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資料 22 浜松市の医療機関と救急隊との救急搬送に伴う蘇生術に関する
〔資 料〕 資料 22 浜松市の医療機関と救急隊との救急搬送に伴う蘇生術に関する取り決めを話し 合うためのたたき台案 (暫定案 0.1) 〈暫定案の注意〉 聖隷三方原病院倫理委員会は,資料にあげた昨今の終 末期医療に関する論議をふまえて数回の審議を行い,浜松 暫定案は,浜松市メディカルコントロール協議会で吟味して 市内の在宅療養している終末期患者で,心肺蘇生を希望し もらうための「たたき台案」を聖隷三方原病院倫理委員会が ない希望を明示しており,主治医も同意している患者が,救 作成したものである。記載内容は,消防救急隊をはじめ,今 急隊・救急部に受診した場合に,患者の意思表示に従った 後関係者で討議,変更,修正,改良してもらうことを前提とし 心肺蘇生術をメディカルコントロール医師の指示のもとに対応 ている。 特に,下線の部分については,消防・救急隊にて できることを倫理的に妥当と考えた。よって,本暫定案につい 詳細な検討が行われることを前提とし,聖隷三方原病院倫理 て,浜松市メディカルコントロール協議会にて,現在可能な方 委員会では検討しなかった。 策について審議をお願いするものである。 〈定 義〉 患者が退院し在宅療養した場合であっても,往診医師が主 治医として,患者の意思に従って心肺蘇生術を行わない場合 ●終末期患者 がほとんどである。しかし,往診医師に連絡がつかない場合, 「終末期」という場合には,悪性腫瘍のように予後が数日 患者・家族の希望で往診医師に紹介されておらず病院医師 ∼数カ月と予測できる場合,慢性疾患の急性増悪を繰り返し が主治医のうちに容態が変わった場合,心肺蘇生は希望しな て予後不良に至る場合,脳血管後遺症や老衰など数カ月から いが投薬・処置や看護ケアのために病院への搬送を希望す 数年かけて死を迎える場合がある。どのような状態が終末期 る場合は,救急隊に連絡をし,病院救急部で対応する場合も かは,患者の状態を踏まえて,医療ケアチームが個別に判断 少なくない。浜松市においても,年間数例以下と見積もられる するべきである(厚生労働省「終末期医療の決定プロセス が,DNAR の意思表示があったにもかかわらず心肺蘇生が に関するガイドライン」)。 行われた事例があるようである。「在宅医師をつけておくべき」 具体的には,担当医を含む複数の医療関係者が最善の医 「救急隊を呼ばないようにしておくべき」であるのはもちろんで 療を尽くしても病状が進行性に悪化することを食い止められず あるが,どのように努力しても,このような「網の目」をくぐって に死期を迎えると判断し,患者もしくは患者が意思決定できな くる症例は存在すると考えられる。 い場合には患者の意思を推定できる家族などが終末期である その場合,患者,家族にとっては希望していない心肺蘇生 ことを十分に理解したと担当医が判断した時点から死亡までを を受けることになる可能性があり,救急隊・救急部にとっても さす(日本医師会「グランドデザイン 2009 ─終末期医療のガ 救命という役割と患者家族の意思との間で苦しい選択を迫ら イドライン 2009」)。 れることになる。 ●在宅療養 したがって,患者の意思の尊重とともに,関係者の葛藤の 患者がおもな生活を営んでいる場所(自宅,施設など)に 軽減という観点からも,患者の意思にしたがった心肺蘇生術 おいて療養をしていること。 の適用が可能なかぎりできる体制を浜松市内において整備す 〈背 景〉 これまでは入院生活を余儀なくされていた終末期患者が, 患者の希望,在宅医療のシステムの整備,あるいは急性期病 ることを検討することは意味があると考えられる。 〈終末期患者の心肺蘇生に関するガイドラインの 要約〉 院の役割の変化などに伴い,自宅で生活を行うことが多くなっ 近年提示された複数のガイドラインにおいては,一定の条件 て い る。 これらの 場 合 で は,DNAR(do not attempt に基づき,終末期患者における心肺蘇生を行わないことの倫 resuscitation:心肺蘇生を希望しないこと)の意思があること 理的法的妥当性を明記した。一定の条件の要点は,①患者, が多い。患者が DNAR を希望すれば,入院中であれば医 または患者が意思表示できない場合には患者の意思を推定で 師の指示のもとに心肺蘇生術は通常施行されない。 