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魔法の数 (マジカル・ナンバー)・3」 の構想

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魔法の数 (マジカル・ナンバー)・3」 の構想
Kobe University Repository : Kernel
Title
「魔法の数(マジカル・ナンバー)・3」の構想
Author(s)
定延, 利之
Citation
近代,78:1*-32*
Issue date
1995-09
Resource Type
Departmental Bulletin Paper / 紀要論文
Resource Version
publisher
DOI
URL
http://www.lib.kobe-u.ac.jp/handle_kernel/81001613
Create Date: 2017-03-29
マジ
カ
ル・
ナン
バー
」の構想
「
魔法の数 ・3
定
延
利
之
1.は じめに
1.1.理論的背景
1
9
5
6
年 9月1
1日, マサチ ューセ ッツ工科大学 で開催 された 1つ の シンポ
ジウムが,認知科学確立 の大 きな契機 とな った ことはよ く知 られている1
)
0
この シンポジウムでお こなわれた発表 の中 には,人間が短期記憶 に保持 で
きる情報 の量を, (± 2チ ャンクの変動幅 を もたせて) 7チ ャ ンクと主 張
マ ノカル ・ナ ノバ ー
す る発表があ った。 これが心理学者 ジ ョー ジ ・ミラーの 「魔法 の数 ・7±
2」(
Mi
l
l
e
r(
1
9
5
6
)
)
である2
)
。
この シンポジウムで は,言語学者 ノ-ム ・チ ョムスキー も言語 モデルに
関す る発表 をお こな っている。 チ ョムスキーの発表 は,認知科学 の中 に言
語学 を位置づ けるための理念 を構築 しよ うと した, ほぼ最初 の試 み と捉 え
ることがで きる。今 日,我 々言語学者が (
心理学 の訓練 を何 ら受 けていな
くて も)心 と言葉 の関わ りにつ いて発言 して よい ことにな って いるの は,
チ ョムスキーのおかげだ ろう。 この功績 はい くら強調 して も, し過 ぎるこ
とはない。
チ ョムスキーのアイデアはその後,生成文法 として具体化 し,数度のヴァー
ジョン ・ア ップを経 て今 なお変化 し続 けている。 だが,認知主義的 な言語
理論 と しての先導 的役割 は既 に終 えた感があ り, よ り新 しい認知主義的言
語理論か ら, その客観主義的 (
っ ま り非認知主義的)体質 を批判 され るに
- 1-
至 っている。
新 しい認知主義的言語理論 とは,た とえばチ ャールズ ・フィルモアの フ
レーム意味論 3) であ り, ジ ョージ ・レイコフの認知意味論 4
)で あ り, ロ
9
7
0年 前後 の
ナル ド・ラネカーの認知文法 5) で あ る。これ らはいずれ も 1
生成文法 (
格文法 ・生成意味論)を出自とす るが,生成文法主流派 との対
立 の中で根本的なパ ラダイム ・チ ェンジをはか り,全 く別個の言語理論 と
して生 まれ変わ った ものである (
以下で はこれ らのみを単 に 「
認知主義的
言語理論」 と記す)
。言語発出 ・言語理解 を可能 にす る, 人間の言語能力
の根本的基盤 を,生成文法が 自律的で静的な言語知識 に求 めるのに対 し,
認知主義的言語理論 は,言語能力 と他 の認知的能力 とのつなが りを前面に
押 しだ し,言語能力を動的な心的 プロセス全般 の中で捉え直す という新 た
な方向性を掲 げている。
しか し, このような認知主義的言語理論 は, 自身の掲 げる方向性 のごく
一部 しか, まだ実際 には展開で きていない。語句の多義性や歴史的意味変
化,比境的使用,換職的使用,等 々,扱 われている現象 を見 る限 りでは,
現行 の認知主義的言語理論 にはなるほど,既 に多様な展開が感 じられ るか
もしれない。 だが, そこでお こなわれている研究 は実際の ところどうか と
いうと,「
心理学者 フレデ リック ・バ ー トレッ トの概念 『スキーマ』 (
s
c
he
ma:Bar
t
l
e
t
t(
1
9
3
2
)
)杏,正当かつ厳密 な形で 言語学 に受容 させ る」 とい
う作業 に集約 される研究 ばか りが 目につ き, それ以外の研究 は残念 なが ら
決 して多 くはない'
o 認知主義的な言語理論 とはい うものの, スキーマに直
接関係 しない心的 プロセスそ して言語現象 には, いまだ十分な光が当て ら
れていない状況である。事態表現 の研究を例 にとって, これを少 し詳 しく
説明 しよ う。
現行の認知主義的言語理論では,事態表現 の研究 といえばほとん どが,
少 な くとも最終的には事態 スキーマの研究 に行 き着 くものであ り,たとえ
-2-
ば次のような形 にまとめ られ る議論 (
或 いはそれ らを組み合わせた議論)
が, 日々活発 になされている-- 「
言語 aで は他 動詞文 的事態 スキ -マ
の守備範囲が広 く,多 くの事態が このスキーマに当てはめ られ,他動詞文
で表現 され るが,言語 βで は逆 に白動詞文的事態 スキーマの守備範囲が広
い」 「
言語 γの話者 に併用 され るSV型事態 スキーマ とV S型事 態 スキ ー
マでは, 当てはめ られ る事態 にこれ これ こうい うアイコニ ックな認知的違
いがある」「言語 6の構 文 aは, 実 は 2つ の事態 スキーマ Pと Q が混成
(
-イブ リッ ド) した結果である」「
言語
E の形態素
bの文法化 は,事態 ス
キーマ Rか らSへの これ これ こういう変化 と して捉え られ る」等 々。 しか
し次のような, スキーマ自体か ら人間の心的 プロセスに中心点が移行 した
内で実際 どのように使用 して事態 を認知す るのか」「事態 を認知 す る人間
紘,事態 スキーマ使用の前 あるいは後 に, どのような心的 プロセスをお こ
事態 を表現す る人 間 の事態 スキー
なって最終的な事態認知 に至 るのか」「
マ使用法 は,事態を認知す る人間の事態 スキーマ使用法 とどこが同 じでど
こが違 うか」等 々。
以 上のように,現行 の認知主義的言語理論 において事態 スキーマの研究
だけが突出 した形で進展 して きていることと,決 して無縁 ではないと思わ
れるのが, ロナル ド・ラネカー らによ って提 出された事態スキーマモデル,
っ まりビリヤー ドポール ・モデルである7
)
。 ビリヤー ドポール ・モデル と
は何かO-言でいえば, それはL
t
r
界をモノ ・エネルギー ・空間 ・時間の 4
要素で構成 し,事態をモノか らモノへのエネルギー推移 とす るモデルであ
る。皮肉なことに, これは (
認知科学 と対立す る)客観科学 の基礎 とな っ
たニュー トン力学 に酷似 している。 そ して予想 され る通 り, このモデルは,
一 見 して合理的 8) と思われやす い事 態表現 しか説 明 で きな い。 事態表現
の中には,一見合理的 とは思われに くい (
つ まり一見不合理 な) もの も少
な くな い。 そ して そ れ ら一 見 不 合 理 な事 態 表 現 (た とえ ば す ぐ下 の ① ∼
⑤ ) を説 明 す る に は, ビ リヤ ー ドボ ー ル ・モ デ ル は無 力 で あ る。
そ こで筆 者 は, 事 態 スキ ー マ よ り も話 し手 の事 態 認 知 プ ロセ スに注 目 し,
部 分 的 な が ら事 態 認 知 プ ロセ スを モ デ ル化 した (フ レー ム カ ッ トア ウ ト・
モ デ ル)。 さ らに, この事 態 認 知 プ ロセ スモ デ ル と結 び付 け た形 で , ど リ
ヤ - ドボ ー ル モ デ ル の他 に, 新 しい事 態 スキ - マ モ デ ル (カ ビ生 えモデル)
を提 出 した 9)。 これ に よ って 説 明 の道 が 開 け た現 象 と して は, 次 の① ∼ ⑤
の よ うな もの が あ る。
①
動静関係 と枯形表示の,みかけ上の相反
たとえば下 の実例 (
1
)
の下線部 は,
(
1
) クラブヘ ッ ドのフェースにボールが当たる瞬間の ことを, イ ンパ ク ト
と言 います。 この瞬間が,打球のすべてを決定 します。
9
9
1『女性のゴルフ ・レッスン』ナツメ社,p.
6
8
.
