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ディスカッション・ペーパー:11-J-011 [PDF:730KB] - RIETI

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ディスカッション・ペーパー:11-J-011 [PDF:730KB] - RIETI
DP
RIETI Discussion Paper Series 11-J-011
株式所有構造の多様化とその帰結:
株式持ち合いの解消・「復活」と海外投資家の役割
宮島 英昭
経済産業研究所
新田 敬祐
ニッセイ基礎研究所
独立行政法人経済産業研究所
http://www.rieti.go.jp/jp/
RIETI Discussion Paper Series 11-J-011
2011 年 2 月
株式所有構造の多様化とその帰結:
株式持ち合いの解消・「復活」と海外投資家の役割
宮島英昭(早稲田大学・経済産業研究所・WIAS)
新田敬祐(ニッセイ基礎研究所)
旨*
要
日本企業の株式所有構造は、1997 年の銀行危機以降、かつてのインサイダー優位のそれ
からアウトサイダー優位の構造に大きく転換した。本稿では、この所有構造の劇的な変化
の決定要因とその帰結を、株式持ち合いと海外投資家に焦点を合わせて分析する。まず、
2000 年代後半にみられた持ち合い「復活」は、銀行・事業会社間の持ち合いという過去へ
の回帰ではなく、事業会社同士の関係強化という新たな動きであり、主としてエントレン
チメント動機に基づくものであったこと、しかし、その規模は小さく、アウトサイダー優
位の構造には影響しないことが示される。次に、海外投資家については、その銘柄選択に、
ホームバイアスと関連する特定の偏りがあることに加えて、企業統治要因も考慮されてい
たこと、さらに、海外投資家のプレゼンス上昇が、その銘柄選好を考慮しても、企業パフ
ォーマンスの引き上げ効果を持ったことが明らかにされる。最後に、1990 年代前半の企業
規模、海外市場での名声、企業業績の差が、機関投資家の銘柄選好や企業の自己選択を介
して株式所有構造の分化を生み、この所有構造の差が、それ自体の規律付け効果や経営組
織改革の促進効果を通じて、パフォーマンス格差をさらに増幅するというダイナミックな
関係が強調される。
キーワード:株式所有構造、株式持ち合い、海外投資家、状態依存型ガバナ
ンス、モニタリング、ホームバイアス、同時方程式モデル
JEL classification: G30、G32、G34、G11
RIETI ディスカッション・ペーパーは、専門論文の形式でまとめられた研究成果を公開し、活発な
議論を喚起することを目的としています。論文に述べられている見解は執筆者個人の責任で発表する
ものであり、(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。
*
本稿は、RIETI コーポレート・ガバナンスプロジェクトの成果の一部である。本稿を作成するに当たっ
ては、研究会メンバーから多くの有益なコメントを頂いた。宮島英昭は、科学研究費(基盤研究 A・代表
者宮島英昭、課題番号 19203017)の補助を受けた。
1
1.はじめに
日本の上場企業の株式所有構造は、長く金融機関や事業会社による安定保有によっ
て特徴付けられてきた。この株式保有は、長期的な取引関係を基礎とし、保有先企業
の経営に株主として関与しない、また、非友好的な第三者に売却しないという、経営
者間の暗黙の契約によって支えられていた。この部分をインサイダー保有と呼ぼう。
その中心は、株式持ち合いである。これに対して、国内外の機関投資家によるポート
フォリオ投資、創業者一族や役員以外の個人の保有分、外国法人のプロック所有は、
投資収益の最大化を目的とする株主の保有部分であり、アウトサイダー保有と呼ぶこ
とができる。公表データを利用して株式所有構造の長期的推移を確認してみると、後
述 す る よ う に 、 1960 年 代 の 中 頃 か ら イ ン サ イ ダ ー 保 有 比 率 が 急 上 昇 し 、 70 年 代 前 半
に 55% を 超 え た 後 、 90 年 ま で 漸 増 傾 向 を 示 し な が ら 安 定 的 に 推 移 し た 1 。
し か し 、 こ う し た イ ン サ イ ダ ー 優 位 の 所 有 構 造 は 1990 年 代 後 半 の 銀 行 危 機 を 境 と
して、劇的な変化を示した。金融機関の保有比率が急速に低下し、逆に、外国人保有
比 率 が 急 上 昇 し た 。 バ ブ ル 期 ( 80 年 代 後 半 ) ま で 5%程 度 に と ど ま っ て い た 外 国 人 の
保 有 比 率 は 、90 年 代 に 入 る と 一 貫 し て 上 昇 を 続 け 、06 年 度 末 に は 28% に 達 し た 。こ
の 結 果 、印 象 的 な こ と に 、ア ウ ト サ イ ダ ー の 保 有 比 率 は 、00 年 に は 再 び イ ン サ イ ダ ー
のそれを上回るに至った。
も っ と も 、1990 年 代 半 ば か ら 続 い た ア ウ ト サ イ ダ ー 保 有 比 率 の 増 加 ト レ ン ド は 、06
年 前 後 に 転 換 点 を 迎 え た か に み え る 。 06 年 に 外 国 人 保 有 比 率 が ピ ー ク を 迎 え る 一 方 、
経営支配や企業統治に着目する投資ファンド(アクティビスト・ファンド)が台頭し
たことを背景に、一部の企業の間で試みられた株式持ち合いの「復活」が注目される
よ う に な っ た 。し か も 、07 年 夏 か ら の サ ブ プ ラ イ ム 問 題 に 端 を 発 す る 世 界 金 融 危 機 を
契機に、海外からの投資資金が大規模に国外へ逃避し、外国人保有比率の大幅な低下
がみられた。
本 稿 の 課 題 は 、1997 年 の 銀 行 危 機 か ら 08 年 に か け て 発 生 し た 株 式 所 有 構 造 の 劇 的
な変化を追跡し、その変化をもたらしたメカニズムと帰結を可能な限り包括的に明ら
かにする点にある。具体的には以下の諸点が解明される。
イ ン サ イ ダ ー 保 有 の 形 成 に 関 し て は 、Franks, Mayer and Miyajima (2010、以 下 、FMM
2010)、 宮 島 ・ 原 村 ・ 江 南 (2003) を 参 照 。
1
2
第 1 に 、1990 年 以 降 の 日 本 企 業 の 株 式 所 有 構 造 の 変 化 を 可 能 な 限 り 厳 密 に 確 認 す る
ことである。企業の所有構造の把握にあたって、通常、証券取引所が集計した『株式
分布状況調査』が利用される。しかし、同調査で利用可能なのは市場ベースの集計値
のみであり、個別企業の株式所有構造や企業相互間の株式保有関係が識別できず、株
式の保有主体の分類も形式的である。そのため、株主と投資先企業との関係を捉えた
詳細な実証分析に利用することは不可能である。そこで、主要市場に上場する企業を
対象に、大株主の属性や企業間の株式の相互保有関係を識別したデータベースを作成
して、近年の所有構造の進化についての事実を様式化する。この作業によって、イン
サイダー保有の解体とアウトサイダー優位の構造へのシフトが急速に生じたこと、及
び、この変化は上場企業間で一様に生じたものではなかったことが明らかとなる。
第2の課題は、株式持ち合いの解消と「復活」に関して事実を様式化し、その決定
要 因 を 企 業 の マ イ ク ロ デ ー タ に 基 づ い て 解 明 す る 点 に あ る 。1997 年 か ら 02 年 の 持 ち
合い解消については、銀行と事業会社の個々の相互保有関係を分析単位とした
Miyajima and Kuroki (2007) で 、 す で に 明 ら か に さ れ て い る 。 そ こ で 本 稿 で は 、 こ
の見方を前提とした上で、銀行危機以降の銀行部門の株式ポートフォリオの変化を追
跡し、銀行・事業会社間の持ち合い解消のメカニズムに関するこれまでの理解と整合
的 に 、銀 行 部 門 の 株 式 ポ ー ト フ ォ リ オ が 、主 要 市 場 の 銘 柄 構 成 と 比 べ て 成 長 性 が 低 く 、
リスクの高い企業に大きく偏ったことを明らかにする。他方、本稿では、これまで十
分 に は 解 明 さ れ て こ な か っ た 05 年 以 降 の 持 ち 合 い 「 復 活 」 の 実 態 分 析 を 試 み る 2 。 ま
ず、取引レベルのデータを用いて、持ち合い強化が主として事業会社間で観察され、
銀行・事業会社間の相互持ち合いは増加していないこと、その規模は市場からのモニ
タリングを遮断するほど大きくないことを指摘する。さらに、企業レベルの持ち合い
比率の決定要因の分析を通じて、期初の機関投資家の保有比率が高く、過去に敵対的
な大株主の脅威に直面した経験があり、また、経営者の私的便益の大きい企業が、持
ち合いを増加させる傾向が強いこと、つまり、持ち合い「復活」は経営者のエントレ
ンチメント動機に基づくものであったことを明らかにする。
第 3 に 、1990 年 か ら 07 年 ま で の 海 外 投 資 家 の 増 加 の 決 定 要 因 と そ の イ ン パ ク ト を
考察する。海外投資家による日本株買いについては、従来からホームバイアス問題に
関 連 す る 選 択 銘 柄 の 偏 り が 指 摘 さ れ て き た( Kang and Stulz 1997、Hiraki et al. 2003)。
2
筆 者 の う ち の 一 人 は 、 こ の 過 程 を 追 跡 し た ( 新 田 2008a、 2008b、 2009)。
3
こ こ で は 、海 外 投 資 家 の 保 有 比 率 が 、企 業 規 模 や 海 外 市 場 で の 知 名 度 、業 績 、信 用 度 、
取締役会の構成などから決定されることが示唆される。しかし、他方で、海外投資家
のモニタリンングが経営の効率化に寄与したとの評価もあり、海外投資家が、企業パ
フォーマンスの良い銘柄を選好したのか、それとも、自らのモニタリング行動によっ
て投資先企業のパフォーマンスを引き上げたのかという2つの側面を同時に扱うこと
が必要になる。本稿では、この2つの相関する問題を、それぞれに最適な同時方程式
を解くことによって明らかにする。その結果、海外投資家は、企業規模が大きく、海
外依存度が高く、業績が良く、負債比率が低いといった特徴を持つ企業を選好すると
いう、従来から指摘されてきたホームバイアス傾向が確認される。これに加えて、株
主重視の姿勢を示す取締役会の構成も重要な銘柄選択要因であった。さらに、海外投
資家の銘柄選好による内生性を慎重に考慮したうえでも、海外投資家のプレゼンス上
昇が、経営の規律付け効果を発揮し、企業パフォーマンスを引き上げることが示され
る。
最後に、銀行危機以降の株式所有構造の分化と、企業間のパフォーマンス格差の拡
大 と い う ダ イ ナ ミ ッ ク な 過 程 を 描 く 。 所 有 構 造 の 分 化 が 明 確 化 す る 以 前 の 1996 年 、
分 化 が 明 確 に な っ た 02 年 、海 外 機 関 投 資 家 保 有 比 率 が 頂 点 に 達 し た 05 年 の 3 時 点 の
所有構造を基準とした分析を通じて、銀行危機直前の企業規模、資本市場における名
声、企業パフォーマンスの差が、海外投資家の銘柄選好や企業の自己選択を介して、
株式所有構造の分化を生み、この所有構造の差が、それ自体の規律付け効果や取締役
会の規模縮小、外部役員の導入などの内部ガバナンスの改革促進効果を通じてパフォ
ーマンスの格差を増幅、ないし固定化するというダイナミックな関係が作用した点を
明らかにする。
本稿は、次のように構成される。続く2節では、株式所有構造の動向を長期的な観
点から概観する。3節では、持ち合い解消とその後の増加の過程を、売買動向を詳細
に追跡したデータから明らかにする。4節では、海外投資家の銘柄選択の決定要因を
分析する。5節では、海外投資家の銘柄選好にともなう内生性を考慮した上で、その
プ レ ゼ ン ス 上 昇 が も た ら す パ フ ォ ー マ ン ス 引 き 上 げ 効 果 を 分 析 す る 。最 後 の 6 節 で は 、
以 上 の 分 析 結 果 を 総 括 し 、企 業 統 治 に お け る 株 式 所 有 構 造 の 位 置 づ け の 考 察 を 試 み る 。
2.日本企業の株式所有構造の進化:概観
4
2.1
イ ン サ イ ダ ー の 優 位 : 1970~ 90 年
ま ず 、 1955 年 か ら 90 年 ま で の 、 株 式 所 有 構 造 の 長 期 的 な 変 化 を 概 観 し て お こ う 。
図 1 は 、証 券 取 引 所 が 集 計 し た『 株 式 分 布 状 況 調 査 』に 基 づ き 、イ ン サ イ ダ ー と ア ウ
トサイダーの保有比率の長期時系列推移を示したものである。ここでインサイダーと
は、都銀・地銀等、生損保、その他金融機関、事業法人等の保有比率合計である。こ
うした株主は、一般に、投資先企業との間で長期的な取引関係を有しており、その株
式保有のインセンティブは、投資収益の最大化ではなく、企業間関係の維持にあると
み ら れ て い る 3 。そ こ で 、こ の 部 分 を イ ン サ イ ダ ー 保 有 と 呼 ぶ 。他 方 、ア ウ ト サ イ ダ ー
は、外国人、個人、投資信託、年金信託の保有比率合計であり、その保有目的は投資
収 益 の 最 大 化 に あ る 。図 1 の 保 有 比 率 は 市 場 価 格 ベ ー ス で 集 計 さ れ た も の を 表 示 し て
い る が 、 デ ー タ が 取 得 で き な い 69 年 以 前 に つ い て は 、 株 数 ベ ー ス の 保 有 比 率 に 基 づ
き、その変化幅の情報を失わないように補完している。また、保有主体の内訳に関す
るデータが取得できない場合は、取得可能な情報に基づいて試算したもので補完して
あ る ( 図 1 の 注 記 参 照 )。
戦後改革によっていったん高度に分散し、個人株主が中心となった日本の上場企業
の 株 式 所 有 構 造 は 、 1965 年 の 証 券 不 況 を 画 期 と し て 急 速 に 安 定 化 が 進 み 、 70 年 代 初
頭 ま で に 、銀 行 、事 業 会 社 な ど の イ ン サ イ ダ ー を 中 心 と す る 所 有 構 造 に 変 化 し た 4 。70
年 代 の 半 ば に は 、こ の イ ン サ イ ダ ー の 保 有 比 率 が 55% を 超 え 、こ れ に 対 し て 、個 人 や
機 関 投 資 家 の 保 有 株 式 を 合 計 し た ア ウ ト サ イ ダ ー の 保 有 比 率 は 平 均 し て 35% 前 後 に
とどまった。
==
図1
株式所有構造の長期時系列推移 ==
こ の イ ン サ イ ダ ー 優 位 の 所 有 構 造 は 、1990 年 に 至 る ま で 大 き な 変 化 を 示 さ な か っ た 。
バ ブ ル 期( 80 年 代 後 半 )に は 、資 金 調 達 が 銀 行 借 り 入 れ か ら エ ク イ テ ィ 関 連 債 へ と 大
きくシフトしたが、この間も金融機関は大きく買い越しており、その保有比率はやや
増加した。
3
こ の イ ン サ イ ダ ー 保 有 は 、こ れ ま で 利 用 さ れ て き た「 相 互 持 ち 合 い 」や「 安 定 保 有 」と
オ ー バ ー ラ ッ プ す る が 、よ り 広 い 概 念 で あ る 。FMM (2010) は こ の 視 角 か ら 、日 本 所 有 構
造の進化とその国際的特徴を分析している。
4 詳 し く は 、 川 北 (1995) 、 宮 島 ・ 原 村 ・ 江 南 (2003) 、 FMM (2010) を 参 照 。
5
以上の集計レベルの動きを、本稿で新たに作成したデータを用いて再確認しておこ
う。ここでは、日本の主要市場である東京証券取引所、大阪証券取引所、名古屋証券
取引所の1部市場(以下、三市場1部)に上場する非金融事業法人を対象に、大株主
デ ー タ( 東 洋 経 済 新 報 社 )、及 び 有 価 証 券 報 告 書 に 記 載 さ れ て い る 有 価 証 券 明 細 表 と 所
有 者 別 状 況 ( 日 経 NEEDS) を 組 合 せ 、 各 企 業 の よ り 詳 細 な 株 主 名 簿 を 再 構 成 し 、 株
式 の 相 互 保 有 関 係 の 識 別 や 、 3% 以 上 保 有 す る 大 株 主 の 属 性 判 定 を 行 っ た 上 で 、 可 能
な限り株主をインサイダーとアウトサイダーに分類している。図2は、主要企業のイ
ンサイダーとアウトサイダーの保有比率を単純平均したものだが、その推移は図1と
ほ ぼ 一 致 す る こ と が 確 認 で き る 。 ま た 、 こ の デ ー タ に 基 づ き 、 1987 年 以 降 6 時 点 の
記 述 統 計 量 を 要 約 し た 表 1 に よ れ ば 、87 年 か ら 91 年 の 株 式 所 有 構 造 の 変 化 は 少 な く 、
し か も 両 期 の 所 有 構 造 に お け る 企 業 間 の 分 散 は 小 さ い 。イ ン サ イ ダ ー 保 有 比 率 は 45%
を 超 え る も の の 、 標 準 偏 差 は 13% に と ど ま っ た 。 他 方 、 ア ウ ト サ イ ダ ー 保 有 比 率 は
30%程 度 で イ ン サ イ ダ ー 保 有 比 率 を 大 き く 下 回 り 、そ の 標 準 偏 差 も 10% 程 度 と 小 さ か
った。この時点まで日本の上場企業は、インサイダー優位という特徴において同質的
であった。
し か し 、1990 年 代 初 頭 の バ ブ ル 崩 壊 後 、ア ウ ト サ イ ダ ー 保 有 比 率 が 徐 々 に 増 加 し た
の に 対 し て 、 強 固 だ っ た イ ン サ イ ダ ー 保 有 は 、 97 年 以 降 、 急 速 に 崩 れ て い く 。 以 下 、
90 年 以 降 の 株 式 所 有 構 造 の 変 化 に つ い て は よ り 具 体 的 に 、ア ウ ト サ イ ダ ー の 中 心 で あ
る海外投資家と、インサイダーの中心である株式持ち合いに焦点を当てて議論を進め
ることとする。
==
図2
近年のインサイダー・アウトサイダー保有比率
==
2.2
表1
近年の株式所有構造の変遷
==
==
海 外 投 資 家 の 端 緒 的 増 加 : 1990~ 1996 年
1990 年 代 に 入 る と 、海 外 投 資 家 の 保 有 比 率 が 徐 々 に 増 加 し た 。運 用 資 産 が 増 加 す れ
ば、投資ウエイトが一定であっても、日本市場における海外投資家の保有比率は上昇
す る 。実 際 、米 国 を 中 心 に 海 外 の 機 関 投 資 家 の 国 外 投 資 は 90 年 以 降 に 急 増 し て お り 、
この局面では経済活動のグローバル化にともなって、海外投資家の国際分散投資が進
展 し た と み ら れ る 。 例 え ば 、 米 国 の 海 外 株 式 投 資 残 高 は 、 90 年 の 1,976 億 ド ル か ら
6
95 年 に は 7,768 億 ド ル 、00 年 に は 18,304 億 ド ル に 達 し た( Ahmadjian 2007: p.127)。
こうした国際分散投資の世界的な拡大の一環として、日本の主要企業における海外投
資 家 の 保 有 比 率 は 、 91 年 の 4.1% か ら 96 年 に は 7.1% へ と 拡 大 し た ( 図 3 )。
しかも、海外投資家の市場におけるプレゼンスの上昇は、株式の保有比率に表れる
以上に大きかった。第1に、海外投資家は、この時期の唯一の買い越し主体であり、
東 証 1 部 市 場 に 占 め る 外 国 人 の 売 買 シ ェ ア 5 は 、 1988 年 の 10% 程 度 か ら 96 年 に は
40% 弱 に ま で 増 加 し て い た 。株 価 形 成 に お け る 海 外 投 資 家 の 売 買 の 影 響 が 上 昇 し 、彼
ら に 高 く 評 価 さ れ る こ と が 、経 営 上 、重 要 な 意 味 を 持 つ よ う に な っ た の で あ る 。ま た 、
この間には、外資系金融機関の日本への進出や証券アナリストの増加がみられ、市場
の イ ン フ ラ 整 備 が 進 展 す る な ど の 不 可 逆 的 な 変 化 が 生 じ た 6。
第2に、上述の海外投資家の増加が選択的に発生したことが重要である。この時期
の海外投資家の銘柄選択には強いバイアスがあり、規模が大きく、海外売上高比率が
高く、収益性が高く、高い格付けを取得するなど、既に市場での名声を確立した企業
