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クラウド・コンピューティングの技術

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クラウド・コンピューティングの技術
コンピュータ技術概論 第 14 回(2015/1/20)
クラウド・コンピューティングの技術
コンピュータソフトウェアは、ハードウェア利 用 効 率 を最 大 化 するために、様 々なアイデアが提 案 されてきた。例 えば、 OS に搭 載 され、ハ
ードウェアの仮 想 化 、抽 象 化 、インターフェースの向 上 が進 められてきた。ここで用 いられる仮 想 化 手 法 は、ネットワーク・コンピューティ
ングにも活 用 され、集 中 処 理 、分 散 処 理 の形 で利 用 されている。これらはインターネットインフラにおいても応 用 され、クラウド・コンピュ
ーティングという新 しいコンピュータ活 用 方 法 へと発 展 した。
クラウド以前、または類似するコンピューティング
仮 想 化 は、複 数 のコンピュー タを1台 のハードウェアとみなす、または1台 のコンピュータを複 数 台 とみなすことでハードウ
ェア資 源 を柔 軟 に利 用 するアイデアである。さらに、仮 想 化 によってユーザからみてハードウェア資 源 が抽 象 化 される。こ
れらはネットワークで接 続 されたコンピューティングでも活 用 され、様 々な形 へ展 開 している。
スーパーコンピュータ
スーパーコンピュータとは、大 量 で複 雑 な計 算 を専 門 とする高 速 処 理 を行 うコンピュータである。計 算 の例 としては、
気 象 データのシミュレーション、核 爆 発 のシミュレーション、 DNA の塩 基 配 列 データの分 析 などがある。
ス ー パ ー コ ン ピ ュ ー タ は 、 一 般 的 な パ ソ コ ン と 同 様 の 機 器 ( CP U が 複 数 個 設 置 ) が ノ ー ド と し て 複 数 台 設 置 さ れ 、
それらが高 速 ネットワークで接 続 される形 になっている。ここで用 いられる各 ノードは、その時 代 において最 高 の性 能 が
求 め ら れ る 1。 こ の ノ ー ド 間 で 並 列 処 理 が 行 わ れ 、 処 理 の か か る 計 算 の 負 荷 を 分 散 し 、 全 体 と し て の 高 速 化 を 実 現
する。
グリッド・コンピューティング
グリッド・コンピューティングは、インターネット上 にあるコンピュータ
を利 用 し、大 量 の情 報 処 理 を分 散 するアイデアである。インタ
ーネットはスパコンで用 いられているほどの高 速 ネットワークでは
なく、各 コンピュータ資 源 も高 速 ではないが、数 によってスパコン
に迫 る処 理 能 力 を得 ることができる。インターネット上 にあるコン
ピ ュ ー タ 資 源 の 集 合 を コ ン ピ ュ ー タ ・ ク ラ ス タ ー と 呼 び、 こ れ ら を 1
台 のコンピュータとみなして、処 理 を行 う。
ま た 、 一 般 ユ ー ザ の P C を 利 用 し た ボ ラ ン テ ィア ・ コ ン ピ ュ ー テ ィン グ と 呼 ば れ る 分 散 処 理 も あ る 。 2 0 1 2 年 イ ン タ ー ネ ッ
ト 接 続 ユ ー ザ 数 は 、 2 3 億 人 と 報 告 さ れ て い る ( C i s c o V i s u a l N e two r k i n g I n d e x よ り ) 。 イ ン タ ー ネ ッ ト 上 の
PC には、休 止 状 態 にあるものが存 在 し、世 界 中 のコンピュータに処 理 を分 散 して計 算 に利 用 することで、グリッドの
よ う な 処 理 を 実 現 で き る 。 例 を あ げ る と W i n n y や T o r r e n t は 、 ス ト レ ー ジと し て の ク ラ スタ ー を 形 成 し て い る 。 ま た 、
地 球 外 生 命 体 を 探 索 す る S E T I @ H o m e と い う プ ロ ジェ ク ト も あ っ た 。