]
[
榎本七郎 (
監修)1
「
合理的」 に言えばボールにクラブヘ ッ ドの フェースが当たる瞬間で あ るはず
だが,相当多数の日本語話者 に とって は (
1
)の ままで も十分 よい。 (詳細 は定延
(
1
9
9
0
a,1
9
9
0
b)
,Sadanobu(
1
9
9
5
)を参照。)
②
使役形態の,みかけ上の余剰
[
ナルの文 (たとえばスイ ッチがONになる)が表す事態 を, モ ノ (一郎) が
実現す る] という事態 は通常, スルの文 (
一郎が スイ ッチをON にす る) で表現
される。それをさらにモノ (
花子) が実現 す るとい う事態 は通常, サセルの文
という通常の対応を 「
合理的」 とすれば,下 の実例(
2
)
の下線部 は,
(
2) 「
私 と留実 ちゃん とを、ふた りきりにさせて くれないかな」
[
吉村達也 1
9
9
1『英語 ・ガイジン ・恥 ・殺人』, 祥伝社 ノ ン ・ポ シェ ッ
ト,p.
27
9.
]
ナルの事態 [
私 と留実 ちゃん とがふた りきりになる] の実現 を表すので, 「合
4-
理的」 にいえば末尾 はさせてではな くしてのはずだが,相当数のE
]
本語話者にとっ
1
9
91
b),Sadanobu(
1
9
9
5)を参照。)
ては下線部のままで十分よいO (
詳細は定延 (
③
使役形態の,みかけ上の欠如
スルの事態 [
行 くのか行かないのかが- ・
ソキ リす る]の実現命令 は,上の ② で
述べた 「
合理的」な対応か らすればサセルの文 (
行 くのか行かないのか を- ッキ
3)の よ
リさせろ)で表現 され るはずだが,相当数の日本語話者 にとっては下の例 (
うなスルの文で もよい。
(
3) 行 くのか行かないのかを- ッキ リしろ。
?
?彼 は自分の意志を- リキ リしたとは通常言わないように,- ッキ リす るには
1
9
91
b),Sadanobu
他動詞の用法がないに もかかわ らず,である。(
詳細 は定延 (
(
1
9
9
5)を参照。)
④
存在を表さないかに思える存在表現
我々は, たとえば 「
声のやた ら大 きい人間は人類誕生以来常 に存在 して い る」
という信念 と関わ りな く,下の(
4)
のような文を用 いることがで きる。
(
4) 声のやた ら大 きい入 って,時々いるじゃない ?
述語 いるは存在を表すはずなのに, (
4)
の頻度表現時々は 「
不合理」 な ことに,
声のやた ら大 きい人間の存在頻度ではな く,我々がそ うした人間に遭遇 す るとい
う事態の実現頻度を表 しているように見える。 (
詳細 は Sadanobu(
1
9
9
5
) を参
照。)
⑤
みかけ上余剰的な回数表現
5)を日常的な文脈下で聞けば,
相 当数の日本語話者 は, たとえば下の (
(
5)
故人 は心移 りの激 しい人で,奥 さん も結局生涯で 5回変わ りま した。
妻の延べ人数を 5人 と解釈することがあ り得 る。算数のテス ト問題 として (
5)を
聞かされ,妻の延べ人数を問われれば,迷わず,「
合理 的」 に, 6人 と答 え るに
もかかわ らず,である。 (
詳細 は Sadanobu(
1
9
9
5)を参照。)
5-
「
以 上の現象 ① ∼⑤ が各 々どのように動機 づ け られて い るか」「現
象 ① ∼⑤ が各 々,現代 日本語以外 に, どのような言語で成 り立っか」
等 々,様 々な問題 は,静的な事態 スキーマばか りを追求 していて も解決
で きず,動的な事態認知 プロセスに も目を向けて初 めて解決の糸 口が見
えて くる。 しか し, スキーマを離れた問題 についてはほとん ど研究が進
んでいないとい うのが,事態表現 に限 らず認知主義的言語理論 の全般 に
見 られ る現況 である。
1.2.本稿 の 目的
上 で一端を紹介 したよ うに,筆者 はこれまで,認知主義的言語理論の
幅を広 げる試み (
つ ま り認知主義的言語理論 を静的なスキーマ研究ばか
りでな く, よ り動的な心的 プロセスの研究 に も展開 させ る試み)をお こ
な って きた。 そ して同様 の試みを, これまでにない,新 しい形でおこなっ
ていきたいと考えている。 そのためにあ らか じめ必要 と思われ る,一連
の言語現象 の僻轍図を作成す るのか本稿の 目的である。具体的に説明す
る。
事態表現 をは じめ とす る幾っかの研究 を並行的に進 めるうちに,筆者
は,各々の研究の中で, これ まで指摘す らされていなか った幾っかの現
象 に, ほぼ同時に突 き当た った。 それ らの現象 は,当初 は互 いに全 く無
関係 と思われたが, よ く観察 してみ ると, いずれの現象 も3という数に,
ほぼ同 じよ うに関わ っていることが明 らかにな った。筆者 は現在, これ
らの現象 は 1つの根本的原理 -
我 々が 日々お こな って い る様 々な心
Sc
annl
ng)
的 プロセスの中で も特 によ く用 い られ る, スキ ャニ ング (
に関わる原理 10)-
が形 を変えて現 れているもの と考えている。
この根本的原理 を解明す るためには, もちろん各 々の現象 ごとの詳細
な個別的考察が欠かせないが,現象 は音韻 レベルか ら語嚢,文法,意味
レベルまで,既 に多岐 にわた ってお り,全ての個別的考察 を踏 まえて根
本的原理 を議論で きるようになるまでには,素直 に言 ってかな りの時間
がかか りそ うである。 そ こで,他 の研究者の理解のために も,筆者 自身
の考察整理のために も, (
現象 目録 の不安定 さや現象記述 の不徹底 さは
承知の上で)
, あ らか じめ全体的構図を提示 してお くことが有益 と思 わ
れ る。 そのために本稿では,考察の射程 にお さまると現時点で思われそ
うな現象 を 1つ 1つ簡単 に記述 し, それ らの共通性 を明確 に したい。 上
で 「
一連 の現象 の傭轍図」 と述べたのはこの意味である。
1.3.補足
数 とい う,認識論上の一大 テーマを,心 に関す る議論 の姐上 に乗せ る
マノ
カル・
ナノ
J
(
ことで, ミラー論文 は新 しい研究 の道 を切 り開いた。 「魔法 の数 ・3」
という, ミラー論文 を もじった本構想 のネー ミングは, そ うした ミラー
論文にあやか りたいという筆者の思 いによるものである。
但 しことわ ってお くが,本構想 は,対象や背景的立場 を ミラー論文 と
同 じくす るものではない。本構想 は,記憶容量を心理学的立場か ら研究
す る構想ではな く,上に述べたよ うに,心的プロセス (スキ ャニ ング)
を言語学的立場か ら研究する構想 である。 したが って本構想 は,短期記
憶 の容量が実 は 7チ ャンクで はな く 3チ ャンクだ とい うよ うな考 え 11)
とは関係 しない。同様 に本構想 は,長期記憶 や短期記憶 という, いわゆ
る記憶 のボ ックスモデルに対 してなされている批判 12) と も無縁 であ る
と信 じる。
2.先行文献
本稿が考察す る諸現象 は, 上述 の とお り, いずれ もこれまで指摘す らされ
ー7
ていなか った ものである。但 し,「
3という数が人間に とって何 らか の特別
な位置を占める」 という指摘 は,新 しい ものではない。各現象 を見 る前 に,
これまでの指摘 を ここで簡単 にまとめてお く。
3に関す る指摘 は,古 くか ら洋の東西 を問わず繰 り返 しなされているよう
だが,筆者 の知 る限 り,バ リエーシ ョンは驚 くほど少 I
j
:
い。 そのほとんどが
「3は,人間 にとって,或 る意味で完全 な数である」 とい うもので (詳細 は
(
注1
3
) を参照), それ以外の もの と しては,「十分慣 れて いない もの につ い
て覚え られ るのは, 3が限度で はないか と, 私 は思 う」 とい う野 口悠紀雄
(
1
9
9
3:1
1
4)が見つか っただけである。
これ ら従来の指摘を非科学的 として退 けることはたやすい。 とい うのは,
これ らの指摘 には, 明確 な根拠が ほとん ど付随 していないか らである。強い
て挙 げれば,「
数字言葉 は 3に関係す るもの (たとえば 3K ・3高 ・3種 の
神器等)が多 い」 というもの ぐらいであろうか。 この観察 自体 はどうや ら正
しそ うだが14) , 3が完全 な数だ という結論 を導 くには根拠 と して あ ま りに
薄弱で,結論 との間にはなお大 きな飛躍がある。
しか しなが ら,古今東西を問わずなされて きた これ らの指摘が,我 々の心
を全 く反映 しないたわ ごとであるとも,筆者 には思 えない。 これ らの指摘の
根源を反証可能 な形 で解明す る構想 と して,本構想 を位置づ けることもで き
るだろう。
3.甥象記述 と現段贋での見通 し
3.1.とも
筆者 はこれまで,取 り立 て詞 と呼ばれるもやで もを使 って,人間の系列
