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Social Goodキャンペーンの成果に 影響を及ぼす要因の検討

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Social Goodキャンペーンの成果に 影響を及ぼす要因の検討
Japan Marketing Academy
論文
Social Goodキャンペーンの成果に
影響を及ぼす要因の検討
アサツー ディ・ケイ ストラテジック・プランニング本部
ADK SOCiAL DESiGNiNG リーダー
青山学院大学 経営学部教授
芳賀 康浩
井上 一郎
要約
本論文では社会的課題とマーケティング成果を結びつける戦略的ソーシャル・マーケティングを,企
業が行うソーシャル・ビジネスの一形態と位置づけ,その中でも近年マーケティング・コミュニケーショ
ンの実務において注目を集めている Social Good をテーマとするキャンペーンの成果に影響を及ぼす要因
について検討する。具体的には,Social Good キャンペーンにポジティブに反応する動因を社会的交換概
念に基づいて識別し,その動因を促す条件に関する仮説を設定し,2 つの調査によって検証する。調査
とその結果の分析・考察において,消費者の原因帰属,被視感(人に見られているという知覚)
,公的・
私的自意識といった要因のキャンペーンの反応への影響を検討する。
キーワード
Social Good,戦略的ソーシャル・マーケティング,社会的交換,原因帰属,被視感,公的自意識,私的
自意識
企業の社会貢献活動が,企業イメージ,ブラン
Ⅰ.はじめに
ド・イメージ,ブランド・ロイヤルティ,ブラ
CSR ブームを背景に,企業が CSR の一環と
果指標に及ぼす影響を焦点としている。この意
してソーシャル・ビジネスに取り組む動きが活
味で,これは社会貢献を手段とするマーケティ
発化している(谷本他 2013,p. 7)。それに呼
ングと呼べるだろう。本稿では,このようによ
応して,マーケティングと社会との関係を問う
り積極的な局面からとらえたソーシャル・マー
ソーシャル・マーケティングへの関心が実務・
ケティングを戦略的ソーシャル・マーケティン
学術両面において高まっている。ただし,近年
グと呼ぶこととする。戦略的ソーシャル・マー
注目されているソーシャル・マーケティングは,
ケティングにおいては,社会的課題とマーケ
それが登場・成立した 1970 年前後から 1990 年
ティング成果が結びつけられることになり,こ
代半ばまでのソーシャル・マーケティングとは
の意味で戦略的ソーシャル・マーケティングは
焦点が異なっている。以前のソーシャル・マー
ソーシャル・ビジネスの一部ということができ
ケティングの焦点がマーケティングの社会的責
るだろう。
任だったのに対し,近年のソーシャル・マーケ
また,最近マーケティング・コミュニケー
ティングはメセナやフィランソロピーといった
ションの実務において Social Good というキー
ンド態度,購買意向などのマーケティングの成
1)
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ワードが非常に注目されている。Social Good
5 部門のグランプリ獲得)などが大変高い評価
とは直訳すれば,社会的に良いこと,というこ
を受けている。
とになるだろう。ビジネス用語の辞典サイト
このように,Social Good をテーマとするマー
businessdictionary.com で は, 地 域 の 教 会 が,
ケティング・コミュニケーション・キャンペー
毎年,低収入の家庭に食物と衣類を寄付する行
ン(以下,SG キャンペーン)が非常に注目さ
為を例に挙げながら社会に対してある種の利益
れているが,その一方で,どのようなときに,
を提供する行為と解説されている。
どのようなキャンペーンがマーケティング成果
マ ー ケ テ ィ ン グ・ コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン の
につながるかは明らかにされていない。そこで
実 務 で Social Good と い う キ ー ワ ー ド が 注 目
本稿では,SG キャンペーンに消費者がポジティ
さ れ は じ め た の は,2010 年 前 後 で あ る。 た
ブな反応を示す条件を検討し,SG キャンペー
と え ば,IT 系 の ニ ュ ー ス ウ ェ ブ サ イ ト で あ
ンの有効な展開方法への示唆を得ることを目的
る Mashable が,国連財団などともに「Social
とした実証研究を行う。
Good Summit」と銘打ったカンファレンスを
Ⅱ.先行研究
主催したのが 2010 年であった。あるいは,フォ
ルクスワーゲン(スウェーデン)が,2009 年
に「人々の行動をより良く変える一番簡単な方
Brown and Dacin(1997) を 嚆 矢 と し て,
法は,良い行動を楽しいことにすることである」
CSR 活動とりわけ社会貢献活動とマーケティ
というコンセプト(The Funtheory)のもと実
ング成果の関係を明らかにしようとする実証
施した複数の Social Good な企画が世界的な広
研究が急速に蓄積されてきている。こうした
告祭であるカンヌ国際広告祭でサイバー部門の
研究によって,「企業特性と社会的課題との適
グランプリを受賞,世界的な話題になったのも
合 性(fit)」(Basil and Herr 2006;Barone et
また 2010 年である 。
