J リーグと
もにフェアプレーに関しては、元々フェア
プレーキャンペーン等、すばらしい取り組
みがありました。しかし、
本当に全体でフェ
アプレーが励行されているかというとそう
でもない現実があったと思います。フェア
プレーが形だけになっているという印象を
受けることもありました。そうではなくて
本当にこの精神を実現するためには、相手
の気持ちになって考えることが重要である
と考えました。
リスペクト、すなわち「大切に思うこと」
。
このフェアプレーの原点を追求した方がい
いのではないかと感じたのです。日本ばか
りでなく、
イングランドや UEFA(ヨーロッ
パサッカー連盟)もリスペクトプログラム
を行っています。イングランドはどちらか
というとレフェリーを守ろうというところ
それに関して、先ほど松﨑委員長もおっ
から始まっています。プロあるいは子ども
しゃったように、UEFA や他の国が始めた
のサッカーの部分でも、彼らが展開してい
ときには選手とレフェリー、あるいはベン
るプログラムやキャンペーンの映像なども
チ、保護者とレフェリーの関係に関する部
ありますが、レフェリーとの関係での問題
分が中心でしたが、
われわれがこのプロジェ
がかなり大きかったのだと思います。ある
クトを立ち上げるにあたり、最初の会議で
いはネガティブな発言をする保護者の観戦
「それだけでいいのか」という話し合いを行
位置を制限するテープであったり。しかし、
いました。レフェリーと選手だけではなく、
それはリスペクトの概念の一部にすぎない
選手同士、
選手と審判、
選手と指導者、
サポー
のではないかと考えました。それよりも、 ター、競技規則や施設や用具、それらサッ
もっと根源的に、選手たちが互いに、ある
カーを取り巻くありとあらゆるいろいろな
いは審判、ベンチ等が互いにリスペクトし
関係の中でとらえていきたいと考えたので
合う環境ができれば、真のフェアプレーが
す。いろいろな関係を互いがそれぞれリス
なされるのではないか、ということで考え
ペクトする。そういうことで、ひいては社
ました。
会からサッカーが尊敬され、サッカーが文
化となる。そういった大きな構想を考えま
小野 その考え方を発展させ、サッカー協
した。
会ばかりでなく J リーグを含め、サッカー
界全体でやっていこうということですね。
小野 最初は技術と審判から始まった動き
でしたが、それが大きな広がりとなり、サッ
田嶋幸三(以下、
田嶋)
今回のこのプロジェ
カー、スポーツを文化とするムーブメント
クトを開始する以前に、既にさまざまな布
としての可能性のあるプロジェクトとなっ
石がありました。例えば技術委員会で発行
たということですね。その価値観をさらに
している「合言葉はプレーヤーズファース
広めていきたいというものです。
ト」のハンドブック、ポスターやバッジ、 その発想の原点として、皆さんそれぞれ
こどもエリア等のさまざまな啓発活動、グ
何か経験をお持ちではないですか。例えば
リーンカード等です。今回の考え方の基に
私は、イングランドにいたときに、相手チー
なる、原点になるものは既に布石として取
ムが来て試合をすると、試合は互いに全力
り組まれていて、それをもっと広い概念で
でプレーして、試合が終わったらシャワー
とらえていこうということで、今回このプ
を浴びて、パブで相手チームも審判も含め
ロジェクトを立ち上げました。
て皆で乾杯してサッカー談議をする、そこ
51
までがサッカー、という感覚であり、今で
ドへ行き、子どもたちの試合もいくつか見
以前はイエローカードとレッドカードの少
もさわやかな記憶として残っています。そ
たのですが、本当に自然に互いに握手が出
ないチームという考え方だったのを、ポジ
のような皆が描いてきた記憶が組み合わ
る姿があり、参加者にはそれも新鮮だった
ティブ指標、かかわる要素を多角的に見る
さった面があるのではないかと思うのです
が、何かそういったバックグラウンドがあ
れば話していただけますか。
ようですね。サッカーのゲームは、ホイッ
スルからホイッスルではない。選手ばかり
でなく、審判や指導者ばかりでもなく、サ
ポーターや親も含め、スポーツをやってい
た人とそれ以外、ではなく、時間軸におい
ても空間においてももっと広くとらえ、互
いをリスペクトする概念だと思いますね。
また、別の観点では、以前、城福監督(城
福浩、現 FC 東京監督)が U-17 日本代表
監督をしていたときに、海外遠征に審判が
帯同したことがありました。西村雄一さん
(プロフェッショナルレフェリー)が一緒に
行ったのですが、チームと寝食を共にする
中で、互いに知らなかった相手の取り組み
や苦労を知ることになり、非常に良かった
という話がありました。また別の機会で海
外の大会に役員として参加した際に、審判
がフィットネステストを受け、フィジカル
のトレーニング、研修ミーティング、分析
と日々ハードワークし、そして自分の試合
に向けては非常に神経を使ってコンディ
ションを整える努力をしている。先日、国
内の大会でも女子の審判の方々が本当に
ハードなトレーニングをしていました。そ
の姿を目の当たりにしたことも印象に残っ
ています。普段であれば知る由もなかった
互いの苦労や想いを知ることも、互いをリ
スペクトすることの原点になると感じまし
たね。
「合言葉はプレーヤーズファースト」
のハンドブック作成の考え方に共通する部
分です。こういったことのきっかけを作れ
れば、という思いがあります。
そういった皆さんの原点となる経験が重
なって、きっかけを得て今回のこの一つの
プロジェクトが立ち上がったわけですね。
複数指標に変えたのも、この考え方の流れ
です。
「~してはいけない」から「~しよう
よ」と。さまざまな原点や取り組みのすべ
てが一つ、ここにかかわってきているとこ
ろですね。
実際にプロジェクトが始まって、一つの
形になるまで苦労があったと思いますが、
どのような取り組みがあったのか、説明し
ていただけますか。
田嶋 私がドイツにいたとき、小野さんが
言ったようなことが、12 歳の少年の試合で
もありましたね。試合が終わったら選手や
かかわる大人が、
「では何時にどこで」とい
う約束をして別れ、シャワーを浴びて荷物
をかついで再集合。大人はもちろん、子ど
もたちもコーラやジュースで乾杯、そこま
でがスポーツということが強調されていま
したね。日本の試合はキックオフのホイッ
スルから試合終了のホイッスルまで、
といっ
た認識とはまったく違うというイメージで、
非常に印象深かったです。
また、ブンデスリーガのレバークーゼン
等の試合で、
試合前に両チームのサポーター
代表同士がセンターサークルで握手すると
いうセレモニーがありました。当時はフー
リガンの問題が出てき始めたころで、互い
に喧嘩しに試合に来るようなサポーターの
集団がいた中で、サポーター同士のこうい
う機会を演出していたクラブがいくつもあ
りました。こういうことは日本でもしてい
かなくてはならないと感じましたね。
