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住宅金融支援機構の在り方に関する調査会 報告書
資料2-2 住宅金融支援機構の在り方に関する調査会 報告書 平成 24 年 6 月 27 日 Ⅰ.はじめに 独立行政法人住宅金融支援機構(以下、「機構」という。)は、主に証券化支 援業務を通じて民間金融機関を支援することにより、住宅の建設等に必要な資 金の円滑かつ効率的な融通を図り、もって国民生活の安定と社会福祉の増進に 寄与することを目的とする政策実施機関である。 かつて機構の前身である住宅金融公庫は、財政融資資金を原資に住宅の建設 及び購入に必要な資金を自ら融通することを主たる業務としており、民業圧迫 との批判があったほか、同業務は制度上、貸出金利に上限が設定されており、 調達金利と貸出金利が逆ざやになり得る構造であったことや、期限前償還リス クや金利変動リスク等を住宅金融公庫が抱え込む仕組みであったこと等から、 結果的に政府による多額の補給金が必要となるという問題があった。 そのため、平成 13 年からの特殊法人等改革において、住宅金融公庫は廃止が 決定され、証券化支援業務を行う新たな法人として平成 19 年に機構が設置され た。この改革自体は一定の成果を上げ、平成 24 年度には補給金に頼らない形で の業務運営が可能となったが、証券化支援制度の導入から 10 年が経過した今、 業務や組織の在り方について、将来に向けて検討を要する問題が生じており、 更なる改革が必要と考えられる。 具体的な問題としては、①「民にできることは民で」という民業補完の考え 方が必ずしも十分に踏まえられていないのではないか、②市場活用型の政策実 施機関としてのガバナンスが必ずしも最適な形で実現されていないのではない か、③業務の効率化が十分ではないのではないか、といった点が指摘される。 こうした中、 「独立行政法人の制度及び組織の見直しの基本方針」 (平成 24 年 1 月 20 日 閣議決定)において、 「外部の有識者から成る検討の場を内閣府に設 置して検討し、本年度中に基本的な論点について整理した上で平成 24 年夏まで に結論を得る」こととされた。 以上を踏まえ、本調査会においては、民業補完の視点を踏まえつつ、市場活 用型の政策実施機関として適切なガバナンスを実現することで、国民に対して 相対的に低利で長期・固定の住宅ローンを効率的かつ安定的に提供するという 観点から、機構の在るべき姿について検討を重ね、本年 3 月 27 日の基本的な論 点整理を経て、今般、以下のようなとりまとめを行った。 なお、時代に即した最適な業務や組織の在り方を常に志向し、不断に見直し を行うことは重要ではあるが、それによってかえって業務運営に悪影響を与え ることはあってはならない。本報告は、これまで機構の在り方について議論さ れてきた論点等について改めて整理を行い、いわば「改革のあるべき着地点」 に向けた検討の結果をとりまとめたものである。 1 Ⅱ.住宅取得支援の政策的意義と機構改革の必要性 住宅取得支援政策の一つとして、長期・固定の住宅ローンを相対的に低利で 提供することを支援する業務については、引き続き政策的な必要性があると認 められる。ただし、現在、当該業務を担っている機構の具体的な業務や組織の 在り方が最適か否かは別問題であり、民業補完の視点を踏まえつつ、市場活用 型の政策実施機関として適切なガバナンスを実現することで、国民に対して相 対的に低利で長期・固定の住宅ローンを効率的かつ安定的に提供するという機 構のあるべき姿の実現に向けた見直しが必要。 1.長期・固定の住宅ローン供給支援の政策的意義 機構の前身である住宅金融公庫は、戦後の住宅難の中、国民の住宅取得 を支援し、住宅インフラの整備を促進するという政策上の必要性から設立さ れた。その後、中古住宅や借家を含めた住宅ニーズや人口動態等、我が国の 住宅をめぐる情勢は、経済情勢等に伴い変化してきたが、現在も住宅が社会 的安定の基盤であることには変わりなく、住宅の取得支援に対する国民の期 待やニーズは高い。こうした中、引き続き政府が住宅取得支援政策を行うこ とは必要である。 住宅取得支援政策の在り方については、様々な環境に置かれている住宅取 得希望者が存在していることから、多様なニーズに応える必要がある。金融 面についてみると、住宅ローンの商品設計として、変動金利によるローンと 固定金利によるローンの両方が利用しやすい形で存在していることが望ま しい。