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手掌多汗症とその手術

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手掌多汗症とその手術
手掌多汗症とその手術
美杉会 佐藤病院 呼吸器外科
大迫 努
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多汗症とは
多汗症とは、体のいろいろな部位が異常に発汗する病気で、日常生活に障害を来す程度のもの
を指します。その部位としては、わきの下(腋下)、手のひら(手掌)、足の裏(足底)、頭部、顔など
が多いとされます。このうち、ほかの部位とは違って、日常生活で、多くの障害を伴うことが多い手
のひらに発汗する病気を特に「手掌多汗症(しゅしょうたかんしょう)」と呼びます。同じように主とし
てわきの下の病気として、わきが(腋臭)があります。この病気と多汗症と同じあるいは類似の病
気と思っている人もいるようですが、もともと全く違う病気です。しかし、時には、2 つの病気が同時
に出てくることもあり、混乱することも多いようです。
手掌多汗症とは
少し難しい言葉ですが、手掌(しゅしょう)とは手のひら、たなごころのことです。「手に汗(を)握る」
という言葉は、広く使われていますが、これは手のひらに汗をかくことです。もちろん異常でもなく、
誰にでもあることです。しかし、その程度がひどいことがあります。手のひらから汗がわき出るよう
に出るために、「手を動かすだけで汗が飛び散る」「ノートが濡れてしまったり、複写用紙は汗でに
じんでしまうために、紙をはさんで書いている」「セカンドバッグやハンドバッグが持てないので、ト
ートバッグばかり使っている」「手をつないだり、握手ができない」「びん類などが、滑って物を落と
しやすい」「レースのハンカチが使えず、タオル・ハンカチばかり使っている」「ハンドルが濡れて、
車の運転に支障がある」「コンピューターのキイタッチができない」など、さまざまな支障が生じます。
自覚するきっかけには、家族、友人の指摘や、就職の際などもあるようです。10 代から 30 代の人
に多発しますが、本人が意識しない幼少期から発症するケースもあるので、注意が必要です。ま
た、男女差は認められていませんが、上記のように、やや女性が苦痛に思う状況が多いようです。
手のひらの多汗症は本人にとっては苦痛なので、親などに相談するのですが、単に体質というこ
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とで片付けられてしまうことがあります。そこで、本人も病気という認識もなく、治療も受けることな
く、悩みながら日々を暮していくこともあるようです。
よく混同される、腋臭(えきしゅう、わきが)は、原因となるアポクリン汗腺が原因です。この汗
腺は性ホルモンの影響を強く受けているので、思春期になると分泌が活発になります。ア
ポクリン汗腺から分泌される汗は蛋白成分を多く含んでおり、直後の汗にはにおいはあり
ませんが、細菌により分解されることによりにおいを発するようになります。また、その
性質は遺伝します。通常の汗腺であるエクリン汗腺と違って、腋下の多汗が軽快することで、改
善できる場合もあります。しかし、原則的には、治療法も異なります。
原因と治療
多汗症の原因は、まだはっきりと解明されていません。発 汗 の中 枢 は脳 の中 の視 床 下 部 にあ
りますが、手 掌 多 汗 症 は精 神 性 発 汗 であり、大 脳 からの刺 激 が深 く関 与 していると考 えられ
ます。 何らかの原因で、自律神経のひとつで、代謝を活発にする神経である、交感神経の働きが
活発になることで、汗を分泌するエクリン汗腺が活性化されて、多量の発汗によりさまざまな障害
を起こします。この神 経 刺 激 経 路 が胸 部 交 感 神 経 を経 由 しているのでその部 位 でこの経 路
を遮 断 すれば手 のひらの汗 が止 まります。 特に、精神的刺激や緊張がそれほど強くなくても、
様々な障害を来すほどの発汗するのが手掌多汗症の特徴です。
多汗症の治療法には、心身療法(心理療法、自律訓練法、精神安定剤による治療)、薬物療法神
経遮断薬(プロバンサインンなど)や制汗剤(アルミニウム配合薬剤)による治療)がよく知られて
います。これらの薬物療法では、一時的には改善が見られますが多汗症(手掌多汗症)の根治に
は至らず、繰り返し治療が必要になる場合が多いようです。このような薬剤は原因を治療するの
ではなく、出てきた症状を抑える治療です。またそれ以外には頸部にブロック注射する、星 状 神 経
節 ブロックがありますが、これも一 時 的 のものとされます。これらの一 時 的 な治 療 に対 して根 本 的 な治