このような、ネットワークを利 用 した分 散 コンピューティング、並 列 コンピューティングのアイデアが、クラウド・コンピューティン
グへとつながることになった。
1例えば、中国の天河は、コア数 312 万、処理能力は 33.86PFLOPS(ペタ・フロップ):フロップは1秒間に処理できる浮動小数点計算数。
14-1
クラウド・コンピューティング
クラウドを実現する技術要素
仮想化技術
仮 想 化 とは、コンピュータシステムを構 成 する要 素 を実 際 の物 理 的 な状 態 に関 らず 、利 用 形 態 として分 割 ・統 合
す る 手 法 で あ る 。 た と え ば 、 別 の 場 所 に あ る 複 数 の ハ ー ド デ ィ スク 統 合 し 、 1 つ の ス ト レ ー ジに 見 せ か け て 利 用 す る 、 ま た
は単 一 のサーバを複 数 のサーバとして利 用 するなどがある 。
図
仮想化の例
この技 術 を利 用 することで、ユーザが求 める機 能 に応 じた処 理 能 力 を提 供 する、データを分 散 して格 納 するなどの
効 果 が得 られる。なお、仮 想 化 システムの端 末 には、ネットブックのように最 低 限 の機 能 を持 ったコンピュータが利 用 さ
れることが多 い。このような端 末 をシンクライアントと呼 ぶ。
データセンター
クラウド・コンピューティングでは、高 性 能 コンピュータではなく、一 般 的 で安 価 な PC が大 量 に利 用 される。これをデー
タセンターという場 所 に数 多 く格 納 し、並 列 処 理 、分 散 処 理 を行 う。
データセンターでは、コンピュータハードウェアに不 具 合 が発 生 することを前 提 とし、ロードバランサー(負 荷 分 散 装 置 )
に よ っ て 、 故 障 時 に 代 替 マ シ ン を 準 備 し 、 R A I D ( R e d u n d a n t A r r a y s o f I n e x p e n s i ve D i s k s ) に よ っ て スト レ ー
ジ 故 障 時 の バ ッ ク ア ッ プ を 可 能 と し て い る 。 こ の よ う な 技 術 に よ っ て 高 い 可 用 性 ( H i g h A va i l a b i l i ty = 冗 長 性 ) を
確 保 する。
図
ロードバランサと RAID による冗長化
クラウドの利点
クラウド・コンピューティングのメリットは、「柔 軟 な拡 張 性 (スケーラビリティ)」、高 度 な「資 源 (コンピュータリソース)
の 抽 象 化 」 と 言 わ れ る 。 「 柔 軟 な 拡 張 性 」 と は 、 急 激 な ト ラ ン ザ ク シ ョ ン 2の 増 加 に 、 迅 速 か つ 柔 軟 に 対 応 で き る コ ン ピ
ュータインフラをいう。「資 源 の抽 象 化 」とは、実 際 の処 理 がどのコンピュータで行 われているのか、ユーザ側 からは知 るこ
とのできない(知 る必 要 のない)状 態 である。
拡 張 性 に つ い て は 、 ユ ー ザ 側 が 必 要 と す る ス ト レ ー ジ 量 、 処 理 す べ き タ スク 量 に 合 わ せ て 機 器 を 拡 張 す る 必 要 が な く
なる。タスクの処 理 が膨 大 になったとしても、クラウド上 にあるコンピュータ数 は、ロードバランサによって自 動 で増 やされる。
抽 象 化 では、クラウド上 の資 源 をエンドユーザ側 に存 在 するように見 せかけることで、ユーザ側 にクラウドを利 用 するスキ
ルを要 求 しない。クラウド・コンピューティングでは、エンドユーザが利 用 するストレージ(記 憶 装 置 )を複 数 のサーバで
分 散 保 持 すため、ハードウェアの物 理 的 制 限 はない。
2 情報処理における命令・作業・結果出力など、一連の作業をまとめた「流れ」の単位
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コンピュータ技術概論 第 14 回(2015/1/20)