的 (
par
adl
gmat
i
c
) な情報処理 プロセスにつ いて考察 を進 めて きた (詳
1
9
9
3
ab,1
9
9
5
)を参照)。 また, ええ と ・あの -の よ うな談話
細 は定延 (
- 8一
標識が,話 し手 のどのよ うな心的 プロセスを反映す るのか について も考察
を進めてお り (
詳細 は定延 ・田窪 (
近刊) を参照)
, その関係 で, ええ と
マ/
カ
ル・
ナノ
′
ヾ
の構成要素 とにも注意 を向けていた。魔法 の数 ・3に初 めて行 き当た った
のは,以 上 2つの研究の接点を明確化 しよ うと して,一種の ともの用法 を
考察 し始 めた時である。貝体的な例 を挙 げよう。 た とえば下の (
6
日7)を参
照。
(
6) a.2人 とも同 じだ。
(
7) a.2人 とも違 う。
b.3人 とも同 じだ。
b.3人 とも違 う。
(
6)
(
7)に対す る話者の直観 は,実 は決 して一様で ない ことが調 べ てみ る
とわか るのだが,大多数 を占めると思われ る話者 の直観 につ いて簡単 にま
とめると, (
8)のようになる。 (
説明の便宜上, (
8a) (
8b) (
8C
) に三 分 し
て述べ るo)
(
8) (
6日7)に対す る大多数の話者 の直観
a. (
6a) について : (
6a) には 2つの解釈 が あ る。 「好 きな
色 は何か ?」 とい う質問に一郎 と次郎の 2人が答えたとい う
状況 を例 にとると, 1つの解釈 は, [
一郎 の答 (
赤)- 次 郎
の答 (
赤)
] とい う解釈である。 もう 1つの解釈 は, [
一郎 の
答 (
赤)- 何か別 の もの (た とえば傍観者 で あ る花子 の答
(
赤)),かつ,次郎の解答 (
赤)- その別の もの (
花子 の答
(
赤))] という解釈 (
っ まり
「2人 とも (柁子 と) 同 じだ」)
である。 (
以下,前者を相互的対称関係 の解釈, 後者 を独立
一次
的対称関係 の解釈 と仮称す る15)
。) 図 1・図 2を参照。
郎
一郎
次郎
(
⊃- ○
図 1 :相互的対称関 係
9-
郎
b. (
6
b) について :要素の数が 2か ら3に増 えた (
6
b) ち,
(
6a) と同様暖味で,相互的対称関係 の解釈 と独立 的対称 関
係 の解釈を持つ。要素の数が 4にな って も 5にな って も,或
いは1
0になって も, この唆味性 は基本的に変わ らない16)。
C. (
7)
につ いて :(
7)
を見 ると,唆味 なの は (
7
b) だ けで あ っ
て, (
7a) は唆昧ではない。 (
7a) が持 っ解釈 は, ただひ と
つ,独立的対称関係 の解釈っ まり 「
一郎 の答 (
赤)≠ 花子 の
答 (白)
,かつ,次郎 の答 (
育)≠ 花子 の答 (自)」 という解
釈
(
「2人 とも (柁子 と)違 う」) である。相互的対称関係つ
まり 「
一郎 の答 (
赤)≠ 次郎の答 (
育)」 という解釈 はない。
図 3 ・図 4を参照。
一郎
次郎
○
図 3 :相互 的対称 関 係
一
郎次
郎
o
s
n
.
+
#
o
4
立
的
対
図
.独
称関係
(
7
b) のよ うに,要素が もう 1つ (黒色 が好 きな三郎) 以
上増えて初 めて,相互的対称関係の解釈 は可能 になる (
一郎
の答 (赤)≠ 二 郎の答 (育)≠ 三郎の答 (黒)≠ 一郎 の答
(
赤))。図 5を参照。
○
=
≠
【
○
≠
(
モ
こ
一
=
=
二
二
=
図
5
:
相
互的対称関係
以上 の (
8
)
を さらに表 1にまとめ直す と,魔法の数 ・3が, よ り- ッキ
-1
0-
\述語
、
--\甥\釈の種規
同
じ
相互的対称関係の解釈
独立的対称関係の解釈
① Ⅹ≧2
(
卦 Ⅹ ≧2
だ
表 1I「
Ⅹ人とも同じだ」「Ⅹ人とも違 う」の解釈可能範囲
表 1の① ③ ④ はⅩ ≧ 2だが,② はⅩ≧ 2で はな くⅩ ≧3で あ る16)。
① ③ ④ と(
塾が何故 くい違 うのか とい う問題 の核心 は, どこにあ るのか。
分類詞 にない ことは, す ぐにわか る。 とい うの は,表 1は rX人 と も同 じ
だ/違 う」 とい う形式 に即 して はいるが,① ∼ ④ は, 分 数 詞 が人 で はな
く,個 や冊 な どにな って も変わ らないか らであ る。 さ らに現象 の核心 は,
9)の よ うな形 式 の異 な る他
ともとい う形式 自体 に もない。 とい うの は, (
のスキ ャン表現 で も,① ∼ ④ は基本的 に同様 だか らであ る。
(
9) a.一郎,次郎 (
,三郎, ---) とも同 じだ/違 う。
b.一郎 も次郎 も (
三郎 も-‥-) 同 じだ/違 う。
つ ま りこの現象 の核心 は, スキ ャニ ングとい う動 的な心 的 プロセスにあ
る。以上で述べた ことは, スキーマを用 いた分析 の,或 る意味での限界を
[
P
]
〇
表 して いる。 た とえば ともを図 6のよ うにスキーマ分析すれば,
[P ]
〇
[P ]
〇
スキーマを用 いた静的 な と も分析
つ まり 「ともは集合内の全要素 (これは 2個以上 ある)が或 る属性を共有
す ることを表す」 と分析すれば,一見 それで十分 に思え る。 しか し, これ
では表 1の① ③ ④ は説明で きて も,② は説明で きない。① ∼④ を全 て説
明す るには, スキーマ分析 だけでは不十分である。 そ もそ も集合内の要素
を スキ ャンす るとはどうい うことなのか, どのような心的プロセスを仮定
すれば,同 じだ と違 うの意味的相違 と連動 して ① ③ ④ 「Ⅹ ≧ 2」 だ けで
な く(
塾 「X≧ 3」を生む ことがで きるのか,正面か ら考察する必要がある。
この点 について筆者が今考 えているのは,実 は上の相互的対称関係 は,
話者心内の手続 きと しては独立的対称関係 にかな り近 いのではないか, と
い うことである。 たとえば 2人 とも結婚 しているが, 当の 2人が 1組 の夫
婦 を構成 しているとの解釈 (
相互的対称関係 の解釈) を持 たないように,
ともの文 は 「
合理的」 に考えれば,相互的対称関係の解釈など持っ はずが
ない。 に もかかわ らず上で相互的対称関係 の解釈が成 り立っように思える
のは,独立的対称関係 にかな り似 た話 し手 の心的 プロセスに原因があるの
で はないか。つ ま り上 の場合,話 し手 は集合内部 の要素を参照値 と して記
憶 し, この参照値 との対比 を基 に個 々の要素 の属性抽出をお こな うのでは
ないか。 こう考えれば, 1つ 目の要素 は純粋 な参照値 になるので これに対
しては何 の属性 も抽出 されず,必然的 に,属性が複数個抽出 され るのは要
素が 3つ以上 ある時 に限 られ る (したが って Ⅹ ≧3)
, とい うことになる。
同 じだの場合, この理屈が成 り立 たず, 1つ 目の要素 に も属性が付与 され
るわけだが
(
Ⅹ ≧2)
, これはスキ ャニ ングを構成す る下位 プ ロセ スど う
しの実行順序 の問題 と して処理す るつ もりでいる。
なお,実際には,表 1に合致 しない直観 を持っ話者 も存在す る。具体的
に言 うと,表 1の① ② は話者 によって乱れ る部分があ り, ① を Ⅹ ≧ 2で
はな くⅩ ≧3と判断す る話者,② を Ⅹ ≧3で はな くⅩ ≧2と判断す る話
者が確認で きる。 これは同 じだ ・違 うなどの述語の意味が話者 によって微
-1
2-
妙に異 なるということだろう。表 1に合致す る直観 を持つ多 くの話者 ら,
仮 に同 じだをそ っくりだ と変えた り,違 うを別物 だ と変えれば,同様 の感
触 (
つまり① が Ⅹ ≧3,② が Ⅹ ≧2)が得 られ ることがある。 ここで鍵
になるのは,述語 の意味がモノ的か コ ト的か (もちろん これは程度 の問題
である) ということであ り, これが下位 プロセスどうしの実行順序 と連動
す ると筆者 は考えている。が,言語差 の問題 も含 めて 17), 詳細 は今後 明
らかにする。
3.2.みかけ上余剰的な回数表現
既 に 1節で述べたとお り,相当数 の 日本語話者 は, たとえば下 の(
1
0
)
を日
常的なの文脈下で聞 けば,
(
1
0
) 故人 は心移 りの激 しい人で,奥 さん も結局生涯で 5回変わ
りま した。
妻の延べ人数 を 5人 と解釈す ることがあ り得 る。が, この解釈 を容認す
る話者のほとん どにとって, このよ うな解釈 は,回数表現が 3回以上でな
いと生 じ得ない。妻が生涯でただ 1人 きりとい う場合 に 1回変わ ったなど
とは誰 も言わない し,妻が生涯で延べ 2人の場合 に 2回変 わ ったと言 う話
者 もごく少数 にとどまる。
これは 3.
