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InSAR 実 利 用 化 WG 活 動 報 告
(2005~ 2011 年 )
公開版
建設・国土防災分野における
InSAR の実利用化に関する調査研究
2013 年 11 月
(一社)日本リモートセンシング学会
国土防災リモートセンシング研究会
目次
はじめに
1.
2.
3.
建設・国土防災分野での地盤変動計測事例調査
1.1
概要
1.2
アンケート調査方法と調査結果
1.3
ア ン ケ ー ト 調 査 結 果 に 基 づ く InSAR の 計 測 技 術 と し て の 考 察
1.4
地 盤 変 動 計 測 手 法 と し て の InSAR の 評 価
地 盤 変 動 計 測 の た め の InSAR 処 理
2.1
概要
2.2
処理フロー
2.3
環境整備
2.4
各処理
2.5
処理事例
SARデータ処理・応用編
3.1
概要
3.2
ソフトウェアと解析結果
3.3
コヒーレンスによる土地被覆分類
はじめに
本 報 告 書 ( 公 開 版 ) で 取 り 上 げ る InSAR(Interferometric SAR)処 理 は 、 2つ の デ ー タ の
位 相 差 を 計 算 す る こ と に よ り 、 観 測 シ ー ン 内 の 数 cmの 変 動 を 面 的 に 抽 出 す る 技 術 で あ る 。
我 が 国 で は 、 1990 年 代 か ら 地 震 や 火 山 活 動 に よ る 地 表 面 の 数 cmの 変 動 を 捉 え る た め の 研
究が行われてきた。我が国のような急峻な山岳地域が大半を占める地域においては、グラ
ンドトゥルースデータを面的に取得することはほとんど不可能であるため、この技術は
GPSや 水 準 測 量 に 並 ぶ 強 力 な 変 動 抽 出 ツ ー ル と し て 盛 ん に 用 い ら れ る よ う に な っ た 。
2006年 に 打 ち 上 げ ら れ た ALOSの PALSARセ ン サ ー は 、四 川 大 地 震( 2008)、ハ イ チ 地 震
(2010)、 東 北 地 方 太 平 洋 沖 地 震 ( 震 災 名 称 : 東 日 本 大 震 災 、 2011)な ど の 数 百 kmに お よ ぶ
断 層 運 動 を 捉 え る こ と に 成 功 し 、 InSAR処 理 が 地 盤 変 動 を 捉 え る 上 で 非 常 に 有 効 な 手 法 で
あ る こ と が 証 明 さ れ た 。 し か し 、 InSAR処 理 の 実 利 用 化 は 、 業 務 展 開 と い う 点 で 一 部 の 導
入 事 例 は あ る も の の ほ と ん ど 実 現 さ れ て い な い 。 InSAR実 利 用 化 ワ ー キ ン グ グ ル ー プ で は 、
建 設 ・ 国 土 防 災 分 野 で の 実 務 利 用 の 観 点 か ら 、 地 盤 変 動 や 地 盤 沈 下 計 測 へ の InSAR処 理 の
具体的な適用方法の検討や適用上の課題の抽出などを行ってきた。
本 報 告 書( 公 開 版 )で は 、2005年 ~ 2011年 に お け る 活 動 内 容( 論 文 調 査 、ア ン ケ ー ト 調
査 、 実 デ ー タ 処 理 ) の 結 果 を ま と め た 。 な お 、 本 報 告 書 ( 公 開 版 ) は 2011( H23) 年 11月
に研究会内部資料として作成したものをベースとし、広く学会内外の研究者に紹介したい
内容を中心に再構成したものである。
1章では、建設・国土防災分野においてこれまで実施した変位計測について研究会メン
バ ー を 対 象 に ア ン ケ ー ト 調 査 を 行 っ た 。 ま ず 、 InSAR処 理 の 実 利 用 化 の 理 想 的 な 状 態 と し
て 、こ の 分 野 で 実 施 さ れ て い る 変 動 計 測 を す べ て SARデ ー タ で 置 き 換 え る こ と を 想 定 し た 。
その理想的な状態を実現するために両者のギャップを明らかにし、現時点で何ができて何
が で き な い か 、 実 利 用 化 を 実 現 す る た め に は SARセ ン サ ー に ど の 程 度 の ス ペ ッ ク や 観 測 条
件が必要かについて調査を行った。
2 章 で は 、 InSAR処 理 の 初 心 者 の た め の 手 引 書 と し て 、 処 理 の 一 連 ( デ ー タ 選 定 、 ソ フ
ト ウ ェ ア 選 定 か ら 変 動 量 作 成 ま で )の 流 れ ま で を ま と め た 。初 心 者 が SARデ ー タ を 購 入 し 、
InSAR処 理 に よ っ て 変 動 量 マ ッ プ を 作 成 す る た め に は 、 さ ま ざ ま な 問 題 ( ソ フ ト ウ ェ ア の
選定、処理の方法、画像の判定方法、データの購入方法など)がある。本章では、初心者
が InSAR処 理 を 行 っ て い く 上 で 直 面 す る 問 題 や 疑 問 を ま と め た 。
3 章 で は 、 InSAR処 理 の 応 用 編 と し て 2 つ の テ ー マ ( DInSAR処 理 、 コ ヒ ー レ ン ス と 土
地 被 覆 分 類 図 と の 比 較 ) に つ い て ま と め た 。 そ れ ぞ れ 内 容 は 異 な る が 、 InSAR処 理 を 実 利
用化する上で重要な項目であると考える。
「 DInSAR処 理 」 に 関 し て は 、 TerraSAR- Xの デ ー タ ( 桜 島 ) に 対 し て 2 つ の ソ フ ト ウ
ェアによって変動マップを作成し、対比を行った。
「 コ ヒ ー レ ン ス デ ー タ と 土 地 被 覆 分 類 図 と の 比 較 」 で は 、 PALSARデ ー タ の コ ヒ ー レ ン
ス マ ッ プ と 日 立 市 の 土 地 被 覆 分 類 図 と の 比 較 を 行 っ た 。 コ ヒ ー レ ン ス は 、 InSAR画 像 の 干
渉性の指標として利用されるため、今回まとめた結果をすべての地域に展開することによ
り 、 InSAR処 理 の 実 利 用 化 に 非 常 に 有 効 な 情 報 と な る と 考 え る 。
平 成 25 年 10 月 30 日
(一社)日本リモートセンシング学会
国土防災リモートセンシング研究会
InSAR 実 利 用 化 ワ ー キ ン グ グ ル ー プ リ ー ダ ー
三 尾 有 年 ( NTT デ ー タ CCS)
1.建設・国土防災分野での地盤変動計測事例調査
1.1
概要
InSAR は こ れ ま で 地 殻 変 動 な ど の 測 地 分 野 で の 利 用 が 多 く み ら れ る が 、そ れ 以 外 の 分 野
での利用事例が少ないのが現状である。
InSAR で は 、広 域 の 地 盤 変 動( 鉛 直 方 向 上 下 動 を 意 味 す る )が 計 測 で き る こ と か ら 、デ
ー タ ア ー カ イ ブ の 充 実 と と も に 、SAR デ ー タ の 特 徴 や 地 表 面 特 性 と デ ー タ 干 渉 の 程 度 な ど
処 理 上 の 特 徴 の 理 解 が 進 め ば 、建 設・国 土 防 災 分 野 に お い て も 十 分 に「 変 位 量 計 測 ツ ー ル 」
として適用可能であると思われる。
SAR を 搭 載 し た 衛 星 は 、近 年 、継 続 的 に 運 用 さ れ て お り 、デ ー タ 処 理 後 に 初 め て デ ー タ
干渉しないことが判明するなどといったデータ利用面での不安感は少なくなってきている。
このような状況の中、建設・国土防災分野において現状実施されている地盤変動計測業務
( 国 土 交 通 省 や 地 方 自 治 体 、公 益 団 体 等 か ら の 発 注 業 務 )に 、InSAR に よ る 変 動 抽 出 手 法
が適用できるか、適用するならばどのような条件整備が必要なのか、あるいは、計測に限
界があるのか、といった実利用化に向けての課題抽出と検討を行った。
図 1.1 に 本 章 の 地 盤 変 動 計 測 事 例 調 査 の 流 れ を 示 す 。
文献調査
建設・国土防災分野における
アンケート調査
( サ ン プ ル 44 件 )
1.2 節
地盤変動計測
条件抽出
1.3 節
InSAR 経 験 者
による考察
特徴分析
建設・国土防災分野における
地 盤 変 動 計 測 手 法 と し て の InSAR の 評 価
(実用化にむけての課題提出)
図 1.1
地盤変動計測事例調査の流れ
1 - 1
1.4 節
1.2
アンケート調査方法と調査結果
1.2.1
アンケート調査方法
WGメンバーが所属する建設コンサルタントと建設会社の設計開発担当者に対して(本
人含む)、建設・国土防災分野において現状実施されている地盤変動業務についてのアン
ケ ー ト 調 査 を 実 施 し 、44 サ ン プ ル の 回 答 を 得 た( 表 1.2、2007 年 度 実 施 )。ア ン ケ ー ト 調
査 項 目 の 意 味 を 表 1.1 に 示 す 。
表 1.1 の 各 項 目 は 、地 盤 変 動 業 務 を 分 析 す る と と も に 、InSAR デ ー タ の 特 徴 と の 関 連 性
を 把 握 す る 目 的 で 設 定 し て い る 。特 に 、「 表 層 状 態 」「 範 囲 」「 変 位 量 」は SAR 観 測 に お
いて重要な項目であるため、検討パラメータとして設定している。
表 1.1
アンケート調査項目とその意味
調査項目
項目の意味
原因
地盤変動の原因
現象
地盤変動の内容
計測対象物の移動方向
変動の方向
事例(地域名)
地盤変動が観測されている地域の名称
表層状態
地盤変動している範囲の土地被覆状態
範囲
地盤変動している範囲の広さ
変位量
地盤変位量(年単位等)
変位方向
その変位の方向
データ間隔
その変位の計測間隔
時期
その計測が実施された期間、年度
季節
その計測が実施された季節
※地盤変動:地盤が変動している様子現象をいう
※変
位:元の位置からのずれをいう。数値で表現できるもの。
1 - 2
1.2.2
アンケート調査結果
表 1.2 に ア ン ケ ー ト 調 査 結 果 を 示 す 。
地盤変動の現象としては、地盤沈下、陥没、隆起、盛土、山体変動、地すべり、浸食、
標砂、積雪、わだちぼれ、構造物変形などが挙げられる。地盤沈下は地方や都心周辺部で
確認されているが、東京都心部では、地下水の汲み上げ制限に伴う貯留量の増加による地
盤隆起も最近の災害事例として挙げられている。
レ ー ダ ー の 反 射 有 無 に 関 係 す る「 表 層 状 態 」と し て は 、市 街 地・道 路 、田 畑 な ど の 農 地 、
海 面 、砂 礫 ・ 土 砂 ・ ア ス フ ァ ル ト な ど 多 岐 に わ た っ て い る 。SAR デ ー タ は 地 表 面 か ら の 電
磁波の反射によって得られるデータであるため、観測周波数(X バンド・C バンド・L バ
ンド)に応じてデータ取得状況が異なることが想定される。そのため、表層状態に応じた
バンド選定を行う場合があることも考えておく必要がある。
計 測 対 象 の「 範 囲 」と し て は 、数 百 km 2 と 広 域 の 地 盤 沈 下 を 把 握 し た 事 例 か ら 、建 設 工
事 の 範 囲( 数 百 m 2 )の 地 盤 変 位 を 計 測 し た も の ま で 多 様 で あ り 、解 析 領 域( = 購 入 デ ー タ
範囲に相当する)の確定に必要な情報として重要である。
「変位量」と「計測間隔」は、地盤変動の現象とその危険度を判断する場合に必要な情
報である。すなわち、より微少な変位を短いインターバルで計測する必要がある逼迫した
地 す べ り に 対 し て 、 1 年 間 に 数 cm の 沈 降 が 分 か れ ば よ い 地 盤 沈 下 ( 参 考 : 地 盤 沈 下 監 視
ガ イ ド ラ イ ン 1 ) も あ り 、 SAR デ ー タ の 干 渉 ペ ア を 考 え る 上 で 重 要 な 指 標 と な ろ う 。
1
「地盤沈下監視ガイドライン」は以下参照のこと。
http://www.env.go.jp/houdou/gazou/6132/6914/2356.pdf
1 - 3
( 平 成 17 年 6 月 29 日 )
表 1.2
原因
現象
計測対象物の
移動方向
下方
表層状態
範囲
山間部
都市部
1km 2 未満
新潟県南魚沼市六日町
田、市街地
地盤沈下(特に、消雪用、他に、農業用、工業用)
米沢盆地
田、市街地
地盤沈下(主として、工業用,他に水道用)
関東平野(つくば市、古河 田、市街地
市、五霞町)
九十九里平野(東金市、い 田、市街地
すみ市)
高田平野(上越市)
田、市街地
地下水利用 地盤沈下
沈下
地盤沈下(主として、消雪用)
地盤沈下(天然ガスかん水の採取)
地盤沈下(消雪用が5割以上、他に、工業用、水道用、建築物用等)
建設工事
沈下
建設工事
隆起
地殻変動
地すべり
その他
変位方向
データ間隔
時期
季節
備考
数cm
鉛直
年一回
6.3cm
鉛直
年一回計測データの比較
地盤沈下監視ガイドライン
冬期を挟む
米沢市街地の大町地区の一部地域
3.3cm
鉛直
年一回計測データの比較
地盤沈下監視ガイドライン
茨城県南・県西17市町村
2.5cm
鉛直
年一回計測データの比較
地盤沈下監視ガイドライン
沈下面積559.3k㎡
2.4cm
鉛直
年一回計測データの比較
地盤沈下監視ガイドライン
2.1cm
鉛直
年一回計測データの比較
地盤沈下監視ガイドライン
240 km
2
地盤沈下(かつては、地下掘削工事に伴う地下水排除)
関東平野南部(横浜市)
市街地
横浜市と川崎市の臨海工業地帯
11cm
鉛直
5カ年累積
地盤沈下監視ガイドライン
関東平野(越谷市)
市街地
10cm
鉛直
5カ年累積
地盤沈下監視ガイドライン
地盤沈下(農業用水)
佐賀平野
農地
2004年度に年間2㎝以上の沈下が認め
られた地域の面積は8.3k㎡
佐賀平野一帯に及ぶ約328k㎡
数cm
鉛直
年一回計測データの比較
地盤沈下監視ガイドライン
シンガポール市街地
道路と建物
5km 2 以下
長期残留地盤沈下(圧密沈下・荷重・地下水位変動)
シンガポール埋立地
砂
地盤改良施工時の圧密沈下
釜山新港湾埋立地
砕石または土砂
周辺地盤沈下(商業用地下水)
釜山市街地
道路と建物
周辺地盤沈下(地下鉄工事)
釜山市街地
道路と建物
過重による地盤沈下
関西国際空港
構造物
圧密沈下(埋め立て地)
関西国際空港
アスファルト等
圧密沈下(埋め立て地)
中部国際空港
アスファルト等
5km 程度
陥没(大谷石採掘)
採掘場
農地・市街地
数km 2 程度
陥没(地下トンネル)
市街地・農地
市街地・農地
1km 2 以下
建物不等沈下・道路沈下(地下水の汲み上げ・地下鉄工事)
下方
上方
最大10cm程度
鉛直
月1度の計測
施工管理
2
最大5cm程度
鉛直
年1から2度の計測
リスクマネージメント
2
最大4m程度
鉛直
毎週1度の計測
施工管理
2
10km 程度
最大10cm程度
鉛直
年1度の計測
リスクマネージメント
10km 2 程度
最大5cm程度
鉛直
月1度の計測
施工管理
数m/年
鉛直
年数回
2006年:9cm
2007年:7cm
不明
鉛直
1年間の17点の平均沈下量
鉛直
被災後、周辺地面との比較
鉛直
被災後、周辺地面との比較
2
十数cm(陥没深さではなく、陥
没範囲を知ればよい)
十数cm(陥没深さではなく、陥
没範囲を知ればよい)
数十cm
鉛直
2
鉛直
毎月、周辺地面との比較
10km 程度