al. 2007;Pracejus and Olsen 2004;Simmons
以来,カンヌライオンズをはじめとする広
and Becker-Olsen 2006),「企業の CSR 活動へ
告コンクールでは,
「その企画は,Social Good
の コ ミ ッ ト メ ン ト 」(Ellen et al. 2006),「 消
か?」というのがきわめて重要な問いになって
費 者 の 原 因 帰 属(attribution; 企 業 が CSR 活
いる。実際,翌 2012 年には,アメリカンエキ
動に取り組む動機についての消費者の推論)」
2)
スプレスが実施した中小企業支援プログラム
(Ellen et al. 2006;Sen et al. 2006),「消費者に
「Small Business Saturday」が,プロモ部門と
よる企業の同一視(identification)」(Sen and
ダイレクト部門の 2 つのグランプリを獲得,昨
Bhattacharya 2001;Lichtenstein et al. 2004)
年 2013 年においても,インドとパキスタンの
といった,CSR に関連するマーケティング成果
間の紛争に一石を投じたコカ・コーラ社のソー
への影響要因が識別されてきた。
シャル・キャンペーンや,若者に「交通ルール
しかしながら,Maignan and Ferrell(2004)
を守ることを宣言させる」ことに成功したメル
が指摘するように,これらの研究は CSR の極
ボルン鉄道の啓発キャンペーン(カンヌ史上初
めて限られた次元をそれぞれの焦点としてお
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り,研究アプローチもそれぞれ異なるため,各
とづいて考察している。
研究で得られた知見を結び付けることが困難で
ここで,社会的交換概念について簡単に説明
あり,結果として実際にある企業がマーケティ
しておく必要があるだろう。まず,交換は経済
ング成果の向上を目的として CSR 活動を計画
的交換と社会的交換に区分される。この両者の
する際に,どのような活動をどのように行うべ
違いは,交換当事者の義務が事前に特定化さ
きか,どのような成果をどの程度得られるか
れているかどうかである(Blau 1969,訳書 p.
といった課題について十分な指針を与えるには
83)。つまり,経済的交換においては交換され
至っていない。こうした状況の背後には,既存
るべき対象物の正確な量が明記された公式の契
研究のほとんどが実証研究であり,理論的な研
約がある。その典型は交換当事者の義務(売買
究がほとんどないため,さまざまな CSR 活動
の場合は,引渡しと支払いの義務)が法的に定
の調整を可能にする包括的な枠組みが生み出さ
められ(売買の場合は民法第 555 条),交換対
れていないという事情がある(p. 5)
。このよ
象物の価値が貨幣という共通の尺度であらわさ
うな状況に対して芳賀(2014)は,社会的交換
れる市場取引である 4)。
概念を基礎概念として CSR 活動とマーケティ
これに対して社会的交換においては交換当事
ング成果の関係に関する諸研究を整合的に位置
者の義務が事前に特定化されない。つまり,あ
づける理論的な枠組みの構築を目指した。本稿
る行為者 A が他の行為者 B に,返礼を期待して
では,これに依拠して,SG キャンペーンとマー
何かを与えたとしても,何がいつ返ってくるか
ケティング成果を結びつける要因について検討
(あるいは返礼があるかどうかさえも)事前に
する。
特定されないということである。バレンタイン
デーにチョコレートを贈ったお返しに,ホワイ
Ⅲ.SGキャンペーンが
トデーに何がもらえるかが分からないというこ
とである。この返礼(の量)は事前の交渉や市
マーケティング成果を生み出す要因
場メカニズムで決まるわけではなく,返礼する
企業が積極的に SG キャンペーンに取り組ん
行為者の裁量に委ねられている。
だからといって,それが必ずマーケティング成
また,社会的交換の特徴として,必ずしも 2
果に望ましい影響を及ぼすとは限らない。SG
者間の交換に限定されない(3 者以上の間の交
キャンペーンを含む企業の社会貢献活動の是非
換も含まれる)こと,交換対象としてモノや貨
について議論が分かれるのはそのためである 。
幣,労働,情報,技術,知識などの手段的な財
企業の社会貢献活動を正当化するためには,そ
(経済財)だけでなく,敬意,愛情,感謝といっ
れが企業に何らかの利益をもたらすことが前提
た表出的な財(非経済財)も含むことが挙げら
となる。芳賀(2014)は,社会貢献活動が企業
れる(伊藤 1996,p. 2)。
にもたらす利益を,企業が社会貢献活動によっ
芳賀(2014)は,この社会的交換概念を基礎
て生みだした社会的価値に対する報酬ととら
概念として,戦略的ソーシャル・マーケティン
え,それが生まれる条件を社会的交換概念にも
グを展開する際の意思決定課題を検討し,そこ
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でまず重要なのは,企業は誰に対して社会的価
う当事者の知覚である。たとえば,困っている
値を提供するのか,そして企業は誰から社会的
人に助けの手を差し伸べるのは,それに見合っ
価値提供の報酬を受け取るのか,という点であ
たお礼が期待できるからであり,助けてもらっ
ることを指摘した。それによれば,戦略的ソー
たお礼をするのは,また助けてもらいたいから
シャル・マーケティングの方法は大きく次の 2
である。この交換から得られる利益は,供与と
つに分けられる。企業が提供する社会的価値の
それに対する返礼の両方を促す。企業の社会貢
