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成果報告書(PDF
財団法人福岡県産業・科学技術振興財団 産 学 官 共 同 研 究 開 発 事 業 研究成果報告書 脂質混合系及び脂質ペプチド混合系による 安価な肺サーファクタントの開発 (平成16年度~平成17年度) 目 次 【研究総括】 脂質混合系及び脂質ペプチド混合系による安価な肺サーファクタントの開発 福岡大学理学部 講師 ・・・・・・1 李 相男 【研究報告】 1.新たなる肺サーファクタント活性物質の探索とその評価 1-1.脂質混合系及びペプチド混合系の探索と試験管レベルでの有効性評価 ・・・・・・6 ・・・・・・6 福岡大学理学部 室町ケミカル株式会社 1-2.肺サーファクタントの動物実験(in vivo)による有効性、薬物動態、代謝評価 ・・・・・・17 福岡大学病院総合周産期母子医療センター 室町ケミカル株式会社 2.安価な天然脂質(主として大豆レシチン)の有効脂質画分及び投与粉剤の製造及びその薬理 評価 ・・・・・・23 室町ケミカル株式会社 【成果実績】 ・・・・・・37 研究総括 福岡大学理学部 1 講師 李 相男 人工肺サーファクタントとは 肺胞細胞より生成分泌される肺サーファクタントは 、肺胞の表面張力を低下させること により肺機能をつかさどる生命維持に必須の脂質-タンパク質複合体である。肺の急性疾 患 と し て 死 亡 率 が 高 い 新 生 児 呼 吸 窮 迫 症 候 群 ( RDS)、 ま た 重 篤 な 呼 吸 障 害 を き た す 急 性 呼 吸 窮 迫 症 候 群 ( ARDS) の 治 療 薬 と し て 、 牛 肺 か ら 抽 出 さ れ た 肺 サ ー フ ァ ク タ ン ト 成 分 を 人 工 的 に 調 製 し た 人 工 肺 サ ー フ ァ ク タ ン ト Surfacten が 使 用 さ れ て い る (1)。現 在 、そ の 必 要 性 は 、 RDS や ADRS 疾 患 へ の 適 用 と い う 側 面 の み な ら ず 、 肺 炎 な ど の 炎 症 性 肺 疾 患 、 ま た 、 近年死亡率が急速に上昇している肺ガン等による重篤な末期症状の緩和からも増している。 さらに、気管支での肺サーファクタント物質の分泌も知られており、それらが去痰的役割 をしているとも言われている。肺サーファクタントの吸入によって、喘息発作が軽減する (2)な ど 、 呼 吸 障 害 の 改 善 を 必 要 と す る 多 く の 疾 病 に 対 す る 有 用 性 が 期 待 さ れ て い る 。 2 人工肺サーファクタントの必要性 新生児医療の領域において、小児が出生時に肺サーファクタントを充分作り出すこと が で き な い 疾 病 が あ る 。在 胎 34 週 頃 よ り 出 生 し た 未 熟 児 で は 肺 サ ー フ ァ ク タ ン ト 生 成 が 十 分 で な い た め に RDS を 発 症 す る 。 RDS は 死 亡 率 が 高 く 、 ま た 幸 い そ の 急 性 期 を 乗 り 切 っ た 場 合 も 多 く の 後 遺 症 を 残 す 。1979 年 藤 原 ら は 、人 工 調 製 肺 サ ー フ ァ ク タ ン ト の ヒ ト RDS に 対 す る 劇 的 な 効 果 を 報 告 、1987 年 に は Surfacten と し て 、世 界 で 初 め て RDS 治 療 薬 と し て 完 成 さ せ た (3)。Surfacten は 、牛 肺 か ら 抽 出 さ れ 調 製 さ れ て い る が 、そ の 成 分 は 、リ ン 脂 質 ( 88%)、 中 性 脂 質 ( 11%)、 タ ン パ ク 質 ( 1%) か ら な る 。 一方、肺サーファクタントが存在してもその機能が阻害される代表的疾患として、前述 の ARDS が あ る 。こ れ は 色 々 な 基 礎 疾 患 に よ り 肺 胞 に 浮 腫 や サ ー フ ァ ク タ ン ト 活 性 阻 害 物 質 が 出 現 す る こ と に よ り 肺 機 能 が 低 下 し 、 重 篤 な 呼 吸 障 害 を き た す 疾 患 で 、 そ の 発 症 は 10 万 人 あ た り 15 か ら 20 人 と 報 告 さ れ て い る 。 急 性 期 の 治 療 に 用 い た 人 工 換 気 、 酸 素 に よ る 肺損傷のため、基礎疾患が治療できたにもかかわらず不幸な転帰を取る場合も多く、その 死 亡 率 は 50%前 後 と 極 め て 高 い 。 ARDS 早 期 に 人 工 肺 サ ー フ ァ ク タ ン ト を 大 量 ( 400mg/kg) 投 与 し 肺 機 能 を 改 善 さ せ 肺 損 傷 を 最 小 に 抑 え る 治 療 法 は 、 対 象 群 の 死 亡 率 を 43.8%か ら 18.8%に ま で 低 下 さ せ る と 報 告 さ れ て い る が 、同 時 に 人 工 肺 サ ー フ ァ ク タ ン ト の $712/200mg と い う 高 価 さ も 問 題 点 と し て 指 摘 さ れ て い る (4)。 また多くの呼吸器疾患で肺サーファクタント活性が阻害されていることが報告されてお り 、そ の 重 症 例 で の 人 工 肺 サ ー フ ァ ク タ ン ト の 効 果 も 確 認 さ れ て い る 。そ の 必 要 性 は 、RDS や ARDS 疾 患 へ の 適 用 と い う 側 面 の み な ら ず 、肺 炎 な ど の 炎 症 性 肺 疾 患 ま た 近 年 死 亡 率 が 急 速に上昇している肺ガン等による重篤な末期症状の緩和からも増している。また、気管支 での肺サーファクタント物質の分泌も知られており、その吸入によって、喘息発作が軽減 す る (2)な ど 、 呼 吸 障 害 の 改 善 を 必 要 と す る 多 く の 疾 病 に 対 す る 有 用 性 が 期 待 さ れ て い る 。 1 以 上 、 人 工 肺 サ ー フ ァ ク タ ン ト は 肺 疾 患 の 治 療 に 重 要 で あ る が 、 Surfacten は 12 万 円 / vial( 120mg)と 非 常 に 高 価 で あ る た め 、1kg の 未 熟 児 を 助 け る 量 は 1vial も あ れ ば 十 分 だ が 、大 人 の 場 合 1 回 に そ の 50 倍 近 く も の 大 量 を 要 し 、あ ま り に 高 価 と な る 。そ の た め 保 険 適 用 が 認 め ら れ て い る の は RDS の み で 他 の 呼 吸 器 疾 患 は 、 そ の 効 果 が 証 明 さ れ て い る に も か か わ ら ず 保 険 適 用 外 で あ る 。 さ ら に 、 Surfacten は 牛 由 来 の タ ン パ ク 質 を 含 ん で い る た 研 究 成め現 、在そ、の日抗本原で性はお、よ地び域未的知にの安病全原な性場に所よ(るオ感セ染アのニ可ア能地性域、)例 のえ 牛ば を狂 使牛 っ病 ての い問 る題 とな はど いを 含え 、む 常。 概要 に 牛 海 綿 状 脳 症( BSE)の 問 題 を 抱 え て い る こ と は 事 実 で あ る 。特 に 、後 述 す る 完 全 合 成 型 肺 サ ー フ ァ ク タ ン ト Surfaxin が 米 国 で 認 可 さ れ た 現 在 、 ひ と た び BSE 問 題 が 再 燃 す れ ば 、 日本ではこの高価な製品を輸入することになるであろう。 3 人工肺サーファクタントの市場動向 現在まで世界の市場に種々の人工合成肺サーファクタント開発の報告がなされているが、 そ の も の は 、動 物 肺 由 来 と 完 全 合 成 型 に 分 け る こ と が で き る( 表 1)。動 物 肺 由 来 の も の と しては、牛が主であるが、豚を用いたケースもある。いずれも、動物肺抽出物に一部脂質 表1 世界のサーファクタント市場と開発状況 a) 動 物 肺 由 来 型 名称 会社 Surfacten 三菱 ウェルファーマー 由来 添 加 脂 質 価 格 ( 1vial) 牛肺抽出物 DPPC,PG \114,466 Curosurf (poractant- ) SERONO 豚肺抽出物 DPPC,PG \82,458 Survanta (beractant) ABBOTT 牛肺抽出物 DPPC \96,040 Infasurf Forest Laboratories 子牛肺洗浄液 DPPC \94,883 Alveofact Boehringer Ingelheim Pharma KG 牛肺洗浄液 DPPC,PG \70,000 備考 ニュージーランド オーストラリア産の牛を使用 SARS用として検討中 Surfactenと同等品 b) 完 全 合 成 型 名称 Exosurf ALEC (pumactant) 会社 Glaxo Smith Kline Britannia Surfaxin Discovery (lucinactant) Laboratories タンパク 添加脂質 価格 (1vial) 備考 無 DPPC,HD \73,543.2 効果がないと報告されている 無 DPPC,PG \72,000.0 効果がないと報告されている 喘息用として検討中 KL4 SP-B DPPC,PG \96,000.0 市場$15億を見込んでいる DPPC, POPG, PA,CaCl2 ? 臨床試験結果が予想より悪い ペプチド合成は遺伝子組み換え ¥100~¥1000程度 DPPCを用いない 将来的に全ての肺疾患の治療薬と して使用可能にする Venticute ALTANA r SP-C murosurf 室町ケミカル Hel13-5 1 = 100 ~ 200 mg 1 vial 100~ 200mg 2 Vial などをまぜて調製されているため、人工調製肺サーファクタントである。日本では、前述 の 如 く 三 菱 ウ ェ ル フ ァ ー マ 社 の Surfacten が 市 場 を 独 占 し て い る 。 一 般 に 、 動 物 由 来 型 は 有効性が高いが、前述の如く未知の病原性による感染の可能性を否定できない。 一方、動物肺に由来せず、完全に人工的に調製されたものは完全合成型として区別され る 。こ れ に は 、脂 質 混 合 系 の み か ら な る も の( Exosurf、Pumactant)、及 び 、遺 伝 子 調 製 タ ン パ ク 質 を ふ く む Venticute が 知 ら れ て い る が 、い ず れ も 効 能 が 動 物 由 来 型 と 比 べ て 低 く 、 ま た 、 価 格 も 動 物 肺 由 来 と 同 等 あ る い は わ ず か に 安 い の み で あ る 。 今 年 、 Discovery Laboratories 社 で 開 発 さ れ 、 米 国 FDA で 優 先 審 査 薬 剤 に 指 定 さ れ た Surfaxin は 完 全 合 成 型であり、牛肺由来の人工肺サーファクタントよりは生存率がわずかではあるが良いとの 報 告 が あ る (5)。 こ の も の は 、 1991 年 Cochrane ら に よ っ て 初 め て 報 告 さ れ た ア ミ ノ 酸 21 残 基 か ら な る 人 工 合 成 ペ プ チ ド KL 4 ( 1 - 1 - 3 項 ( 2 )、 図 1 参 照 ) と あ る 種 の 脂 質 混 合 物 か ら な る (6)。こ の も の が 、一 般 的 に 市 販 さ れ れ ば 、動 物 由 来 の 人 工 肺 サ ー フ ァ ク タ ン ト を 凌 駕 す る 可 能 性 が あ る 。 し か し 、 そ れ も 依 然 と し て 96,000 円 /vial と 高 価 で あ る 。 4 新規人工肺サーファクタントの開発と活性 このように現在未熟児(新生児)呼吸窮迫症候群治療薬として、使用されている人工肺 サーファクタントとしては、動物肺由来型及び完全合成型いずれも一回の投与が数万円~ 十 数 万 円 /vial と 高 価 で あ る た め 、 一 般 の 肺 疾 患 に は 適 用 が 制 限 さ れ る 。 我 々 は RDS の み ならず広範囲な肺疾患に適用できる安価な肺サーファクタントを開発するため、以下の点 に 着 目 し た 。 脂 質 と し て 高 価 な 飽 和 リ ン 脂 質 ジ パ ル ミ ト イ ル -L-α -フ ォ ス フ ァ チ ヂ ル コ リ ン ( DPPC) や フ ォ ス フ ァ チ ヂ ル グ リ セ ロ ー ル ( PG) に か わ る も の と し て 、 安 価 な 大 豆 レ シ チンや高級アルコールを使用する。またタンパク質にかわるものとして合成の容易なペプ チドを使用する。使用するペプチドとしては以前に報告している脂溶性の高い塩基性 両親 媒 性 ペ プ チ ド ( Hel13 — 5 )、 及 び 、 こ れ に D- ア ミ ノ 酸 を 今 回 新 ら た に 導 入 し た ペ プ チ ド Hel13-5D3 で あ る 。 新 規 に 調 製 し た 脂 質 混 合 系 あ る い は 脂 質 - ペ プ チ ド 混 合 系 の in vitro で の 肺 サ ー フ ァ ク タ ン ト 活 性 を 、肺 の 呼 吸 圧 の 変 化 を 模 し た Wilhelmy 表 面 張 力 計 で 表 面 張 力-表面積曲線(ヒステレーシス曲線)を測定することによって評価したところ、数種類 の脂質及び脂質-両親媒性人工ペプチド混合系が有力候補として選択された。なかでも、 脂 質 混 合 系 と し て は 、 分 別 大 豆 レ シ チ ン PC70D- 水 素 添 加 大 豆 レ シ チ ン - パ ル ミ チ ン 酸 ( PA) ( 40:40:20、Murosurf SL と 略 )、 脂 質 - ペ プ チ ド 混 合 系 で は 、分 別 大 豆 レ シ チ ン PC70D - 水 素 添 加 大 豆 レ シ チ ン - PA- Hel13-5( 40:40:17.5:2.5、 Murosurf SLP と 略 ) が 、 最 有 力であることが分かった。 