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水路トンネルのリスクベースメンテナンス

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水路トンネルのリスクベースメンテナンス
土木学会第64回年次学術講演会(平成21年9月)
Ⅵ-371
水路トンネルのリスクベースメンテナンス
㈱開発設計コンサルタント
正会員
電源開発㈱
正会員
○野嶋潤一郎
電源開発㈱
坂田
智己
佐藤
哲哉
1.はじめに
水力発電所の多くは設置後 40 年以上を経過しており,今後の設備劣化リスクの増大が懸念されている.一
方,世界的なエネルギー資源の枯渇が叫ばれている昨今,純国産エネルギーでかつ地球温暖化の原因となる
CO2 の発生が最も少ない水力発電所の社会的重要性は,ますます高まっていくものと考えられる.
こうしたなか,電気事業者には競争力強化のためのいっそうのコストダウンが求められおり,設備の信頼性
と経済性のバランスをいかにとるかが要求されている.水力発電土木設備のうち,導水路に代表される水路ト
ンネルでは,通常,数年に1回という限られた抜水期間中にトンネルの内部状況を点検し,変状が見られた場
合の早期リスク対応が求められる.そこで本報では,無圧,圧力水路トンネルの両者において,それぞれの変
状メカニズムを考慮したリスク評価手法について適用事例と共に報告する.
2.評価手法の基本的フレームワーク
評価手法の基本的フレームワークは,プラント施設等の維持管理に適用されている RBM(Risk Based
Maintenance)1)を援用している.この手法は,リスクを「破損の起こり易さ(発生確率)」×「起きた場合の
被害の大きさ(影響度)
」で表現し,その大きさに基づいて補修要否判断や優先順位評価を実施しようとする
ものである.
3.水路トンネルの要求性能
近接施工
水路トンネルは以下の事項が要求される.
地質
条件
① トンネルの構造が安定なこと
偏圧
地形
荷重
増加
塑性圧
緩み圧
② 流速抵抗が小さいこと(粗度係数)
斜面
不安定化
水圧
凍上圧
③ トンネル内の流水が所定以外の箇所から
塑性圧増
風化
漏水しないこと(防水性)
④ その他(保守の利便性,圧力トンネルの
偏圧
地すべり
地震
緩み域増
地下水
浸潤
トンネル
変状
(変形)
膨潤
覆工
耐荷力の
減少・不足
地山耐荷力
の減少
材料劣化
洗掘磨耗
巻厚不足
覆工強度不足
よび使用性に係る性能が要求される.覆工の
背面空洞
安全性に着目すれば,無圧トンネルでは地山
壁面保護が主たる要求性能となり,圧力トン
環境
条件
凍害
場合には内水圧に耐えうること等)
以上のように,水路トンネルには安全性お
豪雨
地下水
浸潤
変形
増加
:圧力トンネル評価パス
:無圧・圧力トンネル評価パス
インバート無
設計・
施工上の
問題
ネルでは内圧に対する安全性能が主たる要求
図-1
性能となる.
トンネル変状の関連図(2)に一部加筆)
4.リスク評価の構成
要求性能に影響するトンネル変状の原因は,外因(外力や環境等の外的な要因)と内因(材料や設計,施工
に起因する構造的な要因)に大別される.図-1は,トンネル変状(変形)を中心に置いて各種要因との関連
性を整理されたものである.覆工耐荷力の減少,不足からトンネル変状につながる「評価パス」は,無圧トン
ネルよりも圧力トンネルで特に評価しなければならないといえる.こうしたことから,同図では圧力および無
圧トンネルそれぞれで評価すべきである「評価パス」を示している.
キーワード
水路トンネル,維持管理,リスク,変状,RBM
連絡先
〒164-0013
東京都中野区弥生町 1-58-4
土木事業部 保全技術室
-741-
TEL03-5371-2825
FAX03-5371-9593
土木学会第64回年次学術講演会(平成21年9月)
Ⅵ-371
評価項目
圧力トンネルだけの「評価パス」で得られる評価
リスク
レベル
結果を覆工健全度(主に内因による)と称し,両ト
評価対象
確率
レベル
内在
危険度
背面空洞の有無
(発生確率)
ンネルの「評価パス」で得られる評価結果を確率レ
地質条件
設備保全
レベル
ベル(主に外因による)と称する.