従 来 は、処 理 能 力 が不 足 した際 にサーバコンピュータの性 能 向 上 (スケールアップ)をするか、サーバ台 数 を増 加
させることでシステム性 能 の向 上 を図 る(スケールアウト)の手 法 がとられていた。これがクラウド・コンピューティングでは、
データセンターで自 動 的 に行 ってくれる。
スケールアウトを行 うと、複 数 台 を並 列 に稼 働 させて処 理 を行 うことができる。例 えば Google が提 供 するメール検
索 では、ローカルで利 用 される PC 単 体 では実 現 できない速 度 で実 行 されている。これは分 散 処 理 のおかげである。
データセンター建 設 が進 むことで、格 納 されるサーバが適 切 に管 理 されるようになり、クラウドサービスが低 価 格 で利
用 可 能 となった。そのうえ、機 器 はクラウド業 者 が管 理 ・運 営 (ソフトウェアのアップデート作 業 もクラウド事 業 者 側 が
実 施 )するために初 期 投 資 ・メンテナンスのコストを大 幅 に削 減 できる。
クラウド上に分散されたCPUが分割されたタスクを処
理する。処理が膨大であっても、分散処理を担うコン
ピュータ数を増加させれば対応できる。
クラウド上に分散されたストレージに分散してデータ
が保持される。
必要に応じ、ユーザに認識させず、利用ストレージ数
を増加させ、仮想ストレージを増強する。
結果はまとめられ、ユーザに
返される。
タスク
(仕事)
タスクは分割され、クラウド上
のコンピュータに分散される。
仮想的なストレージ
図
スケーラビリティと抽象化の実現
クラウドの利用形態による分類
クラウド・コンピューティングにはいくつかのタイプが存 在 する。その利 用 方 法 により下 記 のような分 類 がされている。
SaaS(Software as a Service)
クラウドで公 開 されているアプリケーションを利 用 する形 態 である。ソ
フトウェアを購 入 するのではなくサービスとして利 用 する。よく利 用 さ
れるものとして、メールアプリケーション、文 書 作 成 アプリケーションが
ある。過 去 にはインストールが必 要 であった地 図 閲 覧 も現 在 では一
般 的 なクラウドサービスとなった。SaaS としては、Google のサービス
が有 名 である。
PaaS(Platform as a Service)
ソフトウェア開 発 を行 う基 盤 としてクラウドを利 用 する形 態 である。ア
プ リケーションは 利 用 者 が開 発 ・ 運 用 し、ハ ードウ ェア や OS ・ 開 発
環 境 をサービスとして利 用 する。利 用 者 は、自 前 でハードウェア環
境 を準 備 することなく、仮 想 化 技 術 によって、必 要 なスペックを柔
軟 に 利 用 す る こ と が で き る 。 PaaS と し て は 、 Amazon Web
Service やセールスフォースが有 名 である。
HaaS(IaaS) (Hardware as a Service(Infrastructure as a
Service))
ハードウェアをサービスとして仮 想 的 に利 用 する形 態 である。利 用
者 は、仮 想 機 器 に OS や開 発 環 境 を独 自 に導 入 する。クラウド
として利 用 するのはハードウェア環 境 のみであり、その他 の運 用 ・管
理 は利 用 者 側 で行 う。HaaS としては、Amazon S3,EC2 が有
名 である。
14-3
クラウド・コンピューティング
図 に 、 ク ラ ウ ド サ ー ビ ス の 比 較 を す る 。 利 用 者 の 目 的 ( 必 要 な 自 由 度 ) に 従 っ て 各 サ ー ビ スが 選 択 さ れ る 。
図
SaaS、PaaS、HaaS の比較
著名なクラウドサービス
Google Apps(SaaS)& Google App Engine(PaaS)
米 G o o g l e の ク ラ ウ ド サ ー ビ ス と し て 、 G o o g l e A p p s が あ る 。 G o o g l e の サ ー ビ ス で は 、 メ ー ラ ー や ス ケ ジュ ー ラ な ど が
