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2 米国でES細胞研究に対する政府助成が解禁へ(49KB)
NEDO海外レポート
NO.1047,
【ライフサイエンス特集】幹細胞
2009.7.01
政策
米国で ES 細胞研究に対する政府助成が解禁へ
−大統領令第 13505 号と NIH によるガイドライン草案の紹介−
目次
1.
概要
2.
大統領令第 13505 号
3.
NIH ガイドライン草案
3.1
ガイドライン草案に関する補足説明
3.2
ガイドライン草案
1. 概要
2009 年 3 月 9 日、オバマ米大統領がヒト胚(はい)性幹細胞(ES 細胞)注1研究に対す
る連邦予算の助成を解禁する大統領令注2に署名した。米国では、2001 年 8 月にブッシュ前
大統領が、倫理上の問題を理由に連邦予算による ES 細胞研究への助成を制限する声明を
発表して以来、それ以降に作製された ES 細胞を使う研究に対する政府助成が禁止されて
いた注3。今回公布された大統領令はこの制限を解除するものであり、今後、米国における
ES 細胞研究に弾みがつくことが期待される。
今回の大統領令では、公布日から 120 日以内に、幹細胞研究に関する国立衛生研究所
(National Institute of Health:NIH)の新しいガイドラインを策定するよう命じられてお
り、NIH はこれを受けて、4 月 24 日に新ガイドラインの草案を発表した。4 月 24 日∼5
月 26 日までの期間、この草案に対するパブリックコメントが募集され、今月には最終的
なガイドラインが策定されることになる。
新しいガイドラインが策定されるまでの間は、現在 NIH の助成を受けて実施されてい
る研究プロジェクトにおいても、すでに審査・承認の完了している場合を除いて新規の ES
注1
注2
注3
embryonic-stem-cell. 受精卵(初期胚)を使って作製される幹細胞(stem cell)。体を構成するあらゆる細胞
に生育しうる「多能性」あるいは「万能性」などと呼ばれる性質(pluripotency)と、ほぼ無限に増殖させる
ことができるという特徴を持つ。ES 細胞を作製する際に胚が破壊されることが倫理的な問題となっている。
幹細胞とは、特定の細胞に分化する能力と、長期間にわたり未分化のまま分裂を繰り返す自己複製能力を持
つ細胞のこと。
The President Executive Order 13505, “Removing Barriers to Responsible Scientific Research
Involving Human Stem Cells”. (http://edocket.access.gpo.gov/2009/pdf/E9-5441.pdf)
受精時を生命の発生とする考え方では、ヒト胚(受精卵)の破壊は中絶あるいは殺人と等しいと見なされ
る。前政権は、新たな胚の破壊は殺人であり認められないという考え方に基づき、新たに作製された ES 細
胞を用いる研究への連邦助成を禁じた。
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細胞の利用は見合わされるという。また、NIH に助成を申請し、すでに審査されている研
究プロジェクトに対する助成金公布の決定も新ガイドラインの策定まで保留されるほか、
この間に受理された新規助成申請の審査も、新ガイドライン策定後に行われることになる
という。
本稿では、3 月 9 日に公布された大統領令第 13505 号の全文と、NIH が 4 月 24 日に発
表したガイドライン草案に関する補足説明(Supplementary Information)およびガイドラ
イン草案本文を紹介する。
2. 大統領令第 13505 号
2009 年 3 月 9 日付
大統領令第 13505 号
「Removing Barriers to Responsible Scientific Research Involving Human Stem Cells
(ヒト幹細胞を用いた責任を持って行われる研究の実施を妨げる障壁の撤廃)
」
アメリカ合衆国の憲法および法律が大統領である私に付与した権限により、以下のとお
り命ずる。
第1条
政策(Policy)
ヒトの胚性幹細胞(ES 細胞)および非胚性幹細胞を用いた研究には、身体の自由を奪
う多くの病気や障害に対する理解の促進と、より優れた治療技術の実現につながる可能性
がある。この将来有望な科学分野における過去 10 年間の目覚ましい進歩を受け、科学界
では、この分野の研究が連邦政府による助成を受けられるようにするべきだという意見が
大勢を占めるようになっている。
保健社会福祉省(Department of Health and Human Services:HHS)の下にある NIH
