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インダストリー4.0 - この捉えどころのないものの正体は?
インダストリー 4.0 この捉えどころの ないものの正体は? 迫り来るデジタル化による 新しい生産モデルの現状と可能性 2 インダストリー 4.0 - この捉えどころのないものの正体は? 3 インダストリー 4.0 - この捉えどころのないものの正体は? Analytics Industrie 4.0 Megatrends Index 飛躍的に高まる関心 .................................................................................... 4 トレンド分析で明らかになった「マシンツーマシン」への注目 ................................. 8 ロットサイズ1生産の経済性......................................................................... 10 その他のメガトレンド:「ビッグデータ・アナリティクス」と「クラウド」 .................... 11 明日への戦略 ........................................................................................... 14 ビジネスモデルへの影響 ................................................................... 14 新しいチャンス................................................................................ 15 参入障壁 ........................................................................................ 16 標準規格の課題 ........................................................................................ 17 調査方法 ................................................................................................. 19 Industry 4.0 in Japan(日本語版増補) 日本におけるインダストリー4.0 ........................................................ 21 インダストリー4.0への日本企業の対応(提言) .................................... 22 インダストリー4.0におけるサイバーセキュリティ ................................... 25 今後に向けて ........................................................................................... 29 執筆者紹介 .............................................................................................. 30 Machine to Machine EY EY 4 インダストリー 4.0 - この捉えどころのないものの正体は? 5 インダストリー 4.0 - この捉えどころのないものの正体は? 飛躍的に高まる関心 さらに、すでにこのとき個人ユーザーが新しいイン ターネットベースのアプリケーションを幅広く体験し ていました。実際、Z世代の個人ユーザーは、労働市 場に押し寄せて、どこにでも存在するインターネッ トの無限の可能性と共に育っており、日々の生活の 中でかなりの程度インターネットに頼るようになっ てきています。 • I-4.0 とデジタル化は もはや空想ではない 企業に多くの選択肢と 機会を提供 にもかかわらず、多くの企業とその意思決定者は、 「第 4次産業革命」とそれにまつわるデジタル化・IoT( モノのインターネット)・I-4.0といった概念を受け入 れることに消極的です。 (これらの用語は広く区別せ ずに用いますが、後にそれぞれの意味を説明しま す。)これは、多くの企業が元来懐疑的で、また、ア ナログで育った世代にとってはI-4.0とデジタル化 で賞賛されている理想像があまりに空想的に映るた めかもしれません。一方で、グローバル化の容赦な い進行は、 「我々は常にこのようなやり方をやってき た」という頑なな企業が、以前に考えられていたよ りも早く、かつての競争優位性を失いやすいことを 明らかにしました。 図1: デジタル化の影響 政治 間接的な市場環境 経済 社会 の技術要件は、数多くの個人使用の実証済みアプリ ケーションにすでに存在しています。完全に数字で 表せないとしても、いくつかの事例において、そのコ ンセプトは非常に魅力的でもたらす付加価値は明白 です。 ず、市場におけるプレーヤーの行動と関わり合いの ありかた全体を変えるでしょう。 法律 既存競合企業 企業単体レベル 購買物流 製造 出荷物流 セールス & マーケティング アフター サービス サポート活動 新規参入競合企業 各企業は、デジタル化によってどのような変化が引 き起こされる可能性があるのか、また、I-4.0のソリ ューションからどのような活用方法が導かれる可能 性があるのかを「企業単体レベル」、 「直接的な市場 環境」、 「間接的な市場環境」といった古典的区分 に基づいて分析することができます。 代替品 1. 2. 3. EY 環境 直接的な市場環境 I-4.0とデジタル化をビジネスで利用可能とするため I-4.0とデジタル化は、単に企業内の現象にとどまら 技術 顧客 • ドイツ政府による ハイテク戦略 : 中小企業は 依然 懐疑的 政府の新しいハイテク戦略について、政治、学術、経 済界から提案された初めての共同企画でした。省庁と 関連団体が主導し、Bosch 、Festro 、Trumpf や Siemensといった会社が支持を示しました。しかし、 この取り組みの主要なターゲットで、実際に流行を先 導し得るべき立場にあった中小企業は、参加には消極 的でした。 その間、製造業においては、I-4.0とデジタル化が期 待していたような空想的なものではないという受け 止め方が一般的になってきました。一方で独占的なバ リューチェーンを侵食されるという恐怖が、他方でま た、新しい可能性による多くの機会が広がっていると いう期待が、企業を駆り立てるモチベーションとなっ ています。 供給業者 2011年のハノーバー・メッセで行われたインダストリ ー 4.0(以下、I-4.0)のプレゼンテーションは、ドイツ 企業単体レベル: ここでの問題は、I-4.0が企業内部のプロセスに変化 をもたらす可能性があるのか、またどのようにか、ということです。 直接的な市場環境: ここでは、顧客やサプライヤーだけでなく競合企業 においても、I-4.0が既存のプロセスに影響を与えうるということ、また それによりバリューチェーンや他のサービス関係に変化をもたらすとい うことに焦点を当てています。 間接的な市場環境:共有プラットフォームや、適正なデータ交換のよう な(部分的に)規制された状況における標準化は、すでに現実的な話と なっています。 (例:REACH-化学物質の登録、評価、認可および制限を 統制するEUの規制) デジタル化とI-4.0の活用は他にも数多くの展開が考えられます。とりわ けそれは、国家レベルと国際レベルの両方における政府・機関の規制介入 においてです。また、新しい業界標準規格の制定を促すことも予想されま す。例えば、EU内の自動車業界におけるデータ交換規格がその例です。 EY 6 インダストリー 4.0 - この捉えどころのないものの正体は? 7 インダストリー 4.0 - この捉えどころのないものの正体は? 私たちの調査「メガトレンド 2015」は、Bitkom 協 会が行っている調査と同様に、様々な階層に分けた 調査ではなく市場全体に関するトレンドを分析しま した。近い将来に例えば間接的および直接的な市場 環境のレベルで、どのような変化が起こるのかを予 想することは興味深いものとなります。2015 年度 の調査における出発点は企業単体レベルでの分析で あり、またそこから将来起こりうる変化に関するも のでした。 • 調査対象企業の約 4/5 は 現在及び将来の企業の ポジショニングに I-4.0 が 戦略的に重要であると 評価 調査対象企業による多くの意見は一つの明らかな傾 向を示しました。調査対象の約 4/5 が、事業にとっ て I-4.0 を極めて重要と位置付けています。500 人 以上の従業員を抱える大企業では、84%の企業が 同じ意見です。また、すでに一部の大企業はワーキ ンググループや各種企画を通じて、積極的に I-4.0 に取り組んでいます。 • デジタル化の 広まりに関して 機械産業が最も肯定的 我々の研究結果は、デジタル化と I-4.0 によりもた らされる変化が、様々な産業で大きな期待を持たれ ていることを示しています。機械産業において最も 、消費財業界、電機産業や自動車産業 高く(86%) が後に続く形となっています。 