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ポストゲノム時代の社会構造 (特集号 第 6 回発達科学シ
Kobe University Repository : Kernel Title ポストゲノム時代の社会構造 (特集号 第6回発達科学シ ンポジウム ひとはどこに行くのか?)(The Social Structure in the Post-Genomic Era (Special Issue: 6th Symposium on Human Development. Staying Human?)) Author(s) 田畑, 暁生 Citation 神戸大学発達科学部研究紀要,9(3):7-12 Issue date 2003-02 Resource Type Departmental Bulletin Paper / 紀要論文 Resource Version publisher DOI URL http://www.lib.kobe-u.ac.jp/handle_kernel/81000485 Create Date: 2017-03-29 ポス トゲノム時代 の社会構造 田 畑 暁 生 神戸大学発達科 学部 ( 以下 は,講演 のために用意 した原稿 に加筆訂正 した もので,講演 で話 した通 りではあ り ません。実際の講演内容 は無駄なお しゃべ りが多 く冗長であるので) 私 の専門 は社会学, その中で も 「 情報社会論」 とい う分野です。情報社会論 とは,情報 化 の進展 に伴 って,社会が どのように変化 して い くのか, また, どのよ うに変化 させてい かなければな らないのか, といった問題 を扱 う分野 です。 しか し残念 な ことに,情報化 に 伴 う社会予測 は, これまであまり的中 して は来 ませんで した。情報社会論が言 われだ した のは1 9 6 0 年代 ころですが, その当時でイ ンターネ ッ トのよ うな ものを予測 した人 はほとん どいませんで した。 む しろ労働時間が短 くなるとか,在宅勤務が普通 の ことにな るとか, あるいは,人間の知能 を越え るコンピュータが生 まれ るとい った ことの方 に注 目が集 ま っ ていま した。 そ して これ らは,多少 は実現 した こともあ りますが,大 き くは外 れています。 したが って現時点で,ポス ト・ゲノム社会が どのよ うな社会 になるのか, また, どういっ た社会問題が出て くるのかは,非常 に不確定な要素が多 く,われわれが どのよ うな倫理的 ・ 制度的な選択 を行 うかにもかか っています し, したが って, とて も総体的 に問題 を扱 うこ とはで きませんので, その中で も, DNA情報 の利用 の問題 と,遺伝子 による子供の能力 の強化が もた らすか もしれない社会構造 の変化 の二つ につ いてだ け,考 えてみたいと思 い ます。 まず第一 の点 につ いてです。例えば現在すで に, DNA鑑定 を使 った犯罪捜査 なども行 われています。 しか し主 として行われて きたのは, あ る特定 の部位 の遺伝子型 によ って人 間を十数種類 に分 けるといった, いわば 「ち ょっと詳 しい血液型」程度 の ものであ り,当 然, これのみに頼 っては,菟罪 の危険 もあ ります。 しか し,遺伝子 の完全 な解析 が可能 と なれば, まった く同 じゲノムの配列 を持っ人 は,一卵性双生児以外 にはまず あ り得 ないで しょうか ら, もし,全国民 の遺伝情報を国家が デー タベース化 してお くな らば,犯行現場 の髪 の毛一本 か らで も,犯人を特定でき,社会 の安全 を大 いに改善 した り,犯罪 の抑止効 果 が期待で きます。 また,例えば特定の遺伝病 を持 っている人 が行 うと危険 な業務か ら遠 ざけることで,起 こり得 る事故 なども防 げるか もしれ ません。 もっと積極 的 に, DNAか ら適職 を探す ことも行われ るか もしれません。 9 9 8 年1 2 月 に国民 の遺伝子情報 をデータベース化す る法律 海外 で は, アイス ラン ドで,1 が成立 してお り,民間企業 のデコー ド社が この情報 を管理 しています。 中国で も,犯罪肴 の遺伝子情報 をデー タベースに しよ うと しています。