10km 程度
5.1km
2
2
5km 程度
2
東京駅、上野駅等
構造物
市街地
1km 以下
数十cm
東京湾処分場等
裸地
数km 2
十数cm
鉛直
毎月、周辺地面との比較
不法投棄(廃棄物の盛り上がり)
不法投棄箇所
農地、森林
市町村単位
十数cm
鉛直
毎月、周辺地面との比較
構造物隆起(薬液注入)
市街地
市街地
数mm
鉛直
毎月、周辺地面との比較
上方
広範囲盛土(人工島の埋め立て)
上下左右
山体変動(火山)
有珠山
地盤沈下・地盤隆起(地震)
例えば、能登沖地震
地盤沈降・プレートテクトニクス
御前崎
上下左右
地すべり
2
工事範囲周辺の1km 以下
100km
山地
構造物・土砂
地すべり
静岡県由比町
植生
地すべり
山地
植生・土砂
海岸
砂
横方向、
結果的に下方
1km
2
数mm/年
鉛直
年4回の水準測量
0.5km 2
50cm/年
斜め方向
年1回~2回程度あるいは出水毎
2km
2
数mm~数cm/年
斜め方向
年数回
1km
2
数十m
斜め方向
海岸延長線
十数cm
3次元
-
数十cm程度
水平
10cm~3m/年
鉛直
年1回~2回程度あるいは出水毎
2002~2003年
6月
10cm~3m/年
鉛直
年1回~2回程度あるいは出水毎
2001~2005年
4~10月
数cm~数m
鉛直
年1回~2回程度あるいは出水毎
2003(非積雪期データ)
2005(積雪期データ)
3月
-
水平
リアルタイム
網走・釧路・オホーツク
河床変動(土砂流出・堆積)
河川
砂礫
10km
漂砂(沿岸流)による地形変動
2
2
海岸
砂礫
山地
雪
地盤沈下(積雪の重み)
下方
雪国
油汚染
横方向
日本海沿岸
数km
流木
新木場
-
-
水平
リアルタイム
氷河の移動
日本にはあまりない
-
数百m/年
水平
回帰周期ごとの計測
数mm
鉛直
日々連続計測が望ましい
数cm
鉛直
年一回計測で、周辺地面との比較
数cm
鉛直
年一回計測で、周辺地面との比較
日々連続計測が望ましい
計測不能
1km 2
2
冬期
わだちぼれ(車両)
国道、高速道路
バラスト、砕石、コンク 路線延長
リート
アスファルト等
道路延長・市町村単位
わだちぼれ(飛行機)
飛行場
アスファルト等
数km
ダム
コンクリート、植生等
湛水地含めても数km2
数mm
3次元
毎月、周辺との比較
日々連続計測が望ましい
河川
コンクリート、植生等
河川延長分
数cm
3次元
毎月、周辺との比較
日々連続計測が望ましい
構造物変位(ダム堤体)
上下左右
構造物変位(河川堤防)
1 - 4
鉄道
100km
2
6~11月
冬期
上下
1km
2004~2006年
毎月、周辺との比較
積雪深
凸凹
瞬間的に変位なので、
兆候把握は難しい
瞬間的に変位なので、
兆候把握は難しい
数cm〜数十m
100km 2
流氷(による護岸破壊)
軌道変形、鉄道盛り土変形
1994年~
鉛直
東京都下
構造物隆起
浸食・破壊 海岸浸食
降雪
調査面積46 km
2
変位量
地盤沈下(猛暑により地下水需要の集中)
地下水利用 隆起
隆起
アンケート調査結果(2007 年度実施)
事例
2
1.3
アンケート結果に基づく InSAR の計測技術としての考察
1.3.1
計測技術としてのマーケット
アンケート調査結果で明らかになった計測実務事例から、その業務が対象としている地
盤の変位量と計測対象領域を二軸の対数グラフにプロットしたものが図 1.2 である。広域
を対象とする業務は、中央官庁や地方自治体などの行政が地盤沈下を定期的に(例えば、
1~5年周期)計測するものである。計測領域が狭いものは、建設コンサルタントが実施
する調査や建設会社が担当する工事域内での計測となっている。
図 1.2 には、従来の InSAR での変動把握可能範囲を示した。「従来の InSAR」とは、
測地分野でのこれまで研究や災害調査に適用された事例を示している。計測実務事例はグ
ラフの中央から左側にプロットされていることに対して、従来の InSAR は中央より右側
に位置しており、部分的にしか重なりを持っていない。
現行業務に InSAR による変動計測手法を取り入れるためには、図 1.3 に示すような範囲
での計測が InSAR に求められることになる。広域観測を特徴とする衛星データを活かし
た上で、狭域のデータとして提供する必要性がこの図から想定することができる。
以降では、計測実務事例(表 1.2)と InSAR による計測実績を対比させることで、地盤
変動計測における InSAR の実用化について検討する。
1000
変位量[cm]
100
10
従来のInSARの変動把握範囲
1
0.0001
0.001
0.01
0.1
1
10
100
1000
10000
面積[km2]
図 1.2
地盤変位量と計測対象面積の関係(実業務)
1000
100
]
mc
ハ[
ハٛ
マٛ
ٛ
建設分野で求められるInSARの変動把握範囲?
10
1
0.0001
0.001
0.01
0.1
1
10
100
1000
10000
面積[km2]
図 1.3
建設・国土防災分野で求められる InSAR の変動把握範囲
1 - 5
1.3.2
InSAR の計測技術としての分析
表 1.2 のアンケート結果を地盤変動の種類によって便宜的に分類するとともに、その地
盤変動に対して、InSAR が適用された実績があるかどうか、建設・国土防災分野の実業務
に対しての実用性について分析した。
①地盤変動の(便宜的)分類
人為的行為:地下水利用(揚水)/建設工事(盛り上がり・浮き上がり)/他
自然現象
:地すべり/浸食破壊/降雪/他
②地盤変動への InSAR の利用実績と利用条件の整理
鉛直方向(上下)へ
InSAR
の変動現象
適用可否
( InSAR 適 用 事 例
判断
可
:InSAR 実務レベル分類
+条件付記
否 :SAR 画像での検出の可能性
に関係なく洗い出
についてコメント
した項目)
ヒアリング結果(表 1.2)に対して、当該地盤変動への InSAR 適用について、適
用可否(○×)、実務レベル、適用条件を表 1.3 に整理した。
適用可(○)の場合、InSAR による計測の実務レベルを干渉する条件を付記して示
している。
適用否(×)の場合、SAR データ全般としての適用可能性を把握するため、SAR
データそのものだけで、地盤変動(あるいは変動している領域)が検出できるかにつ
いてコメント付記している。
「InSAR 適用可否」「研究・実務レベル」区分については以下に示す。
「InSAR 適用可否」区分
事例がないので判断不可
:
-
適用不可
:
×
研究中
:
△
適用可能
:
○
「研究・実務レベル」区分
大学・研究機関における基礎研究
:▲
大学・研究機関における応用研究
:●
民間企業による解析検討業務
:
○
大学民間等での定常的業務事例
:
◎
干渉しない
:
×
分類できない
:
-
1 - 6
事例研究
実務利用
表 1.3
原因
地盤変動計測への InSAR の利用実績
沈下現象/隆起現象
InSAR 以外での
InSAR
(InSAR 適用事例に関係なく洗い出した項目)
SAR 画像での計測可能性
適用可否
実務レベル
地盤沈下(天然ガスかん水の採取)
○
●
計測可能
地盤沈下(消雪用、農業用、工業用、水道用、等)
○
●
計測可能
建物不等沈下・道路沈下(地下水の汲上げ)
○
●
計測可能
建設工事
地盤沈下(地下掘削工事に伴う地下水排除)
○
◎
計測可能
(沈下)
長期残留地盤沈下(圧密沈下・荷重・地下水位変動)
○
◎
計測可能
陥没(採掘、地下トンネル)
○
◎
計測可能
地盤隆起(地下水の水位上昇)
○
◎
計測可能
構造物隆起(地下水の水位上昇、浮き上がり)
-
-
計測可能
建設工事
広範囲盛土(人工島の埋め立て)
○
○
計測可能
強度変化による抽出
(隆起)
不法投棄(廃棄物の盛り上がり)
×
×
表面特性が異なるため干渉しない
強度変化による抽出
構造物隆起(薬液注入)
-
-
計測可能
山体変動(火山)
○
●
計測可能
ピクセルオフセット 2
地盤沈下・地盤隆起(地震)
○
●
計測可能
ピクセルオフセット
地盤沈降・プレートテクトニクス
○
●
計測可能
ピクセルオフセット
地すべり
地すべり
○
▲
計測可能
強度変化による抽出
浸食・破壊
海岸浸食
○
▲
計測可能
強度変化による抽出
流氷(による護岸破壊)
-
-
表面特性が異なるため干渉しない
SAR 偏波
河床変動(土砂流出・堆積)
-
-
表面特性が異なるため干渉しない
漂砂(沿岸流)による地形変動
○
▲
計測可能
積雪深
×
×
計測不可能
地盤沈下(積雪の重み)
×
×
表面特性が異なるため干渉しない
油汚染(海洋汚染)
×
×
表面特性が異なるため干渉しない
SAR 偏波
流木
×
×
表面特性が異なるため干渉しない
強度変化による抽出
氷河の移動
○
●
計測可能
ピクセルオフセット
揚水
揚水規制
地殻変動
降雪
その他
適用状況
後方散乱係数と積雪深との相関についての研究あり
強度変化による抽出
軌道変形、鉄道盛土変形(変位量はmm)
×
×
現状の SAR の解像度では厳しい
轍ぼれ(車両)
△
△
航空機 SAR での実験実績あり
轍ぼれ(飛行機)
×
×
現状の SAR の解像度では厳しい
構造物変位(河川堤防)(ダム堤体)(変位量はmm)
×
×
現状の SAR の解像度では厳しい
「InSAR 適用可否」区分
-:事例がないので判断不可
×:適用不可
△:研究中
○:適用可能
2
3
短波長 SAR による CCD 3
強度変化による抽出
「研究・実務レベル」区分
▲:大学研究機関における基礎研究
●:大学研究機関における応用研究
○:民間企業による解析検討業務
◎:大学民間等での定常的業務事例
×:干渉しない
-:分類できない
ピルクルオフセット:二つの振幅画像を同一の座標軸上に重ねあわせ、局所的に現れる位置ずれを計測することで変動量を求める方法。軌道間距離の垂直成分が大きすぎて干渉しないペアでも、変動量が
ピクセルの大きさよりも大きければこの手法により水平変動量を求めることができる。
CCD:Coherent Change Detection の略で、2 枚の SAR 画像の相関分布(コヒーレンスマップ)に基づいて、コヒーレンスの低い領域を変化の生じた個所として抽出する方法。
1 - 7
1.3.3
InSAR の計測技術としての考察
以上の検討により、地盤変動計測業務において、InSAR という計測技術が実用に供する
ための条件を整理する。
(1)地盤変動の種類
自然現象あるいは人為的行為の結果としての「地盤沈下」「構造物の隆起」や地
震や火山活動などの地殻変動、海岸浸食などの地形変動(あったものがなくなる=
沈下と考える)は InSAR で検出できる可能性がある。
一方、盛土や不法投棄等廃棄物の山のように地面が盛り上がる現象や降雪や融雪
は表面特性が異なるため、InSAR で検出が不可能である。
また、地すべりなど変位方向と SAR での観測方向が異なる場合、InSAR で検出が
できない可能性が高い。
(2)表層状態
SAR データのバンド(波長)の特徴から、反射(干渉)する地表面特性が異なる。
よって、地盤変動を計測する対象に応じて選択するバンドを考える必要がある。レ
ーダーの反射が期待できない場合には CR(コーナーリフレクター)4 を撮像範囲内
に設置して強制的に干渉させるなどの工夫が必要であるが、現状では研究実績が不
十分である。
(3)データ間隔(観測頻度)
周回衛星であるがゆえ、地盤変動を計りたいタイミングに合致した計測は難しい
ケースが多い。取得できたデータで確実に干渉することが重要になってくる。
また、衛星によっては一定の周期をとらず、同じ場所を同じ軌道から観測しない場
合がある。InSAR を確実に実施するためには、衛星運用についても理解しておく必
要がある。例えば、干渉ペアとして採用するデータが異なる入射角であった場合に
は干渉しないため、注意が必要である。
(4)検出可能な変位量(観測精度)
計測精度は選択した SAR データのバンドの周波数に規定される。特別な処理を
しなければ数 cm となる。計測したい対象の変位量と対比させて SAR データを選択
することとなる。
(5)検出可能な範囲(観測面積)
国土管理や防災分野における地盤変動計測の対象は比較的広範囲である。広域を
同時に周期的に撮影する SAR データの特徴と合致している。一方で、建設工事な
ど撮像範囲から見れば局所的なエリアでの変動計測のニーズもあり、干渉が可能な
最小面積の把握や広範囲データの処理結果から切り出した狭小エリア干渉画像の
意味付けなど、狭範囲での InSAR の評価が不十分である。
4
コーナーリフレクター:入射した電波をその入射方向に送り返すための反射体。構造が
簡単であり、比較的安価に製造できるために SAR の校正用ターゲットとして広く用い
られる。
1 - 8
1.4
地盤変動計測手法としての InSAR の評価
1章では、実際に行われている地盤変動計測業務の内容を分析し、その分析結果と別途
整理した InSAR の特徴との対比から、地盤変動計測として InSAR に求められる条件を整
理した。
同時性・周期性・広域性といった衛星データの特徴と、即時性・高精度(mm 単位)と
いった業務の特徴とを全件一致させることは難しいが、InSAR のデータ得失や計測する現
地の諸条件をきちんと整理して実業務に適用することで、地盤変動計測技術としての評価
を高めることができると考える。
そのために必要なこととして、InSAR データの理解促進と InSAR のデータ処理の簡素
化(一般化)が挙げられる。InSAR データの処理は研究者や技術者の経験に基づく部分が
多く存在していると言われている。SAR データの複雑さとともに InSAR 普及の阻害要因
とも考えられてきたが、処理の自動化を実現したソフトウェアも開発され、地盤変動計測
技術として実用化に向けて明るい題材ともいうことができる。
そこで、2章では、InSAR データの理解を進め、InSAR データのユーザー層を増大さ
せることを目的に、初心者でも理解しやすい InSAR データの処理方法と処理事例を示す
こととした。併せて3章では、より高いレベルで SAR データを活用したいという技術者
向けに SAR 処理の応用事例を整理した。
なお、表 1.3 では、InSAR データの処理を実行する前の SAR データそのものでの地盤
変動計測の可能性を示している。変位量を数値として把握できないが、地盤が変動してい
る「範囲」を抽出する技術としての可能性を示した。
1 - 9
2 . 地 盤 変 動 計 測 の た め の InSAR 処 理
2.1
概要
現 在 、InSAR 処 理 の ソ フ ト ウ ェ ア・衛 星 デ ー タ の 整 備 、お よ び 処 理 手 順 の ス テ ッ プ を 体
系 的 に 説 明 し て い る 資 料 は 十 分 で は な い た め 、 初 心 者 が InSAR 手 法 を 学 ぶ に は ま だ 厳 し
い状況と言える。具体的には、以下に示す「ソフトウェア・衛星データの環境整備に関わ
る 課 題 」 と 「 処 理 手 順 に 関 わ る 課 題 」 に 分 か れ る 。 そ こ で 、 本 章 で は 、 ユ ー ザ が InSAR
処 理 を 一 か ら 行 う 上 で の 環 境 整 備( ソ フ ト ウ ェ ア 、SAR デ ー タ 、DEM( Digital Elevation
Model) の 整 備 ) や 変 位 量 マ ッ プ を 作 成 す る 上 で の 手 順 ( SAR 再 生 処 理 1 、 差 分 干 渉 SAR
処 理 ( 以 降 、 DInSAR 処 理 2 と い う ) と そ の 注 意 点 に つ い て ま と め た 。
(1)ソフトウェア・衛星データの環境整備に関わる課題