1と基本的に同 じ問題だ というのが,現時点 での筆者 の考 えで
1では結局, モノの集合のスキ ャニ ング表現 にまつわ る問題 を指
ある。3.
1
0
)
のよ うな,状態 の集 合 の スキ ャニ ング表現 につ
摘 した ことになるが, (
いて も,やはり同 じ問題が生 じてよいはずである。
,「合
そもそ も(
1
0
)
の妻が延べ 5人 という解釈 は, いわゆる算数 に忠実 な
理的」な解釈 (
つ まり 6人解釈)が 日常的言語使用のルーズさに乱 されて
生 じた, などと考えるのは間違 いで あ って, 問題 の解釈 は算数 に忠 実 な
「
合理的」解釈 とは根本的に異なる。「
合理的」 な解釈の場合, たとえば 1
ー1
3
番 目の妻が 3番 目の妻 と同一人物 であ るとい った,妻の重複 は許 されるが,
問題 の解釈 の場合 は許 されないか らで ある。 問題 の解釈 は, 5人の妻が全
て違 ってい ることを要求 してお り,実 は 3.
1で述べ た, とも違 うと同 じ心
Ⅹ ≧3」 にな る。
的 プロセスが関わ って いるO だか らこそ 「
で は, とも同 じだ と同 じ心 的 プロセ スが関わ って いる現象 はないのか と
い うと, おそ らく次 のよ うな ものがそれ に当た る。
(
l
l
) a.結婚 を 3回繰 り返 した。
b,失敗 を 2度重 ね る
。
(
l
ュ
a) の場合,結婚 は 「合理 的」 に考 えれば合計 4回 の はず だが, 実
l
l
b) の場合,失敗 は 3つ の はず だが実 際 は
際 は 3回で もよい。 同様 に (
2つで もよい。 このよ うな解釈 は,回数表現 が 「Ⅹ ≧2」の場合 に生 じる。
用紙 を 2枚重ね ると言 えば用紙 は
(3枚 などで はな く) 2枚で もよいこと,
倍 と 2倍 が同義であ ることな どもで きれば併せて説明 したい。
3.3.お き
お きにつ いて従来 よ く考察 されて きたの は, た とえば直前 の名詞句が時
間 を表す場合で ある。 この場合,表 され る時間の単位が 「
大 きな単位」 か
「
小 さな単位」 か によ って, お きの優先的解釈 は変 わ り得 る。 従来 の考察
(
森田良行 (
1
9
8
0
)
, 岡本牧子 ・栗林裕子 (
1
9
9
3
))の一 部 を, 多少補足 し
て まとめ直 してお く。 た とえば(
1
2
)
を参照。
(
1
2
) a.1日お きに手紙 が来 る。
b.1時間お きにベルが鳴 る。
(
1
2
a)の場合, 2月 7日に手紙が来 たな ら, 次 に来 るの は 2月 9日と
い う解釈が優先的で, 2月 8日とい う解 釈 は 2次 的 な もの にな る。 逆 に
(
1
2
b)で は, 3時 にベルが鳴 ったな ら次 に来 るの は 4時 とい う解 釈 が優先
的で, 5時 とい う解釈 はかな り難 しい。 これ は, 同 じ時間の単位 とい って
-1
4-
も,年 ・月 ・日と時 ・分 ・秒で は,我々の心 内ではあ り方が多少異 なるこ
とを示 している。前者が内部構造 を持 った箱のような形で捉 え られ るのに
対 し,後者 はむ しろ内部構造のない点的存在 と捉え られるのが普通である。
この考えを支持す る現象 は,お きの他 に も幾つか確認で きるように思 う。
まで もその 1つであ り,書類 を 2E
]までに渡 して くれ と言 われた場合, 2
E
]の午後11
時5
9
分5
9
秒 に渡 して もよいとい う解釈があるが,書類 を 2時 ま
9
分5
9
秒 に渡 したのでは遅 い。年 ・月 ・日が
でに渡 して くれの場合, 2時5
1か ら始 ま り (
元年 ・1月 ・1日)
,中を後接で きるの に対 し (
今年 中 ・
1月中 ・3日中)
,時 ・分 ・秒が 0か ら始 まり (0時 ・0分 ・0秒),中を
後接で きないの も (* 2時中 ・*4分中 ・* 5秒中),同 じことである。
しか し, たとえば
(
1
3
a
)(
1
3
b
)で解釈 タイプが話者 によって違 い得 る,
とい った ことは, これまで指摘す らされていないようである。
(
1
3
)
a.階段が, 1段 お きに色が塗 ってある。
b.階段が, 5段お きに色が塗 ってある。
色の塗 られた階段の間 に挟 まれた, 色 の塗 られて いない階段 の数 は,
(
1
3
a
)では 1段である。が, (
1
3
b
)で は話者 によ って は, 5段 だ けで な
く 4段の場合 もあると判断 され る。お きの前 に表現 され る数 を調べてみ る
と, このような解釈が生 まれ るのは, この数が どうや ら 3か ら上 の場合 に
限 られ るよ うである。 お きとはパ ター ン認識 の表現であ るか ら,「最 初 の
状態 (
階段 に色が塗 ってある状態) と同 じ状態が再 び現れ るまでに,最初
の状態 と違 う状態 (
階段 に色が塗 っていない状態)が どれだけ現 れ るか」
を計測す るとい う観点か ら,つ ま りとも同 じととも違 うの合成 プロセスと
して, これを説明で きるので はないか と考えている。が, このあた りは話
者間の判断差が特 に激 しく, さらに詳 しい調査 をお こな った上で結論 を出
した い。
-
15 一
3.4.文法 カテ ゴ リと しての数
今度 は,数 それ 自体 ではな く,言語学者 にとって もっと馴染み深 い考察
対象,つ ま り文法 カテゴ リと しての数 を考えてみたい。 これまでの通言語
的な調査の結果, ほとん どの言語 は数 カテゴ リに関 して (
1
4
)の いずれかの
タイプに属す (
複数帰属 もあ りうる) ことが明 らかにな っている。
(
1
4
)
a.数 カテ ゴ リを持 たないタイプ
b.単数 vs.複数 の区別 だけを持っ タイプ (1vs.2以上)
C.単数 v
s.双数 vs.複数 の区別だけを持っ タイプ (1vs,
2vs.3以上)
d.単 数 vs.双 数 vs.三 数 vs.複 数 の区別 を持 っ タイ プ
(1vs.2vs,3vs.4以上)
1
4
a)タイ プに属 し18), E
]本語 の
たとえば 日本語 は名詞 に関 して概ね (
代名詞 (
彼 vs.