が 選 好 さ れ た( Miyajima and Kuroki 2007: pp.86-88)。例 え ば 、輸 出 企 業 と し て 知 ら
れ る キ ヤ ノ ン の 海 外 投 資 家 保 有 比 率 は 、1991 年 の 21.5% か ら 96 年 に は 39.0% に 上 昇
し 、同 様 に ソ ニ ー の 海 外 投 資 家 保 有 比 率 も 同 期 に 、21.6% か ら 39.0% に 上 昇 し た( 表
2 )。 か つ て メ イ ン バ ン ク と の 密 接 な 関 係 、 借 り 入 れ 中 心 の 資 金 調 達 、 低 い 外 国 人 保
有 比 率 に よ っ て 特 徴 付 け ら れ た 日 本 企 業 は 、90 年 代 半 ば ま で に 、そ の 銀 行・事 業 会 社
間 7 の 関 係 、所 有 構 造 に お い て 静 か に 多 様 化 し 、こ の 企 業 間 の 差 が 、そ の 後 の 進 化 の 経
路に重要な意味を持つようになる。
2.3
株 式 持 ち 合 い の 解 消 : 1997~ 2004 年
1990 年 代 半 ば ま で 、驚 く ほ ど の 安 定 性 を 示 し た 金 融 機 関 、事 業 会 社 な ど の イ ン サ イ
5
売 買 シ ェ ア = ( 海 外 投 資 家 の 委 託 売 買 金 額 の 合 計 / 全 委 託 売 買 金 額 の 合 計 )。 な お 、 資
本 関 係 が あ る 外 国 法 人 や 海 外 居 住 の 個 人 大 株 主 は 、大 規 模 、あ る い は 高 頻 度 の 取 引 を 実 行
することはないから、この取引の大部分は、海外の機関投資家によるものとみなせる。
6 外資系証券会社の進出はバブル期に一巡していた。
進 出 企 業 現 在 数 は 1985 年 の 14 社 か
ら 90 年 に 52 社 に 急 増 し た 。そ の 後 は 安 定 し 、97 年 で は 57 社 と な っ た( 年 末 、日 本 証 券
業 協 会 調 べ )。90 年 代 は 日 本 へ の 進 出 を 終 え た 外 資 系 証 券 会 社 が 事 業 活 動 を 拡 大 し た 時 期
と 位 置 付 け ら れ る 。 他 方 、 ア ナ リ ス ト は 90 年 代 に 入 っ て 増 加 し た 。 例 え ば 、 証 券 ア ナ リ
ス ト 協 会 の 検 定 会 員 数 は 、 90 年 の 22 百 人 か ら 96 年 に は 94 百 人 に 増 加 し た 。
7 原則として、以下における「銀行」は信託銀行以外の銀行を、
「事業会社」は銀行、信
託銀行、生損保、証券会社、証券金融会社を除く上場会社を表すものとする。
7
ダ ー 中 心 の 株 式 所 有 構 造 は 、 97 年 の 銀 行 危 機 を 境 に 大 き く 変 容 し た 8 。 そ の 中 心 で あ
る 持 ち 合 い 比 率 9 は 、96 年 度 末 の 15.3% か ら 04 年 度 末 に は 9.4% へ と 急 速 に 縮 小 し た
( 図 3 )。 こ の 変 化 の 中 心 は 、 銀 行 ・ 事 業 会 社 間 の 持 ち 合 い 解 消 で あ っ た 。
一 方 で は 、1997 年 以 降 、事 業 会 社 に よ る 銀 行 株 の 売 却 が 進 展 し た 。住 専 問 題 の 顕 在
化( 95 年 )と と も に 、そ の 設 立 母 体 で あ る 銀 行 株 の 価 格 の 下 方 修 正 が 始 ま り 、銀 行 の
経 営 破 た ん が 発 生 し た 97 年 以 降 、 そ の 株 価 下 落 が 加 速 し 、 銀 行 株 の 保 有 リ ス ク は 明
らかに上昇した。事業会社は、戦後初めて銀行株を保有し続けるか売却するかの選択
問題に直面したのである。この市場環境の変化と並行して、後述するように海外投資
家のプレゼンスが上昇した。これにともない、株式持ち合いは投資家からの強い批判
に さ ら さ れ 、説 明 責 任 が 求 め ら れ る よ う に な っ た 。加 え て 、00 年 代 初 頭 の 会 計 制 度 の
大 幅 見 直 し に よ り 、 連 結 決 算 制 度 ( 00 年 3 月 ) や 持 ち 合 い 株 式 の 時 価 評 価 ( 02 年 3
月)が導入され、事業会社は株式持ち合いのリスクを強く意識するようになった。
他方、不良債権問題が深刻化すると同時に、バブル崩壊後の株価低迷による含み益
の 枯 渇 で 株 式 保 有 リ ス ク の 上 昇 に 直 面 し た 銀 行 は 、1997 年 頃 か ら 保 有 株 式 の 売 却 を 開
始 し た 。 そ の 後 の 01 年 に 、 銀 行 に よ る 株 式 保 有 の 規 模 を BIS 規 制 の 中 核 的 自 己 資 本
( Tier1)10 の 範 囲 内 に 抑 え る 銀 行 等 株 式 保 有 制 限 法 が 制 定 さ れ る と( 02 年 1 月 施 行 )、
そ の 売 却 は さ ら に 加 速 し た 。 銀 行 部 門 の 01 年 の 売 越 額 は 2.3 兆 円 に 達 し 、 以 降 、 05
年 ま で 1~ 2.5 兆 円 の 保 有 株 売 却 が 続 い た 。 そ の 結 果 、『 株 式 分 布 状 況 調 査 』 で み る 銀
行 の 保 有 比 率 は 、 96 年 か ら 01 年 ま で に 6.4% 低 下 し 、 さ ら に 01 年 か ら 04 年 ま で に
3.4% 低 下 し た 。
1970 年 代 か ら 90 年 代 半 ば ま で の 日 本 の 上 場 企 業 の 所 有 構 造 の 安 定 性 を 、多 く の 観 察 者
は 驚 き を 持 っ て 指 摘 し て い る ( Flath 1993、 川 北 1995)。
9 こ の 持 ち 合 い 比 率 は 、発 行 済 株 式 数 の う ち 、上 場 会 社 間 の 相 互 持 ち 合 い が 確 認 さ れ た も
の の 割 合 と し て 企 業 毎 に 算 出 し 、そ の 上 で 、各 年 度 末 時 点 に お け る 三 市 場 1 部 上 場 企 業 を
対 象 に 企 業 単 位 で 単 純 平 均 し た も の で あ る 。持 ち 合 い 関 係 は 、2 社 間 の 同 時 点 で の 相 互 保
有 関 係 が 確 認 さ れ た 場 合 に の み 認 識 で き る の で 、こ の 比 率 は 情 報 の 開 示 範 囲 の 制 約 を 強 く
受ける。本稿で提示する持ち合い比率は、確認できたものに限って集計したものであり、
実 際 の も の と 比 べ て 過 少 な 値 に な っ て い る こ と に 注 意 さ れ た い 。 ま た 、 2000 年 3 月 期 決
算 か ら 有 価 証 券 報 告 書 の 有 価 証 券 明 細 表 の 開 示 範 囲 が 縮 小 さ れ た た め 、時 系 列 ト レ ン ド に
ジャンプが生じないように、それ以前のデータについても現行基準を遡及適用してある。
こ の 結 果 、 1999 年 以 前 の デ ー タ は 、 利 用 可 能 な デ ー タ か ら 確 認 で き る も の よ り も 、 持 ち
合 い 比 率 が 3% 程 度 小 さ く な っ て い る 。
10 自 己 資 本 か ら 、 有 価 証 券 含 み 益 な ど を 控 除 し た も の 。
8
8
2.4
海 外 投 資 家 の 急 増 : 1997~ 2006 年
この持ち合い解消と並行して、国内外の機関投資家、特に海外投資家の保有比率が
上 昇 し た 。1996 年 に は 7.1% で あ っ た 海 外 投 資 家 保 有 比 率 は 、02 年 か ら 急 上 昇 を 示 し 、
06 年 に は 14.2% へ と ほ ぼ 倍 増 し た( 図 3 )。個 別 の 動 き で は 、ま ず 99 年 頃 に IT 関 連
企 業 が 主 要 な 投 資 対 象 と な っ た 。 例 え ば 、 NEC の 海 外 投 資 家 保 有 比 率 は 、 96 年 度 末
の 16.9% か ら 01 年 度 末 の 28.3% へ と 急 上 昇 し た 。 さ ら に 、 03 年 以 降 は 、 世 界 経 済 、
特に中国経済の成長の恩恵を受けた素材部門の大企業が広く投資対象となった。例え
ば 、 06 年 度 末 の 新 日 本 製 鉄 の 海 外 投 資 家 保 有 比 率 は 21.9% 、 ア ウ ト サ イ ダ ー 保 有 比
率 は 53.6% に 達 し た ( 表 2 )。
==
図3
==
海外投資家保有比率と持ち合い比率の推移
表2
主要企業の株式所有構造の変化
==
==
そ の 結 果 、 日 本 企 業 の 株 式 所 有 構 造 は 大 き く 変 化 し 、 2000 年 に は 印 象 的 な こ と に 、
イ ン サ イ ダ ー と ア ウ ト サ イ ダ ー の 保 有 比 率 が 再 び 逆 転 し た ( 図 1 、 図 2 )。 わ が 国 上
場 企 業 の 所 有 構 造 は 、 安 定 株 主 作 り が 進 展 す る 以 前 の 60 年 代 前 半 の 水 準 に 戻 っ た の
である。もっとも、復活したアウトサイダー優位の所有構造の中心は、以前の個人か
ら国内外の機関投資家に移動していた。
し か も 、 市 場 取 引 に お け る 外 国 人 の プ レ ゼ ン ス 上 昇 は さ ら に 著 し い 。 1997 年 に は 、
東 証 1 部 に お け る 外 国 人 の 売 買 シ ェ ア が 40% を 超 え 、00 年 に は 50% 、06 年 に は 60%
を超えた。投資主体の中心が海外投資家にシフトしたことは、日本の株式市場の株価
形成において、海外投資家の影響力が飛躍的に高まったことを意味する。この点は、
外 国 人 の 買 越 額 と 日 経 平 均 と の 関 係 を 示 し た 図 4 か ら も 明 確 で あ ろ う 11 。 例 え ば 、 03
年 、 及 び 05 年 半 ば に み ら れ た 海 外 投 資 家 の 大 幅 な 買 い 越 し が 相 場 の 上 昇 を リ ー ド し
た 。ま た 、00 年 前 後 か ら 国 内 外 の ア ク テ ィ ビ ス ト・フ ァ ン ド が 台 頭 し 、次 第 に そ の 活
動 を 活 発 化 さ せ て い っ た こ と も 重 要 な 変 化 で あ っ た 12 。 さ ら に 、 00 年 代 半 ば か ら は 、
株 価 指 数 を 、 買 い 越 し 圧 力 (( 買 付 金 額 ― 売 付 金 額 ) / 東 証 1 部 時 価 総 額 ×100) で 回
帰 し た 簡 単 な 分 析 に よ れ ば 、 買 い 越 し 圧 力 の 係 数 は 、 1980 年 1 月 ~ 89 年 12 月 の 10.19
か ら 、90 年 1 月 ~ 99 年 12 月 に は 、24.67 に 上 昇 し 、00 年 1 月 ~ 09 年 10 月 も 17.5 と 高
い。
12 ア ク テ ィ ビ ス ト ・ フ ァ ン ド の 明 確 な 定 義 は 存 在 し な い が 、 一 般 に 、 大 株 主 と し て の 発
11
9
ラ イ ブ ド ア に よ る 日 本 放 送( 05 年 )、王 子 製 紙 に よ る 北 越 製 紙( 06 年 )、ス テ ィ ー ル ・
パ ー ト ナ ー ズ に よ る ブ ル ド ッ ク ソ ー ス( 07 年 )な ど 敵 対 的 買 収 の 事 案 も 相 次 ぐ よ う に
な っ た 。 わ が 国 で も 徐 々 に 経 営 権 市 場 ( market for corporate control) が 形 成 さ れ は
じめたのである。
海外投資家のプレゼンス上昇に端を発した株主意識の変化は、次第に国内の機関投
資 家 に も 波 及 し て い っ た 。2000 年 代 に 入 る と 厚 生 年 金 基 金 連 合 会( 現 、企 業 年 金 連 合
会 )や 顧 客 の 資 産 を 運 用 す る 国 内 の 投 資 顧 問 会 社 な ど も 議 決 権 行 使 に 積 極 的 と な り 13 、
また、これまで「もの言わぬ株主」と呼ばれた生命保険会社も、独自の議決権行使の
手 続 き を 整 備 す る よ う に な っ た 。00 年 代 後 半 に な る と 、上 場 企 業 は ア ウ ト サ イ ダ ー の
利 害 を 考 慮 し た 経 営 、す な わ ち 株 主 価 値 最 大 化 を 意 識 せ ざ る を 得 な く な っ た の で あ る 。
==
2.5
図4
外国人投資家の売買動向と日経平均株価の推移
==
海 外 投 資 家 の 停 滞 と 持 ち 合 い の 「 復 活 」: 2005 年 か ら 2008 年
銀 行 危 機 以 降 、単 線 的 に 進 展 し た ア ウ ト サ イ ダ ー 保 有 比 率 の 上 昇 傾 向 は 、2006 年 頃
を ピ ー ク に 反 転 の 兆 し を み せ て い る ( 図 1 、 図 2 )。 他 方 、 こ の 動 き と 対 照 的 に イ ン
サ イ ダ ー 保 有 比 率 も 反 転 し 、上 昇 傾 向 を 示 す よ う に な っ た 。04 年 度 末 に は 銀 行 に よ る
保有株の売却が一段落する一方、一部の企業による「戦略的提携」のための資本関係
強 化 の 動 き が 、株 式 持 ち 合 い の「 復 活 」と し て 社 会 的 注 目 を 集 め た 14 。そ の 背 景 に は 、
ア ウ ト サ イ ダ ー 保 有 や 敵 対 買 収 事 案 の 増 加 、三 角 合 併 の 解 禁( 07 年 5 月 )な ど が あ っ
た。
例 え ば 、 M&A に 積 極 的 な 海 外 の 競 争 相 手 に よ る 買 収 の 脅 威 に 直 面 し た 新 日 本 製 鉄
は 、 住 友 金 属 工 業 、 神 戸 製 鋼 所 と の 「 戦 略 的 提 携 」 を 進 め 、 2005 年 か ら 段 階 的 に 3
社間での株式持ち合いを拡大した。その結果、同社の発行済株式数に占める事業会社
言 力 を 背 景 に 、企 業 行 動 に 影 響 を 与 え る こ と で 運 用 収 益 の 向 上 を 狙 う 、法 制 面 の 制 約 か ら
比較的自由な、私的な運用機関と考えられている。
13 同 連 合 会 は 、 2000 年 に 「 受 託 者 責 任 ハ ン ド ブ ッ ク ( 運 用 機 関 編 )
」 を 作 成 し 、 01 年 に
は 、「 議 決 権 行 使 に 関 す る 実 務 ガ イ ド ラ イ ン 」 を 公 表 す る な ど 運 用 面 の 整 備 を 進 め た 。
14 例 え ば 、 週 刊 エ コ ノ ミ ス ト 2005 年 5 月 17 日 号 掲 載 の 「 企 業 の 「 防 衛 本 能 」 が 生 ん だ
増 配 ラ ッ シ ュ と 持 ち 合 い 復 活 」 や 週 刊 東 洋 経 済 06 年 7 月 22 日 号 掲 載 の 「 水 面 下 で 再 び
進 む 株 式 持 ち 合 い 」、 06 年 12 月 29 日 付 け 日 経 金 融 新 聞 掲 載 の 「 キ ー ワ ー ド で 振 り 返 る
06 年 の 企 業 財 務 」、 な ど を 参 照 。
10
に よ る 持 ち 合 い 保 有 分 は 、01 年 度 末 の 1.2% か ら 08 年 度 末 に は 8.4% に 上 昇 し た( 表
2 ) 15 。ま た 、06 年 3 月 、日 立 金 属 と 大 同 特 殊 鋼 が 、資 本・業 務 提 携 す る こ と で 合 意
した。両者は、自動車部品などに使う特殊鋼の原料の共同購入や共同開発を進める一
方 、 株 式 の 1% 程 度 を そ れ ぞ れ 主 に 市 場 か ら 購 入 し 、 段 階 的 に 株 式 の 保 有 比 率 を 上 げ
ていくことを決めた。この資本提携についても買収リスクに対する危機感がきっかけ
のひとつとされた。一方、アクティビスト・ファンドに直面した企業も安定株主作り
に 取 り 組 ん だ 16 。例 え ば 、05 年 以 降 に は 、東 映 な ど の 中 規 模 の 成 熟 企 業 で 持 ち 合 い 強
化が相次いだ。
他 方 、 海 外 投 資 家 は 、 サ ブ プ ラ イ ム 問 題 を 背 景 に 2007 年 か ら 売 り 越 し に 転 じ 、 リ
ー マ ン ・ シ ョ ッ ク が 発 生 し た 08 年 9 月 以 降 、 大 規 模 な 売 却 を 実 行 し た ( 図 4)。 東 証
1 部 市 場 に お け る 08 年 9 月 か ら 09 年 3 月 末 ま で の 外 国 人 の 売 り 越 し 額 は 5.8 兆 円 に
達 し 、 そ の 結 果 、 海 外 投 資 家 の 保 有 比 率 は 13.9% ( 08 年 3 月 ) か ら 11.7% ( 09 年 3
月 ) へ と 低 下 し た 。 日 経 平 均 株 価 は 、 こ の 間 、 13,072 円 ( 08 年 8 月 末 ) か ら 8,109
円 ( 09 年 3 月 末 ) へ と 38% の 大 幅 下 落 を 示 し た が 、 こ の 急 落 は 主 と し て 海 外 投 資 家
の売却によってもたらされたものと考えられる。日本株の市場価格は、海外投資家の
プ レ ゼ ン ス が 上 昇 し た 結 果 、そ の 売 買 行 動 の 影 響 を 強 く 受 け る よ う に な っ た の で あ る 。
以 上 の よ う に 、1997 年 以 降 の 所 有 構 造 の 変 化 は 、イ ン サ イ ダ ー 優 位 か ら ア ウ ト サ イ
ダ ー 優 位 へ の 急 激 な 変 化 と 、05 年 以 降 の そ の 停 滞 と 要 約 で き る 。も っ と も 重 要 な 点 は 、
こうした変化がすべての上場企業で一様に進展したわけではないことである。表1の
標 準 偏 差 の 動 向 が 示 す よ う に 、 例 え ば 08 年 の イ ン サ イ ダ ー の 保 有 比 率 38.3% は 、 91
年 の 46.6% に 比 べ て 8.3% ポ イ ン ト 低 下 し た が 、 そ の 標 準 偏 差 は 逆 に 91 年 の 13.5%
か ら 08 年 の 16.4% へ と 上 昇 し た 。 ま た 、 ア ウ ト サ イ ダ ー 保 有 の 中 心 で あ る 国 内 外 の
機 関 投 資 家 の 保 有 比 率 は 、 91 年 の 9.2% か ら 08 年 の 19% に 急 増 し た が 、 そ れ と 並 行
15
日 本 経 済 新 聞 掲 載 ( 2007 年 09 月 28 日 ) の 「 持 ち 合 い 復 活 の 実 像 ( 中 )」 は 、 こ の 戦
略 的 提 携 に よ っ て「 三 割 ほ ど だ っ た 新 日 鉄 の 安 定 株 主 比 率 は い ま や 五 割 近 く に な っ た 」と
の観測を示している。
早 期 の 事 例 と し て は 、 2003 年 に ス テ ィ ー ル ・ パ ー ト ナ ー ズ の 大 量 買 い 付 け を 受 け た ソ
ト ー の 事 例 が あ る 。同 社 は 、大 量 買 い 付 け を 受 け た 後 、筆 頭 株 主 で あ る ダ イ ド ー リ ミ テ ッ
ド と 持 ち 合 い 関 係 を 強 化 し た 。 04 年 3 月 末 の 株 主 情 報 を 1 年 前 の も の と 比 較 す る と 、 ソ
ト ー が ダ イ ド ー リ ミ テ ッ ド の 保 有 比 率 を 2.0%か ら 3.5% に 増 加 さ せ る 一 方 で 、ダ イ ド ー リ
ミ テ ッ ド が ソ ト ー の 保 有 比 率 を 8.6% か ら 10.5% に 引 き 上 げ た こ と が わ か る 。そ の ダ イ ド
ー リ ミ テ ッ ド も 、 ア ク テ ィ ビ ス ト で あ る 村 上 フ ァ ン ド の 脅 威 に さ ら さ れ て お り 、 04 年 に
オンワード樫山との相互持ち合いを新たに開始した。
16
11
し て 標 準 偏 差 も 7.4% か ら 13.9% に 増 加 し た 。
そこで、次の諸点が自然な疑問として浮上する。第1に、銀行危機以降の持ち合い
解 消 は 、ど の よ う な メ カ ニ ズ ム で 進 行 し た の か 。ま た 、2005 年 以 降 の 持 ち 合 い 「復 活 」
の規模はどの程度か、いかなる特徴を持つ企業が持ち合いを強化したのか、この強化