処 理 に 利 用 す る ソ フ ト ウ ェ ア は 経 済 的 な 理 由 か ら 、個 人 ユ ー ザ が 気 軽 に 購 入 し て 処 理
を 行 う と い う 状 況 に は な か っ た 。し か し 、最 近 ソ ー ス コ ー ド 付 き の フ リ ー ソ フ ト ウ ェ ア
が 配 布 さ れ て お り 、 個 人 ユ ー ザ が 自 分 の パ ソ コ ン で SAR デ ー タ を 処 理 す る こ と が 可 能
な 環 境 が 実 現 し て き て い る 。ま た 、DInSAR 処 理 に 利 用 す る 衛 星 デ ー タ を 購 入 す る 際 に
は 、処 理 レ ベ ル に 留 意 す る 必 要 が あ る こ と や 、干 渉 す る デ ー タ を 検 索 す る こ と が 難 し い
と い っ た 課 題 が あ っ た 。干 渉 す る デ ー タ の 選 定 に 関 し て は 、DInSAR 処 理 の 事 例 蓄 積 と
ともに、ノウハウが蓄積されてきている。
(2)処理手順に関わる課題
DInSAR 処 理 は 、複 数 の 処 理 を 経 る こ と や 、SAR デ ー タ を 再 生 処 理 し て 変 位 量 マ ッ プ
を 作 成 す る ま で に は 、ソ フ ト ウ ェ ア の 処 理 手 順 だ け で な く 、DInSAR 処 理 後 の デ ー タ の
特徴について知っておく必要がある。
1
2
SAR 再 生 処 理:SAR で 受 信 さ れ た 電 磁 波 は デ ィ ジ タ ル 化 さ れ 、各 点 か ら 後 方 散 乱 し た 電
磁波が広がり、かつ重なり合って生データとして記録される。レンジ方向とアジマス方
向の 2 次元平面上に広がって記録された信号を各点に絞り込むパルス圧縮処理を適用し、
画像化することを示す。
DInSAR 処 理 : SAR 干 渉 画 像 か ら 、軌 道 縞 や 地 形 を シ ミ ュ レ ー シ ョ ン し た 地 形 縞 の 差 分
を 行 う こ と を 差 分 干 渉 SAR( Differential SAR Interferometry) と 言 う 。 変 動 縞 を 作 成
する(あるいは、変位量を求める)処理を言う。
2 - 1
SAR デ ー タ の 購 入 か ら 処 理 ま で の 一 連 の 流 れ を 図 2.1 に 示 す 。作 業 工 程 は 、処 理 に 利 用
す る ソ フ ト ウ ェ ア の 整 備 、 処 理 目 的 に 応 じ た SAR デ ー タ の 整 備 、 DEM デ ー タ の 整 備 と い
っ た 環 境 整 備 と SAR デ ー タ の 再 生 処 理 、 DInSAR 処 理 ) の 2 つ の 処 理 工 程 に 分 か れ る 。
ソフトウェアの整備
環境整備
SAR デ ー タ の 整 備
( 2.3 節 )
DEM デ ー タ の 整 備
SAR 再 生 処 理
データ処理
( 2.4 項 )
DInSAR 処 理
図 2.1
DInSAR 処 理 に 関 わ る 作 業 工 程
2 - 2
2.2
処理フロー
SAR デ ー タ の 購 入 か ら 処 理 ま で の 一 連 の 流 れ を 図 2.2 に 示 す 。 処 理 手 順 を 以 下 に 示 す 。
(1) ソフトウェアの整備
DInSAR 処 理 を 行 う た め の ソ フ ト ウ ェ ア の 整 備 を 示 す 。 DInSAR 処 理 に 利 用 す る ソ フ
トウェアによって、ユーザインターフェースや処理手順が異なることに留意する必要が
あ る 。 DInSAR 処 理 を 行 う た め の ソ フ ト ウ ェ ア に 関 し て は 、 2.3.1 項 で 後 述 、 代 表 的 な
ソ フ ト ウ ェ ア を 利 用 し た 処 理 手 順 に 関 し て は 、 3.2 節 で 後 述 す る 。
( 2 ) SAR デ ー タ の 整 備
DInSAR 処 理 に 利 用 す る SAR デ ー タ の 整 備 を 示 す 。 DInSAR 処 理 は 、 1.3.2 項 で 前 述
した通り、目的によって利用するデータが異なる。また、データ購入に際しては、処理
に 利 用 す る 2 シ ー ン の 軌 道 間 距 離 や デ ー タ の 処 理 レ ベ ル を 考 慮 す る 必 要 が あ る 。SAR デ
ー タ の 整 備 の 詳 細 に 関 し て は 、 2.3.2 項 で 後 述 す る 。
( 3 ) DEM デ ー タ の 整 備
DInSAR 処 理 で は 、 干 渉 の 変 動 縞 か ら 地 形 の 影 響 を 取 り 除 く 必 要 が あ る 。 そ の た め 、
DEM デ ー タ を 利 用 し た 地 形 縞 の シ ミ ュ レ ー シ ョ ン 画 像 を 作 成 し 、 変 動 縞 か ら 地 形 の 影
響 を 取 り 除 く 必 要 が あ る 。変 動 縞 作 成 に 利 用 す る DEM デ ー タ の 諸 元 情 報 を 2.3.3 項 で 、
後述する。
( 4 ) SAR 再 生 処 理
DInSAR 処 理 に 利 用 す る デ ー タ は 、 RAW デ ー タ 、 も し く は SLC 3 デ ー タ を 利 用 す る 。
RAW デ ー タ か ら DInSAR 処 理 を 行 う た め に は 、 RAW デ ー タ か ら SLC 画 像 を 生 成 す る
必 要 が あ る 。こ の RAW デ ー タ か ら SLC 画 像 を 作 成 す る 処 理 を 再 生 処 理 と 言 う 。再 生 処
理 の 詳 細 は 、 2.4.1 項 で 後 述 す る 。 な お 、 SLC デ ー タ を 利 用 す る 場 合 は 、 本 処 理 は 不 要
である。
3
SLC:Single Line Complex の 略 。合 成 開 口 レ ー ダ ー (SAR)の 画 像 フ ォ ー マ ッ ト の ひ と つ
で、画像として認識できる振幅の情報に加え、位相の情報もあわせもつデータ(複素デ
ー タ ) の こ と 。 通 常 、 SAR の 干 渉 処 理 (InSAR 処 理 )に は 、 こ の SLC フ ォ ー マ ッ ト の デ
ータが使用される。なお、衛星により名称が異なるので注意を要する。
2 - 3
( 5 ) DInSAR 処 理
マ ス タ 画 像 4と ス レ ー ブ 画 像 5の 幾 何 学 的 に 重 な る よ う リ サ ン プ リ ン グ 6す る レ ジ ス ト
レ ー シ ョ ン 処 理 7 を 施 し た 上 で 、 2 シ ー ン の SLC 画 像 か ら 干 渉 位 相 を 計 算 し 、 初 期 干 渉
画 像 を 作 成 す る 。 ま た 、 DInSAR 処 理 を 施 す た め 、 予 め 軌 道 縞 と 地 形 縞 を シ ミ ュ レ ー シ
ョンした画像を作成する。
DInSAR 処 理 は 、 初 期 干 渉 画 像 か ら 軌 道 成 分 と 標 高 成 分 を 除 去 し 、 変 動 成 分 を 抽 出 す
る 処 理 を 示 す 。 DInSAR 処 理 の 詳 細 は 、 2.4.2 項 で 後 述 す る 。 変 動 成 分 の 抽 出 後 は 、 必
要 に 応 じ て 、 位 相 ア ン ラ ッ プ 処 理 8、 オ ル ソ 処 理 を 施 す 。
4
5
6
7
8
マスタ画像:変位量を求める場合に、基準となるデータをマスタと称する。
スレーブ画像:基準に対しての変位量を測定するデータをスレーブと称する。
リサンプリング:拡大、縮小、回転など画像を変形する場合に、多項式などを用いて画
像をピクセル上に再配列すること。
レジストレーション処理:画像の幾何学的な変換による画像間の位置合わせを行うこと
を示す。
位 相 ア ン ラ ッ プ 処 理:複 素 数 の 位 相 と し て 得 ら れ る 干 渉 位 相 θ は 2π の 範 囲 に 限 ら れ る 。
そ こ で 、 位 相 を 追 跡 し 、 2π か ら 0 へ の 変 化 で は 2π を 加 え 、 0 か ら 2π へ の 変 化 で は 2
πを減じる処理を言う。
2 - 4
図 2.2
InSAR 処 理 に 関 わ る 処 理 工 程
2 - 5
2.3
環境整備
2.3.1
ソフトウェアの整備
DInSAR処 理 す る た め に は DInSAR処 理 ソ フ ト ウ ェ ア が 必 要 と な る 。 DInSAR処 理 ソ フ
トウェアは有償で販売されているものや、フリーのソフトウェアも提供されている。表
2.1に 代 表 的 な ソ フ ト ウ ェ ア を 示 す 。
DInSAR処 理 が 可 能 な ソ フ ト ウ ェ ア は 、 従 来 、 CUIの イ ン タ ー フ ェ ー ス が 多 か っ た が 、
近 年 は 、SARScapeを 初 め 、GUIの ソ フ ト ウ ェ ア も 増 え て き て お り 、ソ フ ト ウ ェ ア の 導 入
や 操 作 に 関 わ る ハ ー ド ル が 下 が っ て き て い る 。ま た 、選 択 す る ソ フ ト ウ ェ ア に よ っ て は 、
ユーザの習熟度が処理結果に影響する場合がある。ソフトウェアの処理手順は、基本的
に は 図 2.2で 示 し た 流 れ と な る が 、ソ フ ト ウ ェ ア の 違 い に よ る 処 理 手 順 は 3.2節 で 後 述 す る 。
2 - 6
表2.1(1)
ソフト
ウェア名
開発元
提供
形態
インター
製品
IMAGINE SAR Intergraph
Interferometry Corporation
DLR( ド イ ツ 航 空
宇宙センター)
製品
PulSAR
InSAR Toolkit
Phoenix Systems,
製品
GUI
GAMMA
GAMMA 社
製品
CUI
Array Systems
Computing
フリー
OS
フェース
SARscape
sarmap SA
Interferometric
SAR
Processing
Next ESA SAR
ToolBox
(NEST)
SARソフトウェア一覧
GUI
GUI
GUI
対応衛星/
センサ
参照URL
備考
JERS-1/SAR
ALOS/PALSAR
ERS-1,2
ENVISAT/ASAR
RADARSAT-1,2
SAR Lupe
TerraSAR-X
COSMO Skym ed
http://www.sarmap.ch/page.php?p
age=sarscape
ALOS/PALSAR
ERS-1,2
ENVISAT/ASAR
RADARSAT-1,2
TerraSAR-X
COSMO Skym ed
http://www.erdas.jp/document/201
1/SAR_Inter.pdf
RedHat
Enterprise
Linux WS
バ ー ジ ョ ン 3~ 5
JERS-1/SAR
ALOS/PALSAR
RADARSAT
ERS-1,2
ENVISAT/ASAR
http://www.ists.co.jp/wordpress/wp 国 内 代 理 店 :
-content/uploads/PulSAR_JP.pdf
株式会社情報科学テクノシステム
( ALOS/PALSAR は 、 JAXA と
ERSDAC の 両 フ ォ ー マ ッ ト に 対
応)
Windows (Cygwin 上 )
Linux
Solaris
Mac OS X
JERS-1
ALOS/PALSAR
ERS-1/2
SIR-C/X-SAR
RADARSAT-1,2
ENVISAT/ASAR
TerraSAR-X
COSMO Skym ed
http://www.opengis.co.jp/htm/gam
ma/gamma.htm
Windows XP, Vista, 7, 8
Linux
Solaris
Mac OS X
JERS-1/SAR
ALOS/PALSAR
ERS-1,2
ENVISAT/ASAR
RADARSAT-1,2
TerraSAR-X,
Cosmo-Skymed
http://nest.array.ca/web/nest/
Windows XP, Vista, 7
Linux
Mac OS X
Windows 7, Vista, Server
2 - 7
ENVI の モ ジ ュ ー ル と し て 動 作 す
る た め ENVI が 必 要 。
http://www.exelisvis.co.jp/製 品 と サ 日 本 の 代 理 店 :
ー ビ ス /ENVI/SARscape.aspx
Exelis VIS 株 式 会 社
http://geospatial.intergraph.com/L
ibraries/Brochures/IMAGINE_SAR
_Interferometry_Flyer.sflb.ashx
http://www.gamma-rs.ch/gamma/
国内総代理店:
日本インターグラフ株式会社
販売代理店:
株式会社パスコ
国内代理店:
株 式 会 社 オ ー プ ン GIS
表2.1(2)
ソフト
ウェア名
開発元
提供
形態
ROIPAC
JPL( ジ ェ ッ ト 推 進 フ リ ー
研究所)
GMTSAR
David Sandwell
フリー
SARソフトウェア一覧
OS
対応衛星/
センサ
参照URL
備考
CUI
SGI
Sun
Linux
Mac OS X
Windows (Cygwin 上 )
JERS-1/SAR
ALOS/PALSAR
ERS-2
RADARSAT-1
ENVISAT
TerraSAR-X,
Cosmo-Skymed
http://www.roipac.org/
Fortran77, 90, 95 , C 言 語 の コ ン
パイラが必要
CUI
Sun
Linux
Mac OS X
Windows (Cygwin 上 )
ALOS/PALSAR
ERS
ENVISAT
TerraSAR-X
http://topex.ucsd.edu/gmtsar/
C 言語のコンパイラが必要
GMT( Generic Mapping Tool の イ
ンストールが必要)
インター
フェース
2 - 8
2.3.2
SAR デ ー タ の 整 備
DInSAR処 理 を 行 う 場 合 、 SARの RAW 9 デ ー タ 、 も し く は SLC( Single Look Complex)
デ ー タ を 2シ ー ン 購 入 す る 必 要 が あ る 。 一 方 を マ ス タ 画 像 、 他 方 を ス レ ー ブ 画 像 と 言 う 。
マスタ画像は、処理を行う際の基準画像を示し、抽出する地盤変動の変位前、あるいは観
測 時 期 が 古 い 画 像 を マ ス タ 画 像 と す る 。SLCデ ー タ は 、RAWデ ー タ を 再 生 処 理 し た も の で
あ る 。 SLCデ ー タ に は 、 位 相 情 報 と 強 度 情 報 が 保 持 さ れ て い る が 、 地 図 投 影 1 0 は さ れ て い
な い 。 SLCよ り 高 次 プ ロ ダ ク ト は 、 位 相 情 報 が 含 ま れ て い な い デ ー タ で あ る こ と が 多 い こ
と か ら 、注 意 が 必 要 で あ る 。ま た 、処 理 ソ フ ト ウ ェ ア に よ っ て 、処 理 可 能 な セ ン サ 種 類 や 、
扱える処理レベルが限定されている場合があることから注意が必要である。
表 2.2
SARデ ー タ 製 品 の 処 理 レ ベ ル 一 覧
衛星
センサ
RAWデ ー タ
SLCデ ー タ
地図投影データ
JERS-1
SAR
レベル0
-
レ ベ ル 2.1
ALOS
PALSAR
Level 1.0