加えて、 「機械産業においては、I-4.0 に興味を示し ている企 業は 60% 弱で、3 分 の 1 の 企 業は I-4.0 を優先事項として取り扱っており、この数字は、製 造業全体の数字の 2 倍となる」ことが、連盟より報 告されています。 ド イツ エ ン ジ ニ アリン グ 連 盟(Verband Deutscher Maschinen- und Anlagenbau, VDMA) の委託により最近発表された調査報告は、現在の機 械産業における傾向を裏付けるものです。 「機械産 業の企業の 10 社中 9 社がネットワーク化された生 産(インダストリー 4.0)を通して、市場における自 社の存在を高める重要な可能性を認識している」と 報告されています。 I-4.0(とその活用)の考えられる効果に関しては、 調査企業間で驚くほど幅広い意見の一致が見られ ます。 • 製造業企業の 62%が、生産においてより高いフ レキシビリティを実現したいと考えています。 • 57%が、クライアントと市場の要求に対するレス ポンスタイムを短縮したいと考えています。 32 % 従業員500人以上 41 % 消費財 29 % 電機 41 % 自動車 31 % 機械 36 % その他製造業 33 % 0% 15 % 45 % 54 % 11 % 41 % 12 % 49 % 15 % 50 % 10 % 41 % 40 % 非常に重要である 重要である 18 % 60 % あまり重要でない 電機 自動車 その他機械 その他 62 % 58 % 54 % 60 % 67 % 63 % 78 短縮されたレスポンスタイム 57 % 52 % 42 % 61 % 62 % 61 % 5% 84 全体効率の向上 40 % 42 % 43 % 42 % 33 % 41 % 5% 83 新製品開発・製品イノベーション 36 % 25 % 41 % 38 % 37 % 39 % 82 コスト削減 30 % 30 % 33 % 26 % 31 % 30 % 5% 80 顧客サポートの改善 28 % 28 % 32 % 26 % 29 % 4% 86 新しいビジネスモデルの構築 74 既存のビジネスモデルを 新規市場へ拡大 7% 7% 80 % まったく重要でない 100 % 14 % 7% 10 % 0% 9% 9% 0% 21 % 9% 14 % 0% 16 % 12 % 0% 17 % 16 % 0% 7% 0% 不明/未回答 加重調整後パーセント表示 対象: 全製造業の調査企業 (n = 554)。 ( 合計は四捨五入のため必ずしも100に一致しない) 上位回答2つの合計 = 「非常に重要である」+「重要である」 EY 消費財 製造のフレキシビリティの向上 7% 10 % 43 % 合計 79 6% 15 % 46 % 20 % • しかしながら 新たな可能 性 に 基づ いて 自 身 の ビ ジ ネスモ デル を 見直そうとする企業は ごく僅か インダストリー4.0の主要な利点は2つしか認知されていない:フレキシビリティとレスポンスタイム 上位回答2つの合計 従業員100-499人 これらの前提を踏まえると、多くの調査対象企業は、 基本的には I-4.0 を重要視しているものの、当面は、 各社の製造や価値生産に I-4.0 がもたらす意味は 副次的なものとしてしか捉えていないと考えてよい でしょう。この点は後続調査でより詳しく検討します。 図3: 多くの人がインダストリー4.0の戦略的重要性を認識 34 % • 多くの企業が、I-4.0 は 製造プロセスの最適化と よりフレキシブルな 生産において 最大限の可能性を発揮する とみている 全体的な機器の設備効率の改善、製品イノベーショ ン、コスト削減、顧客サポートの改善といった目標 に関して企業が I-4.0 に寄せる期待は、それよりは 小さめです。 図2: 合計 ところが、興味深いことに、製品のデジタル化によ り新しいビジネスモデルの構築へ活用することを重 要視する企業は、非常に少数です。 加重調整後パーセント表示 対象: 全製造業の調査企業 (n = 554) EY 8 インダストリー 4.0 - この捉えどころのないものの正体は? 9 インダストリー 4.0 - この捉えどころのないものの正体は? トレンド分析で明らかになった 「マシンツーマシン」への注目 企業のプロセスの継続的な改善は、それ自体は、 デジタル化や I-4.0 の産物ではありません。サプラ イチェーンマネンジメント(SCM)を例に挙げましょ う。SCM は、すでに全ての価値生産プロセスを通 じてモノと情報の流れの統合的なプロセスを実装し 最適化しています。しかし、ここでの新しい点は、 価値生産プロセスに関わる機械化 / 自動化システム と各製品が、直接またはインターフェイスを介して、 今や相互に通信できるという事実なのです。 • I-4.0 の分野における この領域では劇的な発展がみられます。それは、単 に通信と新技術の創造的かつインテリジェントな組 み合わせにとどまらず、内蔵ソフトウェア、ユーザー インターフェイスデザイン、データベース、セキュリ ティメカニズムに関するものまで及びます。 画 期 的な点は生 産 機 械 間 (M2M:マシンツーマシン) の相互作用の 完全自動化である 製造工程の大半が 機械自体によって管理・処理 されることが可能になる 状況を把握し対応できます。製品は、自身が置かれ ているステータスや製造プロセスの次のステップを 把握しており、次の製造ステップ(物流プロセスを 含む)を、各自で開始します。 またこれは、製造業の従業員の役割に影響を与え、 影響範囲は製造プロセスの直接活動(上記、自動 実行)から間接的活動にまで及びます。実際に、い くつかの I-4.0 ソリューションのおかげで、すでに 現実のものとなっています。新しいテクノロジーの 活用の主なものは、システムを継続的に稼働させ続 けるといったものとなるでしょう。例えば、自動製造 システムに新しい製品を組み入れ、例外事項に対処 し、ソフトウェアの問題を修正することができます。 実施したトレンド分析の中では、72 のソース文献 それゆえ、メガトレンドを分析する際、 「マシンツー を分析し(2013 年から 15 年までの主要研究と同 、言及頻度に基づいて優先順位を以下 マシン」 ( 以下 M2M)という用語が頻繁に注目を浴 様の刊行物) びることは驚くに値しません。M2M とはエンドデバ のように整理しました。 イスどうし直接、またはセントラル通信インターフェ イスや有線 / 無線ネットワークを介した、情報の自 動交換を指します。M2M はインテリジェントな機 械、倉庫システム、また自律的に機器間でデータ交 換を行う機器を含み、製造プロセスを起動し相互に コントロールします。このように、自ら製造を行う ことができます。製造手段と製品は互いに接続され、 図4: 36 % ビッグデータ 18 % クラウド 20 % 21 % 1 23 % 1 17 % カスタマイゼーション 7% ソーシャルメディア 3% ウェアラブル 6% モバイルコマース 7% 2% 2% 5% 7% 2% 5% 4% 0% 10 % テクノロジー EY 16 % 1 2 % 11 % IoT(モノのインターネット) 15 % 1 4% コンテンツコマース 36 % 82 % ITセキュリティは製造企業にとって重要な技術 5% ネットワークエクスパンション • 「マシンツーマシン」の観点は 調査対象企業の ビジネスモデルに重要かつ 不可欠と評価されている 図5: 頻度分析に基づくメガトレンドの概観 M2M(マシンツーマシン) 頻度分析の結果は、EY の調査結果によっても裏付 けられました。新しいデジタルアプリケーションに おいて、データ活用・データ提供は、不可欠であり、 それらに関する全ての議論に全体的に影響を与える 「IT セキュリティ」を除けば、調査対象企業の 78% は、M2M というコンセプトがビジネスモデルにおい て重要かつ不可欠と評価しました。コミュニケーショ ンプロセスに個人を組み込むことになるソーシャル マシンも、 70% とほぼ同程度に重要視されています。 20 % メディア 30 % 通信 40 % 50 % 60 % ITセキュリティ 82 % M2Mコミュニケーション 41 % ソーシャルマシン 29 % ビッグデータ 30 % クラウドコンピューティング 37 % 3Dプリンティング 14 % 0% 上位回答2つの合計 17 % 37 % 20 % 41 % 14 % 33 % 36 % 20 % 非常に重要である 29 % 34 % 40 % 重要である 99 2% 78 70 16 % 28 % 24 % 1% 9% 63 10 % 61 50 18 % 60 % あまり重要でない 80 % 100 % まったく重要でない 不明/未回答 EY 10 インダストリー 4.0 - この捉えどころのないものの正体は? 11 インダストリー 4.0 - この捉えどころのないものの正体は? ロットサイズ1生産の経済性 • フレキシブルな 製造プロセスは将来 マイクロインテリジェンスに よってコントロールされる サイバーフィジカルシステム では 人と機械は デジタルインターフェイスを 介して互いに密接に 協働する 従業員が身につけた Bluetooth タグは 完全な自動組立ラインを伴う プロセスにデータを 送受信する 未完成品から完成品までの統合されたマイクロイン テリジェンスによって実現される情報伝達プロセス に、製品そのものを「包含」することこそ、既存の価 値生産を革新する可能性を持っています。※1 製品自身から生産システムに対して、現状の製造段 階と位置情報が通知できるようになります。