サッカーに限らずテニス等、他のスポー
ツでも、そういうことが当たり前のように
自然に行われていました。日本ではそれが
当たり前ではなく、あえて設定して取り組
んでやろうとしているところです。それが
当たり前というスポーツの歴史や文化の差
を感じた部分です。
松﨑 私がイングランドにいて審判をして
いたときに、試合が終わると自然に選手が
握手をしに来ました。自然にレフェリーか
らも選手と握手が出ていました。本当に自
然でしたね。日本だとそれをあえて「シェ
イクハンドセレモニー」として設定しない
といけないわけです。また、あるとき、試
合がうまくいかなかったときがあって、私
の審判もうまくいかなかったのですが、そ
のときに選手が来て「悪いけど今日は握手
できない」と言われました。それを率直に
わざわざ言いに来てくれたこと自体、本当
にありがたいと思いました。終わったら一
緒にシャワーを浴びて、パブで乾杯、とい
うことは当たり前でしたね。試合が終われ
ば「ノーサイド」という言葉がありますが、
まさにそこまでを一緒に楽しむのが当たり
前でしたね。
小野 先日、海外指導者研修でイングラン
52
松﨑 先ほど田嶋さんが言われたように、
すでにグリーンカードや「合言葉はプレー
ヤーズファースト」
、こどもエリア等、いろ
いろな取り組みが既にありました。だから
すぐに入ることができたと思いますね。グ
リーンカードはこの考え方のキーワードの
一つだと思っています。
小野 そういう意味ではフェアプレーも、
リスペクトを「大切に思うこと」
としてプロジェクトを進めている
田嶋 私たちは、リスペクトを「大切に思
うこと」としてこのプロジェクトを進めて
います。プロジェクトで集まってもらって
話し合う中で、このキーワード「大切に思
うこと」
、ここを決めていく中でいろいろな
議論がありました。まずはリスペクトとい
うことに限らず、日本人には外国語に対す
る精神的なバリアーがあります。なぜその
外国語の単語を使うの、という抵抗が日本
人にはあります。表現できる日本語がある
だろう、という意見があります。そういう
背景の中で、この言葉について考えました。
“Respect ” を辞書で引くといろいろな訳
語があり、それぞれ日本語でいい言葉があ
ります。一言で言うとなんだろう、という
議論をしたときに、
「大切に思うこと」では
ないか、といった人がおり、正にそれがベー
スなのだ、ということで意見がまとまりま
した。今思うと、この言葉が見つかって本
当に良かったなと思っています。
松﨑 一番最初に、何を、という対象を考
えましたよね。フットボール、ピッチ上、ピッ
チ外…。選手と審判等いろいろな関係があ
るので、
尊重し合う、
また規則等を順守する、
ということもありました。
それからサッカー
場だったり、サッカーシューズだったり、
用具を大切に使うということもある、とい
う話が出ましたね。
「大切に思う」という言
葉を出してくださったのは、実は浅見俊夫
先生(元審判委員長/前規律フェアプレー委
特集②
田嶋幸三 JFA 専務理事×小野剛 JFA 技術委員長(育成担当)× 松﨑康弘 JFA 審判委員長
リスペクト
プロジェクト
員長)だったんです。リスペクトプロジェク
いろいろな人が参加し議論を詰めることが
ち同士の試合のキックオフ前の握手です。
トをやりたいという話を浅見先生にしたと
できました。
こういうところがもう少し自然に出てくる
きに、言葉についても相談したところ、
「そ
「こうしなくてはいけない」
「これは良く
ようになればと考えています。
れは『大切に思う』ではないか」と言って
いただきました。
ない」ではなく、短い文章と写真だけでほ
のぼのと伝わるというコンセプトでやりま
した。文章を足して補うなら簡単だったの
でしょうが、写真一つ選ぶのも皆で苦労し
ましたね。その過程が楽しかったですけど。
小野 最初は、審判と選手だけの関係の範
囲だと「尊重し合う」という言葉で良かっ
たのですが、対象を広くとったことで議論
が深まり、その言葉が出てきたわけですね。
松﨑 選手同士、選手と審判。競技規則や
ルールを守る。用具を大切に使う…。
「尊重
する」ではぴったりと当てはまらなくなる
のですね。
田嶋 その辺をじっくり話し合ったからこ
そ方向性がはっきりしました。グラウンド
やボールを「大切にする」ということでしっ
くりはまったんですよね。
松﨑 まさに、対象をどうとらえるか、で
出てきた議論でした。その上で、それをど
う展開していくか、の議論になりました。
ただキャンペーンする、
では良くない。何が、
が大切であると。
小野 さまざまなツールが用意されました。
その辺の作業の過程をお話しいただけます
か。
松﨑 この本を使って、あるいは他のもの
を使って推進していきたいですね。登録審
判員には、
リスペクトのリストバンドとワッ
ペンを全員に配布しました。このワッペン
は着用を義務付けています。腕につけるべ
きか胸につけるべきかから始まり、これが
きっかけに真剣に議論がなされているよう
です。リスペクトをどういうふうに試合で
実践していけばいいのか、考えてくれてい
るのです。そんなふうにリスペクトを考え
てくれること自体すばらしいきっかけであ
ると思います。
小野 ロゴは日比野克彦氏に作成していた
だきました。このほかには、ハンドブック
をダイジェストにした A4 三つ折りのリー
フレット、大会プログラム等に挿入する 1
ページものも作りました。ハンドブックも
HP で見れるようになっているので、ぜひ
多くの方に見ていただきたい、活用してい
ただきたいと思っています。イメージ映像
も作成しました。
ここから、いくつかのツールができて、
これらのツールを用いてどのように展開し
ていってどのような姿に持っていきたいと
お考えですか。
田嶋 ハンドブックをつくる最初の段階で、
説教がましいこと、ネガティブな表現はや
めようという話が出ました。いろいろ難し
く硬い説明が並ぶ読み物にはしないように
しよう、
と。できることならさらっと読んで、
それがいいんだね、と心に残るようなもの
田嶋 まず、このリスペクトということが、
にしたいと考えました。短い文と写真です 「日本のいいところ」という面があると思い
ばらしいものになったと思っています。こ
ます。海外から言われるのは、交代してグ
の 1 ~ 2 行の文章と写真からどう訴えるか、
ラウンドを去る選手がピッチに礼をする、
写真の選定にも議論を重ねましたね。
それが日本人には自然にできる。それを海
構成は、選手目線のページ、コーチ目線、
外から見たら日本人は礼儀正しくすばらし
審判目線、サポーター目線等、さまざまな
いね、と言ってもらうことがあります。観
目線で組まれていて、一読しても分からな
る人が観ると、
心がこもっていることはちゃ
いかもしれませんが、何度も読むと味が出
んと伝わると思いました。逆に、伝わらな
てくるといったものになっているのではな
いところは伝わらない。