受益者が当該企業の顧客に含まれる場合と含ま
献活動を社会(あるいはその一部)に対する社
れない場合である。ここで重要なのは,企業の
会的な価値の供与とするならば,供与に対する
社会価値提供がマーケティング成果に結びつく
報酬の期待が供与の動機となる。しかし,社会
ということを前提とするならば,いずれの場合
的交換概念が教えてくれるように,その報酬の
においても企業に報酬をもたらすのは当該企業
有無,あるいは内容・量,タイミングは事前に
の顧客であるということである。したがって,
確定していない。社会が社会貢献活動に報酬を
前者の場合は企業と受益者の 2 者間での交換が
もって返礼するのは,社会貢献活動が生み出す
成立すれば良いのに対し,後者は企業と受益者,
社会的価値をその後も継続的に獲得することを
そして顧客の 3 者間の交換が成立しなければな
望む場合である。したがって,企業が提供する
らない。以下,本稿ではこの後者に絞って議論
社会的価値が支持され,その支持の表明(典型
を進める。その理由としては,紙幅の制約もあ
的には当該企業の製品購入や推奨)が社会的価
るが,それ以外に後者の方がマーケティング成
値供与の継続に影響するという知覚が報酬の前
果に結びつくメカニズムがより複雑であろうこ
提となる。あえて極端にいえば,当該企業の利
と,多くの企業が実際に自社の顧客とは直接的
益に貢献すればその社会貢献活動が継続される
な関連のない領域(例えば,グローバルな環境
という期待が社会的交換を成立させるというこ
問題への積極対応や海外の児童労働問題解決へ
とである。これは,投資家が株を所有する企業
の支援など)で社会貢献活動を行っていること
の製品を購買するのと似た状況といえるだろう 。
を挙げておく。
③規範への同調とは,交換当事者の背後にあ
それでは,企業,顧客,
(顧客以外の)受益
る道徳的規範への同調であり,ここでの規範と
者の 3 者間に交換が成立するのはどのようなと
は歳暮や中元あるいはバレンタインとホワイト
きだろうか。芳賀(2014)は,社会的交換を成
デーのように,
「与える(提供)―受ける(受納)
立させる動因として,①交換から得られる利益,
―お返しをする(返礼)」という 3 つの義務が
②互酬性の原理,③規範への同調を識別してい
ワンセットとなって社会規範化したもので,互
る。このうち,3 者間の交換を成立させるのは,
酬性の規範と呼ばれる(伊藤 1995,pp. 21-38;
①と③である。
Coleman 1990,pp. 243-245)。互酬性の規範が
①交換から得られる利益とは,交換関係には
共有されていると,未知の人や通りすがりの人
いることによって(少なくとも交換関係を結ば
との間にも社会的交換が成立する。たとえば,
ないときよりも)利益を得ることができるとい
困っている旅人を感謝と引き換えに助けるよう
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5)
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な場合である。ただし,この規範に促される交
顧客が自らの価値観に照らして高く評価する場
換については注意が必要である。それは,規範
合だろう。つまり,多くの顧客が意義を認め
に従って交換を行うことは,
直接の交換相手(報
る SG キャンペーンを行えば,望ましいマーケ
酬を与える相手)からの返礼に動機づけられる
ティング成果に結びつく可能性があると考えら
のではなく,それ以外の第 3 者から与えられる
れる。しかし,Gürhan-Canli and Fries(2010)
報酬に動機づけられるということである。たと
が指摘するように,顧客を含む消費者は企業が
えば,
「人々が慈善献金をするのは,会うこと
社会的意義の高い課題に取り組むことを素直に
のない被恩恵者の感謝を得るためではなくて,
受け取る訳ではない。むしろ,懐疑的な目でそ
博愛的な運動に参加している同輩からの是認を
れを捉えることも少なくない。このことは,企
得るためである」
(Blau 1964,訳書 p. 82)
。こ
業が単に社会的に意義ある,そして消費者がそ
のように,互酬性の規範にもとづく交換は,交
の意義を高く評価する課題に取り組んだとして
換の構造および返礼が生み出されるメカニズム
も,その企業がその課題に取り組む正当性が消
に関して,利害にもとづく 2 者間の交換とは明
費者に認められなければ,消費者がその取り組
確に区別される。このような交換を Blau
(1964)
みを支持することはないということを示唆して
は間接的交換と呼んでいる。
いる。このある特定の社会的課題へのある特定
以上のように,企業がそのマーケティングの
の企業の取り組みの正当性という問題は,これ
ターゲットとする顧客以外に向けて社会的価値
まで「消費者の原因帰属」というテーマで議論
を提供するとき,顧客がそれに報いてくれる動
されてきた。
因には大きく 2 つのものが考えられる。このこ
消費者の原因帰属を巡るこれまでの研究は,
とは,戦略的ソーシャル・マーケティングを展
企業の社会貢献活動の動機を自己中心的(self-
開する際に,どちらの動因に働きかけることが
centered)だと推論する消費者は当該活動に
できるのか,あるいはどちらに働きかけた方が
対してネガティブな反応を示し,他者中心的
より有効かを検討する必要があることを意味し
(other-centered)だと推論する消費者はポジ
ている。そこで,以下では 2 つの動因それぞれ
ティブな反応を示すことを指摘している(Sen
が働く条件を検討し,実際の SG キャンペーン
et al. 2006;Du et al 2007)。
