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群馬県西部におけるカワヒバリガイの分布状況
群馬県立自然史博物館研究報告(1 7 ) :1 5 1 -1 5 4 ,2 0 1 3 151 Bu l l . Gu n maMu s . Na t u . Hi s t (1 .7 ) :1 5 1 -1 5 4 ,2 0 1 3 軸宍宍宍宍宍宍宍宍宍宍宍宍雫 資 料 軸宍宍宍宍宍宍宍宍宍宍宍宍雫 群馬県西部におけるカワヒバリガイの分布状況(2 0 1 2 年) 杉山直人 群馬県立自然史博物館:〒3 7 0 2 3 4 5 群馬県富岡市上黒岩1 6 7 4 1 (s u g i y a ma @g mn h . p r e f . g u n ma . j p ) キーワード:カワヒバリガイ,群馬県西部,分布 Di s t r i b u t i o no fGo l d e nmu s s e l ,Li mn o p e r n af o r t u n e i , i nWe s t e r nGu n maPr e f e c t u r ( e2 0 1 2 ) SUGIYAMA Na o t o Gu n maMu s e u mo fNa t u r a lHi s t o r y :1 6 7 4 1Ka mi k u r o i wa ,T o mi o k a ,Gu n ma3 7 0 2 3 4 5 ,J a p a n KeyWords: Go l d e nmu s s e l ,Li mn o p e r n af o r t u n e i ,Gu n maPr e f e c t u r e ,Di s t r i b u t i o n はじめに カワヒバリガイ(Li mn o p e r n af o r t u n e i )は中国大陸から朝 や,貯水池や水道施設内で大量死を起こすことによる水質 の悪化といった被害が懸念される.2 0 0 5 年に特定外来生物 に指定され,成貝及び目視では確認できない微少な幼生も 鮮半島にかけて広く分布している,イガイ目,イガイ科に 属す淡水産の二枚貝である(図1 ) .孵化後に水の流れにと もなって移動する浮遊幼生期を経て着底し,稚貝の時期を 経て成貝となる(伊藤,2 0 1 1 ) .成貝は軟体部から伸ばした 足糸により基盤への固着生活期に入る(図2 ).固着の様子 は,光の入る環境では1 層でまばらなことが多いが,光の入 らない環境では最初に固着した1 層目の上に2 層目,3 層目 と折り重なるように高密度で固着し,厚さ数c mのマット状 になることもある(図3 ) .このように高密度で生息する場 合,水路や導水管,発電所の取水口などをつまらせること 図1.殻の外観. 図2.足糸. 受付:2 0 1 2 年1 1 月3 0 日,受理:2 0 1 3 年2 月6 日 図3.密集個体. 152 杉山直人 含め,飼育や移動が制限されている. などにより,カワヒバリガイの幼生や稚貝,成貝が各水域 日本国内では,1 9 9 0 年代には揖斐川,淀川,木曽川,長 に流出したことなどが考えられている(中井,2 0 0 1 ) . 良川の4 水系で,2 0 0 0 年代には矢作川,天竜川,利根川,豊 群馬県では,2 0 0 5 年に富岡市の大塩貯水池でカワヒバリ 川の4 水系で生息が確認されている(伊藤,2 0 1 1 ) . ガイが確認された(片山ほか,2 0 0 5 ) .大塩貯水池東方の隧 こうした分布域の拡大は,水域が接していない地域にも 道水路に大量のカワヒバリガイが発生し,センサーを誤作 及んでいる.その原因としては,カワヒバリガイの生息す 動させたことが発見のきっかけとなった.