肺サーファクタント欠乏により未熟児に発症する呼吸窮迫症候群のモデルとしての肺洗 浄ラットを用いて、肺コンプライアンスを基に上記デザイン選択された脂質系及び脂質- ペ プ チ ド 系 の in vivo 活 性 評 価 を 行 っ た 結 果 、開 発 し た 脂 質 - ペ プ チ ド 混 合 系( Murosurf SL、 SLP)は 、Surfacten と 比 べ て も 、遜 色 な い 優 れ た 活 性 を 示 し 、さ ら に 新 規 合 成 ペ プ チ ド で あ る Hel13-5D3 を 含 む サ ー フ ァ ク タ ン ト 、 分 別 大 豆 レ シ チ ン PC70D- 水 素 添 加 大 豆 レ シ チ ン - PA- Hel13-5D3( 40:40:17.5:2.5、Murosurf SLPD3 と 略 )の 活 性 は 、Surfacten よ り 優 れ た 成 績 を 示 し た ( 詳 細 は 1 - 2 - 4 項 ( 1 )、 図 1 0 参 照 )。 注 目 す べ き は 、 今 回 開 発 し た 系 は 、市 販 の 脂 質 の み か ら な る Exosurf や 、現 在 ア メ リ カ で 認 可 さ れ た Surfaxin よ り 、 3 いずれも優れていることである。 我々は、全ての肺疾患に広範囲に適用できる可能性の追求の一貫として、これら化合物 の喘息への適用の可能性を調べた。それらを喘息モデルラットに投与し、肺抵抗効果を調 べたところ、即時型発作を有意に抑制することが分かった(詳細は1-2-4項、図11 参 照 )。現 在 、遅 発 型 喘 息 に 対 す る 効 果 、及 び 、そ の 抑 制 効 果 の メ カ ニ ズ ム を 追 求 し て い る 。 ま た 、 こ れ ら 肺 サ ー フ ァ ク タ ン ト モ デ ル 混 合 物 ( Murosurf SL、 SLPD3) の 臨 床 第 一 相 試 験 ( Phase I)を 目 指 し た 代 謝 試 験( 詳 細 は 1 - 2 - 4 項 、図 1 2 、図 1 3 参 照 )な ど を 終 え ている。今後の課題として、毒性試験、性能試験及び安定供給のための製剤化とその安定 性試験を実施する必要がある。 5 安価な脂質の使用による新規人工サーファクタントの製剤化の試み 安価な大豆リン脂質は、大豆油脂を色々な方法で分別することによって得られる。我々 は、品質試験書のある辻製油社製の分別大豆レシチンを用いることとした(詳細は2-5 - 1 項 、図 1 4 参 照 )。特 に 、水 素 添 加 大 豆 レ シ チ ン 及 び 分 別 大 豆 レ シ チ ン P70 を タ ー ゲ ッ ト と し た 。 両 者 は キ ロ グ ラ ム 単 価 8,900 円 、 及 び 14,000 円 と 市 販 合 成 DPPC と 比 べ て 、 格 安 で あ る( 詳 細 は 2 - 5 - 1 項 、表 2 参 照 )。し か し な が ら 、分 別 大 豆 レ シ チ ン P70 は か な り着色がひどく、そこで、この分別を試みた。得られた画分のうち有効なものを、分別大 豆 レ シ チ ン P70D と 命 名 し ( 詳 細 は 2 - 5 - 1 項 、 図 1 6 参 照 )、 使 用 し た 。 我々の開発した肺サーファクタント、脂質混合系及び脂質-ペプチド混合系の製剤化に おいては、脂溶性の強いこれらを均一に混ぜるため、クロロホルムなどの有機溶媒に溶か し て 、フ ィ ル ム 作 成 後 生 理 食 塩 水 を 加 え て 強 い vortex 化 を 行 っ て い る 。し か し こ の 水 和 過 程 で 、 不 均 一 な サ イ ズ の 脂 質 混 和 物 が 生 じ る 。 あ ま り 巨 大 な サ イ ズ ( 10μ m 以 上 ) は 気 管 支 を つ ま ら せ て し ま う た め 、そ れ が 原 因 で 動 物 実 験 に お い て ラ ッ ト が 死 亡 す る こ と も あ る 。 その巨大サイズを除くため、本プロジェクト初期には、使用前 に布(さらし)を用いた絹 ごし処理を行っていた。現在は、小規模な実験レベルでの実験や動物実験では水和後ソニ ケ ー シ ョ ン を 行 い 、凍 結 乾 燥 す る こ と で こ れ に 対 応 し て い る( 2 - 4 - 2 項 参 照 )。し か し この方法では均一かつ安定な製剤の量産体制の困難が予想され た。 これに関して、福岡大学工学部の三島らは、超臨界二酸化炭素を含む超臨界流体からの 急 速 膨 張 ( RESS-N; Rapid Expansion of Supercritical Solution with a Nonsolvent ) 法 を開発し、安定的に薬剤の微粒化や高分子微粒子・高分子マイクロカプセル・ナノカプセ ルを製造する手法を提案している。急速膨張直後、溶解度の減尐にともない生成した微粒 子は残存する溶媒などもなく、ドラッグデリバリーシステムには極めて適した性質をもつ こ と が 期 待 さ れ る 。特 に 、脂 質 と ペ プ チ ド の 混 合 に お い て 有 機 溶 媒 へ の 可 溶 化 が 必 須 な 我 々 の系においては、この有機溶媒が残ることなく、数μm の微細粉末を調製できる可能性が あ る 。 実 際 に 、 肺 サ ー フ ァ ク タ ン ト 脂 質 の み で の 尐 量 調 製 ( 数 グ ラ ム ) の 段 階 で は 、 2~ 3 μm の均一な粉末が得られることを確認した。この技術は、肺サーファクタントの製剤化 に は 不 可 欠 な 技 術 と 考 え ら れ 、現 在 そ の 微 粉 末 の 動 物 実 験 な ど の 基 礎 研 究 を 展 開 し て い る 。 将来、その安定化試験カプセル分注などを試みることにしている。 4 6 研究成果のまとめと今後の展望 今回、研究開発中の人工調製肺サーファクタントは、現行の価格をはるかに下回るもの で 、 脂 質 や ペ プ チ ド の 原 料 レ ベ ル で の 原 価 コ ス ト が 10~ 100 円 /vial と 非 常 に 安 く 製 造 で きるため、現行の価格をはるかに下回る製品が期待でき、そのため、広範囲な肺疾患に適 用 拡 大 を 図 る こ と が で き る も の で あ る 。 ま た 、 完 全 合 成 型 で あ る た め BSE な ど の 心 配 も な い。 次にえられた成果を箇条書きにすると、 1 ) DPPC( 1,000,000 円 /kg)、 PG( 1,500,000 円 /kg)、 egg PC( 200,000 円 /kg) に 変 わ る も の と し て 分 別 大 豆 レ シ チ ン PC70D( 50,000 円 /kg)、水 素 添 加 大 豆 レ シ チ ン( 8,900 円 /kg) 使 用 に 成 功 し た 。 2 ) 動 物 実 験 で は 、 脂 質 - ペ プ チ ド 混 合 系 Murosurf SLPD3 は 天 然 系 市 販 Surfacten よ り 優 れ た 効 能 、 ま た 、 合 成 系 市 販 製 品 Exosurf や Surfaxin と 比 べ て も よ り 優 れ た 効 能を示した。 3 ) 喘 息 モ デ ル に お い て 、 Murosurf SL お よ び SLP 系 は 有 意 に 肺 抵 抗 を 抑 制 し た 。 4 ) Murosurf SL お よ び SLP 系 の 最 適 投 与 量 の 決 定 と 製 剤 化 に 向 け て の 微 粉 化 に 成 功 、 今後のカプセル化などの道を開いた。 このように、牛肺等の天然材料に頼らない完全合成、かつ原料調達が容易でしかも安価 で 高 効 果 の 期 待 で き る 人 工 肺 サ −フ ァ ク タ ン ト の 合 成 に 成 功 で き た 。今 後 、こ の 実 用 化 に 向 けて、以下のことを展開する。 1 )引 き 続 き 非 臨 床 試 験 評 価 の た め の デ ー タ を 蓄 積 : 今 後 、毒 性 試 験 、効 能 試 験 及 び 安 定 供 給 の た め の 製 剤 化 と そ の 安 定 性 試 験 を 実 施 す る 。こ れ ら の 結 果 を も と に 、非 臨 床 試 験 評 価 を 行 い Phase I へ の 移 行 を 検 討 す る 。 2 )Phase I に は 第 三 者( 製 薬 会 社 )の 参 加 協 力 が 不 可 欠 と な る の で 、そ の 選 定 を 行 う 。 サ ー フ ァ ク タ ン ト 関 連 の 基 礎 的 な 研 究 を 引 き 続 き 展 開 す る と と も に 、さ ら に 製 品 化 に ついて他の大手製薬会社と調整を行う。 参考文献・引用文献 1. 「 肺 表 面 活 性 物 質 の 現 在 」 吉 田 清 一 編 , 真 興 亣 易 医 書 出 版 部 , 東 京 , 1990; Molecular Basis of Disease: Pulmonary Surfactant, ed., Riordan J. R., Biochim. Biophys. Acta, 1048,77-363( 1998) 2. Babu K.S., et al. Eur. Respir. J., 21,1046-1049 (2003) 3. 藤 原 等 、 特 公 昭 61‐ 9925号 広 報 4. Gregory, T.J. et al., Am. J. Respir. Crit. Car. Med . 155,1309-1315 (1997) 5. Ninha, S. K. et al., Pediatrics, 115, 1030-1038 (2005) 6. Cochrane C. G. and Revak S. D., Science , 5 254, 566-568 (1991) 1 新たなる肺サーファクタント 活性物質の探索とその評価 1-1 脂質混合系及びペプチド混合系の探索と 試験管レベルでの有効性評価 福岡大学理学部 講師 李 企画課 主査 中村幸弘 新規事業室 主査 河原政人 室町ケミカル株式会社 同 前川 1-1-1 相男 忍 はじめに 肺 胞 細 胞 外 に 存 在 す る 肺 サ ー フ ァ ク タ ン ト は 5% の タ ン パ ク 質 ( surfactant protein、 SP-A、 B、 C、 D) と リ ン 脂 質 を 中 心 と す る 脂 質 成 分 か ら 成 り 立 っ て い る (1)。 脂 質 の う ち 、 特 に 中 性 リ ン 脂 質 で あ る L--フ ォ ス フ ァ チ ヂ ル コ リ ン ( PC) が 多 く 、 全 脂 質 の 80% を 占 め 、 酸 性 脂 質 で あ る L--フ ォ ス フ ァ チ ヂ ル グ リ セ ロ ー ル ( PG) が 9%、 L--フ ォ ス フ ァ チ ヂ ル イ ノ シ ト —ル ( PI) が 2.6% 、 そ の 他 コ レ ス テ ロ ー ル ( Ch) が 7.3% で あ る 。 特 に 注 目 す べ き こ と は 、 PC の う ち 飽 和 ア ル キ ル か ら な る ジ パ ル ミ ト イ ル -L--フ ォ ス フ ァ チ ヂ ル コ リ ン( DPPC)が 48% と 約 半 分 を し め る が 、こ の こ と が 肺 を 虚 脱 か ら 防 ぐ 要 因 で あ る と 言 わ れ て い る 。し か し 、DPPC を 含 む リ ン 脂 質 の み で は 肺 サ ー フ ァ ク タ ン ト 活 性 が な い こ と か ら 、 尐量含まれるタンパク質成分が重要であることが明らかにされた。事実多用されている人 工 肺 サ ー フ ァ ク タ ン ト で あ る Surfacten は 、タ ン パ ク 質 を 約 1% 及 び DPPC を 30% 含 む 脂 質 - タ ン パ ク 質 混 合 物 か ら な る 。し か し 、タ ン パ ク 質 及 び リ ン 脂 質( 特 に DPPC)は 高 価 な た め、目的の安価で副作用のない人工合成サーファクタントの調製は、原料的側面からみて 困難である。 1-1-2 本研究部分の位置づけ そこで今回、安価な人工肺サーファクタントを調製するため、脂質として安価な成分 や タンパク質よりは合成の容易なペプチドを取り上げる。脂質単独及びペプチド混合系を調 製 し 、 in vitro 系 で 肺 サ ー フ ァ ク タ ン ト 活 性 を 調 べ る 。 そ の た め に 、 最 も よ く 適 用 さ れ て いる表面張力-面積ダイアグラム法を用いる。その方法で評価した活性をもとに、後の1 -2項で述べる動物実験の試料を選択する。 1-1-3 目的及び目標 (1)安価な脂質の選択 肺サーファクタントの活性発現メカニズムを考慮する時、安定な単分子膜及び 二分子膜 を形成する必要がある。肺圧の上昇・減尐に伴っての単分子膜-二分子膜平行を形成する 上で、リン脂質は必須と考えられている。リン脂質の中でも肺の呼気の圧縮時の虚脱を防 ぐ た め に 、 DPPC は 必 須 で あ る と 考 え ら れ て お り 、 さ ら に 尐 量 の PG も 必 要 で あ る と 言 わ れ 6 ている。一方、肺サーファクタントに含まれるタンパク質は、このリン脂質の単分子膜- 二 分 子 膜 平 行 を ス ム ー ズ に 行 う た め の 触 媒 的 な 作 用 を す る と 考 え ら れ る (2)。 リ ン 脂 質 と し て 、 DPPC は 高 価 ( 数 百 万 円 /kg) で あ る た め 、 比 較 的 安 価 な 卵 黄 か ら 抽 出 さ れ 精 製 さ れ た egg PC( 数 十 万 円 /kg) 及 び 安 価 な 卵 黄 レ シ チ ン ( 数 万 円 /kg)、 分 別 大 豆 レ シ チ ン ( 数 千 円 /kg) を ま ず 選 択 し た 。 