有 名 で あ る 。 こ れ ら は A n d r o i d ス マ ー ト フ ォ ン の 普 及 に 伴 い 、 個 人 デ ー タ 管 理 の スタ ン ダ ー ド と な っ て い る 。
ま た 、 G o o g l e の P a a S と し て G o o g l e A p p E n g i n e が 提 供 さ れ て い る 。 G o o g l e A p p E n g i n e で は 、 P yt h o n
や Java などの開 発 言 語 を用 いてアプリケーションを開 発 することで、 Google が保 有 するインフラ上 で Web アプリが
動 作 す る よ う 自 動 で 処 理 が 行 わ れ る 。 G o o g l e A p p E n g i n e は 、 ユ ー ザ認 証 、 メ ー ル の 送 受 信 、 負 荷 分 散 な ど 、
Google の提 供 するサービスと容 易 に統 合 できるようにもなっている。
Amazon EC2(Elastic Compute Cloud):IaaS
オ ン ラ イ ン シ ョ ッ ピ ン グ サ イ ト と し て 有 名 な 米 A m a z o n は 、 2 0 0 6 年 よ り 仮 想 マ シ ン サ ー ビ スと し て 「 E C 2 」 を 提 供 し て い
る。従 量 制 で料 金 を支 払 えば、 EC2 が提 供 する仮 想 マシンを利 用 できるようになる。このサーバは、一 般 的 なサーバ
( W e b サ ー バ 、 計 算 用 サ ー バ な ど ) と 同 等 に 扱 う こ と が で き る 。 例 え ば 、 企 業 が ネ ッ ト サ ー ビ スを 構 築 し た 際 に 、 E C2
でサーバを構 築 しておけば、ビジネス規 模 の拡 張 に伴 う増 加 マシン数 を申 請 するだけで、サーバ拡 張 を低 コストで実
現 できる。
A m a z o n に は 、 E C 2 以 外 に も 仮 想 ス ト レ ー ジ( A m a z o n S 3 ( S i m p l e S to r a g e S e r vi c e ) ) が あ る 。 こ れ ら
のサービスを利 用 することで、企 業 は自 社 サーバを導 入 することなく、運 用 ・管 理 コストから解 放 され、情 報 システム開
発 のみに集 中 できる。
Windows Azure:PaaS
Windows Azure は、マイクロソフトが提 供 するクラウド・コンピューティング用 のプラットフォームである。クラウド環 境
に 特 化 し た O S 「 W i n d o w s A z u r e 」 を ベ ー ス に 、 ア プ リ ケ ー シ ョ ン 群 「 A z u r e S e r v i c e s P l a tf o r m 」 を 発 表 し て い る 。
Windows Azure は、データセンターで動 作 するサーバ用 OS の役 割 をしており、分 散 データ処 理 や負 荷 分 散 に特
化 し て い る 。 A z u r e S e r v i c e s P l a t f o r m は 、 A z u r e 上 で 動 く ア プ リ ケ ー シ ョ ン で あ り 、 リ レ ー シ ョ ナ ル デ ー タ ベ ー スを 提
供 す る 「 S Q L S e r v i c e s 」 、 C R M ア プ リ ケ ー シ ョ ン を 提 供 す る 「 D yn a m i c CR M 」 な ど が 含 ま れ る 。
M i c r o s o f t が 提 供 す る P a a S 環 境 で あ る た め 、 W i n d o w s ベ ー スの 開 発 環 境 ( . N e t F r a m e wo r k ) を 利 用 し
て き た 企 業 で は 、 情 報 シ ス テ ム の ス ム ー ス な 移 行 が 実 現 で き る 。 さ ら に 、 A z u r e と 既 存 の W i n d o ws と 親 和 性 が 高 く 、
クラウド資 源 と自 社 所 有 型 (オンプレミス)のシステムを平 行 利 用 できる。
