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蝋型電胎法による母型製作と活字鋳造(1.4)

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蝋型電胎法による母型製作と活字鋳造(1.4)
本木昌造・活字復元プロジェクトの成果を展示
ろう がた でん たい ほう
蝋型電胎法による母型製作と活字鋳造
日本語活字誕生の技術を再現
本木昌造・活字復元プロジェクト
本木昌造顕彰会 印刷博物館 株式会社モリサワ
本木昌造関係史料が収蔵されていた長崎・諏訪神社
鋳造活字を用いた活版印刷術の発明はヨー
行書漢字や仮名文字を活字化し、
それらの実用
ロッパ近代の成立を促しましたが、
日本においても
化、
事業化によって近代活版印刷術をはじめて日
その導入と普及は近代化の推進に欠かすことの
本に定着させたのです。
できない原動力でした。
西洋式活字の導入は幕
長崎の諏訪神社におよそ3300本に及ぶ木製
末から明治にかけて行われましたが、
当初文字を
の活字が残されていましたが、
これこそは、
本木昌
彫刻し、
それを打刻して鋳型をつくるパンチ法では
造が蝋型電胎法によって作成した鉛活字の鋳
日本語のように画数の多い漢字や、
繊細な曲線の
型
(母型)
をつくるための原形
(種字)
にほかなりませ
ひらがな活字の鋳造は成功をみませんでした。
そ
ん。
こにきわめて大きな役割を果たしたのが長崎の本
この
「種字」
の歴史的価値に着目しつつ、
「本木活
木昌造です。
明治2年に上海・美華書館のウィ
リア
字」
を復元しよう
と平成11年に始まった
「本木昌造
・
活
ム
・
ガンブルを招聘し、
木彫の種字を基とする
「蝋型
字復元プロジェク
ト」
です。
電胎法」
という母型製作法を習得した本木昌造
同プロジェク
トの主唱は、
長崎県印刷工業組合
は、
明朝漢字を複製したほか、
オリジナルの楷書、
が活動を続けてきた本木昌造顕彰会、
印刷博物
日本で初めてオリジナルの鉛活字を鋳造した時の種字(木彫)
電胎母型類(上)と大・小二つの初期鋳型(上鋳型部分のみ)
蝋型電胎法について記した本木昌造の自筆稿本
館、
株式会社モリサワの三者で平成11年末に発
った
「蝋型電胎法」
による母型・活字製作工程の
足。
平成14年には印刷工業組合の全国組織・
再現を展示いたしました。
全日本印刷工業組合連合会の協力を得て、
活
本木昌造がガンブルから学んだ
「蝋型電胎法」
動の輪は大きく広がりました。
という活字鋳造技術とは具体的にどのようなもの
プロジェク
トの内容は、
本木活字の種字を中心
か。
わが国で最初のオリジナル鉛活字がどのように
とする諏訪神社収蔵の印刷史料の調査・検証、
して誕生して実用化されたか。
その1本の活字を
蝋型電胎法による母型製作工程の再現、
わが
鋳造するのに、
開拓者たちはどんな苦労を重ねた
国最初期のオリジナル鉛鋳造活字である「本木
のか。
その技法のあらましを、
ご理解いただければ
活字」
(主に三号和様平仮名類)
の復元、
印刷博
幸いです。
物館での研究成果の展示など多岐にわたり、
記
念出版
『日本の近代活字─本木昌造とその周
辺』
もこのプロジェク
トの一環として刊行されました。
本コーナーでは、
同プロジェク
ト事業の基幹とな
大阪の活版関係者によって四天王寺境内に建立された
本木昌造翁記念碑
1
種字の彫刻と組み付け
活字の母型を作るための原型を「種字」という。種字を作
る方法には①活字と同じ大きさの金属に活字と同じように逆
字で彫刻する方法と、②活字と同大のツゲ材の木駒に彫刻刀
で手彫りする方法がある。また③既製の活字そのものを、字
面を磨くなど手入れをして種字とすることも可能である。
本木昌造・活字復元プロジェクトは、本木昌造が日本で初
めて成功させた方法の通り、②の「木駒の種字」を彫り、そ
れをもとに「蝋型電胎法」という型どり、型づくりによって
「母型」を製作、その母型を「鋳型」
(鋳造機)にはめ込んで
鉛の活字を一本づつ「鋳造」するまでの全工程の技術の再現
に取り組んだ。
ツゲ材の木駒
彫刻
種字彫刻をする君塚孝雄氏
彫られた種字は1本づつ型どりするのではなく、ある程度
種字の組付け工程
