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物流周辺判例 [周辺 2]

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物流周辺判例 [周辺 2]
物流周辺判例 [周辺 2]:平成元年~20 年の判決
2016.12.20 更新 古田伸一
明治・大正・昭和の周辺判決 は
[周辺 1]
平成 21 年以降の周辺判決 は
[周辺 3]
「物流関係法
所要判例 要覧」は
いずれも筆者の HP「UNCITRAL 物品運送条約の研究」
http://www7a.biglobe.ne.jp/~s_furuta に掲載
掲載誌の略記は、
「物流関係法 所要判例要覧」と同じ。
[裁判所・判決日等の表示*]の末尾の *は、この「周辺判例」に掲載している旨の表示である。
[裁判所・判決日等の表示**]の末尾の**は「物流関係法 所要判例要覧」に詳しく掲載してい
ることの表示である。
[裁判所・判決日等の表示]に * 印がないものは、「所要判例要覧」に掲載の判決例である。
[福岡地裁 H.1.1.9 判*]S62(ワ)1897 号 損害賠償請求事件(認容・控訴)
民法 533 条・601 条
瑕疵担保免責特約があるファイナンスリース取引の目的物の瑕疵あるいは債務不履行の程度が
重大で、その補修あるいは履行がなければ契約の目的を達し得ない場合に、リース料の支払に
つき同時履行の抗弁を主張することができるとされた事例 ― ファイナンスリーリ契約におい
て瑕疵担保免責特約があっても、いかなる場合にも有効であるとはいえない。コンピューターに
オーダーメイドのソフト付の場合は、相当使用した後でなければ瑕疵を発見しにくく、商品知識
が乏しい一般ユーザーに対してはサプライヤーのアフターケァが不可欠である。しかも、サプラ
イャーもリース業者も同一メーカー系列で当該メーカーと約因ならびに株主構成上密接に結びつ
き業務提携関係があるような場合には、リース業者に瑕疵対応能力があり、両者は一体的な概観
を呈しているから、その目的物の瑕疵あるいは債務不履行の程度が重大でその修補或は履行がな
ければ契約の目的を達し得ないときは、当事者間の公平上、ユーザーはリース料の支払につき同
時履行の抗弁を主張できる。
判時 1320-121 判タ 699-214
庄政志・リマークス 1-92
[大阪高裁 H.1.2.22 判*]S62(ネ)2521 号・売得金等請求事件(変更・一部認容・上告)
民法 643 条・555 条、商法 502 条 11 号・551 条
商人間における毛皮類の商品供給契約が、売買契約ではなく、委託販売契約であると認められ
た事例 ― 「被控訴人は売渡先から受領した代金をそのまま控訴人に引渡して別に一定の手数
料を受取るのではなく、控訴人が予め設定した基準により計算される金額又は控訴人の仕入価格
に一定の利益を上乗せした金額を控訴人に支払えば足り、被控訴人が個々の商品をいくばくの代
金で売るかはさしあたり問題ではなく、
・・・典型的な販売委託とは趣を異にする面がないでもな
いが、被控訴人は結局におい商品の所有権を取得してその対価として代金債務を負担するという
法的地位に立たず、他に売却できなかった商品は控訴人に返還することができ、商品買受けに伴
う売残り・値下り等の危険を一切負担しないのであるから、本件取引は売買とは相容れぬ契約で
あると言うほかはなく、むしろ委託を受けて他人所有の商品を売渡す契約であると認めるのが相
当であり、被控訴人が前記のような取得する利益も委託を受けて商品を販売したことに対する報
1
酬たる性質を失うものではないと解することができる。」 被控訴人主張の商品の代価債務として
2 年の短期消滅時効完成(民法 173 条)を否認。
判タ 701-187 金判 819-23
一審:大阪地裁 S-62-11-27 判・S60(ワ)6161 号
[最高裁三小 H.1.9.19 判*]S58(オ)1413 号建物収去等請求事件(破棄自判)
建築基準法 65 条、民法 234 条 1 項
建築基準法 65 条所定の建築物の建築と民法 234 条 1 項の適用の有無(消極)
[事案要旨] Y(被告・控訴人・上告人)は、都市計画法 8 条に定める準防火地域に指定され
ている所有地上に、隣接する X(原告・被控訴人・被上告人)所有土地との境界線に接して、X
の諒解を求めることなく、外壁が耐火構造の鉄骨三階建の建物の建築に着手した。そこで X は、
本件訴を提起して、民法 234 条 1 項違反を理由に、境界線から 50cm 以内の建築部分の収去をも
とめた。これに対して Y は、当該建物は建築基準法 65 条に該当するから隣地境界線に接して建
築することができる、と争った。一審は、建築基準法 65 条が適用される建物であっても、
「それ
だけで直ちに民法 234 条 1 項の適用が排除されるものではない」として X 請求の建物の一部分の
収去請求を認めた。Y 控訴するも二審は控訴棄却。Y 上告。
[判示要旨]
「建築基準法 65 条は、防災地域又は準防災地域内にある外壁が耐火構造の建築物について、そ
の外壁を隣地境界線に接して設けることができる旨規定しているが、これは、同条所定の建物に
限り、その建築については民法 234 条 1 項の規定の適用が排除される旨を定めたものと解するの
が相当である。けだし、建築基準法 65 条は、耐火構造の外壁を設けることが防火上望ましいとい
う見地や、防火地域又は準防火地域における土地の合理的ないし効率的な利用を図るという見地
に基づき、相隣関係を規律する趣旨で、右地域内にある建物で外壁が耐火構造のものについては、
その外壁を隣地境界線に接して設けることができることを規定したものと解すべきであっ
て、
・・・同条は、建物を建築するには、境界線から 50cm 以上の距離を置くべきものとしている
民法 234 条 1 項の特則を定めたもの」と解すべきである。 第一審判決中の上告人(Y)の敗訴部分
を取消し、被上告人(X)の請求を棄却。
<特則説>
なお、伊藤正巳裁判官の『非特則説』に立脚する反対意見あり:民法 234 条の 1 項が私人間の
権利関係を調整する規定であるのに対し、建築基準法は、公法上の規制を加えているもので、法
律全体として私人間の権利を調整しているわけではない。同法 65 条には、民法 234 条 1 項の特
則を定める明文がないことからすると、建築基準法 65 条は、民法 234 条 1 項の特則を定めたも
のではないといわなければならない。実質的にみても、早い者勝ちの防止及び右生活環境利益は、
防火上の見地及び土地の合理的ないし効率的な利用を図るという見地の犠牲になるべきものでは
ない。防火地域及び準防火地域の指定が、一定の率以上の容積率や建ぺい率が適用される地域を
指定するという画一的な基準でなされている実情の下では、右各地域の指定がされることによっ
て直ちに接境建築が許容され、生活環境利益が犠牲になる。
民集 43-8-955 判時 1327-3 判タ 710-115 金判 832-39
塩月秀平・ジュリ 948-203 見上崇洋・民商 102-2-90 好美清光・H.1 重要判ジュリ 957-70
甲斐道太郎・リマークス 1-27 長谷川貞之・ジュリ 961-221 安藤一郎・NBL436-13
石井昇・別冊ジュリ 211-18
原審:大阪高裁 S.58.9.6 判・S57(ネ)1712 判(控訴棄却)
民集 13-8-982
一審:大阪地裁 S.57.8.30 判・S55(ワ)7566 号(一部認容) 民集 43-8-968 判時 1071-95
*:原審は<非特則説>を執る原原審の次の判示と同一である旨を判示して控訴を棄却している。
「民法 234 条 1 項と建築基準法 65 条との関係についてみると、建築基準法 65 条は防火とい
う公共的観点から定められたものでありながら、同時に私人間の生活関係の規律に密着するも
のであり、一方、民法 234 条 1 項の規定は、接境建築の建物によって、隣地の採光、通風、隣
地上の建物の建造、修繕の便宜、その他利用上の障害を与えないという相隣土地所有権者相互
の土地利用関係を調整するために定められたものである。そうだとすれば、建築基準法により
2
防火地域又は準防火地域として指定を受けた市街地内にある建築物で、その外壁が耐火構造の
ものについて、それだけで直ちに民法 234 条 1 項の適用が排除されるものではなく、土地の高
度、
効率的利用のために、
民法 234 条 1 項が保護する前記相隣者間の生活利益を犠牲にしても、
なお接境建築を許すだけの合理的理由、例えば相隣者間の合意とか、民法 236 条の慣習等があ
る場合に限ってはじめて、建築基準法 65 条が民法 234 条 1 項に優先適用されるものと解する
のが相当である。
」
*古田①(RF④-25)
:民法 234 条 1 項は、「建物を築造するには、境界線から 50cm 以上の距離
を保たなければならない。
」と私法上の義務を規定している。他方、建築行政を規律する建築基
準法の 65 条は「防火地域又は準防火地域内にある建築物で、外壁が耐火構造のものについては、
その外壁を隣地境界線に接して設けることができる。」と規定している。この両既定の関係につ
いては、建築基準法は行政規定に止まり私権を規定するものでないから、隣地所有者の民法 234
条 1 項の私権行使には影響がないとする<非特則説>と、建築基準法は行政法ではあるが、同
法 65 条は私法規定であるから民法 234 条 1 項に優先して適用されるとする<特則説>が学説
および判例ともに対立していた。
<非特則説>を採る判決例には、東京地裁 S.38.7.24 判・S37(モ)12,802 号・判時 347-22、
旭川地裁 S.39.9.16 判・S39(ヨ)141 号・下民集 15-9-2200、東京地裁 S.48.12.27 判・S48(ヨ)3060
号・判時 734-25、大阪地裁 S.54.2.21 判・S52(モ)3745 号・判時 941-69、本件最高裁判決で破
棄された原審大阪高裁の S.58.9.6 判、及びその前審大阪地裁 S.57.8.30 判、がある。また、本
件最高裁判決での伊藤正巳裁判官の反対意見も「非特則説」であり、本件最高裁判決の上記評
釈の見上評釈・甲斐評釈も「非特則説」を採り本件最判を批判されている。
<特則説>も次のとおり多くの下級審判決があるが、最高裁が初めてこの点を「特則説」に
より平成元年の本判決で判示して以来、民法 234 条 1 項と建築基準法 65 条との関係を争った
判決例の公刊は見当たらない。本件最高裁判決以外の「特則説」による下級審判決には次のも
のがある。
生野簡裁 S.34.6.2 判・S34(サ)165 号・判時 198-43、東京地裁 S.40.2.16 判・S37(ワ)7384
号・下民集 16-2-272、東京高裁 S.43.1.31 判・S40(ネ)414 号・判時 519-50、東京高裁 S.45.1.21
決定・S44(ラ)763 号・判タ 247-273、名古屋地裁 S.50.6.14 決定・S50(ヨ)401 号・判時 796-83、
岡山地裁津山支部 S.51.9.21 判・S45(ワ)151 号・判時 846-94、東京高裁 S.53.3.17 決定・
S52(ラ)1100 号・判時 887-82、東京高裁 S.54.1.17 決定・S53(ラ)1322 号・判タ 383-107、大
阪高裁 S.54.5.1 決定・S53(ラ)478 号・判タ 392-99、東京地裁 S.60.10.30 判・S58(ワ)3528 号
他・判時 1211-66、福岡高裁 S.61.6.2 判・S60(ネ)403 号・判タ 624-168。
*古田②:建築基準法 65 条は「防火地区又は準防火地区」にある建築物に適用されるので、物流
関係の施設を設ける地域でもある。しかし、同条が許す土地境界に外壁を接して建築されると、
反対側からは最早外壁を接して建設する工事スペースがなく不能となる。伊藤裁判官指摘の「早
い者勝ちの難点」である。施設を隣地境界に接して建築する計画があれば、この指摘を認識し
ておく必要がある。
ところで、同 65 条で隣地境界に接して設けることが許される外壁は耐火構造でなければなら
ないが、防火・準防火地域における建築物には、同 61 条・62 条によると、その面積・構造な
どによって、イ:耐火建築物、ロ:簡易耐火建築物、ハ:木造建築物 の三種がある。
「イ」の
外壁は当然に耐火構造であるが、
「ロ」の外壁は必ずしも耐火構造ではなく(同 2 条 9 号の三ロ)
、
「ハ」の外壁は防火構造に過ぎない(同 62 条 2 項・2 条 8 号)
。
従って 65 条の趣旨は、外壁のみならず建物自体が耐火構造であることにより延焼が防止でき
ることにその主眼があると解すべきであり、同地域の建物でも、少なくとも、木造建築物に耐
火構造の外壁が付されたとしても、同条には該当しないと解すべきである。東京地裁 H.7.2.3
判・H3(ワ)7291 号(判時 1570-75)は、準防火地域に建築した木造住宅の「外壁に ACL 板と
いう防火材を用いているものの完全な簡易耐火建築物とはいえない。
」と、建築基準法 65 条に
該当しない旨判示している。ACL 板自体は耐火性・断熱性・耐久性が高いものではあるが、65
条の趣旨は建物自体にも耐火性がなければ、隣地に接する外壁のみが耐火構造であっても不可
ということである。
3
また、建築基準法には「外壁の耐火構造」という概念はなく、耐火構造とは建築物全体を意
味するので、木造建築部にはあり得ないことである。
上記の「東京地裁 S.53.3.17 決定」
・
「福岡高裁 S.61.6.2 判」も、建築基準法 65 条は、防火又
は準防火「地域の属する土地の合理的、効率的な利用を図りつつ、耐火構造の建築物に限る点
で相隣者の利益をも考慮に入れたもの」と明確に判示している。
現に、本件最高裁判決、及び上記「*古田①」に示した建築基準法 65 条に関するどの判決例
でも、建物自体が耐火ないし準耐火のもののみである。
なお、建築基準法 65 条が民法 234 条 1 項の特則と解されても、同 65 条は単に隣地境界に接
して建物を建築することを認めているに過ぎず、その場合の目隠義務の存否・要件等について
は何も触れていないので、同条は目隠義務を規定する民法 235 条 1 項の特則でないのは固より
である(東京地裁 H.5.3.5 判・H3(ワ)13743 号・判タ 844-178)。その他、相隣接する土地所有
者等との日照権等の相隣関係も、民法等の私法で律されることになる。
[最高裁二小 H1.10.27 判*]S60(オ)1270 号 不当利得返還請求事件(物上代位
民法 304 条・372 条・494 条
を是認・上告棄却)
不動産所有権の転得者が受領すべき賃貸料の供託に対する抵当権者による物上代位権
― 抵当不動産が賃貸されていた場合に於いては、抵当権者は、民法 372 条・304 条の規定
の趣旨に従い、賃借人が供託した賃料の還付請求権についても抵当権を行使することができる。
民集 43-9-1070 判時 1336-96 判タ 717-106
道垣内弘人・民商 102-5-41
小田原満知子・ジュリ最高裁時の判例Ⅱ-107
原審:名古屋高裁 S.60.7.18 判・S59(ネ)313 号
民集 43-9-1081
一審:名古屋地裁 S.59.4.23 判・S58(ワ)2428 号
民集 43-9-1078
*古田:H15 に民法 371 条は次のとおり改正された:「抵当権は、その担保する債権について不
履行があったときは、その後に生じた抵当不動産の果実に及ぶ。
」 即ち、H15 改正後の事案
では、抵当権者の物上代位はこれに縛られることになる。
[最高裁一小 H.1.12.21 判*] S59(オ)1477 号 国家賠償請求事件(破棄自判)
民法 724 条
民法 724 条後段の法意 ― 「民法 724 条後段の規定は、不法行為によって発生した損害賠償請
求権の除斥期間を定めたものと解するのが相当である。
」
民集 43-12-2209 判時 1379-76 判タ 753-84
松本克美・ジュリ 959-109
内池慶四郎・リマークス 2-78 半田吉信・民商 103-1-131
大村敦志・法協 108-12-210 徳本伸一・判例評論 393-26
原審:福岡高裁宮崎支部 S59.9.28 判・1S55(ネ)157 号 民集 43-12-2233
判時 1359-108 判タ 542-214 徳本伸一・判例評論 342-18
一審:鹿児島地裁 S.55.10.27 判・S52(ワ)492 号
民集 43-12-2227
*:時効・除斥期間の起算点に関する主要判決例の概要は[東京高裁 H.25.10.31 判*]の末尾コ
メントを参照。
[東京地裁 H.2.4.24 判*]H1(ワ)3308 号・否認権行使事件(請求一部認容・控訴)
民訴法 784 条・785 条、手形法 38 条・39 条・77 条
既存債権のために振出された手形が除権判決により無効となった場合の、既存債権の権利行使
方法 ― 既存債権の支払の為に振出された約束手形が除権判決により無効となっても、除権判
決前の右手形の善意取得者の権利を剥奪する効力を有するものではないから、善意取得者が居れ
ば破産管財人には二重弁済の危険があることになる。既存債権が破産手続により既存債権額から
4
減額されたものであっても、その支払を求めるに当たっては、右手形を交付することを要するも
のと解するのが相当である。
金判 862-27
近藤光男・商事法務 1343-80
黄清渓・法学研究(慶大)70-5-131
[東京地裁 H.2.8.28 判*]S60(ワ)4783 号債務不存在確認請求事件(請求棄却)・同 7416 号
民法 541 条・533 条・1 条 2 項
反訴請求事件(認容・控訴)
一、結果的に成立した円環状の売買契約(所謂オーダー整理)において、中間の買主が売主の
目的物引渡欠缺を理由に、中間の売買契約を解除することができないとされた事例 ― 目的
物引渡の義務の履行は無意味であり、中間当事者も現実の引渡を重要視していないはずであるか
ら、右義務は円環が成立した時点で消滅すると解され、従って、中間売買の買主は、目的物引渡
義務の不履行を理由に右売買契約を解除することができない。
二、初めから意図された円環状の売買契約及び結果的に成立した円環状の売買契約の双方にお
いて、中間の買主が売主からの代金支払請求につき目的物引渡と同時履行を主張することが
信義則に反して許されないとされた事例 ― 初めから契約上の目的物は存在していないこと
を相互に了解しているから、目的物引渡の権利義務はなく、代金の支払との同時履行という権利
も発生する余地がない。きた、結果的に成立した円環状の売買契約においても、円環を形成した
時点で最後の売買契約で目的物の引渡がなされたと同じ経済的法律的状態が成立しているのであ
るから、中間売買契約の当事者に同時履行の抗弁権を認めて保護すべき理由はない。
金判 873-36
*:
[大阪高裁 H.16.3.25 判*]の評釈参照。
[最高裁一小 H.2.11.8 判①*] S61(オ)255 号 損害賠償請求、仮執行の原状回復請求事件
国家賠償法 2 条 1 項
(破棄差戻)
国鉄の鉄道敷地港内への自動車の転落での国鉄乗客の死傷事故につき、鉄道施設の設置又は管
理に瑕疵がないとされた事例 ― 大型貨物自動車が県道端の縁壁を越えて右県道と並進してい
る約 6.8 メートル下の日本国有鉄道の軌道敷内に転落し、折から進行して来たディーゼル気動車
がこれと衝突して脱線したため、その乗客が死傷した事故につき、右縁壁がその材質、高さ、形
状等の構造に加え、県道の幅員や見通し状況、側溝の存在等に照らし、転落防止の機能に欠ける
ところがなく、事故は、自動車の運転手が誤って自動車の右前輪を側溝に落とした際、アクセル・
ペタルを踏み込んで加速した勢いで側溝から脱出しようとし、右前輪のホイルナット付近を縁壁
に激突させた状態で約 17.6 メートルも自動車を進行させ、縁壁の一部をはく離、崩落させて自動
車を路外に進出させるという極めて異常かつ無謀な運転によって生じたものであって、右行動が
機関車、貨客車、軌道設備、軌道の敷地その他これに関連する鉄道施設の設置管理者の通常予測
することのできないものであったなど判示の事実関係の下においては、鉄道施設の設置又は管理
に瑕疵があるとはいえない。
集民 161-131 金判 869-31
潮海一雄・民商 104-5-110
原審:福岡高裁宮崎支部 S.60.10.30 判・S53(ネ)42 号
[最高裁一小 H.2.11.8 判②*] S62(オ)1047 号 損害賠償請求事件(上告棄却)
民法 1 条 2 項・415 条・643 条・656 条・709 条
運航受託者に、船長に対する安全配慮義務ありと判示 ― 運航委託契約により船舶の運航を受
託した者が、船舶を自己の業務の中に一体的に従属させ、船内事故の被害者で直接の契約関係に
ない船長に対し指揮監督権を行使する立場にあり、船長から実質的に労務の供給を受けていたと
いう事実関係の下においては、右受託者は、船長に対し信義則上安全配慮義務を負う。
集民 161-191 判時 1370-52
弥永真生・ジュリ 1043-108 奥田昌道・リマークス 4-28
5
原審:広島高裁岡山支部 S.62.5.28 判・S60(ネ)98 号
判タ 662-175 労民集 521-56
[神戸地裁 H.2.11.16 判*] S63(ワ)2241 号 仲裁判断取消請求事件(棄却)
民訴法 801 条 1 項 5~6 号(現仲裁法 44 条)
・420 条(現民訴法 338 条)
(社)日本海運集会所機船第 21 千歳丸曳船契約紛議仲裁判断事件の仲裁判取消請求
― 「本件仲裁判断の理由においては、本件仲裁手続において当事者の指摘した争点に対し、
証拠に基づいて本件事故の発生経緯が認定されたうえで、右事故の原因の判断が示されて申立人
の請求は排斥されたが、一方公平の観点から、本件曳船契約の性格を曳船の一区間が成就するご
とに曳船料請求権が発生するものとの判断がされて、被申立人の請求は容認されるに至ったもの
であるから、右理由は争点に対する判断を必要な限りにおいて説示していることは明らかで・・・
仲裁判断における理由の記載は仲裁判断の理由として欠けるところはなく、民訴法 801 条 1 項 5
号の取消事由は存在しない。
」
判時 1396-120 海法研 100-6
[東京地裁 H.2.12.20 判*]H1(ワ)11786 号・売掛代金請求事件・H.2(ワ)2124 号
民法 1 条 2 項・415 条・533 条
反訴請求事件(本訴認容・反訴棄却・確定)
不安の抗弁 ― 商品の継続的取引において買主に信用不安がある場合に、取引上の信義則と公
平の原則に照らして、先履行義務の不履行に違法性がないとされた事例 ― 「被告との継続的
な商品供給取引の過程において、取引高が急激に拡大し、累積債務額が与信限度を著しく超過す
るに至るなど取引事情に著しい変化があって、原告がこれに応じた物的担保の供与又は個人保証
を求めたにもかかわらず、被告は、これに応じなかったばかりか、かえって、約定どおりの期日
に既往の取引代金決済ができなくなって、支払の延期を申入れるなどし、原告において、既に成
約した本件個別契約の約旨に従って更に商品を供給したのではその代金の回収を実現できないこ
とを懸念するに足りる合理的な理由があり、かつ、後履行の被告の代金支払を確保する為に担保
の供与を求めるなど信用の不安を払拭するための措置をとるべきことを求めたにもかかわらず、
被告においてこれに応じなかったことによるものであることが明らかであって、この様な場合に
おいては、取引上の信義則と公平の原則に照らして、原告は、その代金の回収の不安が解消すべ
き事由のない限り、先履行すべき商品の供給を拒絶することができるものと解するのが相当であ
る。
」
判時 1389-79
中田裕康・判例評論 396-29
*:本件は不安の抗弁を是認した判決例である。同抗弁については、
[東京地裁 H.9.8.29 判*]
の末尾の「*古田」を参照。
[最高裁二小 H.3.3.22 判*] H2(オ)1820 号 不当利得返還請求事件(上告棄却)
民法 703 条、民事執行法 84 条 1 項・85 条・89 条
債権又は優先権を有しないのに不動産競売配当を受けた債権者に対する、満足を得なかった抵
当権者からの不当利得返還請求(肯定) ― 「抵当権者は、不動産競売事件の配当期日におい
て配当異議の申出をしなかった場合であっても、債権又は優先権を有しないにもかかわらず配当
を受けた債権者に対して、その者が配当を受けたことによって自己が配当を受けることができな
かった金銭相当額の金員の返還を請求することができるものと解するのが相当である。
けだし、抵当権者は抵当権の効力として抵当不動産の代金から優先弁済を受ける権利を有する
のであるから」
民集 45-3-322 判時 1380-90 判タ 755-100
大村敦志・法協 111-6-147
三浦潤・判タ 790-40
富越和厚・ジュリ「最高裁時の判例Ⅲ」-158
原審:東京高裁 H.2.9.13 判・H2(ネ)186 号
民集 45-3-334 判時 1365-60
6
一審:東京地裁 H.2.21.16 判・H1(ワ)8195 号 民集 45-3-330 金判 858-10
*富越評釈:本判決は、後順位抵当権者からの、既に配当期日前に弁済により被担保債権が消滅
している先順位抵当権者に対する不当利得返還請求の事案であり、上記アンダーライン部分理
由付から、一般債権者からの不当利得返還請求権を肯定したものではない。
[最高裁二小 H.3.4.26 判*] H1(オ)1232 号 保険金返還請求事件(一部破棄自判・
民法 167 条 1 項・703 条、商法 522 条、
一部上告棄却)
H.20 改正前商法 641 条(現保険法 17 条)
商行為たる船体保険契約及び質権設定契約に基づき保険者から保険金を受領した質権者の不
当利得返還義務の消滅時効期間 ― 「商法 522 条の適用又は類推適用されるべき債権は商行為
から生じたもの又はこれに準ずるものでなければならないところ、本件ふと得利得返還請求権は、
商行為たる船体保険契約及び質権設定契約に基づき保険者から質権者に支払われた保険金の返還
に係るものではあっても、保険者に法定の免責事由があるため支払原因が失われ法律の規定によ
って発生する債権であり、その支払の原因を欠くことによる法律関係の清算において商事取引関
係の迅速な解決という要請を考慮すべき合理的根拠は乏しいから、商行為から生じた債権に準ず
るものということはできない。従って、本件不当利得返還請求権の消滅時効は、民事上の一般債
権として、民法 167 条 1 項により 10 年と解するのが相当である。
」
集民 162-769 判時 1389-145 判タ 761-149 金法 1297-25 金判 874-3
岩崎稜・H.3 重要判ジュリ 1002-100 & 別冊ジュリ 121-36 関俊彦・別冊ジュリ 138-66
高橋彩子・損保研究 70-4-115
原審:大阪高裁 H.1.5.31 判・S63(ネ)1817 号
判時 1338-148
一審:大阪地裁 S.63.8.26 判・S61(ワ)7988 号
判時 1314-123
[最高裁三小 H.3.7.16 判*]S63(オ)1572 号建物収去土地明渡請求事件(破棄自判)
民法 296 条
留置権者が留置物の一部を債務者に引渡した場合における被担保債権の範囲 ―
留置権者は、
留置物の一部を債務者に引渡した場合に於いても、特段の事情のない限り、債権の全部の弁済を
受けるまで、留置物の残部につき留置権を行使することができる。
民集 45-6-1101 判時 1405-47
関武志・民商 106-4-80
滝沢孝臣・ジュリ「最高裁時の判例Ⅱ」-86
原審:大阪高裁 S.63.8.4 判・S62(ネ)2207 号
民集 45-6-1117
一審:京都地裁 S.62.9.29 判・S60(ワ)2277 号
民集 45-6-1110
[最高裁二小 H.3.10.25 判*] S63(オ)1383 号 求償金請求事件(破棄差戻)
民法 442 条・715 条・719 条
一 共同不法行為の加害者の各使用者間における求償権の成立する範囲 ―共同不法行為の加
害者の各使用者が使用者責任を負う場合において、一方の加害者の使用者は、当該加害者の過失
割合に従って定められる自己の負担部分を超えて損害を賠償したときは、その超える部分につき、
他方の加害者の使用者に対し、当該加害者の過失割合に従って定められる負担部分の限度で、求
償することができる。
二 加害者の複数の使用者間における各使用者の負担部分 ―加害者の複数の使用者が使用者
責任を負う場合において、各使用者の負担部分は、加害者の加害行為の態様及びこれと各使用者
の事業の執行との関連性の程度各使用者の指揮監督の強弱などを考慮して定められる責任の割合
に従って定めるべきである
三 加害者の複数の使用者間における求償権の成立する範囲 ―加害者の複数の使用者が使用
7
者責任を負う場合において、使用者の一方は、自己の負担部分を超えて損害を賠償したときは、
その超える部分につき、使用者の他方に対し、その負担部分の限度で、求償することができる。
民集 45-7-1173 判時 1405-29 判タ 773-83 金法 1311-28 金判 886-3
山本豊・ジュリ 1006-131 椿寿夫・リマークス 6-73
窪田充見・民商 108-2-116 浦川道太郎・別冊ジュリ 176-180
原審:東京高裁 S.63.7.19 判・S62(ネ)3480 号 民集 45-7-1205
一審:東京地裁 S.62.11.24 判・S59(ワ)1757 号 民集 45-7-1183
*:不真正連帯債務者間の求償関係の判決例[最高裁二小 S.63.7.1 判*]も参照。
[浦和地裁 H.3.11.22 判*] H1(ワ)658 号・損害賠償請求事件(一部認容・確定)
民法 709 条・710 条、労働契約法 7 条
所持品検査 ― 日立物流事件
一、 就業規則に基づかない従業員に対する所持品検査は違法である ― 「使用者がその企業の
従業員に対して行う所持品検査は、従業員の基本的人権に密接に係る事柄であるため、その実施
に当たっては常に被検査者の名誉、信用等の人権侵害のおそれを伴うものであるから、たとえ、
それが企業にとって必要かつ効果的な措置であるとしても、当然に適法視されるものではない。
右所持品検査が適法といえるためには、少なくともこれを許容する就業規則その他明示の根拠
に基づいて行われることを要するほか、更に、これを必要とする合理的理由に基づいて、一般的
に妥当な方法と程度で、しかも制度として、職場従業員に対して画一的に実施されるものでなけ
ればならない。
」これを本件についてみると、被告会社就業規則 21 条“保安員が必要と認めた場
合には、その求めにより、社員はその所持品検査を拒むことはできない。” は、「専ら危険物を
社内や構内へ持込むことを禁じる趣旨の規定に止まるものであって、本件のような引越業務にお
いて客の物品が紛失した場合、引越作業員の所持品を検査する権限を営業所長にまで認める趣旨
の規定ではない」
。
二、原告が名誉棄損等により被った精神的苦痛に対する慰謝料 30 万円を判示 ― 原告は入社
以来、無事故表章を受けるなど優秀な社員として評価を受けていたが、本件身体検査を含む本件
所持品検査の方法(守衛室のブラインドを下ろし、下請従業員も一緒に営業所長が徹底的な同検
査を実施。
)は、客観的にも、原告が顧客の財布を摂取したとの疑いを持たれたとの印象を与える
ものであり、本件所持品検査により原告の社会的評価が低下され、その名誉や同僚らに対する信
用が侵害されたことは明らかである。また、身体検査により原告が腰痛防止ベルトをしていたこ
とが曝露され、原告の私生活上の秘密保持の利益いわゆるプライバシーが侵害された。原告が同
名誉棄損等により被った精神的苦痛を慰藉するためには金 30 万円が相当である。
判時 1413-97 判タ 794-121 労民集 624-78
小宮文人・法学セミナー37-11-133
*[最高裁二小 S.43.8.2 判*]の評釈及びコメント参照。
[最高裁三小 H.3.12.17 判*]S62(オ)1385 号 契約金等請求事件(上告棄却)
民法 505 条、民訴法 199 条(現 114 条)2 項・231 条(現 142 条)
別訴において訴訟物となっている債権を自働債権として、相殺の抗弁を訴で主張することは許
されない ― 「係属中の別訴において訴訟物となっている債権を自働債権と
して他の訴訟において相殺の抗弁を主張することは許されないと解するのが相当である(最高裁
三小 S.63.3.15 判・S58(オ)1406 号・民集 42-3-170 参照)。
すなわち、民訴法 231 条(現 142 条)が重複起訴を禁止する理由は、審理の重複による無駄を
避けるためと複数の判決において互いに矛盾した既判力ある判断がされるのを防止するためであ
るが、相殺の抗弁が提出された自働債権の存在又は不存在の判断が相殺をもって対抗した額につ
いて既判力を有するとされていること(同法 199 条 2 頃:現 114 条 2 項)
、相殺の抗弁の場合に
も自働債権の存否について矛盾する判決が生じ法的安定性を害しないようにする必要があるけれ
8
ども理論上も実際上もこれを防止することが困難であること、等の点を考えると、同法 231 条(現
142 条)の趣旨は、同一債権について重複して訴えが係属した場合のみならず、既に係属中の別
訴において訴訟物となっている債権を他の訴訟において自働債権として相殺の抗弁を提出する場
合にも同様に妥当するものであり、このことは右抗弁が控訴審の段階で初めて主張され、両事件
が併合審理された場合についても同様である。」
民集 45-9-1435 金法 1332-40 金判 906-3
吉村徳重・リマークス 6-124
三木浩一・法学研究(慶大)66-3-131 山本克己・H.3 重要判ジュリ 1002-121
松本博之・別冊ジユリ 169-92
原審:東京高裁 S.62.6.29 判・S58(ネ)528 号
民集 45-9-1449
一審:東京地裁 S.58.2.25 判・S55(ワ)10397 号
民集 45-9-1443
*:
[最高裁一小 H.27.12.14 判*]の末尾の我妻評釈参照。
[大阪高裁 H.4.2.25 判*]H3(ネ)820 号 外国裁判所判決の執行判決請求事件
民訴法 4 条・118 条、民事執行法 24 条
(請求棄却、確定)
ミネソタ州連邦地裁が、日本の会社に対し、商品売買に関する債務不履行を理由に損害賠償を
命じた外国判決について、民訴法 200 条 1 号(現・118 条 1 号)の要件を具備しないとして、
執行判決請求を棄却した事例 ― アメリカ合衆国ミネソタ州法人が
日本法人に対し、日本法人が信用状に基づいて輸出した商品に瑕疵があったとして損害賠償を求
める訴訟について、右日本法人がアメリカ合衆国内に支店や営業を有しないときは、輸出された
商品がミネソタ州に保管されており、そこで右商品の検査も行われているとしても、アメリカ合
衆国ミネソタ州地区連邦地方裁判所は国際裁判管轄権を有しない。 判決執行を拒否。
高民集 45-1-29 判タ 783-248
山田恒久・法学研究(慶大)66-5-157
道垣内正人・H.4 重要判ジュリ 1024-293
矢澤昇治・別冊ジュリ 133-226
松下淳一・ジュリ 1076-149
一審:大阪地裁 H.3.3.25 判・S63(ワ)10197 号(請求棄却、控訴)
高民集 45-1-38 判時 1408-100 判タ 783-252
松岡博・リマークス 6-164
[最高裁一小 H.4.2.27 判*] H1(オ)1668 号 所有権移転登記抹消登記手続請求事件
民法 392 条・424 条
(破棄差戻)
詐害行為取消権で取消し得る範囲
一 共同抵当の目的とされた不動産の売買契約が詐害行為に該当する場合に抵当権が消滅した
ときの取消しの範囲及び原状回復の方法 ―共同抵当の目的とされた不動産の全部又は一部
の売買契約が詐害行為に該当する場合において、詐害行為の後に弁済によって右抵当権が消滅し
たときは、詐害行為の目的不動産の価額から右不動産が負担すべき右抵当権の被担保債権の額を
控除した残額の限度で右売買契約を取り消し、その価格による賠償を命ずるべきであり、一部の
不動産自体の回復を認めるべきものではない([最高裁大法廷 S.36.7.19 判*]、最高裁三小
S.63.7.19 判・S61()495 号・集民 154-363 参照)
。
二 共同抵当の目的とされた不動産の売買契約が詐害行為に該当する場合に抵当権が消滅した
ときの価格賠償の額 ― 共同抵当の目的とされた不動産の全部又は一部の売買契約が詐害行
為に該当する場合に右抵当権が消滅したときにおける価格賠償の額は、詐害行為の目的不動産の
価額から、共同抵当の目的とされた各不動産の価額に応じて抵当権の被担保債権額を案分して詐
害行為の目的不動産について得られた額を控除した額である。
民集 46-2-112 判時 1416-42 判タ 781-78 金法 1322-35 金判 894-3
佐藤岩昭・民商 108-1-52 & 別冊ジュリ 176-46
下森定・H.4 重要判ジュリ 1024-77
安永正昭・リマークス 6-26
原審:福岡高裁宮崎支部 H.1.9.18 判・S62(ネ)125 号 民集 46-2-134
9
一審:鹿児島地裁川内支部 S.62.7.30 判・S59(ワ)108 号 民集 46-2-124
[最高裁三小 H.4.10.20 判**]S63(オ)1543 号・損害賠償請求事件(破棄差戻)
民法 566 条 3 項・570 条
一 民法 566 条 3 項にいう 1 年の期間の性質 ― 除斥期間である。
二 瑕疵担保による損害賠償請求権の除斥期間と裁判上の権利行使の要否 ― 瑕疵担保による
損害賠償請求権を保存するには、右請求権の除斥期間内に、売主の担保責任を問う意思を裁判外
で明確に告げることをもつて足り、裁判上の権利行使をするまでの必要はない。
民集 46-7-1129 判時 1441-77 判タ 802-105
松岡久和・民商 109-1-105
道野真弘・別冊ジュリ 194-108
原審:大阪高裁 S.63.7.29 判・S62(ネ)55 号
民集 46-7-1171
一審:大阪地裁 S.61.12.24 判・S58(ワ)8578 号
民集 46-7-1135
[東京地裁 H.5.2.24 判*]
H4(ワ)5236 号 損害賠償請求事件(請求認容)
民法 184 条
委託保管中の船舶について指図による占有移転があったと認められた事例 ― 船舶の譲渡人が、
保管を委託した者に対し、以後譲受人のために右船舶を占有すべき旨を命じ、譲受人がその引渡
を受けることを承諾したときは、右船舶について、指図による占有移転があったと認めるのが相
当である。譲渡人の右命令に対する占有代理人の承諾は不要であり、右命令の内容も、占有代理
人が当該動産を特定の第三者に譲渡したことを知り得るものであれば足りると解される。
金法 1373-42
[最高裁二小 H.5.2.26 判*] H1(オ)1351 号・保険金支払請求事件(上告棄却)
民法 369 条(譲渡担保)、商法 630 条・631 条・632 条・633 条
一、譲渡担保権者及び譲渡担保設定者と目的不動産についての被保険利益 ―譲渡担保権者及び
譲渡担保設定者は、いずれも譲渡担保の目的不動産について被保険利益を有する。
二、譲渡担保権者と譲渡担保設定者が別個に損害保険契約を締結し保険金額の合計額が保険価
額を超過している場合と各保険者の負担額の決定方法 ― 譲渡担保権者と譲渡担保設定者が
別個に譲渡担保の目的不動産について損害保険契約を締結し、その保険金額の合計額が保険価額
を超過している場合には、被保険者を異にしているため重複保険ではないが、特段の約定のない
限り、商法 632 条の趣旨にかんがみ、各損害保険契約の保険金額の割合によって各保険者の負担
額を決定すべきである。
民集 47-2-1653 判時 1459-124 判タ 817-170 金判 921-3
権鍾浩・法協 112-7-166
出口正義・H5 重要判ジュリ 1046-115
須崎博史・民商 110-6-143 & 別冊ジュリ 202-12
原審:大阪高裁 H.1.6.20 判・S63(ネ)412 号 民集 47-2-1679 判時 1328-46 金判 921-11
一審:京都地裁 S.63.2.24 判・S59(ワ)1457 号 民集 47-2-1669 金判 921-14
[最高裁三小 H.5.3.30 判*] S63(オ)1453 号・配当異議事件(上告棄却)
民事執行法 154 条 1 項・165 条 1 号・193 条 1 項
動産売買の先取特権に基づく物上代位権の行使としての債権の差押命令の申立てと他の債権者
による債権差押事件の配当手続における優先弁済 ― 動産売買の先取特権に基づく物上代位
権を有する債権者甲が、物上代位の目的たる債権につき仮差押えをした後、右債権につき債権者
乙による差押えがあつたため第三債務者が民事執行法(平成元年法律第 91 号による改正前のも
10
の)156 条 2 項、178 条 5 項に基づく供託をした場合において、甲が右供託前に更に物上代位権
の行使として右債権の差押命令の申立てをしたときであつても、その差押命令が右供託前に第三
債務者に送達されない限り、甲は乙による債権差押事件の配当手続において優先弁済を受けるこ
とができない。
民集 47-4-3300 判時 1541-80 判タ 888-137
松下淳一・法協 111-9-137
坂田宏・H5 重要判ジュリ 1046-152
飯塚重男・リマークス 13-144
浦野雄幸・民商 110-2-171
西澤宗英・法学研究(慶大)67-6-101
松原弘信・別冊ジュリ 208-162
原審:東京高裁 S.63.7.27 判・S62(ネ)2515 号
民集 47-4-3325 判時 1284-69
一審:東京地裁 S.62.7.29 判・S61(ワ)14099 号
民集 47-4-3319
[東京地裁 H.5.9.24 判*] H4(ワ)10697 号 建物収去土地明渡請求事件
旧借地法 9 条
(一部認容・一部棄却、控訴)
倉庫所有を目的とする賃貸期間 2 年の土地賃貸借が更新により約 20 年間係属した場合、一時
使用目的の借地であるとされた事例 ― 「被告代表者は、本件賃貸借契約を締結(昭和 47 年 8
月)するに先立ち、原告に対し、賃貸借期間は短期間でよい旨を告げ、原告も短期間であるなら
賃貸借契約を締結してもよいと考えたことから、両者の意思が一致して本件賃貸借契約が成立す
るに至っていること、本件賃貸借契約を締結するに際し作成された契約書の冒頭には、
『一時土地
賃貸借契約書』という表題が付され、右契約書の条項中にも、賃貸借の契約期間を二年間という
一時的なものにすることが明記されていること、本件賃貸借契約の締結に際しては、権利金、敷
金の授受はされていず、賃料の増額は、昭和 48 年ころに1カ月 146,000 円となった以後は一度
もなされていないこと、以上に指摘した事実に照らすと、原告は、被告の本件土地使用を平成 4
年 3 月 14 日までの長期にわてたって了承していたとの事実や、本件各建物は、建築以後現在に至
るまでの間の長期にわたる使用に耐え得るものであったとの事実を考慮してもなお、本件賃貸借
契約については、当事者間に短期間に限り賃貸借を存続させる客観的合理的理由が存したという
べきである。したがって、本件賃貸借契約は、一時使用を目的とするものと認めることができ、
右認定を覆すに足りる証拠はない。
」
判時 1496-105
[最高裁二小 H.5.10.22 判*] H3(オ)1476 号 約束手形金請求事件
手形法 43 条・77 条 1 項 4 号
約束手形の振出人に対する満期前の手形金請求訴訟の提起ないし訴状の送達と遡求権行使の要
件である支払のための呈示としての効力の有無 ― 「約束手形の所持人が振出人に対し満期前に
将来の給付の訴えとして約束手形金請求訴訟を提起したが、口頭弁論終結前に満期が到来した場
合には、裏書人に対する遡求権行使の要件として、支払呈示期間内に支払場所において振出人に
対する支払呈示をしなければならないというべきであり(手形法 43 条、77 条 1 項 4 号)、振出
人に対する右訴訟の提起ないし訴状の送達は、裏書人に対する遡求権行使の要件である支払呈示
としての効力を有しないものと解するのが相当である。」
民集 47-8-5136 判時 1478-152 判タ 833-152 金法 1383-39 金判 936-3
井上繁規・ジュリ 1040-85 井上健一・法協 112-11-152 山下友信 NBL562-68
庄子良男・H.5 重要判ジュリ 1046-125 永井和之・判例評論 425-63
福瀧博之・民商 111-2-102 野村修也・別冊ジュリ 173-126 東法子・銀行法務 502-10
原審:広島高裁 H.3.6.27 判・H3(ネ)75 号 民集 47-8-5144 金判 936-7
一審:広島地裁尾道支部 H.2.12.21 判・H2(ワ)2 号 民集 47-8-5142 金判 936-8
11
[最高裁一小 H.5.11.25 判*]H3(オ)1495 号 損害賠償請求本訴・不当利得返還請求反訴事件
民法 601 条
(破棄差戻)
いわゆるファイナンス・リース契約において利用者がリース物件の使用ができなかったからと
いってリース料の支払義務を免れることができないとされた事例 ― いわゆるファイナン
ス・リース契約において、利用者がリース物件の引渡しを受けていないのにリース業者にこれを
受領した旨の受領書を交付し、その後リース業者が販売店からその経営不振を理由にリース物件
を引き揚げたなど判示の事実関係の下においては、利用者は、リース物件を使用することができ
なかったからといって、リース料の支払義務を免れることはできない。
集 民 170-553 金 法 1395-49
伊 藤 進 ・ 民 商 113-3-108 大 西 武 士 ・ 判 タ 859-59
原審:広島高裁岡山支部 H.3.6.27 判・H1(ネ)30 号
金法 1395-52
[高松高裁 H.5.12.3 判*]
H5(ネ)292 号 配当異議事件(取消・差戻)
民事執行法 188 条・89 条 1 項・90 条 1 項、民執規則 170 条 1 項
担保権の実行としての不動産競売事件において、当該担保権の被担保債権の債務者は、配当異
議訴訟において原告適格を有しているか(積極)―
担保権の実行としての競売では、不動産
執行の規定の準用が定められており(民事執行法 188 条)、同条により準用される配当異議に関す
る 89 条・90 条に規定の「債務者」は、
「債務者又は所有者」と読み替えるのが相当(通説)であ
るから、競売担保物件の所有者のみならず当該担保権の被担保権の債務者も、配当異議訴訟の原
告適格を有する。
判時-1500-173 判タ 847-284 金判 961-28
一審:高松地裁 H.5.7.15 判・H5(ワ)204 号
判時 1500-174 判タ 847-285 金判 961-29
[京都地裁 H.6.1.13 判*] H5(ワ)2478 号 債務不存在確認請求事件(認容・確定)
民法 147 条 2 号・157 条 1 項
債権の仮差押による時効の中断は、仮差押の執行手続が終了した時点で終了するとし、具体的
には、債権差押命令が第三債務者及び債務者双方に送達された時に終了するとされた事例
― その「仮差押の執行が終了した時点で時効中断が解消し」更に時効が進行する。
判時 1535-124
[最高裁三小 H.6.2.22 判*] H1(オ)1667 号 長崎じん肺訴訟損害賠償請求事件(破棄差戻)
民法 166 条 1 項、じん肺法 4 条・13 条
雇用者の安全配慮義務違反によりじん肺にかかったことを理由とする損害賠償請求権の消滅時効の
起算点: じん肺法所定の管理区分についての最終の行政上の決定を受けた時から進行する。
[判示要旨]
「雇用契約上の付随義務としての安全配慮義務の不履行に基づく損害賠償請求権の消滅時効期
間は、民法 167 条 1 項により 10 年と解され・・・右 10 年の消滅時効は、同法 166 条 1 項により、
右損害賠償請求権を行使し得る時から進行するものと解される。そして、一般に、安全配慮義務
違反による損害賠償請求権は、その損害が発生した時に成立し、同時にその権利を行使すること
が法律上可能となるというべきところ、じん肺に罹患した事実は、その旨の行政上の決定がなけ
れば通常認め難いから、本件においては、じん肺の所見がある旨の最初の行政上の決定を受けた
時に少なくとも損害の一端が発生したものということができる。
しかし、
・・・じん肺の病変
の特質にかんがみると、管理二、管理三、管理四の各行政上の決定に 相当する病状に基づく各損
害には、質的に異なるものがあるといわざるを得ず、したがって、重い決定に相当する病状に基
づく損害は、その決定を受けた時に発生し、その時点からその損害賠償請求権を行使することが
法律上可能となるものというべきであり、最初の軽い行政上の決定を受けた時点で、その後の重
12
い決定に相当する病状に基づく損害を含む全損害が発生していたとみることは、じん肺という疾
病の実態に反するものとして是認し得ない。これを要するに、雇用者の安全配慮義務違反により
じん肺に罹患したことを理由とする損害賠償請求権の消滅時効は、最終の行政上の決定を受けた
時から進行するものと解するのが相当である。」
民集 48-2-441 判時 1499-32 判タ 853-73 労判 646-7
松本克美・ジュリ 1067-127 & 別冊ジュリ 223-88
久保野恵美子・法協 112-12-140
岩村正彦・ジュリ 1082-189
前田達明・民商 113-1-70
新美育文・リマークス 11-32
藤岡康宏・H6 重要判ジュリ 1068-65
高橋眞・判例評論 433-218
原審:福岡高裁 H.1.3.31 判・S60(ネ)181 号ほか
判時 1311-36
一審:長崎地裁佐世保支部 S.60.3.25 判・S54(ワ)172 号ほか
判時 1152-44
*:時効・除斥期間の起算点に関する主要判決例の概要は[東京高裁 H.25.10.31 判*]の末尾コ
メントを参照。
[最高裁三小 H.6.6.21 判*]H2(オ)1211 号 貸金請求事件(上告棄却)
民法 147 条 2 号・157 条 1 項、民事執行法(H.1 改正前)179 条 1 項、
民事保全法 51 条 1 項
仮差押による時効中断の効力は、仮差押解放金の供託により仮差押の執行が取消された場合に
おいても、なお継続する ― 「民法 157 条 1 項は、中断の事由が終了したと
きは時効中断の効力が将来に向かって消滅する旨規定しているところ、仮差押解放金の供託によ
る仮差押執行の取消しにおいては、供託された解放金が仮差押執行の目的物に代わるものとなり、
債務者は、仮差押命令の取消しなどを得なければ供託金を取り戻すことができないばかりでなく、
債権者は、本案訴訟で勝訴した場合は、債務者の供託金取戻請求権に対し強制執行をすることが
できる(大審院大正 3 年(オ)第 77 号・同年 10 月 27 日判・民録 20-8-810、大審院昭和 7 年(ク)
第 789 号同年 7 月 26 日決定・民集 11-16-1649、最高裁昭和 42 年(オ)第 342 号・同 45 年 7 月
16 日第一小法廷判・民集 24-7-965 参照)ものであるから、仮差押えの執行保全の効力は右供託
金取戻請求権の上に存続しているのであり、いまだ中断の事由は終了したとはいえないからであ
る。
」
民集 48-4-1101 判時 1513-109 判タ 865-131 金法 1406-13 金判 959-3
賀集唱・リマークス 11-22 中田裕康・H.6 重要判ジュリ 1068-63
石川明・法学研究(慶大)68-9-145 栗田隆・判例評論 441-64
東法子・銀行法務 509-56
原審:大阪高裁 H.2.5.30 判・H2(ネ)161 号 高民集 43-2-95
一審:神戸地裁姫路支部 H.1.12.14 判・H1(ワ)62 号
*:仮差押による時効中断の効力の継続については[最高裁三小 H.10.11.24 判*]も参照。
[最高裁一小 H.6.7.14 判*]H3(オ)1762 号 配当異議事件(破棄自判・異議否認)
工場抵当法 3 条・35 条、民法 177 条
工場抵当法 3 条の抵当物件目録の記載と対抗要件 ― 同三条に規定する物件に付き抵当権の
効力を第三者に対抗するには、右物件が同条の目録に記載されていることを要する。
民集 48-5-1126 判時 1510-90 判タ 861-199
大村敦志・法協 113-12-84
西尾信一・銀行法務 502-72
大内俊見・ジュリ「最高裁時の判例Ⅱ」-106
佐久間弘道・金法 1581-98
原審:福岡高裁 H.3.8.8 判・H3(ネ)138 号 民集 48-5-1159 判タ 786-199
一審:大分地裁中津支部 H.3.1.21 判・S63(ワ)143 号 民集 48-5-1150 金判 957-24
13
[最高裁三小 H.6.11.22 判①*]H3(オ)284 号 預金払戻請求事件(破棄差戻)
民法 715 条