を用いてその条件の妥当性を検証する。
Ellen et al.(2006)は,消費者の原因帰属の
次元は必ずしも自己中心的か他者中心的かとい
Ⅳ.調査 1
う 1 次元上のものではなく,むしろ両者は独立
であり,消費者はその両方の原因帰属を同時に
1. 仮説の設定
行いうることを示した上で,それぞれの原因帰
企業が顧客には直接関連しない社会的課題に
属にポジティブに評価される側面とネガティブ
取り組み,何らかの社会的価値を社会に提供す
に評価される側面があることを主張した。す
ることに対して,当該企業の顧客が利益を感じ
なわち,自己中心的原因帰属には,「戦略的
るのは,その社会的課題ないしは社会的価値を
(strategic)」「利己的(egoistic)」原因帰属が,
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他者中心的原因帰属には「価値主導(values
2. 調査概要
driven)
」
「ステークホルダー主導(stakeholder
調査では,SG キャンペーンの様子を映した
driven)
」があり,
それぞれ前者はポジティブな,
動画を見せた上で,回答者の反応を測定した。
後者はネガティブな影響を購買意図に及ぼすこ
刺激として用いた SG キャンペーンはインドと
とを示した。
パキスタン両国間の紛争という社会的課題を
各原因帰属の内容は次の通りである。
取 り 上 げ た コ カ・ コ ー ラ 社 の「Small World
・価値主導:自社の経営理念や,価値観に基
Machines」である。その具体的なキャンペー
づく行動
ン内容は,インドとパキスタンにカメラとディ
・ステークホルダー主導:ステークホルダー
スプレイを搭載した特殊な販売機を設置し,そ
からの期待・要求に基づく行動
れぞれの販売機の前に人が立つと,互いに隣国
・戦略的:経済主体としての企業の存続に必
にいる相手の姿を見ることができ,両者に共通
要な行動
の指令が言い渡される。指令の内容は,「相手
・利己的:一般には認められない詐取的行動
と手を合わせよう」「一緒に踊ろう」「(平和の
本稿では,これらの原因帰属のうち,価値主
シンボルである)ピースマークを指でなぞろう」
導に注目する。消費者の反応にポジティブな影
などで,この指令を双方がクリアすれば,販売
響を及ぼすと考えられる2つの原因帰属のうち,
機からコカ・コーラが無料で出てくる仕組みに
戦略的であるとの原因帰属は CSR 活動として
なっている。
何を行うかによって大きく影響を受けるものと
動画を見せる前に,このようなキャンペーン
思われる。例えば,寄付は戦略的だとの原因帰
概要の説明とともに,原因帰属を操作するため
属がされることはあまりないであろうし,コー
の文章を提示した。実験群には,「楽しくてさ
ズ・リレーテッド・マーケティングであれば戦
わやかな瞬間を必要とする時,『コカ ・ コーラ』
略的だとの原因帰属がされるだろう。本稿の焦
がいつもそばにあり,その瞬間をもたらしてく
点は,CSR 活動として何をするのかではなく,
れる」との思いに基づき,コカ・コーラ社が
特定の CSR 活動(本稿では SG キャンペーン)
「Open Happiness =ハッピーをあげよう,ハッ
において,どのようなコミュニケーションが有
ピーをシェアしよう」という想い(thought)
効かという点にある。このコミュニケーション
をテーマに様々なキャンペーンを展開している
において,価値主導に比べ戦略的原因帰属は企
こと,このテーマが様々な困難やストレスの多
業がコントロールできる余地は少ないものと思
い現代社会においても,人生のささやかな喜
われる。これが,本稿が価値主導に注目する理
びを感じるひとときを見いだす機会があるこ
由である。以上から,次の仮説を設定した。
とを伝えようとしていること,そして「Small
World Machines」もこのキャンペーンの一環
仮説 1:SG キャンペーンに対する価値主導
であることを説明した。一方の対照群には,コ
の原因帰属は,当該キャンペーンの反応にポジ
カ・コーラ社の企業概要や広告展開に関する説
ティブな影響を及ぼす。
明文をつけて提示する情報量がほぼ同じになる
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ようにした。
にキャンペーンのテーマを知っている回答者が
質問項目は,キャンペーンへの認知的反応に
16 名いたので,それらを除いて有効回答とし
関する 8 項目,キャンペーンを見た後の行動意
た(実験群312,対照群296)。調査はインターネッ
図に関する 5 項目を 5 段階のリッカート尺度で
ト調査によって,2014 年 3 月に実施した。
測定した。これに加えて,
原因帰属の操作チェッ
クのために,Ellen et al.(2006)が作成した 16
3. 分析結果
項目(価値主導:5 項目,
ステークホルダー主導:
仮説 1 の検証にあたり,原因帰属が操作でき
4 項目,利己的:4 項目,戦略的:3 項目)をこ
ているかどうかを確認するために,4 つの原因
のキャンペーンの文脈に合わせて修正したうえ
帰属を構成する質問項目の平均値を各原因帰属
で,7 段階のリッカート尺度で測定した。
のスコアとして,実験群と対照群でその平均値
サンプルは調査会社のモニターから,SNS 利
の差の検定を行った(表− 1)。価値主導の原因
用をスクリーニング条件として,年齢(20 代,
帰属に統計的な有意な差が見られ,この点で操
30 代,40 代)
,性別で均等割付けし,実験群,
作化はできていたが,ステークホルダー主導に
対照群それぞれ 312 の回答を得た。対照群の中
