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操船技能の解析的アプローチ

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操船技能の解析的アプローチ
労働科学 4
6巻 9 号( 1
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*この研究は昭和 4
3
, 44年度,文部省科学研究費「一般研究」によっておこなわれたものの一部である。
料 労 働 科 学 研 究 所 ・ 労 働 心 理 学 研 究 部 ・ 労 働 心 理 学 第 1研究室
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船舶を船橋で操縦するさいに必要な技能の特色を,狩
動作完了の報告を含むフィードパック情報と考えられる
ので,一つの情報とみなした。操船中の私語は情報とは
考えない。
里
子 1) は海難経験に関する調査から次のように記述して
I
I
.調査
いる。「情報の収集,綜合判断及び意思決定にわたって
時間的制約があり,且つ試行錯誤が許されないところ
が,他の高度の技能に比して際立った特性である」。そ
して,操船者の知識とか経験にもとづく予測機能が情報
の収集,綜合判断,意思決定に大きな要因として作用し
ていると述べている。さらに,この予測を修正したり,
綜合判断を適正ならしめる方法として,船橋にいる他者
からの適切な報告および助言が有効であることを認めて
1
(\
る
。
操船技能の性質を解明していくためのアプローチには
A
. 対象
今回の調査では連絡船を対象としたが,それは下記の
ような理由によった。
(
1)短期間に集中的に多くの資料が収集できる。
(
2)短期間に調査を集中するため,海象,気象等の条
件を比較的斉一に保つことができる。
(
3)同じ港での出入港資料がいくつかとれるので,地
理的条件が同じ場合の船種別,規模別の資料の比較が容
易である。
いくつかの方法があると思われる。一つは運行中の船舶
(
4
)操船者は毎日同じ港を出入するため,港に対する
が危機的状況に直面したさいに,操船技能がもっとも特
慣れがあり,状況に対する適応度をあまり考慮する必要
徴的にうき彫りされてくるであろうという仮定のもと
がない。
に,海難事故のケースを調査する方法で,記述的アプロ
実際に調査を行った航路は宇高航路と青函航路の二つ
ーチとでもいえる方法である。また,操船技能に関連が
の航路で,計38航海の資料が得られた。宇高航路では出
あると考えられる人間の機能の側面をテストによって測
港から入港 FIE までを連続記録,青函航路では離岸か
定する方法がある。これはテスト的アプローチである。
ら船長の降橋までを出港時, S
/
Bから F/E までを入港
さらにもう一つの方法は,実際の船橋作業を観測,分析
時として記録した。
し,外界と操船者との関与の仕方などから技能を分析す
る,いわば解析的アプローチの方法である。
二つの航路での出入港時の船の動きは次のとおりであ
る
。
この報告は第 3のいわゆる解析的アプローチの方法に
宇高航路:高松出港時は入船の状態で着岸している船
関するものである。しかし,この報告が操船技能の解明
をひき出し,港内で回頭する。宇野入港時は入船の状態
にまでたちいたっていないのは,解析的アプローチがま
で入港する。同出港時は回頭して出港。高松港入港は入
だ緒についたばかりであるため,現段階では方法そのも
船の状態で着岸する。
のの吟味が重ねられなければならないからである。
青函航路:函館港出港時は出船の状態で着岸している
このアプローチの最初の試みについては,すでに報
船をそのままの形で出港させる。青森港入港は港内で回
告 2)した。主たる方法は,出入港時の船橋において,取
頭し,出船の状態にして着岸する。青森出港はそのまま
り交された言語情報を聴取,記録することである。ここ
出港。函館入港時は港内で回頭し,出船の状態で着岸す
でいう言語情報とは,操船に必要なすべての情報を指
る
。
す。ただし,ある情報の単なる復唱は除外した。例え
B