Salesforce : SaaS、PaaS
1 9 9 9 年 に ソ フ ト ウ ェ ア サ ー ビ ス 事 業 と し て 設 立 さ れ た S a l e s f o r c e で は 、 S a a S と し て ビ ジネ スア プ リ ケ ー シ ョ ン を 多 数
提 供 している。具 体 的 には、売 上 予 測 、商 談 管 理 、マーケティング支 援 、コールセンター管 理 、代 理 店 管 理 、分 析
ツ ー ル の 提 供 な ど が あ る 。 こ れ ら を S a l e s f o r c e CR M と し て 、 ビ ジ ネ スユ ー スに 特 化 し た S a a S 提 供 を 行 っ て い る 。 日
本 国 内 で は、 PaaS や IaaS の普 及 よ り SaaS が 先 行 し て い るた め か、 Salesforce の利 用 が 目 立 つ 。 さ ら に
S a l e s f o r c e で は 、 P a a S 環 境 と し て の 「 F o r c e . c o m 」 も 提 供 さ れ て お り 、 企 業 ご と に カ スタ マ イ ズ 可 能 な ア プ リ ケ ー シ
ョン開 発 も可 能 である。
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コンピュータ技術概論 第 14 回(2015/1/20)
エンドユーザ向けクラウドサービス
個 人 向 けのサービスにおいても、クラウドの技 術 は浸 透 している。ネットワーク接 続 が前 提 となるが、手 元 のハードウェア
資 源 を最 小 化 できるため、スマートフォンのほとんどのアプリケーションでクラウドが利 用 されている。 サービスには無 料 ・有
料 が あ る が 、 個 人 利 用 の 範 囲 で あ れ ば 無 料 の も の で 大 抵 の 作 業 が 行 え る 。 デ ス ク ト ッ プ 、 ノ ー ト 、 タ ブ レ ッ ト 、 スマ ー ト フ ォ
ンでシームレスな作 業 環 境 が実 現 できるため、クラウドの利 用 は常 識 となっている。
S N S も 大 量 の デ ー タ を 利 用 す る た め 、 F a c e b o o k 、 T wi t te r な ど は ク ラ ウ ド 技 術 を 用 い て 、 デ ー タ 保 存 、 ユ ー ザ の リ ン
ク管 理 などが行 われている。

ストレージサービス:Google Drive、DropBox、BOX、OneDrive、iCloud…

メモサービス:EverNote、OneNote、KEEP

文書作成アプリ統合環境:Google Documents、Office365

その他:Google カレンダー(スケジュール)、G-Mail(メール)…
クラウド利用による効果・リスク
クラウド活 用 によって、世 界 規 模 の分 散 処 理 が可 能 となるが、ここで処 理 ・保 存 に利 用 されるデータは、世 界 中 のデ
ータセンターに断 片 的 に分 散 する。そのため、利 用 者 はシステムの具 体 的 な状 態 をイメージできず、データの保 存 先 が
不 明 で、不 足 の事 態 が発 生 した時 に対 応 できない。
クラウドとカントリーリスク
クラウド・コンピューティングは、国 境 を超 えた利 用 がほぼ前 提 となる。日 本 国 内 データセンター建 設 ・運 用 も進 んで
いるが、主 力 クラウド事 業 者 は海 外 企 業 がほとんどであり、現 状 で国 内 完 結 できる環 境 は整 っていない。国 外 データ
センターを利 用 している場 合 に、問 題 となる国 外 法 規 がいく つか存 在 する。
米国愛国者法(Patriot Act)
テロリズムに関 して通 信 傍 受 を行 う権 限 、
クラウドでは、海外のデータセンターに保管
データが分散される可能性がある。
基本的にデータの保存場所はユーザに知ら
されない。
コンピュータ犯 罪 について、通 信 傍 受 する
権 限 、一 定 の場 合 においてメールを取 得
する権 限 など、テロリズムに対 する捜 査 に