貯水池北方の富 る水域からの魚類の輸送水への混入,釣具・タモ網・調査 岡市側への隧道でも,同様の大量発生が見られた.大塩貯 用具などへの付着及び,アジアからの輸入シジミへの混入 水池から竹沼貯水池へ向かう鏑川用水の南2 号幹線水路は 図4.群馬県西部におけるカワヒバリガイの生息確認地点. 表1.生息確認地点でのカワヒバリガイの様子. 群馬県内のカワヒバリガイの分布状況 153 鏑川流域の富岡市,甘楽郡甘楽町,高崎市吉井町,藤岡市 水路のメンテナンスに除去作業が含まれるようになった. に農業用水を供給するとともに,甘楽郡甘楽町,高崎市吉 また2 0 0 5 年に大塩貯水池周辺と河川や水路で接続してい 井町では上水道の水源としても活用されている.このた る利根川下流域でもカワヒバリガイの生息が確認され,利 め,カワヒバリガイの大量死による水質の悪化が懸念さ 根川下流域の集団が大塩貯水池からの移入によって成立し れ,2 0 0 6 年に導水トンネル内に生息するカワヒバリガイの た可能性が指摘された(伊藤,2 0 0 7 ).しかし,遺伝子解析 大規模な除去作業が実施された(吉田,2 0 0 6 ) .その後は導 により大塩貯水池と利根川下流域の集団は遺伝的に異なっ 5-1 地点A 富岡市黒川ふれあい公園 親水広場 5-2 地点B 富岡市黒川 富岡北部幹 線水路 空気抜き孔付近 5-3 地点C 富岡市南後箇 涸沢支流 5-4 地点D1 富岡市南後箇 大塩貯水 池 富岡北部幹線水路隧道 5-5 地点E 甘楽町日向 南2号幹線水 路 隧道出口 5-6 地点G 甘楽町佐久間 南2号幹線 水路 5-7 地点H 甘楽町上野 支線水路 5-8 地点H 甘楽町上野 拡大図 5-9 地点I 2 甘楽町田口 ため池 堰 堤外の水田 5-10 地点K 藤岡市緑埜 竹沼北部 用 5-11 地点K 藤岡市緑埜 拡大図 水支線 図5.生息確認地点の概況. 5-12 地 点M 藤 岡 市 緑 埜 平 井 小 学 校 脇 用水支線 154 杉山直人 た個体で構成されていることが明らかとなった (伊藤ほか, 今回調査した大塩貯水池と竹沼貯水池,南2 号幹線水路, 2 0 0 9 ;伊藤,2 0 1 1 ) .このため,大潮貯水池が利根川下流域 富岡北部幹線水路は各地で分流し,農業用水や水道用水と の集団の供給源であることは否定された.しかし,カワヒ して利用されている.そのため,カワヒバリガイの拡散は バリガイがそれぞれの地域にどのようにもたらされたのか 水系の末端まで広まる可能性がある.貯水池や幹線水路で は,依然として解明されていない. カワヒバリガイの生息を確認した地点から分岐した流れの 現在,鏑川用水の幹線水路は鏑川土地改良区により管 下流を追跡調査したところ,地点C, F , H, J , LMは低~中密度 理・運営されているが,支線や末端部の詳細な様子までは の生息状況であったが,その下流の水路や河川では確認さ 把握されていない.そこで,富岡市から藤岡市にかけての れなかった.現在の段階では大規模なカワヒバリガイの流 鏑川用水周辺のカワヒバリガイの分布状況を調査した. 出はないものと考えられる. 調査方法 おわりに 群馬県立自然史博物館の平成1 7 ~1 9 年度自然史調査の一 片山ほか(2 0 0 5 )及び野村ほか(2 0 0 8 )によれば,これ 環として実施されたカワヒバリガイの調査地点 (野村ほか, ら一連のカワヒバリガイは2 0 0 3 年以前に大塩貯水池へ侵入 2 0 0 8 )を参考にして,大塩貯水池から水が供給されている したと考えられている.この侵入の原因には諸説あるが, 国営南2 号幹線水路,竹沼貯水池,支線である県営富岡北部 大塩貯水池に魚類やシジミ類などの放流された記録はない 幹線水路とその周辺を踏査した.