きる家族と,患者の推定意思や患者にとっての最善の医療 139 (ベストインタレスト)という観点から十分に話し合った結果で 〈前提とされる条件〉 あること,②患者が終末期であることの判断や意思決定は医 師 1 名が単独で行うのではなく,看護師など関係している複 1.在宅療養を希望する患者では往診医師をあらかじめ確 数の医療ケアチームで行うこと,③苦痛緩和の治療や精神的 保し,自宅での容態の変化に備えて往診できる体制を確保す 社会的資源の利用などを最大限行うことを保証すること,であ ることを原則とする。 る。 2.切迫した苦痛がない場合は,対応を主治医にまず確認 したがって,これらの条件が満たされるならば,心肺蘇生を し,指示に従って自家用車などを利用し受診する(救急隊に 行わないという希望のある患者に関して,在宅医療においても 連絡しない)ことを原則とする。それで対応できない場合 心肺蘇生を行わない体制を保証することは倫理的法的にも妥 (往診医師に連絡がつかない,患者・家族の希望で往診医 当であると考えた。 師に紹介されておらず病院医師が主治医のうちに容態が変わ 〈目 的〉 った,心肺蘇生は希望しないが投薬・処置や看護ケアのため に病院への搬送を希望するなど)に,救急車を要請する。 浜松市内の在宅療養している終末期患者で, 「心肺蘇生 〈方 法〉 を希望しない」希望を明示しており,主治医も同意している患 者が,救急隊・救急部に受診した場合に,患者の意思表示 1.家族が救急隊に「救急搬送に伴う蘇生術に関する要 に従った心肺蘇生術をメディカルコントロール医師の指示のもと 望書」と「救急搬送に伴う蘇生術に関する主治医の承諾 に対応できること 書」を提示する。 〈対象となる患者〉 2.救急隊は,メディカルコントロール医師と連絡をとり,状態 を報告したうえで, 「救急搬送に伴う蘇生術に関する要望書」 以下の条件をすべて満たす場合に検討する。 および「救急搬送に伴う蘇生術に関する主治医の承諾書」 1.在宅療養している成人の終末期患者。 があることを説明する。 2.患者の意思,または,十分に推測できる患者の意思に基 3.メディカルコントロール医師は,救急隊員の報告にもとづ づいた家族の意思に基づき,あらかじめ心肺蘇生に関する希 き,適切な指示または助言を行う。「救急搬送に伴う蘇生術 望を明示した「救急搬送に伴う蘇生術に関する要望書」を に関する要望書」や「救急搬送に伴う蘇生術に関する主治 所持している。 医の承諾書」は患者・家族の状況を見て総合的な判断の一 3.患者の意思を了解した主治医の「救急搬送に伴う蘇生 助とするものであり,それらがあるからと言って自動的になんら 術に関する主治医の承諾書」を所持している。 かの判断を行うものではない。 〈対象となる状況〉 1.当該患者が在宅療養中に病院への搬送を希望する場 合,以下の 2 つの状況が考えられる。 ① 心肺蘇生は希望しないが,なんらかの苦痛があり,そ の緩和のための投薬・処置や看護ケア(酸素投与,吸引な どの処置,医療用麻薬や鎮静薬の投与,胸水や腹水ドレナー ジなど)を希望している場合 ② 苦痛はないが,心肺停止に準じる状態であり,死亡の 確認をする医師が病院にしかない場合 4.搬送後の病院にて,主治医に連絡する。 文献・資料 1)終末期医療の決定プロセスに関するガイドライン.厚生労働省, 2007 年 5 月 2)グランドデザイン 2009 ─終末期医療のガイドライン 2009.日本 医師会,2009 年 2 月 3)救急医療における終末期医療に関する提言(ガイドライン) .日 本救急医学会,2007 年 10 月 4)終末期医療のあり方について─亜急性期の終末期について. 日本学術会議臨床医学委員会終末期医療分科会.2008 年 2 月 140 〔資 料〕 救急搬送に伴う蘇生術に関する要望書(患者の記載用) 私は,自分自身の病名や病状を理解しています(説明を受けた記録をこの記録と一緒に保管してください) 。 万が一,急変などにより救急搬送された場合,以下を希望します □ 酸素投与,または,バッグによる換気を行う(心臓マッサージは行わない) □ 酸素投与,バッグによる換気にくわえて,心臓マッサージを行う □ 心肺蘇生を行う(心臓マッサージ,器具を用いた呼吸,気管内挿管・人工呼吸器などすべてを行う) ただし,いずれの場合も,苦痛を和らげる処置が最大限取れるためにすみやかな対応をお願いします 私は,家族(代理人)とも相談し,この意思を尊重するよう伝えました。 これらは,私の家族(代理人) ,医師などの医療ケアチームとも十分にくりかえしてよく相談した結果です。 