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Page 1 Page 2 「教材研究」 人吉・球磨地方の土地教材の研究 ーVTR
熊本大学学術リポジトリ
Kumamoto University Repository System
Title
人吉・球磨地方の土地教材の研究 : VTR教材製作を中心
として
Author(s)
中村, 富人
Citation
熊本地学会誌, 76: 2-8
Issue date
1984-07-16
Type
Departmental Bulletin Paper
URL
http://hdl.handle.net/2298/28100
Right
「教材研究」
人吉・球磨地方の土地教材の研究
VTR教材製作を中心として−
人吉西小学校中村富人
I.はじめに
本研究は、昭和58年度後期科学教育研究生
として、昭和58年10月1日より昭和59年3月
31日までの期間、熊本大学教育学部地学教室
在室中に行なったものである。
人吉・球磨地方は、大坂間構造線を境にし
て、北部に化石の豊富な秩父帯が分布し、南
部に四万十帯が分布する。さらに、延岡・紫
尾山構造線等によって生成した人吉盆地には、
肥薩火山区の安山岩類、湖成層の人吉層、人
吉層を覆う安山岩類、洪積砂牒層、火砕流堆
積物、火山灰降下物、及び沖積層等が分布する。
そして、その中を、水上村を源流とする球
磨川が九州山地から人吉盆地へと流れ、さら
に、球磨村・坂本村を通って八代海に注いで
いる。
また、釜の奥戸や球泉洞など、地質と関係
のある名勝及び天然記念物も数多く見られる。
私は、このような地域教材について教材研
究を深めながら、VTR教材の製作を主な目
的として研究を進めた。
土地教材は、地域素材を生かした野外観察
が学習の中心となるのは当然のことであるが、
近くに適当なフィールドがなかったり、あっ
たにしても交通機関等のため野外観察が困難
の場合も多い。その場合、視聴覚教材の利用
図−1主な調査及びVTR撮影地点
1.佐賀県千代田町2.福岡県大木町3.河内
町芳野4.熊本市水前寺5.八代市内(球磨
川)6.坂本村荒瀬ダム7.坂本村瀬戸石ダ
ム8.球磨村球泉洞9.球磨村大瀬付近
10球磨村一勝地11人吉市内(中神町、東間
下町、鬼木町、他)12山江村山田13相良
村深水14錦町付近15人吉市赤池原町
16深田村付近17須恵村付近18水上村市房
ダム付近19水上村江代20水上村江代(球
磨川源流)
が考えられるし、学習内容によっては、視聴
この研究で得たVTR教材化の方法を生かし、
覚教材を利用しなければ学習の理解が困難な
今後さらに、土地教材のVTR教材化を図っ
場合もある。
ていきたい。
そこで、土地教材が地域性をもつというそ
なお、研究を進めるにあたっては、熊本大
の特性をふまえながら、教材開発の面からも
学教育学部地学教室の田村実教授には指導教
自作VTR教材を製作し、一部については、
官として終始懇切丁寧なる御指導を賜り、ま
授業での実践も試みた。
製作したVTR教材の数は少なかったが、
た、同教室の渡辺一徳助教授・谷村洋征教官
にも多大な御教示を賜った。心より感謝する
−2−
生育し、実ができるには夏の暖い晴天が必要
次第である。
といわれる。
また、VTR教材製作のために、附属教育
工学センターの吉田道雄助教授には、御指導
化石として産出するのは子実の部分であり、
御便宜をはかっていただき、同教室の足立瞳
熊本県内では、天草郡苓北町・菊池郡合志町、
氏、同センターの馬場尚子氏、学生諸君には
及び上益城郡益城町津森の洪積層よりしばし
多大の協力をいただいた。ここに記し感謝の
ば産出し(今西、1969)人吉市周辺でも、人
意を表す次第である。
吉市尾曲地区の下部人吉層から唾やついぼび
し”等の産出が報告されている(今西・宮原、
さらに、科学教育研究生として本研究の機
