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群馬県西部におけるカワヒバリガイの分布状況

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群馬県西部におけるカワヒバリガイの分布状況
群馬県立自然史博物館研究報告(1
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軸宍宍宍宍宍宍宍宍宍宍宍宍雫
資 料
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群馬県西部におけるカワヒバリガイの分布状況(2
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年)
杉山直人
群馬県立自然史博物館:〒3
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5 群馬県富岡市上黒岩1
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キーワード:カワヒバリガイ,群馬県西部,分布
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はじめに
カワヒバリガイ(Li
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i
)は中国大陸から朝
や,貯水池や水道施設内で大量死を起こすことによる水質
の悪化といった被害が懸念される.2
0
0
5
年に特定外来生物
に指定され,成貝及び目視では確認できない微少な幼生も
鮮半島にかけて広く分布している,イガイ目,イガイ科に
属す淡水産の二枚貝である(図1
)
.孵化後に水の流れにと
もなって移動する浮遊幼生期を経て着底し,稚貝の時期を
経て成貝となる(伊藤,2
0
1
1
)
.成貝は軟体部から伸ばした
足糸により基盤への固着生活期に入る(図2
).固着の様子
は,光の入る環境では1
層でまばらなことが多いが,光の入
らない環境では最初に固着した1
層目の上に2
層目,3
層目
と折り重なるように高密度で固着し,厚さ数c
mのマット状
になることもある(図3
)
.このように高密度で生息する場
合,水路や導水管,発電所の取水口などをつまらせること
図1.殻の外観.
図2.足糸.
受付:2
0
1
2
年1
1
月3
0
日,受理:2
0
1
3
年2
月6
日
図3.密集個体.
152
杉山直人
含め,飼育や移動が制限されている.
などにより,カワヒバリガイの幼生や稚貝,成貝が各水域
日本国内では,1
9
9
0
年代には揖斐川,淀川,木曽川,長
に流出したことなどが考えられている(中井,2
0
0
1
)
.
良川の4
水系で,2
0
0
0
年代には矢作川,天竜川,利根川,豊
群馬県では,2
0
0
5
年に富岡市の大塩貯水池でカワヒバリ
川の4
水系で生息が確認されている(伊藤,2
0
1
1
)
.
ガイが確認された(片山ほか,2
0
0
5
)
.大塩貯水池東方の隧
こうした分布域の拡大は,水域が接していない地域にも
道水路に大量のカワヒバリガイが発生し,センサーを誤作
及んでいる.その原因としては,カワヒバリガイの生息す
動させたことが発見のきっかけとなった.貯水池北方の富
る水域からの魚類の輸送水への混入,釣具・タモ網・調査
岡市側への隧道でも,同様の大量発生が見られた.大塩貯
用具などへの付着及び,アジアからの輸入シジミへの混入
水池から竹沼貯水池へ向かう鏑川用水の南2
号幹線水路は
図4.群馬県西部におけるカワヒバリガイの生息確認地点.
表1.生息確認地点でのカワヒバリガイの様子.
群馬県内のカワヒバリガイの分布状況
153
鏑川流域の富岡市,甘楽郡甘楽町,高崎市吉井町,藤岡市
水路のメンテナンスに除去作業が含まれるようになった.
に農業用水を供給するとともに,甘楽郡甘楽町,高崎市吉
また2
0
0
5
年に大塩貯水池周辺と河川や水路で接続してい
井町では上水道の水源としても活用されている.このた
る利根川下流域でもカワヒバリガイの生息が確認され,利
め,カワヒバリガイの大量死による水質の悪化が懸念さ
根川下流域の集団が大塩貯水池からの移入によって成立し
れ,2
0
0
6
年に導水トンネル内に生息するカワヒバリガイの
た可能性が指摘された(伊藤,2
0
0
7
).しかし,遺伝子解析
大規模な除去作業が実施された(吉田,2
0
0
6
)
.その後は導
により大塩貯水池と利根川下流域の集団は遺伝的に異なっ
5-1 地点A 富岡市黒川ふれあい公園
親水広場
5-2 地点B 富岡市黒川 富岡北部幹
線水路 空気抜き孔付近
5-3 地点C 富岡市南後箇 涸沢支流
5-4 地点D1 富岡市南後箇 大塩貯水
池 富岡北部幹線水路隧道
5-5 地点E 甘楽町日向 南2号幹線水
路 隧道出口
5-6 地点G 甘楽町佐久間 南2号幹線
水路
5-7 地点H 甘楽町上野 支線水路
5-8 地点H 甘楽町上野 拡大図
5-9 地点I
2 甘楽町田口 ため池 堰
堤外の水田
5-10 地点K 藤岡市緑埜 竹沼北部 用 5-11 地点K 藤岡市緑埜 拡大図
水支線
図5.生息確認地点の概況.
5-12 地 点M 藤 岡 市 緑 埜 平 井 小 学 校
脇 用水支線
154
杉山直人
た個体で構成されていることが明らかとなった
(伊藤ほか,
今回調査した大塩貯水池と竹沼貯水池,南2
号幹線水路,
2
0
0
9
;伊藤,2
0
1
1
)
.このため,大潮貯水池が利根川下流域
富岡北部幹線水路は各地で分流し,農業用水や水道用水と
の集団の供給源であることは否定された.しかし,カワヒ
して利用されている.そのため,カワヒバリガイの拡散は
バリガイがそれぞれの地域にどのようにもたらされたのか
水系の末端まで広まる可能性がある.貯水池や幹線水路で
は,依然として解明されていない.