は イ ン サ イ ダ ー 優 位 の 所 有 構 造 へ の 回 帰 を 意 味 す る の か 。第 2 に 、90 年 代 後 半 か ら 加
速した海外投資家の増加はいかに理解できるのか、海外投資家の銘柄選好にはバイア
スがあるのか、しばしば指摘されるように取締役会組織の改革にはプレミアムが付与
されているのか。第3に、この株式所有構造の変化は、企業パフォーマンスにどのよ
うな影響を与えたのか。海外投資家のプレゼンス上昇は企業経営に対して規律付け効
果を持ったのか。以下では、これらの諸点を独自のデータベースを構築することによ
って解明してゆく。
3.株式持ち合いの解消と「復活」
企業経営者が自社の株主を自ら選択する点にインサイダー保有の本質があるとすれ
ば 、そ の イ ン サ イ ダ ー 保 有 の 中 核 は 株 式 相 互 持 ち 合 い に あ る 。そ こ で 、本 節 で は 、1997
年以降の、この株式持ち合いの実態とその決定要因を解明する。まず、図3から持ち
合 い 比 率 の 長 期 的 な ト レ ン ド を 、 簡 単 に 振 り 返 っ て お こ う 。 同 比 率 は 、 96 年 ま で は
15% 前 後 で 安 定 的 に 推 移 し て き た が 、97 年 か ら 04 年 に か け て 、銀 行 の 保 有 株 売 却 を
中 心 と す る 持 ち 合 い 解 消 売 り に よ り 、大 幅 に 低 下 し た 。05 年 以 降 は 、持 ち 合 い「 復 活 」
へ の 懸 念 が 台 頭 し て き た も の の 、同 比 率 は 9% 近 辺 で 横 ば い と な っ て い る 。す な わ ち 、
集 計 的 な デ ー タ か ら み る 限 り 、 90 年 代 終 盤 か ら 00 年 代 半 ば に か け て の 持 ち 合 い 解 消
は明確であるのに対して、その後の持ち合いの増加はほとんど確認できない。
3.1
持ち合い解消のメカニズムとその帰結
持ち合い解消の実態
もっとも、以上の概観は集計量にとどまる。そこで次に、利用可能なデータから、
相互保有されている株式の売買動向を一件ずつ確認したデータベースを構築して、持
ち合いネットワークが銀行危機以降どのように変遷してきたのかを分析する。売買の
有無は、資本移動や組織再編を考慮した上で、持ち合い株式に2単元以上の変動があ
っ た か ど う か に よ っ て 識 別 す る 。 前 年 度 か ら の 保 有 に 変 化 が な い 場 合 は 「 現 状 維 持 」、
12
売 買 が 確 認 で き る 場 合 は「 売 り 」ま た は「 買 い 」、開 示 情 報 の 制 約 な ど の た め 、収 集 し
た 情 報 か ら は 売 買 が あ っ た か ど う か 合 理 的 判 断 が で き な い 場 合 は「 不 明 」と 認 識 す る 。
その上で、企業単位で売買件数を集計し、各企業の「買い」の件数が「売り」の件数
を 上 回 っ て い れ ば 、持 ち 合 い ネ ッ ト ワ ー ク を「 純 増 」さ せ た 企 業 、下 回 っ て い れ ば「 純
減」させた企業と認識する。なお、集計対象は、図3と同様に三市場1部市場上場企
業(除く金融)とする。
まず、持ち合い株式に関する売買動向を企業単位で集計した表3から、持ち合い解
消 に 関 す る 企 業 行 動 を 確 認 し て お こ う 。同 表 に よ れ ば 、持 ち 合 い 解 消 は 、1998 年 か ら
04 年 に 生 じ て お り 、こ の 局 面 の 持 ち 合 い 株 式 に 対 す る 企 業 の 売 買 行 動 は 、そ れ 以 前 の
局 面 と は 明 ら か に 異 な っ て い る 。 解 消 の 第 1 の ピ ー ク は 99 年 に あ り 、 そ の 後 も 高 水
準 を 保 っ た の ち 03 年 に 2 度 目 の ピ ー ク を 迎 え た 。 こ の 両 年 に は 、 持 ち 合 い 解 消 を 進
め た 企 業( 純 減 )が 三 市 場 1 部 上 場 企 業 の 50% を 超 え 、持 ち 合 い を 増 や し た 企 業( 純
増 、 15% 程 度 ) と の 差 は 35% 以 上 に 広 が っ た 。 し か し 他 方 で 、 こ の 局 面 に お い て も 、
主要企業の3割強が持ち合いを基本的に変化させていなかったという事実も注目に値
する。
==
表3
持ち合いネットワークに関する企業行動
==
この企業単位で集計した売買動向を、主体別の個々の持ち合い株式の売買取引に分
解 し た も の が 表 4 で あ る 17 。 同 表 で は 、 持 ち 合 い 株 式 の 売 買 を 主 体 別 に 銀 行 に よ る も
の ( パ ネ ル 1 )、 事 業 会 社 に よ る も の ( パ ネ ル 2 )、 事 業 会 社 同 士 の も の ( パ ネ ル 3 )
に整理している。ここから明らかなように、持ち合い解消の中心は、銀行・事業会社
間の関係解消であり、とくに銀行が持ち合いの形で保有する株式の売却であった。
1996 年 ま で 3% 程 度 に と ど ま っ て い た 銀 行 に よ る 持 ち 合 い 株 式 の 売 却 比 率( 持 ち 合 い
総 件 数 に 対 す る 売 却 件 数 )は 98 年 に は 10% を 超 え 、銀 行 等 株 式 保 有 制 限 法 の 施 行( 02
17
持ち合いネットワークの件数は、A社によるB社株の保有と、B社によるA社株の保
有 の 双 方 を カ ウ ン ト し て い る の で 、原 則 と し て 、ひ と つ の ネ ッ ト ワ ー ク に つ き 2 件 の カ ウ
ン ト と な る 。た だ し 、持 ち 合 い 関 係 の 認 識 は 、本 稿 の 分 析 対 象 で あ る 主 要 三 市 場 に 限 ら ず 、
全 上 場 市 場 で 行 っ て い る の で 、そ の 総 件 数 は 必 ず し も 偶 数 に は な ら な い 。ま た 、持 ち 合 い
総 件 数 は 、当 年 ま た は 前 年 に 、持 ち 合 い 関 係 が 確 認 で き れ ば カ ウ ン ト す る の で 、当 年 に 持
ち 合 い 関 係 が 完 全 に 解 消 さ れ る ケ ー ス も 、新 た に 持 ち 合 い 関 係 を 構 築 す る ケ ー ス も 、総 件
数には含まれている。
13
年 1 月 )に と も な っ て 急 上 昇 し た 。02 年 に は こ れ と 並 行 し て 、銀 行 等 保 有 株 式 取 得 機
構 、及 び 日 本 銀 行 の 株 式 買 取 り が 始 ま っ た が 、銀 行 の 売 却 比 率 は 40% を 超 え 、同 法 の
目 標 年 次 で あ っ た 04 年 ま で 売 却 が 継 続 し た 18 。
他方、事業会社による持ち合い株式の売却比率は、持ち合い株式の時価評価を求め
る 会 計 基 準 の 変 更 を 受 け て 、 1999 年 か ら 00 年 に か け て 上 昇 し た 後 、 さ ら に 03 年 か
ら 04 年 に か け て 売 却 が 進 展 し た 。 し か し 、 表 4 パ ネ ル 3 に よ れ ば 、 03 年 か ら 04 年
にかけての事業会社による持ち合い株式の売却は、主として持ち合い関係にある銀行
株の売却、つまり銀行による持ち合い解消売りに対応した売却であり、事業会社間の
持ち合い解消は著しく少なかった。
==
表4
持ち合い株式の主体別売買動向
==
持ち合い解消のメカニズム
このように持ち合い解消の中心は銀行・事業会社間の関係解消にあったが、この売
却 は す べ て の 銀 行 ・ 事 業 会 社 の 間 で 均 一 に 進 展 し た わ け で は な か っ た 。 1995 年 か ら
02 年 ま で の 銀 行 ・ 事 業 会 社 双 方 の 売 却 要 因 を 分 析 し た Miyajima and Kuroki (2007)
では、次の諸点が明らかにされている。
第1に、事業会社が持ち合い保有する銀行株の各年の売却の選択を、①売却の必要
性、②保有する銀行の財務健全性、③事業会社に対する資本市場からの圧力、④買収
の潜在的可能性、⑤保有銀行との融資・株式保有関係に回帰した結果によれば、事業
会社による持ち合い解消は、パフォーマンスが高く、資本市場への接近の容易な事業
会社が、持ち合い関係にある銀行の株式を売却する傾向が強く、逆に、いぜん銀行借
り入れに依存し、メインバンクとの間の関係を維持している事業会社では、銀行株の
保有リスクが上昇した環境の下でも、売却率が低い傾向がみられた。
第2に、各年において銀行が保有する事業会社株の売却の選択を、①銀行の株式投
資 行 動 、② 銀 行 に 対 す る 資 本 市 場 か ら の 圧 力 、③ 持 ち 合 い 保 有 す る 事 業 会 社 の 特 性( 成
長 可 能 性 、デ フ ォ ル ト・リ ス ク )、④ 銀 行 と 事 業 会 社 と の 長 期 的 関 係 を 示 す 変 数 に 回 帰
銀 行 等 保 有 株 式 取 得 機 構 は 銀 行 等 が 保 有 す る 株 式 を 、 2002 年 2 月 か ら 06 年 4 月 ま で
に 1.6 兆 円 を 購 入 し た 。他 方 、日 本 銀 行 は 02 年 11 月 か ら 04 年 9 月 ま で に 2 兆 円 を 購 入
した。
18
14
した結果によれば、銀行は、パフォーマンス(成長可能性)が高く、資本市場へのア
ク セ ス が 容 易 な 事 業 会 社 を 選 択 的 に 売 却 し 19 、 他 方 で 、 借 入 依 存 度 が 高 く 、 自 行 が メ
インバンクとなっている事業会社株の売却確率は低かった。相互に依存関係にある事
業会社の持ち合い株式を売却すれば、
「 メ イ ン バ ン ク が 見 放 し た 」こ と を 示 す シ グ ナ ル
となり、貸し出しと株式保有の両面でコミットする顧客企業が財務危機に陥る可能性
があったからである。
第 3 に 、 Miyajima and Kuroki (2007) は 、 推 計 モ デ ル の 変 数 に 、 持 ち 合 い の 相 手
先( 銀 行 、事 業 会 社 )の 当 年 、ま た は 前 年 の 保 有 株 式 の 売 却 の 有 無 を 追 加 す る こ と で 、
この持ち合い解消が協調的に行われたのか、非協調的に行われたのかに接近した。そ
の結果、持ち合い解消が同時期に行われる傾向が強いことが示された。例えば、事業
会 社 の 1999 年 か ら 01 年 に か け て の 保 有 銀 行 株 の 売 却 確 率 は 、持 ち 合 い 相 手 で あ る 銀
行 の 同 年 の 売 却 に よ っ て 5% 程 度 引 き 上 げ ら れ る が 、 こ れ に 対 し て 前 年 の 売 却 の 効 果
は 1 % で あ る 。こ の 時 期 の 事 業 会 社 の 保 有 銀 行 株 の 売 却 確 率 19% の う ち 4 分 の 1 が 協
調的な売却よって説明される。他方、銀行による持ち合い株式の売却については、そ
れ に 先 行 す る 事 業 会 社 の 売 却 が 、 次 期 の 銀 行 の 売 却 確 率 を 引 き 上 げ る 効 果 が 6% で あ
る の に 対 し て 、 ラ グ の 効 果 は 3.5% で あ っ た 。 つ ま り 、 銀 行 に よ る 持 ち 合 い 解 消 売 り
では、事業会社による先行売却が、銀行の売却を誘発する面がやや強かったといえる
が 、同 期 の 銀 行 の 売 却 確 率 25.4% の う ち 4 分 の 1 は 、事 業 会 社 の 保 有 銀 行 株 の 売 却 と
同様に協調的な解消によって説明できる。持ち合い解消は、基本的に相互に協調的に
進められたとみてよかろう。
銀行ポートフォリオの劣化
以上の通り、保有株式の早急な処分を迫られた銀行は、流動化が容易で、自行への
借入依存度が低い事業会社の株式を売却し、他方で事業会社側も、資本市場へのアク
セスが容易となったグループから銀行との持ち合い関係を解消した。こうした銀行・
事業会社双方の行動は、銀行の株式保有の減少だけでなく、その株式ポートフォリオ
が劣化したことを予想させる。
そ こ で こ の 点 を 、主 要 銀 行 全 体 の 株 式 ポ ー ト フ ォ リ オ の 特 徴 を 三 市 場 1 部 の 市 場 構
銀行等保有株式取得機構、日本銀行の株式買い取りの条件が、トリプル B 以上の格付
けを取得した企業であったこともこの選択を促進した。
19
15
成と比較した表5から確認しておこう。ここでは、都市銀行と長期信用銀行(以下、
主要銀行部門)の保有銘柄のうち三市場1部上場企業(除く金融)を対象として、各
銘柄の企業特性を表す諸指標を、主要銀行部門の保有金額に基づいて加重平均したも
のと、その市場時価総額に基づく加重平均値と比較した(各指標の定義については表
5 の 注 記 参 照 )。
銀 行 危 機 直 前 の 1996 年 度 末 ま で は 、 主 要 市 場 に 上 場 す る 企 業 の ほ ぼ 全 て に 銀 行 が
大 株 主 と し て 存 在 し 、 強 固 な 持 ち 合 い 関 係 を 維 持 し て い た 。 対 象 企 業 の 30 大 株 主 に
平 均 し て 4 社 弱 の 銀 行 が 確 認 で き 、各 種 資 料 か ら 捕 捉 で き る だ け で も 、発 行 済 株 式 数
の 約 10% が 銀 行 部 門 に よ っ て 保 有 さ れ て い た 。し か し 、銀 行 危 機 以 降 に は 、主 要 銀 行
部門による持ち合い解消売りが大きく進展し、銀行等株式保有制限法のショックが一
巡 し た 04 年 度 末 に は 、 30 大 株 主 に と ど ま る 銀 行 は 平 均 し て 2 社 弱 に 低 下 し 、 銀 行 部
門 の 保 有 比 率 は 4% 弱 に ま で 減 少 し た 20 。
こ の 売 却 行 動 は 、銀 行 の 株 式 ポ ー ト フ ォ リ オ の 劣 化 を と も な っ た 。1996 年 以 前 の 主
要 銀 行 部 門 の 株 式 ポ ー ト フ ォ リ オ は 、ト ー ビ ン の q 、ROA、負 債 比 率 の い ず れ で み て
も 、 三 市 場 1 部 の 市 場 構 成 と ほ ぼ 同 様 で あ っ た が 、 銀 行 危 機 後 の 97 年 以 降 に は 市 場
構 成 か ら 大 き く 乖 離 し た 。04 年 の 銀 行 ポ ー ト フ ォ リ オ に お け る ト ー ビ ン の q の 平 均 は
1.22 と な り 、市 場 平 均 の 1.73 よ り も 3 割 程 度 低 く な っ た 。同 様 な 傾 向 は 、ROA に つ
い て も 確 認 で き 、 銀 行 の 株 式 ポ ー ト フ ォ リ オ の 平 均 的 な ROA 水 準 で あ る 6.37% は 、
市 場 平 均 の 8.24% を 1.87% ポ イ ン ト 下 回 っ た 。こ の 結 果 は 、不 良 債 権 処 理 原 資 の 捻 出 、
保 有 株 式 の 圧 縮 の た め に 、 ま ず は 優 良 株 か ら 売 却 し た と い う Miyajima and Kuroki
(2007) の 見 方 と 整 合 的 で あ る 。 他 方 、 負 債 比 率 に つ い て は 、 市 場 全 体 で 97 年 以 降 に
低 下 傾 向 が 確 認 で き る が 、そ の 低 下 幅 は 銀 行 の 株 式 ポ ー ト フ ォ リ オ の 方 が 鈍 い 。97 年
に は 三 市 場 1 部 の 市 場 構 成 と ほ ぼ 同 様 で あ っ た 負 債 比 率 も 、 02 年 に は 4%ポ イ ン ト 、
05 年 に は 5%ポ イ ン ト 、 三 市 場 1 部 の 市 場 構 成 を 上 回 っ た 。 銀 行 危 機 後 の 局 面 で 流 動
化 の 容 易 な 銘 柄 の 売 却 を 進 め た 結 果 、99~ 01 年 に は 売 却・保 有 継 続 の 選 択 に あ た っ て
デフォルト・リスクに対する考慮が後退し、むしろデフォルト・リスクの低い企業の
売 却 を 優 先 し た と い う Miyajima and Kuroki (2007: p.104) の 結 果 と 整 合 的 で あ る 。
大 株 主 と し て 登 場 す る 銀 行 数 の 減 少 は 、 2000 年 以 降 の 主 要 銀 行 の 経 営 統 合 の 影 響 を 強
く 受 け て い る 。さ ら に 、統 合 後 の 保 有 株 式 に 5% ル ー ル が 適 用 さ れ る の で 、銀 行 の 経 営 統
合は、保有株式の売却を促す要因でもあった。
20
16
以 上 要 す る に 、銀 行 危 機 後 の 持 ち 合 い 解 消 局 面 で は 、銀 行 の 株 式 ポ ー ト フ ォ リ オ も 、
成 長 可 能 性 が 低 く 、業 績 が 悪 く 、デ フ ォ ル ト・リ ス ク の 高 い 企 業 に 偏 っ た の で あ る 21 。
==
3.2
表5
銀行ポートフォリオの劣化
==
株式持ち合いの「復活」とその要因
持ち合い「復活」の実態
既 述 の 通 り 、 集 計 的 な デ ー タ か ら は 、 し ば し ば 批 判 さ れ る 2000 年 代 後 半 の 持 ち 合
いの増加は確認できない。では、注目された持ち合い「復活」は、規模が小さく、無
視 し う る 現 象 な の だ ろ う か 。00 年 代 に 入 る と 、敵 対 的 買 収 や ア ク テ ィ ビ ス ト・フ ァ ン
ドが台頭するが、こうした敵対的な大株主の影響力を排除するための手段として、持
ち 合 い が 企 業 経 営 者 の 間 で 再 び 見 直 さ れ る よ う に な っ た 可 能 性 が 指 摘 さ れ て い る 22 。
もしそうであれば、持ち合い強化は、現経営陣の保身を目的としたものであり、その
コストを負担することは、投資家に受け入れられないばかりか、資源配分効率の面か
らも問題を含む。この意味で、持ち合い「復活」の実態やその要因を理解することは
極めて重要である。
そこで、持ち合い株式の個々の売買行動を企業単位で集計した表3を用いて、持ち
合い「復活」の実態を確認しておこう。同表から、企業の持ち合いに対する姿勢は、
2005 年 を 境 に 明 確 に 反 転 し た こ と が わ か る 。 05 年 以 降 の 局 面 で は 、 持 ち 合 い を 強 化
し た 企 業( 純 増 )の 割 合 が 三 市 場 1 部 上 場 企 業 の 35% 程 度 に 上 昇 し 、逆 に 、持 ち 合 い
解 消 を 進 め た 企 業 ( 純 減 ) の 割 合 が 10% 程 度 に 低 下 し た た め 、 そ の 差 は 20% を 超 え
た 。持 ち 合 い 強 化 へ の 取 り 組 み が 、主 要 企 業 の 多 く で み ら れ る よ う に な っ た の で あ る 。
こ れ を 主 体 別 に み る と 、2005 年 以 降 の 持 ち 合 い 強 化 の 多 く が 、事 業 会 社 間 で 生 じ た
ことがわかる。この間の銀行の持ち合いネットワークは売りと買いがほぼ拮抗し、ネ
ットではむしろやや減少しているから、持ち合いの増加には寄与していない(表4パ
ネ ル 1 )。銀 行 が 株 式 持 ち 合 い の 中 心 に 位 置 す る 、銀 行 危 機 以 前 の 状 況 に 復 帰 す る 兆 候
宮 島 ・ 蟻 川 (1999) は 、 1980 年 代 の 社 債 規 制 緩 和 以 降 、 銀 行 の 貸 出 ポ ー ト フ ォ リ オ が
リ ス ク の 高 い 企 業 に 偏 っ た こ と を 指 摘 し て い る 。な お 、銀 行 の 株 式 ポ ー ト フ ォ リ オ と 市 場
ポ ー ト フ ォ リ オ の 乖 離 は 、 05 年 3 月 末 を ピ ー ク に 徐 々 に 縮 小 し た 。
22 こ の 傾 向 は 、ブ ル ド ッ ク ソ ー ス 事 件 最 高 裁 決 定( 2007 年 8 月 7 日 )以 降 、買 収 防 衛 策
の 有 効 性・正 当 性 が 、株 主 総 会 決 議 に 依 存 す る と い う 理 解 が 広 ま っ た こ と に よ っ て 強 化 さ
れたとみられる。
21
17
を 見 出 す こ と は で き な い 。 こ れ に 対 し て 、 98 年 か ら 04 年 の 解 消 局 面 で も 、 持 ち 合 い
解 消 に 消 極 的 だ っ た 事 業 会 社 は 、 05 年 か ら 株 式 持 ち 合 い の 積 み 増 し 姿 勢 を 鮮 明 に し 、