いかと考えています。
例えば、選手と握手するときに、代表レ
ベルでもなかなかしっかり手を握らず、目
松﨑 ワーキンググループでいろいろな話
を見ないことが多い。さらっと形式的に手
をしながら作りました。範囲も考えました。
を触れるだけです。これでは形だけで意味
この過程でいろいろなことが勉強になりま
がない。握手はしっかり手を握って相手の
したね。リスペクトということがより深く
目を見て行うもの。これは、
JFA アカデミー
分かり、あらためて学ぶことができました。
でも非常に大事にしているところです。ハ
ンドブックの17ページにあるのですが、
「試
小野 ワーキンググループには、JFA 各委
合のはじめに相手の目を見てしっかりと握
員会、各部からもいろいろな人が参加して
手する。リスペクトの証として」
。写真は J
くれました。J リーグからも専門家として
リーグと K リーグのリーグ選抜の子どもた
小野 昨年の全日本少年サッカー大会でも、
最初のうちは試合前の握手がおっしゃるよ
うに手を軽く触れるだけの形式的なもので
した。途中で技術と審判の話し合いの中で、
ここを変えていこうということで、審判ア
セッサーからユース審判に対して指導して
いただき、ユース審判が腰をかがめて子ど
もの目線に合わせ、しっかりと手を握る握
手をするようにし、全体に広がっていった
ということがありました。26 ページはその
写真ですね。
田嶋 そういうことを徹底し、もっと自然
に当たり前にやれるようになりたいもので
す。まねごとで形式的にやっているうちは
だめ。本人が内面的な動機で本当にありが
たいと思ってやる。そのステップにしたい
ですね。これを出すことでそういうことに
刺激を与えたいと考えています。
松﨑 現在、イングランドからインストラ
クターが来ていますが、
彼に言わせると、
「日
本でリスペクトプロジェクトなんてなんで
やるの、リスペクトはちゃんとあるじゃな
い」
。海外から見ると十分に見えるのかもし
れませんが、実際はまだまだ形式的なもの
が多いと感じています。本当に心からの行
動にしたい。もちろんそうできている人も
いるが、まだまだそれが全体に広まってい
るわけではありません。まずはサッカーの
中でしっかり根付かせたいですね。
フェアで 強い日本を目指す
小野 海外から見た日本、という面でいく
つか話が出ました。リスペクトのワーキン
ググループでの話し合いの中でも出ました
し、
リーフレットにも入れたのですが、
「フェ
アで強い日本を目指す」という言葉があり
ます。この辺についてはどうお考えですか。
松﨑 よく言われることですが、サッカー
にはマリーシア等いろいろなことがありま
す。それがないから日本は弱い、と言う人
もいる。
「イングランドも南米に比べるとリ
スペクトが醸成されている、だから弱い」
と言われることもある。でも、それは関係
ないと思います。
「フェアで強い」がいい。
日本人ならそう感じる人が多いのではない
でしょうか。相手がどう来ようと、それに
打ち勝っていくのが日本人ではないか。そ
うありたいと考えています。
53
田嶋 FIFA(国際サッカー連盟)でも、シ
されたり。どれだけの重要性をもって設定
レーションズカップとほぼ同時期に行われ
ミュレーション等、審判をあざむく行為、
しているかがうかがえます。
たものです。オランダの選手が、相手の FK
ひじ打ち等、悪意のあるずるい行為を否定
全日本少年大会やチビリンピックでは、
になった際にボールを返したらイエロー
する動きがあります。FIFA もコントロール
しようとしているのです。それがサッカー
というゲームの向かう方向だと思います。
そこはわれわれとしても日本らしさを求め
る方が良いと考えます。日本選手、チーム
の評判が海外の審判の中でも高く評価され
るようでありたいです。
フェアプレーコンテストの項目で、グリー
ンカードは加点になっています。確かに今
田嶋さんが言われたことも考えられますね。
ちなみに、フェアプレーコンテストは、全
日本少年大会、チビリンピック、キリンカッ
プ等で行っています。地域のプリンスリー
グで導入してくれているところもあります。
これも自然なこととしてぜひ当たり前にし
ていっていただきたいところです。
グリーンカードに関しては、まだ出す方
が慣れていないので躊躇(ちゅうちょ)して
しまう面がありますね。今年の全日本少年
大会では、グリーンカードに関しては、1
日目にあまり出なかったので、終了時点で、
審判アセッサーの方がユース審判員にグ
リーンカードの DVD を使って研修を行い、
翌日からはどんどん出るようになりました。
研修を経て前日のプレーのさかのぼりもあ
りましたし、ユース審判が見きれなかった
ものをアセッサーが出してくれたものも
あったそうです。
カードが出てしまったのです。試合後の記
者会見でオランダのコーチから「あれはグ
リーンカードものなのに、
なぜイエローカー
ドが出されなくてはならないのか」という
発言がありました。
「オランダでもグリーン
カードという概念がこんなに浸透している
のか」とそのときつくづく感じましたね。
日本でもここまで浸透させたいと強く感じ
ました。
松﨑 グリーンカードは、昨年のガールズ
エイトでも積極的に出すよう指導しました。
大会の性質もあるとは思いますが、笑顔で
ためらいなくたくさん出せていました。迷
いなく自然に流れの中で出せるように DVD
も作成しましたので、ぜひ見ていただき、
積極的に出していただきたいところです。
小野 審判だけでなく、コーチも同じです
ね。さらに、保護者、サポーター等、すべ
てがこの「リスペクト」の絆で結ばれたら
すばらしいですね。
小野 世界で勝っていくためには他をまね
て無理に背伸びしても仕方がないというこ
とですよね。最後は素の国民性が出て闘っ
ていくもの。日本人が本来持っているもの
を生かして闘っていくことが大事だと思い
ますね。そうでなければ日本が勝つことは
できないのではないでしょうか。
田嶋 日本人らしさを出して闘っていくこ
とが大事ですね。そのことが結果的に受け
入れられるし、最終的に勝つことの近道に
なるのではないでしょうか。
小野 リスペクトプロジェクトを展開しな
がら、今夏の全日本少年サッカー大会では
プログラムに掲載し、リーフレットを配布
しました。選手宣誓では、
大分の主将が「リ
スペクト宣言」を、自分の言葉で堂々と宣
誓してくれました。すごく印象的でした。
気持ちのいい、形というより心からの言葉
であったと思います。
松﨑 大会は見れませんでしたが、リスペ
クトという観点でいかがでしたか。
小野 良い方向にいっていると思います。
最近のいろいろな取り組み一つ一つのキャ
ンペーンの効果が徐々に出てきているので
はないでしょうか。選手、指導者の努力に
加え、グリーンカード、技術と審判とのミー
ティング、一つ一つがこのプロジェクトで、
点が線で結ばれてきた印象があります。
田嶋 グリーンカードは多く出ましたか?