もし、 製品の欠陥が発生した場合も、 同様に通知されます。 もう一つのこの仕組みに関する特別な点は、人間も また、システムの一部に統合されているということ そのような能力を備えた製造工場は極めてフレキシ です。従業員が身に着ける Bluetooth タグはワー ブルに運用することができ、設計によりますが、究 クステーションに読み取られ、画面表示は適切にカ 極的にはロットサイズ 1 で経済的に製造することが スタマイズされます。その結果、従業員のスキルレ 出来ます。このことは製品がよりカスタマイズされ ベルが考慮された作業指示書が提示され、ディスプ たものになるにつれ、重要性を増すと思われます。 レイには適切なフォントサイズに調整されて表示さ れます。これは、M2M と人間がサイバーフィジカル 実用的な例として、2000 以上の異なる部品から システムにどのようにつながるかを示す一例です。 200 以上の異なる水圧バルブを単一組立ラインで 製造しているハンブルクの Bosch Rexroth の工場 I-4.0 の原則に従って完全に自動化された組み立て を挙げましょう。各種類のバルブの月間生産量は数 ラインの別の例は、Phoenix Contact です。この 百個程度ですが、個別の部品にはそれ自体の「プロ 産業用スイッチシステムと制御装置の製造業者は、 フィール」を記憶した RFID(無線周波数認識装置) 単一の組み立てラインで、完全に自動化され、顧 チップが取り付けられています。 客別に個別構成された産業用スイッチを組み立てま す。構成部品はライン上で準備され、各顧客固有の この情報を用い、組立ラインに沿って設置された 9 組立構成に基づいて、自動化されています。最終検 つの「知能端末」が、どのように完成品が組み立て 査も同様です。顧客別構成と CAD データを使って、 ※1:マイクロインテリジェンスは、完成品よりは未完成品の中に搭載される。 EY られる必要があり、それにはどの作業ステップが必 要なのかを判定します。従業員は、処理中の型式に 関する作業指示書をディスプレイで確認します。極 端な事例では、バルブ 1 つ 1 つがそれぞれ異なる こともありえるのです。すなわち、ロットサイズ 1 で製造されるということです。 その他のメガトレンド 「ビッグデータ・アナリ ティクス」と「クラウド」 顧客から注文された各製品の 3D モデルがつくられ、 その 3D モデルは完成した組立品のイメージとの比 較に用いられます。もし不一致が起きた場合は、製 品は吸い上げられ、従業員により調査されます。こ の事例は、エンジニアリングシステムからのデータ、 注文構成、自動組立ラインがいかに調和して、最 終完成品の質を担保するかを示しています。しかも、 それらはロットサイズ 1 で実現されていることなの です。 重要性があるものとして評価されたその他のトレン ドは「ビッグデータ・アナリティクス」 (63%)と「ク ラウド」 (61%)です。 • 個別顧客毎の製品構成は 完全な自動化の中で 製造される 顧客データに基づく 3D モデルとの自動比較は 必要であれば最終検査の段 階においても 製品が即座に 修正できることを意味する • 大容量の複雑な データのリアルタイムの インプットと分析: ビッグデータ ・アナリティクス はますます重要になる ビッグデータ・アナリティクスはさまざまな種類の 大容量のデータ分析を取り込み、以前には知られて いなかった相関やその他の有益情報を導出します。 そして競争優位を特定するために分析されます。 特定の製造プロセスに関連する広範囲のデータが 現在では会社レベルで収集されています。例えば、 それは、温度、圧力、流量、エネルギー消費量に関 する情報を伝送するために工場全体に配備されたセ ンサーを通じて行われます。 これに直 接 的 な 市 場 環 境 から取り込まれ たデー タが 加 わりま す。B2B にお いては、Facebook や Twitter といった商用のソーシャルネットワークや、 Google や Microsoft(Bing) のような検 索エンジ ンプロバイダーは、すでに何年もの間この分析に取 り組んでいます。 もし、 これら全てのデータを活用しようとすると、 ビッ グデータに関して用いられる高度に複雑な分析ツー ルが必要となります。興味深い点は、データのイン プットと分析の両方がリアルタイムに行われるとい う点です。ビッグデータ・アナリティクスによって扱 われる範囲においてはデータが即時に分析できると EY 13 インダストリー 4.0 - この捉えどころのないものの正体は? 12 インダストリー 4.0 - この捉えどころのないものの正体は? いうことは、過去実施済みのプロセスだけでなく現 在稼働中のプロセスにおいても、システム内部から 自動的かつ直接的に修正・補正が行えることを意味 します。例えば、もし同じ欠陥を持った二つの製品 が立て続けに生産されたとすると、システムは、二 つの部品が通過した機械端末の各ツールをチェック し、必要であればそのツールを交換する指令を出す ことができます。 あるいは、速度や振動の歪みといった機械データの 総合的分析によって、事前に故障を予測し、 予防メン テナンスを行うことで故障を避けることが出来ます。 ビッグデータと表裏一体なのがクラウドです。この 「外部仮想記憶」-(場所に限定されず、どこからで も使用出来る記憶資源のプール )- は、特に巨大な 容量のデータのための高速かつ安全な記憶場所の 一つです。 ビッグデータ・アナリティクスは、製造業企業のコ アコンピテンスとはまだ見なされていません。その ような状況においては特に、アナリティクスツール の外部保存場所としてクラウドを活用することも出 来ます。 • リアルタイムの データ収集と分析は 調整や製品の補正も リアルタイムで 出来ることを意味する ビッグデータの分析から、企業が適用事例とエンド ユーザー側での使用パターンの詳細情報を得られた とき、転機が訪れるでしょう。 • クラウドソリューションを 利用することで企業による 大容量のデータの 保存と分析が可能となる 農業では、必要な機材を供給する企業はエンドユー ザーと直接的な関係にあります。数十年に渡ってこ うした状況でしたが、遠くない将来、包括的なデー タマイニングと分析(日々の天気情報、最適な播種 量と肥料量、播種と肥料提供の最適タイミングの 提案、費用便益視点から見た最適な機材の分析等) を提供する企業がエンドユーザーとの関係を完全に 変換させるでしょう。 結局のところ、デジタル化が進み、IoT に向けて様々 な分野が相互に繋がる中で、 「データを支配するも の」が、機械メーカーやその他のハードウェアメー カーから、エンドユーザーとの関係を完全にひきは がすことができるのです。まさに、これらの(ビッグ データ分析の)サービス提供者こそが将来顧客に対 してフルパッケージを提供することが出来るのです。 加えて、ビッグデータ・アナリティクスに関連するノ ウハウに基づいて、前述のサービス提供者が、今ま でエンドユーザー関係を負ってきた農業用車両のサ プライヤーを交換可能な存在にしてしまい B2B 関 係の中に押しやってしまう可能性があります。 • ビッグデータアナリティクス 分野のサービス提供者は 迅速かつ総合的な情報分析 とそれを受けた最適な サービス提供によって 製造業者やサプライヤーを 上回る可能性がある 5. システムのシステム 天気データ システム 4. 製品システム • • • • 湿度、気温センサー等 天気マップ 天気予報 天気アプリケーション 種蒔き機 刈り取り機 3. インテリジェント接続製品 図6: 事例: モノのインターネットに向けた農業におけるデジタル化 2. インテリジェント製品 農業機器 システム 農業管理 システム 収穫/播種最 適化システム 農業機器システム 耕作機 • 農業パフォーマ ンス管理データ ベース 灌漑システム 1. 製品 • 播種データベース • 播種最適化アプリ ケーション • 土壌センサー • 灌漑ノード • 灌漑アプリケーション Source: Harvard Business Manager, Dec. 2014, pp. 44–45. EY EY 14 インダストリー 4.0 - この捉えどころのないものの正体は? 15 インダストリー 4.0 - この捉えどころのないものの正体は? 明日への戦略 ビジネスモデルへの影響 新しいチャンス 高度に自動化されインテリジェンスを有する工場に なる過程で、数えきれないビジネスモデルの変化が 生じるのは言うまでもありません。その理由の一因 は、すでにここで示した通りです。 • 将来の企業の競争力は 投資内容とそれが インダストリー 4.0 の トピックとどのように 関連しているのか ということと 表裏一体となる このことを踏まえ、企業はプロアクティブにとりう る選択肢を探り、現在起こっている進歩によって、 自らのビジネスモデルが影響を受けるのかどうか、 またどの程度の影響を受けるのかを分析するべきで す。このような分析において、以下のような問いが 製 造者、 (ビッグデータ分析の)サービス提 供 者、 問われるでしょう: サプライヤーと顧客との間の直接的市場環境におけ る境界は、移っているか少なくとも低くなっていま • デジタル化と I-4.0 における新しい動きは、自社 のバリューチェーンのみならず、直接的な市場環境 す。企業内部のプロセスと直接的な市場環境の各 及び自社の業界を取り巻く間接的な市場環境も含 プロセスとの相互連結がより強まっています。 め、どのような影響を与えるのか? その影響がいったいどのようなものであるのかを、 いま予想することはできません。