米国で も多 くの州で,性犯罪者 につ い七は,遺伝子 データベースの作成が決 ま りま した。 また,遺体か ら採取 した DNAを使 っ て,過去 の菟罪 を晴 らした事例 もあ ります。 個人 の DNA情報が積極的に利用 され るのが当然 とされ る社会 にな った場合,一方で は - 71 効率 の上昇が期待 で き, また犯罪 や危険の回避等 に も役立 っ と思 われ ます。 しか し他方, 遺伝子 によ る差別 はよ り徹底 した形 で行 われ るか もしれ ません 。 遺伝子別 に治療 を行 う 「テー ラーメイ ド医療」 の研究が進んでいますが,深刻 なのは,遺伝子が決定的な影響を及 ぼ し, かつ,現時点で は有効 な治療法 の見っか っていない病気 の問題 です。例 えば 「ハ ン チ ン トン舞踏病」 の患者 は多 く, 中年以降 になってか ら発症 し,有効 な治療手段 はあ りま せん。「 - ンチ ン トン舞踏病」 の遺伝子 を持 っているかどうか,出生時 に検査すべ きなのか, すべ きでないのか,本人 に知 らせ るべ きか,知 らせ るべ きでないのか,倫理的な問題が山 積 しています。 血液型」 も遺伝子で決 まっている事柄 ですが, これ も悪 もっと一般的な事柄でい うと,「 用 された苦 い歴史 を持 っています ( 松田 [ 1 9 9 1 ] ) 。戦前 には軍隊で兵隊を差別す るのに使 われた ことがあ るのです。A型 や 0型 と比べて,B型や AB型が劣 っている, とい うので す。社会心理学者が中心 とな って,血液型性格診断 に反対す る運動 を起 こして いるの も, 根拠 のない ことではないのです。 遺伝子 の解析が容易 にな るにつれ,遺伝子使 った ビジネスはます ます盛ん にな るで しょ 0 0 %近 い確率で特定で きるそ うで,多数 の う。既 に親子鑑定 について は,遺伝子 を使 って1 企業 が参入 しています。娘 と名乗 る女性 との親子鑑定 のために, イ ブ ・モ ンクン氏 の遺体 か らDNAが採取 された ことも覚えてい らっしゃる方 もお られ るで しょう。 しか し,倫理 上 の問題 も山積 して います。遺伝情報が誰 の ものなのか。売買 して よい ものなのか。 その 本人 の ものなのか, それ とも解析 した医師や研究者 の ものなのか。 ジ ョン ・ムーアとい う 人 が, カ リフォルニア大学 を相手 どって,解析 された自分 の遺伝子 の権利 を訴 え る裁判 を 起 こしま したが, カ リフォルニア最高裁判所 は,その訴 えを退 けま した。判決理 由は, 内 臓 を切除 した時点 でその細胞 は捨てた もの とみなされ,かつ,細胞 は財産ではな く, また, 医療研 究 を進 め る経済 的 なイ ンセ ンテ ィブが失われ る, とい うものです ( Bo yl e[ 1 9 9 6 ] pp. 2 2 2 4. ) 。 1 9 9 7 年 にユネス コは,遺伝子 を 「 人類全体の遺産」である し,単 な る研究 よ りも人権 を 重視すべ きだ と宣言 しま した。 ク リン トン大統領 も在職当時 に,遺伝子差別 に反対す る声 明を出 しています。 が,生命保 険会社 は,加入の際に,加入者だ けが知 っている不利 な遺 伝情報 を保険会社 に告知 すべ きだ と しています し, ビジネスの側 でそ うした倫理 に従 うの か どうか,楽観 を許 さない状況 です。 二点 目は,遺伝子 の操作が一般的 にな った場合 に, どのよ うな社会構造が出現 す るのか とい う問題です。 この講演 の前 に,友人 ・知人合わせて数十人 に対 して, もし遺伝子 の機能が近 い将来 に 解明 されて,遺伝子操作 によ って生 まれて くる子供 の性質 を操作 で きるよ うにな った とし た ら, あなたは操作 を行 いますか ?もし操作すると した ら, どん な操作 を行 いますか ?行 わない と した ら, それはなぜですか ?との質問を電子 メールで送 ってみま した。本来 な ら ば,無作為抽 出でサ ンプルを抽 出 して大規模 な社会調査 を行 いたい ところですが,一つは 予算 が ないの と, もう一つ は 「セ ンシテ ィブな質問」 とされ る可能性 もあ るので, まず は 友人 ・知人 を利用 したのです。 