グリーンカードがもう少し生かせればいい
のではないかと感じています。例えば、グ
ループリーグで勝点や得失点差が並んだと
きには抽選ではなく、グリーンカード、フェ
アプレーが加味されるとか。
小野 その点で言うと UEFA は、
UEFAカッ
プの出場枠が 3 枠、年間のフェアプレーコ
ンテストの上位の国に与えられることに
なっているわけですから、非常に重要視さ
れていることが分かります。FIFA だとユー
ス育成に使用を限定したバウチャーが授与
54
小野 研修、ディスカッションしながら積極
的に出す姿勢を大会中に示していただけた
のは非常にすばらしいことだと思いました。
松﨑 グリーンカードの導入の経緯は田嶋さ
んが技術委員長だったときからでしょうか。
田嶋 2003 年 1月のフットボールカンファ
レンスで、
アンディ・ロクスブルク氏(UEFA
テクニカルダイレクター)が、ディスカッ
ションの中で情報としてフィンランドでの
例を教えてくれたものを、その後すぐに取
り入れました。その後 AFC
(アジアサッカー
連盟)でも導入されています。また、その
年に U-6 からキッズのガイドラインを作成
したので、その中にも掲載し、キッズリー
ダー講習会の認定証にも活用して普及を図
りました。
グリーンカードに関してもう一つ、強く
印象に残っているのは、2005 年 6 月の
FIFA U-20 ワールドカップですね。その当
時は、ホイッスルが鳴ったら相手ボールに
は一切触るな、ということが FIFA から強
調されていた時期でした。FIFA コンフェデ
小野 グリーンカードの考え方は、このリ
スペクトのハンドブックのコンセプトその
ものですね。
「これをしてはいけない」では
なく、心から良いと思ったことをやり、そ
れを褒める、というものです。
松﨑 どうしても日本人はマイナス、ネガ
ティブな視点から入りがちですからね。特
に審判はそういう面が強いかもしれません。
そこをポジティブに変えていきたいという
ムーブメントの一つです。
松﨑 まさに文化。皆がこうなっていけた
らすばらしいことです。サッカーだけでは
ないですよね。
小野 サッカーが文化として根付く。さら
に広く、スポーツが広く文化として根ざし
ていく。
田嶋 他のスポーツと一緒にやろうという
前提にありました。だから他のスポーツの
写真もほしかったという思いがあり、2 ペー
ジに野球とサッカーの子の写真を入れまし
た。サッカーだけがリスペクトプロジェク
トをやっています、というのは社会で通ら
ないですね。スポーツ全体がそうなり、子
どもの健全な成長にスポーツが大いに寄与
している、とならないと、認められていか
ないと思います。次のステップとして、
サッ
カー外へも広めていきたいです。また、今
は何のスポンサーも受け入れずにやってい
ます。最初は自分たちの気持ちで、という
思いがあります。しかし、広めていかなく
てはなりません。その方が広まるのであれ
ば、あるいは十分な活動ができないのであ
れば、スポンサーの協賛をいただいてやっ
ていくことも考えていきたいと思います。
広めるためには、メディアに限らず、行政
特集②
田嶋幸三 JFA 専務理事×小野剛 JFA 技術委員長(育成担当)× 松﨑康弘 JFA 審判委員長
やさまざまなイベントに広めていくことも
田嶋 これが必要なくなればいいと思って
松﨑 同感です。日本人はもともとリスペ
考えていきたいです。
います。リスペクトが当たり前になり、わ
クトできる国民だと思います。日本人らし
ざわざキャンペーンやセレモニーをする必
さを追求していけたらと思います。そのこ
要がなくなるようになることが理想です。
それがサッカー、スポーツの価値を高めて
いくことにつながると思います。こういっ
たことはまさに今の社会に必要なことだと
考えています。究極の目的は、日本社会に
こういった価値観を広めることです。
とにサッカーが寄与できればうれしいです。
小野 J リーグ各クラブとの共同も力にな
りますね。その先にスポーツが文化となる。
文学や芸術と同じように、スポーツが文化
として国民の生活の中に浸透していくこと
を目指したいですね。では、まとめとして
一言ずつお願いします。
リスペクト
プロジェクト
技術と審判の協調
( 第33 回全日本少年サッカー大会から)
眞藤邦彦(以下、眞藤)
今大会を振り返ってみて、
審判研修の成果はいかがでしたか(準決勝前にイン
タビュー)
。
第33回全日本少年サッカー大会審判主任インストラクター
布瀬直次氏に聞く
聞き手:眞藤邦彦(JFA インストラクター)
●平等…平等・公平(フェアであることが最も重要
な役目)
た。
マに対して忠実に実践し、ゲームコントロールするこ
とです。
布瀬 まずは「みんなつながっている」ことを確認し
ました。選手と審判団が敵ではなく、また指導者とも
相反するものではなく、皆がお互いにつながっている
眞藤 競技者の安全の中で、「後処理」とあります
が、具体的にはどのようなことですか。
眞藤 どんなキーワードやテーマで研修を進められま
したか。
眞藤 今大会でも技術と審判の協調について取り組
みましたが、それについてお願いします。
●楽しさ 以上のことをゲームで表現できるようにしていきまし
布瀬直次(以下、布瀬) 研修のキーワードやテー
小野 スポーツが日本の中で文化として根
付く、そのために全国のサッカー仲間が力
を合わせるきっかけとなってくれるとうれ
しいですね。
ことをうれしく思っています。技術と審判だけでなく、
チームのコーチの質問に対しても、真摯に受け答え
していきました。私たち長らく審判に携わってきた者
布瀬 準決勝では特に暑い中でのゲームとなりまし
が、インストラクターとなり、指導者の方々と旧交を温
た。もちろん給水タイムは取りましたが、それだけで
められる場面が多くあることも本大会の特徴と感じま
す。選手から指導者、審判員からインストラクターと
布瀬 まずは選手のリスペクト宣言で今大会が始まり
はなく、子どもたちのプレーを観察していて、個々へ
ました。同様にレフェリー同士もリスペクトすることか
の配慮を含め、怪我の予防に努めることも大切であ
