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横浜国立大学グリーンマテリアルイノベーション(GMI)研究拠点

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横浜国立大学グリーンマテリアルイノベーション(GMI)研究拠点
1PM-B02
平成28年 神奈川県ものづくり技術交流会 予稿
湿式精錬とイオン液体電析の連携による希土類回収技術の開発
横浜国立大学 大学院環境情報研究院 ○松宮 正彦
DOWA エコシステム 環境技術研究所
川上 智
近年、希土類磁石は HDD 用の Voice coil motor (VCM)等の電子機器類に利用されており、希土類需要量は増加傾向
にある。我が国の持続的発展と希土類資源の安定供給確保に向けて、我が国独自の希土類回収技術の開発は極めて重
要な課題である。本研究では、実廃棄物:VCM を対象とした希土類回収に関する研究を進めており、
「湿式精錬」と
「電解析出」の連携プロセス(Fig.1)を提唱してきた。本プロセスは以下の工程から構成される。
(Ⅰ)前処理工程‥‥‥解体~熱減磁~メッキ剥離~酸化焙焼~分級処理により VCM 部材から酸化磁粉を作製
(Ⅱ)湿式精錬工程‥‥希土類成分の選択浸出~脱鉄/脱ホウ素処理~溶媒抽出~塩生成による希土類高純度化
(Ⅲ)電解析出工程‥‥イオン液体電析による Nd, Dy 金属の選択的回収
Dy 金属の選択的回収に焦点を当てた場合の本プロセスにおける「溶媒抽出工程」と「電解析出工程」を以下に記す。
<溶媒抽出工程>
酸化磁粉 3.4kg, 1.0M HTFSA 14.2L を 343K, 300rpm の条件下で溶出処理を行い、希土類成分の選択浸出を行った。
RE2O3 (RE=Pr, Nd, Dy) + 6HTFSA → 2RE3+ + 6TFSA- + 3H2O
溶出時間 0-20h における pH, ORP 値と Nd-H2O, Fe-H2O 系の Pourbaix 図に基づき、Fe2O3(hematite)を形成させること
で Fe 溶出率を 1.0%以下に抑制できた。脱鉄処理では pH=4.92 で種結晶法を採用し、Fe>99.9%の完全分離を行った。
ホウ素はキレート樹脂により選択的分離を行った。溶媒抽出工程では脱鉄/脱ホウ素処理後の溶出溶液に対して、工業
用抽出剤:PC-88A, 希釈剤:[P2225][TFSA]を適用し、以下のキレート抽出機構により Dy3+の選択的抽出を行った。
Dy3+ + 3(HR)2 (HR=PC88A) → [DyR3・3HR] + 3H+ (pH=0.70)
正抽出工程後、アミド酸による逆抽出工程により、Dy3+を水相側へ逆抽出させた。
[DyR3・3HR] + 3HTFSA → Dy3+ + 3(HR)2 + 3TFSA3+
逆抽出工程で単離された Dy に対して、塩生成処理を行うことで純度:94.6%の Dy(TFSA)3 を生成させた。
<電解析出工程>
[P2225][TFSA]中に 0.1 mol dm-3 Dy(TFSA)3 を溶解/脱水処理させた後、定電位電解において、393K, 500rpm の条件下で
過電圧:-3.8V を印加し、以下の析出機構により Dy 金属を析出させた。
[Dy(III)(TFSA)5]2- + e- → [Dy(II)(TFSA)4]2- + [TFSA]-, [Dy(II)(TFSA)4]2- + 2e- → Dy(0) + 4[TFSA]-
前処理工程
前処理工程
湿式精錬工程
酸溶出工程
解体・分別
工程
酸化磁粉
3.4kg
1.0M HTFSA
14.2L
VCM部材
部材
O2 bubbling
pH=3.20~
~
Fe yoke
Ni-Cu-Ni 除去
Chelate resin
PC-88A
HTFSA
[Fe(OH)x]3-x
塩生成工程
塩生成工程
Evaporation
at >473K
Dy(TFSA)3 (純度:
純度:94.6%)
純度:
(収率
収率:
収率:92.1%)
B分離率
分離率
>99.9%
[P2225][TFSA]
H2O<100ppm
[P2225][TFSA]
酸化焙焼
工程
塩生成工程
塩生成工程
Nd(TFSA)3
逆抽出工程
Fe分離率
分離率>99.9%
分離率
脱ホウ素工程 pH=5.24
メッキ剥離
工程
aq.
pH=4.92
脱鉄工程
熱減磁工程
抽出分離
抽出分離工程
分離工程
org.