Level 1.1
Level 1.5
ALOS
PALSAR
Level 1.0
Level 1.1
Level 1.5
( CEOSフ ォ ー
( Vexcel
( CEOSフ ォ ー
マット)
Standard SLC)
マット)
ENVISAT
ASAR
RAW
SLC
GEC
RADARSAT-1,2
SAR
Signal Data
SLC
Map Image
( RADARSAT-1
のみ)
TerraSAR-X
SAR
-
SSC
GEC, EEC
SAR2000
-
Level 1A( SCS)
Level 1C( GEC)
TanDEM-X
COSMO-SkyMed
9
10
RAW デ ー タ : 観 測 さ れ た そ の ま ま の 状 態 の デ ー タ を 指 す 。
地 図 投 影:楕 円 体 で あ る 地 球 の 表 面 を 平 面 と し て 表 現 す る 手 法 の こ と 。地 図 投 影 を 行 え
ば必ず歪みが生じるので、使用目的に合わせて歪みの少ない手法を選択する。日本固有
の 座 標 系 で あ る 平 面 直 角 座 標 系 や 、ユ ニ バ ー サ ル 横 メ ル カ ト ル 図 法 (UTM 図 法 )が よ く 用
いられる。
2 - 9
SARセ ン サ に は 、Lバ ン ド( 波 長 23.5cm)、Cバ ン ド( 波 長 5.7cm)、Xバ ン ド( 波 長 3.2cm)
等の波長の異なるバンドが存在し、データを購入する際には、各機関の販売代理店を通じ
て 購 入 す る 。SARデ ー タ の 販 売 関 係 機 関 を 表 2.3に 示 す 。な お 、PALSARの デ ー タ に 関 し て
は 、 JAXAが 生 成 し て い る プ ロ ダ ク ト と 宇 宙 シ ス テ ム 開 発 利 用 推 進 機 構 ( JSS) 1 1 が 生 成 ・
提供するプロダクトがあり、生成・提供機関によって処理アルゴリズム、シーンの切り出
し位置、プロダクトレベルの呼称が異なる。
表 2.3
SARデ ー タ 販 売 機 関
衛星
センサ
波長帯
データ生成機関
日本の販売代理店
JERS-1
SAR
Lバ ン ド
JAXA
RESTEC
ALOS
PALSAR
Lバ ン ド
JAXA
RESTEC( 総 代 理 店 )
JSS
JSS
ENVISAT
ASAR
Cバ ン ド
ESA
RESTEC( 総 代 理 店 )
RADARSAT-1,2
SAR
Cバ ン ド
CSA (Canadian
株式会社イメージワン
Space Agency)
TerraSAR-X
SAR
Xバ ン ド
株式会社パスコ
株式会社パスコ
SAR2000
Xバ ン ド
ASI (Agenzia
Spaziale
Italiana)
日本スペースイメージング
TanDEM-X
COSMO-SkyMed
株式会社
SARデ ー タ の 場 合 、 光 学 セ ン サ と は 異 な り 、 記 録 さ れ て い る デ ー タ の 品 質 が 原 因 と な っ
て再生処理後の画像が可視化できない現象や2シーンのデータの干渉性が低く良好な干渉
画像が作成できない現象が生じ、この場合、データの返品ができないことが多い。このた
め、データを購入する場合は、以下の点に注意してデータを購入する必要がある。
(1)変動を捉えたい期間に衛星データが観測していること
地盤変動が生じている、もしくは生じていると推測される時期を考慮して、干渉に利用
する2時期のデータを選定する。地盤変動が生じた時期の前後の観測時期のデータを選定
することが望ましいが、観測時期が離れたり、軌道の修正が行われると垂直成分が離れた
場合は、干渉しないことがあることから、留意する必要がある。
(2)変位量と波長は合っていること
DInSAR処 理 の 出 力 は 、 変 位 を 位 相 の 情 報 で 表 現 す る 干 渉 画 像 と し て 表 現 す る 場 合 が 多
い 。 干 渉 画 像 の 2π の 変 化 は 、 SARセ ン サ の 半 波 長 ( λ /2) の 変 動 に 相 当 し 、 Lバ ン ド の 場
合 は 11.8cm、Cバ ン ド の 場 合 は 2.7cmの 変 化 を 示 す 。干 渉 画 像 は 、半 波 長( λ /2)の 変 位 が
カラーテーブルで表現され、変位量が半波長より大きいと縞模様の画像となる。選択する
波長によって、縞模様が細かくなり解釈が困難となることや変動が抽出されないこともあ
る。抽出する地盤変動に対して、適した波長の衛星データを選択する必要がある。
JSS:
( 一 財 )宇 宙 シ ス テ ム 開 発 利 用 推 進 機 構( Japan Space Systems)。従 来 よ り PALSAR
デ ー タ を 生 成 ・ 販 売 し て い た ( 財 ) 資 源 ・ 環 境 観 測 解 析 セ ン タ ー ( ERSDAC) が 、 他 の 宇
宙 シ ス テ ム 関 連 の 財 団 法 人 と 統 合 し 、 2012 年 に 発 足 。
11
2 - 10
(3)軌道間距離の垂直成分が短いこと
干渉に利用する2時期のデータの軌道間距離の垂直成分が短いほど、干渉性が高い。ま
た、衛星の軌道修正後は、軌道間距離の垂直成分が大きくなることから、干渉性が低下す
る傾向にある。干渉に利用する衛星データを選定する際には、対象地域と地盤変動してい
る時期から、利用する候補を挙げ、その軌道間距離の垂直成分を計算し、利用するデータ
を選定する。
PALSARの デ ー タ に 関 し て は 、 以 下 で 軌 道 間 距 離 の 垂 直 成 分 を 計 算 す る 機 能 が 提 供 さ れ
ている。近年の衛星は、高精度に軌道が制御されており、干渉性が十分に維持されている
ものもある。
提供機関
JAXA
ソフトウェア名
PALSAR軌 道 間 距 離 計 算 ツ ー ル Ver. 2.1
URL
http://www.eorc.jaxa.jp/ALOS/doc/jtool.htm#p_baseline
補足説明
・
PALSAR干 渉 処 理 を 支 援 す る 為 の 軌 道 間 距 離 計 算 ソ フ ト ウ ェ ア を
配 布 し て い る 。 任 意 の PALSARモ ー ド 間 の 軌 道 間 距 離 を 計 算 し 、
干渉処理を行う前に干渉の可能性を把握することが可能。
提供機関
JSS
システム名
ASTER/PALSAR 統 合 検 索
URL
http://gds.ersdac.jspacesystems.or.jp/
補足説明
・ インタフェロメトリペア検索機能を利用し、検索したデータの垂
直 基 線 長 (Bperp)を 確 認 し た り 、 垂 直 基 線 長 の 条 件 を 設 定 し た 検
索が可能。
・ 海 外 受 信 局 が 直 接 ダ ウ ン リ ン ク し た デ ー タ の う ち 、JAXAが 個 別 に
入手しているプロダクトは検索できない。
(4)撮影時の入射角度
入射角度が異なるデータを選定すると干渉しないことから、データを選定する上では、
同じ軌道から取得したマスタ画像とスレーブ画像の組合せを検索する必要がある。
2 - 11
(5)地表の被覆状態とセンサの特性があっていること
地盤変動地域の土地被覆状態を事前に把握した上で、利用する波長を選定する必要があ
る 。例 え ば 、樹 木 が 生 い 茂 っ て い る 地 域 で は 、波 長 の 短 い Cや Xバ ン ド の デ ー タ で は 干 渉 し
な い 傾 向 が あ り 、 波 長 が 長 い Lバ ン ド の デ ー タ の 方 が 、 干 渉 性 が 高 い 場 合 が あ る 。 ま た 、
土地被覆状態が農地等の季節変化する場合には、センサの波長や観測時期によって干渉性
が低下する。
な お 、 地 表 の 土 地 被 覆 状 態 の 違 い に よ る 干 渉 性 へ の 影 響 は 、 InSAR処 理 の 過 程 で 作 成 で
き る コ ヒ ー レ ン ス 1 2 画 像 を 用 い て 評 価 す る こ と が 可 能 で あ る 。3.3節 に お い て 、地 表 の 土 地
被覆状態の違いがコヒーレンスに与える影響を紹介する。
(6)水蒸気の影響がないこと
InSAR処 理 は 、 水 蒸 気 の 影 響 を 受 け る 。 そ こ で 、 デ ー タ を 購 入 す る 前 に 、 観 測 時 の 気 象
条件を天気図や気象庁が提供している気象統計情報等を用いて把握し、水蒸気等の影響が
ないことを確認する必要がある。
(7)対象地域が雨期や積雪の影響を受けていないこと
干渉に利用する2時期のデータが雨期や積雪の影響を受けていないことを確認する必要
がある。雨期は、湛水していると、湛水面で散乱し地表面の地盤変動を捉えることができ
ない。また、積雪していると、積雪面で散乱することから、地表面の地盤変動を捉えるこ
とができない。
( 8 ) 処 理 過 程 で 必 要 な DEM が あ る こ と
DInSARの 処 理 過 程 で は 、 地 形 縞 の 除 去 の 処 理 で 標 高 デ ー タ を 利 用 す る 。 標 高 デ ー タ が
整 備 さ れ て い な い 地 域 で は 、 マ ル チ パ ス 法 を 使 用 す る 。 マ ル チ パ ス 法 は 3パ ス 以 上 の デ ー
タ か ら 得 ら れ る 2つ 以 上 の 干 渉 ペ ア よ り 変 位 を 得 る も の で あ る 。
12
コ ヒ ー レ ン ス:マ ス タ 画 像 と ス レ ー ブ 画 像 の 干 渉 性 を 示 し 、干 渉 デ ー タ の 品 質 や 位 相 情
精度を示す指標として利用される。コヒーレンスは局所領域内での位相の均一性の程度
を表し、コヒーレンスが高いほど位相のばらつき(分散)は小さく、視覚的に鮮明な干
渉模様を生じる。
2 - 12
2.3.3
DEM デ ー タ の 整 備
DInSAR処 理 で は 、 特 に 変 位 量 を 抽 出 す る 場 合 、 地 形 縞 の 影 響 を 取 り 除 く 必 要 が あ る た
め 、対 象 シ ー ン を カ バ ー す る DEMが 必 要 と な る 。日 本 で は 、国 土 地 理 院 の 50mメ ッ シ ュ 数
値 地 図( 以 降 、GSI DEMと い う )が 日 本 全 国 を カ バ ー し て い る た め よ く 利 用 さ れ る 。世 界
で は 、 北 緯 60度 か ら 南 緯 60度 ま で の 範 囲 は SRTM (shuttle radar terrain model)が 90mの
解 像 度 で 公 開 さ れ て い る た め 最 も よ く 利 用 さ れ て い る 。海 外 で は 、ERSDACが ASTERを 使
っ た 30m解 像 度 の DSM( 以 降 、 ASTER DSMと い う ) を 公 開 し て い る 。
表 2.4
名称
数値標高
DEMの 諸 元 情 報
作成・提供
メッシュ
DEM高 さ 精 度
期間
間隔
(標準偏差)
国土地理院
10m
5m以 内
整備範囲
日本国内
(火 山 )
モデル
( DEM)
( GSI
DEM 1 3 )
SRTM3 1 4
NASA/USGS
50m
5m以 内
90m
10m
北 緯 60度 ~
南 緯 56度
ASTER
ERSDAC
30m
7~ 14m
カバー範囲
北 緯 83度 ~
GDEM 1 5
作成方法
「 数 値 地 図 10mメ ッ シ ュ
( 火 山 標 高 )」お よ び 2万 5
千 分 の 1地 形 図 の デ ー タ を
基 に 地 表 で の 経 度 差 、緯 度
差 0.4秒( 約 10m)間 隔 の メ
ッシュの中心点の標高か
ら作成
2万 5千 分 の 1地 形 図 を 経 度
方向及び緯度方向にそれ
ぞ れ 200等 分 し て 得 ら れ る
区画の中心の標高から作
成
エ ン デ バ ー の STS-99ミ ッ
シ ョ ン で Cバ ン ド 及 び Xバ
ンド干渉合成開口レーダ
ーを用いて作成
同一地域に重なる多数の
ASTERデ ー タ か ら 作 成
南 緯 83度
13
14
15
GSI DEM:国 土 交 通 省 国 土 地 理 院 が 、平 成 19 年 8 月 に 施 行 さ れ た「 地 理 空 間 情 報 活 用
推進基本法」第 2 条第 3 項の規定に基づく「地理空間情報の位置を定めるための基準」
と な る 地 図 情 報 で 、地 理 情 報 シ ス テ ム( GIS)の 共 通 白 地 図 デ ー タ と し て 配 布 し て い る 。
URL: http://www.gsi.go.jp/kiban/etsuran.html
SRTM3( Shuttle Radar Topography Mission Data at 3 Arc-Seconds): ス ペ ー ス シ ャ
トルに搭載される合成開口レーダーを用いたリモートセンシング技術により、地表のレ
ーダー画像を取得する装置。また、このデータを飛行終了後に解析し加工した標高デー
タ ( 分 解 能 : 90m) も 同 様 に 呼 ば れ る 。 観 測 ミ ッ シ ョ ン は 2000 年 に 行 わ れ 、 毛 利 衛 宇
宙飛行士が参加したことで知られている。
URL: http://iss.jaxa.jp/shuttle/flight/sts99/mis_srtm.html
ASTER GDEM: ASTER セ ン サ の 直 下 視 /後 方 視 デ ー タ を 組 み 合 わ せ て 処 理 す る こ と に
よ り 作 成 さ れ た 、 全 球 の 地 形 デ ー タ ( 分 解 能 : 30m) 。 ( 財 ) 資 源 ・ 環 境 観 測 解 析 セ ン
タ ー (ERSDAC)の ホ ー ム ペ ー ジ よ り 無 料 で 入 手 で き る 。ま た 、2011/10/17 か ら バ ー ジ ョ
ン 2 の配付を開始している。
URL: http://www.ersdac.or.jp/GDEM/J/index.html
2 - 13
2.4
各処理
2.4.1
SAR 再 生 処 理
(1) 処理内容
SARの RAW画 像 は 、SARセ ン サ が 地 上 に マ イ ク ロ 波 を 発 射 し 、地 上 か ら 反 射 し て き た 信
号 を そ の ま ま 格 納 し て い る た め 、画 像 化 し て も 地 形 な ど は 正 確 に 結 像 さ れ な い( 図 2.3( 左 ))。
このため、対象地域の情報(強度および位相)を正確に得るためには、再生処理を行う必
要 が あ る 。 再 生 処 理 を 行 っ た 結 果 が 図 2.3( 右 ) で あ る 。
SAR再 生 処 理 は 、 RAWデ ー タ を 購 入 し た 場 合 の み 必 要 で あ り 、 TerraSAR-Xや
COSMO-SkyMedの デ ー タ は 、 再 生 処 理 が 施 さ れ た SLCが 提 供 さ れ る こ と か ら 、 本 項 の 再
生 処 理 は 必 要 と し な い 。ま た 、2.4.2以 降 の InSAR処 理 の 結 果 が 干 渉 し な か っ た 場 合 、SAR
再生処理に戻って、パラメータ等を調整し、再処理する可能性がある。
図 2.3
SARデ ー タ ( 左 : RAWデ ー タ 画 像
右 : SLC画 像 )
(2) 処理上の注意点
処 理 上 の 注 意 点 と し て 、 ド ッ プ ラ ー セ ン ト ロ イ ド 16の 共 通 化 が 挙 げ ら れ る 。
ドップラーセントロイド数値を左右する最も大きな原因は、レーダー波が反射する地
表ターゲット度と人工衛星の相対速度であり、衛星速度、地球自転、衛星の姿勢がこれ