しかし、私たちの • どのような技術的イノベーションが、自社が属する 業界の企業にとって適用可能なのか? そして、最 前に横たわる変化を無視することは自殺的行為とい 善のものはどれなのか? えるでしょう。 生産財をリース提供する会社においても、リース先 企業が6∼12年のリース期間を通じてなお競争力 を維持できるのか、また、生産財それ自体がまだ相 応の残存価値を持ち、再びリースすることが出来る のか、という問いかけをするべきでしょう。 • 自社の価値生産プロセスの少なくとも一部だけで も、I-4.0 へ移行することなしに競争力を保持する ことは可能なのか? • 最善 / 最悪のケースで、移行にどれくらいの時間 が残されているのか? • 投資集約的な I-4.0 に投資するだけの資力はある のか、でなければ、業務の中断も含め、完全に新 しいビジネスモデルを採用しなければならないの か、あるいは部分的にそのような対応をしなけれ ばならないのか? • どのようなスタッフトレーニングが将来必要なの ビジネスモデルにおける 起こりうる影響の システマティックな 分析が求められている か? どこで適切な能力のある従業員を見つける ことができるのか? どうやって自社の従業員の間 に変革を確実に根付かせることができるのか? • 必要とされるコンピテンスを自社で育成すること ができるのか? あるいは、スタートアップのクリエ イティブなサービスの協力を得なければならない のか? 政財界共同での多くの取り組みが、極めて協力的か つ業界や企業の相互信頼によって成り立つ関係を想 「市 定しているとしても、I-4.0 の枠組みの中でも、 場」自体は極めて競争的でありつづけるし、グロー バルな環境ではさらに言うまでもないということを 企業は忘れてはいけません。実に、I-4.0 の取り組 みそのものも、競争の産物であり、ドイツや中国 や米国といった強力なプレイヤーが互いに競い合っ ているのです。さらにビッグデータそのものが持つ 「大きさ」により、企業間および国家間の境がますま す薄くなっていくことは避けられないでしょう。 ゆえに、各企業が全体的なネットワークに組み込ま れているという事実にもかかわらず、競争はより激 化すると予想されます。以前と同じく、最も優先す べきことは自社を守り、自社特有の競争優位を磨い て、競合をかわすことにあります。個々のアントレ プレナーは、前もって自らのビジネスに関連するネッ トワークを捉え、どこにポジションを取るべきかを 自らに問いかける必要があります。 機械産業の企業は、自動車業界のサプライヤーに比 べて、この問題に対して大きく異なった反応をする でしょう。自動車業界では、サプライヤーは現在す でに、自社がもつサプライヤー及び、顧客のサプライ チェーンの中に密接に統合されています。 それは、 ロッ ト追跡システムを共有することなどで実現した、テ クニカルなデータレベルの統合についても言えます。 この新しい統合のレイヤーがあることにより、サプ ライヤーは自身の個別ニーズに基づく製造プロセス を構築することが更に難しくなっています。 たいていの場合、機械産業の企業を含む全ての企 業は、新規サービスの提供等により、自身のビジネ スモデルを拡張しようとします。 しかし別の方法として、機械産業の企業は、例えば、 自社の加工センターを、オペレーティングネットワー クの中におけるプラグ & プレイ機器のような位置 づけにして、特化することもできます。これにより、 単に個別の機器を売るのではなく、機械産業の他 の企業と協働して、製造後保管倉庫及び必要なロジ スティックスとソフトウェアを備える一貫した製造 ラインを提供するという選択肢をとることができま す。 (そういった製造ラインは、すでにいくつかの業 界では見られるものの、I-4.0 のアプローチを伴なっ ていない) • インダストリー 4.0 は 業界によっては 収益性の高い新しい ビジネス領域を生み出し 企業のコアコンピテンスの 劇的な転換や拡大を もたらす可能性がある 電機産業の製造業者は M2M の情報通信のスペシャ リストとしての役割に移行し、それゆえ全ての製造 プロセスに互換性の高い発信機、受信機、読取機 一式を提供することもできます。ロジスティクスと ソフトウェアの世界でも、同様のシナリオを描くこ とができます。 このような統合されたバリューチェーンの外にある機 械産業の企業にとっては、程度の多少はあるものの、 従来からの自主性を維持しやすい状況にあります。 • 必要ならば、適切なスタートアップをどのように見 つけるのか? • 今後数年にわたり、市場で高収益企業としてあり つづけるには何をしなければならないか? EY EY 16 インダストリー 4.0 - この捉えどころのないものの正体は? 17 インダストリー 4.0 - この捉えどころのないものの正体は? 標準規格の課題 参入障壁 研究の中で調査対象となった製造業の経営者は、 57% の経営者(機械産業 :54%)によると、その次 I-4.0 とデジタル化の投資に対して財務的な意味で に大きな参入障壁は、質の高い人材の不足です。 の参入障壁をよく認識しています。 • インダ ストリー 4.0 へ の 最も大きな参入障壁は 高 い コストと 訓 練 さ れ た 要員の不足 製造業企業の 3 分の 2 弱が、投資支出額が高いこ とが I-4.0 に対応するための最大の障害と述べてい ます。調査に参加した機械産業の企業群においては この数字は 60% にとどまっています。 図7: 最も頻繁に挙げられるインダストリー4.0の障壁は投資支出額の高さと質の高い人材の不足 (対象:製造企業) 合計 消費財 電機 自動車 機械 その他 投資支出額の高さ 64 % 70 % 57 % 67 % 60 % 64 % 質の高い人材の不足 57 % 57 % 58 % 58 % 54 % 57 % 標準規格の欠如 50 % 49 % 54 % 58 % 60 % 45 % セキュリティ懸念事項 46 % 42 % 42 % 55 % 52 % 45 % 不明確な経済利益 38 % 34 % 40 % 37 % 43 % 37 % 不十分な顧客側のIT専門性 37 % 51 % 42 % 39 % 29 % 34 % ビジネスモデルの不明確さ 25 % 19 % 18 % 28 % 32 % 26 % 0% 0% 0% 0% 0% 自動化の専門企業、Festo AG 社の注文処理にお ける具体的な事例があります。顧客が注文するや いなや、販売担当がシステムに注文を入力します。 次に、システムがどんなスキルを持った何人の従 業員数が必要なのか、またいつまでにその仕事が 終わらなければならないかを判断します。システム は従業員を選んで特定し、従業員はアプリから依 頼を受け、作業指示を承諾するか拒否をするかを 選びます。こうしたことを成り立たせるためには専 門的な知見だけでなく、従業員たちの十分な柔軟 性を必要とします。 製造企業が全体的に行うべきことは、ハイテク製造 に従事する従業員の役割を定義して、新しい製造の 枠組みに備えさせ、ルールを整え、適切なトレーニ ング・キャリアパスを策定することになります。しか しこのためには、第一に経営レベルにおける I-4.0 の明確なビジョンを必要とします。 調査参加者の半分が挙げた、もう一つの参入障壁 は標準規格の欠如です。機械産業業界では 60%に 上ります。確かに、明確に定義されたインターフェ イスと標準規格を抜きにしては、少なくとも直接的 な市場環境における会社間のコミュニケーションの 基盤が存在しないことになります。 標準化における広範な経験があることからも、ドイ ツ産業界は、いうまでもなく、この分野の国際競争 においてリーダーの地位を狙える立場にいます。こ れはドイツが、特に英米陣営に「標準化マニア」と して扱われてきた末に生みだされたものです。 • 完全な自動生産は インダストリー 4.0 の 標準規格なしには 実現困難である ドイツは このための インターフェイスを開発 定義することで この分野のリーダーとなる 可能性がある とはいえ、調査に参加したドイツ企業はこの件に関 し現実的な見方をしています。62% の企業は、あ る特定の規格だけが普及することはないだろうと回 答しています。22% は、業界における企業の取り 組みが、共通規格を作りだすだろうと見込んでいま (今は存在しない)マーケットリー す。また 8% は、 ダーが独自規格を設けると予測しています。 セキュリティ懸念事項を、I-4.0 の潜在ユーザーに とっての参入障壁と考えるのは、製造企業の 46% に過ぎず、第 4 位の障壁に留まっています。 • 調査企業の多くは 明確な標準規格が自然に 出来上がるとは 期待していない 0% 加重調整後パーセント表示 対象: 全製造業の調査企業 (n = 554) 実際に、相互接続された生産形態によって、より 質の高い人材へのニーズが更に高まっています。未 来の工場を維持、運営し続けるためには、自社の 製造環境においてより多くのエンジニアが必要と いうだけでなく、特殊な専門性を持って、定 期的 な再教育により新しいスキルを獲得したより多くの 従業員が必要です。実際に、デジタル化された工 場で業務に携わることを希望する人材はハードウェ アとソフトウェア両方の知識を持っていることが欠 かせません。 EY この件に関して明らかな事実が一つあります。質 の低い、またはスキルのない従業員による単純な 補助的業務は、少なくとも現在の想定の範囲では、 今のような形では存在しなくなるということです。 上記の Bosch Rexroth の組み立てラインの例に 見るように、従業員が必要なスキルを学ぶ余地が 生じている事例がすでにあります。