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特集
難燃樹脂材料の開発
Development of Flame-retardant Polymer
要
旨
オフィスで用いられる複写機及びプリンターに使
用されているプラスチック材料は、火災予防のために
難燃材料が用いられている 1) 。しかし、昨今、廃電気
電子機器指令(WEEE)及び電気電子機器に含有する
有害物制限指令(RoHS)において難燃剤に対する環
2)
境規制 が進みつつあることから、本研究では、環境
負荷が小さく、なおかつ、複写機部材として使用可能
な機械的特性を持つ高性能難燃樹脂材料開発の検討
を試みた。一般的な難燃剤の難燃効果を難燃機構別に
3)
検証した 。その結果、環境負荷の小さいと予想され
るノンハロゲン・ノンリン系難燃剤は、単独では従来
から使用されているハロゲン・リン系難燃剤より難燃
性能が劣ることが分かった。そこで、我々は、ノンハ
ロゲン・ノンリン難燃剤の中でも比較的難燃効果のあ
るものを組合せることで、少量添加で高難燃性を示す
難燃系を見出し、実用化に向けて検討中である。
Abstract
For enclosure covers of multifunction machines and printers
used in offices, materials that possess high flame retardancy
are applied to avoid a fire. On the other hand, several kinds of
flame-retardants are restricted by rules and regulations such as
Waste Electrical and Electronic Equipment (WEEE) and
Restriction of Hazardous Substances (RoHS). Therefore, in
response to increased demand for an environmentally safe,
mechanically strong resin, which could be used in multifunction
machines, we embarked on the development of a novel
flame-retardant resin that includes neither halogens nor
phosphates. In general, flame-retardants are categorized into
three types by their flame-retarding mechanisms: radical
trapping, char forming, and endothermic dilution. We observed
the properties of each type, and the result showed that
non-halogen, non-phosphorous types, which are believed to be
safer for environment, have less effect retarding fire than the
執筆者
halogen or phosphorus types. Thus, we adopted combinations
大越 雅之 (Masayuki Okoshi)
三上 正人 (Masato Mikami)
山井 和也 (Kazuya Yamanoi)
of relatively effective non-halogen and non-phosphorous
flame-retardants with other types, and obtained a combination
that displayed high performance by adding only a small
技術開発本部 DfE グループ
(Design for Environment Group , Technology Development
Group)
富士ゼロックス テクニカルレポート No.17 2007
amount of these developing flame-retardants, and are now
investigating its potential applications.
29
特集
難燃樹脂材料の開発
1. はじめに
人工的災害と自然災害の双方において、交通
事故の次に人命を損なうのが火災である。平成
7 年 1 月に発生した阪神・淡路大震災において
も、人命を最も損なったのは、地震そのもので
はなく、後に生じた火災であった 4) 。この火災