に関連する。ドップラーセントロイドの共通化を行うことで、地形縞の残存や干渉縞が
改善される場合がある。
16
ド ッ プ ラ ー セ ン ト ロ イ ド:ド ッ プ ラ ー セ ン ト ロ イ ド 数 値 は 、従 来 、SARの 生 デ ー タ か ら
推 定 し て い た が , 正 確 な 推 定 は 難 し い 。 ALOSで は 、 衛 星 軌 道 情 報 が 高 精 度 に な り 、 衛
星速度と地球自転から計算した相対速度を用いてドップラーセントロイドを計算する
こ と が 可 能 と な っ て い る 。こ れ に よ り 、軌 道 間 の 衛 星 位 置 関 係 を 表 す 基 線 ベ ク ト ル が 高
精度に与えられるようになったため、軌道縞を精度良く除去できるようになった。
2 - 14
2.4.2
DInSAR 処 理
(1) 処理内容
① InSAR 処 理
InSAR処 理 を 行 う た め に は 、マ ス タ と ス レ ー ブ の 幾 何 学 的 に 重 な る 必 要 が あ る 。そ こ
で 、ス レ ー ブ 画 像 が マ ス タ 画 像 に 重 な る よ う 、テ ン プ レ ー ト マ ッ チ ン グ 1 7 法 等 を 利 用 し 、
ス レ ー ブ 画 像 を 再 配 列 す る 。な お 、PALSARは 、衛 星 の 軌 道 情 報 の 精 度 が 高 い こ と か ら 、
画像が持つ位置情報のみで幾何学的に重ねることが可能である。
干 渉 位 相 計 算 を 行 っ て 最 初 に 得 ら れ る の が 初 期 干 渉 デ ー タ で あ る 。 以 下 の 図 2.4の 画
像 は 、ど ち ら も 初 期 干 渉 デ ー タ で あ る が 、色 々 な 条 件 に よ っ て 同 じ 場 所 で も 以 下 の よ う
に 干 渉 性 が 低 い( 位 相 の 連 続 性 が な い )画 像 と 干 渉 性 が 高 い( 位 相 の 連 続 性 が あ る )画
像が得られる。
カ ラ ー テ ー ブ ル の 見 方 に 関 し て は 、 p.2-18の 「 干 渉 縞 の 見 方 」 で 詳 述 す る 。
図 2.4
17
初期干渉画像(左図:干渉性が低い
右図:干渉性が高い)
テ ン プ レ ー ト マ ッ チ ン グ:特 定 の パ タ ー ン を 検 出 す る た め の 画 像 を 用 意 し 、観 測 画 像 と
照らしあわせて当該箇所を検出する方法。顔画像の認識などでよく利用されている。
2 - 15
②軌道縞・地形縞の除去
DInSAR処 理 は 、干 渉 処 理 で 作 成 し た 初 期 干 渉 画 像 か ら 軌 道 成 分 と 標 高 成 分 を 除 去 し 、
変 動 成 分 を 抽 出 す る 処 理 で あ る 。 も し 、 軌 道 情 報 の 精 度 が 良 く な い 場 合 は 、 図 2.5 (a)の
ように地形と相関のある地形縞と軌道の違いによって発生する軌道縞と呼ばれる縞が
残 る 。こ れ ら の 原 因 と し て は 、真 の 軌 道 情 報 と 計 算 上 の 軌 道 情 報 に ず れ が 存 在 す る た め
である。
正 確 な 軌 道 情 報 が 得 ら れ た 場 合 は 、 図 2.5 (b)の よ う な 位 相 が 得 ら れ る 。 通 常 は 、 こ の
位 相 を 変 動 成 分 と す る こ と が 多 い が 、実 際 は 、大 気 の 影 響 や 電 離 層 の 影 響 に よ る マ イ ク
ロ波の遅延が原因で、変動縞と見分けがつかない縞が出現することがある。このため、
変 位 量 の 定 量 的 な 評 価 を 行 う た め に は 、同 じ 場 所 を 異 な る デ ー タ の 組 合 せ で 変 位 量 マ ッ
プを作成し、クロスチェックをする必要がある。また、対象地域に変位がない場合は、
図 2.5(b)の よ う に 単 色 の 位 相 画 像 が 得 ら れ る 。
(a) 地 形 縞 & 軌 道 縞 残 存
図 2.5
(b)地形縞&軌道縞除去
差分干渉画像(変動縞の画像)
③位相アンラップ処理
差 分 干 渉 画 像( 変 動 縞 の 画 像 )は 地 盤 変 動 を 位 相 の 単 位 に し た 縞 模 様 で 表 現 し て お り 、
メートル単位等の物理量として表現されていない。特に、利用している波長に対して地
盤変位量が大きいと、変位が複数の縞模様で表現されることから、変位量を把握したい
場合には、縞模様の数を数えるといった作業を要する。そこで、差分干渉画像(変動縞
の画像)に対し位相アンラップ処理を施すことで、メートル単位の変位量マップを作成
することが可能である。
一方、差分干渉画像(変動縞の画像)は細かな変動状況を把握するのに優れている。
DInSAR処 理 の 最 終 的 な 処 理 結 果 と し て 、 差 分 干 渉 画 像 ( 変 動 縞 の 画 像 ) と 位 相 ア ン ラ
2 - 16
ップの処理結果のどちらを採用するかは、ユーザの利用目的に応じて判断する必要があ
る。
また、位相アンラップ処理の代表的な処理手法として、ゴールドステインのアルゴリ
ズ ム ( Goldstein’s Algorithm) と フ ラ ッ ド フ ィ ル ア ル ゴ リ ズ ム ( Flood-fill Algorithm)
がある。
④オルソ化
差 分 干 渉 画 像( 変 動 縞 の 画 像 )、も し く は フ ェ ー ズ ア ン ラ ッ ピ ン グ 処 理 後 の 変 位 量 マ
ッ プ に 対 し 、DEMデ ー タ を 利 用 し 、オ ル ソ 補 正 や 地 図 投 影 を 行 う 必 要 が あ る 。こ れ に よ
り 、 DInSAR処 理 を 通 じ て 得 ら れ た 変 動 情 報 を 他 の 地 図 等 と 重 ね 合 わ せ る こ と が 可 能 と
なる。
2 - 17
【干渉縞の見方】
InSAR 処 理 で は 、 変 位 量 マ ッ プ を 位 相 の ま ま 表 現 す る 干 渉 画 像 を 用 い る こ と が 多 い 。
干渉画像は、平面の微小な変化を把握するのに非常に有効であるが、位相を超えた変化
に 対 し て は 、絶 対 量 が 分 か り に く く な る と い う 欠 点 も あ る 。こ こ で は 、干 渉 画 像 の 見 方 、
特徴について以下に示す。
・ 干 渉 画 像 は 、 0- 2π の 位 相 情 報 を 保 持 す る 。
・ 干 渉 画 像 上 で 2π の 変 化 は 、SAR セ ン サ の 半 波 長( λ /2)の 変 動 に 相 当 す る 。つ ま り 、
L バ ン ド の 場 合 は 11.8cm、 C バ ン ド の 場 合 は 2.7cm の 変 化 を 表 す 。
・ 干 渉 画 像 に 付 随 す る カ ラ ー パ レ ッ ト ( 図 2.6 参 照 ) は 、 地 表 が 衛 星 に 対 し で ど う 変 化
するかを示す。
・ 図 2.7 の 左 図 は 、 円 の 外 側 か ら 中 心 に 対 し て 色 が 、 水 色 → 紫 → 黄 色 と 変 化 し て い る 。
こ れ は 、 図 2.6 の パ レ ッ ト で は 、 衛 星 か ら 遠 ざ か る セ ン ス を 示 し て い る 。 つ ま り 、 円
の外側に対して円の中心が衛星から遠ざかるということは、円の中心が沈下している
ことを示す。
・ 図 2.7 の 右 図 は 、 円 の 外 側 か ら 中 心 に 対 し て 色 が 、 緑 → 黄 色 → 紫 と 変 化 し て い る 。 こ
れ は 、 図 2.6 の パ レ ッ ト で は 、 衛 星 に 近 づ く セ ン ス を 示 し て い る 。 つ ま り 、 円 の 外 側
に 対 し て 円 の 中 心 が 衛 星 に 近 づ く と い う こ と は 、円 の 中 心 が 隆 起 し て い る こ と を 示 す 。
・ SAR セ ン サ は 、 斜 め 右 下 に マ イ ク ロ 波 を 照 射 す る た め 、 図 2.7 に 示 し た 干 渉 画 像 は 、
上 下 方 向 の 変 化 を 示 し て い な い 。マ イ ク ロ 波 の 入 射 角 は 、PALSAR で 20 度 ~ 50 度 で
ある。
・地盤沈下の場合は、変動方向が上下成分のみであると仮定することができるため変位
量 を cosθ( θ : 入 射 角 )で 割 る こ と に よ っ て 上 下 成 分 の 変 動 と 見 な す こ と が で き る 。
衛星に近づく
−11.8cm
図 2.6
図 2.7
衛星から遠ざかる
0
+11.8cm
InSAR カ ラ ー サ イ ク ル ( L バ ン ド セ ン サ の 場 合 )
InSAR カ ラ ー サ イ ク ル ( 左 : 沈 下
2 - 18
右:隆起)
(2) 干渉性が低い画像の要因
変位量マップを作成する場合は、右図のように干渉性が高い画像を得る必要がある。
左 図 の 画 像 が 得 ら れ た 場 合 は 、下 記 の 要 因 の 可 能 性 が あ る 。下 記 の 中 で 、「 処 理 過 程 上 、
処理パラメータが誤っている」や「衛星の姿勢情報の精度が低い」ことを要因とする場
合 は 、再 処 理 を 行 う こ と で 、解 決 す る こ と が 可 能 で あ る が 、「 軌 道 間 距 離 が 長 い 」や「 水
域 や 植 生 域 な ど の 地 表 面 の 特 性 が 影 響 し て い る 」場 合 は 、こ の デ ー タ を 元 に DInSAR処 理
を行っても正常な結果は得られない。
また、干渉しない要因が判明しない場合は、その要因を追究するのに多くの労力を要
する可能性があることから、他のデータを選定し直し、再処理を試みることを薦める。
要因
説明
対応方法
処 理 過 程 上 、処 理 パ ラ
処理過程上、設定したパラメ
各処理過程で設定したパラ
メータが誤っている
ータが適正でない場合が想定
メータが妥当であったか確
される。
認を行う。
衛星の姿勢情報の精
軌道情報が誤っている、もし
画像間のマッチング処理が
度が低い
くは精度が低いと干渉しな
精度良く行うことで回避で
い。
き る こ と か ら 、画 像 間 の マ ッ
チングの精度向上を試みる。
軌道間距離が長い
軌道間距離の垂直成分が長い
軌道間距離の垂直成分が短
と干渉性が低下する。
い他のデータ組合せを探す。
水域や植生域などの
干渉に利用した2時期の何れ
干渉に利用した2時期の土
地表面の特性が影響
かが湛水していたり、2時期
地 被 覆 状 態 を 考 慮 し 、他 の デ
している
の季節の違いにより地表面状
ータの組合せを探す。
態が大きく異なる場合は干渉
性が低下する。
2 - 19
(3) 処理上の注意点
① DInSAR 処 理

マッチング処理の精度
マッチング処理の精度が干渉に影響を与えることから、マッチングの精度が高いこ
と が 望 ま れ る 。 画 像 間 の マ ッ チ ン グ に 利 用 す る タ イ ポ イ ン ト 18や 幾 何 変 換 式 は 、 処 理
ソフトウェアの機能で自動的に決定される場合が多い。再配列したスレーブ画像とマ
スタ画像の位置精度は、ソフトウェアの機能を利用して算出可能なケースもあること
から、処理過程上、確認することを薦める。また、マッチング処理で精度が悪い場合
には、処理パラメータを変更するか、手動でタイポイントを取得し、再処理する必要
がある。

マッチング処理のタイポイント
マ ッ チ ン グ 処 理 上 の タ イ ポ イ ン ト は 、で き る だ け シ ー ン 全 体 で 取 得 す る 必 要 が あ る 。
処 理 ソ フ ト ウ ェ ア に お い て 、タ イ ポ イ ン ト に 関 わ る パ ラ メ ー タ が 設 定 で き る 場 合 に は 、
考慮する必要がある。また、手動でタイポイントを取得する際には、画像全体にタイ
ポイントを設定するよう、配慮する必要がある。
② 軌道縞・地形縞の除去
 地形縞と軌道縞の残存
差分干渉画像は、地形縞や軌道縞の除去が適切に施されてないと、その影響が残っ
た画像が生成される。地形縞は、地形に相関が高い縞模様として、軌道縞は画像全体
にわたって一定方向に出現する縞模様であることから、これらの影響が残っていない
かを確認する。地形縞や軌道縞が残っている場合は、地形縞や軌道縞に関わる処理過
程を確認する必要がある。
 軌道の再推定処理
JRES-1等 は 、 高 精 度 な 姿 勢 .情 報 と 軌 道 情 報 が 提 供 さ れ て い な い こ と か ら 、 軌 道 縞
が 残 存 し 易 い 。 そ こ で 、 軌 道 の 再 推 定 処 理 を イ テ レ ー シ ョ ン 処 理 19に よ り 行 い 、 軌 道
情報が収束するまで繰り返すことで、軌道縞を除去することが可能である。利用する
センサによって、提供されている軌道情報の精度が異なることから、必要に応じて軌
道を再推定する。
 大気の影響
差 分 干 渉 画 像 は 、大 気 中 の 水 蒸 気 の 状 態 や 電 離 層 の 影 響 を 受 け る 。水 蒸 気 の 影 響 は 、
鉛直方向の水蒸気分布と水平方向の水蒸気分布に分かれ、鉛直方向の水蒸気分布は大
気の厚さによって左右されることから標高に応じて補正する必要がある。一方、水平
方向の水蒸気分布の違いは、局所的な気象条件によって発生することから、補正が困
難である。
18
19
タ イ ポ イ ン ト : 重 な り あ う 画 像 (本 稿 で は マ ス タ と ス レ ー ブ )の う ち 、 両 者 か ら 明 瞭 に 同
一であると把握できる点をいう。
イ テ レ ー シ ョ ン 処 理:数 値 計 算 に お い て 、解 を 収 束 さ せ る た め に 同 一 の 計 算 を 繰 り 返 す
こと。
2 - 20
 利 用 す る DEMの 違 い
地形縞のシミュレーションに利用する標高データによって、差分干渉画像の地形縞
の除去状況が異なる。標高データによって、解像度、精度が異なることから、地形縞
作成に利用している標高データの特性を理解しておく必要がある。
③位相アンラップ処理
 位相アンラップ処理の処理パラメータ
位相アンラップ処理は、軌道の再推定や差分干渉画像(変動縞の画像)から変位量
を計算する場合に利用する。この処理では、位相が不連続となる場所ではデータ処理
できなく、変位量マップが作成できない事例がある。また、アンラップ処理を施す際
の経路によって解が左右するという、経路依存性がある。位相アンラップ処理の過
程で適切に処理が施されない場合には、処理過程上のパラメータや処理手法を見
直す必要がある。
2 - 21
2.5
処理事例
DInSAR 処 理 を 利 用 し て 地 盤 変 動 を 抽 出 し た 事 例 に 関 し て 、 表 2.5 に 従 っ て 整 理 し た 。
整 理 結 果 を 表 2.6~ 表 2.10 に 示 す 。
① No.
処理事例の番号を示す。
②現象
地盤沈下等の地盤変動の現象を示す。
③対象地域
対象地域を示す。
④ 衛 星 /セ ン サ
DInSAR 処 理 に 利 用 し た 衛 星 /セ ン サ を 示 す 。
⑤波長
利用したセンサの波長を示す。
⑥観測日
2 時期(マスタ・スレーブ)の観測時期を示す。
⑦オフナディア角1
オフナディア角を示す。
⑧軌道間距離
2 時期のデータの軌道間距離を示す。
⑨地盤変動現象の詳細
地盤変動の現象の詳細を示す。
⑩変動縞の画像
差分干渉画像等を示す。
⑪変動縞から得られる知見・解釈
処理結果から得られる知見等を示す。
⑫参考情報
表 2.5
処理事例の整理フォーマット
No.