. リンク・アナリシス
ば,船長から「ハード・ポート」という操舵命令が出た
記録された言語情報をその流れの方向(誰から誰に)
とする。これは一つの情報と数えられるが,そのあとで
と頻度について整理する。
操舵手は直ちにこれを復唱する。この復唱は情報とはみ
新鋭外航船の結果は先に報告した。そこで、は,操船補
なさない。舵をハード・ポートにしたあと,操舵手はも
助者に対する命令系統はパイロットと船長の二系統にな
う一度「ハード・ポ}ト」という。これは船長に対して
り,情報のネットワークが複雑になっていること, ま
(
527)
③
⑭
CAPTAIN
⑩
日
図1
(
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) 青森入港時
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3∼2
3
4
5
(528)
た,補助者の人員の配置が情報のネットワークをかなり
調査の対象になった連絡船はいくつかの点において商
の程度,規定していることがわかった。タンカーのよう
船とは事情がことなっている。その一点は,大部分の船
な巨大船の場合3)には情報の中継の行われることが多い
が旋回性能をよくするためにパウ・スラスタ}を装備し
こともわかった。
図 1(
一a)
∼
(b)はこの調査によって得られた結果の例
である。
ていることである。この装置は着岸・離岸操船のさいに,
船速がなくても横方向推力の出せるもので,船体の停止
状態で最大の回頭効果があり,これらの性能は連絡船の
図 1-(a)は青函航路8000トン級客船の青森港入港時の
操船にとってはうってつけのものである。このパウ・ス
結果である。先にも記したように,この入港時の操船は
ラスターに関する情報が商船の場合とはちがって新たに
回頭しながら接岸するという複雑なものである。図の
加わった情報であるが,実際には船長がみずからパウ・
01 は船橋のコントロール・スタンドの前に配置し, 主
スラスターを操作する場合が多いので,情報として記録
として船長からの船の速度に関する情報を受け取り,速
できないこともあった。第二点は連絡船は陸上の列車ダ
度制御に関係ある機器の操作に当る。また,船橋にあっ
イヤと合わせて運航されるので,運航時刻はきわめて制
て船長の操船を補佐する意味でそれぞれの持場との連絡
約をうけている点にある。このため,船の進行と運行ダ
に当る。三等航海士または二等航海士がこの部署に配属
イヤとの関係を示す情報が新たに加わる。
される。 Q/M1 は船長からの船の方向に関する情報を受
以上の 1
1
種の情報の中で,もっとも基本的でかつ重要
け取り,操舵の任に当る。 0
2
, Q/M2は外界の情況を逐
な情報 4種
(1
,4
,2
, 6)をとりだし,船橋での実際の情
時船長に報告する役目をになっている。
報の流れを時系列的に示したのが図 2である。青森港入
図をみてもわかるように情報の流れの中心は船長にあ
港時に船長に入ってきた情報,船長から出た情報のみに
り
, 01 は情報の中継的な役割を果している O 情報の頻
ついて示したものである。 4種の情報のうち, 1の操舵
度からみれば,船長から 01への船の速度に関する情報
に関する情報と 4のパウ・スラスターの操作等に関する
が多い。これは固定物(岸壁)に近づくさいの速度制御の
情報をまとめて,船のコースに関する情報とした。
困難さを示すものといえよう。図 1(
一b)は同じ船が約 1
図 2-(a)(
b)はともに 8000トン級客船が日中に同じ港
時間後に青森港を出港するさいの結果である。情報総数
にはいるときの結果である。(a)の場合は船長経験 9年
,
のちがいが非常に大きい。また情報の流れもきわめて単
(
b)の場合は船長経験 8年で経験年数からみても同じ程
品屯になっている。
度である。しかし 情報の流れを時系列にみてみると,か
J
図 1(
一c
)(
d)は宇高航路での高松出港時からあとの航
なりの差異がみられる。「入港 S
/
B
J情報が発せられた
行中の結果である。( c)は早朝,(d)は真夜中の航行によ
時刻でもすでに 4
.