の原因は、台所などのガスや電気及び電子機器
が火源となり、木材やプラスチックに引火及び
延焼することが原因である。特にプラスチック
は、燃焼時に溶融して火炎を広範囲に拡大する。
そのために、オフィスで用いられる複写機及び
プリンターに使用されているプラスチック材料
は、火災予防のために高度な難燃材料が用いら
れている 1) 。富士ゼロックスにおいては、お客
様の安全性を第一に考え、高度な難燃性樹脂を
弊社製品に採用している。図 1 に弊社の OA 機
器樹脂材料の難燃要求を示す。
外部エンクロージャーと呼ばれる外装部分は、
UL-94 の中でも最高レベルの 5VB の難燃樹脂
を用い、外部からの火炎で発火及び延焼がない
設計にしている。内装部品は、V-2 レベルの難
燃樹脂を用い、特に、内装の中でも熱源に近い
部材は V-1 レベル以上の難燃樹脂を採用するな
どの厳しい社内基準を設けている。しかし、昨
今廃電気電子機器指令(WEEE)及び電気電子
機器に含有する有害物制限指令(RoHS)にお
いて難燃剤に対する環境規制 2) が進み、火災か
ら身を守るための難燃樹脂という段階から、さ
らに、その難燃樹脂も環境負荷の低いものを求
める段階に進化している。そのため臭素系難燃
剤の使用を控え、リン系難燃剤を使用する動き
がある。しかし、そのリン系難燃剤も現状の法
規制上は問題ないものの、環境負荷に対しては
明確に安全とはいいがたい 5) 。そこで、本検討
では、環境負荷が小さく、なおかつ、複写機部
材として使用可能な機械的特性を持つ高性能難
燃樹脂材料開発の検討を試みた。
2. 難燃剤の難燃機構概要
ポリマーの燃焼は、図 2 に示すような燃焼機
構が提案されている 6) 。
Solid Phase
④Conduction of Heat
③Radiation
①Combustion
⑤Pyrolysis
⑥Diffusion
②O2
②O2
⑥Diffusion
図2
図1
30
Gas Phase
ポリマーの燃焼モデル
Combustional Model of Polymer
複写機の難燃レベル
Flameretardant Materials using on Copy Machine
富士ゼロックス テクニカルレポート No.17 2007
特集
難燃樹脂材料の開発
その燃焼機構は、燃焼場を中心に連鎖反応を
形成している。ポリマーに接近した炎は周囲の
②酸素を消費し、同時にポリマー表面に③輻射
熱を伝える。そして、ポリマー表面から内部へ
と④伝熱し、⑤ポリマーを分解する。次に、⑥
ポリマー分解物がポリマー中から気相中に拡散
し、ポリマーに接近した炎へ燃料供給し、①燃
焼場が形成される。この連鎖反応の継続により、
燃焼は維持される。逆に燃焼の維持を防止する
には、その連鎖反応を断ち切れば可能になる。
この概念をポリマーの難燃化という。難燃化に
は、3 つの代表的難燃機構(ラジカルトラップ
による難燃化、チャー形成による難燃化、吸熱・
希釈による難燃化)
、があり、それらを図 3 に示
すとともにそれぞれの難燃機構概略を下記に示
す。
a) ラジカルトラップによる難燃化は、ポリマー
から生じた分解ガスをラジカルで補足し、燃
焼場への燃料供給を断つことで、燃焼連鎖反
応を停止させる。代表的なものとして、臭素
系難燃剤や塩素系難燃剤がある 7) 。
Solid Phase
④Conduction of Heat
Gas Phase
③Radiation
①Combustion
チャー形成による難燃化
⑤Pyrolysis
⑥Diffusion
吸熱・希釈による難燃化
②O2
②O2
⑥Diffusion
ラジカルトラップによる難燃化
図3
表1
b) チャー形成による難燃化は、燃焼時にポリ
マー表面を炭化し、燃焼場からポリマーへの
伝熱とポリマーから生じた分解ガスの拡散
を断つことで、燃焼連鎖反応を停止させる。
代表的なものとして、リン系難燃剤がある 7) 。
c) 吸熱及び希釈による難燃化は、燃焼時にポリ
マーに添加した吸熱反応物質から吸熱反応
が働き、ポリマーを冷却するとともに、吸熱
物質がポリマーから生じた分解ガスの濃度
を希釈し、燃焼場への燃料供給を断つことで、
燃焼連鎖反応を停止させる。代表的なものと
して、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニ
ウムなどの難燃剤がある 8) 。
これらそれぞれの難燃機構について、代表的
な難燃剤と難燃効果が期待される物質を選定し、
ABS 樹脂に対する難燃特性を調べた。
3. 実験方法
3.1 材料
ベースポリマーは、複写機用材料として多用
されている ABS(アクリロニトリルスチレンブ
タジエンコポリマー)樹脂を選択した。難燃剤
は、各難燃機構毎に代表的なものを選定した。
詳細は、表 1 に示す。
比較試料としてのハロゲン及びリン系難燃剤
以外の難燃剤の選択には、不純物レベルでハロ
