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監査事務所における監査の 品質の確保・向上に向けて

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監査事務所における監査の 品質の確保・向上に向けて
インタビュー
監査事務所における監査の
品質の確保・向上に向けて
公認会計士・監査審査会事務局審査検査室長 野口 徹郎
「協会」という。)が監査事務所の品質管理の
■1.審査会の活動状況及び
監査事務所の現状
状況をレビューし、改善勧告を行い、審査会
に報告します。審査会は、その内容を審査し、
必要に応じて検査を実施するという制度とな
―昨年発生した上場企業における不正会計事
っています。したがって、審査会の検査は定
件は証券市場を大きく揺さぶり、監査事務所
期的に行われるというものでもありません。
の監査の信頼性の確保は重要な課題となって
また、審査会の審査及び検査は、個別監査
います。公認会計士・監査審査会(以下「審
意見そのものの適否を直接主眼とするもので
査会」という。)の審査及び検査の位置付け
はなく、監査事務所における監査の品質管理
と活動状況を教えてください。
の状況を調査するために実施するものです。
野口
平成15年の公認会計士法改正により、
平成22年度においては、その前年度に実施
公認会計士や監査法人といった監査事務所に
された品質管理レビュー83件の報告に対して
対する監視・監督体制の充実・強化が図られ
9件の検査を実施し、1件の勧告を行ってい
ました。まずは、日本公認会計士協会(以下
ます。
〈目 次〉
―最近の監査事務所を取り巻く環境変化と対
1.審査会の活動状況及び
応はどのようなものですか。
監査事務所の現状
2.審査基本計画と検査基本計画
野口
3.事後的対応と今後の課題
影響もあり、景気は依然として厳しい状況に
東日本大震災や欧州の政府債務危機の
あるものと考えられ、上場企業を巡る環境も
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変化しています。他方、近年の会計基準のコ
のような監査事務所に対しては、品質管理の
ンバージェンスの進展等による新たな諸基準
適切な定着を促す観点から、報告徴収を実施
の適用等への対応や近時の企業不祥事の発生
し、監査事務所における品質管理のシステム
等、監査事務所が考慮すべき事項も見受けら
の整備状況等について重点的に検証すること
れるところです。
としています。
こうした中、協会の品質管理レビューの結
二番目の項目が「協会の品質管理レビュー
果をみますと、一定の改善傾向がみられます
の検証」です。協会の品質管理レビューは、
が、協会の上場会社監査事務所登録部会への
原則3年に1回の頻度で実施されておりまし
登録を認めないこととされた監査事務所もあ
て、平成15年の公認会計士法改正による品質
り、また、審査会検査においても、運営が著
管理レビューの法定化から3巡目に入ってい
しく不当であるとして勧告となっている監査
ますが、先に述べましたレビュー等の結果や、
事務所がみられます。
近時の企業不祥事の発生等に鑑みますと、協
以上のような監査事務所を巡る現状を踏ま
会においては、品質管理レビューの一層の機
え、検査の取組み方等の見直しを行い、これ
能向上により、品質管理の浸透・定着を図る
を反映した基本計画を策定しました。
取組みが期待されるところです。
こうしたことから、品質管理レビュー制度
■2.審査基本計画と
検査基本計画
について、レビュー制度の在り方も含め、そ
の適切性を総括的に検証することとしていま
す。
―平成24年度の審査基本計画はどのような内
容のものですか。
―審査基本計画と並ぶもう一つの柱である検
野口
査基本計画はどのような内容でしょうか。
審査では次の二つの項目を基本計画と
野口
して掲げています。
いわゆる大手の監査法人については、
一番目の項目が「重点的検証」です。審査
協会の品質管理レビューが2年に1回の頻度
会の有する権限として、監査事務所に対する
で実施されています。大手監査法人について
検査権限のほかに、報告徴収権限があります。
は、資本市場における役割の重要性や海外の
協会の品質管理レビューや審査会の検査の
主要な監査監督当局における検査の実施状況
結果、依然として、指摘事項が広範に認めら
に加え、近時の企業不祥事の発生等を踏まえ
れる監査事務所や自主的な改善を促す必要が
まして、協会からの品質管理レビュー報告の
あると認められる監査事務所がみられます。
審査結果に基づき、原則として検査を実施す
限られた検査資源を有効に活用するため、こ
ることとしています。したがって、審査会検
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査も原則2年に1回の頻度で実施されること
約の新規締結、業務管理体制の整備等といっ