変動金利が主体であった英国において、1990 年代初頭に、政策金利 の引き上げとともに住宅ローン金利が上昇し、住宅ローンの延滞率が上昇し たという経験に鑑みても、変動金利によるローンに過度に偏ることなく、固 定金利によるローン制度も整備されていることが望まれる。 しかしながら、民間金融機関の資金調達源は、主として預金による短期資 金や社債等であることから、機構同様に 35 年にわたるような長期・固定の 住宅ローンを供給することは ALM 上容易ではない。また、それらのリスクを ヘッジするための 10 年超の金利スワップ市場等が十分に機能していないと いう事情もある。その結果、低金利が続いていることとあいまって、民間金 融機関による住宅ローンは変動金利によるものが大部分となっているのが 現状である。 他方、民間金融機関が預金等に頼らず、独自に住宅ローンの証券化を行う には、大量の住宅ローンをプールすることが必要であるとともに、証券化ま での金利変動リスクのコントロールが不可欠である。また、民間金融機関に おいては、事前に信用リスクを抑制する必要性が高い。そのため、結果とし て長期・固定ローンに関する政策ニーズに十分応えられないおそれもある。 以上のような事情により、民間による長期・固定のローンの供給は、現状 2 では限定的であり、民間のみに委ねた場合には、量的な確保や低利での供給 が政策的にみて必ずしも十分なものとはならないのではないかと考えられ る。加えて、MBS 市場が最も発達していると考えられる米国においても、リ ーマンショック以降、同市場におけるノンエージェンシー(民間)による MBS 発行が停止している現状に鑑みれば、民間のみでは経済・経営環境の悪 化の影響を受けやすく、政策的にみて十分なローンの供給が担保されないお それもある。長期・固定の住宅ローンを相対的に低利で国民に供給するため には、引き続き政策的な関与の必要性があると考えられる。 2.機構改革の必要性 上記のように長期・固定の住宅ローンの供給支援の政策的意義があると しても、現在、実際に同業務を担っている機構の具体的な業務や組織の在り 方が最適か否かは別問題である。 民業補完の視点を踏まえつつ、市場活用型の政策実施機関として適切なガ バナンスを実現することで、国民に対して相対的に低利で長期・固定の住宅 ローンを効率的かつ安定的に提供するという機構のあるべき姿の実現に向 けた見直しが必要である。具体的には、 「Ⅰ.はじめに」で指摘したとおり、 ①「民にできることは民で」という民業補完の考え方が必ずしも十分に踏ま えられていないのではないか、②市場活用型の政策実施機関としてのガバナ ンスが必ずしも最適な形で実現されていないのではないか、③業務の効率化 が十分ではないのではないか、といった問題点が指摘されるところ、これら に対するあるべき改革の具体的な方向は、以下Ⅲ、Ⅳ及びⅤのとおりである。 Ⅲ.民業補完の視点を踏まえた証券化支援業務の改革 民業補完の視点を踏まえ、①証券化支援業務の保証型の活用、②機構 MBS の 商品設計の見直し、を行うことで、民間による MBS 発行を促し、機構 MBS に偏 らない MBS 市場の成熟化を目指す。 1.証券化支援業務の保証型の活用 政策実施機関が事業を行うに当たっては、「民にできることは民で」とい う民業補完の考え方に立脚することが原則である。平成 15 年の証券化支援 業務の制度開始当初(民間における制度設計期間を考慮し、保証型の開始時 期は平成 16 年 10 月)においても、民間が MBS 発行主体となる保証型を将来 的に拡大していくことが想定されていた。 しかし、現在の MBS 市場をみると、平成 13 年から開始された MBS の発行 は、この 10 年でその残高が 10 兆円を超える規模にまで発展してきた一方、 民間による MBS 発行は、保証型を活用したもの、民間独自のスキームによる 3 ものがともに限定的であり、発行残高は 4.7 兆円程度に止まっている。特に、 毎年の発行額についてみると、平成 21 年度補正予算に伴う「経済危機対策」 によって実施された買取型の貸付比率上限の 9 割から 10 割への引上げ以降、 民間 MBS 発行額は急速に縮小しており、平成 23 年には機構 MBS の発行額が 約 2.4 兆円であるのに対し、民間 MBS の発行額は約 0.2 兆円となっている。 