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新しいライフスタイルの創出と 地域再生に関する調査研究
平成18年度 内閣府委託調査 新しいライフスタイルの創出と 地域再生に関する調査研究 報告書 平成 19 年 2 月 財団法人 日本総合研究所 はじめに 本報告書は、内閣府の平成 18 年度委託調査「新しいライフスタイルの創出と地域 の再生に関する調査研究」における調査内容を取りまとめたものである。 地域の活力・再生の鍵は、従来の生産・消費・流通などの経済活動から、新し いライフスタイルの創出による知的・文化的行為に視点を移すことでもたらされ ると考える。 現在、私達の生活は情報化を含む様々な技術発展に支えられ、ますます多様化して いる。一方、地域の活性化を測るものさしは、変わることなく経済活動を中心に作ら れてきたと言える。地域再生の出発点を、経済活動ではない別の視点、つまり地域の 人々の暮らし・ライフスタイルそのものに置くことで、今後の少子・高齢化時代にお ける地域再生の取り組みに活路が見出せるのではないか。 このような問題意識から、本調査では「新しいライフスタイルの創出」が「地域再 生」をもたらすメカニズムを明らかにすることを目的とし、調査研究委員会、及び千 葉県・北海道それぞれにおいて特定地域検討委員会を立ち上げ、文献調査及び現地ヒ アリング等を行った。 本報告書では、文献調査、委員会での議論及び現地視察から、新しいライフスタイ ルに対する考察、及び今後の地域再生のための考察・提言を取りまとめている。本報 告書が、今後の地域再生事業の更なる発展の一助となれば幸いである。 なお、本調査にあたっては、行政担当者、NPO 関係者、有識者など、地域再生事 業に関わる多くの方々にご協力頂いた。ご多忙の中、現地視察を快く引き受けて頂い た事業者・団体代表者も多く、ご協力頂いた皆様に心より感謝申し上げたい。 平成 19 年 2 月 財団法人日本総合研究所 所長 西藤 冲 目 次 はじめに 目次 I:「新しいライフスタイルと地域再生に関する調査研究」報告書 第1章 調査概要 ·················································1 1−1:調査背景と目的 ------------------------------------------- 1 1−2:調査概要 ------------------------------------------------- 1 1−3:事務局 --------------------------------------------------- 3 第2章 中期的未来の展望 ∼生活を取りまく環境の変化∼ ·················4 第3章 日本におけるライフスタイルの現状 ∼理想と現実のギャップ∼ ···············11 3−1:「ライフスタイル」とは ------------------------------------ 11 3−2:ライフスタイルを形成するもの− --------------------------- 12 3−3:幸福の構造とライフスタイル ------------------------------- 13 3−4:仕事に対する意識・時間の使い方から見るライフスタイル考察 ∼統計資料から∼ - 14 3−5:ライフスタイルにおける様々なギャップ --------------------- 25 3−6:ライフスタイルのギャップを埋めることが地域の再生へつながる --------------------- 27 第4章 新しいライフスタイルと地域再生のメカニズム ···············29 4−1:新しいライフスタイルへの期待と現実のギャップ ------------- 29 4−2:ライフスタイルと共益の形成・追求 ------------------------- 32 4−3:生活の場としての地域と地域再生 ∼場の形成とデザイン∼ --- 32 4−4:地域再生のメカニズム ------------------------------------- 34 4−5:ギャップを埋め、地域再生を図るきっかけとしての 「食」の可能性 ------------------------------------------- 34 4−6:ケーススタディー(北海道、千葉県の食を中心に) ----------- 37 4−7:ケーススタディー参考資料 ∼「食・食文化」を通した地域再生事例(北海道)∼ ----- 46 ∼「食・食文化」を通した地域再生事例(千葉県)∼ ----- 57 第5章 新たなライフスタイル創出と地域再生のための政策展開 ·······60 5−1:政策展開の目的・基本姿勢 --------------------------------- 60 5−2:ケーススタディーからの考察 ------------------------------- 61 5−3:ライフスタイルの様々なギャップを埋める政策展開 ----------- 63 II: 「新しいライフスタイルと地域再生に関する調査研究」参考資料 1. 第1回調査研究委員会・第1回千葉県特定地域検討委員会・ 第1回北海道特定地域検討委員会議事概要 ------------------------- 71 2.第2回北海道特定地域検討委員会議事概要 ------------------------- 80 3.第2回千葉県特定地域検討委員会議事概要 ------------------------- 87 4.第2回調査研究委員会議事概要 ----------------------------------- 94 5.第3回調査研究委員会議事概要 ----------------------------------- 103 I:「新しいライフスタイルの創出と 地域再生に関する調査研究」 報告書 第1章 調査概要 1−1:調査背景と目的 地域の活力・再生の鍵は、生産、流通、消費等の経済行為というより、新しいライフス タイルの創出による知的・文化的行為であると考える。 中期的未来(2020∼30 年まで)を展望すると、生活水準の向上面で、金銭以外の価値が 一層重視される傾向にあり、少子・高齢化がさらに進むなど、ほとんどの地域で人口が減 少し、自立のためのアイデアや熱意の差により地域格差は拡大し、かなりの集落が消滅す ると思われる。このような展望の下での地域再生の枠組は、知的・文化的価値を指向する 新しいライフスタイル、例えば、健康で持続的なライフスタイル(ロハス、LOHAS:Lifestyle Of Health And Sustainability)、芸術・文化指向型ライフスタイルなどによって決定的な 影響を受けるであろう。 このような観点から、今回の調査研究では、未来社会の展望下での新しいライフスタイ ルのイメージを検討するとともに、新しいライフスタイルによる地域再生実現のメカニズ ムを明らかにし、今後の新たなライフスタイル創出のための政策展開のあり方についても 検討し、地域再生の推進に役立てていくことを目指すものである。 本調査研究では、このような考え方に基づき、以下の課題に取り組む。 (1) 新しいライフスタイルのイメージ検討。 (2) 新しいライフスタイルによる地域再生実現のメカニズムの検討。 (3) モデル地域(千葉県及び北海道)によるケーススタディーの実施。 (4) 新たなライフスタイル創出のための政策展開(国民生活政策のあり方、男女共同参 画のあり方等を含む)。 (5) 新しいライフスタイルに対応した暮らしの幸福感、満足度把握指数のあり方の検討。 1−2:調査概要 (1) 調査研究委員会の開催 調査の方法論、調査研究結果について専門的立場の意見を求めるために、調査研究委 員会を設置する。 I 委員リスト 座長 齋藤 隆氏 ((株)NTT データライフスケープマーケティング 1 代表取締役社長) 荒牧 麻子氏(ダイエットコミュニケーションズ 小瀧 歩氏 小室 淑恵氏((株)ワーク・ライフバランス (ロハスクラブネットワーク 代表) 代表) 代表取締役社長) II 委員会開催日程 第1回 2006 年 11 月 1 日(水) 第2回 2006 年 12 月 25 日(月) 第3回 2007 年 2 月 7 日(水) (2) モデル地域ケーススタディー 新たなライフスタイル創出が地域再生をもたらすメカニズムについて、特に食生活の ライフスタイルの変化に着目し、特定地域検討委員会の開催、現地視察およびヒアリン グ調査などを中心としたケーススタディーを行う。モデル地域として、千葉県と北海道 を選定する。 I 特定地域検討委員会の開催 A.千葉県特定地域検討委員会 a. 委員リスト 座長 荘司 久雄氏 内海崎 (千葉県総合企画部 理事) 貴子氏(川村学園女子大学 教授) 斉藤 剛氏 ((財)千葉県文化振興財団 高田 実氏 ((株)サンケイビル 理事長) 社長室長・執行役員) b. 委員会開催日程 第1回 2006 年 11 月 1 日(水) (第 1 回調査研究委員会と合同開催) 第2回 2006 年 12 月 14 日(木) B.北海道特定地域検討委員会 a. 委員リスト 座長 越膳 百々子氏((株)食のスタジオ 工藤 一枝氏 竹本 アイラ氏((有)PLAN-A 西村 弘行氏 代表取締役) (ペッカリィ(株) 代表取締役) 代表取締役) (北海道東海大学 2 学長) b. 委員会開催日程 第1回 2006 年 11 月 1 日(水) (第 1 回調査研究委員会と合同開催、東京都内開催) 第2回 2006 年 11 月 16 日(金) II 現地視察 千葉県内・北海道内において、ライフスタイルや地域再生の分野で特徴的な取 組みを行っている自治体や団体、企業などを下記の通り訪問先として選定した。 <北海道> ・ 砂川市(すながわスイートロード) ・ 札幌市(さっぽろスタイル) ・ NPO コンカリーニョ <千葉県> ・ 道の駅「とみうら」 III ヒアリング調査 ケーススタディーの取りまとめを行なうにあたり、補足的なヒアリング調査を 行った。 ・ 小室淑恵氏((株)ワーク・ライフバランス 代表取締役) ・ 佐藤勇氏(I love Yokohama 代表) (3) Web・文献調査 論点を整理するため、Web・文献調査を行った。 1−3:事務局 (財)日本総合研究所 特別研究本部 担当:斉藤・藤川 〒102−0082 東京都千代田区一番町 10-2 一番町 M ビル 7F tel: 03-5275-1570 fax: 03-5275-1569 E-mail: [email protected] URL: http://www.jri.or.jp 3 第2章 中期的未来の展望 ∼生活を取りまく環境の変化∼ 私たちの生活は家庭環境・経済状態・人間関係など、環境の変化から大きな影響を受け ている。少子高齢・人口減少時代に突入した現在、生活を取り巻く環境は、劇的な変化を 遂げている。 ここでは、生活を取りまく環境において、どのような変化が起きているのか、特にライフ スタイルに影響を与える重要な要因として「人口と国土」、「情報通信技術とコミュニ ケーション」 、「職」 、「住」について整理し、中期的未来における生活を展望する。 【人口と国土】 日本の総人口は 2005 年に減少に転じ、1899 図2−1 総人口の推移(死亡中位)推計 年に統計を取り始めて以来、初めて出生数が死 亡数を下回る自然減となった(図2−1)。国 立社会保障・人口問題研究所の推計(2003 年 12 月)によれば、2030 年には、3 分の 1 以上 の自治体が人口規模 5 千人未満に、また、2025 年から 2030 年にかけては 9 割以上の自治体で 人口が減少、このうち、2000 年に比べ人口が 出典: 「日本の将来推計人口」 国立社会保障・人口問題研究 所(2006 年 12 月推計) 2 割以上減少する自治体は半数を超える。 年齢別の人口では、現在 65 歳以上の人口は 21%を超え、欧米を上回るスピードで高齢化が進んでいる。2030 年には、総人口に占め る老年人口(65 歳以上)割合 40%以上の自治体が 3 割を超え、年少人口(0∼14 歳)割合 10%未満の自治体が 3 割を超えるとされている(図2−2、2−3) 。 図2−3 年齢3区分別人口割合の推移 (出生中位・死亡中位)推計 図2−2 年齢3区分別人口の推移 (出生中位・死亡中位)推計 出典: 「日本の将来推計人口」国立社会保障・人口問題研究所(2006 年 12 月推計) 4 2030 年には、三大都市圏が全人口の約半分を占め、地方圏特に農山村地域の人口減少・ 高齢化は厳しく、耕作放棄地や放業放棄森林が増大、集落機能が低下する地域が増えるだ けでなく、かなりの集落が消滅の危機に瀕する(図2−4,2−5) 。 図2−4 国勢調査人口の推移 出典:平成 18 年総務省 図2−5 都道府県人口の増加率 出典:国立社会保障・人口問題研究所(平成 14 年 3 月推計) 5 【情報通信技術とコミュニケーション】 90 年代以降、インターネットや電子メールなどの情報通信技術(ICT)の急速な発展に より、生活の様々な場面でインターネットを利活用するようになった(図2−6)。情報の 収集や共有が容易になっただけでなく、これまで情報の受け手であった市民が、情報発信 者として活躍できる機会が大きく広がった。 また、距離や時間を気にすることなく世界各地と自由にコミュニケーションが取れるよ うになった。これにより、「遠くの友人との連絡」「疎遠になっていた人との連絡」が容易 になったことに加え、「面識のない人との交流」という新しい形態の「つながり」が生まれ るようになった(図2−7)。 地域社会の「つながり」が希薄になったと言われる一方で、ブログや SNS(ソーシャル ネットワーキングサービス)の普及などにより、新しい「つながり」は地域、世代、職業 等に縛られず、興味・関心や問題意識(好縁・志縁)によって結ばれる「弱いつながり(Weak Ties)」として急速に拡大し、つきあい(関係)のあり方や生活行動に大きな影響を与えて いる(図2−8)。「弱いつながり」は消滅し易いという危うさを持つ反面、多様な関係の 構築を可能にし、主体的に働きかけることによって様々な機会を得ることができる。また、 コミュニケーションを通じて、信頼や規範が醸成されれば、より強いつながりへと発展す る可能性もある。 図2−6 生活時間におけるインターネット利用 出典:平成 16 年版情報通信白書 6 図2−7 インターネットの利用によるコミュニケーションの変化 出典:平成 12 年度国民生活白書 図2−8 インターネットの社会的影響 出典:ネットワークと国民生活に関する調査(ウェブ調査)、平成 17 年版情報通信白書 7 【職】 産業構造を見ると、産業別 15 歳以上就業者数の割合は、昭和初期には 2 人に 1 人が第 一次産業従事者であったのに対し、現在では 20 人に 1 人となり、昭和 40 年代∼60 年代に 最盛期を迎えた第二次産業も 3 人に 1 人から、 現在では 4 人に 1 人へと減少を続けている。 これに比べ、第三次産業の就業者数は増加の一途をたどり、現在では 3 人に 2 人が従事す るようになり、日本の産業構造は大きく変化している(図2−9)。特に、情報通信技術の 発展により、インターネットショッピングに代表されるような売り手と買い手の直接商取 引が増加し、Web2.0 と呼ばれる現象によって、新しいビジネスモデルの創出やサービス業 の発展に大きな影響を及ぼしている(図2−8)。 戦後の経済成長期においては、大量の若年労働者が地方から都市へと仕事を求めて移動 するなど、仕事は生活を支える収入源として、生活の場所を左右する重要な部分を担って きたが、今後は自分の生活にあった地域と働き方を模索する試みや、起業によって自分ら しい仕事の追求や新しい事業への挑戦、複数の仕事に携わる働き方(マルチワーカー)な ど、収入を伴わないボランティア活動を含めて、働き方が多様化すると思われる。労働者 人口の減少が懸念される環境においては、働き方の多様化によって、働く意欲のある女性 や高齢者の活躍の場も広がるだろう。 図2−9 産業別 15 歳以上就業者の割合の推移 出典:総務省統計局 8 平成 17 年国勢調査速報 【住】 世帯数は増加傾向にあるが、一世帯あたりの平均世帯人員は、2005 年で 2.68 人と減少 の一途を辿っている(図2−10) 。高齢者の独立志向の高まりから、高齢単独世帯と夫婦 のみ世帯が大幅に増えており、以降も世帯数の増加はしばらく継続する(図2−11、 2−12)。 世帯人数の減少は、生活面での分担が増加することを意味しており、必然的に人の助け を必要とすることになる。今後は、コーポラティブ住宅やグループホームなど、個の生活 を重視しつつも、生活の一面を協同によって支え合う生活が増加すると思われる。 図2−10 世帯数と平均世帯人員の年次推移 出典:平成 17 年国民生活基礎調査 9 図2−11 老後生活における子どもとの同居についての意識 出典:平成 18 年版国民生活白書 図2−12 60 歳以上の者のいる世帯の割合 出典:平成 18 年版国民生活白書 10 第3章 日本におけるライフスタイルの現状 ∼理想と現実のギャップ∼ 3−1:「ライフスタイル」とは 「ライフスタイル」という言葉の意味するところは非常に幅広く、衣・食・住に関する 選択の結果という単なる生活様式・行動様式だけでなく、人生観・価値観・習慣などを含 めた個人の生き方・アイデンティティーなども含まれる(『大辞林』 ・『大辞泉』等より)。 しかし、過去におけるライフスタイル研究・分析を見ると、Japan-VALS 等、マーケテ ィングを目的として消費行動に注目したものが多く、また一方で人々の価値観・生き方に 関しては、行政が行う「生活選好度調査」などに代表されるアンケート調査が多い。この 2 つの「ライフスタイル」をつなぎ合わせ、人々のライフスタイルが地域コミュニティや社 会にどのようなインパクトを与え、また逆に、社会のあり方によって地域における人々の ライフスタイルがどのような影響を受けているのか、という視点に立った研究・分析を見 つけることは難しい。 2002 年頃、「ロハス(LOHAS:Lifestyles of Health and Sustainability)」という、「環 境や健康に配慮した新しいライフスタイル」が日本に紹介され、LOHAS 層と呼ばれる環 境・健康関心が高く、実際に行動に移すことができる人々が注目されるようになってきた。 「健康意識が高い」「多少値段が高くても、無農薬・有機栽培の食品や、エコロジー商品を 購入する」等の特徴を持つこの LOHAS 層は、20∼30 代の女性が中心であり、様々な業界 が多くの「ロハス関連商品」を販売している。 しかしながら、LOHAS は一時期ブームを巻き起こしたものの、現在は商品開発を行う企 業がその担い手の中心となり、LOHAS 層はその受け手として存在しているものの、将来の 地球環境や社会の持続可能なあり方を共に考え、地域社会で環境・社会問題に取り組んで いこうという、LOHAS 本来の基本的な考え方を広める大きな流れまでには発展していない。 ここでも、「ライフスタイル」における「(消費)行動」と「生き方」という二つの面が、 個別に捉えられている現象が見られると考えられる。 本調査の目的は、地域社会の活性化と、人々のライフスタイルとの関係のメカニズムを 探ることであり、上記の二つの面のどちらが欠けても不十分である。そこで本章では、ラ イフスタイルを形成するものを考察し、次に、ライフスタイルに関する従来の統計資料か ら、「働き方」・「時間の使い方」に特に注目することによって、志向するライフスタイルと 現実とのギャップがあることを確認し、続けてライフスタイルの様々な場面における ギャップを考察する。まとめとして、これらのギャップを埋め、地域社会において人々が 生き生きとしたライフスタイルを送れるよう環境を整えることが、地域社会の再生につな がるであろうことを提言する。 11 3−2:ライフスタイルを形成するもの 前項で、ライフスタイルには二つ の面があると述べたが、もう一つ深 く掘り下げると、 「志向」 ・ 「嗜好」 ・ 「環 境」・「行動」の 4 つの面で構成され るのではないかと考えられる。 a「志向」とは、ある人が、どのよ うな事柄・社会問題に関心を持って ライフスタイルを構成する4つの要素 a 志向:何に関心があるのか。 b 嗜好:何に喜びを感じるのか。 c 環境:社会的条件・制約 d 行動:実際に何を消費し、どのように暮ら すのか。 いるのか、ということである。 「環境 に優しい暮らしを送りたい」、「安心 して子育てができる社会が欲しい」、「もっとお金持ちになりたい」など、人はそれぞれ個 別の関心分野を持っている。 この関心分野は、何も無いところから、本人の素地だけによって生み出されるものでは ない。本人が生まれ、育った家庭や地域社会、またその時代の流行など、様々な社会条件 により形成されるものである。 b「嗜好」は、 「何に喜びを感じるのか」である。 「環境に優しい暮らしを送りたいが、自 動車は手放せない」、「働きながら子育てをしたいが、親の助けは借りたくない・借りられ ない」など、志向するライフスタイルはあっても、実際にそれを行う上での嗜好が存在す る。これも、様々な社会条件により左右されるものである。 いわゆる「ロハスブーム」は、「志向」と「嗜好」とのギャップに上手く入り込んだライ フスタイルを提唱したのではないかと考えられる。環境には優しくしたいが、現実の便利 な生活は手放し難いと考えていた人々に、「自分自身の心地よさは捨てなくて良い」と、免 罪符を与えたのではないか。しかしながら結果として、積極的に環境問題を解決していこ うという社会的運動までには発展しなかった。 c「環境」は、実際に本人を取り巻く社会的条件や制約である。目指すライフスタイルが あり、自分が喜ぶ方法を知っていても、人々を取り巻く環境は性別・年代・場所・時代に よって様々に変化する。環境は、ただそこに漠然と存在しているのではなく、本人の「志 向」と「嗜好」を叶えるために、目的を持って努力し、自ら整えることができる場合もあ るであろうし、本人・家族・地域社会に起こる突発的な事故や病気によって、本人の希望 に関わらず厳しくなる場合もある。 d 行動とは、「実際に何を消費し、どのように暮らすのか」、ということである。実際に 暮らしを展開するためには、自分の志向・嗜好を踏まえつつも、環境と照らし合わせ、様々 な点で妥協を図ることになる。行動の結果、自分のライフスタイルに対する満足感が生ま れることもあるであろうし、後述するような様々なギャップも存在する。 12 3−3:幸福の構造とライフスタイル 前述の 4 つの要素は、 「a 志向」が始まりで「d 行動」がゴール、という一方方向のもの ではない。a → d → a と、常に循環し、またはお互いに影響を及ぼしていると考えられる。 行動することで生まれる新たな「志向」や「嗜好」が、高次、もしくは全く違った「環境」 を生み出し、今までのライフスタイルでは思いもよらなかった「行動」につながることも あるだろう。 ここでは、この循環を人々が感じる「幸福の構造」とする。a∼d の領域を形作るものは 人それぞれに異なるものであり、また地域や国によっても異なるものである。しかし、こ の循環の輪が適切に回っていると、 「満足が得られるライフスタイルを送っている」と感じ られる、幸福感の高い状態と言えるのではないか。 a 志向 b 嗜好 d 行動 幸福の構造 ライフスタイ ルに対する 満足感・達成感 c 環境 政府の役割 この輪を適切に循環させるためには、ライフスタイルに対する希望(a&b)と、実際の 行動間にある「環境」を整えることが大切である。この環境とは、単に社会的な情勢だけ ではない。同じような困難な状況に置かれても、自力で乗り越えられる人と、助けを必要 とする人もいる。前者のような人々を増やすための人材育成、また、後者のための援助シ ステムづくり、または困難な状況自体の解消など、この分野において政府や行政、地域の 力は多いに期待されるとことである。 特に、本調査の目的である「地域再生」に目を向けた時、個々人によるライフスタイル の適切な循環が、地域社会の発展につながることが望まれる。様々な援助の方法が、個人 の能力のみに特化したものではなく、地域社会と人々の暮らしとの関係をつなぎ直すきっ かけとなるようにすることが必要なのではないだろうか。 次の項目では、具体的な地域再生との関係や政策提言の基礎となる、ライフスタイルに 関する従来の統計資料を概観する。 13 3−4:仕事に対する意識・時間の使い方から見るライフスタイル考察 ∼統計資料から∼ 具体的な個々のライフスタイルを考察しようとすると、育った環境、住む場所、住宅の 形態、仕事の場所、仕事の種類、性別、ライフステージ、消費傾向等、様々な要素が入り 込む。