ま た 飽 和 ア ル キ ル 鎖 を 持 つ DPPC の 代 わ り に な る も の と し て 飽 和 高 級 ア ル コ ー ル ( 例 え ば 1-octadecanol、 OD) お よ び そ の 水 素 添 加 大 豆 レ シ チ ン( 辻 製 油 社 製 、一 万 円 前 後 /kg)を 取 り 上 げ た 。さ ら に 、酸 性 成 分 と し て 、従 来 の 人 工 肺 サ ー フ ァ ク タ ン ト 脂 質 と し て 良 く 用 い ら れ て い る 高 級 脂 肪 酸 の パ ル ミ チ ン 酸( PA)、ス テ ア リ ン 酸 な ど を 選 ん だ 。そ の 他 、中 性 脂 質 の ト リ ア シ ル グ リ セ ロ ー ル ( TG)や Ch、サ ポ ニンなども選択した。 (2)ペプチドの選択と新たなるデザイン また、人工肺サーファクタントとして 脂質-タンパク質混合系も考慮した。肺サーファ ク タ ン ト の な か で 、 全 体 の 約 5% の 含 量 を 占 め る タ ン パ ク 質 SP-A、 B、 C 及 び D、 な か で も SP-B と SP-C は 肺 サ ー フ ァ ク タ ン ト 活 性 を 示 す の に 重 要 で あ る と 言 わ れ て い る 。 こ れ ら タ ン パ ク 質 の SP-B 及 び SP-C は 膜 に 対 す る 作 用 様 式 が 異 な り SP-B は 膜 表 面 に 存 在 し 、 SP-C は膜を貫通している。両者は肺の気体-液体表面で起こる単分子膜-二分子膜平行を触媒 すると考えられている。そこで、まず膜表面滞在型及び膜貫通型を同時に模した両親媒性 ペプチドの設計を行えば、肺サーファクタント活性を有するのではないかと考えた。この ようにしてペプチドとしては、我々が以前に人工肺サーファクタントとして開発、出願し た 以 下 の 5 つ の ペ プ チ ド を ま ず 用 い た( 図 1 )。そ れ ら の 性 質 、効 果 な ど の 詳 細 は 特 許 出 願 書 類 を 参 考 に し て い た だ き た い (3)。 図1 合成サーファクタントペプチドの一次構造 以 前 デ ザ イ ン し た ペ プ チ ド の う ち 特 に Hel13-5は 両 親 媒 的 性 質 を 示 し 、 か つ 、 酸 性 及 び 中 性 リ ン 脂 質 膜 の 中 に 脂 溶 性 部 分 を 深 く 侵 入 さ せ る 性 質 を も つ 。 こ の ペ プ チ ド を DPPC- P G- PA脂 質 混 合 物 と 混 ぜ た 系 は 、 優 れ た 肺 サ ー フ ァ ク タ ン ト 活 性 を 有 す る (3)。 一 方 、 Hel 13-5そ れ 自 身 単 独 で は 、強 い 溶 血 活 性 を 有 す る (4)。し か し な が ら 、脂 質 - Hel13-5複 合 体 7 で は 、そ の 性 質 は 無 く な る た め 、将 来 の 医 薬 品 と し て の 適 用 の 際 に 、実 用 上 殆 ど 問 題 は な い と 考 え ら れ る が 、念 の た め 、今 回 ペ プ チ ド 自 身 で も 溶 血 活 性 の な い 化 合 物 を 新 た に デ ザ インすることとした。 近 年 、 両 親 媒 性 ペ プ チ ド の 中 に 一 部 D—ア ミ ノ 酸 を 導 入 す る と 、 そ の 二 次 構 造 に 微 妙 な 変 化 が 生 じ 、 そ れ が 生 理 活 性 に 劇 的 な 変 化 を 起 こ す 事 が 報 告 さ れ た 。 例 え ば 、 Shaiら は 、 抗 菌 活 性 は あ る が 、 同 時 に 溶 血 活 性 な ど の 毒 性 の 強 い 両 親 媒 性 ペ プ チ ド に D—ア ミ ノ 酸 を 導 入 すると、抗菌活性は変化なく、溶血活性のみなくなること、さらに、正常細胞には毒性が 尐なくガン細胞のみに選択的に働くこととを示し、新たなる抗腫瘍化学療法剤の可能性を 示 し た (5)。お そ ら く そ れ は 、D−ア ミ ノ 酸 を 導 入 す る こ と に よ り 生 ず る 微 妙 な 親 水 性 疎 水 性 バランスの違いによって、細胞膜への作用様式に変化が生じたものと考えられるが詳細は 明 ら か で な い 。 そ こ で 、 Hel13-5に D—ア ミ ノ 酸 を 導 入 し て 、 溶 血 活 性 の 軽 減 を 試 み た 。 D— ア ミ ノ 酸 の 導 入 す る 位 置 は 適 当 に バ ラ ン ス よ く 、 ま た 、 導 入 数 は 全 体 の 20~ 30% と し た 。 デザインしたペプチドを図2に示す。 Hel13-5: KLLKLLLKLWLKLLKLLL Hel13-5D3: Hel13-5D5: KLLKLLLKLWLKLLKLLL KLLKLLLKLWLKLLKLLL (下 線 は D−ア ミ ノ 酸 を 示 す 。 ) 図2 D−ア ミ ノ 酸 含 有 ペ プ チ ド の 一 次 構 造 これら選択された脂質やペプチドを適当に混ぜ合わせて脂質混合系、及び、脂質-ペプ チド混合系を作成し、表面張力-面積ダイアグラムを用いて表面活性を評価し、現在最も 治 療 効 果 が 高 い Surfacten の 表 面 張 力 - 面 積 ダ イ ア グ ラ ム に 近 い も の を 選 択 す る こ と を 目 標 と し た 。対 象 と し て 、ARDS に 対 す る 薬 と さ れ て い る Exosurf、KL 4( 図 1 、Surfaxin)に ついても比較検討を行うこととした。 1-1-4 実験方法及び実験条件 (1)材料及び試料(脂質、脂質-ペプチド混合物)の調製 卵 黄 か ら 精 製 さ れ た リ ン 脂 質 egg PC は 、 Avanti Polar Lipids 社 製 の も の を 用 い た 。 水 素 添 加 大 豆 レ シ チ ン は 辻 製 油 社 製 の SLP ホ ワ イ ト H、分 別 大 豆 レ シ チ ン PC70 は 同 社 製 の 分 別 大 豆 レ シ チ ン SLP-PC70、水 素 添 加 大 豆 レ シ チ ン PC70-H は 分 別 大 豆 レ シ チ ン PC70 を 水 素 添 加 し た も の を 用 い た 。ま た 、黄 土 色 に 着 色 し て い る 分 別 大 豆 レ シ チ ン PC70 を 更 に 精 製 分 別 し 、 着 色 を ほ と ん ど の ぞ い た レ シ チ ン を 分 別 大 豆 レ シ チ ン PC70D と し た 。 卵 黄 レ シ チ ン 及 び そ の 他 の 脂 質 、 試 薬 は 、 和 光 純 薬 工 業 社 製 を 用 い た 。 Surfacten は 三 菱 ウ ェ ル フ ァ ー マ 社 製 を 、 ま た Exosurf、 Surfaxin は 文 献 に 従 っ て 調 製 し た (6)。 ペ プ チ ド は 自 動 合 成 機 を 用 い て 、 以 前 合 成 し た 如 く 調 製 し た (4)。 合 成 ペ プ チ ド お よ び 脂 質 、脂 肪 酸 、ア ル コ ー ル を 各 配 合 量 で 秤 量 し 、ク ロ ロ ホ ル ム /メ タ ノ ー ル に 溶 解 さ せ た 。必 要 に 応 じ て 上 記 脂 質 混 合 試 料 に ペ プ チ ド を 適 当 濃 度( w/w)と な る よ う に 秤 り 添 加 し た 。 上 記 脂 質 混 合 液 ( ま た は 、 ペ プ チ ド 含 有 混 合 液 ) に 、 N2 ガ ス を 吹 き 8 込み、減圧乾燥し、完全に有機溶媒を揮発させ、容器の壁面にフィルムを形成させた。こ れ に 、水 を 加 え て 撹 拌 し 、懸 濁 液 を 調 製 後 、凍 結 乾 燥 す る 。こ れ に 生 理 食 塩 水 を 加 え 撹 拌 、 懸 濁 液 と し 、 そ れ を 各 試 料 溶 液 と し た 。 な お 、 コ ン ト ロ ー ル と し て 、 Surfacten を 同 様 に 調製して使用した。 (2)ペプチドの合成 ペ プ チ ド の 合 成 は 、 Fmoc-Leu-PEG 樹 脂 ( 渡 辺 化 学 社 製 、 Fmoc-Leu-0H 0.21mmol/g 樹 脂 ) を 出 発 原 料 と し 、 PerSeptive Biosystems 社 製 自 動 合 成 装 置 に よ り 連 続 フ ロ ー 式 Fmoc 固 相 合 成 法 で 行 な っ た 。 合 成 し た 粗 ペ プ チ ド は 、 30% CH 3 COOH に 溶 解 さ せ 、 Sephadex G-25 カ ラ ムクロマトグラフィーによりペプチド部分を集め、さらに逆相高速液体クロマトグラフィ ー ( HPLC、 COSMOSIL 5C18-AR 20×250mm、 0.1% TFA 含 有 の 三 次 水 ( ア セ ト ニ ト リ ル 系 )) で精製した。 (3)表面張力-面積ダイアグラム作成実験方法 表 面 張 力 は Acoma Wilhelmy Balance( Acoma Medical Industry 社 製 )を 用 い て 測 定 し た 。 テ フ ロ ン 水 槽( 150×60×25mm)に 生 理 食 塩 水 を 張 り 、閉 鎖 さ れ た 液 面 を 作 る 。上 記 液 面 の 気 - 液 界 面 に 20 l の 脂 質 混 合 物 を 展 開 し 、 自 発 的 に 拡 が る ま で 3 分 間 放 置 す る 。 こ の 間 の 表 面 張 力 の 変 化 を 、 水 槽 中 に 垂 直 に 懸 垂 さ れ た 白 金 プ レ ー ト を も ち い て surface spreading rate と し て 記 録 し た 。3 分 後 に 形 成 さ れ た 単 分 子 膜 は 、最 大 45cm 2 か ら 最 小 9cm 2 ま で の 表 面 積 に 、3min/cycle の 速 度 で 圧 縮・ 膨 張 を 繰 り 返 し た 。白 金 プ レ ー ト に 作 用 す る 表 面 張 力 は 、 力 変 換 器 に よ り 電 気 信 号 に 変 換 さ れ 、 表 面 積 の 変 化 と と も に X-Y 記 録 計 に よ り自動的に連続記録される。この循環は、もはやこれ以上変化はみられないというところ まで続けた。図の表記は一般に 7 回目の循環のデータを示す。 1-1-5 実験結果 呼吸運動によって、肺サーファクタントの表面吸着膜はたえず伸展 ・圧縮を繰り返して おり、それにつれて分子の配列状態が変化する。この呼吸運動に似た状態で吸着挙動を表 面 張 力 の 変 化 で 記 す こ と に よ っ て 、肺 サ ー フ ァ ク タ ン ト 活 性 を in vitro 的 に 評 価 す る こ と が で き る 。 上 記 の 如 く 、 Modified Wilhelmy 表 面 張 力 計 で 表 面 張 力 - 表 面 積 曲 線 を 測 定 す ると、ヒステレーシス曲線を描くことが肺サーファクタントの表面活性における特徴であ る。一般に圧縮時(呼気)の表面張力の低下速度が速いほど、 また、拡張時、自発的な表 面拡散能力(吸気)が速やかなものほど良好な肺サーファクタント活性を示す といわれて いる。すなわち、ヒステリシスカーブの形成する面積の大きい程、また、圧縮時の表面張 力 の 小 さ い も の ほ ど 良 好 で あ る と 考 え る 。 図 3 に 示 す ご と く 、 Surfacten の 圧 縮 時 の 最 小 表 面 張 力 は 7mNm - 1 、 各 拡 張 時 の 最 大 張 力 は 45mNm - 1 で あ る 。 図 3 に 、 色 々 な 脂 質 組 成 の 表 面 張 力 - 表 面 積 曲 線 の 結 果 を 、 Surfacten を 対 象 と し て 示 す 。図 か ら も 分 か る よ う に 、二 成 分 系 の OD- PA( 85:15)、egg PC- PA( 85:15)、OD- PC ( 40:60) に お い て は 、 良 好 の ヒ ス テ レ ー シ ス カ ー ブ は 得 ら れ な か っ た 。 し か し 、 OD- egg PC - PA ( 35:40:25) に お い て 、 最 小 表 面 張 力 ( 13mNm - 1 ) は Surfacten に 及 ば な い ま で も 、 良 好 9 図3 いろいろな脂質混合系の表面張力-表面積曲線 1: Surfacten. 2: OD- PA( 85:15) . 3: OD- egg PC- PA ( 35:40:25) . 4: OD- 卵 黄 レ シ チ ン - PA( 35:40:25) . 5: egg PC- PA ( 85:15) . 6: OD- egg PC- PA- Ch( 30:35:25:10) . 7: OD- egg PC- PA- TG( 25:40:25:10) . 8: OD- egg PC- PA- Ch- TG( 30:35:15:10:10) . な 曲 線 が 得 ら れ た ( line 3)。 OD- egg PC- PA に Ch 及 び 飽 和 ア シ ル TG、 ま た そ の 混 合 系 を 加えても、改善は見られなかった。 OD- egg PC- PA に お い て 良 好 な 結 果 が 得 ら れ た の で 、 次 に そ れ ら の 組 成 を 変 え た 系 で 、 実 験 を 試 み た ( 図 4 )。 OD 及 び egg PC の 多 い 系 ( lines 2、 4、 5、 7) は Surfacten に 比 べ て 、 良 好 な 結 果 は 得 ら れ ず 、 OD 及 び egg PC の 値 が 近 い も の が 良 好 な 結 果 を 示 し た ( lines 3、 6)。 PA に お い て は 、 10% を 含 む も の ( OD- egg PC- PA( 40: 50: 10)) よ り 20% ( OD - egg PC- PA( 40: 40: 20))の 方 が 拡 張 圧 時 の 表 面 張 力 の 値 が 大 き く 、従 っ て 、ヒ ス テ リ シスカーブが描く面積は大きい。