立場を変えて、再会を喜んで昔を懐かしむことができ
ら始めました。 今大会はアセッサー 17 名、 審判 64
るということ、そういった気 付きを持ちながらゲー
たのも良いことではないかと思います。また、審判と
名(女子 1 級 3 名、地域 35歳以上 2 級 5 名ほか、
ムを進めていこうということです。
若手 2 ~ 3 級 56 名 )が参加しました。最初は、大
技術との協調では、「こっちはこっちでやっているん
だ」というような隔たりはなく、この年代の将来をどの
きな集団の中でそれぞれが緊張し、「この人はどんな
眞藤 それでは今大会の子どもたちのプレーを見て
ようにしていくのか、プレーをどのように考えていくの
人なのだろう、うまい人なのだろうか」などと探りなが
の感想を含めて、審判の研修を振り返ってください。
かを一緒に考えていくことこそ、何よりの取り組みだと
布瀬 大会に参加したチームが JFA の発信してい
に日本のサッカーを考えていきたいと思います。われ
らの集まりであったと 思います。しかし、まずお互
いをリスペクトし合い、認め合う中で今大会を良いも
思います。これからも選手の将来を見据えて、一緒
のにしていこうと確認し、実にスムーズに良い形での
る指針に沿って、
「観て考えて」プレーしていました。
われが子どもたちの将来に触れ、つながっていること
研修が始まりました。
また、子どもたちのプレーに無限の可能性を感じまし
を強く感じた取り組みでした。
その研修で、「ゲームを通して子どもたちが思う存
た。そのことを踏まえて、「観て考えて」の部分で審
分プレーでき、フェアで楽しいこと」という原点に立
判も同じだということを研修でも伝えました。加えて、
眞藤 最後に研修をされた審判の方々に一言お願
ち返り、ゲームをつくろうとしている選手を支える気持
レフェリーも子どもたちのプレーから学ぶことが大切で
いします。
ちをモットーに、良いレフェリングを目指しました。
あると強調しました。レフェリーも観なければならない。
それも漠然と観るのではなく、観察することが大事で
眞藤 ところで、今大会のテーマは何ですか。
布瀬 今回集まった審判団の平均年齢は19.5 歳で
す。それは、チームとして個人として何をしようとす
す。選手が 17 歳で Jリーグに出ている現実を考える
るかを観て、感じてほしいからです。その上で、目
と、目の前の子どもたちが 5 年後には Jリーグで活躍
布瀬 まずはキーワードを設定しました。キーワード
標である競技規則の理解を深めていくことが大事で
していることもあるのです。可能性を感じる子どもた
は次の 7 つです。
あると考えているからです。
「謙虚に・真剣に・審判をすることの楽しさを再確認」
「仲間との共同作業」
「正しい判定を目指す」
「プレー
を観るために動く」「真摯に真剣に取り組む」「審判
ちがトップで活躍します。同じステージで、われわれ
もうまくなって(さらに上級審判員として)再会できる
眞藤 その結果として審判研修の成果はどうでした
ように、今後も研修し続け、頑張っていくことを確認
か。
しました。
団は、第 3 のチーム。主審はリーダーとして、副審・
第 4 の審判員は良きアシスタントとしてレフェリングを
布瀬 審判員の中には、ゲームが始まるとファウルを
まとめ
楽しむ」「オン・オフを明確にし、オフ・ザ・フィール
見つけにいくようなレフェリングになってしまう者が、時
今大会の取り組みでは、各ゲームにおいてスピー
ドでも自覚を持つ」。
折見受けられることがあります。ゲームの流れに沿っ
ディーでフェアでタフに戦う選手を育てるために、
レフェ
また、今大会でのトピックスである RESPECT(リ
て「スピーディーで、フェアで、タフな闘い」を続け
リーアセッサー(審判)とナショナルトレセンコーチ(技
スペクトプロジェクト)についても理解を深めました。
させるという目的がしっかりと展開されるようにしていく
術)が子どもたちのプレーやレフェリングについてさま
お互いを「大切に思うこと」について、審判もしっか
ことが大事であることを強調して伝えました。その上
ざまなディスカッションを行いました。審判や技術、あ
りとリスペクトの精神を学びました。それぞれが地域
で、接触が些細なファウルなのか、その影響の度
るいはチームの指導者や保護者も含めて、子どもた
へ広げていくことも確認できたと思います。
合いを見てプレーを続けさせられるかどうかの判断を
ちとかかわる大人が、子どもたちとかかわる環境をつ
そして、今研修会の目標は「競技規則の精神に
するのがレフェリーの重要な仕事であることを研修し
くり上げ、その環境でたくましい自立した選手が育っ
ついて理解を深めること」でした。
ました。戦わせる部分の見極めと、
判定基準に沿って、
ていくことを考える良い機会になりました。ぜひ各地
● 競技者の安全 … 保護(後処理ばかりでない →
手の不正使用等についての一貫した判定について
域でも、技術と審判の協調を目指して取り組んでいた
の理解がかなり深められたと考えます。
だきたいと思います。
「気付き」を持とう)
55
2009
ナショナル
トレーニング
キャンプ U -16
【報告者】山崎茂雄(ナショナルトレセンコーチ)
このナショナルトレーニングキャンプ U-16 は、
スポーツ振興基金助成金を受けて実施しています。
1. はじめに
©AGC/JFAnews
大切にした。
ナショナルトレーニングキャンプ U-16
「プレーの連続性と選択肢」
は、2013 年の FIFA U-20 ワールドカップ
例えば、奪われたら奪い返す、奪った地
を目指す代表のラージグループとして実施
点からゴールを目指すなど、スピードの中
されてきた。3 回目を迎える今回は、さら
でも相手のわずかな変化を見逃さずにプ
なる「
『質の追求』~ゲームを支配するため
レーし続けることを求めた。そして、攻守
に~」というテーマで、東日本は北海道、 において、組織的にプレーしながら、個の
東北、北信越、関東、JFA アカデミー福島
判断が生かせるように目標を設定した。具
から総勢 40 名の選手を招集して実施した。
体的には、攻守にわたり相手がしかけてく