今回の調査でこれらを網羅し、日本人のライフスタイルそのものを詳細に分析する ことは難しいため、今回はライフスタイルに対する考え方や時間の使い方に焦点を絞り、 統計資料を見てみたい。 a ライフスタイルに対する意識 個人と社会との関係性が変化している、と言われている。かつて、 「住む場所」と「働く 場所」が同じ地域の中にあり、日々の暮らしの活動範囲が比較的狭かった時代には、自治 会・町内会などの「地縁」により人々がつながり、地域社会を形成していた。しかし現在、 多くの人々がサービス業にて生計を立てるようになり、「住む場所」から「働く場所」へと 通勤するようになった。昼間の多くの時間を「働く場所」で過ごすため、近所の商店や人々 とのつながりは次第に薄れてきた。従来の人と「地域社会」との関係性が変化している中、 人々が社会や個人の暮らし方についてどのような意識を持っているかについては、例えば 下記のような統計により表されている。 例1:「社会志向か個人志向か」(図3−1) (『社会意識に関する世論調査』内閣府、2007 年 1 月実施) 2007 年 1 月の調査では、 「国や社会のことにもっと目を向けるべきだ」と考える「社 会志向」の人々の割合は 51.0%で、 「個人の生活の充実をもっと重視すべきだ」と考え る人々の割合(32.9%)を上回る。 14 図3−1 社会志向か個人志向か 資料:「社会意識に関する世論調査」(内閣府 2007 年 1 月) 注)社会志向は「国や社会のことにもっと目を向けるべきだ」、個人志向は、「個人生活の充 実をもっと重視すべきだ」との選択肢。 例2: 「日本人の暮らし方」 (図3−2) (『国民性の研究』統計数理研究所、2003 年実施) 過去 50 年の暮らし方に対する意識の変化をみると、「金や名誉を考えずに、自分の 趣味にあった暮らし方をする」や「のんきにくよくよしないで暮らす」といったマイ ペース型の暮らし方を指向する傾向が強くなっている。 図3−2 日本人の暮らし方 15 例3:「これからの生活の力点の推移−高まる余暇生活への志向」(図3−3) (『レジャー白書』財団法人社会経済生産性本部、2006 年) 過去 25 年程度の、生活の力点をどこに置くかということに関する意識の推移をみる と、「レジャー・余暇生活」が 30%代という高い推移を示している一方、過去 10 年は 「食生活」の意識が高くなってきており、この背景には、食の安全・安心に対する意 識の高まりや、「食育」などを通した食文化への意識の変化が考えられる。 図3−3 これからの生活の力点の推移−高まる余暇生活への志向 上記の例からは、地域社会へも目を向けるべきであると感じつつ、自分自身の「ライフ スタイル」を確立したいという、「社会」対「個人」という二者択一ではない、暮らし方へ の願望が読み取れる。一方社会全体に目を向けても、NPO 数の増加やボランティア活動に 関わる人々の増加は著しく、人々のライフスタイルと地域社会とのつながりは改めて見直 されているのではないだろうか。 b 仕事・余暇に対する意識 自分なりのライフスタイルを確立する上で、 「働き方」は非常に重要な要素である。近年、 「ライフ・ワークバランス」という言葉が様々な場面で取り上げられるようになってきて いる。 「ライフ・ワークバランス」とは、 「仕事と私生活をバランスよく両立させること」 ((株) ワーク・ライフバランス HP より)である。かつての日本では、特に男性の場合、一度仕 事を持てば、会社や事業の発展に生活の中心を置くよう期待されてきた。しかし一方で、 長時間労働やストレスによる過労死が社会問題化し、また、働く女性が増えることにより 従来の「働き方」に対する見直しが社会で必要とされてきている。 一方地域社会の現状を見ると、現在町内会などの地域活動に参加する人々は、高い年齢 層などに限られることが多く、特に遠方に働き場所を持つ若い世代からは遠い存在となっ 16 ている。人々が家庭生活を見直すことによって、家庭生活と地域社会との関係性を再認識 し、様々な世代が男女問わず、地域活動に参加することが地域の再生につながるであろう と考えられる。 ここで実際の働き方や余暇時間に関する統計を見てみると、下記のようなものが挙げら れる。 例1:「仕事と余暇のどちらを重視するか」(図3−4) (『レジャー白書 2006』、財団法人社会生産性本部 2006 年) 「余暇重視派」(「仕事より余暇の中に生きがいを求める」+「仕事は要領よくか たづけ、できるだけ余暇を楽しむ」 )が「仕事重視派」(「余暇も時には楽しむが仕 事の方に力を入れる」+「仕事に生きがいを求めて全力を傾ける」)よりも上回っ ているものの、その差は 34.3%対 33.6%と、ほぼ拮抗している。 図3−4 仕事と余暇のどちらを重視するか 例2:「余暇時間への希望」(図3−5) (『自由時間と観光に関する世論調査』、内閣府 2004 年 8 月) 余暇時間への希望については、量として「もっと欲しい」と考える人の割合が 1988 年の 58.7%から 2003 年の 34.8%まで落ち込み、逆に「現在程度で良い」と考える 人の割合は 47.2%から 60.7%へ増加している。 17 図3−6 現在の余暇活動に満足かどうかと満足していない理由 18 例3:「現在の余暇活動に満足かどうかと満足していない理由」(図3−6)(同) 余暇活動への満足感については、「満足していない」とする人の割合が 45.5%、 「満足している」とする人の割合が 45.7%となっている。 図3−6 現在の余暇活動に満足かどうかと満足していない理由 19 例3:「収入と自由時間についての考え方」(図3−7) (『国民生活に関する世論調査』、内閣府 2006 年 10 月) 「収入をもっと増やしたい」人の割合(43.9%)が、「自由時間をもっと増やした い」人の割合(31.2%)よりも多い。前者の割合は平成 15 年以降、連続で減少して いたが、2006 年、約 4 ポイント上昇した一方、後者の割合も、約 7 ポイント上昇し ている。 図3−7 収入と自由時間についての考え方 例4:「従業上の地位、配偶関係、男女別平均週間就業時間」(表3−1) (『2005 年度国勢調査』 、総務省 2005 年) 平均週間就業時間を男女、配偶関係別に見ると、男性は「有配偶」が「未婚」よ り 2.1 時間長いのに対し、女性は「未婚」が「有配偶」より 6.6 時間長くなっている。 20 表3−1 従業上の地位、配偶関係、男女別平均週間就業時間(平成 17 年) 出典:2005 年度国勢調査(総務省、2005 年) 例5:「平成 18 年賃金事情等総合調査」(厚生労働省 2006 年) 調査対象月(平成 18 年 6 月)の 1 ヶ月間において、週 40 時間を超える労働が 100 時間を超えた労働者が「いた」と回答した企業の数は、集計企業 235 社の内、約3 分1に当たる 78 社であった。 例6:「夫婦の仕事・家事時間」(表3−2) (『平成 13 年社会生活基本調査』、総務省 2001 年) 共働き世帯における、夫婦と子どもの世帯においては、夫の家事関連時間が微 増、妻の家事関連時間は微減しているものの、妻の家事関連時間平均の約 4 時間 に対し、夫は約 25 分と、差は大きい。 表3−2 夫婦の仕事・家事時間(週全体の 1 日平均) 21 例7:「自由時間の使い方」(表3−3)(同) 「休養等自由時間活動」 (「テレビ・ラジオ・新聞・雑誌」及び「休養・くつろぎ」) は男性(15 歳以上)で 1 日あたり 3.58 時間、女性(15 歳以上)で 3.48 時間となり、 「積極的自由活動時間」(「学習・研究」・「趣味・娯楽」・「スポーツ」・「ボランティ ア活動・社会参加活動」)は男性で 1.18 時間、女性で 0.59 時間となっている。また、 「ボランティア活動・社会参加活動」の時間は、男女共に 1 日あたり 5 分以内。 表3−3 自由時間の使い方(1 日あたり) 例8:「年齢階級別積極的自由時間活動の時間の推移」(表3−4)(同) 「積極的自由活動時間」を年齢階級別にみると、30 歳代前半から 50 歳代が 50 分 台と短くなっている。 表3−4 年齢階級別積極的自由時間活動の時間の推移(1 日あたり) 22 c 志向と実際の暮らしのギャップ これまでの働き方を見直し、男女共に家庭生活・地域生活も考慮した健やかな暮らし方 を進めようとする考え方は一般的にも浸透しつつあるようだが、実際の時間の使い方・暮 らし方と比較すると、そのギャップは未だ大きいと言え、前述の「志向」と「現実」を表 す統計のほかに、このギャップを示す統計としては下記が挙げられる。 例1:「ワーク・ライフ・バランスの希望と現実」(図3−8) (『少子化と男女共同参画に関する意識調査』、内閣府 2006 年) 既婚者は、「仕事・家事・プライベートを両立」することを希望する人が男女共 に多いが、現実としては、女性は「仕事と家事優先」、男性では「仕事優先」と なっている人が多い。 図3−8 ワーク・ライフ・バランスの希望と現実 23 例2:「職場環境(子育てしやすい、女性登用)と仕事の満足度」(図3−9)(同) 職場が「子育てしている人が働きやすい」「女性登用が進んでいる」環境である 方が、女性のみならず、既婚男性や独身男女も「仕事の満足度」が高い。 図3−9 職場環境(子育てしやすい、女性登用)と仕事の満足度 24 例3:「ワーク・ライフ・バランス実現度と仕事への意欲」 (図3−10)(同) 既婚の男女ともに、ワーク・ライフ・バランスが図られていると考える人の方が 仕事への意識が高い傾向にある。 図3−10 ワーク・ライフ・バランス実現度と仕事への意欲 注)「仕事への意欲」は、「あなたは、今の仕事に目的意識を持って積極的に取り組んでいますか」への回答。 以上のような統計資料から見ても、多くの人が「志向するライフスタイル」と現実との 間にギャップを感じていると考えられる。幸福の構造におけるライフスタイルの輪を適切 に循環させるには、これらのギャップを乗り越えなければならない。そこで次に、ライフ スタイルにおける様々なギャップをもう少し掘り下げて考察する。 3−5:ライフスタイルにおける様々なギャップ 自分らしい、生き生きとしたライフスタイルを送るには、それを望む様々な場面・分野 において、適切な情報・資源・サポートに適切にアクセスできることが必要である。しか しながら、現実には様々なギャップが存在する。 a 様々なライフスタイルと『自分』とのギャップ 高度経済成長時代は、将来やライフスタイルに対する夢・希望には、一定の方向性が あったと考えられる(賃金が上がる、電化製品を手に入れる、等)。しかし現在、価値観は 多様化し、「自分らしさ」を求める傾向が高くなっている。しかし、これは自由を与えられ た一方で、親世代にロールモデルを期待できない以上、メニューが全く与えられない状態 でライフスタイルを選択することは非常に難しい。 25 職や家庭生活、地域とのつながりなど、様々な場面を考慮した上で、 「今の自分」と「な りたい自分」のギャップを埋めることが必要である。 b 家庭生活におけるギャップ 統計によると、「家庭のコト」への関わり方には男性と女性とでは差がある。また、地域 で余裕をもった子育てをしたいという希望と、実際の子育て支援の意識とのギャップも存 在する。男女共同参画や子育て支援の視点から、これら家庭生活を取り巻くギャップを埋 める必要がある。 c 食におけるギャップ 地方における生産者と、都市の消費者との間には、食材に対する意識のギャップが存在 する。消費者としても、できれば安全でおいしい食材を手に入れたいと考えているが、今 の段階では、無農薬や有機農法等で作られた食材は高価であることが多く、生産者が努力 しても報われない場合もある。 また観光地においても、地元の人々が本当に美味しいと思う食材、食べ方よりも、外部 から見た目新しさが注目され、また観光施設の食に対する意識の低さなどから地元の食材 が有効に活用されていないこともある。 d 職におけるギャップ 自分の志向・嗜好をどのように職に活かし、自分らしいライフスタイルを送るのが良い のか、自分自身との迷う若者は多い。様々な職に触れ、自分の志向と能力を試す機会が十 分に与えられることが必要である。 また、職と家庭生活とのギャップを埋め、さらに両者を充実させるために融合させると いう、暮らし方・働き方を見直す「ワーク・ライフ・バランス」の仕組みを展開すること が必要である。 e 住におけるギャップ 自分らしいライフスタイルを追求する上で、どこの地域で住まうのかは重要なポイント である。しかし現在、住環境選びに関するコストは高く、本当にその地域の暮らしが自分 に合うのか、試せる機会は少ない。 また、特に職の場所が住む地域から離れていることが多くなった現在、既存の地域コミュ ニティのあり方と、そのようなライフスタイルを送る人々との地域意識へのギャップが存 在する。 26 f 学びにおけるギャップ 学校教育と、実際の社会との間にギャップが存在する。学校は、基礎学力の鍛錬だけで なく、その学習を通して社会とのつながりもまた勉強する場であり、保護者や地域の大人 達によって見守られることが望ましい。 また、地域の人々が、地域の実情を知らない、適切な情報・資源・サポートにアクセス できないという、人々と地域の間のギャップという問題がある。情報が適切に地域を循環 する仕組みづくりが必要である。 3−6:ライフスタイルのギャップを埋めることが地域再生へつながる 人々が働き方を見直し、家庭生活を充実させたいと考えた時、家庭生活は地域社会との 適切な関係無しには成り立たないことに気づくであろう。それは日常のゴミ出しの場面一 つにおいても明白である。しかし、地域に関心を持つ全ての人々が家族や地域との適切な 関係を作れているとは限らない。地元とは離れた地域での長時間労働、それに伴う長時間 通勤、また地域コミュニティとのアクセスが無い等、地域とつながりたいと考える人々の 妨げとなるギャップは多い。 多くの人々が「自分らしい」ライフスタイルを望みつつ、現実とのギャップを感じてい る。本調査では、個々の能力を高めたり、社会的阻害要因を取り除いたりして環境を整え ることでこれらのギャップを埋め、人々がそれぞれに持つ「ライフスタイルの輪」を適切 に循環させることができ、結果として人々が住む地域社会が活性化していくのではないか と考える。 近年の傾向として、独りよがりのライフスタイルを求めるのではなく、地域社会に関心 を持ち、趣味活動、NPO・ボランティア活動、コミュニティビジネスにも積極的に関わる 人々も確実に増加している。従来の自治会などに代表される「地縁」から、趣味や問題意 識からつながる「好縁」や「志縁」の輪が広がり、地域を再生させる原動力となっている。 また、様々な分野における技術の発展、イノベーションも、人々のライフスタイルに深 く関わるようになってきており、それらの影響も見逃すことはできない。インターネット を始めとする ICT(Information and Communication Technology)の普及は、GREE、mixi に代表される SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)を通して新しいコミュニティ を作っている。実社会で既につながりのある人々が、いつでもお互いに連絡が取れるよう バーチャルコミュニティを作る一方、芸能人やスポーツ、時事問題、出身校など、様々な キーワードによってバーチャルなコミュニティが発達し、実社会でのつながりをより深め たり、時には地域社会に貢献する市民グループに育ったりすることもある。このような バーチャルコミュニティの活用を通じて、これまでのリアル世界のみでは考えられなかっ た、異質のライフスタイルが創出される可能性がある。 27 家庭生活を支える技術革新としては、「生活ロボット」の普及も注目すべき流れである。 少子・高齢化による家族構成の変化に対応し、家事支援(調理・片付け、掃除、育児、留 守番等)だけでなく、身体障害者や寝たきり高齢者の日常生活の介助・看護支援や、身体 障害者の社会参加支援を行う「生活ロボット」などの普及がかなり急速に実現する可能性 がある。このような生活ロボットは、志向するライフスタイルが育児や介護等の生活サー ビス供給面での人手不足によって実現できない場合、その人手不足をロボットが代替する ことにより、理想と現実のギャップを埋める働きをしつつあると言える。そして、更に高 度化した生活ロボットの普及は、産業面のみならず、生活面でも「人間とロボットの共存」 をもたらし、まったく新しいライフスタイルが展望できるようになるかも知れない。 このような社会の流行、技術革新と、個人のライフスタイルにおけるギャップを埋める 環境づくりとの適切な連携により、地域社会それぞれの環境や歴史、文化などに根付いた 地域再生が進められるのではないだろうか。 28 第4章 新しいライフスタイルと地域再生のメカニズム 4−1:新しいライフスタイルへの期待と現実のギャップ 3−6で、ライフスタイルのギャップを埋める活動が地域再生へつながることを指摘し た。 つまり、新しいライフスタイルへの期待と現実のギャップが多くの分野で生じているが、 そのギャップを埋めようとする活動がそれぞれの分野を活性化し、地域再生をもたらすの である。 新しいライフスタイルへの期待とギャップは様々な分野で生じているが、2−5では次 のような分野を代表的なものとして掲げている。 (1) 子育て支援:余裕をもった子育てをしたいという期待(希望)と実際の子育て支援の意 識とのギャップ (2) 食の安全 :生産者と消費者の食材に対する意識のギャップ (3) ワーク・ライフ・バランス:職場と家庭生活のバランスに関する期待と現実のギャップ (4) 二地域居住等の居住形態:住みたい居住形態に関する期待と現実のギャップ (5) 生涯学習 :学校教育や生涯教育に関する期待と現実のギャップ そこで生活分野ごとのギャップが生じているとしても、ギャップを埋める活動が起こら なければ地域の再生に結びつかない。そして、ギャップを埋める活動の担い手としては、 a.NPO・ボランティア活動 b.ビジネスとの連携 c.インターネットの活用 などを掲げることができる(図4−1) 上述の(1)∼(5)は主として公的分野であり、それらの分野における活動は PPP(Public Private Partnership)の範疇に属するということができる。 29 図4−1 ライフスタイルと地域再生のメカニズム そして、ギャップを埋める活動の重要な担い手である、a.NPO・ボランティア活動は、 最も公共性の強い分野に民間の創意・工夫を注入して、能率を高めようとするもので、近 年急速に拡大している。特に、仲間で資金と労働力を持ち寄り、参加者全員が経営者とし て働くワーカーズ・コレクティブが注目を浴びている(次頁参照)。 また、b.ビジネスとの連携は、公共事業が持続的に減少するなかで、PFI、PPP などと して、急成長している。 さらに、c.インターネットの活用は、ギャップを埋める活動の担い手として、新たな 次元の可能性を開きつつある。3−6で述べたように、インターネットをはじめとする ICT の普及は、SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)を通じて、趣味や時事問題など に、共通の関心を持つバーチャルで新しいコミュニティを作っている。そして、このよう な動向が、どの程度の強い結びつきをもったコミュニティを形成し、また、地域再生にど の程度の強いインパクトを与えることになるのか、今後の興味深い観察の対象となろう。 30 ライフスタイルを尊重しながら地域の共益を 追求する働き方『ワーカーズ・コレクティブ』 ワーカーズ・コレクティブは、地域で暮らす人たちが、より暮らしやすい社会の実現の ために、地域に必要とされるモノやサービスを事業化し、共通の目的を持ったメンバーが、 出資、労働、組織運営など経営のすべてに関わり、責任を持つ「雇われない働き方」とし て注目を浴びている。 業種別では「家事・介護生活支援」が最も多く、「子育て支援・託児・塾」、『生協業 務委託』のほか、「弁当・食事サービス」、「リサイクル」など、生活に不可欠な多岐に わたる分野において事業体が存在し、地域の多様なニーズに応えると共に、働く意志のあ る人は誰もが、個々に持つ生活技術と経験を活かしながら、自分のライフスタイルにあっ た働き方ができる点が大きな特徴となっている(図4−2)。 1982 年に神奈川で最初のワーカーズ・コレクティブが設立され、現在では北海道、関東、 近畿、九州などの地域ごとの連絡協議会や全国組織も活動しており、各地に広まっている (図4−3)。 図4−2 ワーカーズ・コレクティブ業種別団体数 (『平成 18 年版国民生活白書』、内閣府 2006 年 6 月) 図4−3 ワーカーズ・コレクティブの広がり (生活クラブ事業連合生活協同組合連合会資料) 左目盛 右目盛 31 4−2:ライフスタイルと共益の形成・追求 ライフスタイルの期待と現実のギャップが存在していても、そのギャップを埋めること が、地域やコミュニティの共通の利益(共益)として認識されなければ、ギャップを埋め る活動は発生しない。例えば、子育て支援について地域独自の補助金を支出すべしという 期待があったとしも、それが地域住民の共通の利益(共益)として位置づけられなければ 実行されないであろう。 つまり、共益が形成され、追求されることが、ライフスタイルの期待と現実のギャップ を埋める活動が、実際に起こるかどうかの鍵を握っていると言える(図4−1) 。 また、非常に多様化した価値観の社会では、共益(共通の利益または共通の目的)はな かなか見出しにくいという見方もあるが、いかに価値観が多様化しても基礎的生活権、生 存権に係わる事項(例えば、子供の保育、食の安全など)について共益を規定することは 十分可能と考えられる。 4−3:生活の場としての地域と地域再生 ∼場の形成とデザイン∼ 中期的未来においては、人口の集中する都市圏においても高齢化と人口減少が訪れ、高 齢者の増加によって、地域で過ごす時間と人口が増加する。その反面、地方公共団体の財 政の縮減に伴う公共サービスの縮減や多様化するニーズへの対応の限界から、身近な生活 の豊かさの実現は益々重要な課題となってくる。 第 2 章で見たように、人口減少、少子高齢化によって、地域の維持が困難となる自治体 が増加しつつある。その上、産業構造や働き方の変化、住まい方に関する意識の変化、可 処分時間の増加、交通機関の発達等、様々な理由により、人口の流動化が進み、規模の大 小にかかわらず、人口が流入する地域と流出する地域が二極化しており、地域の創意と工 夫、努力などにより、明暗が分かれる。 生活者重視の時代では、生活しやすく魅力ある地域が選ばれるようになる。多くの人か ら「住むに値しない」と判断された地域は消滅する。地域を持続的に発展させるためには、 住んでいる全ての人々が、日常生活に困ることなく安心して暮らせ、住みやすいだけでな く、住んでいてよかったと積極的に評価できる充実した生活の場であることが求められて いる。 しかしながら、生活しやすく魅力ある地域の実現は、地方公共団体が単体で行うことは 難しく、個々の生活者が望む生活の豊かさを実現するためには、生活者自らが「新たな公 共」の担い手として生活環境を改善・構築することが必要である。事実、ワーカーズ・コ レクティブでは、生活面のサービスを行っている団体数が多く、近年増加傾向にある。 次に共益の追求やギャップを埋める活動を通じて地域再生を図ろうとする場合、それが 32 どのような「場」で進められるかが課題である。 いずれにせよコミュニケーションの「場」が必要であり、職場と地域コミュニティとい う 2 つのコンベンショナルな交流の「場」も軽視するべきでない。また、メーリングリス トや SNS のような ICT に基づくバーチャルな「場」の重要性はますます高くなっていくで あろう(図4−1)。 「場」がよく整備されて、うまくデザインされている場合には、共益を見出し、これを 追求しやすくなる。また、ギャップを埋めるのにも効果的だ。 うまくデザインされた「場」の例として愛媛県旧五十崎町の「よもだ塾」を紹介してお こう。 【「場」のデザインの優良事例∼「よもだ塾」(愛媛県旧五十崎町)】 旧五十崎町は典型的な中山間地で、田村明氏の著書『まちづくりの実践』 (岩波新書、1999 年)によれば、近隣の「大洲や内子に比べると、五十崎には、とくに取り立てて見るべき ものはない」 「山間にある何の変哲もない」人口 6 千人弱の町である。 「よもだ塾」は、東京で農業や醸造を勉強して帰郷した亀岡徹氏の発意により、1983 年 頃に誕生した。地域にはそれまでも様々な会合はあったが、「いつ始まったのかも、何が決 まったのかも分からないままに延々と続く」「新しいことは何も起きそうにない」マンネリ 化した集まりだった。 