①
現象
②
対象地域
③
衛 星 /セ ン サ
④
波長
⑤
観測日
⑥
オフナディア角
⑦
基線長
⑧
地盤変動現象の詳細
⑨
変動縞の画像
⑩
図 -1 変 動 縞
変動縞から得られる知見・解釈
⑪
参考情報
⑫
1
オフナディア角:レーダー鉛直直下(ナディア)方向と観測方向とのなす角。なお、入
射角はセンサと地表対象物とを結ぶ直線とその地表面の法線とのなす角である。
2 - 22
表 2.6
山形県山形市を対象とした地盤沈下の処理事例
No.
1
現象
地盤沈下
対象地域
山形県山形市
衛 星 /セ ン サ
JERS-1/SAR
波長
23.5cm
観測日
1992 年 10 月 14 日 vs 1998 年 4 月 30 日
オフナディア角
40 度
軌道間距離
―
地盤変動現象の詳細
山形県山形市では、地下水くみあげによる地盤沈下が生じていることが知られており、
水準測量が定期的に行われている。
変動縞の画像
-2π
( -11.8cm)
図 -1
0
+2π
( +11.8cm)
変 動 縞 画 像 ( 利 用 SW: GAMMA/CCSAR)
変動縞から得られる知見・解釈
図 -1 の 南 部 の 矩 形 内 部 が 山 形 市 北 部 の 地 盤 沈 下 ( 図 -2 と 同 範 囲 ) を 示 す 。 図 -1 の 北 部
の 円 で 囲 ま れ た 地 域 は 、 矢 来 ( 2003) 1996 年 8 月 11 日 に 発 生 し た 地 震 ( M5.9) に よ る
断 層 運 動 で あ る と 発 表 さ れ て い る 。 InSAR 処 理 の 結 果 は 、 水 準 測 量 の 結 果 と 比 べ て 沈 下
量 が 小 さ く 出 て い る が 、変 動 範 囲 の 傾 向 は 一 致 し て お り 、水 準 測 量 で は 捉 え る こ と が で
きない細かな変動も捉えている。
参考情報
図 -2
山形県地盤沈下等高線図
図 -3
( 1998.11-2000.11)
地盤沈下マップ
(位相アンラップ処理)
2 - 23
表 2.7
シンガポールを対象とした地盤沈下の処理事例
No.
2
現象
地盤沈下
対象地域
シンガポール
衛 星 /セ ン サ
ENVISAT
波長
5.6cm
観測日
2003 年 10 月 10 日 vs 2004 年 7 月 16 日
2004 年 2 月 27 日 vs 2004 年 8 月 20 日
オフナディア角
―
軌道間距離
―
地盤変動現象の詳細
シ ン ガ ポ ー ル に お け る 開 削 工 事 に 伴 い 地 盤 沈 下 し て い る 地 域 を 対 象 に 、適 用 性 を 検 証 し
た 。こ の 地 域 で は 、水 準 測 量 を 実 施 し て い る こ と か ら 、DInSAR 処 理 と の 比 較 も 実 施 し た 。
変動縞の画像
図 -1
位相アンラップ処理
図 -2
( 2003/10/10 vs 2004/7/16)
位相アンラップ処理
( 2004/2/27 vs 2004/8/20)
変動縞から得られる知見・解釈
ENVISAT の 地 上 解 像 度 は 約 20m で あ り 、 水 準 測 量 が 実 施 さ れ て い る 地 域 は 、 100m×300m
と 非 常 に 狭 い 範 囲 に あ る 。こ の た め 地 盤 沈 下 の 空 間 的 勾 配 が 大 き い と こ ろ で は 、隣 り 合
う ピ ク セ ル と の 位 相 が 1/2 サ イ ク ル 以 上 に な り 、干 渉 縞 の 連 続 性 が 失 わ れ て い る 。ま た 、
図 -4 は 、支 持 杭 に よ り 沈 下 が 生 じ な い 建 物 の 間 に あ る 地 面 や 道 路 の 水 準 測 量 の 結 果 を 図
示 し て き る が 、 図 -1 や 図 -2 は 沈 下 し て い な い 工 場 も 含 め た デ ー タ 処 理 結 果 と な っ て い
る 。レ ー ダ ー 波 の 大 部 分 が 工 場 の 屋 根 で 散 乱 し て 地 盤 沈 下 が 生 じ て い る 地 面 に レ ー ダ ー
波 が ほ と ん ど 達 し て い な い 可 能 性 が あ り 、建 物 の 密 集 域 で の InSAR 適 用 の 難 し さ を 示 唆
している。
参考情報
図 -3 対 象 地 域
図 -4 水 準 測 量 デ ー タ に よ る 地 盤 沈 下 マ ッ プ ( 2004.2~ 2004.8)
・ 今 西 肇 、 三 尾 有 年 、 小 澤 拓 : InSAR を 利 用 し た シ ン ガ ポ ー ル 地 盤 沈 下 の 評 価
第 41 回 地 盤 工 学 研 究 発 表 会 発 表 講 演 集 、 pp119-120、 2006.6
・ 三 尾 有 年 、 今 西 肇 、 小 澤 拓 : シ ン ガ ポ ー ル 地 盤 沈 下 地 域 に 対 す る InSAR の 適 用 、
第 40 回 日 本 リ モ ー ト セ ン シ ン グ 学 会 学 術 講 演 会 論 文 集 、 pp213-214、 2006.5
2 - 24
表 2.8
韓 国 釜 山 を 対 象 と し た 地 盤 沈 下 の 処 理 事 例 ( 1)
No.
3
現象
地盤沈下
対象地域
韓国 釜山
衛 星 /セ ン サ
ALOS/PALSAR
波長
23.5cm
観測日
2007 年 10 月 31 日 vs 2008 年 3 月 17 日
オフナディア角
―
軌道間距離
―
地盤変動現象の詳細
釜 山 周 辺 地 域 で は 、釜 山 新 港 を 中 核 と し た 沿 岸 域 の 埋 立 て 工 事 が 進 ん で い る 。埋 立 て 工
事 の 施 工 管 理 で は 、土 砂 の 搬 入 量( 地 盤 が 一 時 高 く な る )と 埋 立 て に 伴 う 地 盤 の 沈 下 量
(地盤が沈んでいく)の計測を定期的に実施している。
変動縞の画像
N35 30’
( c) 今 西 、 三 尾
N35
E128 45’
図 -1
E129 15’
位相アンラップ処理
変動縞から得られる知見・解釈
SAR デ ー タ の 観 測 間 隔 が 4 ヶ 月 半 と 短 い た め 、平 野 部 で 小 さ い 地 盤 沈 下 は 確 認 出 来 る が 、
そ れ 以 外 に 特 に 大 き な 変 動 は 見 ら れ な い 。図 -1 の 白 枠 の 範 囲 で は 、沿 岸 域 に 大 規 模 な 埋
立 て 工 事 が 行 わ れ て い る が 、コ ヒ ー レ ン ス が 低 い た め 地 盤 沈 下 の 有 無 が 確 認 で き ず 、現
地 の 状 況 を 正 確 に は 計 測 で き て い な い 。デ ー タ 処 理 の 過 程 は 、軌 道 縞 は 十 分 除 去 で き て
い る こ と が 確 認 で き る が 、地 形 縞 が 全 体 的 に 残 っ て い る 。こ の 位 相 は 、使 用 し て い る DEM
の種類を変えたり、標高を変数とした関数を推定するなどして除去することが望まし
い。
参考情報
図 -2 対 象 地 域
2 - 25
表 2.9
韓 国 釜 山 を 対 象 と し た 地 盤 沈 下 の 処 理 事 例 ( 2)
No.
4
現象
地盤沈下
対象地域
韓国 釜山
衛 星 /セ ン サ
JERS-1/SAR
波長
23.5cm
観測日
1996 年 5 月 2 日 vs 1996 年 10 月 25 日
オフナディア角
―
基線長
135m
地盤変動現象の詳細
釜山周辺地域では、釜山新港を中核とした沿岸域の埋め立て工事が進んでいる。埋め
立て工事の施工管理では、軟弱地盤の圧密沈下管理の計測を定期的に実施している。
そ こ で 、 地 盤 沈 下 計 測 へ の InSAR の 適 用 性 を 確 認 す る た め 、 JERS-1/SAR デ ー タ を 使 用
して周辺地域の沈下解析を行った。
変動縞の画像
( c) 今 西
図 -1
DInSAR 処 理 の 結 果
図 -2
DInSAR 処 理 の GoogleEarth で の 表 示
変動縞から得られる知見・解釈
埋め立て地域以外の沖積平野でも地盤が沈下している地域が認められた。現地踏査に
よ り 実 際 の 沈 下 も 確 か め ら れ た 。 DInSAR の 処 理 結 果 を Google Earth の イ メ ー ジ オ ー
バーレイ機能を利用して、重ね合わせ表示した。処理結果を土地被覆(土地利用)が
把 握 可 能 な 情 報 と 重 ね あ わ せ る こ と で 、沈 下 し た 要 因 を 推 定 す る こ と が 容 易 と な っ た 。
参考情報
Google Earth の 3D 表 示 機 能 を 利 用 す る
ことで、住民説明用資料など行政におけ
る資料としても有効である
2 - 26
表 2.10
桜島を対象とした地盤沈下の処理事例
No.
5
現象
火山の地盤変動
対象地域
鹿児島県 桜島
衛 星 /セ ン サ
TerraSAR-X
波長
3.1cm
観測日
2008 年 2 月 7 日 vs 2008 年 4 月 24 日
オフナディア角
―
基線長
―
地盤変動現象の詳細
2008 年 2 月 に 「 昭 和 火 口 」 か ら 噴 火 活 動 が 始 ま り 、 噴 火 警 戒 レ ベ ル が 2 に 引 き 上 げ ら
れ て い る 。 4 月 3 日 に 弱 い 噴 火 が 起 こ っ た あ と 、 「 爆 発 的 噴 火 」 が 4 月 8 日 か ら 14 日
にかけて何度も起こっている。これらの火山活動に伴い、地盤変動も生じている可能
性が高い。
変動縞の画像
(c )三 尾 、 山 根
(c )三 尾 、 山 根
図 -1
DInSAR 処 理 の 結 果
図 -2
衛 星 方 向 の 変 移 量 ( cm)
変動縞から得られる知見・解釈
桜島の溶岩図の分布を見ると、比較的新しい大正、昭和の溶岩が分布している地域の
干渉性が高く、安永、文明という古い溶岩の地域の干渉性が低いことが分かる。
参考情報
図 -3
桜島溶岩分布図
図 -4
桜島地形図
桜 島 溶 岩 分 布 図 : http://wwwsoc.nii.ac.jp/kazan/J/koukai/01/kobayashi.html
桜 島 地 形 図 : http://www.dpri.kyoto-u.ac.jp/~kazan/sakurajima/sakuramap.jpg
2 - 27
3 . SAR デ ー タ の 処 理 応 用 編
3.1
概要
本 章 で は 、InSAR 処 理 の 経 験 者 で よ り 高 度 な 解 析 を す る 人 向 け に 応 用 編 と し て 、以 下 の
2点についてその検討結果をまとめた。
今 後 、InSAR 処 理 の 作 業 条 件 が 整 い 実 利 用 化 さ れ る こ と を 想 定 し た 場 合 、ど の 項 目 も 最
終的な変動マップを作成する上で精度に大きな影響を与えるため、現時点で十分に議論す
べき課題であると考えている。
(1)2つのソフトウェアによる結果の対比
DInSAR 処 理 を 行 う 上 で 重 要 な 課 題 の 1 つ に 処 理 の 一 貫 性 が あ る 。 他 機 関 が 出 し た 結 果
に対する追試の結果が異なる場合、オペレータの熟練度やソフトウェアのパラメータの違
い な ど さ ま ざ ま な 要 因 が 考 え ら れ る 。 本 報 告 書 で は 、 DInSAR 処 理 に 用 い る 代 表 的 な ソ フ
ト ウ ェ ア で あ る「 SARscape」と「 GAMMA」を 用 い た 処 理 を 試 み 、そ の 結 果 を 対 比 し て み
た。対象地域は、火山活動による変動が期待される桜島を選定し、より細かい変位を捉え
る た め に X バ ン ド の SAR セ ン サ を 搭 載 し た TerraSAR-X デ ー タ を 用 い た 。
(2)コヒーレンスと土地被覆分類図との比較
InSAR 処 理 の 干 渉 性 の 指 標 と し て 軌 道 間 距 離 の 垂 直 成 分 が 良 く 知 ら れ て お り 、 こ の 値
を 元 に 購 入 す る デ ー タ の 選 定 が 行 わ れ る 。 し か し 実 際 に InSAR 処 理 を 行 っ た 結 果 、 地 表
面の状態により干渉性に大きな差が生じて、対象とする場所で干渉しないという場合も存
在する。そこで本研究では、土地被覆と干渉性の関係を明らかにするため、茨城県日立市
に お け る 土 地 被 覆 分 類 と PALSAR デ ー タ に よ る コ ヒ ー レ ン ス マ ッ プ と の 比 較 を 行 っ た 。
3 - 1
3.2
ソフトウェアと解析結果
2 章 で 述 べ た 事 前 準 備 の 中 で 、 ユ ー ザ が 使 用 す る DInSAR処 理 ソ フ ト ウ ェ ア を 取 り 上 げ
る。ここでは市販の入手しやすいソフトウェアを対象にし、読者が解析する際の参考にな
るように、処理手順および結果をまとめる。
3 .2 .1
処理ソフトウェア
以 下 で は 、「 SARscape」 と 「 GAMMA」 に つ い て 、 特 徴 を ま と め る 。
( 1 )「 SARscape」
①特徴
「 SARscape」 は 、 SAR 画 像 の 解 析 用 に 特 化 し た パ ッ ケ ー ジ ソ フ ト ウ ェ ア で あ り 、 イ
ンターフェロメトリ、ポラリメトリ解析などの処理が可能である。
主 要 な 航 空 機 や 衛 星 の SAR セ ン サ( ERS-1/2、JERS-1、SIR-C/X-SAR、RADARSAT1/2、
ENVISAT ASAR、ALOS/PALSAR 、TerraSAR-X、CosmoSkymed)に も 対 応 し て お り 、
リ モ ー ト セ ン シ ン グ の 画 像 解 析 ソ フ ト ウ ェ ア で あ る ENVI 1 の GUI 環 境 下 で 起 動 さ せ る
こ と が で き る た め 、 SAR 解 析 の み な ら ず 画 像 処 理 、 演 算 な ど を 行 う こ と も で き る 。
②ソフトウェアの構成
下 記 の 7 つ か ら な る 。 DInSAR 処 理 に は 、 Basic と Interferometry が 必 要 と な る 。
・ Basic
・ Focusing
・ Gamma & Gaussian Filter
・ Interferometry( InSAR/DInSAR)
・ ScanSAR Interferometry
・ SAR Polarimrtry & Polarimetric Interferometry
・ Interferometry Stacking (PS/SBAS)
( 2 )「 GAMMA」
①特徴
「 GAMMA」は 、SAR 画 像 の 解 析 用 に 特 化 し た パ ッ ケ ー ジ ソ フ ト ウ ェ ア で あ り 、InSAR
処 理 、 DEM の 作 成 、 変 位 量 マ ッ プ の 作 成 、 ポ イ ン ト タ ー ゲ ッ ト マ ッ プ の 作 成 な ど が 可
能 で あ る 。ま た 、主 要 な 航 空 機 や 衛 星 の SAR セ ン サ( ERS-1/2、JERS-1、SIR-C/X-SAR、
RADARSAT1/2、 ENVISAT ASAR、 ALOS/PALSAR 、 TerraSAR-X、 CosmoSkymed)
にも対応している。
す べ て の ソ フ ト ウ ェ ア は ANCI-C で 書 か れ て お り 、CUI コ マ ン ド で 動 作 す る 。こ の た