このような状況を踏まえ、今後の機構による証券化支援業務の在り方とし ては、機構が発行主体となる買取型に偏らない形で、モラルハザードがおこ らないよう適正な保証料の設定等を前提として民間が発行主体となる保証 型の活用を図り、民間による MBS の発行を促すことが必要である。 民間が MBS 発行主体となる保証型が普及しない理由としては、①保証型は 自前で証券化の仕組みを管理・運用するため、買取型に比較してコスト高に なるのではないか、②保証型を活用するに際しては、機構が定める審査基準 をクリアする必要があるが、総返済負担率基準を満たしていない場合は自動 的に融資不可になる等審査基準が形式的に過ぎて発行主体となる民間のニ ーズに合っていないのではないか、といったことが指摘される。 そこで、保証型の活用を図るためには、貸付比率・貸付上限額の見直しや 保証型の審査方法の適正化といった方策が考えられる。 具体的には、貸付比率上限については、保証型が 10 割であるのに対して、 買取型については、経済危機対策として実施されていた貸付比率上限引上げ 措置が終了し、本年 4 月 1 日より、平成 20 年度以前の 9 割となったところ である。これにあわせて、融資金額の上限についても、例えば買取型につい て現在の 8,000 万円を 7,200 万円に引き下げる等の措置を検討すべきである。 また、機構が提供する保証型の審査方法については、民間金融機関におけ る申請者の保有資産を踏まえた個別の融資などのニーズを踏まえ、形式的な 審査から実質的な審査へと転換し、審査方法の適正化を図る必要がある。 2.機構 MBS の商品設計の見直し 現在の機構の発行する MBS の商品設計は、平成 13 年の発行開始から変わ っていないが、その間の金融工学の発達や民間金融機関による MBS の発行、 リーマンショックの経験等を踏まえて、マーケットとの対話を通じて証券発 行形式の在り方やリスクの取扱い等について見直しを行うことが必要であ る。 具体的な例として、第一に、MBS と超過担保に充当される SB (一般担保債 券)のそれぞれに対して、返済された元利金を比例的に分配し償還するこれ までのプロラタ方式から、優先劣後構造を導入し、MBS が劣後部分に優先し て償還されるシーケンシャル方式への転換を図ることが考えられる。これに よって機構のリスク意識を高め、効率的に業務を遂行する責任を強化するこ とが見込まれる。あわせて、リスクへの備えについて、上限等に関する一定 のルールに基づき、利益から資本準備への積み増しを認めることで、適切な 4 業務遂行責任の強化を図ることができる。他方、投資家から見ればキャッシ ュフロー上有利な取扱いとなることから、調達金利の低下につながるとの見 方もある。 第二に、投資家のニーズに適切に対応するため、現在は 1 種類のみの機構 MBS を、償還期間の長短により、優先債を MBS1 と MBS2 に分離することが考 えられる。市場には現在の機構 MBS のような超長期債券だけではなく、より 償還期間の短い債券を持ちたいというニーズをもった投資家も存在するた め、そういった多様なニーズに適切に対応することで、MBS に対する需要増 加を促すことができる。その結果、調達金利の低下にもつながるとの見方も ある。 こうした商品設計の見直しをマーケットとの対話を通じて進めていくこ とで、投資家のニーズを反映した商品設計が民と官の双方において実現し、 商品設計が近接していくことで、マーケットが機構の発行する MBS と民間の 発行する MBS を同様に扱うことができるようになる結果、いわゆる MBS 市場 の成熟化に寄与することができる。 Ⅳ.「市場活用型の政策実施機関」にふさわしいガバナンスの実現 民業補完の視点を踏まえた上記の改革により、機構は市場を活用しつつ、 「官」 が実施すべき業務に集中する政策実施機関という位置付けを明確化。そのため、 組織の位置付けとしては、行政法人が適切。その上で、市場を活用するという 特性に鑑み、株式会社を参考としてガバナンスを強化。具体的には、 「執行と監 督の分離」を徹底するために、機構内部に「監督委員会(仮称)」を設置。あわ せて、厳格なリスク管理及びリスクへの備えの強化等を実施。 1.機構の組織形態 民業補完の視点を踏まえた上記の証券化支援業務の見直しを実施するこ とにより、民間による MBS 発行を促し、機構 MBS に偏らない MBS 市場の成熟 化が進み、機構は、民間だけでは対応が困難な業務に集中していくことにな る。