そこで、同氏は町をよくするためには、まちづくりを大上段に構えるのではなく、地域 の人々の気持ちを束ねる話し合いの「場」が必要と考え、自宅で塾をスタートさせた。こ の「よもだ塾」という「場」では、 「情報の共有」と「感情の共有」を行いながら、有益で 実用性のある知恵を蓄積し、散在する個々の能力と知恵を引き出すことによって、様々な 地域づくりの実践を生み出し、生活の豊かさの実現に成功している。具体的には、清流小 田川の護岸工事という危機をキッカケに、小田川原っぱ日曜市、小田川映画祭、小田川音 楽祭、小田川祭り、国際水辺環境フォーラム(正式名称「スイスと五十崎・川の交流会」) の開催などを生み出し、県や国、国内大学の有識者、スイスなどとの幅広いネットワーク を構築するまでに発展し、日本の河川行政を転換させる多自然工法の導入に大きな影響を 与えるという偉業を成し遂げた。 以上のように、この「よもだ塾」では、地域の関係性をデザインしなおすことによって 新しい「場」を創出し、地域共通の期待(希望)と現実とのギャップに関する語り合いを 通じて、行動につなげ、生活の豊かさという成果(共益)に結びつけている。 では、この「よもだ塾」は、「場」のデザインにおいて、どのような特徴を持っていたの だろうか。そのポイントを整理すると、以下のような点が挙げられる。 33 ・本当に町をよくしたいという気持ちを持つ人が集まる機会と場を提供していた。 ・その日に集まった者が塾生という、外に開かれた柔軟な参加形式を持ち、参加者の自 発性を尊重していた。 ・序列や肩書き、義理やしがらみにとらわれず、自由な発言を尊重した緩やかな人間関 係が形成された。 ・町の問題を話題にする時は、対立を避け、生真面目になりすぎず、時間をかけながら 機運を盛り上げていた。 ・コーヒーなどを飲みつつ、冗談を交えて楽しみながらガヤガヤとやっていた。 ・何かのついでに自発的に集まり、肩肘のはらない気安さがあった。 4−4:地域再生のメカニズム 4−1から4−3まで述べてきた地域再生のメカニズムを要約すると以下の通りである。 (1) 新しいライフスタイルへの期待と現実のギャップの把握・測定 (2) 期待と現実のギャップを埋めることが、地域やコミュニティの共通の利益(共益) に適うかどうかの判定 (3) 共益の追求やギャップを埋める活動のための「場」の設定 (4) 共益の追求やギャップを埋める活動がもたらした地域再生についての評価 4−5:ギャップを埋め、地域再生を図るきっかけとしての「食」の可能性 これまで述べてきた様々なギャップの中で、現在関心が高まっていると思われるのが、 「食・食文化」に対するギャップである。本調査では、「食・食文化」に対するギャップを 埋めることが、地域再生へつながる可能性について更に掘り下げることとし、北海道およ び千葉県にてケーススタディーを行った(4−6参照)。 (1)地域の歴史・文化を表す「食・食文化」 図3−3(p16)からも分かるように、人々の「食生活」に対する意識は年々高くなって 34 いる。これは、地球環境の悪化や、食品関連企業の不祥事などを背景に、健やかな食生活 を通して健やかな生活を送りたいという人々の欲求が表れているのではないかと考えられ る。 「食べること」は人間にとって、生命を維持するための基本的な欲求の一つである。し かし人間社会は、この「食べること」に様々な意味を加え、地域ごとの様々な「食文化」 を形成してきた。「食・食文化」は、地域固有の自然環境や歴史と密接に結びつき、地域の 魅力を構成する重要な要素であると言える。 地域における「食・食文化」を見る上で大切なのは、(i)食材、(ii)誰とどのように食べら れているのか、(iii)誰とどのように作られているのか、の 3 点である。 「食材」については、日本の豊かな自然環境や南北に伸びる地勢等を考えると、事例の 数は無限である。正月のおせち、春の七草など、季節の行事に合わせた食事、子どもの誕 生や成長、または結婚式などの人生の節目に沿った食事、更には日頃家庭でよく使われて いる食材・料理方法など、これらは地域ごとに様々な特色を出しており、毎日のようにメ ディアが取り上げている。 「誰とどのように食べられているのか」は、地域の人々のコミュニケーションのあり方 を見る上で注目すべき点である。日本にも昔から「同じ釜の飯を食べた仲」という表現が あるように、 「共に食す」という行為は、その場にいる人々の間に深いコミュニケーション を促す。また、ある食卓を囲んで、同席すべき人間、同席すべきではない人間などを決め たルールが、家族や親族、コミュニティ内の人間関係を反映する場合もあり、歴史や文化 に強く支えられていると言える。現在国内では、子どもの「孤食」が問題視されている。 これは、一人で食事をする子ども達への健康の問題だけでなく、家族との関係性にまで踏 み込む、重要な問題であろう。 「誰とどのように作られているのか」も、やはりコミュニティ内の人間関係を表す視点 である。家族と作るのか、複数の家庭が作るのか、親戚との関係は等々、自分たちの暮ら しの要である生産活動をどのように維持していくのかは、地域社会の基盤である。 しかしながら、日本の経済成長に合わせて農業や漁業に従事する人々の数が減る中で、 「食」を産み出す人々を取り巻く環境は大きく変化している。作りながら食べるというラ イフスタイルが少数派となり、人々は「生産者」と「消費者」に分けられるようになった。 そして前者に比べ、後者の人数は遥かに多い上、地域の都市化に伴って両者の「食」への 意識の距離は遠くなり、様々な場面でギャップが生じたのである。 (2)食におけるギャップへの取り組み 「都市に住む子ども達が『魚の切り身が海を泳いでいる』と考えている」、こんな冗談が 世間に出回るほど、都市と生産地とのギャップは大きい。日本は素晴しい経済成長を遂げ、 35 国内外で生産された豊富な食物が国中を出回り、餓死する人間はほとんどいないと言われ るようになったが、その裏では多くの食材が廃棄されている。このような日本において、 地域の「食・食文化」を見直し、地域社会の「共益」とし、「場」づくりのためのきっかけ として活用することは、地域における自然環境や人々のコミュニケーションの改善につな がると考えられる。 一方、人々の「食・食文化」に対する関心が高まっているのは事実である。地球環境問 題を始め、食品業界の不祥事、BSE 問題など、多くの課題がマスコミを賑わせ、人々の食 生活と健康へ目を向けさせており、 「食育」 「地産地消」 「スローフード」 「有機栽培」 「LOHAS」 など、様々な視点から取り組みが行われるようになってきている。 特に食育は、近年政府や自治体を中心に積極的に推進されている取り組みである。 「食育」 とは、「国民一人一人が、生涯を通じた健全な食生活の実現、食文化の継承、健康の確保等 が図れるよう、自らの食について考える習慣や食に関する様々な知識と食を選択する判断 力を楽しく身に付けるための学習等の取組み」 ((財)食生活情報サービスセンターHP より) であり、学校教育の場だけでなく、様々な現場体験を通して進められている。平成 17 年に は食育基本法が施行され、翌年食育推進会議において食育推進基本計画が決定されている。 これらの取り組みで重要視されているのは、生産者と消費者との様々な距離を縮めるこ とである。どのように食物が作られているのかを消費者が知るだけでなく、生産者と消費 者、それぞれの立場の「食」に対する思いを共有すること、両者が協力して作物を育てる ことなどから、お互いのライフスタイルを見詰めなおすという作業が全国各地で行われて いる。 更に、地域再生のきっかけとして「食・食文化」が有効な点として挙げられることは、 作るプロセス、また食するプロセスの両方において「繰り返しに耐えうる」ということで ある。食材の生産は自然環境に左右され、同じ食材を育てるにしても、様々な試行錯誤を 繰り返し、知識・経験を積み重ねることが重要である。地域の人々が協力し、そのような プロセスを経ることによって、より深いコミュニケーションが生まれ、地域再生の力とな るのではないか。 また「食」は消え物で、食べれば無くなってしまう。しかし食材そのものの「おいし かった」という記憶、気の置けない仲間との楽しいコミュニケーションは記憶として残り、 「また食べたい」という欲求につながる。確かに地域再生の取り組みは、風景や施設、商 品を活用したものであっても、地域内外の人々に繰り返し触れてもらうことが重要である。 しかし、いつまでも忘れられない「おふくろの味」があるように、人々の感情に直接訴え る力を「食」は持っているのである。 36 4−6:ケーススタディー(北海道、千葉県の「食」を中心に) 「食」を中心に大きなポテンシャルを持つ北海道と千葉を取り上げる。地域資源(モノ・ ヒト・コト)をどのように活用しているのか、また現在の活動に至った経緯における「場」 の役割やキッカケについて考察する。 両地域を端的に書くと次のような特徴を持っている。 北海道…農業産出額第 1 位(平成 16 年)。食材が豊富で、観光地として様々な人々を惹 きつけるポテンシャルが高い。豊富な資源を有効活用できずに景気の回復が遅 れており、地域内外の流通と雇用創出による自律した地域再生のあり方が課題。 千葉県…農業産出額第 2 位(平成 16 年)。全国 1∼2 位の産出額を誇る食材が多い。大き な市場に隣接し、都市型・農村型ライフスタイルが混在する。流通や人的交流 の面で高いポテンシャルを持つが、それを持続的に展開させる文化的つながり が薄い。 共にエリアが広域にわたるため、ここでは両地域の委員から推奨された事例に絞って説 明する。 (1)北海道 砂川スイートロード(砂川市) 【砂川市の概要】 札幌と旭川の中間に位置し、豊かな緑と水に囲まれた商工農のバランスがとれた人口 2 万人弱の町。市街中心部は平地地帯で南北に細長く展開し、中央には基幹道ともいうべき 国道 12 号のほか、JR 函館本線や道央自動車道がそれぞれ南北に伸びる。昭和 59 年に環境 庁から道内初のアメニティ・タウン(快適環境都市)の指定を受け、市民一人あたりの都 市公園面積 192 平方メートル(平成 19 年 3 月現在)は日本一を誇る。 かつては商業と交通の要衝として栄え、大手企業の肥料工場や周辺地域の炭鉱労働者が 大勢暮らしていたが、肥料工場の経営悪化や鉱山の閉山等の影響により、4 万人以上いた昭 和 20 年代をピークに現在も減り続け、厳しい財政事情の中、現状を打開する地域再生を模 索している。 【伝統的な製菓産業】 砂川では、甘いお菓子は炭鉱等で働く肉体労働者の疲れを癒し、また土産品としても古 37 くから愛されており、製菓産業は多くの労 働者を支えてきた。鉱山の閉山後も、お菓 子好きの地元住民からの支持は厚く、菓子 業を行う企業は市内に 9 社 10 店舗(うち 半数が個店)あり、全国的な知名度やシェ アを持つ店も多い。どの店もそれぞれの特 性を活かしながら腕に磨きをかけており、 商品の質は極めて高い。また、小さな市に 9 社も存在するのは、過密なように見えて 仲の悪さが心配されるが、ライバル心はあっても、それをプラスに捉えて互いが切磋琢磨 しており、菓子組合を結成して協同事業を続けながら、緩やかな良い関係を継続している。 協同事業として特筆すべきは、約 20 年にわたる「ケーキづくり講習会」を通じて市民との 交流を続けており、地域貢献に力を入れてきたことだ。この積み重ねが市民や行政との連 携を円滑に進める上で、大きな役割を果たしている。 【すながわスイートロードの誕生】 菓子によるまちづくりというと伊勢のお かげ横丁や小布施などが想起されるが、これ までは中核となる企業の旗振りで進められ たケースがほとんどだ。ところが、砂川の場 合は、菓子組合からの働きかけではなく、衰 退する地域に危機感を抱いた市民から湧き 上がったことに注目したい。このキッカケと なったのが平成 12 年に策定された市の第 5 期総合計画である。これまで行政主体で策定 してきた総合計画を、第 5 期に初めて市民の声を取り入れている。これに勢いを得た行政 は、「すながわスイートロード構想」を立上げ、市と地元菓子組合、商工会議所を始めとす る関連団体、民間の有識者で「すながわスイートロード協議会」を結成した。市は事務局 として事務作業のサポートをすることに徹し、運営の主体は民間が担っている。2 年間の検 討の末、平成 15 年に事業が動き出し、現在では PR とサービスの向上を含む 4 つの事業(a 体験型事業、b ディスプレイ事業、c 商業界レベルアップ事業、dPR 事業)を軸に展開して いる。このうち、市民参加型の交流を深める事業が 2 種(a と b)、関係者の意識を高める 事業が 1 種(c)あることも重要なポイントとなっている。また、事務局には菓子組合が入 っておらず、お菓子はあくまでも最初のステップとして打ち出しており、菓子以外の産業 を見据えた長期的な視野に立っている。 38 【事業の評価】 レベルの高さと PR 事業の効果が功を奏し、多くのメディアで取り上げられ、消費者の反 響も大きかった。これにより、旅行会社によるバスツアーも誕生し、これまで通過交通の 多かった同市を目指す来訪者が増加している。また、この盛り上がりを契機に、市民によ る応援団(20∼70 代の女性 88 人)が立ち上がった。一時的な流行に終わらせないために も、地域内コミュニケーションを密にして、生活者と活動主体とのギャップを解消する努 力が今後も必要となるであろう。 【「場」を盛り上げる工夫∼「白いプリン大作戦!」】 じゃらん北海道の編集長を務めるヒロ中田氏は、道内で低迷する牛乳消費を向上させる ため、 「明るい牛乳消費大作戦!」 「職場で牛乳×1 日 1 杯運動」を推進している。次なる一 手として、牛乳の加工品(乳製品)による消費拡大を目指し、「白いプリン大作戦!」を 行った。このキャンペーンは、北海道の地域資源を活用した条件付の商品開発を自由参加 形式で展開した運動で、個店のオリジナリティを発揮と北海道発の新しい食ブランドを育 成しようというもの。 商品開発の条件は次の 3 つだけ。 a 商品名は○○○の「白いプリン」とすること。 b 北海道の生乳をたっぷり使うこと。 c 北海道で生産すること。 砂川市の菓子店もこれに参加し、個々の店が 競うように創意工夫を行っている。同キャンペ ーンは自由度を尊重しつつ、個々の魅力を引き 出す牽引役として、すながわスイートロードと いう「場」を共通のテーマで上手に束ね、盛り上げることに一役かっている。自由度があ り、かつ具体的な行動を促す共通のテーマは、一度できあがった「場」を再活性化させる キッカケとして有効である。 【「場」のデザイン 成功のポイント】 ・行政や産業主導ではなく、地域の生活者である市民による発意が発端となっていること。 この勢いを殺さずに後押ししたこと。 ・テーマは老若男女が誰でも親しめるお菓子(食)であり、他地域と差別化ができ、かつ 地域の歴史(文脈)に基づいた資源であること。 ・長きにわたって市民との関係を培ってきており、市民による応援団ができあがったこと。 多くの人を巻き込み、記憶に残るデキゴトづくり(コトづくり)は、仲間意識を強める とともに、地域の物語の構築につながる。 39 ・地域の魅力の向上と地場産業の発展が共通の利益として理解され、合意形成が得られた こと。 ・中核となっている菓子店は、相互に刺激しあい、身銭を投じた地域貢献と自己研鑽を続 けると共に、共通の利益に向かって連携し、相乗効果を発揮していること。 ・外部の知恵や評価を更なる発展に活かし、長期的な視野に立って継続的な改善を行う習 慣が関係者に浸透したこと。 【今後の課題】 ・リピーターの把握とその育成。 ・イメージと実態のギャップの解消。 ・市全体としての更なる魅力の増進。 ・現在行っている地元農産物の PR など、他業種への展開。 ・2007 年に完成する砂川駅直結の文化施設「砂川市地域交流センターゆう」の有効活用。 40 (2)千葉県 枇杷倶楽部(南房総市(旧富浦町)) 【旧富浦町の概要】 房総半島の南西部に位置し、周囲を囲む丘陵地帯には枇杷畑、岡本川の河岸段丘では、 畑・水田・宅地などを持つ、風光明媚な人口約 5,500 人の町。滝沢馬琴の「南総里見八犬 伝」の舞台としても知られ、地域文化として「人形劇」を定着させ、人づくりにも力を入 れてきた。しかしながら、バブル経済の破綻などの影響により、基幹産業である観光や農 業、漁業の衰退に拍車がかかり、少子高齢化と過疎化が深刻化していた。持続的な雇用と 経済効果をもたらす活性化事業の展開が叫ばれたが、市には大規模整備を行う財源はなく、 地域振興策を模索していた。 【250 年の歴史を持つ特産物「枇杷」】 千葉県における枇杷の生産量は全国の 1 割(産出額で全国 2 位)、その内、旧富浦町は 8 割のシェアを占める。富浦で生産される「房州びわ」は、約 250 年の歴史を持ち、栽培方 法や品種改良により大粒で糖度が高いのが特徴で、日本一の枇杷として明治 42 年から毎年 皇室に献上されている同地固有の特産物である。 【ウォッチング富浦と富浦エコミューゼ構想】 1989 年(平成元年)から 17 年間、自然環境の保全のため、月 1 回小学生を対象に「富浦 土曜学校」を、また全世代を対象に「ウォッチング富浦」がそれぞれ開催され、多くの住 民が自然や地域の宝物を再発見する機会が提供されてきた。人形劇を通じた人づくり同様 に、地域に愛着を持つ人材の育成に大きな貢献を果たしており、地域住民の緩やかな関係 づくりを行う「場」としての役割を果たしてきたと思われる。 また、90 年に民間企業が企画したフランスの「エコミュージアムツアー」に市役所職員 や住民が参加し、地域の施設や生産現場を博物館として残した状態で活性化を試みる「エ コミュージアム」を参考に、地域に研究会が発足し、「富浦エコミューゼ構想」ができあ がった。 【道の駅とみうら・枇杷倶楽部の誕生】 1990 年代前半、東京湾アクアラインや東 関東自動車道館山線の整備計画を機に町長 が大きな決断を下し、役場の企画課長だった 加藤文男氏(観光カリスマ百選の一人)を中 心に、商工会、農業団体、観光団体との協議 の末、93 年 11 月、町 100%出資により千葉 41 県初の「道の駅とみうら・枇杷倶楽部」が開設された。この時、地域再発見を通じて地域 の将来を考えていた住民は、地域の拠点となる「場」を必要としていたため、道の駅建設 の話題は歓迎を持って受け入れられ、多くの人が立上げに従事し、現在では住民の約 6 割 が何らかの形で枇杷倶楽部の運営に携わっている。 【事業の評価】 枇杷倶楽部は、富浦の特産物である枇杷を 主力商品に、規格外商品や葉や種を有効活用 した様々な加工品、関連グッズ商品の開発・ 販売のほか、体験型観光農業等を実施、また、 情報発信と顧客ニーズの把握においては、南 房総エリア一帯をカバーするポータルサイ トを通じて充実した情報を発信すると共に、 利 用 者の 声を 吸 い上 げる 掲 示板 を通 じ て サービス向上に努めるなど、「産業と文化、情報の拠点」として機能を果たしている。これ により、ピーク時には観光バスで年間 4 千台、12 万人のツアー誘致に成功し、約 6 億円規 模の年商を地域にもたらした。2000 年には「道の駅グランプリ」の最優秀賞を受賞してい る。 また、地域住民にとっては、地域の人が集まってゆっくり交流をする場がなかったとこ ろに、枇杷倶楽部が完成し、交流の拠点として有意義に活用されている。 【「場」を束ねる工夫∼「一括受発注システム」 】 同地は民宿や食堂など、小規模な観光事業者が多かったため、観光バスツアーなどの大 量の観光客に対応することができなかった。そこで、地域に散在する観光資源を束ね、メ ニューや料金、サービスを企画化することによって一つの観光業者に見立てる「一括受発 注システム」を構築し、外部の旅行会社への PR や仕事の配分、代金の清算など、南房総地 域一体のランドオペレーターとしての役割を担うなど、地域の窓口として大きな役割を果 たしている。 【「場」のデザイン 成功のポイント】 ・文化施設の建設ありきではなく、既存の地域資源を有効活用することをコンセプトとし た、地元住民の発意と協力の基に活動拠点が成立したこと。 ・観光客向けのみならず、地域住民の文化活動の「場」として日常的に利用されているこ と。 ・拠点づくりとその後の運営において、多くの住民の参加を得ており、地域の皆で一緒に 42 作り上げるというコトづくりが、地域の一体感を醸成したこと。 ・地域の皆でつくりあげた施設が具体的な成果をあげ、そこに参加したことが住民の誇り になっていること。また、そのように感じさせていること。 ・地域に散在する資源を「一括受発注システム」により束ね、個々では成しえないことを、 地域力を結集することで共通の利益を享受することに成功したこと。 ・経営機能の集約により、サービスの品質を平準化し、高いレベルでの品質管理と、受け 入れ先の運営状況を一括に把握できるようになったこと。 ・行政と運営会社の役割の境目にグレーゾーンを残すことによって、助け合いの雰囲気づ くりを意識的につくっていること。 ・外部の知を適切に取り入れ、コンセプトづくりや商品開発に反映させていること。 【今後の課題】 ・より広域に向けた実施事業の情報発信・浸透、技術ストックの事業化による中核機能と しての持続的な発展。 ・事業のマンネリ化、品質低下を回避するための適度な刺激の注入。 ・周辺エリアの魅力の向上。 ・高いポテンシャルを持つ館山エリアとの連携。 千葉の農林水産物(千葉県 HP より) 43 【ケーススタディーから得られる知見】 北海道の砂川の事例と千葉県の富浦の事例では、活動の拠点となる「道の駅」や「地域交 流センター」ができる前から、民間レベルの交流が活発に行われていた。それぞれ「ケー キづくり講習会」(砂川)や「地域ウォッチング」(富浦)など、地域に関係の深いモノを 題材としたコミュニケーションを通じて、様々な世代の地域住民が緩やかな関係をつくっ ており、それが「場」を形成している。そこに過疎化の深刻化という共通の脅威が生じた ことによって、地域の結束力が高まり、市の総合計画や道の駅の建設などのキッカケを契 機に、より発展的な「場」として事業が生まれ、結果的に交流センターや道の駅とういう 活動拠点を得て発展的な活動につなげている。 したがって、ハコモノをつくることが先ではなく、まずは活動を生み出す「場」を創出す ること、あるいは既にある「場」を見出し育てること、そして、「場」が十分なポテンシャ ルを持つ場合は、「場」に勢いをつける「キッカケ」を演出することが重要である。 図4−4 ケーススタディーにみる「場」の発展過程と「キッカケ」 44 【「場」のデザインのためのチェックリスト】 これまで取り上げた五十崎町や砂川、富浦の事例から判明した共通点をもとに、よい「場」 をデザインするためのポイントをまとめると以下のように整理できる。 □共通のテーマと目標 地域の人に関心を持たれるテーマか、目標が曖昧すぎずイメージを共有できる内容か □意思のある人への機会の提供 意思のある人が集まり、有意義な時間が過ごせるか □外に開かれた柔軟な参加形式 敷居が低く、興味を持った人が自由に参加でき、自由に退場できるか □自発性の尊重 本人の意思に基づいているか、義務的な責任感を与えていないか □自由に発言できる風土 肩書きやしがらみなどの抑圧がないか、自由な発言を受け留める寛容性があるか □居心地のよさ、楽しさ 自分の居場所があり、また参加したいと思えるか □緩やかな人間関係 対立を避け、関心事項などを介して、新しい関係が構築しやすいか □相互作用 メンバー同士が相互に刺激し合い、個々の能力や知恵を引き出せているか □キッカケ 活動の停滞を脱出するために、弾みをつけられるような機会はあるか 45 4−7:ケーススタディー参考資料 ∼「食・食文化」を通した地域再生事例(北海道)∼ 名称 赤麦を守る会 テーマ 赤麦の丘 地域 北海道美瑛町 1997 年、地域おこしグループ「こぼら会」が、赤麦の丘の景観 を復活させたいと有志を集め、「赤麦を復活させる会」を結成し、 手探りで赤麦の栽培を開始。1999 年の美瑛町開基 100 年祝賀 イベントとして赤麦の復活が実施されることになり、町の補助金 等の支援により、イベントは成功した。その後、赤麦の丘を観光 資源として活用する方法が模索され始め、また、赤麦を原材料と 概要 した地域の特産品を開発することを目的とした「赤麦を守る会」 が、ペンションやホテルの経営者を中心にして 2000 年に結成さ れた。 町に蘇った赤麦の畑を維持し、拡大するために、現在様々な 商品開発を行っている。赤麦で作られたフルーティーな味の「ピ ルスナー」を始め、ノンアルコール発泡酒「テンダー」、味噌、しょ うゆ、パスタなどの食品開発も進められており、観光客や町内に 商品が広まっている。 a 赤麦の丘は、美瑛の原風景であり、写真家前田真三の写真 集『麦秋鮮烈』等で全国的に有名になったもの。 