使用者責任が否認されるべき取引相手方の重過失の意義:信用金庫の職員に預金の名目で小切
手を詐取された者が信用金庫に損害賠償を請求した場合につき右の者に重大な過失があるとし
て民法 715 条の適用を否定した原審の判断に違法があるとされた事例 ― 「 被用者の取引行
為がその外形から見て使用者の事業の範囲内に属すると認められる場合であっても、それが被用
者の職務権限内において適法に行われたものではなく、かつ、その相手方が右の事情を知り又は
重大な過失によってこれを知らなかったときは、相手方である被害者は、使用者に対してその取
引行為に基づく損害の賠償を請求することはできないが(
[最高裁一小 S.42.11.2 判*]参照)
、こ
こにいう重大な過失とは、取引の相手方において、わずかな注意を払いさえすれば、被用者の行
為がその職務権限内において適法に行われたものでない事情を知ることができたのに、漫然これ
を職務権限内の行為と信じたことにより、一般人に要求される注意義務に著しく違反することで
あって、故意に準ずる程度の注意の欠缺があり、公平の見地上、相手方に全く保護を与えないこ
とが相当と認められる状態をいうのである(
[最高裁二小 S.44.11.21 判*]参照)。
」
甲が信用金庫の支店長代理乙に預金の名目で小切手を詐取されたとして信用金庫に損害賠償を
請求した場合において、甲は信用金庫の店舗内で乙に預金の趣旨で小切手を交付したが、もとも
と正規の預金を勧誘されたものではないなど判示の事情があるときは、甲が勧誘を受けた預金の
条件など勧誘から小切手の交付に至るまでの一連の過程に正常な普通預金取引としては不自然な
点があったとしても、そのことのみから乙の職務権限の逸脱を知らなかったことにつき、
「これら
の事情だけから上告人甲に乙がその職務権限を逸脱して小切手の交付を受けるものであることを
知らないことにつき故意に準ずる程度の注意の欠缺があって、公平の見地から、上告人らに全く
の保護を与えないことが相当と認められる状態にあったとまでいうことはできず、過失相殺とし
てこれを斟酌すべきか否かは別として、いまだ前記の重大な過失があると認めるには足りないも
のというべきである。
」 民法 715 条による上告人らの予備的請求を棄却すべきものとした原審の
同条の解釈適用の誤り、ひいては審理不尽・理由不備の違法を判示し、この予備的請求を棄却し
た原審判断を破棄・差戻。
集民 173-347 判時 1540-42 判タ 888-122 金法 1427-42 金判 978-3
出口正義・NBL581-58
高橋眞・民商 114-2-140 東法子・銀行法務 524-70
瀬川信久・リマークス 13-66 田尾桃二・金判 984-40 林部實・判例評論 448-44
原審:福岡高裁 H.2.10.30 判・S63(ネ)40 号
判時 1379-91 判タ 743-165 金判 853-3 金判 978-14
一審:福岡地裁 S.63.1.27 判・S60(ワ)1336 号
判時 1289-104 判タ 647-143 金法 1217-40 金判 978-18
*古田:代理人が実は自己または第三者の利益のみに代理行為をしている代理権濫用の場合に、
代理行為の相手方が代理人のその意図を知り、または知り得べかりしときは、判例・学説は古
くから民法 93 条但書を類推適用して代理行為の効力を否定して本人無責としている:
[最高裁
一小 S.42.4.20 判*]
・
[最高裁三小 S.43.2.6 判*]
・
[高松高裁 S.63.11.30 判*]。 従って、相
手方本人への契約責任を問えない場合には、民法 715 条の使用者責任での責任追及となるが、
上記 3 判決例のみならず、
[最高裁一小 S.42.11.2 判*]
・
[最高裁一小 S.42.12.21 判①*]も相
手方(被害者)に、故意または重過失があるとしてその請求も厳しく否認している。
これら昭和 42 年の判例での厳しさには、公平の見地から批判があり、その判例の法理は踏襲
しながら、
[最高裁二小 S.44.11.21 判*]は使用者責任を是認し、
[最高裁二小 S.47.3.31 判*]
は過失相殺に止めて使用者責任を是認した。そして、平成 6 年の本判決も、相手方に重過失が
ある場合には使用者責任が問えないとする昭和 42 年の判例理論に則ったうえ、その重過失の認
定については昭和 44 年判例に従い、上記判示要旨のアンダーラインの如く判示し、重過失を否
認し過失相殺するかの問題であるとした。
その他、
[最高裁一小 S.50.1.30 判*]は本人責任を一部認めてその分の事業の業務執行性を
是認した事例であり、
[最高裁三小 H.22.3.30 判*]は被用者の職務権限に属しないことが客観
14
的・外形的にも明らかであることから使用者責任を否定した事例である。
田尾桃二・金判 984-40 の 42~47 頁「研究」を参照。
なお、詳しくは、
[最高裁三小 H.6.11.22 判②*]H2(オ)1146 号 損害賠償請求事件
民法 505 条、民訴法 186 条(現 246 条)・199 条(現 114 条)2 項
一、金銭債権の一部請求の訴での相殺の抗弁 ― 「特定の金銭債権のうちの一部が訴訟上請求
されているいわゆる一部請求の事件において、被告から相殺の抗弁が提出されてそれが理由があ
る場合には、まず、当該債権の総額を確定し、その額から自働債権の額を控除した残存額を算定
した上、原告の請求に係る一部請求の額が残存額の範囲内であるときはそのまま認容し、残存額
を超えるときはその残存額の限度でこれを認容すべきである。けだし、一部請求は、特定の金銭
債権について、その数量的な一部を少なくともその範囲においては請求権が現存するとして請求
するものであるので、右債権の総額が何らかの理由で減少している場合に、債権の総額からでは
なく、一部請求の額から減少額の全額又は債権総額に対する一部請求の額の割合で案分した額を
控除して認容額を決することは、一部請求を認める趣旨に反するからである。」
二、金銭債権の一部を請求する訴訟において相殺の為に主張された自働債権の存否の既判力 ―
「一部請求において、確定判決の既判力は、当該債権の訴訟上請求され
なかった残部の存否には及ばないとすること判例であり(最高裁昭和 35 年(オ)第 359
号同 37 年 8 月 10 日第二小法廷判決・民集 16-8-1720)
、相殺の抗弁により自働債権の
存否について既判力が生ずるのは、請求の範囲に対して『相殺ヲ以テ対抗シタル額』に
限られるから、当該債権の総額から自働債権の額を控除した結果残存額が一部請求の額を超える
ときは、一部請求の額を超える範囲の自働債権の存否については既判力を生じない。
民集 48-7-1355
梅本吉彦・H.6 重要判ジュリ 1068-121
高崎英雄・法学研究(慶大)69-3-165 中野貞一郎・民商 113-6-117
原審:福岡高裁 H.2.5.14 判・S63(ネ)730 号
民集 48-7-1373
一審:福岡地裁小倉支部 S.63.10.12 判
民集 48-7-1359
[最高裁一小 H.6.11.24 判*]H4(オ)1814 号 慰謝料・損害賠償請求事件(破棄自判)
民法 432 条・437 条・719 条
共同不法行為者の損害賠償債務と民法 437 条(連帯債務者の一人に対する免除)の適用の有無
(否定) ― 「民法 719 条所定の共同不法行為が負担する損害賠償債務は、
いわゆる不真正連帯債務であって連帯債務ではないから、その損害賠償債務については連帯債務
に関する同法 437 条の規定は適用されないものと解するのが相当である(最高裁二小 S.48.2.16
判・S43(オ)431 号・民集 27-1-99 の上告理由第二点に対する判示を参照)。」 共同不法行為者 A・
B のうち、債権をいささかも満足させていない(弁済・供託・相殺等がないこと)A に対して既
にされている調停による債務の免除は、被上告人 B についても債務を免除する趣旨は含まれてい
ないから、同「被上告人に対する関係では何等の効力を有しないものというべきである。
」
集民 173-431 判時 1514-82 判タ 867-165
淡路剛久・リマークス 12-33 前田達明・民商 114-2-146
原審:大阪高裁 H.4.7.15 判・H3(ネ)1249 号
一審:神戸地裁尼崎支部 H.3.5.28 判・H1(ワ)739 号ほか
*前田評釈:民法 437 条は連帯債務には適用されるが不真正連帯債務には適用されない、という
のが判例通説(我妻栄「新訂債権総論」445 頁)
。もっとも、同条は任意規定と解すべきである
から(我妻・同 418 頁)
、同条の適用・不適用が当事者の意思解釈から不明の場合には、連帯債
務には適用。不真正連帯債務には不適用ということになる。
*淡路評釈:本判決は、共同不法行為者間の求償権の問題に触れていない。A・B は被害者に対
しての故意者同士での共同不法行為であるから、民法 708 条の趣旨からも互いの求償権は否定
15
されるべきだと考えられるからである。
過失者同士など共同不法行為者間での求償権が認められるべき本来の事案であれば、被害者
に賠償して被害者から免除された当該不法行為者への免除は原則として同人への不訴求約束と
解せられる。この場合は被害者に弁済した他方の不真正共同不法行為者からの求償は認められ
得ることになる。内部的な負担関係を被害者の意思で変動させ得るとすれば妥当性を欠くから
である。
他方、免除者である被害者が、被免除者に内部関係を含めてそれ以上の負担を負わせない趣
旨で免除した場合には、民法 437 条を適用ないし類推適用して免除に絶対的効力を認めるべき
であろう。
[東京地裁 H.6.12.16 判*]H3(ワ)13125 号 売買代金請求事件(請求棄却・確定)
民法 485 条
中国から輸入された河砂の荷揚費用の負担者 ―
本件は邦法人間の輸入河砂の販売契約で
あり、売買契約の時点において荷揚代金について被告(買主)の負担とする特段の合意は認めら
れないので、民法 485 条により原告(売主)の負担と判示。
判タ 894-191
[東京地裁 H.6.12.21 判*]H5(ワ)6142 号売買代金請求事件(主位的請求棄却、予備的請求
民法 99 条・110 条・715 条 1 項・722 条 2 項
一部容認・一部棄却、控訴後和解)
被告会社の従業員が原告から大量の新幹線回数券を購入したことにつき、被告の契約責任を否
定したが使用者責任を認めて 6 割の過失相殺がされた事例 ― 被告会社従業員の本件乗車券購
入行為は外形的には業務執行行為であるが、大企業家電グループ事務局の市販部部長ないし部長
代理の肩書を示している被告会社従業員一人のみが常に大量の乗車券を受取りに来ることに些か
の疑念も持たなかった原告旅行会社に 6 割の過失を認めて相殺を判示。
判時 1551-91
[最高裁二小 H.7.4.14 判*]H3(オ)155 号・動産引渡等請求事件(上告棄却)
民法 601、会社更生法 102 条・103 条・208 条 7 号
いわゆるフルペイアウト方式によるファイナンス・リース契約によりリース物件の引渡しを受
けたユーザーにつき会社更生手続の開始決定があった場合における未払のリース料債権の性質
― 当該リース契約の実質はユーザーに対して金融上の便宜を付与するものであり、各月のリー
ス物件の使用と各月のリース料の支払とは対価関係に立つものではないので、
「未払のリース料債
権はその全額が更生債権となり、リース業者はこれを更生手続によらないで請求することはでき
ないものと解するのが相当である。
・・・会社更生法 103 条 1 項(現 61 条 1 項:双務契約)の規
定は、双務契約の当事者間で相互に牽連関係に立つ双方の債務の履行がいずれも完了していない
場合に関するものであって、いわゆるフルペイアウト方式によるファイナンス・リース契約にお
いて、リース物件の引渡をしたリース業者は、ユーザーに対してリース料の支払債務と牽連関係
に立つ未履行債務を負担していないというべきであるから、右規定は適用されず、結局、未払の
リース料債権が同法 208 条 7 号(現 61 条 4 項)に規定する共益債権であるということはできな
いし、他に右債権を共益債権とすべき事由もない」
民集 49-4-1063 判時 1533-116 判タ 880-147 金法 1425-6
旗田庸・金法 1581-220
小林洋一・銀行法務 510-10
西澤宗英・法学研究(慶大)69-6-152
小塚荘一郎・別冊ジュリ 194-158
原審:東京高裁 H.2.10.25 判・S63(ネ)2089 号
民集 49-4-1097 判時 1370-140
一審:東京地裁 S.63.6.28 判・S57(ワ)13643 号 民集 49-4-1083 判時 1310-143
16
*小塚評釈:本判決は、
「いわゆるフルペイアウト方式によるファイナンス・リース契約」を
直接の対象としているが、多くの見解は、フルペイアウト方式によらないファイナンス・
リース契約についても判決の射程が及び、他方、オペレーティナグ・リース、メインテナ
ンス・リース等、ファイナンス・リース以外のリース契約については、双方未履行契約に
あたる可能性もあると解している。しかし、リース契約のさまざまな類型は実務上発達し
てきた概念であって、法的に整理されたものではないから、それに即して射程を論ずるこ
とに大きな意味があるとは思われない。むしろ、本判決は、米国法と同様に、リース契約
の実質に着目して、
「実質はユーザーに対して金融上の便宜を付与するもの」と解される場
合には、双方未履行契約ではなく、更生債権(更生担保権)として処遇されるという趣旨
に読まれるべきではないか。
*[最高裁三小 S.57.10.19 判*]の末尾の古田コメント参照。
[東京地裁 H.7.6.12 判*] S63(ワ)10976 号 委託代金請求事件(請求棄却)
民法 632 条・656 条、商法 512 条
コンピューター・プログラムの制作委託契約に基づく受託者のブログラム・ステップ数が予想
を大幅に超えた場合において、商法 512 条に基づく報酬請求権が否定された事例 ― 「専門的
知識、能力を有する原告としては、本件契約を締結するまでの間において、本件システムの内容
を十分に理解し、それを前提として原告の受託業務の規模及び範囲等を原告の立場において判断
し、見積額を算定することが可能な状態なあったものである。」と判示し、別途に商法 512 条によ
る報酬請求権の存在はないと判断された。
判時 1546-29 判タ 895-239
[最高裁三小 H.7.7.18 判*]H3(オ)906 号 取立訴訟事件(上告棄却)
民法 505 条・511 条
当事者が異なる2個の債権の相殺予約と差押債権者への対抗 ― A・B 間でされた A の B に対
する甲債権と、B の Y に対する乙債権とを相殺することができる旨の相殺予約に基づく相殺を
もって、Y が乙債権の差押債権者 X に対抗することが出来ないとされた事例
[事案概要]
A 商事は B 運送に対して甲債権
(給油代金債権)
を有していたが B に信用不安があることから、
A の親会社である Y 通運に対して B が有している乙債権(下請運送代金債権)とを、A の意思表
示により相殺適状の時点に遡って相殺することが出来る旨の相殺予約を A・B で締結した。
S.61.3.20 に B 振出の約束手形が不渡りとなり相殺適状が生じた。一方 X(国)は B の税金滞納で乙
債権を S.61.3.25 差押えた。その後、S.61.8.21 に A は B に対し、甲債権と乙債権とを対当額で相
殺する旨の意思表示をした。X が S.62 に Y を被告として乙債権の取立訴訟を提起したところ、Y
は上記相殺による取立債権の消滅を主張した。一審 Y 勝訴するも控訴審で Y 敗訴。Y 上告。
[判示要旨]
本件相殺予約の趣旨は必ずしも明確とは言えず、その法的性質を一義的に決することは問題も
なくはないが、右相殺予約に基づき A のした相殺が、実質的には、Y に対する債権譲渡といえる
ことをも考慮すると、Y は A が X の差押後にした右相殺の意思表示をもつて X に対抗することが
できないとした原審の判断は、是認することが出来る。上告棄却。
集民 176-415 判時 1570-60 判タ 914-95 金判 998-3 金法 1457-37
大西武士・リマークス 15-39 平野裕之・銀行法務 527-4 東法子・銀行法務 536-52
中舎寛樹・民商 115-6-197 本間靖規・判例評論 459-46
大西武士・金法 1581-204
原審:大阪高裁 H.3.1.31 判・S63(ネ)2008 号(原判決取消・X の請求容認)
判時 1389-65 判タ 771-173 金法 1284-22 金判 998-9
山田二郎・ジュリ 995-118
松元崇・判タ 773-70(RF③A)
17
一審:神戸地裁 S.63.9.29 判・S62(ワ)344 号(X の請求棄却)
判タ 699-221 金法 1214-35
*東評釈:債権者・債務者の二者間で互いに相手方に対して有する債権につき層沿い予約がされ
た場合には、民法 511 条の規定からも、差押後に取得した債権によるものでない限り、相殺を
もって差押債権者に対抗することができる(そもそも相殺予約がされていなくとも相殺できる)
。
債権債務の対立する債権者・債務者間において将来相殺しようとの期待利益は保護さるべきで
あるからである。判例上この見解は確定しており、今日の学説の多数もこれを支持する。
本件のように、債権者・債務者間で債権が対立しているのではなく、A の B に対する債権と
B の Y に対する債権とを相殺する予約は、対立する債権債務を有する債権者・債務者間の期待
利益を保護するものとは異質であり、本来の民法 505 条・511 条の場合と同様には考えられず、
このような三者間の相殺予約は、三者間で予約の合意がされた場合でも、その予約を以て当然
に第三者に対抗できるものではない。本件二審の判決理由では、三者間における相殺予約の合
意の存在がないことから、相殺でなく差押後の債権譲渡であり敗訴となっているが、三者間に
おける相殺予約の合意によるものであっても同じである。
[最高裁三小 H.7.9.5 判*]
H7(オ)374 号 保証債務金請求事件(棄却)
民法 147 条・148 条・155 条、民訴法 172 条・173 条、民事執行法 45 条 2 項・188 条
物上保証人に対する不動産競売の開始決定の債務者への送達が、いわゆる付郵便送達によりさ
れた場合における被担保債権の消滅時効の中断(消極)― 決定正本の発送だけでは被担保債
権の消滅時効の中断の効力を生ぜず、右正本の到達によって中断の効力を生じる。
「けだし、不動産競売の開始決定の正本の送達が書留郵便に付された場合には、民事執行法 20
条において準用する民訴法 173 条の規定により、右正本の送達の時に送達があったものと看做さ
れるが、そのような効果は不動競売の手続上のものにとどまるのであって、実体法規としての民
法 155 条の適用上、差押が時効の利益を受ける者である債務者に通知されたというためには、債
務者が右正本の到達により当該競売手続の開始を了知し得る状態に置かれることを要するものと
云うべきだからである。
」
民集 49-8-2784 判時 1569-54 金判 997-3
清水暁・判例評論 457-37
秦光昭・銀行法務 521-4 滝浪武・銀行法務 527-16 福永有利・銀行法務 527-24
東法子・銀行法務 531-79
原審:広島高裁岡山支部 H.6.11.28 判・H5(ネ)37 号
民集 49-8-2801 金判 997-9
一審:岡山地裁 H.5.1.25 判・H4(ワ)309 号 民集 49-8-2794 金判 997-11
[最高裁三小 H.7.9.19 判*] H4(オ)524 号 不当利得金返還請求事件(上告棄却)
民法 703 条
建物賃借人から請け負って修繕工事をした者が賃借人の無資力を理由に建物所有者に対し不当
利得の返還を請求することができる場合
[事案の概要]
建物所有者丙は、乙に対して、本件建物(地下 1 階・地上 3 階の廃墟同然のビル)を賃料月 50
万円、期間 3 年の約束で賃貸した。乙は、レストラン、ブティック等の営業施設をもつビルにす
ることを計画していたので、権利金を支払わず、その代償として修繕・造作の新設等の工事は全
て乙の負担とすることを特約した。 乙は甲に請負わせて建物の改修・改装工事をさせ引渡を受
けたが、請負代金 5,180 万円のうち 2,430 万円を支払っただけである。丙は、乙が建物内の店舗
を無断転貸したことを理由に賃貸借契約を解除して明渡訴訟を提起。その後乙は所在不明となり、
甲は、回収不能となった残代金 2,750 万円の不当利得返還請求訴訟を丙に対し提起。
[判示要旨]
18
甲が建物賃借人乙との間の請負契約に基づき建物の修繕工事をしたところ、その後乙が無資力
になったため、甲の乙に対する請負代金債権の全部又は一部が無価値である場合において、右建
物の所有者丙が法律上の原因なくして右修繕工事に要した財産及び労務の提供に相当する利益を
受けたということができるのは、丙と乙との間の賃貸借契約を全体としてみて、丙が対価関係な
しに右利益を受けたときに限られる。
「丙が甲のした本件工事により受けた利益は、本件建物を営業用建物として賃貸するに際し通
常であれば・・・乙から得ることができた権利金の支払を免除したという負担に相応するものと
いうべきであって、法律上の原因なくして受けたものということはできず、これは、・・・本件
賃貸借契約が乙の債務不履行を理由に解除されたことによっても異なるものではない。」
民集 49-8-2805
判時 1551-68 判タ 896-89 金判 987-3
好美清光・リマークス 14-56
平田健治・民商 115-6-128
原審:大阪高裁 H.3.12.17 判・H2(オ)540 号
民集 49-8-2825 金判 987-9
一審:京都地裁 H.2.2.28 判・S.59(ワ)319 号 民集 49-8-2815 金判 987-10
*好美評釈:丙の利得が実質上無償である限り、賃貸借契約の当事者である丙・乙間で賃借人乙
負担とする特約があるだけでは、第三者である甲に対しては「法律上の原因」ありとは言えな
い。と指摘されている。 ⇔筆者古田は「法律上の原因」は賃貸借契約の当事者である丙・乙
間で足ると解しており、問題ありとすればその内容の不当性が著しいかであろう。
[大阪高裁 H.7.10.9 決定*] H7(ラ)594 号 不動産引渡命令に対する執行抗告事件(確定)
民事執行法 83 条(H8 本条改正前)
、民法 295 条 1 項
一、 不動産競売手続における差押前から所有権留保付売買契約に基づいて不動産を占有する
買主は、不動産引渡命令の相手方になるか(積極)― 「けだし、右譲受人(占有者)が所有
権移転登記を経由していた場合には、優先する担保権の実行による買受人に対しては執行債務者
(実体法上の売主)として引渡命令の発付を拒み得なかった筈であり、未登記であるが故にこれ
を免れることは不合理であるからである。」
二、不動産競売手続における買受人の代金納付により、売買契約が履行不能となって売主に対
する手付金返還請求権を取得した不動産占有者は、それを被担保債権とし、買受人からの引
渡請求に対して留置権を主張できるか(消極)― 「手付金返還請求権はその物自体を目的と
する債権がその態様を変じたものというべきであって、このような債権はその物に関して生じた
債権とは言えないというべきである。
」
判時 1560-98
山本浩美・判例評論 455-209
一審:大阪地裁 H.7.8.25 決定・H7(ヲ)5921 号
*山本評釈:本件の抗告人は、不動産に抵当権が設定された後に停止条件付で所有権を取得し得
る買主であり、且つ未登記の占有者であるから、買受人に対抗することができるとは認められ
ない。従って、民執法改正後 83 条 1 項によれば、本件の抗告人は、引渡命令の相手方となる。
[最高裁二小 H.7.11.10 判*]H4(オ)1128 号 根抵当権設定登記抹消登記手続請求事件
民法 369 条・378 条
(上告棄却)
譲渡担保権者と滌除権 ― 「譲渡担保権者は、担保権を実行して確定的に抵当不動産の所有権
を取得しない限り、民法 378 条所定の滌除権者たる第三取得者には該当せず、抵当権を滌除する
ことができないものと解するのが相当である。」
民集 49-9-2953 判時 990-3 金判 990-3 金法 1448-69
井上繁規・ジュリ 1087-114 東法子・銀行法務 528-54 升田純・金法 1581-206
原審:名古屋高裁 H.4.3.31 判・H3(ネ)525 号
金判 990-7
一審:名古屋地裁 H.3.8.20 判・H1(ワ)3648 号
金判 990-8
19
[最高裁一小 H.7.11.30 判*]H4(オ)1119 号・損害賠償請求事件(破棄差戻)
商法 23 条(現 14 条・会社法 9 条)
スーパーマーケットに出店しているテナントと買物客との取引に関して商法 23 条(現 14 条・
会社法 9 条)の類推適用によりスーパーマーケットの経営会社が名板貸人と同様の責任を負う
とされた事例 ― 甲の経営するスーパーマーケットの店舗の外部には、甲の商標を表示した大
きな看板が掲げられ、テナントである乙の店名は表示されておらず、乙の出店している屋上への
階段の登り口に設置された屋上案内板や右階段の踊り場の壁には「ペットショップ」とだけ表示
され、その営業主体が甲又は乙のいずれであるかが明らかにされていないなど判示の事実関係の
下においては、乙の売場では、甲の売場と異なった販売方式が採られ、従業員の制服、レシート、
包装紙等も甲とは異なったものが使用され、乙のテナント名を書いた看板がつり下げられており、
右店舗内の数箇所に設けられた館内表示板にはテナント名も記載されていたなど判示の事情が存
するとしても、一般の買物客が乙の経営するペットショップの営業主体は甲であると誤認するの
もやむを得ないような外観が存在したというべきであって、右外観を作出し又はその作出に関与
した甲は、商法 23 条(現 14 条・会社法 9 条)の類推適用により、買物客と乙との取引に関して
名板貸人と同様の責任を負う。
民集 49-9-2972 判時 1557-136 判タ 901-121
池田賢一・北大法学論集 47-1-377
小塚荘一郎・法協 114-10-139
片木晴彦・別冊ジュリ 194-36
原審:東京高裁 H.4.3.11 判・H3(ネ)1334 号
民集 49-9-3041 判時 1418-134
一審:横浜地裁 H.3.3.26 判・S60(ワ)116 号
民集 49-9-3015 判時 1390-121
[仙台地裁 H.8.2.28 判*]H5(ワ)110 号 リース料請求事件(請求棄却・確定)
民法 446 条・95 条
ファイナンス・リース契約の連帯保証契約において、空リースであることを知らなかった連帯
保証人の要素の錯誤の主張が認められた事例 ― 原告リース業者は、H.2.10.15、ユーザーA 組
合(訴外)との間で、厨房用冷凍冷蔵庫一式をサプライヤーB(訴外)から購入し、リース期間
を 72 カ月、リース料月額 84,100 円として A 組合に使用させるリース契約を締結した。被告 Y1
並びに Y2 は、右契約における A 組合の原告に対する債務を A の依頼で同リース契約書の連帯保
証人欄に署名した。原告は A 組合からリース物件の引渡を受けた旨の仮受書が郵送されてきたの
で、リース物件の売買代金 451 万 9,640 円を B の銀行口座に振込んだ。その後しばらくして A は
リース料の支払を遅延し、原告は連帯保証人に対し残金 493 万 7,511 円並びに遅延損害金を連帯
して支払うよう Y1・Y2 に対し訴提起した。判旨は、空リースであることを認定するとともに、
リース業者である原告の悪意または過失を否定したが、被告らに要素の錯誤を肯定し、原告の請
求を棄却した。判決は、空リースの基本的問題として次のように判示している:「本件において、
A 組合代表らが空リースを仕組んだのは、金融機関から金銭消費貸借契約の締結により融資を受
けるといった通常の手段をとることができないために、空リースという手段によって当面の資金
を得ようとしたものと推認されるのである。正常なリース契約に基づき、特定の設備に投資し、
それを使用収益しながら営業活動を行っていく場合と、空リースによってその場しのぎの金融の
利益を得る場合とでは、主たる債務者による返済の確実性に相違があり、保証人の予測すべきリ
スクの範囲や質が違うことは明らかであって、リース契約の経済的実態が金融であるということ
から、その法形式が賃貸借であることや、右のような空リースの社会的実態を無視して、空リー
スについての保証を単なる金銭消費貸借の保証と同一視することは当を得ないものと云わなけれ
ばならない。
」
判時 1614-118 判タ 954-169
庄政志・判例評論 471-29
*庄評釈:判旨に反対であるとされ次のように指摘されている。
「判旨によれば、リース業者がリ
スクを負担することになるが、何故、ユーザーと関係が深い連帯保証人の側が負担しないのか
20
も問題である。錯誤の対象たる事項が錯誤者の支配領域で生じたものである場合には、錯誤無
効の主張はされにくいと解されているからである。また、このような微妙な場合、安全・迅速
化の要求される商取引の分野では、表示主義の法を重視すべきではないかと考えられるからで
ある。結局、リース業者側に過失がある場合とか、サプライヤーとかユーザーがリース業者側
とある程度社会的に密接な関係にある場合等を除いて表意者たる連帯保証人は無効の主張がで
きないと解すべきではなかろうか。
」
*古田:空リースが如何にそれを知らない連帯保証人に重大な影響を及ぼすかは、判示も指摘し
ているとおりである。リース業者は空リースもあり得ることを業として認識しているのである
から、庄教授の指摘のように、それを知らない保証人の危険に無縁ではありえないと筆者は考
える。
[最高裁一小 H.14.7.11 判*]の尾嶋評釈は、同最高裁判決の射程は空リースにも及ぶと
指摘されている。
[最高裁三小 H.8.3.5 判*] H4(オ)701 号 損害填補請求事件(破棄自判)
民法 166 条 1 項、自賠法 72 条・75 条・3 条
ある者が交通事故の加害自動車の保有者であるか否かをめぐって争いがある場合における、自動車
損害賠償保障法 72 条 1 項前段に規定の政府の保障事業に対する請求権の消滅時効の起算点
[判示要旨]
「ある者が交通事故の加害自動車の保有者であるか否かをめぐって、 右の者と当該交通事故の
被害者との間で自賠法三条による損害賠償請求権の存否が争われている場合においては、自賠法
3 条による損害賠償請求権が存在しないことが確定した時から被害者の有する本件規定(72 条 1
項)による請求権の消滅時効が進行するというべきである。
けだし、
・・ (四)・・交通事故
の加害者ではないかとみられる者が存在する場合には、被害者がまず右の者に対して自賠法 3 条
により損害賠償の支払を求めて訴えを提起するなどの権利の行使をすることは当然のことである
というべきであり、また、右の者に対する自賠法 3 条による請求権と本件規定による請求権は両
立しないものであるし、訴えの主観的予備的併合も不適法であって許されないと解されるから、
被害者に対して右の二つの請求権を同時に行使 することを要求することには無理がある、(五)し
たがって、交通事故の加害者ではないかとみられる者との間で自賠法 3 条による請求権の存否に
ついての紛争がある場合には、右の者に対する自賠法 3 条による請求権の不存在が確定するまで
は、本件規定による請求権の性質からみて、その権利行使を期待することは、被害者に難きを強
いるものであるからである。
」
民集 50-3-383
判時 1567-96 判タ 910-76 金法 1459-38 金判 996-3 交民集 29-2-291
松久三四郎・別冊ジュリ 152-180 後藤勇・リマークス 15-78 吉村良一・民商 116-2-109
丸山一朗・損保研究 58-4-271 徳本伸一・判例評論 445-28 野山宏・ジュリ 1095-163
原審:広島高裁松江支部 H.4.1.31 判・H3(ネ)10 号
一審:鳥取地裁 H.3.1.30 判・H2(ワ)29 号
*:時効・除斥期間の起算点に関する主要判決例の概要は[東京高裁 H.25.10.31 判*]の末尾コ
メント
[東京高裁 H.8.3.28 判*]H6(ネ)221・231 号・建物明渡・損害賠償請求事件(控訴棄却・
民法 90 条・1 条 2 項・540 条・420 条、独禁法 19 条・2 条 9 項、
確定)
不公正な取引方法(S.57 公取委告示 15 号)9&13
一、 コンビニエンス・ストアーのフランチャイズ契約におけるフランチャイジーが競業他社の
経営に関与し、若しくはこれらの者と業務提携あるいはフランチャイズ契約を結ぶことを禁
止した約定が独禁法の定める不公正な取引方法に当たらないとされた事例 ― フランチャイ
ザーが提供する経営に関する情報の秘密を保護する必要性が大であることと、フランチャイジー
が他のフランチャイザーと取引する必要性が乏しいことを根拠に、不当な取引方法に該当しない
21
と判断。
二、フランチャイジーが取締役をする会社がフランチャイザーの競業他社とフランチャイズ契
約を締結したことが、フランチャイズ契約における約定の解除原因に当たるとされた事例 ―
加盟店(フランチャイジー)と取締役をする会社とは信義則上同視し得ると判断。
三、右解除に伴う損害賠償額の予定が著しく高額であるとして、一部を無効とされた事例 ― 残
存期間が半分であることと、契約解除後倒産してその義務の履行ができない状態になっているこ
とから。
判時 1573-29
今井克典・別冊ジュリ 194-130
一審:東京地裁 H.6.1.12 判・H4(ワ)12677 号ほか
判時 1524-56
[大阪地裁 H.8.3.29 判*] H7(ワ)11408 号 更生債権確定請求事件(棄却・確定)
会社更生法 110 条・125 条・143 条・147 条・154 条
債権の弁済の為に振出交付を受けた約束手形を第三者に譲渡した場合、債務者について開始さ
れた会社更生手続において、原因債権につき更生債権届出をすることの可否(消極)― 手形を
受戻していないから、原因債権での届出は受理できない
判時 1589-133
久保大作・ジュリ 1168-135
[東京地裁 H.8.7.3 判*]H6(ワ)9039 号・報酬金請求事件(一部認容・控訴)
民法 430 条、商法 512 条
土地と建物等の等価交換契約の仲介行為をした不動産業者からの、委託を受けない者に対する
商法 512 条による報酬請求が認められた事例 ― 不動産の売買、仲介を業とする会社が、土地
所有者と建築設計事務所との間の土地とその地上に建築される建物の一部及び交換差金との等価
交換契約の締結を勧め、当事者双方の調整に努めた結果その締結を成立させた場合において、右
仲介行為が右会社の営業の範囲内に属する行為であり、かつ、客観的にみて土地所有者のために
する意思をもってされたということができる判示の事実関係の下では、右会社は土地所有者に対
し商法 512 条に基づき相当額の報酬を請求することができる。
金判 1022-32
*[最高裁一小 S.39.7.16 判*]末尾のコメント参照。
[最高裁二小 H.8.11.18 判*]H5(あ)694 号 地方公務員法違反事件(上告棄却)
憲法 39 条
行為当時の最高裁判所の判例の示す法解釈に従えば無罪となるべき行為を処罰することと
憲法 39 条 ― .行為当時の最高裁判所の判例の示す法解釈に従えば無罪となるべき行為であっ
ても、
「これを処罰することが憲法の右規定(39 条)に違反しないことは、当裁判所の判例(最
高裁大法廷 S.25.4.26 判・S23(れ)2124 号・刑集 4-4-700、同 S.33.5.28 判・S29(あ)1056 号・刑
集 12-8-1718、同 S.49.5.29 判・S47(あ)1896 号・刑集 28-4-114)の趣旨に徴しても明らか」であ
る。
河合伸一裁判官の補足意見:
「判例、ことに最高裁判所が示した法解釈は、下級裁判所に対し事
実上の強い拘束力を及ぼしているのであり、国民も、それを前提として自己の行動を定めている
ことが多いと思われる。この現実に照らすと、最高裁判所の判例を信頼し、適法であると信じて
行為した者を、事情の如何を問わず全て処罰することには問題があると言わざるを得ない。しか
し、そこで問題にすべきは、所論(上告理由)の言うような行為後の判例の「遡及的適用」の許
否ではなく、行為時の判例に対する国民の信頼の保護如何である。私は、判例を信頼し、それゆ
えに自己の行為が適法であると信じたことに相当な理由のある者については、犯罪を行う意思、
すなわち、故意を欠くと解する余地があると考える。
」
22
刑集 50-10-745 判時 1587-148 判タ 926-153 労判 705-23
今崎幸彦・ジュリ 1120-99
村井敏邦・H.8 重要判ジュリ 1113-142
橋本裕蔵・判例評論 472-51
原審:仙台高裁 H.5.5.27 判・H2(う)17 号 刑集 50-10-783 労判 651-134
一審:盛岡地裁 S.57.6.11 判・S.49(わ)68 号 刑集 43-13-1326 判時 1060-42
*村井評釈:判例上は、これまで、判例変更と遡及処罰の可否の問題について言及したものはな
い。本判決が先例として挙げている三つの大法廷判決は、いずれも適法な行為を不適法とした判
例変更の事案ではない。従って本判決は、憲法判断については、裁判所法 10 条 1 号により大法廷
に送付して判断されるべき事項を、あたかも大法廷の先例が存するとして大法廷での判断を回避
していることになる。
河合裁判官の補足意見は、被告人の行為時の判例に対する信頼の保護という点からは、違法性
の錯誤の理論の活用によって対処すべきとする。即ち、被告人が行為をした当時には被告人の行
為を適法とする判例しかなかったとすれば、行為当時には被告人には錯誤がなかったのであるが、
事後の違法とする判例の登場によって錯誤があったと扱われるわけである。これは真の錯誤では
なく、錯誤の擬制である。もっとも補足意見は、判例変更の可能性が高いこと、そのような事情
を被告人が知り得たことをもって、自己の行為が適法であると信じたことに相当の理由がないと
して、判決の結論には賛同している。
村井評釈は、判例変更による遡及処罰の禁止の立場から、錯誤理論の活用では、一般的な国民
の信頼の保護にはならないことから、一律的に不利益な判例変更の遡及効を禁止すべきとされて
いる。
*古田:刑事とは異なり、民事事件においては、行為時には適法であった判例の事後の不利益変
更には、この「錯誤の擬制」は十分に活用すべきである。
[最高裁一小 H.8.11.28 判*]H7(行ツ)65 号 療養補償給付等不支給処分取消請求事件
労働基準法 9 条、労災保険法 7 条
(上告棄却)
車の持込み運転手(傭車運転手)が労働基準法及び労働者災害補償保険法上の労働者に当たら
ないとされた事例 ― 自己の所有するトラックを持ち込んで特定の会社の製品の運送業
務に従事していた運転手が、自己の危険と計算の下に右業務に従事していた上、右会社は、運送
という業務の性質上当然に必要とされる運送物品、運送先及び納入時刻の指示をしていた以外に
は、右運転手の業務の遂行に関し特段の指揮監督を行っておらず、時間的、場所的な拘束の程度
も、一般の従業員と比較してはるかに緩やかであったなど判示の事実関係の下においては、右運
転手が、専属的に右会社の製品の運送業務に携わっており、同社の運送係の指示を拒否すること
はできず、毎日の始業時刻及び終業時刻は、右運送係の指示内容のいかんによって事実上決定さ
れ、その報酬は、トラック協会が定める運賃表による運送料よりも 1 割 5 分低い額とされていた
などの事情を考慮しても、右運転手は、労働基準法及び労働者災害補償保険法上の労働者に当た
らない。
集民 180-857 判時 1589-136 判タ 927-85 労判 714-14
中路義彦&森鍵一・判タ 978-278
皆川宏之・別冊ジュリ 197-4
水町勇一郎・別冊ジュリ 191-104
西村健一郎・判例評論 463-59
原審:東京高裁 H.6.11.24 判・H5(行コ)124 号(労働者性を否定して請求棄却) 労判 714-16
一審:横浜地裁 H.5.6.17 判・H2(行ウ)14 号(労働者性を認めて請求容認) 判タ 820-247
*中路・森鍵評釈:本判決は最高裁が、傭車運転手の労働者性について初めての判断をしたもの
であり、従前の通説・判例と同様、使用従属関係の存否如何により労働者性を判断したもので
ある。 本最高裁判決は、傭車運転手の労働者性が争点となる事案のみならず、広く労働者性
が争点となる事案の判断において、今後の実務に与える影響は大きなものがあると思われる。
傭車運転手の傭車先会社での労働者性が争われた下級審裁判例には、次の 10 件がある。
A.労働者性を肯定した裁判例:①富山地裁 S.49.2.22 判・S48(ヨ)36 号(判時 737-99)
、②金
沢地裁 S.62.11.27 判・S57(ワ)391 号(判時 1268-143)、③大阪地裁 S.63.2.17 決定・S62(ヨ)3147
23
号(労判 513-23)
、 ④大阪地裁 H..2.5.8 決定・H1(ヨ)2065 号(判タ 744-108)
、⑤大阪高裁
H.4.12.21 決定・H4(ラ)541 号(判タ 822-273)
、⑥新潟地裁 H.4.12.22 判・H2(行ウ)2 号(判
タ 820-205)
。
B.労働者性を否定した裁判例:⑦大阪地裁 S.59.6.29 判・S56(ワ)4457 号(労判 434-30)
、⑧
名古屋高裁金沢支部 S.61.7.28 判・S61(ネ)31 号(労民集 37-4・5-328)
、⑨大阪地裁 H.7.2.28
決定・H6(ヨ)1539 号(労判 680-81)
、⑩大阪地裁 H.8.9.20 判・H7(ワ)5838 号(労判 707-84)
。
[最高裁二小 H.9.1.20 判*] H6(オ)2122 号 貸金等請求事件
民法 398 条の 2・398 条の 14・489 条
(一部破棄自判、一部上告棄却)
・490 条・491 条、民事執行法 85 条
一、 債務者複数の根抵当権についての配当金が被担保債権の全てを消滅させるに足りない場
合の、被担保債権への充当方法 ― 配当金を各債務者に対する債権を担保するための部分に
被担保債権額に応じて案分した上、右案分額を民法 489 条ないし 491 条の規定に従って各債務者
に対する被担保債権に充当すべきである。
二、債務者複数の根抵当権についての配当金を、各債務者に対する債権を担保するための部分
に案分する場合において、同一の目的を有する複数の被担保債権があるときの案分の基礎と
なる被担保債権額の算出方法 ― ある債務者に対する債権の弁済によって他の債務者に対す
る債権も消滅するという関係にある複数の被担保債権があるとときにおいても、いずれの債権も
その全額を案分の基礎となる各債務者の被担保債権額に算入すべきである。
民集 51-1-1 判時 1593-52 金判 1015-3 金法 1479-50
伊達進・判例評論 463-27 生熊長幸・民商 117-3-76 宮川不可止・金法 1581-102
原審:東京高裁 H.6.7.27 判・H6(ネ)273 号
金判 1015-10
一審:東京地裁 H.6.1.20 判・H5(ワ)2765 号
金判 1015-11
[最高裁三小 H.9.2.25 判*] H5(オ)1612 号 求償金請求事件(上告棄却)
民法 481 条・703 条、民事執行法 145 条・155 条 1 項・156 条・193 条
債権執行による差押と物上代位権の行使としての差押とが競合した場合において、双方の差押
債権者に対し二重に弁済をした第三債務の不当利得返還請求権 ―- 物上代位に劣後する差
押債権者に対して直接に不当利得の返還を請求することができる。
集民 181-313 判時 1606-44 金判 1023-3
栗田隆・判例評論 470-41
西尾信一・銀行法務 541-52
東法子・銀行法務 548-24
原審:名古屋高裁金沢支部 H.5.5.12 判・H3(ネ)239 号
一審:福井地裁 H.3.12.26 判・H3(ワ)103 号
[最高裁一小 H.9.4.24 判*] H5(オ)1951 号 債務不存在確認請求事件(上告棄却)
民法 91 条・478 条・587 条・商法 673 条
生命保険会社がいわゆる契約者貸付制度に基づいて保険契約者の代理人と称する者の申込みに
より行った貸付けと民法 478 条の類推適用 ― 生命保険会社甲が、いわゆる契約者貸付制度に
基づいて保険契約者乙の代理人と称する丙の申込みによる貸付けを実行した場合において、丙を
乙の代理人と認定するにつき相当の注意義務を尽くしたときは、甲は、民法 478 条の類推適用に
より、乙に対し、右の貸付けの効力を主張することができる。
民集 51-4-1991 判時 1603-69 判タ 941-126 金法 1490-56 金判 1022-3
千葉恵美子・H.9 重要判ジュリ 1135-71 中舎寛樹・リマークス 17-34
山田剛志・別冊ジュリ 202-194 池田真朗・判例評論 468-31
孝橋宏・ジュリ 1120-97 幡野弘樹・法協 117-3-138 西尾信一・銀行法務 540-64
24
原審:東京高裁 H.5.7.20 判・H4(ネ)1834 号 民集 51-4-2002 金判 938-37 同 1022-7
副田隆重・リマークス 10-30
一審:東京地裁 H.4.5.7 判・H3(ワ)10338 号 民集 51-4-1997 金判 938-41 同 1022-10
*中舎評釈:本判決は、生命保険約款に基づく契約者貸付と民法 478 条の類推適用に関する初め
ての最高裁判決ではあるが、その説くところは、これまでの預金担保貸付をめぐる判例の集積
を前提として、それらを取り纏めたものにほかならない。即ち、本件における問題点は、①生
命保険の契約者貸付、②詐称代理人、③貸付行為そのもの、という点について民法 478 条の類
推適用があるかであるが、このいずれについても最高裁の態度は確立しているかまたは当然に
予想されるものであった。類推適用の対象であることを認めた。
*:
[最高裁三小 S.37.8.21 判*]の末尾の注記も参照。
[最高裁一小 H.9.6.5 判*] H5(オ)1164 号 供託金還付請求権等確認、
民法 116 条・466 条
供託金還付請求取立権確認請求事件(上告棄却)
譲渡禁止の特約ある指名債権の譲渡後にされた債務者の譲渡についての承諾と、債権譲渡の
第三者に対する効力 ―「譲渡禁止の特約のある指名債権について、譲受人が右特約の存在を知
り、又は重大な過失により右特約の存在を知らないでこれを譲受けた場合でも、その後、債務者
が右債権の譲渡について承諾を与えたときは、右債権譲渡は譲渡の時に遡って有効となるが、民
法 116 条の法意に照らし、第三者の権利を害することはできないと解するのが相当である。」
民集 51-5-2053 判時 1615-39
深谷格・リマークス 18-40 清原泰司・判例評論 472-184
角紀代恵・民商 118-1-106 (BF-5)
東法子・銀行法務 549-24
四ッ谷有喜・北大法学論集 49-4-227
冨越和厚・金法 1581-106
原審:東京高裁 H.5.2.25 判・H2(ネ)177 号 民集 51-5-2084 判時 1452-40 判タ 952-296
金判 919-31 & 1028-3
一審:東京地裁 H.1.12.25 判・S(ワ)10183 号ほか 民集 51-5-2073
[東京地裁 H.9.6.27 判*] H8 (ワ)25422 号 請求異議事件(請求容認・確定)
民法 146 条
債務者が動産執行に黙って立ち会った場合と時効の利益の放棄 ―「時効利益の放棄は、時効が
完成したことを知った上で、それにもかかわらずなお債務について責任を果たすという債務者の
意思の表明であり、明確にされる必要がある。」債務者が、債権者の動産執行に黙って立ち会った
一事をもって、明示的に時効利益を放棄したものということは出来ない。
金判 1036-39
[最高裁三小 H.9.7.1 判*] H7(オ)1988 号 特許権侵害差止等事件(上告棄却)
特許法 68 条・100 条
いわゆる並行輸入に対して特許権に基づく差止請求権等を行使することの可否 ― 我が国の
特許権者又はこれと同視し得る者が国外において当該特許発明に係る製品を譲渡した場合におい
ては、特許権者は、譲受人に対しては当該製品について販売先ないし使用地域から我が国を除外
する旨を譲受人との間で合意した場合を除き、その後の転得者に対しては譲受人との間で右の旨
を合意した上当該製品にこれを明確に表示した場合を除いて、当該製品について我が国において
特許権に基づき差止請求権損害賠償請求権等を行使することはできない。
民集 51-6-2299 判時 1612-3 判タ 951-103
小泉直樹・法協 116-9-124
辰巳直彦・H.9 重要判ジュリ 1135-260 & 民商 118-4・5-182 田村善文・NBL627-29
鈴木将文・別冊ジュリ 209-204
駒田泰土・別冊ジュリ 210-102
原審:東京高裁 H.7.3.23 判・H6(ネ)3272 号
民集 51-6-2441 判時 1524-3
25
一審:東京地裁 H.6.7.22 判・H4(ワ)16565 号 民集 51-6-2401 判時 1501-70 判タ 854-84
[最高裁一小 H.9.7.17 判*]H7(オ)1562 号 建物所有権確認等請求事件(一部破棄
民訴法 186 条
差戻、一部上告棄却)
請求の一部についての予備的請求原因となるべき事実を被告が主張した場合に、原告がこれを
自己の利益に援用しなくても、裁判所はこの事実を斟酌すべきであるとされた事例 ― 原告
単独で土地を賃借し地上に建物を建築したことを主張する所有権確認等請求訴訟において、被告
らがこれを否認して土地を賃借し建物を建築したのは原・被告らの被相続人である父であると主
張した場合には、原告がこれを自己の利益に援用しなかったとしても、裁判所は、適切に釈明権
を行使するなどした上でこの事実を斟酌し、相続による持ち分の取得を理由に原告の請求の一部
を認容すべきであるかどうかについて審理すべきである。(補足意見がある。)
集民 183-1031 判時 1614-72 判タ 950-113 金判 1031-19
大濱しのぶ・法学研究(慶大)72-7-109
池田辰夫・H9 重要判ジュリ 1135-123
松村和徳・別冊ジュリ 201-108
原審:東京高裁 H.7.4.13 判・H5(ネ)5249 号ほか
金判 1031-26
一審:東京地裁 H.5.12.15 判・H2(ワ)11269 号
金判 1031-28
[東京地裁 H.9.8.29 判*] H9(ワ)3723 号・損害賠償請求事件(棄却・確定)
民法 543 条・632 条
不安の抗弁権 ― 建物建築工事の請負人が、注文者が別件工事代金を約定どおり支払わないこ
とを理由に、工事を中止したことが、契約上の信義にもとる行為ではないこと:それが契約解
除原因としての債務不履行に当たらないとされた事例 ― 「1.被告は仕事の完成後約五か月後
支払の約定の別件工事代金にについて、債権確保のための担保を全く有していなかったことから、
約定の期日に、確実に支払があることをいわば心待ちにしていたところ、支払期日の一週間前に
なって突然、原告から変更案(前記別件工事代金を分割返済すること)の申入れの呈示を受けたも
のであり、被告とすれば、当時、着手していた本件工事代金についても、これが確実になされる
かどうかにつき疑念を抱いたのはもっともなことであることが認められる。 2.そして、被告に
は、原告の変更案を受諾する法的義務はなく、逆に、原告に対して約定通りの支払を支払いを要
求する権利を有しているのは言うまでもないところ、前記認定の事実によれば、被告は原告から
変更案を示された当初から、変更案を受け入れる意思は全くなく、極めて強力な態度をもって、
変更案を拒否し、約定どおりの支払(及び支払の確約)を要求していたことが明らかである。こ
れに対し、原告は、同月三日及び四日とみも、変更案を被告に飲んで貰うべく交渉を続けたいと
するだけであり、変更案を撤回する意思が全くないと被告に受け取られても仕方がない態度を示
し続けていたことが認められる。 3. しかるに、被告は、このような状況のもとにおいて、前記
認定の通り、別件工事代金につき「原告から約定どおりの支払をすることの確答を得るまで」と
期間を限って、しかも、右確答があり次第、右公示を続行できる状態にした上で、右支払と密接
な利害関係がある本件工事につき、一時的に工事を中止したものであり、右行為に至った事情、
行為の目的、態様等を総合考慮すると、この行為をもって、当事者間の契約関係上の信義にもと
る行為(解除原因たる債務不履行)と評価することはできないというべきである。」
判時 1634-99
野口恵三・NBL645-72(BF-042)
松井和彦・金判 1059-54
*古田:先履行義務者に不安の抗弁権を認めた最高裁判決は H.25.2.1 現在見当たらないようであ