その結果、機構は「官」が実施すべき業務に集中し、その業務を確実か つ適切に実施することが求められる政策実施機関としての位置付けが明確 化される。そのため、機構の組織形態としては行政法人とすべきである。 2.市場を活用するという特性に応じたガバナンスの強化 機構を行政法人と位置付けた上で、市場を活用するという特性に鑑みた ガバナンス強化が必要である。すなわち、不特定多数の市場参加者が関わり、 実務において日常的に慎重かつ適切な執行が求められる金融市場を活用し た業務を機構が実施していることから、行政法人を対象とする事後的な監 5 督・評価のみならず、機構自体に内部で高度なガバナンスを効かせる必要が ある。そこで、市場に相対する法人形態として最もガバナンスが高度に整備 されていると考えられる株式会社を参考として機構のガバナンスを吟味し てみると、株式会社における業務執行の監督の機能を持つ取締役会にあたる 機関が現在の機構にはなく、「執行と監督の分離」が徹底されていないこと が問題点として指摘できる。すなわち、独立行政法人である現行の機構にお いては、独立行政法人評価委員会による事後的な評価制度はあるが、法人内 部において業務執行権者の監督を行う機関はない。また機構内部に任意で設 置している役員会にも監督権はない。そのため、「執行と監督の分離」を徹 底し、業務執行権者の監督を行う機関を設置することが、機構のガバナンス 強化上のポイントである。具体的には、業務執行の監督のための機関として、 主務大臣任命による委員から構成される「監督委員会(仮称)」を機構内部 に設置することが考えられる。この「監督委員会(仮称)」は業務執行の監 督を実施するとともに、必要があれば主務大臣に対して理事長解任を勧告す る権限をもつこととする。 このような機関を設置し、適切な運用を図ることにより、機構における業 務執行と業務監督の分離を徹底し、市場活用型の政策実施機関に最適なガバ ナンスを実現していくべきである。 3.組織形態に関する検討 民業補完の視点を踏まえた機構の政策実施機関としての位置付けから以 上のような形で機構のガバナンスを強化することが適当であると考えられ るが、これまで議論されてきた組織形態に関する検討は下記のとおりである。 ここでは主要な視点として、ガバナンスの強化にあたっての限界、政策実施 機関としてのインセンティブの在り方、MBS 市場への影響、追加で発生する コストの4点から検討を行ったが、結論として、他の組織形態に比較しても 行政法人が適当であると考えられる。 (1)株式会社(特殊会社※) 機構の組織形態として株式会社を選択した場合には、政府が株主であり、 株主代表訴訟による経営陣への責任追及に限界がある。 また、会社化により利益追求に走るおそれがあり、政策実施機関としての インセンティブを歪めかねないというリスクがあるため、別途、このリスク をコントロールするための手当てをする必要がある。 MBS 市場への影響については、機構が発行している MBS の信託受益権行使 事由に該当するため、既発の機構 MBS が信託受益権化し、MBS 市場で大きな 混乱が発生するおそれがある。 新発の機構 MBS についても、株式会社化することにより機構と政府との距 離が離れると市場が評価した場合に、MBS の金利スプレッドが拡大し、新規 6 調達金利が上昇するおそれがある。 さらに、現在の機構の自己資本比率(バーゼルⅡ基準)が 3.1%と金融業を 営む会社として極めて低い水準であることから、相当程度の追加出資が必要 ではないかと考えられる。 ※ 現在機構が発行する債券は財投機関債であるが、民間出資が入ることが想定されうる 形態となれば、原則として機構は財投機関ではなくなることから、機構が発行する債券 についても財投機関債ではなくなるため、政府 100%出資を維持する特殊会社化が現実的 な選択肢。 (2)合同会社(特殊会社※) 合同会社とする場合には、持分会社の機関設計等の自由度を活用して、株 式会社に類似のガバナンスを法定・適用することが可能である。ただし、合 同会社制度に関する会社法の強行法規規定を正面から修正することはでき ない。例えば、職務執行者は業務執行社員である国が選任すべきところを、 「合同会社に業務執行社員の任命による取締役会を置き、当該機関が職務執 行者の選任・解任まで行う」とすることは困難であり、ガバナンスの強化に 限界がある。 また、株式会社化同様に会社化することにより利益追求に走るおそれがあ り、政策実施機関としてのインセンティブを歪めかねないというリスクがあ るため、別途、このリスクをコントロールするための手当てをする必要があ る。 