も同じく優位差が見られた。そこで,原因帰属
表 —— 1 実験群と対照群の間の原因帰属スコアの平均値の差の検定
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の因子構造を確認するために因子分析を行った
平均を他者志向という原因帰属のスコアとし
(表− 2)
。その結果,Ellen et al.(2006)のよう
て(α = 0.901),実験群と対照群でこのスコア
な 4 因子構造ではなく,価値主導とステークホ
の平均値の差を検定した。実験群の平均値 4.95
ルダー主導がひとつの因子を構成する 3 因子構
(S.D.=1.04),対照群の平均値 4.77(S.D.=1.10)で,
造が得られた。Ellen et al.(2006)では,
ステー
5%水準で有意な差が見られた。当初想定して
クホルダー主導は,自発的なものではなく,周
いた価値主導とは異なるが,消費者が SG キャ
囲からの圧力によって CSR 活動に取り組んで
ンペーンの正当性に関してポジティブに評価す
いるというネガティブな評価が消費者になされ
る原因帰属を操作化できたと言えるだろう。
ていたが,今回の調査では他者志向という意味
次に,仮説 1 を検証するために,実験群と対
でポジティブな評価がされたようである 。
照群でキャンペーンへの認知的反応 8 項目と
そこで,価値主導とステークホルダー主導
キャンペーンを見た後の行動意図に関する 5 項
を構成する質問項目からなる第 1 因子のうち,
目の平均値の差の検定を行った。その結果,実
特に因子負荷量が高かった(0.8 以上)項目の
験群の平均値が対照群の平均値を有意に上回っ
6)
表 —— 2 原因帰属項目の因子分析結果
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たのは,認知的反応のうち「このキャペーン
以上の分析結果から,当初の仮説 1 における
を応援したい」
「このキャンペーンを継続して
価値主導の原因帰属を他者志向の原因帰属に拡
もらいたい」の 2 項目のみだった(それぞれ
張すれば,仮説 1 は一部支持されたといえるだ
p<0.05,p<0.10)
。そこで,年代別に同じ分析
ろう。
を行ってみたところ,20 代の回答者では,表−
3 のようにほとんどの項目で実験群の平均値が
4. 考察
対照群の平均値を有意に上回った。反対に,30
まず,全サンプルを用いた分析で統計的有意
代と 40 代ではすべての項目で有意差が見られ
差が見られた項目が「このキャペーンを応援し
なかった。
たい」「このキャンペーンを継続してもらいた
表 —— 3 キャンペーンへの反応の差の検定(20 代のみ)
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い」の 2 項目であったことは重要である。この
関係を見た場合,消費者が供与者ということに
2 項目は,SG キャンペーンがマーケティング成
なる。つまり,CSR 活動に対して消費者が当該
果を生み出す 3 つの要因のうち,
「交換から得
企業の製品を購入したり推奨したりするのは,
られる利益」を消費者が知覚したことを示唆し
そうすることによって準拠集団からの社会的是
ているためである。SG キャンペーンが企業の
認を獲得するためということである。消費者の
エゴではなく,社会志向の理念,想い(thought)
SG キャンペーンを通じた企業への「積極的供
に基づいて行われていると消費者に認められれ
与」が最も明確に現れるのは,キャンペーンが
ば,消費者はキャンペーンが生み出す社会的価
コーズ・リレーテッド・マーケティングの形式
値を自分の価値としてとらえ,その提供を求め,
で行われる場合だろう。コーズ・リレーテッド・
支援するといえるだろう。
マーケティングにおいて,消費者は製品の購入
SG キャンペーンに対する反応が年代によっ
という非常に積極的な形でキャンペーンへの支
て異なる点も重要だろう。このことは,当然の
持を表明することになる。そこで,以下ではコー
ことかもしれないが,優れた SG キャンペーン
ズ・リレーテッド・マーケティング形式の SG
であってもすべての人に支持される訳ではない
キャンペーンに消費者が積極的に参加する条件
ことを示唆している。今回の調査で,原因帰属
を検討してみよう。
がキャンペーンの反応に与える影響は 20 代で
まず考えられるのが,コーズ・リレーテッド・
最も明確に見られた理由については,改めて慎
マーケティングへの参加が準拠集団からの被視
重に検討する必要があるが,彼らがコカ・コー
感(人から見られているという知覚)の高いも
ラ社の主要商品のターゲット層であることと無
のである必要があるということである。社会的
関係ではないだろう。少なくとも,キャンペー
是認の獲得を目的としてコーズ・リレーテッド・
ンの受益者が顧客層と無関係であったり,関係
マーケティングに参加することを考える場合に
があったとしても希薄な関係であったりする場
は,人知れずそうした行為を行っても社会的是
合でも,そのキャンペーンを顧客に伝えるコ
認は得られないからである。たとえば,エコカー
ミュニケーションにおいては,ターゲット・オー
に乗ることは被視感が高いため,エコという価
ディエンスを明確にする必要があるといえるだ
値への同調が認められやすいだろう。また,そ
ろう。
うであるならばプライベートな場面で使用され
るエコ家電の場合は,規範よりも経済性の方が
Ⅴ.調査 2
購買動機となりやすいであろう 7)。
また,規範への同調意識は消費者個人の特性
1. 仮説の設定
にも影響されるだろう。言い換えれば,周囲の
消費者は,周囲の人々に共有されている規範