彼 ら) や,英語 をは じめとす るヨーロッパ の主要 な 言語 は
(1
4b) タイプに属す。 アラビア語や, オセ アニ アの諸言語, エ スキモー
1
4C
) タイプに属 し, フ ィジー語代名
語 を含むアメ リカの多 くの言語 は (
詞 など極 めて限 られた ものが (
1
4
d) タイプに属す と言われ る19)
しか し,全ての言語が (
1
4
)のいずれかに該当す るわ けで はない。 た とえ
me
hue
i
vi語では,単数 と複数が区別 され るが,複数 はさらに
ば Che
「2
以上」「
3以上」 とい う 2つのクラスに区分 され る (したが って (
1
4
)のいず
れに も該当 しない)。Che
me
hue
i
vi語でai
pac と言え ば 「1
人の少年」 だ
が,接尾辞 を付 けてai
pac
i
w と言えば
ダブらせてa(
2
1
)
ai
pac
i
w と言えば
「2人以上 の少年」
, さ らに語頭 を
「3人以上の少年」 である20)0
Che
me
hue
i
vi語のような言語 も射程 に収 めるには,単数 ・双数 ・三数 ・
複数 とい った個 々の クラスに注 目す るのではな く, おそ らくクラス間の境
1
5
)を立てれば,
界 に注 目す る必要がある。つ まり,(
1
4
)の代わ りに (
(
1
5
)
a.数 の間に区別を設 けない言語
ー1
6
b.1と 2の間でのみ区別を設 ける言語
C.1と 2の間, 2と 3の間でのみ区別 を設 ける言語
d.1と 2の間, 2と 3の間, 3と 4の問でのみ区別 を設 け
る 言 語
(
1
4a)に属す る言語が (
1
5a)に, (
1
4b)に属す る言語が (
1
5
b)に,(
1
4
C
)
に属す る言語が (
1
5
C
)に, (
1
4d)に属す る言語が (
1
5d)に属 す るだ けで な
く,Che
me
hue
i
vi語 のような言語が (
1
5C
)に属 す るので, 全 て の言語 を
含め られ る。
言語 タイプの含意普遍性 につ いては, ジ ョセフ ・グ リー ンバーグが 「
普
遍性 3
4」 と して (
1
6
)の よ うな ことを帰納 的 に述 べて い るが (
Gr
e
e
nbe
r
g
(
1
9
66)
),
(
1
6
)
a.三数 の存在 は,双数 の存在 を合意す る。
b.双数 の存在 は複数 の存在 を含意す る。
C.複数の存在 は単数の存在 を合意す る。
これを上 と同様, クラス間の境界 に着 目 して まとめ直す と(
1
7
)
を得 る。
(
1
7
) a.或 る言語が 3と 4の間で区別 を設 ければ, その言語 は必
ず 2と 3の間で も区別を設 ける。
b.或 る言語が 2と 3の間で区別 を設 ければ, その言語 は必
ず
1と 2の間で も区別 を設 ける。
但 し,三数 に関係す る (
1
7
a)は本構想で は扱 わ な い。 その理 由 は以下
① ② の 2点である。① 三数 は少数 (
pauc
al:小 さい数 を表 す ク ラス) と
の違 いがボヤケがちで,先行研究 において も少数 と一緒 にされ ることが多
い。② 三数 (
或 いは少数)を持 ってい る言語 に して も, その生起環境 は
極 めて限 られている。具体的には,三数 (
或 いは少数) はほとんどの場合,
代名詞 に現れ るのみで,名詞 に関 しては単数 vs.双数 vs.複数 とな り三数
は現れないo以上 (
丑② の 2点か ら,本構想では, もっぱ ら (17b)につ い
ー1
7-
て考える。
まず,3
.
1で述べて きたことをまとめ直 してみよう。相当数の話者にとっ
ては, モノの集合を見渡 して∼ とも同 じだ と言え るのは, その集合の全要
莱 (これは 2個以上 ある)をスキ ャンした結果,要素か ら抽出され る属性
が全て [
同 じ]である時である。つ まり,「同 じような モ ノが た くさん あ
る」 との認知が成立す るのは, 同 じよ うなモノが 2つ以上 ある時である。
,*1つ とも同 じだなどとは言えない。 これに対
モノが 1つ しかなければ
して, モノの集合を見渡 して∼ とも違 うと言え るのは, その集合の全要素
をスキ ャンした結果,要素か ら抽出され る属性が 2つ以上 あ り,かっそれ
互 いに違 ったモ ノが た
ら属性が全て [
違 う]である時である。つ まり,「
くさんある」 との認知が成立す るのは,違 ったモノが 3つ以上 ある時であ
る。少 な くとも,大多数 の話者 にとって, モノが 1つ,或 いは 2っ しかな
但 し後者 は独
ければ,*1つ とも違 う ・2つ とも違 うなどとは言えない (
立的対称関係の解釈がある)
。
この ことか らすれば,「2と 3の間に区別を設 ける (つ ま り 1と 2vs.
3以上 とい う区別 を設 ける)」 とは 「モノの集合を,互 いに異 な るモ ノの
集合 と認知す る」 ことであ り,「1と 2の間に区別を設 ける (
つま り 1vs.
2以上 とい う区別 を設 ける)
」 とは,「モノの集合を,同 じようなモノの集
合 と認知す る」 ことである。従 って (
1
7
b)は,「『モノの集合 を,互いに異
,
なるモノの集合 と認知す る』 ことは 『モノの集合 を, 同 じよ うなモ ノの
集合 と認知す る』√
ことを合意す る」 となるが, これは,当た り前のことで
はないだろ うか。 とい うのは, モノどうしの異 な りを認知する,紬かな認
知 の前 には, モノどうLを同 じと認知す る,大雑把な認知が必ずあるはず
c
oar
s
e
) レベルか ら細密 (
f
i
ne
)レ
だか らである。我 々の認知 は,粗雑 (
ベルを発達 ・分離 させてい くのであり, いきな り細密 レベルが現れること
はない。細かな違 いを捨象す る,粗雑 な 目で認知すれば 「1つvs.た くさ
一1
8
ん」 という対立が得 られ,細かな違 いを見逃 さない,綿密 な 目で認知すれ
ば
「2つvs.た くさん」 とい う対立が得 られ るO
これまで数 カテゴ リに関 して は,個別言語 の観察 を踏 まえた通言語的一
般化が進み,上述の含意普遍性が提出 されて きた。 これ は高度 に抽象化 さ
れてはいるが, あ くまで現象 の記述であ って説明で はないことに,注意す
る必要がある。 たとえば 「
広 く諸言語 を見渡 して も,数 に関 して, 2以下
(
っ まり 1と 2)v
s
.3以上 とい う区別 だ けを持 つ言語 は何故 な いのか」
という疑問 に対 して,含意 の普遍性 21
)は何 ら解答 を与 えな い。 その疑 問
の基 にな っている現象 を,極めて一般的な形で提出す るだけである。今後
説明 しなければな らないことはなお多 いが,本構想 の考察 は, このような
疑問を,人間の認知 スキーマの粗密 (
gr
anul
ar
i
t
y) に関す る成 熟 と関係
づ けることで解決 しよ うとい うものである。
3.5.合成語のアクセ ン ト
定延 ・匂坂 (
1
9
9
0)
,定延 (
1
9
91
a)で,筆者 は,現代 日本語 東京方言 に
おけるアクセ ン ト合成規則を考察 した。対象 とな ったのは, 2要素 (
前部
要素 ・後部要素)か ら成 る漢語である。考察の結果明 らかにな ったのは,
このよ うな漢語 のアクセ ン ト合成規則が, (
従来言われて いた よ りもさ ら
に甚だ しく)後部要素 の文字数 に敏感 に対応 して変化す る, とい うことで
ある。 これを (
1
8
)
∼e
O
)に例示す るO
(
1
8
) 後部要素が 1文字 の場合
a.前部要素最終相 にアクセ ン ト核が来 る。
可Ll
逮捕者 (
ET,
)
文化人 (
拠
)
光熱費(
三下 有司旦)
b.但 し,前部要素最終相が特殊拍 な ら, アクセ ン ト核 は 1拍
前 に移 る。
-1
9-
責任者
軸
交際費
紬
)
宇宙人
(
Ar
す叶うじん)
)
C.例外 的に,後部要素が特定 の要素 であれば, アクセ ン ト核
はな い
。
自由化(
_
旦匝 了 盲 )
神秘的也 五 示 子音 )
(
1
9
) 後部要素が 2文字 の場合
a.後部要素単独 で頭高型 ・中高型 な ら, そのアクセ ン ト核 が
保存 され る。
死火山 (
_
拠
大規模 也
_
)
道路工事 (
卓丁
す す ご止 旦 )
√盲
t
旦)
b.後部要素単独 で尾高型 ・平板型 な ら,後部要素第 1相 に
ア クセ ン ト核 が来 る。
_・ ・
l
・
・
J
.
:
.l
・
ll
t
・‥
受験地獄 (
山
すえ 可L
L(
_)
低価格 (
旦叫
⊥)
神戸大学(
iJ
す軸
⊥)
⊥)
社会人教育 (
i抑
伽)後部要素 が 3文字以上 の場合
後部要素 の アクセ ン ト核 の有無 ・位置が保存 され る。
うえ ん き ょ う)
有名政治家 軒
下盲 )
大展示会 (
旦恥
)
丁子ご '
q
有力候補者 (
師
移動式電波望遠鏡 師
L
i )
百 う言 え 盲 丁 す )
ここで も 3.