pH=0.70
電解析出工程
電解析出工程
分級工程
金属塩含有ILの真空攪拌に
金属塩含有 の真空攪拌に
よる脱水処理(H
よる脱水処理 2O<100ppm)
酸化磁粉
<100mesh
雰囲気制御GB(H
雰囲気制御
2O, O2<1.0
ppm)による定電位電解
による定電位電解
E=-3.8V
Dy電解工程
電解工程
Dy metal
Fig. 1 イオン液体系抽出-電解法による希土類回収プロセス
E=-3.2V Nd電解工程
電解工程
Nd metal
1PM-B03
平成28年 神奈川県ものづくり技術交流会 予稿
高 EDLC 容量を発現する規則性多孔質炭素電極の調製法の開発
横浜国立大学大学院 工学研究院 機能の創生部門
○稲垣怜史,黒田直人,中尾太一,山口哲平,近藤裕毅,平野燿子,窪田好浩
1.緒言
規則性メソポーラスカーボンは規則性メソポーラスシリカを鋳型として調製されるため,シリカ鋳型の周期細孔構
造の多様性に対応してカーボンレプリカも構造のバリエーションに富んでいる.またカーボンレプリカの調製過程で
炭素源を変えることにより,得られる多孔質炭素体の電気化学的特性を大きく変えることができる1).また炭素化過程
に金属触媒(Fe,Ni,Coなど)を作用させることにより,炭素化の低温化およびpartial graphitizationを進めることがで
きることも見出している2).イオン液体を電解質兼溶媒とするEDLCは電位窓を広くとることができるため高容量キャ
パシタを実現できる3).
この系に適した炭素電極材料として規則性メソポーラスカーボ
ンに注目して研究を進めている.本研究では,易黒鉛化炭素源アセナフテン(AN)を
用いて規則性メソポーラスカーボンCMK-1を調製し,これを電極としてイオン液体
Structure of [EMI]+[TFSI]-.
[EMI]+[TFSI]–を電解質として用いたときのEDLC容量を評価した.
2.実験
既知の方法で,Ia3̄d構造をもつ規則性メソポーラスシリカMCM-48を調製した.MCM-48に所定量のAl(NO3)3を含浸
担持した後,550℃で焼成してAl/MCM-48(0.96 mmol-Al (g-SiO2) –1)を得た.Al/MCM-48とアセナフテン粉末を乳鉢
で混合した.これをINCONEL製オートクレーブに入れ,Ar置換してから750ºCで2時間加熱した.得られた黒色粉末を
電気炉にて減圧下900ºCで炭化した.750℃ないし900℃加熱で得た炭素-シリカ複合体から鋳型であるAl/MCM-48をフ
ッ酸で除去することにより,規則性メソポーラスカーボンCMK-1を得た(それぞれCMK-1Al_750,CMK-1Al_900と表
す)
.また比較のため,Alを含まないMCM-48を用いて750℃加熱(CMK-1Si_750)
,次いで900℃炭化を経てCMK-1を
得た(CMK-1Si_900)
.試料の構造評価として粉末X線回折(XRD)測定,窒素吸脱着測定などを行った.調製したCMK-1
にアセチレンブラック,polyvinylidene difluoride (PVDF) を加えて混練し,アルミ箔上に塗布した後,円形に成型した.
対極に活性炭電極,参照極にAg金属を用い,1 mol kg–1 Et4N+BF4–のpropylene carbonate (PC) 溶液(粘度η = 4 mPa s,30℃)
,
+
–
+
[EMI] [TFSI] (η = 28 mPa s,30℃)を電解液として三極式セルを構成し,電位範囲–1.0~+1.0 V vs. Ag/Ag にて電流密
度1~10 A g–1の範囲で30℃の恒温槽内で定電流充放電試験を行い,負極放電時のEDLC容量を算出した.
3.結果および考察
得られた4種のメソポーラスカーボンのXRDパータンではいずれもI4132構造4)に由来するピークが確認でき,
MCM-48の周期的なメソ孔構造を転写した構造となっていることを確認した.CMK-1Al_750,CMK-1Al_900の比表面積
はそれぞれ564,631 m2 g–1であり(Table 1)
,どちらも1.7– 2.2 nmと2.2–3.9 nm,4.0–7.0 nmの3か所に細孔径分布が見ら
れた.従って,より高い温度(900℃)で炭化することで高い構造規則性を保ったCMK-1が得られたと考えられる.4
種のCMK-1電極はいずれも,電流密度1~10 A g–1の範囲でEDLC容量の低下はほとんど起こらず,一定の値を維持し
ていた.CMK-1Al_900ではイオン液体[EMI]+[TFSI]–で10.6 µF cm–2という非常に高い比表面積容量を示すことがわかっ
た.CMK-1Al_750でも十分高い値が得られているが,Al成分が750℃から900℃までの間の炭化温度で触媒として作用
したため,CMK-1Al_900中に高比表面積容量を示す炭素構造を得ることができたと推測している.
4.謝辞
本研究の一部は,科研費萌芽研究および村田学術振興財団,東電記念財団,材料科学技術振興財団,横浜学術教育
振興財団,中部電気利用基礎研究振興財団,中西奨学会,池谷科学技術振興財団,日立財団,近藤育英会の支援を受
けて実施した.
Table 1 Textural and electrochemical properties of CMK-1 prepared in this study
Carbon
BET
Capacitance a
surface area
Et4N+BF4–/PC
[EMI]+[TFSI]–
–1
–2
(m2 g–1)
(F g )
(µF cm )
(F g–1)
(µF cm–2)
564
43.1
7.6
46.3
8.2
CMK-1Al_750
CMK-1Al_900
631
56.2
8.9
60.1
10.6
651
47.1
7.2
n.d.
n.d.
CMK-1Si_750
546
45.7
8.4
n.d.
n.d.
CMK-1Si_900
a. The capacitance was evaluated at 2 A g–1 of the current density.