目を気にする人の方がそうでない人よりもコー
や価値観への同調することで周囲からの是認を
ズ・リレーテッド・マーケティングに参加しや
得るために積極的に供与を行うことがある。こ
すいということである。こうした人目を気に
の視点から CSR 活動とマーケティング成果の
する度合いは心理学で公的自意識(public self-
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Social Good キャンペーンの成果に影響を及ぼす要因の検討
consciousness)と呼ばれており,公的自意識の
キャンペーンを取り上げたのは,学生を対象と
高い人は他者からの評価的態度に敏感であり,
した予備調査において,製品関与と被視感に一
他者の目を意識して自己表出の仕方をコント
定の分散が見られたためである。
ロールする傾向が強いことが示されている(菅
2(SG 情報;あり,なし)×2(被視感;高,
原 1984)
。以上から,次の仮説を設定した。
低)の被験者間実験により仮説 2 を検証するた
めに,実験群には「ダース」の製品情報と「1 チョ
仮説 2:消費者が知覚する製品の購買・使用
コ for 1 スマイル」キャンペーンの情報を提示
場面の被視感が高いほど,消費者は SG キャン
し,対照群には「ダース」の製品情報のみ(た
ペーンに積極的に参加する。
だし,実験群に情報量を近づけるためにフレー
仮説 3:公的自意識の高い消費者は,低い消
バーに関する詳細情報を追加してある)を提示
費者に比べ SG キャンペーンに積極的に参加す
した。被視感は,「チョコレートをお店で選ぶ
る。
とき(買うとき)他の人の目を意識する」
「チョ
コレートを食べるとき他の人の目を意識する」
「他の人がどのチョコレートを買っているか気
2. 調査概要
コーズ・リレーテッド・マーケティング形式
になる」「他の人がどのチョコレートを食べて
の SG キャンペーンとして森永製菓の「1 チョ
いるか気になる」の 4 項目で測定した。
コ for 1 スマイル」キャンペーンを取り上げた。
仮 説 3 の 検 証 の た め に, 菅 原(1984) の 公
これは「ダース」など同社のチョコレート 1 つ
的自意識尺度を利用した(7 段階のリッカー
につき 1 円をカカオ生産国の子どもと農家の支
ト尺度)。また,公的自意識とともに自意識を
援に充てるというものである。チョコレートの
構成する因子である私的自意識(private self-
表 ——4 菅原(1984)の自意識尺度
出所:菅原(1984),p. 186,Table1。
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consciousness)についても,
同じく菅原(1984)
りもだいぶ安ければ買いたい」「ダースは買い
の尺度を利用した。具体的な測定尺度は,表−
たくない」の 6 段階で測定した。
4 の通りである。
サンプルは,チョコレートの主要購入層と考
従属変数としては,
「ダース」の購買意向を「他
えられる 20 代・30 代を均等割り付けし,実験
社の商品よりもだいぶ高くても買いたい」
「他
群,対照群それぞれ206の回答を得た。そのうち,
社の商品よりも若干高くても買いたい」
「他社
対照群に含まれていたキャンペーン内容認知者
の商品と同じ値段なら買いたい」
「他社の商品
21 名を除き,実験群 206,対照群 185 を有効回
よりも若干安ければ買いたい」
「他社の商品よ
答とした。調査はインターネット調査によって,
図 ——1 分散分析(SG 情報 × 被視感)の結果概要
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Social Good キャンペーンの成果に影響を及ぼす要因の検討
2014 年 3 月に実施した。
られたが(ともに p<0.01),統計的に有意な交
互作用効果は認められなかった。したがって,
3. 分析結果
仮説 2 は支持されなかった。
仮説 2 の検証のために,
「ダース」の購買意
次に,仮説 3 の検証のために,「ダース」の
向を従属変数とし,SG 情報と被視感を要因と
購買意向を従属変数とし,SG 情報と公的自意
する 2 元配置の分散分析を行った。分析に当た
識を要因とする 2 元配置の分散分析を行った。
り,先述の 4 項目の平均値で被視感スコアを作
分析に当たり,公的自意識の測定尺度 10 項目
成し(α = 0.808)
,このスコアによってサンプ
を平均して公的自意識スコアを作成し(α =
ルを高群と低群に 2 分した。
0.915),このスコアによってサンプルを高群と
分析結果の概要は 図− 1 の通りで,SG 情報,
低群に 2 分した。
被視感ともに購買意向に対する直接効果は認め
分析結果の概要は図− 2 の通りで,SG 情報の
図 ——2 分散分析(SG 情報 × 公的自意識)の結果概要
47
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直接効果のみが統計的に有意であり(p<0.01)
,
報に加えて,コーズ・リレーテッド・マーケティ
SG 情報と公的自意識の交互作用効果も見られ
ングが対象とする社会的課題の内容,それが生
なかった。したがって,
仮説3は支持されなかっ
み出す社会的価値の内容と条件など,多くの情
た。
報処理を必要とするため,チョコレートに対す
る一定の関与水準がなければ SG 情報が処理さ
れないと考えたためである。調査では,小嶋他
4. 考察
仮説 2,仮説 3 ともに支持されなかったので,
(1985)が作成した製品関与尺度のうち,ブラ