5
分の差がみられる。「 s
t
o
pengine」
の
るものであるが,夜間航行では航海士官からの他船に関
情報が初めて発せられた時刻で約 3分の差がある。この
する情報が非常に多く出ている。この時間帯は航路を横
ように,( a)ではかなりの時間的余裕をもって操船してい
切る船舶が多いことにもよるが,外界の情報の収集が夜
るように見受けられるが,( b)の場合には短時間のうち
間にはきわめて困難になるため,操船者にとっては補助
に操船を完了するような型である。したがって,(b)で
情報が必要になってくることを示すものである。
J
C
. 情報の内容と時系列パターン
資料の整理にさいし,情報を次のような種類に分類し
T
こ
は接岸していくにしたがって情報の流れは次第に頻繁に
なってきている。このように情報の流れの時系列ノfター
ンは操船者によってかなりの差異があることがわかる。
このことは操船技術の面には次のようなかたちで、あらわ
O
1 操舵に関する情報
2 速度に関する情報
3
他船に関するすべての情報
れる。( a
)(
b)の操船命令をこまかく対比していけば明ら
かになることであるが,(b)の方が船速の一回の制御量
が大きい結果となっている。船の制御回数は(a
)(
b)とも
4 パワ・スラスターの操作等に関する情報
にほとんど変らない。これはある地点からある地点まで
5 タグボートに関する情報
船を動かすにはほぼ一定数の操作が必要で、あることを示
6 固定物(例えば岸壁)との距離に関する情報
し,いわば標準作業的なものがすでに設定されていると
7 出入港作業に伴なう人員配置に関する情報
みることができる。一定標準作業をちがった時間内で、完
了しようとすれば,制御量を変える以外にはない。(b
)
の方が制御量の大きいのはこのような理由によるものと
思われる。情報処理における個人差の問題としての意味
)は 3000トン級の貨物
を考えさせられる事柄である。( c
8 係船に関する情報
9 海象,気象に関する情報
10 運行ダイヤに関する情報
11 船のコンディションその他の情報
(5
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(530)
表 1 情報密度;宇高航路
のあと,船の速さは次第に制御されてくるが,情報に示
Table 1 InformationDensity;
(Uno-TakamatsuL
i
n
e
)
された所定の速さにいたるまでの経過を逐次,船長に報
告する。この報告はフィードパックとしての性質をもつ
もので,これをいまフィードパック情報という。(
C)
の
場合にこのフィードパック情報が多量にでているが,そ
剛
E
報
社
忠
醤
臣
ト同
詰
句
凸
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の理由には次のようなことが考えられる。第一点はター
〉
じ
ミ捜
U
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骨
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同
.
骨
υ
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口
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同
g
がかかる。したがって機関の働きの時間的経過を知ると
件ヲ
いう意味においても多くの情報を必要とする。第二点は
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.
5 3.4
は,自己の感覚器官からいろいろな情報を幅広く集める
ことができないため,他からの補助的な情報の必要がで
てくるのではないかと思われる。フィードパック情報は
この補助的な情報という意味をもつものである。( C )に
示した例が以上のどちらの理由によるものであるかを速
断することはできないが,経験年数との関係も重要なポ
イントであると考えられる。
D. 情報処理の指標
いままで、は’情報を定性的に扱ってきたが,情報は定量
表 2 情報密度におけるサイン・テストの結果;宇高航路
Table2 Summaryo
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高松入港
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P<. 0
1 P<. 0
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P<. 02 P<. 02
P<. 01 P<. 02
船(タービン機関)で操船者の経験年数は 1年未満であ
的に取扱うことのできる利点もそなえている。以下は今
る。もっとも特徴的なことは,船の速さに関するフィー
回考案した情報処理に関係のある指標について記す。
ドパック情幸民が多いということである。ここでいうフィ
1
. 情報密度
ードパック情報とは次のようなものである。船長がその
操船者としての船長を中心にした船橋における情報の
時の情況にしたがって船あしを落すために船速の制御に
流れを考えてみると,情報には船長に向って入ってくる
関する情報を発したとする。コントローノレスタンド前に
情報(入力情報)と,船長から発せられる情報(出力情報)
いる操船補助者は機器を情報のとおりに操作をする。そ
の二種類がある。この二種類の情報の総計を操船所要時
(531)
表 3 情報密度;青函航路
Table3 I
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(Aomori-HakodateL
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表 4 補助情報検索比;宇高航路
Table4 R
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4
5 補助情報検索比におけるサインテストの結果;宇高航路
Table5 Summaryo
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P<. 0
1 P<. 0
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P<. 02 P<. 02
P<. 02 P<. 02
聞で、割ったものを情報密度とする。ここでは 1分聞に交
ために決めた便宜的なものである)で,この間に 1
5
秒に
わされた情報数として表わした。表 1は宇高航路の結果
1回の割合で情報は流れていることになる。出港の所要
である。表 2はサイン・テストによる検定の結果を示
時間は平均約 1
6
.
