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雷害対策と長波尾小電流雷に関する実験的研究(大村正次郎)
雷害対策と長波尾小電流雷に関する実験的研究* Experimental Study of Lightning Protection and Long Stroke Waveform 大村正次郎** Shojiro OHMURA 1.緒言 自然現象である地震と並んで雷がある。これ等が発 生すると強大なエネルギーにより被害発生に繋がるこ とは言うまでもない。雷は天空と地上間における電気 現象で、対策の取り難い自然現象である。ICT(情報通 信技術)社会の現代における重要な課題の一つであり、 とりわけその対策が急がれている。 従来、雷対策を設計・施工してきた現場をみると、 特に山頂負荷における事故例は悲惨である。雷対策ツ ールとして耐雷トランス(雷保護装置)、避雷器(SPD) 等を使用しているが、破壊・損焼されている場合が多 く見られる。守るべき通信機器の基板・電子部も都度 被害を受けているのが現状であり課題である。本実験 研究はその課題を解決するために開発したシンプルな 雷撃サージ対策用ギャップ式避雷装置に関して検討し たので一例を報告する。 2.長波尾小電流雷 雷の分類はその性質によって種々分け方がある。本 研究では電流値とその継続時間について検討する。一 般的に雷は数 10μs のうちに電気現象が終わるものと 数 10ms から数 100ms 継続するものとされている。前者 は電流値が大きく一般的に数 10KA あり、後者は電流値 が小さく、数 KA から数 100A 程度以下とされている。 前者を短波尾大電流雷、後者を長波尾小電流雷と呼称 している。 雷は、冷たい雷(Cold Lightning)を短波尾 大電流雷と呼ばれ、 熱い雷(Hot Lightning)を長波尾 小電流雷と呼ばれている。長波尾小電流雷波形の例を 図 1、雷撃電流(a)(b)1)誘発雷の電流(c)(d)2)に示す。 *34 回風力エネルギー利用シンポジウムで講演 **株式会社メカトロ技研 (〒761-8083 香川県高松市三名町 342 番地 4) Email:[email protected] H.P.:http://www.mechatro-g.net 図 1 雷撃電流(a)(b)1)誘発雷の電流(c)(d)2) - 223 - この様な長波尾小電流雷の全雷撃数に占める割合は、 また配電関係では主として誘導雷を対象とし、波形は まだ明確化されていないが相当な頻度で発生している 主に標準的なものについて検討されてきた。前記三種 ものと考えられ、今後の解明が必要である。長波尾小 類の雷サージは(1)(2)(3)がそれぞれ個々に発生する 電流雷は図 1 からもわかる様に放電電荷量が非常に大 場合と、ごく短時間内にこれら 2 つ又は 3 つが発生し、 きい。また、放電途中において数 KA~10KA 程度の短波 重畳する場合とがある、したがって、耐雷対策として 尾大電流雷が数多く流れているなどの特徴がある。こ は、それぞれが個別に独立したものであってはならず、 のような長波尾小電流雷の存在は、かなり古くより知 (1) (2) (3)のいずれの雷サージにも耐える対策が必 られてはいたが、これまではほとんど耐雷設計の対象 要である。 にはなっていなかった。しかし、耐雷設計にとっては 3.長波尾小電流による雷対策ツール(ギャップ式避雷 重要である。 装置)の性能確認試験 雷サージは大別して次の 3 種類が考えられる。 ・試験題目:大放電耐量型雷害サージ用低圧保護ギャ (1) 急峻波雷サージ(波頭長 0.05~0.1μs 程度) ップ式避雷装置の長波尾小電流性能確認試験 (2) 短波尾大電流雷サージ(数μs~数 100μs、数 ・試験年月日:平成 23 年 10 月 18 日 100KA~数 10KA) ・試験場所:財団法人電力中央研究所 電力技術研究所 長波尾小電流雷サージ(数 10ms~数 100ms、数 大電力試験所 KA~数 100A) (1)試験条件 試験発電機(Gen)15kV 2,500MVA 短絡発電機 (3) 2003 年(新 JIS)以前についていえば、耐雷設計は主と ×(5~10)μs、(1~2)×40μs 電流波形:(2~8)×(10 試験方法 直接短絡試験、直流試験 試験種類 直流放電試験 ~70)μs についてのみ行われてきた。 試験供試番号 して上述(2)の標準波的なもの、すなわち電圧波形 2 No.1~No.6 No.7~No.9 で実行した。 表 1 試験条件 項 目 単位 供試器 - 試験番号(No) 試験電流 通電時間 交流側電源周波数 - A S Hz 設置方法 - 試験条件 低圧保護ギャップ式避雷装置 ギャップ部単体 ギャップ部のみ装備 全装備 1 2 3 4 5 6 7 8 9 50 100 200 300 400 400 300 0.5 0.5 50 50 保護カバーを取付、扉を閉じた状態で絶 基台(ガラスクロスエポキシ樹脂製) 縁架台上に設置(図 3) 上に設置(図 2) 保護カバーなしで、扉を開けた状態で絶 縁架台上に設置(図 4、5) Gen 52G 52S L Tr VCB Rec R 供試器 RD2 RD1 Sh [V} RN VT1 [V(GEN)] Gen -------- 15kV 2500MVA 短絡発電機 52G -------- 保護遮断器 52S -------- 投入開閉器 RN -------- 中性点抵抗 L -------- 限流リアクトル Tr -------- 変圧器(変圧比 15kV/12kV) VCB -------- 15kV 2500MVA 短絡発電機 Rec -------- 保護遮断器 R -------- 投入開閉器 VT1 -------- 中性点抵抗 Sh -------- 限流リアクトル RD1,RD2 --- 変圧器(変圧比 15kV/12kV) [ ]は各測定項目を示す。 