になります。
た新設監査法人において特に検証すべき事項
大手の監査法人については、協会の品質管
の状況について、検査で検証していくことと
理レビューも審査会検査もこのような頻度で
しています。なお、新設監査法人においては、
行われており、協会の実務指針等で求められ
監査意見を表明していても、まだ、品質管理
ている監査事務所における品質管理は一定の
レビューを受けていない場合があります。こ
整備・運用がなされてきているものと考えら
のような場合には、公認会計士法は、例外的
れます。他方、個別の監査業務に関しては、
に、品質管理レビューを待たずに検査ができ
近時の企業不祥事の発生のような問題も一部
る規定があります。場合によっては、当該規
にはみられており、まだまだ監査事務所とし
定を発動して、効果的かつ機動的な対応を図
て検討すべき課題はあるものと考えられま
ることとしています。
す。限られた検査資源をもって、このような
状況に対応するために、リスクベースの検査
■3.事後的対応と今後の課題
を徹底することとしています。具体的には、
個別監査業務が抱えるリスクの所在を的確に
―審査及び検査の事後的な対応はどうなりま
分析し、検証項目を絞り込むことにより、監
すか。
査法人の業務運営上の本質的な問題に焦点を
野口
当て、メリハリのある検証を行っていくこと
務所においては、勧告により金融庁長官から
としています。
業務改善命令等の措置がなされることで改善
審査及び検査の結果としては、監査事
次に中小規模監査事務所に対する検査で
が図られる、あるいは、勧告にまで至らない
す。協会の品質管理レビューは循環的に行わ
が検査結果通知書を基に監査事務所において
れていますが、中小監査事務所の中には、依
自主的な改善が図られるということになりま
然として改善状況が芳しくないところもみら
すが、これ以外にも、審査会が、審査及び検
れます。また、初めて品質管理レビューを受
査の事後的な対応として取り組んでいること
けることになる新設監査法人については、品
について、基本計画に明示いたしました。
質管理のシステムの整備・運用が不十分な状
況が審査及び検査で見受けられます。
こうしたことから、品質管理レビューの結
果を踏まえ、改善への取組みの状況を確認す
まず、第一に、検査結果通知から一定期間
経過後に、監査事務所の品質管理がどうなっ
ているか現状把握をするための報告徴収を実
施することとしています。
る必要がある監査事務所を検査先として選定
第二に、検査結果の分析に基づく業界横断
することはもちろんですが、例えば、監査契
的な問題点の抽出やそれを踏まえた関係先と
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の連携、情報発信があります。検査を通じて、
ましたとおり、大手監査法人、中小監査法人
必ずしも直ちに指摘とはなりませんが、業界
のそれぞれに対応すべきことがあり、リスク
横断的な問題が把握されることがあります。
ベースの検査の徹底を基本計画に掲げたわけ
このような問題は、例えば、制度に関するも
ですが、そのためには、情報収集等の検査の
のであったり、自主規制に関するものであっ
事前のリスク・アセスメントが重要となりま
たり、関係先が多岐に及ぶものであることが
す。また、検査後の出口として、業界横断的
考えられます。
な問題についての意見交換等もありますの
例えば、最近の検査で把握されたものとし
ては、小規模監査法人の問題があります。監
で、関係先との連携強化が重要であると考え
ています。
査法人には5人以上の公認会計士である社員
以上、基本計画の概要について述べてきま
が必要ですが、最低限の社員で運営されてい
したが、本基本計画の全文については、審査
る監査法人が多く存在します。個別監査業務
会ウェブサイト(http://www.fsa.go.jp/
の業務執行社員のほか、品質管理担当責任者
cpaaob/shinsakensa/kihonkeikaku/20409.ht
や審査担当者等については適切な経験及び必
ml)をご参照ください。
要な権限を有していることが求められるた
め、社員に役職の兼務が発生します。兼務自
―ありがとうございました。
体は必ずしも問題ではありませんが、監査法
(聞き手:桜木 康雄)
人に実質的に名義貸しのような社員がいる場
合は、特定の社員に業務が集中し、それが原
因で監査の不備が発生している場合がありま
す。
審査会としては、検査結果を十分に分析し、
このような業界横断的な問題を抽出し、協会、
金融庁の関連部局及び証券取引所等の関係先
との間で、積極的に意見交換や情報発信を行
っていくこととしています。
―最後に、監査の品質の確保・向上に向けた
課題についてお話しください。
野口
課題の一つとして、関係先との連携強
化があります。検査基本計画のところで述べ
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