もちろん これは,無作為抽出で もな く, サ ンプル も小 さい ので,統計的な検証 に耐 え得 るよ うなデータではあ りません。 が,示唆す るところはあ り ます。 - 8- 予想 されて いた ところですが,多か った答 え は,遺伝子操作 は行 わない, それ は恐 ろ し いか ら, あ るいは神 の領分 だか ら, とい うものです。 この答 えが多数派 な らば, た とえ ポ ス ト・ゲ ノム社会 にな って も, とりたてて変 わ った ことは起 きないよ うに も思 います。 し か し現在世代 の多数 が このよ うな考 えであ るか らと言 って,将来世代 も遺伝子操作 を行 わ ない とい う結論 は出せ ません。 こうした 「 漠然 と した不安」 は, 時代 の変化 と同様 に うつ ろいやす い ものだか らです。 ドイツの 「 遺伝子 テクノロジー」委員会 メ ンバ ーであ ったフ ァ ン ・デ ン ・デー レも,「モ ラル は変化 し得 る。新 しいテクノ ジー とい う背景 か らみれば,既 Vande nDae l e[ 1 9 8 5:2 0 5 ] ) 。 存 のモ ラル は時代遅れだ」 と述べています ( ヒ ト・クロー ン技術 に関す る議論 は参考 にな ります。 ヒ ト・クロー ン技術 に反対す る論 拠 と して は,例 えば-ーバ ーマス等 による 「 遺伝子 の奴隷化」説,す なわち, ヒ ト・クロー ンと して生 まれて きた人 はどのよ うな ことを行 い得 るかを他人 が決定 して い ることにな り 不適切 だ とい う説 や, ヨナス等 による 「 知 らない ことの権利」説, す なわ ち,人生 の発展 過程 を知 って しま うと, 自分 の人生 を 「 未知」 と感 じられず,希望 を持 って歴史 を作 って 2 0 01 ] )。 しか しこの二つ とも, い くことがで きな くなる, とい った説が代表的です ( 村松 [ 論 理 的 に完全 に納得 し得 る もので はあ りません。人 間の 自由を束縛 す るの は,遺伝子 ばか りで はないか らです。 「 遺伝情 われわれの世代 の人文 ・社会学者 に大 きな影響力 を持 っ ミシェル ・フーコー も 「 報 の誤 り」 とい う特殊 な変異 によ った偶発性 によ って こそ,生命 は人 間 とい うけ っしてお のれの場 に落 ちっ けないよ うな生態 に到達す る。 それ は 「さまよ う」 べ き生体 で あ り,究 極 的 には 「 誤 り」 に運命づ け られている。 そ して概念 とは,生命 みずか らが この偶然 に与 え る答 えで あ るとい うことを認 めるとす るな らば,誤 りとは人 間 の思考 と歴史 をかたちづ くる ものの根元 だ と考えなければな らない」 と述べ (ミシェル ・フー コー思考集成 第七巻 1 7. ),遺伝子 の偶発性 の役割 を強調 して いますが, しか しここか らも, だか 知 ・身体 』p. ら遺伝子 を操作 す ることが絶対悪 との結論 には到 りません (デ ィヴ ィズは, もっと衝撃 的 な例 と して,耳 の不 自由な両親 が,子供 を遺伝 的 に 「 聾者」 にす ることが許 され るか とい Choos i ngf orDi s abi l i t y) で提起 して いま う問題 をその著書第三章 「 不 自由への選択 」( す。耳 の聞 こえ ることが アプ リオ リに耳 の聞 こえない ことよ り優 れて い るのか ど うか, と い う問題提起 です)。 もちろん私 は, だか らどん どん遺伝子操作 を しろ, と言 って い るので はあ りません。 現 在 のわれわれの倫理 が,将来世代 には大 き く変 わ って しま う可能性 が あ るとい うことを申 し述 べ た までです。歴史 的 に も,人間が何 をよい もの と し,何 をい けない もの と して きた のか,大 き く変化 してい るわ けですか ら。 ですか ら,多 くの人 が子供 の遺伝子操作 を気軽 に行 うよ うにな るとい う想定 は,決 して絵空事 で はない と思 うのです。 午後 の講演 で小 田先生 がお話 にな ると思 いますが,現在 の 日本 で は少子化現象 が加速 し て いて,一人 の女性 が一生 に生 む子供 の数 はどん どん少 な くな って います。 