b 「赤麦の会」の会員たちは、I ターンや U ターンを経験した都市 成功のポイント 住民や、ペンション・ホテル経営者などの観光業に従事してお り、都市住民のニーズに対する感度が高い。 c 地域資源の赤麦を活用してできた特産品は、都市と農村とを 結びつける「交流商品」としての役割を果たしている。 46 名称 士別サフォーク研究会 テーマ サフォーク(羊) 地域 北海道士別市 士別市独自の地域的、歴史 的条件を活かしつつ、地域の活 性化を図るため、北海道に適した家畜として導入された羊「サフ ォーク」に着目し、サフォークを核としたまちづくりを行う中心的団 体として、昭和 1982 年、「サフォーク研究会」が市民有志 200 名 概要 によって設立された。 羊を媒体として市民の交流が生まれ、サフォークの用途を研究 する産業研究委員会、交流事業やイベントを企画する事業委員 会、飼育繁殖研究の生産委員会、ニット製品の研究開発を行う 翔糸委員会のほか、会員拡大委員会、広報委員会、観光委員 会の 7 つの委員会がそれぞれ積極的に活動している。 a 長年の活動の結果、市内にサフォークキャラクターを使った施 設や標識が多く使われるようになり、統一した景観づくりに役 立っている。 b 子ども達の学校活動の中にも「サフォーク」が積極的に取り入 成功のポイント れられ、郷土「士別」を知り、愛し、誇りを持つのに役立ってい る。 c 過去には捨てられていた豆殻や雑草がめん羊の飼料として利 用され、まためん羊の堆肥を活用して地力の回復を図り、有 機農業の示唆が得られると共に、もっとも自然に近い形のサ イクルの実現化が図られている。 47 名称 奥尻島元祖「三平汁」研究会 テーマ 三平汁 地域 北海道奥尻町 北海道で古くから親しまれ、奥尻島が発祥の地という説もある 三平汁。奥尻町では、三平汁を見直し、盛り立て、町おこしのき っかけにしようと『奥尻島元祖「三平汁」研究会』が、奥尻町内の 概要 飲食店、観光協会、行政などによって 2005 年に設立された。 三平汁誕生ストーリーの整理・研究、「元祖」レシピの確立、研 究会の趣旨に賛同する飲食店での三平汁 PR などが活動の中 心となっている。 a 三平汁は、使用される材料が季節によって異なり、また家庭ご と、飲食店ごとのオリジナルがあるため、研究会ではこの多様 性を大事にしている。 成功のポイント b 研究会の「三平汁」の約束事として、「奥尻島産の水道水を使 うこと」、「奥尻島から 12 里以内で取れた魚を使うこと」など、そ の他の材料も含め、奥尻産にこだわった方針を打ち出してい る。 48 名称 どっこい積丹冬の陣 テーマ オリジナルレシピ 地域 北海道積丹町 11 月・12 月の閑散期に、プロの料理人・サービスマンを積丹に招待 し、料理や接客の方法を、地元の飲食業に関わる人々に学んでもらう 事業。地元の人々が、自分達の方法を見直すきっかけとし、またその時 概要 期の食材を使ってオリジナルメニューを作り、地元に残してもらおうとい う仕組みづくりを目指したもの。 現在では、旅行代理店が商品として集客するイベントに育ち、以前は 閑散期に休業していたホテルや旅館の中から、通年で営業するところ が徐々に出てきた。 a 都市と地方、それぞれで飲食業や接客業を仕事としている人々が出 会う機会を創出し、共に学ぶ機会を提供している。 成功のポイント b その時期の地元の食材を活用することで、町内の商業の活性化につ ながっている。 49 名称 食材王国しらおい テーマ 地元の食材 地域 北海道白老町 地元に素晴しい食文化があるということを地元の人に知っても らおうと始められたイベント。2004 年に「食材王国しらおい・誇り ある故郷づくりシンポジウム」が開催され、白老のスローフードを 考える機会となった。 概要 イベントには、三國シェフや札幌グランドホテル・小鉢一夫総料 理長などが参加し、地域の食材・食文化を活かしたオリジナルレ シピが発表された。 イベントは毎年行われ、また「食材王国しらおい」関連フェアも 通年で開催されている。 a 白老町に根付くアイヌの文化と地元の食材を使った洋食のコ ラボレーション。 成功のポイント b 外部のプロの料理人によるオリジナルレシピの紹介により、北 海道の人々の、新しいものを取り入れるという地域性を活用し ている。 50 名称 テーマ (有)もち米の里 ふうれん特 産館 地域 北海道風連町 もち米 風連町は道内有数のもち米の産地。特産館は、町おこしとして もち米を加工・販売しようとする取り組みから始まった。自分たち が自信を持って生産したもち米を最後まで責任を持って製品化 しようという思いを持つ農業者 7 人が集まり、1989 年、グループ が結成された。 概要 もちの販売拡大に伴い、1994 年に法人が設立され、2001 年、1 階に店舗、2 階には地元の食材を使うレストランという、工場兼レ ストランの特産館が完成した。 特産館で使用するもち米は基本的にグループ内の、減農薬・ 減化学肥料栽培で作られた高品質米を使用するが、賄いきれな い場合には、近隣の農家や農協の協力により、風連産のもち米 を提供してもらっている。 a 自分たちが風連で自信を持って作ったものを食べてもらいた い、という強い思いが、栽培方法へのこだわりと結合し、風連 成功のポイント 町のもち文化を支えている。 b 地元での文化の継承だけでなく、札幌での販売店出店や、モ スバーガーとの連携など、全国レベルでの展開がされている。 51 名称 テーマ 食のトライアングル(農・商・ 消)研究会 地域 北海道富良野市 カレー 2002 年、市職員有志 7 人が集まり、「食のトライアングル研究 会」が結成、「富良野には食がない」という問題意識から、新しい 地域振興の核として、カレーを用いることになった。富良野市の 主要生産品目はジャガイモなどの根菜類で、季節ごとにカレー のバラエティを広げる食材も豊富である。 市内で協力してくれる飲食店は最初の 3 店から徐々に広がり、 飲食店による「ふらのカレンジャーズ」も結成された。飲食店だけ 概要 でなく、高校の園芸科の学生など、取り組みに参加する人々の 輪は広がり、2004 年、地域の各組織を巻き込んだ市民団体とし て新たなスタートを切った。 基本理念は、(1)地産地消を軸にした ふらの 型カレー文化の 創造、(2)食育の推進、(3)地域経済の活性化、の 3 点である。 近年では、新しい取り組みとして、地域の独自性を強調した 「富良野オムカレー」が発表され、新しい目玉として注目を集め ている。 a 飲食店だけでなく、異業種の人々のネットワークを形成し、連 携を深めた取り組みが行われている。 成功のポイント b 地産地消が可能な食材を先手駆使、農業と観光の共生によ る地域経済の活性化を図っている。 52 名称 元気村・夢の農村塾 テーマ 農業全般 地域 北海道深川市 2002 年、農家 19 戸が集まり、将来を担う子ども達に農業を理 解してもらおうと農業体験受入組織「元気村・夢の農村塾」が設 立され、全国の高校生などの受入を開始した。 全国から訪れる子ども達は、土に触れ、食物や農村の自然を 概要 通し、食べることの大切さを学ぶ。 深川市から始まった取り組みは、現在北空知一円(深川市、妹 背牛町、秩父別町、北竜町)に広がっている。また、体験交流活 動は年交流活動の拠点組織として位置づけられ、行政や JA 等 からも積極的な支援を受け、運営が行われている。 a 悩みなどを持つ子ども達が、活動を通して人生の目標を持て るようになるケースもあり、農業者が農業の持つ教育力を実 感し、農業に誇りを持てるようになっている。 成功のポイント b 交流活動を通じて地域を元気にするため、会員同士の情報交 換も盛んに行われるようになった。 c 北空知に全国から体験に訪れる子どもが増え、地域全体に 交流活動の輪が広がり、地域活性化に役立っている。 53 名称 テーマ 新得町立レディースファーム スクール 地域 北海道新得町 農業全般 北海道の農業にあこがれ、研修に訪れる女性のために、1996 年、就農を目指す独身女性の研修施「新得町レディースファーム スクール」が開校した。毎年 10 数名の受入を行っている。 それまでの農業研修では、特定の農家に住み込む方法だった ため、農家・研修生共にカルチャー・ショックやストレスを感じるこ 概要 とも多く、研修・就農を断念する人々がいた。スクールでは家具 やパソコンなどが完備された快適な宿泊施設で生活しながら会 員農家を回り、実習に専念することができる。 2007 年 3 月現在、長期研修修了生 100 名の内、新得町内に在 住するのが 31 名(内農業関係に就職 22 名)、新得町外で農業 関係に就職しているのが 20 名である。 a 新しく就農したいという女性の生き方を応援する仕組みが展 開され、参加者が農家と無理なく交流が持てるよう場づくりが 行われている。 成功のポイント b 研修の結果、新得町に移り住む女性たちも多く、「住・職のギ ャップ」の解消につながっている。 c 後継者不足に悩む農業の活性化につながると共に、就農した 女性たちが都市生活者との触媒にり、活躍することが期待さ れる。 54 名称 さーくる森人類 テーマ 森林・移住 地域 北海道下川町 1996 年、下川町森林組合・商工会・下川町の有志が実行委員 会をつくり、森林・林業体験ツアーを企画して大成功を収めたの が活動のきっかけである。ツアー参加者の一人が代表となり、メ ンバーのほとんどが移住者である「さーくる森人類」は 1997 年に 概要 結成された。 森林での交流活動を行うとともに、他の都市からの移住や就 業を円滑に進める役割を務めている。 具体的には、通年の森林ツーリズム、年数回開催の 2 泊 3 日 の森林・林業体験ツアー「すくもり」、町内の巨木散策プログラム なども実施している。 a 森林・林業体験ツアーには東京からの参加者やリピーターも 多く、交流事業をきっかけとして、都市から町へ移住・定住す 成功のポイント る人々が増えている。 b 町内の森林体験事業を行うことにより、以前は当たり前と思わ れていた森林景観に対する住民認識が変化してきている。 55 名称 八百−ねっと テーマ 農業全般 地域 北海道大野町 地元産の野菜を、地元の人々に味わってほしい、生産者と消 費者を直接結び付けたい、そんな思いから、2001 年より野菜の 宅配サービスを始める。(1)おいしいものを届ける、(2)新鮮なもの を届ける、(3)生産者の気持ちを届ける、(4)消費者の声を持ち帰 概要 る、を 4 つの柱に据える。 地域の農家を結びつけ、情報のネットワーク活用し、新しい流 通の形にチャレンジしていると共に、生産者と消費者による「交 流会」を積極的に開催し、農家・消費者からの様々なアイデアと 取り入れている。 a 地域における個々のこだわり生産者を、情報通信技術を用い てネットワーク化し、交流の輪を広げている。 成功のポイント b 生産者と農家との交流を大切にし、活発な意見交換が行われ ている。 56 ∼「食・食文化」を通した地域再生事例(千葉県)∼ 名称 鴨川市棚田オーナー制度 テーマ 棚田・都市/農村交流 地域 千葉県鴨川市 鴨川市の千枚田は地形上機械化が進まず、休耕地や荒廃地 が増加。農業従事者の高齢化や後継者不足等、地域での保全 が困難となり、都市の人々に支援を呼びかけ、米作りに参加して もらおうと始まった。棚田の維持と共に、都市に住む人々に対 し、米作りの苦労と喜びから農業に対する理解を深めてもらうこ 概要 とも目的となっている。 主催は鴨川市であるが、事業の管理、及び利用者への米作り 指導や交流イベントなどは、NPO 千枚田保全会が担っており、 農家と都市住民をつないでいる。 2000 年度より実施され、2004 年度からは特区を活用し、鴨川 市各所でオーナー制度が開始されている。 a 農家、NPO、行政、そして都市からの利用者(オーナー)との 連携により、日本の原風景である棚田が守られると共に、都 市生活者と農村のギャップを埋めている。 成功のポイント b 「会費を払えば、農作物が届く」というシステムのオーナー制 度と違い、進んで田に入り、積極的に稲作に取り組むオーナ ーを募集することで、農家とオーナーとの深い関係が構築され る。 57 名称 テーマ ネイチャースクールわくわく WADA 地域 千葉県和田町 林業・漁業(くじら) 和田町が主催、NPO「ネイチャースクール緑土塾」が企画・運 営を担当するネイチャースクール。2000 年度より事業が行われ ている。 始まりは、1980 年に発足した、日比谷一水会という東京のサラ リーマンや経営者、主婦などが集まる勉強会。異業種間のネット 概要 ワークが広がり、1998 年頃、現事務局長である四方氏が、「都会 ではなく、自然の中での学習・交流をしたい」という希望から、ネ イチャースクールの構想を立ち上げた。 和田町の廃校利用施設「くすの木」を宿泊所とし、林業や農 業、漁業(くじらの食文化)等を具体的に学ぶイベントを通年で開 催している。 a 業者などが入らない NPO と自治体の協力による手作りによる 事業であり、手探りながらもお互いの信頼を得ることができ た。 成功のポイント b 単なる観光客や海水浴客などとは違い、ネイチャースクール に参加する都市住民は、じっくり地元の人と交流しようという 姿勢があり、町の人々からも歓迎されている。 58 名称 (有)よもぎの里 地域 テーマ 農業全般・女性の起業・地産地消 千葉県四街道市 四街道市亀崎地区に住む兼業農家の主婦 10 名が、それまで に行っていた地域農産物等の有効利用の研究や朝市での加工 品販売等の経験から、自分たちで取り組むことのできるグルー プ起業の企画を練り、2000 年に「よもぎの里」を立ち上げた。 「農家のお母ちゃん達の店」をテーマに、味噌製造業・菓子製 概要 造業のほか、農産物等の直売所、田舎レストラン「キッチンたぬ き」の経営を行っている。レストランでは、地元産にこだわった新 鮮野菜、あまり市場に出回らない珍しい品、添加物のない加工 品、安価な田舎料理など、ふるさとに帰ってきたような素朴さと 温かさのある料理や予約注文の料理を提供している。 2005 年 4 月に有限会社となる。 a 地域の農家が会員となっている直売部は、地元農家への現 金収入を得る機会を提供しているほか、都市と農村の交流の 場となっている。 成功のポイント b 地域の祭事などのイベント等にも積極的に参加することで、地 域コミュニティの活性化の力となっている。 c 地元産にこだわった農産物・農産加工品を提供することによ り、地域の農業振興や、消費者と農家をつなげる役割を担っ ている。 59 第5章 新たなライフスタイル創出と地域再生のための政策展開 5−1:政策展開の目的・基本姿勢 本章のタイトルは「新たなライフスタイル創出のため政策展開」であるが、「新たなライ フスタイル」を「創る」主体は、政策展開を行う政府や自治体ではなく、地域に暮らす人 それぞれであることをまず確認しておく必要がある。 従って、政策展開に求められていることは、それぞれのライフスタイルの中でギャップ を感じている人々が自ら「新しいライフスタイル」を創出し、実行できるような環境や仕 組み、きっかけを作ることである。どのようなライフスタイルが今後望ましいのかという 未来予想図や、その目標に向けたマニュアルを示すことでは決してない。 よく言われることであるが、かつて高度経済成長の時代には、 「三種の神器(白黒テレビ、 冷蔵庫、洗濯機)」や「新・三種の神器(カラーテレビ、クーラー、カー)」などの製品に 代表されるような「豊かなライフスタイル」が人々の間で共通の目標の一つとなっており、 日本全国がその目標にたどり着けるよう、政府や自治体も政策を展開していた。しかしな がら、価値観が多様化し、何かのアイテムが日本に住む人々のライフスタイルを象徴する というよりも、世の中に溢れるモノや情報を自分なりに編集し、「自分のライフスタイル」 を作り上げることが期待されるようになってきている。これは、自由な発想に基づく非常 に開かれた考え方である一方、目標が見えないという点で、人々に不安をもたらす可能性 もある。 目標がはっきりしていた時には、その目標に合う情報・モノだけを集めれば十分であっ たが、人々の「個性」に基づくライフスタイルが求められたとき、どのようにしたら自分 に合うライフスタイルが見つかるのか、そして見つかったとしてもどのようにそこにたど り着けば良いのか、そしてそもそも「自分らしさ」とは一体どのようなことなのか、迷う 人も多いだろう。 従って、環境・仕組み・きっかけづくりが政策展開の目的ではあるが、その展開の方法 にも注意を払う必要がある。人々がどのようなギャップに悩んでいるのかを時間をかけて 適切に明らかにし、様々なライフスタイルモデルをできるだけ多く提示し、そのモデルに アクセス・トライする機会を提供することが求められる。その中でも、やはり「選ばされ た」という感覚よりも、自らが「選んだ」という積極的な姿勢を人々に提供するものでな ければならない。 また、地域再生の視点からは、人々が求める様々なライフスタイルと地域社会がどのよ うにつながり、お互いの発展につながっていくのかを、地域ごとの幸福の構造に沿って示 す必要がある。また、ライフスタイルのギャップを埋める作業が、単なる「個人」の能力 や努力のみで達成されるのではなく、地域の人々の力によって支えられているということ 60 を明らかにすることが求められている。 地域ごとの幸福の構造とは、例えば「幸せになりたい」という人生における希望は、誰 しも持っているものであるが、その「幸せ」が「何を用いて」 「どのように達成できるのか」 については、地域社会の持つ様々な要素(地理的環境、歴史、文化等)によって変化する、 ということである。都市・地方という枠組みだけでなく、例えば東京都、札幌市などの大 きな自治体の中では、区によって持つ文化や人々の考え方が異なったり、更に区の中でも 異なったりする場合があるだろう。どのレベルで枠組みを決めるかによって、幸福の構造 自体も異なってくる可能性はある。 政府・自治体が、政策展開としてライフスタイルのメニューを提示していこうとする時、 このような地域社会が固有に持つ要素の棚卸しが必要となるが、その棚卸しの作業の中心 となるのは、その地域に住む人々であることが望ましい。様々な年齢・性別・ライフスタ イルから構成される人々のコンセンサスをとることは、行政側・地域住民側双方にとって 非常に時間と手間隙を必要とする作業であると思われる。しかしながら、地域社会への愛 着を出発点に、「何があるのか」「何が利用できるのか」、そして更には地域社会のライフス タイルの基礎となる思いの確認などを行うことができれば、それは人々がギャップに直面 した際に、それを乗り越えようとする力の一つになるのではないだろうか。 本章では、「政策展開」を、「仕組みづくり」として提案し、政府や自治体、民間企業、 市民団体・NPO、または一個人の役割分担まで細かく述べることは行わない。ギャップを 埋めるための仕組みづくりには、それぞれの主体が重要な役割を担うことになろうが、そ の役割分担・責任の置き方を決めるは、やはり地域の人々が自らの役割について考え、お 互いにコンセンサスを図る必要があるからである。 提案される政策展開には、不十分な点もあると思われるが、これを一つのヒントとして、 地域において具体的な政策展開がなされることが期待される。 5−2:ケーススタディーからの考察 本調査で行った千葉県と北海道のケーススタディーの結果は、前章で詳しく取りまとめ ているため、ここでは政策提言の際に鍵となる点について簡単に確認する。 a 千葉県「枇杷倶楽部(道の駅 とみうら)」 本事例の特徴は、既に地域の人々によって支えられてきた取り組みが、行政の政策を新 たな燃料として花開き、再度地域の人々の新たな力となったことである。 「道の駅 とみうら」の事業が人々に紹介される前から、地域の人々は「まち歩き」な どの小さなイベントを行い、地域の良いところを探し、愛着を深めていた。地域への知識、 また発展させるアイデアなどを集約させる活動拠点が人々から求められるようになってき 61 たところ、タイミング良く「道の駅」を開設する行政の取り組みが地域にもたらされたの である。 重要な点は、この行政の取り組みが地域にもたらされた際、独自の判断により事業が進 むのではなく、地域住民と適切に連携がとられたということ、また「枇杷倶楽部」は地域 活動の拠点とされているものの、活動のフィールドは地域の現場(まち、農家、民宿など) そのものにあり、既存の施設を大切にするという認識の下にまちづくりが企画・運営され ていることである。 結果として、現在の従業員の多くが、道の駅以前から地域の取り組みに参加する経験を 持ち、また、地域住民の約 6 割が、何らかの形で枇杷倶楽部の運営に携わっている。枇杷 倶楽部が建設されて 14 年が経過したが、「『枇杷倶楽部』 」と共に地域社会の発展に参加す る」というライフスタイルが、地域住民に受け入れられ、定着したと言えるのではないだ ろうか。 b 北海道「すながわスイートロード」 本事業の特徴は、地元の商業者との連携が適切にとられており、その積極的な担い手と なっているのが、行政ではなく、地域住民に愛されている「菓子組合」である、という点 である。 自治体のソフト事業の目玉として製菓商店を盛り上げる取り組みの発端は、千葉県の枇 杷倶楽部と同様、行政からのアイデアではなく、地域住民からの提案である。ここで基礎 となっているのは、地域で長年培われてきた製菓業の歴史と人々の愛着、そして過去 30 年 に亘る、クリスマスケーキ作りなどを通した、製菓業を営む商店主と住民との交流である。 行政と共に地域の良さを内外にアピールする活動を通して、商店主たちも自らが地域の活 性化の担い手であることを自覚し、そこに充実感を得るようになっている。 2003 年に事業が開始されてから、北海道内外における認知も広がり、担い手達の大きな 励みとなっていると共に、今まで地域活動に参加してこなかった人々を「応援団」として 巻き込む事業へと成長している。多くの人を巻き込む過程で、新たな地域のコンセプトが 生まれることが期待され、ここでもまた、地域社会への関わりを取り込んだ、地域特有の ライフスタイルが生まれる可能性がある。 62 5−3:ライフスタイルの様々なギャップを埋める政策展開 (1)ギャップに応じた政策展開の可能性 a 「様々なライフスタイルと『自分』とのギャップ」 ∼人生のロールモデルとの出会いを創出する仕組みづくり∼ 例1:学校教育における、非教員による授業・講義の拡大 例2:地域社会の現場における生きたライフスタイルに触れるインターンシップ制度 例3:地域の人々の関係をつなぎなおす「社交の場」を生み出す仕組みづくり 地域コミュニティの人間関係が薄れ、子どもが成長する過程で親以外の大人達、つまり 「様々な人生のロールモデル」に出会う機会が少なくなっている。価値観の多様化や「個 性」が求められる一方、経済や情報・技術革新の流れは速い。他人とは全く違った、完全 オリジナルのライフスタイルを貫くのは非常に難しく、その偉業を達成できる能力を持つ 人々は非常に限られている。一般の人々にとっては、子どもの頃から、どのライフスタイ ルを選ぶことが、自分の「志向」と「嗜好」を最も満足させることのできる「行動」にた どり着くことができるのか、を考えることのできる機会を多く持つことによって、「今の自 分」と「なりたい自分」とのギャップを埋めることができるのではないだろうか。 子どもへの影響力が一番大きいのは、学校教育の現場における取り組みである。地域の 様々な分野で働く人々が、学校教育において授業を行うことにより、授業を行う本人に とって、社会貢献欲求を満たしたり、自分のキャリアや学校教育への理解を深めたりする 機会となる一方、授業を受ける子ども達にとっては、通常の授業ではない、話や体験が、 ライフスタイルにおけるギャップを埋める助けの一つとなる。 授業の内容は、特定の「仕事の内容」だけでなく、「仕事を持って生活するとはどういう ことか」「共働きの場合の家庭内分業」など、生活の仕方について学ぶ機会をもたらすもの であることが望ましい。 学校教育の場での機会創出と共に、具体的な現場で経験を積む仕組みづくりが重要であ る。職場におけるインターンシップだけでなく、「子どもと触れ合って生活する」ための保 育所や子育て家庭における「ベビーシッター・インターン」や、地域に住む様々な大人と、 様々な子どもが共有できる経験の場を創出する機会の創出が望まれる。 このような取り組みの結果、単なるロールモデルへの知識・経験だけでなく、実際に子 ども達と信頼できる大人とが知り合うことにより、地域の防災性も向上するという利点も 期待される。 63 b 「家庭生活におけるギャップ」 ∼ライフ・ワークバランス、子育て・介護支援の仕組みづくり∼ 例1:企業におけるワーク・ライフ・バランス意識の拡充 例2:パパクォーター制の導入 例3:企業における保育所設立支援の条件緩和 例4:生活支援ロボットの可能性を広げる仕組みづくり 核家族化は、戦後の高度経済成長の中で日本のライフスタイルにもたらされた大きな変 化である。