しかし、そこで は従業員は、データグラス、タブレット、広範なア プリ等を備えた、新しくかつデジタル化された職場 環境を受けいれる必要があります。 EY 18 インダストリー 4.0 - この捉えどころのないものの正体は? 19 インダストリー 4.0 - この捉えどころのないものの正体は? 調査方法 分布 ネットワークシステムの専門集団であるソフトウェ とみています。同企業群にとっては、標準規格の欠如 ア、IT サービス、通信分野のプロバイダーは、全く は 3 分の 2 の回答者から障壁として認識されており 異なった捉え方をしています。その 4 分の 3 強は、 二番目の障壁要因となっています。 セキュリティの懸念事項を I-4.0 の導入の最大障壁 図8: セキュリティの懸念事項 標準規格の欠如 77 % 従業員100-499 人 65 % 78 % 65 % • Bitkom リサーチとの 提携の下 EY は インダストリー 4.0 の 話題に関してドイツ中の 企業を調査 セキュリティの懸念事項と標準規格の欠如がインダストリー4.0の大きな障壁 (対象:ソフトウェア、IT、通信プロバイダー企業) 合計 Bitkom リサー チと 協 力して EY が 実 施した 調 査 従業員500人以上 67 % 68 % では、 企業のサンプル調査の範囲で、 ドイツにおけ る I-4.0 の 活 用 状 況 と 発 展 の可能 性を 調 べ まし た。当調査は、ドイツ国内のどの企業がどれほど I-4.0 の実践ソリューションを活用、開発、提供し ているのか、またそのようなソリューションの展開 に現在どのような障壁があるのかに関する洞察を 提供することを目的としています。 調査対象企業は 3 つに分類できます。 • I-4.0 のコンセプトと製品を用いる製造業の企業 ウェア、通信業の企業 51 % 51 % 51 % ビジネスモデルの不明確さ 49 % 51 % 39 % 質の高い人材の欠如 47 % 47 % 44 % • 製造業 : n = 554 不明確な経済利益 40 % 39 % 47 % • IT と通信業 : n = 152(総サンプル数 )、うち製造 業の顧客がいるもの n = 102 • 如という製造業自体の診断結果とも符合していま す。製 造業で I-4.0 に向けた最 大の障壁として挙 げられた投資支出額の高さは、プロバイダーの半 数が重要な障害と評価したに過ぎません。プロバイ ダー側では、ビジネスモデルの不明確さもほぼ同数 が障壁として挙げましたが、顧客側では 25% となっ ており最下位です。 その他製造業 ......................................................................... 48.9 % 調査対象者の分布 執行役 /CEO/ 役員................................................................ 45.2 % (上級)部門長 : 品質管理 ..................................................... 12.2 % サンプリング手順とサンプル数 : 従業員数 • 不均衡層化 100–499 人 .......................................................................... 84.6 % 500人以上............................................................................. 15.4 % 調査対象企業は 3 つに分類できます。 0% 調査方法と重みづけ : 調査対象企業は 3 つに分類できます。 • 電話調査(CATI) された未来についての適切な戦略を策定すること が肝要です。 機械とシステム ....................................................................... 17.4 % (上級)部門長 :R&D ................................................................ 9.9 % 投資支出額の高さ インダストリー 4.0 に 向けた障壁があることが デジタル化された 将来に向けた 各企業のコンセプトや 長期戦略策定の妨げと なるべきではない 自動車 ........................................................................................ 4.7 % • I-4.0 のコンセプトと製品を提供する、IT、ソフト 43 % 52% のシステムプロバイダーが、顧客側における なシステムがまだ整っていないものの、業務の各分 IT 専門性の不足を障壁として挙げたという事実は、 野においてすでに取り組まれている事なのです。 I-4.0 に取り組む製造業ユーザー企業において対処 が急がれることを示しています。質の高い人材の欠 全ての企業が、自社にとっての I-4.0 とデジタル化 電機 ......................................................................................... 10.4 % (上級)部門長 : 製造、業務.................................................. 32.6 % 53 % 加重調整後パーセント表示 対象: 製造業の顧客を持つソフトウェア、IT、通信業界の全調査対象企業 (n=101) 消費財 ..................................................................................... 18.5 % • I-4.0 のコンセプトと製品を提供する製造業の企業 52 % 0% 製造業企業の分類 母集団 : 不十分な顧客側のIT専門性 0% 製造業 • ドイツ国内で 100 人以上の従業員を有する製造、 IT/ 通信業界に関する業界グループと規模を代表す る結果を提供するように調査回答は加重調整され ています。 情報技術と通信業 調査対象者の分布 執行役 /CEO/ 役員................................................................ 66.7 % (上級)部門長 : 製造、業務 .................................................. 19.5 % (上級)部門長 :R&D ................................................................ 6.9 % (上級)部門長 : 品質管理 ....................................................... 6.9 % 従業員数 100–499 人 .......................................................................... 85.4 % 500人以上............................................................................. 14.6 % 実際に I-4.0 を導入していくには乗り越えるべきハー ドルがまだいくつもあるのは疑う余地がありません。 しかし、すでに個々の事例で示したように、全体的 EY EY 21 インダストリー 4.0 - この捉えどころのないものの正体は? Industry 4.0 in Japan 20 インダストリー 4.0 - この捉えどころのないものの正体は? EY 日本におけるインダストリー 4.0 インダストリー 4.0 実現のための日本の課題 ドイツを発祥とするインダストリー 4.0、米国にて 提 唱 さ れ る イン ダ ストリアル・イン タ ー ネット (Industrial Internet)の動きは、デジタル技術の進 歩とともにそれを活用して生産プロセス、ビジネス モデルを変革するものであり、日本においても同様 の動きが期待される。これまで、日本の労働力一人 あたりの生産性は米国・ドイツに較べて相対的に低 く、かつ、米国・ドイツが生産のIT化・デジタル化を 進めて生産性を向上させるのとは対照的に、大きな 伸びを見せて来なかった。今後の日本社会における 少子高齢化を考慮に入れるとき、IOT/I-4.0に代表 されるデジタル化への対応は急務と言える。 日本においても、2015年頃より、企業間連携、官民 連携により、IoTの活用、I-4.0 実現のための各種の 検討や取り組みが開始されてきている。 一部企業においてIoTを活用した製造プロセスの改 革について先進的な試みは見られるが、日本の製造 業を支えてきた大多数の中小企業においては、I4.0実現のための取り組みは積極的なものとは言え ない。これは、先述のドイツの中小企業において、投 資コストが高い、便益が見えづらいということで、懐 疑 的 な姿 勢が あ る のと同 様、日本 企 業 にお いて も、IoT/I-4.0により実現できること、ビジネスモデ ルの変革内容、それが実現した時の競争優位性、後 れをとった時のリスクについて、明確なコンセンサ スがないためと考えられる。加えて、従来、日本の製 造 業 企 業 の 競 争 力 を 支 えて い た 各 種 の 特 徴 が、IoT/I-4.0 への取り組みに当たって障害となって いる恐れがある。 