るが、下級審では、本件のほか、
[東京地裁 S.58.3.3 判*]
・
[東京地裁 S.58.12.19 判*]
・
[東京
高裁 S.62.3.30 判*]
・
[東京地裁 H.2.12.20 判*]がある。通説は、不安の抗弁権を事情変更の
原則の一具体例であると解し、その要件として ①先履行を得る権利者の財産状態が悪化したこ
と、②当該悪化が契約締結後に発生したこと、③当該悪化によって先履行義務者が反対給付を受
けられないおそれが生じたこと、を挙げている。これは、我が民法の母法であるドイツ民法の
26
321 条に倣ったものと解されている。
ドイツ民法 321 条(不安の抗弁権) (1)双務契約に基づき先履行義務を負う者は、自己の反対給
付請求権が相手方の給付能力の喪失により危殆化が契約締結後に判明したときは、自己の給付義務の
履行を拒絶することができる。反対給付がなされたとき、または、反対給付のために担保が提供され
たときは、履行拒絶権は消滅する。 (2)先履行義務者は、相手方が給付と引換での反対給付または担
保の提供を選択するために相当の期間を定めることができる。その期間が徒過した後、先履行義務者
は、契約を解除することができる。323 条の規定を準用する。
同 323 条(不履行または履行の契約不適合に基づく解除) (1)~(3) 省略
(4)解除の要件が備
わるであろうことが明らかな場合、債権者は履行期の到来前に契約を解除することができる。 (5)(6)
省略。
[最高裁一小 H.9.9.4 判*] H6(オ)1848 号 損害賠償請求事件(上告棄却)
民訴法 786 条、法例 7 条
国際仲裁契約の成立および効力の準拠法は、第一次的には当事者の意思に従って定められる
― 「仲裁は、当事者がその間の紛争の解決を第三者である仲裁人の仲裁判断にゆだねることを
合意し、右合意に基づいて、仲裁判断に当事者が拘束されることにより、訴訟によることなく紛
争を解決する手続であるところ、このような当事者間の合意を基礎とする紛争解決手段としての
仲裁の本質にかんがみれば、いわゆる国際仲裁における仲裁契約の成立及び効力については、法
例七条一項により、第一次的には当事者の意思に従ってその準拠法が定められるべきものと解す
るのが相当である。そして、仲裁契約中で右準拠法について明示の合意がされていない場合であ
っても、仲裁地に関する合意の有無やその内容、主たる契約の内容その他諸般の事情に照らし、
当事者による黙示の準拠法の合意があると認められるときには、これによるべきである。
」
民集 51-8-3657 判時 1633-83 判タ 969-138
高桑昭・H.9 重要判ジュリ 1135-294
中村俊一郎・リマークス 18-164
安達栄司・NBL652-57
横溝大・法協 116-10-139
国友明彦・民商 118-6-141
三木浩一/蒲原英子・法学研究(慶大)73-6-115
中村達也・別冊ジュリ 210-240
原審:東京高裁 H.6.5.30 判・H5(ネ)1423 号 民集 51-8-3709 判時 1499-68 判タ 878-68
金判 961-31
一審:東京地裁 H.5.3.25 判・H1(ワ)14708 号 民集 51-8-3687 判時 1472-88 判タ 816-233
金判 961-36
[最高裁二小 H.9.10.31 判*] H6(オ)1370 号 強制保険金支払請求事件(上告棄却)
自賠法 2 条 3 項・3 条
一、運転代行業者と自動車損害賠償保障法 2 条 3 項の保有者
二、運転代行業者に運転を依頼して同乗中に事故により負傷した自動車の使用権者が運転代行
業者に対する関係において自動車損害賠償保障法 3 条の他人に当たるとされた事例
[判示要旨]
一、自動車の使用権者から当該自動車を目的地まで運転する業務を有償で引き受け、代行運転者
に右業務を行わせた運転代行業者は、自動車損害賠償保障法 2 条 3 項の保有者に当たる。
二、自動車の使用権者である甲が運転代行業者乙の派遣した代行運転者丙の運転する右自動車に
同乗中に事故により負傷した場合において、甲が酒に酔って自ら運転することによる事故発生の
危険を回避するために乙に運転の代行を依頼し、乙が運転代行業務を引き受けることにより甲に
対して右自動車を安全に運行する義務を負ったなど判示の事情のあるときは、甲は、乙に対する
関係において自動車損害賠償保障法 3 条の他人に当たる。
民集 51-9-3962
判時 1623-80 判タ 959-156 金判 1040-30 交通民集 30-5-1298
中山充・リマークス 18-56 山下郁夫・ジュリ 1132-105 田上富信・判例評論 473-37
27
和田真一・民商 118-6-158 高崎尚志・別冊ジュリ 152-64
山下郁夫・最判解民事編 H9 年度下-1261
原審:東京高裁 H.6.3.31 判・H5(ネ)612 号
民集 51-9-3990 高民集 47-1-107 判タ 872-257
金判 947-19 交民集 27-2-296
古笛恵子・判タ 885-32 吉田邦彦・別冊ジュリ 138-100
一審:前橋地裁高崎支部 H.5.2.10 判・H3(ワ)131 号
民集 51-9-3986 判時 1482-136
判タ 815-27 交民集 26-1-187
中田裕康・ジュリ 1027-98
前田修志・ジュリ 1128-121 石田満・損保研究 55-3-1
*:
[最高裁二小 H.11.7.16 判]の末尾の評釈参照。
[最高裁三小 H.9.11.11 判*]H5(オ)1660 号 預託金請求事件(上告棄却)
我国の財産事件の国際管轄については明文の規定なし
国際裁判管轄における「特段の事情」の考慮 ― ① 国際裁判管轄については、
「国際的に承認
された一般的な準則が存在せず、低さいてき慣習法の成熟も十分ではないため、当事者間の公平
や裁判の適正・迅速の理念により条理に従って決定するのが相当である([最高裁二小 S.56.10.16
判]
、最高裁二小 H.8.6.24 判・H5(オ)764 号・民集 50-7-1451・判時 1578-56・判タ 920-141 参
照)。そして、我国の民訴法の規定する裁判籍のいずれかが我が国内にあるときは、原則として、
我国の裁判所に提起された訴訟事件につき、被告を我国の裁判権に服させるのが相当であるが、
我国で裁判を行うことが当事者の衡平、裁判の適正・迅速を期するという理念に反する特段の事
情があると認められる場合には、我国の国際裁判管轄を否定すべきである。
」
② 原告日本法人は義務履行地の管轄を主張するが、「本件契約は、ドイツ・・・で締結され、
被告(ドイツ在住の日本人)に同国内における種々の業務を委託することを目的とするものであ
り、本件契約において我が国内の地を債務の履行場所とすること又は準拠法を日本法とすること
が明示的に合意されていたわけではないから、本件契約上の債務の履行を求める訴えが我国の裁
判所に提起されることは、被告の予測の範囲を超えるものと云わざるを得ない。また、被告は、
20 年以上にわたり、ドイツ・・・に生活上及び営業上の本拠を置いており、被告が同国内の業者
から自動車を買付け、その代金を支払った経緯に関する書類など被告の防御.のための証拠方法も、
同国内に集中している。 他方、原告は同国から自動車を輸入していた業者であるから、同国の
裁判所に訴訟を提起させることが原告に過大な負担を課すことになるともいえない。」このような
事情からすると、被告に我国での応訴を強いるのは酷であり、
「本件契約の効力についての準拠法
が日本法であるか否かにかかわらず、本件に付いては、我国の国際裁判管轄を否定すべき特段の
事情があるということができる。
」
民集 51-10-4055 判時 1626-74 判タ 960-102
海老沢美広・H9 重要判ジュリ 1135-288
高田裕成・別冊ジュリ 185-168 野村美明・リマークス 18-160
横溝大・法協 117-9-170
山本和彦・民商 119-2-116
原審:東京高裁 H.5.5.31 判・H4(ネ)1683 号
民集 51-10-4073
一審:千葉地裁 H.4.3.23 判・H2(ワ)1250 号
民集 51-10-4067
阪神大震災時における保険事故判決例三件
① [大阪地裁 H.9.12.16 判*] H9(ワ)343 号 保険金請求事件) 商法 665 条
地震発生から 3 時間後に出火した火災の延焼で 13 時間後に被保険者の住宅に延焼。地震免
責を肯定。
判時 1661-139
② [神戸地裁 H.10.2.24 判*] H7(ワ)772 号 保険金請求事件)
商法 665 条
地震で店舗のシャッターが破壊され、地震発生から 3 ないし 4 日後にそこから侵入商品盗
難。地震の影響による治安の悪化を理由に地震免責を肯定。
判時 1661-142
③ [神戸地裁 H.10.4.27 判*] H7(ワ)770・1937 & 8(ワ)439・440 号 共済金請求事件
28
商法 514 条・665 条
地震から 6 日に発生した火災の延焼であり、平常時に比し消防車の到着が遅れたことによる
ものではないとし 地震免責を認めず。
判時 1661-146
① ③:山下友信・リマークス 20-116
[最高裁一小 H.9.12.18 判*]H7(オ)863 号・否認権行使事件(破棄差戻)
破産法 72 条 4 号(現 162 条)
、民法 322 条・333 条
動産の買主が転売先から取り戻した右動産を売主に対する売買代金債務の代物弁済に供した行
為が破産法 72 条 4 号による否認の対象になるとされた事例 ― 甲(被上告人)から動産を買
い受けた乙がこれを丙に転売して引き渡したことにより、甲が右動産に対して動産売買の先取特
権を行使し得なくなったところ、その後に支払を停止した乙が、右動産を甲に返還する意図の下
に、丙との間で転売契約を合意解除して右動産を取り戻した上、甲に対する右動産の売買代金債
務の代物弁済に供したなど判示の事実関係の下においては、
「法的に不可能であった担保権の行使
を可能にするという意味において、実質的には新たな担保権の設定と同視し得るものと解される。
そして、本件代物弁済は、本件物件を被上告人に返還する意図のもとに、転売契約の合意解除に
よる本件物件の取戻と一体として行われたものであり、支払停止後に義務なくして設定された担
保権の目的物を被担保債権の代物弁済に供する行為に等しいというべきである。
・・・破産会社の
本件代物弁済は、破産法 72 条 4 号による否認の対象となるものと解するのが相当である。
」 破
産管財人(上告人)の原審の法令解釈適用を誤った違法を指摘した上告理由を認め、原審は否認
権行使の時点における目的物の価額について認定判断をしていないので、原審に破棄差戻。
民集 51-10-4210 判時 1627-102 判タ 964-100 金法 1510-71 金判 1040-26
宇野聡・リマークス 18-144
菱田雄郷・法協 118-3-124
二宮照興・法学研究(慶大)72-11-163
田頭章一・民商 119-1-127
田原睦夫・別冊ジユリ 184-60
原審:大阪高裁 H.6.12.16 判・H6(ネ)818 号 民集 51-10-4236 金判 972-14
一審:大阪地裁 H.6.3.7 判・H3(ワ)1593 号 民集 51-10-4223 金判 972-18
*[最高裁一小 S.41.4.14 判*]の江頭解説参照。
[最高裁二小 H.10.1.30 判*]
H9(オ)419 号 取立債権請求事件(一部破棄自判・
民法 304 条・372 条・467 条
一部上告棄却)
抵当権者による物上代位権の行使と目的債権の譲渡 ― ①「民法 372 条において準用する
304 条 1 項但書が抵当権者が物上代位権を行使するには払渡または引渡の前に差押をすることを
要するとした趣旨目的は、主として、抵当権の効力が物上代位の目的となる債権にも及ぶことか
ら、右債権の債務者(第三債務者)は、右債権の債権者である抵当不動産の所有者(抵当権設定
者)にべんさいをしても弁済による目的債権の消滅の効果を抵当権者に対抗できないという不安
定な地位に置かれる可能性があるため、差押を物上代位権行使の要件とし、第三債務者は、差押
命令の送達を受ける前には抵当権設定者に弁済すれば足り、右弁済による目的債権消滅の効果を
抵当権者にも対抗できることにして、二重弁済を強いられる危険から第三債務者を保護するとい
う点にあると解される。
」
②「右のような民法 304.条 1 項の趣旨目的に照らすと、同項の『払
渡又は引渡』には債権譲渡は含まれず、抵当権者は、物上代位の目的債権が譲渡され第三者に対
する対抗要件が備えられた後においても、自ら目的債権を差押えて物上代位権を行使することが
できるものと解するのが相当である。
」
民集 52-1-1 判時 1628-3 判タ 964-73 金判 1037-3 金法 1508-67
清原泰司・判例評論 472-22 秦光昭・金法 1581-172 古積健三郎・リマークス 19-26
松岡久和・民商 120-6-116 佐久間弘道・銀行法務 548-4
野山宏・ジュリ「最高裁時の判例Ⅱ」-112
四ッ谷有喜・北大法学論集 50-6-271
29
原審:東京高裁 H8.11.6 判・H7(ネ)2662 号ほか 民集 52-1-28 判時 1591-32 金判 1011-3
一審:東京地裁 H.7.5.30 判・H5(ワ)18272 号 民集 52-1-20
*:
[最高裁三小 H.10.2.10 判*]の末尾コメント参照。
[最高裁三小 H.10.2.10 判*] H8(オ)673 号 第三者異議事件(上告棄却)
民法 304 条・372 条・467 条
抵当権者による物上代位権の行使と目的債権の譲渡 ― 抵当権者は、物上代位の目的債権が譲
渡され第三者に対する対抗要件が備えられた後においても、自ら目的債権を差し押さえて物上代
位権を行使することができる。 と[最高裁二小 H.10.1.30 判*]と同旨の判旨をしている。
集民 187-47
判時 1628-9 判タ 964-73 金判 1037-3 金法 1508-67
古積健三郎・リマークス 19-26
東法子・銀行法務 552-22
原審:大阪高裁 H.7.12.6 判・H7(ネ)1609 号
判時 1564-31 判タ 901-283 金法 1451-41
角紀代恵・リマークス 14-32
一審:大阪地裁 H.7.6.13 判・H7(ワ)120 号
*古田:抵当不動産の所有者が有する将来の賃料債権が譲渡された後に抵当権者は、当該債権に
対して物上代位権を行使できるかという問題について、大審院 S.17.3.23 判・法学(東北帝大)
11 巻 12 号 100 頁は否定に解しており、以来本件最高裁判決の原審である H.7 の大阪高裁判決
まで、抵当権に基づく場合に限らず物上代位と債権譲渡の関係が直接の争点となった公刊裁判
例は見当たらない(原審の角評釈の 33 頁中段)
。この原審の H.7 大阪高裁判決は、「抵当権に
基づく物上代位による差押の効力の具現と対抗要件を具備した債権譲渡が『同時である場合に
は』
、実体法上優先権が認められている抵当権に基づく物上代位による差押が優先し、発生した
支分債権である賃料債権を取立てることができると解するのが相当である。
」と、少なくとも『同
時』を要件としていたが、本判決で、債権譲渡が対抗要件を具備していても、物上代位権の行
使による差押が第三債務者に到達した以降の当該差押債権者以外への弁済は対抗できないこと
が[最高裁二小 H10.1.30 判*]と同様に判示された。
[大阪高裁 H.10.2.13 判*]H8(ネ)2628 号 売買代金請求控訴事件
民法 95 条・541 条・555 条
(原判決取消・請求容認・上告)
環状取引の一部をなす売買につき、買主の錯誤無効及び解除の主張が認められないとされた
事例 ― 「最初の売主が自らの資金繰りや帳簿上の在庫整理等のため、複数の商社等を順次
介入させた上、最終的には自らが買主となって、介入取引の円環が形成されることもあって、こ
のような取引を環状取引と呼んでいる。この取引においては、取引を計画する最初の売主の目的
が資金繰りや帳簿上の在庫整理であるところから、取引の参加者が合意の上で、商品の受渡を省
略して、伝票等の授受のみで取引を行い、最初の売主と最後の買主が一致して円環が形成された
ときに受渡がすべて完了したものとする処理を行うことがあるとされているが、取引の目的が右
のようなものである上に、取引を計画した最初の売主が(最後の)買主となり、商品の現実の受
渡の必要性が乏しいことからすれば、環状取引であることを知って取引に参加する者の間では、
明示的に、そうでないとしても黙示的に右のような処理をする旨の合意をするのがむしろ一般的
であると考えられる。
」本件は環状取引の一部であり、被控訴人(被告)買主は環状取引であるこ
とを知っており、更に、本件取引について商品の受渡を省略して伝票の授受のみで行うことを少
なくとも黙示的に承諾していたものと推認することができ、本件売買契約が成立している以上、
被控訴人買主は自らへの売主である控訴人に対し、商品の引渡を求めたり、その引渡がないこと
を理由として売買契約を解除することはできず、また、商品の現実の引渡が予定されていないう
え、商品の存在は契約の要素であるとは言えないから、本件売買契約が錯誤により無効であると
もいえないとして、控訴人売主の請求を容認し売買代金 3,457 万 5,243 円の支払義務を被控訴人
買主に判示した。 原審は、被告買主が架空環状取引であることを知らなかったと認定し、その
30
主張は信義則に反するとは言えないとして売主である原告の請求を棄却していた。
判時 1688-142
一審:大阪地裁 H.8.9.2 判・H5(ワ)8343 号
判時 1599-114
判タ 952-231
*:
[大阪高裁 H.16.3.25 判*]の評釈参照。
[東京高裁 H.10.2.26 判*]H8(ネ)4388・4397 号 ①執行判決請求・②判決無効確認
民事執行法 24 条、民訴法 118 条
請求事件(控訴棄却・上告)
養育費の給与天引等を命ずる外国(米国ミネソタ州地裁)判決の執行(肯定)―「 本件外国判
決は、我国の強制執行に親しむ控訴人の被控訴人に対する具体的な給付請求権を表示してその給
付を命じる旨の内容を有するものと解することができるのであって(なお、右の通り解すること
ができる以上、本件外国判決を変更を加えることにはならないから、外国判決の実質的審査を禁
止する民事執行法 24 条 2 項の規定の趣旨に反するということはできない。)
、本件外国判決のうち
養育費の支払を命ずる部分の強制執行は、これを許すのが相当である」
判時 1647-107 判タ 1017-273
横溝大・H10 重要判ジュリ 1157-301
一審:東京地裁 H.8.9.2 判・H6(ワ)24641 号ほか
判時 1609-130
[最高裁一小 H.10.3.26 判①*] H6(オ)1408 号 不当利得返還請求事件(上告棄却)
民法 177 条・304 条・372 条、民事執行法 145 条
債権について、一般債権者の差押と抵当権者の物上代位権に基づく差押が競合した場合におけ
る両者の優劣の判断基準 ― 「債権について、一般債権者の差押と抵当権者の物上代位権に基
づく差押が競合した場合には、両者の優劣は一般債権者の申立による差押命令の第三債務者への
送達と、抵当権設定登記の先後によって決せられ、右の差押命令の第三債務者への送達が抵当権
者の抵当権設定登記より先であれば、抵当権者は配当を受けることができにいと解すべきであ
る。
」
民集 52-2-483 判時 1638-74 判タ 973-134 金判 1044-3
直井義典・法協 120-6-203
河野玄逸・リマークス 18-26
東法子・銀行法務 554-26
天野勝介・民商 120-4・5-273
野山宏・ジュリ「最高裁時の判例Ⅱ」-116
原審:東京高裁 H.6.4.12 判・H5(ネ)3414 号
民集 52-2-509 判時 1507-130
一審:東京地裁 H.5.8.23 判・H5(ワ)2604 号
民集 52-2-504 金法 1369-82
*野山評釈:本判決の考え方は、抵当権による物上代位権の対抗要件は、抵当権の対抗要件であ
る設定登記に求めざるを得ないとするものである。
[最高裁一小 H.10.3.26 判②*]
H8(オ)983 号 不当利得返還請求事件(上告棄却)
民法 703 条、民事執行法 84 条 1 項・85 条・89 条
配当期日に配当異議の申出をしなかった一般債権者が、配当を受けた他の債権者に対して不当
利得返還請求をすることの可否(消極) ― 「配当期日において配当異議の申出をしなかった
一般債権者は、配当を受けた他の債権者に対して、その者が配当を受けたことによって自己が配
当を受けることができなかった額に相当する金員について不当利得返還請求をすることができな
いものと解するのが相当である。けだし、ある者が不当利得返還請求権を有するというためには
その者に民法 703 条にいう損失が生じたことが必要であるが、一般債権者は、債務者の一般財産
から債権の満足を受けることができる地位を有するにとどまり、特定の執行の目的物について優
先弁済を受けるべき実体的権利を有するものではなく、他の債権者が配当を受けたために自己が
配当を受けることができなかったというだけでは、右の損失が生じたということができないから
である。
」
民集 52-2-513 判時 1638-79 判タ 972-126 金判 1044-8 中島弘雅・別冊ジュリ 208-86
31
松本博之・リマークス 19-144
野村秀雄・H10 重要判ジュリ 1157-131
滝沢聿代・民商 120-1-133
東法子・銀行法務 556-32
原審:東京高裁 H.8.1.31 判・H7(ネ)1428 号
民集 52-2-523
一審:東京地裁 H.7.3.15 判・H6(ワ)8313 号
民集 52-2-519
[最高裁三小 H.10.4.14 判*]H6(オ)2137 号・清算金請求事件(破棄差戻)
民法 442 条・501 条・675 条、商法 511 条 1 項、和議法 5 条・45 条・57 条、
破産法 24 条・26 条・104 条・326 条
一、建設工事共同企業体の事業場の債務と構成員についての商法 511 条の適用 ― 「共同企業
体は、基本的には民法上の組合の性質を有するものであり、共同企業体の債務については、共同
企業体の財産がその引き当てになるとともに、各構成員がその固有の財産をもって弁済すべき債
務を負うと解せられるところ、共同企業体の構成員が会社である場合には、会社が共同企業体を
結成してその構成員として共同企業体の事業を行う行為は、会社の営業のためにする行為(付属
的商行為)にほかならず、共同企業体がその事業のために第三者に対して負担した債務につき構
成員が負う債務は、構成員である会社にとって自らの商行為により負担した債務と言うべきもの
である。従って、右の場合には、共同企業体の各構成員は、共同企業体がその事業のために第三
者に対して負担した債務につき、
商法 511 条 1 項により連帯債務を負うと解するのが相当である。
」
二、和議開始の申立てをした連帯債務者の一人に対し他の連帯債務者が右申立てを知って和議
開始決定前の弁済により取得した求償権をもって相殺することの可否 ― 連帯債務関係が発
生した後に連帯債務者の一人が和議開始の申立てをした場合において、右申立てを知って和議開
始決定前の弁済により求償権を取得した他の連帯債務者は、右求償権をもって和議債務者の債権
と相殺することができる。
三、和議認可決定を受けた連帯債務者の一人に対し他の連帯債務者が和議開始決定後の弁済に
より取得した求償権をもってする相殺の要件及び限度 ― 連帯債務者の一人について和議認
可決定が確定した場合において、和議開始決定後の弁済により求償権を取得した他の連帯債務者
は、債権者が全額の弁済を受けたときに限り、右弁済によって取得する債権者の和議債権(和議
条件により変更されたもの)の限度で右求償権をもって和議債務者の債権と相殺することができ
る。
民集 52-3-813 判時 1639-122 判タ 973-145 金判 1046-27 金法 1520-43
栂善夫・リマークス 18-152
松下諄一・H10 重要判ジュリ 1157-135
河野玄逸/曽我幸男・金法 1581-210
吉田直・別冊ジュリ 194-82
原審:名古屋高裁 H.6.7.14 判・H5(ネ)592 号
民集 52-3-840
一審:岐阜地裁 H.5.7.9 判・H2(ワ)112 号
民集 52-3-833
[最高裁三小 H.10.4.28 判*]H6(オ)1838 号 執行判決請求事件(上告棄却)
民事執行法 22 条 6 号・24 条,民訴法 7 条・118 条、民事又は商事に関する裁判上及び裁判
外の文書の外国における送達及び告知に関する条約、日本国とグレート・ブリテン及び北部
アイルランド連合王国との間の領事条約
訴訟費用負担を命ずる中国に返還される前の香港判決の承認執行<民訴法改正前の事案>
一 香港高等法院がした訴訟費用の負担を命ずる裁判と民事執行法 24 条所定の「外国裁判所
の判決」 ― 香港高等法院がした訴訟費用負担命令並びにこれと一体を成す費用査定書及び
費用証明書は、民事執行法 24 条所定の「外国裁判所の判決」に当たる。
二 併合請求の裁判籍が存在することを根拠に香港の裁判所に民訴法 118 条 1 号所定の「外国
裁判所の裁判権」が認められた事例 ― 甲及び甲が代表者を務める乙会社と丁との間の起訴
契約に基づき、丁が丙に対して香港の裁判所に保証債務の履行を求める第一訴訟を提起したとこ
ろ、丙が、第一訴訟が認容された場合に備えて、甲に対して根抵当権の代位行使ができることの
32
確認を求める第二訴訟を、甲及び乙会社に対して求償請求ができることの確認を求める第三訴訟
を提起し、第一訴訟及び第二訴訟については香港に国際裁判管轄が存在するなど判示の事実関係
の下においては、第三訴訟については、民訴法七条の規定の趣旨に照らし、第二訴訟との間の併
合請求の裁判籍が香港に存在することを肯認して、香港の裁判所のした判決を我が国で承認する
ことが、当事者間の公平、裁判の適正・迅速の理念に合致し、条理にかなうものである。
三 司法共助に関する条約に定められた方法によらない送達と民訴法 118 条 2 号所定の「訴訟
の開始に必要な呼出し若しくは命令の送達」 ― 裁判上の文書の送達につき、判決国と我が
国との間に司法共助に関する条約が締結されていて、訴訟手続の開始に必要な文書の送達が右条
約に定める方法によるべきものとされている場合には、右条約に定められた方法を遵守しない送
達は、民訴法 118 条 2 号所定の要件を満たさない。
四 香港在住の当事者から私的に依頼を受けた者が我が国でした直接交付の方法による送達と
民訴法 118 条 2 号 ― 香港在住の当事者から私的に依頼を受けた者が我が国でした直接交
付の方法による送達は、民訴法 118 条 2 号所定の要件を満たさない。
五 弁護士費用を含む訴訟費用全額の負担を命ずる裁判と民訴法 118 条 3 号所定の「公の秩序」
― 弁護士費用を含む訴訟費用の全額をいずれか一方の当事者に負担させる裁判は、実際に生じ
た費用の範囲内でその負担を命ずるものである限り、民訴法 118 条 3 号所定の「公の秩序」に反
するものではない。
六 中国に返還される前の香港と我が国との間における民訴法 118 条 4 号所定の「相互の保証」
の有無 ― 中国に返還される前の香港と我が国との間には、金銭の支払を命じた判決に関し、
民訴法 118 条 4 号所定の「相互の保証」がある。
民集 52-3-853 判時 1639-19 判タ 973-95
道垣内正人・別冊ジュリ 208-13
山本和彦・H10 重要判ジュリ 1157-297
原審:大阪高裁 H.6.7.5 判・H5(ネ)2563 号
民集 52-3-928
一審:神戸地裁.H.5.9.22 判・H3(ワ)1624 号 民集 52-3-895 判時 1515-139 判タ 826-206
山田恒久・H5 重要判ジュリ 1049-293
福山達夫・判例評論 438-55
[大阪高裁 H.10.6.10 決定*] H10(ラ)3 号 債権差押命令に対する執行抗告事件
民事執行法 144 条
(棄却・確定)
第三債務者が外国に住所を有する外国法人である場合の債権差押命令事件の
国際裁判管轄 ―「我国の民訴法の規定する裁判籍のいずれかが我が国内にあるときは、原則と
して、我国の裁判所に提起された訴訟事件につき、被告を我国の裁判権に服させるのが相当であ
るが、我国で裁判を行うことが当事者間の公平、裁判の適正・迅速を期するという理念に反する
特段の事情があると認められる場合には、我国の国際裁判管轄を否定すべきである」との原則(最
高裁三小 H.9.11.11 判・H.5(オ)1660 号・民集 51-10-4055)によるべきである。これによれば、
債権差押命令については、
民事執行法 144 条により、
「債務者が日本に住所を有する日本人であり、
第三債務者が外国に住所を有する外国人の場合にも、債務者の普通裁判籍の所在地を管轄する地
方裁判所が、原則として・・・国際裁判管轄を有することになる。」しかし、「第三債務者が外国
に居住している外国人であり、日本との接点が、第三債務者にとっての債権者(差押命令の債務
者)が日本に居住している日本人であるという一事に過ぎない場合には、第三債務者の被る不利
益は甚大である。
」 本件では、当該第三債務者は、差押債権者の関連会社であり、本件差押命令
に基づき差押債権者に対して差押債権を弁済することに何ら異存はないものと推測される。従っ
て、本件は上記「特段の事情があると認められる場合」には該当しない。
金法 1539-64
山田文・別冊ジュリ 185-178 森田博志・H10 重要判ジュリ 1157-294
三井哲夫・リマークス 20-160
一審:大阪地裁 H.9.12.10 決定・H9(ナ)525 号
33
[最高裁二小 H.10.6.12 判①*] H9(オ)849 号 報酬金等請求事件(破棄自判)
民訴法 114 条・二編一章(訴え)
、民法 1 条 2 項
金銭債権の数量的一部請求訴訟で敗訴した原告が残部請求の訴えを提起することの許否(消極)
― 「一個の金銭債権の数量的一部請求は、当該債権が存在しその額は一定額を下回らないこ
とことを主張して右額の限度でこれを請求するものであり、債権の特定の一部を請求するもので
はないから、このような請求の当否を判断するためには、おのずから債権の全部について審理判
断することが必要になる。即ち裁判所は、当該債権の全部について当事者の主張する発生、消滅
の原因事実の存否を判断し、債権の一部の消滅が認められるときは債権の総額からこれを控除し
て口頭弁論終結時における債権の現存額を確定し(最高裁三小 H6.11.22 判・H2(オ)1146 号・民
集 48-7-1355 参照)
、現存額が一部請求の額以上であるときは右請求を容認し、現存額が請求額に
満たないときは現存額の限度でこれを容認し、債権が全く存在しないときは右請求を棄却するの
であって、当事者双方の主張立証の範囲、程度も、通常は債権の全部が請求されている場合と変
わるところはない。
」 「金銭債権の数量的一部請求訴訟で敗訴した原告が残部請求の訴えを提起
することは、特段の事情がない限り、信義則に反して許されないと解するのが相当である。
」
民集 52-4-1147 判時 1644-126 判タ 959-269 金判 1051-40 山下郁夫・ジュリ 1141-172
青木哲・法協 118-4-144 山本和彦・民商 120-6-137 酒井一・判例評論 483-30
原審:東京高裁 H.9.1.23 判・H8(ネ)4256 号
民集 52-4-1187
一審:東京地裁 H.8.9.5 判・H8(ワ)322 号
民集 52-4-1178 判タ 959-269
[最高裁二小 H.10.6.12 判②*]
H8(オ)1307 号 供託金還付請求権確認請求本訴、
民法 424 条、467 条
詐害行為取消請求反訴事件(破棄自判)
詐害行為取消権の対象否定
債権譲渡の対抗要件に対する詐害行為取消権の行使の可否(消極) ― 「債務者が自己の第三
者に対する債権を譲渡した場合において、債務者がこれについてした確定日付のある債権譲渡の
通知は、詐害行為取消権の対象とならないと解するのが相当である。けだし、詐害行為取消権の
対象となるのは、債務者の財産の減少を目的とする行為そのものであるところ、債権の譲渡行為
とこれについての譲渡通知とはもとより別個の行為であって、後者は単にその時から初めて債権
の移転を債務者その他の第三者に対抗し得る効果を生じさせるにすぎず、譲渡通知の時に右債権
移転行為がされたこととなったり債権移転の効果が生じたりするわけではなく、債権譲渡行為自
体が詐害行為を構成しない場合には、これについてなされた譲渡通知のみを切り離して詐害行為
として取扱い、これに対する詐害行為取消権の行使を認めることは相当とはいい難いからである
(大審院 T.16.10.30 判・T6(オ)538 号・民録 23-1624、最高裁一小 S.55.1.24 判・S54(オ)730 号・
民集 34-1-110 参照)
。
」
民集 52-4-1121 判時 1660-60 判タ 990-130 金法 1537-51 金判 1061-14
潮見佳男・H.10 重要判ジュリ 1157-71
滝沢昌彦・別冊ジュリ 196-36
池田真朗・リマークス 19-31 中田裕康・法協 117-4-117 池田秀雄・銀行法務 565-76
四ッ谷有喜・北大法学論集 50-4-367
佐藤岩昭・判例評論 485-28(C-②-56)
高木新二郎・金法 1581-108
原審:東京高裁 H.8.3.13 判・H7(ネ)3560 号
民集 52-4-1143 金判 1061-19
一審:東京地裁 H.7.7.27 判・H6(ワ)2909 号
民集 52-4-1136 金判 1061-20
[最高裁二小 H.10.6.22 判*] H6(オ)586 号 所有権移転登記松商登記手続請求事件
民法 145 条・424 条
(破棄差戻)
詐害行為の受益者と取消債権者の債権の消滅時効の援用(肯定) ― 「民法 145 条所定の当事
者として消滅時効を援用し得る者は、権利の消滅により直接利益を受ける者に限定されるところ
(最高裁一小 H.4.3.19 判・H2(オ)742 号・民集 46-3-222 参照)
、詐害行為の受益者は、詐害行為
34
取消権行使の直接の相手方とされている上、これが行使されると債権者との間で詐害行為が取り
消され、同行為によって得ていた利益を失う関係にあり、その反面、詐害行為取消権を行使する
債権者の債権が消滅すれば右の利益喪失を免れることができる地位にあるから、右債権者の債権
の消滅によって直接利益を受ける者に当り、右債権について消滅時効を援用することができるも
のと解するのが相当である。これと見解を異にする大審院の判例(大審院 S.3.11.8 判・S3(オ)901
号・民集 7-980)は、変更すべきものである。
」 死亡した債務者から不動産の贈与を受けて所有
権移転登記をした上告人・受益者による債権者の債権に対する消滅時効の援用を認めなかった原
審の判断を否認。
民集 52-4-1195 判時 1644-106 判タ 979-85 金法 1523-68 金判 1048-27
佐藤岩照・H.10 重要判ジュリ 1157-58
松久三四彦・別冊ジュリ 175-94
草野元巳・リマークス 19-14
伊藤進・金法 1556-22
中井美雄・民商 120-3-77
東法子・銀行法務 557-46
原審:東京高裁 H.5.11.30 判・H2(ネ)2906 号 民集 52-4-1217
一審:東京地裁八王子支部 H.2.7.30 判・S62(ワ)1393 号 民集 52-4-1207
*消滅時効関係判決例は、
[最高裁二小 S.37.10.12 判*]末尾の「*古田②」を参照。
[最高裁三小 H.10.6.30 判*]H6(オ)698 号 不当利得請求事件(破棄差戻)
民法 505 条、民訴法 114 条・142 条
一個の債権の一部についてのみ判決を求める旨を明示して訴えを提起している場合において、
当該債権の残部を自働債権として他の訴訟において相殺の抗弁を主張することは、債権の分割
行使をすることが訴訟上の権利の濫用に当たるなど特段の事情の存しない限り、許される ―
「既に係属中の別訴において訴訟物となっている債権
を自働債権として他の訴訟において相殺の抗弁を主張することが許されないことは、原審の判示
するとおりである(
[最高裁三小 H.3.12.17 判*]参照)
。
しかしながら、他面、一個の債権の一部であっても、そのことを明示して訴えが提起された場
合には、訴訟物となるのは右債権のうち当該一部のみに限られ、その確定判決の既判力も右一部
のみについて生じ、残部の債権に及ばないことは、当裁判所の判例とするところである(最高裁
昭和 35 年(オ)第 359 号同 37 年 8 月 10 日第二小法廷判決・民集 16-8-1720 参照)。この理は相
殺の抗弁についても同様に当てはまるところであって、一個の債権の一部をもってする相殺の主
張も、それ自体は当然に許容されるところである。・・・しかし、・・・相殺の抗弁に関しては、
訴えの提起と異なり、相手方の提訴を契機として防御の手段として提出されるものであり、相手
方の遡求する債権と簡易迅速かつ確実な決済を図るという機能を有するものであるから、
・・・一
個の債権の一部についてのみ判決を求める旨を明示して訴えが提起された場合において、当該債
権の残部を自働債権として他の訴訟において相殺の抗弁を主張することは、債権の分割行使をす
ることが訴訟上の権利の濫用に当たるなど特段の事情の存しない限り、許されるものと解するの
が相当である。
」
民集 52-4-1225 判時 1644-109 判タ 979-97 金法 1526-44 金判 1053-10
高橋宏志・リマークス 19-127 上野泰男・H.10 重要判ジュリ 1157-122
酒井一・判例評論 483-30 石渡哲・法学研究(慶大)73-10-153
坂田宏・民商 121-1-62 小林学・法学新報 106-11・12-283
三木浩一・別冊ジユリ 169-96
原審:東京高裁 H.5.12.22 判・H5(ネ)452 号
一審:東京地裁 H.5.1.28 判・H2(ワ)10513 号
[東京高裁 H.10.7.10 決定*]H10(ラ)756・債権差押命令申立却下決定に対する執行抗告
民事執行法 143 条・145 条、会社更生法 50 条・旧 67 条
事件(抗告棄却)
35
債権差押命令の申立後 発令前に債務者について会社更生手続開始の決定がされた場合の、
右債権差押命令申立の帰趨 ― 債権差押命令の申立後、発令前に、債務者について会社更
生手続開始の決定がされた場合には、執行裁判所は、もはや債権差押命令を発付することは
できず、その債権差押命令申立を不適法として却下すべきものと解するのが相当である。
金判 1046-23 判タ 1003-305 金判 1046-23
杉山悦子・ジュリ 1199-102
一審:東京地裁 H.10.3.19 決定・H10(ナ)484 号
*[最高裁二小 S.60.7.19 判*]の江頭解説参照。
[福岡地裁飯塚支部 H.10.8.5 判*]H9(ワ)8 号 損害賠償請求事件(一部認容・控訴)
民法 715 条
従業員がマイカーで出勤途上で起こした交通事故につき、会社に使用者責任を認めた事例 ―
会社はマイカー通勤することを前提に月額 5000 円の通勤手当を支給しマイ
カー通勤を容認しており、事業の執行につきなされたものと認めて会社の使用者責任を肯定。
判タ 1015-207
*古田:本判決は、マイカー通勤について原則として業務執行性を認めるほか、マイカー通勤手
当の支給をもって会社の積極的容認と評価するなど、従来の裁判例の傾向より更に安易に使用
者責任を肯定している。
参考までに他方米国では、通勤は使用者に役務を提供する場に自らの身を置くための行為に
過ぎない(Restatement (Second) of Agency §228-(1))。米国では、通勤途上での被用者の不
法行為については、使用者責任を問えないのが原則である(
「現代の代理法」弘文堂 2014.1 刊
の樋口範雄「代理関係と不法行為」p.211~212 参照)。
[東京高裁 H.10.8.27 判*] H9(ネ)1789 号商品代金請求事件(請求一部認容・上告)
民法 111 条 1 項 1 号、商法 506 条
商人の相続人が現実には営業を承継しなかった場合と、当該商人の代理人の代理権消滅の有無
― 商人の相続人が、当該商人の死亡の事実を知らず、現実には営業を承継しなかった場合で
あっても、当該商人から委任を受けた代理人の代理権は、当該商人の死亡によって消滅しない
― 「民法 111 条 1 項 1 号によれば、代理権は本人の死亡により消滅すると規定されている
のに対し、商法 506 条は、その特則として、商行為の委任による代理権は本人の死亡によって消
滅しないとのみ規定している・・・営業主である商人本人の死亡という偶然で、時として外部の
者には容易に知り得ない事柄によって代理人の権限が左右されるとするのでは、取引の安全が著
しく妨げられることから、企業の便宜と取引の安全の為に、民法の特則が設けられたものと解す
るのが相当であり、なお、ここにいう商行為の委任による代理とは、商行為である授権行為によ
り生じた代理権と解される。
・・・したがって、・・・商人である A が B に対して M 屋の営業に
関して付与した代理権は、その死亡によっても消滅せず、A の死後は、その相続人である被控訴
人らの代理人となるものというべきである。
・・・被控訴人らは自己の為に相続が開始したことを
知った時点で、
・・・相続を承認した以上はそれによる危険を負担することになっても止むを得な
いと解される」
。
高民集 51-2-1032 判時 1683-150
浜田道代・判例評論 495-43(C-②-65)
一審:新潟地裁 H.9.3.3 判・H7(ワ)311 号
[最高裁一小 H.10.9.10 判*] H9(オ)448 号 損害賠償請求事件(一部棄却・一部破毀差戻)
民法 437 条・442 条・719 条
一、 共同不法行為者の一人と被害者との間で成立した訴訟上の和解における債務の免除の効
力が他の共同不法行為者に対しても及ぶ場合 ― 甲と乙が共同の不法行為により丙に
36
損害を加えたが、甲と丙との間で成立した訴訟上の和解により、甲が丙の請求額の一部につき和
解金を支払うとともに、丙が甲に対し残債務を免除した場合において、丙が右訴訟上の和解に際
し乙の残債務をも免除する意思を有していると認められるときは、乙に対しても残債務の免除の
効力が及ぶ。
二、共同不法行為者の一人と被害者との間で成立した訴訟上の和解における債務の免除の効力
が他の共同不法行為者に対しても及ぶ場合における求償金額の算定
―
共同不法行為者
の一人甲と被害者丙との間で成立した訴訟上の和解により、甲が丙の請求額の一部につき和解金
を支払うとともに、丙が甲に対し残債務を免除した場合において、他の共同不法行為者乙に対し
ても残債務の免除の効力が及ぶときは、甲の乙に対する求償金額は、確定した損害額である右訴
訟上の和解における甲の支払額を基準とし、双方の責任割合に従いその負担部分を定めて、これ
を算定すべきである。
民集 52-6-1494
判時 1653-101 判タ 985-126 金法 1934-67 金判 1059-18
平野裕之・リマークス 19-35 淡路剛久・H.10 重要判ジュリ 1157-79
青野博之・判例評論 483-35 福田誠冶・別冊ジュリ 196-48
原審:名古屋高裁 H.8.11.20 判・H8(ネ)687 号 民集 52-6-1550
一審:名古屋地裁 H.8.8.12 判・H6(ワ)183 号
[東京地裁 H.10.10.30 判*]H9(ワ)15973 号・動産引渡請求事件(認容・確定)
商法 50 条(現 30 条)
、民法 651 条
「無期限」とする損害保険代理店契約の予告期間をおいた解除につき、
「やむを得ない事由」を
必要としないとされた事例 ― 本件損害保険代理店委託契約書の無期限の文言は、その文言の
通り期間の定めのないことを言うと解するのが相当である。
「代理商契約については、その存続期
間の定めがないときには、各当事者は、2 カ月前に予告をなして解除することができると規定さ
れているが(商法 50 条 1 項)
、この規定は、民法上の委任契約においては、各当事者がいつでも
委任契約を解約告知し得ること(民法 651 条 1 項)に対する特則であり、継続的な企業補助関係
としての代理商関係の特質を考慮したものであると解される。 そして、本件の場合、本件各解
除規定は、商法 50 条 1 項に準拠して規定されているものであることが明らかであるから、本件解
除にあたっては、
・・・
「やむを得ない事由」はその要件として必要ではないというべきである。
」
判時 1690-153 判タ 1034-231
高橋美加・ジュリ 1187-102 (E-②-53)
山野嘉朗・別冊ジュリ 194-64
[大阪高裁 H.10.11.17 判*] H10(ネ)1255 号 慰謝料等請求事件
民法 415 条、ワルソー条約 17 条
(一部変更、一部控訴棄却・確定)
悪天候のため外国の目的外空港に降機された日本人に対し、日本語による説明をしなかったこ
とが目的地まで送迎する義務の不履行に当るとして、航空会社の責任が認められた事例
*本件は、関西空港から釜山行の便に搭乗した韓国語の全く判らない一人旅の日本人老人客が、
台風によりソウル金浦空港での降機となり、同航空会社の旅客約款での履行責任として釜山まで
の移送を委託された現地の旅行業者が日本語での一切の説明や案内をしなかったことから同人が
そのサービスを利用できず、自ら釜山までの切符を多額のチップを赤帽から要求されて調達する
等の辛苦と出費を余儀なくされたことでの、同航空会社に対する慰謝料等請求事件。 ソウルから
の本人が出捐した 2 万 5 千円と慰謝料 7 万 5 千円の支払方を同航空会社に判示。
判時 1687-140 判タ 1015-235
弥永真生・ジュリ 1182-89
一審:大阪地裁 H.10.3.30 判・H9(ワ)8397 号
37
[最高裁三小 H.10.11.24 判*]H7(オ)1413 号 債務不存在確認等請求事件(破棄差戻)
民法 147 条 2 号・157 条 1 項・174 条の 2、民事保全法 20 条
一、 仮差押による時効中断の効力の継続 ― 「仮差押による時効中断の効力は、仮差押の執
行保全の効力が存続する間は継続すると解するのが相当である(最高裁二小 S.59.3.9 判・
S58(オ)824 号・集民 141-287、
[最高裁三小 H.6.6.21 判*]参照)。
けだし、民法 147 条が仮差押を時効中断事由としているのは、それにより債権者が、権利の行
使をしたと言えるからであるところ、仮差押の執行保全の効力が存続する間は仮差押債権者によ
る権利の行使が継続するものと解すべきだからであり、このように解したとしても、債務者は、
本案の起訴命令や事情変更による仮差押命令の取消を求めることができるのであって、債務者に
とって酷な結果になるともいえないからである。
」
一、 本案の勝訴判決の確定と仮差押による時効中断の効力 ―「民法 147 条が、仮差押と裁
判上の請求を別個の時効中断事由と規定しているところからすれば、仮差押の被保全債権につき
本案の勝訴判決が確定したとしても、仮差押による時効中断の効力がこれに吸収されて消滅する
ものとは解し得ない。
」
民集 52-8-1737 判時 1689-59 判タ 990-127 金判 1058-13 金法 1535-55
中舎寛樹・リマークス 19-18
小野憲一・ジュリ「最高裁時の判例Ⅱ」-44
塩崎勤・金法 1581-174 中田裕康・H10 重要判ジュリ 1157-61
石川明・判例評論 486-25(C-②-59) 吉田光碩・銀行法務 561-10
原審:大阪高裁 H.7.2.28 判・H6(ネ)1704 号 民集 52-8-1754 金判 979-27 金法 1419-37
一審:京都地裁 H.6.5.26 判・H6(ワ)29 号 民集 52-8-1752 金判 979-30
[最高裁三小 H.10.12.18 判*]H6(オ)2415 号・地位確認等請求事件(上告棄却)
独禁法 2 条 9 項・19 条、H.57 公正取引委員会告示 15 号(不公正な取引方法)の 13
特約店の義務不履行と特約店契約の解約
一、 卸売業者等が小売業者に対して販売方法に関する制限を課することと昭和 57 年公正取
引委員会告示第 15 号(不公正な取引方法)の13に定める拘束条件付取引 ― 卸売業者等
が小売業者に対して商品の販売に当たり顧客に商品の説明をすることを義務付けるなどの形態に
よって販売方法に関する制限を課することは、それが当該商品の販売のためのそれなりの合理的
な理由に基づくものと認められ、かつ、他の取引先に対しても同等の制限が課せられている限り、
昭和 57 年公正取引委員会告示第 15 号(不公正な取引方法)の 13 に定める拘束条件付取引に当
たらない。
二、特定のメーカーの化粧品の卸売業者が小売業者に対して特約店契約によりいわゆる対面販
売を義務付けることが昭和 57 年公正取引委員会告示第 15 号(不公正な取引方法)の13に
定める拘束条件付取引に当たらないとされた事例 ― 特定のメーカーの化粧品の卸売業者
が小売業者に対して特約店契約によりいわゆる対面販売を義務付けることは、それが他の商品と
は区別された当該化粧品に対する顧客の信頼(いわゆるブランドイメージ)を保持しようとする
理由に基づくものでそれなりの合理性があり、右卸売業者が他の取引先とも同一の約定を結んで
いるなど判示の事実関係の下においては、昭和五七年公正取引委員会告示第 15 号(不公正な取引
方法)の 13 に定める拘束条件付取引に当たらない。
民集 52-9-1866 判時 1664-3 判タ 992-94 金判 1062-22
白石忠志・法協 120-4-230
中田裕康・別冊ジュリ 194-122 栗田誠・別冊ジュリ 199-158
小畑徳彦・別冊ジュリ 200-250 泉水文雄・H10 重要判ジュリ 1157-236
原審:東京高裁 H.6.9.14 判・H5(ネ)4019 号
民集 52-9-1959 判時 1507-43
大村須賀男・リマークス 11-125
一審:東京地裁 H.5.9.27 判・H3(ワ)15347 号
民集 52-9-1923 判時 1474-26
橋本恭宏・リマークス 10-34
38
[東京地裁 H.11.1.22 判*]
H9(ワ)20268 号 譲受債権請求事件(請求棄却・
民法 437 条・478 条
控訴→控訴棄却)
債務者に対する債権譲渡通知が到達した直後の同日中に、それを了知する時間的余裕がないま
まに債権譲渡人に対して債務者のした弁済が、債権の準占有者への弁済として有効であるとさ
れた事例 ―債務者は代表者と従業員一名の二名により仕事をする小規模会社であり、当日は多
忙なゴールデンウイークの期間中で経営するホテル業務で、債権謙譲の内容証明が配達された正
午から三時間内にこれを了知せずに弁済の取消をしなかったとしてもやむを得ないことであり、
善意無過失で弁済されたものであるというべきであり、民法 478 により、債権譲受人の請求に係
る債務は、右弁済により消滅したものと解される。
判時 1693-88
野澤正充・判例評論 497-29(C-②-69)
* 野澤評釈:民法 478 条(債権の準占有者に対する弁済)
「債権の準占有者に対してした弁済は、そ
の弁済をした者が善意であり、かつ、過失がなかったときに限り、その効力を有する。
」は、弁済
者を保護する規定であるから、同条にはない表見的債権者の「自己のためにする意思」を要件と
することなく、その外観を基準とすべきであるとする近時の有力説にも沿う判旨は妥当と解され
る。 債権譲渡の対抗要件制度(民法 467 条)との関係では、債務者の善意・無過失の問題があ
る。本件判旨のように債権の譲渡人も、478 条の「債権の準占有者」に当たるとするに際しては、
債務者の善意・無過失を厳格に解して、その適用を制限する立場が現実的であると思われる。
*:
[最高裁三小 S.37.8.21 判*]の末尾の注記も参照。
[最高裁三小 H.11.1.29 判*]
H9(ォ)219 号・供託金還付請求権確認請求事件(破棄自判)
民法 466 条、健康保険法 43 条の 9 第 5 項、社会保険診療報酬支払基金法 13 条 1 項
一、 将来発生すべき債権を目的とする債権譲渡契約の締結時における目的債権の発生の可能
性と程度と右契約の効力 ― 将来発生すべき債権を目的とする債権譲渡契約の締結時にお
いて目的債権の発生の可能性が低かったことは、右契約の効力を当然には左右しない。
二、医師が社会保険診療報酬支払基金から将来支払を受けるべき診療報酬債権を目的とする債
権譲渡契約の効力を否定した原審の判断に違法があるとされた事例 ― 医師が社会保険診
療報酬支払基金から将来 8 年 3 カ月の間に支払を受けるべき各月の診療報酬の一部を目的として
債権譲渡契約を締結した場合において、右医師が債務の弁済の為に右契約を締結したとの一事を