MBS 市場への影響については、既発機構 MBS の信託受益権化の問題は生じ ないが、合同会社は出資者が有限責任を負うことから、国の有限責任を対外 的に明示することとなり、既発の機構 MBS の価格が下落し、新発 MBS の金利 スプレッドが拡大し、新規調達金利が上昇する可能性は残る。 さらに、追加で発生するコストについては、株式会社と同様に、自己資本 比率が低い水準であることから相当程度の追加出資が必要となる。 (3)特殊法人 特殊法人とする場合には、特別の法律に基づく法人とし、個別法で株式会 社類似のガバナンスを法定・適用することが可能である。そのため、政策実 施機関としてのインセンティブを歪めない形での機関設計が可能であると 考えられる。また MBS 市場への影響は特段なく、追加出資の必要性等追加で 発生するコストはない。 ただし、機構の特殊法人化はこれまでの改革の流れに逆行することとなる という大きな問題点がある。すなわち、特殊法人については、平成 13 年か らの特殊法人等改革において、各特殊法人ごとに個別の事業の見直しを行っ た上で、その事業の見直し結果を踏まえ、当該見直し後の事業を担う実施主 体としてふさわしい組織形態を決定した。その際、機構の前身である住宅金 7 融公庫については廃止することとし、その上で証券化支援業務を行う法人に ついては、特殊法人等について一般に指摘されていた問題点(経営責任の不 明確性、事業運営の非効率性、組織・業務の自己増殖、経営の自律性の欠如 等)に鑑み、それらを可能な限り克服し得るような組織形態として新たに独 立行政法人として機構が設置された。経営の自律性の欠如等といった特殊法 人特有の問題点は、特殊法人という組織形態を選択するならば今でも指摘さ れ得るものであり、機構のように市場に相対し、自律的・効率的な運営が求 められる組織については、以上のような経緯等を無視して特殊法人に逆戻り させることは適当ではないと考えられる。 (4)行政法人 独立行政法人から移行される行政法人においては、業務運営の改善のため の措置命令及び役員等の損害賠償責任に関する規定が新設される等、ガバナ ンスが強化されることとなっている。これに加えて、株式会社を参考に、業 務執行と業務監督の分離を図るため、 「監督委員会(仮称)」を内部に設置す ることで、市場を活用するという特性に応じたガバナンスの強化を図ること ができる。 また、行政法人に位置付けることで国の政策実施機関としての位置付けが 明確になり、政策実施機関としてのインセンティブが歪められることはない。 MBS への影響という観点からは、既発の MBS 市場への悪影響はなく、新発の 資金調達についても同様であると考えられる。さらに、追加出資の必要性等 はなく、追加で発生するコストはない。 4.厳格なリスク管理、備えの強化 市場を活用する機関として、ガバナンスを強化した上で、より厳格なリス ク管理を実現するとともに、リスクへの備えを強化すべきである。 具体的には、まず、リスク管理の厳格化のため、以下の見直しを行うべき である。 (1)審査基準の見直し 現在は買取債権に係る民間金融機関に対する手数料が一律となっている ことから、住宅ローン債権のデフォルト率が高くても、民間金融機関におい てそれを改善するインセンティブが十分でない仕組みとなっている。そのた め、民間金融機関ごとの住宅ローン債権のデフォルト率に応じて、機構が各 社毎に手数料を差別化する等により、より適切な審査が民間金融機関におい て促される仕組みとする。 (2)ストレステストの実施 現在、機構の証券化支援事業におけるリスクの管理は、通常予測される損 8 失額を金利により、それを超える異常時に予測される最大損失額をリスク対 応出資金によりカバーしている。これは一般的なアプローチとして是認でき るものであるが、リーマンショックの経験等に鑑みて、今後はストレスシナ リオに基づく信用損失額の管理を行うこととし、ストレステスト機能を含め た信用リスク計量モデルの高度化を図るべきである。 (3)主務省へのフィードバック体制の強化 自律的に効率的な業務遂行を志向する組織とする一方で、適切な政策を実 施しているかどうか主務省が継続してモニタリングをする必要があること から、 「監督委員会(仮称)」等により業務遂行情報をタイムリーに主務省へ フィードバックすることとし、機構外部からの規律を働かせる体制を強化す る。 