会を与えていただいた県教育庁及び球磨教育
1972)。さらに、山江村合戦の峰の山田川
事務所、人吉市教育委員会、そして、人吉市
川床の人吉層上部泥岩からは、宮原によると
立人吉西小学校職員の方々に深く感謝する次
“しりぷとびし”の一亜種と考えられるもの
を多産する。
第である。
一方、我国における現生種は、ヒシ、オニ
Ⅱ、製作したVTR教材
ピシ、ヒメビシの3種が知られており、全国
1.「化石・ヒシ」
いたる所の池沼に生育している。なお、移殖
された栽培種も2種あり、食用にされている<
(1)教材について
九州では、佐賀県や福岡県のクリークに生
これは、ヒシ化石を含む人吉層(洪積層)
の堆積環境を、現在のヒシの生育場所を手が
育しているものが有名であるが、人吉市周辺
かりにして推定させようとするものである。
でも、人吉市鬼木町や相良村深水のため池に
ヒシやヒメビシが見られ、多数の種子を採集
ヒシは淡水産一年生の水草で、富栄養湖に
することができる。
なお、教材化にあたっては、化石と現生の
ヒシを対比し、それが同じ仲間だということ
を、児童に理解させることが重要になってく
る。それには、子実の特徴である刺の数が問
題となる。
表−1ヒシの子実の比較
徴
刺の数
上、ン
↑
ミソハギ科
刺の距離(”
左右の刺の
角 度
左だ
』
3.0∼4.(
‘
■
前後
↑
フトモモ目
。
90∼140
.
1
A・カザリビシ,B.ジョウゴビシ,c+
ツイポビシ,D・イポビシ,E・タイリクビ
シ,F・G・化石,H.マルシリエビシ,
I.シリブトピシ,J-N・欧州種,K・ヒ
左兎
4.0∼5.(
則
オニピシ
図−2ヒシ属の系統分類(三木.1953)
前後
◎
100∼140
3.5∼5.〔
ロツノエピシ,L・M,ヒメビシ,0・イヌ
ビシ,p.コウロピシ,Q.オニビシ,
R・T、トウビシ(中国種),点線の外は現生種
│斗に
−3−
90∼110
’
plate-
2泥岩中のヒシ化石
1.ヒシ化石産地
(山江村山田)
3.ヒシ化石の産状
(層理面に垂直)
懲凄
4.ヒシ化石
5.現生のヒメビシ燭と
化石のシリブトビシ㈲
6.いろんな形をした
ヒシ化石
蟻W…霞;溌劇息蕊畢,
鍛鶴:
蕊懲瀧
蕊‘灘
7.クリークの様子
8.現生ヒシ
9.現生ヒシの根
(佐賀県)
鍵
灘
溌鍵
蕊
鱗蕊鍵;蝉
10.ヒシの生育するため池
(相良村深水)
11.水辺のヒシの実
−4−
12.停滞水域の堆積物
(市房ダム湖)
化石の“しりぷとびし”は、押しつぶされ
分吟味を要する。
た方向の違いによって様々な形をしているが‐
(2)VTRの主な流れ
4本の刺がはっきり認められる。これと対比
Plate-I参照
するには、オニピシが最適であるが、ヒメビ
(3)学習指導の実際
シでも十分使える。なお、現生種の子実につ
すでに「地そう」の学習は終わっていたが、
いては表−1に示しているが、採集した中に
熊大附属小、熊本市立託麻東小の2クラスで
は、刺の3本あるものや、いろいろな中間型
実践したものである。
のものもあり、資料として利用するには、十
①目標
ヒシ化石を手がかりにして、ヒシ化石を含む地層が堆積した当時の環境を推定することがで
きる。
②展開
学 習 活 動
時
指導上の留意点
1.化石について話し 合
2.ヒシ化石と現生I
準 ‘
枚貝化そ
区
シ
徴を調べる
3.自作VTR「化石‘
本
視聴する
①ヒシ化石産地@泥
習ノー’
石③ヒシ化石産状
VTR
⑤現在と化石のヒシ
をしたヒシ化石
(Plate-I参照〕
4.どんなことを調べたらよいか話し
3
合う,
にして調べたらいいことに気づ
5.自作VTR「化石・ヒシ」後半を
視聴する
かせるc
7
①クリークの様 子 ②現生ヒミ
VTR
・淡亦
のヒシの実⑥停滞水域の堆積〃
・クリーク、湖淵
(Plate-I参照)
o停滞水域の砂泥の堆積の様子
5
できたのかまとめる