1) S. Inagaki, K. Oikawa, Y. Kubota, Chem. Lett., 38, 918 (2009)
2) S. Inagaki, Y. Yokoo, T. Miki, N. Kuroda, Y. Kubota, Micropor. Mesopor. Mater., 179, 136 (2013).
3) A. Vu, X. Li, J. Phillips, A. Han, W.H. Smyrl, P. Bühlmann, A. Stein, Chem. Mater., 25, 4137 (2013).
4) M. Kaneda, T. Tsubakiyama, A. Carlsson, Y. Sakamoto, T. Ohsuna, O. Terasaki, S.H. Joo, R. Ryoo, J. Phys. Chem. B, 106,
1256 (2002).
1PM-B04
平成28年 神奈川県ものづくり技術交流会 予稿
過渡的差電圧法を用いたリチウムイオン電池のリアルタイム劣化診断の検討
大和製罐株式会社 技術管理部新規事業室
1. はじめに
近年、地球温暖化への対策として再生可能エネルギー
の導入が進められているが、その出力は不安定で、配電
系統の電圧上昇・周波数変動・余剰電力発生が懸念され
ている。このうち周波数変動と余剰電力発生の対策とし
て蓄電池が注目されており、今後火力発電、揚水発電と
ともにバランシンググループ内の再生可能エネルギー出
力制御・最適運用計画のための一要素として活躍が期待
されている 1)。ただし、この種の蓄電池の調達・運用コ
ストは電気料金と密接に関わるため、経済性が要求され
る。
余剰電力対策用蓄電池の例として挙げられるリチウム
イオン電池には、劣化と呼ばれる現象が知られており、
運用中に徐々に電池容量や充放電効率が減少して経済性
が低下する。従って経済運用のためには、各蓄電池が IoT
でスマートコミュニティのネットワークに接続され、劣
化状態がリアルタイム診断されるとともに、その結果が
バランシンググループの統合 EMS に送信され、フィー
ドバックによる最適運用が実施される事が望ましい。
2. 過渡的差電圧法による劣化診断
筆者らはこれまで、蓄電池に搭載された
BMS(Battery Management System)の計測データ
と、1 日 1 回~週に数回程度発生する周期的な運用
パターンを利用したリチウムイオン電池の劣化診断
法(過渡的差電圧法)を検討してきた 2)。過渡的差
電圧法の特徴は以下の通りである。
① 組電池に適用できる
② 運用中の定期診断でリアルタイム性がある。
③ 専用装置不要で低コストである。
④ 診断の際の演算データが少ない
⑤ 診断の際の通信データが少ない
⑥ 演算による不確かさの伝播が明確かつ小さい。
特徴①~③は蓄電池劣化診断の導入促進に寄与すると考
えられる。また今後想定される IoT 社会では、センサ類
のコストや非構造化データの増加によるネットワーク・
サーバ処理遅延が懸念されており 3)、データの構造化 4)
と処理のエッジ化 5)が推奨されているが、ここでは特徴
④~⑥が問題の解決に貢献できると考えている。
3. 過渡的差電圧法による充放電曲線推定の検討
筆者らは、過渡的差電圧法がリチウムイオン電池
の放電容量と充放電効率の両方を推定できる事か
ら、充放電曲線そのものを推定できる可能性に着目
した。各蓄電池の充放電曲線を推定できると、ヒス
テリシスによるロスを考慮した高効率な運用につな
がる。
そこで当社の蓄電システム製品に搭載している 8
○有馬 理仁、鬼木 直樹
直列リチウムイオン組電池に対して定電力充放電試
験を行い、過渡的差電圧法の取得パラメータから充
放電曲線を推定する検討を行った。結果は充放電曲
線の推定が概ね可能であることを示したが、精度が
悪くなる充放電領域があり、今後演算・近似など推
定方法を見直して精度向上したいと考える。
4. その他
今後リチウムイオン電池は周波数変動抑制・余剰電力
対策など定置用蓄電池だけでなく、ロボットにおける民
生用電池の用途拡大が想定される。特に情報処理学分野
においては、iRobot 社の掃除ロボット Roomba を活用
した用途研究が活発に行われている 6)。現在筆者らは
Roomba を用いたバッテリー劣化診断の実証実験を進め
ており、今回は途中経過であるが状況を報告する。
5. まとめ
過渡的差電圧法を用いたリチウムイオン電池のリ
アルタイム劣化診断により組電池の容量・充放電効
率の推定が可能であることを示した。また、同法に
よる充放電曲線の推定を検討した。
今後は定置用・民生用両方の蓄電池に対するリア
ルタイム劣化診断の実証を進めていく。
参考文献
1) 横山明彦:
「再生可能エネルギー大量導入時代の最適
需給運用計画技術」, 第 23 回 CEE シンポジウム
with NEDO.
2) 有馬理仁ほか:
「蓄電システムの制御・監視データを
用いた劣化診断法の検討」, 平成 27 年神奈川県もの
づくり技術交流会, 2AM-B04 (2015).
有馬理仁ほか:
「リチウムイオン電池を用いた蓄電シ
ステムのリアルタイム劣化診断の検討」, 第 35 回エ
ネルギー・資源学会研究発表会, 11-6 (2016).