る状況下で自分の考えをアクションやコー
チングで味方に伝える意識を強く持たせ
2. キャンプでのキーワード
た。
「意図を持ってプレーする」
U-16 では、攻守にわたり主導権を握って
3. トレーニング
ゲームを進めるために、ボールがあるとき
もないときも状況を観て判断し、多くのプ
テーマを
「ビルドアップ」
「中盤の攻防」
「崩
レーヤーが関わる質の高さを追求した。育
し」
「ゴール前の攻防」
「クロスの攻防」とし、
成期の自分とボールを強く意識した関わり
コーチが選手の状況を判断して、トレーニ
から、相手、味方、スペース、ゴールなど
ングを実施した。すべてのトレーニングの
多くのものを観て、いつ、誰が、どこへ、
礎となるのは、
「テクニック」
「判断」
「コミュ
どのようにアクションを起こしていくかな
ニケーション」
「フィットネス」の基本の質
ど、価値観を共有しながら個のアイデアを
である。
①ビルドアップ
ボールの移動中にポジションをとり、タ
イミングの良い動き出しや、パスに強弱を
つけて駆け引きをしながら組み立てができ
た。半面、テクニックに頼りすぎて自分と
ボールの関係になり、ポジショニングに甘
さが出たり、数的優位をつくり出すプレー
が雑になったりする場面も見られた。
② 中盤の攻防
方向性を意識しながら、相手の変化を観
てスペースを効果的に活用することができ
た。ボールを保持した選手と周囲の選手の
狙いが合い、タイミング良く動き出すプレー
が次第に増えていった。半面、パスの選択
肢が持てず、動き出した選手に安易なパス
を出してしまいボールを失うケースも見ら
れた。
③崩し
守備ブロックをイメージして狭い地域で
前線の選手との関わりを強調し、フィニッ
シュへとつなげた。3対 2 + 1対 1( 2 対 2)
+ GK では、攻撃の 5人が効果的に関わり
スピードに乗ってゴールへ向かうシーンが
多く見られた。ゴールを意識することで
FW がターンをしたり、3 人目の選手とタ
イミング良く関わるプレーが出て、活気の
あるトレーニングとなった。
④ゴール前の攻防(クロス)
3 対 3+3 対 3+GK では、ゴール前での攻
防に焦点を当てた。厳しいマークの中で主
導権を握る動き出しやファーストコント
ロール、フィニッシュの質を求めた。狭い
地域でのポジショニングの重要性や、観る・
観ておく・動きながら観ることを強調した。
©AGC/JFAnews
56
⑤守備
それぞれのテーマの中で要求をした。多
くの選手たちが積極的に奪いに行く姿勢を
持っていた。しかし、トレーニングの中で
は最初の狙いから次なる狙いに切り替わる
ときの予測や準備が不十分で、簡単に抜か
れてしまう場面もあったので修正をした。
組織的に奪う狙いとして、ボールの移動
中の良い準備の共通理解を図った。局面で
は、ファーストDFだけでなく、周囲の選手
がコーチングをすることでより意図的に奪
う状況をつくり出す狙いを持たせた。
4. トレーニングマッチ
キャンプ 3日目、5日目に JFA アカデミー
福島を含めた 4 チームで 11 対 11 のゲー
ム(30分× 3本)
、4日目には 8 対 8 のゲー
ム(20分× 3本)
を実施した。
3日目のゲームでは、攻撃や守備に良い
プレーを見せてはいるものの、選手個々の
連携が薄く、特に切り替えの部分で問題が
出た内容だった。まずは、選手に奪い返す・
ゴールへ向かってプレーすることを意識さ
せる必要性を感じた。
● 8 対 8 のゲーム
(38名を 4チームに編成してのゲーム)
前日のゲームでの課題を改善するため、
試合前にトレーニングを入れた。個々の力
が浮き彫りになるゲーム展開に、選手たち
はピッチの中でコーチングをし始めた。ま
た、より積極的な守備からゴールを目指す
姿勢が強まり、フィジカルコンタクトやス
ライディングなどのプレーが見られ、得点
も多くなった。キャンプ当初、
目立たなかっ
た選手が他の選手との関わりを多く持ち、
特長を出せるようになってきたのは収穫で
あった。
半面、技術、判断面での個人差が目立つ
ようになってきた。一つのミスが失点にな
る緊迫感のあるゲームで、観て判断してプ
レーにつなげることが十分にできない選手
は、関わりが少なく、消極的なプレーになっ
てしまった。
5日目は、前日の 8 対 8 ゲームのイメー
ジからか、守備に対する意識が高まり、切
り替えも速くなった。後期へ向けて、組織
中盤の攻防
Tr.1
4対4+
1フリーマン
観る
サポート
テクニック オフの関わり
置き場所 タイミング
Tr.2
57
2009 ナショナルトレーニング
キャンプ U -16
的に意図を持ちながらボールを奪う守備を
目指していきたい。攻撃では、感覚的なミ
スが少なくなり、プレーのメリハリ、スピー
ド感が出てきた。オフの選手がタイミング
良く動き出し、相手の守備にできたスペー
スに進入して崩す場面が見られた。
セットプレーでは、3日目の前日にレク
チャーを入れて考え方の共通理解を持った。
メンバーが発表になった時点で GK を中心
に攻撃・守備のやり方を自分たちで考えて
取り組んだ。
5. 審判との協調
上記の試合すべてに審判中央トレセンの
方が審判を行った。キャンプ 4日目には実
際のゲームから抽出したシーンの映像を見
て、技術( ナショナルトレセンコーチ)と
審判の関係者でディスカッションを行った。
6. 成果と課題
プ U-16 にあたり、選手を快く送り出して
いただいたチームの皆さまに心よりお礼を
申し上げます。
今回のキャンプで招集された多くの選手
が、ほんのわずかな意識を変えるだけでプ
レーに大きな変化が見られた。しかし、こ
のわずかな部分が世界とのギャップであり、
習慣化して埋めていかなければならないも
のであると思う。そのために、
選手たちには、
日ごろより世界を見据えてこだわりを持っ
てプレーをしてほしい。
キャンプを通じて守備では 1 対 1 の力、
スライドやカバーリングなどの判断力の向
上が必要だと感じた。攻撃では、今回の内
容をさらに高めるとともに、GKを含んだ
組み立てにも積極的に取り組んでいきたい。
最後に、ナショナルトレーニングキャン
©AGC/JFAnews