一般にヒステリシスカーブが描く面積が大きい方が、良 い 結 果 を 与 え る と 言 わ れ て い る が 、 拡 張 時 の 表 面 張 力 の 値 に つ い て は in vivo と の 関 連 は 明らかでない。 10 図4 OD- egg PC- PA 系 の 種 々 の 組 成 比 に お け る 表 面 張 力 - 表 面 積 曲 線 1: Surfacten. 2: OD- egg PC- PA ( 70:10:20) . 3: OD- egg PC- PA ( 40:40:20) . 4: OD- egg PC- PA ( 10:70:20) . 5: OD- egg PC- PA ( 80:10:10) . 6: OD- egg PC- PA ( 40:50:10) . 7: OD- egg PC- PA ( 10:80:10) . 図 5 に は 、 脂 質 - ペ プ チ ド 混 合 系 の 結 果 を 示 す 。 OD- egg PC- PA の 系 に 種 々 の ペ プ チ ド を 加 え た と き 一 般 に 良 好 の カ ー ブ が 得 ら れ た 。 例 え ば 、 Hel7-11-P24、 P24、 Hel13-5 等 余 り 差 な い 。 KL 4 ペ プ チ ド ( surfaxin の 成 分 ) も 他 の ペ プ チ ド と 同 様 で あ る 。 11 Surface Tension / mN m -1 60 50 40 30 20 1 2 3 4 5 10 0 20 40 60 80 100 Trough Area (%) 図5 脂質-各種ペプチド混合系における表面張力-表面積曲線 1: Surfacten. 2: OD- egg PC- PA- P24 ( 35:40:20:5) . 3: OD- egg PC- PA- Hel7-11-P24 ( 35:40:20:5) . 4: OD- egg PC- PA- Hel13-5 ( 35:40:20:5) . 5: OD- egg PC- PA- KL 4 ( 35:40:20:5) 図 6 に は 、大 豆 レ シ チ ン 脂 質 混 合 系 及 び そ の ペ プ チ ド 混 合 系 の 結 果 を 示 す 。上 述 の 如 く 、 肺 サ ー フ ァ ク タ ン ト に は 、 PC 含 有 量 が 高 く 、 そ の 半 分 は 飽 和 脂 質 系 DPPC で あ る 。 し た が っ て 、辻 製 油 社 製 の レ シ チ ン (2 - 2 項 、図 1 4 、表 2 参 照 )の 中 で 、分 別 大 豆 レ シ チ ン PC70 は PC 含 有 量 が 約 70% と 高 い た め 、 こ の も の を 、 不 飽 和 リ ン 脂 質 と し て 選 ん だ 。 水 素 添 加 大 豆 レ シ チ ン は 、飽 和 脂 質 DPPC の 代 わ り と し て 選 ん だ 。興 味 あ る 事 に 、試 さ れ た 大 豆 脂 質 混 合 系 に お い て も 、 OD- egg PC- PA 系 同 様 の 良 好 な ヒ ス テ リ シ ス 曲 線 が 得 ら れ た 。 ま た 、 OD- 水 素 添 加 大 豆 レ シ チ ン - PA (35:40:25) に お い て は 、 良 好 の ヒ ス テ リ シ ス 曲 線 は 得 ら れ な か っ た 。 こ れ ら 大 豆 脂 質 系 に ペ プ チ ド Hel13-5 を 加 え て も 、 一 層 の 改 良 は 見 ら れ て い な い 。し か し 、Exosurf や Surfaxin に お い て も 、Surfacten 同 様 の 曲 線 は 得 ら れ な か っ た 。 12 図 6 1: Exosurf. 大豆脂質混合系の種々の組成比における表面張力-表面積曲線 2: Surfaxin. 3: 水 素 添 加 大 豆 レ シ チ ン PC70-H- 分 別 大 豆 レ シ チ ン PC70- PA( 40:40:20) . 4: 水 素 添 加 大 豆 レ シ チ ン - 分 別 大 豆 レ シ チ ン PC70- PA( 40:40:20) . 5: 水 素 添 加 大 豆 レ シ チ ン PC70-H- 分 別 大 豆 レ シ チ ン PC70- PA- Hel13-5 ( 40:40:17.5:2.5) . 6: 水 素 添 加 大 豆 レ シ チ ン - 分 別 大 豆 レ シ チ ン PC70- PA- Hel13-5 ( 40:40:17.5:2.5 ). 7: OD- egg PC- PA- Hel13-5 ( 35:40:20:5) 図 7 に は 、 脂 質 と し て 分 別 大 豆 レ シ チ ン PC70D を 用 い た 結 果 を 示 す 。 分 別 大 豆 レ シ チ ン PC70 は 上 述 の 如 く 70% の PC を 含 む が 、 同 時 に 着 色 が 強 い 。 そ こ で 、 こ の も の を 更 に 分 別 し 脱 色 し た 分 別 大 豆 レ シ チ ン PC70D を 用 い て の 実 験 を 、 脂 質 混 合 系 及 び 脂 質 - ペ プ チ ド 混 合系で行った。両系とも良好なヒステリシスカーブを描くが、興味あることに、ペプチド を加えた系の方が、加えない系より若干悪かった。 13 80 Murosurf SL Murosurf SL70H exosurf Murosurf L Surface Tension (mN/m) 70 60 50 40 30 20 10 20 40 60 80 100 Trough Area (%) 図7 分 別 大 豆 レ シ チ ン PC70D を 用 い た 脂 質 混 合 系 の ヒ ス テ レ ー シ ス 曲 線 Murosurf L: OD- egg PC- PA( 35:40:25) . Murosurf SL: 水 素 添 加 大 豆 レ シ チ ン - 分 別 大 豆 レ シ チ ン PC70D- PA( 40:40:20) . Murosurf SL70H: 水 素 添 加 大 豆 レ シ チ ン PC70H- 分 別 大 豆 レ シ チ ン PC70D- PA( 40:40:20) . 70 OD-eggPC-PA-D3 (45:45:10:5) OD-eggPC-PA-D3 (45:45:10:2.5) 水添-分画-PA-D3 (45:45:10:5) 水添-分画-PA-D3 (45:45:10:2.5) OD-eggPC-PA D5(45:45:10:5) 水添-分画-PA D5(40:40:20:5) Surface Tension (mN/m) 60 50 40 30 20 10 0 20 40 60 80 100 Trough Area (%) 図8 D3: Hel13-5D3. D-ア ミ ノ 酸 含 有 Hel13-5 ペ プ チ ド の ヒ ス テ ー レ シ ス 曲 線 水添: 水素添加大豆レシチン. D5: Hel13-5D5. 14 分 画 : 分 別 大 豆 レ シ チ ン PC70D. 次 に 、 D‐ ア ミ ノ 酸 含 有 ペ プ チ ド を 含 ん だ 脂 質 - ペ プ チ ド 混 合 系 の ヒ ス テ レ ー シ ス 曲 線 を 図 8 に 示 す 。 D‐ ア ミ ノ 酸 を 3 個 含 む Hel13-5D3 系 に お い て は 、 試 み ら れ た 脂 質 混 合 系 に お い て 、全 て 最 小 表 面 張 力( 13mNm - 1 )は Surfacten に 及 ば な い ま で も 、良 好 な 曲 線 が 得 ら れ た 。 一 方 D‐ ア ミ ノ 酸 を 5 個 含 む Hel13-5D5 系 に お い て は 、 良 好 な 曲 線 は 得 ら れ な か った。 1-1-6 研究成果 上 述 の ご と く 、肺 の 呼 吸 圧 の 変 化 を 模 し た Wi lh el my 表 面 張 力 計 で ヒ ス テ レ ー シ ス 曲 線を測定することによって、いくつかの脂質混合系及び脂質-ペプチド混合系で、 S u r f a c t en と 比 較 し て 、 肺 サ ー フ ァ ク タ ン ト と し て の 可 能 性 を 示 す ヒ ス テ レ ー シ ス 曲 線を描くものを得た。 特 に 良 好 な ヒ ス テ レ ー シ ス 曲 線 を 描 く も の を い く つ か 選 ん で 、ラ ッ ト モ デ ル で の 肺 サ ー フ ァ ク タ ン ト 活 性 評 価 を す る こ と と し た 。選 択 と し て は 、原 料 が な る べ く 安 価 で あることを基準にした。次に選んだ系及びその略称を記す。 Mu ro su r f L ; O D - e gg P C - P A ( 3 5 :4 0: 25 ) Mu ro su rf S L; 水 素 添 加 大 豆 レ シ チ ン - 分 別 大 豆 レ シ チ ン P C7 0 D - P A ( 4 0 :4 0: 20 ) Mu ro su rf L P; OD - eg g P C - PA - He l 13 -5 ( 35 :4 0: 2 2. 5: 2. 5 ) Mu r os u rf S LP ; 水 素 添 加 大 豆 レ シ チ ン - 分 別 大 豆 レ シ チ ン P C 70 D - P A - H e l1 3 -5 ( 40 :4 0 :1 7. 5: 2. 5 ) Mu ro su rf S LP D3 ; 水 素 添 加 大 豆 レ シ チ ン - 分 別 大 豆 レ シ チ ン P C 70 D - P A - He l1 3- 5D 3 ( 40 :4 0: 17 . 5: 2. 5 ) な お 、赤 血 球 を 用 い て の ペ プ チ ド H e l1 3 -5 D 3 の 溶 血 活 性 は 、He l1 3- 5 と 比 べ て 4 ~ 8 倍 減尐した。 1-1-7 今後の課題と取り組み 我 々 の 選 択 し た 上 記 五 つ の 系 は 初 期 の 目 的 で あ る 安 価 な 脂 質 か ら 成 る 。一 方 、ペ プ チ ド に 関 し て は 脂 質 と 比 べ て 高 価 で あ る 。現 在 、こ れ ら ペ プ チ ド の 供 給 は 、ペ プ チ ド 自 動 合 成 機 に よ る 合 成 方 法 で 行 っ て い る 。 現 在 の と こ ろ 、今 回 開 発 さ れ た 肺 サ ー フ ァ ク タ ン ト で は 、 ペ プ チ ド の 脂 質 中 に 含 ま れ る 割 合 が 2 .5 %( 重 量 ) と 尐 な い た め 、 そ の 方 法 で の 供 給 は あ ま り 問 題 が な い 。 し か し 、 今 後 の PhaseⅠ 及 び そ の 後 に 要 求 さ れ る 量 的 供 給 の た め に は 、自 動 ペ プ チ ド 合 成 法 で は 、割 高 に な る と 考 え ら れ る 。な ぜ な ら 、 自 動 合 成 法 は 量 的 調 製 に は も と も と 向 か な い こ と 、及 び 、出 発 原 料 の 保 護 ア ミ ノ 酸 樹 脂 の 高 い こ と や 、自 動 合 成 の 際 の 固 相 樹 脂 へ の 反 応 性 を 完 全 に 近 付 け る た め に 、過 剰 の 保 護 ア ミ ノ 酸 な ど を 使 用 す る こ と な ど の た め で あ る 。そ こ で 、ペ プ チ ド を 安 価 で 大 量 供 給 す る た め に 、自 動 合 成 法 で は な く 、別 の 合 成 方 法 で あ る 液 相 法 の 選 択 が 、よ り ふ さ わ し い と 考 え ら れ る 。今 回 開 発 し た ペ プ チ ド は 構 成 ア ミ ノ 酸 が ロ イ シ ン 、リ ジ ン 、 ト リ プ ト フ ァ ン と 副 反 応 の 尐 な い ア ミ ノ 酸 を か ら 成 る た め 、液 相 法 で の 合 成 上 の ト ラ 15 ブルはないと考えられる。実際にこれらのアミノ酸を含むペプチドの合成例は多い。 現在これらペプチドの液相法での合成を検討している。 参考文献・引用文献 1. R.Veldhuizen, K. Nag, S. Orgeig, and F. Possmayer, Biochim. Biophys. Acta, 1408,90-108 (1998) 2. Perez-Gil, J., Keough, K. M. W., Bio chim. Biophys. Acta, 1408, 203- 217 (1998) 3. 李 相 男 、 杉 原 剛 介 ,柴 田 攻,雪竹 浩 、 特 願 2003-98607 (科 学 技 術 振 興 事 業 団 ) 4. Kiyota et al., Biochemistry, 35, 13196-13204 (1996) 5. Y.Shai, et al., J. Biol. Chem., 278, 21018 (2003) 6. Ma nu l 、 S. M. , e t a l. , Am . J . P hy s io l. Lu ng Ce l l M ol . P hy si o l. ,2 73 , 7 4 1 74 8 ( 19 97 ) 16 1 新たなる肺サーファクタント活性物質の探索とその評価 1-2 肺サーファクタントの動物実験 (in vivo)による 有効性、薬物動態,代謝評価 福岡大学病院総合周産期母子医療センター 室町ケミカル株式会社 1-2-1 企画課 講師 雪竹 浩 主査 中村幸弘 本研究部分の位置づけ 治 療 薬 剤 の 開 発 に あ た っ て は 、in vitro で の 検 討 に 続 い て 、動 物 モ デ ル を 用 い た in vivo の評価が必須である。本研究部分では、試験管レベルで有効性が評価された脂質混合系及 びペプチド混合系の肺サーファクタントとしての効果、薬物動態、代謝について動物モデ ルを用いて検討した。 