3) 武居輝好:
「Internet of Things による新ビジネスの
可能性」, NRI メディアフォーラム, IT ロードマッ
プセミナー SPRING 2014.
4) 総務省情報通信国際戦略局「情報流通・蓄積量の計測
手法の検討に係る調査研究 報告書」, 2013 年 3 月.
5) 経済産業省産業構造審議会「IoT とエッジコンピュー
ティング」, 2016 年 3 月 28 日.
6) 藤墳洸輝ほか:
「スメルンバ:Roomba を用いた室内
においマップ自動生成システム」, エンタテインメン
トコンピューティングシンポジウム 2015 論文集,
141-147 (2015).
富田祐佑ほか:
「ロボット掃除機を活用した情報収集
システムの構築」, 情報処理学会第 78 回全国大会,
3T-02 (2016).
1PM-B05
平成28年 神奈川県ものづくり技術交流会 予稿
安全性に優れるナトリウムイオン二次電池電解質の開発
横浜国立大学
○寺田
尚志、須佐
1. 緒言
リチウムイオン二次電池はエネルギー密度が高いこと
から携帯電子機器の電源として広く普及しており、電気
自動車、電力貯蔵用電源としても期待されている。現在
のリチウムイオン二次電池には可燃性の有機電解液が用
いられており、電池の発火・発煙等の事故を防止するた
め、電池の安全性の確保が重要な課題となっている。そ
こで、不燃性の電解液としてイオン液体の利用が提案さ
れている。イオン液体はカチオンとアニオンのみで構成
された室温付近で液体状態の塩であり、難揮発性、難燃
性、高い熱的・化学的安定性を有したユニークな液体で
ある。当研究室では、カチオン種として溶媒和 Li+イオン
を用いた溶媒和イオン液体の研究を進めている。
Li[TFSA] ([TFSA]: N(SO2CF3)2)などのリチウム塩とオリ
ゴ エ ー テ ル で あ る グ ラ イ ム ( Gn 、 化 学 構 造 :
CH3-(O-CH2-CH2-)n-O-CH3: n = 3, 4)の等モル混合物では、
グライム分子が Li+に 1 : 1 で配位(溶媒和)して錯カチ
オンを形成し、室温で液体状態になる。この溶媒和イオ
ン液体は良好な熱的・化学的安定性を有しており、リチ
ウムイオン電池の電解液として適用することが可能であ
る(1),(2)。これらの知見をもとに、中心金属をリチウムか
らナトリウムに変えたナトリウム系溶媒和イオン液体に
関する検討を行っている。ナトリウムは資源的制約が少
ないことから、リチウムイオン電池に代わる次世代二次
電池として、ナトリウムイオン電池が近年注目されてい
る。本発表では、Na[TFSA]とペンタグライム (G5)から
なるナトリウム系溶媒和イオン液体の物理化学特性およ
び電池適用について報告する。
2. 実験
アルゴン雰囲気グローブボックス内で Na[TFSA]と G5
を混合し電解液を調製した。電解液の熱安定性を 150 °C
で静置させたときの重量減少よって調べた。また、調製
した電解液をナトリウム二次電池へ適用する試みも行っ
た。正極活物質に Na0.44MnO2、負極にナトリウム金属を
用いて 2032 型のコインセルを作製し、電流値を 1/10C レ
ート、温度 60 °C で充放電試験を行った。
3. 結果と考察
Fig. 1 に G5 と Na[TFSA]の混合物を 150 °C で静置した
際の重量減少を示す。混合物中の G5 のモル比が小さく
なるにしたがって重量減少は小さくなる。G5 と
Na[TFSA]のモル比が 1 : 1 の場合には重量減少はほとん
ど起こらない。これは、1 : 1 の混合物中では全ての G5
分子が Na+イオンに配位しており、G5 が Na+に配位する
ことで G5 の蒸発が抑制されるためである(3)。
Fig. 2 に Na[TFSA]と G5 の混合物を電解液に用いた電
池の充放電曲線を示す。Na[TFSA]と G5 のモル比が 1 :
1.25 の G5 が過剰な電解液を用いた電池では、電池の初
期充電時に Na+に配位していない G5 分子が酸化分解さ
れ、
その後の充放電では小さな容量しか得られなかった。
紘子、獨古
薫、渡邉
正義
一方、Na[TFSA]と G5 のモル比が 1 : 1 の混合物(溶媒和
イオン液体 [Na(G5)][TFSA])を電解液に用いた電池では、
G5 分子の酸化分解はほとんど起こらず、
初期放電容量は
−1
110 mA h g 以上であり、その後も安定した充放電が可能
であった。以上より、ナトリウム系溶媒和イオン液体を
電解液に用いることで安全性に優れるナトリウム二次電
池を構築できる可能性が示された(4)。
Figure 1. Isothermal stability of Na[TFSA] and G5
mixtures at 150 °C.
Na[TFSA]:G5=1:1
Na[TFSA]:G5=1:1.25
Figure 2. Charge and discharge curves of [Na |
Na[TFSA]/G5 | Na0.44MnO2] cell at 60 °C.