カワヒバリガイを成貝や ことから,最初に莫大な数の個体が侵入したとは考えにく 稚貝の採取と撮影により確認し,立ち入れない箇所は,目 い.むしろわずかな個体群が生息しやすい環境を得て繁殖 視と撮影により確認した.生息を確認した地点からは下流 し,現在に至っていると考えられる.ごくわずかとはいえ 側も踏査し,分布の広がりを確認した.採集した資料は全 生息が確認された用水の支線や河川でも,今後もカワヒバ て固定した. リガイの分布動向を注視していく必要がある. 結果・考察 謝 辞 今回の調査で,鏑川用水の大塩貯水池と竹沼貯水池,南 本資料を作成するにあたり,鏑川土地改良区の方々,特 2 号幹線水路,富岡北部幹線水路でカワヒバリガイを確認 に松本寛氏には鏑川用水やカワヒバリガイに関する貴重な した(図4 ).調査地の概況は,表1 と図5 1 ~5 1 2 に示した. 情報を提供していただいた.清水良治氏には,調査の方法 2 0 1 0 年以降,大塩貯水池では水位の高い状態が保たれて や調査地をご教授いただいた.また,職場体験学習や博物 いるため,湖底の様子を確認することができなかった.大 館実習の参加者には調査の補助をしてただいた.記して御 塩貯水池から至近の甘楽町日向にある南2 号幹線水路隧道 礼申し上げる. 出口(地点E)や富岡市南後箇の富岡北部幹線水路の隧道 (地点D1 )とその付近では,既存の報告(片山ほか,2 0 0 5 ; 吉田,2 0 0 6 ;野村ほか,2 0 0 8 )にもあるような,超高密度で 生息が継続していることを確認した.また,甘楽町田口に あるため池からの水路(地点I 2 )でも同様な状況が見られ た.この3 箇所に共通するのは,貯水池やため池から流れ 出したばかりの地点という点である.大塩貯水池や甘楽町 田口のため池の岸辺付近では,低~中密度の生息が確認で きるたことから,湖底の生息状況は2 0 0 9 年と同様に高密度 であると推定される. また,富岡北部幹線水路では,大塩貯水池の北方約4 k m にある富岡市黒川(地点B)で,中密度の生息状況にある ことを確認した.これらは大塩貯水池から竹沼貯水池まで 引用文献 伊藤健二 (2 0 0 7 ) :霞ヶ浦におけるカワヒバリガイ Li mn o p e r n af o r t u n e i の生息・分布状況.日本ベントス学会誌,6 2 :3 4 3 8 . 伊藤健二(2 0 1 1 ) :関東地方に侵入したカワヒバリガイの現状と今後の 課題.矢作川研究, (1 5 ) :9 1 9 6 . 伊藤健二・富永篤・五箇公一・木村妙子 (2 0 0 9 )利根川水系におけるカワ ヒバリガイの分布拡大状況. 国際生物多様性の日シンポジウム 2 0 0 9 要旨,国立環境研究所. 片山満秋・清水良治・松本寛 (2 0 0 5 ) :群馬県からカワヒバリガイを記録 ,1 ( 42 ) :3 5 4 0 . する.Fi e l dBi o l o g i s t 中井克樹(2 0 0 1 ) :黒装束の侵入者 外来付着性二枚貝の最新学. 日本 付着生物学会編,恒星社厚生閣,東京,p . 7 1 8 5 . 野村正弘・金井英男・高橋克之・松本功・松本寛(2 0 0 8 ) :富岡~藤岡地域 の約1 5 k mの移動と同様に,発生源である大塩貯水池から のカワヒバリガイ(Li mn o p e r n af o r t u n e i ).群馬県立自然史博物館 流出した個体に由来するものであると考えられる.生息が 自然史調査報告書, (4 ) :4 0 4 7 . 確認されたのは導水管の外で,コンクリートにより直射日 光が遮られる環境であり,用水からしみ出た水によって生 き延びていたと考えられる. 吉田誠(2 0 0 6 ) :鏑川用水における特定外来生物 「カワヒバリガイ」 駆除 4 8 . 事例.農業土木学会誌,7 ( 45 ) :4 7 -