この現象 が今 後 も続 いて い くとすれば,少 な く生 む子供 をていね いに育 て よ う, よい資質 の子供であれ ばなおよい と考 え る傾向は強 まるのではないで しょうか。 リス クが あ るか ら操作 は しない, との意見 もあ りま した。確 か に,遺伝子 だ けが解 明 さ れ て も, それ以外 の 自然環境要因や,社会環境要 因 を完全 に コ ン トロールす ることは不可 能 ですか ら,子供 に とって よかれ と思 った遺伝子操作 が,逆 に不利 に働 いて しま うこと も -9- ある。 これ もその通 りなのですが, リスクが多 い として も,論理的 には,だか ら遺伝子操 作 は しない, とい う結論 にはいた らないよ うに思 います。操作 しない ことが,親 としての 選択責任 の回避 には役立っ として も, リスクを最小化す るとは限 らないわ けですか ら。 また,遺伝子 の発現 のメカニズムが完全 には分か らな くて も, さきほどシル ヴ ァ-先生 がお話 しされたよ うに,例 えば遺伝子 の こうした組 み合 わせがあ ると数学的な能力 の高 い 子供が生 まれてい ると統計 的なデータで示 され ると, それが利用 され る可能性 はあるわけ です。 とい うわけで, どれ くらい先 の ことか分か りませんが,技術的な問題 が解決 され,倫理 的な問題 に合意 がなされて, もしも遺伝子操作が一般的 に行われ るよ うにな った場合, ど のよ うな社会構造 が考 え られ るで しょうか。大 き く分 ければ,二っ可能性が あると思 いま す。 一つ は,人間の画一化 が進 む可能性です。つま り,優 れているとされ る資質 を,多 くの 親が子供 に遺伝子 レベルで与 え ることによ り,外見や能力,体力 などの点で,能力 の嵩上 げがなされ る可能性 です。 もう一つ は,社会が二極分化す る可能性 です。つ ま り,富裕 な 層,恵 まれた層が子供 を遺伝子 で強化す ることでます ます豊か とな り, そ うでない人 々 と の格差 を広 げてい く, とい う可能性です。 もし遺伝子操作が十分安価 に行われ るよ うにな れば前者 の可能性 が,高価 なままな らば後者 の可能性が高 いと思われ ます。後者 の場合 に は,経済的な格差が再生産 され るだけでな く,寿命 ・健康状態 の格差 まで含 めて,拡大す る恐れがあ ります。遺伝子操作 などな くとも,現代 の 日本 は,資産 や教育 の面 において二 極分化が進みつつあ るとい う説 さえあ ります。 ナチス ドイツのよ うな,国家権力 によ って 強制 された優生学 に対 して,個人が 自由意思 に従 って遺伝子操作 を選択す ることが,結果 的 に遺伝的によい子供 を増 や し, そ うでない子供 の断種 につなが ってゆ くことを,新 しい 優生学 と呼ぶ人 もいます。 ではどち らの可能性が大 きいので しょうか。 新 しい技術が導入 の当初か ら安価であることはまず考え られませんか ら,初期段階では, 後者 の可能性 の方が大 きい と思 われます。 そ して値段が十分 に安 くな った と して も, その 時 には既 に何世代 も経 っていて,修復で きないほど格差が広が っているか もしれません。 ハ リスは,遺伝子操作 による人類 の強化 によって 「 新 しい種 」 ( Ne w Br e e d) が作 られ るので はないか と しています。 その利点 と して,公衆衛生の増進,健康関連 の費用 の削減, 病気 を考慮せず に雇用者が人 を雇え る,長期 に渡 り高額 の教育訓練投資が必要 な職業 に就 かせ るのに適す る,職業病 の リスクが小 さい, などを挙 げる一方, その問題点 と して,汚 染 を緊急 に除去 しよ うとか,職場 の環境 をす ぐに改善 しよ うとい うイ ンセ ンテ ィブが働 き に くくなる,「 新 しい種」 の方 が就職 に有利だ と他 の人か ら見なされ る,「 新 しい種」 の内 部 で婚姻が行 われ るであろ うため選択が難 しくな った り男女比 の問題が ( 操作 によって) 生 じる,などと論 じています ( Ha r r i s[ 1 9 9 8 ]pp. 2 2 2 2 3 0 ) 。 