4. 参考文献
(1) K. Yoshida et al., J. Am. Chem. Soc., 133, 13121-13129
(2011). (2) K. Dokko et al., J. Electrochem. Soc., 160,
A1304-A1310, (2013). (3) T. Mandai et al., J. Phys. Chem. B,
117, 15072-15085 (2013). (4) S. Terada et al., Phys. Chem.
Chem. Phys., 16, 11737-11746 (2014).
1PM-B06
平成28年 神奈川県ものづくり技術交流会 予稿
すきま腐食現象解明への取り組み
日鉄住金テクノロジー株式会社富津事業所 ○黒崎 将夫、松橋 亮、野瀬 清美、松岡 和巳
【はじめに】
河川水・湖水・海水などのいわゆる自然水環境や味噌・醤油や食酢などの食品類、各種薬品などにさらされた装置
や部品類には、必ずといって良いほど金属継ぎ手部や配管同士の繋ぎ目(フランジ部)およびボルト・ナット接合部な
どのすきま構造部が存在する。これらのすきま構造部分で一般的に生じる腐食は「すきま腐食」と呼ばれており、ス
テンレス鋼等の高耐食性材料の寿命を縮める一要因となっている。
近年、高齢化にともなう人手不足や地球環境問題などの新しい社会変化に端を発し、製品や設備機器の長寿命化(メ
ンテナンスフリー)、省エネルギー、省プロセスおよび低コスト化など社会ニーズが高まっている。その中で「すきま
腐食現象を解明」することは腐食の防止や抑制原理の創出につながり、ひいては社会インフラ基盤の安全・安心につ
ながる。当社では、このように「すきま腐食現象を解明」することの社会的意義は極めて大きいと考えており、新た
な解析技術の確立に取り組んで来た。以下に当社独自の「すきま腐食現象」解析技術の一部を紹介する。
【すきま腐食の可視化技術】1)
当社では、実際のステンレス鋼に起きる「すきま腐食」を直接可視化する技術を確立した。図 1 に示すような平板
の試験片に石英ガラス製ロッドの片面を押しつけて腐食環境にさらし、反対面からデジタルカメラを用いて観察・記
録するという「動的すきま腐食観察装置」1)を考案した。図 2 に示すような連続的な観察画像が得られた結果、これま
で明かではなかった、腐食の面積・体積および広がり挙動の定量化が可能となった。
時間の流れ →
リード線
厚さ3~4m
m
D 3~4mm
参照電極
ガラスセル
両面
鏡面研磨
鏡面研磨
試験溶液
デジタル
カメラ
Pt対極
Pt対極
ゴム栓
t = 440s
t = 2180s
腐食が発生
均一に成長
t = 3055s
t = 4200s
腐食がすきま部の すきま部の縁下
に沿って成長
縁下に達する
tVI
tedge
20mm
すきま形成材
すきま形成材
(石英ガラス製ロッド)
( 石英ガラ ス製ロッド)
20mm
すきま部
すきま部
金属溶解部
金属溶解部
0.5cm
0.5cm
金属溶解部
( 起点)
50mm
W 25mm
幅25mm
L長さ50mm
50mm 長さ50mm
ローレッ ト
ゴム栓
50mm
60mm
0.5cm
0.5cm
tVI : 腐食が目視観察さ れた時間,tedge : 腐食先端部が縁下に達した時間
試料電極
試料電極
図 1 動的すきま腐食観察装置の模式図
図 2 すきま内観察結果(SUS304 , E=400mV vs. SHE , 定電位保持)
2)
【すきま内 pH 測定技術】
【すきま内の電位/電流密度の推定技術】3)
pH 感応型半導体化学センサを用いて、すきま内の pH
すきま内特殊溶液中での金属溶解挙動の測定および 8
を測定することが可能となった。試験溶液(E)/絶縁層(I)
節点アイソパラメトリックな FEM 解析により,すきま腐
/半導体(S)構造から成る電極系に SUS304 を組み込み,
食進展時の電位/電流密度分布を計算し、腐食部分の移
定電位保持した際に得られた,すきま内 pH 分布像の一
動現象との関係を定量的に考察した(図 4)。
例を図 3 に示す。金属溶解部の(a)点の pH は約-0.5 を示
crevice
(A) Texture
し、
不動態皮膜が溶解する環境であることが確認出来た。
edge
金属溶解部
イメ ージング範囲
すきま部の縁
Pedge
stop
y
Distance
of Y Direction
dY / mm
Y direction
, d / 101,·mm
12
8.00
a(-0.52)
120
100
Y direction , d / 10 ·mm
b
d
e
5.0mm
f
g
6.00
10
100
1
c
7.00
80
8
5.00
4.00
b(0.48)
3.00
c(1.18)
2.00
y
80
60
40
1.00
60
6
36
7.5
6.5
5.5
32
4.5
28
3.5
24
20
16
12
initiation site
2.5
1.5
8.0 0.50
0.50cm
4.0
0.0
★ 起点付近は電位が卑,縁下側で
急激に電位は貴方向に向かう .
e(2.42)
20
20 2
f(4.65)
g(6.21)
pHB = 8.20 + pH
0
40
0.00
d(1.71)
40
4
0
pHB = 8.20 + pH
8.5
120
a
crevice corrosion
part
Pmp
Position of Y Direction , dy / cm
SUS304 , Eset=399mV
20220 40440 60660 80
880 100
10100 120
12120
Distance
of X Direction
/ mm
X direction
, d / 10,1d
·mm
X
x
★ 試験を終えた試験片に観察さ れたすきま腐食部と, p H が比較的低い部分
との位置的関係は,良い対応を示している.
