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抗腫瘍活性天然物 Phoslactomycin B 及び Chloptosin の合成に関する
抗腫瘍活性天然物 Phoslactomycin B 及び Chloptosin の合成に関する研究 長崎大学大学院医歯薬学総合研究科生命薬科学専攻 芝原 攝也 [目的] HO OH 日本を含め先進国で、がんは死亡原因の上位 P O O OH を占めており、抗がん剤の開発は多くの製薬会 O O OH 社において研究の重点領域に設定されている。 HN Phoslactomycin B 近年、その成果により、開発された抗がん剤が MeO HN OH H 治癒や延命に大きな効果を上げている。しかし、 N N H HN HN Cl H N H N O O 未だに抗がん剤が効かないがんが存在するこ HO O O N N O O O N O N O O OH とや、選択性が低いために強い副作用が生じる NH O O N H Cl NH NH H N N ことなど、問題は多く残されている。そこで、 H OH NH OMe Chloptosin これまでの抗がん剤とは異なる興味深い作用 Figure 1 機序で細胞毒性を示す化合物を合成標的とす ることとした。これらの化合物は新規抗がん剤開発リードとなり得るだけでなく、完 全に解明されていないその作用機序を明らかにするために重要なツールとなり得る。 従って、これらの化合物ならびにその誘導体の合成による供給は、医学、生理学など にも大きく貢献できると考えた。そこで、高選択的プロテインホスファターゼ 2A 阻 害活性天然物 phoslactomycin B 及びアポトーシス誘導活性天然物 chloptosin(Figure 1) を合成標的として取り上げ、その合成研究を行った。 2 [結果・考察] 第1章 Phoslactomycin B の全合成 Phoslactomycin B は Streptomyces hygroscopicus から単離された抗真菌物質で、現在 のところ最も特異性の高い PP2A 阻害剤の 1 つである。構造的には、水酸基、リン酸 基、アミノ基、不飽和ラクトン、Z,Z-共役ジエン、シクロヘキサン環を含むなど、高 度に官能基化された特異な構造を有しており、合成標的として、大変魅力的である。 その合成にあたり、前例のない不斉ペンテニル化を鍵反応とし、当研究室で開発した 同族化合物 fostriecin の合成法 1)を参考にした。すなわち、1,3-プロパンジオール(1)か ら 8 段階で調製した 2 の不斉ペンテニル化反応により、82%、93% ee と高収率、高選 択的に 3 を得た。次に、鈴木・宮浦反応により PLM の特徴をなすアミノエチル基を 導入し、アクリル酸エステルへと変換後、Grubbs 触媒第二世代を用いた閉環メタセシ スにより α,β 不飽和ラクトンを構築した。続いて、super AD-mix-β を用い位置選択的 にジオールを導入し、4 を合成した。その後、Stille カップリングを経て、phoslactomycin B の全合成を達成した。本合成経路は幾何異性体など多様な誘導体にも対応できる柔 軟な合成法で、かつ総工程数が 26 段階と、報告されている phoslactomycin 類合成経 路の中で最短である(Scheme 1) 。 1) OH HO cis-2-pentene, t-BuOK n-BuLi, (+)-Ipc2BOMe BF3•OEt2 THF, -78 °C HO 82% 93% ee O 8 steps OMPM H I 1 2 OH O O TESO 5 steps OMPM OH 11 O O AllocHN O O OH OH O O 4 steps O OTES P O AllocHN 11 OTES MeCN/THF (4:1) 81% (b.r.s.m.) I AllocHN 6 HO O 9 5 4 SnBu3, Pd(CH3CN)2Cl2 (30 mol %) OH OH 3) Me4NB(OAc)3H, AcOH CH3CN, -10 °C, 96% OTES BocHN 3) Grubbs' cat. 2nd (10 mol %), CH2Cl2 reflux, 77% 4) super AD-mix-β, MeSO2NH2 tBuOH/H2O (1:1) 73%(brsm), (4 : isomer = 87 : 13) 1) NaI, AcOH acetone, 90% 2) AcOH-THF-H2O 94% (b.r.s.m.) O 9 OMPM I 3 NHBoc 9-BBN, Pd(dppf)Cl2•CH2Cl2 (5 mol %), 3 M NaOH, 1,4-dioxane, 90% 2) CH2=CHCOCl, iPr2NEt,CH2Cl2, 0 °C, 99% OH O OH OH H2N Phoslactomycin B 7 Scheme 1 第2章 Chloptosin の合成研究 Chloptosin2)は Streptomyces MK498-98F14 から単離された化合物で、主に膵臓のがん 細胞に対し極めて強力なアポトーシス誘導活性を示す。また、本化合物はメチシリン 耐性グラム陽性菌に対する強力な抗菌作用を有することも見出されている。構造的に は、ピロロインドリンカルボン酸、D-バリン、(R)-ピペラジン酸、(S)-ピペラジン酸、 O-メチル-L-セリン、D-スレオニンからなる環状ヘキサペプチドの二量体である点が 特徴で、インドリン骨格の 6 位に塩素原子を持つ非常にまれなアルカロイドである。 その合成としては、ビフェニルを原料とし、2 つの芳香環を一挙に修飾するのが合理 的であると考えた。そこで、Zhu のトリプトファン合成の条件 3)を参考にし、短工程 で 10 を合成した。これにより、効率的なビストリプトファン誘導体の供給が可能と なった。その後、立体選択的にピロロインドリン骨格を持つセレニドに変換し、その mCPBA 酸化により、12 とした。続いて、エステルの変換、Boc の脱保護により、 chloptosin コア 13 へと導いた。2010 年に全合成を達成した Yao らの手法 3a)を用い、 13 と 14 の縮合を試みたが、縮合体 15 は得られなかった。これまでに、テトラペプチ ド 16 の合成も完了している(Scheme 2)。