もって、契約締結後 6 年 8 カ月目から 1 年の間に発生すべき目的債権につき契約締結時において
これが安定して発生することが確実に期待されたとはいえないとし、他の事情を考慮することな
く、右契約のうち右期間に関する部分の効力を否定した原審の判断には、違法がある。
民集 53-1-151 判時 1666-54 金法 1541-6
潮見佳男・別冊ジュリ 196-56
八木一洋・ジュリ「最高裁時の判例Ⅱ」-151
直井義典・法協 119-4-228
片岡義広・金法 1581-110
原審:仙台高裁秋田支部 H.8.10.30 判・H8(ネ)70 号
金法 1480-60
一審:秋田地裁 H.8.5.21 判・H7(ワ)292 号
金法 1480-62
*八木評釈:判示要旨のアンダーライン部分は、契約締結時の事情如何によっては公序良俗違反
で契約の効力が否定され、あるいは締結が詐害行為により取消されることもあり得るが、原審は
それらの事実関係があるかについて、何らそれを確定していないことを指している。
[大阪高裁 H.11.2.26 判*]H10(ネ)128 号・保証債務履行請求事件(原判決取消・請求認容・
法例 7 条 1 項、民法 446 条、銀行法 10 条 2 項 1 号
上告)
造船会社(日本法人)の造船代金前払金返還債務について日本の銀行が注文者(パナマ法人)
のために発行した保証状による保証が、英国法上の無因保証であると認められた事例 ― 英国
法を準拠法とする保証状において、パナマ法人 X(原告・控訴人)が造船会社(日本法人)に対して
39
有する造船前払金返還請求権を取得する事情及びこれが支払われなかった事実を記載した書面の
提出日から 21 日以内に、Y 銀行(日本法人・被告・被控訴人)が右前払金と利息金を返還すると
する保証(英国法上のディマンド・ギャランティー:Demand Guarantee・無因保証)において
は、保証人 Y は受益者 X からの一定の形式を備えた請求を受けて、それのみによって支払をすべ
きものとされているところ(オン・ディマンド性)、本件保証状には、原因関係に言及した記載や、
保証状に基づく保証人の支払義務が原因関係上の事由に条件づけられているとも読める文言が使
用されているが、このような事実関係を前提にしながらも無因保証であることを認めている英国
の判例があることからすると、これらの文言の記載をもってしても、本件保証状の保証が無因保
証であるとすることの妨げにはならず、本件保証状の保証も英国法上の無因保証にあたり、保証
人は原因関係上の抗弁を主張することはできない。
金判 1068-45
桑原康行・別冊ジュリ 194-138
一審:神戸地裁 H.9.11.10 判・H6(ワ)1626 号
判タ 984-191
[最高裁三小 H.11.3.9 判*]
H10(オ)1318 号 和議債権請求事件(破棄自判)
和議法 5 条・57 条、破産法 98 条・326 条 1 項 *和議法は民事再生法の施行に伴い H.12.3.31 で
廃止され、破産法も改正・その後新法になっている。⇔この事案は当時の関係理解のため。
和議認可決定の確定による和議債権の変更後に、和議債権者が右変更前の和議債権を自働債権
として右確定前に相殺適状にあった受働債権と相殺することの可否(積極) ― 和議債権と和
議債務者の和議債権者に対する債権とが和議認可決定前に既に相殺適状にあった場合には、和議
債権者は、和議認可決定の確定により和議債権が和議条件に従って変更された後においても、和
議認可決定の影響を受けず、右変更前の和議債権を自動債権として和議債務者の債権と相殺する
ことができると解するのが相当である(大審院 S9(オ)1910 号・S10.1.16 判・民集 14-21 は、右
と抵触する限度において、これを変更すべきである。)。
民集 53-3-420 判時 1675-143 金判 1071-11 金法 1555-55
青木哲・法協 118-9-132
小林明彦・金法 1588-70(RF16) 工藤敏隆・法学研究(慶大)73-8-150
佐藤鉄男・判例評論 490-52 新堂幸司・金法 1581-214
滝澤孝臣・銀行法務 570-66
原審:福岡高裁 H.10.3.24 判・H9(ネ)551 号
民集 53-3-441 金判 1058-28
一審:福岡地裁 H.9.5.26 判・H8(ワ)2827 号
民集 53-3-435 金判 1058-32
[東京地裁 H.11.3.25 判*] H10(ワ)23791 号 請負代金請求事件(控訴・和解)
民法 1 条 3 項・505 条
私的整理中の債務者に対し一部の債権者が債権者間の公平を害するような相殺をすることが、
権利の濫用に該当するとされた事例 ―下請け会社 X が手形不渡を出した直後に、元請会社 Y
が X の危機的状況を認識しながら、Y の子会社 A の要請を受けて当初から相殺を目的として A の
X に対する手形債権や売掛金債権を取得し、これを自働債権としてなした相殺について、X の他
の一般債権者との関係で、債権者間の衡平を著しく害するものであり権利濫用として許されず、
相殺権の濫用を判示。
判時 1706-56
岡林伸幸・判例評論 500-19(C-②-74)
[最高裁二小 H.11.6.11 判*] H10(オ)1077 号 賃金及び詐害行為取消請求事件(上告棄却)
民法 424 条・907 条 1 項
詐害行為取消権の対象肯定
遺産分割協議と詐害行為取消権 ― 「 共同相続人の間で成立した遺産分割協議(筆者注:債務
者の事実上の相続放棄であった)は、詐害行為取消権行使の対象になり得るものと解するのが相
当である。けだし、遺産分割協議は、相続の開始によって共同相続人の共有となった相続財産に
40
ついて、その全部又は一部を、各相続人の単独所有とし又は新たな共有関係に移行させることに
よって、相続財産の帰属を確定させるものであり、その性質上、財産権を目的とする法律行為で
あるということができるからである。
」
民集 53-5-898 判時 1682-54 判タ 1008-117 金法 1560-26 金判 1074-10
大島俊之・H.11 重要判ジュリ 1179-80 池田恒男・別冊ジユリ 193-142
片山直也・別冊ジュリ 176-42 伊藤昌司・リマークス 21-26 千藤洋三・判例評論 494-28
原審:東京高裁 H.10.1.22 判・H9(ネ)2721 号 民集 53-5-915 判タ 995-233
大島俊之・リマークス 20-38
一審:横浜地裁横須賀支部 H.9.5.13 判・H8(ワ)149 号 民集 53-5-909
*大島評釈:詐害行為取消権に関する民法 424 条は、2 項で「前項の規定は、財産権を目的とし
ない法律行為については、適用しない。
」と規定している。この規定は、戦前においては、家督
相続あるいは隠居という制度が存在したため、それらを債権者取消権の対象外とするために設
けられた規定である。戦後の相続法改正によって家督相続あるいは隠居という制度が廃止され
ている。
「財産権を目的としない法律行為」に該当するか否かに関しては、①相続放棄、②遺産分割
協議(事実上の相続放棄の場合)および③財産分与を、債権者取消権で取消すことができるか
という問題がある。更にこれらと関連する問題として、④相続人(遺留分減殺請求権者)の債
権者は、債権者代位によって、遺留分減殺請求権を代位行使することができるかという問題も
ある。これらの問題について、判例は一貫しておらず、学説は紛糾している。
本判決は、この問題について、それは財産行為であると、最高裁として初めて態度を明らか
にしたものである。
[東京地裁 H.11.6.24 判*] H9(ワ)27500 号 求償金請求事件(控訴)
民法 456 条・501 条 4 項、商法 632 条 1 項→保険法
重複して二社の損害保険会社が保証証券を発行し、連帯保証関係が認められる場合において、
二社の内部負担割合は保証限度額の割合によって按分すべきであるとされた事例 ― 「保証証
券契約は、損害保険会社が業務として、主債務者の債務を保険料率の計算と似た手法により計算
された保険料を徴収して保証し、主債務者が支払えない場合にはその限度内で保証債務を履行す
ることを基本としている点で、損害保険と似た機能、性質を有していると評価し得る。そして、
損害保険の金額が保証限度額に対応する。また、保証証券契約において保証限度額が定められ、
自己が負担すべき危険に限度が定められていることは、機能面において物上保証人の提供する担
保と似ており、この場合、保証証券契約における保証限度額が物上保証人の提供する担保の価格
に対応する。このようにみていくと、重複保険における負担額の割合、物上保証人間の弁済額の
負担の割合に関する解釈に伴い、保証証券契約における連帯保証人間の負担割合は保証限度の割
合によって按分するのがもっとも公平の概念に合致し、かつ簡明というべきである。
」
判時 1690-83
半田吉信・判例評論 496-12(C-②-67)
[大阪高裁 H.11.7.21 判*] H10(ネ)3104~3106 号 損害賠償請求事件(一部変更・確定)
破産法 283 条、商法 266 条 1 項 5 号、民法 423 条
破産会社の取締役に対する損害賠償請求権につき、破産終結後破産債権者が債権者代位権に基
づき行使することを認めた事例 ― 同破産会社に対する破産事件は、H10.1 に破産終結決定が
なされて終結したことが認められるところ、破産終結に至った場合、会社に残余資産があり清算
の必要が存する限りは、その目的の範囲内で会社は存続するものと解するのが相当であり(破産
法 4 条)
、そうすると、前記により、同社の取締役一審被告 Y1 に対する善管注意義務違反に基づ
く損害賠償請求権があるということができるから、一審原告 X らが債権者代位権に基づく同請求
権を代位行使することはできると言うことができる。また、同社の取締役一審被告 Y2・Y3 に対
41
する損害賠償請求権についても同様に債権者代位権を行使することができる。
判時 1698-142 田頭章一・判例評論 499-37(C-②-72)
一審:京都地裁 H.10.9.25 判・H5(ワ)1940 号
[浦和地裁 H.11.8.6 判*] H9(レ)48 号 賃金請求事件(控訴棄却・確定)
商法 23 条(現 14 条)
・262 条(現会社法 354 条)
取締役でも使用人でもない外部の者が専務取締役と称することを許諾していた株式会社の、
右外部の者が雇用契約したその者の被用者に対する名板貸責任が認められた事例 ― ①.被控
訴人(被告)会社 Y から専務取締役肩書の名刺使用を許諾されていた訴外 A は Y の下請業者に過
ぎず、Y の業務を遂行するためではなく A 自身の業務を遂行するためであったに過ぎないので、
商法 262 条(表見代表取締役)の類推適用を否定。 ②.Y は A が仕事を取り易いようにするため
の一環として、Y から下請けしていた本件業務を遂行する運転手を雇用することも含て、A の営
業が Y の営業であるかのような外観を呈する本件名刺を A が使用することを許諾していたのであ
るから、A が本件名刺を使用して本件業務を遂行するための運転手を雇用した場合にも、A に雇
用された運転手において、本件業務の営業主を A が専務取締役であるという控訴人 Y と誤認して
いたときには、商法 23 条所定の名板貸責任を負うべきものといわなければならず、被控訴人 X
(原告。A が雇用した運転手)の主張はこの意味において首肯することができる。
判時 1696-155 金判 1089-45
畠田公明・判例評論 498-31(C-②-71)
一審:浦和簡裁 H.9.8.27 判・H9(ハ)32 号
[東京高裁 H.11.8.9 判*]
H11(ネ)1405 号 売買代金返還請求事件(確定)
商法 526 条、民法 570 条・566 条 3 項
商人間の不特定物売買と、
解除権行使の期間制限 ― ①.商人間の不特定物の売買にも商法 526
条の適用がある。商法 526 条でそれらの権利が保全されていることが前提となる。 ②.売買の目
的物に瑕疵があることを理由として売買契約を解除するときは、瑕疵担保を根拠とするものであ
っても、債務不履行を根拠とするものであっても、瑕疵を発見した時より 1 年以内にしなければ
ならない。
判時 1692-136 判タ 1044-179
宮島司・判例評論 501-55(C-②-75)
一審:東京地裁八王子支部 H.11.1.28 判・H7(ワ)243 号
判タ 1021-238
*:商法 526 条の「遅滞なく」「通知」「隠れた瑕疵」の法意を説示した判決例については、[最
高裁三小 H.4.10.20 判]の末尾の注を、その他この制度の買主の通知義務の本質的問題点につ
いては[最高裁三小 S.47.1.25 判]の末尾の注を参照。
[最高裁一小 H.11.9.9 判*]H10(受)456 号・取立債権請求事件(棄却)
民事執行法 155 条 1 項、商法 653 条・683 条→現:保険法
生命保険契約の解約返戻金請求権の差押債権者がこれを取立てるために解約権を行使すること
の可否 ― 生命保険契約の解約返戻金請求権を差し押さえた債権者は、これを取立てるため、
債務者の有する解約権を行使することができる。
(反対意見がある。)
*H.22.4 施行の保険法のもとでは、保険金受取人に解除権行使に対する介入権が認められること
になった。
民集 53-7-1173 判時 1689-45 判タ 1013-100 金法 1563-49
川村正幸・金法 1588-54
榊素寛・法協 118-11-118
山本克己・金法 1581-216
竹濱修・別冊ジュリ 202-188
原審:東京地裁 H.10.8.26 判・H10(ワ)9135 号 民集 53-7-1182 判時 1655-166
被告生保会社が飛躍上告(民訴法 281 条 1 項但書)
*竹濱評釈:H.22.4 に施行された保険法は、差押債権者等が取立権などに基づき死亡保険契約の
42
解除を行う場合に、保険金受取人が一定の金銭の支払をすることによりその解除の効力を阻止
する、いわゆる介入権制度を認めた(保険法 60~62 条)。差押債権者などの保険契約当事者以
外の者(解除権者)が、保険料積立金のある死亡保険契約を解除できる場合に、解除権者が解
除権を行使するとその通知を受けた日から 1 カ月経過後に解除の効力が生じることとされ、そ
の間に、保険契約者・被保険者の親族または被保険者である保険金受取人(介入権者)が、保
険契約者の同意を得て、解除権が行使された日の解約返戻金相当額を解除権者に支払い、その
旨を保険者に通知すれば、先の解除は効力を生じない。 即ち、保険金受取人は、取立権に基
づき生命保険契約を解除する差押債権者に対して、介入権により生命保険契約の存続を図るこ
とができる。同様の制度は、傷害疾病定額保険契約にも導入されている(保険法 89~91 条)。
なお、保険法にいう「解除」は、原則として遡及効がなく(保険法 31 条 1 項・59 条 1 項・
88 条 1 項)
、約款の定める保険契約者の任意解約権はこの解除に含められる。
保険法の介入権規定により、保険契約者の債権者と保険金受取人との間の利害調整が、より
適切なものとなった。
評釈での示唆:保険契約者側が、解約返戻金請求権の差押があり、取立権に基づき解除権が
行使されたことを(債権者や保険者から知らされるなどにより)知っていながら、なお保険金受
人が介入権を行使していないときは、保険者は解除権行使が権利濫用であると判断がつく場合
を除いては、とくに争うことなく解除の効力発生後に解約返戻金額を解除権者に支払うことに
なろう。
*江頭・商取引法 6 版-512~513:生命保険契約を解約すれば保険契約者に相当の額の解約返戻金
請求権が発生する場合がある。そこで、保険契約者の債権者が、解約により具体化する前の解
約返戻金請求権を差押え、差押債権者として取得する取立権(民事執行法 155 条 1 項)に基づ
き保険契約者に代わって解約権を行使することにより解約返戻金を具体化させ、それを取立て
ることがある。
・・・しかし、死亡保険契約に於いては、解約返戻金の額は保険事故が発生した
場合に保険金受取人が取得できる保険金額に比して少額であり、かつ、差押債権者等(債権者
代位権を行使する債権者、破産管財人等)による解約は、保険金受取人の生活基盤を脅かすお
それがある。そこで、死亡保険契約の保険金受取人が保険契約者以外の者であって、保険契約
者もしくは被保険者の親族または被保険者であるである場合には、同人が一定の期間内に解約
返戻金相当額を差押債権者に支払うことにより、差押債権者等による解約を回避することが保
険法で認められている(60~62 条:介入権)。
[東京高裁 H.11.10.28 判*]H11(ネ)77 号・損害賠償請求事件(変更・容認・上告)
民法 1 条 2 項・415 条・418 条
クリーニング店のフランチャイズ契約を締結したフランチャイジーがフランチャイザーに対し
てした保護義務違反(不正確な情報の提供)による損害賠償が容認された事例(過失相殺 7 割)
― 「フランチャイズ・システムにおいては、専門的知識を有するフランチャイザーがフランチ
ャイジーを指導、援助することが予定され、客観的かつ的確な情報を提供すべき信義則上の保護
義務を負っているとはいえ他方において、フランチャイジーも、単なる末端消費者とは異なり、
自己の経営責任の下に事業による利潤の追求を企図する以上、フランチャイザーから提供された
情報を検討、吟味した上、最終的には自己の判断と責任においてフランチャイズ・システム加入
を決すべきものである。
」 フランチャイジーの損害に 7 割の過失相殺が相当と判示。
判時 1704-65 判タ 1023-203
山下友信・別冊ジュリ 194-126
一審:東京地裁 H.10.10.30 判・H8(ワ)109 号
[最高裁大法廷 H.11.11.24 判*]
H8(オ)1697 号 建物明渡請求事件(棄却)
民法 369 条・423 条
抵当権者の抵当不動産の不法占有者に対する妨害排除請求権及び直接自己への明渡請求の可否
43
(積極) ― 抵当権は、所有者が行う抵当不動産の使用又は収益について干渉することはできな
い。しかしながら、第三者が抵当不動産を不法占拠することにより、競売手続の進行が妨げられ、
優先弁済権の行使が困難となるような状態は、抵当権に対する侵害と評することができ、抵当不
動産の所有者は、抵当権に対する侵害が生じないように抵当不動産を適切に維持管理することが
予定されていると言うことができる。従って、右状態があるときは、抵当権の効力として、所有
者に対して右状態を是正して適切に維持又は保存するよう求める請求権を有すると言うべきであ
る。そうすると、抵当権者は、右請求権を保全する必要があるときは、民法 423 条の法意に従い、
所有者の不法占有に対する妨害排除請求権を代位行使することができると解するのが相当である。
代位行使を否認した最高裁二小 H3.3.22 判・H.1(オ)1209 号(民集 45-3-268)を本判決と抵触す
る限度において変更すべきである。
民集 53-8-1899 判時 1695-40 判タ 1019-78 金判 1081-4 金法 1568-26
小杉茂雄・金法 1588-35(RF-16) 伊藤進・判例評論 496-7 梶山玉香・法律時報 72-7-75
八木一洋・ジュリ「最高裁時の判例Ⅲ」-432
椿寿夫・金法 1581-118
椿寿夫ほか・銀行法務 571-4
原審:名古屋高裁 H.5.5.29 判・H7(ネ)901 号
民集 53-8-1921 金判 1061-3
一審:名古屋地裁 H.7.10.17 判・H7(ワ)1868 号
民集 53-8-1916 金判 1061-6
[最高裁三小 H.11.11.30 判*]
H10(受)407 号 配当異議事件(上告棄却)
民法 304 条・372 条・579 条
買戻特約付売買の目的不動産に設定された抵当権に基づく買戻代金債権に対する物上代位権行
使の可否 ―買戻権特約付売買の買主から目的不動産につき抵当権の設定を受けた者は、抵当権
に基づく物上代位権の行使として、買戻権の行使により買主が取得した買戻代金債権を差押える
ことができると解するのが相当である。けだし、買戻特約の登記に遅れる抵当権は買戻による所
有権の買戻権者への復帰に伴って消滅するが、抵当権設定者である買主やその債権者等との関係
においては、買戻権行使時まで抵当権が有効に存在していたことによって生じた法的効果までが、
買戻によって覆滅されることはないと解すべきである。
民集 53-8-1965 判時 1695-70 判タ 1018-208 金法 1568-38 金判 1081-24
生熊長幸・金法 1588-39
吉田邦彦・判例評論 501-26(C-②-76)
西尾信一・銀行法務 572-77
佐伯一郎・銀行法務 578-56
豊澤佳弘・ジュリ「最高裁時の判例Ⅱ」-109
山野目章夫・民商 123-3-133
原審:大阪高裁 H.10.7.31 判・H9(ネ)1033 号
民集 53-8-1982 金判 1055-35
一審:神戸地裁尼崎支部 H.9.3.25 判・H8(ワ)1063 号
民集 53-8-1975
*豊澤評釈:本判決は、買戻特約付売買の売主が買戻権を行使した場合に、買主から目的不動産
上に設定を受けた抵当権に基づいて買戻代金債権に対する物上代位権の行使が認められるか否
かの学説上議論が分かれている問題につき、物上代位肯定説を採ることを明示した始めての最
高裁判例。実務への影響は大きい。
[東京高裁 H.12.4.19 判*] H11(ネ)1317 号 損害賠償請求事件(取消・請求棄却、確定)
民法 3 編 2 章 1 節 1 款(契約の成立)
外国法人と日本法人との間のライセンスに関するメモランダム・オブ・アンダースタンディン
グによる合意について、契約の成立が否定された事例 ― 「本件メモの記載内容は、ライセン
ス契約における基本的な事項を示すものであるということができるとしても、それのみをもって
契約より生ずる当事者間の権利義務関係を確定するに足りるものということができないことは明
らかであり、それを確定するに必要な事項についてはさらに協議をした上で契約書を作成するこ
とを予定していた者である以上、そこにその時点において了解に達した事項が記載されているか
らといって、その事項のみについて直ちに契約としての効力を発生させる意思をラグナ―ソン(原
44
告会社代表取締役専務)及びリー(被告会社取締役)等において有していたものと推認すること
はできないというべきである。 もし、右のような体裁及び内容の本件メモに当事者を拘束する
契約としての効力を持たることを署名当事者が意図したのであれば、その旨を特に明記すること
こそ自然であるというべきである。 なお、本件メモの記載内容のうち 50 万ドルの支払に関する
部分に限って言えば、その内容は明確で一義的であるということができるが、その支払は本件ソ
フトのソースコードのライセンス供与の対価としてされるべきものであることが前記認定事実の
経過から明らかであるところ、供与されるべきライセンスの具体的内容が後日の協議により確定
されることを予定したものである以上、その支払義務についてのみ後日の協議と無関係に効力を
発生させる趣旨のものと解することができないことは明らかである。
」
判時 1745-96
柏木昇・ジュリ 1238-130
長谷川俊明・国際商事法務 29-8-1007
一審:東京地裁 H.11.1.29 判・H8(ワ)23978 号
[最高裁三小 H.12.6.27 判*] H10(受)128 号動産引渡請求本訴・代金返還請求反訴事件
民法 194 条
一、 民法 194 条に基づき盗品等の引渡を拒むことができる占有者と右盗品の使用収益権
― ①.盗品又は遺失物の占有者は、民法 194 条に基づき右盗品等の引渡を拒むことができる
場合には、代価の弁済の提供があるまで、右盗品等の使用収益権を有する。
二、 盗品の占有者がその返還後にした民法 194 条に基づく代価弁済請求が肯定される場合
― ②. 盗品の占有者が民法 194 条に基づき盗品の引渡を拒むことができる場合において、
被害者が代価を弁済して盗品を回復することを選択してその引渡を受けたときには、占有者は、
盗品の返還後、同条に基づき被害者に対して代価の弁済を請求することができる。
大審院 S4.12.11 判・S4(オ)634 号(民集 8-923)は、右と抵触する限度で変更する。
民集 54-5-1737 判時 17215-12 判タ 1037-94
小野憲一・ジュリ「最高裁時の判例Ⅱ」-72
好美清光・民商 124-4・5-271
其木捉・北大法学論集 52-4-267
油納健一・銀行法務 591-64
原審:名古屋高裁 H.10.4.8 判・H9(ネ)668 号
民集 54-5-1756
一審:名古屋地裁 H.9.7.29 判・H8(ワ)2963 号
民集 54-5-1750
[仙台高裁秋田支部 H.12.10.4 判*]H11(ネ)101 号 預託金返還請求事件
民法 183 条・184 条、H13 改正前商法 341 条の 14 第 1 項
(控訴棄却・確定)
占有改定による有価証券の引渡を間接占有者による場合にも是認
有価証券の国際的保管振替機関に証券会社が寄託登録したワラント(新株引受権)の同証券会
社から顧客への一部の譲渡でも、同証券会社が顧客に対して発行・交付した当該ワラントを表
章する新株引受権証券により、同ワラントの間接・共同占有が移転されるので、当該取引は有
効であるとされた事例 ― 有価証券の国際的保管振替機関 A を利用したワラント取引において、
当該ワラントを表章する「新株引受証券も所有の対象である以上、これを共有し、その持ち分の
移転を行うことには何も支障はないはずであり、これが許されないと解すべき法令上の根拠は見
当たらない。そして、証券の交付には、現実の引渡だけでなく、指図による占有移転、占有改定
及び簡易の引渡が含まれることに異論はない。寄託の際の占有の移転についても同様である。本
件では、発行された新株引受証券が一枚の大券(筆者注:当該顧客以外にも同証券会社が購入した
同新株引受権が全数で表示されている新株発行会社発行の新株引受権証書であり、A に寄託されて登
録されている。
)であり、証券の特定は大券によってされており、控訴人(原告:証券会社の顧客)
に対する持分の移転は、外国証券取引口座設定約諾書による合意に基づき、占有改定(預り証の
交付等)によって大券についての間接・共同占有が移転されたものと解される。
」
金判 1106-47
森下哲朗・別冊ジュリ 210-56
早川吉尚・H12 重要判ジュリ 1202-294
一審:山形地裁酒田支部 H.11.11.11 判・H9(ワ)10 号
金判 1098-45
45
大武泰南・金判 1106-62
田邊宏康・商学討究(小樽商大)51-4-175
*古田:本件控訴審では、証券が表章する「証券の交付には占有改定も含まれることには異論は
ない」と判示されているので、この控訴審判決の評釈にはその点を詳論したものはないが、一
審判決は我国の当局がコマーシャル・ペーパーのペーパレス化の研究に取組んでいた時期であ
ったこともあり、上記の田邊評釈はこの占有改定の問題にコメントを加えている。即ち、同評
釈の 180 頁で、日本民法は直接占有者でない者が占有改定によって占有を移転すること、即ち
間接占有者からの占有改定を必ずしも予定していない(民法 183 条)と指摘されている。そし
て 181 頁で、動産はそれ自体利用価値があるが有価証券はそれが表章する権利と離れては無価
値なものに過ぎないので、動産取得の対抗要件である占有を占有改定により取得する場合は直
接占有者からでなければならない(広中俊雄「物権法(第 2 版増補)」167 頁・青林書院 1987
刊)と解するとしても、証券譲渡の効力発生要件を、民法の動産物権譲渡の対抗要件である占
有取得を規定する民法 183 条と全く同様に解する必要はないのではないかと指摘され、本件有
価証券の間接占有者による占有改定を是認した判示を容認しておられる。
本件事案の判決はワラント取引のものではあるが、有価証券に占有改定による引渡を認めた
判示は物流取引においても有益な判示であると筆者(古田)は解している。 即ち、船荷証券
の元地回収で for the consignee を冠して荷送人によりサレンダー署名がされた場合は、その船
荷証券は荷送人から荷受人に占有改定により引渡されてからサレンダーされたことになる。従
って荷受人が B/L による運送品の間接占有を取得してからのサレンダーであり、
サレンダーB/L
での運送は、荷受人が占有を取得した運送品の運送であることになる。
[東京地裁 H.12.10.16 判*]
H12(ワ)12942 号 建物賃料請求事件(認容・確定)
旧会社更生法 162 条(相殺権)
賃貸人会社が更生手続開始決定を受けた場合において、賃借人が将来発生する敷金返還請求権
を自働債権とし賃料債権を受働債権とする相殺の可否(消極) ― ①.敷金返還請求権は、賃
貸借契約終了後、目的物の明渡完了のときにおいて、それまでに生じた被担保債務を控除しなお
残額がある場合に、その残額について具体的に発生するものであって(最高裁二小 S48.2.2 判)、
停止条件付債権である。 ②.更生債権者に相殺が認められるのは、債権・債務の双方が届出期間
の満了前に相殺適状にある場合に限られるので、条件成就前にこれを自働債権とする相殺は許さ
れない。
判時 1731-24
金判 1108-51
西尾信一・銀行法務 587-77
加藤鉄夫・判例評論 510-35(C-③-1)
[最高裁二小 H.12.10.20 判*] H11(受)461 号 株主ゴルフ会員権等確認請求事件
民法 33 条・三篇二章(契約)
(破棄自判)
株主ゴルフ会員権等確認請求事件
権利能力のない社団であるゴルフクラブが規約に従い総会の決議によってした構成員の
資格要件を変更する旨の規約の改正と右決議について承諾をしていない構成員に対する効力の
有無(積極) ― 権利能力のない社団であるゴルフクラブが規約に従い総会の決議によってし
た構成員の資格要件であるゴルフ場経営会社の保有株式数を、
「二株以上」から「三株以上」に変
更する旨の規約の改正は、特段の事情がない限り、右決議について承諾をしていない構成員に対
しても、その効力を有する。
集民 200-69 判時 1730-26 判タ 1046-89 金判 1106-24
西尾信一・銀行法務 586-76
松久三四彦・判例評論 551-11(C-④-4) 今泉純一・民商 125-2-64
原審:高松高裁 H.11.1.26 判・H10(ネ)357 号
金判 1106-27
一審:高知地裁 H.10.9.28 判・H9(ワ)6 号
金判 1106-30
46
[東京高裁 H.12.11.28 判*] H12(ネ)2704 号 求償金請求事件(控訴棄却、上告・上告却下)
民法 465 条
複数の連帯保証人の内の一人が保証債務の履行として主債務の一部を弁済した後に、債権者が
残余の債権を放棄した場合において、その連帯保証人の負担部分を越える額を弁済したとは言
えないという理由で、弁済をした連帯保証人から他の連帯保証人に対する求償が否定された事
例 ―
弁済が負担部分に足りなかったが、債権者が残余の債権を放棄したことでの、弁済額
の案分による他の連帯保証人への求償であるが、
「民法 465 条 1 項の趣旨等に基づいて考えると、
保証人が自己の負担部分を超える額を弁済したかどうかは、当該弁済の時における主たる債務の
額を基準として判断するのが最も公平であり、相当であると解される。その後の主たる債務の弁
済や免除等の偶然の事情によって共同保証人間の求償権の行使の可否や求償権の範囲を定めるの
は、法的安定性を害するものであり、相当ではない。」
判時 1758-28
金判 1124-44
田高寛貴・銀行法務 603-78 佐藤岩昭・判例評論 525-26
一審:東京地裁八王子支部 H.12.4.26 判・H10(ワ)3252 号 判時 1758-30 判タ 1111-156
金判 1124-47
[最高裁一小 H.13.1.25 判**]H10(受)562 号・約束手形金請求事件(上告棄却)
公示催告手続及び仲裁手続に関する法律 785 条(現行非訟事件手続法 160 条 2 項)
手形法 77 条 1 項 1 号・16 条 2 項
一、 手形の除権判決と善意取得者の権利 ― 善意取得者優先説を判示
二、 除権判決で形式的資格を失った善意取得者は、実体的権利者であることを主張・立証す
ることで権利行使ができる
民集 55-1-1 判時 1740-85 判タ 1055-104 金判 1114-6 金法 1608-45
商判集三-474
小橋一郎・リマークス 24-105
松本博之・金法 1620-11
橡川泰史・別冊ジュリ 222-162
原審:東京高裁 H.10.9.16 判・H10(ネ)1926 号 民集 55-1-14 金判 1114-9
一審:東京地裁 H.10.3.26 判・H9(ワ)70280 号・(手ワ)957 号 民集 55-1-9 金判 1114-10
*:流通可能船荷証券についても同旨となる。
[最高裁三小 H.13.1.25 決定*] H12(許)22 号 不動産引渡命令に対する抗告審の
民事執行法 83 条・188 条
原決定取消決定に対する許可抗告事件(棄却)
最先順位の抵当権者に対抗することができる賃借権により競売不動産を占有する者が、当該不
動産に設定された抵当権の債務者である場合における引渡命令 ― ①. その占有者が当該不動
産に自己の債務を担保するために抵当権の設定を受け、当該抵当権の実行として競売の開始決定
(二重開始決定を含む)がされていた場合を除き、引渡命令を発することができないと解するの
が相当。
②.引渡命令の相手方である占有者が最先順位の抵当権者に優先する賃借権によって
本件建物を占有しており、その占有者が本件建物に自己の債務を負担するために抵当権の設定を
受けていたものの、この抵当権に基づく競売開始決定はされていないので、引渡命令を発するこ
とができる場合に該当しない。
*原審の決定を是認した上での判示。
民集 55-1-17 判時 1740-41 金法 1609-50
山野目章夫・金法 1620-37
生熊長幸・判例評論 512-16(C-③-2)
山本和彦・判例評論 504-24(C-②-78
古積健三郎・民商 130-6-177
原審:東京高裁 H.12.4.5 決定・H12(ラ)485 号 民集 55-1-27 判時 1707-129 金判 1116-18
一審:横浜地裁川崎支部 H.12.2.10 決定・H12(ヲ)33 号
民集 55-1-26 金判 1116-19
47
[福岡高裁 H.13.1.30 判*] H12(ネ)817 号 損害賠償請求事件(控訴棄却
民法 415 条・709 条、旅行業法 12 条の 3・12 条の 4
・上告不受理)
政府機関である航空会社(サウジアラビア航空)が企画・管理した主催旅行を販売した旅行業
者の債務不履行責任を否定 ― ①.旅行業基本約款「23 条 1 項本文において、
被控訴人(被告:主催旅行販売旅行業者)が主催旅行契約の履行に当り、被控訴人又はその手配
代行者の故意または過失に因り旅行者に損害を与えたときは賠償責任を負う旨規定しているが、
これは、旅行業者が主催旅行を企画し・立案し・実施するにあたっては、当該旅行の目的地・日
程・移動手段等につき、旅行サービス提供機関等の選択を含めて、旅行についての専門業者とし
て、予め十分な調査、検討を経た上で合理的な判断及び措置を執るべき注意義務のあることを示
すものであるとともに、本件約款における上記旅行業者の地位や旅行サービス提供機関に対する
統制には制約があるという実情に照らして、旅行業者の責任の範囲を限定した規定でもあると解
すべきである。
」
②.「本件旅行は、これまで、サウジアラビアが外国人の入国を厳しく制限してきたという特殊
事情を背景として、同制限の一部緩和後の外国人観光客の受入れ及び旅行の実施の全てが、同国
政府及び政府機関であるサウジアラビア航空の管理下にあったのであり、被控訴人を含む日本の
旅行業者は、これに介入することは困難であり、基本的にサウジアラビア航空の提示するツアー
を採用して閣議傭車の主催旅行として参加者を募集するか否かを選択する以外の対応は困難であ
った・・・これらの事情を前提とすれば、被控訴人が、サウジアラビア航空に対し、提供する旅
行サービスの内容を具体的に開示させ、現地視察等により確認する等の処置を採ることなく、本
件旅行を主催旅行として採用し、控訴人らに提供したことをもって契約締結時用の過失があった
とまではいえない。
」 本件旅行のいくつかの不手際については、サウジアラビア航空の日本副代
表が控訴人(原告:旅客)に謝罪し一人当たり US$100、そして被控訴人主催旅行業者はそれを
含めて一人当たり三万円を返還しているが、更なる旅行業者の責任は否定した。
判タ 1121-197 廣岡裕一・法律時報 76-9-122 長谷川俊明・国際商事法務 31-9-1295
一審:大分地裁 H.12.7.19 判・H11(ワ)649 号
[東京高裁 H.13.1.31 判*]
H12(ネ)2918 号 第三者異議事件(上告受理申立)
民法 363 条
賃貸借の保証金返還請求権に対する質権設定と、賃貸借契約書の原本および保証金預り証原本
の交付 ― ①.民法 363 条が、債権証書があるときはその証書の質権者への交付をもって質権
設定の成立要件とした趣旨は、契約成立の要件としての要物性(344 条)を貫いて、質権設定者
から当該債権の処分を阻止ないし困難にし、質権の成立を公示しようとするものであるから、右
債権証書とは、債権の成立及び存在を証する文書であり、且つ、その原本をいうものと解するの
が相当。⇔要物性に関する判旨には、小野判評は批判。
②.本件保証金返還請求権は指名債権であるところ、民法 363 条所定の債権証書とは、保証金の
支払及び返還の合意を約定した本件賃貸借契約書の原本と、右合意に従って本件保証金が支払わ
れた事実を証する保証金預り証原本であるというべきである。
④ .従って、これら存在している原本の交付を受けていない質権の成立はみとめられない。
判時 1743-67 金判 1115-14
西尾信一・銀行法務 591-83 山谷耕平・銀行法務 596-31
生熊長幸・金法 1652-53
小野秀誠・判例評論 517-13(C-③-8)
一審:東京地裁 H.12.4.27 判・H11(ワ)4976 号
[東京地裁 H.13.3.9 判*] H12(ワ)7372 号外 供託金還付請求権確認請求事件
債権譲渡特例法 2 条・5 条
(8 件内 6 件控訴)
現在及び将来発生する債権の譲渡につきされた譲渡債権(債権譲渡担保)の始期である債権発
生年月日が記載され、その終期である年月日が記載されていない債権譲渡登記に、将来債権の
48
譲渡についての対抗力が肯定された事例 ― ①.譲渡の対象となった「将来の債権」の終期
は「定めが無い」もしくは被担保債務の弁済を完了したとき(不確定期限)として定められたもの
であるところ、このような債権譲渡担保契約も、
「将来の債権」として特定していると言え、有効
である(最高裁二小 H.12.4.21 判・H8(オ)1049 号・民集 54-4-1562、金判 02-12)
。
②.本件
告示(債権譲渡登記令 7 条 3 項に基づく法務大臣の告示)によれば、債権発生年月日(終期)の記
載は任意とされており、記載が無い場合には債権発生年月日の債権のみ行使していると解するこ
とはできない。従って本件は、登記された債権発生年月日以降将来発生する債権を譲渡担保とし
て公示する登記であり、任意記載事項である終期が記載されれば、それが終期となるに過ぎない。
判時 1744-101
金判 1119-36
平井一雄/大矢一彦・銀行法務 594-68
清原泰司・判例評論 515-9(C-③-7)
[最高裁三小 H.13.3.13 判①*] H12(受)192 号 賃金請求事件(一部破棄自判・一部破棄差戻)
労組法 14 条・16 条
労組法 14 条(労働協約の効力発生要件:書面を作成し両当事者が署名又は記名捺印すること)
の様式を欠く労使間合意につき(協定書の作成なし)、労働協約としての規範的効力が認められ
なかった事例 <都南自動車教習所事件> : 「書面に作成され、かつ、両当事者がこれに
署名し又は記名捺印しない限り、仮に、労働組合と使用者との間に労働条件その他に関する合意
が成立したとしても、これに労働協約としての規範的効力を付与することはできないと解すべき
である。
」
民集 55-2-395 判時 1746-144
道幸哲也・判例評論 515-35(C-③-5) 諏訪康雄・民商 125-3-113
原審:東京高裁 H.11.11.22 判・H8(ネ)3076 号
民集 55-2-424 労働判例 805-28
一審:横浜地裁 H.8.6.13 判・H6(ワ)806 号
民集 55-2-416 労働判例 706-60
[最高裁三小 H.13.3.13 判②*]
H11(受)1345 号 取立債権請求事件(上告棄却)
民法 372 条・304 条 1 項・505 条、民事執行法 193 条
抵当不動産の賃借人が、抵当権設定登記の後に賃貸人に対して取得した債権を自働債権とする
賃料債権との相殺をもって、賃料債権に物上代位権の行使としての差押をした抵当権者に対抗
することの可否― 物上代位前の相殺は自由であるが、抵当権者が物上代位権を行使して賃料
債権の差押をした後は、抵当不動産の賃借人は、抵当権設定登記の後に賃貸人に対して取得した
債権を自働債権とする賃料債権との相殺をもつて、抵当権者に対抗することはできない。
民集 55-2-363 判時 1745-69 判タ 1058-89 金判 1116-3
清原泰司・銀行法務 592-76
能登真規子・法律時報 74-2-101
山野目章夫・H.13 重要判ジュリ 1224-70
岡内真哉・銀行法務 593-65 道垣内弘人・金法 1620-33
藤澤治奈・法協 121-10-214
角紀代恵・民商 128-2-55
杉原則彦・ジュリ「最高裁時の判例Ⅱ」-114
原審:大阪高裁 H.11.7.23 判・H11(ネ)770 号
民集 55-2-391 金判 1091-8
一審:京都地裁 H.11.2.15 判・H10(ワ)1977 号
民集 55-2-387 金判 1091-10
*[最高裁一小 H.14.3.28 判*]の「中村評釈」参照。
[東京高裁 H.13.4.23 判*]H12(ネ)6026 号 各約束手形金請求控訴事件(控訴棄却・確定)
手形法 16 条
貸付金の担保として盗難手形を取得した金融業者について、盗難手形に関する調査義務を怠っ
た重過失があるとして善意取得が認められなかった事例 ― ほぼ経営破綻に近い状況に至っ
ていた会社が、いわゆる街の金融業者に対し、短期間に多数回にわたり多額の金員の借入を求め
てきていること、及び、担保として持参した各約束手形は他企業振出で高額であることに加え、
49
同会社への裏書人の社判と代表者印が 2 種類あるなどの不審な点があるという事実関係の下にお
いては、日常的に手形を取扱っている金融業者としては、本件各手形が盗難手形ではないかとの
疑いをもち、このことを振出人あるいは支払銀行に対し電話で照会するなどして調査すべき義務
があり、この調査を怠った場合には、重大な過失があるものとして、これら盗難手形を同会社か
ら取得した控訴人(原告)金融業者の善意取得は成立しない。
金判 1117-21
一審:東京地裁 H.12.11.9 判・H12(ワ)70177~70181 号
*古田:盗難手形について善意取得を否定した裁判例には次のものがある。①東京高裁 H.12.8.17
判・H12(ネ)2210 号・金判 1109-51、②大阪地裁 H.12.2.29 判・H11(ワ)9200 号等・判時 1739-129
判タ 1050-235、③大阪地裁 H12.2.25 判・H10(ワ)13330 号等・判タ 1050-235、④東京地裁
H.11.8.26 判・H10(手ワ)1191 号・判時 1708-162、⑤⑥東京地裁 H.11.5.28 判・H10(ワ)70415
号及び東京地裁 H.11.5.27 判・H10(ワ)70486 号等・判タ 1017-219、⑦大阪高裁 S.56.5.29 判・
S55(ネ)797 号・判時 1023-114・金判 632-23。
除権判決(現在は除権決定)と善意取得者の関係については、
[東京地裁 S.53.5.29 判*]ま
での判決例は「除権判決優先説」であり除権判決により善意取得者は有価証券上の権利を失っ
たが、
[東京高裁 S.54.4.17 判*]以降の裁判例は下級審ではあるが全て「善意取得者優先説」
で判示し、
[最高裁一小 H.13.1.25 判]でこれが最高裁の判例となった。
善意取得者優先説によって、除権決定によっても善意取得者は有価証券上の権利を失わない
ことになった。 このように善意取得者の保護が図られる一方、他方では、裁判所の判断の傾
向として、善意取得が認められる要件としての「重過失がないこと」を厳格に解して均衡を図
っているように思われる。金法 1621-63「最新金融判例に学ぶ・営業店 OJT」も同様な指摘を
している。
[最高裁二小 H.13.6.8 判*] H12(オ)929 号・
(受)780 号 著作権等確認請求事件(破棄差戻)
民法 709 条、民訴法 5 条 9 号・7 条本文・136 条・247 条・第 1 編 2 章裁判所、
著作権法 31 条
一、 不法行為に基づく損害賠償訴訟につき民訴法の不法行為地の裁判籍の規定に依拠し、我
国の裁判所の国際裁判管轄を肯定するために証明すべき事項 ― 我国に住所等を有しない
被告に対し提起された不法行為に基づく損害賠償請求訴訟につき、民訴法の不法行為地の裁判籍
の規定に依拠して我国の裁判所の国際裁判管轄を肯定するためには、原則として、被告が我国に
おいてした行為により原告の法益について損害が生じたとの客観的事実関係が証明されれば足り
る。
二、ある管轄原因により我国の裁判所の国際裁判管轄が肯定される請求の当事者間における他
の請求につき、民訴法の併合請求の裁判籍の規定に依拠して我国の裁判所の国際裁判管轄を
肯定するための要件 ―両請求間に密接な関係が認められることを要する。
民集 55-4-727 判時 1756-55 判タ 1066-205 金判 1125-3 金法 1624-39
小林秀之・判例評論 518-9(C-③-9) 道垣内正人・別冊ジユリ 198-224
早川吉尚・民商 131-3-88
高橋宏志・別冊ジユリ 185-170
原審:東京高裁 H.12.3.16 判・H11(ネ)1106 号
民集 55-4-778
道垣内正人・別冊ジュリ 157-234
一審:東京地裁 H.11.1.28 判・H9(ワ)15207 号 民集 55-4-754 判時 1681-147
[最高裁三小 H.13.7.10 判*] H11(受)223 号 土地所有権移転登記手続請求事件(破棄差戻)
民法 145 条
被相続人の占有による取得時効が完成した場合において、共同相続人の一人が取得時効を援用
することができる限度 ― 被相続人の占有により取得時効が完成した場合において、その共同
50
相続人の一人は、自己の相続分の限度においてのみ取得時効を援用することができる。
集民 202-645 判時 1766-42 金判 1131-3
松本克美・判例評論 522-12(C-③-12)
原審:東京高裁 H.10.11.26 判・H10(ネ)2675 号
一審:東京地裁 H.10.5.25 判・H9(ワ)6821 号
[東京地裁 H.13.7.11 判*]
H12(ワ)983 号 更生担保権確定請求事件(棄却・控訴)
会社更生法 147 条 1 項・124 条 2 項・124 条の 2・145 条
後順位担保権者によって提起された更生担保権確定訴訟において、後順位担保権者の更生担保
権として確定さるべき額は、目的物の価額から、先順位担保権者の確定した更生担保権額を控
除した額ではなく、先順位担保権者に更生担保権として確定さるべきであった額を控除した額
であるとされた事例 ― ①.「会社更生事件において、先順位の担保権者の更生担保権額は確定
したが、後順位担保権者が更生担保権確定訴訟を提起し、同訴訟において、担保物権の評価額が
管財人による当該担保物件の評価額よりも高額であると認められた場合に、後順位担保権者の更
生担保権額として確定されるべき金額は、担保物件の同訴訟における評価額から先順位の担保権
者に更生担保債権として割り付けられるべきであった金額(既に確定した更生担保債権と担保物
件の評価額が増額されれば割付に加えられたであろう額の和のことをいう。以下同じ。
)を控除し
た額であると解するのが相当であり、担保物件の同訴訟における評価額から既に確定した先順位
の担保権者の更生担保権額のみを控除した額ではないと解するのが相当である。
」
②.「すなわち、抵当権、根抵当権等の担保権はその被担保債権を担保するために担保権の目的
の交換価値を把握することを内容とした権利であり、会社更生手続においては担保権の目的の価
額(船順位の担保権があるときは、その担保権によって担保された債権額を担保権の目的の価額
から控除した額)の範囲で更生担保権者として更生手続に参加することができると規定されてい
る(同法 123 条 1 項、124 条 1 項ないし 3 項)
。このため、後順位の担保権者は、更生手続にお
いて、担保権の目的の価額から先順位の担保権の被担保債権の価額を控除した価額について更生
担保権を有することにつき合理的気体を有していると解するのが相当である。従って、管財人に
よる担保物件の評価額が過小であったときには、後順位担保権者の更生担保権額は、本来評定さ
れるべきであった担保物件の価額から先順位の担保権者に更生担保権額として割り付けられるべ
きであった額を控除した額であると解することが、このような会社更生事件における担保権者の
合理的期待に適合し、担保権者間の均衡、ひいては会社更生目的の円滑な達成という観点から相
当であると解される。
」
判時 1764-123
田頭章一・判例評論 522-40(C-③-11)
[大阪高裁 H.13.7.31 判*] H12(ネ)4041 号 損害賠償請求控訴事件(一部変更・
民法 709 条・715 条
一部控訴棄却、確定)
コンビニエンスストアで顧客が濡れた床に滑って転倒し受傷した事故につき、原告顧客の自招
事故であるとして請求を棄却した第一審判決を覆して、コンビニチェーンのフランチャイザー
に安全指導義務違反があるとして損害賠償責任が認められた事例(過失相殺五割) ― 被告(被
控訴人)フランチャイザーは、本件店舗を経営する訴外フランチャイジーに対して、他のフラン
チャイジーと同じく、店舗の床材を統一規格の特注品とし、モップ、水切り(リンガー)も統一
物を支給し、商号を与えて、継続的に経営指導、技術援助をしているから、当該フランチャイジ
ー、又はそのフランチャイジーを通じて本件店舗の従業員に対して、床の水拭き後に乾拭きをう
るように指導すべき義務があり、被告はその義務を怠っていたのであるから不法行為責任を負う
こと、しかし、被害者原告(控訴人)の行為にも損害の発生及び拡大につき過失があるとして、
五割の過失相殺を相当とした。
判時 1764-64
加藤新太郎・リマークス 26-58
小畑史子・民商 128-4・5-230
橋本陽子・ジュリ 1231-193 & 別冊ジュリ 200-38 鎌田浩・損保研究 77-3-31
51
一審:大阪地裁 H.12.10.31 判・H11(ワ)9936 号
判時 1764-67
*:鎌田評釈の 35 頁以下には、判示指摘の指導義務を果たしていたことで責任を否定判示した名
古屋地裁 H.25.11.29 判(判時 2210-84)にも言及されている。
[最高裁一小 H.13.10.25 判*]
H13(受)91 号 配当異議事件(上告棄却)
民法 304 条・372 条、民事執行法 154 条・193 条 1 項
抵当権に基づき物上代位権を行使する者が、先行する他の債権者による債権差押事件に配当要
求することにより、優先弁済を受けることの可否(消極) ― 抵当権に基づき物上代位権を
行使する債権者は、他の債権者による債権差押事件に配当要求することによって優先弁済を受け
ることはできないと解するのが相当である。けだし、民法 372 条(抵当権への以下の規定の準用:
留置権の不可分性・296 条、先取特権の物上代位・304 条、質権設定者の物上保証人としての求償権・
351 条)において準用する 304 条 1 項但書の「差押」に配当要求を含むものと解することはでき
ず、民事執行法 154 条及び同法 193 条 1 項は抵当権に基づき物上代位権を行使する債権者が配当
要求をすることは予定していないからである。
民集 55-6-975 判時 1774-35 判タ 1083-127 金法 1638-37 金判 1140-34
我妻学・リマークス 28-134 生熊長幸・H.13 重要判ジュリ 1224-72
坂田宏・民商 127-2-97 山野目章夫・金法 1652-41 道垣内弘人・法協 128-4-248
佐藤歳二・判例評論 525-20(C-③-20) 斎藤由紀・北大法学論集 54-1-247
原審:東京高裁 H.12.10.25 判・H12(ネ)3140 号 民集 55-6-996 判時 1748-122 金判 1120-48