1-2-2 目的及び目標 現 在 わ が 国 で 治 療 薬 剤 と し て 認 め ら れ て い る 肺 サ ー フ ァ ク タ ン ト は Surfacten の み で あ り、さらにその保険適応疾患は新生児呼吸窮迫症候群のみである。以上より本研究におい て は 、新 生 児 呼 吸 窮 迫 症 候 群 の 動 物 モ デ ル で あ る 肺 サ ー フ ァ ク タ ン ト 欠 乏 モ デ ル を 用 い て 、 我 々 が 新 規 開 発 し た 肺 サ ー フ ァ ク タ ン ト 、Sufacten お よ び 欧 米 で 開 発 中 の 肺 サ ー フ ァ ク タ ントの比較検討を行い、これらの先行肺サーファクタントと同等、または、それ以上の効 果のある新たな肺サーファクタントの開発を目標とした。また、肺サーファクタントの新 た な 効 果 と し て 喘 息 発 作 に 対 す る 効 果 が 報 告 さ れ (1)、新 た な 適 応 疾 患 と し て の 可 能 性 も 示 唆されている。本研究においても、動物を用いて喘息モデルを作成し、その効果の検討を 行い、有効性を得ることも目標とした。 1-2-3 実験方法及び実験条件 (1)肺サーファクタント欠乏動物モデルの実験条件および実験方法 成熟ウイスターラットに生理食塩水で肺洗浄を行い、肺サーファクタント欠乏モデルを 作 成 し た 。肺 サ ー フ ァ ク タ ン ト 欠 乏 モ デ ル に 対 し て は 、100% 酸 素 に よ る 人 工 換 気 下 に 、各 種の人工肺サーファクタントを気管内投与し、経時的に肺コンプライアンスを測定し、効 果 の 指 標 と し た ( 2、 3)。 人 工 サ ー フ ァ ク タ ン ト と し て は 、 Murosurf L、 Murosurf LP、 Murosurf SL、 Murosurf SLP 、 Murosurf SLPD3、 Murosurf SLPD5、 Exosurf、 Surfaxin お よ び Surfacten を 使 用 し 、投 与 量 は 120mg/kg と し た 。肺 コ ン プ ラ イ ア ン ス は 肺 洗 浄 前 お よ び 肺 洗 浄 後 180 分 ま で 測 定 し た 。 サ ー フ ァ ク タ ン ト の 効 果 は 洗 浄 後 ( サ ー フ ァ ク タ ン ト 投与前)の肺コンプライアンスを基準にして、サーファクタント投与後の肺コンプライア ン ス 回 復 率 で 検 討 し た 。 統 計 学 的 処 理 は Tukey-Kremer 法 を 用 い p<0.05 を 有 意 と し た 。 な お、肺コンプライアンス、肺コンプライアンス回復率は以下の式により求めた。 17 1) 肺 コ ン プ ラ イ ア ン ス = 1 回 換 気 量 ( ml) /気 道 圧 差 ( cmH 2 O) 2) 肺 コ ン プ ラ イ ア ン ス 回 復 率 = サ ー フ ァ ク タ ン ト 投 与 後 肺 コ ン プ ラ イ ア ン ス /肺 洗 浄 後 肺 コ ン プ ラ イ ア ン ス (2)喘息モデルの実験条件および実験方法 ブ ラ ウ ン ノ ル ウ ェ ー ラ ッ ト を 卵 白 ア ル ブ ミ ン( OVA)で 感 作 し 、OVA 吸 入 で 肺 抵 抗 が 上 昇 す る 喘 息 モ デ ル を 作 成 し た 。 Murosurf SL、 Murosurf SLP、 Murosurf SLPD3、 Surfacten を そ れ ぞ れ 0.1ml( 20mg/ml) 気 道 内 に 投 与 し て 前 処 置 を 行 っ た 後 に OVA を 吸 入 し 、 Giles ら の方法に準じて経時的に肺抵抗を測定した。肺抵抗亢進の抑制作用を指標として、喘息に 対 す る 効 果 を 検 討 し た (4)( 図 9 )。統 計 学 的 検 討 は Tukey-Kremer 法 に よ り 各 群 の 有 意 差 検 定 を 行 っ た ( p< 0.05)。 図9 喘息モデルにおける肺サーファクタントの肺抵抗亢進抑制実験の手順 18 (3)薬物動態、組織放射線濃度の実験条件および実験方法 主 成 分 で あ る DPPC の パ ル ミ ト イ ル 部 位 を 14 C で 標 識 化 し た Murosurf SLPD3 を 作 成 し 、 そ の 1ml( 40 mg/ml) を 経 気 道 的 に ウ イ ス タ ー ラ ッ ト の 肺 に 投 与 し た 。 血 中 濃 度 、 体 組 織 ( 肺 、肝 臓 、腎 臓 )濃 度 、脳 組 織 濃 度( 血 液 -脳 関 門 通 過 性 )の 放 射 能 濃 度 を 経 時 的 に 測 定 し、薬物動態を検討した。放射能濃度の結果は、投与放射能を標準化するため相対値(F 値)として表現した。 F 値(%) = {試 料 中 放 射 能 ( dpm) /資 料 重 量 ( g) }/{ 投 与 放 射 能 ( dpm) /体 重 ( g)} 1-2-4 実験結果 (1)肺サーファクタント欠乏モデルの実験結果 図 1 0 に 示 す よ う に 、 Murosurf SLPD3 は Surfacten に 比 し て 投 与 後 30 分 に お い て 有 意 に コ ン プ ラ イ ア ン ス 回 復 率 は 優 れ 、他 の 測 定 時 間 に お い て も 同 等 の 効 果 を 示 し た 。Murosurf SLP は 90 分 、120 分 の 測 定 値 を 除 き Surfacten と 同 等 の 効 果 を 示 し た 。Murosurf LP は 180 分 で Surfacten と 同 等 の 効 果 を 示 し た 。 Murosurf L Exsurf Murosurf SLPD3 Surfacten Murosurf SLPD5 c o mplian c e 回復率 1.8 1.6 サーファクタント 投与 # 1.4 * * * 1.2 Murosurf SL Murosurf SLP Murosurf LP Surfaxin * * * * 1 0.8 0.6 0.4 0.2 洗浄後 0分 30分 図10 60分 90分 120分 150分 180分 (min ) 肺サーファクタント欠乏動物モデルにおける各種サーファクタントの効果 「 #」は Surfacten よ り 有 意 に コ ン プ ラ イ ア ン ス 回 復 率 が 高 く 、 「 *」は Surfacten よ り 有 意 に コ ン プ ラ イ ア ン ス 回 復 率 が 劣 る こ と を 示 す 。 (2)喘息モデルの実験結果 サ ー フ ァ ク タ ン ト を 投 与 し て い な い コ ン ト ロ ー ル に 比 べ て Murosurf SL、Murosurf SLP、 Murosurf SLPD3、 Surfacten の い ず れ の サ ー フ ァ ク タ ン ト も 有 意 に OVA 誘 発 の 気 道 抵 抗 の 亢 進 を 、 OVA 投 与 後 45 分 ま で 抑 制 し た (図 1 1 )。 19 増加率(%) 肺抵抗測定 Murosurf SL Murosurf SLPD3 Surfacten 350 300 250 200 150 100 50 0 -50 Murosurf SL Control pre-0 pre-1 pre-2 1 5 10 15 30 45 60 90 120 150 180 210 240 270 300 Time(min) 図11 喘息モデルにおける各種肺サーファクタントの効果 (3)薬物動態、組織放射線濃度の実験結果 血 中 濃 度 は 投 与 後 6 時 間 を 最 高 値 と し て 以 後 緩 や か に 48 時 間 ま で 低 下 し た 後 に 、F 値 は 10 % 前 後 で 投 与 後 14 日 ま で 推 移 し た 。 こ れ は 三 菱 ウ ェ ル フ ァ ー マ 社 が 報 告 し て い る Surfacten と ほ ぼ 同 様 の 薬 物 動 態 で あ っ た (5)( 図 1 2 )。 組 織 濃 度 に 関 し て は 経 気 管 的 な 肺 投 与 で あ る が 、早 期 よ り 肺 以 外 に 肝 臓 、腎 臓 に も 比 較 的 高 濃 度 に 移 行 が 認 め ら れ た 。大 脳 、小 脳 の 濃 度 は 上 記 組 織 に 比 べ て 低 濃 度 で あ っ た( 図 1 3 )。 F値 (% ) 100 10 1 3h 12h 6h 24h (1日 ) 48h (2日 ) 168h ( 7日 ) 336h (14日 ) 時間 図12 Murosurf SLPD3 の 薬 物 動 態 、 血 中 放 射 能 濃 度 20 F値(%) 肺 肝臓 1000 腎臓 大脳 小脳 100 10 1 0 1 2 図13 1-2-5 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 d a y s Murosurf SLPD3 の 薬 物 動 態 、 組 織 放 射 線 濃 度 研究成果 (1)肺サーファクタント欠乏モデルにおける研究成果 ウイスターラットを用いて、肺サーファクタントの欠乏によって発症する新生児呼吸窮 迫症候群モデルを作成し、今回我々が開発した人工サーファクタントの効果を検討した。 比較対象としては、臨床で広く使用され、同疾患の治療薬として認められている唯一の薬 剤 で あ る Surfacten を 用 い た 。 ま た 、 サ ー フ ァ ク タ ン ト 無 投 与 群 に 対 し て も 実 験 を 行 っ た が、全例が死亡し、データ採取ができなかった。効果の指標としては、サーファクタント 欠乏によって低下する肺コンプラインアスを用いて、サーファクタント投与による回復を 肺コンプライアンス回復率として求めて検討した。大豆レシチンと D 体のペプチドを含む Muosurf SLPD3 は 、 投 与 後 30 分 よ り 全 実 験 経 過 を 通 じ て Surfacten よ り 有 意 に 優 れ た 効 果 を示した。 以上の、肺サーファクタント欠乏動物モデルにおける実験結果より、大豆レシチンと D 体 の ペ プ チ ド か ら な る Muosurf SLPD3 は 、 現 在 臨 床 で 使 用 さ れ て い る Surfacten よ り 優 れ た臨床効果が期待できると考える。 (2)喘息モデルにおける研究成果 Surfacten を は じ め と し て 幾 つ か の 人 工 サ ー フ ァ ク タ ン ト で 喘 息 発 作 に 対 す る 抑 制 効 果 が 報 告 さ れ て い る (2)。し か し な が ら 、コ ス ト・パ フ ォ ー マ ン ス や メ カ ニ ズ ム が 明 確 で な い た め 、 小 規 模 な 実 験 報 告 に 留 ま っ て い る 。 今 回 の 我 々 の 実 験 結 果 も 、 Surfacten と 同 等 の 喘 息 発 作 抑 制 効 果 を Murosurf SL、Murosurf SLP、Murosurf SLPD3 に 認 め た 。Murosurf SL 、 Murosurf SLP、 Murosurf SLPD3 は 従 来 の サ ー フ ァ ク タ ン ト に 比 べ て 安 価 に 製 造 が 可 能 で あ り、そのコスト・パフォーマンスを考慮すると、喘息治療薬としての開発も十分可能と考 21 え る 。 ま た 、 ペ プ チ ド を 含 ま な い Murosurf SL も 同 等 の 効 果 を 示 し た こ と は 、 サ ー フ ァ ク タントの喘息発作抑制効果のメカニズムを考える上で興味深い。 (3)薬物動態、組織放射線濃度実験における研究成果 ウ イ ス タ ー ラ ッ ト に お い て 、 Murosurf SLPD3 は Surfacten と 同 様 の 薬 物 動 態 を 示 し た こ と よ り 、 人 に 対 し て も Surfacten と 同 等 の 薬 物 動 態 で あ る と 考 え ら れ る 。 1-2-6 今後の課題と取り組み 今回の実験では、肺サーファクタントの欠乏によって発症する新生児呼吸窮迫症候群モ デ ル に お い て 、 大 豆 レ シ チ ン と D 体 の ペ プ チ ド を 含 む Muosurf SLPD3 は 、 現 在 臨 床 で 使 用 さ れ て い る Surfacten よ り 有 意 に 優 れ た 効 果 を 示 し た 。 喘 息 モ デ ル に お い て も Surfacten と 同 等 の 効 果 を 認 め た 。 放 射 性 同 位 元 素 を 用 い た 血 中 濃 度 、 組 織 移 行 は Surfacten と 同 様 の 結 果 を 示 し 、 人 に お い て も Surfacten と 同 様 で あ る こ と が 推 察 さ れ た 。 し か し な が ら 、 い ず れ の 実 験 で も 体 重 500g 前 後 の ラ ッ ト を 用 い て お り 、 人 に 使 用 す る 治 療 薬 開 発 に お い ては、より体重の大きな動物を用いての実験が必要と考えられる。また、未熟児に発症す る新生児呼吸窮迫症候群モデルとして成熟動物の肺洗浄によるサーファクタント欠乏モデ ルを用いたが、今後は動物の未熟児を用いて、より人の新生児呼吸窮迫症候群に近いモデ ルを作成し、その効果の検証が必要と考える。 参考文献・引用文献 1. Babu K.S., et al. Eur. Respir. J., 21,1046-1049 (2003) 2. 「 肺 表 面 活 性 物 質 の 現 在 」吉 田 清 一 編 ,真 興 亣 易 医 書 出 版 部 ,東 京 ,1990;Molecular Basis of Disease: Pulmonary Surfactant, ed., Riordan J. R., Biochim. Bi ophys. Acta, 1048,77-363( 1998) 3. Tooly W.H., et al. Am. Rev. Respir. Dis., 136,651-631 (1987) 4. Murai A.,et al. J. Pharmacology and Experimental Therapeutics , 312, 432-440 (2005) 5. 