07 年 に は 純 増 が 11.7% に 達 し た ( 表 4 パ ネ ル 2 )。 し か し 、 こ の 持 ち 合 い 強 化 は 、 も
っぱら事業会社による銀行株の購入ではなく、他の事業会社株の購入という形で進展
し た 。 事 業 会 社 同 士 の 株 式 持 ち 合 い は 、 新 会 計 基 準 導 入 前 の 99 年 を 除 け ば 、 基 本 的
に 強 化 さ れ る 方 向 に あ り 、 特 に 05 年 以 降 の 持 ち 合 い 強 化 は 、 そ れ ま で の ト レ ン ド を
大 き く 上 回 る 水 準 と な っ て い る ( 表 4 パ ネ ル 3 )。 ま た 、 こ の 事 実 と 整 合 的 に 、 デ ー
タ か ら 確 認 で き る 相 互 持 ち 合 い の 総 件 数 も 、05 年 以 降 は 、そ れ 以 前 と 比 較 し て 大 幅 に
増加している。
持ち合い「復活」の要因分析
で は 、2005 年 以 降 の 持 ち 合 い 強 化 は 、い か な る 要 因 に 基 づ く の か 。こ こ で は 、持 ち
合い比率の変化に着目して、どのような特性を持つ企業が持ち合い比率を増加させた
か を 分 析 す る 。サ ン プ ル と し て 三 市 場 1 部 上 場 の 非 金 融 事 業 法 人 を と り 、持 ち 合 い の
「 復 活 」が 注 目 さ れ た 05 年 3 月 末 か ら 08 年 3 月 末 ま で( 以 下 、再 強 化 期 )を 1 期 間
と 捉 え て 、 持 ち 合 い 比 率 の 変 化 の 決 定 要 因 を 02 年 3 月 末 か ら 05 年 03 月 末 の 解 消 期
と 比 較 す る 。 推 計 方 法 は 、 以 下 の (1) 式 に 示 さ れ る ク ロ ス セ ク シ ョ ン 回 帰 で あ る 。
( 1)
⊿ CROSS =
F ( X1, X2, X3 )
こ こ で 、 被 説 明 変 数 の ⊿ CROSS は 、 3 年 間 の 持 ち 合 い 比 率 の 変 化 幅 で あ る 。 さ ら
に、持ち合いの強化が顕著であった非金融事業法人の行動や、より広義の株式安定工
作の決定要因を詳細に検討するため、この被説明変数を、持ち合い比率のうち非金融
事 業 法 人 に よ っ て 保 有 さ れ る 部 分 の 変 化 幅 と し て 定 義 さ れ る ⊿ CROSS’、 及 び 、 銀 行
や事業会社、持株会、役員、創業者一族などで構成されるインサイダー保有比率の同
期 間 の 変 化 幅 で 定 義 さ れ る ⊿ INSIDER に 置 き 換 え て ( 1) 式 を 推 計 し た 。
他 方 、説 明 変 数 の う ち X 1 は 、株 主 か ら の 圧 力 の 代 理 変 数 で あ る 。ひ と つ は 、期 初 の
ア ウ ト サ イ ダ ー の 保 有 比 率 で あ る 23 。 い ま ひ と つ は 、 ア ク テ ィ ビ ス ト ・ フ ァ ン ド の 標
23
各 変 数 の 定 義 に つ い て は 、表 1 下 段 を 参 照 。ま た 、ア ウ ト サ イ ダ ー 保 有 比 率 に 代 え て 、
国内外の機関投資家保有比率を導入した推計も試みた。
18
的ダミーであり、観察期間の期初時点で既に標的であったことを示すものと、期間中
に 新 た に 標 的 に な っ た こ と を 示 す ダ ミ ー 変 数 を 、 そ れ ぞ れ 導 入 し た 24 。 こ の フ ァ ン ド
標 的 ダ ミ ー は 、 解 消 期 の 期 初 で あ る 2001 年 度 末 に は 31 社 と 少 な か っ た が 、 期 中 の
01~ 04 年 度 に 65 社 が 新 た に 標 的 と な っ た 。 ま た 、 再 強 化 期 の 期 初 で あ る 04 年 度 末
時 点 で は 標 的 と な る 経 験 を し た 企 業 が 89 社 あ り 、期 中 の 04~ 07 年 度 に は 116 社 が 新
たに標的になった。
X 2 は 、経 営 者 の 私 的 便 益 を 示 す 変 数 で あ り 、2 つ の タ イ プ か ら な る 。ひ と つ は 、取
締役会における内部昇進者のポスト数であり、取締役の人数から社外出身者を除外し
た 内 部 取 締 役 人 数 を 用 い る 。 い ま ひ と つ は 余 剰 資 金 の 水 準 で あ る 。 胥 (2007) や 新 田
(2008b ) が 示 し た よ う に 、余 剰 資 金 が 豊 富 な 企 業 は 、ア ク テ ィ ビ ス ト・フ ァ ン ド の 標
的 に な り や す い 。そ こ で 、「( 現 金 +有 価 証 券 +投 資 有 価 証 券 )/ 総 資 産 簿 価 」で 定 義 さ
れる余剰資金比率を導入し、その水準が持ち合い比率の決定に影響を与えるという見
方をテストする。
さ ら に 、企 業 の 収 益 性 や 企 業 規 模 を コ ン ト ロ ー ル す る た め に X 3 と し て 、ト ー ビ ン の
q が 1 以 上 の 場 合 に 1 を 与 え る Hiq ダ ミ ー 、及 び 、イ ン タ レ ス ト・カ バ レ ッ ジ・レ シ
オ ( 営 業 利 益 / 支 払 利 息 ) が 1.5 を 下 回 る 場 合 に 1 を 与 え る 財 務 危 機 ダ ミ ー 、 総 資 産
の 対 数 値 を 導 入 し た 25 。
再 強 化 期 の ⊿ CROSS の 平 均 値 は 0.33% と 解 消 期 の マ イ ナ ス 2 % に 対 し て わ ず か な
が ら 正 の 値 を と り 、そ の 標 準 偏 差 は 4% 弱 で あ っ た 。ま た 、こ の ⊿ CROSS の 内 数 で あ
る ⊿ CROSS’の 平 均 値 は 、 再 強 化 期 で 0.8% と ⊿ CROSS よ り や や 高 く 、 事 業 会 社 間 の
持ち合いが増加していることがうかがえる。他方、持ち合い関係に限定しない、広義
の 安 定 株 主 の 変 化 を 示 す ⊿ INSIDER は 、 再 強 化 期 に お い て 平 均 値 で は 負 で あ る も の
の 、 そ の 標 準 偏 差 は 7.8% と 大 き く 、 こ の 時 期 に 一 部 の 企 業 で イ ン サ イ ダ ー の 保 有 比
率が上昇したことが示唆される。
( 1)式 の 推 計 結 果 は 、表 6 に 要 約 さ れ て い る 。こ こ で は 次 の 2 点 が 注 目 さ れ よ う 。
24
標 的 ダ ミ ー は 、新 聞 報 道 等 に 基 づ き 、15 の ア ク テ ィ ビ ス ト・フ ァ ン ド( 村 上 フ ァ ン ド 、
ス テ ィ ー ル 、 ザ ・ チ ル ド レ ン ズ 、 ペ リ ー 、 ダ ル ト ン 、 ブ ラ ン デ ス な ど ) を 特 定 し 、 1997
年 以 降 の 彼 ら の 投 資 行 動 を 、大 量 保 有 報 告 書 、変 更 報 告 書 、及 び 大 株 主 名 簿( 東 洋 経 済 新
報 社 ) か ら 追 跡 調 査 し た 。 詳 し く は 、 新 田 (2008b) を 参 照 。
25 Hiq ダ ミ ー が 1 を と る の は 、 再 強 化 期 で は 全 サ ン プ ル の 69.2% 、 解 消 期 で は 46.3% で
あ っ た 。 一 方 、 財 務 危 機 ダ ミ ー が 1 を と る の は 、 再 強 化 期 で は 全 サ ン プ ル の 5.9% 、 解 消
期 で は 22.3% で あ っ た 。
19
第1に、再強化期では、株主からの圧力が安定株主作りを促したことが鮮明に確認で
き る 。 X 1 の ア ウ ト サ イ ダ ー の 係 数 は 、 再 強 化 期 の み で 有 意 に 正 で あ り 、 2004 年 度 末
にアウトサイダー保有比率が著しく上昇した企業は、株式安定工作を試みる傾向があ
っ た 。そ の 規 模 は 、保 有 比 率 が 平 均 の 46.4% か ら 1 標 準 偏 差( 13.5% )高 ま る と 、持
ち 合 い 比 率 を 0.3% 、 イ ン サ イ ダ ー 保 有 比 率 を 1.1% 引 き 上 げ る 効 果 を 持 つ 26 。 他 方 、
株 式 持 ち 合 い に 対 す る フ ァ ン ド 標 的 ダ ミ ー の 係 数 は 、再 強 化 期 の み で 有 意 に 正 と な り 、
当期よりも期初の方が安定的な効果を持つ。敵対的な大株主の脅威にさらされた企業
は 、 平 均 し て 持 ち 合 い 比 率 を 1% 程 度 引 き 上 げ た 。
==
表6
持ち合い「復活」の要因分析
==
第 2 に 、経 営 者 の エ ン ト レ ン チ メ ン ト 行 動 は 再 強 化 期 で よ り 鮮 明 と な る 。⊿ CROSS、
⊿ CROSS’を 被 説 明 変 数 と し た 推 計 を み る と 、 X 2 の 内 部 取 締 役 人 数 、 余 剰 資 金 比 率 の
係数はいずれも有意に正である。再強化期には、内部取締役人数の係数、及び有意水
準が高く、他方、余剰資金は解消期でも持ち合いを引き上げる作用を果たしていた。
再強化期には、内部取締役人数、余剰資金比率の1標準偏差の上昇は、持ち合い比率
を そ れ ぞ れ 0.3% 、 0.2% 程 度 上 昇 さ せ る 効 果 を 持 っ た と 試 算 さ れ る 。 以 上 の 結 果 は 、
経営者の私的便益が、持ち合い強化を促進したという見方と整合的である。経営者の
私的便益が大きい企業では、銀行による持ち合い株式の買い増しや新たなインサイダ
ー株主の確保が困難な状況の下で、取引先や歴史的に親密な事業会社、あるいは、敵
対的な大株主という共通の脅威に直面する他の事業会社との間で、持ち合い強化を図
ったとみることができる。
3.3
持ち合いは「復活」したのか
既 述 の 通 り 、2000 年 代 後 半 に は 持 ち 合 い の「 復 活 」が 注 目 さ れ た が 、集 計 レ ベ ル で
は持ち合い比率の上昇は確認できず、その変化の規模は解消局面と比べてはるかに小
26
この結果は、アウトサイダーを国内外の機関投資家保有比率に代えても、ほぼ同じで
あ り 、そ の 規 模 は 、機 関 投 資 家 保 有 比 率 が 平 均 の 19.1% か ら 1 標 準 偏 差( 13.6% )高 ま る
と 、 持 ち 合 い 比 率 を 0.3% 、 イ ン サ イ ダ ー 保 有 比 率 を 1.0% 引 き 上 げ る 効 果 を 持 つ 。 さ ら
に 、機 関 投 資 家 保 有 比 率 を 、そ の 内 訳 で あ る 海 外 投 資 家 保 有 比 率 に 代 え て も 、有 意 性 は 下
がるが基本的に同じである。
20
さ か っ た 27 。 ま た 、 こ の 局 面 で は 銀 行 は 事 業 会 社 と の 持 ち 合 い を 増 加 さ せ て お ら ず 、
持ち合い強化は事業会社間に限定されていた。しかもこの持ち合い投資の多くは「戦
略的提携」の一環として進められた。このことは、機関投資家の保有比率が上昇した
企業にとって、従来型の株式持ち合いへの回帰が不可能なことを意味している。この
よ う に 、 05 年 以 降 の 持 ち 合 い 「 復 活 」 は 97 年 以 前 の も の と は 大 き く 性 格 を 異 に し て
お り 、そ の 意 味 で「 復 活 」と い う 表 現 自 体 が 、厳 密 に い え ば や や 過 大 評 価 と 言 え よ う 。
しかし、個々の取引レベルでみれば、持ち合いネットワークは大幅純減から大幅純
増へと反転しており、一部の企業が改めて株式持ち合いを強めていたことも事実であ
っ た 。企 業 特 性 か ら み れ ば 、2005 年 以 降 の 持 ち 合 い 再 強 化 局 面 で そ の 比 率 を 増 加 さ せ
た企業には、アウトサイダー保有比率(機関投資家保有比率)が高く、内部昇進の取
締役、及び余剰資金が多く、過去に敵対的な大株主の脅威に直面した経験があるとい
う特徴があったから、持ち合い「復活」は株主からの圧力の回避と私的便益の確保と
い う エ ン ト レ ン チ メ ン ト 動 機 に 基 づ く も の で あ っ た と 理 解 で き る 。し か も 重 要 な 点 は 、
アウトサイダー保有(機関投資家比率)の高い企業は、典型的には企業規模が大きい
た め 、実 際 に 敵 対 的 な 買 収 提 案 や ア ク テ ィ ビ ス ト・フ ァ ン ド に 直 面 す る こ と は 少 な く 、
逆に、このような脅威に直面した(あるいはその潜在的可能性の高い)企業は、相対
的 に 企 業 規 模 が 小 さ か っ た こ と で あ る 。し た が っ て 、05~ 07 年 に 株 式 持 ち 合 い 、な い
しは所有構造の安定化を進めた企業は、異なる2つのタイプに整理できると考えられ
る 。① そ の ひ と つ は 、強 い 国 際 競 争 力 を 持 つ 大 企 業 で あ り 、
「 戦 略 的 提 携 」の 一 環 と し
て持ち合い比率を引き上げた。いまひとつは、②現預金比率の保有が大きく、従来型
の 経 営 組 織 ( 宮 島 ・ 新 田 2007、 新 田 2008c) を 維 持 す る 中 規 模 企 業 か ら な り 、 こ れ
らの企業は事業上の関連が希薄な他の事業会社との持ち合い強化を実現したとみられ
る。
と こ ろ で 、2008 年 の リ ー マ ン・シ ョ ッ ク は 、事 業 会 社 に 株 式 保 有 リ ス ク を 強 く 意 識
させることとなった。
「 戦 略 的 提 携 」を 通 じ て 持 ち 合 い 株 式 を 増 加 さ せ た 企 業 は 、リ ー
マン・ショック後の株価急落で深刻なキャピタルロスを被り、一部の企業では減損処
そ れ 以 前 の 持 ち 合 い 強 化 局 面 は 、 バ ブ ル 経 済 期 の 1987 年 か ら 92 年 に か け て で あ り 、
こ の 間 の 持 ち 合 い ネ ッ ト ワ ー ク の 強 化 は 今 回 の 再 強 化 局 面 を 上 回 る 規 模 で あ っ た が 、図 3
に 示 さ れ て い る よ う に 、こ の 局 面 で も 持 ち 合 い 比 率 に は 明 確 な 上 昇 傾 向 が み ら れ な い 。持
ち 合 い 比 率 は 、ネ ッ ト ワ ー ク の 強 化 が 顕 著 に 確 認 で き る と き で も 、あ ま り 増 加 し な い と い
う 特 徴 を 持 つ 。 ま た 、 こ の こ と は 、 90 年 代 終 盤 か ら の 持 ち 合 い 解 消 が 、 い か に 大 規 模 で
あったかも示すものである。
27
21
理が強いられることになった。しかも、毎期の時価変動分や売却損益をすべて損益計
算書(包括利益計算書)に計上することを求める国際会計基準の導入が日程に上る中
で、リスクが大きく、事業面での合理性が明確でない他社株式の保有に対しては、機
関投資家の監視も自らの説明責任も一段と強まるとみられる。こうした環境下で、ア
ウトサイダー保有比率が低い②のタイプの企業群は別として、上述の①のタイプの企
業 群 が 、 さ ら に 安 定 化 を 進 め る こ と は 困 難 と な っ た 。 こ こ か ら 、 05~ 07 年 の 動 き は 、
少なくとも①の企業群の間では一時的であり、アウトサイダー優位の株式所有構造が
インサイダー優位の構造に回帰する可能性はもはや非常に低いと予想される。
4.海外投資家の銘柄選好
4.1
事実の様式化と仮説
持ち合い解消と並ぶ、銀行危機以降の株式所有構造のいまひとつの大きな変化は、
海 外 投 資 家 保 有 比 率 の 急 速 な 増 加 で あ っ た( 図 3 )。し か し 、持 ち 合 い 解 消 と 同 様 に 、
海外投資家による日本株の購入も上場企業の間で均一に進んだわけではない。この点
は、表1の海外投資家保有比率の標準偏差からもうかがうことができるが、三市場1
部上場企業(除く金融)を対象に海外投資家保有比率の分布を整理した表7をみると
さ ら に 明 確 に な る 。1990 年 以 前 に は 、海 外 投 資 家 の 分 布 は 3% 未 満 の 範 囲 の 度 数 が 最
大 で あ っ た が 、バ ブ ル 崩 壊 直 後 の 株 価 乱 高 下 が 一 段 落 し た 93 年 か ら 96 年 に は 、1~ 3%
の 範 囲 の 山 ( 左 の 山 ) に 加 え て 、 5~ 10% の 範 囲 に も う ひ と つ の 山 ( 右 の 山 ) が 出 現
し た 。 銀 行 危 機 後 の 99 年 か ら 02 年 に は 、 右 の 山 が 、 さ ら に 右 の 10~ 20% の 範 囲 に
シ フ ト す る 一 方 、 左 の 山 0~ 1% の 範 囲 へ と 左 に シ フ ト し 、 両 極 分 化 が 鮮 明 と な っ た 。
海 外 投 資 家 の 保 有 比 率 増 加 が 一 段 と 進 ん だ 03 年 か ら 07 年 に は 、左 の 山( 1~ 3% )に
属 す る 企 業 の 数 が 減 少 す る 一 方 、右 の 山( 10~ 20% )に 属 す る 企 業 数 が 増 加 し た 。世
界的な景気回復を背景に、海外投資家が日本企業を広くそのポートフォリオに組み入
れ た 06 年 を 詳 し く み る と 、10~ 20% の 範 囲 に 454 社 、20~ 33% の 範 囲 に 339 社 、そ
れ 以 上 の 範 囲 に 128 社 と 、 三 市 場 1 部 上 場 企 業 の 55% 強 が 、 海 外 投 資 家 に 選 好 さ れ
る 一 方 で 、 海 外 投 資 家 の 保 有 比 率 が 5% 未 満 の 企 業 も 25% 強 に 上 る 。
==
表7
海外投資家保有比率の分布
22
==
以上から、海外投資家の銘柄選択には、何らかの選好、ないし偏りがあることが示
唆される。この銘柄選択の偏りついては、国際分散投資におけるホームバイアスと強
く 関 連 す る こ と が 知 ら れ て お り 28 、 こ れ が 生 じ る 要 因 と し て 、 情 報 の 非 対 称 性 、 機 関
投資家の行動バイアス、流動性などが注目されてきた。
海外投資家に利用可能な情報は、地理的な制約や文化・言葉の壁などのコストのた
め、国内の投資家と比較して限定的となる。このため海外投資家は、情報の取得が比
較 的 容 易 な 規 模 の 大 き な 企 業 を 選 好 す る と 考 え ら れ て い る 29 。 Kang and Stulz (1997)
は、日本市場でも、海外投資家が規模の大きな企業を選好することを示したが、この
実証結果は情報の非対称性仮説と整合的である。
ま た 、 機 関 投 資 家 の 行 動 バ イ ア ス も 、 銘 柄 選 択 に 偏 り を も た ら す 可 能 性 が あ る 30 。
例えば、機関投資家の行動が、受託者責任や投資ガイドライン、顧客からの明示的・
暗 黙 的 な 要 求 な ど の 制 約 に よ っ て 歪 む 可 能 性 が 指 摘 さ れ て い る ( Del Guercio 1996、
Falkenstein 1996)。 ま た 、 機 関 投 資 家 に は 、 流 動 性 が 高 く 、 取 引 コ ス ト の 低 い 銘 柄
を 選 好 す る 傾 向 が あ る こ と も 知 ら れ て い る ( Gompers and Metrick 2001)。
加えて、近年、ホームバイアスの決定要因として、企業統治が注目されるようにな
った。国内外の投資家間の情報の非対称性は、企業統治の構造や内部者による搾取の
可能性に関してとりわけ深刻になるからである。各国特有の取引慣行や、政治的なつ
ながり、銀行との関係、名門家族の社会的地位、経済界のネットワークなどに関する
情 報 は 、 海 外 投 資 家 に は 理 解 が 難 し い ( Leuz et al. 2009)。 ま た 、 内 部 者 ( 大 株 主 や
経営陣等)とその他の株主とで享受する利益が異なるとすれば、それぞれが異なる期
待 リ タ ー ン を 持 つ こ と に な り 、 銘 柄 選 択 に 偏 り が 生 じ る 可 能 性 が あ る ( Stulz 1981,
Giannetti and Simonov 2006)。 多 く の 実 証 研 究 で も 、 国 外 の 投 資 家 が 、 企 業 統 治 の
弱 い 国 や 企 業 へ の 投 資 に 消 極 的 で あ る こ と が 示 さ れ て い る 31 。
28
一般にホームバイアスとは、運用資産の配分において、自国資産への投資配分を他国