ゴール前の攻防
Tr.1
Tr.2
2 対 2 ~ 3 対 3 + GK
58
3 対 3 + 3 対 3 + GK
ボールの移動中の準備 観る
パス&コントロールの質
優先順位
ギャップの共有
動き出しのタイミング
観る
アクション
動きながらのコントロール タイミング
積極的なしかけ
スペースを作り・使う
動きながらの判断 フィニッシュ
ポジショニング
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級養成講習会のテキストとして制作されたものです。
(財)日本サッカー協会技術部 TEL 03-3830-1810
申込方法
61
スポーツ医学委員会委員長 福林 徹
秋を迎え新型インフルエンザは再び猛威をふるいつつあり
選手を練習に参加させないことが第 1 に重要な事です。万一
ます。このインフルエンザはメキシコで今年 3 月頃発生いた
参加した選手を見つけた場合には選手を隔離(帰宅)し、マス
しましたが、従来のインフルエンザと異なり誰 1 人としてこ
クをつけさせ帰宅させます。また練習に参加した一般の選手
のウイルスに対しての免疫を持っていないため、瞬く間に全
には頻回の手洗い、うがいを奨励します。
世界に広がり、いまや日本でもパンデミックな状態になって
それでは具体的にサッカー現場で監督・コーチはどうすれ
しまいました。最近のニュースでもこのままインフルエンザ
ばよいか。まず選手が集合したら、体調不良を訴える選手が
が 拡大し続ければ10月には日本でも5人に1人
(2,500万人) いるかどうか聞く必要があります。万一体調不良、特に発熱
が発症し、38万人が入院し、3 万 8 千人もの人が重症化する
を訴えたり、咳をする選手がいる場合は、他の選手と離し、
という厚生労働省の予想が出されています。
マスクをつけさせ体温計測を行います。発熱がある場合は新
今回の新型インフルエンザは鳥インフルエンザに比べその
型インフルエンザ感染を疑い、練習には参加させず、保護者
毒性は弱いとされ、通常の場合は、発熱とそれに引き続く咳、 に連絡をとるとともに自宅への帰宅と、近医への受診を促し
痰、喉頭部痛等の風邪に見られるような症状が見られますが、 ます。また元気な選手にも集合時クラブハウスやピッチでの
通常数日で緩解します。治療には抗インフルエンザ薬である
手洗い(できればアルコール消毒)、うがいを慣行させるとと
タミフルやリレンザの初期投与が有効であるとされ、医師の
もに、チームとして体温計とマスクを常備しておきましょう。
診察で一週間程度の投与を受けます。しかし抵抗力の弱い糖
そのほか練習時以外でも選手や家族と連絡をとり、選手の状
尿病、喘息などの持病を持つ患者さんや妊婦、乳幼児、高齢
態を把握する必要があります。選手の体調が悪くなった場合、
者では重症化する傾向があります。重症化しますと呼吸困難
できれば事前に保護者や本人と連絡をとり、直接病院に行き
になるばかりでなく、脳炎のように意識障害を伴い、生命の
医師の診断を受けるように指示することも大切なことです。
危険にさらされる場合もあり、入院加療が必要になります。 病院でタミフルなど抗ウイルス剤を投与されると症状が緩解
現在このインフルエンザに有効なワクチンの生産が行われて
し選手はすぐ練習に参加したがりますが、まだ菌が体内に残
おりますが、この秋の流行には1,500 万人分しか製造できず、 存している可能性があります。選手が元気になった場合でも
特定の人以外は予防接種を受けることができない状態です。
すぐに練習に参加させず、通常 1 週間の自宅待機を行わせ、
サッカー現場においてもインフルエンザ対策は今や最重要
主治医の了解を取ってから登校、練習への参加を許可します。
の問題となりつつあります。特にサッカー現場を預かる監督、 また咳などが少しでも残る場合は必ずマスクを装着させま
コーチは現場でのインフルエンザに対する適切な対応が強く
しょう。
要求されています。インフルエンザの感染は飛沫感染と接触
以上簡単ですが新型インフルエンザの現場での処置につい
感染の 2 つがありますが、新型インフルエンザに感染すると
て記載しました。感染した選手が複数人(チームの 1 割以上)
発熱とともに、咳、痰などの呼吸器症状が現れます。そのた
出た場合は、クラブ自身の 1 週間程度の練習休止や試合出場
めサッカー現場で要求されることは、発熱し感染が疑われる
の辞退も考慮すべきことと思われます。
サッカー活動中の落雷事故の防止対策についての指針
1. 基本的指針
すべてのサッカー関係者は、屋外でのサッカー活動中(試合だ
けでなくトレーニングも含む)に落雷の予兆があった場合は、
を行う人間をあらかじめ明らかにしておくこと。
※トレーニングやトレセン活動なども活動中止決定者を事前に
決めてから活動を始めるものとする。
速やかに活動を中止し、危険性がなくなると判断されるまで安
※中止決定者が近くにいない状況で現象が発生したときは、そ
全な場所に避難するなど、選手の安全確保を最優先事項として
の場にいる関係者が速やかに中止を決定できることにしてお
常に留意する。特にユース年代〜キッズ年代の活動に際しては、
くこと。
自らの判断により活動を中止することが難しい年代であること
を配慮しなければならない。
※すべてのサッカー関係者とは主として指導者(部活動の顧問含
む)
、審判員、運営関係者などであるが、下記にある通り放送
局やスポンサー他、選手も含めて広義に解釈するものである。
3. 大会当日のプログラムを決める際はあらかじめ余裕を持っ
たスケジュールを組み、少しでも危険性のある場合は躊躇
なく活動を中止すること。
大会スケジュールが詰まっていたり、テレビ放送のある試合な
どでも、本指針は優先される。従って事前に関係者(放送局、
2. 基本的指針の実行のために、下記の事項について事前によ
スポンサー含む)の間において、選手・観客・運営関係者等の
く調べ、また決定を行った上で活動を行うものとする。
安全確保が優先され、中止決定者の判断は何よりも優先される
① 当日の天気予報(特に大雨や雷雲などについて)
ことを確認しておくこと。
② 避難場所の確認