4と同様,「1つ (
(
1
8
)
)vs. 2つ ((
1
9
)
) vs.た くさん (
G
n
)
)
」
の世界が開 けている。 この ことか ら考え られ るのは, モノをどれ もこれ も
-
2
0-
同 じようなモノと捉 える粗雑 な認知 と, モノをどれ もこれ も互 いに違 った
モノと捉える精密 な認知の両方が, アクセ ン ト合成 の際に も働 いているの
ではないか, とい うことである。 さ らに検討 を続 けたいが,今後 の展開方
向 としては,漢語 だけでな く,和語や外来語 も含 めた一般化 を狙 いたい。
この点 に関 して,筆者 の立場を従来の説 と対比 して多少 とも明確 に してお
く。
漢語 ・外来語 ・和語 ・オノ
現代 日本語の語嚢 には 4つの語種があるが (
マ トペ)
,末考察の部分が多 いオノマ トペ (
つ まり擬音語 ・擬 態語) を除
くと,残 り 3語種 はアクセ ン ト合成 の実態が似ている。 これを反映 して,
これまで 3つの語種 ごとに記述 されていたアクセ ン ト合成規則を抽象化 し
て, 1つにまとめて しまお うという考えが (
窪園晴夫氏 を中心 と して)進
展 している。 この考えは,具体的には6
2
1
)の とお りである。
) a.フッ ト (
f
oot
) とい う韻律的な長 さ単位 を考える。
6
2
1
b.アクセ ン ト合成規則 は語種 の違 いによってで はな く, 級
部要素の フッ ト数 によって (1フッ トvs. 2フ ィー トvs.
3フィー ト以上)異 なるとす るO具体的には,後部要素が
1フッ トの場合 は,後部要素の語種 (
漢語 ・外来語 ・和語)
を問わず合成規則 1が適 用 され, 後部要素 が 2フ ィー ト
(
f
e
e
t
) の場合 は後部要素の語種 を問わず合成規 則 2が,
後部要素が 3フィー ト以上 の場合 はやはり後部要素の語種
を問わず合成規則 3が適 用 され る, とい う具合 で あ る。
(この 3規則 は最終的には統一 されているo)
C,フッ トの具体的内容 は,語種 ごとに異 なるとす る。 具体
s
yl
l
abl
e
), 外
的には, 1フッ トとは, 漢語 な ら 1音節 (
mor
ae
) とす る。
来語や和語 な ら 2相 (
C
Z
l
)のような考えは,漢語 に関す る筆者 の考察 を一般化 して くれ る極 め
- 21
て有益 な もので あ り,歓迎 した い。 が, (
21
C
)につ いて は意 見 が異 な る と
ころが 2点 あ る。
まず第 1点。筆者 は漢語 の場合 , 1フ ッ ト- 1文字 とス トレー トに考え
て い るが, (
21
C
)は 1フ ッ トと 1文字 との結 び付 けを放棄 して い る (或 い
は, 1フ ッ ト- l舌節 - 1形 態素 - 1文字 と間接的 に結 び付 けて い る)。
この よ うな結 び付 け放棄 (
或 いは間接 的 な結 び付 け) は,か え って妥 当性
が危 うい と思 う。以下簡単 に説 明す る。
た とえば この作戦 はあの将軍 が全面指揮 を とるな どと言 う場合 の全面指
拝 を正 しく 5型 と予測 す るに は,後部要 素指揮 (しき) は 2フィー トと し
なけれ ばな らない。他方,入社式 や成人式 を正 しく 3型 と予測す るには,
後部要 素式 (しき) は 1フ ッ トと しなけれ ばな らないQ 指揮 も式 もシキで
あ るか ら, 前者 を 2フィー ト,後者 を 1フ ッ トと区別 す るには,方法 は 3
つ しか な い。
①
意味 に頼 る。 つ ま り指揮 は 2形態素 だか ら 2フ ィー ト,式 は 1形態素
だか ら 1フ ッ トなのだ とす る。 これが上で言 う, 間接 的 な結 び付 けの立
場 で あ る。
②
文字 に斬 る。 つ ま り指揮 は 2文字 だか ら 2フ ィー ト,式 は 1文字 だか
ら 1フ ッ トとす る。 これが筆者 の立場 であ る。
③
何 に も頼 らな い。 つ ま り指揮 は 2音節 だか ら 2フ ィー ト,式 は 1苦節
だか ら 1フ ッ トと し,音節 は意味 や文字 で は定義 されず, それ 臼体,最
初 か ら与 え られて い る ものだ とす る。 これが上 で言 う,結 び付 け放棄 の
立場 で あ る。
が, す ぐわか るよ うに① は問題 で あ る。 指 に しろ拝 に しろ, これ らを形 態
素 とす ることは,指 ・揮各 々の意味 が問 われ る ことに直結 す るはず だが,少
な くと も現代 日本語 で は これ らの意味 は極 めて解答困難 だ ろ う。発作 を発 と
作,措 置 を措 と置 に分 けて無理 に意味 を考 えて い くことが,有意義 な道 とは
-2
2-
思われない。 また(
釦 ま矛盾点 こそ持 たないが, もはや反 証可能 で な くな っ
て しまっている。② が最 も簡 単で 自然 な方法だろう。
以上, このような結 び付 け放棄 (
或 いは間接的な結 び付 け) の妥当性が乏
しいことを述べたが,必要性 も乏 しい ことを付 け加えてお く。後述第 2点 と
関連するが,話 し手の心的辞書 において,漢語が和語や外来語 と異な った方
式で記載 されていると仮定 して しまえば,音韻 の世界 にいきな り文字数が顔
を出す ことの奇妙 さは解消で きる。 したが って, この よ うな結 び付 け放 棄
(
或 いは間接的な結 び付 け) は,必要悪 として も認 め られない。
第 2点。 そ もそ も (
2
0C
) (に代表 され る従来 の考 え) の 「
漢語」「
外来語」
「
和語」 は,筆者の考 える 「
漢語」「
外来語」「
和語」 と, 厳密 に は一 致 して
いない。漢語を例 にとって説明す る。
野村雅昭 (
1
9
87
,1
988) によれば,漢語 には狭義 と広義がある。古代か ら
近世 に至 る期間に中国か らもた らされ た語 (た とえば横行 ・横逆) が漢 語
(
狭義)であ り, またそれにな らって 日本で造語 された和製語 (た とえ ば横
領 ・横柄) を も含 めた ものが漢語 (
広義)である。広義 の漢語 は,狭義 の漢
語 との混同を避 けるために,特 に 「
字音語」 と呼ばれ ることもある。
筆者 は,定延 ・匂坂 (
1
990),定延 (
1
991
a)で はこの意味での 「
字音語」
を考察対象 としていたが,現在 の筆者 は, こうした 「
字音語」 の定義 には満
足 していない。具体的には,従来 「
字音語」 と考 え られている語の うち, た
とえば武士 ・椅子 などを或 る程度排除す る形 で 「字音語」 を考 えて い る。
(これ らは和語性が高 いと考えている。) この考 えの背後 にあるのは,適時 レ
ベルと共時 レベルの区別, というよ り,言語社会 レベル と話者心内 レベルの
区別である。 いっの時代 にどうい う語か どこか ら日本語社会 に もた らされた
か といった,語嚢 の流入 ルー トとその過程 を解明す る研究 は,基本的 に言語
社会 レベルの問題であ り, そ こで はた しかに上 に紹介 した 「漢語 (
狭義 )」
および 「
漢語 (
広義)
」 といった概念が有用である。 だが, 人 間 が合成 語 を
ー2
3-
どのよ うなアクセ ン トで読むか とい った, アクセ ン ト合成規則 を解明する研
究 は何 よ りも, そ うした言語社会 を構成す る 1人 1人の心内に, どのような
心的辞書が貯蔵 され, どのよ うな規則が格納 されているか といった問題であ
り,言語社会 レベルとは或 る程度区別 して考える必要がある。語の歴史的履
歴が実 は中国渡来であ ったと して も,大多数 の話者がそれを知 らず (
或 いは
意識せず)
, その語 を 「
和語 らしい」 と感 じれば, その語 は心 内 レベルで は
「