よって、13 と 14 の再現性ある縮合法を確立 することで、chloptosin の全合成が達成できると考えられる。 OHC CO2Me NBoc2 H2N Cl I I Cl 9 Pd(OAc)2 (30 mol %) DABCO NH2 H N CO2Me Cl NBoc2 DMF, 80 °C Boc2N 26% MeO2C Boc N 1) Boc2O, DMAP MeCN NHBoc 2) Mg(ClO4)2, MeCN N H Cl 8 BocHN 91% 2) mCPBA, NaHCO3, CH2Cl2 Boc H N 12 43% OTBS FmocHN O AllylO2C H H N N Cl HN N CO2Allyl HO N OH Cl 15 O N H H NHFmoc OTBS Scheme 2 Cl AllylO2C NH OH N H H Cl 13 HN N NH O O O AllylO2C OMe NHFmoc 16 Chloptosin CO2Allyl HO HN 2) Allylbromide, NaHCO3 DMF 3) 1.0 M HCl in AcOEt N H Boc Cl CO2H DMF/CH2Cl2 (1:1), -10 °C rt 1) LiOH, THF, H2O NBoc OH MeO2C 11 H H N CO2Me HO BocN 60% NHFmoc OTBS 14 BEP, HOAt, i-Pr2NEt Cl N Boc Cl MeO2C 10 1) N-PSP, PPTS, Na2SO4 CH2Cl2 CO2Me Cl 第 3 章 NW-G01 の合成研究 ピロロインドリンとアミノ酸の縮合反応の検討及び構造活性相関の点から、環状ヘ キサペプチド抗生物質 NW-G014)の合成研究を行った。本研究において、chloptosin 合 成研究の知見を生かし合成したコア 17 の 3 級水酸基を保護することで、ピロロイン ドリンコア 18 とジペプチド 19 が高収率で縮合することを見出した。この手法は、 chloptosin 合成研究の際、進行しなかった縮合反応に応用できると考えられる。そし て、残りのペプチドも縮合し、当初提唱されていた NW-G01(22)を合成した。しかし、 本合成化合物は[α]D、NMR スペクトル、融点が論文値と一致しなかった。合成完了後、 Wu らに確認したところ、先に報告した C34 の立体が誤りで、実際は R 配置であると 訂正された 5) (Scheme 3)。よって、確立した経路を用いることで、訂正された NW-G01 の全合成が達成できると考えられる。 1) FmocHN HN N O HO2C CO2Allyl TESO TESOTf 2,6-lutidine NH CH2Cl2 0 °C r.t. 95% N H H Cl NH Cl 18 HO O O N N H H 34 O O N NH N O O HO O O N Originally Proposed NW-G01 (22) Cl TESO N NH H N H H 34 O O N NH H N N H N 21 HO C 2 HATU, HOAt i-Pr2NEt, CH2Cl2, 71% 2) Pd(PPh3)4 (10 mol %) N-methylaniline THF 3) iPr2NH / CH3CN 4) HATU, HOAt, iPr2NEt CH2Cl2, 29% (3 steps) 5) HF/Pyr./H2O/MeCN (4:1:2:20), 91% HN N HN H N N 19 CO2Allyl 20 HN N HN Fmoc N Cl HATU, HOAt colidine, CH2Cl2, 91% 2) i-Pr2NH / MeCN, 85% N H H 17 Cl 1) CO2Allyl TESO O N NH O O O N NH N O O H N N NW-G01 Scheme 3 [参考論文] 1) Esumi, T.; Okamoto, N.; Hatakeyama, S. Chem. Commun. 2002, 24, 3042. 2) a) Yu, S.-M.; Hong, W.-X.; Wu, Y.; Zhong, C.-L., Yao, Z.-J. Org. Lett. 2010, 12, 1124. b) Oelke, A. J.; France, D. J.; Hofmann, T.; Wuitschik, G.; Ley, S. V. Angew. Chem. Int. Ed. 2010, 49, 6139. 3) Jia, Y.; Zhu, J. Synlett, 2005, 2469. 4) a) Guo, Z.; Shen, L.; Ji, Z.; Zhang, J.; Huang, L.; Wu, W. J. Antibiot. 2009, 62, 201. b) Guo, Z.; Ji, Z.; Zhang, J.; Deng, J.; Shen, L.; Liu, W.; Wu, W. J. Antibiot. 2010, 63, 231. 5) Guo, Z.; Ji, Z.; Zhang, J.; Deng, J.; Shen, L.; Liu, W.; Wu, W. J. Antibiot. 2010, 63, 733. [基礎となった学術論文] a) Shibahara, S.; Fujino, M.; Tashiro, Y.; Takahashi, K.; Ishihara, J.; Hatakeyama, S. Org. Lett. 2008, 10, 2139. b) Shibahara, S.; Fujino, M.; Tashiro, Y.; Okamoto, N.; Esumi, T.; Takahashi, K.; Ishihara, J.; Hatakeyama, S. Synthesis, 2009, 2935. [主論文で採用していない原著論文] a) Sarkar, S. M.; Wanzala, E. N.; Shibahara, S.; Takahashi, K.; Ishihara, J.; Hatakeyama, S. Chem, Commun. 2009, 5907. b) Morokuma, K.; Taira, Y.; Uehara, Y.; Shibahara, S.; Takahashi, K.; Ishihara, J.; Hatakeyama, S. Tetrahedron Lett. 2008, 49, 6043.