医 薬 品 イ ン タ ビ ュ ー フ ォ ー ム 「 Surfacten 」、 第 4 版 、 日 本 病 院 薬 剤 師 会 、 2004 22 2 安価な天然脂質(主として大豆レシチン)の有効脂質画分 及び投与製剤の製造及びその薬理効果 室町ケミカル株式会社 同 同 専務取締役 岩下定一 企画課 主査 中村幸弘 新規事業室 主査 河原政人 前川 2-1 忍 安価な医薬品の製造を目指して 現在上市されている医薬品には、その種類、用途によって大きな価格差が生じている。 医薬品が高額となる理由としては、以下のようにいろいろ考えられる。 1)創薬段階から前臨床、治験、製造承認申請まで時間と研究開発費がかかりすぎる 創 薬 段 階 : 2~ 3 年 ( 成 功 確 率 1/ 30,000) 前 ( 成 功 確 率 1/ 6,000) 臨 床 : 3~ 5 年 臨 床 ( 治 験 ) : 3~ 7 年 製 造 承 認 申 請 : 1~ 2 年 ( 成 功 確 率 1/ 5) 2 ) 特 許 保 護 期 間 が 20 年 に 設 定 さ れ て い る 化 合 物 の 段 階 か ら 特 許 出 願 を す る と 、上 市 後 数 年 で 特 許 保 護 期 間 が 切 れ て し ま う こ と が あ る 。従 っ て 、特 許 出 願 の タ イ ミ ン グ が 大 事 に な る が 、あ ま り 遅 く 特 許 出 願 を す る と 、機 密 条 項 が 漏 洩 す る お そ れ が あ る 。企 業 と し て は 早 い 時 期 に 特 許 出 願 を す る と こ ろ が 多 く な る 。こ の た め 、製 薬 メ ー カ ー と し て は 投 下 し た 開 発 費 を 早 急 に 回 収 す る ことになる。 3)原料に高価なものがあると、それがそのまま医薬品の価格に反映される 高価な原料、特殊な製法、複雑な工程で製造される医薬品 は高価にな ってしまう。 今現在、日本で使用されている肺サーファクタント製剤は三菱ウェルファーマ株式会社 の Surfacten の み で あ る 。 こ れ は 、 薬 価 で 109,544.40 円 ( 120 mg/vial) と 医 薬 品 と し て は 極 め て 高 価 な も の に な っ て い る 。原 因 と し て 1 )、2 )は も ち ろ ん で あ る が 、牛 肺 を 用 い る こ と 及 び そ の 製 剤 に 含 ま れ て い る 高 価 な DPPC を 添 加 す る な ど に よ り 、3 )も ま た 高 価 な 原因となっている。このため、当研究開発グループは安価な人工調製肺サーファクタント の製造を検討することとした。 2-2 プロジェクト全体における本研究開発部分の位置づけ 「安価な人工調製肺サーファクタント」の開発をめざして当研究開発グループはまずそ の 原 料 で あ る 脂 質 に 注 目 し た 。 高 価 な リ ン 脂 質 DPPC や PG に 代 わ る も の と し て 、 安 価 な 大 豆レシチンを使用すれば原料価格を抑えることができる。 安価な人工調製肺サーファクタントを製造するうえで、当研究開発グループにおいて室 町ケミカルが担当する項目は以下の通りである。 23 1)安価な天然脂質(大豆レシチン)の有効脂質画分の製造方法の確立 2 )人 工 調 製 肺 サ ー フ ァ ク タ ン ト 調 製 法 の ス ケ ー ル ア ッ プ と 安 定 微 粉 末 製 造 方 法 の 確 立 3 )依 託 に よ る モ ル モ ッ ト モ デ ル を 用 い た 動 物 実 験 に よ る 投 与 粉 剤 の 安 定 性 と 有 効 性 の 確認 2-3 目的及び目標 1 )天 然 脂 質 ( 主 と し て 大 豆 レ シ チ ン )は 、 様 々 な 画 分 と し て 市 販 さ れ て い る 。そ の 中 か ら 有 効 な も の を 選 び 出 し て 、 in vitro 実 験 や 動 物 実 験 サ ン プ ル と し て 供 す る と と も に 、有 効 な も の は そ れ を 製 剤 化 す る 。さ ら に 、独 自 に 分 別 す る こ と に よ り 有 効 画 分 を探索する。 2)投与粉剤の微細粉末の調製及び安定した製造方法を確立する 製 剤 の ス ケ ー ル ア ッ プ で は 、製 造 量 を 1 ロ ッ ト 10g 以 上 に ス ケ ー ル ア ッ プ を 目 標 と した。最終形態(粉末状)にするための手法の確立は、粉末状のサンプルを作成し、 生理食塩水への分散性を向上させる。粉末粒径をコントロールする手法を 検討する。 ス ケ ー ル ア ッ プ が 期 待 で き る サ ン プ ル 調 製 フ ロ ー を 作 成 し 、分 散 を 容 易 に す る た め に剤形を微細な粉末状にするような調製方法を検討する。 3)製造された人工調製肺サーファクタントを使って動物実験を行う 委 託 に よ る 動 物 実 験 で は 、 前 記 1 )、 2 ) に よ っ て 製 造 さ れ た 人 工 調 製 肺 サ ー フ ァ ク タ ン ト を 肺 サ ー フ ァ ク タ ン ト 除 去 モ ル モ ッ ト モ デ ル に 投 与 し 、肺 コ ン プ ラ イ ア ン ス の測定および、組織学的観察を行うことによって、肺機能の回復を評価する。 2-4 実験方法及び実験条件 2-4-1 安価な大豆レシチンの有効脂質画分の製造方法の確立 大豆レシチンは、辻製油株式会社製の水素添加大豆レシチン及び分別大豆レシチンを使 用した。水素添加大豆レシチンは飽和リン脂質としてそのまま使用した。分別大豆レシチ ン は PC の 含 有 量 に よ り PC-35、PC-55、PC-70 の 各 製 品 が あ る が 、そ れ ぞ れ の 有 効 性 を 評 価 す る た め 、 水 素 添 加 大 豆 レ シ チ ン -各 種 PC 製 品 -PA の 系 を 1 - 1 - 4 項 の ( 1 ) で 述 べ た 方 法 で 調 製 し 、 Wilhelmy 表 面 張 力 計 で そ れ ら の 表 面 張 力 -表 面 積 曲 線 ( ヒ ス テ レ ー シ ス 曲 線 ) を 測 定 し た 。 さ ら に 、 分 別 大 豆 レ シ チ ン PC-70 を 新 た に 分 別 し た 。 分 離 精 製 は 外 部 機 関で実施されたが、その機関は分別方法の公開することを好まなかったため、その機関か ら の 分 別 製 品 を 購 入 し た 。そ の 機 関 に お い て 、分 別 大 豆 レ シ チ ン PC70 は 、5 つ の 方 法 で 分 別 さ れ た た め 、そ れ ら を 分 別 1、2、3、4、5 と し た 。各 分 別 物 を そ れ ぞ れ 既 存 の 調 整 法( 1 - 1 - 4 項 の( 1 )参 照 )に よ り 、水 素 添 加 大 豆 レ シ チ ン - 各 分 別 物 1 ~ 5 - PA 混 合 系 と して調製し、上記同様にヒステレーシス曲線を測定した。 2-4-2 人工調製肺サーファクタント製剤の調製法 (1)スケールアップと剤形の微細な粉末化 1 ロットを 1 回の行程で作成でき、スケールアップが可能なことが期待できるサンプル 調 製 フ ロ ー 式 方 法 を 検 討 し た 。 サ ン プ ル は Murosurf SL を 用 い た 。 方 法 は 、 2L ナ ス フ ラ ス コ中のサンプルを、ロータリーエバポレーター・超音波分散機・低温凍結槽・凍結乾燥機 24 で 連 続 的 に 処 理( 以 下 フ ロ ー 式 と 呼 ぶ )し た 。サ ン プ ル 調 製 と ス ケ ー ル ア ッ プ お よ び の 最 後に微粉末化を行った工程の詳細を以下に示す。 ① 粉 末 原 料 を 秤 量 し 、 2L ナ ス フ ラ ス コ に 採 取 す る 。 ク ロ ロ ホ ル ム を 注 ぎ 、 室 温 で 3 分攪拌して混合液を得る。 ② ナ ス フ ラ ス コ を ロ ー タ リ ー エ バ ポ レ ー タ ー ( 東 京 理 化 器 械 ) に 取 り 付 け る 。 37℃ に湯浴し、回転させながら真空処理を行いクロロホルムを除去し、原料混合液を フ ラ ス コ 内 で フ ィ ル ム 状 に 乾 燥 さ せ る 。乾 燥 後 、さ ら に 3 分 間 の 真 空 処 理 を 行 い 、 クロロホルム蒸気を除去する。 ③超純水を注ぎ、室温で1時間攪拌して原料を分散させ、分散液を得る。 ④ 分 散 液 を 氷 冷 し な が ら 超 音 波 分 散 機 ( ※ ) で 5~ 10 分 超 音 波 処 理 す る 。 ⑤ 分 散 液 を 低 温 恒 温 槽( ヤ マ ト 科 学 )を 用 い て -30℃ 雰 囲 気 下 で フ ィ ル ム 状 に 予 備 凍 結する。その後、凍結乾燥機(東京理化器械)で1日乾燥し、乾燥ペレットを得 る。 ⑥乾燥ペレットに窒素ガスを噴射して散らし、乾燥微紛末状のサンプルとする。窒 素ガスの噴射装置は窒素ガス圧力ボンベにチューブと注射針を自前で接続したも ので、ガスは注射針から噴射させる。 微粉末をバイアルに分取し、窒素ガスでパージしながら密封して低温で保存する (2)生理食塩水への分散を改善する方法 肺サーファクタントにおいては、均一なエマルジョンを作るために、製剤の生理食塩水 への分散をより容易にし、分散し切れない塊の発生を極力防ぐ必要がある。そこで、市販 の 分 散 剤 を 使 用 し て 分 散 化 を 試 み た 。 肺 サ ー フ ァ ク タ ン ト と し て は Murosurf SL を 用 い 、 それを市販分散剤と混合したのち、上記連続フロー式で調製を行った。分散剤の添加する 量 は 粉 末 原 料 総 量 の 10%と し た 。 2-4-3 委託業者によるモルモット動物実験とその評価方法 (1)実験動物の飼育管理法 動物入荷後 6 日間以上を検疫期間とし、この間に毎日の一般状態の観察と週 2 回以上の 体重測定を実施して、健康と思われる動物を検疫より開放し試験に供する。検疫開放以後 から群分け前の飼育期間についても、毎日の一般状態の観察と週 2 回以上の体重測定を実 施する。群分け以後は毎日の一般状態の観察と体重測定を実施する。 体重を測定し、重いものから順に使用する。各群の割り付けは体重値が均等になるよう に以下のように振り分ける。1 日の実験匹数は 6 匹とする。予備動物は安楽死させる。 25 体重高 体重低 実験日1 対照群 被験物質1群 被験物質2群 陽性対照群 対照群 被験物質1群 実験日2 被験物質1群 対照群 被験物質1群 被験物質2群 陽性対照群 対照群 実験日3 被験物質2群 陽性対照群 対照群 被験物質1群 被験物質2群 陽性対照群 実験日4 陽性対照群 被験物質2群 陽性対照群 対照群 被験物質1群 被験物質2群 飼育環境は以下の通りとする。 飼育ケージ ア ル ミ ニ ウ ム 製 ケ ー ジ ( W350×H350×D500mm) 収容動物数 1 ケ ー ジ 当 た り 1~ 5 匹 温度 24C( 許 容 範 囲 21~ 27C) 湿度 55%( 許 容 範 囲 35~ 75%) 照明 午 前 7 時 点 灯 、 午 後 7 時 消 灯 の 12 時 間 換気回数 10~ 13 回 /時 ( 許 容 範 囲 10~ 20 回 /時 ) 飼料 固 形 飼 料 RC4( オ リ エ ン タ ル 酵 母 工 業 社 製 ) (2)モデルの作成 投与は気管内カニュレーションを介してチューブを挿入する。なお、投与は飽食下で行 う 。モ ル モ ッ ト を ウ レ タ ン( 1.2g/kg)の 腹 腔 内 投 与 に て 麻 酔 下 に て 気 管 に カ ニ ュ ー レ 挿 入 す る 。 気 管 カ ニ ュ ー レ を 2 方 向 に 分 岐 さ せ 小 動 物 用 人 工 呼 吸 器 に 接 続 し 100% 酸 素 、 吸 気 時 間 : 0.5 秒 、 流 量 : 8L/分 、 換 気 回 数 : 50 回 /分 圧 、 呼 気 終 末 圧 : 4cmH 2 O、 最 大 吸 気 圧 : 16cmH 2 O よ り 開 始 。一 回 換 気 量:10ml/kg( 8~ 12ml)に な る よ う に 調 節 。一 回 換 気 量:10ml/kg ( 8~ 12ml)に な る よ う に 5~ 10 分 ご と に 最 大 吸 気 圧 を 調 節 人 工 換 気 す る 。肺 コ ン プ ラ イ ア ン ス の 測 定 方 法 に お け る 前 値 の 測 定 後 す み や か に 、 気 管 支 肺 胞 洗 浄 液 ( Bronchoalveolar lavage fluid、 以 下 BALF と 省 略 ) 採 取 を 行 う 。 そ の 後 、 1 回 10ml/kg の 生 理 食 塩 液 に て 残 り 3 回肺洗浄(合計 4 回)を行い、サーファクタントを速やかに除去しコンプライアンス の 低 下 を 確 認 す る 。BALF 採 取 は 肺 コ ン プ ラ イ ア ン ス の 測 定 前 1 回 お よ び 静 肺 コ ン プ ラ イ ア ン ス 測 定 後 の 合 計 2 回 と す る 。 採 取 し た BALF は 炎 症 性 細 胞 数 の 評 価 を 行 う 。 (3)肺コンプライアンスの評価法 肺コンプライアンスとは肺の柔らかさ(伸びやすさ)を示す指標で、肺サーファクタン ト の 欠 乏 に よ り 肺 コ ン プ ラ イ ア ン ス は 低 下 す る 。測 定 は Power Lab で 行 い 、BALF 採 取 前( 前 値 )、サ ー フ ァ ク タ ン ト 投 与 終 了 後 15、30、45 及 び 60 分 後 の そ れ ぞ れ の 時 間 に 一 回 換 気 量 と 圧 差 ( 最 大 吸 気 圧 -呼 気 終 末 圧 ) を 記 録 し 、 以 下 の 式 で 求 め た 。 