図 3 すきま内の各部位の pH のイメージング像
start
0.50
Potential Distribution
(f) t = 3050s , tP=2610s
(inside crevice)
outside crevice
(396mV)
middle point (PCREV)
(190mV)
Pmp
0.25
400
(-128mV)
350
300
250
200
150
0.00
100
50.0
0.00
-50.0
-100
-0.25
-150
Pedge
-200
(190mV)
-0.50
initiation site (Pini)
Potential Scale
(mV vs. SHE)
(-163mV)
crevice edge
(395mV)
-1.25
-1.00
-0.75
-0.50
-0.25
0.00
0.25
Position of X Direction , dx / cm
図 4 t = 3055s でのすきま内電位分布計算例
[参考文献]
1) 松橋、松岡ほか,材料と環境,64,2,51(2015)
2) 野瀬ほか,第 61 回材料と環境討論会,D-109(2014)
3) 松岡、松橋ほか,材料と環境,65,8,350(2016)
1PM-B07
平成28年 神奈川県ものづくり技術交流会 予稿
黄銅の脱亜鉛腐食試験方法の簡便化
神奈川県産業技術センター 化学技術部 祖父江 和治
1.はじめに
黄銅(慣用名 真ちゅう)は、銅を主成分とし、30~40wt%程度の亜鉛と、種々の少量元素が添加された合金であり、機械
的性質や加工性が良好で、耐食性にも優れることから、配管部品、バルブ・ポンプ部品、水栓金具、各種線材、精密加工部
品などの幅広い用途に使用されている。しかし、黄銅は稀に淡水中や海水中において、脱亜鉛腐食による被害を受ける。脱
亜鉛腐食とは、黄銅から亜鉛が優先的に腐食溶解する現象であり、腐食した部分には銅が残存・濃縮しているため、純銅に
似た赤茶色を呈している。銅残存部の周囲に白色の亜鉛の腐食生成物が付着していることもある。また銅残存部は、亜鉛が
消失した分、多孔質となっており、強度不足、破壊、液漏れに至ることも多い。一方、各種の黄銅素材が脱亜鉛腐食を発生し
やすいかどうかの感受性を評価するための試験方法が、各国から提案されている。日本においても、1988 年に日本伸銅協
会から黄銅棒を試験対象にした方法が制定され、2007 年には、試験対象を、黄銅製の鍛造品と鋳造品を加えた黄銅材に拡
張し、「黄銅材の脱亜鉛腐食試験方法(JBMA T303:2007)」として改訂・再制定されている。この試験方法は、60±2℃に保
持した0.004~0.005 mol / L NaHCO3 - 0.5 mol / L NaCl 混合溶液に、70±1.5%N2-20±1%O2-10±0.5%CO2(vol%)混合ガ
スを通気して pH を 6.5~7 に調整した試験液に対して、電極状の黄銅と白金電極を浸せきし、両電極を定電流電源に接続
し、黄銅に腐食電流(1 mA cm-2 × 24h)を流すことにより電気化学的に脱亜鉛腐食を加速するものである。試験後、黄銅の
断面を顕微鏡で観察し、脱亜鉛腐食の発生状況を確認する。この試験方法(以下、従来法)は、優れた方法であり、日本国
内の腐食事例とも良く一致することから、信頼性についてはほとんど問題が無い。しかし、電極の作製や断面観察作業が複
雑で、作業に専門的技術が要求され、また混合ガスについても専用の仕様が指定されており、専門的技術や設備を有して
いないと、試験の実施が難しいという側面があった。関連業界からは、品質試験等のために、現状より簡便に実施できる方法
を望む意見もあった。そこで本研究では、従来法との整合性をなるべく損なうことなく簡便化する方法について検討した。
2.試験方法
従来法を簡便化するための検討項目として、①電極作製や断面観察手順の作業性改善、②通電条件変更による試験時間
の短縮、③汎用ガス設備の使用、を挙げ、それぞれについて具体的な変更内容を決定し、従来法にその変更内容を適用し
て脱亜鉛腐食試験を実施した。①については、従来法で規定されている樹脂埋め黄銅電極の代わりに、円板状の黄銅試験
片の周囲をリング状の平パッキンで押さえ,リング内の開放部のみ(1 cm2)を腐食液に接触させることができる試験片ホルダ
ーを用いた。この改善により、従来法における試験片のエポキシ樹脂への埋め込み作業が軽減される。②については、従
来法で規定されている通電条件「1 mA cm-2 × 24h」の他に、「1.2 mA cm-2 × 20h」、「4 mA cm-2 × 6h」を行い、時間短縮を
試みた。いずれも通電終了時の電気量は 24 mAh cm-2 で同じである。③については、従来法で規定されている混合ガス
(70±1.5%N2-20±1%O2-10±0.5%CO2(vol%))の他に、空気と CO2 ガスを 9:1(vol%)に混合したガスを用いた。その際、空気
