...

3 第1章 フォーサイトにより 10~15 年後の日本社会を俯瞰する試み 1

by user

on
Category: Documents
17

views

Report

Comments

Transcript

3 第1章 フォーサイトにより 10~15 年後の日本社会を俯瞰する試み 1
第1章 フォーサイトにより 10~15 年後の日本社会を俯瞰する試み
1. 本研究の趣旨及び概要
経済成長期の科学技術分野の政策形成では、ともすれば投入資源の拡大を念頭に、時代時代に顕在化し
た個別課題への対応に努力が傾注されてきた。また、日本における科学技術分野に関する将来予測は、
「技
術ロードマップ」のように、科学技術のトレンドの延長線という視点からの予測が主であった。他方、今
後の科学技術政策の検討に当たっては、成熟した経済という従来とは異なる、また、世界的に類例のない
経済社会状況に即した、中長期的視点に立った将来ビジョンに基づく政策検討を行う必要がある。
内閣府経済社会総合研究所「科学技術と経済社会」研究ユニットでは、上記の背景を踏まえ、科学技術
だけでなく、経済的・社会的要素の動向を踏まえた上で幅広い視点から将来ビジョンを描く手法であるフ
ォーサイトを行う、
「回復力のある社会の構築に求められる科学技術イノベーションに関する調査研究」研
究会を平成 24 年に立ち上げた。当研究会では、同趣旨の下、これに先立つ平成 23 年から取り組んだ「安
全・安心な社会の構築に求められる科学技術イノベーションに関する研究」研究会の研究成果をもとに、
人材(教育)
、住まいの二つの観点を基軸にして、フォーサイトにより、需要サイドの期待や社会的要請を
把握した上で、10~15 年先の日本社会の将来を俯瞰した。さらに、描かれた将来像を実現し、我が国が継
続的にイノベーションを創出していくために考慮すべき事項についても検討を行った。
2.研究の進め方
当研究を進めるにあたり、平成 24 年に「回復力のある社会の構築に求められる科学技術イノベーショ
ンに関する調査研究」研究会を設置した。構成メンバーは下記の通りである。
■ 研究会委員
(座長) 城山 英明
東京大学大学院法学政治学研究科 教授
吉澤 剛
大阪大学大学院医学系研究科 准教授
松尾 真紀子
東京大学公共政策大学院 特任研究員
■ 研究会アドバイザー
柳川 載之
東京大学大学院経済学研究科 教授
■ 研究会主催者・事務局 (内閣府 経済社会総合研究所(ESRI))
村田 貴司
総括政策研究官(平成 24 年 9 月 20 日より)
青山 伸
前総括政策研究官(平成 24 年 9 月 19 日まで)
篠原 千枝
研究官
研究の進め方としては、まず、日本社会の将来を俯瞰するためのブレインストーミングとして、2回の研究会を開
催した。第1回研究会では、10~15 年先の住まいの未来、第2回研究会では、10~15 年先の教育の未来につ
いて主に議論した。第2回研究会では、社会潮流の一つとして考えられる「個別化」の観点から一部、医療(オー
3
ダーメイド医療)の話題も取り上げた。そして、第1回研究会、第2回研究会及び平成 23 年から取り組んだ「安
全・安心な社会の構築に求められる科学技術イノベーションに関する研究」研究会で議論したことを踏ま
えた上で、住まい、教育、環境、医療等様々な領域の有識者及び大学生、大学院生(総勢 49 名)にご参画いた
だき、10~15 年先の日本社会を俯瞰する第1回ワークショップを開催した。最後に、第2回ワークショップを開催
し、第1回ワークショップで俯瞰した 10~15 年先の日本社会の将来像を深掘りするとともに、描かれた将来像を
実現し、我が国が継続的にイノベーションを創出していくために考慮すべき事項に関して、産業界の有識者にも
ご参画していただき議論した。2回の研究会及び2回のワークショップの詳細に関しては、次項で詳述する。
3. 研究会及びワークショップの概要
3-1 「回復力のある社会の構築に求められる科学技術イノベーションに関する調査研究」第1回、第2
回研究会の概要
フォーサイトにより 10~15 年先の日本社会を俯瞰するにあたり、まず、未来洞察のブレインストーミングとして、
2回の研究会を開催した。
3-1-1 第1回研究会の概要
第1回研究会では、10~15 年先の住まいの未来について議論をした。冒頭2名の有識者から、ストック型社会
における住まいの未来(野城智也 東京大学生産技術研究所教授)、暮らし方に関する実態調査から見えてくる
これからの暮らし、住まいの在り方(土谷貞雄 株式会社貞雄代表取締役)について話題提供いただいた後、自
由討論を行った。話題提供及び議論の内容は下記の通りである。
【野城智也 東京大学生産技術研究所教授 話題提供】
・モノの所有から QOL(Quality of Life 生活の質)へ考え方をシフトすることが必要なのではないか。モノが
あれば豊かなのではない。いかにモノを使いこなせるかが豊かさを決める。
・モノ中心の経済から、サービス中心の経済、知識中心の経済になってきている(From product based
economy through a service based economy to knowledge based economy)。ノウハウ、知識、想像力が
競争力を決めている。
・魅力ある都市には、知識を持っている多様な人材が集積している。多様性(Diversity)がある都市は、世界
で起きている都市間競争で優位に立つであろう。
・ネット上に上がってこないような、土着性のある情報(sticky information)を活用したサービス提供は効率
的な面がある。
・東京というメガシティは、浅草、本郷など各々尖ったキャラをもっている地域によって構成されており、画一的
な街の集合体ではない。
・都市の脆弱性を克服するためには、1) コンパクトさ 2) 自立性のある施設を利用者に近接して配置 3) も
っとも確実な移動手段としての徒歩環境整備 4) 規模の経済(大量生産)から距離の経済(コンパクトな地域
の中できめ細やかなサービスを提供)へ 5) 社会的多様性 6) 自律分散協調 7) 災害や気候変化に対して
適応性の高いネットワーク が必要。
4
・国内の建築ストックの高齢化が進んでいる。
・良質な住機能をもっている中古住宅を適切に評価するシステムが日本にない。