肺 コ ン プ ラ イ ア ン ス ( ml/cmH 2 O) = 一 回 換 気 量 ( ml) /圧 差 ( 最 大 吸 気 圧 - 呼 気 終 末 圧 ) 26 (4)モルモット肺における組織学的検討 モルモットに肺洗浄を行い、肺サーファクタント欠乏モデルを作成する。生理食塩水 ( N=5)、Murosurf SL( N=5)、Surfacten( N=5)を 投 与 し て 人 工 換 気 を 行 っ た 後 に 肺 を 摘 出 し、それぞれ右葉、左葉を摘出しヘマトキシン・エオジン染色を行い組織学に検討した。 検討項目は肺胞内の、硝子膜形成、浮腫、炎症細胞浸潤とした。 なお、硝子膜、浮腫に関しては下記の基準で判定した。 -: 無し ±: あまり認められない +: 一部に認められる ++: 1/2~ 1/3 の 部 分 に 認 め る +++: 全体に認める 炎 症 細 胞 浸 潤 に 関 し て は 、組 織 球 系( H)、リ ン パ 球 系( L)、分 葉 核 系( N)の 3 種 類 の 細 胞のいずれが優位に肺胞浸潤しているかで判定した。 2-5 実験結果 2-5-1 安価な大豆レシチンの有効脂質画分の製造 安価で有効な主要脂質成分の探索の結果、福岡大学にて卵黄レシチンの代わりに大豆レ シ チ ン を 用 い た 系 が 確 立 さ れ た 。そ の と き の 大 豆 レ シ チ ン は 辻 製 油 社 製 の 製 品 を 用 い た が 、 その会社での各種レシチン製品の製造工程を図14に示す。また、その中で、肺サーファ ク タ ン ト 脂 質 と し て 、 製 品 の 組 成 の 確 立 さ れ て い る 水 素 添 加 大 豆 レ シ チ ン (SLP ホ ワ イ ト ) 及び分別大豆レシチンを選択した。分別大豆レシチンには精製度の違いによって、様々の 組 成 物 製 品 が あ る ( 表 2 )。 図14 各種レシチン製品の流れ(辻製油株式会社による) 27 表2 項 目 辻製油社製の大豆レシチンの組成および特性 高純度粉末レシチン PC - 35 PC - 55 PC - 70 卵黄レシチン PC 24~32 35~42 55~62 65~75 66~76 PE 20~28 8~13 13~18 10~15 15~24 PI 12~20 1~3 2~4 trace PA 8~15 1~3 2~4 1~3 ペースト状 レシチンよ り流動性が よく、油系 での使用が 容易であ る。 水、油両系 での使用が 容易であ る。 PC含量が最 も高く、 水、油両系 での使用が 容易であ る。 \3,500 \5,500 \14,000 リン脂質組成(%) 特 性 小麦粉等の粉体と直 接混合して利用で き、水、油両系での 使用が容易である。 Kg単価 \1,300 \200,000 分 別 大 豆 レ シ チ ン は 着 色 し て お り 、PC 含 有 量 の 低 い も の は 茶 褐 色 で あ り 、精 製 度 が 高 く なるにつれて色味が薄くなり淡黄色に近くなる。これら分別大豆レシチンを用いた脂質混 合 系 の ヒ ス テ レ ー シ ス 曲 線 を 図 1 5 に 示 す 。こ の 図 か ら も 明 ら か な よ う に PC 含 有 量 が 増 加 するにつれて、良好な曲線を描くことが分かった。 80 70 Surface Tension / mN m -1 PCホワイト PC-35 60 PC-55 PC-70 50 40 30 20 10 0 20 40 60 80 100 Area / % 図15 レシチン含量の異なる分別大豆レシチンを用いた脂質混合系のヒステレーシス 曲 線 ( 各 サ ン プ ル : 水 素 添 加 大 豆 レ シ チ ン - 各 大 豆 レ シ チ ン - PA( 40:40:20)) 28 特 に 、 PC-70 は OD- eggPC- PA( 35:40:25) 系 に 匹 敵 す る 良 好 な 曲 線 を 描 い た 。 そ こ で 、 市 販 さ れ て い る 分 別 大 豆 レ シ チ ン PC70( 淡 黄 色 )を 更 に 脱 色 で き れ ば 、前 述 の ヒ ス テ レ ー シ ス カ ー ブ が よ り 良 い 形 状 を 描 く の で は な い か と 考 え 、分 別 大 豆 レ シ チ ン PC70 を 更 に 分 別 した。 ま ず 分 別 大 豆 レ シ チ ン PC70 を 高 速 液 体 ク ロ マ ト グ ラ フ ィ ー と ゲ ル ろ 過 ク ロ マ ト グ ラ フ ィ ー で 分 離 精 製 を 試 み た が 、う ま く 分 離 が で き な か っ た 。そ の た め 、分 別 大 豆 レ シ チ ン PC70 の分別手法は、脂質の分離抽出に実績のある外部機関で実施した。 分 離 精 製 は 、5 つ の 異 な っ た 方 法 で 行 わ れ た( 図 1 6 、分 別 1 ~ 5 )。そ れ ら 各 サ ン プ ル の ヒ ス テ レ ー シ ス 曲 線 を 、水 素 添 加 大 豆 レ シ チ ン - 分 別 1~ 5- PA( 40:40:20)の 系 で 測 定 したところ、分別1~4 の系では、高活性肺サーファクタントが示す曲線と同等であった が、分別 5 は良好でなかった。前者はわずかに微黄色であり、後者は、分別前より着色が ひ ど く な っ て い た 。ヒ ス テ レ ー シ ス 曲 線 の 良 か っ た 分 別 1~ 4 の う ち 、分 別 3 を 分 別 大 豆 レ シ チ ン PC70D と 命 名 し 、 in vivo 動 物 実 験 に 用 い た 。 こ の 用 い た 系 は 、 前 章 に 述 べ た 高 活 性大豆脂質混合肺サーファクタントの主要成分となっている。 図16 分 別 大 豆 レ シ チ ン PC70 の 更 な る 分 別 29 80 分別1 分別2 分別3 分別4 分別5 Surface Tension / mN m -1 70 60 50 40 30 20 10 20 40 60 80 100 Trough Area (%) 図17 分 別 大 豆 レ シ チ ン PC70 を あ る 精 製 分 離 法 で 分 別 し た 各 分 別 の ヒ ス テ レ ー シ ス 曲 線 ( 各 サ ン プ ル : 水 素 添 加 大 豆 レ シ チ ン - 分 別 1~ 5- PA( 40:40:20)) 2-5-2 人工調製肺サーファクタントの調製方法 (1)スケールアップと剤形の微細な粉末化の結果 肺サーファクタント製造で大切なことは、最終的肺投与の際、均一の脂質エマルジョン を 調 製 す る こ と に あ る 。 大 き い 固 ま り ( 約 10μ m) 等 が 存 在 す る と 、 気 管 支 を つ ま ら せ て しまからである。一般に、脂質(あるいはペプチドを含む)混合系を、クロロホルムなど の有機溶媒にとかし、その後、有機溶媒をロータリーエバポレーターなどで飛ばし、脂質 薄膜を形成させ、それに水を加えて、エマルジョンにするのであるが、その際,薄い均一 な 薄 膜 ほ ど 、均 一 エ マ ル ジ ョ ン が で き や す い 。実 験 室 レ ベ ル( mg オ ー ダ ー )で の 薄 膜 の 均 一な調製は比較的容易であるが、量的な調製にはしばしば困難が伴う。過去、場合によっ ては、エマルジョン調整後、絹ごしなどの方法を用いて均一化を図っていた。 現在では、実験部分(2-4-2項)で示した取り組みの結果、均一エマルジョンとし て 、1 ロ ッ ト 2g ま で の ス ケ ー ル ア ッ プ が 可 能 と な っ て い る 。1 ロ ッ ト 2g 調 製 時 の サ ン プ ル 調 製 フ ロ ー を 行 な っ た と き の 、 Murosurf SLPD3 に お け る 原 料 の 一 覧 表 と そ の 収 量 を 表 3 に 示す。このフロー式の主な利点として、原料のロスが尐ないこと、操作に熟練を必要とし ない点、またサンプル調製毎に機器の設定を微修正する必要が無いためサンプル間のばら つきが抑えられることが挙げられる。 こ の フ ロ ー 式 方 法 の 課 題 は 、ス ケ ー ル ア ッ プ が 1 ロ ッ ト 2g ま で に 留 ま っ て い る 点 に あ る 。 フロー式でのロータリーエバポレーターの使用目的は、混合した原料をフラスコ内にフィ ルム状に広げて乾燥させ、そこからクロロホルムを除去することである。しかしラボスケ 30 表3 サンプル調製フローで用いた原料および最終製品の収量 原料 2g 調 製 時 の 原 粉末原料の重量比 料使用量 粉末原料 水 素 添 加 大 豆 レ シ チ ン ( 辻 製 油 SLP- 800mg 40 分 別 大 豆 レ シ チ ン PC70D 800mg 40 パ ル ミ チ ン 酸( シ グ マ ア ル ド リ ッ チ ジ 400mg 20 合 成 ペ プ チ ド Hel13-5D( 福 岡 大 学 ) 50mg 2.5 粉末原料合計 2050mg 102.5 (添 加 剤 ) (別紙2参照) (200mg) (10) 溶剤 クロロホルム(和光純薬) 120ml 分散溶媒 純水 100ml ホ ワ イ ト H) ャパン) 実 際 の 調 製 に お け る 最 終 収 量 (収 率 ) 1400mg (70%) ー ル の ロ ー タ リ ー エ バ ポ レ ー タ ー ( フ ラ ス コ 容 量 最 大 2L 前 後 ) で は 、 2g 以 上 の 量 の サ ン プルを扱うとフラスコ内面積が不足し、原料の一部がフィルム状に広がらず、そのため高 粘 度 で 水 に 難 溶 性 の 塊 と な っ て 、 中 に ク ロ ロ ホ ル ム を 封 じ 込 め て し ま う 。 10L 以 上 の 巨 大 なフラスコが扱える、既製品の大容量ロータリーエバポレーターであれば、この課題を克 服できる可能性がある。 サンプル調製フロー式による最終工程で、クロロホルム除去後の乾燥ペレットに、窒素 ガスを噴射して散らし、乾燥微紛末状のサンプルとする手法を用いた。それによって、サ ンプルを乾燥した微紛末状にすることができた。得られた粉末を生理食塩水に懸濁させる と 、開 発 初 期 の サ ン プ ル に 比 べ 、は る か に 容 易 に 分 散 し た 。分 散 し 切 れ な い 塊 は 残 っ た が 、 初 期 サ ン プ ル に 比 べ 尐 な く 、 ま た 小 さ い も の で あ っ た 。 さ ら に こ の 塊 は 、 Surfacten の 処 方箋に記載されているものと同じ操作である、注射針での吸引排出操作を行うことによっ て、ほぼ消失した。 この方法の主な利点は、粘性が高い原料からなるサンプルを、スケールの大小を問わず 短時間で細かい乾燥粉末にできる点、また多くの造粒・粉末化方法と違いサンプルを常に 室温以下の温度で扱うことができる点にある。しかし、粉末の粒径をコントロールできな い点、粉末の生理食塩水への分散がまだ理想的とは言えない点が、今後対応していかなく てはならない問題であると考えられる。 (2)生理食塩水への分散を改善する方法についての検討 薬品業界などでは、原料に添加することで、薬剤等製品の粉末化や溶液への分散を促進 する試薬群が知られている。そこで、それらの試薬を複数選定し、人工調製肺サーファク タ ン ト の 原 料 に 加 え サ ン プ ル 調 製 を 試 行 し た 。肺 サ ー フ ァ ク タ ン ト サ ン プ ル に Murosurf SL を用いて、添加を試行した試薬の一覧を表4に記載する。 31 試行した試薬群の中で、ショ糖ステアリン酸エステルのみが、サンプルの微紛化を容易 とし、生理食塩水への分散性を向上させる効果が見られた。さらに、生理食塩水に分散後 の、分散液の不均一化を押さえる傾向も見られた。それ以外の試薬では、尐なくとも外観 上では有益と感じられる効果は見られなかった。 表4 粉化や分散を容易にする添加剤として使用した試薬の一覧 試薬 備考 α -シ ク ロ デ キ ス ト リ ン 難溶性医薬品を水系溶液へ溶解させる (シグマアルドリッチジャパン) L-ア ル ギ ニ ン (シグマアルドリッチジャパン) クエン酸ナトリウム (和光純薬) 塩化カルシウム (和光純薬) メチルセルロース (和光純薬) アルギン酸ナトリウム (和光純薬) プロピレングリコール (和光純薬) ショ糖ステアリン酸エステル (三菱化成フーズ) 2-5-3 ため用いられる溶解補助剤として利用 難溶性医薬品を水系溶液へ溶解させる ため用いられる溶解補助剤として利用 難溶性医薬品を水系溶液へ溶解させる ため用いられる溶解補助剤として利用 難溶性医薬品を水系溶液へ溶解させる ため用いられる溶解補助剤として利用 乳化剤 造粒乾燥で用いられるバインダー 乳化剤 造粒乾燥で用いられるバインダー 難溶性医薬品を水系溶液へ溶解させる ため用いられる溶解補助剤として利用 界面活性剤の粉体化および水系溶液へ の 分 散 を 補 助 す る 目 的 で 、万 有 製 薬 で 試 験された旨の資料あり 製造された人工調製肺サーファクタント製剤を使用しての動物実験の結果 (1)モルモットモデルでの肺コンプライアンスの結果 各 種 の サ ー フ ァ ク タ ン ト 投 与 後 60 分 間 の 人 工 換 気 を 行 い 、そ の 後 、組 織 学 的 検 討 を お こ な っ た 。Control 群 は 生 理 食 塩 水 を 2ml、Murosurf SL は 40mg/ml を 2ml、Surfacten は 30mg/ml を 2ml 投 与 し た 。Murusurf SL の 投 与 量 は 予 備 実 験 に よ る 最 適 投 与 量 を 、Surfacten は 実 際 にヒトで用いられている投与量で実験を行った。福岡大学で同様に処理されたラットモデ ル 実 験 で は 、肺 洗 浄 に よ り コ ン プ ラ イ ア ン ス は 洗 浄 前 の 30~ 20% の 値 ま で 低 下 し 、コ ン ト ロ ー ル 群 は 全 例 死 亡 し た が 、今 回 の 実 験 で は 洗 浄 前 の 60% 以 上 の コ ン プ ラ イ ア ン ス を 示 し ており、コントロール群は全例生存のみならず、コンプライアンスの値も陽性コントロー ル で あ る Surfacten と 大 き な 差 は 認 め な か っ た( 図 1 8 )。