メールマ ンとボ トキ ンとい う学者 は,市場原理 に従 ってお金持 ちだ けが遺伝子的な強化 を得 られ るよ りは,「 遺伝子 くじ」( Ge ne t i cLot t e r y) を導入す る方が優れた方法 であ ると Me hl man andBo t ki n[ 1 9 9 8 ],pp. 1 2 5 1 2 8 ) 。 つ ま り くじ引 きで,優 れ 提唱 しています ( た遺伝子 を今後生 まれ る こど もに与えよ う, とい うわけです。 いわば除去 されて しま う偶 然性 を, くじによ って もう一度人工的 につ くり出す と言 えばよいで しょうか。貧 しい人が -1 0- 参加 で きるよ う, この くじは販売 され るのでな く,費用 は税金で運営 され ます。市場原理 で は階級分裂 が激 しくな りやす いの に対 し, この方法で は,万人 が平等 に遺伝子 的な強化 を受 ける可能性 を持っか ら 「 遺伝子 くじ」 の方が優 れてい るので はないか, とい うのです。 遺伝子 で強化 された階層 とそ うで ない階層 との格差 が も し広 が ると して, その対立 を回 避 す るには, どのよ うな方法があるで しょうか。最 も楽観的な答 え は,前者 が ノーブレス ・ オ ブ リッジを 自発 的 に果 たす, とい った ものです。 ノーブ レス ・オ ブ リッジとい うのは, 王族 ・貴族 の よ うに優 れた出自を持 った人 間 は, それ に見合 うだ けの義務 を社会 に対 して 果 たさな くて はな らない, とい う考 え方 です。 しか し,王様 の家 に生 まれ た子供 が必ず し もその運命 を幸 せ に感 じるとは限 らないよ うに, その子供 に とってみれ ば, それ こそなぜ 自分 の 自由が束縛 され るのか, と腹 を立て るか もしれません。 あ るいは,遺伝子強化 によっ て得 られ るで あろ う利益 に対 して課税す るとい った方法 も理論 的 には考 え られ ます。 しか しこれ も,利益 を経済的 に測定 し得 るのか ど うか,親がその税 を払 うとす ると結局 は財産 相続 の一種 か もしれません。 あるいは,暴力を起 こ しやす い遺伝子 が見 つか った と して, それを除去 す ることに奨励金 を出す ことにすれば,激 しい対立 は回避 で きるか もしれ ませ んが, これ も万能 の解決策 にはもちろん な りません。 とい うわ けで, す ぐに うまい方法 は 見っか りそ うにあ りません。 「ガ タカ」 とい う,遺伝子操作 を主題 と して扱 った映画が あ ります。 それな りに評判 に な った映画 なので, ご覧 にな った方 もお られ るで しょう。 なぜ唐突 に映画 の話 を出すのか, いぶか られ る向 きもあ るか もしれませんが,社会学等 で は,映画 のよ うな大衆文化作品を, 社会 の一般 の人 々の考 え方 を映す一種 の鏡 と して利用す る ことはよ くあ るので,決 してふ ざ けて い るわ けで はあ りません。 この 「ガタカ」 とい う映画で は,主人公 は遺伝子操作 を されず に生 まれ,弟 は遺伝子 を操作 されて生 まれ ます。主人公 は遺伝子 が よ くない とされ て,希望 して いた宇宙飛行士 になれず にいるのですが, あ る時,優 れ た遺伝子 を持 ちなが ら交通事故 にあ った男 と契約 して,彼 の血液 を使 って遺伝子 を偽 って ガ タカ とい う宇宙開 発会社 をだ ま し,厳 しい訓練 を乗 り越えて,最後 には宇宙へ 出掛 けて ゆ くとい う, いか に もアメ リカ好 みの- ッピー ・エ ン ドの映画です。 しか し実 際 には, このよ うな映画 の結末 ほど,楽観 的 にはなれ ません。 む しろ格差 は拡 大 し,新 たな社会問題が発生す る可能性が大 きいので はないか とい うのが今 日のお話です。 ご静聴 あ りが とうございま した。 参考文献 天笠啓祐 +三浦英明 『 DNA鑑定 :科学の名による菟罪』緑風出版,1 9 9 6 年。 Be nde r , G andT, Dr uc ke r yH Cul t ur eo nt heBr i nk:I de o l ogl e SOfTe c hno l ogy一 一BayPr e s s ,1 9 9 4. 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