一審:東京地裁 H.12.5.15 判・H11(ワ)27645 号 民集 55-6-991 金判 1120-52
[東京高裁 H.13.11.13 判*] H13(ネ)2016 号 各供託金還付請求権確認請求及び譲受債権請求
債権譲渡特例法 2 条・5 条、
各控訴事件(一部取消、一部控訴棄却・上告)
債権譲渡登記令 7 条、債権譲渡登記規則 6 条 1 項、債権譲渡登記令 7 条 3 項の規定に基づく
法務大臣が指定する磁気ティスクへの記録方式に関する告示(平10法務省告示 296 号)
将来の集合債権譲渡について、譲受債権の始期のみを記載し、終期の記載のない登記の対抗力
が認められるか。目的債権の特定は登記でなされているか ―将来の債権を含む集合債権の
譲渡につき、債権譲渡特例法に基づいて譲受ける債権の債権発生年月日(始期)のみを記載し、
債権発生年月日(終期)の記載の無い登記の対抗力が及ぶ範囲は、始期として記載された日に発
生した債権の譲渡の限度にとどまるものとし、一方で報酬債権の譲渡について、債権譲渡登記に
おいて譲受ける債権の種類を「売掛債権」と記載したことは目的債権の特定性を欠き、当該債権
譲渡につき登記の対抗力が及ばないとされた。
判時 1777-63 金法 1634-66
吉田光碩・判例評論 525-30(C-③-18)
本田純一・リマークス 26-38
堀龍児・金法 1652-34
一審:東京地裁 H.13.3.9 判・H12(ワ)7372 号
判時 1744-101
[最高裁二小 H.13.11.16 判*] H12(受)1666 号 詐害行為取消請求事件
民法 424 条・425 条・703 条
(一部破棄・自判)
商標権の譲渡行為が詐害行為として取り消された場合に受益者が第三者から支払を受けた当
該商標権の使用許諾料相当額を不当利得として債権者が債務者に代位して返還請求をすること
の可否(消極)
[判示要旨]
一、
「詐害行為の取消しの効果は相対的であり,取消訴訟の当事者である債権者と受益
者との間においてのみ当該法律行為を無効とするに止まり,債務者との関係では当該法律行為は
依然として有効に存在するのであって,当該法律行為が詐害行為として取り消された場合であっ
52
ても,債務者は,受益者に対して,当該法律行為によって目的財産が受益者に移転していること
を否定することはできない。そうすると,上告人(受益者)が本件商標権の使用許諾契約を締結
して,F株式会社から支払を受けた使用許諾料は,訴外会社(債務者)との関係で法律上原因が
ないとはいえない。
」
二、
「以上のとおり,訴外会社(債務者)は上告人(受益者)に対して不当利得返還請求権を有
しないのであるから,被上告人(債権者)の債権者代位権に基づく商標権使用許諾料相当額の支
払請求を認容した原審の判断には,民法 424 条・425 条の解釈適用を誤った違法があるといわざ
るを得ない。
」 債権者代位による返還請求を否認。
集民 203-459 判時 1810-57 金法 1670-63
滝澤孝臣・判タ 1154-74
浅井弘章・銀行法務 630-62
原審:東京高裁 H.12.9.27 判・H11(ネ)2894 号
一審:東京地裁 H.11.4.9 判・H10(ワ)442 号
*古田:本判示の「相対的取消論」は、
[大審院聯合部 M.44.3.24 判*]以来承継されてきている。
[最高裁一小 H.13.11.22 判①*] H12(受)194 号 供託金還付請求権確認請求事件
民法 369 条(譲渡担保)
・467 条 2 項
(破棄自判)
金銭債務の担保として既発生債権および将来債権を一括して譲渡するいわゆる「集合債権譲渡
担保契約」における債権譲渡の第三者に対する対抗要件 ― 甲が乙に対する金銭債務の担保
として、甲の丙に対する既に生じ、又は将来発生すべき債権を一括して乙に譲渡することとし、
乙が丙に対して担保権実行として取立の通知をするまでは甲に譲渡債権の取立を許諾し、甲が取
立た金銭について乙への引渡を要しないとの内容のいわゆる集合債権を対象とした譲渡担保契約
において、同契約に係る債権の譲渡を第三者に対抗するには、指名債権譲渡の対抗要件の方法に
よることができる。
民集 55-6-1056 判時 1772-44 判タ 1081-315 金判 1136-7 金法 1635-38
江口直明・銀行法務 599-4 池田真朗・リマークス 25-30 池田真朗・金法 1652-22
角紀代恵・H.13 重要判ジュリ 1224-76
藤井徳展・民商 130-3-124
小山泰史・銀行法務 608-82
原審:東京高裁 H.11.11.4 判・H11(ネ)1544 号 民集 55-6-1084 判時 1706-18 金判 1083-10
一審:東京地裁 H.11.2.24 判・H10(ワ)18256 号 民集 55-6-1074 判タ 1016-167
[最高裁一小 H.13.11.22 判②*.] H12(受)372 号 売買代金返還請求事件(棄却)
民法 565 条
土地の売買が民法 565 条にいう「数量指示売買」であるとされた事例 ― 代金額については、
坪単価に面積を乗じる方法により算定することを前提にして、売主が呈示した坪単価の額からの
値下げの折衝をを経て合意が形成され、当事者双方とも土地の実測面積が公簿面積に等しいとの
認識を有しており、契約書における公簿面積の記載も実測面積が公簿と等しいか少なくともそれ
を下回らないという趣旨でなされたものであるなど判示の事情の下においては、当該土地が公簿
面積通りの実測面積を有することが売主によって表示され、実測面積を基礎として代金額が定め
られたものということができ、その売買契約は、いわゆる数量指示売買に当たる。
(反対意見がある。
)
集民 203-743 判時 1772-49
飯島紀昭・判例評論 524-20(C-③-16)
原審:名古屋高裁 H.11.12.15 判・H11(ネ)434 号
一審:名古屋地裁岡崎支部 H.11.3.24 判・H10(ワ)50 号
[最高裁三小 H.13.11.27 判①**] H10(オ)773 号 損害賠償請求事件(破棄差戻)
53
民法 167 条 1 項・566 条 3 項・570 条
瑕疵担保による損害賠償請求権には消滅時効の規定の適用があり、この消滅時効は、買主が売
買の目的物の引渡を受けた時から進行するとした事例
[判示要旨]
一、買主の売主に対する瑕疵担保による損害賠償請求権は、売買契約に基づき法律上生ずる金
銭支払請求権であって、これが民法 167 条 1 項にいう「債権」に当たることは明らかである。こ
の瑕疵担保権の行使については、買主が事実を知った日から 1 年の除斥期間の定めがあるが(民
法 570・566 条 3 項)、これは法律関係の早期安定のために買主が権利を行使すべき期間を特に限
定したものであるから、この除斥期間の定めがあることをもって、瑕疵担保による(既に発生した)
損害賠償請求権につき民法 167 条 1 項の適用が排除されると解することはできない。
二、瑕疵担保権の行使により既に発生した損害賠償請求権には消滅時効の適用があり、この消
滅時効は、買主が売買の目的物の引渡を受けた時から進行すると解するのが相当である。
民集 55-6-1311 判時 1769-53 判タ 1079-195 金判 1134-3 金法 1633-71
池田雅則・銀行法務 607-80
河上正二・判例評論 530-7 (C-③-25)
安部勝・判タ 1125-30
吉川吉樹・法協 120-9-183
原審:東京高裁 H.9.12.11 判・H9(ネ)2217 号(請求認容・上告)民集 55-6-1330 金判 1134-8
一審:浦和地裁 H.9.4.25 判・H7(ワ)186 号(請求棄却・控訴)民集 55-6-1323 金判 1134-9
[最高裁三小 H.13.11.27 判②*]
H12(受)375 号 債務不存在確認請求本訴、
民法 565 条
不当利得請求反訴事件(破棄差戻)
いわゆる数量指示売買において数量が超過する場合に、民法 565 条を類推適用して売主が代金
増額を請求することの可否(消極) ― 民法 565 条は、数量指示売買において数量が不足す
る場合又は物の一部が滅失していた場合における売主の担保責任を定めた規定に過ぎないから、
数量指示売買において数量が超過する場合に、同条の類推適用を根拠として売主が代金の増額を
請求することはできないと解するのが相当である。
民集 55-6-1380 判時 1768-81 判タ 1079-190 金判 1140-11 金法 1633-65
今西康人・判例評論 523-17(C-③-13) 平野裕之・リマークス 26-46
田中康博・法律時報 74-9-113
田中宏治・民商 126-4・5-247
原審:東京高裁 H.11.12.20 判・H11(ネ)3895 号 民集 55-6-1404 判タ 1081-210 金判 1140-17
一審:東京地裁 H.11.6.4 判・H10(ワ)15494 号 民集 55-6-1398 判タ 1081-213 金判 1140-20
*今西評釈:判決の結論には賛成。但し、売主の不当利得返還請求権を認めるべきである。
[最高裁三小 H.14..1.29 判*]
H8(オ)2607 号 損害賠償請求事件(破棄差戻)
民法 724 条
民法 724 条(損害及び加害者を知った時から 3 年、不法行為の時から 20 年の消滅時効)にい
う被害者が損害を知った時の意義(被害者が損害の発生を現実に認識した時)―同条にいう「損
害及び加害者を知りたる時」とは、被害者において、加害者に対する賠償請求が事実上可能な状
況の下に、その可能な程度にこれらを知った時を意味するものと解するのが相当である(最高裁
二小 S48.11.16 判)
。そして本件事案においては、同条にいう被害者が損害を知った時とは、被害
者が損害の発生を現実に認識した時をいうと解すべきである。
民集 56-1-218 判時 1778-59 判タ 1086-108 金判 1145-3
木村哲也・銀行法務 615-78
前田陽一・判例評論 528-21(C-③-23) 松本克美・民商 129-3-82
原審:東京高裁 H.8.9.11 判・H8(ネ)705 号 民集 56-1-244 金判 1145-12
一審:東京地裁 H.8.1.31 判・H7(ワ)14664 号 民集 56-1-239 金判 1145-13
54
[最高裁三小 H.14.3.12 判*]
H12(受)890 号 配当異議事件
民法 304 条 1 項・372 条、民事執行法 159 条・160 条・193 条
物上代位の目的債権につき転付命令が第三債務者に送達された後の抵当権に基づく物上代位権
の行使(消極) ― 転付命令に係る金銭債権(被転付債権)が抵当権の物上代位の目的となり
得る場合においても、転付命令が第三債務者に送達される時までに抵当権者が被転付債権の差押
をしなかったときは、転付命令の効力を妨げることはできず、差押命令及び転付命令が確定した
ときは、転付命令が第三債務者に送達された時に被転付債権は差押債権者の債権及び執行費用の
弁済に充当されたものとみなされ、抵当権者が被転付債権について抵当権の効力を主張すること
はできないものと解すべきである。
民集 56-3-555 判時 1785-35 判タ 1091-68 金判 1148-3 金法 1648-53
栗田隆・H.14 重要判ジュリ 1246-129
芹澤俊明・銀行法務 608-62
生熊長幸・判例評論 526-20(C-③-21) 吉岡伸一・金法 1684-33
米村滋人・法協 124-7-231 亀井洋一・銀行法務 617-84 清原泰司・銀行法務 621-86
原審:高松高裁 H.12.3.31 判・H11(ネ)315 号 民集 56-3-570 金判 1148-9
一審:松山地裁宇和島支部 H.11.7.8 判・H10(ワ)96 号 民集 56-3-563 金判 1148-12
[大阪地裁 H.14.3.25 判*]第 1 事件:H10(ワ)4350 号不当利得返還請求・第 2 事件:同 2517
民法 703 条・95 条
号約手金請求・第 3 事件:H11(ワ)4247 号売掛代金請求各事件
(第 1 事件一部認容、第 2・3 事件請求棄却・控訴)
多数の架空売買が行われた環状取引に架空売買とは知らずに介入した業者の錯誤無効の主張が
認められ、原告介入業者に対する売主である被告総合商社に対する支払売買代金の不当利得返
還請求が、実質回収額を差引いて認められた事例
[事案の概要]
本件は、Z(住宅資材販売会社)→Y(被告・建材関係総合商社)
、Y→X(原告・産業用資材関
係商社)
、X→Z と順次、架空売買取引が、H.6.5 頃から H.9.5 頃までの間、多数行われた環状取
引の事案において、その後 Z が破産したため、X が Z に対する代金を回収できなくなったことに
起因して発生した一連の事件である。第 1 事件は、X が Y に対して、Y→X の売買契約につき、
①商品の引渡がないとして債務不履行解除に基づく原状回復請求、②取引開始に当って、Y の担
当者は、Y→X、X→Z の非環状の実需取引であるかのように装って X を欺罔したとして、詐欺取
消に基づく不当利得返還請求、③同欺罔行為により、X は非環状の実需取引であると誤信したと
して、錯誤無効に基づく不当利得返還請求を行った事案である。
第 2、第 3 事件は、Y が X に対して、Y→X の売買契約に関する約束手形金及び売掛代金を請求
した事案である。
[判示要旨]
一、
「2-(2) 本取引は、本件商品の製造元とされる A ないし B から Z が仕入れて、同社から被
告、被告から原告、原告から Z へと順次転売され、最終的に Z から C に売却されるというもので、
商品は製造元から C に直送されることが予定されていた。しかし、C には売却納品されてはいな
かった。従って、Z から被告、被告から原告、原告から Z への伝票上の操作のみによる取引・決
済がなされているに過ぎないことになる。本件取引は、このような架空の(実際には商品の納入
を伴わない伝票上だけの)環状取引であった。
-(3) 本件取引は、Z の資金繰りの便宜のために行われたもので、丙田(Z の代表者)により仕
組まれたものである。そして、原告は『被告が Z に建築資材等を販売する取引につき、原告に間
に入ってもらって Z に信用力を与えてもらい、原告が被告から商品を仕入れてこれを Z に販売す
る取引を始めたい。
』と言われて、被告から原告、原告から Z への非環状の実需取引(実際に商品
が Z ないしその転売先である C に納品される取引)であると信じて、本件取引の一環をなす本件
原告購入契約及び本件原告販売契約を締結したものである。従って、原告には、本件取引に加わ
るに当たって錯誤があったことは明らかである。
・・・また、本件取引が後に判明したように被告
55
において 12%ものマージンを取得している架空の(実際に商品の納入を伴わない伝票上だけの)
環状取引であれば、到底正常な取引とはいえず、Z は取引の度に多額のマージン分の損失を被り
続けることになって、早晩破綻に至る可能性が高い。そして Z が破綻したときは、原告が、Z か
らの売掛金の回収が不能となって多額の損失を被るおそれがあるから、原告にとって極めて危険
性の高い取引といえ、原告がそのことを知っていれば到底取引に応じるはずがないものである。
現に被告も本訴において、架空の環状取引であることは知らなかったので取引を始めたと主張し
ており、原被告間では、本件取引が非環状の実需取引であることを当然の前提として、本件原告
購入契約が締結されたと言える。従って、原告の上記錯誤は要素の錯誤である。
」
二、
「3 不当利得額 (1) 原告は、H.8.8 度売上分までは、本件原告販売契約により Z に本件商
品を転売して受取った手形の決済を受けて、合計5億 7,716 万 1,763 円の売買代金を回収してい
る。Z は、本件架空循環取引を仕組んだ張本人であるから、本件商品の引渡がないからといって、
Z から原告に対する売買代金の返還請求が認められる余地はないと考えられる。しかも、Z は破
産宣告を受けて破産手続が既に集結しているのであるから、そのような請求がなされること自体
現実的にはあり得ないといえる。従って、この限度においては、原告は被告に支払った売買代金
について填補を受けているから、損失が生じてはおらず、不当利得返還請求権は認められない(こ
の理は、債務不履行解除、詐欺取消の主張が認められた場合も同様である。
)。 ・・・
(3) そうすると、原告が不当利得として被告に請求し得る金額は、原告が被告に支払った売買
代金額 7 億 4,464 万 9,556 円から上記の Z から支払を受けた売買代金額を控除した 1 億 6,748 万
7,793 円となる。
」
三、第 2・第 3 事件については、原告の錯誤無効の抗弁は理由があるから、その余の点につい
て判断するまでもなく、被告の請求は理由がない。 被告に対し、原告への 1 億 6,748 万 7,793
円の支払義務を判決。
判タ 1140-164
藤原正則・リマークス 30-46
中谷崇・横浜国際経済法学 15-3-115
*:
[大阪高裁 H.16.3.25 判*]の評釈参照。
[最高裁一小 H.14.3.28 判*]
H12(受)836 号 取立債権請求事件(棄却)
民法 372 条 1 項・372 条・511 条・619 条 2 項、民事執行法 193 条
賃貸借契約が終了し、目的物が明渡された場合における、賃料債権に対する抵当権者の物上代
位による差押と当該債権への敷金の充当(消極) ― 敷金が授受された賃貸借契約に係る賃料
債権につき抵当権者が物上代位権を行使してこれを差押えた場合において、当該賃貸借契約が終
了し、目的物が明け渡されたときは、賃料債権は、敷金の充当によりその限度で消滅する。
民集 56-3-689 判時 1783-42 判タ 1089-127 金判 1144-3
金法 1646-35
安永正昭・金法 1684-37
中山知己・判例評論 528-16(C-③-24)
生熊長幸・民商 130-3-142
中村也寸志・ジュリ「最高裁時の判例Ⅱ」-117
原審:東京高裁 H.12.3.28 判・H11(ネ)3350 号 民集 56-3-721 金判 1091-3
一審:東京地裁 H.11.5.10 判・H10(ワ)24727 号 民集 56-3-714 金判 1079-50 金法 1557-78
*中村評釈:
[最高裁三小 H.13.3.13 判②*]は、物上代位権の行使と敷金の賃料への充当との優
劣関係には射程が及んでいないが、本判決は、敷金の賃料への当然充当が物上代位権の行使に
よって妨げられないことを明らかにするものであり、実務に与える影響は大きい。
[最高裁二小 H.14.4.12 判*]
H11(オ)887・H11(受)741 号 横田基地夜間飛行差止等請求
憲法 9 条、民訴法 1 編 2 章・裁判所、憲法 98 条 2 項
事件(棄却)
日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約 6 条に基づく施設及び区域並び
に日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定 18 条 5 項
外国国家の主権的行為と民事裁判権免除(積極) ―本件差止請求及び損害賠償請求の対象であ
る合衆国軍隊の航空機の横田基地における夜間離発着は、わが国に駐留する合衆国軍隊の公的活
56
動そのものであり、その活動の目的ないし行為の性質上、主権的行為であることは明らかであっ
て、国際慣習法上、主権的行為であることは明らかであって、国際慣習法上、民事裁判権が免除
されるものであることに疑問の余地はない。
民集 56-4-729 判時 1786-43
酒井一・判例評論 539-7(C-③-34)横溝大・法協 120-5-183
高桑昭・民商 127-6-93
原審:東京高裁 H.10.12.25 判・H9(ネ,)2195 号 民集 56-4-756 判時 1665-64
一審:東京地裁八王子支部 H.9.3.14 判・H8(ワ)763 号 民集 56-4-795 判時 1612-101
*酒井評釈:大審院 S3.12.28 決定以来、わが国には判決の機会がなく、絶対免除主義に固執する
驚異の国との評価を受けていた。本件は、外国国家の主権免除に関して最高裁として初めて判
断を示した判決である。制限免除主義に依拠したものと受取ることができるとしても、
「活動の
目的ないし行為の性質上、主権的行為であることは明らか」として、行為目的説か行為性質説
のいずれによるべきかの判断を回避した。
[東京高裁 H.14.5.10 決定*]
H14(ラ)265 号 債権差押申立却下決定に対する
民事執行法 143 条
執行抗告事件(確定)
債権執行の対象債権が外形上債務者の責任財産とは認められない場合であっても、債権者が前
記債権が真実は債務者の責任財産に帰属することを証明した場合は、執行裁判所は、適法に執
行手続を開始できる。⇔ 執行債務者以外の名義の預金債権を差押が可とされた事例 ―
①.債権執行の対象が、およそ外形上債務者の責任財産と認められるものに限られるとすれば、債
務者は他人名義で債権を保有することにより容易に執行妨害を図ることが可能になるから、外形
上債務者の責任財産と認められないものについても、債権執行の対象となることを認める必要性
は否定できない。 ②.一般に、債権執行の対象が外形上債務者の責任財産と認められる場合には、
執行裁判所は、同債権が、債務者の責任財産に属するかどうかを厳密に審査することなく、債権
執行手続を適法に開始し得るものと解されているが、このように解されているのは、債権執行手
続の迅速を図り、債権者の利益を図るためであるところ、債権者が迅速さが損なわれることを甘
受した上で、他人名義の債権が真実は債務者の責任財産に帰属することを証明した場合において
は、執行裁判所は適法に執行手続を開始し得る。 ③.本件においては、A 会社名義の預金債権が
Y 会社の責任財産に属することの証明がある。
判時 1803-33 判タ 1134-308 金判 1159-36
河津博史・銀行法務 615-62 & 630-66
菅原胞治・銀行法務 635-30
佐藤歳二・判例評論 536-39(C-③-30)
一審:東京地裁 H.13.12.28 決定・H13(ル)11375 号 金判 1159-42 金法 1659-58
*佐藤評釈:執行妨害排除の必要性は十分理解できるとしても、権利判定機関(債務名義形成機
関)と執行機関の分離機能までも破壊することになりかねないと、判旨には賛成できないとされ
ている。
[最高裁二小 H.14.6.7 判*]H13(受)1662 号 取立金請求事件(上告棄却)
民法 481 条、民事保全法 50 条、民事訴訟法 262 条 1 項
債権の仮差押後・本執行前に第三債務者が被差押債権を弁済した場合において、債権者が仮差
押を取下げたときは、第三債務者は被差押債権の弁済をもって債権者に対抗することができる
― 「金銭債権に対する仮差押命令の送達を受けた第三債務者は、債権者との関係において被差押
債権につき債務者への弁済を禁止され(民事保全法 50 条 1 項)、これをしてもその弁済をもって
債権者に対抗することができない。この効力は、仮差押命令及びその執行(以下、併せて「仮差
押」という)により生ずるものであって、仮差押が存続する限り存続し、仮差押が消滅すれば消
滅する。そして、このことは本執行が開始された後も変わらないものと解するのが相当である。
従って、債権の仮差押後、本執行による差押の効力が生ずるまでの間に、第三債務者が被差押
債権を弁済した場合において、債権者が仮差押を取下げたときは、仮差押によって第三債務者に
57
つき生じていた上記弁済禁止の効力は、遡って消滅し(民事保全法 7 条、民訴法 262 条 1 項)
、
第三債務者は被差押債権の弁済をもって債権者に対抗することができることになる。
」
集民 206-413 判時 1795-108 判タ 1101-87 金法 1657-32 金判 1156-3
河津博史・銀行法務 613-90 野村秀敏・金法 1684-56 萩屋昌志・民商 128-1-140
原審:札幌高裁 H.13.7.19 判・H13(ネ)106 号
金判 1156-9
一審:札幌地裁 H.13.1.30 判・H11(ワ)2430 号
金判 1156-11
[最高裁一小 H.14.6.13 決定*]H13(許)30 号 債権差押命令に対する執行抗告棄却決定に
民事執行法 145 条 5 項・193 条、
対する許可抗告事件(抗告棄却)
民法 304 条 1 項・372 条
抵当権に基づく物上代位権の行使としてされた債権差押命令に対する執行抗告において、被差
押債権の不存在又は消滅を理由とすることの可否(消極) ― 「執行裁判所は、担保権の存在
を使用する文書が提出されたときは、申立に係る被差押債権が物上代位の目的となる債権に該当
する限り、その存在について考慮することなく、物上代位権の行使による差押命令を発すべきも
のである。そして、第三債務者は、被差押債権の存否について、抵当権者が提起する当該債権の
取立訴訟等においてこれを主張することができ、被差押債権の全部又は一部が存在しないときは、
その部分につき執行が功を奏しないことになるだけであって、そのような債権につき債権差押命
令が発付されても第三債務者が法律上の不利益を被ることは無いのである。従って、抵当権に基
づく物上代位権の行使としてされた差押命令に対する執行抗告においては、被差押債権の不存在
又は消滅を執行抗告の理由とすることはできないと解するのが相当である。
」
民集 56-5-1014 判時 1790-106 判タ 1095-114 金判 1155-3 金法 1657-29
内山衛次・民商 127-6-103
長谷川浩二・ジュリ 1241-86
福永有利・金法 1684-52
萩澤達彦・H.14 重要判ジュリ 1246-131
山本和彦・リマークス 27-119
原審:大阪高裁 H.13.8.10 決定・H13(ラ)633 号(執行抗告棄却)
金判 1155-10
一審:神戸地裁伊丹支部 H.13.5.30 決定・H13(ナ)13 号(債権差押命令認容) 金判 1155-19
*:本決定は、最高裁が、抵当権に基づく物上代位権の行使としてされた債権差押命令に対する
執行抗告において、被差押債権の不存在又は消滅を抗告の理由とすることができないと初めて
判示したものである。長谷川評釈・萩澤評釈は、この判示に賛されているが、内山評釈は、本
決定は、強制執行と担保執行との手続構造の相違、つまり強制執行としてではなく物上代位権
行使としての債権差押であることについて十分な顧慮がなされておらず、疑問だとされ、執行
抗告の提起は認められるべきであるとされる。
[最高裁一小 H.14.7.11 判*]H11(受)602 号 保証債務請求事件(破棄自判)
民法 95 条・446 条
空クレジットと知らずになした、印刷機械購入代金の立替払契約に基づく債務の保証人の保証
意思の表示に、要素の錯誤があり、当該保証の意思表示は無効とされた事例 ― 訴外 D 印刷
会社の代表取締役Eは,H.8.10.中旬ころ,営業資金を捻出するため,実際には本件機械の売買契
約がないのに本件機械を購入する形を取ったいわゆる空クレジットを計画し,本件立替払契約を
締結した上,架空の売主になってくれる訴外 F 機材との間で,被上告人クレジツト会社(原告・
被控訴人)から支払われた代金名下の金員をF機材が受領し,振込手数料等を控除した残金をD
に交付することを合意した。上告人(被告・控訴人で、当時 D の従業員)は,Eの依頼により,
H.8.12.6,本件保証契約を締結したが,その際,本件立替払契約における本件機械の売買契約が
存在しないことを知らなかった。 ・・・
「保証契約は,特定の主債務を保証する契約であるから,
主債務がいかなるものであるかは,保証契約の重要な内容である。そして,主債務が,商品を購
入する者がその代金の立替払を依頼しその立替金を分割して支払う立替払契約上の債務である場
合には,商品の売買契約の成立が立替払契約の前提となるから,商品売買契約の成否は,原則と
58
して,保証契約の重要な内容であると解するのが相当である。
【要旨】これを本件についてみると,上記の事実関係によれば,
(1) 本件立替払-契約は,被上告人において,DがF機材から購入する本件機械の代金をF機材
に立替払し,Dは,被上告人に対し,立替金及び手数料の合計額を分割して支払う,という形態
のものであり,本件保証契約は本件立替払契約に基づきDが被上告人に対して負担する債務につ
いて連帯して保証するものであるところ,
(2) 本件立替払契約はいわゆる空クレジット契約であって,本件機械の売買契約は存在せず,
(3) 上告人は,本件保証契約を締結した際,そのことを知らなかった,というのであるから,
本件保証契約における上告人の意思表示は法律行為の要素に錯誤があったものというべきであ
る。
本件立替払契約のようなクレジット契約が,その経済的な実質は金融上の便宜を供与するにあ
るということは,原判決の指摘するとおりである。しかし,主たる債務が実体のある正規のクレ
ジット契約によるものである場合と,空クレジットを利用することによって不正常な形で金融の
便益を得るものである場合とで,主債務者の信用に実際上差があることは否定できず,保証人に
とって,主債務がどちらの態様のものであるかにより,その負うべきリスクが異なってくるはず
であり,看過し得ない重要な相違があるといわざるをえない。まして,前記のように,1通の本
件契約書上に本件立替払契約と本件保証契約が併せ記載されている本件においては,連帯保証人
である上告人は,主債務者であるDが本件機械を買い受けて被上告人に対し分割金を支払う態様
の正規の立替払契約であることを当然の前提とし,これを本件保証契約の内容として意思表示を
したものであることは,一層明確であるといわなければならない。
以上によれば,上告人の本件保証契約の意思表示に要素の錯誤がないとした原審の判断には,
法令の解釈適用を誤った違法があり,この違法は判決に影響を及ぼすことが明らかである。論旨
は理由があり,原判決は破棄を免れず,被上告人の請求は理由がないから,第1審判決を取り消
した上,被上告人の請求を棄却すべきである。」
集民 206-707
判時 1805-56 判タ 1109-129 金判 1159-3 金法 1667-90
尾島茂樹・H14 重要判ジュリ 1246-61
野村豊弘・リマークス 28-14
新堂明子・北大法学論集 55-2-330 & 別冊ジュリ 200-48 松本恒雄・金法 1684-45
河津博史・銀行法務 617-83 & 630-60
原審:東京高裁 H.11.2.9 判・H 10(ネ) 2062 号
金判 1159-11
一審:東京地裁 H.10.2.23 判・H 8(ワ) 17240 号
判タ 1015-150
*尾島評釈:クレジット契約とリース契約は異なる目的を有する異なる法形式の契約であるが、
それらの空契約とその保証契約の錯誤との関係では、両者は極めて類似する。従って、本判決
の射程は、同様の事情が存在する空リース契約にも及ぶと考えられる。
*野村評釈:これまで、本件事案に類似するものとして、空リース契約におけるユーザーの連帯
保証人が空リースであることを知らなかった場合における、保証人の錯誤が問題となった裁判
例がいくつかあり、その結論は分かれている。①連帯保証契約の錯誤による無効を認めなかっ
た判決:本件の原原審判決、東京地裁 S.59.7.20 判・S58 (ワ)405 号・金判 716-26、仙台高裁
S.60.12.9 判・S58 (ネ)240 号・判時 1186-66、東京地裁 H.1.6.28 判・S62 (ワ)13942 号ほか・
判タ 719-168、東京地裁 H.2.5.16 判・S62(ワ)14542 号・判時 1363-98。 ②連帯保証契約の錯
誤による無効を認めた判決:広島高裁 H.5.6.11 判・H4 (ネ)245 号・判タ 835-204、仙台地裁
H.8.2.28 判・H5 (ワ)110 号・判タ 954-169。
本件最高裁判決が、主債務の内容が保証契約
の重要な要素であり、正規のクレジットか空のクレジットかは主債務者の信用に差異があると
して、保証人のその点に関する考慮が法律行為の要素になると認めているのは、妥当な考え方
であり、要素の錯誤一般に関する今後の判例の展開が注目される。 ⇔古田:架空環状取引に
おいても錯誤の抗弁は殆ど認められていなかったが、最近の[東京地裁 H23.5.12 判*]、
[東京
地裁 H.20.12.19 判*]
、
[大阪高裁 H.16.3.25 判*]
、
[大阪地裁 H.14.3.25 判*]は、売買契約
の錯誤無効を認めている。
59
[最高裁三小 H.14.9.24 判①*]
H12(受)1584 号 破産債権確定請求事件(破棄自判)
破産法 24 条・26 条、民法 351 条・372 条・502 条 1 項
債務者に対する破産宣告後に、物上保証人から届出債権の一部の弁済を受けた破産債権者が、
破産財団に対して権利を行使し得る範囲 ―破産法(平成 16 年改正前)24 条の趣旨に照らして
も、その届出債権全額を破産財団に対して権利行使し得る。
民集 56-7-1524 判時 1802-68 判タ 1106-76 金判 1161-3 金法 1664-74
石毛和夫・銀行法務 615-60 田原睦夫・金法 1684-64
徳田和幸・民商 131-2-87
田頭章一・H.14 重要判ジュリ 1246-133
佐藤鉄男・判例評論 532-18(C-③-26)
伊藤一夫・銀行法務 626-34
原審:大阪高裁 H.12.8.23 判・H12(ネ)1797 号 民集 56-7-1548 金法 1593-69
金判 1161-14
一審:京都地裁 H.12.4.20 判・H11(ワ)3062 号 民集 56-7-1546 金判 1161-16
*古田:改正前破産法 24 条は、全部義務者の全員又は数人が破産宣告を受けたときは、債権者は
破産宣告のときに有する債権の全額を、各破産財団に対して破産債権者として権利を行うこと
ができると規定しており、判旨はこれを類推して判決した。 H.16 改正の現行破産法 104 条は、
直接その趣旨に沿った規定をしている。
[最高裁三小 H.14.9.24 判②*]
H14(受)432 号 遺言無効確認請求事件(破棄)
民法 970 条 1 項 3 号
ワープロを操作して秘密証書遺言の遺言書の表紙及び本文を入力し印字した者が、民法 970 条
1 項 3 号にいう筆者であるとされた事例 ― 秘密証書による遺言は、遺言者が筆者を公証人と
証人の前で申述することが要件の一つであり、遺言者は自己が遺言書の筆者であると述べてはい
るが、ワープロを操作して入力・印字したのは遺言者以外の者であり、その者が筆者として申述
されていないので、本件遺言書は、民法 970 条 1 項 3 号所定の方式を欠き、無効である。
集民 207-269 判時 1800-31 判タ 1107-192 金判 1158-3 家裁月報 55-3-72
谷本誠司・銀行法務 617-72 & 630-51 千藤洋三・判例評論 533-18(C-③-27)
辻朗・民商 128-4・5-224
原審:東京高裁 H.13.11.28 判・H13(ネ)4167 号
判時 1780-104 金判 1158-13
一審:横浜地裁 H.13.7.4 判・H12(ワ)1654 号 金判 1158-19
[最高裁三小 H.14.9.24 判③*]
H14(受)605 号 損害賠償請求事件(棄却)
民法 634 条 2 項・635 条
建築請負の仕事の目的物である建物に重大な瑕疵があるためこれを建替えざるを得ない場合に、
注文者が請負人に対し建物の建替に要する費用相当額の損害賠償を、民法 6.35 条但書の規定に
拘わらず請求することができる
― 民法 635 条は、その但書において、建物その他土地の
工作物を目的とする請負契約については目的物の瑕疵によって契約を解除することができないと
した。しかし、請負人が建築した建物に重大な瑕疵があって建替えるほかはない場合に、当該建
物を収去することは社会経済的に大きな損失をもたらすものではなく(古田:もともと社会経済的
に無価値であるから)、また、その様な建物を建替えてこれに要する費用を請負人に負担させるこ
とは、契約の履行責任に応じた損害賠償責任を負担させるものであって、請負人にとって過酷で
あるともいえないのであるから、建替えに要する費用相当額の損害賠償請求をすることを認めて
も、同条但書の趣旨に反するものとはいえない。
集民 207-289 判時 1801-77 判タ 1106-85
半田吉信・判例評論 533-11(C-③-28)
三林宏・銀行法務 632-84 松本克美・法律時報 75-10-101 鹿野菜穂子・民商 131-2-133
原審:東京高裁 H.14.1.23 判・H13(ネ)4584 号
60
一審:横浜地裁小田原支部 H.14.1.23 判・H10(ワ)144 号
[最高裁一小 H.14.9.26 判*] H12(受)580 号 損害賠償請求事件(上告棄却)
特許法 66 条 1 項・68 条・4 条 2 節(権利侵害)・100 条、法例 11 条 1~2 項・33 条
米国特許法 283 条・284 条、民法 709 条
一、特許権の効力の準拠法 ― 特許権の効力の準拠法は、当該特許権が登録された国の法律で
ある。
二、特許権に基づく差止め及び廃棄請求の準拠法 ―特許権に基づく差止め及び廃棄請求の準拠
法は、当該特許権が登録された国の法律である。
三、米国特許法を適用して米国特許権の侵害を積極的に誘導する我が国内での行為の差止め又
は我が国内にある侵害品の廃棄を命ずることと法例33条にいう「公ノ秩序」 ― 米国特許
法を適用して、米国特許権の侵害を積極的に誘導する我が国内での行為の差止め又は我が国
内にある侵害品の廃棄を命ずることは、法例 33 条にいう「公ノ秩序」に反する。
四、特許権侵害を理由とする損害賠償請求の準拠法 ―特許権侵害を理由とする損害賠償請求の
準拠法は、法例 11 条 1 項による。
五、米国特許権の侵害を積極的に誘導する行為を我が国で行ったことを理由とする損害賠償請
求について法例11条1項にいう「原因タル事実ノ発生シタル地」が米国であるとされた事例
―米国で販売される米国特許権の侵害品を我が国から米国に輸出した者に対する、米国特許権の
侵害を積極的に誘導したことを理由とする損害賠償請求について、法例 11 条 1 項にいう「原因タ
ル事実ノ発生シタル地」は、米国である。
六、米国特許権の侵害を積極的に誘導する行為を我が国で行ったことと法例11条2項にいう
「外国ニ於テ発生シタル事実カ日本ノ法律ニ依レハ不法ナラサルトキ」 ― 米国特許権の侵害
を積極的に誘導する行為を我が国で行ったことは、法例 11 条 2 項にいう「外国ニ於テ発生シタル
事実カ日本ノ法律ニ依レハ不法ナラサルトキ」に当たる。
(
「五」につき意見、
「六」につき補足意見及び反対意見がある。
)
民集 56-7-1551 判時 1802-19 判タ 1107-80
渡辺惺之・リマークス 28-154
道垣正人・H.14 重要判ジュリ 1246-278
長谷川俊明・国際商事法務 31-2-265
木棚照一・民商 129-1-106
横溝大・法協 120-11-183 & 別冊ジュリ 209-200
島並良・別冊ジュリ 210-104
原審:東京高裁 H.12.1.27 判・H11(ネ)3059 号
民集 56-7-1600 判時 1711-131
判タ 1027-296
一審:東京地裁 H.11.4.22 判・H9(ワ)23109 号 民集 56-7-1575 判時 1691-131
判タ 1006-257
[最高裁一小 H.14.10.10 判*]
H14(受)240 号 供託金還付請求権確認及び
民法 467 条
譲受債権請求事件(棄却)
債権譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律 2 条 1 項・5 条 1 項、
債権譲渡登記規則(H.10 年法務省令 39 号)6 条 1 項、H.10 年法務省告示 295 号 3(1)・(5)
集合債権譲渡担保の登記につき発生年月日(始期)のみが記録された譲渡債権の対抗力
― ①.終期が記録されていない場合には、その債権譲渡登記に係わる譲渡債権が数日にわたっ
て発生した債権を目的とするものであったとしても、他にその債権譲渡登記中に始期当日以外の
日に発生した債権も譲渡の目的である旨の記録がない限り、債権の譲受け人は、その債権譲渡登
記をもって、始期当日以外の日に発生した債権の譲受を債務者以外の第三者に対抗することがで
きないものと解するのが相当である。 ②.債権の発生日が数日に及ぶときは始期の外に終期を記
録するなどしてその旨を明らかにすることを要すると解すべきである。
民集 56-8-1742 判時 1806-35 判タ 1109-134 金判 1163-28 金法 1665-54
61
浅井弘章・銀行法務 613-89 & 630-55 千葉恵美子・H.14 重要判ジュリ 1246-69
近江幸治・判例評論 536-25(C-③-31) 潮見佳男・リマークス 28-34
矢尾渉・ジュリ「最高裁時の判例Ⅱ」-159
中田裕康・法協 120-10-209
堀龍児・金法 1684-26
原審:東京高裁 H.13.11.13 判・H13(ネ)2016 号 民集 56-8-1771 高民集 54-2-119
判時 1777-63 金判 1130-11
一審:東京地裁 H.13.3.9 判・H12(ワ)7372 号 民集 56-8-1758 判時 1744-101 金判 1119-36
[最高裁二小 H.14.10.25 決定*]
H14(許)11 号 競売手続一部取消及び停止決定
民法 147 条・155 条
に対する抗告審の取消決定に対する許可抗告事件(棄却)
民訴法 110 条 1 項・111 条・113 条、民事執行法 45 条 2 項・188 条
物上保証人所有の不動産を目的とする競売の開始決定の債務者への送達が、債務者の所在が不
明であるため公示送達によりされた場合における被担保債権の消滅時効の中断(積極:掲示二
週間経過時点) ― ①.競売開始決定正本の債務者への送達が公示送達によりされた場合には、
民訴法 113 条の類推適用により、同法 111 条の規定による掲示を始めた日から二週間を経過した
時に、債務者に対し民法 155 条の通知がされたものとして、被担保債権について消滅時効の中断
の効力を生ずると解するのが相当である。 ②.民訴法 113 条は、相手方の所在が不明である場合
において、相手方に対する公示送達がされた書類に、その相手方に対し訴訟の目的である請求又
は防御の方法に関する意思表示をする旨の記載があるときに、その意思表示の実体法上の到達の
効力を認め、ほぼ同様の公示機能を有する民法 97 条の 2(現 98 条)所定の意思表示の手続を重
ねて執ることを要しないとして、表意者に二重の負担を掛けることを回避する旨の規定である。
民集 56-8-1942 判時 1808-65 判タ 1111-133 金判 1167-51 金法 1669-72
谷本誠司・銀行法務 618-49 山野目章夫・金法 1684-22 住友隆行・銀行法務 634-40
石松勉・判例評論 536-21(C-③-32) 原田剛・民商 130-4・5-213
原審:東京高裁 H.14.2.15 決定・H14(ラ)99 号
民集 56-8-1959
一審:横浜地裁小田原支部 H.13.12.17 決定・H13(ヲ)259 号
民集 56-8-1951
[東京高裁 H.14.11.19 判*] H14(ネ)4144 号 供託金還付請求権確認請求事件(控訴棄
破産法 74 条 1 項(現 164 条 1 項)
・72 条 1 号(現 160 条 1 項 1 号)
却・確定)
手形不渡等を停止条件とする債権譲渡契約が対抗要件否認の対象とはならないが、故意否認の
対象となるとされた事例 ― ①.件停止条件付債権譲渡契約の「債権譲渡の対抗要件については、
本件契約の時点で具備することができず、条件成就によって初めて可能となるものである以上、
本件契約の時点で対抗要件を具備することが可能であったことを前提とし、それから 15 日経過後
の譲渡通知であることを理由として、これを否認する旨の A の破産管財人の主張は、採用するこ
とができない。
」 ②.「本件契約は、A の手形不渡を停止条件として」A が他社に対して有する
売掛金債権を「債権譲渡するというものであるから、支払停止(手形不渡)という破産原因とな
る事実に債権譲渡の効力の発生を係らしめ、A が破産状態に至った場合に債権譲渡の通知をする
ことで他の債権者に先立って自己の債権の満足を得ようとする点において、債権担保の実質を有
するものであるにもかかわらず、予めこれを公示する手段もなく、その措置が講ぜられないので
あるから、このような方法によって自己の債権の満足を得ることが、他の債権者を害することと
なるものであることは、明らかである。そして、A においても本件契約当時その様な事情は当然
認識していたものと解されるから、
本件契約締結の時点で A が危機状態に至っていないとしても、
債権譲渡の効力が破産状態に至ってはじめて生ずることが予定されているものである以上、本件
契約は破産法 72 条 1 号にいう債権者を害することを知ってした行為に当たるというべきであり、
したがって、被控訴人(破産管財人)はこれに基づいて破産財団のために本件契約を否認し得る
と解すべきである。
」
62
判時 1834-43
西本強・銀行法務 628-61
一審:横浜地裁 H.14.7.11 判
高見進・判例評論 548-29(C-④-2)
[最高裁二小 H.15.1.31 決定*] H14(許)23 号不動産仮差押命令申立の却下決定に対する
民事保全法 13 条・20 条・21 条
抗告棄却決定に対する許可抗告事件(破棄・自判)
既に発せられた仮差押命令と同一の被保全債権に基づき異なる目的物に対し更に仮差押命令の
申立をすることの許否(積極) ―「特定の目的物について既に仮差押命令を得た債権者は、こ
れと異なる目的物について更に仮差押をしなければ、金銭債権の完全な弁済を受けるに足りる強
制執行をすることができなくなるおそれがあるとき、又はその強制執行をするのに著しい困難を
生ずるおそれがあるときには、既に発せられた仮差押命令と同一の被保全債権に基づき、異なる
目的物に対し、更に仮差押命令の申立をすることができる。
」
民集 57-1-74 判時 1812-84 判タ 1114-153 金判 1171-2 金法 1671-45
谷本誠司・銀行法務 619-66 山本克己・金法 1684-60(RF16) 笠井正俊・民商 132-2-80
清水宏・判例評論 538-22(C-③-33)
原審:福岡高裁:H.14.7.18 決定・H14(ラ)218 号
民集 57-1-86 金判 1171-11
一審:佐賀地裁 H.14.6.6 決定・H14(ヨ)31 号
民集 57-1-84 金判 1171-11
[最高裁一小 H.15.2.27 判*] H14(受)1100 号 損害賠償、商標権侵害差止等請求事件
民法 709 条、商標法 1 条・25 条・4 条 2 節(権利侵害)
(上告棄却)
フレッドベリー並行輸入事件
一、いわゆる並行輸入が商標権侵害としての違法性を欠く場合 ―商標権者以外の者が、我が国
における商標権の指定商品と同一の商品につき、その登録商標と同一の商標を付されたものを輸
入する行為は、 ①.当該商標が外国における商標権者又は当該商標権者から使用許諾を受けた者
により適法に付されたものであり、 ②.当該外国における商標権者と我が国の商標権者とが同一
人であるか又は法律的若しくは経済的に同一人と同視し得るような関係があることにより、当該
商標が我が国の登録商標と同一の出所を表示するものであって、
③.我が国の商標権者が直接
的に又は間接的に当該商品の品質管理を行い得る立場にあることから、当該商品と我が国の商標
権者が登録商標を付した商品とが当該登録商標の保証する品質において実質的に差異がないと評
価される場合には、いわゆる真正商品の並行輸入として、商標権侵害としての実質的違法性を欠
く。
二、外国における商標権者から商標の使用許諾を受けた者により我が国における登録商標と同
の商標を付された商品を輸入することが商標権侵害としての違法性を欠く場合に当たらない
とされた事例 ―外国における商標権者から商標の使用許諾を受けた者により我が国におけ
る登録商標と同一の商標を付された商品を輸入することは、被許諾者が、製造等を許諾する国を
制限し商標権者の同意のない下請製造を制限する旨の使用許諾契約に定められた条項に違反して、
商標権者の同意なく、許諾されていない国にある工場に下請製造させ商標を付したなど判示の事
情の下においては、いわゆる真正商品の並行輸入として商標権侵害としての違法性を欠く場合に
当たらない。
民集 57-2-125 判時 1817-33 判タ 1117-216 金判 1185-35
鈴木将文・H.15 重要判ジュリ 1269-264
渋谷達紀・民商 129-4・5-230
宮脇正晴・別冊ジュリ 188-72
大友信秀・別冊ジュリ 210-108
原審:大阪高裁 H.14.3.29 判・H13(ネ)425 号
民集 57-2-185
一審:大阪地裁 H.12.12.21 判・H9()8480 号他
民集 57-2-144 判タ 1063-248
[松山地裁 H.15.5.22 判*]H12(ワ)757 号 雇用契約関係確認等請求事件(請求棄却・控訴)
63
労働者派遣法 2 条 5 号・26 条 7 項・40 条の 2、職業安定法 44 条、民法 1 条 3 項
派遣契約の打切りによる派遣先会社での雇止めが有効とされた事例 ― 期間の定め或る登録型
(派遣)雇用契約が約 13 年 3 ケ月間、27 回にわたり更新を重ねてきたケースについて、労働者
は雇用継続について強い期待を抱いてきたとしつつ、労働者派遣法が派遣労働者の雇用の安定だ
けでなく、常用代替の防止をも立法目的としていることからすれば、同一就業場所への派遣によ
る雇用継続に対する期待は合理性を有さず、派遣契約が期間満了により終了した事情は、当該雇
用契約が終了となってもやむを得ない合理的な理由に当るとした。また、派遣元企業は、社会的
実体のある企業であり、原告の就業条件や採用の決定、賃金の支払は全て派遣元企業において行
っていることから、派遣先企業と労働者の間に黙示の労働契約が成立したとは認められない。
労働判例 856-45
吉田肇・民商 131-4・5-201
[東京地裁 H.15.5.23 判*]
H14(ワ)1504 号 請求異議事件(請求棄却・確定)
民法 295 条
根抵当不動産の売買契約を解除した買主の代金返還請求権を被担保債権とする抵当不動産競落
人に対する留置権 ― ①.「本件におけるような解除による売買代金返還請求権や損害賠償請求
権は、もともと買主が有する直接物自体の給付を目的とする債権がその態様を変じたものであり、
元の債権は、物の留置により間接的に債務の履行を強制するという関係にないのである。
」
②.「買主である債権者は、そもそも、物の価値を増したとか物から損害を受けたというより
も、むしろ債務者の債務不履行等の解除原因によって債務者に不当利得をもたらしたとか債務者
から損害を受けたというべきである。そのように解しないと、二重譲渡の場合を典型例とする対
抗関係の場面においても、本来劣後する者が本来優先する者に対して留置権を行使することがで
きることになり、実質的に民法 177 条の制度に反する結果になってしまう。
」
金法 1702-77
清水元・リマークス 32-18
*清水評釈:民法 295 条の留置権について、売買契約より生じる代金債権と売買目的物との間に
は牽連性があるとするのが最高裁をはじめ従来からの判例・通説の立場であった。しかし、本判
決のように、近時の下級審裁判例では、第三者との関係において、これに一定の制限を加えよう
とする見方が登場している。
[東京高裁 H.15.7.31 判*] H15(ネ)145 号 留置権存在確認請求事件(控訴棄却・確定)
民法 295 条 1 項
売買契約の合意解除による売買代金返還請求権及び違約金請求権は、売買目的物に関して生じ
た債権ではないから、その目的物に対する留置権は認められないとされた事例 ― ①.「控訴
人は、
・・・本件売買契約解除に基づく売買代金返還請求権及び違約金請求権を被担保債権とする
留置権が本件土地建物について成立すると主張する。 民法 295 条の留置権は、他人の物の占有
者が『その物に関して生じた債権』を有する場合に成立するところ、その物自体を目的とする債
権である場合には、債権者は権利の内容である行為を物に対して行使することにより直接に弁済
を受けることができるものであり、目的物を留置することによりその弁済を担保する問題を生じ
ないから『その物に関して生じた債権』ということはできない。・・・これを本件についてみる
と、
・・・原債権は、本件売買契約による本件土地建物の所有権移転請求権(実質は所有権移転登
記請求権)であって、本件土地建物自体を目的とする債権であるから、本件土地建物の所有権移
転義務の履行を直接求めることができ、本件土地建物を留置することにより間接に本件土地建物
の所有権移転義務の履行を強制するという関係にない。そして、控訴人が主張する売買代金返還