ゲン及びリンの含有量が極めて少なく、かつ、
環境負荷の少ないものを選択した。
ポリマーの難燃モデル
Flameretardant Model of Polymer
評価材料一覧
List of Testing Material
組成
ABS樹脂*
ブロム化トリアジン
ブロム化エポキシ
フェノール付加ヒンダートアミン
ラジカルトラップ系 ブチルハイドロキノン
ヒンダートアミン
ヒンダートアミン
硫酸アンモニウム
縮合リン酸エステル
シリコーンパウダー
ホウ酸亜鉛
難燃剤
有機ベントナイト
チャー形成系
メラミン
膨張黒煙
ポリカーボネート
ポリスチレンカーボネート
水酸化アルミニウム
水酸化マグネシウム(Φ0.8μm)
水酸化マグネシウム(Φ0.2μm)
吸熱・希釈系
水酸化マグネシウム(Φ0.01μm)
硫酸マグネシウム七水和物
水酸化カルシウム
*アクリロニトリル・スチレン・ブタジエンコポリマー
ベースポリマー
富士ゼロックス テクニカルレポート No.17 2007
商品名
AT-05
SR-245
FW-3021
NOR116
TBH
FS042
2020
(試薬)
PX-200
DC4-7051
FirebreakZB-XF
クニピア-T
メラミン
SYZR1003
L-1225Y
-
ハイジライトH-42T
キスマ5A
MGZ-3
-
(試薬)
(試薬)
製造元
日本A&L株式会社
第一工業製薬株式会社
ブロモケム・ファーイースト株式会社
チバ・スペシャルティ・ケミカルズ株式会社
精工化学株式会社
チバ・スペシャルティ・ケミカルズ株式会社
チバ・スペシャルティ・ケミカルズ株式会社
関東化学株式会社
大八化学株式会社
東レ・ダウコーニング株式会社
US-Borax
クニミネ工業株式会社
日産化学株式会社
三洋貿易株式会社
帝人化成株式会社
弊社合成品
昭和電工株式会社
協和化学株式会社
堺化学株式会社
弊社合成品
関東化学株式会社
関東化学株式会社
31
特集
難燃樹脂材料の開発
3.2 材料調整方法
3.3 材料評価方法
材料は、ABS 樹脂と難燃剤をドライブレンド
した後、2 軸押出機(東洋精機製 2D-15W)を
用いて混練した。混練品をプレス成形(東洋精
機製ラボプレス 15T)し、厚み 2mm の UL-94
規格短冊試験片を作製した。
燃焼試験は、UL-94 規格垂直燃焼試験(東洋
精機製 MCM)とコーンカロリメータ(東洋精
機製 CONE-3)を用いて評価した。図 4 及び 5
に UL-94 の評価方法を示す。図 6 にコーンカロ
リメータの評価方法を示す。
HB
V
5V
クランプ
20±1mm
300±10mm
リングス
タンド
脱脂綿
試験片
10±1mm
試験炎
バーナ
6mm
最大
下方着火垂直燃焼
約50mm
UL-94難燃レベル 5V>V-0>V-1>V-2>HB
図4
図5
32
UL-94 燃焼試験図
UL-94 Test
UL-94 燃焼試験レベル
Grade Level of UL-94 Test
富士ゼロックス テクニカルレポート No.17 2007
特集
難燃樹脂材料の開発
2000
Cone Heater
発熱速度(KW/m2)
難燃化してない樹脂
1500
1000
難燃化した樹脂
500
Sample
0
0
試験の様子
例)測定結果
上 方 着 火 水 平 燃 焼
試料の燃焼状態
200
400
600
燃焼時間(sec.)
燃焼時間と燃焼時の発熱速度の関係が測
定できる。一般的に測定値として用いられ
るのは、
・最大発熱速度:燃焼時間で一番大きな発
熱速度(一番炎が大きい点)
・全燃焼発熱量:発熱速度の積分値(燃焼
に要したエネルギー)
図6
コーンカロリメータ試験図
Test of Cone Calorimetry
4. 難燃機構の異なる難燃剤の難燃挙動
4.1 ラジカルトラップ剤
ラジカルトラップ系難燃剤として代表的な臭
素系難燃剤を 2 種類、その他にラジカルトラッ
プが化学構造上可能な、老化防止剤、重合禁止
剤なども検討項目に加えた。表 2 にラジカル種
とともに検討物質を示す。
表 2 に示す 7 種類の化合物を表 1 に示した
ABS 樹脂 100 質量部に対してそれぞれ 20 質量
部を 2 軸押出機で混練し、かつ、プレス成形し
て、UL-94 規格短冊試験片を作製した。そのサ
ンプルを UL-94 垂直燃焼試験にて評価した。結
果を表 3 に示す。
臭素系難燃剤の 2 種類は V-2 であったが、そ
の他のものは V-2 不合格であった。しかし、硫
酸アンモニウム(硫安)配合品のみは、V-2 規
表2
定時間の 30 秒で消炎しなかったものの、クラン
プまで火炎が到達することなく消炎することが
分かった。以上の結果から、ラジカルトラップ
系難燃剤検討では、従来品の臭素系難燃剤に匹
敵するものは見出せなかった。しかし、硫安の
み、臭素系難燃剤には適わないものの、難燃性
があることが分かった。
表3
No.