まとめて、つまり組み版をして蝋型取りをする。種字と種字
のあいだには堰込め(せきごめ)、1行1行の間や周囲を囲む
には堰型(せきがた)という特殊な込物を使用して組み付け
て完全に固定する。込物のサイズ、肩の高さ、傾斜角などは、
種字の高さ調整とともに非常に高い精度が要求される。
種字の組付け︵種字、堰型、堰込めの関係︶
彫られた種字(一号明朝体)
組付けられた種字
2
蝋型取り
蝋型電胎法では、組み付けた種字を板状の蝋にプレスして型取りをする。蜜蝋などを加熱して溶かした液を盆
のような器に流し込んで固めて作るので、その版材は蝋盆といわれた。
蝋盆を作る材料の配合は、気温や、材料の質、そして職人の技などによって異る。再現実験ではいくつか
の配合比例を試したが、主体の蜜蝋100に対し、松脂5、黒鉛粉5の配合が適当であった。
蜜蝋とは、蜜蜂の巣を集めて精製したものである。加熱すると約80℃で溶けて透明の液状になる。ここ
に、蝋を凝固させるために松脂を加える。蝋だけでも冷えれば固まるが、気温の高い時には固まりにくいので松
脂を多めに使用したりする。黒鉛粉は電導性を高める他、蝋の均質化、剥離性にも有効である。
蜜蝋(右上)を主体に松脂、黒鉛粉を加える
加熱状態で撹拌して溶融させる
水平に置いた盆に静かに流し込む
蝋盆が冷えて固まるには、通常の室内温度で、2時間半から3時間位かかる。熱がさめ蝋が固まり切った頃に
種字を組んだ原版をプレスする。これが蝋型取りである。蝋盆は時間が経ちすぎると固まりすぎてむずかしい。
無理な圧力を加えると種字が損傷したり、原版の形が歪んだりして型が正しく再現できない。逆に柔らかい状態
で行えば、プレスはラクに入るが圧縮された蝋が側方、横に逃げ出してきちんとプレスできない。固すぎず、柔
かすぎず、丁度よい状態の見究めが大切である。
組版した種字(左)に蝋盆を上から重ねる
一号明朝体の蝋型
プレス機の中央にセットしてプレス
3
電胎版とは
電気めっきによる金属製品の製造、複製のことを電気鋳造、略して電鋳という。
電鋳は原理的には電気めっきと変わらないが、めっきの場合より電着層を厚くすることが多い。金属塩溶液
の電解により、母型(原型)に所要の厚さに金属を析出させた後、この電着層を母型から剥離すると、母型と
全く逆の形状のネガティブの電鋳が得られる。さらに、これの表面に剥離皮膜処理をして同じ操作を繰り返し
て所要の厚さに金属を電着させ剥離すると、母型と全く同じ形状のポジティブの電鋳が得られる。
印刷工業では、この電鋳の応用により、活字組版、木版、亜鉛凸版などの各種凸版から、あるいは彫刻凹版の
原版から印刷版を作り、これを電胎版とよんだ。
電鋳の原理
母型
陽極
母型
(1)電着(めっき)
(2)電着完了
(3)分離(剥離)
剥離電鋳の型製造工程
少量生産物の場合
蝋型電胎にあてはめると
原 型
凸 …………種字
型取り
…………蜜蝋主体の蝋盆
型取り母型
凹 …………蝋型
導電性付与
治具セッティング
…………電槽による電胎
電 鋳
剥 離
仕上げ加工
製 品
…………字面を磨く
凸 …………第一次電胎による薄い凸ガラハン
凸ガラハンを母型として再度電胎
厚い凹ガラハン完成
4
製品
電 槽
蝋型電胎法では、原版である蝋型を電槽に漬け込んで電胎版を作るが、この方法には内部電流による方法と
外部電流による方法がある。
①内部電流法
これはダニエル電池の理を応用した方法である。すなわち、電槽のなかに硫酸銅の水溶液を満たし、別に稀
硫酸と亜鉛板とを入れた素焼筒を電槽に吊し、亜鉛板と蝋型とを銅線や銅棒で連結する。すると、電流がこの
電池を流れて、亜鉛は硫酸に溶解し、そこで発生した水素は素焼筒を透して、外部すなわち硫酸銅溶液中に入
ってゆく。そして硫酸銅は還元され、析出した銅が陰極である蝋型の面に均等に集積される。この方法は、集積
された銅の分子が非常に細かいこと、設備が簡単ですむという利点があるが、ただ電胎が完了するのに非常に
時間がかかるので能率的ではない。
②外部電流法
直流発電機または整流器を設備し、外部から電流を供給する方法である。内部電流法が1∼2週間要したの
に、この方法はその約1/4の時間ですむ。電解液はやはり硫酸銅であり、陽極に銅板をつるし、向かい合わせ