などの組織は、大統領注4の決定に基づき、ES 細胞を使う研究への助成やそのような研究
の実施を過去 8 年間にわたり制限されてきた。本大統領令の目的は、科学研究に対するこ
のような制限を取り除き、ヒト幹細胞研究の発展に向けた NIH の支援を拡大することに
よって、人々の役に立つ重要な新発見や新しい治療法の開発などに米国の科学者がより一
層貢献できるようにすることである。
第2条
研究(Research)
HHS 長官は NIH 所長を通じて、科学的に価値があり、責任を持って行われるヒト幹細
胞研究を、法律が許す範囲内で支援および実施する。これらの研究の中には、ES 細胞を
使うものも含まれる。
注4
ブッシュ前大統領のこと。
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第3条
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指針(Guidance)
HHS 長官は NIH 所長を通じて、本大統領令の日付から 120 日以内に、現行の NIH に
よる指針とその他の広く認められているヒト幹細胞研究関連のガイドラインを見直し、本
大統領令と一致する新しい NIH の指針を策定する。これらの見直しの対象の中には、然
るべき保護対策について規定した条項も含まれる。HHS 長官は NIH 所長を通じ、必要に
応じてこれらの指針を定期的に見直し、更新する。
第4条
一般的制約(General Provisions)
(a) 本大統領令は、関連法令に則り、利用可能な予算範囲内で実施されなければならない。
(b) 本大統領令に記載された一切の内容は、以下のいずれに対しても支障やその他の影響
を与えるものではない。
(i) 行政省(executive department)や局庁(executive agency)、あるいはそれらの責任者
に対し、法律によって与えられている権限。
(ii) 予 算 、 行 政 、 あ る い は 法 制 関 連 の 立 案 に 関 す る 行 政 管 理 予 算 局 (Office of
Management and Budget)長官の職務。
(c) 本大統領令は、合衆国およびその省、局庁、団体、それらの職員や被雇用者、またそ
の他すべての人々(の利益)に反するもの(party)の力により、コモン・ローあるいは
エクイティ注5に基づいた法的効力を持つ実質的もしくは手続き的な権利や利益を作り
出すことを意図したものではない。またそのような権利や利益を作り出さない。
第5条
廃止(Revocations)
(a) ES 細胞を用いた研究に対する連邦予算からの資金拠出を制限した 2001 年 8 月 9 日付
の大統領声明は、今後、政府の政策を示す声明としての効力を失う。
(b) 2001 年 8 月 9 日の ES 細胞研究に関する声明を補完する 2007 年 6 月 20 日付の大統領
令第 13435 号も効力を失う。
3. NIH ガイドライン草案
3.1 ガイドライン草案に関する補足説明
2009 年 3 月 9 日、バラク・H・オバマ大統領は大統領令第 13505 号「Removing Barriers
to Responsible Scientific Research Involving Human Stem Cells(ヒト幹細胞を用いた責
注5
common law, equity. 英米法には、法体系の中核となる、判例法主義に基づいたコモン・ロー(普通法)
という概念と、コモン・ローの不足を補うエクイティ(衡平法)という概念がある。エクイティは、コモン・
ローでは妥当な結論が得られない場合に救済法として発達した法分野である。
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任を持って行われる研究の実施を妨げる障壁の撤廃)」に署名した。この大統領令では、
HHS 長官が NIH 所長を通じて、科学的に価値があり、責任を持って行われるヒト幹細胞
研究を、法律が許す範囲内で支援および実施すること、また、これらの研究には ES 細胞
を用いたものも含まれることが定められている。
このガイドライン草案の目的は、2009 年 3 月 9 日に発表された大統領令第 13505 号を
遂行することである。また、同大統領令は NIH の資金を使った外部組織による研究に関
するものであるため、これらの研究に NIH が助成を行う際の方針と手順を定めること、
および、助成対象となる研究が倫理的に妥当で、科学的に価値のある、関連法令に則って
実施されるものとなるようにすることも、このガイドライン草案の目的である。NIH 内で
実施されるヒト幹細胞を用いた研究もまた、大統領令第 13505 号および本ガイドラインと