請求権は、本件土地建物自体を目的とする原債権がその態様を変じたものであり(古田:売主の債
務不履行による本件売買契約の合意解除による)、売買代金返還請求権は本件土地建物に関して生じ
た債権ということはできない(最高裁一小 S43.11.21 判・民集 22-12-2765 参照)。
」 留置権を否
認。 ②.「さらに、控訴人が主張する違約金請求権は、本件土地建物から生じた債権ではなく、
64
売主の行為(債務不履行)によって生じた債権であるから、本件土地建物に関して生じた債権と
いうことはできない。留置権を否認。
判時 1830-37
田高寛貴・法学セミナー616-82
一審:東京地裁 H.14.11.29 判・H14(ワ)6376 号
判時 1830-40
[最高裁二小 H.15.10.10 判*]H13(受)1709 号 解雇予告手当等請求本訴、損害賠償請求反訴、
労働基準法(H.10 改正前)89 条・106 条、
損害賠償請求事件(破棄差戻)
労働基準法(現行)93 条、民法 709 条、商法 266 条の 3
一、使用者による労働者の懲戒と就業規則の懲戒に関する定めの要否 ― 使用者が労働者を懲
戒するには,あらかじめ就業規則において懲戒の種別及び事由を定めておくことを要する。
二、就業規則に拘束力を生ずるための要件 ― 就業規則が法的規範として拘束力を生ずるため
には,その内容を適用を受ける事業場の労働者に周知させる手続が採られていることを要する。
集民 211-1 判時 1840-144 判タ 1138-71 労判 861-5
山崎文雄・H.15 重要判ジュリ 1269-218
梶川敦子・民商 130-4・5-291
原審:大阪高裁 H.13.5.31 判・H12(ネ)2113 号 労働経済判例速報 1859-6
一審:大阪地裁 H.12.4.28 判・H6(ワ)487 号他 労働経済判例速報 1859-10
[最高裁二小 H.15.10.31 判*] H12(受)1589 号 抵当権設定登記抹消手続請求事件
民法 144 条・145 条・162 条・177 条・397 条
(破棄自判)
取得時効の援用により不動産の所有権を取得してその旨の登記を有する者が、当該取得時効の
完成後に設定された抵当権者に対抗するため、その設定登記時を起算点とする再度の取得時効
を援用することの可否(消極) ― 既に時効の援用により確定的に所有権取得しているので、
時効の起算点を後にずらせて、再度取得時効の完成を主張してこれを援用することはできない。
集民 211-313 判時 1846-7 判タ 1141-139 金判 1191-28 金法 1701-60
松久三四彦・金法 1716-30
辻伸行・判例評論・548-21(C-④-3)
岡本詔冶・民商 131-2-138 谷本誠司・銀行法務 632-65
岡田愛・法律時報 77-2-112
草野元巳・銀行法務 642-83
原審:広島高裁松江支部 H.12.9.8 判・H12(ネ)44 号
金判 1191-35
一審:鳥取地裁米子支部 H.12.3.27 判・H11(ワ)131 号
金判 1191-36
[最高裁三小 H.15.12.9 判*]H14(受)218 号・保険金請求事件(破棄自判)
商法 629 条、民法 415 条・709 条・710 条、保険募集の取締に関する法律 11 条 1 項
一、 火災保険契約の申込者が同契約に附帯して地震保険契約を締結するか否かの意思決定を
するに当たり保険会社側からの地震保険の内容等に関する情報の提供や説明に不十分,不
適切な点があったことを理由とする慰謝料請求の可否 ― 火災保険契約の申込者は,特段
の事情が存しない限り,同契約に附帯して地震保険契約を締結するか否かの意思決定をするに当
たり保険会社側からの地震保険の内容等に関する情報の提供や説明に不十分,不適切な点があっ
たことを理由として,慰謝料を請求することはできない。
二、火災保険契約の申込者が同契約に附帯して地震保険契約を締結するか否かの意思決定をす
るに当たり保険会社側からの地震保険の内容等に関する情報の提供や説明に不十分な点があ
ったとしても慰謝料請求権の発生を肯認し得る違法行為と評価すべき特段の事情が存するも
のとはいえないとされた事例 ― 火災保険契約の申込者が,同契約を締結するに当たり,
同契約に附帯して地震保険契約を締結するか否かの意思決定をする場合において,火災保険契約
の申込書には「地震保険は申し込みません」との記載のある欄が設けられ,申込者が地震保険に
加入しない場合にはこの欄に押印をすることとされていること,当該申込者が上記欄に自らの意
65
思に基づき押印をしたこと,保険会社が当該申込者に対し地震保険の内容等について意図的にこ
れを秘匿したという事実はないことなど判示の事情の下においては,保険会社側に,火災保険契
約の申込者に対する地震保険の内容等に関する情報の提供や説明において不十分な点があったと
しても,慰謝料請求権の発生を肯認し得る違法行為と評価すべき特段の事情が存するものとはい
えない。
民集 57-11-1887 判時 1849-93 判タ 1143-243 金判 1202-11
西本強・銀行法務 633-79
黒木松男・別冊ジュリ 202-16
原審:大阪高裁 H.13.10.31 判・H12(ネ)2181 号 民集 57-11-2057 判時 1782-124
一審:神戸地裁 H.12.4.25 判・H7(ワ)1703 号 民集 57-11-1930
[最高裁一小 H.15.12.11 判*]H12(受)485 号 保険金請求事件(上告棄却)
商法 663 条・683 条 1 項、民法 91 条・166 条 1 項
一、生命保険契約において被保険者の死亡の日の翌日を死亡保険金請求権の消滅時効の起算点
とする旨を定めている保険約款の解釈 ―生命保険契約に係る保険約款中の被保険者の死亡
の日の翌日を死亡保険金請求権の消滅時効の起算点とする旨の定めは、
「本件消滅時効にも適用さ
れる民法 166 条 1 項が、消滅時効の起算点を「権利を行使することを得る時」と定めており、単
にその権利行使について法律上の障害がないというだけでなく、さらに権利の性質上、その権利
行使が現実に期待することができるようになった時から消滅時効が進行するというのが同項の趣
旨であること(
[最高裁大法廷 S.45.7.15 判]参照)にかんがみると、
」 当時の客観的状況等に
照らし、上記死亡の時からの保険金請求権の行使が現実に期待することができないような特段の
事情が存する場合には、
「その権利行使が現実に期待することができるようになった時以降におい
て消滅時効が進行する趣旨と解すべきである。
」
二、生命保険契約に係る保険約款が被保険者の死亡の日の翌日を死亡保険金請求権の消滅時効
の起算点とする旨を定めている場合であっても上記消滅時効は被保険者の遺体が発見される
までの間は進行しないとされた事例 ― 生命保険契約に係る保険約款が被保険者の死亡の
日の翌日を死亡保険金請求権の消滅時効の起算点とする旨を定めている場合であっても、被保険
者が自動車を運転して外出したまま帰宅せず、その行方,消息については何の手掛かりもなく、
その生死も不明であったが、行方不明になってから3年以上経過してから、峠の展望台の下方約
120mの雑木林の中で、自動車と共に白骨化した遺体となって発見されたなど判示の事実関係の下
では、上記消滅時効は、被保険者の遺体が発見されるまでの間は進行しない。
民集 57-11-2196 判時 1846-106 判タ 1143-253 金法 1703-44 金判 1194-10
大澤康孝・H.15 重要判ジュリ 1269-119
吉井敦子・別冊ジュリ 202-178
坂口光男・判例評論 546-29 森義之・ジュリ 1270-181 高橋彩子・損保研究 70-4-115
出口正義・民商 131-1-40
松本克美・法律時報 76-12-89
原審:東京高裁 H.12.1.20 判・H11(ネ)3559 号
判時 1714-143 判タ 1046-246
金判 1099-18
一審:東京地裁 H.11.5.17 判・H.8(ワ)21815 号
判時 1714-146 金判 1099-21
*松本評釈:本判決は、権利行使の現実の期待可能性がない場合にまで、時効を進行させるべき
でないという出発点を明確にし、これを「特段の事情」論として整理することによって、画一
的な起算点論の呪縛から時効進行論の展開へと大きく一歩を踏み出した判決と捉えたい。
*古田:消滅時効の起算点を規定する民法 166 条 1 項にいう「権利を行使することを得る時」を、
通説は権利行使につき法律上の障害がなくなつたことを意味し、事実上の障害は消滅時効の進
行を妨げないと解している(我妻栄「民法総則」
(民法講義Ⅰ)484 頁など)
。
他方、判例は[最高裁大法廷 S.45.7.15 判]以降[最高裁三小 H.8.3.5 判*]
・[最高裁三小
H.13.11.27 判②]及び本件判決と、法律上の障害のみに限定しない判例理論を上記のとおり確
立してきている。
*:時効・除斥期間の起算点に関する主要判決例の概要は[東京高裁 H.25.10.31 判*]の末尾コ
66
メントを参照。
[東京地裁 H.15.12.16 判*] H15(ワ)16666 号 取立債権請求事件(請求棄却・控訴)
民法 147 条・149 条~156 条
債権に対する仮差押は、被差押債権の消滅時効を中断するか(消極) ― 民法 147 条 2 号にお
いて「差押および仮差押」が時効中断事由とされているのは、消滅時効の対象となる債権の権利
者(債権者)によって当該債権につき明確な権利行使がされたため、消滅時効の基礎となる事実
状態の継続がいわば破られたことになるからであり、そこで時効中断の対象となる権利として想
定されているのは、当該差押および仮差押に係る請求債権(執行債権および被保全債権)であっ
て、仮差押債務者の第三債務者に対する被差押債権ではないから、仮差押によっても被差押債権
についての消滅時効は中断しないというべきである。
金判 1183-36
*古田:
[東京高裁 H.25.4.18 判*]も同旨である。 債権者 A が債務者 B の第三者 C に対する
債権を仮差押すれば、それは A の債務者 B に対する権利行使(請求)であるから、A の B に対
する債権の消滅時効は中断するが、C の B に対する債務については、当該仮差押は債権者 B に
よる債務者 C に対する権利行使でないから A が仮差押した B の C に対する債権の消滅時効期
間は進行を続けることになる。債権回収ないし保全業務で留意しておくべき事項である。
[最高裁二小 H.16.2.20 判*]
H14(受)399 号 預託金返還請求事件(破毀差戻)
商法 17 条・26 条 1 項(現 16 条 1 項)
ゴルフ場の営業の譲受人が譲渡人の用いていた預託金会員制のゴルフクラブの名称の継続使用
している場合における譲受人の預託金返還義務の有無 – 預託金会員制のゴルフクラブの名称
がゴルフ場の営業主体を表示するものとして用いられている場合において、ゴルフ場の営業の譲
渡がされ、譲渡人が用いていたゴルフクラブの名称を譲受人が継続して使用しているときには、
譲受人が譲受後遅滞なく当該ゴルフクラブの会員によるゴルフ場施設の優先的利用を拒否したな
どの特段の事情がない限り、譲受人は、商法 26 条 1 項の類推適用により、会員が譲渡人に交付し
た預託金の返還義務を負う。
民集 58-2-367 判時 1855-141 判タ 1148-180 金判 1195-30 金法 1710-49 商判集三-24
谷本誠司・銀行法務 635-48 岸田雅雄・別冊ジュリ 194-44
浅木慎一・判例評論 551-32 小林量・民商 131-6-142
得津晶・法協 124-5-233
原審:大阪高裁 H.13.12.7 判・H13(ネ)2776 号
民集 58-2-376 金判 1195-34
一審:神戸地裁 H.13.7.18 判・H13(ワ)235 号
民集 58-2-372 金判 1195-35
[大阪高裁 H.16.3.25 判*]H15(ネ)1985 号 不当利得返還請求控訴事件(原判決変更・
民法 703 条
請求容認)
中間介入業者である売主と買主間で、売買契約の代金を支払った買主が、商品の不存在による
売買契約の原始的不能を理由に同代金の不当利得返還を売主に訴求し、是認された事例
[事案の概要] 本件は,控訴人,被控訴人とも中間介入業者としていわゆる介入取引に関与し
たものであるところ,商品の買主である控訴人が,売主である被控訴人に対し,代金を支払った
が,実際には商品が存在せず,商品が存在するとしてもその引渡しがないと主張して,主位的に
商品の不存在を理由とする売買契約の原始的無効による不当利得金返還請求権に基づき,
既払代金6679万2162円の支払を求めた事案である。
本件取引は次の流れになっていたが、本件商品αと本件商品β自体は最初の売主 G ないし E か
ら直接 A に引渡されることになっていた。
取引の流れ:商品αは、G→D 商事→被控訴人→控訴人→A /
67
商品βは、E→I 産業→被控訴人→控訴人→H 商事→A。
原判決は,本件商品は存在しなかったものと推認されるが,買主(原告・控訴人)が売主(被
告・被控訴人)に対し売買契約の無効等を主張して売買代金の返還を求めることは信義則に反す
るとして,原告(買主)の請求を棄却した。買主が控訴。
[判示要旨]
一、「本件商品の存在及び引渡しの有無について
(1) 売主と買主との間で既に売買につき
合意が成立しているが,その中間に商社等が介入するいわゆる介入取引といわれるものには,大
別すると,次の2種類がある。すなわち,①売買の対象となる商品が現実に存在し,売主と買主
との間で既に売買契約の条件は確定しているが,売主が早期に確実に売買代金を入手するために,
買主が代金支払の時期を遅らせるために,あるいは,売主と買主との間においては取引枠(予信
枠)の関係で直接の取引ができないために,中間に商社等を介入させるもの,
②商品が存在せず,あるいは商品が存在しても,その引渡しがされることは予定しておらず,
本来であれば消費貸借とすべきところ,会社の稟議等の関係で売買という形式を採ったにすぎず,
専ら資金融通のためのものがある(この①②の二種類は典型例であり,例えば,当初は①の売買
であったが,次第に商品の引渡しが軽視され,②に移行していく場合など,中間的なものも存在
する。
)
。前者①は通し取引,後者は金融取引などといわれている。
②のいわゆる金融取引については,専ら資金融通のために売買の形式を採ったにすぎず,商品
の引渡しがされることは予定されていないのであるから,それを前提として取引に関与した者は,
商品が存在しないことや引渡しがされていないことを理由として売買契約の無効等を主張するこ
とは,信義則上許されないと解することはできるが,①のいわゆる通し取引の場合は,商品の引
渡しが予定されており,それが最初の売主から最終買主に直接引き渡される点で特殊性を有して
いるにすぎず,通常の売買と何ら異なるものではないのであるから,買主は売主に対し,自己又
は最終買主に対し商品の引渡しを求めることができ,商品が存在しない場合には売買契約は無効
になると解される。
(2) 本件は,控訴人,被控訴人とも,専ら取引枠の関係で介入したものであり,①のいわゆる
通し取引であるとの前提で本件契約を締結したものである。
・・・商品が実在し,引渡しがされる
という前提で本件契約を締結したことは明らかであるし,被控訴人においても,担当者のFが,
本件契約締結当時,本件商品が存在し,正常な売買取引であると考えていたことを原審における
証人尋問で証言しているところである。 しかるに,Aの破産後,Aの在庫商品の中には,本件
商品α及び本件商品βのいずれも発見されておらず,控訴人の・・・調査によっても,本件商品
を見つけることができなかったのであり,本件全証拠によっても,本件商品の所在は明らかでは
ないのであるから,当初から本件商品は存在せず,最終買主をAとする本件商品の取引は,実質
的にはAやその関連会社であるGやEの資金融通のためであったものと推認することができ,そ
の推認を左右するに足りる証拠はない。
そうすると,控訴人と被控訴人間の本件契約は,存在しない商品を目的とした売買契約であり,
当初から無効であったということができる。もっとも,本件商品は不特定物ではあるが,本件契
約当時から本件口頭弁論終結日に至るまで,不特定物としてもおよそ存在していたと認めるに足
りる証拠はない。
本件引渡擬制合意の成否については、当裁判所も,控訴人と被控訴人間において,書類の授受
のみをもって目的物の引渡しに代える旨の本件引渡擬制合意がされたと認めることはできないと
判断する。その理由は,原判決11頁13行目から17行目までに記載のとおりであるから,こ
れを引用する。
」
二、
「信義則違反の有無について
(1) 被控訴人は,控訴人が被控訴人に対し本件契約の無
効等を主張して支払った売買代金の返還を求めることが信義則に反し許されない旨主張し,原判
決はそれを認め,控訴人の請求を排斥した。
原判決は,控訴人の本件契約の無効等の主張を信義則に反し許されないとした理由として,
①控訴人は,被控訴人に対し,取引に際し,一度も連絡を取らず,売買の目的物である商品の
存在や引渡しのみならず,商品の内容,数量等,通常の売買であれば,当然確認すべき事柄を確
68
認しないで,被控訴人に対し本件商品代金を支払ったこと,
②控訴人は,本件商品について何ら関心を示しておらず,控訴人は本件商品が最終買主のAに
引き渡されることに独自の利益を有していないこと,
③控訴人は,B(A の代表取締役)から本件取引の依頼を受け,Aの支払能力を信頼し,これ
に応じたものであること,
④控訴人及びH商事がAの倒産により支払を受けられなかった点を除くと,関係者の間におい
て全ての取引の決済が完了しているのに,控訴人に本件契約の原始的不能又は解除の主張を認め
ることは,他の関係者にも同様の主張を認めることになり,既に決済済みの法律関係を混乱させ
ること,
⑤被控訴人は,控訴人に対し,本件契約に関して,格別働きかけをしておらず,欺罔行為等も
行っておらず,被控訴人がBを通じて又はBとともに控訴人に対し,被控訴人が負担すべきであ
った破綻リスクを負わせたとまで認めるに足りる証拠がないことを挙げる。
(2) しかしながら,上記諸点は,控訴人が被控訴人に対し本件契約の無効等を主張して支払っ
た売買代金の返還を求めることを信義則に反するとして排斥するような事情とは解されない。
ア まず,上記①の点について検討するに,本件取引の経緯は,次のとおりである。Aと被控
訴人は,Aが売主から商品を買い受けるにつき,被控訴人が中間に介入する取引を継続していた
が,被控訴人では平成12年からAとの取引枠を5億円に減額したため,Aにおいて,新たな介
入業者を探す必要が生じ,H商事に依頼し,売主から,被控訴人,H商事を経て,Aが買い受け
る取引を始めた。しかし,H商事についても,取引枠の関係でAとの取引額が制限されていたた
め,Bは,控訴人の営業部マネージャーであるCに依頼し,控訴人が本件取引に関与することと
なった。控訴人が関与した本件取引については,本件商品αは,G,D商事,被控訴人,控訴人
を経てAが買い受け,本件商品βは,E,I産業,被控訴人,控訴人,H商事を経て,Aが買い
受けるというものであり,本件商品は,売主のGやEから直接Aに引き渡されることになってい
た。被控訴人は,自己への売主から請求書の送付を受けると,本件商品はAに納入済であると理
解し,請求書と出荷案内書を作成して控訴人に送付していた。
以上の経緯からすると,C(控訴人買主の営業部マネジャー)において,被控訴人に対し,売
買の目的物である本件商品の存在や引渡し等を確認することなく,本件商品代金を支払ったこと
につき,過失があったということがいえるにしても,同様の過失は被控訴人についてもあったの
であり,Cの上記過失をもって,控訴人が被控訴人に対し本件契約の無効等を主張することが信
義則に反するとして排斥できるものではない。
イ 上記②及び③の控訴人において本件商品がAに引き渡されることにつき独自の利益を有し
ていない点や,控訴人がBから本件取引の依頼を受け,Aの支払能力を信頼し,これに応じたと
いう点については,売買契約においては,商品の存在・引渡しは,代金回収のためにも重要な意
義を有するのであり,本件商品がAに引き渡されることにつき控訴人も利益を有しているといえ
るし,商品が存在せず,引渡しがされていない以上,控訴人がいかにAの支払能力を信頼して本
件取引をしたとしても,売主に対し支払った商品代金の返還を求めることができるのは当然のこ
とである。
ウ 上記④の関係者の間において全ての取引の決済が完了しているのに,控訴人に契約の原始的
不能又は解除の主張を認めることは,他の関係者にも同様の主張を認めることになり,既に決済
済みの法律関係を混乱させる点については,売買の目的物たる商品が存在せず,引渡しがされて
いない以上,それに即した法的解決が図られるべきであって,既に関係者間で代金決済が全て完
了していることは,何ら本件契約の無効等を主張する妨げとなるものではない。
エ 上記⑤の被控訴人が控訴人に対し本件契約に関して格別働きかけをしておらず,欺罔行為
等も行っていない点については,控訴人は被控訴人に対し不法行為による損害賠償請求をしてい
るのではなく,支払った売買代金の返還を求めているにすぎないのであるから,その返還請求を
信義則に反するとして排斥するような事情とは解されない。
オ 改めて本件全証拠を検討しても,控訴人が被控訴人に対し,本件契約の無効を主張して売
買代金の返還を求めることが信義則に反し許されないと解すべき事情を認めることはできない。
69
三、
「以上のとおり,控訴人の不当利得返還請求に基づき 6,679 万 2,162 円及びこれに対する訴
状送達の日の翌日である H.13.10.12 から支払済みまでの遅延損害金の支払を求める請求は,理由
がある(ただし,遅延損害金について,控訴人は商事法定利率年6分の割合によって請求してい
るが,不当利得による返還請求が商行為とは解されないので,民法所定年5分の割合による遅延
損害金を求める限度で理由がある。
)
。
」
判決文:大阪高裁第 5 民事部(裁判長 太田幸夫、裁判官 大島眞一・細島秀勝)の判決であ
るが、公刊誌掲載は見当たらない。裁判所 HP の「検索条件指定画面」の「下級裁判
所判例集」をクリツクして入力すれば出てくる。
一審:大阪地裁判決・H13(ワ)10310 号
*古田①:介入取引は、リーデイングケースである[大阪地裁 S.47.3.27 判*]によれば、
「つけ
売買」とも言われ、
「既に成立した売買契約の売主と買主との間に、主に売主の要請で一流商社
が介入し、商品は当初の売買契約どおり売主から直接買主に引渡すが(通し取引)、取引の形態
としては、商社が売主から売買の目的となった商品を一旦買上げてこれを買主に転売する形式
をとるもの」である。これにより売主にとっては、買主の手形よりも支払期日が早く割引も受
けやすい一流商社の手形取得で、資金繰りの便宜を得られることになる。他方、商社としては
労せずして口銭を得る等の利益を受けることになる。」
しかし、信用力の乏しい売主を中心として成立する売買であるから、商社が目的商品が存在
すると誤信し、架空売買に結びつくケースが多い。
環状取引とは、
[大阪高裁 H.10.2.13 判*]によれば、
「最初の売主が自らの資金繰や帳簿上
の在庫調整等のため、複数の商社等を順次介入させた上、最終的には自らが買主となって、介
入取引の円環が形成される取引のことである。この取引においては、取引を計画する最初の売
主の目的が資金繰りや帳簿上の在庫調整であるところから、取引の参加者が合意の上で、商品
の受渡を省略して伝票等の授受のみで取引を行い、最初の売主と最後の買主が一致して円環が
形成されたときに受渡が全て完了したものとする処理であり、商品の現実の受渡の必要性が乏
しいことから、環状取引であることを知って取引に参加する者の間では、明示的に、そうでな
いとしても黙示的に右のような処理をする旨の合意をするのがむしろ一般であると考えられ
る。
」とされている。そこにおいて取引される商品は、特定物か種類物かは問われず、その存在
すら問題とならない「架空環状取引」であることもあり、目的物が存在する場合でも、目的物
となる商品が始めから動くことはなく(最初の売主と最後の買主が同一であるから)その点が
介入取引との差異である(中谷崇・横浜国際経済法学 15-3-124)
。
*古田②:裁判例は、リーデイングケースである[大阪地裁 S.47.3.27 判*]以降、介入業者の
物品の有無の認識による錯誤無効を認めず、あるいは信義則上それを理由とする介入業者の売
買契約の無効を認めない判決を、下記の通り繰返してきた。
これに対し、
[大阪地裁 H.14.3.25 判*]は架空環状取引とは知らずに介入した業者の売買契
約の錯誤無効を判示し、本件大阪高裁 H.16 判は、介入取引についての判断を更に具体的に判
示要旨一の(1)で示し、①専ら資金融資のためであるときは、それは「売買の形式を採ったに過
ぎず、商品が引渡されることは予定されていないのであるから、それを前提として取引に関与
した者は、商品が存在しないことや引渡がされていないことを理由として売買契約の無効等を
主張することは、信義則上許されないと解することはできるが、②いわゆる通し取引の場合は、
商品の引渡が予定されており、それが最初の売主から最終買主に引渡される点で特殊性を有し
ているに過ぎず、通常の売買と何ら異なるものではないのであるから、買主は売主に対し、自
己又は最終買主に対し商品の引渡を求めることができ、商品が存在しない場合には売買契約は
無効になると解される。
」と、法的解釈を明示している。 この②の法的解釈は、空クレジツト
とは知らずにした債務の保証に要素の錯誤を判示した[最高裁一小 H.14.7.11 判*]の判旨と
共通しており、以降の裁判例に影響を与えて行くことになろうと思われる。現に、その後の[東
京地裁 H.20.12.19 判*]や「東京地裁 H.23.5.12 判*」は同旨の判示をしている。
*古田③: ちなみに、リーディングケース[大阪地裁 S.47.3.27 判*]以降の[大阪地裁 H.14.3.25
判*]以前の裁判例は、錯誤無効の主張を動機の錯誤に止まりあるいは信義則違反、同時履行
70
の抗弁を権利濫用と判示している。裁判所名及び判決年月日にアンダーライン表示の判決例は、
松村一成・判タ 1297-61~66 に事案と裁判所の判断の要旨が載っている。
[大阪地裁 S.47.3.27 判*]
、東京地裁 S.54.4.16 判・S51(ワ)70034 号・判タ 388-53、
[大阪
地裁 S.59.9.27 判*]
、大阪地裁 S.60.1.24 判・S57(ワ)4811 号・判タ 552-194、東京地裁 H.1.1.30
判・S60(ワ)4784 号ほか・判タ 714-201、東京地裁 H.2.5.22 判・S60(ワ)4719 号ほか・判時 1388-58、
[東京地裁 H.2.8.28 判*]
、東京地裁 H.5.3.22 判・H3(ワ)70364 号・判タ 845-260、
[大阪高
裁 H.10.2.13 判*]、東京地裁 H.10.5.14 判・H8(ワ)23101 号・判タ 1002-206、東京地裁
H.10.10.13 判・H9(ワ)5748 号・判タ 1006-212、 東京高裁 H.11.8.30 判・H11(ネ)3243 号・
金判 1083-21、名古屋高裁 H.12.12.7 判・H12(ネ)616 号・金判 1121-28 以上である。
[東京地裁 H.16.3.25 判*] H15(ワ)23534 号 取立債権請求事件(認容・控訴後和解)
民法 304 条 1 項・372 条・505 条・511 条、民事執行法 145・193 条
物上代位による差押と、将来の賃料債権を受働債権とする相殺 との優劣 ― 「抵当権者が
物上代位権を行使して賃料債権の差押をする以前において、抵当不動産の賃借人が、抵当権設定
登記がされた後に賃貸人に対して取得した債権を自働債権とし、将来の賃料債権を受働債権とし
てした相殺の意思表示をもって、当該差押命令送達後に本来の支払期日が到来する賃料債権につ
いて抵当権者に対抗することはできない([最高裁三小 H.13.3.13 判②*])
。
金法 1715-98
谷本誠司・銀行法務 638-54
徳野剛・法律時報 78-2-95
小川雅敏・判タ 1184-36
*谷本評釈:本件は[最高裁三小 H.13.3.13 判②*]に従った判断を下しているが、これが敷金
返還請求権の場合には[最高裁一小 H.14.3.28 判*]は「敷金契約が締結された場合は、賃料
債権は敷金の充当を予定した債権になり、このことを抵当権者に主張することができる」と判
示している。
*徳野評釈:本判決は、
[最高裁大法廷 S.45.6.24 判①*]から物上代位による差押と相殺の優
劣の問題を直ちに導くことはできないとするようだが、同判決を考慮し、尊重して判断すべき
であろう。相殺には、担保的機能を有することは当然であり、自力救済の機能をも有している。
物上代位を絶対的に優先する結果は利益衡量的にも問題がある。
相殺の優先を原則としながら、悪質な賃借人の債権や牽連性のない債権による相殺、執行妨
害への対処は、相殺権濫用の法理で解決すべきである。本判決は、相殺予約の効力をも制限し
ている。抵当権設定登記後に取得した債権であっても物上代位の差押前に相殺の意思表示がな
された場合は、相殺予約を優先させるべきである。本判決には賛成しかねる。
[最高裁三小 H.16.4.27 判*]H13(受)1760 号 筑豊じん肺国賠訴訟(上告棄却)
国家賠償法 1 条 1 項、鉱山保安法 1 条、じん肺法 2 条、民法 724 条
一、通商産業大臣が石炭鉱山におけるじん肺発生防止のための鉱山保安法上の保安規制の権限を
行使しなかったことが国家賠償法1条1項の適用上違法となるとされた事例
二、民法 724 条後段所定の除斥期間 20 年の起算点「不法行為の時」を、「加害行為時」と解すべ
き場合と「損害発生時」と解すべき場合
[判示要旨]
一、炭鉱で粉じん作業に従事した労働者が粉じんの吸入によりじん肺にり患した場合において,
炭鉱労働者のじん肺り患の深刻な実情及びじん肺に関する医学的知見の変遷を踏まえて,じん肺
を炭じん等の鉱物性粉じんの吸入によって生じたものを広く含むものとして定義し,これを施策
の対象とするじん肺法が成立したこと,そのころまでには,さく岩機の湿式型化によりじん肺の
発生の原因となる粉じんの発生を著しく抑制することができるとの工学的知見が明らかとなって
おり,金属鉱山と同様に,すべての石炭鉱山におけるさく岩機の湿式型化を図ることに特段の障
害はなかったのに,同法成立の時までに,鉱山保安法に基づく省令の改正を行わず,さく岩機の
71
湿式型化等を一般的な保安規制とはしなかったことなど判示の事実関係の下では,じん肺法が成
立した後,通商産業大臣が鉱山保安法に基づく省令改正権限等の保安規制の権限を直ちに行使し
なかったことは,国家賠償法1条1項の適用上違法となる。
二、「民法 724 条後段所定の除斥期間の起算点は、『不法行為の時』と規定されており、加害
行為が行われた時に損害が発生する場合には、加害行為の時がその起算点と考えられる。しかし、
身体に蓄積した場合に人の健康を害することとなる物質による損害や,一定の潜伏期間が経過し
た後に症状が現れる損害のように,当該不法行為により発生する損害の性質上,加害行為が終了
してから相当の期間が経過した後に損害が発生する場合には,当該損害の全部又は一部が発生し
た時が除斥期間の起算点となると解すべきである。なぜなら,このような場合に損害の発生を待
たずに除斥期間の進行を認めることは,被害者にとって著しく酷であるし,また,加害者として
も,自己の行為により生じ得る損害の性質からみて,相当の期間が経過した後に被害者が現れて,
損害賠償の請求を受けることを予期すべきであると考えられるからである。 これを本件につい
てみるに,前記のとおり,じん肺は,肺胞内に取り込まれた粉じんが,長期間にわたり線維増殖
性変化を進行させ,じん肺結節等の病変を生じさせるものであって,粉じんへの暴露が終わった
後,相当長期間経過後に発症することも少なくないのであるから,じん肺被害を理由とする損害
賠償請求権については ,その損害発生の時が除斥期間の起算点となるというべきである。民法
724 条後段所定の除斥期間は,不法行為により発生する損害の性質上,加害行為が終了してから
相当の期間が経過した後に損害が発生する場合には,当該損害の全部又は一部が発生した時から
進行する。」
民集 58-4-1032
判時 1860-34 判タ 1152-120 労判 872-5
山口成樹・別冊ジュリ 224-210 中村茂樹・別冊ジユリ 212-474 野川忍・別冊ジュリ 191-148
野呂充・H16 重要判ジュリ 1291-46
吉村良一・H16 重要判ジュリ 1291-84
良永弥太郎・法律時報 78-1-79
山本隆司/金山直樹・法協 122-6-172
高橋眞・判例評論 553-37
宮坂昌利・ジュリ 1279-140
原審:福岡高裁 H.13.7.19 判・H7(ネ)643 号ほか
判時 1785-89
一審:福岡地裁飯塚支部 H.7.7.20 判・S60(ワ)211 号ほか
判時 1543-3
*山口評釈:本判決は、民法 724 条後段の定める除斥期間 20 年の起算点「不法行為の時」を「加
害行為時」と解すべきか「損害発生時」と解すべきかにつき判断を示した初めての最高裁判決
である。
*:時効・除斥期間の起算点に関する主要判決例の概要は[東京高裁 H.25.10.31 判*]の末尾コ
メントを参照。
[東京高裁 H.16.6.23 判*] H16(ネ)451 号 取立債権請求事件(控訴棄却・
民法 147 条 2 号・149 条ないし 156 条
上告受理申立)
債権に対する仮差押は第三債務者に対する被差押債権の消滅時効を中断しない
― 民法 147 条 2 号において時効中断事由とされている「差押え、仮差押又は仮処分」には、裁
判所による請求債権の認定すなわち公の確証(仮差押または仮処分の場合は、裁判所による暫定
的認定になる。
)が存していてるのに対し、第三債務者に対する被差押債権にはこれがなく、規範
的意味合いが質的に異なるから、債権仮差押によって、第三債務者に対する被差押債権の消滅時
効は中断しないというべきである。
金判 1195-6
菅野佳夫・判タ 1232-46 秦光昭・銀行法務 636-26 谷本誠司・銀行法務 636-52
一審:東京地裁 H.15.12.16 判・H15(ワ)16666 号 金判 1183-36
*谷本評釈:第三債務者に対する被差押債権についても時効が中断するかは、最高裁の判例はな
いが、中断しないとする否定説には<大審院 T.10.1.26 判・民録 27-108>があり、高裁判決に
は本判決のほか<福岡高裁 S.62.12.10 判・判時 1278-88><東京高裁 S.51.6.29 判・判時 831-44
>がある。中断するとの肯定説の高裁判決には<東京高裁 S.51.3.13 判・判時 816-55>がある。
72
否定説では、被差押債権の時効を中断するには、①債務者から第三債務者に対して給付訴訟
を提起してもらうか、②その第三債務者に承認してもらうか、③債務者が無資力要件を満たし
ていれば債権者代位権でその第三債務者に対し給付訴訟をする 等の、迂遠な方途しかないこ
とに注意をしておかねばならない。
[最高裁三小 H.16.6.29 判*]
H15(受)751 号 地代減額確認請求事件(破棄差戻)
借地借家法 11 条 1 項、民法 91 条
賃料不減額特約と借地借家法 11 条 1 項 ⇔ 強行法規違反 ― 「本件各賃貸借契約は、建物
の所有を目的とする土地の賃貸借契約であるから、本件各賃貸借契約には、借地借家法 11 条 1
項の規定が適用されるべきである。本件各賃貸借契約には、3 年ごとに賃料を消費者物価指数の
変動等に従って改定するが、消費者物価指数が下降したとしても賃料を減額しない旨の本件特約
が存する。しかし、借地借家法 11 条 1 項の規定は、強行規定であって、本件特約によってその適
用を排除することができないものである。したがって、本件各賃貸借契約の当事者は、本件特約
が存することにより上記規定に基づく賃料増減額請求権の行使を妨げられるものではないと解す
べきである(最高裁三小 H15.10.21 判・民集 57-9-1213 参照)。」
集民 214-595 判時 1868-52 判タ 1159-127 金判 1201-19
河津博史・銀行法務 641-41 中山知己・判例評論 556-23(C-④-5)
原審:大阪高裁 H.15.2.5 判・H14(ネ)1151 号
金判 1201-25
一審:大阪地裁 H.14.3.19 判・H13(ワ)2908 号
金判 1201-30
[最高裁二小 H.16.7.16 判*] H13(受)1797 号・否認権行使請求事件(棄却)
破産法 72 条 2 号・民法 127 条 1 項・466 条
債権譲渡人について支払停止または破産の申立があったことを停止条件とする債権譲渡契約に
係る債権譲渡と破産法 72 条 2 号による否認(積極) ― 同契約に係る債権譲渡は、債務者に
支払停止等の危機時期が到来した後に行われた債権譲渡と同視すべきものであり、破産法 72 条 2
号に基づく否認権行使の対象となると解するのが相当である。
民集 58-5-1744 判時 1872-64 判タ 1167-102 金判 1203-12 金法 1721-41
石毛和夫・銀行法務 636-51 山本克巳・金法 1748-60
佐瀬裕史・法協 125-6-234
栗田睦雄・判例評論 557-22(C-④-6)中井康之・民商 133-1-119
櫻本正樹・法学研究(慶大)78-1-127
原審:名古屋高裁 H.13.8.10 判・H13(ネ)421 号
民集 58-5-1757 金判 1203-16
一審:名古屋地裁 H.13.4.20 判・H12(ワ)3287 号
民集 58-5-1750 金判 1203-17
[東京地裁 H.16.8.24 判*] H15(ワ)11085 号 保証債務請求事件(認容・確定)
民法 97 条の 2(現 98 条)
・467 条
譲渡債権の債務者が所在不明である場合に、公示の方法により、債務者に対する債権譲渡通知
をすることの可否(肯定) ― 民法 97 条の 2(現 98 条)は「相手方を知ることができない
か、または相手方の所在を知ることができないときに、意思表示を公示の方法によってすること
ができる旨を定めた規定であるが、その趣旨によれば、意思表示ではない事実行為であっても、
相手方に対する到達によって効力を生じさせる必要がある場合には、同条の規定を準用または類
推適用することが相当である。 そして、債権譲渡通知は、いわゆる観念の通知と理解されてい
るが、相手方に対する到達によってその効力を生じさせる必要があり、公示による意思表示に関
する民法 97 条の 2 が準用または類推適用されると解するのが相当であり、そのように解しても債
権者にも債務者にも特別に不利益を生じさせることはない。
」
金法 1734-69
武智舞子・判タ 1215-22
73
*武智評釈:本判決により、公示送達による債権譲渡通知を認めてきた従来からの実務が追認さ
れたものといえるが、債権管理回収業に関する特別措置法(いわゆるサービサー法)の施行以
後、本件原告である(株)整理回収機構をはじめとする債権回収会社による譲受債権の履行を
求める訴えが増加傾向にあるようであり、本判決の意義は大きい。
[最高裁三小 H.16.9.14 判*]]H15(受)339 号・否認権行使請求事件(棄却)
破産法 72 条 2 号、民法 127 条 1 項・466 条
債権譲渡人について支払停止または破産の申立があったことを停止条件とする債権譲渡契約に
係る債権譲渡と破産法 72 条 2 号による否認(積極) ― 破産法 72 条 2 号に基づく否認権行
使の対象となる。
集民 215-171 判時 1872-67 判タ 1167-104 金法 1728-60
栗田睦雄・判例評論 557-22(C-④-6)
原審:大阪高裁 H.14.11.28 判・H14(ネ)1969 号
一審:大阪地裁 H.14.5.29 判・H12(ワ)5706 号
[最高裁二小 H.16.10.15 判*]H13(オ)1194 号ほか 水俣病関西訴訟(一部破棄自判・
国家賠償法 1 条 1 項、民法 724 条後段
一部棄却)
一、国が水俣病による健康被害の拡大防止のためにいわゆる水質二法に基づく規制権限を行使
しなかったことが国家賠償法1条1項の適用上違法となるとされた事例
二、熊本県が水俣病による健康被害の拡大防止のために同県の漁業調整規則に基づく規制権限
を行使しなかったことが国家賠償法1条1項の適用上違法となるとされた事例
三、水俣病による健康被害につき加害行為の終了から相当期間を経過した時が民法 724 条後段
所定の除斥期間の起算点となるとされた事例
[判示要旨]
一、国が,昭和 34 年 11 月末の時点で,多数の水俣病患者が発生し,死亡者も相当数に上って
いると認識していたこと,水俣病の原因物質がある種の有機水銀化合物であり,その排出源が特
定の工場のアセトアルデヒド製造施設であることを高度のがい然性をもって認識し得る状況にあ
ったこと,同工場の排水に含まれる微量の水銀の定量分析をすることが可能であったことなど判
示の事情の下においては,同年 12 月末までに,水俣病による深刻な健康被害の拡大防止のために,
公共用水域の水質の保全に関する法律及び工場排水等の規制に関する法律に基づいて,指定水域
の指定,水質基準及び特定施設の定めをし,上記製造施設からの工場排水についての処理方法の
改善,同施設の使用の一時停止その他必要な措置を執ることを命ずるなどの規制権限を行使しな
かったことは,国家賠償法1条1項の適用上違法となる。
二、熊本県が,昭和 34 年 11 月末の時点で,多数の水俣病患者が発生し,死亡者も相当数に上
っていると認識していたこと,水俣病の原因物質がある種の有機水銀化合物であり,その排出源
が特定の工場のアセトアルデヒド製造施設であることを高度のがい然性をもって認識し得る状況
にあったことなど判示の事情の下においては,同年 12 月末までに,水俣病による深刻な健康被害
の拡大防止のために,旧熊本県漁業調整規則(昭和 26 年熊本県規則第 31 号。昭和 40 年熊本県規
則第 18 号の 2 による廃止前のもの)に基づいて,上記製造施設からの工場排水につき除害に必要
な設備の設置を命ずるなどの規制権限を行使しなかったことは,国家賠償法1条1項の適用上違
法となる。
三、水俣病による健康被害につき,患者が水俣湾周辺地域から転居した時点が加害行為の終了
時であること,水俣病患者の中には潜伏期間のあるいわゆる遅発性水俣病が存在すること,遅発
性水俣病の患者においては水俣病の原因となる魚介類の摂取を中止してから4年以内にその症状
が客観的に現れることなど判示の事情の下では,上記転居から4年を経過した時が民法 724 条後
段所定の除斥期間の起算点となる。
74
民集 58-7-1802
判時 1876-3 判タ 1167-89
島村健・別冊ジュリ 212-476 稲葉馨・別冊ジュリ 206-76 大塚直・リマークス 32-40
福士明・H16 重要判ジュリ 1291-51 田上富信・判例評論 557-195
吉村良一・民商 132-3-114
長谷川浩二・ジュリ 1286-111
原審:大阪高裁 H.13.4.27 判・H6(ネ)1950 号ほか
判時 1761-3
一審:大阪地裁 H.6.7.11 判・S57(ワ)8234 号ほか
判時 1506-5
*:時効・除斥期間の起算点に関する主要判決例の概要は[東京高裁 H.25.10.31 判*]の末尾コ
メントを参照。
[最高裁二小 H.16.11.8 判*]H15(受)869 号 賃料減額等確認請求事件(破棄差戻)
借地借家法 32 条 1 項
一、いわゆるサブリース契約と借地借家法 32 条 1 項(借賃増減請求権)の適用の有無(積極)
― 本件契約は、共同住宅のワンルームマンションを一括借り上げて転貸するための業務
委託協定に基づくサブリースのための契約であるが、サブリースをするための建物の賃貸借契約
である「本件契約には借地借家法 32 条の規定が適用されるべきものである。
」
一、 いわゆるサブリース契約の当事者が借地借家法 32 条 1 項に基づく賃料減額請求をした
場合に、その請求の当否及び相当賃料額を判断するために考慮すべき事情 ―「本件契約締
結に至る経緯、とりわけ本件業務委託協定及びこれに基づき締結された本件契約中の本件料金自
動増額特約に係る約定の存在は、本件契約の当事者が、前記の契約締結当初の賃料額を決定する
際の重要な要素となった事情と解されるから、衡平の見地に照らし、借地借家法 32 条 1 項の規定
に基づく賃料減額請求の当否(同項所定の賃料増減額請求権行使の要件充足の有無)及び相当賃
料額を判断する場合における重要な事情として十分に考慮されるべきである。」
集民 215-555 判時 1883-52 判タ 1173-192 金判 1226-52
近江幸治・金判 1205-2
水野信次・銀行法務 654-55
原審:大阪高裁 H.15.2.14 判・H14(ネ)774 号
一審:大阪地裁 H.14.2.6 判・H11(ワ)13792 号ほか
[最高裁二小 H.16.11.12 判*] H16(受)230 号 損害賠償請求事件(上告棄却)
民法 715 条 1 項、
暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律 2 条・15 条の 2(現 31 条)
暴力団の上部組織の組長の下部組織の組員についての使用者責任
一、階層的に構成されている暴力団の最上位の組長と下部組織の構成員との間に同
暴力団の威力を利用しての資金獲得活動に係る事業について民法715条1項所定の使用者
と被用者の関係が成立しているとされた事例 ― 階層的に構成されている暴力団が,その威
力をその暴力団員に利用させることなどを実質上の目的とし,下部組織の構成員に対しても同暴
力団の威力を利用して資金獲得活動をすることを容認していたなど判示の事情の下では,同暴力
団の最上位の組長と下部組織の構成員との間に同暴力団の威力を利用しての資金獲得活動に係る
事業について民法715条1項所定の使用者と被用者の関係が成立している。
二、階層的に構成されている暴力団の下部組織における対立抗争においてその構成
員がした殺傷行為が民法715条1項にいう「事業ノ執行ニ付キ」した行為に当た
るとされた事例 ―階層的に構成されている暴力団の下部組織における対立抗争においてそ
の構成員がした殺傷行為は,同暴力団が,その威力をその暴力団員に利用させることなどを実質
上の目的とし,下部組織の構成員に対しても同暴力団の威力を利用して資金獲得活動をすること
を容認し,その資金獲得活動に伴い発生する対立抗争における暴力行為を賞揚していたなど判示
の事情の下では,民法715条1項にいう「事業ノ執行ニ付キ」されたものに当たる。(補足意見
がある。
)
75
民集 58-8-2078 判時 1882-21 判タ 1170-134 金法 1735-43
大塚和成・銀行法務 646-69 宮本幸裕・法律時報 77-6-117 瀬川信久・判タ 1187-108
浅野直人・リマークス 32-60 中村哲也・判例評論 561-34
浦川道太郎・H.16 重要判ジュリ 1291-82 同・Law & Practice No.04-145
和田美江・北大法学論集 59-6-287 小池泰・別冊ジュリ 196-168
原審:大阪高裁 H.15.10.30 判・H14(ネ)3210 号等 民集 58-8-2166
一審:京都地裁 H.14.9.11 判・H10(ワ)2264 号 民集 58-8-2111 判時 1820-100
*本件の事案: 暴力団 A 組の下部三次組織である B 組の組員らが、従前から対立関係にある C
組の系列組織との間で抗争状態が生じた際、警備に当たっていた警察官を対立組織の構成員と
誤認して拳銃で射殺。同警官の遺族妻子が、実行犯 2 名、その直属の B 組組長、系列最上位の
A 組組長を被告として、共同不法行為または使用者責任に基づき損害賠償を請求。
一審は実行犯 2 名及び B 組長について共同不法行為責任を認めたが、A 組長には共同不法行
為も使用者責任も否定し同人に対する請求を棄却。遺族妻子が控訴。
二審も A 組長の共同不法行為は否定したが、使用者責任を肯定して A 組長に約 8 千万円の
支払を命じた。A 組長上告。
その後、類似の暴力団の事件(韓国人学生の誤認殺人事件)に、指定暴力団である上部団体
の最高幹部・総長と会長に、前者には使用者責任、後者には総長に代わっての代理監督責任を
認めたものには、東京地裁 H.19.9.20 判・H17(ワ)3677 号・判時 2000-54 がある。
なお、暴力団関係とは限らないが、民法 715 条の使用者責任の成否に関する問題点について
は、
[最高裁三小 H.6.11.22 判①*]末尾の*コメント参照。
*浦川評釈(ジュリ 1291-82)
:本判決は、暴力団員が実行した不法行為に対して組長の損害賠償
責任を追及する「組長訴訟」に関する公表された最初の最高裁の判断であり、また、階層的に
構成された暴力団において、下部組織の構成員の抗争における殺傷行為に対する最上位組長の
使用者責任を肯定した点において、注目すべき判断である。もっとも、そこで示された法解釈
は、使用者責任に関する従来の判例理論の集積の上に立脚しており、特に新たな考え方を示し
たものではない。
*大塚評釈:本判例は、抗争のケースについて、殺傷行為は、資金獲得活動に係る事業 の執行
と密接に関連する行為として事業の執行性が肯定されるとの、最高裁としての初めての判断を
示したものであり、実務上の意義は大きい。
*:その後[大阪高裁 H.27.1.29 判*]は、本最高裁判決の判例理論を前提として上下の暴力団
組長の使用者責任と共同不法行為を判示している。
[最高裁二小 H.17.1.17 判*] H13(受)704 号破産債権確定・解約返戻金請求事件
破産法 99 条後段(現破産法 67 条 2 項後段)
(一部破棄自判)
・104 条 1 号(現 71 条 1 項 1 号)
破産債権者が破産宣告の時において期限付又は停止条件付であり破産宣告後に期限が到来し又
は停止条件が成就した債務に対応する債権を受働債権とし破産債権を自働債権として相殺する
ことの可否(積極) ― 破産債権者は、破産者に対する債務がその破産宣告のときにおいて期
限付または停止条件付である場合には、特段の事情のない限り、期限の利益または停止条件不成
就の利益を放棄したときだけでなく、破産宣告後に期限が到来しまたは条件が成就したときにも、
破産法 99 条後段(現行法 67 条 2 項後段)の規定により、その債務に対応する債権を受働債権と
し、破産債権を自働債権として相殺をすることができる。
民集 59-1-1 判時 1888-86 判タ 1174-222 金判 1220-46 金法 1742-35
山本克己・金法 1780-52
河野正憲・判例評論 568-22(C-④-10)
栗田隆・リマークス 32-128 杉山悦子・法協 123-7-201 谷本誠司・銀行法務 648-56
原審:広島高裁岡山支部 H.13.2.8 判・H12(ネ)70 号 民集 59-1-18 判タ 1126-177
金判 1220-52
76
一審:岡山地裁 H.12.3.6 判・H10161 号他 民集 59-1-10 判タ 1126-182
金判 1220-56
[最高裁一小 H.17.1.27 判*] H16(受)1019 号 更生担保権優先関係確認請求事件
民法 249 条・264 条・502 条 1 項
(破棄差戻)
更生担保権者と債権の一部代位弁済者の配分関係 ―不動産を目的とする一個の抵当権が数個
の債権を担保し、そのうちの一個の債権のみについての保証人が当該債権の残債務の全額を代位
弁済した場合において、右抵当権の実行による当該不動産の売却代金が被担保債権の全てを消滅
させるに足りないときには、債権者が有する残債権額と保証人が代位によって取得した債権額に
応じ按分して弁済を受けるべきである。
民集 59-1-200 判時 1887-39 金判 1215-27 金法 1738-105
村田利喜弥・金法 1748-41
森田修・法協 123-6-123
安永正昭・H.17 重要判ジュリ 1313-80
佐藤岩昭・判例評論 564-22(C-④-9) 高橋眞・民商 133-1-166
潮見佳男・銀行法務 645-54 石毛和夫・銀行法務 647-63
原審:東京高裁 H.16.2.24 判・H15(ネ)4554 号
民集 59-1-240 金判 1215-40
一審:東京地裁 H.15.8.1 判・H13(ワ)20149 号 金判 1215-42
[最高裁三小 H.17.2.22 判*] H16(受)1271 号 売掛代金請求及び独立当事者参加事件
民法 304 条・322 条・467 条
(上告棄却)
動産売買先取特権に基づく物上代位権の行使と目的債権の譲渡 ―「動産売買の先取特権者は、
物上代位の目的債権が譲渡され、第三者に対する対抗要件が備えられた後においては、目的債権