・住生活のサステナビリティ(新たな生活価値)を実現するために、1) プロジェクト1-既存建築ストックを活用
して、「5割のコストで 70 の満足を実現」という選択肢の提供(それに対し、新築は「10 割のコストで 100 の満
足」) 2) プロジェクト2-既存建築・住宅の使用価値証明としての情報整備を行い、既存建築ストック価値の
向上を図る活動 に取り組んでいる(野城教授のプロジェクト)。プロジェクト1に関しては、オープンビルディ
ング(SI 建築)手法1)を活用し、ニーズに合わせた適応度の高い設計(設備をはじめ5年間リースにして、初
期投資を下げる等)を行った。プロジェクト2に関しては、いつ、だれが、どのように新築や修繕、改修・リフォ
ーム等を行ったかを記録した、住まいの「履歴書」を整備し、住宅を客観的に評価できる指標を導入。
・住宅履歴書により統合された情報を活用して、住生活を起点とした様々なサービスの統融合が可能となる。
住宅のオペレーションデータを活用して、住み手に見守り、ヘルスケア等のサービス提供の仲立ちをする住
まいのコンシェルジェという職業が増えてくるのではないか。
・住宅市場及びその関連市場を拡大するためには、各企業がお互いに足を引っ張り合う日本型垂直統合シ
ステムから、お互いが連携する共通のプラットフォーム(互換性のあるシステム)を設けた上で、各企業が切
磋琢磨して競争する領域を各々が持つような仕組みに変わっていく必要がある。
【土谷貞雄 株式会社貞雄代表取締役 話題提供】
・暮らしは多くの人が興味をもつテーマであるが、一方で教科書がない、答えがないものである。
・暮らしは、色々な小さな変化(マージナルな部分)を積み上げていった上で、総体で見えてくるものである。
・暮らしには、自らを律する姿勢(discipline)が求められる。
・自然のサイクルに逆らわず、モノの所有からシェアへ移行していく暮らしが豊かさを生むのではないか。
・リノベーションといった動きをはじめ、徐々に自分たちの住まいを自分たちで考えるようになってきている。住
宅のリテラシー、モノを自分でつくる力が向上しつつある。
・住むところと働くところを分けずに一体にすると、新たなコミュニティが生まれるのではないか。
・20 世紀は町に一つの図書館をつくる時代であった。21 世紀は町の中にものづくりの工房をつくり、ものをつ
くる喜びを開放する時代なのではないか。
・これからはアーティスト、クリエーターが活躍する時代になるのではないか。
・様々なコミュニティを選択しながら暮らす時代になるのではないか。
・成熟国家である日本は「下り坂」を楽しむ姿勢が必要なのではないか。
・簡素、簡潔、清潔、丁寧といった日本の美意識を再発見していくことが重要なのではないか。
・将来シナリオには、経済シナリオとともにライフスタイルのシナリオが必要なのではないか。
・自給自足(エネルギーの自立、食の自立、経済の自立等)といった観点からシナリオを作成する必要がある
のではないか。
・自分の暮らしは自分で考えるといった、自立を促すような社会の仕組みづくりが求められるようになるだろう。
1)
スケルトン(柱・梁・床等の構造躯体)は長期間使用し、インフィル(住宅内の内装・設備等)を需要変化に合わせて適宜更新する手法で
ある。
5
【自由討論】
・我が国でプレハブ業界が成功したのは、規模の経済がもたらす効用をうまく活用し、スタンダード品を徹底的
にマスカスタマイゼーションしたからである。
・どのような社会的課題があり、その課題をどう解くかという、「問い」と「答え」の両方に目を向けることがデザイ
ンにおいて重要となっている。
・ニーズを把握するには観察力を養わなければならない。
・個々のニーズをセンシングし、そのニーズとプロダクトを繋げられるような人材の育成が必要である。プロダク
トのカスタマイズではなくサービスのカスタマイズが求められている。
・制約条件を逆手にとり、有効活用する発想が重要なのではないか。
3-1-2 第2回研究会の概要
第2回研究会では、10~15 年先の教育の未来について議論をした(一部、社会潮流の一つとして考えられる
「個別化」の観点から、医療の話題も含む)。冒頭3名の有識者から、公教育の本質・正当性・今後の展望及び教
育の個別化の正と負の効用(苫野一徳 日本学術振興会特別研究員)、イノベーション人材の育成(田村大 株
式会社博報堂上席研究員)、個別化医療の展望及び医療の個別化の正と負の効用(佐藤智晶 東京大学政策ビ
ジョン研究センター特任助教)について話題提供いただいた後、自由討論を行った。話題提供及び議論の内容
は下記の通りである。
【苫野一徳 日本学術振興会特別研究員 話題提供】
・公教育の本質は、自由であることを相互に承認した上で、全ての子どもたちが自由に生きられる力を育むこ
とを保障することにある。また、公教育の正当性は〈一般福祉〉の原理に適ったものであるか否かで判断すべ
きである。
・教育の制度構想の指針としては、義務教育段階では、1) 教育機会の均等(どの地域に、どの家庭に生まれ
ても教育の機会が平等に与えられる)、2) 共通基礎教養の育成保障(全ての子どもが、将来どのような職業
に就くとしても必要とされる知識を身に付けられるようにする。/新しい知を自分のものにしていく方法を教え
る。/相互に認め合う意識の醸成)について検討することが必要なのではないか。また、義務教育後は、1)
自らの教養の育成獲得(共通基礎教養を土台により専門的な知識の獲得)、2) 生き方が多様化する流れが
ある中、自らの学びを更新できるように学び直し(生涯学習)の機会が拡充されることについての検討が必要
なのではないか。
・教育方法の指針としては、1) 協同的な学び(一斉授業ではなく、子ども同士で学び合えるような学び)、2)
「教える」教師と同時に「ファシリテートする」教師へ(教師は、教えるだけでなく、子ども同士の学びをファシリ
テートするような役割も果たす)、3) 教師間で協同してよりよい学びの環境をつくる、といったことについての
検討が必要なのではないか。また、地域・学校の実情に応じた教育をすることが重要である。
・小学校1年生で学ぶ内容、小学校2年生で学ぶ内容といったように学習内容を1年単位で細かく定めるので
はなく、6年間、9年間といった長期スパンで学習計画を立てた方がよいのではないか。