一致した内容の NIH 内部手順に従って進められることになる。
長期にわたり施行されている HHS の規則である連邦規則集 45 C.F.R. Part 46「被験者
の保護(Protection of Human Subjects)」は、研究で利用されるヒト細胞組織の提供者(ド
ナー)らに対する保護対策を定めたものである。これらの細胞組織には、成体幹細胞注6や
人工多能性幹細胞(iPS 細胞)注7などの非胚性幹細胞も含まれる。ヒトを対象とした研究
(human subject research)の中でヒト成体幹細胞あるいは iPS 細胞を使用する場合には、
治験審査委員会(Institutional Review Board)による審査が必要となる可能性がある。また、
同規則に詳しく記されている個々の要件ごとにインフォームド・コンセント注8が必要とな
る可能性もある。詳しくは、以下の Web サイトを参照:
http://www.hhs.gov/ohrp/humansubjects/guidance/45cfr46.htm
ガイドライン草案の中で述べられているとおり、ヒト ES 細胞はヒト胚に由来する細胞
であり、長期間にわたり分化せずに増殖することが可能で、三胚葉注9に分化する能力を持
つ。ヒト ES 細胞は胚から作られるが、ヒト胚そのものではない。
ヒト ES 細胞を用いた研究により、ヒトの発達における複雑な事象についての理解が進
む可能性がある。ガンや先天性欠損などといった極めて深刻な疾患の中には、細胞の分裂
や分化の異常に起因しているものがある。分裂・分化のプロセスにおける遺伝子や分子の
調節機構に対する理解が深まれば、これらの病気が発生する仕組みが明らかになり、新し
注6
注7
注8
注9
生きている人の生体組織から採取することのできる未分化の幹細胞。自己増殖能力と、元来存在していた
組織内の細胞など特定の細胞に分化する能力を持つ。
Induced pluripotent stem cell. 体細胞にいくつかの遺伝子を導入することで ES 細胞と同様の能力を持た
せた細胞のこと。2007 年に京都大学の山中教授の研究グループによって世界で初めて作られた。
informed consent. 十分な説明を受けた上での合意。日本語では、特に医療や治験などの分野で「治療や治
験の内容について患者や被験者が十分に説明を受け、理解した上で、それらを受けることに合意する」とい
った意味で用いられる。
胚発生の過程で形成される層構造のことを「胚葉(germ layer)」という。体を形成するすべての細胞は、発
生初期に生じる 3 つの一次胚葉(三胚葉:外胚葉(ectoderm)、中胚葉(mesoderm)、内胚葉(endoderm))の
いずれかから発生する。
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い治療戦略を立てることが可能になる。ヒト ES 細胞はまた、新薬のテストにも利用する
ことができる。たとえば、ヒト ES 細胞を分化させて作った体細胞を新薬の安全性テスト
などに利用することが可能である。
ヒト ES 細胞に期待されるもっとも重要な用途は、恐らく、細胞療法注10で利用するため
の細胞および細胞組織の作製であろう。今日、
疾患のある組織や損傷した組織の治療では、
ドナーから提供された組織や臓器を移植する方法が一般的である。だが、移植に利用でき
る組織や臓器に対する需要は、供給可能な量をはるかに超えている。幹細胞を誘導して特
定の細胞に分化されることにより、パーキンソン病や筋萎縮性側索硬化症、脊髄損傷、火
傷、心臓疾患、糖尿病、関節炎など、さまざまな病気や障害の治療に役立つ、移植用の再
生可能な細胞や組織を作ることができるようになる可能性がある。
NIH は現在、ヒト ES 細胞を利用した研究に対して、前大統領の方針に従って定められ
た規制の下で資金助成を行っている。前大統領の方針では、ヒト ES 細胞を使う研究が連
邦政府による助成を受けるには、利用される ES 細胞が、2001 年 8 月 9 日東部夏時間の午
後 9 時よりも前に作製が開始した(胚が破壊された)ものであること、生殖補助のために
作製され、その後必要がなくなった胚から作られたものであること、インフォームド・コ
ンセントを得た上で提供された胚から作られたものであること、金銭的な対価授受なく提
供された胚から作られたものであること、という条件をすべて満たしていなければならな
かった。
今回のガイドライン草案では、生殖補助のために体外受精によって作製され、その後当
該の目的では必要とされなくなった胚から作られたヒト ES 細胞のみを使う研究に対して、
連邦政府による助成が認められている。成体幹細胞および iPS 細胞を用いたヒト幹細胞研
究に対する助成もまた、これまで通り認められる。このガイドライン草案では特に、ES