資 産 へ の 配 分 と 比 べ て 合 理 的 に 説 明 で き な い 水 準 に ま で 高 め る 傾 向 を 指 す が 、先 行 研 究 で
は 、機 関 投 資 家 に よ る ひ と つ の 国 の 銘 柄 選 択 に お い て も 、こ の ホ ー ム バ イ ア ス と 共 通 す る
要因から偏りが生じることが指摘されている。
29 例 え ば 、 Merton (1987)、 French and Poterba (1991)、 Brennan and Cao (1997) な ど
を参照。
30 洗 練 さ れ て い な い 投 資 家 は 、 な じ み 深 い 銘 柄 を 選 好 す る 傾 向 が あ る が 、 Huberman
(2001) に よ れ ば 、 こ れ は 認 知 心 理 学 上 の 行 動 バ イ ア ス ( Investor familiarity) で あ る 。
Hiraki et al. (2003)は 、日 本 市 場 に お け る 国 内 外 の 機 関 投 資 家 に こ う し た 銘 柄 選 好 が あ る
ことを示した。
31 例 え ば 、Aggarwal et al. (2005)、Giannetti and Simonov (2006)、Ferreira and Matos
23
4.2
分析モデル
以上の点を考慮して、海外投資家の銘柄選好を解明するため、その保有比率
( FINST) を 被 説 明 変 数 と す る 以 下 の モ デ ル を 推 計 す る 。
( 2)
FINST = F ( Z 1 , Z 2 , Z 3 , Z 4 )
こ こ で Z 1 は 、海 外 投 資 家 に と っ て 売 買 可 能 な 部 分 を コ ン ト ロ ー ル す る 変 数 で あ り 32 、
浮 動 株 比 率 を 導 入 し た 33 。 Z 2 は 、 ホ ー ム バ イ ア ス に 関 連 す る 変 数 ( 以 下 、 ホ ー ム バ イ
ア ス 要 因 )で あ り 、先 行 研 究( Kang and Stulz 1997、Gompers and Metrick 2001 な
ど )に な ら っ て 、ROA、総 資 産 対 数 値 、海 外 売 上 高 比 率 、負 債 比 率 、純 資 産 株 価 倍 率 、
投 資 適 格 ダ ミ ー 、株 式 の 取 引 ボ リ ュ ー ム を 導 入 し た 。以 上 の Z 2 の 各 変 数 は 、企 業 属 性
を 表 す も の が 中 心 で 経 営 者 に よ る 短 期 的 な 変 更 は 困 難 で あ る 。Z 3 は 、企 業 統 治 を 表 す
変数(以下、企業統治要因)であり、取締役会人数、社外取締役比率、旧六大企業集
団ダミーを導入した。このうち、取締役会の構成は、当然、経営者による変更が容易
で あ り 、投 資 家 の 要 求 に 対 す る 経 営 陣 の 姿 勢 と 解 釈 で き る 。Z 4 は 、産 業 特 有 の 影 響 を
コ ン ト ロ ー ル す る た め の 変 数 で あ り 、 東 証 33 業 種 分 類 に 基 づ く 産 業 ダ ミ ー を 導 入 し
た。
以 上 の Z 1 ~ Z 4 は 、す べ て 外 生 変 数 と な っ て い る 必 要 が あ る が 、こ の う ち 、企 業 パ フ
ォ ー マ ン ス を 表 す ROA に つ い て は 外 生 変 数 と み な す こ と は で き な い 。 こ こ で は 、 海
(2008)、 Leuz et al. (2009) を 参 照 。
32 一 般 投 資 家 が 売 買 可 能 な 浮 動 株 ポ ー ト フ ォ リ オ は 、 創 業 家 な ど の 固 定 株 主 が 存 在 す る
た め 、株 式 時 価 総 額 に 基 づ く 株 式 ポ ー ト フ ォ リ オ と は 大 き く 異 な る が 、従 来 の 実 証 研 究 で
は こ の 点 が 考 慮 さ れ て い な か っ た 。 こ れ を 考 慮 し た Dahlquist et al. (2003) は 、 米 国 投
資 家 の ポ ー ト フ ォ リ オ が 、浮 動 株 ポ ー ト フ ォ リ オ で ほ ぼ 説 明 で き 、他 の 要 因 は 追 加 的 な 説
明 力 を 持 た な い こ と を 強 調 し た 。も っ と も 、固 定 的 な 支 配 株 主 の 存 在 は 、企 業 統 治 の 問 題
で も あ る の で 、こ の 結 果 は 、海 外 投 資 家 の 意 思 決 定 に お け る 企 業 統 治 の 重 要 性 を 否 定 す る
ものではない。
33 浮 動 株 比 率 は 、 発 行 済 株 式 数 か ら 固 定 的 な 保 有 と 考 え ら れ る も の を 除 外 し た も の の 比
率 で あ る 。具 体 的 に は 、国 内 会 社 に よ る 保 有 株 式 の う ち 、① 相 互 保 有 関 係 に あ る 会 社 が 保
有 す る 株 式 、 ② 生 損 保 ・ 銀 行 ・ 信 金 が 保 有 す る 株 式 ( 除 く 特 別 勘 定 、 信 託 勘 定 )、 ③ 公 開
関 連 会 社( 親 会 社 な ど )が 保 有 す る 株 式 、④ 役 員 保 有 比 率 、⑤ 持 株 会 保 有 比 率 、⑥ 法 人 が
保 有 す る 大 口 株 式 (3%以 上 、除 く 信 託 銀 行 等 )、⑦ 外 国 法 人 に よ る 保 有 株 式 の う ち 非 運 用 目
的 で あ る も の( 株 主 属 性 、及 び 3% 以 上 の 保 有 で 識 別 )の 、い ず れ に も 属 さ な い 株 式 の 発
行済株式数に対する比率である。
24
外投資家が業績の優れた企業を選好するという因果関係を想定しているが、既述のよ
うに、海外投資家がモニタリングを通じて企業経営を規律付け、業績改善に寄与する
という逆の因果関係も当然に想定されるからである。そこで、この双方向性を考慮し
て (2) 式 を (2)’ の よ う に 修 正 し 、以 下 の (3) 式 を 追 加 し た う え で 、同 時 方 程 式 を 解 く
こととする。
(2)’
FINST = F’( ROA, Z 1 (-1), Z 2 ’(-1), Z 3 (-1), Z 4 )
(3)
ROA
= G ( FINST, Z 5 (-1), Z 4 )
こ こ で 、Z 2 ’は Z 2 か ら ROA を 除 外 し た 変 数 で あ り 、(-1) は 期 初 を 表 す 。一 方 、当 期
の ROA を 説 明 す る Z 5 と し て 、前 期 の ROA、総 資 産 対 数 値 、及 び 負 債 比 率 を 導 入 す る 。
分 析 対 象 企 業 は 、三 市 場 1 部 上 場 の 非 金 融 事 業 法 人 と し 、分 析 期 間 は 、1991~ 2008
年 の 18 年 間 と す る 。 さ ら に 、 こ の 間 の 銘 柄 選 択 要 因 の 時 系 列 変 化 を 捉 え る た め 、 分
析期間を 6 年毎の 3 期に区分する。各期の特徴は、以下のように整理される。
Period 1( 1990/4~ 97/3): バ ブ ル 崩 壊 後 の 調 整 期 、 不 良 債 権 問 題 顕 在 化
Period 2( 1997/4~ 02/3): 銀 行 危 機 の 発 生 、 IT バ ブ ル の 発 生 と 崩 壊
Period 3( 2003/4~ 09/3): 世 界 的 な 景 気 回 復 と リ ー マ ン ・ シ ョ ッ ク
この推計では、各年のクロスセクションデータをサンプルとして、3段階最小
二 乗 法 ( 3SLS) を 適 用 し た 。 推 計 結 果 は 、 Gompers and Metrick (2001) に な ら っ
て要約し、対象期間の回帰係数の平均値、対象期間のうち回帰係数が正(負)をとっ
た 頻 度 、 そ の う ち 回 帰 係 数 が 5% 水 準 で 有 意 に 正 ( 負 ) と な っ た 頻 度 を 示 す 。 な お 、
(3) 式 は 、ROA の 同 時 性 を コ ン ト ロ ー ル す る た め に 導 入 し た も の で あ る か ら 推 計 結 果
の 報 告 を 省 略 し 、 (2)’ の 推 計 結 果 の み を 提 示 す る 。 こ の モ デ ル は 、 企 業 パ フ ォ ー マ ン
ス要因において想定される内生性を考慮し、これまでのホームバイアスに関する実証
分 析 を 拡 張 し た も の と な っ て い る 34 。 一 方 、 海 外 投 資 家 の パ フ ォ ー マ ン ス 改 善 効 果 に
34
ホームバイアス研究を中心とする投資家の銘柄選好に関する先行研究では、株主のモ
ニタリング行動が企業パフォーマンスを引き上げるという逆の因果関係まで考慮した実
証 分 析 は ほ と ん ど 存 在 し な い 。例 え ば 、Gompers and Metrick (2001)、Hiraki et al. (2003)、
Leuz et al. (2009) な ど を 参 照 。
25
ついては、次節でより厳密な分析を行うこととする。
4.3
推計結果
推計結果は、表8に要約されているが、ここから、海外投資家の銘柄選好が、従来
から指摘されるホームバイアス要因と、最近注目を集めるようになった企業統治要因
の双方で決定されていたことがわかる。
第 1 に 、 Z 1 の 浮 動 株 比 率 は 、 分 析 期 間 の 18 年 間 す べ て で 有 意 に 正 と な っ て い る 。
海外投資家のポートフォリオは、浮動株ポートフォリオに基づいて決定されたことが
確 認 で き る 。 も っ と も 、 Dahlquist et al. (2003) が 主 張 し た よ う に 、 こ れ だ け が 他 の
要因を優越する唯一の決定要因だったわけではない。
第 2 に 、Z 2 の ホ ー ム バ イ ア ス 要 因 の 影 響 を み る と 、期 間 分 割 に か か わ り な く 、① 企
業 規 模 が 大 き く 、② 海 外 売 上 高 比 率 が 高 く 、③ ROA が 高 く 、④ 負 債 比 率 が 低 い 銘 柄 へ
の選好が示されている。③の高業績銘柄の選好については、海外投資家がもたらす企
業パフォーマンスへの影響という逆の因果関係を考慮しても、なお安定的に有意であ
る。
た だ し 、Z 2 の う ち 純 資 産 株 価 倍 率 の 解 釈 に つ い て は 注 意 が 必 要 で あ る 。分 析 結 果 に
よ れ ば 、 こ の 要 因 は 1996 年 以 前 の Period 1 で は 有 力 な 決 定 要 因 で な か っ た が 、 97
年 以 降 の Period 2 に な る と 6 期 中 5 期 で 有 意 に 負 と な る 。こ の 結 果 は 、海 外 投 資 家 が
純資産対比で株価の高い銘柄を選択していたこと、つまり、成長性が高い企業を選択
した可能性を示唆する。もっとも、この間、海外投資家は日本株買いを積極化し、既
述の通り、株価の価格形成に大きな影響力を持っていた。したがって、この結果は、
彼らが純資産株価倍率を銘柄選択の指標として用いたからではなく、逆に、自らの売
買 に よ っ て 購 入 銘 柄 の 株 価 を 押 し 上 げ た た め に 発 生 し た 可 能 性 も 高 い 35 。
さ ら に 第 3 に 、興 味 深 い こ と に 、Z 2 の う ち 、投 資 対 象 銘 柄 の 質 を 表 す 投 資 適 格 ダ ミ
ー と 市 場 の 流 動 性 を 表 す 株 式 の 取 引 ボ リ ュ ー ム は 、1996 年 以 前 に は 海 外 投 資 家 の 銘 柄
選 択 の 決 定 要 因 と し て 有 意 で あ っ た が 、97 年 以 降 は そ の 重 要 性 が 後 退 し て い る 。既 述
の よ う に 、海 外 の 運 用 機 関 は 、90 年 代 前 半 に 日 本 に お け る 事 業 基 盤 を 拡 大・整 備 し た
35
機関投資家の拡大にともなう需要ショックと、それにともなう株価の価格形成メカニ
ズ ム の 変 容 は 、日 本 市 場 に お け る 重 要 な 研 究 課 題 と 考 え て い る 。こ の 点 に つ い て は 、現 在 、
研 究 を 進 め て お り 、 1990 年 代 以 降 の 海 外 投 資 家 の 市 場 参 加 に よ っ て 、 代 表 的 投 資 家 の 需
要 が シ フ ト し 、日 本 市 場 の プ ラ イ シ ン グ 構 造 が 変 容 し た と の 暫 定 的 な 結 論 が 得 ら れ て い る 。
26
ため、情報の非対称性や取引リスクのコストに対する考慮が後退したものとみること
ができる。
第 4 に 、よ り 注 目 す べ き は 、Z 3 の 企 業 統 治 要 因 が 海 外 投 資 家 の 銘 柄 選 択 の 決 定 要 因
となっていたことである。表8に要約されている海外投資家の銘柄選好の推計結果は、
1990 年 代 前 半 の Period 1 に は 、 取 締 役 会 の 規 模 が 小 さ い ほ ど 、 海 外 投 資 家 に 選 好 さ
れ る と い う 傾 向 を 示 し て い る 。ま た 、00 年 代 の Period 2 に は そ の 傾 向 が 弱 ま る 一 方 、
それに代わって銀行や支配会社以外から派遣される独立性の高い社外取締役を持つ企
業 に 対 す る 選 好 が 強 ま り 、 こ の 傾 向 は 04 年 以 降 の Period 3 で 明 確 と な っ た 。 と こ ろ
で 、96 年 ま で の 日 本 の 取 締 役 会 組 織 は 、① 経 営 の 監 督 と 執 行 が 未 分 離 、② 過 大 な 人 数
規 模 、③ 内 部 昇 進 者 中 心 と い う 特 徴 を 維 持 し て い た( 宮 島・新 田 2007、新 田 2008c)。
海外投資家は、米英企業の経営組織と異なるこうしたインサイダー優位の組織に批判
を強め、取締役会改革に取り組む企業に対して優先的に投資する姿勢を明示していた
36 。 こ の 改 革 に 対 す る 海 外 投 資 家 の 関 心 は 、 ま ず は 経 営 の 監 督 と 執 行 が 分 離 し て い な
い 大 規 模 取 締 役 会 に 集 ま り 、 経 営 組 織 改 革 が 進 展 し た 00 年 代 半 ば 以 降 に は 、 社 外 取
締役の独立性に移っていったが、表8の推計結果は、実際にも海外投資家が先駆的に
取 締 役 会 改 革 に 取 り 組 ん だ 企 業 に プ レ ミ ア ム を 付 与 し た こ と を 示 唆 す る 37 。 ま た 、 こ
の結果は、海外投資家の保有比率が高い企業ほど、取締役会改革に積極的であり(宮
島 ・ 新 田 2007)、 外 部 取 締 役 比 率 が 高 い ( 齊 藤 2011) と の 実 証 結 果 と も 整 合 的 で あ
る。投資家の選好が表明されれば、経営者はそれを読み込み、自発的に取締役会改革
に取り組むからである。
以上要するに、海外投資家の銘柄選択は、企業規模や海外売上高比率などの企業の
基礎的な属性だけでなく、取締役会の組織構造、すなわち、株主に対する経営姿勢を
国 際 的 に 株 式 投 資 を 行 う 機 関 投 資 家 を 対 象 と し て 、 2000 年 、 及 び 02 年 に 実 施 さ れ た
マ ッ キ ン ゼ ー の ア ン ケ ー ト 調 査 は 、海 外 の 機 関 投 資 家 が 、企 業 統 治 の 優 れ た 日 本 企 業 に 対
し て な ら 20% 程 度 の プ レ ミ ア ム を 支 払 う 価 値 が あ る と み て い る と 報 告 し て い る 。 こ の プ
レ ミ ア ム の 規 模 は 、米 国 の 14% 、英 国 の 12% 、ド イ ツ 、フ ラ ン ス の 13% な ど 主 要 先 進 国
の中では突出して高く、市場規模が小さい東南アジアなどの発展途上国と同程度である。
こ の プ レ ミ ア ム は 、日 本 の 企 業 統 治 に 対 す る 海 外 投 資 家 か ら の 強 い 批 判 を 示 唆 す る も の で
ある。
37 取 締 役 会 改 革 の い ま ひ と つ 柱 は 報 酬 制 度 で あ る 。 そ の 中 で 注 目 さ れ る ス ト ッ ク オ プ シ
ョ ン 制 度 は 1997 年 か ら 導 入 可 能 と な り 、 本 稿 の 分 析 デ ー タ で は 99 年 か ら 導 入 の 有 無 が
識 別 で き る 。 そ こ で 、 ス ト ッ ク オ プ シ ョ ン の 導 入 の 有 無 を (3)式 に 追 加 す る と 、 Period 2
で は 、 6 期 中 1 期 ( 01 年 ) が 、 Period 3 で は 6 期 中 2 期 ( 07 年 と 08 年 ) が 有 意 に 正 で
あ っ た 。必 ず し も 強 く は な い が 、海 外 投 資 家 が ス ト ッ ク オ プ シ ョ ン に も 選 好 を 示 し て い た
ことが分かる。
36
27
も評価して決定されていた。海外投資家は、日本企業に取締役会改革を求めただけで
なく、その主張を自らの投資行動にも反映させ、それによって取締役会改革をさらに
促進したとみられるのである。
==
表8
海外投資家の銘柄選好の決定要因
==
5.海外投資家による経営の規律付け効果
本 節 で は 、1990 年 以 降 に み ら れ た 海 外 投 資 家 の 影 響 力 の 増 大 が 、企 業 経 営 を 規 律 付
け、企業パフォーマンスの改善に寄与したかを検討しよう。既述の通り、海外投資家
は従来の株主とは異なり、企業経営に対する発言や議決権行使に積極的であるが、こ
の モ ニ タ リ ン グ 行 動 は 、経 営 者 の 努 力 水 準 の 引 き 上 げ 、取 締 役 会 の 改 革 、適 切 な 経 営 ・
組 織 戦 略 の 採 用 を 促 し て 企 業 パ フ ォ ー マ ン ス の 向 上 に 寄 与 す る 可 能 性 が 高 い 。そ こ で 、
海外投資家保有比率と企業パフォーマンスの時系列の関係に着目しよう。前節では、
海外投資家の銘柄選好の問題を検討したが、これはある一時点における投資ウエイト
配分の決定問題であり、クロスセクション分析が適切であった。これに対して、本節
では、海外投資家のプレゼンス上昇という時間的変化が企業パフォーマンスに与える
影 響 を 検 討 す る た め 、 時 系 列 分 析 が 適 切 で あ る 38 。
日 本 に お け る 海 外 投 資 家 の 規 律 付 け 効 果 に つ い て は 、こ れ ま で も 多 く の 実 証 研 究 で 、
そ の 正 の パ フ ォ ー マ ン ス 効 果 が 指 摘 さ れ て き た 。す な わ ち 、ト ー ビ ン の q や ROA、全
要 素 生 産 性 ( TFP) で 測 ら れ た 企 業 パ フ ォ ー マ ン ス は 、 海 外 投 資 家 保 有 比 率 、 あ る い
は、外国親会社を含む外国人保有比率と正の相関があるという一致した実証結果が得
ら れ て き た 39 。 し か し 、 既 述 の よ う に 、 海 外 投 資 家 の 銘 柄 選 好 は 、 ホ ー ム バ イ ア ス 要
38
クロスセクションデータから確認される海外投資家保有比率の格差が、その後の企業
パ フ ォ ー マ ン ス に ど の よ う に 影 響 し た か と い う 問 い も 重 要 で あ る が 、既 述 の よ う に 、企 業
パ フ ォ ー マ ン ス は 、銘 柄 選 択 の 決 定 要 因 で も あ る と い う 逆 の 因 果 関 係 が あ る こ と 、ク ロ ス
セ ク シ ョ ン の パ フ ォ ー マ ン ス 格 差 は 、企 業 統 治 要 因 よ り も 企 業 属 性 や 競 争 環 境 、産 業 要 因
などの影響を強く受けることから、この問題を厳密に検証するのは技術的に困難である。
本 節 で は 、こ の 問 題 を 考 慮 し て 、実 証 結 果 の 信 頼 性 が よ り 高 い 時 系 列 分 析 を 採 用 し た と い
う側面もある。
39 例 え ば 、 Lichtenberg and Puchner (1994)、 米 澤 ・ 宮 崎 (1996)、 堀 内 ・ 花 崎 (2000)、
佐 々 木・米 澤 (2000)、西 崎・倉 沢 (2003)、宮 島・新 田 (2003)、宮 島 他 (2004)、Miyajima
and Kuroki (2007)、 新 田 (2008a) を 参 照 。