日本の製造業は、これまで、現場レベルでの改善活 動、サプライヤーとのすり合わせ等により、独自の製 品仕様の「モノ」について高品質を追求することに より競争優位を築いてきた。それはときとして熟練 労働者の暗黙知によるところも大きかった。それに 対して、IoTを活用したI-4.0 は、形式知であるデー タを徹底的に活用・共有化することにより生産性を 高めるものであり、モノに付随する「情報」「ソフト ウェア」さらには、それらの組み合わせである「シス テム」 「サービス」の価値が競争力の源泉となる。 「モノづくり」に対するこだわりを保持しつつも、I4.0によりもたらされるパラダイムシフトに対応した 抜本的な生産プロセス、ビジネスモデルの改革が求 められる。 (図9) 図9: 従来の日本の製造業の特徴とI-4.0で求められること I-4.0 で求められること これまでの日本企業 現場での改善活動 抜本的なビジネスモデルの転換 すり合わせによる個別仕様の品質追求 標準化による要求仕様 熟練者の技術 データの活用 IoT, ロボット、AI の活用 自前主義 個社独自、系列下請け会社の取り組み サプライチェーンの企業間にまたがる連携の実現 大量生産 マス・カスタマイゼーション コラボレーティブ・イノベーション、オープン・クローズ戦略 モノ(ハードウェア)そのものの価値を追求(ハードウェア品質の追求) モノに付随するデータ・システム・サービス・ソリューションの価値による競争力 EY 22 インダストリー 4.0 - この捉えどころのないものの正体は? 23 インダストリー 4.0 - この捉えどころのないものの正体は? インダストリー 4.0 への 日本企業の対応(提言) IoT 技術の徹底的な追求 I-4.0 の特徴の一つは、データにより「繋がり」を 作 ることで あ る。繋 がりの 基 礎となる の は IoT、 M2M コミュニケーションにより実現される業務レ ベルと機器制御レベルの情報の統合(垂直統合)で ある。また、サプライチェーンを通じた繋がりの中 で工場内・工場間、企業内・企業間で相互連携を実 現しプロセスを最適化することが重要となる。併せ て、製品設計、生産設計、生産、販売、保守といっ た、工程間での繋がりを築いていくことも重要であ る。特に、市場のニーズに対応した製品を短いリー ドタイムで設計・開発、製造するためには、工程間 の繋がりが不可欠である。 日本においてはファクトリーオートメーション(FA) の洗練化、およびセンシング技術の発展により、垂 直統合を支える技術基盤を実際に製造ラインに組 み込む例は多くみられる。製造工程の各種データを 収集するベースは整いつつある。しかし、収集され たデータをアナリティクス技術により効果的に活用 している企業は限定的である。 I-4.0 の実現のために、まずは、自社の工場内・工 場間でのデータ収集・解析・分析・連携・活用への 対応力を高めることが重要である。I-4.0 において は、究極的には企業間を通じたデータ共有・データ 連係による生産最適化が望まれるが、そのためには、 データ交換形式の標準化の問題や、企業間連携体 制の構築等、実現に向けて解決すべき課題がある。 自社内の工場内・工場間での IoT データの有効活用 のスキルは、それらの課題がクリアされたときの企 業間連携においても活用できるものであり、必須の ノウハウと言える。 企業間連携を実現するための 官民連携での取り組み 企業間・産業間の枠を越えた連携により生産プロ セスを最適化し、かつビジネスモデルを変革する「生 産革命」を実現するためには、各個社がオープン・ イノベーション戦略やオープン・クローズ戦略を実践 することと共に、全産業規模において、企業間、官民、 産学官での協力体制を整備することが求められる。 ドイツにおいては、I-4.0 提唱後、プラットフォー ムとなる組織体が結成され産学官連携が推進され てきた。その成 果 の 一つとして、2015 年にはイ ンダストリー 4.0 リファレンスアーキテクチャモデ ル (Reference Architecture Model Industrie 4.0 (RAMI 4.0)) が発表された。日本においても 2015 年以降、各種協議体、コンソーシアム等が設 立され、標準規格の検討、企業間・産業間連携の 可能性の模索、課題認識の整理と対応、実験的取 り組みの研究などが進められている。 ( 図 10)企業 内モデルだけでなく、直接的な市場競争環境・間接 的な市場競争環境に大きく影響を与える I-4.0 にお いては、各社個別・自前主義での対応では不十分で ある。企業の枠を越えた「繋がり」強化のための各 種標準の整備、業界コンセンサスの構築が期待さ れる。 前述のドイツにおける調査において、標準規格が 整備されていないことが I-4.0 推進上の主な懸念 事項の一つとして挙がっているように、企業間連携 によるビジネスモデル変革のためには規格の標準 化は不可欠である。言うまでもなく、グローバル化 が進むビジネス環境においては、当該領域に関す る標準規格も各国個別に制定されるべきものでは なく国際的な標準を整備していく必要がある。既 図10: 官民連携・産学官連携の取り組み 名称 (設立時期) 内容 ロボット革命イニシアティブ協議会 (2015 年 5 月 ) • 産学官連携 • ニーズ・シーズのマッチング、ベストプラクティスの共有・普及、国際プロジェクト、国の研究開 発機関等の利用、OB人材の活用、国際標準、データセキュリティ等 • IoT・ビッグデータ・人工知能時代に対応し、企業・業種の枠を超えて産官学で利活用を IoT・ビッ グデータ・人工知能時代に対応し、企業・業種の枠を超えて産官学で利活用を促進する IoT 推進コンソーシアム (2015 年 10 月 ) • 産学官学が参画・連携し、IoT 推進に関する技術の開発・実証や新たなビジネスモデルの創出 を推進するための体制を構築することを目的として、① IoT に関する技術の開発・実証及び標 準化等の推進、② IoT に関する各種プロジェクトの創出及び当該プロジェクトの実施に必要と なる規制改革等の提言等を推進する IoT 推進ラボ (2015 年 10 月 ) • ラボ 3 原則(成長性・先導性、波及性(オープン性)、社会性)に基づき個別の IoT プロジェク トを発掘・選定し、企業連携・資金・規制の面から徹底的に支援するとともに、大規模社会実 装に向けた規制改革・制度形成等の環境整備を行う。 • 定期的な支援委員会の会合と実験的なプロジェクトの選定 IVI - Industrial Value chain Initiative (2015 年 6 月 ) •“ゆるやかな標準”による IoT 時代の新たなネットワークづくりを目指す「インダストリー • ゆるやかな標準というコンセプトによってものづくりおける競争領域・協調領域を区別 • IVI レファレンス ( 参照 ) モデルとして蓄積し、データベース化。異なる企業間のさらなる連携 を加速させ、新たなバリューチェーンの形成を推進 日本の強みを活かす I-4.0 は、IoT 技術の進化・活用により生産モデル・ ビジネスモデルを大きく変えるものであるが、セン シング技術、通信技術、ビッグデータ・アナリティッ クスにとどまらず、ロボティックス・人工知能といっ た技術も変革の推進力において大きな影響を持つ。 日本は産業用ロボットの稼働台数において世界一 の 水準にある (2014 年 )。I-4.0 において、各種 ロボットの有効活用については日本が世界をリード していく分野と言える。2015 年には政府において 「ロボット新戦略」を取りまとめ、ロボット活用を推 進するために、官民を挙げて実証実験や規制緩和、 標準化、セキュリティ対策等を推進する動きがある。 EY に、ドイツが主導する I-4.0 のコンセプトに基づ く RAMI4.0 と、米国主導の Industrial Internet Consortium で定義する Industrial Internet Reference Architecture (IIRA) を 連 携させるプロ ジェクトが発足している。日本における協議会やコ ンソーシアムによって推進される規格の標準化、ま たは、業界リーディング企業が推進する規格設定に おいても、国際連携を進めていく必要がある。 EY Japan においても、産学官で連携したワーク ショップを開催し、 “すべての装置・機器はロボット 化する”社会における課題の整理と対応策の検討を 支援している。 (P.27 参照)また、人工知能 (Artificial Intelligence(AI)) のビジネス各分野における 適用方法をとりまとめている。国内外の人工知能技 術が、各企業の価値源泉にどのように寄与するかを 検討し、ビジネスモデルの変革・新規事業の創出に 取り組むことは、I-4.0 推進においても重要である と考えられる。 EY 24 インダストリー 4.0 - この捉えどころのないものの正体は? 25 インダストリー 4.0 - この捉えどころのないものの正体は? インダストリー 4.0 における サイバーセキュリティ 経営層の意識転換 制度環境面、技術面での変革とともに、製造業をは じめとする各業界の企業経営においても意識転換が 求められる。 日本がこれまで強みとしてきた、現場レベルでの改 善やすり合わせの手法は、引き続き競争力の源泉と して局所レベルでは有効性を持つが、企業間・産業 間の繋がりによりビジネスモデルの変革が求められ る状況下において、製品アーキテクチャや製造プロ セスの設計レベルにおいて個社仕様・自前主義のみ にこだわることは、I-4.0において後れをとり、メリッ トを享受できないというリスクもはらむ。