1
2
3
4
5
6
7
ラジカルトラップ系難燃剤の燃焼試験結果
Result of Radical Trapping Agent
ラジカルトラップの種類
ブロム
ブロム
フェノール
フェノール
窒化物
窒化物
イオウ+窒化物
物質名
ブロム化トリアジン
ブロム化エポキシ
フェノール付加ヒンダートアミン
ブチルハイドロキノン
ヒンダートアミン
ヒンダートアミン
硫酸アンモニウム
UL-94
V-2
V-2
全焼
全焼
全焼
全焼
消炎
ラジカルトラップ系難燃剤試験一覧
List of Radical Trapping Agent
No.
ラジカルトラップの種類 物質名
商品名
製造元
1
ブロム
ブロム化トリアジン
SR-245
第一工業製薬株式会社
2
ブロム
ブロム化エポキシ
FW-3021
ブロモケム・ファーイースト株式会社
3
フェノール
フェノール付加ヒンダートアミン NOR116
チバ・スペシャルティ・ケミカルズ株式会社
4
フェノール
ブチルハイドロキノン
TBH
精工化学株式会社
5
窒化物
ヒンダートアミン
FS042
チバ・スペシャルティ・ケミカルズ株式会社
6
窒化物
ヒンダートアミン
2020
チバ・スペシャルティ・ケミカルズ株式会社
7
イオウ+窒化物
硫酸アンモニウム
(試薬)
関東化学株式会社
*ブロム系難燃剤は、通常酸化アンチモンと併用して用いられるが、ラジカルトラップの純粋な効果を検証するために併用を避けた。
富士ゼロックス テクニカルレポート No.17 2007
33
特集
難燃樹脂材料の開発
4.2 チャー形成剤
4.3 吸熱希釈剤
チャー形成系難燃剤として代表的なリン系難
燃剤を 1 種類、その他にチャー形成が化学構造
上可能な、無機溶融塩(ホウ酸塩)
、シリコーン、
ポリカーボネートなども検討項目に加えた。表
4 に示す 8 種類の化合物を表 1 に示した ABS 樹
脂 100 質量部に対してそれぞれ 20 質量部を 2
軸押出機で混練し、かつ、プレス成形して、
UL-94 規格短冊試験片を作製した。そのサンプ
ルを UL-94 垂直燃焼試験にて評価した。結果を
表 5 に示す。
リン系難燃剤の PX-200 は V-2 であったが、
その他のものは V-2 不合格であった。しかし、
ポリスチレンカーボネート(AIST-PS)のみは、
V-2 規定時間の 30 秒で消炎しなかったものの、
クランプまで火炎が到達することなく消炎する
ことが分かった。以上の結果から、チャー形成
系難燃剤検討では、従来品のリン系難燃剤に匹
敵するものは見出せなかった。しかし、AIST-PS
のみ、リン系難燃剤には劣るものの、難燃性が
あることが分かった。
吸熱希釈系難燃剤として代表的な難燃剤を 4
種類、その中でも最も汎用的に使用されている
水酸化マグネシウムは、粒径による違いを観察
するために、粒径 0.01~0.8(μm)ものを用意
した。表 6 に示す 4 種類の化合物を表 1 に示し
た ABS 樹脂 100 質量部に対してそれぞれ 20 質
量部を 2 軸押出機で混練し、かつ、プレス成形
して、UL-94 規格短冊試験片を作製した。その
サンプルを UL-94 垂直燃焼試験にて評価した。
結果を表 7 に示す。
評価した全ての試料は V-2 不合格であり、か
つ、全て全焼した。UL-94 垂直燃焼試験は、V
レベルに到達しないサンプルの良し悪しを評価
するのが難しいため、全て全焼するとサンプル
間の難燃性比較が困難となる。そこで、それら
の詳細比較をコーンカロリメータを用いて行っ
た。コーンカロリメータでは、燃焼時間内で一
番炎が大きい最大発熱速度(MAX-HRR)や燃
焼に要したエネルギーの全燃焼熱量(THR)等
が数値化できるため、サンプル間の比較が容易
となる。その結果を図 7 に示す。
表4
No.