・教育の個別化が進むと、教育の機会に格差(家庭の経済力、都市部と農村部など地域に起因する格差など)
が生まれる可能性がある。
・今後の教育の展望として、今まで一斉授業で教えてきたような内容に関しては、ネット上の優良コンテンツを
6
用いて各自が学び、学校では、協同的なプロジェクト型の学びが経験できる場にしていくとよいのではない
か。
【田村 大
株式会社博報堂上席研究員 話題提供】
・数十年前は、アポロ 11 号月面着陸など、サイエンステクノロジーによる開かれたイノベーション(未来像が皆
で共有されており、シナリオが描きやすかった時代に特有。万人が納得するようなイノベーション。)が主流で
あったが、最近は、プライベートなイノベーション(未来像が皆で共有されていない時代に特有。社会の中で
共有され、社会的な変動を起こすものでなくてはいけない。万人にとってのイノベーションではなく、あ
る特定のニーズをもった集団にとってのイノベーション)が増えてきている。
・アイディアやコンセプトを自らがつくり、それを素早くかたちにしたり、事業モデルにしたりする、ということを実
践的に行うデザインスクールがここ5年、注目を集めている。
【自由討論 1 (テーマ:教育の未来)】
・協同的な学びは、学習へのモチベーションを高め、お互い刺激し合えるという利点がある。
・協同する学びの場には、多様な人をバランスよく参画させるのがよい(イメージとしては、戦隊5レンジャー)。
・地方から都会に優秀な学生が出て行ってしまうという問題があるが、その原因の一つとして、その地域のため
に自分が役に立てないという思い込みがある。地域にとって価値のあることができるという確信は、その地域に
住む人との相互承認があってはじめて生まれるものである。学生が地元の人と交流し、お互いの考えを言い
合えるような場を設ければ、相互承認が生まれる機会が増え、ひいては、優秀な人材が地方に戻ってくること
につながるかもしれない。
・コミュニケーション能力が重要視されて久しいが、コミュニケーション力の本質が実はよく理解されていないの
ではないか。空気を読むことが重要視され過ぎている感がある。
・学年の枠を取り外し、流動的なグループの中で学び合える場を設けるのがよいのではないか。その中で、自
分の特性も理解しつつ、人との関わり方も徐々に学んでいけるのではないか。
【佐藤智晶 東京大学政策ビジョン研究センター特任助教 話題提供】
・個別化医療は、情報に基づく医療である。遺伝子情報等の分析解析に基づいて、病気を予防したり、発症を
遅らせたり、早期発見・早期治療をしたり、最も効果的な医薬品を特定し、より正確に容量を決め患者に投与
したりすることが医療の個別化の核心である。
・医療の個別化は、これまで一つの病気として考えられてきたものを細分化する可能性を秘めており、このこと
は医薬品の開発、承認審査、治療の仕方を劇的に変える可能性がある。
・医療の個別化は、1) 医療提供の変容 2) 知識としてのデータの活用 3) 遺伝学の発展 という3つの革命か
ら説明される。
1) 医療提供の変容…患者の関与や役割の増大/コンビニエンスストアー等で外来患者を受け付けるなど、
外来診療機関の増大/遠隔機器やモバイル端末での健康情報の収集と管理/個人健康記録を介した
メール等による個別の助言(運動が足りない旨を通知するメール等)/画像診断機器の発展がより正確
な診断、個別の治療を可能にする
2) 知識としてのデータの活用…医師と患者がアクセスできる医療情報サイトの充実/患者ネットワークの
構築(希少疾患の臨床試験の支援にもつながる)/医師や医療機関に対し、患者から質問したりフィー
7
ドバックを行ったりする
3) 遺伝学の発展…2003 年までに、30 億の塩基ユニットからなる遺伝配列が解読された/遺伝子構造、疾
患、治療の有効性、副作用の関連性に関する研究が進んでいる 等
・医療の個別化は、1) 医薬品・医療機器等の開発 2) 医療提供体制 3) 医師と患者の役割 を大きく変える。
1) 医薬品・医療機器等の開発…量から質へ(できる限り多くの患者を対象にした創薬という考え方からのシ
フト)/予防、診断、早期治療にシフト/モノの開発からモノの使い方、新たな治療法や病気の管理方
法の開発が重視
2) 医療提供体制…ある疾患に罹患した場合、必ずしも同一の治療が提供されるのが最善ではない。各々
の患者に、より最適な治療が提供されるようになる。/集約から分散へ(大きな医療機関を中心とした医
療から、小規模な外来診療機関が活躍するようになる)/ネットワークの形成で、連携が確保される/デ
ータバンクがネットワーク化される。より多くの人との比較分析により、医療の個別化が推進される
3) 医師と患者の役割…患者間で情報のシェアが進む。/シェアされた情報に基づく治療方針決定につい
て、患者の関与が大きくなる(個別化による選択肢の増大)/患者が情報の利用や管理に参加
・医療の個別化の前提となる条件・課題として、1) 特許制度 2) インフラ 3) 規制 4) 保険収載・償還が挙げ
られる。
1) 特許制度…診断方法などプロセスを保護する。プロセスを保護することで、個別化医療に関わる技術を
生み出すインセンティブが生まれる。
2) インフラ…データ共有ネットワークの構築(検査、治療、治療結果をリアルタイムで追跡することにより、質
を維持しながらそれらにかかる費用を削減する。)/疾病コードと手技コードを最新化(細分化)、標準化
/より機能的な個人情報保護のルールづくり(医師、研究者、規制当局が必要とするデータは異なるた
め、各々に応じた適切なルールを設定等)/日々の診療からのフィードバックシステム等
3) 規制…手技等プロセスの重視/一つの疾患が細分化されることに伴う臨床試験デザインの再考
4) 保険収載・償還…誰にどの程度の有効性が認められたら保険収載されるべきか/希少疾病をどのよう
に取り扱うか/個人のリスクがより把握できるようになり、保険の設計が変化する(医療保険などを介して
疾病リスクを薄く広く分散する根拠を失う)/医学教育、ITシステム、患者に対する教育に対してどれだ
け償還したらよいのか
・医療の個別化では正の効用が大きいものの、負の効用の影響は予測が難しい。
【自由討論 2 (テーマ:教育と医療の未来)】
・個別化にも二つの意味がある。一つは、「一対一ですること」、もう一つは、「一人でできるということ」を意味す