和語」的性格が強 く,和語のアクセ ン ト合成規則 に従 う。 実際, 野武士が
2型でな く 1型,電気椅子が 4型でな く3型であることは,武士や椅子が心
内 レベルで多少 とも 「
和語」 らしいことを裏付 けている。つ まり筆者 の考え
る漢語 ・外来語 ・和語 は, その歴史的履歴 とは必ず しも一致せず,話 し手の
感 じる 「
漢語 らしさ」「
外来語 らしさ」「
和語 らしさ」 の具現 とい う,心的な
概念である22)。窪園晴夫氏 は筆者の (
2
0。
)に対す る例外 として口三味線 (3
壁) を挙 げ られたが, これは現在の筆者 の考えでは漢語ではな く和語である
か ら例外扱 いす る必要 はない。
以上, ここではアクセ ン ト合成 の場 において も, 「1つ vs. 2つ vs. た く
さん」 の世界が開 けていることを漢語 につ いて指摘 し, さらに外来語や和語
といった,他の語種 も含めて一般化 してい く方向性 に関 して,現行の説 と筆
者 の考え との違 いを 2点述べた。但 し, 「アクセ ン ト合成 の際にも粗雑な認
知 と精密 な認知 の両方が働 く」 と考 え る筆者 の現時点での考えはどうか と言
うと,粗雑 な認知 プロセスとは, フッ ト単位 を捉えるプロセス,精密 な認知
プロセスとは当該 プッ トの単語内位置を捉 えるプロセスといった,甚 だあや
ふやな もので しかないことも併せて断 ってお きたい。
なお,非合成的な外来語のアクセ ン トは,逆三型が多 いことがよ く指摘 さ
れ る (たとえば原語 c
ommu'
ni
c
at
e に対 して外来語旦 ミュニ ケL 上)。 こ
れ もで きれば併せて考えたい。
ー2
4
4.おわ Uに
本稿では, これまで指摘す らなされていなか った幾つかの現象 を簡単 に記
述 し, これ らを統一的に説明 しよ うとす る研究 の構想が,現行のスキーマ中
心の認知主義的言語研究 に大 きく貢献す るであろうことを明 らかに した。 さ
らに,現時点での分析 の見通 しも併せて可能 な限 り述べた。結果 として浮か
び上が って きた, それ らの現象 の共通点 は,次 のよ うな ものである :モノを
どれ もこれ も同 じようなモノと捉 える粗雑 な認知 は,「
Ⅹ ≧2
」 とっなが り,
モノをどれ もこれ も互 いに違 ったモノと捉 え る精密 な認知 は,「
Ⅹ ≧3」 と
つなが る。 この共通点 を説明で きるよ うな, スキ ャニ ングのモデルを提出す
ることが今後の課題 にな って くる。
通言語的に見て,人称が 3人称 まで しかない こと, 3回以上 の文埋 め込 み
が実行 されているデータが ほとん どないこと, さらに 2節で述べた, 3にま
つわる数字言葉が多 いことなど,考察対象 はまだまだ広がる可能性があるが,
現時点で考察の見通 しらしい ものが立 っているもの と して は,残念 なが ら 3
節で述べた ものに尽 きる。慎重 に検討 を重ねていきたい。
付記 :水野和久先生 には筆者 の着任以来,公私 にわた りお世話 にな った。刺
激 も受 けた。先生のご退官記念 として,本誌 に拙論 を載せて頂 くことは,私
にとって大変光栄 な ことである。 が, それに相応 しい出来 となったかどうか,
甚だJ
L、
もとない。先生 のお赦 しを乞 いたい。最後 にな りま したが,先生 どう
も有 り難 うございま した。今後 もます ます ご活躍 されます ことをお祈 り致 し
ます。
なお本稿 は,平成 7年度文部省重点領域研究 「
認知 ・言語 の成立」 (
課題
番号 :0
7
2
0
2
2
0
8
,研究代表者 :定延利之) の成果 の一部である。
漢
1) たとえば Gar
dne
r(
1
9
8
5)を参照。
2) チャンク (
c
hunk :固ま り) 紘,情報量の単位 という点で は ビッ ト (
bi
t
)と
共通す るが,柔軟 に変化 し得 る内部構造を持 ってお り, ビッ トとは別物 であ る。
短期記憶の容量が約 7 「
単位」であること自体 は, それまでの多 くの実験 か ら誰
で も知 っていた ことと言 い切 る ミラー論文 は, このチ ャンクという単位 の提 出に
力点を置いてお り,人間の短期記憶容量がなぜ 「7」チ ャンクにな って いるのか
という問題 に対 しては,(
世界七不思議 ・七つの海 ・七つ の大罪等 の語臭 の問題
と共に)結論を差 し控えている。なお, ミラー自身 は論文の中で短期記憶 (
s
hor
t
i
mme
di
at
eme
mor
y) という用語を使っ
t
e
r
m me
mory)で はな く直接記憶 (
ているが,本稿ではより普及度が高いと思われ る短期記憶 に変更 した。
3) たとえば Fl
l
l
mor
e(
1
9
8
2
)を参照。
たとえば Lakof
f(
1
9
87
)を参照。
4)
5) たとえば Langac
ke
r(
1
9
87,1
9
91)を参照。
6) 数少 ない例外的研究 としては, たとえば De
ane(
1
9
92
)を参照。
ウィF
)アム ・クロフ トのコーザル ・チェイン (
c
aus
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hai
n:Cr
of
t
(
1
9
91))
7)
は,本稿では ビリヤー ドポール ・モデルに含めてある。 またラネカーのステージ・
モデル (
S
t
agemode
l
) は,議論 を簡単 にするために省いた。
8) 本稿では 「合理的」 とい う語を,「道理 にかな っている」 (『広辞苑』 第三版)
とい う日常的意味で用 いてお り,哲学的意味では用 いて いない。 「不合理」 につ
いて も同様であるo
'
9)
本稿では筆者が提 出 したモデルの説明は避 け,成果のみ簡単 に紹介 してお くが,
モデルの初期形態 につ いて は定延 (
1
9
9
3
C), 発展形態 につ いて は Sadanobu
(
1
9
9
5
) を参照 されたい。
1
0)
スキ ャニ ングについて解明で きた ことは,おそ らくフレームカッ トアウ ト・モ
デルに もそのまま活かせ るだろう。 なお,従来の認知主義的言語理論が, スキ ャ
ー 26-
ニ ングについて全 く沈黙 して きたわけではな く, たとえば ラネカーは, スキ ャニ
ングを継時的 スキ ャニ ング (
s
e
que
nt
l
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c
annl
ng) と一 括 的 ス キ ャニ ング
(
s
ummar
ys
c
annl
ng) の 2種 類 に分 け る こ と に よ って , い わ ゆ る転 換
(
c
onv
e
r
s
l
On)現象を説明 している。 しか し筆者が狙 っているの は, スキ ャニ ン
グ一般 に成立す る原理の解明であり,上のようなスキ ャニ ング分類作業 とは レベ
ルが異なる。
l
l
) この考えは,部分的には野 口悠紀雄 (
1
9
9
3
)に見 ることがで きる。 詳細 は本稿
2節を参照。
1
2
) たとえば処理水準説 による批判を参照。
1
3
) たとえば鈴木修次 (
1
9
8
3
)によれば,『史記 (律書)
』 には 「
数 は一 に始 まりて,
,『老子』 (第 42章) も 3を,
十に終 はり,三 に成 る」 との記述がある ら しい し
「
万物生成の出発 になる数字」 と しているらしい。鈴木 (
i
bi
d.
)はこれ ら中国の文
献を踏 まえて,「「
三」の意識がさらに風化す ると,三の数 にそろえ るな らば, そ
こにある種の安定 したおちっ きが示 され るとい うことに もな ってゆ く」(
p.
3
6
)
と した上で, イン ド, 日本,ギ リシアに も同様の思想 を認め,「「
三」 を小 さな完
数 と して, そこにそれな りの充実を見 る考え方 は, ほぼ全世界 に共通 す るといえ
る」 (
p.