平成 年 月 日 本人氏名 代理人氏名 救急搬送に伴う蘇生術に関する要望書(家族の記載用) 私は,患者( )の意思決定の代理人として,患者の病名や病状を理解しています(説明を受けた記録をこ の記録と一緒に保管してください) 。 万が一,急変などにより救急搬送された場合,以下を希望します □ 酸素投与,または,バッグによる換気を行う(心臓マッサージは行わない) □ 酸素投与,バッグによる換気にくわえて,心臓マッサージを行う □ 心肺蘇生を行う(心臓マッサージ,器具を用いた呼吸,気管内挿管・人工呼吸器などすべてを行う) ただし,いずれの場合も,苦痛を和らげる処置が最大限取れるためにすみやかな対応をお願いします これらは,患者が意思表示できたときの意思表示や,価値観をもとに患者にとって最善であると考えられることを,医師などの医 療ケアチームと十分にくりかえしてよく相談した結果です。 平成 年 月 日 本人氏名 代理人氏名(なるべく多くのご家族がお名前をお書きください) 続柄 141 救急搬送に伴う蘇生術に関する主治医の承諾書 下記の患者様は, ( )に受診しながら,在宅療養されています。適切な時期に受診できるような体制をとって いますが,万が一,救急搬送された場合,患者様が以下の希望を持っていることを主治医として了解しています。 □ 酸素投与,バッグによる換気を行う(心臓マッサージは行わない) □ 酸素投与,バッグによる換気にくわえて,心臓マッサージを行う □ 心肺蘇生を行う(心臓マッサージ,気管内挿管・人工呼吸器などすべてを行う) これらの相談は, 「終末期医療の決定プロセスに関するガイドライン」(厚生労働省 平成 19 年 5 月)や「グランドデザイン 2009 終末期医療のガイドライン 2009」(日本医師会 2009 年 2 月)にしたがっておこなったものです。つまり,患者自身と十分 によく相談したか,あるいは,患者の意思が確認できない場合には,家族によって患者が希望していることを推定したか,または, 患者にとって最善な選択はなにかを十分にくりかえしてよく話し合いました。また,相談は医師ひとりではなく患者にかかわっている 看護師を含む医療チーム全体で検討し,かつ,患者の苦痛緩和に最大限努めることを約束しました。 平成 年 月 日 所属機関名 主治医氏名 印 連絡先 142 〔資 料〕 患者さま・ご家族への説明書:在宅療養中に状態が悪化した場合 在宅療養中に状態が急に悪化する(出血したり,嘔吐したものをのどに詰まらせたりなど)ことは多くはありませんが,起こりえま す。ご自宅で見ていく場合には,急に容態が変化した場合の対応を決めておくことが重要です。 1. 「救急隊」の役割 「状態が悪くなったら,救急車を呼んで病院に行けばいい」とお考えの方は多いと思います。しかし,救急隊の主たる役割は, 「救命」ですので,もし,患者さん・ご家族が, 「心肺蘇生術」(心臓マッサージや人工呼吸など)を希望していない場合,救急 隊を呼んだ場合には,病院救急部と救急隊と連絡を取り合う医師の判断で,心肺蘇生術を受ける可能性があります。 2.在宅担当医師の確保 したがって,在宅療養で「心肺蘇生術」を受けないことを決めた場合には,必要がないように思えても,在宅担当医師を決め てください。そうすることによって,急に状態が悪くなったとしても,自宅に往診して患者さん・ご家族の希望にそった医療を行うこ とができます。 3.自宅で急に状態が変わった場合 ① 切迫した苦痛がない場合 対応を主治医に最初に確認してください。必要であれば,自家用車などを利用し受診してください(救急隊以外の手段を優先 して利用して下さい) 。 ② 切迫した苦痛がある,または,自家用車などを使用できない場合 対応を主治医に最初に確認してください。指示があれば,救急車を要請してください。その場合,救急隊に「救急搬送に伴 う蘇生術に関する要望書」と「救急搬送に伴う蘇生術に関する主治医の承諾書」を提示してください。救急隊は,救急センタ ーの担当医師と連絡をとり,患者さん・ご家族の意思をふまえた対応を相談します。 ③ 患者さんが亡くなられているように見える場合 対応を主治医に最初に確認し,指示があれば,救急車を要請してください。その場合,救急隊に「救急搬送に伴う蘇生術に 関する要望書」と「救急搬送に伴う蘇生術に関する主治医の承諾書」を提示し, 「患者さまが亡くなられているように見える」こ とをお伝え下さい。救急隊は,本来,救命救急のための機能であり,亡くなられていることが想定される患者さまの搬送は役割で はありません。救急隊では,通常,心肺停止をしている場合にはまず心肺蘇生を行ないつつ,救急センターの担当医師と連絡をと り,患者さん・ご家族の意思をふまえた対応を相談します。 143