る(personalized と individual は異なる)。
・個別化が進むことで、医者一人にかかる責任と負担が大きくなる。
・遺伝情報を活用し、将来かかる可能性が高い疾患に対する薬を事前につくってしまうという究極の医療が可
能になるかもしれない。そのためには、制度も大幅に変えていかないといけない。
8
3-2 「回復力のある社会の構築に求められる科学技術イノベーションに関する調査研究」第1回、第2
回ワークショップの概要
第1回研究会、第2回研究会及び平成 23 年から取り組んだ「安全・安心な社会の構築に求められる科学
技術イノベーションに関する研究」研究会で議論したことを踏まえた上で、様々な領域の有識者及び大学
生、大学院生にご参画いただき、10~15 年先の日本社会を俯瞰する第1回ワークショップを開催した。その後、
第1回ワークショップで俯瞰した 10~15 年先の日本社会の将来像を深掘りするとともに、描かれた将来像を実現
し、我が国が継続的にイノベーションを創出していくために考慮すべき事項に関して議論するため、第2回ワーク
ショップを開催した。
3-2-1 第1回ワークショップの概要
10~15 年後の日本の将来を俯瞰する第1回ワークショップ開催にあたり、事前準備として、日本社会に起こり得
る変化の兆しと思われる新聞記事などを既成の価値観やトレンドに捕われず収集した「2030 年の芽」(図1参照)
を作成した。詳細に関しては、附属資料「2030 年の芽」(P.36~P.70)をご参照いただきたい。
2030年の芽
2030年の芽とは
10~15年後の日本の将来像を描くにあたり、日本社会に起こり得る変化の兆しになると思
われる新聞記事などを、既成の価値観やトレンドにとらわれず収集したもの。あえて、線形
延長線上の情報を外し、非線形的な未来の可能性を示唆し、かつ、生活者へのインパクトが
強いと思われる事象を抽出した。
2030年の芽(例)
買い物以外の付き合いで強い
信頼関係を生む家電店 [サービ
スのコンシェルジュ]
今は存在しない職業へ就く?
[未来の仕事]
魅力的な都市とは [都市の魅力]
まかないを報酬にWebサイトをつ
くるベンチャーが登場 [対価交換
形式の多様化]
死後の「墓友」がおひとりさま高
齢者のコミュニティに [単身世帯
の増加]
将来、プライバシーは科学者の
倫理に任されるのか [データサ
イエンティスト ビッグデータ]
3Dプリンターの進化が変える
ものづくりの未来 [DIY]
国立デザイン美術館をつくろう
[デザインの力]
脆弱性と隣り合わせの電子シス
テム [レジリエント]
図1.2030 年の芽
ワークショップ参画者(住まい、教育、環境、医療等様々な領域の有識者及び大学生、大学院生)には、前もっ
て「2030 年の芽」に目を通してきていただき、この「2030 年の芽」をヒントに、今後、日本社会に大きな影響を及ぼ
すと考えられる要因や生活者の社会的期待を念頭に置いた上で、日本の将来像について各々考えてきていただ
いた。
9
第1回ワークショップ当日は、冒頭、教育と住まいの分野の有識者3名に 10~15 年後の日本社会の将来像に関
して話題提供いただいた。その後、グループ毎(A 班~G 班。1グループ5人~7人。班員構成に関しては、P.19
をご参照いただきたい)、事前に考えてきていただいた日本の将来像と当日の話題提供の内容を踏まえた上で、
日本社会の将来像に関して議論していただいた。話題提供及び各班の議論の内容は下記の通りである。
【山内祐平 東京大学大学院情報学環准教授 話題提供】(主にテーマは教育)
・今の小学生の 65%は、大学を卒業する頃、今は存在しない職業につくというアメリカの調査結果が出ている。
例えば、今から 10 年前はソーシャルメディアコーディネーターといった職業がなかったが、このような職業が
今は新たに出来てきている。今までは、安定した職業を前提として教育システムが組み立てられてきたが、だ
んだんとその前提が崩れてきている。教育のターゲットとなるものが変わってきている。
・どのような職業に就いても生き抜いていけるような、「21 世紀型スキル」2)を育てることが必要なのではないか。
・高次な一般的能力とともに、専門性は常にアップデートし、場合によっては、専門性を二つもつことも求められ
るかもしれない。学びに要求されるレベルが上がってきている。
・非常に高度な課題解決の経験を学びの現場で提供することが必要なのではないか。
・教育サービス(学習サポート等も含む)をネット上で提供する試みがなされている。(例:MOOCs: Massive
Open Online Courses3))オンラインで学ぶということが活発になされるようになってきている。20 年後にはオ
ンライン学習は当たり前になっているのではないか。
・オンライン学習と対面型学習のベストミックスが理想的である。基礎的なことはオンライン学習で学び、グルー
プワークを中心とした応用的な学習を対面で行うといった、「反転授業」(Flipped Classroom)がアメリカの小
中高等学校で広がってきている。高校から始まった動きであるが、成功を収めていくこともあり、大学の授業で
も取り組む動きも出始めている。
・子どもの発育に合わせた住まいづくりに取り組んだ。例えば、0 歳~1 歳は、身体的な運動能力や感覚を発達
させる時期なので、その発達をサポートするように、遊びを通して様々な感覚が刺激されるような滑り台やトン
ネルをリビングの端に設置した。
・家族形態が多様化する中、子どもの学びの場として住まいがどうあるべきか、考えてみることが必要なのでは
ないか。
【土谷貞雄 株式会社貞雄代表取締役 話題提供】(主にテーマは住まい)
・日本の家は世界と比較してモノにあふれ過ぎている。モノをもたない暮らしを見直してもよいのではないか。
・日本人は住まいに関するリテラシーが比較的低いが、最近、リノベーションといった動きをはじめ、各自が以前
よりも主体的に住まいや暮らしのことを考えるようになってきている(DIY (Do It Yourself)) の動きがある。
・これからの街は、「住む」「働く」「遊ぶ」が全てできるような街にしていかなくてはいけないのではないか。(ゾー
ニングにより各街が一つの機能のみをもつケースが多く、面白い街ではなくなってしまった。)