細胞を使った研究が NIH から助成を受けるために必要とされる、研究で使う細胞の作製
に関する条件と、インフォームド・コンセントの手順について述べられている。このガイ
ドライン草案では、体細胞核移植注11や単為生殖注12由来の ES 細胞、または最初から研究に
使う目的で体外受精により作製された ES 細胞など、定められた条件に従わない方法で作
製された ES 細胞を使う研究に対しては、NIH による資金助成は認められていない。
定められた条件に従って作られたヒト ES 細胞を利用する研究が NIH による助成を受け
る際には、その研究の性質により、HHS の規則である連邦規則集 45 C.F.R. Part 46「被
注10
注11
注12
cell-based therapy. 移植や再生医療など、細胞を用いた治療法。
somatic cell nuclear transfer. 核を除去した未受精卵に体細胞の核を移植して胚(クローン胚)を作ると
いう、いわゆるクローン技術のこと。
parthenogenesis. 卵と精子が受精して子を作る有性生殖に対し、卵子が受精することなく細胞分裂して子
孫を発生させる生殖様式のこと。ここでは特に、卵に人工的な刺激や操作を加えることで人工的に単為発
生を引き起こし、そこから ES 細胞を作製する技術のことを言っている。
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験者の保護」の中で定められている条件が適用される場合とされない場合がある。より詳
し くは、「Guidance for Investigators and Institutional Review Boards Regarding
Research Involving Human Embryonic Stem Cells, Germ Cells, and Stem
Cell-Derived Test Articles(ヒト ES 細胞、生殖細胞、および幹細胞由来の被検物質を用
いる研究に関する治験医師および治験審査委員会のためのガイダンス)注13」と「Guidance
on Research Involving Coded Private Information or Biological Specimens(暗号化され
た個人情報あるいは生物試料を用いる研究に関するガイダンス)注14」、またはこれらを後
継するガイダンスを参照。
幹細胞をヒト胚から得ることに対する NIH の資金助成は、ヒト胚研究への連邦予算の
充当を禁ずる条項(統合歳出予算法(Consolidated Appropriations Act, 2009, Pub. L.
110-161, 3/11/09))により禁じられている。この条項はディッキー・ウィッカー修正とも
呼ばれている。
このガイドライン草案では、条件に従って作製されたヒト ES 細胞や iPS 細胞を使う研
究であっても、NIH による資金助成を受けることができない場合もあるとしている。
NIH は今回のガイドライン草案の策定にあたり、2000 年に発行された NIH ガイドライ
ンのほか、米国内の各学会や国際幹細胞学会などといった科学者、生命倫理学者、患者活
動家団体、医師などからなる国内外の団体によって発行されている、周到に作成されたガ
イドラインを参考にした。
大統領令第 13505 号の中で定められているとおり、必要に応じて、NIH はこれらのガ
イドラインを定期的に見直し、更新することとする。
以下、ガイドライン草稿本文に続く。
3.2 NIH によるヒト幹細胞研究ガイドライン
I. ガイドラインの範囲
本ガイドラインでは、ヒト幹細胞を使う研究が国立衛生研究所(NIH)から助成を受ける
ために必要とされる条件について述べる。また、本ガイドラインには、ヒト胚性幹細胞(ES
細胞)あるいは人工多能性幹細胞(iPS 細胞)を使う研究のうち、NIH の助成を受けるこ
とのできないものに関するセクションも含まれている。
注13
注14
http://www.hhs.gov/ohrp/humansubjects/guidance/stemcell.pdf
http://www.hhs.gov/ohrp/humansubjects/guidance/cdebiol.htm
18
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本ガイドラインにおいて、
「ヒト ES 細胞」とはヒト胚に由来する細胞であり、長期間に
わたり分化せずに培養液中で増殖することが可能で、三胚葉の細胞および組織になること
が知られているものである。ヒト ES 細胞は胚から作られるものの、これらはヒト胚その
ものではない。
II. 研究で使われるヒト ES 細胞の適格性に関するガイドライン
A 大統領令