③ 活動中止の決定権限を持つ者の特定、中止決定の際の連絡
フローの決定
4. 避雷針の有無(避雷針があるからといって安全が保障され
ることはないが、リスクは減る)や 避難場所からの距離、
※サッカー競技規則上では「試合の中止は審判員の判断による
活動場所の形状(例:スタジアム、河川敷 G、等)によっ
こと」となっているが、審判員が雷鳴に気付かない、審判員
て活動中止の判断時期は異なるが、特に周囲に何もない状
と他関係者との関係で必ずしも中止権限を審判員が持てない
況下においては少しでも落雷の予兆があった場合は速やか
ケース(例えばユース審判員;これに限らない)などもあり、
に活動中止の判断を行うこと。
このような場合は中止を決定する/または審判員に中止勧告
A MEETING PLACE FOR READERS AND JFA
新型インフルエンザに対しての注意
63
A MEETING PLACE FOR READERS AND JFA
64
2009 ナショナルトレセン U -12
下記の日程で 2009 ナショナルトレセン U -12 を地域開催します。
指導者講習会開催などの詳細は、JFAのホームページをご確認ください。
北海道:10 月23日(金)〜 26 日(月) 札幌サッカーアミューズメントパーク★
東 北: 7月 18 日(土)〜 20 日(月・祝)
安比高原 ASPA サッカー場
9 月 19 日(土)〜 21日(月・祝)
安比高原 ASPA サッカー場
10 月 9 日(金)〜 12 日(月・祝)
岩木青少年スポーツセンター★
関 東: 9月 5 日(土)〜 6 日(日) 鹿島ハイツスポーツプラザ
12 月 26 日(土)〜 29日(火) 鹿島ハイツスポーツプラザ★
北信越:10 月 9 日(金)〜 12 日(月・祝) アルウィン★
東 海:10 月 9 日(金)〜 12 日(月・祝) ヤマハリゾートつま恋★
関 西: 8 月 25日(火)〜 27日(木) 上富田スポーツセンター
12 月 25日(金)〜 28日(月) ビッグレイク★
中 国:12 月 25日(金)〜 28 日(月) ビッグアーチ★
四 国:12 月 19 日(土)〜 21日(月) はるのの湯★
2010 年 3 月 20 日(土)〜 22 日(月)
野外活動センター
※複数回開催する地域は、上記★印の
期 間 を 従 来 の ナ ショナルトレセン
九 州:10 月 10 日(土)〜 12 日(月・祝)
由布市湯布院スポーツセンター
U -12 として開催する。
12 月 26日(土)〜 29日(火) 大津町運動公園★
JFA 公認指導者研修会のお知らせ
Eラーニングについて
日ごろより E ラーニングをご利用いただきまして誠にありがと
うございます。
さて、2009 年 7月 1日より E ラーニング問い合わせ窓口の
メールアドレスが以下の通り変更となりました。
旧メールアドレスへのお問い合わせにつきましては、2009
年 6 月 30 日 をもちまして終了しておりますので、お間違いの
ないようにお願い致します。
また、併せてナビダイヤルでの無料サポートにつきましても
2009 年 7 月31日 をもちまして廃止となります。今後お問い
問い合わせ窓
口の
メールアドレ
スが変わりま
合わせの際は、すべて下記メールにてご対応させていただきま
す。
ご迷惑お掛け致しますが、宜しくお願い致します。
◆リフレッシュコース
【 旧メールアドレス 】 [email protected]
【 新メールアドレス 】 [email protected]
◆ 公認 B 級コース
【 旧メールアドレス 】 [email protected]
【 新メールアドレス 】 [email protected]
新刊紹介
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2006 年 9 月(vol.15)からの
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Best Regards, from JFA
〜大切に思うこと〜
第33回全日本少年サッカー大会は、大分県代表スマイス・
す。そしてまた一歩、夢に近づいたのではないでしょうか。
セレソンの主将・北野晴矢君によるリスペクト宣言で開幕
これからも、夢に向かって越えなければならないハードル
しました。
がたくさん待ち構えています。
「 夢があるから強くなる」。
「宣誓、ドリーム 夢があるから強くなる。これまでの汗
この言葉を信じ、子どもたち一人ひとりが夢に向かって、
と涙がしみこんだ、このピッチに、今僕たちは立っています。 たくましく着実に乗り越えていってほしいと願っています。
今まで支えてくれた家族、仲間、コーチ、そしてこの大会
今大会で、互いが全力を尽くして闘うすばらしいプレー
を支えてくださる役員、審判の皆さま、すべてをリスペク
の数々を目の当たりにし、応援した方々は大変感動された
トし、サッカーを愛する僕たち 48 チームの仲間たちは、 と思います。タイムアップの笛ごとに子どもたちは泣き、
感謝の思いを込めて一つのボールをつなぎ、ゴールを目指
そして笑い、大きな経験を積み重ねていきました。どの子
すことを誓います。」
どもたちの目も、すばらしい輝きを放っていました。私は、
大会に参加した子どもたちは、大切なものに囲まれて、 その子どもたちの夢見る目を大切にしたいと思います。
大好きなサッカーを思う存分楽しむことができたと思いま
眞藤 邦彦(JFA インストラクター、ナショナルトレセンコーチ)
テクニカル・ニュース Vol.33
○発行人:小野 剛
○編集人:財団法人日本サッカー協会技術委員会・テクニカルハウス
○監 修:財団法人日本サッカー協会技術委員会
○発行所:財団法人日本サッカー協会 〒113 - 8311
東京都文京区サッカー通り( 本郷 3 -10 -15 )J FA ハウス
電話 03 - 3830 - 2004(代表)
○発行日:20 09 年 9 月 25 日
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