ともに追加的な分析を行った。仮説 2 について
ンド・コミットメント尺度で測定した 3 項目を
は,
製品関与に注目した。コーズ・リレーテッド・
5 段階のリッカート尺度で測定していた。その
マーケティングへの反応としてその対象ブラン
うち,他の項目と相関が低かった 1 項目を除い
ドが選択される場合には,製品特性に関する情
た 2 項目の平均値で作成した製品関与スコアを
図 ——3 高関与群の分散分析(SG 情報 × 被視感)の結果概要
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Social Good キャンペーンの成果に影響を及ぼす要因の検討
用いてサンプルを高群と低群に 2 分し,高関与
仮説 3 については,公的自意識に加え,私的
群だけを用いて,同様の分散分析を行った。そ
自意識の影響も合わせて検討してみた。私的自
の結果は図− 3 の通りである。
意識とは,「自己の内面や感情,気分など,他
このように,今度は SG 情報と被視感の直
者からは直接観察されない自己の側面に注意を
接効果に加え,それらの交互作用効果も統計
向ける程度」(菅原 1984,p. 184)であり,SG
的に有意だった(それぞれ,p<0.01,p<0.01,
キャンペーンに接したときに,それが取り組む
p<0.10)
。
社会的課題に対する自己の価値観や態度のあり
図 ——4 分散分析(SG 情報 × 公的自意識 × 私的自意識)の結果概要
49
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方が,消費者のキャンペーンに対する反応に影
ンへのよりポジティブな反応を生み出すことが
響すると考えたためである。そこで,この私的
確認された。特に,「応援したい」「継続して欲
自意識を加えた 3 元配置の分散分析を行った。
しい」といったキャンペーンへの共感を表す反
結果は図− 4 の通りである。
応が大きかった点は注目に値するだろう。また,
このように,SG 情報と私的自意識の直接効
キャンペーンへの反応は年代によって異なって
果,および SG 情報と私的自意識の 1 次交互作
いた。一見これは当然のように思われるかもし
用交互作用,さらに SG 情報と公的自意識と私
れないが,調査で取り上げたキャンペーンが生
的自意識の 2 次交互作用が見られた(それぞれ,
み出す社会的価値(インド人とパキスタン人の
p<0.01,p<0.01,p<0.10,p<0.01)
。
友好関係)は,回答者の年代を含む属性に関連
仮説 2 と仮説 3 に関する以上の追加的な分析
がないことを考えると,広く社会一般に向けた
が総合的に示唆しているのは,消費者が規範
SG キャンペーンにおいてもそのコミュニケー
への同調による社会的是認の獲得のために SG
ションにおいて,オーディエンスのセグメン
キャンペーンに参加するためには,非常に多く
テーションを検討しなければならないことを示
の情報処理が必要だということである。つまり,
唆している。
製品特性,キャンペーンが取り組む社会的課題
調査 2 では,消費者の規範への同調意識に基
とそれが生み出す社会的価値,そして周囲から
づく反応を引き出すためには,キャンペーン参
見た自分と自ら顧みる自分,こうした情報が総
加の被視感と消費者の公的自意識が高いだけで
合されたときに,SG キャンペーンは消費者に
は不十分であり,これらに加えて,製品関与や
とって社会的是認獲得の手段となるということ
私的自意識が高いことが必要であることが示さ
である。
れた。こうした条件を整えるためには,グリー
ン・コンシューマーに代表されるような社会意
Ⅵ.要約と課題
識の高い消費者を増やすような啓発的なキャン
ペーンなど,社会に対して中長期的にコミュニ
本稿では,企業が CSR の一環として取り組
ケーションを続ける必要があるだろう。
むソーシャル・ビジネスについて,SG キャン
一方で,本稿にはいくつかの限界もある。ひ
ペーンを焦点として,その有効な展開方法を検
とつには,SG キャンペーンの成果に影響を及
討した。特に,顧客が SG キャンペーンによっ
ぼす要因のすべてを取り扱っていないという点
て生み出される社会的価値の受益者でない場合
である。特に,調査 1 で注目した特定企業が特
に,顧客が SG キャンペーンにポジティブな反
定の社会的課題に取り組むことに関する正当性
応を示す条件に関する仮説の検証を行った。仮
に影響を与える要因として,原因帰属の他にも
説はそのまま支持されなかったが,分析結果の
企業特性と社会的課題の適合性が挙げられる。
考察によって効果的な SG キャンペーンの展開
これについては,調査で測定はしていたが,紙
方法への示唆を得た。
幅の制約に加え,先行研究で得られている知見
調査1では,
他者志向の原因帰属がキャンペー
が不安定なこともあり,今回は検討できなかっ
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Social Good キャンペーンの成果に影響を及ぼす要因の検討
た 8)。この適合性と原因帰属との関係,さらに
は自意識と被視感との関係など,キャンペーン
の成果に影響を及ぼすと考えられる変数間の関
係についての理論的考察を進める必要があるだ
ろう。
また,調査設計および分析にも見直すべき点
がある。今回の調査ではあらかじめ設定した仮
説がそのまま支持されなかったが,統制変数と
して用いる予定で測定しておいた製品関与や私
的自意識といった変数や回答者属性を使った分
析によって一定の示唆を得ることができた。こ
こで得られた知見をあらかじめ組み込んだ形で