次に、リスクへの備えを強化する観点から、以下の措置を講ずる必要が ある。 (4)一定のルールの下、利益から資本準備への積み増し 今後、機構がリスク意識をより高め、自律的・効率的に業務を遂行する責 任を強化するため、上限等に関する一定のルールの下、機構の利益から資本 準備へ積み増しすることができることとし、政府からの出資措置に依存しな い仕組みにすべきである。 5.情報公開の在り方に関する不断の見直し 市場を相手とした機関であることから、市場との情報交換が極めて重要で あることは今後も変わらず、現行の情報公開の在り方も不断の見直しを行い、 低利で資金調達をするという目的から、市場のニーズに沿った最適な情報公 開を継続する。 Ⅴ.業務効率化の推進 今般の改革の実施により、適切なガバナンスの下、自律的に効率的な業務遂 行を志向する組織となることが期待されるが、明らかになっている現下の課題 については、具体的な業務効率化の工程表を作成し、早急に改善を図る。 今般の改革の実施により、適切なガバナンスの下、自律的に効率的な業務遂 行を志向する組織となることが期待される。しかし、業務効率化の観点から見 た場合に、必ずしも効率化が図られていないことが現認される下記の課題につ いては、具体的な見直し・削減のための工程表を今年中に作成し、早急に改善 9 を図る。 (1)地方拠点の整理・統合 全国を 11 ブロックに分けている現在の支店体制について、第二期中期目標期 間中(平成 28 年度末)に 9 ブロック体制への移行を進め、さらにその後も、業 務実態を踏まえた所要の見直しを進める。 (2)職員数・給与水準等の見直し 常勤職員数について、アウトソーシングの活用等を含めた業務運営の効率化 を通じて、第二期中期目標期間中に 5%以上の削減を実現する。その際、上記地 方拠点の整理・統合等を通じて、可能な限り削減率の上積みを図る。 給与水準については、第二期中期目標期間中に、年齢・地域・学歴を勘案し たラスパイレス指数を国家公務員と同程度にすることを目指し、管理職定年制 の実施や給与体系の見直しを含めた人事・給与改革を着実に実施する。 宿舎については、第三期中期目標期間中(平成 33 年度末)に 40%程度の削減 を実現することとし、第二期中期目標期間においては、 「独立行政法人の職員宿 舎見直し計画(平成 24 年 4 月 3 日 行政改革実行本部決定)」に基づき、可能な 限り大幅な削減を行う。 (3)特定関連会社との関係見直し 特定関連会社について、引き続き競争入札の条件整備を進めるとともに、OB の再就職について、改正独立行政法人通則法の規制を踏まえて適正に対応して いく。 Ⅵ.改革によって期待される効果 以上の改革により次の効果が期待される。 ・ 官民の適切な役割分担の下、国民に対して相対的に低利で長期・固定の住 宅ローンを効率的かつ安定的に提供 ・ MBS 市場の成熟に伴い、官民の役割分担の姿が変化していき、機構の業務 が縮小 ・ リスクへの備えを強化しつつ、財政にも貢献(一定のルールの下、国庫納 付及び国庫に依存しない資本準備の積み増し) 今般の機構の在り方の見直しによる効果としては、第一に、官民の適切な役 割分担の下、国民に対して相対的に低利で長期・固定の住宅ローンを効率的か 10 つ安定的に提供することが期待される。 第二に、MBS 市場の成熟に伴い、官民の役割分担の姿が変化していき、機構の 業務が将来的に縮小していくことが期待される。 第三に、一定のルールの下、国庫納付及び国庫に依存しない資本準備の積み 増し等を可能とすることで、リスクへの備えを強化しつつ、財政にも貢献する ことが期待される。 以上のように、財政に依存することなく、果たすべき役割を適切に果たして いく機構の姿を実現していくべきである。 今後、本報告に基づく機構の改革を、独立行政法人制度から行政法人制度へ と移行する平成 26 年 4 月に向けて、実現可能なものから早急かつ実効的に推進 することを、政府に期待する。 以上 11 独立行政法人住宅金融支援機構の在り方に関する調査会 構成員 調査会長 佃 和夫 三菱重工業株式会社取締役会長 調査会長代理 吉野 直行 慶応義塾大学経済学部教授 浅見 泰司 東京大学空間情報科学研究センター教授 荒谷 裕子 法政大学法学部教授 池尾 和人 慶応義塾大学経済学部教授 内田 明憲 読売新聞社論説委員 富田 俊基 中央大学法学部教授 山本 隆司 東京大学法学部教授 (※オブザーバーとして金融庁、財務省及び国土交通省担当部局が出席)