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プレゼンテ-ション資料
これからの企業年金運用 のあり方を考える 平成21年7月23日 DIC企業年金基金 運用執行理事 近藤英男 これまでの年金資産運用の振り返り(1) ■運用環境の変化 96年 年金資産運用の自由化 02年 確定給付年金制度 確定拠出年金制度 が導入 98年 年金資産の時価評価の導入 アジア危機と ロシア危機 ITバブルの崩壊 00年 退職給付会計の導入 97年 財政運営基準の全面改正 ・予定利率の自由化 ・非継続基準の導入 ・指定年金数理人制度の導入 ⇒確定給付年金制度にも引き継がれている DIC企業年金基金 今後 国際会計基準の 本格的な適用が 検討 ・負債の時価評価 ・損失の一括計上など サブプライム問題 と金融危機 04年 代行返上して 確定給付年金制度に転換 2 これまでの年金資産運用の振り返り(2) ■運用機関の変遷 96年以前は 生保の一般勘定のみで運用 予定利率:5.5% (現在は1.25%) アジア危機と ロシア危機 生保一般勘定・ 特別勘定と信託 銀行年金信託 での運用 市場のリスク を取って、 リターンを追及 ITバブルの崩壊 生保系投資顧問 銀行系投資顧問 証券系投資顧問 を追加 母体との取引関係に配慮した選別 今後は、 長期的な運用環境低迷が想定 される中で、 ・ポートフォリオ運営方針の見直し ・パートナーとして協同できる運用 機関の選別 が重要 サブプライム問題 と金融危機 運用機関の段階的な見直し ・アクティブ運用の強化 ・分散投資の拡大 運用の専門能力を重視した選別 DIC企業年金基金 3 これまでの年金資産運用の振り返り(3) ■運用手法の変遷(従来型の運用には限界) 低金利の長期化、 経済成長の長期低迷(先進国) グロバリゼーションによる景気の連動 市場変動の増大、市場相関の高まり 分散投資の拡大 リスク・ファクターを重視した アクティブ運用の強化 ・ベータとアルファー 分散投資とLDI(債務志向的 の分離 運用)の考え方 アジア危機と ロシア危機 外国為替対策 ・為替オーバーレイの採用 ITバブルの崩壊 分散投資と アクティブ運用の強化 ・エマージング株式、 日本の中小型株式 への投資 DIC企業年金基金 サブプライム問題 と金融危機 オルタナティブ投資の導入 ・ヘッジファンド ・プライベートエクイティ ・実物資産投資(インフラ、 不動産など) 4 これまでの年金資産運用の振り返り(4) リスク重視の運営に変更~リスク管理はTEからトータル・リスクの管理へ転換 投資戦略 資産配分 99年度~00年度 01年度~02年度 03年度以降 特化型運用への転換 分散投資の拡大 オルタナティブの導入 リターン重視 リターン重視 ダウンサイド・リスクの抑制 株式>債券 株式>債券 株式<債券 分散投資 (ベータ) 株式~市場型が中心 アルファー パッシブ運用と TEの小さい アクティブ運用 株式~ グロースとバリュー 大型株と小型株 エマージング株式 パッシブ運用と アクティブ運用の強化 DIC企業年金基金 株式・債券の分散投資拡大 (適用するベンチマーク の見直し) オルタナティブ(ヘッジファン ド、PE等)の拡大 アクティブ運用と オルタナティブ 5 年金負債の特性(2005年ALM時点) (今後10年間を推計したもの) ■年金制度は、 ・キャッシュ・バランスプランを採用 ・有期年金と終身年金を維持 ■年金数理債務は、2005年をピークに、減少に転じる。 ■年金債務に占める加入者の割合は、今後とも50%を越えている。 ⇒株式組入比率の上限を決める目安となる (加入者の人口分布は、35歳と55歳の所に同じ高さの山がある。) ■キャッシュフローは、4年後にキャッシュ・アウトフロー(給付>掛け金)とな る(“団塊世代”の退職)・・・給付額の大きさと発生時期を認識する ■10年をかけて、積立不足の解消を目指す(高いリターン目標は考えない) DIC企業年金基金 6 基本ポートフォリオ(政策アセットミックス) 期待リターン 10年のタイム・ホライゾンで推計 ・期待リターン:モデルによる推計 ・期待リスク:過去のリスク実績 ・相関係数:過去の相関係数実績 従来の基本ポートフォリオ (株式60%) 4.1% 基本ポートフォリオ 資産運用の中長期的期待リ ターンと期待リスクを定義す る。 ・基本資産への配分比率 を規定する。 (国内債券、内外株式) ・外貨比率も規定する。 予定利率:3.0% 3.5% 現在の基本 ポートフォリオ (株式45%) 7.3% 9.6% 期待リスク DIC企業年金基金 7 実行ポートフォリオ 期待リターン 長期の基本ポートフォリオに対して より柔軟な運用を目指す。 ・資産の管理は、債券と株式で管理 ・株式のリスク・ヘッジ機能と中長期 的なリターン獲得との整合性を考慮 実行ポートフォリオ (株式45%) 実行ポートフォリオ ・基本資産の配分比率のフ レームワークの中で、具体的 な運用商品を採用した実際 のポートフォリオ。 3.5% 現在の基本 ポートフォリオ (株式45%) 7.3% 9.6% (2005年運用基本方針で採用) 期待リスク DIC企業年金基金 8 運用基本方針(基本ポートフォリオ) 現在の基本ポートフォリオ 基本資産 配分比率 許容範囲 国内債券 55% 50-60% 外国債券 0% 0% 国内株式 20% 外国株式 25% 国内外株式 合計で 40-50% (外国為替) 25% 20-30% DIC企業年金基金 ・一般勘定とヘッジ付外国債券 は国内債券代替商品として、国 内債券に分類する。 ・非伝統的資産、長期投資資産 は個別資産・商品のリスク特性 を検討のうえ、左記いづれかの 基本資産に分類する。 ・非伝統的資産への配分; 30%、ただし内10%は長期 投資資産への配分とする。 9 ダウンサイド・リスクを抑えた運用戦略 (2つのポートフォリオを運営する) 年金負債サイドの変革(CBプラン) 年金負債に対応した運用 トータル・リターンと リスクに基づいた 資産配分最適化 による資産運用 ・一般勘定による給付増加対応 ・アルファの獲得によるリターンの 補填 中長期的にリターンを獲得 する運用(リスク性資産) 年金運用の環境変化 ・制度の成熟化~キャッシュフローの考慮 ・期待収益率の低下、低金利の継続 ・年金負債の時価評価~規制の強化 DIC企業年金基金 ・分散投資の強化 (株式リスクヘッジも考える) ・時間軸でみた分散投資 10 リスクと不確実性(株式リスクヘッジの対応) (ITバブルの崩壊を受けて学んだこと) • • • • 長期ポートフォリオは、リスク、リター ン、相関係数を使って、正規分布の 仮定を用いて、ポートフォリオの選択 を行う。 繰り返される金融危機の影響を受け て、大きなテール・リスクが現れるこ とも珍しくない(例:2008年)。 市場経済自体に金融不安定性が内 在している(安定や均衡が達成され てもそれは一時的で、人々の行動は 次第に中から変化し再び不安定にな る)。1920年代~30年代の経済学者 F.ナイトの学説。 将来何が起こるか客観確率のある 場合を「リスク」とし、ない場合を「不 確実性」と峻別していた。 出所:日経新聞経済教室2008年6月26日 学習院大学奥村洋彦教授 「繰り返される金融危機~ DIC企業年金基金 「不確実性」の分析不可欠」 11 テール・リスクの管理の重要性 (出所:ピムコ) DIC企業年金基金 12 テールリスクの特性 • 主要資産クラスに大きなマイナス・リターンを生じさせるシステミックかつ マクロ規模のショック • 資産クラスの相関が高まる • ボラティリティの急騰 • 投資家が安全資産や通貨へ逃避(米国国債など) • 流動性の枯渇、それに対応する中央銀行による金融緩和政策 (出所:ピムコ) DIC企業年金基金 13 実行ポートフォリオとダイナミック・リバランス ポートフォリオ 国内債券 株式(リスク性資産) 一般勘定 内外債券 絶対収益 追求 国内債券 外国債券 (ヘッジ付) 社債 (ヘッジ付) 内外上場 株式ヘッジ 株式 資産 長期投資 資産 国内株式 国内株式 外国株式 外国株式 (大型) (小型) (先進国) (新興国) DIC企業年金基金 14 これからの課題(運用環境の変化への対応) 株価の回復 運用の枠組みの進化 債券比率の増加(40% ⇒ 55%) 今後は? 