おいて、捜 査 機 関 ・捜 査 官 の権 限 を大
幅 に強 化 し、かつ裁 判 所 の命 令 が不 要
とする法 律 である。
国内のデータセンターは、規制により建設コスト
がかかり、サービス利用料も高くなる。
この法 案 に基 づく事 例 として、 2009 年 4
月 、 C o r e I P N e t wo r k L L C の 捜 査 が
規制緩和
が必要
F BI に よ っ て 行 わ れ 、 2 フ ロ ア 分 の サ ー バ が
【懸念事項】
• 米国パトリオット法によるデータ差し押さえ
• データ漏洩に対する法的措置は、保管されて
いる国に従う可能性
• 建設場所が安全基準を満たしているか
押 収 、利 用 していた約 50 社 のサービスが
停 止 する事 態 があった。
個人情報保護
営 業 活 動 に 利 用 さ れ る 個 人 情 報 3( 顧 客 情 報 ・ 従 業 員 情 報 ) は 、 デ ー タ ベ ー ス に よ っ て 管 理 さ れ る 。 こ れ ら は 、
効 率 的 な活 用 のため、ネットワーク接 続 されたデータベースとして利 用 される。これが社 内 システムで完 結 している場
合 は、閉 じた領 域 での利 用 となるが、クラウドサービスを利 用 した場 合 、第 三 者 に情 報 が漏 洩 するリスクが高 まる。
ここで、個 人 情 報 保 護 が達 成 できなかった場 合 、情 報 を利 用 していた事 業 者 にその責 任 が及 ぶ。
個 人 情 報 の保 護 については、情 報 を利 用 して営 業 活 動 を実 施 する「個 人 情 報 取 扱 事 業 者 」に保 護 の義 務 が
課 せられる。クラウド・コンピューティングでは、個 人 情 報 がデータセンターに格 納 されるが、クラウド事 業 者 の業 態 によ
3 個人情報の保護に関する法律(第 2 条)では「生存する個人に関する情報であって、当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により
特定の個人を識別することができるもの(他の情報と容易に照合することができ、それにより特定の個人を識別することができることとなるものを含
む。)」と定義されている。
14-5
クラウド・コンピューティング
って、「委 託 」か「第 三 者 提 供 」となり、個 人 情 報 取 扱 業 社 の対 応 に違 いがでる。クラウド事 業 者 は直 接 的 に個
人 情 報 管 理 を業 としていないため、PaaS、HaaS での提 供 であれば個 人 情 報 取 扱 業 者 とならない。
ク ラ ウ ド 事 業 者 は 、 デ ー タ セ ン タ ー に デ ー タ を 格 納 す る サ ー ビ ス ( ホ ス テ ィ ン グ 、 ハ ウ ジ ン グ 4) を 行 う が 、 た だ デ ー タ を 預
かる場 を提 供 する「倉 庫 業 」の類 の運 営 の場 合 、「委 託 」となる。仮 にデータを入 手 しても、データセンターには個 人
情 報 の切 片 が格 納 されており、データが個 人 情 報 であるか識 別 ・照 合 できない状 態 にある。
これに対 し、クラウド事 業 者 が個 人 情 報 であることを認 識 し、情 報 を独 自 に利 用 する場 合 (または閲 覧 の権 限 を
与 えられた場 合 )、「第 三 者 への提 供 」と判 断 され、本 人 の同 意 なくデータをクラウド事 業 者 に提 供 する行 為 は個
人 情 報 保 護 法 違 反 となる。このような場 合 は、従 業 員 や顧 客 と包 括 的 同 意 を得 るか、提 供 後 に個 人 データ提
供 からの除 外 に応 じる旨 を明 示 的 に示 さなくてはならない。
【参考】知的財産とクラウド
クラウド上 で知 的 財 産 侵 害 が行 われた場 合 、利 用 者 が侵 害 行 為 を行 った場 合 の責 任 の所 在 、特 許 侵 害 によって事 業 者 の
クラウドサービス運 営 が停 止 に追 い込 まれた場 合 、など懸 念 材 料 がいくつかある。
著作権とクラウド
インターネットサービスにおける著 作 権 侵 害 としては、複 製 権 または公 衆 送 信 権 の侵 害 がある。クラウド上 の複 製 権 侵 害 の問