28
因と企業統治要因によって一部説明できるから、その保有比率を外生変数と考えるこ
とはできない。特に、企業パフォーマンスへの影響を検討する場合には、海外投資家
が業績の良い企業を選好するという逆の因果関係を考慮する必要があるが、上述の先
行 研 究 で は こ の 問 題 へ の 対 応 が 十 分 で な い 。 岩 壷 ・ 外 木 (2007) は 、 こ の 内 生 性 の 問
題に対処するため、海外投資家の銘柄選択とそのパフォーマンス効果を表す同時方程
式を設定して、海外投資家の保有比率が高まるとトービンのqが高まることを明らか
にした。しかし、既述の通り、海外投資家は株式市場のメインプレーヤーになってい
るから、高いトービンのqが規律付け効果によるものか、自らの株式売買で生じた需
要ショックによるものかが識別できない。海外投資家の規律付け効果を検討する場合
は、企業パフォーマンスの代理変数として、自らの株式の売買行動に影響を受けない
会計業績などを採用する必要がある。
以上の点を考慮して、まずは先行研究と同様に、標準的なパネル分析の手法を用い
て海外投資家の規律付け効果を確認しておこう。ただし、既述のように、海外投資家
はパフォーマンスの良い銘柄を選好するので、推計モデルの定式化においてはこの内
生性の問題を慎重に排除する必要がある。そこで、この課題への一次接近として、因
果関係の時間的整合性を考慮した以下のモデルを推計することにする。
(4)
⊿ ROA = P ( FINST(-1), Z 5 (-1), YearDummy )
被 説 明 変 数 で あ る 当 期 の 企 業 パ フ ォ ー マ ン ス は 、ROA の 前 期 か ら の 改 善 幅( ⊿ ROA)
で 測 ら れ 、そ れ を 説 明 す る 海 外 投 資 家 保 有 比 率( FINST)、及 び 、前 期 の ROA と 総 資
産 対 数 値 、負 債 比 率 で 構 成 さ れ る Z 5 は 、す べ て 期 初 あ る い は 前 期 の も の を と る 。す な
わ ち 、将 来 の 値 で あ る ⊿ ROA を 決 定 す る 上 で 、こ れ ら の 説 明 変 数 は す べ て 所 与 と な っ
ており、この意味で因果関係の時間的整合性が確保されている。加えて、ここでは分
析結果の統計的な信頼性を高めるため、各変数の平均的な時系列トレンドを除去する
年 度 ダ ミ ー( YearDummy)を 導 入 し た 40 。こ れ に よ り 、図 3 に 示 さ れ る 海 外 投 資 家 保
有比率の平均的な上昇の効果は年度ダミーに吸収され、海外投資家保有比率の係数に
は、この平均からの乖離のトレンド、すなわち、各年度における海外投資家の相対的
な プ レ ゼ ン ス 上 昇 が も た ら す ROA 引 き 上 げ 効 果 が 抽 出 さ れ る 。
40
Z4 の 産 業 特 性 は 、 固 定 効 果 に 吸 収 さ れ る た め 除 外 し た 。
29
推計結果は表9パネル1の通りである。海外投資家保有比率の係数は、どの分析期
間をとっても有意に正であり、その規律付け効果が明瞭に確認できる。その経済的な
イ ン パ ク ト を 試 算 し て み る と 、 海 外 投 資 家 の プ レ ゼ ン ス 上 昇 の 端 緒 と な っ た 1991~
1996 年 ( Period1) で は 、 そ の 保 有 比 率 が 平 均 値 ( 5.5% ) か ら 1 標 準 偏 差 ( 5.7% )
だ け 増 加 し た 場 合 、ROA を 0.4% 押 し 上 げ る 効 果 を 持 っ て い た 。こ れ は 、こ の 期 間 の
ROA の 平 均 値 3.5% の 11.8% に 相 当 す る 。 こ の ROA 押 し 上 げ 効 果 は 、 97~ 02 年
( Period2) で こ の 期 間 の ROA 平 均 値 ( 3.8% ) の 10.5% に 相 当 す る 0.4% 、 03~ 08
年( Period3)で ROA 平 均 値( 5.7% )の 10.3% に 相 当 す る 0.6% と な り 、い ず れ の 分
析 期 間 で も ほ ぼ 同 規 模 の 効 果 を 維 持 し て い た 41 。 こ の よ う に 、 海 外 投 資 家 保 有 比 率 の
平 均 的 な 上 昇 の 効 果 を 除 外 し て も な お 、 そ れ に 固 有 の 大 き な ROA 改 善 効 果 が 残 り 、
海外投資家が経営の規律付けにおいて重要な役割を果たしたことが示唆される。
ところで、以上の分析では、海外投資家の期中の投資行動、すなわち、期中の銘柄
選 択 が も た ら す 規 律 付 け 効 果 が 考 慮 さ れ て い な い 。そ こ で 4 節 と 整 合 す る よ う に 、(4)
式 の モ デ ル を 以 下 の (4)’ と (5) か ら 構 成 さ れ る 同 時 方 程 式 に 拡 張 す る 。 分 析 の 焦 点
は 、期 中 の 銘 柄 選 択 を 反 映 し た 期 末 時 点 で の 海 外 投 資 家 保 有 比 率( FINST)が 、期 中
の ROA 変 化 幅( ⊿ ROA)に 与 え る 影 響 を 分 析 す る (4)’ 式 で あ る が 、そ の 保 有 比 率 は
期初のホームバイアス要因や企業統治要因で決定されるため、これらを操作変数とす
る (5) 式 が 追 加 さ れ て い る 。
(4)’
⊿ ROA = P’( FINST, Z 5 (-1), YearDummy )
(5)
FINST = Q ( ROA(-1), Z 1 (-1), Z 2 ’(-1), Z 3 (-1) , YearDummy )
す な わ ち 、 海 外 投 資 家 保 有 比 率 ( FINST) を 内 生 変 数 と み な し 、 前 期 の ROA、 浮
動 株 比 率 ( Z 1 )、 ホ ー ム バ イ ア ス 要 因 ( Z 2 ’)、 企 業 統 治 要 因 ( Z 3 ) を 操 作 変 数 と し て 、
(4)’ と (5) で 構 成 さ れ る 同 時 方 程 式 を 、パ ネ ル デ ー タ に 適 用 さ れ る 固 定 効 果 の 2 段 階
推 定 ( Within-2SLS) を 用 い て 解 く ( Baltagi 2001)。
推計結果は表9パネル2に示されているが、ここから、海外投資家の銘柄選好を考
慮したとしても、その規律付け効果が安定的に確認できることがわかる。海外投資家
海 外 投 資 家 保 有 比 率 の 平 均 と 標 準 偏 差 は 、97~ 02 年( Period2)で 、そ れ ぞ れ 6.59% 、
7.62% で あ り 、 03~ 08 年 ( Period3) で 、 そ れ ぞ れ 12.32% で あ り 、 11.02% で あ っ た 。
41
30
保有比率の係数は、パネル1と同様にすべての分析期間で有意に正となっており、し
かもその係数の値はパネル1のものよりもかなり大きい。海外投資家がパフォーマン
スの良い銘柄を選好するという逆の因果関係が、その規律付け効果の推計において過
大 評 価 を も た ら す と い う 問 題 は 、こ の 同 時 方 程 式 モ デ ル か ら は 確 認 で き な い 。む し ろ 、
内 生 性 を コ ン ト ロ ー ル す る こ と に よ り 、海 外 投 資 家 の 規 律 付 け 効 果 が よ り 鮮 明 と な る 。
以上要するに、海外投資家が業績の良い企業を選好するという逆の因果関係を考慮
し て も 、企 業 パ フ ォ ー マ ン ス は 海 外 投 資 家 保 有 比 率 に 正 に 感 応 し て い た 。1990 年 代 以
降にみられた海外投資家保有比率の上昇は、企業パフォーマンスの改善に貢献する固
有の経営の規律付け効果を持っていたと評価できよう。
==
表9
海外投資家の規律付け効果
==
6.株式所有構造の分化と企業統治メカニズムの変容
所有構造の分化
以上で確認したように、かつて日本企業を特徴付けていた株式持ち合いを中心とす
る イ ン サ イ ダ ー 優 位 の 所 有 構 造 は 、1997 年 の 銀 行 危 機 以 降 、国 内 外 の 機 関 投 資 家 を 中
心とするアウトサイダー優位の構造へと大きく変容した。しかし、この変化は、本稿
で繰り返し強調してきたようにすべての企業で一様に進展したわけではない。株式所
有構造は分化し、従来とは異なり多様化したのである。
インサイダー保有の後退の面では、その中心は銀行・事業会社間の持ち合い解消に
あったが、成長可能性が高く、資本市場へのアクセスが容易で、もはや銀行借り入れ
に依存する必要のない事業会社が銀行との関係を急速に解消した。他方、成長可能性
が低く、負債比率の高い企業は持ち合い関係を維持した。その結果、銀行による企業
統治が機能する範囲が縮小し、同時に銀行が保有する株式ポートフォリオは、成長可
能性が低く、業績が悪く、負債比率の高い企業群に偏ることとなった。
他方、株式所有構造の重要な変化のもうひとつの側面であるアウトサイダー保有に
おいても、その中心であった海外投資家保有比率の上昇は企業間で不均等であった。
海外投資家の銘柄選択にはホームバイアスと関連する特定の偏りがあり、企業規模が
大きく、海外売上高比率が高く、業績が良く、負債比率が低い銘柄が選好された。こ
31
れに加えて、取締役会の規模が小さい、あるいは社外取締役の独立性が高いといった
企業統治要因も、銘柄選択の重要な決定要因となっていた。
しかもより注目すべきは、この海外投資家のプレゼンス上昇が経営の規律付け効果
を持ち、企業パフォーマンスを有意に引き上げていた点にある。海外投資家が業績の
良い銘柄を選好するという逆の因果関係も考慮した同時推定の結果、その保有比率が
上 昇 す る ほ ど ROA が 大 き く 改 善 し た こ と が 明 ら か と な っ た 。 海 外 投 資 家 の 銘 柄 選 択
はホームバイアスに支配されていたから、必ずしも上場企業の質や成長可能性を的確
に評価するという、事前的な意味での外部モニターとしては機能していない可能性が
ある。しかし、彼らは従来の株主とは異なり、企業経営に対する発言や議決権行使な
どの積極的なモニタリング行動をとり、企業経営者に株式市場の重要な機能を改めて
意 識 さ せ た 。そ の た め 、い っ た ん 海 外 投 資 家 が 企 業 統 治 メ カ ニ ズ ム に 組 み 込 ま れ る と 、
経営者の努力水準の引き上げや、取締役会の改革、適切な経営・組織戦略の採用が促
され、経営効率の改善効果を発揮するようになったと考えられる。
所有構造とパフォーマンスのダイナミクス
以上の分析結果は、企業規模、海外市場における名声、企業パフォーマンスなどに
みられる企業間格差が、機関投資家の銘柄選好と、資本政策や経営改革に関する企業
の自己選択を介して株式所有構造の分化を生み、この所有構造の差が、それ自体の規
律付け効果や経営革新の促進効果を通じて、その後のパフォーマンスの格差を増幅、
または固定化するというダイナミックなプロセスの展開を示唆する。
しかも、この2つの過程、すなわち、①所有構造の変化が、経営の規律付けや経営
組織の改革、ビジネスモデルの革新を促進して、パフォーマンスの格差を拡大する経
路と、②パフォーマンスの格差が、海外投資家の銘柄選好や企業の自己選択を介して
所有構造の格差を増幅する経路は、本質的に相互に排他的でなく、むしろ相互促進的
に進展したとみることができる。もしそうなら、銀行危機以降の局面では、この2つ
の過程のいずれが支配的であったのだろうか。最後に、これらの点を直感的な形で確
認しておこう。
こ こ で は 、 株 式 所 有 構 造 の 分 化 が 始 ま る 前 の 1996 年 度 末 ( 97 年 3 月 )、 そ の 分 化
が 進 ん だ 02 年 度 末 ( 03 年 3 月 )、 そ し て 分 化 が ピ ー ク に 達 し た 05 年 度 末 ( 06 年 3
月)を基準として、①海外投資家保有比率が高く、持ち合い比率が低い企業群(強い
32
外 部 モ ニ タ リ ン グ 、 SM) と 、 ② 海 外 投 資 家 保 有 比 率 が 低 く 、 持 ち 合 い 比 率 が 高 い 企
業 群( 弱 い 外 部 モ ニ タ リ ン グ 、WM)と に サ ン プ ル を 分 割 し 、そ の 後 の ROA の 推 移 を
追 跡 す る 。と こ ろ で 、Barber and Lyon (1996) が 指 摘 す る よ う に 、会 計 業 績 を 用 い た
イベント・スタディでは、期初の業績水準がその後のパフォーマンス推移に極めて重
大 な 影 響 を 及 ぼ す こ と が 知 ら れ て い る 。そ こ で 、以 下 の よ う に 、ROA が 同 水 準 で 所 有
構 造 が 異 な る 2 つ の 比 較 サ ン プ ル を 作 成 し た 。 す な わ ち 、 各 基 準 年 に お い て ROA が
0% 以 上 10% 未 満 の 企 業 を と り 、 ROA 水 準 を 1 % 刻 み に し て 10 の 小 サ ン プ ル に 分 割
し、それぞれの小サンプルにおいて、①海外投資家保有比率がメディアン以上、かつ
持 ち 合 い 比 率 が メ デ ィ ア ン 未 満 の グ ル ー プ ( SM) と 、 ② 海 外 投 資 家 保 有 比 率 が メ デ
ィ ア ン 未 満 、 か つ 持 ち 合 い 比 率 が メ デ ィ ア ン 以 上 の グ ル ー プ ( WM) を 抽 出 し た 。 そ
の 上 で 、各 小 サ ン プ ル で 識 別 し た 10 組 の ① SM と ② WM を そ れ ぞ れ グ ル ー プ 毎 に 再 集
計 し た 。 こ れ に よ っ て 、 基 準 時 点 で ROA が 同 程 度 に 分 散 し 、 所 有 構 造 が 異 な る 2 つ
の比較サンプルが作成できる。
1996 年 基 準 で の 所 有 構 造 は 、① の SM グ ル ー プ で は 、海 外 投 資 家 保 有 比 率 と 持 ち 合
い 比 率 の 平 均 が そ れ ぞ れ 11.6% と 8.9% 、 ② WM グ ル ー プ の そ れ は そ れ ぞ れ 2.2% と
23.1% で あ り 、大 き く 異 な っ て い る 。02 年 基 準 で は 、海 外 投 資 家 保 有 比 率 と 持 ち 合 い
比 率 の 平 均 が 、 ① SM グ ル ー プ で そ れ ぞ れ 11.1% と 4.5% 、 ② WM グ ル ー プ で そ れ ぞ
れ 1.3% と 18.4% で あ り 、05 年 基 準 で は 、① SM グ ル ー プ で そ れ ぞ れ 20.6% と 3.2% 、
② WM グ ル ー プ で そ れ ぞ れ 5.3% と 17.6% で あ っ た 。 い ず れ の グ ル ー プ で も 、 持 ち 合
い 比 率 が 96 年 か ら 02 年 に か け て 大 き く 減 少 し 、海 外 投 資 家 保 有 比 率 が 02 年 か ら 05
年にかけて大幅に増加したことが確認できる。
基 準 年 以 降 の パ フ ォ ー マ ン ス 推 移 を 比 較 し た 図 5 か ら 、1996 年 基 準 、及 び 05 年 基
準 で は 、 両 グ ル ー プ の パ フ ォ ー マ ン ス 格 差 が 小 さ か っ た の に 対 し て 、 02 年 基 準 で は 、
そ の 後 の パ フ ォ ー マ ン ス 推 移 に 明 ら か な 格 差 が 確 認 で き る 。詳 し く み る と 、96 年 基 準
で は 、 そ の 2 年 後 の 98 年 ま で 両 者 の 差 が や や 拡 大 す る も の の 、 そ の 持 続 性 は 弱 く 、
99 年 以 降 に は 格 差 が 消 滅 す る 。 ま た 、 05 年 基 準 で も 、 両 グ ル ー プ の 差 は リ ー マ ン ・
シ ョ ッ ク 後 の 局 面 を 含 め て 僅 少 で あ る 。 こ れ に 対 し て 02 年 基 準 で は 、 基 準 年 以 降 、
① の SM グ ル ー プ と ② の WM グ ル ー プ と の ROA 格 差 が 序 々 に 拡 大 し 、3 年 後 の 05 年
に 両 者 の 格 差 が 1.47% に 達 す る 。
以上から、銀行危機以降の日本企業の所有構造の分化とパフォーマンスのダイナミ
33
クスは、次のように整理できよう。銀行危機直後には、パフォーマンスを含む企業の
基礎的要因が所有構造を決定する側面が強かった。それに対して、株式所有構造の分
化 が 進 展 し た 2002 年 以 降 に は 、 株 式 所 有 構 造 が そ の 直 接 の 規 律 付 け 効 果 と 、 経 営 組
織改革や経営革新の促進効果を通じて企業パフォーマンスの格差を拡大した側面が強
い 。 そ し て 、 所 有 構 造 の 分 化 が ピ ー ク に 達 し た 05 年 に は 、 所 有 構 造 が パ フ ォ ー マ ン
スの格差を固定化した。
==
図5
株式所有構造の分化がもたらすダイナミックな過程
==
政策的含意
銀行危機以降、日本の主要企業の株式所有構造は明確に分化した。アウトサイダー
優位の所有構造となった企業群では、企業統治メカニズムが、従来の銀行を中心とす
る 状 態 依 存 型 ガ バ ナ ン ス( Aoki and Patrick 1994)か ら 、株 式 市 場 の モ ニ タ リ ン グ 機
能に依拠したものへとシフトした。
もっとも、このアウトサイダー優位の所有構造は、内部者による企業統治がいぜん
合理性を持つ企業群にとっては必ずしも安定的でない。アウトサイダー保有比率の上
昇にともなうモニタリングの上昇は、企業経営を規律付け、これまで高い効率性と強
い 競 争 力 を 発 揮 し て き た 当 該 企 業 に 固 有 の 企 業 シ ス テ ム と も 両 立 可 能 で あ る 。し か し 、
高いアウトサイダー保有比率は、外部者による経営への撹乱的介入の可能性をも高め
る 。こ こ に 、一 部 の 企 業 で 、
「 戦 略 的 提 携 」な ど の 形 を と っ た 経 営 権 確 保 の 動 き が 繰 り
返される理由がある。しかし、株式持ち合いに依存した安定株主作りの試みは、既に
アウトサイダー優位へと変貌を遂げた株式市場ではそもそも実効性を持たなかった。
し か も 、 2008 年 9 月 の リ ー マ ン ・ シ ョ ッ ク 後 の 株 式 市 場 の 低 迷 は 、 こ う し た 株 式 安
定工作が正当性や現実性に乏しいことを改めて示した。この株価急落の結果、安定化
を大規模に進めた企業はキャピタルロスを被り、一部では減損処理が必要となった。
また、既に予定されている国際会計基準の導入は、企業による株式投資のリスクをい
っそう強く意識させるものとなる。したがって、このタイプの企業群に対しては、株
式持ち合いに依存しない形で経営権の安定を維持し、同時に機関投資家との適切な関
係作りを促す仕組みの設計が重要な政策課題である。
他方、その対極には、機関投資家の投資対象から除外される中で、持ち合いに依存
34
する企業群も無視できない規模で存在する。これらの企業のうち、現預金を多く保有
し、敵対的な大株主の脅威を経験した中規模企業には、共通の脅威に直面する他の企
業との持ち合い強化を実現したところもある。こうした企業群では、銀行部門の再編
と当該企業の借入依存度の低下の結果、メインバンクによる規律が後退し、市場から
のモニタリングも機能していない。すなわち、上場企業としては企業統治面での空白
が深刻である。こうした企業群については、持ち合い解消を促進する規制、あるいは
債権者である銀行のより積極的な関与を可能にする制度設計が、今後の重要な検討課
題となろう。
35
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39
図1 株式所有構造の長期時系列推移
70
65
60
55
50
45
40
35
30
インサイダー
アウトサイダー
25
20
1955
1960
1965
1970
1975
1980
1985
1990
1995
2000
2005
(注) 『株式分布状況調査』に基づき、インサイダーとアウトサイダーの保有比率の推移を示したも
の。インサイダーは、都銀・地銀等、生損保、その他金融機関、事業法人等の保有比率合計、アウト
サイダーは、外国人、個人、投資信託、年金信託の保有比率合計。保有比率は、市場価格ベースで
集計されたものを表示し、データが取得できない1969年度以前は、株数ベースの保有比率を利用し、
その変化幅の情報を失わないように補完。1970年度から1985年度は、都銀・地銀等のみの保有比率