5
分間で,この聞におよそ 2
3
秒に 1回の
す。とれらの表からもわかるように,入出港時の港によ
割合で情報は流れている。航行中の所要時間は約4
3
.
5分
る差異はない。情報密度の高い順に示すと次のようにな
間で, 45秒に 1回の割合となっている。この結果から,
る
。
入港時に情報密度の高いことがわかる。表 3は青函航路
入港時>出港時>航行中
入港の所要時間は平均約 9分間(この値はこの調査の
の結果である。入出港による差はなく,出港時は平均 1
5
秒に 1回,入港時は平均1
2
秒に 1回の割で情報が流れて
¥532)
表 6 補助情報検索比;青函航路
Table6 Ratioo
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総トン数との関係(ム函館港 HakodateO青森
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操船者が操船に必要なすべての情報をただ一人で収集
になってくる。実際には, 3/0,σ Mが船橋にいて船長
の操船を補佐し, また贈では C/0が,艇では 2
/
0がそ
れぞれ必要な情報を船橋に送る。いま,船長に向けられ
て発せられる』情報の一つ一つを補助情報(入力情報も同
じ意味で用いられる)と名づけることができる。船長が
操船命令(出力情報)を出すさいには,自分の感覚器官
(2)
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2
4
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を通して入ってくる情報と,補助情報を参考にした上で、
その状況に応じた情報を出すのである。その場合,船長
に入ってくる補助情報のすべてが,現在の状況に対応す
るために必要なものばかりとは限らない。数分後に必要
(533)
表 9 自己検索率;青函航路
Table9 R
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表 7 自己検索率;宇高航路
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25.4
23.6
表 8 自己検索率におけるサイン・テストの結果;宇高航路
Table8 Summary o
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1
となるであろう情報も含まれているであろうし,
P<. 02
また
この指標は情報源の範囲が広いときなどに,その数値が
2
, 3の補助情報の蓄積が一つの意思決定に必要なもの
大きくなり,その意味では,操船に必要な情報検索の多
となることもある。船長はたえず入ってくる補助情報と
様性を示す指標と考えることができる。表 4は宇高航路
現在の船の状況を対応づけながら操船命令を出していく
の結果で,表 5は検定の結果を示したものである。補助
のである。そうした意味では,たえず補助情報の検索を
情報検索比の大きい順に示すと,
行っているわけである。ここでいう補助情報検索比とい
航行中>出港中>入港中
うのは,船長が一つの出力情報を出す場合に,補助情報
となる。これは先にも触れたように,航海中は順調であ
がどれだけ入ってくるかということを示すものである。
れば出力情報がきわめて少なし入力情報の蓄積が多く
(534)
なるためである。また夜間の航行中は多くなる傾向があ
る
。
最後に,この解析法のこれからの発展のためと,操船
技能へのアプローチへの今後解決さるべき問題点を指摘
表 6は青函航路の結果である。入出港による差は見出
しておく。
されない。図 3は船長経験年数あるいは総トン数と補助
1
. 情報の内容分析を詳細に進めること。操船の状況
情報検索比の関係を示したものである。図 3(
1
)(
2)
は
に慣れてくるほど,伝達される情報にこまかな内容の指
出港時,図 3