についてはコンプレッサーを経た乾燥空気から、CO2 ガス(99.995%>)については単体ボンベから供給した。この場合の計
算上のガス成分は、71.1%(N2+Ar<1%)-18.9 %O2-10%CO2(vol%)となり、従来法に規定されたガス成分と類似している。
上記のような脱亜鉛腐食試験の実施の際は、いずれも試験片には快削黄銅、対極には白金網(100 メッシュ、外寸
30mm×30mm、従来法ではこれと同じ外寸の白金板が規定)、従来法規定の混合溶液(60±2℃、800mL)を用いた。
3.試験結果および考察
表 1 に試験結果を示す。条件1、2、4においては、断面顕微鏡観察の結果、脱亜鉛腐食が進行しており、最大浸食深さは
いずれも 90 μm程度であった。試験数が各1回であるため断定はできないが、電流密度を規定値の1.2倍にしても(条件2)、
あるいは空気-CO2 混合ガスを代わりに用いても(条件4)、結果に大きな違いが無く、簡便法として期待される。条件3につい
ては、断面観察の結果、全面腐食の形態を示しており、亜鉛の優先的な腐食溶解は認められなかった。したがって規定値の
4 倍の電流密度を用いることは、簡便法として不適当と言える。いずれの条件においても、試験後に円板状の黄銅試験片か
ら、平パッキンを取り除くと,平パッキンで押さえられていた表面部分に変色が発生しており、条件4以外では銅色を呈してい
た。目的外の部分も腐食や脱亜鉛腐食を受けていた可能性が高いため、この結果の取り扱いについては検討を要する。講
演においては、樹脂埋め黄銅電極との比較や黄銅の分極曲線を用いた検討についても紹介する。
表1 黄銅材の脱亜鉛腐食試験方法(JBMA T303:2007)に基づいた簡便法の条件および結果
試験片
最大浸食
パッキン
電流密度
混合ガス種
ホルダー
深さ / μm
下部の変色
/ mA cm-2
条件1
使用
1(規定値)
規定ガス*
有
91
条件2
使用
規定ガス*
73~90
有
1.2
条件3
使用
規定ガス*
37(全面腐食)
有
4
条件4
使用
1(規定値)
空気:CO2=9:1(vol%)
82~92
有
*70±1.5%N2-20±1%O2-10±0.5%CO2(vol%)
1PM-B08
平成28年 神奈川県ものづくり技術交流会 予稿
固体高分子形燃料電池の膜電極接合体の作製評価
神奈川県産業技術センター 化学技術部
神奈川科学技術アカデミー
○国松 昌幸、高橋 亮、青木 陽介
秋山 賢輔、松本 佳久
牛山 幹夫、伊藤 裕子
1.はじめに
2009 年に家庭用燃料電池「エネファーム」の販売が開始され,2015 年には販売台数が累計 15 万台に達した.そ
の間,販売価格は 1/3 程度まで低減されたが,2020 年までに 140 万台という普及目標を達成するためには,さらに
2/3 への価格低減が目標となっている 1).一方,2014 年に燃料電池自動車「ミライ」の販売が開始され,燃料電池自
動車の市販が始まったが,これからの普及のためにはコストの低減が必要である.燃料電池には電極触媒として白金
が使用されており,燃料電池自動車 1 台あたり 50 g程度使われている.これは現在の相場価格で 20 万円にもなるた
め,白金使用量を 1/10 に低減することが求められている.
燃料電池は,電解質膜を隔てて燃料極と空気極が配置された膜電極接合体(MEA)と呼ばれるサンドイッチ構造とな
っている.これらの電極に電気化学反応を促進するための触媒として白金が使用されており,その使用量を電極 1 cm2
あたりの白金重量で表すのが一般的である.当センターでは,これまで燃料極・空気極ともに 0.5 mg/cm2 の白金量を
標準仕様として燃料電池の試作評価を行ってきたが,最近の白金量低減の要求もあり,MEAの作製方法を検討して白
金量を低減した燃料電池の標準仕様の作成に取り組んだ.
なお,新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が平成 24 年に燃料電池の評価解析の共通基盤技術としてまと
めた「セル評価解析プロトコル」2)では,MEA仕様の例として燃料極・空気極ともに 0.3 mg/cm2 の白金量としている.
これを参考に当センターでは,発電性能を維持しつつ 0.3 mg/cm2 以下の白金量達成を目標とした.
2.実験方法および結果
MEA を作製するにあたり使用した主な材料は次のとおりである.電解質膜は Nafion® NR211 (Dupont 製),電極
触媒は従来から標準触媒として実績のある田中貴金属工業の燃料電池用白金担持カーボン触媒 TEC10E50E を使用
した.電極基板には東レのカーボンペーパーTGP-H-060 を使用した.触媒スラリーの作製方法は,電極触媒にバイ
ンダーとして電解質溶液 Nafion® D521(Dupont 製)を電解質/触媒カーボン重量比 1.0 の条件で混合し,ボールミルで
200rpm・10 分間の条件で混合した.