夫が遠方の企業に通勤し、妻が地域社会で家族の世話をする。このような一つ の家族形態が長い間機能してきたことは確かであるが、その背景には、夫や子ども、年老 いた親を家庭内で世話する役割を担うために、自分自身のライフスタイルにおけるギャッ プを埋めることなく暮らしてきた多くの女性の存在がある。しかし、ライフスタイルの ギャップを感じてきたのは女性だけではないだろう。男性もまた、「企業戦士」としてのラ イフスタイルを期待され、家庭や地域社会を顧みる時間を与えられてこなかった、と言え るのではないか。 これらのライフスタイルのあり方が、家族が家庭生活や社会生活を営む上での更なる ギャップを生み出してきたと考えられ、人間社会の基本体系である「家族」のつながりを 組み直し、家庭生活のあり方を見直す必要がある。 これにはまず、「働き方」の見直しが急務であろう。地域社会において、ライフスタイル のギャップを埋める様々なチャンスが提供されていても、企業等に勤める多くの人々が、 長時間勤務によりそのチャンスを活用できないのであれば、それは意味が無い。また、家 庭内の家事・子育ての分業については、日々の短時間勤務を奨励することが望ましい。企 業における業務の効率化を図り、「長時間会社にいる」ことではなく、「短時間勤務で結果 を出せる」働き方を奨励するような意識改革が、企業・行政共に求められる。 また、父親の家事・育児参画については、「パパクォーター制」とは、北欧などで導入さ れている、育児休業時間の一部を父親が取るよう義務付ける制度の導入が有効ではないか と考えられる。行政や企業がこの制度の導入に積極的に取り組むことにより、父親の子育 て参加が促進されると期待され、最終的には、現在女性 7 割以上、男性 1 割以下と言われ ている育児休業取得率を、男女共に 100%にすることが望まれる。 「子育て」は「親育て」であり、また、子育ては地域社会とのつながりを意識せずには 成しえないものであるため、多くの男女が子育てに関わるきっかけを創出することは、地 域社会を担う人材を育てることでもあると考えられる。 一方、多くの自治体において保育所の数は不足しており、特に首都圏においては平均 1000 人以上、東京都においては 5000 人近くの子ども達が入園を待っている(平成 18 年 4 月現 64 在)。しかしこの数値は、実際に自治体へ保育所入園の申請を行っている数であり、働きた いと考えていても、保育所の現状に直面し、あきらめてしまっている家庭は入っていない。 潜在的な希望者は更に多いと考えられる。 自治体から援助を受けることのできる保育所に関する規制を緩和し、多くの民間企業が 保育所設営に取り組むことのできる環境づくりが望まれる。例えば、現在自社の従業員の 子どものみに対する保育所は、行政からの支援対象とはならないが、広い意味での「女性 の就業支援・子育て支援」に入ることから、自治体・行政による支援策がとられることが 期待される。 また、技術革新の力を用いて家族の関係をつなぎ直す取り組みの一環として、ロボット の導入も期待される分野である。現在、簡単な掃除ロボットや、心を癒す相手としての 「パートナー・ロボット」と呼ばれるロボットが家庭に普及しつつあるが、家事や育児、 介護を任せることのできるような「生活ロボット」が家庭に普及すれば、家族におけるラ イフスタイルのギャップを埋める一つの大きな助けとなるであろうことが期待される。 c 「食におけるギャップ」 ∼生産者と消費者の距離を近づけるために∼ 例1:「生産者の暮らし」との交流を取り入れた食育の展開 例2:消費者・加工者が地元の食材を活用する場づくりの促進 食におけるギャップへの取り組みについては、項目「4−4(p34∼)」に詳しく述べて いるが、政策展開の視点として、何点か付け加えたい。 現在、多くの自治体が教育現場などにおける食育事業に取り組んでいる。しかし、年に 数回畑に赴き、種付けや収穫などの「イベント」を体験するだけでは不十分である。生産 者のライフスタイルとはどのようなものなのか、それを支える消費者のライフスタイルは どうあるのが望ましいのか、また、具体的に、都市にいながら生産地を支える方法などに 対するアイデアを交換できる交流の場が望まれる。 また、消費者と生産者との顔の見える関係作りを視野に入れた、「地産・地加・地消」と いう、地域で採れた農作物はその地域で消費することが望ましい、という活動が各地で行 われている。首都圏内・近郊における取り組みの促進だけでなく、多くの食材を日本全国 に提供している北海道のような地域でも、大生産地であるということの誇りを農家が得、 北海道に住む消費者達が、地域の品質の良い食材を安価で手に入れ、活用できる仕組みが 望まれる。 65 d 「職におけるギャップ」 ∼様々な働き方の創出に向けて∼ 例1:ワーク・ライフ・バランスを推進する企業・行政への評価 例2:労働市場におけるマイノリティ(女性・障害者)が安心して働ける法制度の拡充 例3:「SOHO」、「Office at Home」、「起業」を普及するための仕組みづくり 高度経済成長の時代には、企業活動の広がり、活性化が日本を元気にし、それが家庭に 恩恵をもたらすものと考えられていた。しかし、ライフ・ワークバランスの意識の広がり により、家庭や地域社会を大切にするライフスタイルを支えることが、逆に多様で柔軟な 発想を従業員に促し、企業に貢献する人材に育つのではないか、という考え方が広がって いる。このような理念に基づき、積極的にワーク・ライフバランスを進める企業・行政へ の評価が高まる環境づくりが期待される。 また、労働力となる絶対的な人口数が減少していく中、女性や障害者、高齢者など、過 去にはマイノリティとされてきた人々の力を活用することが必要で、それぞれのライフス タイルに合わせた働き方を創出することが望まれる。 更に、「職」とは、必ずしも住居から職場に通うことで成り立つものではない。「SOHO: Small Office Home Office」という、情報通信技術を活用し、自宅や小規模オフィスで事業 を行うワークスタイル(ライフスタイル)を選択する人々が増えている。このような、自 分の能力を仕事という形で発揮したいと考えつつ、家族との生活などプライベートな部分 も充実させたいという思いを持つ人々を支援する仕組みづくりを行うことによって職と住 の空間的ギャップが埋まり、地域再生の力となることが期待される。 e 「住におけるギャップ」 ∼地域での様々な暮らし方の創出に向けて∼ 例1:ある地域に住みたいと考えた際、ある一定の期間住むことによって、自分と地 域との相性を試すことのできる仕組みづくり。 例2:一定の条件の下での交通機関料金の値下げなど、地域間移動に伴うコスト削減 の仕組みづくり。 例3:職住が離れているという前提で、地域コミュニティの見直しを行うプロセスの 提案。 地域社会とのつながりの変化と、情報技術の革新や交通手段の発達は、人々に「様々な 地域における様々な暮らし方」の可能性を広げたと言える。その地域に住む人のみが地域 コミュニティを作るのではなく、過去に住んでいたが今は移動してしまっている人々、ま たは勉強や仕事、観光でその地域を訪れ、愛着を持った人々、そして地域への愛着からそ 66 の地域に移り住もうと考えている人々など、多くの人々を「地域への愛着」、つまり「新し い地縁」が結びつけることにより、地域の再生を支える新しい力となることが期待される。 「新しい地縁」の輪を広げるには、地域社会にとって、いかに地域の魅力を対外的にア ピールするかという戦略と、自由な関わり方を望む人々を歓迎する寛容性、そして信頼関 係の創出が必要となってくるであろう。アピール戦略の一つには、交通機関との協力によ り、距離や時間帯、頻度など、一定の条件を満たす人々に対する移動コストの削減なども 含まれるだろう。また、「古い地縁」と違い、「新しい地縁」で集まる人々の興味を、地域 への愛着に変化させ、地域再生の力とするには、お互いの信頼関係の創出が不可欠である。 f 「学びにおけるギャップ」∼地域を学ぶ機会の創出に向けて∼ 例1:学校機関を地域のライフスタイルの集積場所、社交の場所として活用する仕組 みづくり。 例2:ICT を用いた、必要なときに適切な情報・サポートが得られる仕組みづくり。 例3:まちづくり指標プロジェクトの推進。 例4:地域の問題解決を行う NPO・市民グループと、行政・学校が連携した、地域の 仕組みを学んでもらう機会の提供。 地域への愛着は、まず「地域を知る」ことから始まる。地域に何があり、何が自分の目 指すライフスタイルに活用することができるのか、新聞やテレビ、地域の情報誌、HP など のメディアやイベントなどを通して、必要な時に必要な情報やサポートにアクセスするこ とのできる仕組みづくりが望まれる。その情報の中には、地域の歴史・文化・施設だけで はなく、子育てや安心・安全情報なども含まれる。 また、地域の人々が様々な意見を持ち寄り、コンセンサスを図る「まちづくり指標」づ くりは、地域を学ぶ方法として有益であると考えられる。最初から答を用意しておくので はなく、時間・手間をかけて、地域の問題を考えていくプロセスは、参加する行政や地域 住民にとって非常に力を必要とする作業となるだろうが、それを終えた時、地域を再生す る力となることが期待される。またこの「まちづくり指標」は、時代の流れに応じて適宜 改訂されていくことが望ましいのではないだろうか。 地域への知識・愛着を地域再生につなげるには、その過程で明らかになった利点をどう 活用するのか、また課題がみつかればそれをどう解決するのか、という「行動」が重要で あり、その担い手は、やはり共に汗を流した地域の人々である。具体的に「地域社会に関 わるライフスタイル」を推進するため、NPO・市民グループとの適切な協力関係を築くこ とが期待される。 67 (2)仕組みづくりに取り組む様々な事例 (1)では、様々な仕組みづくりを提案したが、既に様々な主体が、自治体、NPO、市 民グループ、企業などが様々な形でライフスタイルのギャップを埋め、地域再生の基盤を 作ろうと活動を行っている。ここでは、そのような事例をいくつか紹介する。 a ワーク・ライフ・バランスを進める取り組み ● (株)ワーク・ライフバランス(東京都港区) 家庭の充実が仕事の充実につながり、企業が活性化することが個人の生活に潤いを 与える、そのような充実した社会の広がりを目指し、2006 年に設立。育児休業者、 介護休業者等、休業中に e ラーニングを通してスキルアップを目指すという休業者職 場復帰支援事業、armo[アルモ]を始め、事業所内保育所等の設置補助を行う保育所・ 託児所関連事業、ワーク・ライフ・バランスに関するコンサルティング事業等を精力 的に行う。 参考 URL:http://www.work-life-b.com/ b 「新しい地縁」が進めるコミュニティづくり ● ロハスクラブネットワーク 2004 年、代表者である小瀧氏が山形県の過疎村を訪問し、過疎の問題に直面し、 また東京都内に住むにあたり、東京周辺の一極集中やライフスタイルに影響する社 会問題への関心から、自分でも小さなことから何かできないかと考え、「週末は過疎 村へ行こう!」というメールマガジンを発行したのが始まり。 i)食から地域を変えるため、Web2.0 を活用した生産者・消費者のネットワーク作 り、ii)小諸市におけるエコビレッジを作るプロジェクト、iii)農業体験をするアグ リツーリズモの仕組み作り等を行っている。 参考 URL:http://www.lohasclub.net/ ● I Love Yokohama SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)、mixi のコミュニティの一つ。メン バー数が 3 万人を超える巨大コミュニティの一つ。 「横浜が好きである」が条件であ るこのコミュニティは、当初は横浜に関する情報交換、イベント案内等が中心で あったが、管理者を含む有志が集まり、みなとみらい地区での清掃活動を開始する。 ボランティア活動では、最も参加を呼びかけにくい層(20∼30 代のサラリーマン) を取り込み、地元自治体とも連携を組んで活動の幅を広げている。 参考 URL:http://www.hamakei.com/column/134/index.html 68 c 地域の力を集めたまちづくり指標 ● 東海市「まちづくり指標」(平成 14 年度) 公募委員 25 名、推薦委員 25 名で構成される「市民参画推進委員会」がコーディ ネーター役となってニーズ調査を行い、東海市民が今後のまちづくりにおいて重視 している理念とそれを実現するために重要と考えている生活課題を把握し、その生 活課題が改善されているかどうかを数値で確認できるような仕組みとして、99 のま ちづくり指標が選定され、東海市の「第 5 次総合計画」に取り入れられた。 参考 URL:http://www.city.tokai.aichi.jp/~seisaku/index_iinkai.html ● 枚方市「まちづくり指標」(平成 14 年 3 月) i)市民・事業者・行政の意思疎通や議論の基盤となる共通・共有の「コミュニ ケーション・ツール」として機能させ、三者の協同を醸成すること、ii)指標の目標 と実績を比較し、総合計画の達成度を評価すること、iii)行政サービスの重点化・選 択の尺度とすること、の 3 つのねらいの下に、有識者・市民公募委員により構成さ れたまちづくり指標検討協議会が 47 指標を作成した。 参考 URL: http://www.city.hirakata.osaka.jp/freepage/gyousei/kikaku/machidukuri/top.htm ● 吹田・豊中市「持続可能なまちづくり指標 千里ニュータウン」(平成 15・16 年度) 平成 15 年、地域住民や NPO、事業者、行政等様々な立場・考えの人々が自由に 集まり、地域の問題・課題についての情報や意見交換を行うオープンな場である地 域プラットフォーム、「北千里地域交流研究会」における議論を通して、住民参加型 による「持続可能なまちづくり指標」を作成、平成 16 年度には、平成 15 年度版を 具体的事案に適用し、使いやすさ等を検証すると共に、既成市街地等においても使 えるよう、より汎用化された指標を作成した。 参考 URL:http://www.kkr.mlit.go.jp/kensei/machi-shihyo2004/ 69 II: 「新しいライフスタイルの創出と 地域再生に関する調査研究」 参考資料 1.第 1 回調査研究委員会・第 1 回千葉県特定地域検討委員会・第 1 回北海道 特定地域検討委員会議事概要 ●日時:2006 年 11 月 1 日(水)13:30∼16:30 ●場所:都道府県会館 403 号室 ●出席委員(敬省略) 調査研究委員会:斎藤隆、荒牧麻子、小室淑恵、小瀧歩 千葉県特定地域検討委員会:荘司久雄、斉藤剛 北海道特定地域検討委員会:越膳百々子、工藤一枝、竹本アイラ ●議事次第 開会 (1) 委員紹介 (2) 内閣府挨拶 (3) 調査研究のねらい・進め方 (4) 国土審議会計画部会「ライフスタイル・生活専門委員会検討状況中間報告」の紹介 (5) 「地域再生のためのライフスタイル・インパクト −ライフスタイルの推移と展望 −」 (6) フリーディスカッション (7) モデル地域ケーススタディーについて a 千葉県 b 北海道 (8) その他(スケジュール等) 閉会 ●議事概要 1.「(3)調査研究のねらい・進め方」について <基本となる考え方> 地域の活力・再生の鍵は、生産、流通、消費等の経済行為というより、新しいライフ スタイルの創出による知的・文化的行為であると考える。 <取り組む 5 つの課題> (1) 新しいライフスタイルのイメージ検討 71 (2) 新しいライフスタイルによる地域再生実現のメカニズムの検討 (3) モデル地域(千葉県及び北海道)によるケーススタディーの実施 (4) 新たなライフスタイル創出のための政策展開(国民生活政策のあり方、男女共同参 画のあり方等を含む) (5) 新しいライフスタイルに対応した暮らしの幸福感、満足度把握指数のあり方の検討 2.「(5)地域再生のためのライフスタイル・インパクト −ライフスタイルの推移と展 望−」について 斎藤隆委員より、上記のテーマについて発表が行われた。主な発言は下記の通り。 a Japan-VALS について ・ 日本のライフスタイル分析は、従来は伝統型や自己型など、横並びの分類だったが、 1989∼1991 年、アメリカの SRI インターナショナルと NTT データがは共同で、新 しい日本のライフスタイル分析手法「Japan-VALS」を開発した。 ・ 「Japan-VALS」の特徴は、横軸に「価値観」、縦軸に「活力」を配置していること である。人間の持つ 3 つの要素である「肉体」 「精神(価値観)」 「エネルギー(活力・ 魂)」の内の 2 つ、「精神」 「エネルギー」を用いて日本人を分析している。 ・ 消費者の行動は、価値観(ニーズ)と環境で変わる。 ・ 新しいマーケットは、イノベーション曲線の平均値ではなく、イノベーターと呼ばれ る人々から発生する、と考えられる。 ・ VALS とは、革新性(予兆・先駆け)をどのように探り出し、どのようにすればスム ーズに浸透していくのかの条件を探っていくという、創造的な方向性を明らかにしよ うとするものである。 b ロハスライフスタイル ・ 1970 年代は個人の意見を強調する主張性のライフスタイル・個人のライフスタイル であったが、毎日をどうやって過ごしていくかを重視した「普段使いのライフスタイ ル」に変わってきた。 ・ 現在のもう一つの特徴は、「関係性のライフスタイル」である。強い関係性を持つと 窮屈だが、弱い関係性の中で、様々な人々と多様につきあうことが重要視される。 ・ 「普段使い」と「関係性」のライフスタイルは、「住まい方」のライフスタイルでも あり、またロハスの提供する「Health」と「Sustainable」にも関係している。 c 「振り子の要」 ・ 世の中の概念は対立するが、重要なことはその対立する概念を、一段高いレベル・次 72 元で束ねる(調和・融合)ことである。 ・ 例えば、「仕事をとるか」・「家庭をとるか」で概念が対立し、振れている場合、重要 なことはどちらかをとるのではなく、それを束ねる要として、「仕事と家庭の良い関 係を作る」という新しい価値が存在することである。 ・ 21 世紀に新しい社交の場が生まれ、そこに市民文化が登場するであろうという予感 がある。 d 「食 MAP」 ・ 365 日、朝食・昼食・夕食・間食・夜食において、それぞれの家庭でそのような食品 が買われ、誰がどのようなメニューを作ったのかを観察している。そこには、様々な 食のメカニズムが見えてくる。 ・ 文化を見ながら、新しいスタイルを作っていくことが必要である。 e 21 世紀のライフスタイルの展望 ・ 「社交場」をどう作っていくのか、人と人とが関わりを持つ場をどのように作ってい くのか、は文化の鍵である。 ・ 健康も非常に重要で、普段使いのライフスタイルと関係がある。 ・ 世の中には、ハードウェア、ソフトウェアの他に存在するヒューマンウェアをどう 作っていくのかが重要である。 ・ 現在のマーケティングは、空間(場所性)・時間(物語・文化・歴史)・人間が無い 3 つの「間抜け」である。今、これらを取り戻すことが、地域再生という面で非常に重 要なのではないか。 3.「(6)フリーディスカッション」について 調査の目標:地域の現場からは、従来の地域開発・振興策ではなく、まさに地域の文化や 地産地消、アートによるまちづくりが求められている。社会の成熟化に伴い、 新しい価値観、ライフスタイルが、地域活性化を牽引するという観点から、中 長期的な地域再生の処方箋を検討する。具体的には、食材の豊富な地域である 千葉・北海道を題材に、地域再生のほか、国民生活や男女共同参画の視点を含 んだ大きな方向性と具体的な提案を目標とする。 a ライフスタイルの現状と今後の展望 ・ 男性が育児参画や家庭参画ができるライフスタイルを作っていけるような地域の力 が求められていると感じている。 ・ 一人目の出産の時に、男性の育児参画が十分でない家庭においては、二人目を産む意 73 欲が大きく低下するという調査結果があり、育児と仕事を男女共に担う関係作りが求 められている。 ・ 今までの女性のライフスタイルは二者択一(仕事か家庭のいずれか)しかなかった。 現在ようやく、両方上手に、ワーク・ライフバランスに重きをとって考える女性が増 えてきたのではないか。 ・ これまでの働き方では、仕事と食のこだわりを両立することができず、忙しいからイ ンスタント、という状況にあった。現在、忙しいが、こだわりたい、という両極のも のを繋ぎ合わせようとする価値観が生まれている。 ・ 現在日本のライフスタイルを抑制しているのは、会社ではないか。会社勤めの若者は 週末も無く、残業ばかりで、子育て以前に子作りもできない。少子化が進んでいる原 因は、ここにあるのではないか。 ・ 会社が変わることで、余った時間を地域のため、町興しなどに使う世の中にするライ フスタイルが広がっていけば良いと思う。 b 調査の視点 [食生活・食文化] ・ 食を作る担い手として男性を捉え、今後男性がどのように参画するのかという仕掛け が必要なのではないか。 ・ 2010 年ぐらいになると、親子世帯より一人世帯の方が上回り、一番メジャーな世帯 はシングルになる。そのシングルスは、年齢・性別も多様になり、今後の食のマー ケットをリードしていくのではないか。 ・ 食文化を道具として使い、食生活や健康の底上げに活用できないか。例えばEUでは そのような運動が盛んであり、フランスやイギリスの「味覚週間」などを参考にでき ないか。 ・ 一般的に、自然食品・無農薬食品は高価で、ニーズは非常に限られている。逆に生産 者側・地域側から見ると、安定供給できないものは地域の生産力にはならない。多く の人が買えるような条件を整え、良いものが欲しい人のところへきちんと供給でき、 マーケットが成り立つような win-win の方策が重要である。 ・ 川上(産地)と川下(食卓)とのギャップという問題がある。産地はライフスタイル の変化が見えず、食卓では産地のことがわからない。このギャップをどう埋めて、つ ないでいくのかという視点を持つことが必要なのではないか。 ・ 産地の人々が、素晴らしい志を持って有機栽培を始めても、支える側がいないと途中 で挫折する。東京や名古屋など、大きな都市でレストランを経営している人達が、ど れだけ生産者の思いに応えて食材を使ってあげられるか、ということを考えないと、 良い食生活は維持できない。 74 ・ 売り手と買い手の間にもギャップがあり、売り手主体の販売方法から、作り手と買い 手のコミュニケーションを密にし、生産に反映させる仕組みが必要。 ・ 日本国民一人当たりの食料の供給量が、消費量を大幅に上回り、約 13∼16 兆円規模 の無駄を生むと言える。このギャップの解消(節約)により、医療費、福祉、教育の 分野等の低料金での公的サービスを提供できるのではないか。 ・ 味付けの好みや調理法が変化しており、食器や料理の魅せ方にも影響が出ている。食 における「日本」の難しさが嫌われたのではないかと考えている。料理の変化と形の 変化には、面白い関係があるのではないか。 [調査方法、政策展開] ・ 日本人の平均寿命の男女差は欧州諸国に比べ開きが大きい。この差を埋めることに よって、夫婦で元気に暮らしていける可能性があるので、健康という視点は必要。 ・ 高齢者や一人世帯の比率が高くなると、「安全・安心」の追求は必須。 「衣・食・住」 の全てにおいて、「安全・安心」につながるコンセプトが出ると良いのではないか。 ・ 自分なりのライフスタイルの追求は、ある程度の経済力のような環境条件が整わない と、実現できないため、ある程度の経済成長力は必要なのではないか。 ・ 新しいライフスタイルが、特定の環境条件を備えた特定の階層のものであっては普及 しない。ライフスタイルを普及する上での分岐点があるのではないか。 ・ 家族団欒などの当たり前にできたことが当たり前にできない状況にある。この問題を 解決することが重要であり、そこに国の役割があるのではないか。 ・ 支援のあり方や資金分配は、強化すべき対象がある一方で、依存体質から脱却・自律 に向けた再考の時期にきている。 ・ この調査研究がどこまで説得力を持つか、という点は、政策や満足度をどのような形 で提示できるか、にある。 ・ 日本の文化は、日本独自の文化と、外国文化の受容が交互に繰り返された。今日、伝 統文化の見直しが盛んになってきており、伝統文化と外国文化の融合が、クリエイ ティブなものを生み出す可能性がある。 ・ 日本の経済は、文化を育てていくだけの経済的基盤は既に整っている。 ・ 文化・芸術は「鑑賞」から「創作と参加」に向かっている。