・センサー技術等を活用し、バイタルデータを各自が把握することで、各々が健康管理により積極的に取り組む
2)
「21 世紀型スキル」…21 世紀に生きていく子どもたちに必要な一般的能力を意味する。21 世紀型スキルの普及と教育改革のためにつくら
れた国際組織 ATC21S (The Assessment and Teaching of 21st-Century Skills) の定義では、a) 思考の方法-創造性、批判的思考、問
題解決、意思決定と学習 b) 仕事の方法-コミュニケーションと協働 c) 仕事の道具-情報通信技術 (ICT) と情報リテラシー d) 世界
で暮らすための技能-市民性、生活と職業、個人的及び社会的責任 を「21 世紀型スキル」としている。
3) MOOCs …世界中の誰でも無料で受講できるオンライン講座。ハーバード大学、マサチューセッツ工科大学、スタンフォード大学など世
界トップレベルの大学が開設している。
10
ようになる可能性がある。
・日本の子どもは7人に1人が貧困(平均所得の半分以下)であり、日本の子どもの貧困率は比較的高い。
・親の経済状況が子どもの教育に影響を与えている。
・企業の時代から個人の時代になってきている。クラウドファンディングといった不特定多数の人から資金調達
をする方法が注目されている。
・未来は「暮らし」という自分の身の回りのところから想像していくことが大事である。
【隈研吾 東京大学大学院工学系研究科教授 話題提供】(主にテーマは住まい)
・建築や都市は、技術や産業構造よりも、災害によって大きく変わりうる。
・日本の建築は、普遍主義ではなく、関係主義である。
・土間のような空間に、子どもたちが勉強をしに来る。人の刺激があるところで学ぶことには意義がある。(関連:
アオーレ長岡(隈研吾氏設計))
・20 世紀の公共建築は、都市の成長、規模の拡大に応じて、郊外に移動し、孤立する傾向にあった。これから
は、公共建築を街の中心に戻していかないといけないのではないか。(関連:アオーレ長岡(隈研吾氏設計))
・エネルギー面でも、生活の面でも自立できる小屋というのはどういうものか実験的につくっている。例として、
Tee Haus が挙げられる。この建築は「呼吸する建築」であり、環境との間のインタラクティブなやりとりを意識し
て設計した。(関連:Tee Haus、Water Branch House(隈研吾氏設計))
【神津カンナ 作家 コメント】
・「絆」の元々の意味は、家畜を家に縛り付けるという意味が第一義であった。昔は、家制度など、縛りが多く、
「絆」には悪いイメージがあったが、生活が変わっていくにつれて、むしろ、「絆」がなつかしいものとして、良い
意味で使われることが多くなっている。日本にあるものは、普遍性ではなく関係性であるという事実は、このよう
なところにも読み取れる。
・日本の将来像を描く際に、日本の文化や伝統に関しても考慮した方がよいのではないか。
【各班の議論の内容】
A 班:
・今までは一つの専門性が求められることが多かったが、これからは、いくつかの専門をもち、全体を俯瞰でき
る力、デザインする力が求められるようになるのではないか。
・東京一極集中の時代であったが、これからは、どこに住んでいても質の高い教育、住環境が得られるようにな
っていくことが望ましい。各々が主体的に色々なことに取り組んでいくことが求められるようになるだろう。
・暮らしの自給自足が進むのではないか。
・今までは、高収入であることが幸せの条件の一つとされていたが、これからは、お金以外のものに価値を見出
す(例:お金にならないような労働であっても、自らの才能を活かせるものであれば、そのような労働を自ら楽し
んで行うことができ、かつ、そこから満足感や達成感を得られる。)ような人が出てくるのではないか。
・家族の在り方が変化するのではないか。
・ガラパゴス現象も見方によっては良い面もあるのではないか。
・地域資源の活用方策をもっと考えるべきではないか。
・外国人を積極的に受け入れていかないといけないのではないか。
11
B 班:
・今までは単線型、規範型の静的安定を志向した社会であったが(例:終身雇用、持家志向等)、これからは、
超流動化した動的平衡な社会(例:一人が家を複数所有する。その全てが持家ということではなく、誰かとシェ
アすることなども考えられる。)になっていくのではないか。
・働き方が大きく変わるのではないか。
・親子や世代間の関係性が変化するのではないか。
・女性が活躍する世の中となるのではないか。
・地域通貨など、法定通貨以外のもので価値の交換が行われる場面が増えてくるかもしれない。
・家(内)と街(外)の境界があいまいになっていくのではないか。
・暮らしのあらゆるところで不確実性が高まっていくのではないか。
C 班:
・今までは「今、ここ」感覚が重視されていたが(短周期で物事を捉える。)、これからは、「いつか、どこか」感覚
(長周期で物事を考える)に変わっていくのではないか。
・「閉塞感がある」と言われることが多いが、原因の一つとして、人対人に関係性が偏っていることが挙げられる。
人と自然の関係性にもっと着目してもよいのではないのか。
・このまま進むと、日本は国破れて山河ありの状態になる。人と自然がうまく共生している場所はふるさとのよう
な場所なのだろうか。次の世代にどのようにふるさとのような場所を受け渡すか考えないといけない。
・政治の意思決定システム等が垂直統合型から水平分離(プラットフォーム)型へ移行していくのではないか。
D 班:
・家をもっと外に開いていくとよいのではないか。街の人も家に入れるような場(コモンズ)をつくるとよいのでは
ないか。外との交流が活発化されると、家族間の交流も促進されるのではないか。職場も同様に、外の人が入
ってこられるようなパブリックな場(原っぱ)と、プライベートな場(隅っこ)の両方があるような場の設計が必要な
のではないか。
E 班:
・今までは画一的な教育が行われてきたが、これからは教育内容も多様化が進むのではないか(例:アントレプ
レナーシップを育む教育)。
・教育の格差が広がってきており、格差はなくならないであろう。貧困や就学困難など多くの問題がある。
・チャレンジを促すため、人生前半の社会保障を充実すべきではないか。
F 班:
・学校の姿が今後変化していくのではないか。学年の概念がなくなり、生徒が興味をもつものを自由に学べるよ