カワヒバリガイの生息を確認した地点から分岐した流れの
現在,鏑川用水の幹線水路は鏑川土地改良区により管
下流を追跡調査したところ,地点C,
F
,
H,
J
,
LMは低~中密度
理・運営されているが,支線や末端部の詳細な様子までは
の生息状況であったが,その下流の水路や河川では確認さ
把握されていない.そこで,富岡市から藤岡市にかけての
れなかった.現在の段階では大規模なカワヒバリガイの流
鏑川用水周辺のカワヒバリガイの分布状況を調査した.
出はないものと考えられる.
調査方法
おわりに
群馬県立自然史博物館の平成1
7
~1
9
年度自然史調査の一
片山ほか(2
0
0
5
)及び野村ほか(2
0
0
8
)によれば,これ
環として実施されたカワヒバリガイの調査地点
(野村ほか,
ら一連のカワヒバリガイは2
0
0
3
年以前に大塩貯水池へ侵入
2
0
0
8
)を参考にして,大塩貯水池から水が供給されている
したと考えられている.この侵入の原因には諸説あるが,
国営南2
号幹線水路,竹沼貯水池,支線である県営富岡北部
大塩貯水池に魚類やシジミ類などの放流された記録はない
幹線水路とその周辺を踏査した.カワヒバリガイを成貝や
ことから,最初に莫大な数の個体が侵入したとは考えにく
稚貝の採取と撮影により確認し,立ち入れない箇所は,目
い.むしろわずかな個体群が生息しやすい環境を得て繁殖
視と撮影により確認した.生息を確認した地点からは下流
し,現在に至っていると考えられる.ごくわずかとはいえ
側も踏査し,分布の広がりを確認した.採集した資料は全
生息が確認された用水の支線や河川でも,今後もカワヒバ
て固定した.
リガイの分布動向を注視していく必要がある.
結果・考察
謝 辞
今回の調査で,鏑川用水の大塩貯水池と竹沼貯水池,南
本資料を作成するにあたり,鏑川土地改良区の方々,特
2
号幹線水路,富岡北部幹線水路でカワヒバリガイを確認
に松本寛氏には鏑川用水やカワヒバリガイに関する貴重な
した(図4
).調査地の概況は,表1
と図5
1
~5
1
2
に示した.
情報を提供していただいた.清水良治氏には,調査の方法
2
0
1
0
年以降,大塩貯水池では水位の高い状態が保たれて
や調査地をご教授いただいた.また,職場体験学習や博物
いるため,湖底の様子を確認することができなかった.大
館実習の参加者には調査の補助をしてただいた.記して御
塩貯水池から至近の甘楽町日向にある南2
号幹線水路隧道
礼申し上げる.
出口(地点E)や富岡市南後箇の富岡北部幹線水路の隧道
(地点D1
)とその付近では,既存の報告(片山ほか,2
0
0
5
;
吉田,2
0
0
6
;野村ほか,2
0
0
8
)にもあるような,超高密度で
生息が継続していることを確認した.また,甘楽町田口に
あるため池からの水路(地点I
2
)でも同様な状況が見られ
た.この3
箇所に共通するのは,貯水池やため池から流れ
出したばかりの地点という点である.大塩貯水池や甘楽町
田口のため池の岸辺付近では,低~中密度の生息が確認で
きるたことから,湖底の生息状況は2
0
0
9
年と同様に高密度
であると推定される.
また,富岡北部幹線水路では,大塩貯水池の北方約4
k
m
にある富岡市黒川(地点B)で,中密度の生息状況にある
ことを確認した.これらは大塩貯水池から竹沼貯水池まで
引用文献
伊藤健二
(2
0
0
7
)
:霞ヶ浦におけるカワヒバリガイ Li
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i
の生息・分布状況.日本ベントス学会誌,6
2
:3
4
3
8
.
伊藤健二(2
0
1
1
)
:関東地方に侵入したカワヒバリガイの現状と今後の
課題.矢作川研究,
(1
5
)
:9
1
9
6
.
伊藤健二・富永篤・五箇公一・木村妙子
(2
0
0
9
)利根川水系におけるカワ
ヒバリガイの分布拡大状況.
国際生物多様性の日シンポジウム
2
0
0
9
要旨,国立環境研究所.
片山満秋・清水良治・松本寛
(2
0
0
5
)
:群馬県からカワヒバリガイを記録
,1
(
42
)
:3
5
4
0
.
する.Fi
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dBi
o
l
o
g
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中井克樹(2
0
0
1
)
:黒装束の侵入者 外来付着性二枚貝の最新学.
日本
付着生物学会編,恒星社厚生閣,東京,p
.
7
1
8
5
.
野村正弘・金井英男・高橋克之・松本功・松本寛(2
0
0
8
)
:富岡~藤岡地域
の約1
5
k
mの移動と同様に,発生源である大塩貯水池から
のカワヒバリガイ(Li
mn
o
p
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r
n
af
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u
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e
i
).群馬県立自然史博物館
流出した個体に由来するものであると考えられる.生息が
自然史調査報告書,
(4
)
:4
0
4
7
.
確認されたのは導水管の外で,コンクリートにより直射日
光が遮られる環境であり,用水からしみ出た水によって生
き延びていたと考えられる.
吉田誠(2
0
0
6
)
:鏑川用水における特定外来生物
「カワヒバリガイ」
駆除
4
8
.
事例.農業土木学会誌,7
(
45
)
:4
7
-
Fly UP