この萌芽を開花させるに は、芸術家達を結びつけるコーディネーターが必要である。このコーディネーターを 総合的にサポートしていくことが、地域再生の政策展開に適しているのではないか。 ・ 地域再生を経済的な指標から評価するのではなく、地域振興への住民の参画の形や度 合いをきちんと検証することが必要ではないか。 ・ 資金と時間のある高齢者と、事務処理能力の高い若者を、地域でつなげることが必要 ではないか。 75 ・ 経済活動を中心に暮らしている人々、ロハス的な暮らしを好む人々は現在相容れない 価値観を持っているが、この 2 つは融合していかなければならない。 ・ 家庭と仕事の対立を調和させる「場」を作ることが、環境政策、コーディネーターに よるサポートなどにつながってくるのではないか。 ・ 子育ての問題は地域性も考えられるので、対象地域の現状を知りたい。 ・ 誰にとっての地域再生を目指すのか、地域や対象によって、その意味は異なるので、 注意が必要。 ・ 地域活性の筋書きは、地域の人々が作らねばならないが、足らないところは、サポー トする仕組みが必要。筋書きは違えど、サポートする際のメニューは多く用意するこ とが必要。 [幸福度・満足度指数] ・ 戦後、日本人の一人当たりの GDP が 5 倍になったが、昭和 33 年以降の「生活満足 度」という統計では、約 60%で推移している。金銭的に豊かになっても、幸せ感が 高まっていないのはどういうことか、というのが昨今の課題。 ・ 社交のように、人と人とが認め合う、承認し合う、あるいは学び合うような、人と人 との関わりの中で、幸せを見つけるということが重要になってくるのではないか。そ こを基点にデザインする地域開発が大切なのではないか。 ・ 幸せは、レベルではなく、ベクトルである。金銭的に豊であっても、世の中に不安が あり、未来に自信が持てなければ、ベクトルは下を向く。 ・ 下流社会は、特に貧乏ということではなく、社会との関わりが持てない人を下流社会 と呼べるのではないか。 ・ 社交の場を作ると同時に、その場に参加できる時間が重要。社交場ができても時間が なければ、欲求と制約のジレンマは増大する。 ・ 地域のあり方、ライフスタイルに、自分がどれだけ参画できているか、という自己決 定権、好きな時間に好きなことができる、やりたいことがあるのに妨げられるという ことが無い、という自分の時間支配力も柱になるのではないか。 ・ 幸福感や満足度指数のあり方というのが、北海道と千葉では様子が違うのではないか。 ・ 生活全部が良くなる必要は無く、生活に張り合いが出るとか、自律的に何かしている とか、日々新しいことを発見できるであるとか、そういう意識を生み出すと、その地 域の幸福度は上がるのではないか。 ・ これまでは衣食住に対する満足度を向上することが目標だったが、それが満たされた 今、人々の関心領域は多様に広がった。イノベーターも、全ての領域において傑出し ている訳ではない、衣食住のフレームを作って測定すると、間違う可能性がある。地 域毎の幸福の構造が何から成り立っているのかを見るのが、方法論として良いのでは。 76 ・ 大事なのは、それぞれの幸福に関する考え方を持ち寄り、お互いに語る場、コンセン サスを作れる場であるということ。そのためのおおよそのガイドラインは必要かもし れない。指標の前に、お互いの考えについて、コンセンサスを図る場が必要ではない か。 ・ 「ホスピタリティ度」というカテゴリーがあっても良いのでは。 4.「(7)モデル地域のケーススタディー」について a 千葉県 [特徴] ・ 千葉県は、再生というところまでの深刻な状況ではないが、活性化が必要で、このま まだと再生が必要になるかもしれない地域はある。 ・ 地域再生には、交流人口の拡大と具体的な経済、生産拡大効果という 2 つがある。 [紹介事例] 1.旧富浦町・旧富山町(現南房総市の一部) 2.旧丸山町(現南房総市の一部、ローズマリー公園エリア) 3.九十九里町他沿岸地域 4.旧栗源町(現香取市) ・ 紹介した事例は、主に外部から人を呼び込むことを目的とした事例。自地域内を対象 とした活性化というのもあるのではないか。 b 北海道 [特徴] ・ 北海道には開拓者精神がある。 ・ 北海道の女性は、非常に働き者で元気である一方、男性は優しい。このあたりに地域 性があるのではないか。 ・ 主婦であることを強みにして、何かを創造していこうという女性が少しずつ増えてい ると感じている。 ・ 非常に新しいものが好きで、マーケティングは二の次で、次から次へと新しい商品を 出す傾向がある。 [紹介事例] 1.砂川市(スウィートロード・地鶏の販売、ソメスサドル(皮革)のアンテナ工場等) 2.岩見沢市(焼き鳥の町) 77 3.岩見沢市(キジのラーメン) 4.江別市(ブランド麦を通した生産者・消費者のネットワーク形成、焼き物市) 5.伊達市(ウェルシーランド構想:移住計画) 6.札幌市(札幌スタイル) 7.モエレ沼公園(環境とアートを基盤とする集いの場) ・ 産炭地域の価値観が変化していくという事例を取り上げたいと思う。 ・ 札幌スタイルは、雪が降る大都市という独特の条件を活かし、そこで生まれたものを スタイルとして統一感を持たせて生活に取り入れながら、世界に発信していきたい。 ・ 焼き物など、目に見える文化の背景に、「生活」があり、そこに本質がある。それを 束ねていく「札幌スタイル」というものが生まれれば、非常に面白い。 <参考:周辺調査事業の動き> A.「地域の人材形成と地域再生に関する調査研究」内閣府経済社会総合研究所 地域活性化のための指針づくりに向け、地域活性化に取り組む各地域の中心人物及び人 的ネットワークに着目した調査を行う。 ・北海道 恵庭市、伊達市 ・東北 青森市、宮古市(岩手)、十日町(新潟) ・関東 千代田区(東京) ・北陸 富山市、七尾市(石川) ・近畿 豊中市、京都市 ・中国 真庭市(岡山) 、海士町(島根) ・九州 綾町(宮崎) 、沖縄市 ・中部 ・四国 富士宮市(静岡)、駒ケ根市 今治市(愛媛) B.「中心市街地活性化支援業務『我が国におけるまちづくりに係る人材育成事業の在り 方』」経産省 a まちづくりに携わる人材(リーダー)のタイプ別現況把握 「どのようなスキルや行動の組み合わせが成果を生み出したのか」 b まちづくりに携わる人材(サポーター)のタイプ別現況把握 c 人材育成事業の現況把握及び課題の抽出 d 今後の人材育成事業の在り方についての検討 ・長野、長浜、飯田、湯布院、古川、佐世保、飯塚、七尾 C.「幸福度の研究」内閣府経済社会総合研究所 生活をポジティブに捉えるための新しい指標や、政策の評価・方向の妥当性を判断する 78 ための総合指標としての「幸福度」について構造分析を行う。 ・ 全国を対象としたインターネット調査(30∼50 代男女、約 2,000 サンプル) 以上 79 2.第2回北海道特定地域検討委員会議事概要 ●日時:2006 年 11 月 17 日(金)14:00∼16:00 ●場所:ラマダホテル札幌 宙の間 ●出席委員(敬省略) 北海道特定地域検討委員会:越膳百々子、工藤一枝、竹本アイラ、西村弘行 調査研究委員会:斎藤隆 ●議事次第 開会 (1)委員紹介 (2)北海道における地域再生の取組み 話題 1 砂川市の取組み 話題 2 札幌スタイル 話題 3 西村委員の取組み紹介 話題 4 「住んで良しの観光地づくり」カリスマ(栗山町の取組み) (3)「北海道らしい」ライフスタイル創出と地域再生の展望 議題 1 「北海道らしい」ライフスタイル展望 議題 2 北海道における「社交場」のあり方 議題 3 北海道に必要な政策展開 議題 4 「北海道らしい」ライフスタイル創出と地域再生の展望 (4)その他(スケジュール等) 閉会 ●議事概要 1.北海道における地域再生の取組み (1)話題 1 砂川市の取組み(越膳委員より報告) <すながわスイートロード> ・ 砂川市はもともと炭坑産業の恩恵を受け、肉体労働者向けの製菓産業で栄えた。近 年廃坑等により人口減少が見られるが(現在人口は 2 万人を切る)、甘い物を好み、 手土産などにする食習慣が住民に残った。 ・ 現在 9 企業、14 店舗が砂川市で営業してるいが、これらの企業主達は、30 年ほど前 から、クリスマスケーキ作りの市民向け講座などを通して交流を深め、菓子組合の 80 つながりが強い。 ・ スイートロードの事業は、地元住民の意識が下地となって、官・民・地域の生活者 による協力によって成り立っている。 ・ 最近では、メディアに取り上げられる回数が増え、札幌からスイートロードへのバ スツアーも定期的に組まれるようになった。結果、それまで観光地への通過点でし かなかった砂川市が、目的地と変わった。 ・ (人口 2 万人に対し 14 店舗ということで、業者間では)非常に厳しい競争にはなっ ているが、だからこそお互いに研鑽し合い、だからこそスイートロードが保ってい けるのではないか、自分の店舗のことだけでなく、皆のために何ができるのか考え ている、という店主の言葉が印象的であった。 (2)話題 2 札幌スタイル(札幌市)の取組み(竹本委員より報告) ・ 札幌スタイルが立ち上がったのは平成 16 年で、18 年に入ってから本格的に始動した。 ・ 新しく設立された札幌市立大学にデザイン科があることもあり、世界における「パ リスタイル」 「ニューヨークスタイル」「東京スタイル」のように、「札幌スタイル」 を確立できないか、デザインという視点で何かできないか、ということが出発点。 ・ 札幌スタイルは、地域に根差したデザインの発掘と育成、ライフスタイルの創造、 デザインの普及・PR、産学官連携のモノづくり、デザインの地元定着などをコンセ プトに今後の展開を図っている。 ・ 事業は大きく 2 つに分かれ、i)既製品へ「札幌スタイル認証」を与えるというもの (現在迄に 45 認証)、ii)まだ世の中に出回っていないもののデザインコンペティ ションがある。 ・ 札幌スタイルは市の事業であり、市民の希望と、市ができることとの間に若干差が あるようである。事業はデザイナー、札幌市、大学の専門家で運営され、デザイン 性は高いものの、消費者の意見が入り込みにくい。販売業者、消費者とのつながり を強めることで、地域に密着した活動ができていくのではないか。 (3)話題 3 西村委員の取組み(西村委員より報告) ・ 北海道における植物資源を研究する中で、「食」の機能性の研究を行っている。特に 地域活動を行っているのは、ギョウジャニンニク、タマネギ、ヤーコンである。 ・ ギョウジャニンニクは、アイヌ民族が暮らしに取り入れていたという歴史がある。 日本人はそれを酢味噌和えなどで食べていたが、豚肉・卵などのビタミン B1 と組み 合わせて疲労回復の機能を引き出す新しい食べ方を提案している。ギョウジャニン ニクは一般的に食後の口臭・体臭が強いと言われているが、私の料理方法では臭わ ない。このレシピをすすき野のラーメン店に提案したり、大学で市民向けの公開講 81 座を開催したりしている。 ・ タマネギに関しては、3 つ特許を得ている。タマネギの調理法・加工法によって健康 機能が変わるが、それはレストランの調理人には解らない。現在、市内のホテルの レストラン料理長に、指導を行うこともしている。 ・ タマネギは、北海道において全国生産高の 50%以上を生産しており、地域のブラン ド化とも関係してくる。これを契機として、学生食堂に「西村学長の勧める健康メ ニュー」を提供している。これは全国に広がり、東京霞ヶ関・東海大学校友会館で のレストランでもメニューを提供する予定である。 ・ ヤーコンについても、一般向けの料理教室を行ったところ盛況で、現在学生食堂で はヤーコンを使ったメニューが多く出ている。 ・ これらの活動の目的は、学生に健康なライフスタイルをおくってほしいということ である。 ・ 研究と共に、地域経済の活性化を目的とした製品開発も行い、雇用の創出を実現し ている。関連したベンチャー企業を 3 社たち上げ、3 社とも経営は順調である。 (4)話題 4 「住んで良しの観光地づくり」カリスマ(栗山町の取組み) (事務局より報告) ・ 「衣・食・住」の中で、 「住」をテーマとした取組みである。 ・ (株)木の城たいせつ(代表取締役会長 山口昭氏:国土交通省「観光カリスマ」) は、北海道産出の木材のみ使用して住宅を作り、道内のみに向けて販売している。 ・ また、栗山町に 65,000 坪の「木の城たいせつテーマパーク」を作り、国内外から年 間 9 万人が訪れる。テーマパークでは、年間を通したトマトの栽培や、食堂「健食 館」の運営など、「食」や「健康」にもこだわる。また、会社が販売している住宅に 家族で宿泊体験ができる「北海道 21 世紀の村」を運営している。 ・ 100 年持つ耐久性のある住宅を作る上のテーマとして、「バイオ・リージョン」・ 「もったいない」・「地産地消」などを掲げ、海外からの評価も高い住宅を提供して いる。 ・ 本州から住宅建設の依頼があっても、「木の城に住みたければ、北海道に移住してく ださい」と断っており、実際、木の城に住むために移住してくる人々もいる。 ・ また栗山町では、地域通貨、農業体験の取組みも行われている。 (5)追加報告 NPO コンカリーニョの取組み(事務局より報告) ・ NPO コンカリーニョは、琴似駅近くの劇場を運営している団体である。 ・ 代表の斎藤ちず氏は、以前は別の倉庫を使い、舞台芸術のためのフリースペースを 運営を行っていたが、再開発のため倉庫が取り壊されることとなり、琴似駅直結の 82 ビルを借りて運営を続けることとなった。ビルの内装費は、市民や企業からの寄付 のみでまかなうことを目標にしていたが、金融機関からの借り入れも行っている。 ・ 活動の目的は、劇場という社交場を通して、子どもからお年寄りまでが様々な情報 交換や表現活動を行うこと。将来的には、劇場を訪れた人々のライフスタイルに合 わせて、終演後のまちあるきをアドバイスする「まちのコンシェルジュ」的役割も 果たしたいと斎藤氏は考えている。 ・ 金銭的には非常に厳しい。行政の支援が「ハード」から「ソフト」へ流れる傾向に あり、何かを建設するというハード系がほとんどカットされてしまっている。 ・ 一方、斎藤氏は大学で「表現力」を教えているが、コミュニケーションがとれな かったり、表現したいことがなかったりする学生が目につくと言う。社交場を作る とともに、コミュニケーション能力そのもののあり方も考慮する必要があるのでは ないか。 2.「北海道らしい」ライフスタイル創出と地域再生の展望について (1)ライフスタイルの創出と地域再生について ・ 「ライフスタイル」は、人々が希望を持ってそこに住み、関わり合う生活様式・あ り方であると思う。人それぞれでその方法は違う。 ・ 「日本のライフスタイル」「北海道のライフスタイル」「上湧別のライフスタイル」、 これらは全て規模が違う。そこでの歴史や文化、産業、人口動態を見なければなら ない。札幌市内でも区によって選ぶライフスタイルが異なる。 ・ 東京・札幌・上湧別であっても、望むライフスタイルはそれほど違わないのではな いか。例えば東京にいても、地方にいても、希望する「ロハス的ライフスタイル」 は同じ。しかしながら、それが地域再生に結びつくメカニズム・処方箋は、地域毎 に大きく異なると言える。 ・ 「幸せになりたい」という希望は同じであるかも知れないが、ライフスタイルその ものはやはり異なるのではないか。 ・ ライフスタイルは 100 人 100 様で、また地域再生の手法もある。色々あるのは良い のだが、一つの方向性を見出すことが必要である。 ・ スローライフや地域再生を考えた時、今後どのようなライフスタイルが有効なのか というところまで踏み込めれば、今回の調査は非常に意義深いと考える。 ・ 今回の調査では、サンプルを集めて、そこでのライフスタイルのあり方、地域再生 のあり方を見ていくことがまず大事で、それらを分析しながら「ライフスタイル」 一般論を考慮していくことが必要。 ・ 少子高齢化を背景に、ライフスタイルの大きな変化の流れがあると思う。ライフス タイルそのものも地域毎に異なるが、「環境・場づくり」という面では、共通解があ 83 るのではないか。 ・ 住民の人達だけで、まちづくり・地域再生を行うのは難しい。様々な立場の人が入 り、外からのアドバイスも必要。 ・ 人と人との関係・つながりが再発見されるライフスタイルが良いのではないか、そ れがわくわくどきどきにつながるのでは。 ・ 一つのことをやっていく時に、生活が安定することが必要。今後行政からの補助金 はアテにできないため、独立して活動を行わなければならない。その時に問題とな るのは、科学技術と共に、流通。北海道は流通面で弱い。 ・ 様々な地域再生の書物が出ているが、社会経済学者が美辞麗句を並べているだけで、 具体策は無い。具体化するためには、技術者が入らなければならない。しかしなが ら、技術者は自分の専門に従事し、視野が狭い。こちらには逆に社会経済学者が入 らないといけない。文理の融合が必要で、それが地域再生につながるのではないか。 (2)北海道における食資源・食のライフスタイルと地域再生 【北海道における食】 ・ 北海道における地域再生の切り口は「食」「食材」に絞るべきだと考える。北海道の 素晴らしい有り余った食材を、地域再生に使っていくために、ライフスタイルとい う観点からどのような切り口があるのか、ということを議論が重要では。 ・ 日本全体が「いざなぎ景気」を超える勢いで経済が向上している中、何故北海道は その恩恵を受けていないのか、という問題がある。北海道は、農・林・水産を基幹 産業とし、豊富な生物資源、特に食資源を豊富に持っている。北海道の自給率は 190%。 それなのに経済が低迷しているのは、各地域の特産物の活用の仕方が不十分だから である。例えば、九州の特産物である明太子の生産地は北海道である。そのような 例はたくさんある。食の供給基地ではあるが、原料を提供するだけで、付加価値は 本州の人によって付けられている。 ・ 北海道の農産物は、札幌も通り越して、全て本州に流れていっていることに問題が あるのでは。例えば素晴らしい食材は北海道で生産されているのに、家の冷蔵庫に は入らない。スープカレーがブームになっているが、それは札幌市民から生まれた 薬膳料理が本州までに広がった良い事例。しかしほとんどは、札幌に定着させるこ となく本州に持っていく、という傾向がある。商品開発を行う際、よく「本州に 持っていったらどうですか」と勧められる。地域に根ざした商品開発を行いたいと 考えるが、北海道内ではダメ、という考え方が卸し業者の間にもある。 ・ 北海道の食材に、北海道内で付加価値を付けることも必要だが、「日本の食材を提供 している」ということを、北海道の農家が胸を張って言えるようになることも重要 なライフスタイルであると考える。 84 ・ 付加価値に焦点を当てるのであれば、それは従来の産業振興になってしまう。地域 での文化との関わり合いがないと、ライフスタイルにはつながらない。 【農業・農家のあり方】 ・ 単品大量生産型というのが、北海道の農業のネック。中国の生産物と正面からぶつ かることになり、勝つのは難しい。 ・ 北海道は雪が多いために、冬の間作物を栽培できないが、それがかえって土壌を健 康に保ち、美味しい農作物を育てている。 ・ 北海道がライフスタイル・地域再生の分野で生まれ変わるには、農協のあり方を見 直し、農業改革・酪農改革が必要である。この分野には、行政からの改革が必要。 ・ 現在、独立行政法人化した農家の中には、消費者のニーズをとらえ、自ら努力して いるところもある。しかし、独立行政法人化したら全て上手くいくのかと言えばそ れは難しい。 ・ 群馬県の事例では、高齢者が中心の 2000 人の農家が、他品種少量生産で、農協ルー トに乗らない生産を行っている。農家がお互いに教育し合う仕組みが生まれ、90 歳 の老人でもいきいきした農業ライフが送れる。結果、中山間地の人口が増えた。こ の取組みに行政の支援は入っていない。 ・ 今後の調査内容として、農家・酪農家に話を聞く必要がある。 (3)北海道の観光と地域再生 ・ 北海道では、食と観光のつながりも大切。観光では、旭山動物園が有名だが、中で 食べるものが非常に乏しい。旭川は食材が豊富なのに観光地とのつながりがない。 地元の人々が食べているものと観光客が食べているもののギャップがある。地元で 食べられているので、これがおいしい、というメニューを提供できると良いのでは。 ・ その土地で生まれたものは、その土地の人々が自信を持って伝える、ということが 必要。その中で、人の交わり、場づくり、空間づくりが出てくるのではないか。 ・ 砂川市のスイートロードの取組みは、住民の支持の下に生まれているものである。 「ハコモノ」が大切であるという意見もあると思うが、住民と一緒に作っていける 取組みが地域再生の課題の一つではないか。 ・ 北海道には「日本一」がたくさんあるのに、道民はそれに気づいていない。 ・ 地域再生には、観光客(異邦人)、地元民、両方の目が必要である。 ・ 北海道の観光面では、行きやすい場所、行きにくい場所がある。食や観光ルートな どの面で、地域同士のマッチングが難しい。送料や人の移動において障害が多い。 ・ 「流通」は北海道にとってキーポイントである。 85 (4)北海道に必要な政策展開 ・ 様々なライフスタイル、様々な地域再生があって良いということを前提に、それを 発展させるために行政ができること、できないことを考えることが大切。希望する ライフスタイルを手に入れるために支障となっているようなもの、時間・空間・知 識などの中で、北海道であれば、どのような障害を取り除けばいきいきとしたライ フスタイルが送れるのか、を考えてみてはどうか。 ・ 「個の技術」・「場の技術」というコンセプトが有効。 「場の技術」をサポートするの が行政の役割で、その方法は、ライフラインや教育などでも良い。一方、例えば個 別の車のデザイン・機能など、「個の技術」にまでは口出しする必要は無い。 ・ 地方が求める「地域再生」に対して、個別の「場」を提供することが必要である。 ・ 行政が補助金出しすぎても、独立独歩ができなくなる。補助金のあり方を研究して、 世界一おいしい魅力を北海道から出していけるような方法を考えなければならない。 ・ 北海道は財政難であるが、どこに予算を付け、どこの予算をカットするのかという ことが課題。北海道は、大学が多くあるが、その知の活用が十分でない。大学の役 割は、教育、研究のほかに、社会貢献である。大学の科学技術を、地域再生に活用 することが行政にとって必要なのではないか。大学の先生を活用するのに大規模な 予算は必要無い。 以上 86 3.第2回千葉県特定地域検討委員会議事概要 ●日時:2006 年 12 月 14 日(木)18:00∼20:00 ●場所:東海大学校友会館 第二会議室 ●出席委員(敬省略) 千葉県特定地域検討委員会:荘司久雄、内海崎貴子、斉藤剛、高田実 調査研究委員会:斎藤隆、小瀧歩、小室淑恵 ●議事次第 開会 (1)委員紹介 (2)千葉県における地域再生の取組み 話題 1 道の駅「とみうら」の取組み 話題 2 かもがわ食の祭典の紹介 (3)「千葉県らしい」ライフスタイル創出と地域再生の展望 議題 1 「千葉県らしい」ライフスタイルの展望 議題 2 千葉県の食文化を通した地域再生の展望 議題 3 千葉県に必要な政策展開 議題 4 「千葉県らしい」ライフスタイル創出と地域再生の展望 (4)その他(スケジュール等) 閉会 ●議事概要 1.千葉県における地域再生の取組み (1)話題 1 道の駅「とみうら」(枇杷倶楽部、南房総市)の取組み (斉藤剛委員より報告) ・ 枇杷を用いた地道な商品開発を行い、また人形劇フェスティバルも賑わいを見せる など、一定の成果を上げている。道の駅を中心に枇杷農家や民宿などを巻き込み、 地域コミュニティの人間関係も上手に形成されている。 ・ 「一括受発注システム」は、地元の小規模な農家や民宿が、協力して多くの観光客 を受け入れる仕組みで、非常に印象的である。 ・ 出資は市が 100%を担っているが、「富浦エコミューゼ構想」などのコンセプト作り 87 や枇杷製品の開発、建築設計などには民からの専門家が関わり、また「劇団貝の火」 代表、伊東万里子氏などの芸術家も活動に加わる。スタッフにも魅力的で実行力の ある人々が多い。枇杷倶楽部の規模に見合ったこれらの適切な人材が上手に活かさ れ、場が機能している。 ・ 近年は隣に民間スーパーマーケットができるなど、地域経済へもインパクトを与え ており、この地域の商業販売額の 2 割を占めていると聞いている。この地域を報告 書にまとめる際には、経済効果の具体的な数字も盛り込んだものにしてもらいたい。 ・ 旧富浦町民は約 5700 人で、現在その約 6 割が何らかの形で枇杷倶楽部の活動に関わ り、顔の見える関係が築かれている。 (2)話題 2 かもがわ食の祭典紹介(鴨川市)(事務局より報告) ・ かもがわ食の祭典は、鴨川市の「棚田オーナー制度」を管理している NPO 大山千枚 田保存会と、鴨川市食生活改善協議会によって開催された講演会で、講師は結城登 美雄氏(民俗研究家)である。 ・ 結城氏は、主に東北の農村を周り、「食の文化祭」というイベントを通して、地域の 食文化の掘り起こしを行っている。最初は「自分の村には何もない」と言っていた村 の人々が、イベントを通して自分達の持つ資源の豊かさを再発見し、まとまり、また 外からも人々を呼び込む活動を行うまでに成長する事例は、今回の調査研究の取りま とめにも役立つのではないか。 2.「千葉県らしい」ライフスタイル創出と地域再生の展望について (1)「千葉県らしい」ライフスタイルの展望 【「千葉県らしい」ライフスタイル】 ・ 千葉県の良さは、都市部と農村部をいつでも容易に移動できる、選択できるという所 にある。刺激を求めて東京に行くこともできるし、南房総では緑や水を求めることが でき、非常に魅力的。地価も安い。 「空間」は、人の暮らし、Quality of life にとって 非常に重要な要素であり、限られた予算で広い住居スペースを確保できるという意味 でも「千葉県らしい特徴」と言えるのでは。 ・ 古い歴史がある一方、新しいまちづくりもある。それらが融合しているというのが魅 力である一方、「何でもある」という意味で「特徴が無い」とも言える。 ・ 相対的な千葉県のプレゼンスは高まっている。高速道路や空港、鉄道の整備を見ると、 他の首都圏内の自治体と比べても「伸びいく県」という印象がある。 ・ 「千葉県人らしいライフスタイル」とは、物理的な歴史・風土が根元にあって規定さ れるものではないか。一方、ロハス、二地域居住などの多種多様なライフスタイルは、 ニーズサイドの動きである。千葉県が潜在的に持っている地域の資源が、これらに応 88 える形でマッチした時に、その地域の活性化につながるのではないか。その資源は、 自然環境や新鮮な食材であるだろう。地域に根ざした資源が新しい動きと結びつくこ とによって、潜在的なものが顕在化し、小さな流れが大きくなる、というような動き が出て、両者に幸せが訪れるのではないか。 ・ 数が増える、拡大していくのが必ずしも「地域活性化」ではない。しかし少なくとも、 活動が衰退していくのは「非活性化」である。定住人口が増えなくても交流人口が増 えたり、産業が活性化されたりすることは「地域の活性化」と言えるのではないか。 ・ 千葉県は、他の首都圏付近の自治体に比べて様々なものがある。その多様性を否定す る必要はない。ライフスタイルから地域を変えていく、という議論につなげてしまう と、千葉の多様性のある良さを見過ごしてしまうのではないか。また、千葉の中だけ でする議論と、広域的な視点から千葉を見るのでは焦点が異なるのではないか。 ・ 外からの視点で見た千葉県の魅力は、大都市圏の中にありつつ、大都市圏に無い魅力 を持っていることである。外からは、都市部よりも、南房総などの農村部に関心がい く。都市にある日常とは遊離した魅力が隠れているのではないかと考える。 ・ 千葉県には「南北問題」があると言われる。千葉は、都市と田舎が同居しており、お 互いの強さと弱点を、千葉県内で補う仕組みを作っていけると良いのでは。様々なポ テンシャルが高く、個々に結果は出しているかもしれないが、お互いに交流する必要 があるのではないか。 ・ 千葉に住む人々が、県とどのような関わり合いをしたいと考えているのか、それに対 して千葉にはどのような資源があるのか、これを掛け合わせることを通して「千葉ら しさ」が出てくるのではないか。 ・ 「千葉県らしいライフスタイル」という言葉が適切かどうか疑問。通常、「ライフス タイル」は「人」に付く単語では。千葉県内に多様な人々がいる、という前提が無い と、ありもしない結論を追い求める形にならないか。 ・ 「千葉県らしいライフスタイル」というより、千葉県で送るのがふさわしい生活様 式・ライフスタイルがあるのでは。 ・ 千葉県は恵まれていると感じる。暖かく、海と山があり、一つの拠点から両方にでか けるなど様々な楽しみ方ができ、「千葉県らしいライフスタイル」は、日本の中でも 特徴的なのではないか。また、古民家に対する取組みも盛んで、古民家再生などの専 門業者も多い。このような要素を考えると、千葉県内で豊かなライフスタイルは送り やすいのではないか。 【地域の特徴】 ・ 女性のネットワークの作られ方が千葉県内で異なるようである。我孫子や流山などの 北部では、 「我孫子女性会議」のように、議員や NPO のリーダーが核となってネット 89 ワークが作られている。一方、木更津などを含む南部では、地域の話し合いで課題が 見つかると、解決に向けて自発的にネットワークが作られる。例えば、隣人の子育て に問題があることが分かり、皆で協力して子育てをしよう、というところからネット ワークが始まる。北部と南部の動きは非常に違うと感じる。 ・ 教員採用試験では、通常学閥が強く残っているが、千葉では、千葉の教員になりたい という様々な地域の学生を集めようという努力をしている。例えば我孫子や鎌ヶ谷で は、 「スクールサポート制度」を設け、県の教員採用試験には受かっていないものの、 教員免許を持っている学生・卒業生を市町村が独自に採用し、学校教育に関わらせて いる。この制度を魅力に感じ、他の自治体からの卒業生が千葉に移り住む動きがある。 このような人口の流動性がすぐに生まれる、という環境が千葉にはある。 ・ 大学で地域文化の研究を学生に取り組ませると、学生達は予想以上に深く掘り起こし てくる。学校図書館など、地域の歴史の資料が手の届くところに保管されているとい う環境も整っているのではないか。 ・ 子育て環境については、例えば我孫子では、地元の農家と、都市部から入ってきた子 育て中の母親達が上手に融合している、という印象を受ける。これは、埼玉の事例と も違う。その理由は明確ではないが、もしかしたら千葉は埼玉より不便で、地域内で の助け合いが必要、ということもあるのではないか。 ・ 南房総の人々の気質として、非常に保守的である一方、一度その人の能力を認めると、 リーダーとして信頼するということが言える。普通の人材が短期間住んで何かやろう としても、結果が出ることは難しい。時間がかかるということを覚悟して取り組めば、 リーダーとして認められる。これは難しい所であると同時に可能性がある所である。 このようなバックグラウンドを考慮して取組を行うと、地域再生も上手くいくのでは ないか。 (2)千葉県の食文化を通した地域再生の展望 【特性と展望】 ・ 食・食文化は千葉県が誇れる地域資源の一つである。 ・ 千葉県の特徴は、農村部が近い為に、都市生活者が生産地に行って体験をするという 価値を付けられること。枇杷倶楽部は好例で、伝統的な産業である枇杷をモチーフに した枇杷倶楽部という道の駅を作ることによって、地域全体を持ち上げることができ、 地域に対する波及効果が大きい。 ・ トリノオリンピックが行われたピエモンテ州のアンチョビーはかたくちいわしであ る。ピエモンテ州は、農業・酪農も盛ん。有機農業・酪農の発祥の地で農産物も豊富 な千葉と姉妹都市契約を結んで、和と洋の融合を試みてはどうか。異文化との交流か ら、また異なる楽しい文化が生まれるのではないか。 90 ・ 千葉県は安い魚が大量に獲れる。イメージが悪いので、料理の仕方を工夫してイメー ジチェンジができれば、ブランド化できる可能性はあるのではないか。実際にそのよ うな動きもいくつかある。それが継続的に続くような方法を調査してみると、千葉県 のケーススタディーとして充実したものになるのではないか。 【食育・食文化の継承】 ・ 食事作りを通して祖母から母へという受け継がれる食文化は、南房総では残っている かも知れないが、都市部で見ている範囲では途切れていると感じる。子育てが終わっ た女性達が地域と関わる際、食事を通して場を作る、という取組みを行うことが多い が、その時初めて、今まで地域に出てきていなかった子どもや両親が出てくる、とい う事例がある。食文化が途切れていることは問題で、地域で採れたものを地域で加工 して食べていくことは非常に大切だが、その受け継ぐ方法論が伝わっていないと感じ ている。 ・ 鴨川では、「食育」の意識が生きている。生きているが、薄れつつあることに気づき 始めている。食育という活動はこれから展開し、農村部でそのような活動のネット ワークを作ることによって、都市部での活動が始まった際に、サポートし合う仕組み ができるのではないか。都市部だけを見ると食文化に対して悲観的になるが、それを サポートする力が、南房総市、特に鴨川にはあるのではないか。問題は、それをネッ トワーク化できるかどうか、ということである。 ・ 内閣府の『食育白書』では家庭団欒が減ってきていると書いているが、自分の調査で は、2002∼3 年を底に戻ってきているという結果が出ている。そこにはある種の反動 があるのではないか。しかし、昔には戻らない。例えば、現在も出来合いのおせちが 非常に売れているが、「お母さんが台所で準備している姿」が「おせち」であるとい う価値観から、家庭でおせちを作るキットを作ろうとしている。これは食文化の立派 な復興である。この例からも、まだまだ食と文化には可能性があるのではないか。 (3)千葉県に必要な政策展開 【焦点・方向性】 ・ 千葉県の人々の気質を考えると、様々な意味で恵まれており、精神的渇望感がない。 このような地域に有効な政策としては、何も特別なことをする必要は無く、平凡な こと、地道なことを積み重ねることが必要なのではないか。湯布院のような取組み を南房総では追求できない。その意味で、千葉では特別なものを求めない、のんび りするというようなライフスタイルを求める人々が集まるような場所として考える と上手くいくのではないか。 ・ 行政がどこまで介入するか、そもそもやるべきではないのではないか、という議論が 91 あるだろうが、少なくともやりたい事を制約する条件は外す必要がある。また、マー ケットのニーズに対応して行うべきこともあるだろう。 ・ 千葉県に必要な政策展開は多いだろうが、あまり羅列しないで、絞った方が良い。何 に絞るかというのはまた課題。 ・ 千葉県南房総市は、合併したばかりである。5700 人規模の自治体における地域再生 モデルは、枇杷倶楽部でも良いかもしれないが、市が大きくなると、そのモデルでは 対応できない。合併する前と同じ発想では機能しないので、大規模で何か運営する場 合の人材が不足するので、それを県がサポートする必要があるのではないか。一方、 都市部への助言は必要無く、また受け入れられないかも知れない。 ・ 県でないとできないこと、民間に任せればできることを適切に仕分けする必要がある。 時には、県が出ない方が良いこともある。 ・ 強力なコンセプトに向かって皆が付いていくのではなく、小さいけれども自立した 様々なコンセプトが平行して動いている、という時代なのかも知れない。 ・ 地域の人々が当たり前だと思って実は価値が分かっていないことを評価し、新しい価 値を見出し、自信を持たせることが大切である。 ・ 地域の人々のパワーを引き出している好例として、長野県飯田市を紹介したい。公民 館を地域活動の核にしている。公民館主事が、地域の人々のために活動の場を提供し ている。公民館毎に予算が与えられ、その使い道について住民が検討している。ハー ドの整備にこだわらない、「参加」のステージをどのように演出するのかが大切。強 いリーダーはなかなか出てこないので、地域における最初の一転がりをどうするのか について、この事例を参考にしてはどうか。 【地域へ関わる人材の育成】 ・ 人材育成が大切。地域に入りたいけれどもできない男性を、関われる状態にする必要 がある。一方、家庭に参画することは、地域に関わるということである。地域への参 画の意欲と、家庭への参画状況は連動していると思われる。地域に参画する人々を増 やすための人材育成は、行政でないとできないのではないか。 ・ 男性の地域への参画として、場所作りは大切である。生涯学習施設などで、様々な企 画を立てるが、30∼40 代の男性はまず来られない。地域に参画してもらうためにど うやって引っ張ってくるかに、皆頭を悩ませている。 ・ 30∼40 代と食をつなげることが必要では。男性は、食に興味があってもチャンスが 無いため、家事をやらないケースが多い。けれども、地域に関わりたいという意識が、 食と共に沸き上がることもあるので、男性と食・家事・育児の融合のネットワークの 中から、何か新しいものが生まれるのではないか。 ・ 東京女学館大学の天野正子先生が、学校を核とした、現在も継続している保護者の取 92 組みを紹介している。その時に必要なのは、斜めの人間関係を作ること。家族がばら ばらになりかけている時に、家族の中だけで閉じこもるのではなく、地域社会でお父 さん、お母さん、おじさん、おばさんの役割を担う人々と斜めの関係を作ることがで きると、子ども達の居場所ができる。時間のゆとり、ライフステージ合わせて参画が できる好例である。 ・ 若い世代がライフスタイルを急に変えるのは難しいので、シニアの人達に、先行的に 新しいライフスタイルを作ってもらうということが必要である。 【企業と地域の関わり】 ・ 行政と民間という関係だけでなく、民間にも NPO や企業など、様々な主体がいる。 民間同士という斜めの関係も考えていくと良いのでは。 ・ 企業も、地域との接点を求めている。その接点が生まれると、非常に面白い。 ・ 企業が兼業を認めない方向に動いている。多業を認めるという点で、企業の心配も理 解できるが、もう一度オープンな状況にすることが必要である。 ・ 企業もうつ病の社員の多さに困っているので、その打開策にもなるのでは。残業を続 けて突然来なくなる人が多く、企業は休みの間も給料の 8 割を負担している。それよ りも、10 時∼6 時で、きちんと休みを取ってもらった方が収支は合う。 (4)千葉県の人口動態 ・ 全国の合計特殊出生率が 1.29 のところ、千葉県は 1.22、という結果が出ている。急 速に少子化は進んでいる。 ・ 東京圏は、現在社会増で毎年約 10 万人ずつ増えているが、千葉県では 10∼20 代で 東京に入り、30∼40 代で郊外に所帯を持つという流れで千葉に移住する人々も多か ったが、それが止まっている。現在、東京全体としては人口が増えているものの、8 ∼9 割は東京への一極集中である。東京圏は相対的に人口が若く、出生率は低いが子 どもは生まれている。 ・ 東京に限らず、地方でも地方都市の一極集中が起きている。 ・ 人口動態は、地価の影響を受ける。東京から住宅を求めて千葉県に出ていた頃は、バ ブルで東京では土地が買えなかった。去年価格は底を打ち、都心でもマンション供給 が増え、都心回帰が進んでいる。しかしまた現在、もっと都心回帰の需要が高まると の期待からマンションの売り惜しみが起こり、今年の供給は去年の 3 割しかいかない だろうと言われている。都心が上がりすぎると、また近県に流出していく、というこ とがあるのではないか。 以上 93 4.第2回調査研究委員会議事概要 ●日時:2006 年 12 月 25 日(月)18:00∼20:00 ●場所:東海大学校友会館 相模の間 ●出席委員(敬省略) 調査研究委員会:斎藤隆、荒牧麻子、小瀧歩、小室淑恵 千葉県特定地域検討委員会:荘司久雄、斉藤剛 北海道特定地域検討委員会:越膳百々子 ●議事次第 開会 1.ケーススタディーの視察報告 2.ライフスタイルに関する意見交換 話題 1 「これからの時代のライフスタイルと『ロハス資本主義』 ∼食、環、健を楽しむ∼」(小瀧委員) 話題 2 「男女共同参画型ライフスタイルの課題と展望」(小室委員) 3.調査研究のとりまとめの方向性について 4.その他(スケジュール等) 閉会 ●議事概要 1.ケーススタディーの視察報告 (1)北海道視察の報告(越膳委員より) ・ 11 月 16 日(木)∼17 日(金)に、 「すながわスイートロード(砂川市)」と「札幌ス タイル(札幌市)」を中心に視察を行った。北海道は農業産出額が全国第 1 位、食糧自 給率が 190%と、日本でも有数の食糧生産地である。 ・ 砂川市は、産炭地に隣接するまちで、肉体労働者を支える製菓産業が明治の頃から盛ん である。炭鉱の閉山に伴い人口も減り、現在は 2 万人を切るものの、製菓産業はそのま ま残り、現在 9 つの企業が経営している。これらの企業から構成される菓子組合は、ク リスマスケーキ作りの教室等を通して、30 年以上前から市民との交流を持っていた。 それらの企業の中には、堀製菓や北菓楼など、北海道だけでなく、全国にも有名な企業 が含まれる。 ・ 「すながわスイートロード」は、この菓子組合を中心に行われているまちづくり事業で、 94 2000 年に策定された砂川市第 5 期総合計画のソフト系事業として構想された。この事 業はまちの人々にも受け入れられ、現在市民による応援団も結成されている。 ・ 事業の成果の一つとして、従来札幌と旭川をつなぐ通過点であった砂川市へ、札幌から のバスツアーが組まれるようになったことが挙げられる。数字的には把握できていない が、各社の売り上げが伸びているとも聞いている。更に、事業を通してマスコミを含め 様々な人々の目にさらされることにより、新商品の開発サイクルが早くなり、また接客 レベルも上がっている。 ・ 商品開発では、「白いプリン」という共通のコンセプトの下、各社がそれぞれ趣向を凝 らして商品を開発するというプロジェクトを行っている。 ・ すながわスイートロード事業は単なる観光誘致ではなく、店舗には地元住民が足を運ぶ など、地域に愛されている事業である。 ・ 菓子組合関係者の、 「行政から資金を受けてこのような事業を行うのは負担である」、と いう言葉が印象に残っている。北海道は沖縄同様、行政からの投資を多く受けている地 域であるが、独自に事業を行おうという心意気が、成功の裏にあるのだと感じた。 (2)千葉県視察の報告(荘司委員より) ・ 2 月 14 日(木)に「道の駅『とみうら』」 (通称「枇杷倶楽部」、南房総市)、 「かもがわ 食の祭典」(鴨川市)の視察を行った。 ・ 枇杷倶楽部は、この地域の特産物である枇杷に特化した取り組みであるが、特に、一部 が痛んでそのままでは出荷できず、従来は廃棄されていた果実を有効活用して商品開発 を行っている。資源の有効活用、枇杷に特化したブランド戦略、地元住民との協力とい う発想や仕組みの点で、非常にユニークな事例である。 ・ この事業は、「エコミューゼ」という生産現場をそのまま展示の場にするというコンセ プトが基本となっており、結果的に「道の駅」事業に乗ったという経緯がある。 ・ 市が 100%出資した第 3 セクターで経営されているが、立ち上がりの時期から、企画・ 運営に民間の人々が参加している。行政と民間の役割分担が徹底されている。 ・ 枇杷倶楽部は、商品販売の場だけでなく、人形劇を通したイベントの開催や、「南房総 コンシェルジュ」という Web サイトによる南房総市全体を見て回れる観光スポットの 紹介を行い、地域コミュニティの活性化に役立っている。また、そのようなイベントに 他地域からの人々を呼び込むことに成功している。 ・ 現在旧富浦町の商品販売額の約 2 割、観光客の約 6 割を枇杷倶楽部が占めており、非常 に高いシェアを占める活躍をしている。施設に隣接して民間のスーパーも出来ており、 地域への波及効果は大きい。 ・ 「かもがわ食の祭典」では、棚田オーナー制度を運営する棚田倶楽部が主催した講演会 に参加した。地元の主婦の方々が熱心に講義を聴いており、地元の人々の食育に対する 95 熱心さが感じられた。 (3)意見交換 ・ 両地域に共通している成功の秘訣は、a 地域の人々との連携、b 住民主体であること、 c 地元の文化的・自然的資源との関わり合い、d 外部との交流、e 中心となるリーダー の存在、f 継続性、g 食育などの大きなトレンドに即していること、である。 ・ 「食」は、胃袋に入ってしまう「消えもの」なので、個人的感想のみに止まり、地域の 財産や大都市に向けての情報発信源としては残らないのでは、という懸念がある。その 地域で楽しく・美味しく過ごした経験や、成功事例の情報を集積し、地元が更に活性化 するようなエネルギーに還元するための two way、もしくは循環的な仕掛けが、必要な のでは。また、事業の中で生まれる新しい技術など、「食」という消えものをきっかけ とはするものの、何かしらのアウトプットがまちの歴史として残ると良いのでは。 ・ すながわスイートロード事業の良い点は、自己を抑えて皆で事業を支えるというホスピ タリティであり、結果として利益が出ている。売り上げは出ているものの菓子組合が市 や事業に対して尽くす労力も大きく、それがいわゆる two way な関係と言えるのでは ないか。また、事業のメッセージ性のインパクトは大きく、ここには、数字やハードで は語れないものがある。 2.ライフスタイルに関する意見交換 (1) 話題 1 「これからの時代のライフスタイルと『ロハス資本主義』 ∼食、環、健を楽しむ∼」 (小瀧委員より) 2004 年にロハスクラブネットワークを立ち上げた。出発点となった問題意識の一つは、 過疎の問題である。田舎が好きで良く行くが、次第に寂れていくのを感じる一方、通勤で 使う田園都市線のラッシュは激しくなってきており、東京周辺への一極集中を肌で感じて いる。また、年間 3 万人を超える自殺者や、少子化の問題など、ライフスタイルに影響す る社会問題への関心から、自分でも小さなことから何かできないかと考え、「週末は過疎村 へ行こう!」というメールマガジンを発行したのが 3 年前である。 今後は、「ロハス資本主義」を提唱したいと考えている。今回のテーマである地域再生を 含め、様々な問題の原因となっている、資本主義の行き過ぎたところを、ロハス的に変え ていくことができないかと考えている。 ロハスクラブネットワークの活動としては、i)食から地域を変えるためのこだわり生産 者のネットワーク作りと、ロハスの消費者を集める仕組み作りとして、Web2.0 のコミュニ ティの構築、ii)小諸市とのアドバイザー契約を結び、エコビレッジを作ろうというプロ ジェクト、iii)こだわり生産者のところで農業体験をするアグリツーリズモの仕組み作り、 を行っている。 96 成果としてはまだはっきりとは出ていないが、i)Web コミュニティの活性化、ii)小諸 の中での地域住民と自分達のネットワークができ、定期的に行き来するようになったこと、 iii)メンバーの中で結婚したり、交際を始めたりするカップルが出てきたこと、などが挙げ られる。自分の中では、実は iii)が最終的な目的であった。 課題の一つは、ロハス層が概ね 30∼40 代の女性が中心で、一様に忙しいということであ る。結婚率は低く、所得が高い。また、ロハスは一旦ブームにはなったものの現在沈静化 しており、新しい局面を迎えているのではないか。ブームの後にこそ本物が育っていくと 信じているので、これからが勝負である。 ロハスクラブネットワークは、雑誌『ソトコト』主催の「ロハスクラブ評議会」に会員 として参加しているが、他の会員は、東京電力やトヨタ自動車、三越など、大企業が 20 社 ほど名を連ねている。ここで感じることは、「ロハス」が企業発のものになってしまい、消 費者不在であることである。企業発であっても、消費者が上手に受け止めれば良いが、ま だ両者の間には隔たりがある。 現状のロハスはお金がかかること、また、活動を続けていくための収益のモデルが必要 であることも課題である。 今後の活動方針は、i)企業との連携強化、ii)行政との連携強化である。現在、大手宅配 会社との連携を進めており、地域の生産者と、宅配会社の持つ顧客とを交えた新しいシス テムを作らないかという提案を受けている。物流の課題などはあるが、既に何回かミー ティングを重ねており、上手くいけば陽の目を見るだろう。 このような活動で目指すものは、 「ロハス資本主義」である。日本人も本当の意味での豊 かなライフスタイルを生み出す必要があり、そうしないと自殺者や少子化の問題は解決し ないだろう。ロハス資本主義のイメージが少しでも広がることで、世の中が良くなること を目指している。 地域での実際の活動としては、小諸市、ベンチャー企業、ロハスクラブネットワークと で組み、地域活性化のモデルを作ろうとしている。小諸市内にある、都立高校の使われな くなった林間学校施設を安く買い取り、ベンチャー企業とのイノベーションを図り、アメ リカのファーマーズマーケットのような、生産者・消費者を巻き込んだ新しいコミュニ ティをそのエリアに作る。また、キャンプ場としての会員への開放、林間学校の宿泊地と しての活用、子ども向けの自然学校開催も考えている。更に、日本一の晴天率を利用した ソーラー発電の実証実験など、できるところから確実に行うことを考えている。 小諸市は非常に有名であるが、商店街は廃れてしまっている。自分達の取組みが広がる ことで若い人々が集まることを期待しており、自分自身は、最終的には移り住み、二地域 居住のような形で仕事ができればと考えている。 