を差押えて物上代位権を行使することはできないものと解するのが相当である。
」
民集 59-2-314 判時 1889-46 判タ 1175-140 金判 1215-24 金法 1740-28
山野目章夫・金法 1748-49
角紀代恵・H.17 重要判ジュリ 1313-76
倉橋雄作・法協 126-1-225
中山知己・法学教室 301-80
植本幸子・北大法学論集 57-2-263
石毛和夫・銀行法務 648-55
原審:東京高裁 H.16.4.14 判・H15(ネ)6003 号 金法 1722-76 堀龍兒・リマークス 31-30
山田真紀・判タ 1184-32
一審:東京地裁 H.15.10.24 判・H14(ワ)22629 号 民集 59-2-335 金法 1204-33
*[最高裁二小 S.60.7.19 判*]の江頭解説参照。
[大阪高裁 H.17.7.6 決定*]
H17(ラ)367 号 仮差押取消決定に対する保全抗告事件
民法 509 条
(抗告棄却・確定)
不法行為に基づく損害賠償請求権に対す差押・仮差押と保険代位 ― ①. 「不法行為の加害者
が、被害者の損害賠償債権の差押あるいは仮差押を申立てることは、民法 509 条の規定を潜脱す
るものであって許されないというべきである。」 ②.「双方過失に起因する同一の交通事故によ
って生じた損害賠償債権については、保険会社は、民法 509 条の『その債務者』に該当すると解
するのが相当である。従って、保険会社が保険代位により得た保険契約者の損害賠償債権に基づ
き、他方の損害賠償債権の差押を申立てることは、民法 509 条の規定を潜脱するものであって許
されないというべきである。
」
判時 1918-17
青野博之・判例評論 572-33(C-④-12)
一審:神戸地裁姫路支部 H.17.3.10 判・H17(モ)49 号
[最高裁二小 H.17.7.15 判*]H16(受)1611 号 第三者異議事件(上告棄却)
民事執行法 23 条・38 条 1 項・115 条、民法 33 条、商法 52 条
77
第三者異議の訴えの原告についての法人格否認の法理の適用 ― 「第三者異議の訴えは、債務
名義の執行力が原告に及ばないことを異議事由として強制執行の排除を求めるものではなく、執
行債務者に対して適法に開始された強制執行の目的物について、原告が所有権その他目的物の譲
渡又は引渡を妨げる権利を有するなど強制執行による侵害を受忍すべき地位にないことを異議事
由として強制執行の排除を求めるものである。そうすると、第三者異議の訴えについて、法人格
否認の法理の適用を排除すべき理由はなく、原告の法人格が執行債務者に対する強制執行を回避
するために濫用されている場合には,原告は,執行債務者と別個の法人格であることを主張して
強制執行の不許を求めることは許されないというべきである。」
民集 59-6-1742 判時 1910-99
判タ 1191-193 金判 1222-24 金判 1229-42
笠井正俊・リマークス 33-154
松村和徳・H17 重要判ジュリ 1313-139
松下淳一・別冊ジュリ 205-12
中島弘雅・法学研究(慶大)80-8-84
高見進・北大法学論集 60-6-99
浅井弘章・銀行法務 656-54
原審:東京高裁 H.16.6.23 判・H16(ネ)727 号
金判 1229-47
一審:宇都宮地裁太田原支部 H.16.1.21 判・H15(ワ)80 号・88 号
金判 1229-52
*笠井評釈:本最高裁判決は、第三者異議の訴えに関して法人格否認の法理の適用を肯定した初
めての最高裁判決として重要である。
第三者異議の訴えにおいて、原告の法人格の形骸化または濫用がみられる場合でも、
[最高裁
一小 S.53.9.14 判*]の影響の下で、法人格否認の法理を用いて請求を棄却することは出来な
いとしていた下級審判例の流れを、本判決は断ち切ったものであり、理論的にも執行妨害への
対処にも大きな意味を持つ。
第三者異議の訴えで問題となるのは、特定の財産に対する強制執行が、原告(第三者)の法
的地位との関係で実体法上許されないことになるかどうかであり、当該第三者が債務名義たる
判決の既判力や執行力の拡張を受けるかどうかとは別の問題である。従って、本判決は、判決
の既判力や執行力の変更を禁じる上記[最高裁一小 S.53.9.14 判*]と抵触しない。
*[最高裁二小 H.24.10.12 判*]の評釈・コメント参照。
[東京地裁 H.17.9.2 判*]H17(ワ)135 号・損害賠償請求事件(控訴棄却・確定)
民法 555 条・526 条、
電子消費者契約及び電子承諾通知に関する民法の特例に関する法律 4 条
インターネット上の商品の売買について、注文者がサイト開設者の発信した受注確認メールを
受信した時点では、売買契約は成立していない とされた事例 ― 「受注確認メールはヤフー
(サイト開設者)が送信したものであり、売手である被控訴人(被告)が送信したものではない
から、権限のある者による承諾がされたものと認めることはできない。」
・・・
「受注確認メールは、
買手となる注文者(控訴人・原告)の申込が正確なものとして発信されたかをサイト開設者が注
文者に確認するものであり、注文者の意思表示の正確性を担保するものにほかならないというべ
きである。 よって受注確認メールは、被控訴人(売手)の承諾と認めることはできないから、
これをもって契約が成立したと見ることはできないというべきである。」
判時 1922-105
原審:東京簡裁 H.17.2.23 判・H16(少コ)3918 号
*:商法 526 条の「遅滞なく」「通知」「隠れた瑕疵」の法意を説示した判決例については、[最
高裁三小 H.4.10.20 判]の末尾の注を、その他この制度の買主の通知義務の本質的問題点につ
いては[最高裁三小 S.47.1.25 判]の末尾の注を参照。
[東京高裁 H.17.9.7 決定*]
H17(ラ)1060 号 債権仮差押命令申立却下決定に
民事保全規則 19 条 1 項・2 項 1 号
対する抗告事件(抗告却下・確定)
債権仮差押命令の申立<第三債務者の取扱店舗を特定せず、取扱本店及び支店の数を絞り込ん
で順位を付す「限定的支店順位方式」>が、仮差押債権の特定に欠けるものとして不適法とさ
78
れた事例 ― 第三債務者である各金融機関の四ないし三七の本店及び支店を列挙しこれに順
位を付して仮差押債権を表示する限定的支店順位方式による本件仮差押申立は、第三債務者に極
めて過重な負担をおわせるものであり、民事保全規則 19 条 1 項及び 2 項 1 号所定の仮差押債権
の種類及び額その他債権を特定するに足りる事項が明らかにされてはいないものといわざるを得
ない。
判時 1908-137 判タ 1189-337 金法 1755-56 金判 1228-40 萩澤達彦・リマークス 33-158
一審:さいたま地裁 H.17.6.6 決定・H17(ヨ)171 号
判時 1908-141
*萩澤評釈:金融機関のシステム化が進んではいるが、東京地裁民事執行センターや大阪地裁民
事執行センターが、現状では、預金債権を差押える場合は取扱店舗の特定が必要であるという
従来からの取扱を変更するだけの事情が生じたとは考えずに、今後も同取扱を維持していく方
針を示しているのは(東京地裁民事執行センター・金法 1767-28)、妥当な判断であると思われる。
[最高裁二小 H.18.1.13 判*] H18(受)1518 号 貸金請求事件(破棄差戻:貸金業者敗訴)
利息制限法 1 条 1 項・4 条 1 項、貸金業の規制に関する法律 18 条 1 項・43 条 3 項、
同施行規則 15 条、民法 136 条
一、貸金業の規制等に関する法律施行規則 15 条 2 項の法適合性(否定) ― 貸金業の規制等
に関する法律施行規則15条2項の規定のうち,貸金業者が弁済を受けた債権に係る貸付けの契
約を契約番号その他により明示することをもって,貸金業の規制等に関する法律18条1項1号
から3号までに掲げる事項の記載に代えることができる旨定めた部分は,同法の委任の範囲を逸
脱した違法な規定として無効である。
二、債務者が利息制限法所定の制限を越える約定利息の支払を遅滞したときには当然に期限の
利益を喪失する旨の特約の効力(消極) ― 利息制限法所定の制限を超える約定利息と共に
元本を分割返済する約定の金銭消費貸借に,債務者が元本又は約定利息の支払を遅滞したときに
は当然に期限の利益を喪失する旨の特約が付されている場合,同特約中,債務者が約定利息のう
ち制限超過部分の支払を怠った場合に期限の利益を喪失するとする部分は,同法1条1項の趣旨
に反して無効であり,債務者は,約定の元本及び同項所定の利息の制限額を支払いさえすれば,
期限の利益を喪失することはない。
三、債務者が利息制限法所定の制限を越える約定利息の支払を遅滞したときには当然に期限の
利益を喪失する旨の特約下での制限超過部分の支払の任意性の有無(消極) ― 利息制限法
所定の制限を超える約定利息と共に元本を分割返済する約定の金銭消費貸借において,債務者が,
元本又は約定利息の支払を遅滞したときには当然に期限の利益を喪失する旨の特約の下で,利息
として上記制限を超える額の金銭を支払った場合には,債務者において約定の元本と共に上記制
限を超える約定利息を支払わない限り期限の利益を喪失するとの誤解が生じなかったといえるよ
うな特段の事情のない限り,制限超過部分の支払は,貸金業の規制等に関する法律43条1項に
いう「債務者が利息として任意に支払った」ものということはできない。
民集 60-1-1 判時 1926-17 判タ 1205-99 金法 1778-101
小野秀誠・金法 1780-67
水野信次・銀行法務 659-55 小野秀誠・別冊ジュリ 196-112 後藤勇・判タ 1245-49
吉田克己・金判 1336-58
原審:広島高裁松江支部 H.16.6.18 判・H16(ネ)30 号
民集 60-1-23
一審:鳥取地裁倉吉支部 H.16.1.22 判
民集 60-1-12
*古田:利息制限法(S.29 施行)では、1 条 1 項で利息の最高限度額を定めているが(元本が、
10万円未満の場合は年 20%、10 万円以上 100 万円未満の場合は年 18%、100 万円以上の場
合は年 15%)
、違反しても罰則はなく、しかも同条 2 項では、前項の超過部分を任意に支払っ
たときはその返還を請求できないと規定していた。 そして、高利の貸金業務を処罰する出資
法(S.29 制定「出資の受入・預り金及び金利等の取締に関する法律」
)第 5 条 2 項も、契約年
利が 54.75%を超えなければ刑罰を科さない(この年利率の限度はその後、H.4 に 40.004%・
H.7 に 39.931%・H.12 に 29.5%・H.22 に 20.0% に下げられている)。
79
このように利息制限法の限度を超えても処罰がないために貸金業者が簡単に踏み越えられる
領域が「グレイゾーン金利」であり、そのような貸金業者からの労働者賃金への差押の多発は、
運送業には労働集約の部門が少なくなく、労務管理上の問題ともなる。
貸金業者とのこの様な消費貸借債務の問題について判例は[最高裁大法廷 S.39.11.18 判*]
・
[最高裁大法廷 S.43.7.17 判*]
・
[最高裁大法廷 S.43.11.13 判*]
・
[最高裁三小 S.44.11.25 判
*]
・
[最高裁一小 S.55.1.24 判③*]
・その他多数の判決例が消費者保護への取組を行っきてい
たが、他方、貸金業法(S.58 制定)43 条は、出資法に違反しない限り、利息制限法の上限金利を
超えていても、貸金業法所定の貸金契約書の遅滞ない締結と交付及び弁済に対する同法所定の
受領書の交付があれば、
「有効な弁済とみなす」と定め、グレイゾーン金利を正当化した。 し
かしながら、
本件
[最高裁二小 H.18.1.13 判*]に引続いて最高裁一小 H.18.1.19 判・H15(オ)456
号/(受)467 号・集民 219-31、最高裁三小 H.18.1.24 判・H16(受)424 号・集民 219-243 の三
つの小法廷判決が、期限の利益喪失特約がある場合の利息制限法超過分の支払の任意性を揃っ
て否認判示した。
その結果、利息制限法 1 条 2 項は H.18 改正で削除となり、H.21 改正で貸金業法 43 条は廃
止され、新設の 42 条(高金利を定めた金銭消費貸借契約の無効)で、日歩 30 銭(年利 109.5%)
を超える利息(遅延損害も含む)の契約をした消費貸借契約は無効と規定された。
[最高裁三小 H.18.1.17 判*]
H17(受)144 号 所有権確認等請求事件
民法 162 条・177 条
不動産の取得時効完成後に当該不動産の譲渡を受けて所有権登記を了した者が背信的悪意者に
当たる場合 ―甲が時効取得した不動産について,その取得時効完成後に乙が当該不動産の譲渡
を受けて所有権移転登記を了した場合において,乙が,当該不動産の譲渡を受けた時に,甲が多
年にわたり当該不動産を占有している事実を認識しており,甲の登記の欠缺を主張することが信
義に反するものと認められる事情が存在するときは,乙は背信的悪意者に当たる。
民集 60-1-27 判時 1925-3 判タ 1206-73 金判 1248-59
河津博史・銀行法務 662-40
関武志・判例評論 577-11(C-④-14) 野澤正充・速報判例解説 1-85
原審:高松高裁 H.16.10.28 判・H14(ネ)213 号
民集 60-1-47 金判 1248-64
一審:徳島地裁 H.14.3.26 判・H9(ワ)260 号等
民集 60-1-37 金判 1248-70
*関評釈に、177 条の背信的悪意者についての判決例の一覧あり。
[最高裁一小 H.18.1.19 判*]
H17(受)761 号 損害賠償請求事件(破棄自判)
民事執行法 165 条 4 号・166 条・85 条 3 項、民法 722 条
差押がされている動産引渡請求権を更に差押えた債権者が、先行する差押事件で実施される配
当手続に参加するために、執行裁判所に対して競合差押債権者の存在を認識させる措置を執る
べき義務の有無 ― 差押えがされている動産引渡請求権を更に差し押さえた債権者には,先
行する差押事件で実施される配当手続に参加するために,自らの差押事件の執行裁判所及び先行
する差押事件の執行裁判所に対し,自らの差押事件の進行について問い合わせをするなどして,
競合差押債権者の存在を認識させる措置を執るべき義務はない。
民集 60-1-109 判時 1923-41 斉藤善人・判例評論 574-34(C-④-13) 浦野雄幸・民商 135-3-65
北村賢哲・法協 124-10-146
坂原正夫・法学研究(慶大)79-8-56
原審:大阪高裁 H.17.1.20 判・H16(ネ)984 号
民集 60-1-118
一審:大阪地裁 H.16.2.27 判・H15(ワ)3389 号
[東京地裁 H.18.1.19 判*]H17(ワ)8624 号(シンガポール判決の)執行判決請求事件
民事執行法 24 条、民訴法 118 条
(容認・控訴)
80
一、シンガポール共和国の裁判所が言渡した判決について、被告が不服申立の手続を行ってお
らず、その意思もないと認められること、仮に被告が不服申立の手続をとっても同判決の撤
回は極めて難しいと認められることを理由に、同判決は民訴法 118 条にいう「確定判決」に
該当すると判示
二、執行判決の請求を容認した事例。
三、外国裁判所の判決の執行判決につき、仮執行宣言を付し得る旨判示した事例。
― 仮執行宣言の可否について:
「執行判決を求める訴えの性質については、執行判決が外国
判決に対しわが国における執行力を付与する旨を宣言して強制執行を可能ならしめるものである
ことに照らすと、形成訴訟と解すべきである。しかしながら、その点から、執行判決に仮執行宣
言を付し得ないとの結論は直ちに導かれるものではない。むしろ、執行判決に限ってその確定を
待たねば強制執行に着手できないとする合理的理由がないこと、執行判決手続における形式的審
査主義の建前からして、外国判決に対してはできるだけ早期に執行力を付与するのが相当と考え
られることからすれば、執行判決に対しても、仮執行宣言を付すことができるというべきである。
」
判タ 1229-334
宮廻美明・ジュリ 1362-132
[最高裁三小 H.18.2.7 判*] H17(受)282 号 建物明渡請求事件(破棄自判)
民法 369 条・579 条
買戻し特約付売買契約の形式を採りながら目的不動産の占有移転を伴わない契約の性質
― 買戻特約付売買契約の形式が採られていても,目的不動産の占有の移転を伴わない契約は,
特段の事情のない限り,債権担保の目的で締結されたものと推認され,その性質は譲渡担保契約
と解するのが相当である
民集 60-2-480 判時 1926-61 判タ 1205-124 金判 1240-24 金法 1775-43
片山直也・金法 1780-37 占部洋之・民商 135-4・5-122 道垣内弘人・法協 129-1-184
小山泰史・別冊ジユリ 195-192
福田剛久・ジュリ「最高裁時の判例Ⅵ」-106
浅井弘章・銀行法務 662-37
原審:福岡高裁 H.16.9.29 判・H16(ネ)378 号
民集 60-2-493 金判 1240-30
一審:大分地裁 H.16.3.3 判・H15(ワ)452 号
民集 60-2-488 金判 1240-31
[東京地裁 H.18.2.13 判*]H16(ワ)22864 号情報提供差止等請求事件(請求棄却・控訴後和解)
民法三編二章一節・415 条・416 条
業務提携等の共同事業化に関する基本合意に基づき交渉継続してきた原告住友信託が、被告ら
(UFJ ホールディングス・UFJ 信託・UFJ 銀行)による一方的交渉破棄などを理由に、債務
不履行または不法行為に基づく損害賠償を求めた事案(消極)
[判示要旨] ①.被告らは、基本契約・共同事業化に関する最終契約を締結するまでは、これ
らの契約を締結する義務を負うものではない。 ②.被告らが独占交渉義務および誠実狭義義務を
履行していたとしても、同契約の成立が確実であったともいえない本件においては、最終契約が
成立した場合の得べかりし利益が、前記各義務違反と相当因果関係にあるとは認められない。
被告各自に対する 1,000 万円の請求を棄却。
判時 1928-3 金判 1237-7
野村修也・金法 1780-75
河上正二・リマークス 34-34
大塚和成・銀行法務 659-56
*[最高裁三小 S.58.4.19 判*]の江頭教授の指摘参照。
[東京地裁 H.18.3.27 判*]H17(行ウ)172 号 不当労働行為救済命令取消請求事件(労組の
労働組合法 7 条
請求を棄却)
再委託先の労働者から見た委託者の「使用者性」- 否認した事例 ― ①労組法 7 条所定の「使
用者」とは、一般に労働契約上の雇用主をいうが、同条が団結権の侵害に当たる一定の行為を不
81
当労働行為として排除し、是正して正常な労使関係を回復することを目的としていることに照ら
すと、雇用主以外の事業主であっても、当該労働者の基本的労働条件等について、雇用主と同視
できる程度に現実的かつ具体的に支配・決定することができる地位にある場合には、その限りに
おいて、上記事業主は同条所定の「使用者」に当るものと解するのが相当である(最高裁三小
H.7.2.28 判・H5 (行ツ)17 号・民集 49-2-559)
。
②補助参加人 A 社(再委託先の労働者が所属する B 社の親会社で、C 社に本件運送業務を委託
し、C 社が B 社に本件業務を再委託した)は、C 社への本件業務委託後は、運賃を決定すること
などにより B 社の運転士の賃金等の労働条件を実質的に決定するという関係にはなくなったと評
価するのが相当であり、これと同一の判断をしている本件命令(A 社への命令を取消変更した中
労委命令)は正当である。
労働判例 917-67
鄭永薫・民商 137-3-101
*古田:鄭評釈は 109 頁で、C 社に本件業務委託契約をした後も、A 社の B 社の労働者の賃金に
対する決定力が依然として B 社と同視できる程度にはないとしても、B 社は A 社の業務以外は
取得できる営業力はないであろうから、B 社と同視できる程度の決定力があることを基準にし
て否定した本件判決に疑問を呈しておられる。しかし、筆者古田は、B 社が親会社 A から A 以
外の業務を禁じられていない以上、それは B 自身の問題であり、A 社が「使用者性」を認定さ
れる根拠にはならないと解すべきであろう。
[最高裁一小 H.18.3.30 判*] H17(受)1628 号 損害賠償請求事件(上告棄却)
自賠法 16 条 1 項・16 条の 3 第 1 項
自動車損害賠償保障法 16 条 1 項に基づいて被害者が保険会社に対して損害賠償の支払を請求
する訴訟において、裁判所は、同法 16 条の 3 第 1 項が規定する支払基準によることなく、損
害賠償額を算定して支払を命じることの可否 ― 「自賠法 16 条の 3 第 1 項の規定内容からす
ると、同項が、保険会社に、支払基準に従って保険金等を支払うことを義務付けた規定であるこ
とは明らかであって、支払い基準が保険会社以外の者も拘束する旨を規定したものと解すること
はできない。支払基準は、保険会社が訴訟外で保険金等を支払う場合に従うべき基準に過ぎない
ものというべきである。そうすると、保険会社が訴訟外で保険金等を支払う場合の支払額と訴訟
で支払を命じられる額が異なることがあるが、保険会社が訴訟外で保険金等を支払う場合には、
公平かつ迅速な保険金等の支払の確保という見地から、保険会社に対して支払基準に従って支払
うことを義務付けることに合理性があるのに対し、訴訟においては、当事者の主張立証に基づく
個別的な事案ごとの結果の妥当性が尊重されるべきであるから、上記のように額に違いがあると
しても、そのことが不合理であるとはいえない。 したがって、法 16 条 1 項に基づいて被害者が
保険会社に対して損害賠償額の支払を請求する訴訟において、裁判所は、法 16 条の 3 第 1 項が
規定する支払基準によることなく損害賠償額を算定して支払を命じることが出来るというべきで
ある。
」
民集 60-3-1242 判時 1928-36 判タ 1207-70
福田弥夫・別冊ジュリ 202-62
西嶋梅冶・民商 135-3-95
原審:仙台高裁 H.17.6.10 判・H17(ネ)79 号
一審:盛岡地裁 H.17.1.20 判・H16(ワ)170 号
*[最高裁一小 H.24.10.11 判*]の末尾のコメント参照。
[東京地裁 H.18.4.4 判*] H16(ワ)27460 号 損害賠償請求事件(中間判決・容認)
民訴法 5 条 9 号・7 条・136 条・247 条、民法 709 条、製造物責任法 3 条
わが国の法人が台湾法人および米国法人に対して提起した損害賠償請求訴訟において、不法行
為に基づく請求および併合請求につき、わが国の国際裁判管轄が認められた事例 ― 債務不履
行または瑕疵担保責任に基づく請求の国際裁判管轄を否定したが、是認された不法行為に基づく
82
請求との密接な関係が是認され、併合請求として我国の裁判管轄が認められた。
判時 1940-130 判タ 1233-332
渡辺惺之・H.18 重要判ジユリ 1332-298
李賀・ジュリ 1370-241 (E-③-36)
[最高裁二小 H.18.4.14 判*]
H16(受)519 号 損害賠償等請求本訴・
民法 505 条、民訴法 114 条 2 項・
請負代金等請求反訴事件(破棄自判)
142 条・143 条・146 条
反訴請求債権を自働債権とし本訴請求債権を受働債権とする相殺の抗弁の許否(積極)
[判示要旨] 「係属中の別訴において訴訟物となっている債権を自働債権として他の訴訟にお
いて相殺の抗弁を主張することは,重複起訴を禁じた民訴法142条の趣旨に反し許されない
(
[最高裁三小 H.3.12.17 判*]
)
。
しかし,本訴及び反訴が係属中に,反訴請求債権を自働債権とし,本訴請求債権を受働債権と
して相殺の抗弁を主張することは禁じられないと解するのが相当である。この場合においては,
反訴原告において異なる意思表示をしない限り,反訴は,反訴請求債権につき本訴において相殺
の自働債権として既判力ある判断が示された場合にはその部分については反訴請求としない趣旨
の予備的反訴に変更されることになるものと解するのが相当であって,このように解すれば,重
複起訴の問題は生じないことになるからである。そして,上記の訴えの変更は,本訴,反訴を通
じた審判の対象に変更を生ずるものではなく,反訴被告の利益を損なうものでもないから,書面
によることを要せず,反訴被告の同意も要しないというべきである。
本件については,前記事実関係及び訴訟の経過に照らしても,上告人らが本件相殺を抗弁とし
て主張したことについて,上記と異なる意思表示をしたことはうかがわれないので,本件反訴は,
上記のような内容の予備的反訴に変更されたものと解するのが相当である。
」
民集 60-4-1497 判時 1931-40 判タ 1209-83 金法 1781-61 金判 1251-35
増森珠美・ジュリ 1340-95 二羽和彦・リマークス 35-112
三木浩一・H18 重要判ジュリ 1332-127 徳田和幸・判例評論 584-12(C-④-19)
河野正憲・判タ 1311-5 酒井一・民商 138-3-74 谷本誠司・銀行法務 664-57
渡辺森児・法学研究(慶大)80-4-160 我妻学・金判 1263-14
杉本和士・早法 83-2-143
原審:大阪高裁 H.15.12.24 判・H14(ネ)2682 号
民集 60-4-1522 金判 1251-39
一審:大阪地裁 H.14.7.29 判・H5(ワ)11643 号ほか 民集 60-4-1506 金判 1251-43
*徳田評釈:本判決引用の[最高裁三小 H.3.12.17 判]は、相殺の抗弁について実体的判断がな
されたときは、
相殺をもって対抗した額について既判力を有することから(民訴法 114 条 2 項)、
裁判所に係属する事件については、当事者は更に訴えを提起することができないという重複起
訴ないし二重提訴を禁じた民訴法 142 条の趣旨に反するので許されないとして、いわゆる別訴
先行型(抗弁後行型)の場合について不適法説を採ることを明らかにしている。本件 H.18 判
決はその立場を前提としても、本訴および反訴が係属中に、反訴請求債権を自働債権とし、本
訴請求債権を受働債権としての相殺の抗弁を主張することは禁じられないと判示しており、そ
の結論は妥当と思われる。
*酒井評釈:最高裁があえて相殺の抗弁を適法としたのは、訴求債権と反訴請求債権の実体法的
関係、すなわち、本訴での訴求債権は瑕疵修補に代わる損害賠償請求権であり、反訴請求債権
は請負代金債権であることから、同一取引の両債権間での差引計算(実質上の代金減額)を企
図したのではなかろうかと指摘されている。
*:
[最高裁一小 H.27.12.14 判*]の末尾の我妻評釈参照。
[大阪高裁 H.18.5.30 判*]H18(ネ)454 号 根抵当権設定登記抹消登記手続請求事件
民法(H16 改正前)153 条(催告)
(破棄・自判、上告不受理)
83
催告後 6 カ月以内・本来の時効期間経過後にされた承認の時効中断効(積極) ―債権者の催
告について、債務者の行為による正規の中断事由である承認(これは権利の存在を明確にする事
由である。
)を、債権者の行為による正規の中断事由と区別する理由はないというべきである。
時効の援用の可否は、援用権者ごとに判断されるから、本件のように、主債務者が債務を承認
し、連帯保証人などが時効を援用する場合には、連帯保証人などによる時効の援用は、主債務者
による承認を根拠としては否定されないこととなり、主債務者の承認による中断を認める場合と
結論が同一になるとは言えない。 *要は、本件では催告により時効完成が猶予されている間の
承認による時効中断であるから、援用自体の対象がないということ。
以上によると、催告後 6 カ月以内にされた承認によつても、民法 153 条が定める催告による時
効中断効が生じると解すべきである。
*本件での「承認」がされたのは H16 の民法 153 条の改正前である。⇔結論は同一とはなる。
判タ 1229-264
一審:神戸地裁尼崎支部 H.18.1.23 判・H17(ワ)755 号
判タ 1229-266
[最高裁二小 H.18.6.16 判*]H16(受)672 号 B 型肝炎訴訟(一部破棄自判・一部棄却)
民法 709 条・724 条、国家賠償法 1 条
一、B型肝炎ウイルスに感染した患者が乳幼児期に受けた集団予防接種等とウイルス感染との
間の因果関係を肯定するのが相当とされた事例
二、乳幼児期に受けた集団予防接種等によってB型肝炎ウイルスに感染しB型肝炎を発症した
ことによる損害につきB型肝炎を発症した時が民法724条後段所定の除斥期間の起算点と
なるとされた事例
[判示要旨]
一、
「原告らは,本件集団予防接種等における注射器の連続使用によってB型肝炎ウイルスに感
染した蓋然性が高いというべきであり,経験則上,本件集団予防接種等と原告らの感染との間の
因果関係を肯定するのが相当である。
」
二、
「民法 724 条後段所定の除斥期間の起算点は『不法行為の時』と規定されており、加害行為
が行われた時に損害が発生する不法行為の場合には,加害行為の時がその起算点となると考えら
れる。しかし,身体に蓄積する物質が原因で人の健康が害されることによる損害や,一定の潜伏
期間が経過した後に症状が現れる疾病による損害のように,当該不法行為により発生する損害の
性質上,加害行為が終了してから相当期間が経過した後に損害が発生する場合には,当該損害の
全部又は一部が発生した時が除斥期間の起算点となると解すべきである(
[最高裁三小 H.16.4.27
判*]
・
[最高裁二小 H.16.10.15 判*]参照)
。上記見解に立って本件をみると,
・・・除斥期間の
起算点は,加害行為(本件集団予防接種等の時ではなく損害の発生(B型肝炎の発症)の時とい
うべきである。
」
民集 60-5-1997
判時 1941-28 判タ 1220-79
石井麥生・別冊ジュリ 219-28 仮屋篤子・速報判例解説 2-87 松並重雄・ジユリ 1356-194
鹿野菜穂子・リマークス 35-58 松久三四彦・判例評論 585-16 & H18 重要判ジュリ 1332-85
原審:札幌高裁 H.16.1.16 判・H12(ネ)196 号
判時 1861-46
一審:札幌地裁 H.12.3.28 判・H1(ワ)1044 号
訟務月報 47-2-235
*:時効・除斥期間の起算点に関する主要判決例の概要は[東京高裁 H.25.10.31 判*]の末尾コ
メントを参照。
[横浜地裁 H.18.6.16 判*] H17(ワ)2328 号 売買代金請求事件(却下・確定)
民訴法 4 条 5 項・5 条 5 項
被告海外法人の我国の営業所所在地を理由とした国際裁判管轄が否定された事例 ― 日本法人
訴外 A が、
「実質的に被告海外法人 Y の『事務所又は営業所』として機能しているとの具体的な
84
事情は、これを認めるに足りる的確な証拠はない。したがって、A は、Y の『事務所又は営業所』
に該当しないから、本件訴訟については、我が国内に民訴法 5 条 5 号、4 条 5 項の規定する裁判
籍はないものと云わざるを得ない。
」
判時 1941-124
福井清貴・ジュリ 1415-120
[最高裁二小 H.18.6.23 判*]H17(受)1192 号預金払戻請求事件(一部破棄自判・一部上告
中小企業等協同組合法 1 条・3 条・9 条の 8、商法 4 条・502 条・503 条・514 条
棄却)
信用協同組合の商人性 ― 中小企業等協同組合法に基づいて設立された信用協同組合は,商法
上の商人には当たらない(
[最高裁二小 S.48.10.5 判*]参照)。また、預金者被上告人が商人で
あることは原審の何ら確定するところではないから、上告人信用協同組合への本件預金契約が商
法 503 条に規定する商行為に当たるということはできない。更に、上告人の業務は、上記のとお
り、営利を目的とするものではないから、本件預金契約が商法 502 条 8 号に規定する商行為に当
たるということもできないし、原審の確定した事実に照らせば、本件預金契約がその他の商行為
に当たるということもできない。以上によれば、上告人の本件預金契約に基づく預金返還債務に
ついての遅延損害金の利率を商事法定利率年 6 分とした原審の判断は是認できない。
集民 220-565 判時 1943-146 判タ 1220-143 金法 1789-22 金判 1252-16
神作裕之・金法 1812-75 早川徹・リマークス 35-76
河津博史・銀行法務 668-59
青竹正一・民商 135-4・5-236
原審:名古屋高裁金沢支部 H.17.2.28 判・H15(ネ)262 号
金判 1252-22
一審:富山地裁 H.15.9.12 判・H13(ワ)330 号
金判 1252-29
[最高裁一小 H.18.7.20 判*] H17(受)948 号所有権確認請求事件
民法 369 条
(一部破棄自判・一部破棄差戻)
一、 動産譲渡担保が重複設定されている場合における後順位譲渡担保権者による私的実行の
可否 ― 動産譲渡担保が同一の目的物に重複して設定されている場合,後順位譲渡担保権
者は私的実行をすることができない。
二、 構成部分の変動する集合動産を目的とする譲渡担保の設定者が、目的動産につき通常の
営業の範囲を超える売却処分をした場合における処分の相手方による承継取得の可否 ―
構成部分の変動する集合動産を目的とする対抗要件を備えた譲渡担保の設定者が,その目的物で
ある動産につき通常の営業の範囲を超える売却処分をした場合,当該譲渡担保の目的である集合
物から離脱したと認められない限り,当該処分の相手方は目的物の所有権を承継取得することは
できない。
民集 60-6-2499 判時 1944-105 判タ 1220-90 金判 1252-4
金法 1792-50
水野信次・銀行法務 666-47
千葉恵美子・H.18 重要判ジュリ 1332-76
片山直也・金法 1812-37
武川幸嗣・判例評論 582-21(C-④-17)
古積健三郎・速報判例解説 1-81 & 民商 136-1-24
森田修・法協 124-11-212
池田雄二・北大法学論集 59-3-405
原審:福岡高裁宮崎支部 H.17.1.28 判・H16(ネ)41 号
民集 60-6-2527 金判 1248-33
一審:宮崎地裁日南支部 H.16.1.30 判・H15(ワ)37 号
民集 60-6-2511 金判 1248-37
[最高裁二小 H.18.9.4 判*]
H17(受)1016 号 損害賠償請求事件(破棄差戻)
民法 1 条 2 項・709 条
「契約締結上の過失」責任を注文者と下請負人間に認めた事例 ―
注文主が、自分が選定す
る施工業者との下請契約締結について信頼させ、且つその者がその準備作業のための支出をなす
と予見し得た場合には、後に注文者が自らの理由で注文をを中止して与えた損害について、不法
85
行為による賠償責任がある旨を判示。
集民 221-63 判時 1949-30 判タ 1223-131 金判 1256-28
円谷峻・民商 136-3-57
坂本武憲・リマークス 36-51
田中宏治・判例評論 583-18
原審:東京高裁 H.17.2.16 判・H16(ネ)4055 号
金判 1256-32
一審:東京地裁 H.16.7.12 判・H16(ワ)10743 号
金判 1256-35
*坂本評釈:本判決は、これまで学説が「契約締結上の過失」責任の下に包摂させてきた類型の
内で、特に契約成立に至らなかった事例に属するものであり、最高裁判決例は、本件のほか次
の四件がある。
①最判 S58.4.19(集民 138-611):土地の売買契約の締結準備がかかる段階に至った場合には、
売主には買主の期待を侵害しないよう誠実に契約の成立に努める信義則上の義務があるとして、
代金支払のために準備した借入金の利息等の賠償責任を認めた。
②最判 S58.11.6(集民 140-573):市の買収用地の残地部分の払下げを都市計画課長が説明した
言辞について、それを信頼した相手方への市にわる不法行為責任が問題となった事例で、最高
裁は、買収交渉事務を担当する権限しかない課長の説明から受け得る利益は、かなりの不確定
要素を含む事実上の期待利益でしかないと判示して市の責任を否定。
③最判 S59.9.18(集民 142-311):分譲マンションの買受希望者が結論を待ってもらいたいとし
て 10 万円を分譲業者に支払い、買受に際しての仕様変更等の問い合わせをし、分譲業者がそれ
に沿った手配をしていたところ、結局購入資金が多額であるとの理由で買取を断った事案。原
審は、契約準備段階に入った者は後に契約が締結されたか否かを問わず相手方に損害を与えな
い注意義務を負うとして、これに違反したとはには信義則上の責任として信頼利益の賠償を認
めるのが相当と判示し(5 割の過失相殺をした)
、最高裁もこれを是認。
④最判 H2.7.5(集民 160-187)
:木材伐採の合弁事業につき基本的了解に達し、その確認所管の
送付と受領、更には基本契約に関する最終的案文も作成されたが、被告による投資方法につい
ての見解の相違や原告が本国で逮捕された事情などから進展せず、最終的に被告から契約締結
中止がなされた事案。原審[東京高裁 S62.3.17 判]は、①の判決を援用しつつ前示の書簡を被
告が異議なく受領した段階で原告に確実な契約成立の期待を抱かせたから、以後は締結に向け
て誠実に努力すべき信義則上の義務があり、特段の事由なき限り無条件で中止することは許さ
れないとの理由により原告の請求を一部容認し、最高裁もこれを是認。
[東京地裁 H.18.9.5 判*]H15(ワ)16689 号 売買代金返還請求事件
民法 95 条・415 条・570 条、商法 526 条
(一部認容・飯給棄却、控訴)
土壌汚染が予見される工場敷地の企業間売買に於いて、売主に土地の来歴・利用形態を説明・
報告すべき信義則上の付随義務とその義務違反による損害賠償責任が認められた事例 ―
① .転売目的での土地の買主が土壌汚染の存在について錯誤に陥っていても、当該目的が表示
され、かつ代金との均衡が著しく害されていない限り、錯誤無効(民法 95 条)を主張し得ない。
② 土壌汚染は土地売買の隠れた瑕疵(民法 570 条)に当るが、商人間での商行為としての土
地売買には商法 526 条が適用され、
「直ちに発見することのできない瑕疵」として、受領後 6 カ
月以内に検査・通知義務を履行しなかった買主は、売主が悪意でない限り、瑕疵担保責任を追及
できない。
③
しかしながら、
「商法 526 条の規定からすれば、買主である・・・原告に売買目的物たる
同土地の瑕疵の存否についての調査・通知義務が肯定されるにしても、土壌汚染の有無の調査は、
一般に専門的な技術及び多額の費用を要するものである。したがって、買主が同調査を行うべき
かについて適切に判断をするためには、売主において土壌汚染が生じていることの認識がなくと
も、土壌汚染を発生せしめる蓋然性のある方法で土地の利用をしていた場合には、土壌の来歴や
従前からの利用方法について買主に説明すべき信義則上の付随義務を負うべき場合もあると解さ
れる。
」 本件においてその信義則上の説明義務を履行しなかった売主は、それによって買主が瑕
疵担保責任を追及する機会を失った結果被った損害を賠償すべき債務不履行責任を負う。
「本件土
86
地を浄化するために必要な費用は 1 億 7,603 万 7,000 円と見積もられており、また、
・・・同土地
の土壌のうち浄化が必要な範囲を確定するために行われた・・・調査は浄化作業と一体をなすも
のとして、その費用 1,260 万円は浄化に付随するものと評価でき、
・・・原告(買主)は被告(売
主)に対し、瑕疵担保責任に基づく損害賠償として、これらの合計 1 億 8,863 万 7,000 円の支払
を請求できたと言える。
」 しかしながら、一方で買主は土木建築工事に関する調査・企画・地質
調査等をも目的とする株式会社であること、及び、少なくとも、売主から送付を受けたカドミウ
ム汚染の噂についての報告書の「尚書き」部分において同土地には量は不詳ながら機械の解体作
業時に流出した油分がしみ込んでいるとの情報提供を受けていることからすれば、前記売主であ
る「被告の説明義務の履行がなくとも自らの判断で土壌汚染調査を行うことが相当程度期待され
ていたと認めることができる。したがって、このような引渡後直ちに土壌汚染調査を行わなかっ
た点についての買主の落ち度も総合して考慮すると、公平の見地から、被告は、前記原告に生じ
た損害の 4 割である 7,545 万 4,800 円を賠償する義務を負うに留まるべきである。
」 専門知識と
能力がありながら商法 526 条の所定期間内に調査義務を履践しなかった買主に、6 割の過失相殺
を判示した。
判時 1973-84
判タ 1248-230
梅村悠・ジュリ 1378-190
松尾弘・リマークス 37-6
*松尾評釈:①・②では従来の判例理論に従いつつ、③で゜は「買主をして注意させよ」原則を
商人間売買についても実質的に修正し、売主・買主間のリスク分配を図った判決として、注目
される。 不動産売買契約においては、売主が買主に対して信義則上負う説明義務の懈怠が損
害賠償義務を発生させることは、判例上確立した法理となっている(最高裁一小 H.16.11.18
判・H16(受)482 号損害賠償請求事件・民集 58-8-2225:これは不法行為に基づく慰謝料請求を
認めた事例である。
)
。
*:商法 526 条の「遅滞なく」「通知」「隠れた瑕疵」の法意を説示した判決例については、[最
高裁三小 H.4.10.20 判]の末尾の注を、その他この制度の買主の通知義務の本質的問題点につ
いては[最高裁三小 S.47.1.25 判]の末尾の注を参照。
[最高裁二小 H.18.9.11 決定*] H18(許)13 号 債権差押命令及び転付命令に対する
民事執行法 10 条・11 条・35 条
執行抗告却下決定に対する許可抗告事件(棄却)
強制執行を受けた債務者が、その請求債権につき強制執行を行う権利の放棄または不執行の
合意があったことを主張して裁判所に強制執行の排除を求める場合に執るべき手続 ―不執行
の合意等は、実体法上、債権者に強制執行の申立をしないという不作為義務を負わせるにとどま
り、執行機関を直接拘束するものではないから、不執行の合意等のされた債権を請求債権として
実施された強制執行が民事執行法規に照らして違法になるということはできない。・・・
執行抗告は、強制執行手続においては、その執行手続が違法であることを理由とする民事執行
の手続内における不服申立の制度であるから、実体上の事由は執行抗告の理由とはならない。
・・・
以上によれば、
・・・執行抗告又は執行異議の方法によることはできず、請求異議の訴えによるべ
きものと解するのが相当である。これと見解を異にする大審院の判例(大審院 S2.3.16 判・民集
6-187)は、変更すべきである。
民集 60-7-2622 判時 1952-92 判タ 1225-205 金法 1794-52 笠井正俊・金法 1844-48
田頭章一・判例評論 584-16(C-④-18)
高橋譲・ジュリ最高裁時の判例Ⅵ-242
三木浩一・法学研究(慶大)80-10-119
原審:東京高裁 H.18.2.14 決定・H18(ラ)122 号
民集 60-7-2632 金判 1266-39
一審:東京地裁 H.18.1.5 判・H17(ワ)40038 号
民集 60-7-2631 金判 1266-41
[最高裁二小 H.18.10.20 判*]
H16(受)1641 号 第三者異議事件(上告棄却)
民法 369 条(譲渡担保)
、民事執行法 38 条 1 項
譲渡担保権者の債権者が、被担保債権の弁済期後に目的不動産を差押えた場合において、設定
87
者が第三者異議の訴えにより強制執行の不許を求めることはできない ― 本件は、被担保債権
の弁済期後に譲渡担保権者の債権者である被上告人が目的不動産を差押え、その差押登記後に設
定者である上告人が受戻権を行使したというのであるから、上告人は、受戻権の行使による目的
不動産の所有権の回復を差押債権者である被上告人に主張することができず、第三者異議の訴え
によって強制執行の不許を求めることができないというべきである。
なお、上記とは異なり、被担保債権の弁済期前に譲渡担保権者の債権者が目的不動産を差押え
た場合は、少なくとも、設定者が弁済期までに債務の全額を弁済して目的不動産を受戻したとき
は、設定者は、第三者異議の訴えにより強制執行の不許を求めることができると解するのが相当
である。それは、弁済期前においては、譲渡担保権者は、債権担保の目的を達するのに必要な範
囲内で目的不動産の所有権を有するに過ぎず、目的不動産を処分する権能を有しないから、この
ような差押えによって設定者による受戻権の行使が制限されると解すべき理由はないからである。
民集 60-8-3098 判時 1950-69 判タ 1225-187 金判 1254-23 金法 1794-49
占部洋之・判例評論 590-19(C-④-24)田高寛貴・速報判例解説 1-93
生熊長幸・金法 1812-41&民商 136-2-101
道垣内弘人。法協 128-7-241
池田雄二・北大法学論集 61-3-92
原審:大阪高裁 H.16.6.30 判・H15(ネ)733 号
民集 60-8-3116 金判 1254-29
一審:大阪地裁 H.15.2.5 判・H14(ワ)9038 号
民集 60-8-3112 金判 1254-33
[最高裁三小 H.18.11.14 判*]
H17(受)1594 号 求償金請求事件(破棄自判)
民法 147 条・155 条・501 条、民事執行規則 171 条
物上保証人に対する不動産競売の開始決定正本が主債務者に送達された後に、同物上保証人が
代位弁済をした上で差押債権者の承継を執行裁判所に申し出たが、承継の申出について民法
155 条所定の通知がされなかった場合における同物上保証人の主債務者に対する求償権の消滅
時効の中断の有無 ― 主債務者から保証の委託を受けていた保証人が、代位弁済をした上で、
債権者から物上保証人に対する担保権の移転の付記登記を受け、差押債権者の承継を執行裁判所
に申出た場合には、その承継の申出について主債務者に対して民法 155 条所定の通知がされなく
ても、代位弁済によって保証人が主債務者に対して取得する求償権の消滅時効は、その承継の申
出の時から当該不動産競売手続の終了に至るまで中断すると解するのが相当。⇔最高裁として初
めて示された判断。
民集 60-9-3402 判時 19954-39 判タ 1227-116 金判 1260-21 金法 1794-42
細川泰毅・ジュリ 1340-97 (E-3-28)
吉田光碩・判例評論 584-8(C-④-20)
山野目章夫・金法 1812-26 古積健三郎・速報判例解説 2-83 高橋眞・民商 136-6-37
吉岡伸一・判タ 1232-54
原審:福岡高裁 H.17.4.27 判・H16(ネ)1023 号
民集 60-9-3422 金判 1260-30
一審: 佐賀地裁 H.16.10.25 判・H16(ワ)303 号
金判 1260-34
[大阪高裁 H.18.12.13 判*]
H18(ネ)1873 号 請求異議事件
民事執行法 159 条、民法 423 条 1 項
(原判決取消、請求棄却・上告・和解)
代位債権者が債権者代位訴訟による給付判決を取得した後に被代位債権について差押債権者が
転付命令を取得した場合の転付命令の効力(消極) ― 債権者代位権の行使としての訴えの提
起には、一面において代位債権者に目的たる権利についての管理権を取得させ、他面において債
務者(被代位債権の債権者)に対して処分制限の効力を生ずる効力があるということができる。
代位債権者の訴えの提起は、自己の債権の保全ないし実現のために、債務者に属する債権を取り
立てるという点において、実質上、差押・取立命令を得た債権者が取立訴訟を提起しているのと
異ならないということができるから、上記処分制限の効力が生じたときは、民事執行法 159 条 3
項を類推適用すべきであり、債権者代位訴訟の提起後に他の債権者が得た転付命令は無効である。
88
判時 1984-39
高田賢治・判例評論 595-18(C-④-26)
笠井正俊・リマークス 38-130
中島弘雄・法学研究(慶大)82-10-98
一審:京都地裁 H.18.6.2 判
南雲大輔・判タ 1264-87
*笠井評釈:取立訴訟が先に提起され、その後に債権者代位訴訟が提起された場合の規律につい
ては、本件の射程外である。この場合、債権者代位訴訟の意味は小さいし債権差押の時期につ
いての民事執行法 165 条 2 号の制限の潜脱を許すべきではないので、遅くとも取立訴訟の訴状
が第三債務者に送達された時以後に提起された債権者代位の訴えは不適法と解すべきであろう。
[最高裁三小 H.19.2.13 判*]H18(受)1187 号不当利得返還等請求本訴・貸金返還請求反訴
利息制限法 1 条 1 項、民法 488 条・404 条・704 条、商法 514 条
事件(破棄差戻)
一、 貸主と借主との間で基本契約が締結されていない場合に、第1の貸付に係る債務の各弁
済金のうち利息制限法1条1項所定の利息の制限額を超えて利息として支払われた部分を元
本に充当すると過払金が発生するので、その後第2の貸付けに係る債務が発生したときにお
ける第1の貸付けに係る過払金の同債務への充当の可否 ― 貸主と借主との間で継続的に貸
付けが繰り返されることを予定した基本契約が締結されていない場合には,特段の事情のない限
り,第1の貸付けに係る過払金は,第1の貸付けに係る債務の各弁済が第2の貸付けの前にされ
たものであるか否かにかかわらず,第2の貸付けに係る債務には充当されない。
ニ、商行為である貸付けに係る債務の弁済金のうち利息制限法1条1項所定の利息の制限額を
超えて利息として支払われた部分を元本に充当することにより発生する過払金を不当利得と
して返還する場合において悪意の受益者が付すべき民法704条前段所定の利息の利率 ―
商行為である貸付けに係る債務の弁済金のうち利息制限法1条1項所定の利息の制限額を超えて
利息として支払われた部分を元本に充当することにより発生する過払金を不当利得として返還す
る場合において,悪意の受益者が付すべき民法704条前段所定の利息の利率は,民法所定の年
5分である。
「商法 514 条の適用又は類推適用されるべき債権は、商行為によって生じたもの又は
これに準ずるものでなければならないところ、上記過払金についての不当利得返還請求権は、高
利を制限して借主を保護する目的で設けられた利息制限法の規定によって発生する債権であって、
営利性を考慮すべき債権ではないので、商行為によって生じたもの又はこれに準ずるものと解す
ることはできないからである。
」
民集 61-1-182 判時 1962-67 判タ 1226-99
伊沢和平・別冊ジュリ 194-88
宮本幸裕・法律時報 79-7-123
原審:広島高裁松江支部 H.18.3.31 判・H17(ネ)92 号
民集 61-1-222 金判 1262-21
一審:鳥取地裁米子支部 H.17.9.26 判・H16(ワ)73 号他 民集 61-1-191 金判 1262-24
[最高裁一小 H.19.2.15 判*] H16(行ヒ)310 号 債権差押処分取消請求事件(破棄自判)
国税徴収法 24 条、民法 369 条・467 条 2 項、
集合債権譲渡担保契約において国税の法定納期限前に第三者に対する対抗要件が具備されてい
た場合、将来債権も国税債権に優先する ― 国税の法定納期限等以前に,将来発生すべき債権
を目的として,債権譲渡の効果の発生を留保する特段の付款のない譲渡担保契約が締結され,そ
の債権譲渡につき第三者に対する対抗要件が具備されていた場合には,譲渡担保の目的とされた
債権が国税の法定納期限等の到来後に発生したとしても,当該債権は国税徴収法24条6項にい
う「国税の法定納期限等以前に譲渡担保財産となっている」ものに該当する。従って、国税徴収
法 24 条 3 項に基づき第二次納税義務者として譲渡担保権者に対してなされた本件債権の差押は違
法である。
民集 61-1-243 判時 1963-57 判タ 1237-140 金判 1264-18 同 1266-22 金法 1803-85
池田真朗・金法 1812-30
鳥谷部茂・リマークス 36-18
高野幸大・判例評論 588-26(C-④-22)
89
原審:東京高裁 H.16.7.21 判・H15(行コ)133 号 民集 61-1-273 金判 1264-28 金法 1723-43
一審:さいたま地裁 H.15.4.16 判・H14(行ウ)24 号
民集 61-1-258 金判 1264-31
[高松高裁 H.19.2.22 判*] H17(ネ)400 号&18(ネ)192 号 損害賠償請求控訴、
民法 147 条・153 条、民訴法 147 条
同附帯控訴事件(控訴棄却、附帯控訴につき
原判決変更・確定)
数量的な一部を明示して損害賠償を求める訴訟の継続中に請求が拡張された場合において、
損害賠償請求権の残部につき、民法 153 条の催告が継続しているものとされた事例 ―被控訴