め 基 本 的 に は ANCI-C が コ ン パ イ ル で き る 環 境 で あ れ ば ど の マ シ ン で も イ ン ス ト ー ル
可 能 で あ る 。( 注 意 : Windows の Cygwin 環 境 で 一 部 ラ イ ブ ラ リ に 対 応 し て お ら ず 、 リ
1
ENVI:米 国 ITTVIS 社 が 開 発 す る リ モ ー ト セ ン シ ン グ ソ フ ト ウ ェ ア で あ り 、世 界 中 で 幅
広 く 利 用 さ れ て い る 。SARScape を 利 用 す る に は ENVI を イ ン ス ト ー ル す る 必 要 が あ る 。
3 - 2
ンクが効かないなどの不具合はあるが、ハードコピーをすれば問題なく動作する)
ま た 、各 自 の プ ロ グ ラ ム が 独 立 し て い る た め 、独 自 で 開 発 し た プ ロ グ ラ ム を 入 れ た り 、
データを置き換えたりする自由度は高い。
②ソフトウェアの構成
以 下 の 6 つ か ら な る 。 DInSAR 処 理 で 必 要 な る も の は 、 干 渉 SAR プ ロ セ ッ サ 、 差 分
干渉およびジオコーディングの各ソフトウェアである。
・ モ シ ュ ー ル 型 SAR プ ロ セ ッ サ (MSP)
・ 干 渉 SAR プ ロ セ ッ サ (ISP)
・ 差 分 干 渉 お よ び ジ オ コ ー デ ィ ン グ ソ フ ト ウ ェ ア (DIFF&GEO)
・ ラ ン ド ア プ リ ケ ー シ ョ ン ツ ー ル (LAT)
・ ジ オ コ ー デ ィ ン グ お よ び 画 像 登 録 ソ フ ト ウ ェ ア (GEO)
・ 干 渉 ポ イ ン ト タ ー ゲ ッ ト 解 析 (IPTA)
3 - 3
3 .2 .2
処理手順
( 1 )「 SARscape」
DInSAR 処 理 の 手 順 を 図 3.1 の 処 理 手 法 の 全 体 フ ロ ー に 示 す 。 下 記 に 処 理 概 要 を ま と め
る。
ま ず Basic モ ジ ュ ー ル に て 、1 組 の SLC(Single-Look Complex)デ ー タ を イ ン ポ ー ト す る 。
Raw デ ー タ か ら の 処 理 は Basic モ ジ ュ ー ル に 含 ま れ て い な い た め 、Focus モ ジ ュ ー ル に て
SLC を 生 成 す る 必 要 が あ る 。以 後 に Interferometry モ ジ ュ ー ル に て 行 う 処 理 を ま と め る 。
な お こ の モ ジ ュ ー ル で は 2 か ら 4 パ ス ま で の DInSAR 処 理 が 可 能 と な っ て い る 。
衛 星 の 軌 道 情 報 か ら 、軌 道 間 距 離 (ベ ー ス ラ イ ン 長 )、2 π 相 当 の 高 さ 、レ ン ジ ・ ア ジ マ
ス方向のドリフトを計算する。次に、初期干渉画像を生成する(レンジ・アジマス方向の
ド リ フ ト も 自 動 的 に 修 正 さ れ る 。レ ン ジ 方 向 の ル ッ ク 数 を 入 力 す る こ と が で き る )。そ し て 、
軌 道 縞 の 除 去 を 行 っ た 後 ( 楕 円 体 高 を 参 照 す る た め に 外 部 の DEM を 自 動 的 に イ ン ポ ー ト
し て 参 照 す る )、フ ィ ル タ リ ン グ 処 理 を 施 し 、ノ イ ズ 除 去 後 の 地 形 縞 画 像 、コ ヒ ー レ ン ス (幾
何 投 影 前 )を 生 成 す る 。 さ ら に 位 相 ア ン ラ ッ プ 処 理 を 実 施 す る 。 そ し て ユ ー ザ が 用 意 し た
GCP (5 点 以 上 が 望 ま し い )を 用 い て 、 画 像 の 位 置 情 報 の 修 正 を 行 っ た 上 で 、 生 成 し て い る
軌 道 縞 除 去 後 の 変 動 画 像 (フ ィ ル タ 済 み 、位 相 ア ン ラ ッ プ 済 み )よ り 、再 度 軌 道 縞 を 厳 密 に
除去する。最後に幾何補正済み変動量やコヒーレンスのプロダクトを生成する。
「 SARscape」 で 作 成 し た 全 て の ア ウ ト プ ッ ト は ENVI と 同 様 の 表 示 、 解 析 、 出 力 が 可 能
となっている。
SLCデータおよびリーダファイル
Basicモジュール
データのインポート
Interferometry
モジュール
初期干渉画像の作成
・軌道間距離推定
・レンジ、アジマス方向のドリフトの自動修正
初期干渉画像
強度画像
位相アンラッピング
・外部DEMによる軌道縞の除去
・フィルタリング
・コヒーレンス推定
・様々な手法を併せた位相アンラッピング処理
地形縞
変動縞
変位量マップの作成
・GCPを用いた位置情報の修正
・軌道縞の厳密除去
・幾何補正済み変位量マップの作成
変位量マップ
コヒーレンス
1
図 3.1
「 SARscape」 InSAR 処 理 フ ロ ー
3 - 4
( 2 )「 GAMMA」
DInSAR 処 理 の 手 順 を 図 3.2 の 処 理 手 法 の 全 体 フ ロ ー に 示 す 。 処 理 概 要 を 以 下 に ま と め
る。
① InSAR 処 理 ( ISP)
干 渉 プ ロ セ ッ サ( ISP)に よ り 、デ ー タ 処 理 ア ー カ イ ブ セ ン タ が 供 給 し て い る SLC デ
ー タ 、も し く は 「 GAMMA」 MSP が 処 理 し た SLC デ ー タ か ら 、初 期 干 渉 画 像 を 作 成 す
る。衛星の軌道データからの軌道間距離推定、干渉画像ペア間の高精度の重ね合わせ、
二次干渉画像作成(軌道縞を除去した画像のこと)、コヒーレンス推定、平板地球モデ
ルで予想される位相トレンドの除去、干渉画像の適合フィルタを用いた位相アンラップ
処 理 、 GCP を 用 い た 干 渉 軌 道 間 距 離 の 精 密 推 定 、 標 高 の 導 出 、 画 像 の 調 整 お よ び 干 渉 縞
の補間、以上の作業は独立したモジュールが行っている。
作 成 さ れ た デ ー タ の 表 示 は 、表 示 プ ロ グ ラ ム と 汎 用 フ ォ ー マ ッ ト 画 像( SUN ラ ス タ フ
ァ イ ル 、 BMP 形 式 ) を 作 成 す る プ ロ グ ラ ム が 用 意 さ れ て い る 。
② DinSAR 処 理 ( DIFF)
差 分 干 渉 プ ロ セ ッ サ ( DIFF) に よ り 、 干 渉 し た 位 相 に 含 ま れ る 地 表 の 地 形 の 影 響 ( 地
形縞)と衛星の軌道の違いによる縞(軌道縞)を初期干渉縞から取り除き、変位量マッ
プ を 作 成 す る 。 地 形 に 関 係 し た 位 相 は 、 従 来 の 差 分 干 渉 SAR 手 法 は も ち ろ ん 、 3 つ 以 上
の デ ー タ を 使 う 3 パ ス も し く は 4 パ ス 法 に よ っ て 除 去 す る こ と も 可 能 で あ り 、DIFF で は 、
さまざまな方法によるアプローチがサポートされている。
SLCデータおよびリーダファイル
前処理、品質管理および画像の共同登録
干渉SARプロセッサ
DIFF & GEO
ソフトウエア
初期干渉画像の作成
・フリンジレートおよび登録オフセットから軌道間距離推定オプション
・レンジおよびアジマスの共通スペクトルバンドフィルタ
・コヒーレンス推定
初期干渉画像
強度画像
コヒーレンス
位相アンラッピングおよび標高マップの作成
・干渉画像の適合フィルタオプション
・ブランチカットアルゴリズムを用いた位相アンラッピング
・標高コントロールポイントを用いた精密な軌道間距離モニタリング
地形縞
変動縞
変位量マップの作成
・解像度の設定
・SAR⇒地図、地図⇒SARへの座標変換
変位量マップ
コヒーレンス
1
図 3.2
「 GAMMA」 InSAR処 理 フ ロ ー
3 - 5
3 .2 .3
処理結果
ここでは桜島の画像を使用した処理結果をまとめる。
(1)対象サイトと使用データ
桜 島 ( 図 3.3) を 対 象 サ イ ト と す る 。
図 3.3
桜島地形図
< http://www.dpri.kyoto-u.ac.jp/~kazan/sakurajima/sakuramap.jpg>
( 最 終 ア ク セ ス 2011 年 11 月 11 日 )
使 用 し た の は 2008年 2月 7日 と 2008年 4月 24日 の TerraSAR-Xデ ー タ で あ り 、 プ ロ ダ ク ト
タ イ プ は SSC(Single-look Slant-range Complex)で あ る 。 表 3.1に デ ー タ 諸 元 を 示 す 。
3 - 6
表 3.1
TerraSAR-Xデ ー タ デ ー タ 諸 元
マスター観測年月日
2008年 2月 7日
スレーブ観測年月日
2008年 4月 24日
期間
77日
プロダクト種別
Single-look Slant-range Complex(SSC)
昇降
Descending
解 像 度 (SlantRange)
1.176m
マスター画像のピクセル数
8539
マスター画像のライン数
10160
左上経度
130.608215
左上緯度
31.636055
右下経度
130.709961
右下緯度
31.522974
( 2 ) DInSAR処 理 結 果
①初期干渉画像および地形縞画像
「 SARscape」と 「 GAMMA」で 処 理 し た 結 果 を 図 3.4と 図 3.5に そ れ ぞ れ 示 す 。(a)は 、
2 時 期 の 位 相 差 を 求 め た 初 期 干 渉 画 像 、(b)は 初 期 干 渉 画 像 か ら 軌 道 縞 成 分 を 除 去 し た 地
形 縞 画 像 で あ る 。ど ち ら の 結 果 も 2 つ の ソ フ ト ウ ェ ア に よ っ て 作 成 さ れ た 位 相 画 像 の 傾
向 は 一 致 し て い る こ と が 分 か る 。 図 3.6に 示 す 桜 島 の 溶 岩 図 の 分 布 を 見 る と 、 比 較 的 新
し い 大 正 、昭 和 の 溶 岩 が 分 布 し て い る 地 域 の 干 渉 性 が 高 く 、安 永 、文 明 と い う 古 い 溶 岩
の地域の干渉性が低いことが分る。
3 - 7
(a) 初 期 干 渉 画 像
図 3.4
(b)地 形 縞 画 像
干 渉 画 像 (「 SARscape」)
(a) 初 期 干 渉 画 像
図 3.5
(b)地 形 縞 画 像
干 渉 画 像 (「 GAMMA」)
3 - 8
図 3.6
桜島溶岩分布図
< http://wwwsoc.nii.ac.jp/kazan/J/koukai/01/kobayashi.html>
( 最 終 ア ク セ ス 2011 年 11 月 11 日 )
②変動縞画像
「 SARscape」お よ び「 GAMMA」に よ り 、上 記 の 地 形 縞 画 像 か ら DEM を 用 い て 地 形
成 分 を 取 り 除 い た 変 動 縞 画 像 を 図 3.7 と 図 3.8 に そ れ ぞ れ 示 す 。 ど ち ら の 結 果 も 軌 道 縞
は 除 去 で き て い る た め 処 理 自 体 は 正 常 に 終 了 し て い る と 考 え ら れ る が 、標 高 の 違 い に よ
って出現する地形縞が残存している。
3 - 9
図 3.7
図 3.8
変 動 縞 画 像 (「 SARscape」)
変 動 縞 画 像 (「 GAMMA」)
3 - 10
③変動縞画像の残差成分
図 3.9 に DInSAR 処 理 画 像 の 残 差 位 相 概 念 図 を 示 す 。 (a)が 観 測 位 相 で あ り 、 こ こ に
は 軌 道 縞 、地 形 縞 、変 動 縞 が す べ て 含 ま れ て い る 。軌 道 情 報 か ら 軌 道 縞 を 推 定 し た も の
が (b)で あ る 。 (a)か ら (b)を 除 去 し た も の が (c)の 地 形 縞 断 面 と な る 。 DEM か ら 地 形 縞 を
シ ミ ュ レ ー ト し た も の が (d)で あ る 。 (c)か ら (d)を 除 去 し た も の が 変 動 縞 と な る 。
軌 道 情 報 が 正 確 で 処 理 が 正 常 で あ れ ば 問 題 の な い 結 果 が 得 ら れ る が 、実 際 の 軌 道 情 報
には誤差が含まれているため、以下のような4つのケースに分離出来る。
ケ ー ス 1 : (a) に 変 動 成 分 が 含 ま れ て い な い 場 合 、結 果 は (e)の よ う に 平 坦 な 位 相 が 得 ら
れる。
ケ ー ス 2 : (a)に 変 動 成 分 が 含 ま れ て い る 場 合 、 (g)の よ う に 変 動 し た 部 分 の み 位 相 の 変
化が現れる。
ケ ー ス 3 : 地 形 縞 の 除 去 が 不 十 分 な 場 合 、 (f)の よ う に 標 高 に 比 例 し た 位 相 が 得 ら れ る 。
ケ ー ス 4:軌 道 推 定 に 失 敗 し た 場 合 、(h)の よ う に 傾 向 面 と 地 形 成 分 が 残 っ た 位 相 と な る 。
図 3.7 と 図 3.8 で 現 れ た 地 形 縞 は 、 ケ ー ス 3 に 該 当 す る 。 な お ケ ー ス 4 の 場 合 な ら ば
軌 道 の 再 推 定 を 行 え ば 改 善 す る 可 能 性 も あ る 。ケ ー ス 3 の 軌 道 推 定 は 正 常 で 地 形 縞 に 問
題 が あ る 場 合 は 、 よ り 精 度 の よ い DEM を 使 用 す る 、 ま た は 地 形 縞 を 補 正 す る 等 の 対 応
が必要である。
こ こ で は 「 GAMMA」 の 処 理 結 果 に 対 し て 、 地 形 縞 の 補 正 を 施 し た 結 果 を 示 す 。 地 形
縞残差位相と地形が線形な関係にあると仮定して、一次近似を行った。この結果が図
3.10 で あ り 、 こ れ を 図 3.7 に 対 し て 補 正 し た 、 変 動 縞 画 像 ( 地 形 縞 除 去 ) が 図 3.11 で
あ る 。図 3.11 は 、図 3.7 と 比 較 し て 高 さ 方 向 の 位 相 は 補 正 さ れ て い る が 、一 次 近 似 で あ
る た め 山 頂 付 近 に 高 さ 方 向 の 位 相 が 残 っ て い る こ と が 確 認 で き る 。 図 3.11 の 位 相 デ ー
タ を 衛 星 方 向 の 変 位 量 ( cm) に 変 換 し た も の が 図 3.12 で あ る 。 こ れ を 見 る と 、 島 全 体
で も 変 位 量 は ±1 cm 程 度 で あ る こ と が わ か る 。
(3)結論
「 SARscape」お よ び「 GAMMA」を 使 っ て 同 じ 場 所 の 同 じ デ ー タ の 差 分 干 渉 処 理 を 行 い 、
変 位 量 マ ッ プ を 作 製 し た 。異 な る ソ フ ト ウ ェ ア で 処 理 し た に も 関 わ ら ず 、両 者 の 結 果( 図
3.7、3.8)は 、干 渉 の 状 態 も 変 動 量 の 傾 向 も 一 致 し て い る 。今 回 の よ う に 干 渉 状 態 の 良 い
データでは、異なるソフトを使用しても同じ結果が得られることを確認した。
3 - 11
(a) InSAR観 測 位 相 断 面 図
(b) シ ミ ュ レ ー ト し た