・VTR視聴の視点を与えておく
・現生ヒシ生育場所
③現生ヒシの根④ため池⑤水辺
6.ヒシ化石を含む地層はどんな所に
・現生ヒシの生育場所を手がかり
・ヒシの生育環境を補足し、ヒシ
化石を含む地層の堆積環境を絵
やことばでまとめさせる。
−5−
学習ノート
③児童の反応
上の地層と
ドの地層とでは、それを構成する
・化石ができた所は、その物が現在どんな
ものが違うことに気づかせ、水がしみ通る層
所にあるかということから考えればよいか
としみ通らない層があることや、地下水の存
がわかった。ビデオでくわしく教えてもら
在は、地層のつくりと関係があることをとら
ったので、ふつうの授業よりくわしくわか
えさせようというものである。
まず、飽託郡河内町芳野の芳野層(洪積層)
った。(K男)
。ヒシの実の生育している所が、とてもわ
と崖錐堆積物との間からの水の流出を取り上
かりやすかった。今度は、実際にヒシの実
げた。ここは、土地のつくりが明瞭で、児童
を採集して、くわしく調べたい。ヒシの実
にとって、とてもわかりやすい露頭である。
人吉市周辺でも、不透水屑の人吉層とその
以外の化石のでき方も、ヒシの実と比べな
上部の│日期砂牒層等の間から水のしみ出しを
がら観察したい。(T子)
・テレビで実際に調べている所が写ったの
しばしば見ることができる。
これらの露頭は、地下水が土地のつくりに
で、ヒシがどこに生育しているのかという
起因することを類推させるのに充分であり、
ことがよくわかった。(S子)
④授業の考察
室内でモデル化し、実験するのにも適した露
・ヒシ化石を含む地そうがどんな所ででき
頭である。
また、熊本市周辺の上水道が地下水を利用
たかは、児童71名中、70名の者が、絵や言
していることはよく知られているが、人吉市
葉で正しく表すことができていた。また、
大半の児童がビデオのわかりやすさを述べ
周辺でも、湧水を生活水として利用している
ており、これらのことは、自作ビデオの効
場所が見られる。
近年、観光地として脚光を浴びている球泉
果を充分うかがわせるものである。
さらに、児童のわかりやすさの根拠をな
洞も地下水がつくった地形である。鍾乳洞は、
すもののひとつに、図や文字の挿入があげ
石灰岩の割れめからしみ込んだ地表水が石灰
られる。このことは、児童の反応の随所に
岩を溶かしてつくった洞穴のことであるが、
見られ、今後、VTR教材製作にあたって
球泉洞の中でも、地下水が集まって地下水流
は、充分工夫を要するところである。
となり、大量の水を球磨川に流出している。
・事前に、ヒシについて知っている者はほ
とんどいなかったが、導入の段階では、ひ
し形やまきビシの話題から入るなど工夫す
る必要がある。
熱港織
透
ここでは、ヒシについて教えるのではな
水
く、ヒシ化石を利用して、他の化石も同じ
ような方法で古環境を推定できるのだとい
層
うことを気づかせたかったが、数名の者が
それに気づくことができていた。
一一﹃
(1)教材について
不透水層
2.「地下水」
地下水は、土地のつくりと密接な関係にあ
る。ここでは、地下水のしみ出している所の
−6−
図−3人吉市周辺の地下水模式医
3.「球磨川の流れ」
盆地に入る。傾斜がゆるやかなため、大雨時
(1)教材について
などに運ばれてきた砂喋の堆積がよく見られ、
これは、球磨川の源流から川口までの流れ
広い川原をつくっている所もある。
を追いながら、土地の変化と流れの速さや水
また、深田村付近には、川底に露出する溶
の量とを関係づけて、流水のはたらきを理解
結凝灰岩を浸食した欧穴が見られ、支流の鳩
させようとするものである。
胸川には、天然記念物の欧穴「釜の奥戸」が
球磨川は、水上村の球磨川水源に始まり八
ある。
代海に注ぐまでの全長113Kmの熊本県を代表
球磨川が人吉市に入る頃になると川辺川と
する川であり、日本三急流の一つでもある。
合流し、水量も一段と増す。人吉市内では、