療 として ETS 手 術 があります。
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手掌多汗症の手術(胸腔鏡手術 ETS 手術)
写真提供 沖縄 中頭病院 呼吸器外科 大田 守雄先生
胸部交感神経遮断手術(ETS 手術)は、手掌多汗症の原因が交感神経の機能亢進なので、そ
の神経の働きを止めて、汗を出にくくする手術です。つまり、もともとの原因に対する治療する方
法ですから、確実な効果が期待できます。この手術は、かつては、開胸手術で大きな傷も残るの
で、あまり普及しませんでした。普及したのは広く胸腔鏡手術が行われるようになってからです。
内視鏡手術は、わが国では 1990 年ごろから、腹部の胆嚢結石を対象に始められ、93 年頃から
胸部の胸腔鏡手術に応用されました。その術式を、この疾患に用いたのが手掌多汗症の内視鏡
手術(ETS 手術)です。内視鏡手術とは、皮膚に1cm前後の小さな傷をつけ、そこからテレビカメ
ラのついた細い筒を入れて患部を見ながら手術する方法をいいます。以前の手術のように、直接
目で見たり、触ったりして手術することがないので、極めて小さい傷で、完全な手術が出来るので
す。手掌多汗症では、腋の下の 3 か所の皮膚を 3 ミリほど切って、カメラと 2 本の鉗子(長い手術
用のピンセット等)を胸腔(きょうくう:肋骨で囲まれたスペース)に入れ、テレビ画面で胸のなかを
見ながら、背骨の近くにある交感神経の線維を見つけて切断します(写真右の青い線の部分)。
通常は左右両方の交感神経切断が必要で、同時に行うことが多いです。また、通常の胸の手術
のように管(ドレーン)は入れません。それで、胸の傷は極めて小さいので、傷あとは手術直後か
ら目立ちませんし、痛みを訴える患者さまはごくわずかです。この手術の長所は傷が小さいこと、
手術時間が短いこと、したがって患者さんの身体的負担が軽いことです。もちろん健康保険も適
用されます。
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手術の合併症について
適切な多汗症の内視鏡手術(ETS 手術)の手術後は手のひらの汗は確実に少なくなります。それ
と同時に、多くの場合は腋の下や首の汗も少なくなりますし、場合によっては顔面や頭部、足底の
汗も少なくなります。しかし、発汗は体温を下げる効果を持っているので、多汗症手術後に汗が少
なくなって首や顔が暑く感じられるという人も、時々あります。
重要な合併症としては代償性発汗があります。程度の差はありますが、手術後ほぼ全員に起
こってきます。これは手術前にはなかった、胸、腹,腰や大腿部の汗が多くなるという現象です。こ
の代償性発汗の程度は個人差が大きく、どの程度の発汗が起こるのかを手術前に予測すること
は不可能です。しかし、起きている間はずっと発汗している多汗症と違い、気温が高い時や運動
時の発汗が多くなるだけで、しかも下着や服に覆われている部分に発生するので、服を選ぶとか、
着かえるとか、いろいろな工夫をすることで対応できるようです。
それとは逆に、多汗症手術後に手のひらがカサカサになって保湿液が欠かせないという人もあり、
特に冬にはひび割れなどができることもあるようです。このように手術後に術前から予想される合
併症が出てくることがあります。しかし、それらの事を手術前に説明しておくことで納得されること
が多いようです。そのために、術後に満足度をお聞きすると、ほとんどの方は手術を受けてよかっ
たと答えられます。
その他、まれな合併症としては以下のものがあります。すべて経験したことはありませんが、文献で
は報告されているので記載しておきます。
気胸、血胸
胸腔内操作により生じ得るがごくまれです。
ホルネル症候群
星状神経節の切除あるいは損傷により生じ得ますが、切除レベルの確認により実際上まずありません。
しかし神経走行が異常な場合にごく稀に軽度のものが起こる可能性があります。この場合もほとんど
が一過性です。
心臓への影響
交感神経遮断により、心臓神経枝も一部遮断されるため、心拍数が約 10%減少すると報告されていま
す。また、手術中や術後に一過性の不整脈が時折みられます。永続的な不整脈も報告例があります
が極めて稀です。
創痛等
術後、胸全体が痛む、深呼吸がしづらいなどの訴える患者さまもおられますが一時的で 1 週間以内に
消失します。
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退院および経過観察
通常は手術の日に入院し、翌日の昼ごろの退院となり、1 泊 2 日の入院期間となります。その後、1週
間前後で、傷の確認のために来院していただきます。
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