97 (2) 話題 2 「男女共同参画型ライフスタイルの課題と展望」(小室委員) 働いて子育てができる日本を作るのが自分の夢である。大学在学中、一年間休学してア メリカに放浪の旅に出た。その間に住み込みのベビーシッターをした際、女性が育児休業 期間中にイーラーニングを行い、給与が上がった状態で職場に戻っていくという例に出 会ったことで、それまで持っていた「育児休業=ブランク=女性に不利」という考えが変 わった。育児休業を、女性本人にとっても企業にとってもプラスにすることによって、女 性のキャリアを打開できないか、という問題意識を持って日本に帰ってきた。 資生堂入社 2 年目の時に、 「wiwiw」という、育児休業中にラーニングのできる仕組みを B to B で販売する社内ベンチャーを立ち上げた。それを約 6 年間社内で売っていたが、2006 年に独立し、(株)ワーク・ライフバランスを立ち上げた。当初、育児は女性のものだと考え ていたが、男性の中にも育児休業を取りたいと考えている人々が増え、また企業側の課題 にもなっている。育児休業だけでなく、介護休業やうつ病など、何かしらの原因により職 場を長期休業してしまっている人々が再チャレンジできる日本を作ることが、自分の目指 す、「働いて子育てできる日本」と同じではないかと考え、対象を「すべての休業している 人」としている。 現在は、「ワーク・ライフ・バランス企業」になりたいと希望する企業へのコンサルティ ングと、「armo」という、育児休業中の職員をサポートする Web コンテンツの仕組みを企 業に導入する事業を運営している。 「armo」とは、フランス語の「ハーモニー」から来てお り、社名は「ワーク・ライフバランス」であるが、ワークとライフはバランスを取るもの ではなく調和するもの、という考え方に基づいている。 「新しいライフスタイルの創出と地域再生」をテーマに、どの地域でも再現可能な地域 再生を考えた場合、「人材」が鍵なのではないか、と考える。豊かな資源・農産物が地域に あっても、中心となって事業を担う人材が継続して生み出される仕組みが無ければ、事業 の発展は一時的なものに終わってしまう。 継続した人材育成の仕組みを作るためには、若い夫婦が地域活動に参画する意欲を持っ たり、その地域で子育てをしたいと考えるようになることが必須条件である。しかし地域 の現状は、それとは程遠い。その理由として、i)男性が育児・家事・地域参画を行える時 間が無いこと、ii)女性が仕事と子育ての両立ができないこと、の二つのライフスタイルの 課題が挙げられる。男性の立場からは、子供がいない、またはいても家事・育児を妻に任 せている状態が続くと、地域社会に対する関心が生まれない。地域社会を発展させようと いう危機感が住民から生まれなければ、地域の発展は達成されないのではないか。 ワーク・ライフ・バランスの実現は、地域再生と深く関わっていると考える。その阻害 要因としては、まず男性の長時間勤務が挙げられる。長時間の残業が削減されないと、物 理的に家事・育児・地域に関わる時間を割くことができない。午後 7 時迄に夫が帰宅する 割合を国際比較すると、 ストックホルムでは 8 割、ハンブルグでは 6 割、東京では 2 割(17%) 98 となっており、東京は非常に低い。この背景には、職場における育児支援が充実していな いという問題もあるが、近年注目されているのは、第 1 子出産後に、女性が育児に懲りて しまう、という問題である。第 1 子出産後も、育児と仕事を両立する努力をするのは女性 のみ、という状況が続くと、第 2 子を産む意欲は生まれない。この状況を示すデータは、 シカゴ大学の山口教授から提供されている。 男性がしっかりと育児・地域に使う時間を確保することが必要である。子どもと関わる ことで、治安維持など、地域への関心が高まり、地域再生活動への参画意欲が向上するの ではないか、と考える。 以上のような社会を作るためには、本人だけの意識改革だけでなく、企業の変革も必要 であり、それに対する社会的ニーズと、企業ニーズがある。社会的ニーズとしては、少子・ 高齢化に伴う労働力人口の減少、年金破綻という社会的課題に対して、出生率の向上と、 家庭で眠っている、非常に優秀な女性を活用という両面から解決を図る必要性である。 「女性(24∼34 歳)の労働力率と出生率の国際比較」のグラフでは、女性の労働率が高 いと子どもを持つ割合も高いことが示されている。この理由としては、子ども育てるため の経済的な必要性のほか、女性が働くことによって男性が育児参画をせざるを得ない状況 になり、結果として孤独な育児ではなくなり、第 2 子を産む意欲が出てくる、ということ が挙げられる。日本では、年金問題等を解決するために、スウェーデンのように女性の労 働力率・合計特殊出生率共に向上させる必要がある。働きながら子育てをする女性は社会 を救う救世主である。 企業ニーズとしては、労働力人口が減少する中、優秀な人材の確保と、長期的労働力の 確保が挙げられる。そのためには、これまでのようにマーケットの半分である男性のみに 注目するのではなく、マーケット全体を見て、潜在労働力(女性)へ注目する必要がある。 スライド5枚目の、HDI 値と GEM 値の国際比較のグラフでは、日本では HDI 値(Human Development Index:教育によって、その国の基本的な人間の能力がどこまで伸びたかを 示す値)が、世界で 9 位と高い一方、GEM 値(Gender Empowerment Measure:その国 の政治および経済への女性の参画の程度)は 41 位と低い。日本は、男女共に問題なく教育 されているにも関わらず、女性の能力が活用されていない、つまり教育にロスがある。そ のギャップに注目し、上手く活用していくことのできる企業は、優秀な人材を採ることに は苦労しないのではないか。優秀な女性の採用・育成が今後の人材戦略のキーワードであ ると考えている。 現在、例えば職場に 10 人の人がいるとすると、8 人は長時間勤務が可能で、2 人は子育 てや様々な制約により短時間の労働しかできない。現在は、長時間労働できる人々が評価 される社会なので、2 人は、短時間の中でも精一杯働こうというモチベーションが低く抑え られてしまう。このグループが少数派である時期においては、彼らを切り捨ててしまって も問題が無いが、将来労働力が減少する中、障害者・シニアなど、様々な人々を雇用する 99 必要が出てくると、長時間労働できる人々が 2 割になり、時間に制約のある人々が 8 割に なる。しかし、現在の評価基準が継続していると、8 割の人々はやはりモチベーションの低 下を起こすだろう。多くの社員の意欲低下を防ぐためには、逆に、長時間労働はさせず、 短時間で能力を発揮してもらうという仕組みを作らなければならない。これは、社員のラ イフのためではなく、企業の存続のためのワーク・ライフバランスの仕組みであり、企業・ 従業員・地域にとって「Win-Win」の関係になるということを企業に理解してもらう必要 がある。 今後の課題は、企業は地域を越えて働き方を見直し、余暇の時間を取ってもらわなけれ ば困る、というスタンスに立つことである。本業と地域業という 2 足のわらじモデルを推 進することが必要なのではないか。従業員本人にとっても、企業の中でしか評価軸を持た ないということは、精神的に非常に弱くなる。 また、会社の時間を制約して地域での時間を生み出した人々に必要なことは、「社交場」 である。特に男性が地域に参画する場合は、既に子どもなどを通してコミュニティを形成 している女性と違い、新規参入のような形になることが多い。従って、育児を切り口とし た男性のための社交場を形成して、年代を超えて話し合うことのできるような人材育成の 場を提供する必要があるのではないかと考える。 (3) 意見交換 【話題 1 について】 ・ 小諸市は、非常に生活コストが高い。高齢者にも快適な生活を作るとなると、現実問題 として、エネルギー政策に非常にコストがかかるのではないか。 【話題 2 について】 ・ 男女共同参画型のライフスタイルについては、ヨーロッパでは移民を多く受け入れてい る歴史があるので、そのような地域と日本の比較は無理があるのではないか。また、日 本・スペイン・イタリアは、女性の寿命が非常に長い国で、そのような身体的なデータ も考慮しないと、男女共同参画は簡単には進まない、という印象を受けた。 【ロハスについて】 ・ ロハスには様々な意味があるが、自分にとっては「心地良い生活」ということであり、 例えば夕方 5 時に仕事を終え、趣味や地域のために自分の時間を豊かに使うライフスタ イルのことである。 ・ 連載執筆した雑誌では、平日の夕方 5 時に仕事を切り上げ、そのまま新幹線で信州へ行 き、地元の人々との贅沢な時間を田舎で過ごして、翌朝にいつも通り出勤するという生 活スタイルを紹介した所、大きな反響があった。 100 【ワーク・ライフ・バランスについて】 ・ 実際の経営の現場では、経営者は短期的な成果を求め、効率を重視しているように見え る。シビアな経営をしている経営者に、ワーク・ライフ・バランスの考え方を理解して もらうことは重要である。 ・ 会社にとってのメリットを考えると、それが単なる時間の削減ではあってはならない。 なぜ「ライフ」が必要なのか、を考えた時、日本では、長時間働けば良い仕事ができる 業務の多くは海外に出ている。現在国内で求められていることは、一つのことに対して 短期間でいかに付加価値が付けられるかという、発想力が問われる仕事である。オフの 時間を充実させ、そのエネルギーが仕事に戻ってくることによって、短時間勤務であっ ても、長時間勤務の人よりも高いパフォーマンスを出せるかもしれない。ライフを充実 した人が短時間で働けるようになるのか、短時間で働くことによってライフを充実させ なければならなくなるのか、どちらが先かは分からないが、仕事以外のことを身につけ、 残業代をもらわずにパフォーマンスの高い仕事をする人が高い評価を受けるような社 会への過渡期に、今の日本社会はあるのではないか。 ・ 余暇に対する絶対時間の長さの問題もあるが、遊び方・楽しみ方の質も問われているの ではないか。 ・ 現地視察で挙げられた事例は、毎日の仕事自体が地域の活性化に向かっている事例で、 ワーク・ライフバランスはサラリーマンの余暇時間の使い方の問題である。前者は、地 域において内政的に起きた事例である一方、後者は若い人々が様々な地域に入って、新 しいライフスタイル・仕組みを注入しようとしている。両方の面が大切である。 3.調査研究のとりまとめの方向性について ・ 「ロハス」という単語は、マスコミで取り上げられたり、人々がそれぞれに違った考え を持っていることもあるため、それらを整理するのに時間がかかる。そこでこの言葉を 使わず、新しいライフスタイルとして、定住型の生活から、移動採集型のライフスタイ ルを提案してはどうか。観光など、移動先で「非日常」に身を置くのではなく、純日常 な暮らしで、小規模ながらも自分たちで生産活動を行いながら移動する暮らしを送る、 という暮らしそのものを循環型にするライフスタイルである。 ・ ライフスタイルには様々な様式があり、ロハスも含め、一義的に何であるかは決められ ない。しかし、報告書の中では、何か鍵となる概念を作る必要があり、例えば「やわら かな社交」・「Weak ties」はどうか。ワーク・ライフバランスを含め、望ましいライフ スタイルを作るためには、情報・時間・空間・組織の壁など、様々な壁が存在する。こ れらをどう解決していくのかという視点が必要である。 ・ 地域再生ためには、モノ・コトを通じて人々が係わり合う場を作ることが必要である。 そこには、ハードウェア・ソフトウェア・ヒューマンウェアの要素が入ってくる。 101 ・ 成果指標については、人生に希望を与え、生きがいを与えるものとして、家族・社会と の関わり合いなどを示す「係わり合い指標」というものはどうか。 ・ 現在、社会はこのようなライフスタイルに向かっているのだという、後で歴史的に見た 場合にも適切であったと判断されるような現状分析と、新しいライフスタイルによって 地域のあり方がどう変わるのか、という展望を期待したい。地域のあり方は、今まで主 に経済や雇用で語られてきたが、違う要素が出てきたことに注目して欲しい。経済的に は停滞していても、人々が幸せに暮らせるように政策が上手くいけば、持続可能な地域 の暮らしが成り立つのではないか、そのきっかけとなるのは何か、という問題意識であ る。具体的に、地域の人々があるライフスタイルを取り入れて、幸福に暮らしている実 例があると良い。地域の GDP は高くなくても、人々が集まり、幸せに暮らせるライフ スタイルがあるのであれば、それを促進するための政策や、その条件を測るための指標 の提案などがあると望ましい。 ・ 枇杷倶楽部の事例も、成功事例と言われてはいるが、今後は分からない。枇杷を保存す るためのピューレ化の技術など、現在の事業を行う上で出てきた付帯的な事業・技術開 発の視点も事業に取り込んでいく必要がある。常に新しい視点が必要である。 ・ 消費者側の観点では、ロハスやワーク・ライフバランスのようなライフスタイルはすぐ そこまで来ていると感じている。ただ、望んでもできない様々な壁がある。例えば、夕 方の時間に交通機関の料金を下げる、過疎の村にコミュニティを作るための物件情報を 行政が紹介するなど、具体的な政策につなげ、そのようなライフスタイルを望む仲間た ちが、一歩前に踏み出せる仕組みができれば良いと考える。 ・ 切迫感は無いが、このままでは衰退してしまうのではないか、と漠然と感じている地域 は多いのだろう。一方都市住民も、不満ではないが、もう少し充実感が欲しいと、漠然 と感じているのではないか。しかし、何かを始めようとすると、様々なリスクがある。 強力なリーダーがいればできるのかもしれないが、リーダーは作れるものではない。 リーダー的な人をサポートすることができないか、と考えている。 ・ 地域においてオピニオンリーダーになれる人々の養成は非常に大事である。都市に住む 人々に地域で長く過ごしてもらう仕組みを作るためには、地域の人々に都市の食生活ラ イフスタイルを勉強する機会を与えたり、情報提供するシステムが必要である。 ・ きっかけ作り、仕組み・仕掛けづくり、またゆるやかな社交には、きめ細やかなホスピ タリティが必要である。それこそ公共事業型ではなく、ホスピタリティ型の地域再生が 必要なのではないか。人の心に残るのはホスピタリティ以外無い。 以上 102 5.第3回調査研究委員会議事概要 ●日時:2007 年 2 月 7 日(水)18:00∼20:00 ●場所:全国町村会館 第 3 会議室 ●出席委員(敬省略) 調査研究委員会:斎藤隆、小瀧歩、小室淑恵 千葉県特定地域検討委員会:荘司久雄、 北海道特定地域検討委員会:越膳百々子、工藤一枝 ●議事次第 開会 1.地域再生を促進するライフスタイルの条件と政策展開に向けた意見交換 話題提供 1 「日本人の暮らし方について」 話題提供 2 「個の幸福と地域の発展」 議題 1 「地域再生を促進するライフスタイルの条件とは?」 議題 2 「具体的な政策展開に向けて」 2.調査研究のとりまとめについて 閉会 ●議事概要 1.地域再生を促進するライフスタイルの条件と政策展開に向けた意見交換 ・事務局より、話題提供 1・2、議題 1・2 について説明を行った。 <意見交換> 【企業のあり方について】 ・ 企業側の取り組みを何らかの形で取り入れたい。「企業の取り組み」と「地域の再生」 は直接つながるものではないので、企業の変革という視点は入りにくいとは思うが、こ の二つには相関性があるので、ぜひ報告書に入れて欲しい。 ・ シニア・団塊の世代の役割を盛り込めたら良いと思う。会社が変わらなければならない が、自分も含め、企業が今までのライフスタイルを変えるのは難しい。そこで大きな力 となってくるのが、シニア・団塊の世代ではないか。この世代の人々との関わり方を考 えていくことが必要である。 103 ・ 古田隆彦氏(現代社会研究所所長・青森大学社会学部教授)が、「少子高齢化になると 老人が減り、子どもが増える」と言っている。例えば生産労働人口は、現在 15 歳以上 とされているが、実際は 24 歳くらいでも働いていない人々は多く、25 歳以上にすべき ではないか、というのが古田氏の意見である。一方、元気な老人は多く、75 歳以上で、 身体も弱い人を「老人」としてはどうか、ということである。現在使われている概念は、 高度経済成長時代に用いられていた古いものであり、現在の状況とは異なってくる。し かし、古い考え方を捨て、関心の方向を変化させるようなパラダイムシフトはまだ起き ていないと思われる。 ・ 企業が変わらないとライフスタイルの変化は起きないが、企業が変われない理由も多く あり、非常に難しい問題である。シニアに頼らざるを得ないかもしれないが、例えば環 境問題に関心を持つ若い世代を無視していいかと言えばそうではない。大きな課題であ る。 【地域間交流のあり方】 ・ 市町村単位などの「地域間の交流」はあまり行われていない印象を受ける。 「地域再生」 となった場合、様々なグループがあるが、自分の住む地域だけでなく、他地域への視野 があっても良いのではないか。例えば「地域ポイント」などを作って、様々な地域がポ イントを持ち寄って全国で何か行う、ということができないか。 【「時間」に対する考え方】 ・ 話題提供にある「時間の使い方」を見て思ったことは、 「時間概念」には、 「ニュートン 時間」 (物理的な時間)と「ライプニッツ時間」 (心理的時間)がある。例えば、自分は 過去 9 年間の自分の忙しさを記録しているが、最近「忙しい」日が増えている。しかし その中身を見ると、気だけが焦っていて、実際には何もしていないことが多い。物理的 時間では何もしていないが、心理的時間では非常に忙しい。必要条件として物理的な時 間は必要だが、十分条件として心理的時間が必要で、これらを上手に重ねないといけな い。 【ライフスタイルを地域の力に変化させる仕組み】 ・ ライフスタイルを地域に還元するには、翻訳装置が必要だと考える。まず、多様なライ フスタイルを束ねる接点・インセンティブ(やりがい、生きがいなど)が必要である。 インセンティブは、a モノ(モノ) 、b ブランド(イメージ)、c ソリューション(サー ビス)、d 経験する(地域・場所)と社会の流れの中で変化・進化しており、次に来る のは e ガイドする人(未来)ではないか。 ・ ライフスタイルは様々であるが、人々の動機付けをする接点は必ずある。この接点を地 104 域にどのように作るのか、または企業が消費者との接点としてどう作り上げるのか、が 重要である。 2.調査研究のとりまとめについて ・事務局より、調査のとりまとめについて説明を行った。 <意見交換> 【「食・食文化」について】 ・ 「食」は非常に大切な議論であるが、これだけにしてしまうのか、という話もある。 ・ 「場とキッカケを生み出す『食・食文化』」という点については、その通りだと思うが、 それだけではない、と思う。「食・職・住・遊・学」全てだと考える。 ・ 「食」以外の要素を否定しているのではなく、全てのジャンルを網羅することは難しい ため、「食」から始めよう、ということだと考えている。 【「地域の指標づくり」について】 ・ 地域独自の指標づくりという議論は、非常に重要である。 ・ 指標作りのコツというのを示すガイドラインが作れると良いのではないか。指標そのも のを作ることよりも、それを作る場づくり、仕組みづくりが示せると良い。 ・ アメリカと日本の指標ではどのように違うのかなどが出せると良いのではないか。 【企業の役割】 ・ 地域の活性化に際し、企業を巻き込んだ提案をしている視点は的を射ていると思う。例 えば「場所を提供する」というのは日本の企業でもすぐにできることであり、その意思 もある。しかし、具体的にセミナールームや会議室を貸し出す場合、セキュリティや会 社の中での処理の問題など、ハードルがいくつかある。これらの問題をクリアできれば、 企業を巻き込めるのではないか。 ・ 社員のワーク・ライフバランスを進めたいと考えている企業にとって課題なのは、マネ ジメント層のスキルアップである。現在は、「目の前で仕事をしているか否か」でしか 判断できず、これはスキルとしては一番低いレベルである。限られた時間の中でどのよ うに効率を上げてもらうのかが重要なのだが、仕事の内容で判断するレベルにまでは達 していない。マネジメント層の意識改革は進んでいるが、スキルアップを進める必要が あると考えている。 ワーク・ライフ・バランスを進めるとプラスの結果を生む、と考える人は多く、そ のような人たちは、ワーク・ライフ・バランスを進めることで組織の活性化につなが 105 ると考えるが、マイナスであるとする人たちは、マネジメントがしにくくなった、と 考えている。前者の人たちが評価しているのは組織全体の向上であるが、後者は自分 自身の能力不足の結果を問題にしている。ワーク・ライフ・バランスの考え方を取り 入れ、一律ではなく、様々な立場や考え方の人々を束ねてマネジメントしていくこと は、本来マネジメントの能力として求められていることであるが、今までの日本的な 経営手法では必要ではなく、それほどスキルが高くなくてもマネジメントして来られ た。新しいマネジメント能力の取得の必要性に対し、アレルギー意識を持っているの ではないかと思う。そのようなストレスを軽減して、マイナス意識を取り除くことは できるのではないかと考える。 ・ 「新しいライフスタイルの創出が地域再生につながる」ということが大前提であるが、 一番変わらなければならない会社が動くためのモチベーションが高まる何かを提示で きると良い。ソニーなどの大会社が、社員の社会貢献活動をポイント化し、外に公表し ていく、という記事を読んだことがあるが、そのような取り組みが広がると良いのでは ないか。 我々から見えないのは、どの会社が、そのように社員の社会貢献活動を後押しして くれるのか、ということである。若い人たちは、そのような会社に就職したいと思っ ているだろう。国が中心となって、そのような企業を表彰するような制度があると良 い。良い取り組みに様々な場面で接する機会があれば、それまで興味の無かった企業 の人々も注目し、気持ちを切り替えてくれるのではないか。行政が表彰することで企 業にも利益をもたらし、ワーク・ライフ・バランスを進める環境が整い、結果として 地域再生につながる、そのようなストーリーを示せると良い。 【ワーク・ライフ・バランスを進める仕組みづくり】 ・ 現在、女性が住みたいと思う地域は、「保育が充実しているところ」である。行政は、 企業にワーク・ライフ・バランスを進めるよう指示しているが、保育所の数は足りてい ないので、それではどのように女性はワーク・ライフ・バランスを進めて良いのか分か らない。また、4 月の入所に対して保育所が決定するのが 2 月末で、遅すぎるという問 題もある。例えば、石川県では、妊娠している時から「マイ保育園」を登録できる制度 があるが、そのような取り組みが広がれば、職場復帰を望む女性に対して大きな安心感 を与えられると思う。保育所の決定は、保育所に落ちた場合のことも考えると、5 ヶ月 前に決まっていることが望ましい。 保育の場所が担保されると、ライフスタイルに関する様々な要因が上手く回り始め る。地域に十分な保育所を作る、ということが最低限である。 ・ 企業が保育所を作ろうとする際の制約が多すぎる。例えば、認可保育・認証保育所を作 ろうとする企業に対して、自分の社員の子どもを優先的に入れることが許可されないの 106 は問題ではないか。ここを上手く支援できるようにすると良い。 ・ シカゴ大学の山口教授が「夫婦関係満足度」を調査しているが、日本において、満足度 が下がるのは第 1 子が生まれた後である。第 1 子が生まれた後、女性が一人で育児をす ることによって育児に懲り、第 2 子・第 3 子を産まなくなるという傾向がある。子ども を産まない、結婚をしないと決めた人々に対して「子どもを産んで下さい」という、ゼ ロを 1 にする取り組みは難しいが、産む意思のある人を支援する取り組みは進みやすい のではないか。 ・ 「政策展開」を充実させて欲しい。ライフスタイルの多様化に対するニーズは高いが、 自分らしいライフスタイルを作るためには様々な制約がある。一つは、ワーク・ライフ・ バランスである。「国民生活白書」においても、ワーク・ライフ・バランスを進めるべ きであると提言しているので、それに対するインプリケーションがあると良い。 ・ ワーク・ライフ・バランスを進めるための「地域の受け皿」の視点も必要である。事例 として出されている地域は良いが、実際に自分たちの地域に受け皿があるのか、多様な 受け皿を作る方策などを出してもらえると良い。 【地域事例の比較について】 ・ 千葉・北海道については、特に優良事例として取り上げた訳ではないので、良い点・悪 い点など、事例の紹介・比較の方法についても工夫してほしい。 以上 107