うになるかもしれない。ただし、この場合、基礎学力が落ちてしまう可能性がある。
・オンライン学習の質が上がるのではないか。
・学校は、単に子どもに教える場というよりも、子どもの学習意欲を維持する場としての役割を求められるように
なるかもしれない。
・社会に出るにあたって求められるスキルの変化により、学校で教えるべきことも大きく変わっていくだろう。
12
G班
・今まではコモンスペースが大学や会社内の限られた場所にしかなかったが、これからは、より多くのコモンス
ペースができるようになるのではないか。普段は接することがないような多様な人(多世代、地域を超えたつな
がり等)と交流する場として、コモンスペースが機能するだろう。
・社会人、高齢者の学び直しができるような環境の整備が必要なのではないか。
・個人化が進む中で、かえって共有(共有スペース、共同生活等)の良さが再認識されるかもしれない。個人化
が進み過ぎると、孤独感を感じる人も増えてきてしまうだろう。孤独感を感じないようにするために、各々が所
属できるような「場」が色々なところにあるとよいのではないか。
・デザインする力が求められるようになるのではないか。
・ダブルメジャーがスダンダードになるかもしれない。
・長い尺度(「いつか どこか」)で物事を捉えることが重要である。
3-2-2 第2回ワークショップの概要
第2回ワークショップでは、ビッグデータやデザインなど、10~15 年先の日本社会を俯瞰した際に鍵になると考
えられる領域の有識者(産業界も含む)にもご参画いただき、今までの議論を踏まえて事務局が作成した「10~
15 年後の日本社会の俯瞰(案)」をたたき台に、我が国の将来像に関し深掘りして議論した。また、描かれた将来
像を実現し、我が国が継続的にイノベーションを創出していくために考慮すべき事項に関しても検討を行った。議
論の内容は下記の通りである。
10~15 年後の日本社会の将来像について
[全般的な社会の流れ]
・これからはシェアの時代になっていくだろう。シェアにもいくつかの種類がある。モノのシェアは≪消費のシェ
ア≫と捉えられる。また、違う種類のシェアとして≪生産のシェア(ものづくりの民主化)≫が挙げられる。色々
な人がものをつくることに参加するようになっていくのではないか(例:3Dプリンターでものづくりをする。クラウ
ドファンディングにより資金を調達してものづくりをする。)。
・街や地域のシェアに関しては、空間のシェアという側面と人のシェアという側面がある。前者に関しては、ある
一つの場所を様々な場面ごとに色々な人が使うことを意味する。後者に関しては、一人の人が、色々なコミュ
ニティ(場所)をもっていることを意味する。
・これからは、DIY になっていくと考えられる。住まいに関しても、空間の編集権を一人一人が取り戻していく流
れになるのではないか。
・暮らしの自給自足が実際、普及するかどうかは疑問である。自己のバイタルデータの管理に関しても、意識の
高い人しか行わないかもしれない。
・銀行にお金を預けるように、個人が自らの情報を「情報バンク」に預ける時代が到来するのではないか。情報
に関しては、共通のインフラが現在存在しておらず、散乱している。「情報バンク」にデータを預けることで、メリ
ットが受けられるといった関係性が築けるとよい。プライバシーを守りながら、情報を有効に活用するために、
プライバシー保護データ活用技術に関する研究が推進されることが必要ではないか。
13
[都市]
・多様な人が集積しているところが競争力のある都市となり、生き残っていくだろう。
・都市のスペース及びエネルギーの効率的なシェアという観点から、パーソナルモビリティは今後普及するので
はないか。
・東京は都市として最強なのではないか。東京は、1時間もかからず自然に触れられ、買いたいものもすぐ手に
入り、食も充実し、優秀な人が集まっている都市である。
[住まい]
・住まいを開いていくという流れがある一方で、ゲーテッドコミュニティのように、安全の観点から、閉じられた空
間を好む人もおり、未来を考える上では、様々な方向性があることを念頭においておかないといけない。
[産業(全般)]
・自動車がネット家電化している。高齢者の見守りなど社会課題を解決するために、ネット接続された車をどの
ように活用すべきか、といったように、考え方をモノ中心から、その使い方に焦点を当てるようにシフトしていく
ことが必要ではないか。
・規模の経済と個人のニーズを満足させるようなカスタマイゼーションのベストミックスが理想的である。
・付加価値を高めるため、オペレーションデータの解析力を向上させないといけない。解析に基づいた、ある程
度の最適化や制御が必要となるのではないか。
[産業(モノづくり)]
・モノづくりを牽引するドグマは 10~15 年周期で進んでおり、現時点で顕著な流れは、10~15 年先では陳腐
化し、今の流れと相対する流れが起きているかもしれない。
[教育・人材育成]
・職業教育に関しては、将来、取り組みたいことを早い段階で気付くために、小中学校の段階から取り組む必要
があるのではないか。
・今後産業をつくっていくようなコア人材には、ビジネス、テクノロジー、クリエイティビティを統合的に考えられる
能力が求められる。このような人材を教育プロセスや仕事の中でどのように育成していくかを考えていかないと
いけない。三つの力を合わせもつ人材を育成するのが困難である場合には、一つ二つ能力を持っている人を
チームにして動かしていく方法もよいのではないか。
・デザイン人材に求められている能力は、モノやサービスをデザインする力だけでなく、人と人とをつなげて物
事を動かしていくようなファシリテートする力である。
・読み書きそろばん以外に、小さい頃から、Computational thinking (大きな問題をいくつかの階層に分けて
考える力、パターン認識力、必要な情報を取捨選択し、一般化、抽象化する力、問題解決力など) を身に付
けることが必要である。
・英国の大学では、知識を獲得する方法を学ぶ。新たな知を学ぶ方法、ものの本質を見抜く力をつける教育を
日本でも行っていくことが必要なのではないか。
・日本の大学において、文系理系の区別があるのはよくないのではないか。
・社会に対する問題意識をもち、問いや仮説を立てる力を養うような教育が必要なのではないか。
14
[雇用・働き方]