題 では、クラウド事 業 者 のサービスにおいて行 われる「侵 害 行 為 の主 体 は誰 か」という問 題 がある。ここでは、サービスを提 供 する
クラウド事 業 者 の「管 理 主 体 性 」「利 益 性 」が要 点 となる。
Google Docume nt では、サーバ利 用 による広 告 収 入 を業 としているため「利 益 性 」はあるが、データ共 有 の場 を提 供 してい
る の み で 、 ユ ー ザ が デ ー タ を 格 納 す る 行 為 に つ い て 中 立 5と 判 断 さ れ る 。 フ ァ イ ル の 性 質 に 関 与 し な い 。 よ っ て 管 理 主 体 性 は な く 、
事 業 者 の責 任 は生 じない。
しかし、YouTube の場 合 は、利 益 性 は当 然 ながら、動 画 を複 製 させ、複 製 物 を不 特 定 多 数 が閲 覧 できる機 能 を提 供 する
という複 製 行 為 (合 法 ・違 法 にかかわらず)をサービスとして提 供 するため、管 理 主 体 性 ありと判 断 される可 能 性 が高 く、複
製 権 の 侵 害 を 行 っ た 利 用 者 だ け で な く 、 サ ー ビ ス 提 供 者 も 侵 害 行 為 の 主 体 と み な さ れ る こ と が あ る 6。
営業秘密の秘密管理性
クラウド利 用 において、利 用 者 側 の端 末 ではソフトウェアの利 用 のみで、プログラム本 体 は雲 の向 こうにある。不 正 競 争 防 止 法
では、ソフトウェアを営 業 秘 密 として保 護 することが可 能 であるが、これは自 社 サーバにソフトウェアを格 納 し、パスワード管 理 行 う
ことで秘 密 管 理 性 を確 立 しなくてはならない。
しかし、クラウドサービス(パブリック・クラウド)を利 用 すると、格 納 情 報 へのアクセスをパスワードで保 護 したところで、第 三 者 であ
るクラウド事 業 者 にサーバ内 データを閲 覧 さ れる可 能 性 を排 除 できない。すると、不 正 競 争 防 止 法 の営 業 秘 密 と成 り得 ない
可 能 性 がある。
管轄の問題
国 際 間 での紛 争 が起 こった場 合 、どの裁 判 所 で裁 判 を実 施 するかという問 題 がある。事 業 者 間 の訴 訟 の場 合 、2社 の契 約
によって規 定 を設 けることができる。自 国 での裁 判 へ誘 導 したほうが、コスト面 など有 利 な点 が多 いため、戦 略 的 に契 約 すべきで
ある。
準拠法
国 際 訴 訟 では、裁 判 管 轄 の問 題 と合 わせて、どの国 の法 律 を適 用 するかを決 めなくてはならない。このような場 で選 択 される
国 の法 律 を準 拠 法 と呼 ぶ。これは、管 轄 と同 様 に契 約 において取 り決 められる事 項 であるが、自 国 法 での実 施 が望 ましい。
第 三 者 が介 在 する場 合 、「法 の適 用 に関 する通 則 法 」という法 律 によって「不 法 行 為 によって生 ずる債 権 の成 立 及 び効 力 は、
加 害 行 為 の結 果 が発 生 した地 の法 による。その地 における結 果 の発 生 が通 常 予 見 することのできない場 合 、加 害 行 為 が行
われた地 の法 による」とされている。著 作 権 侵 害 の場 合 は、ベルヌ条 約 の5条 2項 により、保 護 が要 求 される国 の法 律 を適 用
となる。特 許 権 侵 害 の場 合 、損 害 賠 償 については不 法 行 為 として結 果 発 生 した地 の法 が適 用 、差 止 め請 求 については特
許 権 の登 録 地 の法 律 が適 用 される(不 法 行 為 ではなく権 利 の効 力 の問 題 であるため)。
4 ホスティングはサーバを貸し出すサービス、ハウジングはサーバを預かる場を提供するサービスである。
5 データ格納を促すことも抑制することもない意味で中立とする。
6 この問題については、まねき TV の事件が参考になる。
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