大統領令第 13505 号「Removing Barriers to Responsible Scientific Research Involving
Human Stem Cells(ヒト幹細胞を用いた責任を持って行われる科学研究の実施を妨げる
障壁の撤廃)
」には、保健社会福祉省(HHS)長官が NIH 所長を通じて、科学的に価値があ
り、責任を持って行われるヒト幹細胞研究を法律が許す範囲内で支援および実施すること、
また、これらの研究の中には ES 細胞を用いたものも含まれることが記載されている。
B ヒト胚に由来するヒト ES 細胞の適格性
生殖補助のために作製され、その後当該の目的では必要とされなくなった胚に由来する
ヒト ES 細胞が研究のために提供された場合、その細胞を利用した研究は NIH から資金助
成を受けることができる。ただし、そのためには、以下のことがすべて文書によって確認
できなければならない。
1. 生殖補助の目的では必要のなくなった胚の利用に関するすべての選択肢が、ドナーに
なりうる人に対して説明されたこと。
2. 胚の提供を促すような働きかけが行われなかったこと。
3. 胚の提供が行われた医療施設において、胚の提供に同意したか否かが、ドナーになり
うる人に対する医療の質に影響を与えないという方針が定められていたこと。
4. 生殖補助の目的でヒト胚を作製するというドナーの決定と、胚を研究のために提供す
るというドナーの決定が、まったく別に下されたものであったということ。
5. 生殖補助を目的として胚を作製した人から残った胚の提供を受けるにあたり、胚の提
供時にそのドナーによる同意を得ていたこと。つまり、ドナーになりうる人が、生殖
治療後に残った胚を研究用に提供する意思を前もって示していた場合であっても、実
際に胚が提供されるときに、再度、胚の提供に同意するという意思が確認されなけれ
ばならない。また、胚が実際に利用されるまでは、胚を提供する意思を取り消す権利
を持っているということが、ドナーに知らされていたこと。
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6. 生殖補助のためにヒト胚を作製するというドナーの決定が、ヒト ES 細胞を作製して
研究で使うという研究者の計画とは無関係に下されたものであったこと。いかなる場
合にも、生殖治療の担当医と、ヒト ES 細胞を作製した研究者や利用を計画した研究
者が同一人物であってはならない。
7. 生殖補助の目的で胚を作製し、残ったヒト胚を研究用に提供することを決心したドナ
ーから、書面でのインフォームド・コンセントが得られていること。ヒト胚を研究用
に提供するか否かの決定に関する以下の情報が、胚提供の同意書に記載されているこ
と。また、インフォームド・コンセントの中で、ドナーになりうる人とこれらについ
て話し合いが行われたこと。
a. 研究への胚の提供は自由意志により行われるということ。
b. 胚の利用に関するほかの選択肢についてもドナーが理解しているということ。
c. 提供された胚が、研究で使うヒト ES 細胞を作るために利用されるということ。
d. 研究で使うヒト ES 細胞を作製する過程で提供された胚がどうなるかということ。
e. 提供された胚に由来するヒト ES 細胞が、何年間にもわたり維持される可能性もあ
るということ。
f. 幹細胞の利用から医療上の恩恵を受ける特定の人に関する制限や方向性無しに、提
供が行われたということ注15。
g. 提供された胚は、胚のドナーに対して直接、医療上の恩恵を与えることを目的とし
た研究に利用されるわけではないということ。
h. ヒト ES 細胞の作製あるいは利用に先立ち、ドナーを特定できる情報を保管するか
否 か に つ い て の 記 述 ( HHS の 被 験 者 保 護 局 (Office for Human Research
Protections:OHRP)による関連ガイダンスに従うこと。OHRP の「Guidance for
Investigators and Institutional Review Boards Regarding Research Involving
Human Embryonic Stem Cells, Germ Cells, and Stem Cell-Derived Test Articles
(ヒト ES 細胞、生殖細胞、および幹細胞由来の被検物質を用いる研究に関する治
験医師および治験審査委員会のためのガイダンス)注16」と「Guidance on Research
注15
注16
特定の人に適用する、あるいは特定の人に対して適用を制限する、などという条件なく胚が提供された、
ということを言っていると考えられる。
http://www.hhs.gov/ohrp/humansubjects/guidance/stemcell.pdf
