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メキシコ・ペソ安再燃、テキーラ・ショック再来はあるか
リサーチ TODAY 2016 年 7 月 14 日 メキシコ・ペソ安再燃、テキーラ・ショック再来はあるか 常務執行役員 チーフエコノミスト 高田 創 メキシコ・ペソは、Brexit決定を受け一時史上最安値を更新するなど、下落圧力にさらされている。メキシ コ政府・中銀は、財政・金融政策を総動員し、ペソ防衛を強化している。ペソ安の背景には、Brexitのみな らず、メキシコの政治・経済の先行き不透明感がある。足元、メキシコ経済は安定成長を維持しているが、 緊縮財政による投資抑制や輸出低迷が続くなど不安材料を抱えている。政治面では、米大統領選挙の共 和党候補のトランプ氏のメキシコに対する強硬姿勢や、メキシコ内の州知事選挙での与党苦戦に見られる ペニャニエト政権の求心力低下が、ペソ安要因となりつつある。みずほ総合研究所は、メキシコのペソ安圧 力に関するリポートを発表している1。下記の図表は中南米主要通貨(対ドルレート)の変動率である。2015 年は資源価格の下落と米国の利上げ観測という「2つの逆風」を受け、中南米通貨は軒並み大幅下落した。 2016年になり新興国通貨売り圧力は後退したものの、メキシコ・ペソはアルゼンチン・ペソに次ぐ下落率とな った。メキシコ・ペソは新興国通貨のなかで日々の取引量が最大であるなど、流動性がきわめて高く、ヘッ ジ手段として用いられやすい。その結果、メキシコ・ペソは、新興国通貨売り局面でボラティリティが高まり、 経済実態とかい離した売り圧力が掛かりやすいという特徴をもつ。メキシコの輸出に占める英国向けシェア は中南米主要国で最も低いにもかかわらず、メキシコ・ペソがBrexitに伴うリスクオフの影響を最も受けた通 貨の一つになったことに注目する必要がある。 ■図表:中南米主要通貨(対ドルレート) 2015年間 アルゼンチン(▲0.25) 2016年初来 ブラジル(▲0.08) コロンビア(▲0.24) チリ(▲0.53) メキシコ(▲0.65) ペルー(▲0.39) -40 -30 -20 -10 0 10 20 30 (%) (注)国別の( )は 6 月初~24 日までの英ポンドとの相関係数。2016 年初来は 6 月 30 日までの変化率。 (資料)Bloomberg よりみずほ総合研究所作成 次ページ図表は「テキーラ・ショック(経済危機)」と今日の環境を比較したものだ。「テキーラ・ショック」は 今日のメキシコのトラウマであり、6月30日にメキシコ中銀が利上げを行ったのも、通貨安を抑制するためで 1 リサーチTODAY 2016 年 7 月 14 日 あった。今日の状況はファンダメンタルズで比較しても「テキーラ・ショック」の頃と比較して改善している点 が多い。 ■図表:テキーラ・ショック当時と現在のマクロ経済環境比較 テキーラ・ショック当時 1993 1994 1995 クローリング・バンド制 左派ゲリラ集団の武装蜂起 大統領候補暗殺 為替制度 政治動向 対外収支・債務・外貨流動性 経常収支/GDP (%) デットサービスレシオ (%) 外貨準備 100万ドル 対月間財輸入 (カ月分) 対短期対外債務 (%) 成長率・インフレ率 実質GDP成長率 (%) 消費者物価上昇率 (%) ▲ 4.6 37.6 24,537 4.5 42.5 ▲ 5.6 27.0 6,148 0.9 10.2 2.5 9.8 4.7 7.0 現在 2013 2014 2015 変動相場制 ペニャニエト政権による 構造改革期待 ▲ 0.5 ▲ 2.4 ▲ 1.9 ▲ 2.8 28.1 10.1 12.2 15,741 176,522 193,239 176,735 2.6 5.6 5.8 5.4 35.9 191.1 192.4 159.1 ▲ 5.8 35.0 1.4 3.8 2.2 4.0 2.5 2.7 (注)1.デットサービスレシオ=対外債務元利支払い/財・サービス・所得輸出。 2.外貨準備の対月間財輸入は 3 か月分、対短期対外債務は 100%以上が必要水準の目安。 (資料)メキシコ国立統計地理情報院(INEGI)、メキシコ中銀、国際通貨基金(IMF)、国際金融協会(IIF) ただし、下記の図表に示されるように、メキシコの貿易収支は赤字を拡大させている。この背景には原油 価格下落による石油関連収支の赤字があるが、ペソの下落にも関わらずその他の収支の改善が限られる。 また、8割を占める米国向け輸出の低迷も貿易赤字拡大の大きな要因である。さらなる不安材料は内外の 政治要因である。米国の大統領選については、トランプ候補のメキシコ対応への不安が根強い。国内では ペニャニエト政権の求心力が低下している。新興国のバランスシート調整が中国、BRICs諸国で生じ、世界 のけん引役が不在になるなか、その次の存在としてメキシコに期待が集まっているが、けん引役の期待は 難しいのが実情だ。 ■図表:メキシコの貿易収支推移 100 (億ドル) 80 石油関連以外 石油関連 貿易収支 60 40 20 0 -20 -40 -60 -80 -100 2008 09 10 11 12 13 14 15 16 (年) (資料)メキシコ中央銀行よりみずほ総合研究所作成 1 西川珠子 「再燃するメキシコ・ペソ安圧力」 (みずほ総合研究所 『みずほインサイト』 2016 年 7 月 1 日) 当レポートは情報提供のみを目的として作成されたものであり、商品の勧誘を目的としたものではありません。本資料は、当社が信頼できると判断した各種データに基づき 作成されておりますが、その正確性、確実性を保証するものではありません。また、本資料に記載された内容は予告なしに変更されることもあります。 2