(
3
)(
4
)は入港時の結果である。入港時には
定のない場合がある。つまり操船者が補助者にこまかな
経験年数が多いと,補助情報検索比が小さくなる傾向が
操船命令をあたえないで,ごく大ざっぱな命令をあたえ
見られる。また,総トン数が小さいと補助情報検索比が
て操作をまかせるような場面がしばしばみられる。操船
大きくなる傾向が認められた。 3400トン級の船長の経験
システムがもとからそうなっておれば問題はないが,任
年数はすべて一年未満であるため,補助情報検索比の大
意にシステムを変換することは,情報の伝達にあいまい
きくなる理由が,経験の不足によるのか,あるいは船の
さを増すことになり,処理の上で誤謬を生ずることにな
種類あるいは規模によるものか判然としない点はある
りかねない。またときには操船命令の訂正とか補正,さ
が,検索の多様性が認められることは事実である。
らには忘却による確認などが認められることがある。こ
3
. 自己検索率
れらの情報の発生過程と内容分析を進めていくととは,
操船者はすくなくとも出力情報の数だけは情報の検索
海難におけるヒューマン・ファクターの一面を明らかに
を行っているはずである。その他に感覚器官等から入っ
するために重要なことであろう。
てくる情報の検索ももちろん行われているが、それはこ
2
. ここに記された解析法は主としてマン・マン・シ
のような調査の方法では知るよしもない。出力情報とし
ステムのなかで適用されるものであるが,マン・マシン
て出された情報の数だけはすくなくとも意思決定がおこ
・システムにも適用できるよう解析法を発展させていく
なわれているはずであり,このことがもっとも確からし
ことが望ましい。そうすれば一般産業にも適用できるで
いことである。これをいま自己検索と呼ぶ。自己検索率
あろう。計器からの情報の収集,機器への情報の伝達に
とは,入出力情報の中で占める自己検索の割合というこ
関する解析法を早急に開発する必要がある。
とで示され出力情報を入力情報と出力情報の合計で除し
3
. 例えば情報処理に関する指標と生体負担に関する
た値の百分率で表すものとする。この指標は操船に必要
指標との関係をなんらかのかたちで明らかにしておく必
な情報検索の適合性を示すものであるともいえる。
要がある。このことは,情報処理に関する指標を意味づ
表 7は宇高航路の結果で,表 8はその検定の結果を示
ける上でも必要なことであり,将来,「労働」を情報処理
したものである。自己検索率の大きい順は補助情報検索
的な観点から捉えようとするときにはきわめて重要な知
比とは逆で,
見となるであろう。
入港時>出港時>航行中
(この調査は同僚の飯田裕康氏,
吉竹博氏, 海上労研
となる。入港の場合には自分で情報を検索し,意思決定
の大橋信夫氏らと共に行ったもので,その資料をもとに
をする割合がもっとも多いことを示している。表 9は青
筆者がまとめたものである)。
函航路の場合であるが,入出港による差は見出されなか
参考文献
った。
I
I
I
. おわりに
言語を手掛りにした解析法にはいくたの難点と限界が
ある。入出力の関係から人間の行動の機構をアプローチ
しようとするいわゆるブラックボックスの考え方に共通
な欠点を克服することはここでも困難であった。乱暴と
も思える仮定があまりにも多すぎた。このことは情報処
理の指標についてもいえることである。
1
)狩野広之:海上衝突事故の心理的側面の考察,
海上労働科学研究会報 6
9号
, 1
9
7
0
.
2)森清善行:外航船乗組員における労働負担( i
l
l
)
,
労働科学, 4
3(
4
)
,2
5
2
2
5
4
,1
9
6
7
.
)海上労働科学研究所:操船技術構造に関する研
3
究,第 5報,「IV超大型船における操船作業の
実態調査(第 1報
)J
, 656
7
,1
9
6
8
.
(受付: 1
9
7
0年 5月 7日
)
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