が取得できないため、都銀・地銀等と信託銀行の保有比率合計に占める都銀・地銀等の保有比率
が、1986年度のものと同一であると仮定して、都銀・地銀等の保有比率を試算。また、1965年度以前
は、金融機関保有分の内訳も取得できないため、1966年度の内訳に基づいて、各投資主体の保有比
率を試算したもので補完。
(出所)東京証券取引所他『株式分布状況調査』をもとに筆者作成。
40
図2 近年のインサイダー・アウトサイダー保有比率
55
50
45
40
35
インサイダー
アウトサイダー
30
25
1987
1989
1991
1993
1995
1997
1999
2001
2003
2005
2007
(注) 集計対象は、東京証券取引所、大阪証券取引所、名古屋証券取引所の1部市場に上場する
企業。ただし、金融業に属する企業は除く。集計方法は、各年度末時点の保有比率の企業単位の単
純平均である。インサイダー、アウトサイダーの定義については、表1下段を参照のこと。
(出所)各種データ、及び資料に基づき、筆者作成。
41
表1 近年の株式所有構造の変遷
1987年度末
1991年度末
1996年度末
2001年度末
2006年度末
2008年度末
N= 1,094
N= 1,223
N= 1,198
N= 1,404
N= 1,616
N= 1,599
平均 標準 平均 標準 平均 標準 平均 標準 平均 標準 平均 標準
偏差
偏差
偏差
偏差
偏差
偏差
インサイダー
持ち合い
うち金融機関保有分
うち事業会社保有分
金融・事業会社等(除く持ち合い)
持株会
役員
家族・家族支配法人*
アウトサイダー
機関投資家
うち海外
うち国内
零細個人
外国会社*
インサイダー
持ち合い
うち金融機関保有分
うち事業会社保有分
金融・事業会社等(除く持ち合い)
保有会
役員
家族・家族支配法人*
アウトサイダー
機関投資家
うち海外
うち国内
零細個人
外国会社*
%
45.4
15.1
10.4
4.7
22.1
1.1
3.4
3.6
30.3
6.3
3.3
3.0
23.3
0.7
%
13.8
9.4
6.4
6.4
16.5
1.4
5.9
7.8
11.4
6.6
4.1
3.5
10.1
5.5
%
46.6
15.4
10.8
4.6
22.5
1.1
2.8
4.6
31.0
9.2
4.1
5.1
21.2
0.6
%
13.5
9.2
6.3
6.2
16.7
1.4
5.0
9.3
10.5
7.4
4.4
4.1
8.9
5.1
%
44.9
15.3
10.7
4.6
22.0
1.5
2.1
3.9
35.8
12.0
7.1
4.9
23.1
0.7
%
13.2
9.1
6.2
6.2
16.6
1.6
4.7
7.9
10.8
8.8
6.8
3.3
10.6
5.4
%
41.8
11.9
7.2
4.7
18.5
2.3
3.6
5.3
43.3
13.4
6.6
6.8
29.0
0.9
%
15.0
9.7
5.9
6.8
17.7
2.5
7.8
9.7
13.0
11.9
7.9
5.6
14.0
6.4
%
37.4
9.2
4.6
4.6
14.9
2.0
4.8
6.3
48.5
21.8
14.2
7.6
26.0
0.7
%
16.2
9.2
4.9
6.4
17.7
2.3
9.2
10.9
14.1
14.5
11.6
5.6
13.8
5.7
%
38.3
9.0
4.1
4.9
15.5
2.3
4.7
6.7
47.8
19.0
11.7
7.3
28.2
0.6
%
16.4
9.3
4.7
6.8
18.0
2.6
9.1
11.3
14.8
13.9
10.7
5.8
14.7
5.1
定義
持ち合い+金融・上場事法等(除く持ち合い)+保有会+役員+家族・家族支配法人*
相互に持ち合い保有している株式の合計比率。株主の支配会社と持ち合い関係にある場合も
持ち合いのうち、銀行(除く信託勘定)、生保(除く特別勘定)、損保、国内証券保有分。
持ち合いのうち、銀行、生保、損保、国内証券を除く、上場会社保有分。
銀行(除く信託勘定)、生保(除く特別勘定)、損保、国内証券、及び左記以外の上場会社の保
有分のうち、持ち合い保有分を除いた合計比率(上場保有会社傘下の非上場会社を含む)。
従業員保有会、取引先等保有会の保有分の合計比率。
取締役と監査役の保有比率。役員保有会を含む。
外国籍の資産管理会社、個人、家族支配の国内非上場法人の3%以上保有分の合計比率。
機関投資家+零細個人+外国会社*
海外機関投資家+国内機関投資家。
外国人保有比率から、外国会社、大口外国籍個人*の保有分を除いたもの。
年金信託、投資信託、生保特別勘定の保有比率合計。
個人保有比率から、役員保有分、及び3%以上を保有する大口個人保有分を除いたもの。
事業活動を目的とする外国籍会社のうち、3%以上保有分の合計比率。
(注) 集計対象は、東京証券取引所、大阪証券取引所、名古屋証券取引所の1部市場に上場する企業。ただし、金融業に属する企業
は除く。集計方法は、各年度末時点の保有比率の企業単位の単純平均である。各変数の定義の詳細については、表1下段を参照のこ
と。自己株式は、保有比率算出における分母から控除する。*は、保有比率3%以上の株主のみが集計対象であることを示す。
(出所)各種データ、及び資料に基づき、筆者作成。
42
図3 海外投資家保有比率と持ち合い比率の推移
18
持ち合い
海外投資家
16
14
12
10
8
6
4
2
1987
1989
1991
1993
1995
1997
1999
2001
2003
2005
2007
(注) 集計対象は、東京証券取引所、大阪証券取引所、名古屋証券取引所の1部市場に上場する
企業。ただし、金融業に属する企業は除く。集計方法は、各年度末時点の保有比率の企業単位の単
純平均である。持ち合い、及び、海外機関投資家の定義については、表1下段を参照のこと。
(出所)各種データ、及び資料に基づき、筆者作成。
43
表 2 主 要 企 業 の株 式 所 有 構 造 の変 化
ソニー(6758)
1987年 1991年 1996年 2001年 2006年 2008年
度末
度末
度末
度末
度末
度末
インサイダー
持ち合い
うち金融機関保有分
うち事業会社保有分
金融・事業会社等(除く持ち合い)
持株会
役員
家族・家族支配法人
アウトサイダー
機関投資家
うち海外
うち国内
零細個人
外国会社
%
18.15
5.09
4.84
0.25
2.02
0.50
2.89
7.64
43.38
23.84
10.15
13.69
19.54
0.00
%
12.45
3.55
3.41
0.15
1.42
0.48
1.62
5.38
53.47
29.60
21.63
7.97
23.87
0.00
%
10.17
5.85
5.71
0.15
0.00
0.59
0.45
3.28
61.96
45.94
38.96
6.99
16.02
0.00
%
2.34
0.05
0.00
0.05
1.81
0.39
0.09
0.00
75.63
48.72
38.65
10.06
26.92
0.00
%
0.48
0.02
0.00
0.02
0.00
0.40
0.06
0.00
84.43
61.72
52.71
9.01
22.71
0.00
%
0.52
0.05
0.00
0.05
0.00
0.46
0.01
0.00
81.89
51.21
39.02
12.19
30.67
0.00
トヨタ自動車(7203)
1987年 1991年 1996年 2001年 2006年 2008年
度末
度末
度末
度末
度末
度末
インサイダー
持ち合い
うち金融機関保有分
うち事業会社保有分
金融・事業会社等(除く持ち合い)
持株会
役員
家族・家族支配法人
アウトサイダー
機関投資家
うち海外
うち国内
零細個人
外国会社
%
37.83
28.57
20.79
7.78
8.24
0.00
1.02
0.00
11.93
2.95
2.03
0.92
8.98
0.00
44
%
36.46
27.28
20.45
6.82
8.21
0.00
0.97
0.00
13.35
4.80
3.38
1.41
8.56
0.00
%
36.83
30.21
23.01
7.20
6.06
0.00
0.57
0.00
16.56
9.94
9.10
0.83
6.63
0.00
%
26.58
19.20
12.14
7.06
6.88
0.00
0.49
0.00
27.07
18.71
16.64
2.07
8.36
0.00
%
20.33
15.28
4.66
10.62
4.12
0.42
0.51
0.00
49.18
38.67
30.62
8.05
10.51
0.00
%
19.12
13.94
4.75
9.19
4.17
0.49
0.53
0.00
49.37
34.64
26.47
8.17
14.73
0.00
キヤノン(7751)
1987年 1991年 1996年 2001年 2006年 2008年
度末
度末
度末
度末
度末
度末
インサイダー
持ち合い
うち金融機関保有分
うち事業会社保有分
金融・事業会社等(除く持ち合い)
持株会
役員
家族・家族支配法人
アウトサイダー
機関投資家
うち海外
うち国内
零細個人
外国会社
%
40.36
9.82
8.52
1.30
29.52
0.96
0.06
0.00
45.59
22.36
11.09
11.27
23.22
0.00
%
26.86
9.36
8.01
1.35
16.39
1.04
0.06
0.00
42.87
29.86
21.53
8.32
13.01
0.00
%
22.80
8.26
7.18
1.08
13.64
0.85
0.05
0.00
52.14
44.75
39.00
5.76
7.39
0.00
%
12.03
0.69
0.00
0.69
10.76
0.56
0.03
0.00
62.14
56.91
45.85
11.06
5.23
0.00
%
12.04
4.53
3.85
0.68
7.01
0.47
0.03
0.00
64.33
57.91
46.98
10.93
6.42
0.00
%
12.93
2.67
1.86
0.82
9.66
0.56
0.03
0.00
65.27
56.58
47.75
8.83
8.69
0.00
新日本製鉄(5401)
1987年 1991年 1996年 2001年 2006年 2008年
度末
度末
度末
度末
度末
度末
インサイダー
持ち合い
うち金融機関保有分
うち事業会社保有分
金融・事業会社等(除く持ち合い)
持株会
役員
家族・家族支配法人
アウトサイダー
機関投資家
うち海外
うち国内
零細個人
外国会社
%
15.26
8.42
6.90
1.52
6.80
0.00
0.04
0.00
26.69
5.11
2.07
3.04
21.58
0.00
45
%
18.72
8.30
6.74
1.56
10.28
0.10
0.03
0.00
31.71
5.22
2.95
2.27
26.49
0.00
%
15.82
6.95
5.23
1.72
8.63
0.21
0.03
0.00
40.37
17.67
13.75
3.92
22.70
0.00
%
20.55
10.47
9.25
1.22
9.81
0.23
0.03
0.00
51.21
25.05
13.97
11.07
26.16
0.00
%
19.29
13.40
4.95
8.45
5.61
0.25
0.02
0.00
53.55
30.87
21.86
9.01
22.67
0.00
%
22.01
12.90
2.14
10.76
8.80
0.29
0.02
0.00
48.69
23.32
15.56
7.76
25.37
0.00
NEC(6701)
1987年 1991年 1996年 2001年 2006年 2008年
度末
度末
度末
度末
度末
度末
%
46.91
19.87
12.58
7.30
26.47
0.52
0.06
0.00
32.83
17.01
7.30
9.71
15.82
0.00
インサイダー
持ち合い
うち金融機関保有分
うち事業会社保有分
金融・事業会社等(除く持ち合い)
持株会
役員
家族・家族支配法人
アウトサイダー
機関投資家
うち海外
うち国内
零細個人
外国会社
%
31.53
15.40
9.02
6.38
15.24
0.85
0.03
0.00
36.27
17.55
12.55
5.00
18.72
0.00
%
39.14
18.95
13.45
5.49
18.42
1.75
0.03
0.00
42.50
22.73
16.91
5.82
19.77
0.00
%
23.92
11.36
4.98
6.38
11.13
1.42
0.01
0.00
55.62
37.74
28.39
9.34
17.88
0.00
%
7.64
0.97
0.00
0.97
5.21
1.45
0.01
0.00
71.56
35.72
27.52
8.20
35.84
0.00
%
7.54
0.38
0.00
0.38
5.31
1.83
0.02
0.00
71.99
34.63
25.97
8.67
37.35
0.00
図4 外国人投資家の売買動向と日経平均株価の推移
(円)
20000
日経平均 株価
15000
10000
500
-500
0
-1500
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
(出所)東京証券取引所『投資部門別株式売買状況(東証一部)』に基づき、筆者作成
46
外 国 人買 越 額
東(証一部)
(10億円)
1500
表3 持ち合いネットワークに関する企業行動
対象
企業数
(社)
1987
1988
1989
1990
1991
1992
1993
1994
1995
1996
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
1233
1268
1307
1342
1381
1387
1301
1301
1322
1356
1393
1405
1459
1523
1549
1570
1594
1687
1734
1768
1759
1740
企業単位の持ち合い件数(社)
持ち合い 変化 純増 純減
なし
なし
32
36
28
24
22
20
12
12
12
13
8
1
17
28
32
44
80
145
167
192
196
212
327
292
282
296
448
563
537
569
569
520
485
511
437
527
566
494
465
638
649
696
715
776
601
726
832
887
728
610
400
449
457
547
522
403
225
354
379
339
243
349
598
627
657
554
持ち合い
なし
273
214
165
135
183
194
352
271
284
276
378
490
780
614
572
693
806
555
320
253
191
198
2.6
2.8
2.1
1.8
1.6
1.4
0.9
0.9
0.9
1.0
0.6
0.1
1.2
1.8
2.1
2.8
5.0
8.6
9.6
10.9
11.1
12.2
対象企業数比(%)
変化 純増 純減 純増-純
なし
減
26.5
23.0
21.6
22.1
32.4
40.6
41.3
43.7
43.0
38.3
34.8
36.4
30.0
34.6
36.5
31.5
29.2
37.8
37.4
39.4
40.6
44.6
48.7
57.3
63.7
66.1
52.7
44.0
30.7
34.5
34.6
40.3
37.5
28.7
15.4
23.2
24.5
21.6
15.2
20.7
34.5
35.5
37.4
31.8
22.1
16.9
12.6
10.1
13.3
14.0
27.1
20.8
21.5
20.4
27.1
34.9
53.5
40.3
36.9
44.1
50.6
32.9
18.5
14.3
10.9
11.4
26.6
40.4
51.0
56.0
39.5
30.0
3.7
13.7
13.1
20.0
10.3
-6.2
-38.0
-17.1
-12.5
-22.5
-35.3
-12.2
16.0
21.2
26.5
20.5
持合強化
持合解消
持合復活
(注) 相互保有されている株式を一件一件確認したデータベースに基づき、売買動向を識別。売買の有無は、資
本移動や組織再編を考慮した上で、持ち合い株式に2単元以上の変動があったかどうかによって判断。前年度か
らの保有に変化がない場合は「現状維持」、売買が確認できる場合は「売り」または「買い」、開示情報の制約など
のため、収集した情報からは売買があったかどうか合理的判断ができない場合は「不明」と認識 。その上で、企業
単位で売買件数を集計し、各企業の「買い」の件数が「売り」の件数を上回っていれば、持ち合いネットワークを「純
増」させた企業、下回っていれば「純減」させた企業と認識。集計対象は、東京証券取引所、大阪証券取引所、名
古屋証券取引所の1部市場に上場する企業(除く金融)。
47
表4 持ち合い株式の主体別売買動向
パネル1:銀行による持ち合い株式の売買動向
持ち合い件数(件)
対総件数比(%)
買い
売り
不明 総件数 現状 買い 売り 不明
現状
維持
維持
1996
3,909
472
156
146
4,683 83.5 10.1
3.3
3.1
1997
3,996
244
403
174
4,817 83.0
5.1
8.4
3.6
1998
3,873
146
486
181
4,686 82.7
3.1 10.4
3.9
1999
3,458
172
586
120
4,336 79.8
4.0 13.5
2.8
2000
3,202
154
745
100
4,201 76.2
3.7 17.7
2.4
2001
2,361
455
1,079
197
4,092 57.7 11.1 26.4
4.8
2002
1,266
1,069
1,931
150
4,416 28.7 24.2 43.7
3.4
2003
1,994
143
1,131
119
3,387 58.9
4.2 33.4
3.5
2004
2,208
124
668
193
3,193 69.2
3.9 20.9
6.0
2005
2,057
473
509
162
3,201 64.3 14.8 15.9
5.1
2006
2,398
182
159
103
2,842 84.4
6.4
5.6
3.6
2007
2,391
128
128
74
2,721 87.9
4.7
4.7
2.7
2008
2,250
94
162
105
2,611 86.2
3.6
6.2
4.0
純増
6.7
-3.3
-7.3
-9.5
-14.1
-15.2
-19.5
-29.2
-17.0
-1.1
0.8
0.0
-2.6
パネル2:事業会社による持ち合い株式の売買動向
持ち合い件数(件)
対総件数比(%)
現状
買い
売り
不明 総件数 現状 買い 売り 不明 純増
維持
維持
1996 21,519
1,876
1,032
320 24,747 87.0
7.6
4.2
1.3
3.4
1997 20,980
2,235
1,314
561 25,090 83.6
8.9
5.2
2.2
3.7
1998 19,508
2,198
1,974
463 24,143 80.8
9.1
8.2
1.9
0.9
1999 15,143
1,612
3,661
2,094 22,510 67.3
7.2 16.3
9.3 -9.1
2000 10,625
1,590
1,574
1,175 14,964 71.0 10.6 10.5
7.9
0.1
2001 10,685
1,888
1,151
711 14,435 74.0 13.1
8.0
4.9
5.1
2002 10,247
1,464
882
915 13,508 75.9 10.8
6.5
6.8
4.3
2003
9,828
990
1,930
1,113 13,861 70.9
7.1 13.9
8.0 -6.8
2004 10,456
1,179
1,223
571 13,429 77.9
8.8
9.1
4.3 -0.3
2005 10,269
1,782
1,004
628 13,652 75.2 13.1
7.4
4.6
5.7
2006 10,855
1,699
751
623 13,928 77.9 12.2
5.4
4.5
6.8
2007 10,176
2,233
609
875 13,873 73.4 16.1
4.4
6.3 11.7
2008 10,127
1,642
447
1,051 13,267 76.3 12.4
3.4
7.9
9.0
パネル3:事業会社による持ち合い関係にある事業会社株式の売買動向
持ち合い件数(件)
対総件数比(%)
現状
買い
売り
不明 総件数 現状 買い 売り 不明 純増
維持
維持
1996