1
2
3
4
5
6
7
8
表5
チャー形成系難燃剤一覧
List of Char Forming Agent
物質名
縮合リン酸エステル
シリコーンエラストマー
ホウ酸亜鉛
有機ベントナイト
メラミン
膨張黒煙
ポリカーボネート
ポリスチレンカーボネート(AIST-PS)
商品名
PX-200
DC4-7051
FirebreakZB-XF
クニピア-T
メラミン
SYZR1003
L-1225Y
-
製造元
大八化学株式会社
東レ・ダウコーニング株式会社
US-Borax
クニミネ工業株式会社
日産化学株式会社
三洋貿易株式会社
帝人化成株式会社
弊社合成品
チャー形成系難燃剤の燃焼試験結果
Result of Radical Trapping Agent
No. 物質名
商品名
UL-94
1
縮合リン酸エステル
PX-200
V-2
2
シリコーンエラストマー
DC4-7051
全焼
3
ホウ酸亜鉛
FirebreakZB-XF 全焼
4
有機ベントナイト
クニピア-T
全焼
5
メラミン
メラミン
全焼
6
膨張黒煙
SYZR1003
全焼
7
ポリカーボネート
L-1225Y
全焼
8
ポリスチレンカーボネート(AIST-PS)
-
消炎
*ABS樹脂100質量部に対して、上記難燃剤をそれぞれ20質量部添加
34
富士ゼロックス テクニカルレポート No.17 2007
特集
難燃樹脂材料の開発
表6
No.
1
2
3
4
5
6
表7
吸熱希釈系難燃剤一覧
List of Deluting-Endothermal Agent
物質名
粒子径(μm) 商品名
製造元
水酸化アルミニウム
1
ハイジライトH-42T 昭和電工株式会社
水酸化マグネシウム
0.8
キスマ5A
協和化学株式会社
水酸化マグネシウム
0.2
MGZ-3
堺化学株式会社
水酸化マグネシウム
0.01
-
弊社合成品
硫酸マグネシウム七水和物
5
-
関東化学株式会社
水酸化カルシウム
5
-
関東化学株式会社
吸熱希釈系難燃剤の燃焼試験結果
Result of Deluting-Endothermal Agent
全燃焼発熱量:THR(MJ/m2)
2000
最大発熱速度:MAX-HRR(KW/m2)
1500
100
1000
50
500
0
酸
水
水
酸
AT
-0
5(
AB
S樹
化
化
脂
マ
ア
)
グ
ル
水
ネ
ミ
酸
シ
ニ
ウ
ウ
化
ム
ム
マ
(Φ
グ
水
ネ
酸
0
シ
.8μ
化
ウ
マ
ム
m)
グ
(Φ
ネ
シ
0
.2μ
ウ
硫
ム
酸
m)
(Φ
マ
グ
0.