・個人と組織の関係が変化している中で、組織の価値は何なのか考えてみるとよいのではないか。これからは、
一つの組織に所属する人、組織を渡り合っていく人、いくつかの組織に所属する人といったように、様々な関
わり方がありうるだろう。
・エリート層の選別が 30 代など早い段階で行われるようになるのではないか。早い段階で選別されると、各自が
今までのように無理をして働かなくなり、各々に適した生活レベルで暮らし、かえって、生き方や暮らし方とし
ては充実するのではないか。
イノベーション創出について
・face to face の関係が築きやすい、多様な人が集積している場にこそ、イノベーションが起こる。
・今、精力的に活動している人に対しては、1)ある程度の資金援助をし、2)その事業に関し知見がある人材によ
るサポート体制を築き、3)阻害要因を排除するだけで、イノベーションを起こす確率は上がる。
・イノベーションを阻害しているのは垂直統合型のシステムである。自由な雰囲気の中で、試しにつくったもの
の方がイノベーションを起こしやすい。横串でつなげるような人材が必要である。
・制度や科学技術など、試作と PDCA のサイクルを、大きなスケールで、かつ、短期間で回していければイノベ
ーションの確率は上がるのではないか。
将来シナリオの作成について
・将来像を考える際に、it could be(選択肢として想定されうる将来像。不確定要素を含むもの。)であるのか、
it should be(こうなることが必要であると考えられる将来像。ただし、人によって描くものが異なる可能性はあ
る。)であるのか分けて考えた方がよい。
・社会課題を出発点にして、未来社会を考えるのも将来像を描く一つの方法である。また、楽観的なシナリオか
ら悲観的なシナリオまで幅広く考えるとよいのではないか。
・将来像の描き方として、ワイルドカード(大災害など)のように、起きる確率は非常に低いものの、起きると影響
が大きい事象から未来を描く方法もある。
・エネルギー自給率及び食料自給率が低い日本は、輸入に頼らざるを得ない。輸出量を増やすか、輸入量を
減らさないと、国として成り立たない。国として成り立つシナリオをまず考えた上で、お金のまわり方などを考え
るべきではないのか。
・農業の未来は、輸入を減らすという観点からも、将来像を考える上で重要な分野の一つである。
・日本は何で稼ぐのかに関して真剣に考えるべきである。
・どのようにしたら付加価値が高く、企業が稼げる仕事をつくっていけるのか考察すべきである。
・年間3万人の自殺者、孤独死の問題といった社会課題解決方策を早急に考えるべき。社会の底上げを考える
ことが大事なのではないか。
・マイノリティーのシナリオを考えてみると面白いのではないか。マイノリティーの人がイノベーションを起こす可
能性は少なくないのではないか。
・シナリオを作成する際、分野によって考えるスパンが異なる。IT関係は早いスパンで考えるべきである。一方
で、住まいなどは長期スパンで考えるべきである。
・地域コミュニティの将来像を考える際、変わらないものと変わってほしくないものを考えた方がよいのではない
か。例えば、変わってほしくないものに、風景や文化などが挙げられる。
15
4. まとめ
実施した2回の研究会、2回のワークショップの議論を踏まえると、10~15 年後の日本の社会潮流及びこの
社会潮流を踏まえた上で、我が国が回復力のある社会を構築し、継続的にイノベーションを起こしていくために
重要であると考えられる観点は図2の通りになるのではないか、という結論に達した。詳細に関しては、終章
(P.31~P.35)をご覧いただきたい。
10~15年後の日本の社会潮流
大量生産・大量消費
⇒既存ストックの利活用
規模の経済
⇒距離の経済
(例:コンパクトシティ)
個人による「編集権」
の獲得
(例:DIY (Do It Yourself))
様々な領域における
自産自消
オープン
エジュケーション
場所性が重要視される
ビジネス・クリエイティビ
ティ・テクノロジーの能力
を備えているコア人材の
育成
・何がそこにあるのか
・そこに誰がいるのか
・そこで何が起こっているのか
ビッグデータ等データ
を起点としたサービス
の統合
日本の美意識(繊細、
丁寧、緻密、簡潔)など、
我が国の強み
イノベーション創出の仕掛けの例
多様性のあるチームで、PDCAサイクル
を効率よく回す仕組みを構築
・「遊び」のある環境
(自由な発想に基づく試行実験ができる
環境、意味ある失敗を許容できる環境)
・SNS等を活用し、ユーザー体験からの
フィードバックを反映しつつ、短期間で
PDCAを回す仕組み
〈大量生産・大量消費から既
存ストックの利活用〉〈規模の
経済から距離の経済へ〉と
いった移行の流れの中で、一
方への完全な移行ではなく、
両者をベストミックスするよう
な戦略の立案
QOLの高い、安全・安心な暮
らしを実現するために、我が
国が競争優位性のある科学
技術やサービスを、統合的視点
から組み合わせて提供できるよ
うな仕組み
(データを起点に科学技術や
サービスを統合等)
図2.10~15 年後の日本の社会潮流について
今後の科学技術イノベーション政策に関しては、想定されうる将来像(it could be)として俯瞰された上述の状
況を念頭に置きつつ、その具体化が図られることが期待される。
16
検討の経緯
■ 第1回研究会 ≪テーマ:住まいの未来≫
日時:平成 24 年 9 月 4 日(火) 10 時 30 分~12 時 30 分
場所:東京大学政策ビジョン研究センター5階会議室
参画者:(話題提供者)
(委員・主催者)
野城智也
東京大学生産技術研究所教授
土谷貞雄
株式会社貞雄代表取締役
城山英明
東京大学大学院法学政治学研究科教授
吉澤 剛
大阪大学大学院医学系研究科准教授
松尾真紀子 東京大学公共政策大学院特任研究員
青山 伸
前総括政策研究官
篠原千枝
研究官
■ 第2回研究会 ≪テーマ:教育の未来(社会潮流の一つとして考えられる「個別化」の観点から一部、医療(オ
ーダーメイド医療)の話題を含む)≫
日時:平成 24 年 10 月 26 日(金) 14 時 00 分~16 時 30 分
場所:東京大学政策ビジョン研究センター5階会議室
参画者:(話題提供者)
(委員・主催者)
苫野一徳
日本学術振興会特別研究員
田村大