企業間連 携における戦略的なオープン・イノベーションの推進 も含め、経営レベルでの意思決定・リーダーシップが 求められる部分となる。 「製品・プロダ また、前述のように、IoT/I-4.0により、 クト」のハードウェア価値から、モノに付随する「イン テリジェンス」 「ソフトウェア」や「システム」 「システ ムのシステム」が価値源泉となる中においては、単 に技術力の高さや製品ハードウェアの品質だけでな く、顧客・市場の求める価値に対応し適正コスト・プ ライスでの提供を行うよう、ポジショニングを再検 討するなどの対応も必要となる。 (図11) 図 11: 日本 日本 欧米諸国 欧米諸国 Quality ASIA諸国 ASIA諸国 より高 い 品 質を 追 求 するこ とから、適正な品質を維持す ることへ転換を図り、その分 の生産 Costを顧客満足度の 向 上( R&D 強 化 、提 案 型営 業の強化等)へシフトすべき Cost EY Cyber Physical System (CPS) 組織、国を超えた接続性から I-4.0では実世界(Physical System)からインターネ I-4.0では組織や国などロケーションを超え、制御シ ステムやクラウド、企業システムが連携して、複雑で 幅広い顧客のニーズを、タイムリーかつカスタムメイ ドされた製品やサービスの提供をもって実現する。 今まで閉鎖的なシステムで運用してきた工場からグ ローバルでオープンなシステムを基盤とする工場に 変革するには様々な障壁を乗り越えなければならな い。国を超えたシステムとなれば、各国の法令に遵 守した態勢を構築しなければならない。その一つと してプライバシー管理が大きなチャレンジになる。 ットに接続されているセンサーなどを介して、情報を サイバー空間(Cyber System)に転送し、そのデータ をビッグデータやクラウドなどを介して分析、処理し ながら工場を稼働させる。Cyber Physical System (CPS)である。 サイバー空間と実世界が結びつくことは、サイバー攻 撃から物理的なシステムに影響を及ぼす攻撃が可能 であると言うことである。例えばイランの核施設を 破壊することで利用されたウィルス「Stuxnet」はサ イバー攻撃から物理的なシステムを破壊した代表例 である。Stuxnetは核施設内の制御システムに感染 し、遠心分離機の回転数を上げることで核施設を破 壊することができた。この例からわかるように制御 システムを乗っ取ることで設備の破壊、製造工程の 改竄により製造物への品質の影響を及ぼすことが可 能になる。 また制御システムだけではなく、IoTなどセンサーを 取り巻く環境(センサー自体やセンサーデータの通 信路)に脆弱性があればセンサーから得られるデー タを改ざんすることができる。つまり偽のデータを 制御システムに転送することでシステムを停止させ たり、開始させたり、その操作により安全装置が解 除され、危険な状態になる可能性がある。 日本では2015年9月に改正個人情報保護法が成立 し、成立から2 年以内に施行される。購買履歴や位 置情報などグレーゾーンと言われていた個人を特定 できる情報も新たに個人情報の定義に加えられると 共に、デジタル化の時代の流れで考えられた要件も 加えられている。ビッグデータの利用を前提に考え られた匿名加工情報は個人情報を復元できないよ うにマスキングすることや、第三者間で個人情報を 共有する場合はトレーサビリティが求められる。特 にデジタル化時代のプラットフォームの代表格と言 える I-4.0では、ビッグデータやクラウドを活用した エコシステムにおけるプライバシーデータの取り扱 いが大きな課題となる。 EY 26 インダストリー 4.0 - この捉えどころのないものの正体は? 27 インダストリー 4.0 - この捉えどころのないものの正体は? ロボット政策に関する霞が関提言 2015 年 2 月 26 日 EY アドバイザリー株式会社 「すべての機器とあらゆる装置はロボット化する」有識者委員会 包括的な視点からセキュリティ態勢を考える I-4.0におけるCybersecurityを考えるに当たって は、C(Confidentiality:機密性)、I(Integrity:完 全性 ) 、A(Availability:可用性 )という情報セキュ リ ティ の 要 件 に 加 え て 、「 H e a l t h ( 健 康 ) 」 「Environment(環境)」とい 「Safety(安全性)」 った要件も考慮することが求められる。 グローバルでオープンな環境では、センサー、作動 装置を初めとする物理デバイスから制御システムま で全体的な環境について「技術」、 「プロセス」、 「 人」の観点を含めた包括的なセキュリティ対策を行 わなければならない。 制御システム、企業システムや物理デバイスに考え られるリスク、システムの運用から業務委託先、提 携企業との間で考えられるリスク、クラウドやビッ グデータなどの新興技術を活用することで生じる リスク等、多種のリスク要因と組織のビジネス価値 とのバランスをとりながら対策を検討することが出 発点となるが、多くの組織はどこから手をつけるべ きか悩んでいるのが現状である。 そのような状 態 へ の手助けとなるのは、標準・基 準、ベストプラクティスの活用である。制御システ ムの汎用的な標準・基準としてIEC62443が注目 され、 「管理・運用・プロセス」、 「技術・システム」、 「コンポーネント・デバイス」をカバーしている。ま たサイバーセキュリティ態勢強化に役立つ成熟度に 視点をおいたフレームワークとしてはアメリカ国立 標 準 技 術 研 究 所 ( N I S T ) が 提 供 して い る Cybersecurity frameworkも参考になる。EYで は主要な業界標準に適合させ、 汎用的なセキュリティ フレームワーク「Cyber Program Management (CPM)」を提供し、組織のセキュリティ態勢の強化を サポートしている。 以上のように、標準・基準やセキュリティフレーム ワ ー ク を 目 的 に 合 わ せ て 適 切 に 活 用 する こ と は、I-4.0 において多様化するサイバーリスクに対 応していくために有効である。 EY アドバイザリー株式会社及び妹尾堅一郎 特定非営利活動法人 産学連携推進機構 理事長を代表とする有識者委員会は、2015 年 2 月 26 日、「すべ ての機器とあらゆる装置ロボット化する」と題するシンポジウムを開催し、 日本の産業競争力維持・強化のための政策提言「ロボット政策に関する霞が関提言」 を以下の通り、取りまとめた。 1. ロボットをめぐる現状認識 • 欧米は、ドイツの Industry4.0 や GE の Industrial Internet、IBM の Smarter Planet 等に代表されるように、機器・装置の主導権がハードウェア からソフトウェアに移行していくこと、すなわち機器・装置の「ロボット」化を踏まえ、制御系の延長にある情報系(ログの蓄積・解析)、サービス系を俯 瞰した上で、新しい製造業を中核としたグローバルな産業生態系の絵姿を構想、提案している。この提案を通じて、新しい顧客価値を設計し、次世代製 造業の覇権を握る意図だと言えよう。 • 一方、我が国は、産業用ロボットをはじめ介護ロボットやサービスロボット分野においては一定のプレゼンスを有するものの、ハードウェア側の作業系の 高度化に力点が置かれ、機器・装置の「ロボット」化という文脈を踏まえた、制御系の重要性、あるいは情報系やサービス系の優位性に関する意識はま だまだ薄いように見受けられる。さらに、制御系と情報系が融合し「人工知能」が進化していくことについても、まだ充分な認識がなされていないので はないか。それは新たな顧客価値創出のダイナミズムを見失うリスクやグローバルな次世代製造業の覇権争いについて後れを取るリスクを孕んでいると も言えよう。 2. ロボットをめぐる産業上の問題と課題 • 問題:顧客価値の設計が不十分 人間の代替・補完・相乗さらには拡張・進化を実現していくロボットにも関わらず、顧客価値の設計(望ましさの追求)が不十分のまま、作業系の機能・ 技術的観点(実現可能性の追求)のみを優先し、そのまま事業化・製品化につなげてしまいがちである。 課題 : 「ロボット化」した機械・設備・装置の高度化(技術機能設計・部分最適)だけではなく、それらによるサービス提供時における顧客価値を実世界 で構想・企画する枠組み(価値設計・全体最適)を実現するために、次世代産業生態系の絵姿を俯瞰した戦略構築が必要。 • 問題:次世代産業生態系において主導権獲得意欲が不十分 ロボットのハードウェアである作業系の高度化のみに注力しがちで、制御系で主導権を握ることによって作業系を従属させるという「ロボット化」の必然 的展開に関する見通しが甘い。またログの蓄積・解析を握ることで情報系からサービス系に至るまでを把握すべきという発想はさらに薄い。 課題: 「ロボット」化した機械・設備・装置を中軸とした産業生態系全体における主導権を握るための全体を俯瞰した設計戦略構築が必要。 • 問題:次世代産業生態系を構築する人財が不十分 顧客価値の設計、産業生態系における主導権設計をできる人財がいない。また、制御系を司るソフトウェア人財やビッグデータ解析を司る解析系人財も これまた不足している。さらに、それらを融合して主導権を握る「人工知能」の開発人材も充分とは言えない。 課題:上記関連人財の戦略的な育成を長期・総合的な政策として支援することが必要。 3. 