土かぶり
発現
危険度
(影響度)
覆工変状
上記事項を踏まえて,内部点検時の変状現象の把
水路トンネルのリスクレベル評価の構成を図-2に
危険側採用
握可否,ならびにグラウト等の施工実績を考慮した,
リスク
レベル
示す.
a)
ひび割れ進行度
無圧トンネル
確率
レベル
内在
危険度
背面空洞の有無
グラウトの有無
(発生確率)
5.リスク評価手法
地質条件
設備保全
レベル
リスク評価は水路長 10m を 1 ブロックとし,そ
れぞれのブロックについてリスクレベルを算定する.
土かぶり
発現
危険度
(影響度)
覆工変状
評価手法としては,1ブロック毎に必要となるデー
ひび割れ進行度
覆工
健全度
タを取得し,マトリクスによる評価を適用した.
リスク評価マトリクスの一例として,内在危険度
b) 圧力トンネル
図-2
マトリクスを図-3に示す.内在危険度は,事故事
るものとした.
>40m
≦40m
≦20m
水路トンネルリスク評価の構成
地質条件
背面空洞
良 不明 悪
無 不明 有
a
a
b
a
b
c
a
c
c
本例では,設置環境のうち固定的である地質条件
無圧&
圧力
a
低
低
中
b
低
中
高
c
中
高
高
グラウト
と土かぶりで評価した上で,その結果と背面空洞,
a
低
低
低
グラウトの有無の組合せを対象水路トンネルの種別
b
低
中
中
(無圧 or 圧力)に応じさらに評価をしている.
c
中
高
高
圧力
圧力内在危険度
圧力
有 不明 無
※
圧力
無圧
無圧内在危険度
空洞およびグラウトの有無の組合せによって評価す
土かぶり
例分析により,地質条件,土かぶり,ならびに背面
覆工変状
※危険側採用
尚,その他マトリクスや覆工変状等の評価の考え
図-3
方については参考文献 3)を参照されたい.
凡
内在危険度マトリクス(例)
例
:リスクレベルⅠ
6.リスク評価例と対応について
:リスクレベルⅡ
:リスクレベルⅢ
電源開発㈱における主要水路において,竣工図,
工事記録等の既往資料と,内部点検結果(過去の点
検記録)を基にリスク評価を実施した.評価結果の
一例として,A水路のトンネル平面図に表したリス
クマップを図-4に示す.
上流側
下流側
前述のとおり,水路トンネルの維持管理において
図-4 A水路リスクマップ
は,限られた抜水期間中の迅速なリスク評価および対応が求められる.リスクレベルがⅠ,Ⅱを示すブロック
の初期対応としては,評価精度を向上させるため,背面空洞や変状進行性を把握することが必要である.
尚,簡易なひび割れ進行性把握については,幾つかの手法を試験的に1年間実施した結果,チェックモルタ
ルによる確認手法が,最も適確な成果を上げることが分かった.
7.おわりに
本報では,圧力,無圧水路トンネルにおいて,それぞれの特性に応じたリスク評価と,その結果に応じた対
応を含めた維持管理手法について報告した.今後は実運用を行い,発生する課題を抽出し,水路トンネルの効
果的,かつ効率的な維持管理評価指標の更なる構築を推進していく予定である.
[参考文献]
1)木原重光;富士彰夫.リスク評価によるメンテナンス RBM/RBI 入門.日本プラントメンテナンス協会,2002.
2)朝倉俊弘.トンネルの変状メカニズム.社団法人土木学会,2003.
3)坂田智己;野嶋潤一郎;佐藤哲哉.リスクに基づく水路トンネルの維持管理手法.電力土木,No.339,2009,p.43-47.
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