水源は、九州山地の標高1,000mほどの所
川の蛇行、流れの内側の川原、外側の崖など
に位置し、谷に崩れた岩の間から多量の水が
が見られるようになる。
湧き出している。
人吉市を過ぎると、再び球磨村渡から山地
そして、近くの谷からの流れが集まり、次
にはいり傾斜も割合急になる。球磨川下りの
第に水量も多くなりながら九州山地の谷あい
コースで有名な二俣の瀬付近はそれが顕著で
を流れている。近くには、穴手尾の滝など大
流れも急である。
小の滝が見られ、みごとな景観を呈している。
そこから数肋'下ると、石灰岩が浸食された
こんな上流でも川底の傾斜がゆるやかな所で
鎗倒の瀬に着く。ここは、学習要素がとても
は、川原に磯がたまり、流れの外側は浸食さ
豊富で、流水の学習には欠かせない所である。
れて基盤の岩石が現われている。
その下流には、瀬戸石・荒瀬の2つダムが
源流から15Kmほど下った所には市房ダム湖
があり、水もほとんど流れなくなる。したが
あり、それぞれのダム湖では堆積した砂喋が
採取されている。
って、ダム湖の入口から中ほどにかけては砂
さらに、坂本村を通って八代市に入ると、
泥の堆積が顕著であり、水が少ない時は、そ
山地から急に平野に出る。八代平野では、球
の様子がはっきりと観察できる。
磨川は前川と分流しながら形のはっきりした
市房ダムを過ぎると傾斜のゆるやかな人吉
三角洲をつくり、不知火海に注いでいる。
ライン川
]
標
】
古
『句
河口からの距離
図−4主要河川の勾配
−7−
け無駄なカットは捨て、長すぎるものは短く
I.VTR教材製作にあたっての留意点
して歯切れのよい編集が望まれる。
また、作品全体の長さとしては、10∼15分
(1)まず、企画の段階で製作の目的や撮影
対象及び構成を明確にすべきである。そのた
が適当であろう。
(5)VTR教材は映像が主体であるが、音
めには、対象の中心である野外素材について
声の工夫も大切である。特に、流水関係など
の研究を充分にする必要がある。
野外の場合は、素材の研究とともに、撮影
での効果音は、映像に現実感を与え臨場感を
時刻や天候にも充分検討を加えておかねばな
高めるなど効果も大きい。また、音楽は全体
らない。また、そこの土地の様子がわかるよ
につけるのではなく、必要なところだけにつ
うに烏倣的な遠景も是非加えた方がよい。
けた方がよいだろう。
(2)VTR教材の価値としては、わかりや
すいことが重要になる。そのためには、文字
Ⅳ、参考文献
今西茂(1969):熊本県古期洪積層産徹ひ
や図表を適宜挿入すると効果がある。
し”の実化石とその地質的意義・熊大教養
また、化石などをマクロ撮影する際は、で
紀要,自然科学編,第4号・
きたらモニターテレビを利用しながらバック
の色を工夫する必要がある。ヒシの場合は、
今西茂・宮原哲夫(1972):人吉盆地下部
人吉層産“ひし”化石.熊大教養紀要,自
白と黒では黒が断然よく、結局緑が最適であ
然科学編,第7号,
った。
(3)視聴覚教材であるから見やすいことも
北村四郎・村田源(1981):原色日本植物
図鑑草本編Ⅱ、保育社.
当然重要になる。画面のブレを防ぐには三脚
を使用した方がよい。また、パンニングなど
田村実(1977):化石教材としての指導上
カメラを動かした後には10秒前後の静止画像
の問題点.熊本地学会誌.Na54.
田村実・他(1%2):人吉盆地西部の地質
を撮っておく必要がある。最後の構図がしっ
概報.熊大教育紀要,第10号・
かりしないと見づらいものになる。
(4)編集では、各カットが長すぎたり無駄
三木茂(1953):メタセコイア(生けるイヒ
があったりするとダラダラした感じを与え、
石植物).日本鉱物趣味の会.
作品全体をつまらないものにする。できるだ
−8−
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