4
0
)と結論づけている。早場公邦
(
1
9
8
3・2
62
8
)において も, ピタゴラ
完全無欠 な数」 と考えていた ことが紹介 されている。 井上 ひ さ し
ス学派が 3を 「
(
1
9
9
3:2
6
9
2
7
0
)も大 ・中 ・小,上 ・中 ・下などの例を挙げた上で,3(三分法)
は全体の把握を可能 にす る力を持 っていると述べているが, その理由 と して, 杏
別格の 1を除いて) 奇数 の中で先頭 に位 置す
数は計算が難 しいので崇拝 され, (
る 3は特 に尊敬 された, との説を紹介 している。小倉良之介
(
1
9
9
43
9
)にお い
三」 には十進法発生以前の根源的 な 「安定 ・成就」 を思 わせ
て も,「どうや ら 「
る気配があるらしい」 と,やはり同様 の記述が観察で きる。
1
4
) たとえば 日本語知恵の輪会 (
1
9
9
4
)を見 ると,一姫二太郎か ら日本百名 山 まで
数字 言葉が
2
6
0語記載 されているが,その うち半数近 い 1
1
8語が 3関係の語嚢 で
2
7-
ある。 もちろん この語棄数 は,収録語嚢の選定基準を変更すればそれ に伴 って変
化す るが,上の割合を大 きく変えるには,かなり不 自然な基準 に変更 す る しかな
いとい うのが筆者の実感である。 ちなみに,加瀬清志 ・畑 田国男 (
1
9
9
3:3
)に
よれば, 日本 には 3関係の語嚢を既 に約 1万語保有 している 「日本三大協会」 な
るもの もあるという。 また,一般の娯楽雑誌 (
講談社 (
1
9
9
5
)
)で も, 3関係 の語
嚢 の多 きが取 り上 げ られることがある。
1
5
) 相互的対称関係 ・独立的対称関係 という用語 は,対称関係 について論 じた定延
(
1
9
9
3
d,近刊) によるO たとえば [
馬場 と猪木]が戦 ったという文 は, 馬場 と猪
木の対称関係が,相互的 とも独立的とも解釈で きる ([ ] ほ名詞句の等位接続構
造を表す)
。 (
馬場対猪木) という 1つの シンクルマ ッチが実現 した とい う場合
は相互的対称関係で,馬場の動作 (
戦 うこと) は枯木な しには成立せず, 猪木 の
動作 (
戦 うこと) も馬場 な しには成立 しない。 また, シングルマッチ (
馬場対ブッ
猪木対 ブッチ ャー)が 6月 に実現 し
チ ャー)が 1月に実現 し, シングルマ ッチ (
たとい う場合,「今年の上半期には誰が ブッチ ャー と戦 ったの り」 とい う問 いに
対 して,我 々はやはり上の文で答えることがで きるが,その時,馬場 と猪木 は独
立的対称関係 に立つ。馬場が直接構成す る事態 (1月の試合) に猪木 は関わ らず,
猪木が直接構成す る事態 (6月の試合)に馬場 は関わ らない。 2つ の事態が よ り
大 きな事態 に統合 されて初めて馬場 と猪木 は結 びつ く。対称関係の種額 は この他
にも,組織内対称関係,並行的対称関係などがあるが,本稿の考察 には直接 関係
しないので言及 しない。
1
6
) 尤 も,?
6
0
0
0
人 とも同 じだのようにXが十分大 きな数 になると, とも表現 は多
少おか しくなる。 これは6
0
0
0とい う数が通常, 1つ 1つ スキ ャンしていける数 で
はない ことを我 々が知 っているか らだろう。が, この間題 は本稿では扱わない。
1
7)
たとえば,?
Bot
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r.かやや変 だが Bot
ho
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ke.な ら十分適格であるなど,英語 にも色 々興味深 い問題がある.
1
8) 但 し事務官vs.
事務官 たちのよ うに (
1
4
b) タイプに属す もの もある。
-2
8-
1
9
) 松本克己 (
1
9
9
3
)による。
2
0
) 以下の文献による旨,Cr
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1
9
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0)に記載があるが,直接確認 で きて い
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s,pp.
5
4,7
8.
2
1
) 数の文法階層 に して も同 じことである。
2
2
) 漢語 らしさの異体的内容 については,賓藤洋典氏の一連の興味深い研究があるO
参考文献
井上 ひさ し 1
9
9
3,『ニホ ン語 日記』.東京 ・文垂春秋,pp.
6
97
4,2
6
52
7
0,
岡本牧子 ・栗林裕子
1
9
9
3.「「∼おきに∼」 という表現についての理解 の違 い と,
日本語教育での取 り扱 い方」 m s.
小倉良之介
1
9
9
4.「
数-
対の思想」『
月刊 日本語』1
9
9
4年 2月号,東京 ・アル ク
出版,pp.
3
8
4
1.
加瀬清志 ・植田国男 1
9
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3.『日本三大 ブック』.東京 :講談社.
草楊公邦
1
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8
3.『数の不思議』.講談社現代新書,東京 ・講談社.
9
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5.『V 1V l』第1
3巻第 4号,p.
2
7
0.「
MAGI
C N0.
3の謎」
講談社 (
発行)1
定延利之
1
9
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0
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移動を表す 日本語動詞述語文中の格形表示 と,名詞句指示物 間
言語研究』第9
8
号, 日本言語学会,pp.
4
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5.
の動静関係」『
定延利之
1
9
9
0
b.「
文の [
対称性] と名詞句 の相互交換」『言語学研究』第 9号,
ト5
7.
京都大学文学部言語学研究室,pp.
定延利之
1
9
9l
a,「現代 日本語東京方言 における合成的字音語のアクセ ン トと字数
について」『
NEBULAE』Vol
.
1
5,0s
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1
4
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1
5
8.
定延利之
東京
1
9
9
1
b.「
SASEと間接性」仁 田義雄 (
宿)『日本語 のヴォイスと他動性』,
くろ しお出版,pp.
1
2
3
1
4
7.
-2
9
定延利之
1
9
9
3a.「認知的 スケールへの知識の反映- -「
取 り立て詞 デモ」の分析
- 」文部省重点領域研究研究成果報告書 『音声文法 の試み』,pp.
4
87
3.
定延利之
1
9
9
3
b.「心的な情報処理操作 と用法 の派生-
モをめ ぐって-
」文
部省総合研究 (A)研究成果報告書 『高度 な 日本語記述文法書作成 の ための基礎
的研究』,pp.
1
3
61
6
0,
1
9
9
3C
,「事態認知 モデル構成要素 と しての状態の必要性
定延利之
」『日本認知科学
会第1
0回大会発表論文集』, 日本認知科学会,pp.
7
67
7.
1
9
9
3d.「深層格が反映すべ き意味 の確定 にむけて」 仁 田義雄 (宿 ) 『日
定延利之
9
5
1
3
7,
本語 の格 をめ ぐって』,東京 :くろ しお出版 ,pp.
1
9
95.「
心 的 プ ロセ スか らみた取 り立て詞 モ ・デモ」 益 岡隆志 ・沼 田善
定延利之
子 ・野田尚史 (
編)『日本語 の主題 と取 り立て』. 東京 :くろ しお出版 ,pp.
2
2
7-
2
6
0.
定延利之
近刊 .「
対称関係 と対称性」近藤達夫 (
編)『言語文化 を学ぶ人のために』,
京都 .世界思想社 .
定延利之 ・匂坂芳典 1
9
9
0. 『
合成的字音語のアクセ ントと字数』.京都 :エイ ・ティ ・
アール自動翻訳電話研究所 .(
ATRテ クニカル レポー ト TRト01
5
8
)
定延利之 ・田窪行則
近刊.「
談話 における心的操作 モニ ター機構 一
識 「ええ と」 と 「あの (-)
」鈴木修次
心 的操 作標
」『言語研究』, 日本言語学会,第 108号 .
1
9
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3. 『数 の文学』.東京 二東京書籍株式会社.
日本語知恵 の輪会 (
編) 1
9
9
4. 『「数字言葉」 の謎解 き事典 』.東京
KKベ ス トセ
ラー ズ .
野 L]
悠紀雄
野村雅昭
1
9
9
3. 『「
超」整理法』.東京 .中央公論社 (中公新書),pp.
1
1
41
1
5.
1
9
8
7. 「複合漢語 の構造
」『朝倉新 日本語講座 1
文字 ・表記 と語構成』,
1
3
01
4
4.
東京 :朝倉書店 ,pp.
野村雅昭
1
9
8
8. 「二手漢字 の構造
」『日本語学』第 7巻第 5号,東京 .明治書院,
pp.
4
45
5.
-3
0
本多勝一
- 1
9
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2.『日本語の作文技術』.東京 .朝 日新聞社 (
朝 日文庫),pp.
1
7
61
7
9.
松本克己 1
9
9
3.「「
数」の文法化 とその認知的基盤」『
言語』,東京 :大修館書店 ,
第2
2
巻第1
0
号 ,pp.
3
64
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津木他 (
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3.『想起の心理学』,東京 :誠信書房 .
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監訳) 1
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87.『認知革命-
知の科学 の誕生 と展開 - 』,東京 .産業図書 .
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池上義彦 ・河上誓作 ・辻幸夫 ・西村義樹 ・坪井栄治郎 ・梅原
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大輔 ・大森文子 ・岡田櫨之 (
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3.『認知意味論』東京 :紀伊図屋書店.
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神戸大学国際文化学部紀要』第 4号 ,pp.
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