01
ネ
シ
μ
ウ
m
)
ム
七
水
水
和
酸
物
化
カ
ル
シ
ウ
ム
0
測定条件:ヒーター熱量 50KW、サンプル形状 100×100×3mm
図7
コーンカロリメータによる難燃試験結果
Result of Flameretardancy Test were mesured
by Cone Calorimetry
何も配合していない ABS 樹脂と比較して、水
酸化カルシウム以外は、MAX-HRR 及び THR
ともに低くなった。その中でも水酸化マグネシ
ウムと水酸化アルミニウムは、ABS 樹脂と比較
して、MAX-HRR が 3 分の 1 の値となり、THR
も 15%ほど低下することが分かった。さらに、
水酸化マグネシウムの粒径が異なる試料は、粒
径が小さいほど、MAX-HRR と THR が低くな
ることが分かった。これらの結果から、UL 測
定では比較が不可能であった全焼するサンプル
間の違いが認識できた。その結果をまとめると、
水酸化マグネシウムと水酸化アルミニウムの難
燃性が高く、かつ、水酸化マグネシウムの中で
も粒子径が小さいものほど難燃性が向上するこ
とが分かった。しかし、それらの UL 難燃レベ
ルは、全焼による V-2 不合格であった。
富士ゼロックス テクニカルレポート No.17 2007
5. 異なる機構の難燃剤の併用効果
前項の難燃機構の異なる難燃剤の難燃挙動の
結果から、臭素系難燃剤とリン系難燃剤以外で
ラジカルトラップ剤の硫安とチャー形成剤の
AIST-PS のみ UL-94 規格の V-2 不合格ながら
も全焼はせず、消炎することが分かった。そこ
で、見出した両サンプルを併用することで難燃
性が出現することを期待して、難燃性試験を実
施した。この検討に際して、比較サンプルとし
て、従来品で難燃性の高い臭素系難燃剤のブロ
ム化エポキシ(Br-EPO)とブロム化トリアジ
ン(Br-Triaz)とリン系難燃剤の縮合リン酸エ
ステル(PX-200)の配合量の異なるサンプルを
測定し、かつ、測定に関しては、UL-94 燃焼試
験での結果を明確にすべく、UL 燃焼試験時の
燃焼熱量を測定した。結果を図 8 に示す。
20
Brエポキシ(10)
Brエポキシ(25)
Brエポキシ(50)
Brトリアジン(10)
Brトリアジン(25)
Brトリアジン(50)
PX-200(10)
PX-200(25)
PX-200(50)
硫安(25)
硫安(50)
硫安(100)
AIST(25)
AIST(50)
AIST(100)
硫安12.5/AIST12.5
硫安25/AIST25
硫安50/AIST25
PX- 200
15
UL-総熱量(W)
全燃焼発熱量:THR(KJ/m2 )
150
最大発熱速度:MAX-HRR(KW/m2 )
No.
物質名
粒子径(μm)UL-94
1
水酸化アルミニウム
1
全焼
2
水酸化マグネシウム
0.8
全焼
3
水酸化マグネシウム
0.2
全焼
4
水酸化マグネシウム
0.01
全焼
5
硫酸マグネシウム七水和物
5
全焼
6
水酸化カルシウム
5
全焼
*ABS樹脂100質量部に対して、上記難燃剤をそれぞれ20質量部添加
AIST-PS
10
硫安
B r-EPO
5
硫安/AIST-PS
B r-Triaz
0
0
図8
20
40
60
80
添加量(Phr)
100
120
難燃剤添加量と UL 燃焼熱量の関係
Result of Relationship between amount of
Flameretardant and UL Combustional Calorimetry
35
特集
難燃樹脂材料の開発
横軸に ABS 樹脂 100 質量部に対する難燃剤
の添加量と縦軸に UL 垂直燃焼試験時の燃焼熱
量(W)をとり、グラフ化した。図 8 より、選
定した硫安(赤線)及び AIST-PS(ピンク線)
は、それぞれ単独では 50~100 質量部を添加し
ないと UL 燃焼熱量が小さくならない。ところ
が、硫安と AIST-PS を併用(オレンジ線)して
使用することで、それぞれの単独使用時よりも
少ない添加量で UL 燃焼熱量が低くなることが
分かった。しかし、硫安と AIST-PS の併用系難
燃剤は、従来品の縮合リン酸エステル(PX-200)、
ブロム化エポキシ(Br-EPO)とブロム化トリ
アジン(Br-Triaz)には及ばず、低添加量で低
UL 燃焼総熱量を達成できないことが分かった。