9,965
738
525
92 11,320 88.0
6.5
4.6
0.8
1.9
1997
9,546
1,156
648
258 11,608 82.2 10.0
5.6
2.2
4.4
1998
9,055
946
836
239 11,076 81.8
8.5
7.5
2.2
1.0
1999
6,165
712
2,141
1,469 10,487 58.8
6.8 20.4 14.0 -13.6
2000
4,460
741
700
601
6,502 68.6 11.4 10.8
9.2
0.6
2001
4,588
654
416
374
6,032 76.1 10.8
6.9
6.2
3.9
2002
4,604
689
381
339
6,013 76.6 11.5
6.3
5.6
5.1
2003
4,683
656
630
276
6,245 75.0 10.5 10.1
4.4
0.4
2004
4,902
875
438
302
6,517 75.2 13.4
6.7
4.6
6.7
2005
5,305
1,276
410
356
7,347 72.2 17.4
5.6
4.8 11.8
2006
5,851
1,306
323
373
7,853 74.5 16.6
4.1
4.7 12.5
2007
5,842
1,487
259
511
8,099 72.1 18.4
3.2
6.3 15.2
2008
6,020
1,004
218
595
7,837 76.8 12.8
2.8
7.6 10.0
(注) 相互保有されている株式を一件一件確認したデータベースに基づき、売買動向を識別。売買の有無は、
資本移動や組織再編を考慮した上で、持ち合い株式に2単元以上の変動があったかどうかによって判断。前
年度からの保有に変化がない場合は「現状維持」、売買が確認できる場合は「売り」または「買い」、開示情報
の制約などのため、収集した情報からは売買があったかどうか合理的判断ができない場合は「不明」と認識 。
「銀行」は、信託銀行以外の銀行であり、「事業会社」は、銀行、信託銀行、生損保、証券会社、証券金融会社
を除く上場会社を指す。集計対象は、東京証券取引所、大阪証券取引所、名古屋証券取引所の1部市場に上
場する企業(除く金融)。
48
表5 銀行ポートフォリオの劣化
三市場1部
サンプル数 銀行株主あり
同比率
1企業あたりの銀行株主数
銀行保有比 単純平均
率
標準偏差
時価総額加重平均
三市場1部
トービンのq 銀行ポートフォリオ
差分
三市場1部
ROA
銀行ポートフォリオ
差分
三市場1部
負債比率 銀行ポートフォリオ
差分
社
社
%
社
%
%
%
%
%
%
1992年度 1996年度 2002年度 2004年度
1,230
1,199
1,426
1,544
1,219
1,184
1,274
1,239
99.1
98.7
89.3
80.2
3.8
3.7
2.3
1.7
10.10
9.99
5.74
3.81
5.33
5.29
4.30
3.49
10.26
9.98
5.04
3.15
1.36
1.40
1.29
1.73
1.30
1.35
1.12
1.22
-0.06
-0.05
-0.17
-0.51
4.61
5.42
7.03
8.24
4.58
5.35
5.51
6.37
-0.04
-0.07
-1.52
-1.87
0.65
0.62
0.56
0.54
0.65
0.62
0.60
0.59
0.00
-0.00
0.04
0.05
(注) 都市銀行と長期信用銀行の保有銘柄(除く金融)のうち三市場1部に上場するものを対象とし
て、各銘柄の企業特性を表す各指標を、主要銀行部門の保有金額に基づいて加重平均したものと、
その市場時価総額に基づく加重平均値と比較。各指標は、以下の通り、定義されている。トービンのq
=(負債総額簿価+ファイナンスリースの期末残高+株式時価総額+優先株残存額面)/(総資産簿価
(時価会計移行調整)+ファイナンスリースの期末残高)×100、ROA=(営業利益+ファイナンスリース
の支払利息)/(総資産簿価(時価会計移行調整)+ファイナンスリースの期末残高)×100、負債比率
=(負債総額簿価+ファイナンスリースの期末残高)/(総資産簿価(時価会計移行調整)+ファイナン
スリースの期末残高)。財務データは、連結決算が取得できる場合は連結決算を、取得できない場合
は単独決算を利用している。
49
表6 持ち合い「復活」の要因分析
パネル1:2004~2007年
被説明変数
定数項
アウトサイダー保有比率
ファンド標的ダミー(期初)
ファンド標的ダミー(当期)
内部取締役人数
余剰資金
Hiqダミー
財務危機ダミー
総資産対数値
サンプル数
R2
パネル2:2001~2004年
被説明変数
定数項
アウトサイダー保有比率
ファンド標的ダミー(期初)
ファンド標的ダミー(当期)
内部取締役人数
余剰資金
HiQダミー
財務危機ダミー
総資産対数値
サンプル数
R2
⊿CROSS
係数
t値
-0.514
-0.506
0.022
2.718
1.030
2.309
0.806
2.084
0.053
2.200
0.017
2.104
-0.208
-0.909
-1.648
-3.691
-0.072
-0.798
1,429
0.029
⊿CROSS
係数
t値
3.411
2.020
0.001
0.077
1.226
1.175
-0.356
-0.482
0.031
0.944
0.024
1.793
-0.016
-0.048
-1.704
-4.386
-0.502
-3.324
1,292
0.027
***
**
**
**
**
***
**
*
***
***
⊿CROSS'
係数
t値
-0.084
-0.105
0.017
2.793
0.839
2.389
0.299
0.981
0.062
3.269
0.016
2.520
-0.219
-1.216
-0.974
-2.773
-0.056
-0.794
1,429
0.029
***
**
***
**
***
⊿CROSS'
係数
t値
-0.547
-0.438
0.014
1.490
0.741
0.959
0.713
1.304
0.049
2.020 **
0.036
3.564 ***
-0.076
-0.315
-0.346
-1.206
-0.108
-0.972
1,292
0.018
⊿INSIDER
係数
t値
-3.971
-1.985 **
0.082
5.279 ***
0.270
0.307
-0.042
-0.055
-0.017
-0.353
0.026
1.643
-0.683
-1.519
-1.822
-2.074 **
-0.014
-0.079
1,429
0.021
⊿INSIDER
係数
t値
-0.488
-0.238
0.013
0.837
2.770
2.187
-0.794
-0.885
-0.074
-1.874
-0.001
-0.043
-1.696
-4.256
-1.316
-2.792
-0.253
-1.379
1,292
0.032
**
*
***
***
(注) 分析対象は、東京証券取引所、大阪証券取引所、名古屋証券取引所の1部市場に上場する企業(除く金融)。
被説明変数の⊿CROSS、⊿CROSS’、⊿INSIDERは、それぞれ、持ち合い比率の3年間の変化幅、左記のうち非金
融事業法人の保有部分、インサイダー保有比率 3年間の変化幅である。説明変数の機関投資家保有比率は、発行
済株式数に占める国内外の機関投資家の保有割合、ファンド標的ダミーは、過去あるいは期中にアクティビスト・ファ
ンドと認識される15のファンドに保有された企業に1を与えるダミー変数、内部取締役人数は、役員データ(東洋経済
新報社)の取締役から社外出身者を除外した人数、余剰資金=(現金+有価証券+投資有価証券)/総資産簿価、
HiQダミーは、トービンのQが1以上の場合に1を与えるダミー変数、財務危機ダミーは、インタレスト・カバレッジ・レシ
オ(営業利益/支払利息)が1.5を下回る場合に1を与えるダミー変数、総資産対数値は、総資産簿価の自然対数
値。財務データは、連結決算が取得できる場合は連結決算を、取得できない場合は単独決算を利用している。***、
**、*は、それぞれ平均値の差が1、5、10%水準で有意であることを示す。
50
表7 海外投資家保有比率の分布
年度
1987
1988
1989
1990
1991
1992
1993
1994
1995
1996
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
対象
基本統計(%)
企業
平均
標準
数(社)
偏差
1,106
3.30
4.20
1,136
3.17
3.56
1,172
3.31
3.31
1,202
3.32
3.54
1,238
4.11
4.40
1,243
4.12
4.66
1,158
5.30
5.44
1,158
5.87
5.41
1,181
6.84
6.44
1,215
7.14
6.82
1,255
6.64
7.07
1,268
6.10
6.99
1,332
7.09
8.07
1,408
7.09
8.00
1,432
6.67
8.01
1,455
6.46
8.09
1,482
9.25
9.63
1,573 11.24 10.43
1,614 13.74 11.14
1,651 14.33 11.69
1,643 14.06 11.99
1,625 11.75 10.68
保有比率の分布(会社数)
01%
400
349
282
344
343
369
248
196
202
200
254
334
317
238
372
418
221
119
65
83
101
148
13%
322
360
417
409
342
331
266
266
239
260
294
261
308
424
330
307
323
263
203
187
205
233
35%
139
191
226
198
179
183
188
163
136
141
141
153
118
131
142
154
143
187
141
154
153
168
510%
163
169
192
177
252
230
275
316
299
293
264
238
232
240
232
230
279
335
346
306
303
337
1020%
71
63
53
73
109
111
148
186
255
260
232
209
243
267
244
229
311
383
451
454
449
412
2033%
10
3
1
1
13
19
32
31
44
52
60
62
96
87
89
100
151
212
300
339
309
250
3350%
1
1
1
0
0
0
1
0
6
9
10
11
18
21
23
17
51
65
94
114
104
66
50%0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
3
9
14
14
19
11
(注) 集計対象は、東京証券取引所、大阪証券取引所、名古屋証券取引所の1部市場に上場する企業(除
く金融)。海外投資家の定義は、表1下段の機関投資家の内訳である海外分を参照のこと。
51
表8 海外投資家の銘柄選好の決定要因
全期間(1991-2008)
Period1(1991-1996)
Period2(1997-2002)
Perod3(2003-2008)
正
負 数の平
正
負 数の平
正
負 数の平
正
負
数の平
定数項
-28.07
0
18 -19.30
0
6 -24.94
0
6 -39.95
0
6
[0] [18]
[0]
[6]
[0]
[6]
[0]
[6]
当期ROA
0.40
18
0
0.43
6
0
0.31
6
0
0.45
6
0
[17]
[0]
[6]
[0]
[5]
[0]
[6]
[0]
浮動株比率
0.14
18
0
0.09
6
0
0.13
6
0
0.21
6
0
[18]
[0]
[6]
[0]
[6]
[0]
[6]
[0]
総資産対数値
2.96
18
0
2.01
6
0
2.82
6
0
4.05
6
0
[18]
[0]
[6]
[0]
[6]
[0]
[6]
[0]
海外売上高比率
0.06
18
0
0.05
6
0
0.06
6
0
0.07
6
0
[18]
[0]
[6]
[0]
[6]
[0]
[6]
[0]
負債比率
-0.11
0
18
-0.08
0
6
-0.11
0
6
-0.15
0
6
[0] [17]
[0]
[6]
[0]
[5]
[0]
[6]
純資産株価倍率
-1.27
2
16
-0.09
2
4
-2.18
0
6
-1.53
0
6
[1] [10]
[1]
[1]
[0]
[6]
[0]
[3]
投資適格ダミー
0.70
18
0
0.91
6
0
0.58
6
0
0.60
6
0
[9]
[0]
[5]
[0]
[2]
[0]
[2]
[0]
株式の取引
1.23
17
1
1.84
6
0
0.80
5
1
1.07
6
0
ボリューム
[10]
[0]
[5]
[0]
[2]
[0]
[3]
[0]
取締役会人数
-0.09
0
18
-0.11
0
6
-0.10
0
6
-0.07
0
6
[0] [10]
[0]
[6]
[0]
[3]
[0]
[1]
その他社外
0.02
18
0
0.01
6
0
0.02
6
0
0.03
6
0
取締役比率
[6]
[0]
[0]
[0]
[1]
[0]
[5]
[0]
銀行派遣社外
-0.01
5
13
-0.00
2
4
-0.03
0
6
-0.01
3
3
取締役比率
[0]
[1]
[0]
[0]
[0]
[1]
[0]
[0]
支配会社派遣社外
0.02
17
1
0.02
6
0
0.02
6
0
0.02
5
1
取締役比率
[7]
[0]
[2]
[0]
[3]
[0]
[2]
[0]
旧六大企業集団
-0.06
8
10
0.08
3
3
-0.24
1
5
-0.03
4
2
ダミー
[0]
[0]
[0]
[0]
[0]
[0]
[0]
[0]
産業ダミー
Yes
Yes
Yes
Yes
(注) 1991~2008年の18期分の同時方程式モデルに関する、3段階最小二乗法(3SLS)による18の回帰分析結果を要約した
もの。分析モデルについては、本文を参照のこと。ここでは、対象期間の回帰係数の平均値、及び、対象期間のうち回帰係数
が正(負)をとった頻度、そのうち回帰係数が5%水準で有意に正(負)となった頻度が示されている。有意性を評価するための
t値は、分散不均一を考慮し、White (1980) にしたがって修正している。表示モデルの被説明変数は当期末の海外投資家保
有比率で、説明変数のうちROAは内生変数として扱われている。ROAは当期のものを、その他の説明変数は期初のものを用
いている。各説明変数は以下の通り、定義されている。浮動株比率は、発行済株式数から固定的な保有と考えられるものを
除外したものの比率(詳細については本文参照)、総資産対数値は、総資産簿価の自然対数値、海外売上高比率は、売上高
に占める海外分の割合、負債比率=(負債総額簿価+ファイナンスリースの期末残高)/(総資産簿価(時価会計移行調整+
ファイナンスリースの期末残高)、純資産株価倍率=純資産/株式時価総額、投資適格ダミーは、格付会社からBBB-以上の
格付けを得ている場合に1を与えるダミー変数、取引ボリュームは、一日の売買株数を発行済普通株式数で除したものの過
去3年平均値を年率換算したもの、取締役人数は、役員データ(東洋経済新報社)から把握できる取締役数、その他社外取締
役比率は、銀行・支配会社(15%以上保有の会社)以外の社外出身取締役人数を全取締役人数で除したもの、銀行派遣社外
取締役比率は、銀行出身の社外出身取締役人数を全取締役人数で除したもの、支配会社派遣社外取締役比率は、支配会
社出身(同左)の社外出身取締役人数を全取締役人数で除したもの、旧六大企業集団ダミーは、六大企業集団の社長会メン
バー企業、及びその33%子会社に1を与えるダミー変数、産業ダミーは東証33業種分類に基づくもの。財務データは、連結決
算が取得できる場合は連結決算を、取得できない場合は単独決算を利用している。
52
表9 海外投資家の規律付け効果
パネル1:Withinモデルによる推計
全期間
1991-2008
海外投資家保有比率
0.032 ***
(6.91)
ROA
-0.398 ***
(-52.18)
総資産対数値
-1.548 ***
(-17.48)
負債比率
0.021 ***
(8.88)
定数項
18.693 ***
(17.83)
Yes
年度ダミー
23,661
NOB
0.190
R-squared
Period1
1991-1996
0.072 ***
(6.25)
-0.458 ***
(-34.90)
-4.558 ***
(-19.79)
0.107 ***
(18.10)
49.591 ***
(18.41)
Yes
6,983
0.320
Period2
1997-2002
0.052 ***
(4.60)
-0.749 ***
(-48.81)
-1.306 ***
(-5.94)
0.024 ***
(7.29)
16.444 ***
(6.29)
Yes
7,654
0.342
Period3
2003-2008
0.053 ***
(5.25)
-0.573 ***
(-33.35)
-5.128 ***
(-19.60)
0.177 ***
(23.62)
52.028 ***
(17.55)
Yes
9,024
0.311
パネル2:Within-2SLSモデルによる推計結果
全期間
Period1
1991-2008
1991-1996
海外投資家保有比率
0.090 ***
0.430 ***
(7.44)
(5.84)
ROA
-0.418 ***
-0.460 ***
(-49.84)
(-32.25)
総資産対数値
-1.693 ***
-4.662 ***
(-17.84)
(-18.60)
負債比率
0.024 ***
0.131 ***
(9.95)
(17.03)
定数項
19.685 ***
47.899 ***
(18.45)
(16.35)
Yes
Yes
年度ダミー
23,563
6,972
NOB
0.198
0.202
R-squared
Period2
1997-2002
0.236 ***
(5.49)
-0.769 ***
(-47.59)
-1.230 ***
(-5.62)
0.029 ***
(8.40)
13.998 ***
(5.40)
Yes
7,628
0.338
Period3
2003-2008
0.186 ***
(3.00)
-0.591 ***
(-29.22)
-5.269 ***
(-19.58)
0.180 ***
(23.54)
52.655 ***
(17.64)
Yes
8,963
0.319
(注) 各期のサンプル(パネルデータ)に対して、固定効果モデル(Within)、及び固定効果の2段
階推定(Within-2SLS)を適用したもの。Within-2SLSについては、2段階目の推計結果のみ報
告。被説明変数は⊿ROA(当期ROA-前期ROA)とし、説明変数のうち海外投資家保有比率は
当期末のもので、内生変数として扱われている。海外投資家保有比率以外の説明変数は、期
初または前期のもので、各変数の定義については表8の注記参照。***、**、*は、それぞれ回
帰係数が1、5、10%水準で有意であることを示す。
53
図5 株式所有構造の分化がもたらすダイナミックな過程
1996年基準
5.0
①強い外部モニタリング(SM)
②弱い外部モニタリング(WM)
4.0
3.0
2.0
1.0
1996
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2002年基準
6.0
5.0
4.0
①強い外部モニタリング(SM)
3.0
②弱い外部モニタリング(WM)
2.0
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
2005年基準
6.0
5.0
4.0
①強い外部モニタリング(SM)
3.0
②弱い外部モニタリング(WM)
2.0
2005
2006
2007
2008
(注) 1996年と2002年の各基準年においてROAが0%以上10%未満の企業を抽出し、このサンプルをROA
水準が1%刻みの10の小サンプルに分割。それぞれの小サンプルにおいて、①海外投資家保有比率がメ
ディアン以上、かつ持ち合い比率がメディアン未満のグループ(強い外部モニタリング、SM)と、②海外投資
家保有比率がメディアン未満、かつ持ち合い比率がメディアン以上のグループ(弱い外部モニタリング、WM)
を抽出。その上で各小サンプルを結合して基準年におけるROAが同水準の2つの比較サンプルを作成。基
準年以降の6年間のROAの推移を追跡。
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