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グローバルマネーフローがもたらす 資源高の構図
経 済トピック グローバルマネーフローがもたらす 資源高の構図 原油価格をはじめとして商品市況の高騰が続き、我々消費者に無視できない影響を与え始めている。サブプライムローン問題 などにからみ景気の先行きに不透明感が増しているにもかかわらず、原油価格が高止まりし続ける状況には違和感さえある。 こ うした状況に変化は訪れるのか、世界をまたぐマネーフローの観点からその転換点を探る。 資本の流出入状況 資料:IMF 米国 注:データは各国・地域の経常 日本 収支。2007 年値は IMF 推計値。 資本の流出超 ユーロ圏 中東 中東欧 アフリカ 新興国 資本の流入超 2000年 2007年 中国 -800 -600 -400 -200 0 200 400 600 800 (10億ドル) 動きを説明するため、マネーの国境をま “過剰流動性”のあいまいさ たぐ動きの背景となる経済構造に注目 し、一つの仮説を示したい。 商品市況高騰の背景には、世界的な過 剰流動性(過剰なマネー)の商品市場へ 「貯蓄投資インバランス」 の流入があるといわれることも多い。確 26 かに各国中央銀行が過度に金融緩和を行 テクニカルになるが、各国の資金の流 えば過剰流動性は生じうる。しかし、流 出入を把握する際に重要なのは、 「貯蓄 動性が過剰か否かの判断は難しい。また、 投資バランス」と呼ばれる概念だ。この そもそも“過剰流動性”の意味するとこ 点を説明しよう。一国経済全体が経済活 ろは論者によってさまざまで必ずしも明 動を通じて稼いだ所得があるとする。こ 確ではない場合が多い。マネーが過剰か のうち一部が消費され、残りが預金など 否かを議論することはもちろん重要だ の形で貯蓄に回される。直感的にはわか が、ここではむしろ、現状の金融市場の りにくいが、マクロ経済の性質として、 2008 02 経済トピック この貯蓄のすべてが国内の投資へと向け だろう。では、中国が貯蓄超過体質なの られなければ、余った資金(資本)は結 は、内需が足りないのか、それとも輸出 果的に海外へと流出せざるをえない。例 を通じて稼ぎすぎなのか。判断の難しい えば日本は、貯蓄が投資を上回っている ところだが、やはり安く抑えられた人民 状態だ。つまり、資本を輸出している。 元が中国の輸出製品の競争力を拡大さ これを貯蓄と投資のインバランス(不均 せ、使い切れないほどの所得をもたらし 衡)と呼び、国境をまたぐ投資マネーを ていると考えてよいのではないか。であ 生み出す要因の一つと考えられる。つま れば、中国政府が自国製品の国際競争力 り、インバランスの存在は貯蓄資金が世 を確保するため人民元を安く維持しよう 界の金融市場を駆け巡る可能性を示す。 とする限り、中国発の世界的な貯蓄投資 インバランスの構図は変わりにくいとも 新興国からの資本輸出拡大 各国の貯蓄投資バランスは大きく様変 いえる。 注目すべきは中国のインフレ わりした。図は 2000 年と 2007 年時点の データだ。目立つのは、中国を含む新興 ただ、この構造が修正されるシナリオ 国や産油国からの資本輸出が急拡大して はある。中国政府が人民元を切り上げざ いる点だ。新興国の生産能力は近年大き るを得ないケースだ。人民元を安く保つ く拡大、自国内では使い切らないほどの には人民元を売らねばならない。このと 所得を生み出し、余った貯蓄が国外に流 き市場には人民元が供給され、既にかな れ出している。また、原油高に沸く産油 りのインフレ圧力をもたらしている。し 国は原油輸出で大きく所得を拡大、貯蓄 たがって、中国政府が本格的に人民元を マネーの資金流出は国際金融市場で更に 切り上げざるを得ない一つのタイミング 原油価格を上昇させる。このように、貯 は、中国経済がインフレに耐えられなく 蓄過剰国から流れ出たマネーが国際金融 なったときだろう。こうなれば、世界の 市場に流れ込み、商品市況高騰の一因と マネーの動きが変わる可能性は高い。た なっている可能性は高い。 だ、為替レートの急激な調整は、中国の 過剰設備や不良債権問題をもたらす可能 インバランスの鍵は人民元 原油高を解く鍵の一つが世界的な貯蓄 性も同時にはらむ。 多面的な把握が肝心 投資インバランスの拡大にあるとすれ ば、インバランス拡大の背景は何か。図 以上、貯蓄投資バランスの側面から資 から明らかなように、インバランスの大 源高の説明を試みたが、そもそも将来に きさという観点からは中国と米国に注目 おける天然資源の希少性の高まりを市場 すべきだ。では二国のうち、問題の根は が我々に伝えている面も強い。また、株 貯蓄超過の目立つ中国にあるのか、それ 式市場などに比べ、原油市場はマーケッ とも過剰消費体質といわれる米国にある トサイズが小さく、マネーの影響を受け のだろうか。近年の急速な経済成長など やすい。以上の議論はあくまで一つの仮 に鑑みれば、中国にポイントを置くべき 説として理解してほしい。 政策・経済研究センター エコノミスト 大島一宏 経済トピック 2008 02 27