人(原告)らは、本件訴訟において、認容を求める請求額の上限を画して訴えを提起してはいる
ものの、特段損害項目を特定して請求額を限定したものではなく、本件交通事故により死亡した
本人及び父母である被控訴人らの被った全損害につき、自賠法 3 条本文に基づく損害賠償請求権
を有することを主張し、請求額を超える全損害の内容及び損害額の主張立証をし、単に請求した
額の限度での支払を求めていたに過ぎないのであるから、そのような事実関係の下においては、
被控訴人らは、本件訴訟の提起及び係属により、当審拡張請求(当審での残部請求)部分につい
てもこれを行使する意思を継続的に表示していたものと評価するのが相当であって、同部分につ
き、民法 153 条にいう「催告」が継続していたと解するのが相当である。
判時 1960-40 判タ 1235-199
小田敬美・リマークス 36-118
石渡哲・法学研究(慶大)81-6-131
一審:徳島地裁美馬支部 H.17.10.25 判・H16(ワ)3 号
[最高裁三小 H.19.2.27 判*]H17(受)869 号・損害賠償請求事件(一部破棄差戻・一部棄却)
民法 1 条 2 項・415 条・709 条
Xの開発,製造したゲーム機を順次XからY,YからAに販売する旨の契約が締結に至らなか
った場合においてYがXに対して契約準備段階における信義則上の注意義務違反を理由とする
損害賠償責任を負うとされた事例 ― XがAの意向を受けて開発,製造したゲーム機を順次X
からY,YからAに継続的に販売する旨の契約が,締結の直前にAが突然ゲーム機の改良要求を
したことによって締結に至らなかった場合において,Yが,開発等の続行に難色を示すXに対し,
Aから具体的な発注を受けていないにもかかわらず,ゲーム機200台を発注する旨を口頭で約
したり,具体的な発注内容を記載した発注書及び条件提示書を交付するなどし,ゲーム機の売買
契約が確実に締結されるとの過大な期待を抱かせてゲーム機の開発,製造に至らせたなど判示の
事情の下では,Yは,Xに対する契約準備段階における信義則上の注意義務に違反したものとし
て,これによりXに生じた損害を賠償する責任を負う。
集民 223-343 判時 1964-45 判タ 1237-170 金判 1274-21
福本忍・法律時報 83-5-123
野澤正充・NBL855-14
池田清治・民商 137-3-85
大島梨沙・北大法学論集 61-4-205
長久保尚善・別冊判タ 22-60
原審:東京高裁 H.17.1.26 判・H14(ネ)5747 号
金判 1274-27
一審:東京地裁 H.14.10.28 判・H10(ワ)26179 号
金判 1274-31
*[最高裁三小 S.58.4.19 判*]の江頭教授の指摘参照。
[最高裁一小 H.19.3.8 判*] H17(受)1996 号 不当利得返還請求事件
民法 703 条、
(一部破棄自判・一部上告棄却)
法律上の原因なく代替性のある物(株券)を利得した受益者が、利得した物を第三者に売却処
分した場合に負う不当利得返還義務の内容 ― ①.受益者は、法律上の原因なく利得した代替性
のある物を第三者に売却処分した場合には、損失者に対し、原則として、売却代金相当額の金員
の不当利得返還義務を負うと解するのが相当であると判示。 ②.事実審口頭弁論終結時における
90
同種・同等・同量の物の価格相当額であるとする大審院 S18(オ)521 号・S18.12.22 判決(法律新
聞 4890-3)は、返還すべき時点での価格の変動により受益者を益しあるいは現に保持する利益以
上の返還義務を負担させることになり、公平の見地からも、受けた利益を返還するという不当利
得の本質に適合しない。上記②と抵触する限度において判例変更すべき。
民集 61-2-479 判時 1965-64
金法 1810-120
商判集三-52 磯村保・金法 1844-71
中村心・ジュリ 1344-86 平田建治・リマークス 36-47 同・判例評論 587-18(C-④-21)
大杉謙一・民商 137-2-81
原審:東京高裁 H.17.7.27 判・H17(ネ)1587 号
民集 61-2-503
一審:東京地裁 H.17.2.17 判・H16(ワ)7766 号
民集 61-2-488
[東京地裁 H.19.3.26 判*]
H18(ワ)20585 号 詐害行為取消請求事件(請求棄却・確定)
民法 424 条、民事再生法 39~41 条・56 条・135 条・174 条 2 項 4 号
民事再生手続が開始され当該手続が進行中の状況の下では、再生債権者は再生債権を被保全債
権とする詐害行為取消権を行使することは、実体法上許されないものと解すべきである。
判時 1967-105 金判 1266-44
佐藤岩昭・判例評論 589-29(C-④23)
[東京地裁 H.19.3.29 判*]
H18(ワ)1011 号 否認権行使等請求事件
破産法 2 条 11 項・71 条
(請求一部容認、一部棄却・控訴)
一、 破産法 2 条 11 項所定の「支払不能」があったと認められた事例 ― 「支払不能」である
か否かは、現実に弁済期の到来した債務について判断すべきであり、支払能力を欠くとは、債務
者の財産状態、信用の状況および労務による収入の可能性いずれをとっても、債務を弁済する能
力がないことを言い、それらの事実を認定して、破産法 2 条に定める「支払不能」にあたるとし
た。
二、 破産法 71 条 1 項 3 号所定の「支払の停止」があったと認められた事例 ― 債務者が手形
不渡りを出すことを認識しつつ、手形債務の決済資金について一切手当をしなかった行為を、破
産法 71 条に定める「支払の停止」にあたるとした。
金判 1279-48 金法 1819-40
西澤宗英・リマークス 37-136 山本克己・金法 1844-56
*西沢評釈:本判決は、H.17 新破産法施行後初めて、2 条 11 項および 71 条 1 項 3 号に定める「支
払不能」及び「支払の停止」の意義についての判示である。とりわけ「支払不能」については、
破産手続開始原因としてとは別に、新法が否認権行使の基準時としても「支払不能」基準を導入
したことを受けて、具体的な事案で同条を適用し、金融機関が破産者から受けた弁済が、債権者
が「支払不能」を知った後にされたものであるとして、破産管財人による否認権行使を認めた例
として意味がある。その「支払不能」とは弁済期未到来の債務を将来弁済することができないこ
とが確実に予想されたとしても、弁済期の到来した債務を現在支払っている限り、支払不能とい
うことはできないと判示している。 「支払の停止」についても、破産原因である「支払不能」
を推定する事実としての「支払停止」ではなく、「支払停止」後に債権者が、これを知って債務
を負担した場合には、相殺が許されないとし、破産原因推定事実としての支払停止の概念を、相
殺禁止の要件としての支払停止概念に適用しており、いわゆる二義性説を採用しておらず、妥当
な判断である。
[知的財産高裁 H.19.4.5 判**]H18(ネ)10036 号 著作権差止等・著作権損害賠償請求
民法 415 条・533 条
控訴事件(一部認容のほか控訴棄却)
キースヘリング作品の商品化権に関するライセンス契約の解除原因の存否と不安の抗弁権
[判示要旨]
先行支払義務のミニマムロイヤリティ不払を認容する理由に、不安の抗弁の次の通り是認判示
91
された。
「継続的取引契約により当事者の一方が先履行義務を負担し、他方が後履行義務を負担する関係
にある場合に、契約成立後、後履行義務者による後履行義務の履行が危殆化された場合には、後
履行義務の履行が確保されるなど危殆化をもたらした事由を解消すべき事由のない限り、先履行
義務者が履行期に履行を拒絶したとしても違法性はないものとすることが、取引の信義則及び契
約当事者間の公平に合致するものと解される。いわゆる不安の抗弁権とは、かかる意味において
自己の先履行義務の履行が拒絶できることであると言うことができる。そして、後履行義務の履
行が危殆化された場合としては、契約締結当時予想されなかった後履行義務者の財産状態の著し
い悪化のほか、後履行義務者が履行の意思を全く有しないことが契約締結後に判明した場合も含
まれると解するのが相当である。
」
判決文:判例検索システム>検索条件指定画面
http://www.courts.go.jp/search/jhsp0010?hanreiSrchkbn=02
一審:東京地裁 H.18 判・H.17(ワ)3646 号& 20463 号
*古田:同時履行の関係にない先履行義務者に判例で認められてきている「不安の抗弁権」は、
まだ最高裁判決には見当たらないが、本件の外にも下級審のものは少なくない。
[東京地裁 H.9.8.29 判*]末尾の古田コメントを参照。
[最高裁三小 H.19.4.17 判*]
H18(受)1026 号 保険金請求事件(破棄差戻)
商法旧 629・641 条、民法 91 条、民訴法第 2 編第 4 章第 1 節(総則)
)
車両保険の支払を請求する場合における事故の偶発性についての主張立証責任 ― 「衝突、接
触・・・その他偶然な事故」及び「被保険自動車の盗難」を保険事故として規定している家庭用
総合自動車保険約款に基づき、上記盗難にあたる「保険事故が発生したとして保険者に対して車
両保険金の支払を請求する者は、
『被保険者以外の者が被保険者の占有に係る被保険自動車をその
所在から持ち去ったこと』という外形的な事実を主張、立証すれば足り、被保険自動車の持ち去
りが被保険者の意思に基づかないものであることを主張、立証すべき責任を負わない。
」
民集 61-3-1026 判時 1970-32 判タ 1242-104
商判集三-360
高橋譲・ジュリ「最高裁時の判例Ⅵ」-242 木下孝治・H.19 重要判ジュリ 1354-117
山野嘉朗・判例評論 588-38
山本哲生・リマークス 37-104
原審:福岡高裁 H.18.2.23 判・H16(ネ)669 号
民集 61-3-1061 金判 1267-33
一審:福岡地裁 H.16.7.5 判・H15(ワ)769 号
民集 61-3-1041 金判 1267-33
*高橋評釈:損害保険における事故の偶発性の主張立証責任については、既に車両の水没、引っ
掻き傷を保険事故として車両保険契約に基づく保険金請求がされた各事例において、最高裁は、
平成 18 年 6 月、当該保険契約の約款の解釈として、保険金請求者は事故の偶発性について主張
立証責任を負わない旨を判示していた(最高裁一小 H18.6.1 判:民集 60-5-1887、最高裁三小
H18.6.6 判:集民 220-391)
。 本判決は、自動車の盗難を保険事故とする保険金請求事件につ
いて、これまで下級審においても見解が分かれていた事故の偶発性の主張立証責任について最
高裁としての判断を明確に示したものである。
*[東京高裁 S.41.8.29 判*]の古田評釈参照。
[最高裁三小 H.19.5.29 判*] H18(受)882 号・横田基地夜間飛行差止等請求事件
民事訴訟法 135 条
(破棄自判)
横田基地騒音公害訴訟上告審判決
将来の給付の訴えを提起する請求権としての適格を有しないものとされた事例 ― 継続的不
法行為に基づき将来発生すべき損害賠償請求権については、たとえ同一態様の行為が将来も継続
されることが予測される場合であっても、損害賠償請求権の成否及びその額があらかじめ一義的
に明確に認定することができず、具体的に請求権が成立したとされる時点において初めてこれを
92
認定することができ、かつ、その場合における権利の成立要件の具備については債権者において
これを立証すべく、事情の変動を専ら債務者の立証すべき新たな権利成立阻止事由の発生として
とらえてその負担を債務者に課するのは不当であると考えられるようなものは、将来の給付の訴
えを提起することのできる請求権としての適格を有しないものと解するのが相当である。
集民 224-391 判時 1978-7
山本和彦・判例評論 592-2(C-④-25)
渡辺森児・法学研究(慶大)81-4-104
野村秀敏・民商 137-4・5-107
原審:東京高裁 H.17.11.30 判・H14(ネ)3644 号
判時 1938-61
一審:東京地裁八王子支部 H.14.5.30 判・H8(ワ)763 号他
判時 1790-47
[最高裁二小 H.19.6.11 判*]H17(受)957・不当利得返還請求事件(破棄差戻)
民法 91 条
コンビニエンス・ストアのフランチャイズ契約に加盟店は運営者に対し加盟店経営に関する対
価として売上高から売上商品原価を控除した金額に一定の率を乗じた額を支払う旨の条項があ
る場合において、消費期限間近などの理由により廃棄された商品の原価等は売上高から控除さ
れないとされた事例 ― コンビニエンス・ストアのフランチャイズ・チェーンを運営する甲と
その加盟店の経営者である乙との間の加盟店基本契約の条項中に,乙は甲に対し加盟店経営に関
する対価として「売上総利益(売上高から売上商品原価を差し引いたもの)
」に一定の率を乗じた
額を支払う旨の定めがある場合において,(1)「売上商品原価」という上記文言は,企業会計上一
般に言われている売上原価を意味するものと即断することはできないこと,(2)本件契約書の付属
明細書には廃棄ロス原価(消費期限間近などの理由により廃棄された商品の原価合計額)及び棚
卸ロス原価(帳簿上の在庫商品の原価合計額と実在庫商品の原価合計額の差額であって,万引き
や各店舗の従業員の商品等の入力ミスなどを原因として発生した金額)が営業費となることが定
められ,甲の担当者は,上記契約が締結される前に,乙に対し,それらは営業費として加盟店経
営者の負担であることを説明していたこと,(3)乙が上記契約締結前に甲から店舗の経営委託を受
けていた期間中,当該店舗に備え付けられていた手引書の損益計算書についての項目には,
「売上
総利益」は売上高から「純売上原価」を差し引いたものであり,
「純売上原価」は「総売上原価」
から「仕入値引高」,
「商品廃棄等」及び「棚卸増減」を差し引いて計算されることが記載されて
いたことなど判示の事情の下では,上記契約条項所定の「売上商品原価」は,実際に売り上げた
商品の原価を意味し,廃棄ロス原価及び棚卸ロス原価を含まないものと解されるから,これらは,
乙が支払うべき加盟店経営に関する対価の上記算定に当たり,売上高から控除されない。
(補足意見がある。
)
集民 224-521 判時 1980-60 判タ 1250-76 金判 1271-44
伊藤雄司・別冊ジュリ 194-128
木村義和・法律時報 82-7-100
原審:東京高裁 H.17.2.24 判・H16(ネ)3368 号
金判 1250-33
一審:東京地裁 H.16.5.31 判・H14(ワ)5769 号
*木村評釈:コンビニ本部は食品の大量廃棄を前提としたビジネスモデルを確立している。それ
にもかかわらず、廃棄ロスは全て加盟店負担であり、廃棄ロスにもチャージ(ロイヤルティ)
をかけている。しかも、廃棄が増えれば増えるほど、本部に利益が出るコンビニ会計と呼ばれ
る会計方式を採用している。 即ち、
『チャージ金額=[売上高-(売上原価-廃棄ロス原価-
棚卸ロス原価)
]×チャージ率』である。 本件は、一般的な会計実務算定方式とは異なるこの
問題が、初めて最高裁で扱われた事案である。
[最高裁二小 H.19.7.6 判*] H17(受)702 号 損害賠償請求事件(破毀差戻)
民法 709 条
別府マンション事件:建物の設計者・施工者又は工事監理者が、建築された建物の瑕疵により
生命・身体又は財産を侵害された者に対し不法行為責任を負う場合 ― 「建物の建築に携わる
93
設計者、施工者及び工事監理者(以下、併せて「設計・施工者等」という。
)は、建物の建築に当
たり、契約関係にない居住者等に対する関係でも、当該建物に建物としての基本的な安全性が欠
けることがないように配慮すべき注意義務を負うと解するのが相当である。そして、設計・施工
者等がこの義務を怠ったために建築された建物に建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵があ
り、それにより居住者等の生命・身体又は財産が侵害された場合には、設計・施工者等は、不法
行為の成立を主張する者が上記瑕疵の存在を知りながらこれを前提として当該建物を買い受けて
いたなど特段の事情がない限り、これによって生じた損害について不法行為による賠償責任を負
うというべきである。
」
民集 61-5-1769 判時 1984-34 判タ 1252-120
円谷峻・H.19 重要判ジュリ 1354-89
鎌野邦樹・NBL875-4 新堂明子・NBL890-53
平野裕之・民商 137-4・5-68
山口成樹・判例評論 593-23
花立文子・リマークス 37-48
仮屋篤子・速報判例解説 4-73
橋本佳幸・別冊ジュリ 196-161
原審:福岡高裁 H.16.12.16 判・H15(ネ)295 号(請求棄却)
民集 61-5-1892
一審:大分地裁 H.15.2.24 判・H8(ワ)385 号(被告「設計・施工者等」の不法行為責任を
一部認容)
民集 61-5-1775
*古田:円谷評釈は、
「従来、建物の安全性を配慮すべき注意義務が建物の設計者・施工者・工事
監理者に課せられていることを明言した最高裁判決はなく、本判決は、理論的にも、実際的に
もきわめて重要な判決である。
」と評されている。平野評釈も「本判決は買主を保護する為に買
主に請負人に対する直接の請求権を認めようとした点では高い評価がされるべきである。」が、
その不法行為の成立要件にはそれが『拡大損害(当該瑕疵による人の生命・身体・健康・当該
建物以外の財物への侵襲から生じる損害)』であるかの如き上記判示であるため、買主である原
告ら請求はそのような『拡大損害』ではなく補修費用や瑕疵による価値の低下分の賠償請求で
あるから、原審に差戻されても、そのような拡大損害は生じていないとして結局は請求棄却と
されてしまう可能性が高いと指摘されている。そして、本判決は不法行為の借用でなく、民法
423 条(債権者代位権)の転用による直接訴権を実質的に実現すべきであったと指摘されてい
る:同評釈 86 頁。
案の定、福岡高裁の差戻審判決 H.21.2.6 判(第二次上告審[最高裁一小 H.23.7.21 判*]の
原審)は、「
『建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵』とは、建物の瑕疵の中でも、居住者
等の生命・身体又は財産に対する現実的な危険性を生じさせる瑕疵をいうものと解される。」と
判示して現実的な危険性の立証がないことから設計・施工者等の不法行為責任を否定し、請求
を棄却したので原告らは再度上告。その第二次上告審[最高裁一小 H.23.7.21 判*]は、
「第一
次上告審判決にいう『建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵』とは、居住者等の生命・身
体又は財産を危険にさらすような瑕疵をいい、建物の瑕疵が、居住者等の生命・身体又は財産
に対する現実的な危険をもたらしている場合に限らず、当該瑕疵の性質に鑑み、これを放置す
ればいずれは居住者等の生命・身体又は財産に対する危険が現実化することとなる場合には、
当該瑕疵は、建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵に該当すると解するのが相当である。
」
と判示して、再度、福岡高裁に破棄・差戻した。
これを受けた二度目の差戻審である福岡高裁の第三次控訴審[福岡高裁 H.24.1.10 判*]は、
上記の第二次上告審判決に沿って、設計・施工者等の不法行為責任を一部認める判決[福岡高
裁 H.24.1.10 判*]をしたが、その認容額は、請求額 3 億 5,084 万円余のうち 3,822 万円余で
あった(第一審:大分地裁 H.15.2.24 判での認容額は 7,393 万円余)。更に上告されたが、棄
却・不受理決定となり確定した。→[最高裁一小 H.23.7.21 判*]
・
[福岡高裁 H.24.1.10 判*]
を参照。
[最高裁二小 H.19.7.13 判①*] H17(受)1970 号・不当利得返還請求事件(一部破棄差戻・
利息制限法 1 条 1 項、貸金業法 17 条 1 項・43 条 1 項、
一部棄却)
同法施行規則 13 条 1 項 1 号チ、民法 704 条
94
一、 各回の返済金額について一定の元利金の記載と共に「別紙償還表記載のとおり」との記
載のある借用証の写が借主に交付された場合において、当該償還表の交付がなければ、貸
金業の規制等に関する法律 17 条 1 項に規定する書面の交付があったとは言えないとされた
事例 ―
貸金業者が返済方式を元利均等方式とする貸付けをするに際し,貸金業の規制
等に関する法律17条1項に規定する書面に当たるものとして借用証書の写しを借主に交付した
場合において,(1)当該借用証書写しの「各回の支払金額」欄に,一定額の元利金の記載と共に「別
紙償還表記載のとおりとします。
」との記載があり,償還表は借用証書写しと併せて一体の書面を
なすものとされ,各回の返済金額はそれによって明らかにすることとされていること,(2)「各回
の支払金額」欄に元利金として記載されている一定額と償還表に記載された最終回の返済金額が
一致していないことなど判示の事実関係の下では,償還表の交付がなければ,同項の要求する各
回の「返済金額」の記載がある書面の交付があったとはいえない。
二、貸金業者が利息制限法 1 条 1 項所定の制限を越える利息を受領したことにつき貸金業の規
制等に関する法律 43 条 1 項の適用が認められない場合と民法 704 条の「悪意の受益者」
⇔貸金業者を悪意の受益者と認定 ― 貸金業者が利息制限法1条1項所定の制限を超える
利息を受領したが,その受領につき貸金業の規制等に関する法律43条1項の適用が認められな
い場合には,当該貸金業者は,同項の適用があるとの認識を有しており,かつ,そのような認識
を有するに至ったことについてやむを得ないといえる特段の事情があるときでない限り,民法
704 条の「悪意の受益者」であると推定される。
民集 61-5-1980 判時 1984-26 判タ 1252-110 金判 1279-27 金法 1823-85
石黒清子・別冊判タ 22-80 二村浩一・金法 1844-63(RF-16) 大澤逸平・法協 127-1-168
原審:東京高裁 H.17.7.27 判・H16(ネ)4567 号
民集 61-5-2004 金判 1272-24
一審:東京地裁 H.16.8.5 判・H16(ワ)3579 号
民集 61-5-1988 金判 1272-27
*古田:貸金業法 43 条 1 項の適用が認められれば、利息制限法 1 条 1 項を超過する受領金利部
分は元本への充当として認められるが、そうでなければ非債弁済となり、且つ民法 704 条の悪
意の受益者と認定されれば、不当利得に利息を付加しての返還義務があり、且つ損害があれば
その賠償義務も負う。 上記の貸金業法 43 条は、H.21 の法改正で廃止された。
[最高裁二小
H.18.1.13 判*]の末尾古田コメント参照。
[最高裁二小 H.19.7.13 判②*]H18(受)276 号 不当利得返還請求事(破棄差戻)
民法 704 条、貸金業の規制に関する法律 18 条 1 項・43 条 1 項、利息制限法 1 条 1 項
利息制限法 1 条 1 項所定の制限を越える利息を受領した貸金業者が、判例の正しい理解に反し
て貸金業の規制等に関する法律 18 条 1 項に規定する書面の交付がなくても同法 43 条 1 項の適
用があるとの認識を有していたとしても、民法 704 条の「悪意の受益者」であるとする推定を
覆す特段の事情があるとはいえないとされた事例 ― 利息制限法 1 条 1 項所定の制限を越え
る利息を受領した貸金業者が、その預金口座への振込を受けた際に貸金業の規制等に関する法律
18 条 1 項に規定する書面を債務者に交付していなかったために同法 43 条 1 項の適用を受けられ
なかった場合において、当該貸金業者が、事前に債務者に約定の各回の返済期日及び返済金額等
を記載した償還表を交付していれば上記書面を交付しなくても同項の適用があるとの認識を有し
ていたとしても、当時既に存した判例(最高裁一小 H11.1.21 判・H8(オ)250 号・民集 53-1-98)
の説示によれば、同項の適用が認められるためには償還表の交付がされていても上記書面が交付
される必要があることは明らかであるなど判示の事情の下では、
「上記書面の交付がなくても他の
方法で貸付金の元金及び利息の内訳を債務者に了知させていたときには同項の適用が認められる
との見解が主張され、これに基づく貸金業者の取扱も少なからず見られた」というだけで、上記
の認識を有するに至ったことについてやむを得ないといえる特段の事情があるとは言えず、上記
貸金業者は民法 704 条の「悪意の受益者」であるとする推定を覆すことはできない。
集民 225-103 判時 1984-31 金判 1272-32
金法 1823-85
石黒清子・別冊判タ 22-80
二村浩一・金法 1844-63(RF-16)
95
原審:東京高裁 H.17.10.27 判・H17(ネ)3075 号
金判 1272-34
一審:東京地裁 H.17.5.6 判・H15(ワ)16018 号
金判 1272-35
*:
[最高裁二小 H.18.1.13 判*]の末尾古田コメント参照。
[最高裁一小 H.19.11.1 判*] H17(受)1977 号・損害賠償請求事件(上告棄却)
国家賠償法 1 条 1 項、原爆医療法 2 条・3 条、原爆特別措置法 5 条、
被爆者援護法 1 条・2 条・27 条
違法な通達と国家賠償責任 ― 国家賠償請求において通達の発出行為を、行政機関には「慎重
な検討を行うべき」義務が存するとして違法と判示した初の最高裁判決
[事案概要] 厚生省公衆衛生局長 S49.7.22 衛発第 402 号通達「原子爆弾被爆者の医療等に関す
る法律及び原子爆弾被爆者に対する特別措置に関する法律の一部を改正する法律等の施行につい
て」の発出とこれに基づく失権取扱いにより韓国人の元徴用工が被った精神的損害を賠償する国
の国家賠償責任があるとした事例
[判示要旨] 「一般に、通達は、行政上の取扱の統一性を確保するために上級行政機関が下級
行政機関に対して発する法解釈の基準であって、国民に対して直接の法的拘束力を有するもので
はないにしても、原爆三法の統一的な解釈、運用について直接の権限と責任を有する上級行政機
関たる上告人(国)の担当者が上記のような重大な結果を伴う通達を発出し、これに従った取扱
を継続するに当たっては、その内容が原爆三法の規定の内容と整合する適法なものと云えるか否
かについて、相当程度に慎重な検討を行うべき職務上の注意義務が存したものと云うべきであ
る。
・・・402 号通達発出の時点で、
・・・法律上の根拠を欠く違法な取扱であることを認識する
に至ったものと考えられるところである。
・・・上告人の担当者の原爆三法の解釈を誤った違法な
402 号通達の作成、発出及びこれに従った失権取扱の継続によって、原告らが財産上の損害を被
ったとまですることはできないことを前提として、原告らは法的保護に値する内心の静穏な感情
を侵害され精神的損害を被ったものとして各原告に 100 万円の慰謝料を認めた原審の判断は、是
認できないではない。
」 (反対意見がある。
)
民集 61-8-2733
稲葉和正・速報判例解説 vol.2-69 頁
岡田正則・H19 重要判ジュリ 1354-40
北村和生・民商 138-3-89
原審:広島高裁 H.17.1.19 判・H11(ネ)206 号
民集 61-8-2805 判時 1903-23
一審:広島地裁 H.11.3.25 判・H7(ワ)2158 号 訟務月報 47-7-1-1677
[東京地裁 H.19.11.26 判*]H17(ワ)24555 号 損害賠償請求事件(一部容認・一部棄却、
民法 1 条・415 条・709 条
確定)
中国の工場に発注する食料品の買付と納入を原告食料品貿易会社に行わせていた被告フランチ
ャイズ経営会社が、継続的取引契約の締結はないが数年にも及んでいる原告との取引を一方的
に解約して中国の工場と直接取引を開始したことが、信義則上の配慮義務違反であるとして、
解約までに設けるべきであった猶予期間分相当の損害賠償責任が認められた事例 ― ①.原告
会社は H.13.8 から被告会社とこの取引を行っており、被告会社の需要の量と質に即した仕入先工
場の開拓・品質保持等に努めてきていた。
「被告は、原告の被告との取引に対する依存度が相当程
度大きいことを認識していたところ、H.16.3.には被告が原告への口銭率を従前の 5%から3%に
することを原告に承諾させたが、その後の同年 4 月以降も相当多額の取引がされていることが認
められる。
・・・以上のような本件取引に係る諸事情からすれば、原告と被告との間において原告
の主張するような継続的取引契約が成立していないとしても、原告には本件取引がなお相当期間
継続することについての合理的期待が生じていたものと認められ、被告においても原告の被告に
対する依存度や上記期待を認識していたものと言うべきであるから、被告には、本件取引を中止
するに当たって、原告に生ずる被害を最小限となるように配慮すべき取引当事者としての信義則
上の義務があるものというべきであり、特段の事情のない限り、事前に取引終了の予定を告知し、
96
取引を終了するまでに一定の猶予期間を設けるなどの対応をすべきであったというべきである。
」
②
被告は、原告の口銭料の引下げをした H.16.4.2.には、原告に輸入させていた現地工場の
一つと直接契約し、
「同年 7 月初旬までには原告との取引を打切ることを決定した上、原告が開拓
した現地工場に対して直接打診するなどの行動に出ていることからすれば、被告において原告と
の取引を打切ることは少なくとも上記同年 7 月初旬より前から検討され、進められていたことが
窺われる。そうすると、被告は、本件取引が打切りとなる可能性があることについては遅くとも
H.16.7.初旬より前には原告に告知することができたものと認められ、同時に、本件取引終了に至
るまでの猶予期間や手順等を原告に提示し、あるいは原告との協議をするなどの対応をすること
ができたものと認められ、被告において、このような対応を困難とする特段の事情があることは、
証拠上、認めることができない。それにもかかわらず、被告が、原告に対し、本件取引の全部打
切りを告げたのは同年 8 月 27 日に至ってのことであり、かつ、猶予期間を置く配慮もしなかった
ものであることからすれば、本件取引を終了させるに際して信義則上すべき配慮を怠ったものと
認めるのが相当である。そして、本件取引の経緯に照らせば、被告が本件取引の全部打切り告知
するに際して、同年 9 月から 12 月までの四カ月間程度の猶予期間を置くべき義務があったという
べきである。
」 H.13.9.から H.16.10.の売買代金総額からの月間平均売買代金に 3%の口銭料によ
る金額は143万 3,135 円であるから、これから通常の営業活動費を差引いた金額を 100 万円と
し、この四か月分 400 万円の賠償義務を判示。
③ 更に、原告が被告の注文により現地工場に委託して製造させた商品を、上記により被告が同
現地工場から買取をした結果、原告からの被告への納入を不能とした被告の原告に対する債務不
履行につき、その口銭料相当額 48 万円の支払を判示。
合計、被告に対して 448 万円の支払を判示した。
判時 2009-106
長谷川俊明・国際商事法務 36-10-1276
[最高裁二小 H.20.1.28 判*]H18(受)1074 号・損害賠償請求事件(上告棄却)
民法 167 条 1 項、商法 522 条、H.17 改正前商法 254 条 3 項・254 条ノ 3・266 条 1 項 5 号、
会社法 423 条 1 項・430 条
取締役の会社に対する損害賠償責任の消滅時効 ― 「商法 266 条 1 項 5 号に基づく取締役の会
社に対する損害賠償責任は、取締役がその任務を懈怠して会社に損害を被らせることによって生
ずる債務不履行責任であるが、法によってその内容が加重された特殊な責任であって、商行為た
る委任契約上の債務が単にその態様を変じたに過ぎないものと云うことはできない。また、取締
役の会社に対する任務懈怠行為は外部から容易に判明し難い場合が少なくないことをも考慮する
と、同号に基づく取締役の会社に対する損害賠償責任については、商事取引における迅速決済の
要請は妥当しないというべきである。従って、同号に基づく取締役の会社に対する損害賠償債務
については、商法 522 条を適用ないし類推適用すべき根拠がないと言わなければならない。
商法 266 条 1 項 5 号に基づく会社の取締役に対する損害賠償請求権の消滅時効期間は、
商法 522
条所定の 5 年ではなく、民法 167 条 1 項により 10 年と解するのが相当である。
民集 62-1-128 判時 1995-151
増森珠美・ジュリ 1406-144
山岸暢子・法協 126-9-238
斉藤真紀・H.20 重要判ジュリ 1376-119
中原利明・金法 1844-18
原審:札幌高裁 H.18.3.2 判・H14(ネ)404 号
民集 62-1-255 判タ 1257-239
一審:札幌地裁 H.14.9.3 判・H10(ワ)3159 号
民集 62-1-141 判時 1801-119
*増森評釈:本判決の趣旨は、会社法 423 条 1 項に基づく任務懈怠を理由とする会社の役員等に
対する損害賠償請求権についても妥当するものと考えられる。
[最高裁二小 H.20.2.22 判*]
H19(受)528 号・所有権移転登記抹消登記手続請求本訴・
商法 4 条 1 項・503 条、会社法 5 条、
貸金請求反訴等事件(破棄差戻)
民訴法 2 編 4 章 1 節:総則
97
一、会社の行為が商行為に該当しないことの主張立証責任 ―会社の行為は商行為と推定され,
これを争う者において当該行為が当該会社の事業のためにするものでないこと,すなわち当該会社の
事業と無関係であることの主張立証責任を負う。
二、会社の貸付が当該会社の代表者の情誼に基づいてなされたものとみる余地があっても当該
貸付に係る債権が商行為によって生じた債権に当たるとされた事例(商事債権消滅時効を認定)
― 会社の貸付けが当該会社の代表者の情宜に基づいてされたものとみる余地があっても,そ
れだけでは当該会社の事業と無関係であることの立証がされたということはできず,他にこれを
うかがわせるような事情が存しない以上,当該貸付けに係る債権は,商行為によって生じた債権
に当たる。
民集 62-2-576 判時 2003-144 判タ 1267-165 金判 1303-30 商判集三-1
伊藤雄司・NBL882-30 山下典孝・速報判例解説 4-113 伊東尚美・北大法学論集 65-2-138
山田純子・H20 重-要判ジユリ 1376-127
相原隆・別冊ジュリ 194-74
原審:福岡高裁 H.18.12.21 判・H17(ネ)790 号
民集 62-2-613 金判 1303-41
一審:佐賀地裁唐津支部 H.17.6.30 判・H14(ワ)113 号他 民集 62-2-583 金判 1303-48
*相原評釈:本判決は、会社法上の会社が商人であることを前提に、会社の行為についても
商法 503 条 2 項が適用されることを明確に判示した初めての最高裁判決である。
[東京高裁 H.20.4.25 決定*] H20(ラ)440 号 不動産引渡命令申立棄却決定に対する
民法 395 条 1 項、民事執行法 83 条
執行抗告事件(確定)
抵当権者に対抗できない賃借人からの無断転使用借人に対して、抵当不動産の買受人が引渡命
令を求めることの可否(積極) ― 建物の売却以前に前所有者(抵当権設定者)が建物の明渡
を求めることができない地位にあった転借人は、賃借人の賃借権を基礎とする占有者として民法
395 条 1 項の保護を受けるが、前所有者が明渡を求めることができた転借人は、同条項の保護の
対象とはならない。
判時 2032-50
新井剛・判例評論 609-12(C-④-28)
片山直也・金法 1876-29
一審:東京地裁 H.20.2.28 決定
金判 1299-55
*新井評釈:H15 の担保・執行法制改正により、執行妨害の温床になってきたと批判されていた
抵当権設定後の利用権に関する短期賃貸借保護制度(民法旧 395 条)が廃止された。それに代
わって採用されたのが、同意賃貸借制度(民法 387 条)及び建物明渡猶予制度(民法 395 条)
である。本件では後者の制度に関して、前所有者に無断で転借した使用借人に対する買受人の
引渡命令申立が認められるかが問題となった。原審は、無断転使用借人は明渡猶予の保護を受
けるとし、引渡命令の申立を棄却したが、本決定は引渡命令を肯定した。
[千葉地裁 H.20.5.21 判*]H18(ワ)2074 号 地位確認等請求事件(賃金差額請求一部認容)
労働契約法 10 条
成果賃金を導入する就業規則変更の効力が否定された例 ― 会社が、就業規則の変更により、
従来の年功賃金制度を廃止して成果主義賃金制度を導入したところ、変更の高度の必要性は認め
られるが、変更後の賃金制度の内容が、能力給、実績給、年俸制に関する具体的な決定基準、決
定手続きに関する定めが全くなく、使用者による恣意的な運用を可能にする制度内容であり、ま
た約 40%という大幅な賃金減額の結果になるにもかかわらず、激減緩和の経過措置も取られてい
ないこと等を考慮して、無効と判示。
労働判例 967-19
吉田肇・民商 143-6-118
*吉田評釈:能力主義、成果主義の賃金制度を導入する際には、能力評価、業績評価の具体的基
準が定められることが一般的であり、その基準はある程度抽象的になることは事の性質上やむ
を得ないと言えるが(大阪高裁 H.13.8.30 判・H12(ネ)1330 号・労働判例 816-23、その原審大
阪地裁 H.12.2.28 判・H10(ワ)271 号他・労働判例 781-43)
、本件のように理事長が決定すると
98
いう以上の定めがないと言えるような場合には、制度内容に合理性は認められないと言わざる
を得ないであろう。合理性が認められる成果主義賃金制度のもとでは、現実の格付けをどのよ
うに実施するか、誰をどの職務に就けるかという人事考課の実施については、使用者の裁量が
認められ、裁量権の逸脱、濫用が認められない限り、違法の問題は生じない(東京高裁 H.18.6.22
判・H16(ネ) 2029 号・労働判例 920-5、
東京高裁 H.15.2.6 判・H13 (ネ)1604 号・労働判例 849-107)。
[最高裁三小 H.20.6.10 判*]H18(受)890 号 預託金返還請求事件(破棄自判)
会社法 22 条 1 項・757 条・762 条 1 項、商法(平成 17 年法律第 87 号による改正前のもの)
373 条・374 条の 16
会社分割に伴いゴルフ場の事業を承継した会社が預託金会員制のゴルフクラブの名称を引き続
き使用している場合における上記会社の預託金返還義務の有無 ― 預託金会員制のゴルフク
ラブの名称がゴルフ場の事業主体を表示するものとして用いられている場合において,会社分割
に伴いゴルフ場の事業が他の会社又は設立会社に承継され,事業を承継した会社が上記名称を引
き続き使用しているときには,上記会社が会社分割後遅滞なく当該ゴルフクラブの会員によるゴ
ルフ場施設の優先的利用を拒否したなどの特段の事情がない限り,上記会社は,会社法22条1
項(譲渡会社の商号を使用し且つ2項の措置を採らなかった譲受会社の責任)の類推適用により,会
員が分割をした会社に交付した預託金の返還義務を負う。
集民 228-195 判時 2014-150 判タ 1275-83 金判 1302-46
得津晶・NBL-888-4
池野千白・H20 重要判ジユリ 1376-125
片木晴彦・民商 140-1-83
原審:名古屋高裁 H.18.2.2 判・H17(ネ)682 号
金判 1302-53
一審:名古屋地裁 H.17.6.22 判・H16(ワ)2048 号
金判 1302-54
*[最高裁二小 H.24.10.12 判*]の評釈・コメント参照。
[東京地裁 H.20.9.9 判*]H20(ワ)5795 号 賃金等請求事件(請求一部認容)
民法 536 条 2 項、労働基準法 20 条・26 条、労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労
働者の就業条件の整備等に関する法律 30 条・31 条・40 条
派遣労働者に対する就労停止告知の法的性質 ― ①.派遣先でのトラブルを理由とする就労停
止の告知は、使用者に新たな派遣就労先を探す債務が生じるに過ぎず、本件雇用契約が終了した
ものではないし、このときから同業他社による新たな派遣就労先の提供を予定していたというこ
ともできないから、これを解雇の予告ということはできない。従って、労働者は解雇予告手当の
支払を請求できない。
②本件告知は解雇の予告ではなく本件雇用契約に基づく労務提供を一時的に停止させる行為で
ある。原告派遣労働者 X は、本件告知当時、本件店舗で就労する意思と能力があったこと、本件
告知は、X の派遣就労先であった本件店舗従業員とのトラブルが前提となったものであるが、被
告派遣業者 Y は、X と本件店舗従業員とのトラブルを別段調査することなく、本件派遣先の指示
に従い、本件告知をしたこと、Y の担当者が本件告知時に、X に対しすぐにも他の派遣就労先を
提供できる旨告げていたこと、Y は X に本件店舗での就労と同様の水準の派遣就労先を提供でき
なかったことが認められ、X が右の告知後に労務を提供できなかったのは、
「使用者である Y の責
に帰すべき事由によるものである」から、労務提供の反対給付である賃金請求権を失わない(民
法 536 条 2 項)として、別会社との雇用契約が成立した前日までの期間につき賃金支払請求を容
認。 ③.慰謝料請求については、Y の対応、言動に、X に対する不法行為と評すべきものはない
として、X の請求を否定。
労働経済判例速報 2025-21
山川隆一・ジュリ 1387-186
西村健一郎・民商 143-2-123
[大阪地裁 H.20.10.31 判*]H20(ワ)6489 号・根抵当権設定登記手続等請求事件(請求 棄却・
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民法 177 条、民事再生法 38 条・45 条・53 条・54 条
控訴)
一、再生債務者は、民法 177 条の第三者に当るか否か(積極) ― 再生手続が開始された以
上、再生債務者は、再生債権者のために公平かつ誠実に財産を管理処分するとともに再生手続を
遂行する責務を有する再生手続の機関として、民法 177 条の第三者である再生債権者の利益を図
るべき再生手続上の責務を有するから、再生債務者は、再生債権者と同様、民法 177 条の第三者
に当る。
二、再生手続開始前に登記しなかった根抵当権者が、再生債務者に根抵当権設定の登記手続を
求め監督委員にその登記手続への同意を求めた請求が、いずれも棄却された事例 ―根抵当権
設定契約をしても再生手続開始前に登記をしていない根抵当権者は、再生手続開始後は、再生債
務者および監督委員に根抵当権を対抗することが出来ないから、再生債務者に根抵当権設定登記
手続きを請求することはできず、監督委員にその登記手続きへの同意の意思表示を求めることも
できない。
金判 1314-57
NBL895-64
高田賢治・判例評論 611-8
[大阪高裁 H.20.12.10 判*]H20(ネ)2278 号 貸金請求控訴事件(控訴棄却・確定)
民法 446 条 2 項
金銭消費貸借の保証人を依頼された者が、名義貸しによって借主欄に署名押印した金銭消費貸
借契約書が、保証契約の書面性を要件とする民法 446 条 2 項所定の書面に当るとした原判決を
維持した(保証契約の書面性の判断基準を示した初めての裁判例) ― 保証人を借主として作
成された金銭消費貸借契約書は、民法 446 条 2 項所定の保証の意思を外部的に示した書面に該当
すると認められる。
「なぜなら、民法 446 条 2 項が保証契約について書面を要求する趣旨は、保
証契約が無償で、情義に基づいて行われることが多いことや、保証契約の際には保証人に対して
現実に履行を求めることになるかどうかが不確定であり、保証人において自己の責任を十分に認
識していない場合が少なくないことから、保証を慎重ならしめるために、保証意思が外部にも明
らかになっている場合に限って契約としての拘束力を認めるという点にあるところ、控訴人(保
証人)は、甲野(借主)等から依頼されて、甲野の被控訴人(貸主)に対する債務を保証する意
思で、金銭消費貸借契約書の借主欄に署名押印をしたというのであるから、これによって、主債
務者である甲野と同じ債務を連帯して負担する意思が明確にしめされていることに違いはなく、
保証意思が外部的に明らかにされていると言えるからである。」
金法 1870-53
北野功・金判 1336-140
椿久美子・リマークス 40-38
高橋恒夫・銀行法務 759-64
一審:大阪地裁 H.20.7.31 判・H19(ワ)1214 号
判タ 1288-97 金法 1870-55
*古田:平成 16 年民法改正(H.17.4.1 施行)での民法の現代語化に際して、民法 446 条に 2 項
と 3 項が新設された。 2 項は、保証契約は書面でしなければその効力を生じない旨規定し、3
項では一定の要件を充たす電磁的記録による場合も 2 項の書面性を充たす旨を規定する。
民法 446 条に 2 項が新設されたのは、判示も指摘しているように「保証を慎重ならしめるた
め」である(商行為としての保証には適用がない)
。しかしながら本件事案は、連帯保証人を依
頼された保証人は借主本人としての書面である金銭消費貸借契約書に借主として署名し、連帯
保証人以上に過分な責任を引受けされており、また、金銭消費貸借契約は判例によれば要物契
約であるから、借主として署名した控訴人には金銭の貸出がされないのであるから、その契約
そのものが効力を生じない。このような契約書をもって民法 446 条 2 項の書面性を充足してい
ると判示した本件判決は、大いに疑問である。
*椿評釈:民法 446 条 2 項の新設は、保証人を保護するための重要な改正であり、その書面性の
判断に当たっては、保証人の利益に配慮した厳格な解釈をなすことが改正の趣旨に合致すると
考えるが、本判決は、
「保証意思が外部的にも明らかになっている場合」という緩い判断基準で
もって、金銭消費貸借契約書の借主欄に署名した場合でも、同項の書面に該当するとしたもの
であり、民法 446 条 2 項を保証人保護のために強行法規として新設した改正の趣旨とは逆行し
た判断ではないかと思える。
100
*北野評釈:保証契約を締結する債権者は、保証契約に法的な効力を付与するために、法が求め
る要式を厳密・厳格に順守すべきではなかろうか。このように解することが、保証内容を保証
人によく理解させたうえで保障意思を明らかにさせる改正法の趣旨にも合致することになるも
のと考える。
[最高裁三小 H.20.12.16 判]H19(受)1030 号・動産引渡等請求事件(棄却)
民法 91 条・540 条 1 項・601 条、民事再生法 1 条
いわゆるフルペイアウト方式によるファイナンス・リース契約中の,ユーザーについて民事再
生手続開始の申立てがあったことを契約の解除事由とする旨の特約の効力(消極) ― いわゆ
るフルペイアウト方式によるファイナンス・リース契約中の,ユーザーについて民事再生手続開
始の申立てがあったことを契約の解除事由とする旨の特約は,無効である。 (補足意見がある。
)
民集 62-10-2561 金判 1308-40 金法 1869-42 倉部真由美・リマークス 40-138
中島肇・NBL907-67
中島弘雅・法学研究(慶大)84-7-75
原審:東京高裁 H.19.3.14 判・H16(ネ)3679 号等
民集 62-10-2600 判タ 1246-337
金判 1308-48 金法 1869-47
一審:東京地裁 H.16.6.10 判・H14(ワ)26427 号 民集 62-10-2586 金判 1308-55
金法 1869-55
*[最高裁三小 S.57.3.30 判①*]の江頭解説参照。
[東京地裁 H.20.12.19 判*]H19(ワ)19018 号 売買代金請求事件(請求棄却・
民法 95 条
控訴審で和解成立)
循環取引あるいは環状取引の疑いがあることを知らずに商流に介入して締結された売買契約が、
錯誤により無効であるとされた事例
[事案概要] H.18.12 頃、Y 社は X 社に対し、売り上げ目標達成のため、Y が商流に介入する
取引の紹介を依頼し、X はこれに対して、代金約 7 億 8,000 万円のシステムソフトウェア 10 種類
を目的物とする、B→X→Y→A という商流を提案したが、現実にはこの商流は、A→B→X→Y→A
というものであり、かつ、現実に引渡された本件 CD-ROM 10 枚には正常に起動するプログラム
が格納されておらず、商品として無価値なものであった。H.19.1 下旬、新興のシステム開発会社
A の経営が破綻し、A を当初の売主兼最終の買主とする環状取引に関する疑惑が報道されるよう
になった。Y は、この報道を受け、H19.1.25・26 に倉庫に納品されていた本件 CD-ROM を初め
て検品し、無価値であることを知った。しかしながら、XY 間の本件売買契約では、①注文書の受
領後 7 日以内に諾否の通知がない場合には、注文書記載の条件で契約が成立したものとみなす旨、
②Y が製品受領後速やかに検収を行うこととし、Y から不合格の通知がない場合には、製品納入
の日から 30 日をもって検収が完了したものとする旨、③X が製品の物理的な損傷等がないこと及
び性能の通り稼働することを保証する旨、④製品に欠陥があった場合、X の責任と負担において
原因の究明、欠陥の除去、良品との交換等の必要な措置を講じる旨が、それぞれ記載されていた。
本件は、このような経緯の下で X が Y に対し、本件売買契約に関する売買代金・消費税計約 8
億円を請求した事案である。Y は、本件製品が商品として無価値であり、本件売買契約は錯誤に
より無効である東都主張して争った。
[判示要旨]
一、
「本件売買契約は、経済的には、Y が商流に介入して利益を得ることを目的として行われた
ものではあるが、売買契約という法形式をとり、売買の目的物としてシステム名が記載されたラ
ベルが貼付された CD-ROM 10 枚が現実に引渡されており、売買代金と売買の対象物との対価性
が保持されていることが前提となっていたというべきである。」
二、
「売買の目的物に売買代金に相応する価値があるかどうかは、売買契約の動機に当るもので
はあるが、納品済みの本件製品の代金を合計 7 億 6,740 万円(消費税別)とし、品質保証も合意
101
されているのであるから、その動機は少なくとも黙示に表示されていてものといえる。従って、
売買の対象物である CD-ROM 10 枚が商品として無価値であることは、法律行為の要素に錯誤が
あったものというほかはない。
」
「そえすると、本件売買契約は錯誤により無効であるから、X の
売買代金請求は理由がない。
」
三、
「本件製品については、A→B→X→Y→A という循環取引あるいは環状取引がされた疑いが
高く、循環あるいは環状構造を知ってその取引に関与した当事者は、売買の目的物の内容や実在
性に着目していないと言い得るとしても、本件においては、Y が、A→B という商流が存在する
ことを知っていたことを認めるに足る証拠はないから、Y が循環取引あるいは環状取引であるこ
とを知って、その取引に関与したものとはいえない。また、
・・・商流に介入する取引であるから
といって、直ちに、売買の目的物の内容や実在性に着目しない取引であるとはいえず、」 XY 間
の合意内容からすれば、
「本件売買契約が目的物の内容や実在性に着目しない取引であったとはい
えない。
」
四、
「Y は、主位的に、本件売買契約には錯誤があるのであるから無効である旨を主張している
のであって、本件製品に瑕疵があったとして売買契約の解除あるいは損害賠償を請求しているの
ではない上、商法の瑕疵担保責任の規定は、錯誤の主張を制限するものではない」から、Y が期
間内に検収を行わず、本件契約上瑕疵担保責任が問えないとしたことは、上記結論を左右しない。
判タ 1319-138 金判 1324-57
星野豊・ジュリ 1432-105
*星野評釈:Y が何らの防御策をも執っておらず、転売先の信用に係る情報収集は、原則として
Y 自身が行うべきことであり、かかる情報収集及び判断について過失相殺の問題は残ると指摘
され、判旨には多少の疑問があるとされる。本件の控訴審(東京高裁 H21(ネ)335 号)では、
H22.2 に Y が請求金額の約 7 割を支払う旨の和解が成立しているが、その経緯は訴訟記録上で
は明らかでない。
*:
[大阪高裁 H.16.3.25 判*]の評釈参照。
102
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