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PM2.5 の人体への影響

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PM2.5 の人体への影響
病薬アワー
2013 年 6 月 3 日放送
企画協力:社団法人 日本病院薬剤師会
協
賛:MSD 株式会社
PM2.5 の人体への影響
虎の門病院呼吸器センター内科
部長
岸 一馬
●PM2.5の発生源●
本日は、
「PM2.5の人体への影響」についてお話します。
PM2.5については、今年1月に北京で非常に高濃度の観測値が記録されて、呼吸器疾患患
者の病院受診増加、工場の生産停止、建設工事の中止、交通事故多発、高速道路や空港の
閉鎖など、甚大な影響が報告されました。韓国や日本への越境汚染も懸念されています。
PMはParticulate Matterの略で、日本語では微小粒子状物質と呼ばれています。PM2.5とは、
大気中に浮遊する小さな粒子のうち、粒子の大きさが2.5μm以下の非常に小さな粒子のこ
とです。PM2.5の大きさをわかりやすく比較してみると、髪の毛の太さの約30分の1、スギ
花粉の約12分の1、細菌の約2分の1の大きさとなります。その成分には、炭素成分、硝
酸塩、硫酸塩、アンモニウム塩のほか、ケイ素、ナトリウム、アルミニウムなどの無機元
素などが含まれています。
PM2.5には、物の燃焼などによって直接排出される一次生成と、環境大気中での化学反応
により生成される二次生成があります。
一次生成粒子の発生源には、ボイラーや焼却炉などばい煙を発生する施設や自動車から
の排気ガスなど人為由来のものと、黄砂、火山などの自然由来のものがあります。また、
家庭内でも、喫煙や調理、ストーブなどから発生します。
二次生成粒子は、火力発電所、工場・事業所、自動車、家庭などの燃料燃焼によって排
出される硫黄酸化物や窒素酸化物、森林などから排出される揮発性有機化合物などのガス
状物質が、大気中で光やオゾンと反応して生成されます。
●国により異なるPM2.5の環境基準●
PM2.5には環境基準が設定されていますが、国によって値が異なります。日本や米国の
PM2.5の環境基準は、年平均値が15μg/m3以下、かつ1日平均値が35μg/m3以下ですが、中
国では、年平均値が35μg/m3以下、1日平均値が75μg/m3以下で、日本の約2倍となってい
ます。日本では、工場などのばい煙発生施設の規制や自動車排出ガス規制などにより、PM2.5
の年間の平均的な濃度は減少傾向にあります。しかし、今年1月から2月初めにかけて西
日本を中心として一時的にPM2.5濃度の上昇が観測され、中国で発生した高濃度のPM2.5の
影響を受けているものと考えられました。PM2.5濃度は季節による変動があり、例年、冬か
ら梅雨前にかけて上昇する傾向がみられ、夏から秋にかけては比較的低く安定した濃度が
観測されています。お住まいの地域のPM2.5濃度を知りたいときには、環境省の大気汚染物
質広域監視システム「そらまめ君」のサイトをご覧になってください。
米国や中国では、PM2.5などの大気汚染物質の濃度により大気質指数(Air Quality Index)
を発表し、指数別の健康影響やその対策を示しています。ただし、米国と中国では、PM2.5
濃度と大気質指数の相関が異なりますので、注意してください。
最近、環境省では、都道府県などの自治体が住民に対して注意喚起をするための「暫定
的な指針となる値」として、
「1日平均値70μg/m3」を定めました。これは、PM2.5濃度が
これを超えると健康影響が生じる可能性が高くなると考えられる濃度水準です。この濃度
を超えたからといって、すべての人に必ず影響が生じるということではありませんが、自
治体から注意喚起が出された場合には、不要不急の外出や屋外での長時間の激しい運動は
できるだけ減らし、換気や窓の開閉を必要最低限にしてください。特に、小児や高齢者、
もともと呼吸器や循環器疾患のある人は、体調に応じて、より慎重に行動することが望ま