望まれる政策と施策 • 政策:機械・装置の「ロボット」化を起点とした我が国の産業全体におけるグローバルな競争力の維持・強化 • 施策:( 本リストは一例である。これらを今後さらに具体的・充実させていくものとする) 戦略 •「ロボット」化した機械・装置を中軸とした欧米の次世代産業生態系の本質を調査・研究して総合的な戦略提言レポートを作成する。それを起点として我 が国政府及び産業界に共通理解の基盤を構築する。 • それを起点として、「ロボット」化した機械・設備・装置を中軸とした我が国の次世代産業生態系構築のための具体的政策・施策とその実行プランを策定し、 毎年ローリングしながら実施を行う。 ファンディング • 次世代産業生態系構築のための戦略を実現するために、従来のシーズアウト的な研究助成ではなく、ニーズから設定された問題解決・課題達成に対する プライズ方式の資金的支援を、主に研究機関やベンチャー企業を対象に実施すること。 • ロボット」化した機器・設備・装置によるビジネスを推進するため、大企業や中小企業で導入する機器・設備・装置の購入の際に、政府からの支援を行い、 導入を促進すること。 【 参考情報 】 1. 「2015 年版ものづくり白書」(2015 年 6 月 9 日 ) 2. 「ロボット革命イニシアティブ協議会 IoT による製造ビジネス変革 WG 中間とりまとめ」 (2015 年 12 月 25 日 ) 3. ロボット革命イニシアティブ協議会 公開資料 (https://www.jmfrri.gr.jp/) 4. IoT 推進ラボ 公開資料 (http://iotlab.jp/jp/index.html) 5. IVI(Industrial Value Chain Initiative) 公開情報 (https://iv-i.org/) 6. 「文系でもわかる人工知能ビジネス」:EY アドバイザリー株式会社著、 日経 BP 社 (2016 年 2 月発行 ) :EY アドバイザリー株式会社著、 7. 「世界トップ企業の AI 戦略」 日経 BP 社 (2016 年 3 月発行 ) :EY アドバイザリー株式会社著、 8. 「人工知能の未来 2016-2020」 日経 BP 社 (2015 年 11 月発行 ) 9. EY NIST サイバーセキュリティ・フレームワーク (http://www.nist.gov/cyberframework/) 同日本語版(https://www.ipa.go.jp/files/000038957.pdf) 独立行政法人 情報処理推進機構 人材育成 • ロボット」化した機器・設備・装置によるビジネスの本質を理解し、顧客価値の設計、産業生態系における主導権設計をできるビジネスモデル(とそれを 支える知財マネジメント)ができる「軍師的」人財育成及びその活動を政策的に支援すること。 •「ロボット」化した機器・設備・装置によるビジネスの本質を理解し、研究開発を進めるロボット工学者、人工知能学者の人財育成及びその活動を政策的 に支援すること。 •「ロボット」化した機器・設備・装置によるビジネスの本質を理解し、制御系を司るソフトウェア人財や情報系司るビッグデータ解析系の人財育成及びその 活動を政策的に支援すること。 ●啓発イベント • 「アキバロボット運動会(パソロボ(パーソナルロボット主体))および「アキバロボット文化祭(生活支援ロボット主体)を復活させ、広く日本をロボット 拠点としてグローバルに認知させると共に、世界からの集合知を集めることを起動させる。あわせて、クールジャパンとして「ロボット・コンテンツ」の 豊かさをアピールし、日本のロボット文化の厚みを世界に発信していく。 • 国立科学博物館(東京・上野)で「ロボット科学展」を開催し、広く国民に「ロボット」の過去・現状・未来を学んでいただき、もって科学技術の可能性 とリスクについて啓発を行う。これを通じて、若い世代に新たな挑戦への意欲を培ってもらう。 EY 29 インダストリー 4.0 - この捉えどころのないものの正体は? Conclusion and Outlook 28 インダストリー 4.0 - この捉えどころのないものの正体は? EY 今後に向けて 読者の方へ 数えきれない用語、トレンド、見解により、I-4.0、デジタル化、IoT(モノのインタ ーネット)に関して絶え間なく移り変わる言説が形成されています。 用語とトレンドに関して、この調査における私たちの意図は、デジタル化された 世界における「トラベルガイド」となるロードマップを作ることです。— デジタル 化は、私たちが、この先数年にわたって引き続き取り組んでいくものですから。 本書の全ての読者・企業は、各自の見解を持つべきです。その最初の一歩とし て、自社の属する市場の現状と競争環境に対する客観的な振り返りが必要です。 競争は今や地域にとどまらず、世界中に渡っています。貴社自身のバリューチェー ンに横たわる可能性に、客観的かつ多面的に目を向けることが有効です。我々は この活動を「デジタルレディネスアセスメント(DRA)」と呼んでいます。デジタ ルを初めて導入しようとする企業、先進企業、またその間に位置する企業まで、 勿論それぞれ異なる視点、期待、要望を持たれることでしょう。 EYでは、デジタル化のための標準ツール集を開発しました。それを使い、我々の 理念である“Building a better ̶ digital ̶ working world“(より良い-〈 デジタル化された 〉- 働く世界を作ること)に向けて、貴社が計画を進められる ことをご支援し、実行段階まで伴走させて頂けるよう準備ができています。 ご連絡をお待ちしております。 EY 30 インダストリー 4.0 - この捉えどころのないものの正体は? 31 インダストリー 4.0 - この捉えどころのないものの正体は? 執筆者紹介 Stefan Bley Partner, GSA Advisory Services Ernst & Young GmbH Willy-Brandt-Platz 5 68161 Mannheim Tel +49 621 4208 17342 [email protected] Dr. Christoph Kilger Partner, GSA Advisory Services Ernst & Young GmbH Heinrich-Böcking-Straße 6–8 66121 Saarbrücken Tel +49 681 2104 18355 [email protected] Prof. Dr. Jochen Vogel Partner, GSA Transaction Advisory Services Ernst & Young GmbH Graf-Adolf-Platz 15 40213 Düsseldorf Tel +49 211 9352 24760 [email protected] * 本書は、ドイツ語版「Industrie 4.0 ̶ das unbekannte Wesen?」を 日本語翻訳し、加筆したものです。 [ 編集担当 ] オリジナル(19 頁まで、28 ∼ 29 頁) 原典執筆:Ernst & Young GmbH Wirtschaftsprüfungsgesellschaft 日本語版翻訳・監修:EY アドバイザリー株式会社 日本語版増補 (Indusry 4.0 in Japan) アミット・ランジャン 執筆編集:EY アドバイザリー株式会社 パートナー、Japanアドバイザリー・デジタルリーダー EYアドバイザリー株式会社 〒100-6029 東京都 千代田区 霞が関3-2-5 霞が関ビルディング 29階 Tel +81335031490 [email protected] EY 日本語版発行者 EY アドバイザリー株式会社 デザイン装丁 Medienmassiv, Stuttgart (medienmassiv.com) 写真提供 iStockphoto LP. (istockphoto.com) 一部 EY Photo Library より EY EY | Assurance | Tax | Transactions | Advisory EYについて EYは、アシュアランス、税務、トランザクションおよびアドバイザリーなどの分野にお ける世界的なリーダーです。私たちの深い洞察と高品質なサービスは、世界中の資本 市場や経済活動に信頼をもたらします。私たちはさまざまなステークホルダーの期 待に応えるチームを率いるリーダーを生み出していきます。そうすることで、構成員、 クライアント、そして地域社会のために、より良い世界の構築に貢献します。 EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバル・ネットワークであり、単体、もしくは複数の メンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミ テッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。詳しくは、ey.com をご覧ください。 EYアドバイザリー株式会社について EY アドバイザリーはEYメンバーファームです。常に変化するビジネスの最前線で活 躍する、さまざまな専門家が優れた知見と強力なグローバルネットワークを活用し、 幅広いクライアントの業績向上のためのアドバイザリーサービスを提供しています。 そうすることで、より良い世界の構築に貢献します。 詳しくはwww.eyadvisory.co.jpをご覧ください。 © 2016 Ernst & Young Advisory Co., Ltd. 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