た陰極に種字をつるすと、陽極の銅が溶けて陰極の組み版面に集積される。よい母型を得るには電流密度を
適当にしなければならない。電槽は内部電流の場合とまったく同じ構造であるが、ただその用い方が異るだけ
である。
5
第一次銅電胎
電胎が完了して出来た銅板の型は銅殻あるいはガラハンと呼ばれる。蝋型電胎法による活字母型の製造で
は、第一次、第二次と電胎を二度行う。
即ち、原版の蝋型が凹型なので第一次電胎では凸型のガラハンが作られる。このガラハンは凹型のガラハン
を作るための母型にするものなので、厚さは0.3∼0.5mm程度でよい。但し、この段階でガラハンの字面をきれ
いに研磨する必要がある。この字面は、そのまま活字の字面に再現されるので、汚れ、キズなどをきれいに磨い
て平滑にする。
6
外部電流法による電胎を行う秋元米博氏(秋元工房)
「甘皮」とよばれる薄い銅板が集積される
第一次電胎。凹型の蝋型を電解槽の中に陰極として吊り下げる
蝋型から引きはがした凸型の銅版。字面を平滑に砥ぐ
第ニ 次銅電胎
第一次電胎で出来た薄手のガラハンをよく手入れをし、これを原版として二度目の電胎を行い、凹型のガラハ
ンを得る。これは、そのまま母型に加工されるもので、2mm程度の厚さを必要とする。
第二次電胎によって出来た銅ガラハンは凹型で字は正字、つまりそのまま活字母型となるが、このガラハン
は、裏側が凸凹で薄いため次の工程で裏付けをする。
第二次電胎・甘皮のつけ込み
第二次電胎・銅集積の終了
銅凸版(上)を引きはがして銅凹版の完成(第二次電胎)
7
母型加工̶裏付け、切断/はめ込み、仕上げ
母型加工では先ずガラハンを1行づつ切り離し、そ
の裏側に溶かした亜鉛を流し込んで補強する。この
時、ガラハンを加熱し砂床に定置して、裏面に亜鉛を
塩酸で溶かした液をぬり、熱い亜鉛をサッと流し込
む。1行のガラハンは砂床に埋め込んであるため、あ
ふれた亜鉛が表面にまわりこむことはない。これを
「裏付け」という。その後、裏付けしたものは1字1字
のこぎりなどで切り離す。
第二次電胎で出来た銅ガラ
一行に切り離した銅ガラの裏側
母型のボディの部分をマテという。マテの材料は
真鍮で、アリ溝をあけ、ガラハンをはめ込むのであ
るが、マテの切断やアリ溝の切り方は、すべて一定
の規格に従って行わなければならない。次ぎにガラ
ハンの裏側をやすりで完全に水平にし、上下辺をア
リの角度に合わせて削り、左右辺をマテの幅に
え、アリ溝にはめ込む。文字の上がり下がり、寄り引
きなどを規格通りにしガラハンがその位置から動か
ないようにマテを叩いて締めつけ、最後に、字面の
深さと文字位置の天地、寄り引きを正確に規定通り
に仕上げる。
母型加工
8
亜鉛を流し込んで裏付け
一字ごとに切り離し
ヤスリで台形に加工
鋳 型
活字鋳造の際に、活字の字面から斜面まで、すなわち突出部を鋳造する凹型が母型である。
この母型を鋳型(上鋳型と下鋳型で構成される)に組み込むと、双方で作る空白部(空間)が生じ、ここに
溶かした活字合金を流し込むと1本の活字が鋳込まれる。
長崎・諏訪神社には木製種字とともに、大、小、二つの手鋳込み式の初期鋳型が保存されていた。
これらがいつ、どこで作られたか、また本木昌造がこれを実用としてどの程度使用したかどうかは今のところ
定かでないが、19世紀に使用された型式で、全角活字用になっているので漢字用の鋳型と推察される。
サイズは大きい鋳型が初号用、小さいものは四号用であるが、残念ながら二つとも上鋳型のみで下鋳型がな
い。プロジェクトでは、残っていたこの上鋳型をもとに、米国・スミソンアン博物館の鋳型の研究者であるスタ
ン・ネルソン氏に復元を依頼して完成型を作成した。但し、実際に作成した電胎母型を使用して活字を鋳込む
目的で、サイズは大きい鋳型を初号から1号用に、小さい鋳型を4号から3号用にサイズ部分のみ変更した。
左側は諏訪神社収蔵の鋳型(上鋳型部分のみ)
復元された鋳型による鋳造
鋳造された活字
贅片を折り取って仕上げる
鋳造された活字
9
●本木活字の復元 諏訪神社収蔵の種字を模刻して復元した三号和様平仮名
長崎県印刷工業組合 〒850-0862 長崎市出島町10番13号 ☎ 095(824)2508(代表)
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