株式会社博報堂上席研究員
佐藤智晶
東京大学政策ビジョン研究センター特任助教
城山英明
東京大学大学院法学政治学研究科教授
吉澤 剛
大阪大学大学院医学系研究科准教授
松尾真紀子 東京大学公共政策大学院特任研究員
村田貴司
総括政策研究官
篠原千枝
研究官
■ 第1回ワークショップ ≪テーマ:10~15 年後の日本社会の俯瞰≫
日時:平成 24 年 12 月 19 日(水) 17 時 00 分~21 時 00 分
場所:東京大学弥生講堂アネックスセイホクギャラリー
参画者:(話題提供者)
(委員・主催者)
山内祐平
東京大学大学院情報学環准教授
土谷貞雄
株式会社貞雄代表取締役
隈 研吾
東京大学大学院工学系研究科教授
城山英明
東京大学大学院法学政治学研究科教授
吉澤 剛
大阪大学大学院医学系研究科准教授
松尾真紀子 東京大学公共政策大学院特任研究員
村田貴司
総括政策研究官
篠原千枝
研究官
17
(討議者)
岩佐数音
東京大学教養学部
梅村太朗
東京大学法学部
遠藤正之
慶応義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科
遠藤雪枝
慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科
奥寺昇平
東京大学生産技術研究所
カズ米田
takram design engineering ディレクター
金子遥洵
東京大学大学院工学系研究科
茅 明子
慶応義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科
神津カンナ 作家
久志尚太郎 NPO 法人 Rainbow Tree 代表理事
隈 研吾
東京大学大学院工学系研究科教授
黒崎晋司
株式会社黒崎事務所代表取締役社長
小池 禎
オムロンヘルスケア株式会社デザインコミュニケーション部部長
小森隆史
慶応義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科
佐々木俊尚 作家・ジャーナリスト
佐藤智晶
東京大学政策ビジョン研究センター特任助教
篠田さやか オフィス キュア代表
篠原千枝
内閣府経済社会総合研究所研究官
島原万丈
株式会社リクルート住まいカンパニーリクルート住まい研究所
主任研究員
城山英明
東京大学大学院法学政治学研究科教授 【研究会座長】
末光弘和
株式会社 SUEP 代表取締役
杉江 理
WHILL Inc. 代表取締役
杉山史哲
株式会社フリード代表取締役社長
髙木夕貴
東京大学教育学部
高橋 淳
株式会社ベネッセコーポレーション教育事業本部デジタル戦略
推進部事業開発課課長
滝
充
谷口智哉
国立教育政策研究所総括研究官
東京大学公共政策大学院
田原敬一郎 財団法人未来工学研究所主任研究員
田村 大
株式会社博報堂上席研究員 【ワークショップ司会】
張 鳳群
慶応義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科
塚本由晴
東京工業大学准教授
土谷貞雄
株式会社貞雄代表取締役
苫野一徳
独立行政法人日本学術振興会特別研究員
中村奈菜美 東京大学法学部
畑中綾子
東京大学政策ビジョン研究センター特任研究員
葉騰寛喜
東京大学公共政策大学院
林 厚見
株式会社スピーク代表取締役
18
日渡 円
兵庫教育大学学校教育研究科教授
藤野純一
独立行政法人国立環境研究所社会環境システム研究センター
主任研究員
松尾真紀子 東京大学公共政策大学院特任研究員
松浦正浩
東京大学公共政策大学院特任准教授
水口 哲
株式会社博報堂コンサルタント
宮崎敦史
DIEP 環境工学×建築デザイン研究会共同主宰
村田貴司
内閣府経済社会総合研究所総括政策研究官
山内祐平
東京大学大学院情報学環准教授
山口裕也
杉並区立済美教育センター調査研究室長
山代 悟
有限会社ビルディングランドスケープ代表取締役
吉澤 剛
大阪大学大学院医学系研究科准教授
若江眞紀
株式会社キャリアリンク代表取締役
(敬称略・五十音順)
※デスカッションの際の班構成
・班員
A 班:カズ米田氏、久志尚太郎氏、隈研吾氏、杉山史哲氏、水口哲氏、山代悟氏
B 班:島原万丈氏、末光弘和氏、杉江理氏、土谷貞雄氏、林厚見氏、松尾真紀子氏
C 班:小池禎氏、佐々木俊尚氏、塚本由晴氏、藤野純一氏、奥寺昇平氏
D 班:佐藤智晶氏、日渡円氏、宮崎敦史氏、山内祐平氏、若江眞紀氏
E 班:高橋淳氏、滝充氏、苫野一徳氏、畑中綾子氏、山口裕也氏、梅村太朗氏
F 班:遠藤雪枝氏、茅明子氏、谷口智哉氏、張鳳群氏、中村奈菜美氏
G 班:岩佐数音氏、遠藤正之氏、小森隆史氏、髙木夕貴氏、葉騰寛喜氏
・ファシリテーター
篠田さやか氏、黒崎晋司氏、田原敬一郎氏、吉澤剛氏、松浦正浩氏
■ 第2回ワークショップ ≪テーマ:10~15 年後の日本社会の俯瞰、イノベーション創出にあたり考慮すべき
観点≫
日時:平成 25 年 3 月 5 日(火) 18 時 00 分~21 時 00 分
場所:内閣府 中央合同庁舎4号館 4階 443 会議室
参画者:(委員・主催者)
城山英明
東京大学大学院法学政治学研究科教授
吉澤 剛
大阪大学大学院医学系研究科准教授
松尾真紀子 東京大学公共政策大学院特任研究員
(討議者)
村田貴司
総括政策研究官
篠原千枝
研究官
小池 禎
オムロンヘルスケア株式会社デザインコミュニケーション部部長
島原万丈
リクルート住まい研究所主任研究員
城山英明
東京大学大学院法学政治学研究科教授 【研究会座長】
19
杉山史哲
株式会社フリード代表取締役
鈴木良介
株式会社野村総合研究所ICT・メディア産業コンサルティング部
主任コンサルタント
高橋 淳
株式会社ベネッセコーポレーション教育事業本部デジタル戦略
推進部事業開発課課長
田川欣哉
takram design engineering 代表取締役
武田晴夫
株式会社日立製作所研究開発本部技術戦略室長
田村真理子 日本ベンチャー学会事務局長
原加代子
日産自動車株式会社総合研究所モビリティ・サービス研究所
シニアリサーチエンジニア
森川博之
東京大学先端科学技術研究センター教授
野城智也
東京大学生産技術研究所教授
山代 悟
有限会社ビルディングランドスケープ代表取締役
吉澤 剛
大阪大学大学院医学系研究科准教授 【座長代理】
(敬称略・五十音順)
20
Fly UP