より精緻な仮説を構築し,適切な設計に基づく
調査を行うことが必要だろう。これらについて
は今後の課題としたい。
付記
本稿作成に当たり,調査設計およびデータ分
析について青山学院大学の久保田進彦教授に丁
寧なアドバイスを戴きました。記して感謝申し
上げます。
注
1)社会的課題にビジネスの手法を活用して取り組むこ
とをソーシャル・ビジネスと呼ぶならば,その主体
は多岐にわたる。谷本他(2013)は,ソーシャル・
ビジネスの主体として,①社会的課題の解決にビジ
ネスとして取り組む社会志向型企業,②伝統的 NPO
とは異なり,基本的にソーシャル・プロダクトを有
料で提供し事業収益を得る(ただし,再配分はせず
次の事業展開に使う)事業型 NPO,③協同組合な
どの中間組織,④営利組織と非営利組織の組み合わ
せ(NPO が事業会社を設立するなど),⑤ CSR の一
環としてソーシャル・ビジネスに取り組む一般企業
を挙げている。
2)フォルクスワーゲン(スウェーデン)は,たとえば,
公園におけるポイ捨てを減らすために,ごみを捨て
ること自体が楽しくなるゴミ箱を開発したり,ある
51
いはたとえ隣にエスカレーターがあったとしても,
階段を使いたくなるようになる階段を開発したりし
た。具体的には,ゴミを捨てると「ヒュ~」っと,
底なし井戸のような効果音が出る特殊なゴミ箱を設
置したり,ステップをピアノの鍵盤のようにデザイ
ン加工し,しかも,上ると「ポン,ポン」とまるで
ピアノの音が出るような仕掛けを施した階段を設置
したりした。そして,人々がそれらを楽しそうに利
用 す る 様 子 を 撮 影, 動 画 に し て 専 用 サ イ ト The
Funtheory.com に掲載。これらの動画は,YouTube
を通して全世界に配信され,ピアノの階段の動画は
2000 万(2014 年 3 月 18 日現在)を超えるページビュー
を獲得している。
なお,カンヌ国際広告祭は 2011 年よりカンヌラ
イオンズ 国際クリエイティビティ・フェスティバル
に改称された。
3)詳しくは,上原(1998),芳賀(1998)を参照のこと。
4)経済的交換の定義もまたさまざまであるが,市場取
引 の 特 徴 を 挙 げ て い る も の が 多 い。 た と え ば,
Bagozzi(1975)は「功利主義にもとづく交換で,
物 財 と サ ー ビ ス の 交 換 に 限 ら れ る 」(p. 315),
Coleman(1990)は「貨幣を用いた交換」(p. 119)
としている。
5)企業の社会貢献を支持する行為は利他的行為とも考
えられる。ただし,それが純粋な慈善のような利他
性に基づくのであれば,それは社会的交換には含ま
れない。したがって,本稿では利他的行為は,本人
が意識しているかどうかとは独立に,自らの利害に
動機づけられるものと考える。なお,こうした立場
に立って利他的行為の連鎖である一般交換が成立す
る条件について研究したものとして高橋他(1999)
が挙げられる。
6)この点は日米の消費者の企業観の差異によるものか
もしれない。その意味で非常に興味深い結果である。
今後の研究課題としたい。
7) B earden and Etzel(1982)は,製品の使用場面に
よって準拠集団がブランド選択に与える影響が異な
ることを論じている。
8)企業特性と社会的課題の適合性に関する先行研究の
レ ビ ュ ー に つ い て は,Gürhan-Canli and Fries
(2010),pp. 102-104 を参照されたい。
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2014 年 3 月 11 日
Piano stairs - TheFunTheory.com(https://www.youtube.
com/watch?v=2lXh2n0aPyw) アクセス日時;2014
年 3 月 18 日
Japan Marketing Academy
Social Good キャンペーンの成果に影響を及ぼす要因の検討
芳賀 康浩(はが やすひろ)
青山学院大学経営学部教授。早稲田大学政治経済学
部を卒業後,早稲田大学大学院商学研究科に進学。
同大学院博士後期課程単位取得退学後,豊橋創造大
学専任講師,関東学院大学助教授,青山学院大学准
教授を経て,2010 年より現職。専門はマーケティング,
ソーシャル・マーケティング。主な業績として『エ
ネルギー問題のマーケティング的解決』(共著,朝日
新聞出版)などがある。
井上 一郎(いのうえ いちろう)
株式会社アサツー ディ・ケイ ストラテジック・プ
ランニング本部 局長 /360 ソリューション・ディレク
ター/商材開発室長/ ADK SOCiAL DESiGNiNG
リーダー。
明治学院大学経済学部卒業,早稲田大学大学院商学
研究科修士課程修了。89 年旭通信社(現アサツー ディ・ケイ)入社。02 年月刊『販促会議』(宣伝会議)
編集長。04 年複社。第 1 クロスコミュニケーション
局長などを経て,現所属本部新設に伴い現職。2013
年より戦略 CSR などを扱う ADK SOCiAL DESiGNiNG
のリーダーも務める。立教大学,明治学院大学,江
戸川大学で非常勤講師。主な業績にスパイクスアジ
ア 2011 メディアスパイクス銅賞受賞,『R3 コミュニ
ケーション』(共同執筆,宣伝会議)などがある。
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JAPAN MARKETING JOURNAL Vol.34 No.1(2014)
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