れます。小児は、外で過ごす時間が長く活動レベルが高いこと、体重や肺表面積あたりの
PM2.5の曝露量が大きいと考えられること、肺の発達への影響は不可逆的と考えられること
から特別の配慮が必要です。
●マスクと空気清浄機を使用する際のポイント●
PM2.5の吸入を減らす方法として、マスクや空気清浄機が挙げられます。
マスクには、インフルエンザや花粉症対策などで使用する様々な一般用マスクがありま
すが、PM2.5に対しては、
「N95」や「DS1」、
「DS2」という規格の高性能な防塵マスクが有
効です。マスクは顔に合ったものを、空気が漏れないように着用しなければ十分な効果は
期待できません。なお、これらの高性能な防塵マスクは、着用すると少し息苦しい感じが
するので、長時間の使用には向いていません。
空気清浄機の使用に関しては、フィルターの有無や性能など機種によって有効性が異な
るため、詳しくは製品表示や販売店・メーカーに確認してください。空気清浄機は部屋の
サイズに適したものを選択し、説明書に従い、フィルターの清掃や交換が必要です。
●PM2.5は極小粒子のため健康に様々な影響を及ぼす●
粒子状物質の健康への影響ですが、粒子の大きさが10μm以上の場合、鼻などの上部気道
に沈着してしまいます。スギ花粉は大きさが約30μmのため、多くは鼻に沈着し、アレルギ
ー症状を生じます。10μmより小さな粒子は、鼻を通って肺の中に入ります。PM2.5はとて
も小さな粒子のため、鼻から気管、気管支を経て、肺の奥にある肺胞に到達して、そこに
炎症を起こし、呼吸器や循環器疾患のリスクを上昇させると考えられています。
PM2.5を含む大気汚染物質の曝露と健康影響は、時間的観点から分類されます。大気汚染
曝露は、その曝露時間が数時間から数日間の短期曝露と、それよりも長い数カ月から数年
以上の長期曝露に大別されます。一方、健康影響は曝露から出現までの時間が短く突然発
症する急性影響と、長期間にわたり続く慢性影響に分類されます。急性影響としては、喘
息発作、急性心筋梗塞などがあり、慢性影響としては、徐々に進行する動脈硬化や肺がん
などが挙げられます。
PM2.5による短期曝露影響として、高濃度のPM2.5曝露により当日あるいは翌日の死亡リ
スクが上昇することが、欧米を中心とする多数の国から示されています。また、喘息発作、
慢性閉塞性肺疾患(COPDとも呼ばれます)の増悪、肺炎、気管支炎などの呼吸器疾患や、
急性心筋梗塞、脳卒中、心不全などの心血管系疾患による救急受診や入院の増加が認めら
れています。このような重大な健康影響としての死亡や病気の発症・増悪に至らないまで
も、PM2.5の短期曝露により咳嗽や喀痰などの症状や呼吸機能の変化が報告されています。
長期曝露影響として、肺がんを含む呼吸器疾患や循環器疾患による死亡のリスクが上昇
することが多くの疫学研究で示されています。また、濃度上昇により、喘息や慢性閉塞性
肺疾患の罹患率が高くなることが報告されています。呼吸機能への影響として、カリフォ
ルニア州の小児を対象とした研究では、10歳から18歳までの8年間の追跡により、濃度が
高い地域の肺機能の成長率が低濃度地域よりも低いことが報告されました。
●たばこの煙はPM2.5●
最後に、たばことPM2.5についてお話したいと思います。たばこの煙はPM2.5に相当しま
す。たばこの煙には、喫煙者が吸い込む主流煙と、たばこの先端から立ち上がる副流煙が
あります。たばこの煙には多くの有害物質が含まれていますが、主流煙よりも副流煙に有
害物質が高濃度に存在します。喫煙は肺がんの最大のリスク因子で、喫煙者の非喫煙者に
対する肺がんの相対リスクは、日本人では約4倍です。また、副流煙を吸入する受動喫煙
でも肺がんになるリスクは1.2倍程度増加します。全席喫煙の飲食店や喫煙室内のPM2.5濃度
は数百μg/m3に及ぶことが報告されています。たばこはPM2.5の塊であり、喫煙者はまず禁
煙することが何よりも大切です。
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