試 さ れ た Murosurf SL に お い て は、投与初期からコンプライアンスの低下がみられ、後には、対照群よりも悪いコンプラ イアンス値を示した。効能が対照群よりも悪くなることは考えられず、以上のことより、 今回の実験では、肺洗浄が十分でなく目的とする肺サーファクタント欠乏モデルが作成で きていない可能性が考えられる。再度実験を行う必要があると判断する。 32 Compliance (ml/pressure) 0.40 0.30 0.20 対照群 Murosurf SL 0.10 Surfacten 0.00 pre BALF後7min 投与前 15min 30min 45min 60min 時間 図18 モルモットによる肺サーファクタント欠乏モデルのコンプライアンス (2)モルモット肺における組織学的結果 肺 サ ー フ ァ ク タ ン ト の 欠 乏 し た 新 生 児 呼 吸 窮 迫 症 候 群 で は 、肺 胞 で の 硝 子 膜 形 成 、出 血 、 浮腫、炎症細胞の浸潤が認められ、サーファクタントの補充によりこの程度は軽減すると さ れ て い る 。 今 回 の 検 討 で は 、 Surfacten 投 与 群 が 硝 子 膜 形 成 、 出 血 、 浮 腫 の 程 度 が 最 も 軽 く Murosurf SL、 Murosurf SLPD3 で は コ ン ト ロ ー ル 群 と 同 様 の 組 織 学 的 変 化 を 認 め 、 Murosurf SL、 Murosurf SLPD3 の 有 効 性 を 確 認 で き な か っ た ( 表 5 )。 ま た 、 新 生 児 呼 吸 窮 迫 症 候 群 で は 、 通 常 リ ン パ 球 浸 潤 が 起 こ る と さ れ て い る が 、 Murosurf SL、 Murosurf SLPD3 投与群で組織球の浸潤をみとめており、検討を要す。なお、今回の実験では、サンプルの 調整やモデル作成に不備があった可能性が高く再度実験を行う必要があると考える。 2-6 研究成果 1)安価な天然脂質(大豆レシチン)の有効脂質画分の製造方法の確立 辻 製 油 社 製 の 水 素 添 加 大 豆 レ シ チ ン 、分 別 大 豆 レ シ チ ン の 使 用 お よ び 分 別 大 豆 レ シ チ ン を さ ら に 精 製 し た 系 か ら 、肺 サ ー フ ァ ク タ ン ト に 有 効 な 脂 質 画 分 、分 別 大 豆 レ シ チ ン PC70D が 得 ら れ た 。 2)調製肺サーファクタント調製法のスケールアップ 今 回 は 2 リ ッ ト ル ナ ス フ ラ ス コ を 用 い て 、我 々 の 連 続 フ ロ ー を 使 用 し た 結 果 、肺 サ ーファクタント投与の際に要求される均一エマルジョンの作成のための肺サーファ ク タ ン ト 微 細 粉 末 を 最 大 2g 製 造 可 能 で あ っ た 。 33 表5 モルモット肺洗浄液における組織学的観察 生 理 食 塩 水 投 与 ( N=4) No 1 右肺 No 2 左肺 No 3 No 4 右肺 左肺 右肺 左肺 右肺 左肺 硝子膜形成 + + - ± - ± ± ± 出血 - + ± - ± ++ ± ++ 浮腫 ± + ± ++ - ++ ± ++ L>H>N L>H>N L>H>N L>H>N H>L>N H>L>N 炎症細胞浸 潤 L >H>N L>H>N Murosurf SL 投 与 (N=4) No 5 No 6 No 7 No 8 右肺 左肺 右肺 左肺 右肺 左肺 右肺 左肺 硝子膜形成 ± + ± ± ± ± ± + 出血 ± ± ± ± ± ± ± ± 浮腫 + + + + ± ++ ++ ± H>L>N H>L>N H>N>L H>L>N L>H>N N>H>L H>L>N H>L>N 炎症細胞浸 潤 Murosurf SLPD3 投 与 (N=2) No 9 No 10 右肺 左肺 右肺 左肺 硝子膜形成 + + ± ± 硝 子 膜 、浮 腫 に 関 し て は 下 記 の 基 準 で 判 定 出血 - - - ± した。 浮腫 ++ + ± + L>H>N L>H>N H>L>N L>H>N 炎症細胞浸 潤 (注釈) -:無し ±: あ ま り 認 め ら れ な い +:一部に認められる + + : 1/2~ 1/3 の 部 分 に 認 め る +++:全体に認める Surfacten 投 与 (N=2) No 11 No 12 右肺 左肺 右肺 左肺 炎 症 細 胞 浸 潤 に 関 し て は 、 組 織 球 系 ( H)、 硝子膜形成 - - - ± リ ン パ 球 系 ( L)、 分 葉 核 系 ( N) の 3 種 類 出血 - - ± + の細胞のいずれが優位に肺胞浸潤してい 浮腫 - - ± L>H>N L>H>N H>L>N 炎症細胞浸 潤 るかで判定した。 H>L>N 34 3 )依 託 に よ る モ ル モ ッ ト モ デ ル を 用 い た 動 物 実 験 に よ る 投 与 粉 剤 の 安 定 性 と 有 効 性 の 確認 モ ル モ ッ ト モ デ ル を 用 い て 試 み た が 、委 託 業 者 の モ デ ル 動 物 作 成 に 不 備 が あ っ た 可 能性が高く、再検討する必要がある。 当 該 研 究 開 発 は 、平 成 16 年 4 月 1 日 か ら 平 成 18 年 3 月 31 日 に か け て の 2 年 間 福 岡 大 学 理 学 部 、福 岡 大 学 医 学 部 、室 町 ケ ミ カ ル 株 式 会 社 の 協 力 で 実 施 さ れ た 。当 初 目 標 と 比 べ て 、 計画の見直しや軌道修正があったものの、おおよその今後の方針が見出せたことは成果と して考えていいと思われる。 2-7 残された課題とそれに対する今後の取組 (1)分別方法についての検討結果と今後の取り組み 現在、分離精製を実施した外部機関に分別方法の公開を求めている。しかし、その分別 方法に特許性が存在するのであれば、特許自身の取得までを含めた検討を行っている。今 後、外部機関と更なる議論を持って、分別方法の取得を目指す。 また、本研究においても引き続き分離精製の手法確立を目指すべく、独自の分離精製法 をラボスケールから開発する。 (2)スケールアップ、剤形を微細な粉末状にすることについての課題と今後の取り組み ラ ボ ス ケ ー ル の ロ ー タ リ ー エ バ ポ レ ー タ ー で は 1 ロ ッ ト 2g が 限 度 と な っ て い る 。打 開 策 として、コストはかかるがさらに巨大な工業用のロータリーエバポレーターの試用や、部 分的に、または全てにおいて別種の装置を用いたフローの再構築を考えている。これらは 当社内の設備やラボスケールの機器では試行できないため、機器メーカー各社からの装置 借り入れや試験依託が不可避となる。 具 体 的 に は 、① 容 器 容 量 が 最 大 で 100L 前 後 と な る 大 量 処 理 用 ロ ー タ リ ー エ バ ポ レ ー タ ー ( 東 京 理 科 器 械 )や 、② 大 容 量 の 真 空 攪 拌 乾 燥 装 置( 株 式 会 社 ダ ル ト ン )、③ 有 機 溶 剤 対 応 の噴霧乾燥装置(ヤマト科学)などの、借り入れまたは試験依託を検討している。ロータ リーエバポレーターの限界を補う方法についても、可能性は皆無ではないと考えられるた め、現在も機器メーカーに問い合わせ探索中である。 剤形を粉末状にすることに関して、噴霧乾燥や凍結粉砕の手法を用いれば、より微細で 粒径が管理された粉末を得られる可能性がある。これらは当社内の設備やラボスケールで の機器では試行できないため、スケールアップに対する取り組みと同様、機器メーカー各 社からの装置借り入れや試験依託が不可避となる。具体的には、①有機溶剤対応の噴霧乾 燥装置(ヤマト科学)の借り入れや試験依託、②凍結粉砕の試験依託(リキッドガス)な どを検討している。このうちヤマト科学の噴霧乾燥装置は、前出のスケールアップに対す る対応を兼ねることになる。 今後の取り組みとして、人工調製肺サーファクタントの製剤化については、①現在構築 しているフローをより大きなスケールで実行できる機器の入手、②動物試験の結果が良好 であること、以上 2 点の条件が満たされれば、さらに扱いやすい品質のサンプルを、より 大きなスケールで量産する態勢づくりに取り組む必要がある。 35 (3)動物実験の結果を踏まえて、残された課題と今後の取り組み 我々の研究結果は医薬品開発のためのルートでいうと現在非臨床試験の評価を受ける前 の デ ー タ の 蓄 積 の 段 階 で あ る 。 こ れ ら 肺 サ ー フ ァ ク タ ン ト モ デ ル 混 合 物 ( Murosurf SL 及 び SLP、 SLPD3) の Phase I を 目 指 し て 今 後 、 毒 性 試 験 、 性 能 試 験 及 び 安 定 供 給 の た め の 製 剤化とその安定性試験を実施する。この部分をクリアした後は、十分な医薬品の製造能力 を有し、かつ広範囲な販売能力を持つ医薬品製造会社と共同で、厚生大臣への治験計画の 届け出をしたい。 36 【成果実績】 1) 口頭発表 テ ー マ : 低 コ ス ト 脂 質 及 び 脂 質 -ペ プ チ ド 混 合 系 肺 サ ー フ ァ ク タ ン ト の 開 発 発 表 学 会 : 第 78 回 日 本 生 化 学 会 年 会 (神戸) 日 時 : 平 成 17 年 10 月 19 日 2. 著者名:中村幸弘、雪竹 浩、李 相男 テ ー マ : 低 コ ス ト 脂 質 及 び 脂 質 -ペ プ チ ド 混 合 系 肺 サ ー フ ァ ク タ ン ト の 開 発 発 表 学 会 : 第 42 回 日 本 ペ プ チ ド 討 論 会 (大阪) 日 時 : 平 成 17 年 10 月 29 日 3 .著 者 名 : 雪 竹 浩、中村幸弘、李相男 テーマ:大豆レシチンと新しいペプチドを用いた完全合成サーファクタント 発 表 学 会 : 第 41 回 日 本 界 面 医 学 会 (横須賀) 日 時 : 平 成 17 年 11 月 5 日 4.著者名:雪竹 浩、中村幸弘、李相男 テーマ:新しい脂質系と合成ペプチドを用いた肺サーファクタントの開発 発 表 学 会 : 第 50 回 日 本 未 熟 児 新 生 児 学 会 (名古屋) 日 時 : 平 成 17 年 12 月 4 日 2)雑誌掲載 1. Y. Nakamura, K. Yukitake, S. Lee テ ー マ : Development of low cost pulmonary Surfactant composed of a mixture of lipis or lipis -peptide 2005 雑 誌 名 、 巻 , 頁 ,( 発 行 年 ): Peptide Science (Ed., T. Wakamiya) ,81p(2006) 2. 著 者 名 : Nakahara, H., Nakam ura, S., Lee, S., Sugihara, G., and Shibata, O. テ ー マ : Influence of a new amphiphilic peptide with phospholipids monolayers at the air-water interface。 雑 誌 名 、 巻 , 頁 ,( 発 行 年 ): Colloids and Surfaces A, Phys. Eng., 270 -271,52-60. 3. 著 者 名 : Nakahara, H., Nakamura, S., Hiranita, T., Kawasaki, H., Lee, S., Sugihara, G., and Shibata, O. テーマ: -helical peptide with phosphatidylcholines at air water interface 雑 誌 名 、 巻 , 頁 ,( 発 行 年 ): Langmuir, 22,1182-1192 (2006) 37 3. 特 許 1. テ ー マ : Artificial Palmonary Surfactant 特 許 番 号:US patent application number No, 60/566088( American Patent Office) 発 明 及 び 申 請 者 : S. Lee, K. Yukitake, 申請年月日: 2004. 4. 29 内 容 : Murosurf L 及 び Murosurf 2. and Y. Nakamua LPを 中 心 と し て テ ー マ : Artificial lung surfactant composition and method of the s ame 発 明 者 : S. Lee, K. Yukitake, Y. Nakamura. PTC出 願 : PTC int. appl. 34pp (2005) 申 請 年 月 日 : 2005. 4 . 29 内 容 : Murosurf SL 及 び Murosurf 3. テ ー マ : SLPも 含 め て Artificially Palmonary Surfactants 特許番号: US patent application number. 60 -694701 発 明 及 び 申 請 者 : Lee S. Yukitake K. Nakamura Y 申 請 年 月 日 : 2005. 6. 29 内 容 : Murosurf SLP D3を 中 心 と し て 4.テーマ:人工肺サーファクタント 組成物 PCT 出 願 : 現 在 特 許 番 号 取 得 中 発 明 及 び 申 請 者 : Lee S. Yukitake K. Nakamura Y 申 請 年 月 日 : 2006. 6. 27 内 容 : 大 豆 脂 質 ― ペ プ チ ド 混 合 系 ( Murosurf 38 SLP D3を 含 む ) の 喘 息 な ど の 適 用