次に、硫安と AIST-PS の相乗効果について、難
燃メカニズム解析を試みた。その解析には、熱
重量分析-質量分析法(TG-MS)を用いて、熱
分解時にどのような物質が出現しているかを測
定した。硫安と AIST-PS 併用系の TG-MS 測定
データを図 9 に示す。図 9 より硫安と AIST-PS
併用系は、分解開始点において、CO2、NH3、
H2O 及び SO2 を観測した。組成物の含有元素か
ら CO2 は、AIST-PS の脱炭酸である可能性が高
く、NH3、H2O 及び SO2 は硫安由来のものであ
ると推測される。この結果から、分解開始点に
おいて、不活性ガスである CO2、NH3、H2O と、
ラジカルトラップ物質(RT 剤)である SO2 が
ほぼ同時に発生していることが分かった。ここ
で、メカニズムを推定するとマトリックスの分
解に先立ち RT 剤である SO2 が燃焼場に先に放
出され、マトリックス分解物の発生を待ち受け、
それと同時に不活性ガスである CO2、NH3、H2O
が燃焼場に放出され、マトリックス分解ガスを
希釈し、燃焼の継続を困難にすると考える。
6. まとめ
3 つの代表的難燃機構(ラジカルトラップに
よる難燃化、チャー形成による難燃化、吸熱・
希釈による難燃化)を探索することにより、環
境負荷の小さく、かつ、ノンハロゲン・ノンリ
ンの硫安と AIST-PS 併用系という新たな難燃
シ ス テム を見 出 した 。そ れぞ れ 硫安 単独 と
AIST-PS 単独の燃焼試験では、いずれも難燃性
は低いものの、併用して使用することにより難
燃性が向上する相乗効果があることが分かった。
しかし、硫安と AIST-PS 併用系は、従来の臭素
系難燃剤やリン系難燃剤の難燃性には及ばず、
高難燃性を得るためにはさらなる検討が必要で
ある。このように富士ゼロックスは、将来に向
けて、環境負荷の低いノンリンのノンハロゲン
難燃樹脂材料も視野にいれた活動を実施してい
る。また、本検討の難燃材料を複写機及びプリ
ンターに用いられる樹脂の再利用及び再資源化
図9
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硫安/AIST-PS の TG-MS 結果
Result of TG-MS (The Sample contains in ABS resin ,
Anmonium Sulfate and AIST-PS )
富士ゼロックス テクニカルレポート No.17 2007
特集
難燃樹脂材料の開発
に生かし、かつ、バイオマスベース材料にも積
極的に取り入れることで地球環境の安全性に貢
献したいと願っている。環境についての取り組
みは、競争力という面からも重要になっており、
環境そのものを商品の大切な品質の一つとして
のみならず、企業姿勢をあらわす重要品質とし
てお客様や社会が自然に受け入れていることを
実感している。よって、富士ゼロックスは地球
環境への貢献のために、環境・エネルギー配慮
製品設計(DfE)を強い意志を持って推進して
いきたい。
7. Reference
1) 野中、田中、大越 第 13 回難燃シンポジ
ウム、p3(2004)
2) 西澤仁監修 難燃材料活用便覧 テクノ
ネット社、P97(2002)
3) 西澤仁監修 難燃材料活用便覧 テクノ
ネット社、P173(2002)
4) 平成 14 年度 消防白書 消防庁発行
5) 西澤仁監修 難燃材料活用便覧 テクノ
ネット社、P2(2002)
6) 武田邦彦、第 13 回難燃材料研究会シンポ
ジウム、p24(2004)
7) 西澤仁、ポリマーの難燃化、大成社、60
(1992)
8) 大越雅之、西澤仁、マテリアルライフ学会
誌、14、174(2002)
筆者紹介
大越
雅之
技術開発本部 DfE グループに所属。
所属学会:高分子、プラスチック成形加工及び難燃材料工学会会員。
専門分野:高分子化学(Ph.D.)
三上
正人
技術開発本部 DfE グループ リーダー
所属学会:高分子学会
専門分野:高分子ゲル材料、生体適合性材料
山井
和也
技術開発本部 DfE グループ マネージャー
所属学会:Society of Manufacturing Engineers、日本接着学会会
員
専門分野:生産技術(高分子複合材料)
富士ゼロックス テクニカルレポート No.17 2007
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