図 2 試験回路 - 224 - [e2] [I] 表 2 試験結果 供試器の状況 新品 試験条件(表 1) 新品 新品 新品 新品 No.5 の後連 続使用 新品 No.7 の後ギ ャップ部の み新品 新品 1 2 3 4 5 6 7 8 9 電源電圧波高値※1 KV 4.09 4.30 3.87 4.36 4.10 4.16 4.41 4.34 4.38 電流波高値※2 A 51.90 105 198 310 407 402 312 306 290 通電時間 s 0.51 0.51 0.50 0.51 0.51 0.50 0.51 0.51 0.51 全通過電気量 C 21.80 42.0 68.2 114 146 161 135 133 128 全アークエネルギー※3 KJ 9.00 22.2 56.3 91.8 118 97.1 37.6 40.2 58.5 絶縁抵抗※4 ギャップ長※5 観察結果 試験前 MΩ 2,000 以上 同左 同左 同左 同左 同左 同左 同左 同左 試験後 MΩ 2,000 以上 同左 同左 同左 同左 同左 同左 同左 同左 試験前 mm 0.5 同左 同左 同左 同左 同左 同左 同左 同左 試験後 mm 0.5 同左 同左 同左 同左 同左 同左 同左 同左 ・銅棒(主に側面部) ・銅棒(主に先端部)が溶損し が溶損した た ※1:発電圧から換算した値(参考値) ※2:通電開始から 0.1~0.2s 間での最大波高値 ※3:電流および供試器電圧から算出した値 ※4:絶縁抵抗計(1000V レンジ)で測定 ※5:依頼者(メカトロ技研)が透き間ゲージにて測定 電源 (正極)へ ・上下部ギャップともに銅棒 (主に先端部)が溶損した ・外箱(主に下部ギャップ高電 位側近傍)が溶損した ・外箱の穴あきはなかった ・扉の開放はなかった ・避雷器(LA2)が焼損した(試 験番号 9 のみ) 電流の測定の不確かさ 3% 電圧の測定の不確かさ 3% 電源 (負極)へ 電源 (正極)へ 電源 (負極)へ 図 5 供試器の設置状況(試験番号 8) 図 3 供試器の設置状況(試験番号 1~6) カバー付ナイフ スイッチ(CKL2) 避雷器(LA2) 電源 (正極)へ 電源 (負極)へ 電源 (正極)へ 図 4 供試器の設置状況(試験番号 7) 図 6 供試器の設置状況(試験番号 9) - 225 - 電源 (負極)へ 5.結言 高電位側 (1)本実験でギャップ長 0.5mm の間隔が電流値 400A 通 電時間 0.5s でも全く変化しないことが分かった。 (2)本実験の結果、雷撃を受けやすい無線中継所等の 雷サージ対策用ツールとしてギャップ式避雷装置は 使用可能であることが分かった。 (3)ギャップ銅棒先端部の溶損は、電流値 50A~200A までは極僅かであった。しかし、300A より銅棒の先 端部が丸く膨らんできたこと、400A では更に膨らみ が重なるように大きくなったことが分かった。 図 7 試験状況写真(試験番号 3) (4)本実験の結果、試験番号 9(全装備)で電流値 290A 高電位側 を電源用避雷器(LA2)に直接短絡電流を流した結果、 避雷器(LA2)は焼損破壊したことより、避雷器は長波 尾小電流には耐えられないことが分かった。 (5)長波尾小電流は極短時間内で非常に膨大なエネル ギーを発生することが分かった。 6.謝辞 本実験にご協力頂いた(財)電力中央研究所電力技術 研究所殿、(株)四国総合研究所殿、元四国総合研究所 試験前 主幹 松延多喜之助殿並びに多くの諸先輩に対し感謝 高電位側 の意を表します。また、元四国総合研究所主幹 松延多 喜之助殿には永年にわたるご指導と技術資料等を受け たことに対し、重ねて感謝の意を表します。 参考文献 1) Karl Berger:Gewitterforschung auf dem Monte San Salvatore ETZ-A, Bd. 82, H. 8, 10. 4. 1961 2) R.P.Fieux et al:Research on Artificially Triggered Lightning in France IEEE. Vol.PAS-97. No.3 May/June 1978 試験後 図 8 試験状況写真(試験番号 6) 4.考察 本研究は表 1 実験条件であるギャップ長 0.5mm におい て電流値 400A(最大)と通電時間を 0.5s として実験を 行った。表 2 の実験結果が示すように、ギャップの間 隔 0.5mm は試験前・後において全く変化なく良好な結 果が得られた。 図 7 また図 8 に示すように、ギャップ銅棒先端部の溶損 は 50A、100A、200A までは極僅かであったが、300A よ りは銅棒の先端部が丸く膨らんできた。また 400A では 更に膨らみが大きくなった。 試験成績表に示すように試験番号 9 において避雷器が 焼損した。これは試験的に避雷器の電路に直接短絡電 流を流したもので、長波尾小電流には避雷器は耐えら れないことがわかった。 実験の結果、長波尾小電流は短時間内で非常に膨大な エネルギーを発生することが映像でも確認できた。 - 226 -