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Involving Coded Private Information or Biological Specimens(暗号化された個人
情報あるいは生物試料を用いる研究に関するガイダンス)注17」、あるいはこれらを
後継するガイダンスを参照)
。
i. ヒト ES 細胞を使った研究の成果には商業的な発展につながる可能性があるというこ
と。また、そのような発展があった場合にも、ドナーが金銭的利益やその他の恩恵を
受けることはないということ。
C. NIH から助成を受けるには
NIH の助成を受ける組織は、以下のことを保証しなければならない。
(1)研究に使うヒト ES 細胞が本ガイドラインのセクション II の A および B に従って得
られたものであること。
(2)助成を受ける組織は、連邦規則集 45 C.F.R. Part 74.53 注18の規定に従い、一貫性のあ
る適切な文書管理を行うこと。同行政令には、NIH がそれらの文書を利用する権限に
ついても記載されている。
助成を受ける組織の責任者は、これらの細胞を使った研究プロジェクトに対する NIH
への資金助成の申請および経過報告書の提出を承認する際に、上記の(1)と(2)について保証
しなければならない。
III. 定められた条件に従って得られたヒト ES 細胞またはヒト iPS 細胞を利用するにもか
かわらず、NIH から助成を受けることのできない研究
このセクションでは、ヒト ES 細胞およびヒト iPS 細胞、すなわち長期間にわたり未分
化のまま培養液の中で増殖することが可能であり、三胚葉の細胞および組織になることが
知られている細胞を使った研究の管理について規定する。定められた条件に従って作製さ
れた細胞を用いる研究であっても、それらの細胞が以下のように利用される場合には、
NIH から助成を受けることはできない。
A. ヒト ES 細胞(本ガイドラインに従った方法で得られたものであっても)あるいはヒト
iPS 細胞を、ヒト以外の霊長類の胚盤胞に導入する研究。
B. 動物の交配に関する研究のうち、ヒト ES 細胞(本ガイドラインに従った方法で得られ
注17
注18
http://www.hhs.gov/ohrp/humansubjects/guidance/cdebiol.htm
45 C.F.R. Part 74.53, “Retention and access requirements for records”.
(http://frwebgate.access.gpo.gov/cgi-bin/get-cfr.cgi?TITLE=45&PART=74&SECTION=53&YEAR=200
0&TYPE=TEXT)
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たものであっても)あるいはヒト iPS 細胞の導入が生殖細胞系に影響を与える可能性
があるもの。
IV. NIH から助成を受けることのできないその他の研究
A. 幹細胞をヒト胚から得ることに対する NIH の資金助成は、ヒト胚研究への連邦予算の
充当を禁ずる条項(統合歳出予算法(Consolidated Appropriations Act, 2009, Pub. L.
110-161, 3/11/09))により禁じられている。この条項はディッキー・ウィッカー修正と
も呼ばれている。
B. 本ガイドラインでは、体細胞核移植や単為生殖由来の ES 細胞や、最初から研究に使う
目的で体外受精により作製された ES 細胞など、定められた条件に従わない方法で作ら
れた ES 細胞を使う研究に対しては、NIH による資金助成は認められない。
(NIH 所長代理、Raynard Kington, M.D., Ph.D.)
編集・翻訳:桑原 未知子
出典:The President Executive Order 13505
(http://edocket.access.gpo.gov/2009/pdf/E9-5441.pdf)
Draft National Institutes of Health Guidelines for Human Stem Cell Research
(http://stemcells.nih.gov/policy/2009draft.htm)
(参考資料)
NIH の幹細胞情報関連サイト:http://stemcells.nih.gov/policy/
NIH の助成関連ページ:http://grants.nih.gov/grants/guide/notice-files/NOT-OD-09-085.html
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