株式比率が減少(60% ⇒ 45%) 03年度 04年度 ・分散投資戦略 の再検討 ・テール・リスク 管理の強化 09年度 DIC企業年金基金 15 大恐慌以来の流動性危機 サブプライムローンを端緒とする金融危機 信用不安の高まりから、“手元に・安全に”、資金を置いておきたいという心理 流動性危機 フェアバリュー(適正価格)を下回っても、流動性の確保を 最優先し、投資による資金の固定化を回避したいという心理 ファンダメンタル運用が機能しない局面 金融市場の機能不全 インターバンク市場 異常な流動性枯渇 “Cash is King” CP発行市場 短期モノへのシフト (出所:住友信託銀行) ファンダメンタル価格 実質マイナス金利の 資産への資金集中 からの大幅な乖離 DIC企業年金基金 16 米国の負債比率の推移 (出所:Bridgewater) DIC企業年金基金 17 米国株式の調整幅 (出所:SG Assetmanagement) DIC企業年金基金 18 米国株式EPSの比較 (大恐慌時との比較) (出所:Bridgewater) DIC企業年金基金 19 米国投資適格債券のスプレッド (大恐慌時との比較) (出所:Bridgewater) DIC企業年金基金 20 2008年の世界の年金運用の現状(1) (出所:野村年金マネジメント研究会) DIC企業年金基金 21 2008年の世界の年金運用の現状(2) (出所:野村年金マネジメント研究会) DIC企業年金基金 22 2008年の世界の年金運用の現状(3) (出所:野村年金マネジメント研究会)DIC企業年金基金 23 2008年の世界の年金運用の現状(まとめ) 世界の年金ファンドは、資産配分比率が異なるにも拘わらず、20%前後 のマイナスとなった(2008年暦年ベース)。 (米国大学寄贈基金は6月決算のため半年間のリターンとなるが、 ハーバード大学寄贈基金-22%、エール大学寄贈基金-25%、2008年 通期では年金ファンドよりもマイナス幅が大きいと推定) • 投資したほとんどの資産で価格が下落した(資産間の相関が高まった)こ とが理由。 株式以外の資産クラスに分散投資するのは、株式リターンが悪化したと きに、相関の低い資産クラのリターンがプラスになり、ポートフォリオ全体 のリターン悪化を防ぐ効果があることを期待しているから。 今回の金融危機の特徴の一つは、分散投資を進めたファンドのほうが株 式に対する連動性が高まったこと。 ・ 2008年の年金運用のもう一つの大きな特徴は、多くのファンドで債券 ポートフォリオでの負けが大きいこと。 債券ポートフォリオで、信用リスク、流動性リスクなどを大きくとったことが 理由(金利低下によるインカム収入低下懸念に対応)。 • (出所:野村年金マネジメント研究会) DIC企業年金基金 24 2008年度の基金パフォーマンス • 株式市場の低迷が大きなマイナス要 因。 ヘッジファンドの組入れ効果等により、 ベンチマークを大幅にアウトパフォー ム • 債券ポートフォリオは、ベンチマーク を大幅にアンダーパフォーム。 【要因】 (1)外国債券マネジャーの超過収益 が大きく負けた(社債へのエクスポー ジャーを拡大) (2)ユーロ安を中心とする為替要因 が大きい (3)絶対収益戦略が金融危機の影響 を受けて不調 DIC企業年金基金 25 ポートフォリオのリターン実績とリスクの水準 リターン実績(2003年4月~2009年3月) ベンチ(株45) ベンチ(株60) ポートフォリオ リスク水準(2004年4月~2009年3月) 想定 ベンチ(株45) 185 20.0 175 18.0 165 16.0 ベンチ(株60) ポートフォリオ 想定 14.0 155 12.0 145 10.0 135 8.0 125 6.0 115 4.0 105 2.0 95 0.0 M J S De M J S De M J S De M J S De M J S De M J S De M ar- un- ep- c- ar- un- ep- c- ar- un- ep- c- ar- un- ep- c- ar- un- ep- c- ar- un- ep- c- ar03 03 03 03 04 04 04 04 05 05 05 05 06 06 06 06 07 07 07 07 08 08 08 08 09 M Ju Se De M Ju Se De M Ju Se De M Ju Se De M Ju Se De M ar- n- p- c- ar- n- p- c- ar- n- p- c- ar- n- p- c- ar- n- p- c- ar04 04 04 04 05 05 05 05 06 06 06 06 07 07 07 07 08 08 08 08 09 DIC企業年金基金 26 ファンド・オブ・ファンズの分散効果 (出所:マーサー・ジャパン) DIC企業年金基金 27 ヘッジファンドのリターン (出所:Bridgewater) DIC企業年金基金 28 今回の金融危機から得られた教訓 2008年に投資家が大きく負けた理由 (1)リターン源泉が市場のベータに大きく依存していた。 (2)ベータ・エクスポージャーは、株式、PE,不動産、クレジット商品など経 済が悪化するときに大きなマイナスとなる資産クラスに大きく偏っていた。 (3)経済環境が悪化するときには、リスク・プレミアムも流動性プレミアムも 大幅に上昇する。 (4)ヘッジファンドなどに期待したアルファは、株式市場との連動性が高く、 パフォーマンスは悪化した。 (平均的には、ヘッジファンドの70%が、株式市場との連動性が高い) ・過去にリターンが良かったものに投資を行う傾向が強い(2006-07年)。 ・経済構造の大変動などのマクロ状況を理解しないで、過去のレンジで割 安・割高を判断している(マネジャーが勝てない理由)。 DIC企業年金基金 29 再評価されたハイマン・P.ミンスキーの 「金融不安定性仮説」(1986年) • • 第一定理:経済にはそれを安定させる金融状況と不安定にさせる金融状 況がある。 第二定理:長期に亘り繁栄が続いた場合、経済は安定をもたらす金融関 係から不安定化する金融関係に移行する。 景気変動は3つの債務ユニットー買い手のキャッシュフローで元利の返 済が可能なヘッジ・ユニット、利払いだけしか賄えない投機的ユニット、 キャッシュフローでは元利とも賄えず、資産価格の上昇が頼りのポン ジー・ユニットの発展段階として表すことができる。 ・ 今回の金融危機は、順ミンスキー過程、現在は逆ミンスキー過程が進行。 人間は本来、割安だから投資するわけではなく、モメンタムに乗じて投資 するという現実がある(価格が上昇しているものに飛びつく傾向がある)。 DIC企業年金基金 30 これからどうするか • • • • リスクと不確実性を考慮したポートフォリオの構築 何が上手くいかなかったか→ダウンサイド・リスクの管理より、もう一歩 踏み出して、テイル・リスクの管理へ 実行ポートフォリオの運営は、動態的な視点で考える 上手くいったこと→日本小型株の配分引下げ(2005年末)とエマージング 株式の配分引下げ(2007年10月) 何が上手くいかなかったか→急激な市場環境変化への対応 リスクの所在で考える投資戦略 上手くいったこと→景気後退期に負ける戦略を回避 (エマージング債券、ハイ・イールド債、不動産など) 何が上手くいかなかったか→債券部分でのリスクの過小評価 (流動性リスクに起因するリスクの増大) 長期投資の視点は堅持。 年金の運用は「短期か」「長期か」の議論は有用ではない。 長期的な視点とリスク・アロケーションの機動的な変更が重要。 過去のトレンドとは異なる新しい常態(ニュー・ノーマル)での運用戦略 DIC企業年金基金 31 アカデミックからの提言 (MIT教授アンドリュー・ロー) ・分散投資 流動性を加味して、多様な資産クラスと多様なベータ の組入れを検討する。 ・ロング・オンリー ロング・オンリー残高の圧縮、あるいは、ロングオン リーの制約をはずすことを検討する。 ・バリュー/グロース 投資家行動がサイクルを形成する。サイクルの予測 は困難である。 ・長期での株式保有 金融市場は変化が激しい。 ・リスク/リオード 通常はリスクテイクによってリオードが得られるが、金 融危機時には罰を受ける。 これからの見識 これまでの常識 ・ベータの入手は容易である ・純粋なアルファーの獲得は容易ではない ・相関係数は重要である ・市場には多様なベータ(ファクター)が存在 する。 ・各々のファクターのリスクプレミアアムと 相関係数は異なる ・リスクプレミアムと相関係数は変化する。 DIC企業年金基金 32 米国株式市場のプロファイル(2004年) (出所:Alfred Berg) DIC企業年金基金 33 米国株式市場のプロファイル(2008年) (出所:Alfred Berg) DIC企業年金基金 34