準備した触媒スラリーをスプレー装置により塗布することで電極の触媒層を作製
した.このとき,次に示す三種類の塗布工程により白金触媒量を低減した MEA を作製して,その発電性能を比較し
た.(1)電極基板(カーボンペーパー)側にスプレー塗布して乾燥した後,電解質膜とホットプレスする従来の方法.(2)
電解質膜側にスプレー塗布して乾燥した後,電極基板とホットプレスする方法.(3) PTFE などの離型性の良いシート
にスプレー塗布して乾燥した後,電解質膜に転写してから電極基板とホットプレスする方法.表 1 に NEDO のセル
評価解析プロトコルに準じた発電試験の設定条件を示す.
図 1 に上記(1)の従来の工程で燃料極の白金量を減らして作製した MEA の発電試験結果を示す.なお,空気極の白
金量は 0.5 mg/cm2 で統一している.この結果,燃料極の白金量 0.5 mg/cm2 と 0.2 mg/cm2 は電流電圧特性が一致して
おり,0.2 mg/cm2 まで白金量を低減できることがわかった.(2),(3)の結果については講演時に報告する.
項目
設定条件
燃料利用率
70%
空気利用率
40%
供給ガス圧力
常圧
セル温度
80℃
燃料露点
77℃
空気露点
60℃
セル電圧 [ V ]
表 1 発電試験条件
1
0.9
0.8
0.7
0.6
0.5
0.4
0.3
0.2
0.1
0
H2/Air
0.5 mg-Pt/cm2
0.2 mg-Pt/cm2
0.1 mg-Pt/cm2
0.05 mg-Pt/cm2
0.02 mg-Pt/cm2
0
0.5
1
1.5
電流密度 [ A/cm2 ]
図 1 燃料極の白金量を低減した結果
参考資料
1) 水素・燃料電池戦略ロードマップ(平成 28 年改訂),水素・燃料電池戦略協議会(経産省)
2) セル評価解析プロトコル(平成 24 年),http://www.nedo.go.jp/content/100537089.pdf,NEDO
2
1PM-B09
平成28年 神奈川県ものづくり技術交流会 予稿
再生可能エネルギーの大規模貯蔵・輸送のための有機ハイドライド電解合成技術
横浜国立大学工学研究院グリーン水素研究センター1 横浜国立大学先端科学高等研究院 2
○長澤 兼作 1、光島 重徳 1, 2
1. はじめに
近年、エネルギー・環境問題の解決の為、有限な化石燃料の利用を抑えて二酸化炭素の排出を削減するために、再
生可能エネルギーの利用を拡大することが求められている。しかしながら、代表的な再生可能エネルギーである風力
や太陽光を用いた発電は時間的変動、空間的偏在が大きいことが課題であり、安定した供給を行うためのエネルギー
の大規模貯蔵、輸送技術が必要不可欠である。
このような一次エネルギーを効率的に貯蔵、輸送する為には水素エネルギーとして取り扱うことが有効であり、本
研究室では、水素のエネルギーキャリアとして有望なシステムの一つであるトルエン/メチルシクロヘキサン系の有
機ハイドライドに注目し研究、開発を行っている。これは、海外を含めて再生可能エネルギーが効率的に得られる地
域においてトルエンを電解水素化し、メチルシクロヘキサンの形で水素エネルギー(化学エネルギー)を貯蔵、輸送
するシステムである(図1)
。中でも我々は、トルエンの水素化のプロセスとして、水電解による水素発生、およびそ
の水素を用いたトルエンの水素化による二段階反応に代わる高効率プロセスとして、水素発生を介さない一段階反応
によるトルエン直接電解水素化に取り組んでいる。これは以下の反応式で表される。
(1)
この一段階反応による直接電解水素化は二段階反応の一段目の水電解の理論分解電圧が 1.23 V と比較して 1.08 V
に低くなる。これは二段目の反応の発熱損失分に相当する。
図 1 再生可能エネルギーの大規模貯蔵・輸送システム
2. 直接電解水素化電解槽システム
本研究では以上の背景から、直接電解水素化電解槽システムを開発している。その基礎評価として電極面積 16
cm2 および 100 cm2 の単セル電解槽の開発を進めている。電解槽は、図 2(a)に示すようにイオン交換膜を介してア
ノードに酸素発生用 DSE®電極、カソードに
PtRu/C 触媒とアイオノマーを塗布したカーボ
ンペーパを対向した構造であり、カソードにト
ルエン、アノードに硫酸を供給する。イオン交
換膜の種類や親水化処理、アノード形状、締結
圧、運転温度、拡散層構造、流路構造等の最適
化を行った。結果の一例として図 2(b)に流路
構造に対する電流密度とセル電圧の関係を示す。
多孔質体型の流路において 0.4 A cm-2 で 1.9 V
と最も低いセル電圧を示した。この流路構造は
拡散層と流路が同一の要素となっており、本結
図 2 直接電解水素化電解槽構造(a)と様々な流路構造での
果はトルエンを供給する流路構造の最適化の重
電流密度とセル電圧の関係(b)
要性を示している。
3. 謝辞
本研究は,総合科学技術・イノベーション会議の SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)
「エネルギーキャリ
®
ア」
(管理法人:JST)によって実施された.DSE はプログラム参画機関であるデノラ・ペルメレック(株)の提供
を受けた。横浜国立大学先端科学高等研究院(IAS)は文部科学省国立大学改革強化推進事業の支援を受けている。
関係各位に感謝する。
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