(c) 地 形 縞 断 面 図
軌道縞断面図
結果
(e) 変 動 縞 断 面 ( 変 動 な し )
(f) 変 動 縞 断 面 ( 地 形 縞 残 存 )
(d) シ ミ ュ レ ー ト し た
地形縞断面図
(g) 変 動 縞 断 面( 変 動 あ り )
図 3.9
(h) 変 動 縞 断 面( 軌 道 推 定 失 敗 )
DInSAR 処 理 画 像 の 残 差 位 相 概 念 図
3 - 12
図 3.10
図 3.11
地形縞残存成分
変動縞画像(地形縞除去)
3 - 13
衛 星 に近 づく
[cm]
衛星から遠ざかる
図 3.12
最 終 的 な DInSAR 処 理 結 果
3 - 14
3.3
コヒーレンスによる土地被覆分類
3.3.1
概要
SAR は 全 天 候 型 の ア ク テ ィ ブ セ ン サ で あ り 、雲 の 有 無 に 関 わ ら ず 撮 影 可 能 で あ る 。し か
し 、 2 つ の SAR 画 像 を 干 渉 さ せ る InSAR 処 理 は 軌 道 間 距 離 や 撮 影 間 隔 な ど の 要 素 が 介 在
す る こ と か ら 、無 条 件 で 全 て の デ ー タ が 有 効 利 用 で き る の で は な い 。InSAR 処 理 の 干 渉 性
を 判 断 す る 一 つ の 指 標 と し て 2 時 期 の SAR 画 像 の 相 関 を 意 味 す る コ ヒ ー レ ン ス が あ る 。一
般 的 に コ ヒ ー レ ン ス が 高 け れ ば 位 相 の 連 続 性 が 高 く 、 変 動 マ ッ プ や DEM の 生 成 が 容 易 と
なる。
今 後 SAR の 高 ス ペ ッ ク 化 が 進 み 実 利 用 化 が 促 進 さ れ る と 、 さ ま ざ ま な ユ ー ザ に よ っ て
多 様 な 場 所 の 変 動 情 報 の 要 求 が 行 わ れ る 可 能 性 が あ る 。こ う し た 状 況 を 想 定 し た 場 合 に は 、
現段階でどのような場所でどの程度のコヒーレンス値となっているかを把握しておくこと
が重要である。
そ こ で 、本 検 討 で は 、地 形 の 起 伏 が 多 様 で あ る 茨 城 県 常 陸 太 田 市 を 対 象 と し て 、PALSAR
により取得された合成開口レーダデータより作成されるコヒーレンス画像と地形との関係
を定性的に比較した後に、グランドトゥルースが充実している点を考慮し茨城県東海村を
対象として光学センサより作成する土地被覆分類図の分類項目毎にコヒーレンスの値を比
較することとした。
3.3.2
データの諸元
使 用 し た SAR デ ー タ は 、 ALOS/PALSAR で あ る 。 本 研 究 で は 、 異 な る 2 時 期 の デ ー タ
よ り コ ヒ ー レ ン ス 値 を 取 る た め に 、マ ス タ ー と し て 2007 年 8 月 29 日 観 測 取 得 の デ ー タ (偏
波 : HH、 オ フ ナ デ ィ ア 34°)を 、 ス レ ー ブ と し て 2008 年 7 月 16 日 観 測 取 得 の デ ー タ (偏
波 : HH: オ フ ナ デ ィ ア 34°)を 準 備 し た 。次 に 、土 地 被 覆 分 類 図 の 作 成 に は 、光 学 セ ン サ
の 代 表 的 デ ー タ で あ る EOS-Terra/ASTER の 可 視 -近 赤 外 デ ー タ を 準 備 し た 。観 測 取 得 日 は
2005 年 5 月 11 日 で あ り 、 国 土 地 理 院 発 行 数 値 地 図 25000 を 基 準 と し た GCP を 用 い る 精
密 幾 何 補 正 を 施 し て い る 。 空 間 分 解 能 は 両 デ ー タ と も に 15(m)で あ る 。
また、地形の把握や出力画像の位置把握を容易にするための援用情報として国土地理院
数 値 地 図 25000(数 値 地 図 )お よ び JMC-Map を 準 備 し た 。
3.3.3
解析手順と解析対象
(1)解析手順
解 析 の 手 順 は 図 3.13 に 示 す 通 り で あ る 。 検 討 は 大 き く 2 つ の ス テ ー ジ に 分 か れ て い る 。
ま ず 、 地 形 図 と コ ヒ ー レ ン ス 値 を 比 較 し 、 起 伏 や 特 徴 的 被 覆 (水 域 な ど )と の 関 係 を 定 性 的
に把握する。そこで得られた仮説をもとに、次のステージでは土地被覆分類図の分類項目
毎にコヒーレンス値を集計し、定量的にコヒーレンス値の傾向を把握するものである。
(2)対象領域と使用データ
対 象 領 域 は 茨 城 県 常 陸 太 田 市 お よ び 東 海 村 と し た (図 3.14)。 常 陸 太 田 市 は 、 市 街 中 心 部
を挟むように、東西に山地が分布している。また市街地南部には田や河川があり、起伏と
の関係や被覆のうち、水分量との関係を考察する上で有用な被覆状況を示す領域となって
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いる。続いて東海村であるが、村の西部は那珂台地と呼ばれる台地の東の辺縁部になって
おり、谷内田が多く分布している。このため、台地辺縁部の傾斜は急崖を呈しており、斜
面 緑 地 が 多 く 分 布 し て い る 。一 方 、村 の 北 部 は 一 級 河 川 で あ る 久 慈 川 が 東 に 流 下 し て い る 。
久慈川は激甚災害河川に指定された経緯があり、右岸・左岸ともに、大規模な堤防で堤内
外が仕切られた構造をしている。このため、堤防上に繁茂する草地などの評価には極めて
適した被覆状況にある。村の東部は太平洋である。この沿岸部には原子力関連機関が広大
な敷地を使用している。このため、久慈川河口部の日立港を含めて、工場の被覆を扱うこ
とが可能であり、沿岸域には砂浜もある。特に、日立港の防波堤近傍には漂砂の堆積地点
があるため、このような変化の激しい被覆がコヒーレンス値にどのように反映されるのか
を確認する上で興味深い被覆となる。
START
地形図と強度画像・コヒーレンス画像との比較
(地形や土地被覆とレーダ画像との関係の概要を把握する)
地形特性と強度画像・コヒーレンス画像との比較
土地被覆と強度画像・コヒーレンス画像との比較
まとめ
・特徴的な地形特性を良く表現しているレーダ画像?
・土地被覆分類では細分化できない「何」を表現しているか?
END
図 3.13
解析の流れ
処 理 の メ イ ン と な る 茨 城 県 東 海 村 の 様 子 を 図 3.14 に 示 す 。
図 3.14
メ イ ン と な る 対 象 領 域 (茨 城 県 東 海 村 )
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3.3.4
コヒーレンス処理
コ ヒ ー レ ン ス は DInSAR 処 理 の 中 間 生 成 物 で あ り 、 2 時 期 の SAR 画 像 の 相 関 を 意 味 す
る 。こ の た め 基 本 的 に は コ ヒ ー レ ン ス が 高 け れ ば 位 相 の 連 続 性 が 高 く 、変 動 マ ッ プ や DEM
の生成が容易となる。コヒーレンスをシーン内で大きく区分してそのコヒーレンス値につ
いて研究した事例は存在するが、土地被覆分類図と比較してコヒーレンスと表面特性との
関係を示し、その後の干渉処理の指標として使われている研究は見あたらない。
本研究で使用したコヒーレンス画像は、まず強度画像を、マスターおよびスレーブの双
方 の デ ー タ よ り 作 成 し 、 ウ ィ ン ド サ イ ズ ( 3×3) (Pixel)の 相 関 を 計 算 し た 。 こ の 相 関 係 数
がコヒーレンス値となる。
3.3.5
コヒーレンス値と地形の関係
図 3.15 に 常 陸 太 田 市 の コ ヒ ー レ ン ス 画 像 を 、 図 3.16 に 東 海 村 の コ ヒ ー レ ン ス 画 像 を 示
し た 。2 つ の 画 像 と も に 、国 土 地 理 院 発 行 数 値 地 図 25000 を オ ー バ ー レ イ し て あ る 。画 像
よ り 、 家 屋 が 分 布 す る 市 街 地 と 、 山 間 部 (植 生 に 覆 わ れ て い る )が 明 瞭 に 区 分 さ れ て い る こ
と が わ か る 。市 街 地 で は コ ヒ ー レ ン ス 値 の 明 度 が 高 い 、つ ま り 2 時 期 間 の SAR 画 像 の 相 関
が高いことになる。このことは2時期間で被覆に顕著な変化がないことを示している。
続いて河川低水路に着目する。河川については、判読は難しいことがわかる。
次 に 、 等 高 線 と コ ヒ ー レ ン ス 画 像 を 比 較 す る と 、 等 高 線 が 密 な 領 域 (=地 形 変 化 が 激 し い
地 域 )で は 、 画 像 の 強 度 が 低 く 現 れ て い る 。 崖 部 は 森 林 で あ り 、 河 川 近 傍 の 田 畑 を 含 め て 、
植生が分布する領域のコヒーレンス値は低くなる傾向が見られる。
図 3.15
コ ヒ ー レ ン ス 画 像 + 地 形 図 (国 土 地 理 院 発 行 数 値 地 図 25000: 常 陸 太 田 市 )
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図 3.16
3.3.6
コ ヒ ー レ ン ス 画 像 + 地 形 図 (国 土 地 理 院 発 行 数 値 地 図 25000:東 海 村 )
土地被覆分類図
(1)土地被覆分類図の作成
土 地 被 覆 分 類 図 は 、教 師 付 き 2 最 尤 法 に よ っ て 作 成 し た 。分 類 項 目 は 対 象 領 域 を 代 表 す る
「 海 1 ・ 海 2 ・ 河 川 ・ 工 場 ・ 砂 浜 ・ 芝 地 ・ 田 ・ 畑 ・ 宅 地 ・ 樹 林 」 の 10 項 目 を 設 定 し た 。
ト レ ー ニ ン グ エ リ ア は 図 3.17 に 示 す 代 表 的 な 教 師 エ リ ア を 地 形 図 お よ び 茨 城 大 学 の 現 地
調 査 に よ り 選 定 し 、抽 出 し た 。な お 、分 類 に 使 用 し た 観 測 波 長 帯 は 可 視 -近 赤 外 の 3 バ ン ド
の デ ー タ で あ る 。分 類 結 果 を 図 3.18 に 示 す 。ト レ ー ニ ン グ エ リ ア の デ ー タ に 着 目 し た 精 度
評 価 (Overall Accuracy)で は 、 88.6(%)を 示 し 、 解 析 者 の 目 視 判 読 結 果 を 加 味 し て 概 ね 良 好
な分類結果であると判断した。この後に、分類結果のスムージング処理として凝集と選別
の処理を施し、ゴマ塩状に散布する孤立した分類画素を近隣の分類項目に吸収させること
で 平 滑 化 さ れ た 分 類 図 を 得 た 。 結 果 を 図 3.19 に 示 す 。
図 3.17
2
選定したトレーニングエリア
図 3.18
分類結果
教 師 付 き (分 類 ): 衛 星 デ ー タ の 観 測 値 か ら 地 表 面 の 被 覆 を 分 類 す る 場 合 、 す で に 分 類 項
目(市街地、水部、耕作地、森林等)が既知である領域がある場合に、その領域をトレ
ー ニ ン グ エ リ ア (教 師 )し て 設 定 す る 手 法 。
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凡例
東海分類図_poly_040511
GRIDCODE
未分類画素
海(1)
海(2)
河川
工場
砂浜
芝地
田
畑
宅地/市街地
樹林
図 3.19
分類項目数を統合した後の土地被覆分類図
(2)分類項目ごとに集計したコヒーレンス値
凡 例 項 目 ご と の コ ヒ ー レ ン ス 値 (平 均 )
は 表 3.2 に 示 す 形 で あ っ た 。 植 生 に 関 連 す る 被
覆項目のコヒーレンス値は低い傾向にあるものの、工場や宅地の値は大きな値を示してい
な か っ た 。こ の 点 に つ い て WG メ ン バ ー で 確 認 お よ び 議 論 を 行 っ た 結 果 、分 類 結 果 の 不 安
定 性 (100(%)の 分 類 で は な く 、 誤 分 類 を 含 む 被 覆 分 類 で あ る こ と )に よ っ て 、 特 に 、 他 の 被
覆との境界部である辺縁部分のコヒーレンス値を統計に盛り込んでしまっていることが考
えられる。このため、土地被覆分類図を援用情報として、高解像度衛星画像を用いて判読
によって各被覆のピュア領域を抽出し、その領域に該当するコヒーレンス値の統計量を比
較 す る こ と に し た 。 図 3.20 に 示 す コ ヒ ー レ ン ス 値 を 参 照 す る と 、「 宅 地 」 お よ び 「 工 場 」
といった年度間で被覆変化があまり見られない構造物関係についてはコヒーレンスが大き
い値を示すことが確認された。
表 3.2
分類結果全領域を対象としたコヒーレンス値の平均値
分類項目
コヒーレンス値
樹林
0.238
芝地
0.205
田
0.214
畑
0.272
砂浜
0.279
宅地
0.420
工場
0.383
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図 3.20
3.3.7
再選定したエリア内のコヒーレンス値の統計
結論
光 学 画 像 よ り 得 ら れ た 土 地 被 覆 分 類 図 を 基 に 、土 地 被 覆 と DInSAR 処 理 で 得 ら れ る 中 間
生成物であるコヒーレンスの関係を評価した。その結果、2時期間での被覆変化が少ない
工 場 -宅 地 な ど の 被 覆 で は 、強 度 画 像 の 相 関 で あ る コ ヒ ー レ ン ス 値 は 大 き い 値 を し た 。一 方
で 季 節 や 年 毎 の 気 象 に よ っ て 生 育 状 況 の 変 わ る 耕 作 地 (田 ・ 畑 )や 芝 地 で は 、 コ ヒ ー レ ン ス
値が小さい値であった。今回の検討で対象とした樹林は経年的に手入れがなされてきた被
覆である。しかし、生育状況の違いと推察される原因でコヒーレンス値は小さい値を示し
た。
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【ワーキング報告書作成メンバー】
伊 東 明 彦( 宇 宙 技 術 開 発 )、黒 台 昌 弘( 安 藤 ハ ザ マ )、桑 原 祐 史( 茨 城 大 学 )、齋 藤 亮( 日
本 電 気 )、 野 中 崇 志 ( パ ス コ )、 三 尾 有 年 ( NTT デ ー タ CCS)
【ワーキングメンバー】
伊 東 明 彦 ( 宇 宙 技 術 開 発 )、 今 西 肇 ( 東 北 工 業 大 学 )、 小 澤 拓 ( 防 災 科 学 技 術 研 究 所 )、
黒 台 昌 弘( 安 藤 ハ ザ マ )、桑 原 祐 史( 茨 城 大 学 )、齋 藤 亮( 日 本 電 気 )、野 中 崇 志( パ ス
コ )、 三 尾 有 年 ( NTT デ ー タ CCS)、 山 内 叔 人 ( 地 域 地 盤 環 境 研 究 所 )、 山 根 尚 文 ( 元
パ ス コ )、 故
藤田圭一、故
福山俊郎
平 成 25 年 11 月 1 日
発行
(一社)日本リモートセンシング学会
国土防災リモートセンシング研究会
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